【実施例】
【0025】
本発明の実施の形態に係る実施例のクリップについて、
図1乃至
図6を用いて詳細に説明する。
図1は、実施例に係るクリップの外観斜視図である。
図1に示すように、本実施例に係るクリップ1は、支軸2を介して一端3a,3aを開閉可能に連結される一対の把持部3,3を備えるクリップである。
一対の把持部3,3は、支軸2から一端3a,3aまでを構成する把持片4,4の長手方向に沿って、挟持部5,5が把持片4,4と別体的に設けられる。さらに、一対の把持部3,3は、それぞれ他端3b,3bと、互いに対向する端面3c,3cを備える。
支軸2には、一端3a,3aが互いに閉じるように付勢する金属製のねじりバネが巻回されている(図示せず)。したがって、ヤットコ等で他端3b,3b同士を開閉する操作を行うと、一端3a,3aが開閉される構造となっている。
把持片4の断面は略コ字状をなしており、この略コ字状の内部に挟持部5が設けられる。
【0026】
挟持部5,5は、支軸2寄りの基端部5a,5aと、先端部5b,5bと、この先端部5b,5bと基端部5a,5aの間に設けられる傾動軸6,6と、を備える。
さらに、挟持部5,5は、基端部5a,5aから傾動軸6,6までに挟持片7,7が構成されるとともに、傾動軸6,6から先端部5b,5bまでに挟持片8,8が構成され、把持片4,4に対して傾動軸6,6を中心として傾動自在に取り付けられる。
また、挟持片7,7は、互いに対向する端面7a,7aを備え、挟持片8,8は、互いに対向する端面8a,8aを備え、基端部5a,5aを互いに近づける方向(図中矢印)に付勢する弾性体9,9が、把持片4,4の支軸2寄りの端部4a,4aと基端部5a,5aとの間に設けられる。
【0027】
把持片4,4は、傾動軸6,6が取り付けられる取付部10,10が設けられ、支軸2から取付部10,10にかけて端面7a,7aを被覆しないように凹部4b,4bが形成される。すなわち、凹部4b,4bは、クリップ1の中心軸C側へ端面7a,7aを超えて延設されない。なお、クリップ1の中心軸Cとは、支軸2を通り、かつ把持部3,3を閉じた場合に互いに重なり合う把持部3,3の端面3c,3cに沿って延びる軸線である。
また、取付部10は、具体的には、把持片4に穿設された一対の孔部(図示せず)と、この一対の孔部に挿入される軸体6a(
図2参照)の両端を回動可能に、かつこの両端が一対の孔部から抜き出さないように固定する一対のナット(図示せず)と、から構成される。
【0028】
次に、本実施例のクリップ1を構成する挟持部5について、
図2を用いながら詳細に説明する。
図2(a)は実施例に係るクリップを構成する挟持部の側面図、
図2(b)は
図2(a)におけるA方向矢視図、
図2(c)は挟持部の斜視図である。なお、
図1で示した構成要素については、
図2においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0029】
図2(a)乃至
図2(c)に示すように、本実施例のクリップ1を構成する挟持部5は、挟持片7と挟持片8が、いずれも基端部5aと先端部5bを結ぶ直線軸L上に連続して配列されつつ、傾動軸6を介して一体的に形成される。なお、本実施例において、直線軸Lは、挟持片7の長手方向と挟持片8の長手方向に平行している。したがって、挟持片7と挟持片8は、あたかも傾動軸6を支点とするシーソーのような形状となっている。また、
図2(a)に示すように、挟持片7の直線軸Lに沿った長さL
7は、挟持片8の直線軸Lに沿った長さL
8より短い。具体的には、長さL
7は、長さL
8のおよそ1/2である。
傾動軸6は、直線軸Lと直交する方向に沿った長軸を有する軸体6aを備える。そして、軸体6aの両端が把持片4の取付部10(
図1参照)に対して固定されることで、挟持片7と挟持片8がそれぞれ軸体6aを中心として傾動自在な構成になっている。なお、具体的には、軸体6aは通しボルトである。
挟持片7,8の上記傾動については、
図2(c)に示すように、挟持片7がα
1方向に回動すると挟持片8はα
