(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
感光性樹脂組成物層を紫外線照射によって硬化させた後にレーザー光照射により画像形成して印刷版を形成するために用いられるレーザー彫刻用凸版印刷原版であって、前記感光性樹脂組成物が、ポリエーテルウレアウレタン、ポリエーテルアミド、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも一種の塩基性第3級窒素原子含有高分子化合物、光重合性不飽和化合物、光重合開始剤、及び熱酸発生剤を含有し、前記塩基性第3級窒素原子含有高分子化合物中の塩基性第3級窒素原子の少なくとも一部が、4級化剤によって4級化されており、前記熱酸発生剤が、前記感光性樹脂組成物中に0.1〜20重量%含有されることを特徴とするレーザー彫刻用凸版印刷原版。
前記熱酸発生剤が、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種のオニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー彫刻用凸版印刷原版。
請求項1〜4のいずれかに記載のレーザー彫刻用凸版印刷原版をレーザー彫刻して得られる印刷版の版面に付着した樹脂残渣を水によって除去することを含むことを特徴とする凸版印刷版の製造方法。
【背景技術】
【0002】
各種包装材やシール、ラベル印刷、他、多種の印刷に使用される凸版印刷版は、従来、感光性樹脂からなる印刷原版を像に従って露光して露光部の樹脂を架橋させ、次いで非露光部の未架橋樹脂を洗浄除去することにより製造されていたが、近年、印刷版製造の効率改善のため、レーザーを使って直接印刷原版上にレリーフ画像を形成するレーザー彫刻による印刷版が普及しつつある。レーザー彫刻による印刷版の製造工程では、レーザー光線を像に従って印刷原版に照射して照射部分の像形成材料を熱分解することにより版表面に凹凸が形成される。
【0003】
レーザー彫刻用の印刷原版としては、フレキソ版への技術応用が進んでおり、レーザー彫刻可能なフレキソ版原版、あるいはレーザー彫刻によって得られたフレキソ版が特許文献1及び2に開示されている。それらの文献には、バインダーとしてエラストマー性のゴムにモノマーを混合してフレキソ印刷原版を製造し、熱架橋又は光架橋により硬化させた後にレーザー彫刻を行い、フレキソ印刷版を得ている。しかし、これらは水性インキやエステルインキに適性のあるフレキソ印刷版であり、油性インキが主に用いられる樹脂凸版用途には適するものではない。
【0004】
一方、凸版印刷に用いるレーザー彫刻用印刷原版としては、ポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールやポリエーテルポリアミドなどの高分子化合物に光重合性化合物及び光重合開始剤を配合した樹脂組成物からなるものが特許文献3〜5に開示されている。
【0005】
しかしながら、凸版印刷に用いるレーザー彫刻用印刷原版としては、レーザー彫刻性と印刷性能との両者を満足できる印刷原版が得られていなかった。レーザー彫刻時の最大の問題としては、レーザー照射により生じた樹脂残渣がレーザー照射中の吸引やレーザー照射後の洗浄でも除去されずに版に付着したまま残りやすいことであり、印刷版のレーザー非照射部分(凸部分)に付着した樹脂残渣が印刷時にインクを受理して印刷不良を起こしやすくしていた。
【0006】
上記樹脂残渣の付着の問題に対しては、感光性樹脂組成物中の(メタ)アクリロイル基の含有量を最適化してレーザー彫刻に適した架橋状態にすることで、レーザー彫刻残渣を減らすとともにレーザー彫刻時の樹脂溶融を抑制することが提案されている(特許文献6及び7参照)。また、塩基性第3級窒素原子を含有させることで、もしレーザー彫刻時に樹脂残渣が付着したとしても、水を溶剤としてブラシ洗浄等により容易に樹脂残渣を除去できることができることも提案されている(特許文献6及び7参照)。しかし、かかる従来技術では樹脂残渣をブラシ洗浄等で除去するのに時間を要するため、網点表面まで削ってしまい、長期印刷性に欠けるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のレーザー彫刻用凸版印刷原版は、感光性樹脂組成物層を紫外線照射によって硬化させた後にレーザー光照射により画像形成して印刷版を形成するために用いられるものであり、感光性樹脂組成物が、高分子化合物、光重合性不飽和化合物、光重合開始剤に加えて、熱酸発生剤を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の感光性樹脂組成物に含有される高分子化合物は、ポリエーテルウレアウレタン、ポリエーテルアミド、及びポリアミドからなる群から選択される少なくとも一種の塩基性第3級窒素原子含有高分子化合物である。高分子化合物は、エステル結合を含有しないことが好ましい。高分子化合物中にエステル結合が存在すると、印刷原版の製造時に存在する水やアルコールにより加水分解やエステル交換による分解や交換反応が起こり、耐摩耗性が著しく低下する傾向を有する。
【0014】
