(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材と、この基材の厚さ方向に表面から途中まで形成される微多孔性バインダー樹脂層とを有し、ケイ酸バリウムがバインダー樹脂を介して基材に固定化されていることを特徴とするストロンチウム吸着シート。
ケイ酸バリウムとバインダー樹脂とを含む発泡状態の塗料を基材の少なくとも片面に塗布し、前記基材の厚さ方向に該塗料の一部が浸透した状態で前記塗料の一部を破泡固化させて得られ、
前記塗料を塗布する際、該塗料を発泡倍率1.5倍以上20倍以下に起泡する請求項1〜4のいずれか1項に記載のストロンチウム吸着シート。
前記バインダー樹脂は、ストロンチウム吸着シートに固着するバインダー樹脂100質量%中、90質量%以上が基材内部で固着している請求項1〜5のいずれか1項に記載のストロンチウム吸着シート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ストロンチウム吸着シート>
本発明に係るストロンチウム吸着シートは、基材と、この基材の厚さ方向に表面から途中まで形成される微多孔性バインダー樹脂層とを有し、ケイ酸バリウムが前記バインダー樹脂層においてバインダー樹脂を介して基材に固定化されたシートである点に特徴を有する。本発明に係るストロンチウム吸着シートは、例えば、ケイ酸バリウムとバインダー樹脂とを含む発泡性の塗料を基材の少なくとも片面に塗布し、前記基材の厚さ方向に該塗料の一部が浸透した状態で前記塗料を固化させることにより製造することが可能である。ケイ酸バリウムとバインダーとを含む発泡性の塗料を基材に塗布することにより、塗料中の気泡が塗料の浸透を阻害するため、塗料の基材に対する浸透度合を調整することができる。すなわち、塗料を発泡性にしておけば、塗料が基材の厚さ方向全体に亘って浸透せず、塗料の一部は表面に留まり、残りは少しずつ基材に浸透していくため、基材の内部に塗料が付着しない部分(より好ましくは層)が形成される。この基材中の塗料が付着していない部分では、(1)基材自体が本来有する透水性が発揮されるため、ストロンチウム吸着シートを海に沈めたときに大量の海水を処理することが可能となる。(2)また発泡性の塗料を用いているため、固化した塗料中には、発泡中の気泡に由来する細かな微多孔が形成される。
図1.1(倍率100倍)、
図1.2(倍率500倍)、
図1.3(倍率1000倍)にストロンチウム吸着シートの表面写真を示すが、この写真中の丸囲みの部分をみると、固化後のバインダー樹脂層に微多孔(細かな穴)が存在していることがわかる。この微多孔の存在により、ストロンチウム吸着シートの透水性が更に高まるため、大量の海水処理に寄与する。(3)更にこの微多孔の存在により、ケイ酸バリウムの表面が表に露出しやすくなり、海水との接触頻度が高まる。そのため、発泡性を有しない塗料を塗布する場合に比べ、ストロンチウムの回収効率を高めることも可能である。(4)加えて、ケイ酸バリウムをバインダー樹脂で固定しているため、ケイ酸バリウムが海に脱落するリスクも抑えることができる。
このように、発泡性の塗料を基材表面に塗布すれば、一つの操作で多くの問題を一挙に解決できるのである。以下、本発明について詳述する。
【0013】
<基材>
ストロンチウム吸着シートの基材について説明する。基材は、ストロンチウム吸着シートを海に沈めた際に透水性に優れることから、繊維を含む不織布から構成されることが望ましい。前記不織布は、長繊維不織布、短繊維不織布のいずれであってもよい。不織布のウェブ形成には、乾式法(カーディング法)、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等を適宜採用するとよい。ウェブの結合方法も特に限定されるものではなく、例えば、ニードルパンチ法、スパンレース法(水流絡合法)等の機械的絡合法;不織布層に予め低融点繊維を混繊しておき、この低融点繊維の一部又は全部を熱溶融させて、繊維交点を固着する方法(サーマルボンド法);等の各種結合方法を採用できる。本発明では、基材を嵩高く、風合いをソフトに仕上げることができることから、ニードルパンチ法、水流絡合法等の機械的絡合法が好ましく、特にニードルパンチ不織布が好ましく採用できる。