2方向に回動し、挟持片7がβ
1方向に回動すると挟持片8はβ
2方向に回動する。すなわち、挟持部5,5は、挟持片7,7と挟持片8,8が挟持する被挟持物のサイズに適宜対応し、傾動することが可能である。
また、
図2(a)に示すように、挟持片7の端面7aと挟持片8の端面8a、及び傾動軸6は、これを側面視した場合に、ほぼ連続する直線状に形成される。このうち、端面8aには、鋸歯状の凹凸面が形成されるが、端面8aを側面視した場合に、直線状に形成される。なお、この「直線状」とは、端面8aを側面視した場合に、端面8a,8aの端点8b,8cを最短距離で結ぶ直線L
minに、端面8aが厳密に一致して位置することのほか、端面8aに凹凸面や緩やかな湾曲面が形成されることで、端面8aが直線L
minからわずかに変位しながら直線L
minとほぼ一致して位置することを意味する。なお、端点8bは、端面8a及び傾動軸6を側面視した場合に、端面8aと傾動軸6との境界部に存在する点であり、端点8cは、同様の場合に、端点8bから直線軸Lに平行して先端部5bの側へ長さL
8だけ遠ざかった点である。
【0030】
次に、実施例に係るクリップの作用について、
図3乃至
図5を用いて詳細に説明する。
図3は、実施例に係るクリップの作用を説明するための平面図であって、一対の把持部の一端を閉じた場合を示している。なお、
図1及び
図2で示した構成要素については、
図3乃至
図5においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図3に示すように、クリップ1を構成する把持部3,3の一端3a,3aを閉じた場合、弾性体9,9の付勢によって、基端部5a,5aが互いに近づき、挟持片7,7の端面7a,7aが互いにクリップの中心軸C上において密着する。挟持片8,8の端面8a,8aも互いにクリップの中心軸C上において密着し、鋸歯状の凹凸面同士が噛合する。なお、端面7a,7aの密着及び端面8a,8aの密着は、挟持片7,7と挟持片8,8の形状や、傾動軸6,6及び取付部10,10の配置を考慮することによって可能となる。
【0031】
次に、
図4は、実施例に係るクリップの作用を説明するための平面図であって、一対の把持部の一端を開いた場合を示している。
図4に示すように、把持部3,3の一端3a,3aを、それぞれα,β方向へ開いた場合、弾性体9,9の付勢によって、挟持部5,5の基端部5a,5aが互いに近づいた状態が維持されながらも、傾動軸6,6の間隔が拡大されるため、基端部5a,5a同士は鋭角を形成する。また、挟持片7と挟持片8は、いずれも直線軸L(
図2参照)上に連続して配列されるため、端面7a,7a及び端面8a,8aは中心軸Cに対して緩やかに傾斜する。
また、長軸M
1,M
2は、それぞれ把持片4の端部4aと一端3aを結ぶ長軸(長手方向)であり、直線軸L
1,L
2は、それぞれ挟持片7の長手方向と挟持片8の長手方向に平行し、挟持部5の基端部5aと先端部5bを結ぶ直線軸である。さらに、長軸M
1,M
2に対しそれぞれ直線軸L
1,L
2がなす角度が、挟持部5,5の傾動の角度θ
1,θ
2である。したがって、
図4においては、傾動の角度θ
1,θ
2は、それぞれ0度であって、挟持片7,7と挟持片8,8は、いずれも傾動軸6,6を中心とした傾動を行わない。
【0032】
さらに、
図5は、実施例に係るクリップの作用を説明するための平面図であって、一対の把持部の一端を開き、複数の電線D
1,D
2を挟持した場合を示している。
図5に示すように、把持部3,3の一端3a,3aを、それぞれα,β方向へ開き、電線D
1を端面7a,7aの間に押し込むとともに、電線D
2を端面8a,8aの間に押し込むと、端面7a,7aが電線D
1によって押されるため、基端部5a,5aが互いに遠ざかる方向に挟持部5,5が傾動軸6,6を中心として傾動する。したがって、
図5においては、傾動の角度θ
1,θ
2は、それぞれ絶対値で0度以上である。このとき、弾性体9,9は収縮するが、その付勢によって電線D
