(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のようにシートベルトに組み込んだドップラーレーダーによって呼吸を検出しようとすると、ドップラーレーダーが乗員に触れるため、シートベルトの装着性(操作性)が阻害されてしまう虞や、さらに装置が複雑化するという問題もある。
【0005】
また特許文献2に記載のように、固定用バックルに設けた圧力センサによって呼吸を検出する場合、乗員のバイタルサインとしての呼吸状態を適切に判定することができない虞がある。一般的に、体格が大きいほど、呼吸が深く(大きく)なり、単位時間当たりの呼吸回数は少なくなる傾向にあるが、特許文献2に記載の技術では、乗員の体格差を考慮していないため、乗員の呼吸状態を正確に判定できない虞がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、乗員の呼吸状態、すなわち呼吸異常の有無をより正確に判定することができる異常判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、車両のシートに着座した乗員の異常の有無を判定する異常判定装置であって、シートベルト装置のベルト部材の引出量を演算する引出量演算部と、前記乗員が前記ベルト部材を装着した状態での当該ベルト部材の引出量に基づいて、前記乗員の体格が予め設定された複数の体格ランクのうちの何れに属するかを判定する体格ランク判定部と、前記体格ランク判定部によって判定された前記体格ランクに応じて、前記ベルト部材の引出量の変動量の基準値を設定する基準値設定部と、
前記ベルト部材の引出量の変動量と前記基準値との大小関係に基づいて前記乗員の呼吸異常の有無を判定する異常判定部と、を備えることを特徴とする異常判定装置にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様の異常判定装置において、前記基準値設定部は、前記体格ランク判定部によって判定された前記体格ランクに基づいて前記変動量の正常領域を前記基準値として設定し、前記異常判定部は、前記変動量が前記正常領域から外れていることを条件に、前記乗員の呼吸異常が有ると判定することを特徴とする異常判定装置にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様の異常判定装置において、前記体格ランク判定部は、前記乗員が前記ベルト部材を装着している状態で前記引出量の変動の中心が所定量を超えた場合には、前記体格ランクの再判定を行うことを特徴とする異常判定装置にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1から3の何れか一つの態様の異常判定装置において、前記車両の前後方向での前記シートの位置を検出するシート位置検出部を、さらに備え、前記体格ランク判定部は、前記体格ランクの判定基準となる体格判定閾値を前記シート位置検出部の検出結果に基づいて補正することを特徴とする異常判定装置にある。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1から4の何れか一つの態様の異常判定装置において、前記基準値設定部は、前記引出量演算部で演算される前記引出量が大きいほど、前記基準値を大きい値に設定することを特徴とする異常判定装置にある。
【発明の効果】
【0012】
かかる本発明の異常判定装置によれば、比較的簡易な構成で、乗員の呼吸異常の有無をより正確に判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る異常判定装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、車両には乗員100に異常(呼吸異常)が生じた場合に緊急通報を行う緊急通報装置1を備え、本発明に係る異常判定装置10は、このような緊急通報装置1の一部を構成する。
【0015】
異常判定装置10は、車両のシート20に装備されるシートベルト装置30からの情報に基づいて乗員の呼吸異常を判定する。異常判定装置10によって乗員の呼吸異常ありと判定されると、その判定情報が緊急通報装置1の通信部2に送られ、この通信部2から車外のサービスセンタ等に送信されるようになっている。
【0016】
本発明は、このような異常判定装置10に特徴を有する。以下、異常判定装置10について詳細に説明するが、まずはシートベルト装置30の構成について簡単に説明する。
【0017】