ポリエーテルウレアウレタンは、ジアミンとポリエチレングリコールを含有する末端ジイソシアネート化合物とを溶剤中で付加重合させることで得られる。ジアミン成分は、レーザー彫刻性能と印刷性能の両者を満足するためには第3級窒素原子を含有しないジアミンと第3級窒素原子を含有するジアミンとを併用することが好ましい。第3級窒素原子を含有しないジアミンは、第3級窒素原子を含有するジアミンの20〜45重量%含有することが好ましい。
【0015】
第3級窒素原子を含有しないジアミンとしては、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−或は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−或は1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−或は1,4−アミノシクロヘキサンなどが挙げられるが、好ましくは2−メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4−或は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである。
【0016】
一方、第3級窒素原子を含有するジアミンとしては、主鎖又は側鎖に塩基性第3級窒素原子を有するジアミンが挙げられる。具体的には、ピペラジン環を有するジアミン及びそれ以外のジアミンが挙げられる。具体的なピペラジン環を有するジアミンの例としては、N,N’−ビス(アミノメチル)ピペラジン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)メチルピペラジン、N−(アミノメチル)−N’−(2−アミノエチル)ピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノペンチル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−(アミノプロピル)ピペラジン、N−(ω−アミノヘキシル)ピペラジン、N−(3−アミノシクロヘキシル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)−3−メチルピペラジン、N−(2−アミノエチル)−2,5−ジメチルピペラジン、N−(2−アミノプロピル)−3−メチルピペラジン、N−(3−アミノプロピル)−2,5−ジメチルピペラジンなどのピペラジン環を有するジアミンが挙げられる。
【0017】
ピペラジン環を有するジアミン以外のジアミンとしては、N,N−ジ(2−アミノエチル)アミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)アミン、N,N−ジ(2−アミノエチル)メチルアミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)エチルアミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)イソプロピルアミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)シクロヘキシルアミン、N,N−ジ(4−アミノ−n−ブチル)アミン、N−メチル−N−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ(3−アミノプロピル)テトラメチレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−N,N’−ジ−(3−アミノプロピル)ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシクロヘキシル−N,N’−ジ−(3−アミノプロピル)ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシクロヘキシル−N,N’−ビス(2−カルボキシプロピル)ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジ−(3−アミノプロピル)−2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−メチル−2−(N,N−ジメチルアミノメチル)プロパン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−メチル−2−(N,N−ジエチルアミノメチル)プロパン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−エチル−2−(N,N−ジメチルアミノメチル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−(N,N−ジメチルアミノメチル)プロパンなどが挙げられる。
【0018】
上記ジアミンの中でも、N,N’−ビス(アミノエチル)−ピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジンのピペラジン環を有するジアミンが重合性及び物性面より優れるために好ましい。
【0019】