【0014】
前記基材に使用される繊維としては、化学繊維が好ましい。具体的には、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート等のポリエステル繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル−塩化ビニル共重合体繊維等のアクリル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維等のポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維等のポリエーテル系繊維;等が好ましい。これらの繊維は、単独で使用しても、混繊して使用してもよい。
中でも、再生繊維や合成繊維が好ましく、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維等のポリエステル繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;等の合成繊維である。特にポリエステル繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート繊維が最適である。ポリエステル繊維は、基材100質量%中、70質量%以上(より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上)含まれている事が望ましい。
【0015】
基材に使用される繊維は、中実繊維であっても中空繊維であってもよく、捲縮を有していても有していなくてもよい。また前記繊維は芯鞘型、偏心型等の複合繊維であってもよい。これらの繊維は単独で使用してもよく、また複数を混綿して使用してもよい。
【0016】
前記基材を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、0.4μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、35μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下であり、特に好ましくは20μm以下である。平均繊維径が下限値を下回ると、繊維が細かすぎて繊維間が密になり、透水性が悪化する虞がある。また上限値を上回ると、繊維間が粗になり、ケイ酸バリウムを均一に固着できない可能性があるため好ましくない。
なお平均繊維径は、例えば、目視や、繊維を構成する素材の繊度及び密度などに基づき計算により求めることができる。
【0017】
塗料の浸透性を決める因子として、基材の見掛け密度が挙げられる。基材の見掛け密度は、例えば、0.01g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは0.05g/cm
3以上であり、更に好ましくは0.07g/cm
3以上であり、0.3g/cm
3以下が好ましく、0.25g/cm
3以下がより好ましく、0.2g/cm
3以下が更に好ましい。基材の見掛け密度が下限値を下回ると、繊維間隙が多くなり、塗料が基材に過剰に浸透し易くなり、塗料の浸透量を調整することが難しくなるため好ましくない。また、基材の見掛け密度が上限値を上回ると、繊維間が密になり、塗料が基材の内部へ浸透し難くなるため好ましくない。なお、基材の見掛け密度の測定方法は、基材の目付を厚さで除すことで求めることができる。
【0018】
また、見掛け密度を上記範囲内に調整するためには、基材の目付と厚さのバランスが重要となる。前記基材の目付は、例えば、10g/m
2以上が好ましく、50g/m
2以上がより好ましく、150g/m
2以上が更に好ましく、1000g/m
2以下が好ましく、500g/m
2以下がより好ましく、350g/m
2以下が更に好ましい。目付を前記範囲内に調整することにより、所望量のケイ酸バリウムを固着することが可能になる。一方、基材が薄いと支持体としての強度が劣るが、そのような場合には、後述するように、ストロンチウム吸着シートを巻き上げたり、複数枚を積層した吸着ユニットとして使用するとよい。
【0019】
