(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501102
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】ガラス板収容治具
(51)【国際特許分類】
B08B 11/02 20060101AFI20190408BHJP
【FI】
B08B11/02
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-227034(P2014-227034)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-87570(P2016-87570A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】出口 久紘
【審査官】
大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第103157640(CN,A)
【文献】
実開昭60−156561(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0106575(US,A1)
【文献】
特開平06−258608(JP,A)
【文献】
特開2007−326584(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0053927(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0051083(US,A1)
【文献】
特開平06−286869(JP,A)
【文献】
実開昭60−124037(JP,U)
【文献】
中国特許出願公開第103350825(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第103538774(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス板を縦姿勢で相互間に隙間が形成されるように厚さ方向に配列した状態で収容し、複数の前記ガラス板をそれぞれ両側方から支持する側方支持溝が形成された側方支持部と、複数の前記ガラス板をそれぞれ下方から支持する下方支持溝が形成された下方支持部とを備えたガラス板収容治具において、
複数の前記ガラス板の相互間の隙間に前記ガラス板の主面に沿って配置された可撓性条体を有し、
前記側方支持部において、前記側方支持溝が形成されている肉部の外周面に、前記可撓性条体を係止可能な環状の側方係止溝が形成されているか、又は、前記下方支持部において、前記下方支持溝が形成されている肉部の外周面に、前記可撓性条体を係止可能な環状の下方係止溝が形成されていることを特徴とするガラス板収容治具。
【請求項2】
前記可撓性条体が、隣り合う前記ガラス板の対向する主面における中央領域の相互間の隙間を通るように配置されたことを特徴とする請求項1に記載のガラス板収容治具。
【請求項3】
一対の前記可撓性条体が、前記中央領域の相互間の隙間で交差してなることを特徴とする請求項2に記載のガラス板収容治具。
【請求項4】
前記ガラス板の板厚が、200μm未満であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のガラス板収容治具。
【請求項5】
前記側方支持溝の断面形状がV字形状であると共に、前記下方支持溝の断面形状がU字形状であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のガラス板収容治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガラス板の洗浄工程を行なう場合等においてガラス板を収容するためのガラス板収容治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年では、電子機器等の発達に伴って、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(サーフェイスエミッションディスプレイを含む)およびエレクトロルミネッセンスディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)やセンサの基板、あるいは固体撮像素子やレーザダイオード等の半導体パッケージ用カバー、さらには薄膜化合物太陽電池の基板等の多種に亘るガラス製品が使用されている。そして、様々な種類のガラス板において、薄板化が進められているが、このような状況が進むにつれて、ガラス板は、その薄さから可撓性を有するようになる。