ポリエーテルウレアウレタンに用いるもう一方の原料である上記ジイソシアネート化合物は、公知の脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートと等モル以下のポリオキシエチレングリコールとを反応させて得られる、実質的に両末端にイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物である。該ジイソシアネート化合物は従来公知の方法を利用して製造できる。即ち、両者を無溶剤の状態で混合・撹拌下に反応させる方法、両者を不活性溶剤に溶解させて反応させる方法などが挙げられる。反応温度、反応時間などは、両者の反応性や熱安定性などを考慮して最適条件を決めるべきである。また、ジイソシアネートの使用比率は、ポリオキシエチレングリコール1.0モルに対して2.0モル以上、特に2.05モル以上が望ましい。
【0020】
ジイソシアネート化合物を得るために使用するジイソシアネートとしては、公知の脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートが使用可能である。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジメチルイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられるが、保存安定性や反応性の面から脂肪族ジイソシアネートが好ましく、特にヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0021】
また、ジアミンとジイソシアネート化合物との反応比率のアミノ基/イソシアネート基(当量比)は1.0以上、望ましくは1.02以上である。この場合、過剰の末端アミノ基が未反応のまま残存しても、それを用いた組成物の性能、物性などに悪影響を及ぼさない限り特にさしつかえない。またアミノ基/イソシアネート基(当量比)が1.0未満の場合はゲル化などの不都合な反応が起こりやすいので好ましくない。アミンとイソシアネートとの反応性は極めて大きいため、両者の反応は水、メタノールなどのアルコール類、あるいは水とアルコール類との混合物などの活性溶剤中でも可能である。
【0022】
ポリエーテルアミドは、主鎖にポリエーテル結合及びアミド結合を有するポリアミドであり、ポリエーテル成分としてポリエチレングリコールを用いるものである。ポリエーテルアミドは、例えば特開昭55−74537号に記載された方法で重合することによって合成することができる。具体的には、末端にアミノ基を有するポリエチレングリコールと脂肪族ジカルボン酸とから成る構成単位とそれ以外の脂肪族ポリアミドを構成単位として公知の重合方法で合成することができる。又、第3級窒素原子の導入は、ハードセグメントとして用いるポリアミド成分として第3級窒素原子を有するジアミン又はジカルボン酸を用いた構成単位を共重合することによって達成することができる。
【0023】
ポリアミドは、ジアミンとジカルボン酸、あるいはω−アミノ酸、ラクタムまたはこれらの誘導体等から公知の方法に従って合成されるホモポリマー、コポリマーおよびこれらの2種類以上の混合物である。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66/610、ナイロン6/66/612等の各種ナイロンのほか、メタキシレンジアミンとアジピン酸から得られるポリアミド、ジアミノジシクロヘキシルメタン共重合ポリアミド、N,N‘−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンとアジピン酸との構成単位などを含む塩基性窒素含有共重合ポリアミド、両末端アミノ基含有ポリエチレングリコール共重合ポリアミドや両末端カルボキシル基含有ポリエチレングリコール共重合ポリアミドなどのポリエーテル含有ポリアミド、並びに各種ポリアミドのN−メチロール化物、N−アルコキシメチル化物などが挙げられるが、その中でも塩基性窒素含有共重合ポリアミドやポリエーテル含有ポリアミドが好ましい。
【0024】
ポリアミドに塩基性窒素を導入する方法としては、主鎖又は側鎖に塩基性第3級窒素原子を有するジアミンを用いることが好ましい。具体的なジアミンとしては、N,N’−ビス(アミノメチル)ピペラジン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンなどのピペラジン環を有するジアミンが挙げられ、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンが特に好ましい。
【0025】
ポリエーテルとしては、数平均分子量200〜4,000のポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。具体的なポリオキシアルキレングリコールとしては、数平均分子量200〜4,000のポリオキシエチレングリコール、数平均分子量200〜4,000のポリオキシプロピレングリコール、数平均分子量200〜4,000のポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリエーテルとしては、反発弾性と柔軟性との両立の面より分子量400〜1,500のポリエチレングリコールが好ましい。