シートベルト装置30は、シート20に着座した乗員100を前方から拘束するベルト部材(ウェビング)31と、ベルト部材31に装着されるタング部材32と、タング部材32が挿入されて固定されるバックル部材33とを有する。ベルト部材31の一端側は、シート20の側部において車体に固定され、他方の端部は、肩アンカー34を介してリトラクタ35に接続されている。リトラクタ35は、回転可能に支持されたスプール(図示無し)を備え、このスプールにベルト部材31を巻き取り可能に構成されている。またリトラクタ35には、ベルト部材31の位置としてのスプールの回転位置(回転角度)を常時検出する位置検出センサ36が設けられている。
【0018】
そして、実施形態1に係る異常判定装置10は、このようなシートベルト装置30を構成するベルト部材31の引出量に基づいて、シート20に着座している乗員100の呼吸状態(例えば、呼吸の深さ(大きさ)、呼吸の間隔等)を検出し、検出した呼吸状態に応じて乗員100の呼吸異常の有無を判定する。
具体的には、異常判定装置10は、引出量演算部11と、体格ランク判定部12と、基準値設定部13と、異常判定部14と、を備えている。
【0019】
引出量演算部11は、リトラクタ35に設けられている位置検出センサ36で検出された位置情報(角度情報θ)に基づいてベルト部材31の非使用状態から乗員100が着座しタング部材32をバックル部材33に差し込んだ状態での引出量を逐次演算により求める(
図2(a)(b)参照)。また引出量演算部11は、この演算値から、乗員100の呼吸等による微少な伸び縮みのみの情報(引出量の下限値P1及び上限値P2による振幅)を抽出する。具体的には、引出量演算部11は、位置検出センサ36が検出した位置情報から演算したベルト部材31の引出量(演算値)を平準化処理し、演算値の下限値P1を基準とした所定範囲(引出量の振幅量P1−P2)のデータのみを抽出する(
図2(c)(d)参照)。
【0020】
図2(a)に示す例では、時刻t1から時刻t2の期間で、引出量が予め設定された上限値P2をよりも大きくなっているため、平準化処理により、この期間t1−t2のデータが排除される(
図2(c)参照)。また
図2(b)に示す例では、時刻t3から時刻t4の期間で、引出量が予め設定された上限値P2をよりも大きくなっているため、平準化処理により、この期間t3−t4のデータが排除される(
図2(d)参照)。
【0021】
つまり、このように平準化処理された演算値(以下、「平準化演算値」という)は、通常使用(例えば、内装品の操作や、急ブレーキによる乗員100の前方方向への移動等、着座姿勢での一時的な姿勢の変化等)によるベルト部材31の伸び縮みが排除されたデータとなる。換言すれば、平準化演算値は、タング部材32に装着し、ベルト部材31が乗員100の胸部に当接している状態での乗員100の呼吸等による微少な伸び縮み(引出量の変動量)のみを抽出したデータとなる。
【0022】
体格ランク判定部12は、乗員100がベルト部材31を装着した状態での引出量(平準化演算値)に基づいて、乗員100の体格が予め設定された複数の体格ランクのうちの何れに属するかを判定する。本実施形態では、体格ランクとして少なくとも「大人」及び「子供」の2ランクが予め設定されており、体格ランク判定部12は、平準化演算値に基づいて、乗員100が「大人」であるか「子供」であるかを判定する。なお、体格ランクは2ランクである必要はなく、3ランク以上設定されていてもよい。
【0023】
判定方法としては、具体的には、平準化演算値が、例えば、
図3中に一点鎖線で示す体格判定閾値以上であるか否かによって乗員100の体格ランクが「大人」であるか「子供」であるかを判定する。この体格判定閾値は、例えば、実験値等に基づいて予め設定されている。そして、例えば、
図3中に実線で示すように、平準化演算値が体格判定閾値以上である場合には、体格ランク判定部12は乗員100の体格ランクが「大人」であると判定する。また
図3中に点線で示すように、平準化演算値が体格判定閾値よりも小さい場合には、体格ランク判定部12は乗員100の体格ランクが「子供」であると判定する。
【0024】
このように体格ランク判定部12によって体格ランクが判定されると、その判定結果に基づいて引出量演算部11がさらに平準化演算値をフィルタ処理する。引出量演算部11は、体格ランク判定部12によって乗員100の体格ランクが「大人」であると判定された場合には、平準化演算値に対して「大人乗員用のフィルタ処理」を施すと共に増幅処理を施す。一方、体格ランク判定部12によって乗員100の体格ランクが「子供」であると判定された場合には、「子供乗員用のフィルタ処理」を施すと共に増幅処理を施す。これにより、平準化演算値から呼吸の情報が分解(抽出)され、例えば、
図4に示すように、平準化演算値(呼吸成分)のグラフ(波形)が形成される。なお、
図4(a)は乗員100の体格ランクが「大人」である場合の平準化演算値(呼吸成分)の一例であり、
図4(b)は乗員100の体格ランクが「子供」である場合の平準化演算値(呼吸成分)の一例である。
【0025】