【0003】
一方、ガラス板に限らず、板状体については、例えば、洗浄、乾燥等の処理時や、運搬時には、作業効率を向上させるため、複数の板状体をまとめて収容する治具が使用される。このような収容治具は、通常、複数のガラス板を縦姿勢で相互間に隙間が形成されるように厚さ方向に配列した状態で収容し、複数のガラス板をそれぞれ両側方から支持する側方支持溝と、複数のガラス板をそれぞれ下方から支持する下方支持溝とを備える(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−48540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した薄板化されたガラス板のように可撓性を有する板状体は、このような治具に収容された状態で、処理中や運搬中に、可撓性に起因して平坦な形状を維持することが困難となる。そのため、隣り合うガラス板が相互に接触し、これに起因してガラス板に傷が付いたり、破損したりする等の問題を招来していた。
【0006】
このような観点から、本発明の第1の課題は、ガラス板収容治具に収容された複数のガラス板の相互間における接触を抑制することである。
【0007】
また、ガラス板のような板状体は、上述のような治具に収容された状態で、洗浄後に洗浄槽から引き上げた時に、治具との接触部位の周辺に洗浄液(例えば水等)が残留し、これに起因して、十分に乾燥できなくなる場合があった。
【0008】
このような観点から、本発明の第2の課題は、ガラス板収容治具に収容されたガラス板に対する洗浄後の乾燥を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記第1の課題を解決するために創案された本発明のガラス板収容治具は、複数のガラス板を縦姿勢で相互間に隙間が形成されるように厚さ方向に配列した状態で収容し、複数の前記ガラス板をそれぞれ両側方から支持する側方支持溝が形成された側方支持部と、複数の前記ガラス板をそれぞれ下方から支持する下方支持溝が形成された下方支持部とを備えたガラス板収容治具において、複数の前記ガラス板の相互間の隙間に前記ガラス板の主面に沿って配置された可撓性条体を有することを特徴とする。ここで、可撓性条体という文言には、糸、紐、帯、針金等の他に、プラスチック棒、ピアノ線やストロー等が含まれる(以下、同様)。
【0010】
このような構成によれば、当該治具に収容された複数のガラス板の処理や運搬中に、ガラス板が可撓性に起因して平坦な形状を維持できなくなっても、ガラス板の相互間の隙間に配置された可撓性条体によって、ガラス板の不当な変形が抑制される。これにより、当該治具に収容された複数のガラス板が相互に接触する事態を阻止して、ガラス板に接触傷が付く等の不具合が回避される。また、条体が可撓性なので、ガラス板が変形しても、条体はガラス板の変形に追随して、変形可能であるため、ガラス板と条体との接触に起因してガラス板が損傷する可能性が低減する。なお、可撓性条体の硬度は、ガラス板の硬度よりも低いことが好ましい。
【0011】
上記の構成において、前記可撓性条体が、隣り合う前記ガラス板の対向する主面における中央領域の相互間の隙間を通るように配置されていることが好ましい。
【0012】
ガラス板の主面の中央領域は、支持されている周縁の部位から最も離れた領域であるため、大きな撓みが生じて隣り合うガラス板同士が接触しやすい。従って、この中央領域に対応する相互間の隙間を可撓性条体が通ると、ガラス板同士の接触を効率良く抑制することができる。
【0013】
上記の構成において、一対の前記可撓性条体が、前記中央領域の相互間の隙間で交差してなることが好ましい。
【0014】
この可撓性条体の配設の仕方であれば、可撓性条体によってガラス板の主面の中央領域同士の接触をより確実に且つ効率良く抑制することができる。
【0015】
上記の構成において、前記ガラス板の板厚が、200μm未満であることが好ましい。
【0016】