【0026】
本発明の感光性樹脂組成物に使用される熱酸発生剤は、レーザー光照射で酸を発生して高分子化合物の水溶性を向上させる役割を有するものであり、例えば、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩、ジアゾニウム塩などのオニウム塩が好ましく用いられる。特に、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、及びアンモニウム塩から選択される少なくとも一種のオニウム塩が好ましい。
【0027】
ヨードニウム塩としては、ジフェニルヨードニウムアントラキノンスルホン酸塩、[4−(オクチルオキシ)フェニル]フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4−ter−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
【0028】
スルホニウム塩としては、4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、フェニルメチル−オルソ−シアノベンジルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネートなどが挙げられる。
【0029】
アンモニウム塩としては、トリフル酸ジエチルアンモニウム、トリフル酸トリエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、トリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウムなどが挙げられる。
【0030】
高分子化合物の第3級窒素原子や4級化剤の含有量を増加すると樹脂残渣の除去性はある程度向上するが、樹脂残渣の除去中に画像がダメージを受けやすくなるため好ましくない。上述の熱酸発生剤を用いることにより、感光性樹脂の強度を保持しつつ、高分子化合物のレーザー光照射部分のみ水溶性を上げて容易に樹脂残渣を除去することができる。
【0031】
熱酸発生剤の含有量は、感光性樹脂組成物に対して0.1〜20重量%が好ましく、0.2〜18重量%がより好ましく、0.3〜15重量%が最も好ましい。熱酸発生剤の含有量が上記範囲未満では水溶解性が得られず、上記範囲を超えると他の成分の不足により印刷版として使用する場合に良好な耐刷性が得られない。
【0032】
本発明の感光性樹脂組成物では、高分子化合物中の塩基性第3級窒素原子の少なくとも一部は、4級化剤によって4級化されている。4級化剤は、プロトン性4級化剤であっても非プロトン性4級化剤であっても良い。具体的な例としては、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、アジピン酸、安息香酸、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられるが、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートが特に好ましい。4級化剤は、高分子化合物1000g中に最大0.70モル含有することができ、特に最大0.60モル含有することができる。
【0033】
例えば、光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化した塩基性第3級窒素原子を高分子化合物中に所望量含有させる方法としては、ハードセグメント中の塩基性第3級窒素原子含有原料の配合比率によって塩基性第3級窒素原子量を決め、さらに導入した塩基性第3級窒素原子量に対する光重合性基4級化剤の4級化率を増減させることで設定することが可能である。4級化率とは、高分子化合物中に含有する塩基性第3級窒素原子のモル数に対して、4級化した塩基性第3級窒素原子モル数の割合であり、モル%で表される。4級化剤による4級化率は、0〜50%が好ましく、さらに好ましくは20〜50%である。4級化剤を使用せず熱酸発生剤のみで4級化することも可能であるが、4級化剤も併用することにより、樹脂残渣除去安定性が向上し、また、4級化剤による4級化率を50%以下にすることで、水洗時の画像部分のダメージを抑制することが可能になる。
【0034】
本発明の感光性樹脂組成物に使用される光重合性不飽和化合物としては、公知の光重合性不飽和化合物を用いることができる。好適に用いられる光重合性不飽和化合物としては、公知の二価又は三価アルコールのグリシジルエーテルとメタアクリル酸およびアクリル酸との開環付加反応生成物であり、前記二価又は三価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、フタル酸のエチレンオキサイド付加物、グリセリン、ビスフェノールA、トリメルロールプロパンやビスフェノールFのジグリシジルエーテルアクリル酸付加物などが挙げられるが、またこれらの化合物を2種類以上混合して使用することもできる。なお、本発明においては、グリセリンジメタクリレート、ジエチレングリーコールジエポキシメタクリレート、トリメルロールプロパントリエポキシアクリレート、トリメルロールプロパントリエポキシメタクリレートが特に好ましい。これらの光重合性不飽和化合物は、感光性樹脂組成物中に20〜50重量%含有させるのが好ましい。