前記基材の厚さは、例えば、10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましい。基材の厚さを前記範囲内に調整することで、所望量のケイ酸バリウムを固着することが可能になる。また基材が薄くなると、塗料が基材の内部にまで浸透しやすくなるものの、基材を海に沈める際に丸めやすくなるといった利点もある。
【0020】
<塗料>
次に基材に塗布する塗料について説明する。塗料とは、ケイ酸バリウムとバインダー樹脂とを含むものであり、機械的発泡等により発泡した状態、または発泡剤を含む状態で基材に塗布する。発泡剤を含む塗料は、乾燥機中で発泡することにより、塗料の基材への浸透度を調整することが可能となる。固形のケイ酸バリウムは、分散媒にほぼ均一に分散されていることが好ましい。
【0021】
本発明において、ストロンチウム吸着シートに固着するバインダー樹脂(固形分)とケイ酸バリウムの質量比(バインダー樹脂(固形分)/ケイ酸バリウム)は、0.4以上であり、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.6以上であり、更に好ましくは0.7以上であり、特に好ましくは0.8以上であり、上限は特に限定されないが、5以下であり、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、特に好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.2以下である。ケイ酸バリウムの配合比率が高過ぎると、バインダー樹脂で十分に固定できず、ケイ酸バリウムが基材から剥がれ落ちる虞がある。一方、ケイ酸バリウムの配合比率が低すぎると、ケイ酸バリウムの表面がバインダー樹脂に被覆され外部に露出し難くなるため、ストロンチウムの吸着性能が低下する虞もある。
【0022】
ケイ酸バリウムとしては、海水中のストロンチウムに対して吸着性能を発揮できるものであれば特に限定されない。市販品のケイ酸バリウムとしては、例えば、日本化学工業株式会社製「ピュアセラム(登録商標)MA」を使用することができる。
【0023】
本発明では、固着させるケイ酸バリウムの平均粒子径(個数基準)を、前述した基材中の繊維の径との関係を考慮して、一定の範囲内に調整することが望ましい。ケイ酸バリウムの平均粒子径と、基材中の繊維の平均繊維径との比(平均粒子径:平均繊維径)は、例えば、1:3〜1:20が好ましく、より好ましくは1:4〜1:16であり、更に好ましくは1:5〜1:14である。ケイ酸バリウムの平均粒子径を前記範囲内に調整することにより、繊維表面にケイ酸バリウムが重なり合うことなく、ケイ酸バリウムの表面が露出し易くなるため、吸着性能の向上に寄与する。
【0024】
ケイ酸バリウムの平均粒子径は、個数基準で、例えば、0.2μm以上が好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは1μm以上であり、上限は特に限定されないが、例えば、30μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下であり、更に好ましくは10μm以下であり、特に好ましくは6μm以下である。ケイ酸バリウムの平均粒子径が大きくなると、ケイ酸バリウムが塗料中で沈んでしまい、保管安定性が悪くなる虞がある。またケイ酸バリウムの平均粒子径が下限値を下回ると、バインダーでケイ酸バリウムの表面が被覆されやすくなり、ケイ酸バリウム粒子がバインダー被膜に埋没して海水と接触しにくくなるため、ストロンチウムの吸着量が低下する虞がある。
なおケイ酸バリウムが有する特徴として、ストロンチウム吸着性能が高い一方で、反応速度が小さい点が挙げられる。反応速度が小さいと、成形品を充填塔に充填して通水する方式に適用することが困難である。また反応速度を上げるためにケイ酸バリウムを粉にしてタンクに投入し、バッチ処理する方法が考えられるが、凝集材が必要であったり、吸着後に廃棄物スラッジが大量に発生したりと、多くの課題が存在している。更に回収できるサイズのケイ酸バリウムを用いると、比表面積が減少するためストロンチウム吸着性能が低下してしまう。しかし本発明のように、ケイ酸バリウムを、発泡塗料を用いて基材に固着させると、平均粒子径が小さなケイ酸バリウムであっても基材に強固に固定することが可能となるため、使用後の回収が容易となる。また固化した塗料中には、発泡中の気泡に由来する細かな微多孔が形成されており、微多孔の存在によりケイ酸バリウムの表面の大半がバインダーで覆われることを抑制できるため、ケイ酸バリウム自体が有する吸着性能の低下を抑制することもできる。