ガラス板の板厚が200μm未満であれば、ガラス板の可撓性が顕著になり、ガラス板同士が接触する可能性が高くなるので、上述した構成がより有効となる。
【0017】
上記の構成において、前記側方支持溝の断面形状がV字形状であると共に、前記下方支持溝の断面形状がU字形状であることが好ましい。
【0018】
側方支持溝の断面形状がV字形状であれば、ガタツキを生じること無く、より確実にガラス板を両側方から支持できると共に、当該治具を洗浄槽から引き上げた時に、ガラス板と側方支持溝の間の洗浄液は、自重により落下して残留し難くなる。また、下方支持溝の断面形状がU字形状であれば、洗浄槽から引き上げた時に、ガラス板と下方支持溝の間に洗浄液が残留することを抑制できる。以上の結果、ガラス板の安定した支持を確保した上で、ガラス板に対する洗浄後の乾燥が容易となる。
【0019】
前記第2の課題を解決するために創案された本発明のガラス板収容治具は、複数のガラス板を縦姿勢で相互間に隙間が形成されるように厚さ方向に配列した状態で収容し、複数の前記ガラス板をそれぞれ両側方から支持する側方支持溝が形成された側方支持部と、複数の前記ガラス板をそれぞれ下方から支持する下方支持溝が形成された下方支持部とを備えたガラス板収容治具において、前記側方支持溝の断面形状がV字形状であると共に、前記下方支持溝の断面形状がU字形状であることを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、下方支持溝の断面形状がU字形状なので、洗浄槽から引き上げた時に、ガラス板と下方支持溝の間に洗浄液が残留することを抑制できる。また、側方支持溝の断面形状がV字形状であるため、ガタツキを生じること無く、より確実にガラス板を両側方から支持できると共に、当該治具を洗浄槽から引き上げた時に、ガラス板と側方支持溝の間の洗浄液は、自重により落下して残留し難くなる。以上の結果、ガラス板の安定した支持を確保した上で、ガラス板に対する洗浄後の乾燥が容易となる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、ガラス板収容治具に収容された複数のガラス板の相互間における接触を抑制することができる。
【0022】
また、本発明によれば、ガラス板収容治具に収容されたガラス板に対する洗浄後の乾燥を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス板収容治具の一部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るガラス板収容治具の一部破断正面図である。
図2は、
図1のX−X線矢視断面図である。これら各図に示すように、ガラス板収容治具1は、複数のガラス板2を縦姿勢で相互間に隙間が形成されるように厚さ方向に配列した状態で収容する。本実施形態では、ガラス板収容治具1は、ガラス板2を洗浄槽内の洗浄液に浸漬して洗浄し、その後、洗浄液から引き上げて乾燥させるために使用されるものであって、ガラス板2を正面視で左右2列に配列して収容するものである。
【0026】
ガラス板2は、可撓性を有し、本実施形態では、いわゆるガラスフィルムと呼ばれるものであり、その厚さは、例えば、300μm以下、200μm以下、100μm以下、50μm以下とすることができる。この場合、ガラス板2は、長方形状又は正方形状をなす平板状体である。ガラス板2の横の寸法は、例えば、100mm〜700mm、200mm〜600mm、300mm〜500mmとすることができる。ガラス板2の縦の寸法は、例えば、200mm〜800mm、300mm〜700mm、400mm〜600mmとすることができる。
【0027】
ガラス板収容治具1は、枠体3と、枠体3に固定された一対の板材4を備える。詳述すれば、枠体3は、上下方向に延びる柱部3aと、ガラス板2の主面に沿う横方向に延びて柱部3aを連結する複数の桁部3bと、ガラス板2の厚さ方向に延びて柱部3aを連結する複数の梁部3cとで構成される。一対の板材4は、柱部3aと桁部3bで囲まれた領域に配設されている。板材4には、側方支持棒5、下方支持棒6を取り付けるための切欠きを有する細長状の貫通孔4aが複数設けられている。また、洗浄液が流通しやすいように、板材4には矩形状の貫通孔4bが複数設けられている。
【0028】