1に端面7a,7aが圧接することから、端面7a,7aで電線D
1が挟持される。
これと同時に、挟持部5,5の上記傾動に伴い、先端部5b,5bが互いに近づき、電線D
2に端面8a,8aが圧接する。よって、端面8a,8aで電線D
2が挟持される。なお、電線D
1の直径は
、電線D
2の直径よりも大である。
また、先端部5b,5b同士は鋭角をなすとともに、端面8a,8aは中心軸Cに対して緩やかに傾斜する。そのため、端面8a,8aにおける電線D
2の挟持位置を電線D
2の直径に応じて微調整可能である。
【0033】
また、
図3乃至
図5に示すように、一端3a,3aが開いた場合には、挟持部5,5が傾動しているか否かに関わらず、凹部4b,4bは、クリップ1の中心軸C側へ端面7a,7aを超えて延設されない。そのため、端面7a,7aの間に電線D
1を押し込むことが、把持片4,4によって阻害されない。さらに、端面7a,7aで電線D
1が挟持されることも、把持片4,4によって阻害されない。すなわち、凹部4b,4bが形成されることによって、把持片4,4が電線D
1に直接接触することがないため、電線D
1が端面7a,7aの間に押し込まれて挟持される場合は、常に端面7a,7aが電線D
1に圧接することが可能となる。
さらに、端面8a,8aには、鋸歯状の凹凸面が形成されるため、電線D
2に対する端面8a,8aの圧接力が増加し、電線D
2の落下やズレが防止される。
【0034】
以上説明したように、本実施例のクリップ1によれば、ヤットコ等で把持部3,3の他端3b,3b同士を開閉するという簡単な操作を行うことによって、直径の異なる複数の電線D
1,D
2を、それぞれ端面7a,7a及び端面8a,8aで確実に挟持することができる。特に、細い直径の電線D
2が端面8a,8aから外れることを防止できるので、別のヤットコ等で外れた電線D
2を把持するという余分な手間が発生しない。さらに、外れた電線D
2が、周囲の充電部へ接触するおそれがなくなるため、地絡事故の発生防止や、接触する可能性のある充電部等への防具の取り付けを不要とすることができる。そのため、作業の時間短縮や安全性の確保が可能であり、突発的な停電を回避することができる。
【0035】
また、クリップ1によれば、挟持部5,5は、挟持片7,7と挟持片8,8が挟持する被挟持物のサイズに適宜対応し、傾動することが可能であることと、端面8a,8aにおける電線D
2の挟持位置を電線D
2の直径に応じて微調整可能であることから、挟持可能な直径の異なる電線の組み合わせが限定されない。したがって、電線の組み合わせ毎に、形状が異なるクリップを所持する必要がなく、便利である。
【0036】
さらに、クリップ1によれば、把持片4,4に凹部4b,4bが形成されることによって、
図4に示すように、電線D
1を端面7a,7aの間に容易に押し込むことができる。さらに、
図5に示すように、電線D
1が端面7a,7aの間に挟持される場合は、常に端面7a,7aが電線D
1に圧接し、把持片4,4が電線D
1に直接接触することがない。
これに対し、凹部4b,4bが形成されない把持片4,4の場合には、ヤットコ等により一端3a,3aが一定角度に固定されて開かれているので、電線D
1を端面7a,7aの間に深く押し込むことが困難である。仮に、電線D
1が端面7a,7aの間に挟持される場合は、把持片4,4が電線D
1に直接接触することで電線D
1が挟持される。この場合には、電線D
1は弾性体9,9の付勢を受けないために把持片4,4からずれ易く、電線D
1の落下が多発するおそれがある。このように、クリップ1によれば、凹部4b,4bによって、電線D
1を安定的に挟持することができる。
【0037】
加えて、端面8a,8aにおける電線D
2の挟持位置を微調整可能であることから、電線D
2のズレや電線D
2に対する端面8a,8aによる過度の圧接を防止することができる。
また、端面8a,8aに形成された凹凸面によって、電線D
2の落下やズレが防止されるため、クリップ1の付け直し等をする必要がなく、クリップ1の発生を防止できるとともに作業効率を向上させることが可能である。