【0035】
本発明の感光性樹脂組成物に使用される光重合開始剤としては、公知のものが使用可能であり、具体的には、例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アンスラキノン類、チオキサントン類などが使用できる。好適な具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、アンスラキノン、2−クロロアンスラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。これらの光重合開始剤は、感光性樹脂組成物中に0.05〜5重量%含有させるのが好ましい。0.05重量%より少ないと光重合開始能力に支障をきたし、5重量%より多いと印刷用レリーフを作成する場合の生版の厚み方向の光硬化性が低下し、レーザー彫刻性能が低下するおそれがある。
【0036】
また必要により公知の熱重合禁止剤を添加してもよい。熱重合禁止剤は、感光性樹脂凸版組成物の調合、製造、成形加工時などの加熱による予定外の熱重合、あるいは該組成物の保存中の暗反応を防止するために添加する。このような化合物の例としては、ハイドロキノン、モノ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルなどのハイドロキノン類、ベンゾキノン、2,5 −ジフェニル−p−ベンゾキノンなどのベンゾキノン類、フェノール類、カテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのカテコール類、芳香族アミン化合物類、ビクリン酸類、フェノチアジン、α−ナフトキノン類、アンスラキノン類、ニトロ化合物類、イオウ化合物類などが挙げられる。熱重合禁止剤の使用量は、感光性樹脂組成物中、好ましくは0.001〜2重量%、より好ましくは0.005 〜1重量%である。これらの化合物は2種以上併用してもよい。
【0037】
本発明の感光性樹脂組成物は、印刷用レリーフ版を得る場合の溶融成形法の他、例えば、熱プレス、注型、或いは、溶融押出し、溶液キャストなど公知の任意の方法により目的の製品に応じた所望の形状物に成形できる。
【0038】
本発明の紫外線照射とは、感光性樹脂組成物を成形・固形化した後に、紫外線露光機により露光し、架橋硬化させるものである。具体的には、感光性樹脂組成物をシート状に成形・固化した後に、このシート状成形物を表面から8mW/cm
2の紫外線露光機(光源:フィリップス社製10R)により表裏5〜15分露光し、架橋硬化させることが好ましい。
【0039】
レーザー彫刻用凸版印刷原版を得る場合は、本発明の感光性樹脂組成物をシート状に成形した成形物(生版)を公知の接着剤を介して、或いは、介さずに支持体に積層して使用することができる。支持体としては、スチール、アルミニウム、ガラス、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチックフィルム、金属蒸着したフィルムなど任意のものが使用できる。シート状成形物(生版)を支持体上に接着層を積層した積層体にして供給する場合には、シート状成形物(生版)に接して保護層がさらに積層される。保護層としては、プラスチックフイルム、例えば、125μm厚みのポリエチレンテレフタレートフイルムに粘着性のない透明で現像液に分散又は溶解する高分子を1〜3μmの厚みで塗布したものが用いられる。この薄い高分子の皮膜を有する保護層をシート状成形物(生版)に接することによって、シート状成形物(生版)の表面粘着性が強い場合であっても次の露光操作時に行う保護層の剥離を容易に行うことができる。形成される成形物の厚さは、製造する印刷原版のサイズ、性質などにより適宜決定すればよく、特に限定されないが、通常は0.1〜10mm程度である。
【0040】
かくして得られた印刷原版は、レーザー彫刻装置の版装着ドラムの表面に取り付けられ、像に従ったレーザー光照射(特に赤外線レーザーによる光照射)により照射部分の原版が分解されて凹部分を形成し、印刷版が製造される。このとき、印刷原版の照射部分に生じる高分子化合物の樹脂残渣は、熱酸発生剤の酸により水溶性が向上しているので、水洗い時に容易に除去可能である。
【実施例】
【0041】
次に本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1
N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン72質量部と2−メチルペンタメチレンジアミン18質量部をメタノール550質量部に溶解した後、該ジアミン溶液にポリエチレングリコール(平均分子量600)600質量部とヘキサメチレンジイソシアネート369質量部を反応させて得られた実質的に両末端にイソシアネート基を有するウレタンオリゴマー410質量部を、撹拌下徐々に添加した。両者の反応はポリマー固形分濃度50%の条件下に約15分で完了した。この溶液をテフロン(登録商標)コートしたシャーレに取り、メタノールを蒸発除去後、減圧乾燥して、ポリエーテルセグメントを47重量%含有し、比粘度が1.71、且つ高分子化合物1000g中に0.72モルの第3級窒素原子を有するポリエーテルウレアウレタン(高分子化合物A)を得た。