本発明において、ケイ酸バリウムの平均粒子径は、例えば、島津製作所製「SALD−7000」により測定することが可能である。
【0025】
前記塗料は、安価であり、且つ、環境に対する負荷が少ないことから、水を分散媒とするエマルジョン系が好ましい。
【0026】
また、バインダー樹脂としては、通常、不織布の接着用途で用いる樹脂を適宜使用するとよいが、例えば、酢酸ビニル単量体を構成単位に含む酢酸ビニル系バインダー、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの共重合体であるアクリル系バインダー、合成ゴム系(例えば、ブタジエン−スチレン系、ブタジエン−アクリロニトリル系、クロロプレン系)バインダーが好ましい。中でも、接着強度が高いという利点を有するため、アクリル系バインダーが好ましい。
【0027】
前記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2,2−ジメチルプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−tert−ブチルフェニル、アクリル酸2−ナフチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2,2−ジメチルプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸−2−tert−ブチルフェニル、メタクリル酸2−ナフチル、メタクリル酸フェニル等のラジカル重合性単量体が例示できる。
【0028】
前記アクリル系バインダーのガラス転移温度は、−10〜50℃が好ましく、より好ましくは0〜40℃である。
【0029】
ケイ酸バリウムの含有量は、塗料100質量%中、0.1〜90質量%が好ましく、0.5〜50質量%がより好ましく、1〜40質量%が更に好ましい。
【0030】
塗料には、本発明の効果を阻害しない程度で、起泡剤、消泡剤、水、分散剤、増粘剤、着色料、防腐剤等の添加物が含まれていてもよい。
【0031】
<製造方法>
本発明に係るストロンチウム吸着シートの製造方法は、
発泡性塗料を、基材の少なくとも片面に塗布する工程;
発泡性塗料塗布後の基材を、乾燥する工程;
を含む。ストロンチウム吸着シートは前述したように、基材の厚さ方向に発泡性塗料の一部が浸透した状態で、該塗料を固化させて得られる。すなわち、発泡性の塗料を用いると、塗料中の気泡が、塗料が基材の内部奥深くにまで浸透することを遮り、塗料の一部のみが基材に浸透し、残りは基材の表面に気泡を形成した状態で固化する。
【0032】
本発明のストロンチウム吸着シートを製造する方法は、基材の少なくとも片面に、発泡性の塗料を塗布するものであれば特に限定されるものではなく、機械発泡等により塗料が発泡した状態、または発泡剤を含む状態で塗布するとよい。例えば、発泡状態の塗料を塗布する際、該塗料を未発泡のものに比べ、1.5倍以上に起泡してから基材に塗布するとよい。発泡倍率は、より好ましくは2倍以上であり、更に好ましくは3倍以上であり、特に好ましくは5倍以上であり、20倍以下が好ましく、より好ましく15倍以下であり、更に好ましく10倍以下であり、特に好ましくは9倍以下である。発泡倍率を前記範囲内に調整することにより、塗料の浸透の程度をコントロールし易くなる。
【0033】
塗料を発泡させる方法としては、例えば、物理的に塗料を発泡させる機械発泡や化学発泡等が知られているが、発泡倍率の調整が容易なことや、発泡のタイミングを制御できることから、少なくとも機械発泡を行うことが好ましい。また発泡の条件を考慮して、機械発泡と化学発泡の両発泡法にて塗料を発泡させても構わない。
【0034】