図3に示すように、ガラス板収容治具1は、複数のガラス板2を、側方から支持する側方支持部としての丸棒形状の側方支持棒5と、下方から支持する下方支持部としての丸棒形状の下方支持棒6と、上方から支持する上方支持部としての角棒形状の上方支持棒7を備える。詳述すれば、
図4に示すように、複数のガラス板2のそれぞれは、側方支持棒5に形成された環状の側方支持溝5aにより両側方から支持される。また、
図2に示すように、複数のガラス板2のそれぞれは、下方支持棒6に形成された環状の下方支持溝6aに下方から支持される。さらに、複数のガラス板2のそれぞれは、上方支持棒7に形成された直線状の上方支持溝7aにより上方から支持される。
【0029】
図3に例示する構成では、各列のガラス板2は、両側方からそれぞれ3対の側方支持棒5で支持され、下方からそれぞれ2本の下方支持棒6で支持されている。なお、
図3で横方向中央に配置された側方支持棒5は、2列のガラス板2の間で共用されている。
【0030】
そして、
図1〜4に示すように、ガラス板収容治具1は、複数のガラス板2の相互間の隙間にガラス板2の主面に沿って配置された可撓性条体8を有する。本実施形態では、可撓性条体8は、張力を付与された状態である。また、可撓性条体8は、上端及び下端の側方支持棒5の間に配置されている。さらに、
図3に示すように、可撓性条体8は、隣り合うガラス板2の対向する主面における中央領域の相互間の隙間を通るように掛け渡されている。また、一対の可撓性条体8が、隣り合うガラス板2の対向する主面における中央領域の相互間の隙間で交差している。また、一対の可撓性条体8が、交差している可撓性条体8の上側と下側に横方向に通されている。なお、可撓性条体8の端部は、例えば、ガラス板収容治具1における特定の箇所に巻き付けた後に結ぶことで固定すればよい。ガラス板収容治具1における特定の箇所としては、例えば、側方支持棒5における後述の側方係止溝5bが挙げられる。
【0031】
この場合、可撓性条体8は、例えばモノフィラメントの合成繊維であり、材質としては、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン等が挙げられる。勿論、可撓性条体8は、これに限定されるものでは無く、繊維の形態は、マルチフィラメントやマルチフィラメントの合糸であってもよいし、また、材質も、木綿、絹等の天然の繊維や炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維であってもよいし、細長い等の形状により可撓性を有するならば、金属棒、プラスチック棒、ピアノ線等であってもよい。
【0032】
可撓性条体8の断面外径は、例えば0.5mm〜2.0mmが好ましく、0.8mm〜1.7mmがより好ましく、1.0mm〜1.5mmが最も好ましい。可撓性条体8の外径が0.5mm未満の場合には、隣り合うガラス板2が相互に接触し易くなる。また、強度や耐久性が不足する可能性がある。可撓性条体8の外径が2.0mmを超える場合には、巻き付けたり、結んで固定したりすることが難しくなる可能性がある。
【0033】
図5に示すように、側方支持棒5には、その長手方向に所定の間隔で環状の側方支持溝5aが複数設けられている。
図6に示すように、側方支持棒5には、側方支持溝5aを形成している肉部の外周面に、可撓性条体8が係止可能な環状の側方係止溝5bが形成されている。例えば、可撓性条体8を側方係止溝5bに掛け回したり、巻き付けたりすることによって、可撓性条体8は側方係止溝5bに係止可能である。
【0034】
図7に示すように、下方支持棒6には、その長手方向に所定の間隔で環状の下方支持溝6aが複数設けられている。また、本実施形態では、下方支持棒6には、可撓性条体8が掛け渡されていないが、可撓性条体8が掛け渡されてもよく、その場合のために、
図8に示すように、下方支持棒6には、下方支持溝6aを形成している肉部の外周面に、可撓性条体8を係止可能な環状の下方係止溝6bが形成されている。例えば、可撓性条体8を下方係止溝6bに掛け回したり、巻き付けたりすることによって、可撓性条体8を下方係止溝6bに係止可能である。
【0035】
側方支持棒5、下方支持棒6、上方支持棒7の材質としては、例えば、テフロン(登録商標)、ポリエーテルエチルケトン(PEEK)、ポリイミド樹脂、MCナイロン(登録商標)等の合成樹脂が挙げられる。