ここで、単位時間あたりの呼吸回数は、一般的に、「大人」よりも「子供」の方が多いとされている。また呼吸の深さ(呼吸によるベルト部材の引出量の変動量)は、「子供」よりも「大人」の方が大きいとされている。上記「大人乗員用のフィルタ処理」及び「子供乗員用のフィルタ処理」とは、これらの点を考慮したフィルタ処理である。このように体格が「大人」であるか「子供」であるかによって、施すフィルタ処理を適宜変更することで、より精度の高いバイタルサイン(呼吸のグラフ)が得られる。
なお「大人乗員用のフィルタ処理」及び「子供乗員用のフィルタ処理」、並びに増幅処理は、必要に応じて実施すればよく、必ずしも実施しなくてもよい。
【0026】
基準値設定部13は、体格ランク判定部12によって判定された乗員100の体格ランクに応じて、ベルト部材31の引出量(平準化演算値)の変動量の基準値を設定する。本実施形態では、基準値設定部13は、平準化演算値(呼吸成分)の最大値の正常領域を基準値として設定する。
【0027】
具体的には、基準値設定部13は、平準化演算値(呼吸成分)の最大値の正常領域として、乗員の体格ランクが「大人」であるか「子供」であるかに応じた所定範囲を適宜設定する。一般的に、乗員100の体格が大きいほど、平準化演算値(呼吸成分)の最大値は大きくなる傾向にある。このため、例えば、
図5に示すように、体格ランクが「大人」である平準化演算値(呼吸成分)の最大値の正常領域N1は、体格ランクが「子供」である平準化演算値(呼吸成分)の正常領域N2よりも大きい値に設定される。
【0028】
基準値設定部13が設定する基準値(正常領域N1,N2)は、体格ランク毎に固定であってもよいが、各体格ランク内で変動するようにしてもよい。すなわち基準値設定部13は、ベルト部材31の引出量(平準化演算値)が大きいほど、基準値としての正常領域N1,N2を大きい値に設定するようにしてもよい。
【0029】
異常判定部14は、基準値設定部13によって設定された正常領域N1,N2と、ベルト部材31の引出量の変動量(平準化演算値(呼吸成分))との大小関係(例えば、振幅量、周期)に基づいて乗員100の呼吸異常の有無を判定する。例えば、乗員100の体格ランクが「大人」である場合、
図4(a)に示すように、平準化演算値(呼吸成分)の最大値(振幅量)が正常領域N1内であれば、異常判定部14は、乗員100の呼吸状態は正常(呼吸異常無し)と判定する。これに対し、
図5(a)に示すように、正常領域N1よりも低い状態(或いは高い状態)が一定期間以上継続する場合、異常判定部14は、呼吸状態が異常(呼吸異常有り)と判定する。
【0030】
同様に、乗員100の体格ランクが「子供」である場合、
図4(b)に示すように、平準化演算値(呼吸成分)の最大値が正常領域N2内であれば、乗員100の呼吸状態は正常(異常無し)と判定する。これに対し、
図5(b)に示すように、平準化演算値(呼吸成分)の最大値が正常領域N2よりも低い状態(或いは高い状態)が一定期間以上継続する場合には、異常判定部14は、乗員100の呼吸状態が異常(呼吸異常有り)と判定する。
そして、異常判定部14が呼吸異常有りと判定した場合、その判定結果が通信部2に送られ、通信部2から車外のサービスセンタ等に対して緊急通報が行われる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係る異常判定装置10では、ベルト部材31自体に乗員100の呼吸を検出するためのセンサ等を設けることなく、リトラクタ35に設けられた位置検出センサ36によって乗員100の呼吸状態を検出している。このため、ベルト部材31の装着性を損なうことなく、乗員100の呼吸異常の判定を行うことができる。また呼吸異常の判定基準となる基準値(正常領域)を、乗員100の体格ランクに応じて適宜設定しているため、乗員100の呼吸異常をより精度良く判定することができる。
【0032】
以下、
図6のフローチャートを参照して、本実施形態に係る異常判定手順についてさらに説明する。
図6に示すように、乗員100がシート20に着座しシートベルト装置30のベルト部材31をタング部材32に装着し、タング部材32が乗員100の胸部を当接している状態で、まずステップS1で位置検出センサ36によって検出されたリトラクタ(スプール)35の位置情報を取得する。次いでステップS2で、取得した位置情報からベルト部材31の引出量を演算する。次いで、ステップS3で、演算により求めた引出量(演算値)を平準化処理する。次いで、平準化処理された演算値(平準化演算値)に基づいて、乗員100の体格ランクが「大人」に属するか、「子供」に属するかを判定する(ステップS4)。
【0033】
ここで、乗員100の体格ランクが「大人」に属する場合には(ステップS4:Yes)、ステップS5に進み、平準化演算値に対して大人乗員用のフィルタ処理を施すと共に増幅処理を施し、呼吸成分の情報を抽出する。次いで、ステップS6で、体格ランク「大人」に対応した平準化演算値(呼吸成分)の最大値の基準値(正常領域N1)を設定する(