発泡性塗料を基材に塗布する方法は特に限定されるものではなく、グラビア法、ロータリープリント法等一般的な塗布法を用いるとよい。塗料を塗布するときは、リバースコーター、キスロールコーター、ナイフコーター等の各種設備を用いるとよく、本発明では特にナイフコーターが好ましい。発泡性塗料を基材に塗布するときは、塗料中の気泡をできるだけ壊さないようにする点に注意が必要である。
【0035】
発泡性塗料は、基材の片面または両面に塗布される。
図2.1には、ストロンチウム吸着シートの片面に塗料を塗布した場合の概略断面図を示す。この図において、ストロンチウム吸着シート1には、基材3の片面において、この厚さ方向に表面から途中までに微多孔性バインダー樹脂層が形成され、ケイ酸バリウム5がバインダー樹脂2を介して基材3に固定化され、且つ、微多孔性バインダー樹脂層には微多孔4が存在していることが分かる。このように基材の片面のみに塗料を塗布すると、塗料が固着していない面から海水が通液しやすく、分配係数Kdが高くなるため好ましい。また、
図2.2には、ストロンチウム吸着シートの両面に塗料を塗布した場合の概略断面図を示す。
図2.2のように基材の両面に塗料を塗布すると、ストロンチウムの吸着量が増大するため好ましい。
【0036】
発泡性塗料の塗布量(WET付量)は、固着させたいケイ酸バリウムの量に応じて適宜調整すると良いが、例えば、50g/m
2以上が好ましく、より好ましくは100g/m
2以上であり、600g/m
2以下が好ましく、より好ましくは550g/m
2以下である。
【0037】
乾燥工程での温度は、例えば、100℃以上170℃以下が好ましく、より好ましくは110℃以上160℃以下である。乾燥温度が低すぎると、塗料中の水分が蒸発しにくくなる。またアクリル系バインダーを使用する場合には、硬化のために、高温での実施が好ましい。
【0038】
発泡性塗料塗布後の基材の乾燥時間は、特に限定されるものではないが、例えば0.5〜5分が好ましく、より好ましくは1〜3分である。乾燥時間を前記範囲内に調整することにより、発泡性塗料の泡を適度に破泡させ、発泡性塗料塗布後の基材を十分に乾燥することが可能となる。
【0039】
本発明のように発泡性塗料を用いる製法によれば、基材の厚さ方向において、塗料が浸透する深さを調整できるため、ストロンチウム吸着シートの内部に、塗料が浸透していない層が存在する。この塗料が浸透していない層の存在によりストロンチウム吸着シートの透水性が高まるため、ストロンチウム吸着シートを海に沈めた際に、大量の海水を処理することが可能になる。またストロンチウム吸着シートの表面には、塗料中の気泡が一部、固化後も、気泡が破泡した連通状の状態で残っていてもよい。
【0040】
ストロンチウム吸着シートにおいて、バインダー樹脂は、ストロンチウム吸着シートに固着するバインダー樹脂100質量%中、90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上が基材内部で固着していることが望ましい。上限は特に限定されないが、100質量%以下が好ましい。バインダー樹脂が基材の内部で固定化されれば、外部からの摩擦に対し、優れた耐摩耗性が発揮され、脱落の少ないストロンチウム吸着シートが得られる。
【0041】
前述したように、本発明のストロンチウム吸着シートは、基材内部にバインダー樹脂が固着していない部分が存在していることが特徴的であるが、バインダー樹脂が固着していない部分は、例えば、基材全体の30%以上であることが好ましく、より好ましくは45%以上であり、更に好ましくは60%以上であり、上限は特に限定されないが、95%以下が好ましく、90%以下であっても問題ない。なおバインダー樹脂が固着していない部分の比率は、例えば、基材の厚さと、基材の厚さ方向におけるバインダー樹脂が固着していない部分の厚さの比率から求めることが可能である。
【0042】
ストロンチウム吸着シートに固着するケイ酸バリウムの合計量は、乾燥付着量で10g/m
2以上が好ましく、より好ましくは15g/m
2以上であり、更に好ましくは20g/m
2以上であり、特に好ましくは35g/m
2以上である。上限は特に限定されないが、400g/m
2以下が好ましく、より好ましくは200g/m
2以下であり、更に好ましくは120g/m