【0036】
また、本実施形態では、
図5、7に示すように、側方支持棒5、下方支持棒6の中心部には、金属製のシャフト5c,6cが挿通されて固定されている。このシャフト5c,6cの端部が、板材4の貫通孔4aに挿通されて板材4に対して脱離可能に装着される。従って、ガラス板2の寸法に合わせて、シャフト5c,6cの端部の装着位置を変更することで、側方支持棒5、下方支持棒6の配置を変更することが可能である。更には、側方支持棒5、下方支持棒6の配置を変更することで、ガラス板2の列の数を変更することも可能である。また、上方支持棒7は不図示の金属製の取り付け部材に固定され、この取り付け部材が枠体3に脱離可能に装着されることで、上方支持棒7は枠体3に対して着脱自在となっている。
【0037】
図6に拡大して示すように、側方支持溝5aの断面形状は、V字形状である。側方支持溝5aにおける断面形状のV字の角度αは、例えば6°〜26°が好ましい。V字の角度αが6°未満の場合には、ガラス板2を側方支持溝5aに十分に挿入できなくなると共に、挿入作業が困難になる可能性がある。V字の角度αが26°を超える場合には、ガラス板2を十分に支持できずに、ガラス板2が不当に撓む可能性がある。また、側方支持溝5aの幅が大きくなり、同じ長さの側方支持棒5に形成できる側方支持溝5aが減少し、同じ寸法のガラス板収容治具1に収容可能なガラス板2が減少する。これらの観点から、V字の角度αは、8°〜24°がより好ましく、10°〜22°が最も好ましい。
【0038】
また、側方支持溝5aの深さd1は、例えば14mm〜26mmが好ましい。深さd1が14mm未満の場合には、ガラス板2を側方支持溝5aに十分に挿入できなくなり、ガラス板2が抜け出る可能性がある。深さd1が26mmを超える場合には、洗浄後の乾燥が不十分になる可能性がある。これらの観点から、側方支持溝5aの深さd1は、16mm〜24mmがより好ましく、18mm〜22mmが最も好ましい。
【0039】
図2に示すように、上方支持棒7には、その長手方向に所定の間隔で直線状の上方支持溝7aが下部に複数設けられている。上方支持溝7aの断面形状もV字形状である。上方支持溝7aにおける断面形状のV字の角度や上方支持溝7aの深さは、側方支持溝5aの場合と同様である。
【0040】
図8に拡大して示すように、下方支持溝6aの断面形状は、U字形状である。本実施形態では、下方支持溝6aにおける断面形状のU字の下方の部分(下方支持溝6aの底面の断面形状)は、真円の部分円弧状であるが、これに限定されず、幅方向中心に向かって漸次深さが深くなる滑らかな曲線形状であればよい。下方支持溝6aにおける断面形状のU字の部分円弧状部分の半径は、例えば1.9mm〜3.1mmが好ましい。半径が1.9mm未満の場合には、洗浄後にガラス板2と溝底の間に洗浄液が残留し、乾燥が不十分になる可能性がある。半径が3.1mmを超える場合には、ガラス板2を十分に支持できず、ガラス板2が不当に撓む可能性がある。これらの観点から、下方支持溝6aにおける断面形状のU字の部分円弧状部分の半径は、2.1mm〜2.9mmがより好ましく、2.3mm〜2.7mmが最も好ましい。
【0041】
また、下方支持溝6aの深さd2は、例えば14mm〜26mmが好ましい。深さd2が14mm未満の場合には、ガラス板2を下方支持溝6aに十分に挿入できなくなり、ガラス板2が脱け出る可能性がある。深さd2が26mmを超える場合には、洗浄後の乾燥が不十分になる可能性がある。これらの観点から、下方支持溝6aの深さd2は、16mm〜24mmがより好ましく、18mm〜22mmが最も好ましい。
【0042】
下方支持溝6aの幅wは、例えば2mm〜6mmが好ましい。幅wが2mm未満の場合には、洗浄後にガラス板2と下方支持溝6aの側面との間に洗浄液が残留し易くなり、乾燥が不十分になる可能性がある。幅wが6mmを超える場合には、ガラス板2を十分に支持できず、ガラス板2が不当に撓む可能性がある。また、同じ長さの下方支持棒6に形成できる下方支持溝6aが減少し、同じ寸法のガラス板収容治具1に収容可能なガラス板2が減少する。これらの観点から、下方支持溝6aの幅wは、2.5mm〜5mmがより好ましく、3mm〜4mmが最も好ましい。
【0043】
図6、