【0043】
次に得られた高分子化合物A50.0部とグリシジルメタクリレート2.6質量部をメタノール200.0部および水10部に攪拌付き加熱反応釜中65℃で4時間溶解・反応を行い、ハードセグメント中の塩基性第3級窒素原子と光重合性基4級化剤であるグリシジルメタクリレートとの4級化反応を行った。その後にトリメチロールプロパントリエポキシアクリレート39.4部、可塑剤としてN−エチルトルエンスルホン酸アミド7質量部、ハイドロキノンモノエチルエーテル0.1質量部、ベンジルジメチルケタール1.0質量部、熱酸発生剤として4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート0.5質量部を加え、感光性樹脂組成物溶液を得た。この溶液をテフロン(登録商標)コートしたシャーレに流延し、暗室にてメタノールを除去後、更に一昼夜40℃で減圧乾燥し、厚み800μmの感光性樹脂組成物のシートを得た。
【0044】
次に、得られた感光性樹脂組成物シートを、厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリエステル系接着層をコーティングしたフィルム(支持体)と、厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(保護フィルム)で挟み、ヒートプレス機で100℃、100kg/cm
2の圧力で加圧することにより、厚さ1.05mmのシート状成形物を得た。
【0045】
次に、このシート状成形物を表面より高さ5cmの距離から8mW/cm
2の紫外線露光機(光源:フィリップス社製10R)により表裏10分露光し、架橋硬化させた後、厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がし、レーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0046】
実施例2〜6
実施例1に記載の熱酸発生剤の添加量及び種類を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜6のレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0047】
実施例7
N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンとアジピン酸との当モル塩139.5質量部(縮合後125質量部)、平均分子量600のポリオキシエチレングリコールの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを水素還元して得たα、ω−ジアミノポリオキシエチレンとアジピン酸との当モル塩313.5質量部(縮合後300質量部)、およびε−カプロラクタム75質量部(縮合後75質量部)を通常の条件で溶融重合して主鎖にポリエーテルを含有し、且つ高分子化合物1000g中に0.72モルの第3級窒素原子を有するポリエーテルアミド(高分子化合物B)を得た。
【0048】
得られた高分子化合物Bを表2に記載の組成に基づいて実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を調整し、得られた感光性樹脂組成物よりシート状成形物及びレーザー彫刻用原版を得た。
【0049】
実施例8〜12
実施例7に記載の熱酸発生剤の添加量及び種類を表2に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例8〜12のレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0050】
実施例13
ε−カプロラクタム52.5重量部、N,N‘−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩40.0重量部と1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンとアジピン酸のナイロン塩7.5重量部とを溶融重縮合して、高分子化合物1000g中に1.19モルの第3級窒素原子を有する共重合ポリアミド(高分子化合物C)を得た。
【0051】
得られた高分子化合物Cを表4に記載の組成に基づいて実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を調整し、得られた感光性樹脂組成物よりシート状成形物及びレーザー彫刻用原版を得た。
【0052】
実施例14〜18
実施例13の熱酸発生剤の添加量及び種類を表3に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例14〜18のレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0053】
比較例1及び比較例2