2以下であり、80g/m
2以下であってもよい。ケイ酸バリウムの量が前記範囲内であれば、所望の除染性能を発揮し得るストロンチウム吸着シートを効率よく製造することが可能になる。
【0043】
このようにして製造されたストロンチウム吸着シートの目付は、ストロンチウム吸着シートの用途及び使用環境を考慮して適宜調整するとよいが、例えば、100g/m
2以上が好ましく、200g/m
2以上がより好ましく、300g/m
2以上が更に好ましく、1000g/m
2以下が好ましく、より好ましくは750g/m
2以下であり、更に好ましくは650g/m
2以下である。
【0044】
ストロンチウム吸着シートの厚さは、例えば、10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましい。基材の厚さを前記範囲内に調整することで、所望量のケイ酸バリウムを固着することが可能になる。
【0045】
<性能>
本発明に係るストロンチウム吸着シートは、ストロンチウム吸着性能に優れているため、分配係数(Kd)も高い値を示す。
例えば、1日浸漬後の分配係数(Kd)は160ml/g以上、好ましくは200ml/g以上、より好ましくは220ml/g以上を達成できる。
また15日浸漬後の分配係数(Kd)は3000ml/g以上、好ましくは5000ml/g以上、より好ましくは7000ml/g以上、更に好ましくは9000ml/g以上を達成できる。
更に35日浸漬後の分配係数(Kd)は10000ml/g以上、好ましくは11000ml/g以上、より好ましくは12000ml/g以上、更に好ましくは15000ml/g以上を達成できる。
分配係数(Kd)の上限は特に限定されるものではないが、通常、1日浸漬後で2000ml/g以下、15日浸漬後で15000ml/g以下、35日浸漬後で25000ml/g以下である。
【0046】
なお本発明において分配係数(Kd)とは、日本原子力学会バックエンド部会の有志会員による「福島第一原子力発電所内汚染水処理技術のための基礎データ収集」に定義される、「ある物質が接触する2つの相にどのような比で存在するかを示す係数」であり、例えば、実施例に示す浸漬試験により求めることができる。分配係数(Kd)は、その値が大きいほど、少ない吸着剤量で多くのストロンチウムを吸着できることを意味する。
なお本発明においてKd値は、試験溶液量L/ケイ酸バリウムの質量S:1000/1、ストロンチウムの初期濃度:7.0ppm、ケイ酸バリウムの塗布量:45g/m
2の条件下で測定されるものとする。
【0047】
本発明に係るストロンチウム吸着シートの、ケイ酸バリウムの質量当たりのストロンチウム吸着量は、例えば35日浸漬後で、好ましくは1mg/g以上であり、より好ましくは2mg/g以上であり、更に好ましくは3mg/g以上であり、より更に好ましくは4mg/g以上であり、上限は特に限定されないものの、通常10mg/g以下であり、9mg/g以下であっても問題ない。
また本発明に係るストロンチウム吸着シート単位面積当たりのストロンチウム吸着量は、例えば35日浸漬後で、好ましくは200mg/m
2以上であり、より好ましくは220mg/m
2以上であり、更に好ましくは240mg/m
2以上であり、より更に好ましくは260mg/m
2以上であり、上限は特に限定されないものの、通常700mg/m
2以下であり、500mg/m
2以下であっても問題ない。
【0048】
ストロンチウム吸着シートは、前述したように固化後のバインダー樹脂中に、小さな微多孔が存在している。そのため透水性に優れており、大量の海水を効率よく処理することができる。例えば、ストロンチウム吸着シートの透水係数は、0.01cm/sec以上が好ましく、基材の厚さや目付にもよるが、例えば、0.3cm/sec以下であり、0.2cm/sec以下であってもよい。
なお透水係数は、例えば、JIS A1218−1998に準じて測定することが可能である。
【0049】
<用途>
本発明に係るストロンチウム吸着シートは、海水中の放射性ストロンチウムの除染作業等、水中のストロンチウムの回収に好ましく用いることができる。ストロンチウム吸着シートの大きさ、海水の処理量等にもよるが、例えば、本発明に係るストロンチウム吸着シートを海に沈め、1週間〜6ヶ月程浸漬しておき、その後ストロンチウム吸着シートを海から引き上げるとよい。