【0038】
次に、実施例の変形例に係るクリップについて、
図6を用いて詳細に説明する。
図6(a)及び
図6(b)は、それぞれ実施例の変形例に係るクリップの構成と作用を説明するための平面図である。このうち、
図6(a)は把持部3,3の一端3a,3aを閉じた場合であり、
図6(b)は一端3a,3aを開き、複数の電線D
1,D
2を挟持した場合である。なお、
図1乃至
図5で示した構成要素については、
図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6(a)及び
図6(b)に示すように、実施例の変形例に係るクリップ1aは、実施例に係るクリップ1を構成する挟持部5,5が挟持部11,11に置換されたものである。
【0039】
挟持部11,11は、それぞれ、支軸2寄りの基端部11a,11aと、先端部11b,11bと、この先端部11b,11bと基端部11a,11aの間に設けられる傾動軸6,6と、を備え、基端部11a,11aから傾動軸6,6までに挟持片12,12が構成されるとともに、傾動軸6,6から先端部11b,11bまでに挟持片13,13が構成され、把持片4,4に対して傾動軸6,6を中心として傾動自在に取り付けられる。
挟持片12,12は、互いに対向する端面12a,12aを備え、挟持片13,13は、互いに対向する端面13a,13aを備える。
また、挟持片12,12と挟持片13,13は、それぞれ挟持片12に対し挟持片13が傾斜して配列されつつ、傾動軸6を介して一体的に形成される。クリップ1aにおけるこの他の構成は、実施例に係るクリップ1と同様である。
【0040】
図6(a)に示すように、クリップ1aを構成する把持部3,3の一端3a,3aを閉じた場合、弾性体9,9の付勢によって、基端部11a,11aが互いに近づき、挟持片12,12の端面12a,12aが互いにクリップの中心軸C上において密着する。しかし、挟持片13,13は、先端部11b,11bが互いに離隔するようにクリップの中心軸Cに対して緩やかに傾斜している。すなわち、端面13a,13aは互いに密着していない。
【0041】
図6(b)に示すように、把持部3,3の一端3a,3aを、それぞれα,β方向へ開き、電線D
1を端面12a,12aの間に押し込むとともに、電線D
2を端面13a,13aの間に押し込むと、基端部11a,11aが互いに遠ざかる方向に、挟持部11,11が傾動軸6,6を中心として傾動する。このとき、弾性体9,9の付勢によって、端面12a,12aで電線D
1が挟持される。
これと同時に、先端部11b,11bが互いに近づき、端面13a,13aが略平行となる。そのため、端面13a,13aのうちいずれの位置においても、電線D
2が挟持される。
したがって、クリップ1aによれば、端面13a,13aが略平行となるため、従来技術に係るクリップと同様な使用をすることも可能である。なお、従来技術に係るクリップとは、支軸を介して一端を開閉可能に連結される一対の把持部を備え、この一対の把持部の対向する端面が略直線状をなす構成であるものを指す。クリップ1aにおけるこの他の作用及び効果は、実施例に係るクリップ1と同様である。
【0042】
なお、本発明のクリップ1,1aの構造は本実施例に示すものに限定されない。例えば、挟持片7,7の端面7a,7aに凹凸面が形成されても良く、端面8a,8aの凹凸面は、鋸歯状以外にも波型状に形成されても良い。また、把持片4,4の凹部4b,4bは、
図3に図示された以外の湾曲形状や矩形状に形成されても良い。さらに、クリップ1,1aによって挟持される被挟持物としては、絶縁シートやボルトといった、電線以外の物であっても良い。
この他、クリップ1aにおいて、挟持片12の長さが挟持片13の長さよりも長く構成されても良い。この場合、把持片4に凹部4bが形成されなくても挟持端面12a,12aで細い直径の電線D
2を挟持可能であるとともに、端面13a,13aで太い直径の電線D
1を挟持可能である場合も考えられる。