図8に拡大して示すように、側方係止溝5bと下方係止溝6bは、同形状で同寸法であり、断面形状はV字形状である。側方係止溝5bと下方係止溝6bにおける断面形状のV字の角度βは、例えば24°〜36°が好ましい。V字の角度βが24°未満の場合、可撓性条体8が十分に挿入されないだけでなく、挿入作業が困難になる可能性がある。V字の角度βが36°を超える場合、可撓性条体8が使用中にずれる可能性がある。これらの観点から、V字の角度βは、26°〜34°がより好ましく、28°〜32°が最も好ましい。
【0044】
次に、本実施形態のガラス板収容治具1の使用方法について説明する。
【0045】
まず、ガラス板収容治具1内にガラス板2を配列する前には、上方支持棒7が固定されている取り付け部材(不図示)は、ガラス板収容治具1の枠体3から取り外されている。次に、ガラス板収容治具1内に、複数のガラス板2を配列する。つまり、ガラス板収容治具1内に、複数のガラス板2を縦姿勢で挿入する。
【0046】
全てのガラス板2をガラス板収容治具1内に配列した後、上方支持棒7が固定された取り付け部材を枠体3に取り付ける。これで、ガラス板収容治具1へのガラス板2の設置は完了する。
【0047】
この状態で、ガラス板収容治具1を、洗浄槽内の洗浄液に浸漬し、ガラス板2を洗浄する。その後、ガラス板収容治具1を洗浄槽から引き上げ、乾燥装置によってガラス板収容治具1及びガラス板2に付着した洗浄液を乾燥する。
【0048】
その後、上記と逆の手順で、ガラス板2をガラス板収容治具1から取り出す。すなわち、上方支持棒7が固定されている取り付け部材を枠体3から取り外し、ガラス板2をガラス板収容治具1から取り出す。
【0049】
以上のように構成された本実施形態のガラス板収容治具1では、以下の効果を享受できる。
【0050】
ガラス板収容治具1に収容された複数のガラス板2の処理や運搬中に、ガラス板2が可撓性に起因して平坦な形状を維持できなくなっても、ガラス板2の相互間の隙間に配置された可撓性条体8によって、ガラス板2の不当な変形が抑制される。これにより、ガラス板収容治具1に収容された複数のガラス板2が相互に接触する事態を阻止して、ガラス板2に接触傷が付く等の不具合が回避される。また、条体8が可撓性なので、ガラス板2が変形しても、条体8はガラス板2の変形に追随して、変形可能であるため、ガラス板2と条体8との接触に起因してガラス板2が損傷する可能性が低減する。なお、可撓性条体8の硬度は、ガラス板2の硬度よりも低いことが好ましい。
【0051】
また、可撓性条体8の外径が小さいので、可撓性条体8を巻き付けたり、結んで固定したりすることが可能となっており、ガラス板収容治具1に対する可撓性条体8の着脱が容易である。これにより、ガラス板2の寸法の変更等に伴って可撓性条体8の配設の仕方を変更することが容易である。
【0052】
また、
図8に示すように、ガラス板収容治具1における下方支持溝6aの断面形状がU字形状なので、洗浄槽から引き上げた時に、二点鎖線で示すガラス板2と下方支持溝6aの間に洗浄液が残留することを抑制できる。すなわち、下方支持溝6aが仮に側方支持溝5aと同様にV字形状であると、ガラス板2と下方支持溝6aの間に洗浄液が残留する。しかし、本実施形態では、下方支持溝6aの断面形状がU字形状であるため、このような不具合は生じない。これによって、ガラス板2に対する洗浄後の乾燥が容易となる。
【0053】
また、
図6に示すように、側方支持溝5aの断面形状がV字形状であるため、ガタツキを生じること無く、より確実に、二点鎖線で示すガラス板2を両側方から支持できる。この場合には、側方支持溝5aの断面形状がV字形状であっても、ガラス板2と側方支持溝5aの間の洗浄液は自重によって落下するため、毛細管現象の影響は受けない。以上の結果、ガラス板2の安定した支持を確保した上で、ガラス板2に対する洗浄後の乾燥が容易となる。
【0054】
なお、本発明は、以上の説明に限定されることは無く、その技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、可撓性条体は、ガラス板を支持する支持棒に掛け渡されていたが、支持棒以外の枠体やその他の部材に掛け渡されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 ガラス板収容治具
2 ガラス板
5 側方支持棒
5a 側方支持溝
6 下方支持棒
6a 下方支持溝
8 可撓性条体