【0050】
本発明に係るストロンチウム吸着シートは、例えば、ストロンチウムの回収量を上げるため、ケイ酸バリウムが存在している層が、2以上の層を形成した状態で海に投入されることが望ましい。このような投入形態としては、例えば、ストロンチウム吸着シートの一端が内側になるように丸めた巻回型のストロンチウム吸着材(投入形態1)や、2枚以上のストロンチウム吸着シートを厚さ方向に積み重ねた積層型のストロンチウム吸着材(投入形態2)等が挙げられる。
【0051】
巻回型のストロンチウム吸着材14の場合は、例えば、
図3.1に示すように、巻き上げた1〜50本程度のストロンチウム吸着材11の一端にウェイトチェーン13を取り付け、また他端に浮き(フロート)12を取り付けて並列に繋いだものを、一つの吸着材ユニット15として海に沈めるとよい。除染作業の効率を考慮すれば、ストロンチウム吸着材11の長さは、例えば、1〜3m程度、吸着材ユニット15の長さは15〜30m程度が好ましい。またストロンチウム吸着シートが損傷することを防ぐため、巻き上げたストロンチウム吸着材11をできるだけ密接に配置したり、巻回型のストロンチウム吸着材14をネットで保護しておくとよい。また海の深い所での吸着性能を上げるため、複数のストロンチウム吸着材11を直列に繋ぐことも可能である。
【0052】
また積層型のストロンチウム吸着材21は、例えば、
図3.2に示すように、ストロンチウム吸着シート1を2枚以上積層したものを金属枠22等に収容して一つの吸着材ユニットにするとよい。
【0053】
これらの吸着材ユニットは、建屋から護岸に向かって設置するとよい。またストロンチウム吸着シートを巻回型、積層型のストロンチウム吸着材にすることで、ストロンチウムの回収量の向上だけでなく、敷設・引き上げ等の作業を実施しやすくなるといった利点もある。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0055】
本実施例で用いた測定装置は以下の通りである。
ストロンチウム濃度の測定:アジレント・テクノロジー社製「ICP−MS」
平均粒子径の測定:島津製作所製「SALD−7000」
【0056】
<製造例1〜4>
ストロンチウム吸着剤としてケイ酸バリウム(日本化学工業株式会社製「ピュアセラム(登録商標)MA」)を用いた。塗料に添加する前に、ケイ酸バリウムを微粒子化するためのビーズミルによる微粉砕工程を実施した。微粉砕工程では、ケイ酸バリウム、水を分散媒とするアクリル系バインダー(日本合成化学工業社製「モビニール(登録商標)710A」、不揮発分41%、粘度200〜700mpas)、消泡剤、増粘剤を含む分散液、及びセラミックビーズ(ビーズ径:0.4mm)を60分間接触させた。これにより、平均粒子径1.8μm(個数基準;モード径:2.0μm、d95:4.6μm、d50:1.8μm、d10:0.8μm)のケイ酸バリウム分散液を作製した(固形分:30%)。該ケイ酸バリウム分散液におけるケイ酸バリウムに対するバインダー樹脂の質量比(B/MA)は、製造例1〜2では1.14、製造例3〜4では1.0である。
これを塗料とし、この塗料を機械発泡にて発泡倍率2.5〜5.0倍にまで発泡させて発泡性塗料とした。得られた発泡性塗料を、ポリエステル製スパンボンド不織布(東洋紡社製「ODS300」、スパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径3dtex(16μm)、目付300g/m
2、厚さ3.0mm)に、ナイフコーターにて該スパンボンド不織布の片面に、ケイ酸バリウム塗布量(基材に固着するケイ酸バリウムの乾燥付着量)が45g/m
2となるようにして塗布し、その後130℃で乾燥させた。このストロンチウム吸着シートをケイ酸バリウムが乾燥重量で1gになる試料サイズを1つのサンプル品とした。このサンプル品を用いて浸漬試験を行った。
【0057】
〔浸漬試験〕