図4参照)。次いで、これら平準化演算値(呼吸成分)の最大値と正常領域N1との大小関係に基づいて、乗員100の呼吸異常の有無を判定する(ステップS7)。
【0034】
例えば、平準化演算値(呼吸成分)の最大値が正常領域N1から外れた状態が一定期間以上継続し、乗員100の呼吸に異常有りと判定した場合には(ステップS7:Yes)、その情報を通信部2に送信する(ステップS8)。また乗員100の呼吸は異常無しと判定した場合には(ステップS7:No)、通信部2に対して情報を送信することなくステップS1に戻る。なお通信部2は、呼吸異常有りの情報を受信すると、車外のサービスセンタ等に対して緊急通報を実行する。
【0035】
一方、ステップS4で、乗員100の体格ランクが「子供」に属する場合には(ステップS4:No)、ステップS9に進み、平準化演算値に対して子供乗員用のフィルタ処理を施すと共に増幅処理を施し、呼吸成分の情報を抽出する。次いで、ステップS10で、体格ランク「子供」に対応した平準化演算値(呼吸成分)の最大値の基準値(正常領域N2)を設定する(
図4参照)。その後、ステップS7に進み、これら平準化演算値(呼吸成分)の最大値と正常領域N2との大小関係に基づいて、乗員100の呼吸異常の有無を判定する。
【0036】
以上説明したように、このような本実施形態に係る異常判定装置10によれば、シートベルト装置の操作性を損なうことなく、乗員の呼吸異常の有無をより正確に判定することができる。
【0037】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る異常判定装置の概略構成を示す図である。
図7に示すように、実施形態2に係る異常判定装置10Aは、シート位置検出部15をさらに備える以外は、実施形態1の構成と同様である。
【0038】
シート位置検出部15は、車両の前後方向でのシート20のスライド位置を検出する。本実施形態では、スライドレール上のシート20の位置を検出するポジションセンサ21が設けられており、シート位置検出部15は、このポジションセンサ21によって検出されるシート20の位置情報を取得する。そしてシート位置検出部15は、このポジションセンサ21で検出される位置情報に基づいてシート20の移動を検出する。
【0039】
体格ランク判定部12は、上述のように平準化演算値が体格判定閾値以上であるか否かによって乗員100の体格ランクを判定する。本実施形態では、その際、シート位置検出部15によってシート20が移動したことが検出されると、体格ランク判定部12は、シート20の移動量に応じて体格判定閾値を適宜補正する。
【0040】
例えば、シートベルト装置30自体は車体に固定されているものであるため、シート20が車両前方側に移動した場合、同じ乗員がシート20に着座した状態であってもシートベルト装置30のベルト部材31の引出量は増加する。このため、体格ランク判定部12は、体格判定閾値を大きくする側に補正する。一方、シート20が車両後方側に移動した場合、同じ乗員がシート20に着座した状態であってもシートベルト装置30のベルト部材31の引出量は減少する。このため、体格ランク判定部12は、体格判定閾値を小さくする側に補正する。
【0041】
このようにシート20の位置(移動)に応じて体格判定閾値を適宜補正することで、乗員100の体格ランクをより適切に判定することができ、ひいては乗員100の呼吸異常をより正確に判定することができる。
【0042】
また、乗員100の体格ランクの判定が少なくとも一度終了(体格ランクが設定された)した後に、例えば、シート位置検出部15によってシート20が移動されたことが検出された場合、体格ランク判定部12による乗員100の体格ランクの判定を再度実行することが好ましい。特に、乗員100の呼吸に異常のない状態でのシート20の移動やシートバックの傾斜変更などに伴いベルト部材31の引出量(本実施形態では、引出量の振幅中心(引出量の下限値P1−上限値P2の中心))が、それまでの引出量(本実施形態では、引出量の振幅中心)に比べて所定量を超えて大幅に変動(増加あるいは減少)した場合には、体格ランクの再判定を行うことが好ましい。勿論、シート20が移動されていない場合でも、ベルト部材31の引出量に大幅な変化が生じた場合には、体格ランクの再判定を行うことが好ましい。これにより、乗員100の体格ランクをさらに正確に判定することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、勿論、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述の実施形態では、乗員の呼吸の深さ(大きさ)に基づいて呼吸異常の有無を判定した例を説明したが、例えば、呼吸の深さと共に、呼吸の間隔に基づいて呼吸異常の有無を判定するようにしてもよい。