比較例1は、熱酸発生剤を全く含有しないこと以外は実施例1と同じ感光性樹脂組成物であり、比較例2は、熱酸発生剤の感光性樹脂組成物の含有量が30.0質量%であること以外は実施例1と同じ感光性樹脂組成物であり、それぞれ実施例1と同様にしてレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0054】
比較例3及び比較例4
比較例3は、熱酸発生剤を全く含有しないこと以外は実施例7と同じ感光性樹脂組成物であり、比較例4は、熱酸発生剤の感光性樹脂組成物中の含有量が30.0質量%であること以外は実施例7と同じ感光性樹脂組成物であり、それぞれ実施例7と同様にしてレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0055】
比較例5及び比較例6
比較例5は、熱酸発生剤を全く含有しないこと以外は実施例13と同じ感光性樹脂組成物であり、比較例6は、熱酸発生剤が感光性樹脂組成物中の含有量が30.0質量%であること以外は実施例13と同じ感光性樹脂組成物であり、それぞれ実施例13と同様にしてレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0056】
次に、上記の実施例及び比較例で作製した印刷原版をレーザー彫刻装置の版装着ドラムに両面テープで巻き付け、下記の条件でレーザー彫刻を行った。レーザー彫刻開始と同時に、レーザーガン近傍に設置されている集塵機を作動させ、連続的に彫刻した樹脂残渣を装置外に排出させた。レーザー彫刻後、装着ドラムから取り出した版を流水でブラシ洗浄して、版表面に付着した少量の樹脂残渣を除去し、乾燥して印刷原版を得た。
【0057】
レーザー彫刻装置は、Luescher Flexo社製の300W炭酸ガスレーザーを搭載したFlexPose!directを用いた。本装置の仕様は、レーザー波長10.6μm、ビーム直径30μm、版装着ドラム直径は300mm、加工速度は1.5時間/0.5m
2であった。レーザー彫刻の条件は、以下のとおりである。なお、(1)〜(3)は装置固有の条件である。(4)〜(7)は任意に条件設定が可能であり、それぞれの条件は本装置の標準条件を採用した。
(1)解像度:2540dpi
(2)レーザーピッチ:10μm
(3)ドラム回転数:982cm/秒
(4)トップパワー:9%
(5)ボトムパワー:100%
(6)ショルダー幅:0.30mm
(7)評価画像:150lpi、0〜100%まで1%刻みの網点
【0058】
得られた印刷版について以下の評価項目を調査した。
(1)印刷版表面への樹脂残渣の付着具合
10倍の拡大ルーペを使用して、印刷版表面への樹脂残渣の付着具合を目視により検査し、◎:ほとんど付着なし、○:少し付着有り、△:かなり付着有り、×:付着激しい、の4段階で示した。
【0059】
(2)印刷版網点表面の削れ深度
超深度カラー3D形状測定顕微鏡(キーエンス社製VK−9510)を使用し、ベタ部を基準として印刷版の150線1%の網点表面の削れ深度(μm)を測定した。具体的には、ベタ部を基準として低くなった網点の高さの差異を削れ深度として測定した。
【0060】
(3)150lpi最小網点再現性
10倍の拡大ルーペを使用して、150lpi最小網点再現性を測定した。
【0061】
(4)付着した樹脂残渣の除去性
レーザー彫刻した後に印刷版表面に付着した樹脂残渣の除去のし易さを評価した。具体的には、直径160μmのポリエチレンテレフタレート製の繊維を植え込みした10cm×10cmのブラシを用いて水をかけながら樹脂残渣を操り、以下の基準で除去性を評価した。
◎:8回以内の擦り作業で除去可能、○:8回超15回以内の擦り作業で除去可能、△:15回超30回以内の擦り作業で除去可能、×:30回超の擦り作業でも除去できず、ブラシにも樹脂が付着。
【0062】
(5)高速印刷時の印刷性
レタープレス印刷機としてシール印刷用輪転印刷機を使って100m/分の速度でUVインキを用いて1000部及び2000部の印刷を実施し、ハイライト印刷性及びベタインキ乗りを判定した。
〔ハイライト印刷性〕
○:150lpiの3%ハイライトでムラなく鮮明に印刷できる。
△:150lpiの3%ハイライトでわずかに濃度ムラが有る。
×:150lpiの3%ハイライトで濃度ムラが有る。
〔ベタ部インキ乗り〕
○:ベタ部のインキ乗りにムラがなく印刷できる。
△:ベタ部のインキ乗りにわずかに濃度ムラが有る。
×:ベタ部のインキ乗りに濃度ムラが有る。
【0063】
実施例及び比較例の評価結果を感光性樹脂組成物の組成とともに以下の表1〜3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0064】
表1〜3の評価結果からわかるように、熱酸発生剤を感光性樹脂組成物中に0.1〜20質量%の範囲で含有するレーザー彫刻用印刷原版は、樹脂除去性に優れるため、網点表面の削れ深度が浅く、2000部の長期印刷性に優れていることが分かる。一方、熱酸発生剤を全く含有しない比較例では、網点表面の削れ深度が高くなり、長期印刷性を満足できない。また、熱酸発生剤を20質量%を超えて含有させた比較例では、同様に長期印刷性を満足できない。