浸漬試験では、ストロンチウムを含む人工海水1,000mlを容器に入れ、そこへ、製造例1〜4で得たサンプル品を加え(すなわち、試験溶液量L/ケイ酸バリウムの質量S=1000/1)、静置状態で、24時間、7日間、15日間、35日間浸漬した。24時間、7日間、15日間、35日間経過後の海水中のストロンチウム濃度(平衡濃度)を計測し、サンプル品を浸漬する前の海水中のストロンチウムの濃度(初期濃度)と測定した平衡濃度を用いて、ストロンチウムの吸着量、及びKdを求めた。各値の算出方法は以下の通りである。結果を表1〜2及び
図4.1に示す。なお、ストロンチウム濃度測定には、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)型式:Agilent 7700x(アジレント・テクノロジー社製)を用いて、ストロンチウム88の定量分析を行った。
【0058】
吸着量(mg/g)
=〔(Cα)−(C)〕×V/(M×1000) …(i)
【0059】
吸着量(mg/m
2)
=(吸着量(mg/g))×(ケイ酸バリウム塗布量(g/m
2)) …(ii)
【0060】
Kd(ml/g)
=〔(Cα)−(C)〕/(C)×V/M …(iii)
なお本発明においてKd値は、試験溶液量L/ケイ酸バリウムの質量S:1000/1、ストロンチウムの初期濃度:7.0ppm、ケイ酸バリウムの塗布量:45g/m
2の条件下で測定されるものとする。
【0061】
なお上記式(i)〜(iii)において、
Cαは、浸漬試験前における海水中のストロンチウム濃度(ppm)、
Cは、浸漬試験後における海水中のストロンチウム濃度(ppm)、
Vは、試験に用いた海水の量(ml)、
Mは、ケイ酸バリウム塗布量(g)、
を意味する。
【0062】
また浸漬試験で使用する人工海水は、ストロンチウムを所定濃度になるよう人工海水(大阪薬研株式会社製「マリンアート(登録商標)SF−1」を精製水に溶いたもの)を用いた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
製造例1〜4が示すように、ケイ酸バリウムが付着するストロンチウム吸着シートによれば、効率よく海水中のストロンチウムを回収することができることがわかる。
【0066】
〔繰り返し使用試験〕
繰り返し使用試験では、ストロンチウムを含む人工海水1,000mlを容器に入れ、そこへ、製造例3及び4で得たサンプル品を加え(すなわち、試験溶液量L/ケイ酸バリウムの質量S=1000/1)、静置状態で、前記サンプル品を14日間海水中に浸漬させた。14日間経過後の海水中のストロンチウム濃度を計測した後、14日間浸漬後のサンプル品を、ストロンチウムを含む海水1000mlの容器に浸漬させた。更に7日間浸漬させ(試験開始から21日間経過)、試験開始から21日間経過後の海水中のストロンチウム濃度を計測した後、該サンプル品を、ストロンチウムを含む人工海水1000mlの容器に浸漬させた。更に7日間浸漬させ(試験開始から28日間経過)、試験開始から28日間経過後の海水中のストロンチウム濃度を計測した。結果を表3及び
図4.2に示す。表3及び
図4.2から明らかなように、本発明に係るストロンチウム吸着シートは繰り返し使用が可能である。
【0067】
【表3】
【0068】
〔粉体形状の差によるストロンチウム吸着性能対比試験〕
比較例として、「ピュアセラム(登録商標)MA」を平均粒子径2〜3cmに粉砕した塊状物、300〜600μmに粉砕した粒状物、参考例として12μmの粉末、平均粒子径1.4μmのビーズミル分散液、及び製造例1〜2で製造したストロンチウム吸着シート(MA固形分が1gに相当する面積の試料)の浸漬試験を行った。浸漬試験では、ストロンチウムを含む人工海水1,000mlを容器に入れ、そこへ、上記サンプル品を加え(すなわち、試験溶液量L/ケイ酸バリウムの質量S=1000/1、塊状は1000/1と500/1の2条件)、サンプル品を浸漬する前の人工海水中のストロンチウムの濃度(初期濃度)と静置状態で、1日後、7日後、14日後のストロンチウム濃度に測定した。結果を表4及び
図4.3に示す。この結果が示すように、本発明に係るストロンチウム吸着シートであれば、7日浸漬後のストロンチウム濃度は、粉末のケイ酸バリウムと同等またはそれに近いレベルの性能を発揮することができる。これは驚くべき結果である。
【0069】
【表4】