【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0061】
下記の実施例では、(a)ポリロタキサンとして、市販のポリロタキサン、セルム(登録商標)スーパーポリマーAU2000、セルムスーパーポリマーA1000(いずれもアドバンスト・ソフトマテリアルズ社製)及び新たに合成したポリロタキサンを使用しているが、その合成法を、下記に参考例として詳述する。
【0062】
[参考例1]
ポリロタキサンc7の合成
i)カルボン酸化ポリエチレングリコールc1の調製
ポリエチレングリコール100g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)100mg、臭化ナトリウム2.5gを、水250mlに溶解した。得られた溶液に、市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度約5%)25mlを添加し、室温で攪拌しながら反応させた。反応が進行すると、添加直後から系のpHは6以下に急激に減少するが、できる限りpH:10〜11を保つように1N NaOHを添加して調整した。メタノール25mlを添加することにより反応を終了させた。ジクロロメタンでの抽出を繰り返して行い、無機塩以外の成分を抽出した後、エバポレーターでジクロロメタンを留去した。残存物を再沈殿法により精製した後、真空乾燥機で乾燥させて、カルボン酸化ポリエチレングリコールc1を得た。
ii)擬ポリロタキサンc3の調製
上記工程において調製したカルボン酸化ポリエチレングリコール19g及びα―シクロデキストリン67gを、それぞれ別々に用意した70℃の温水300mlに溶解させた後、両溶液を混合し、その後、冷蔵庫(4℃)内で一晩静置した。最後に、クリーム状で析出した擬ポリロタキサンc3を凍結乾燥して回収した。
iii)トリチルアミンを用いた未修飾ポリロタキサンc4の調製
室温において、ジメチルホルムアミド(DMF)200mlに、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウム)・ヘキサフルオロホスフェート)0.6g、トリチルアミン3.8g、ジイソプロピルエチルアミン0.25mlを、この順番で溶解させ、得られた溶液に、上記工程で得られた擬ポリロタキサンc3を添加した後、速やかに、よく振り混ぜた。スラリー状になった反応混合物を冷蔵庫内で一晩静置した。その後、溶媒洗浄及び再沈殿法により精製し、最終的に未修飾ポリロタキサンc4を得た。なお、NMR測定から、環状分子の量は最大包摂量の0.30であることがわかった。また、未修飾ポリロタキサンc4は、カルボン酸化ポリエチレングリコールc1の三倍程度の分子量(GPC測定)であることから、擬ポリロタキサンの両末端が封鎖された化合物であることを確認した。
iv)ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンc5の調製
上記工程で得られた未修飾ポリロタキサンc4 3.0gを、1N NaOH水溶液40mlに溶解し、大過剰量のプロピレンオキシド25gを加えた。室温において24時間攪拌した後、塩酸で中和した。この溶液を、透明チューブ(分画分子量:12,000)にて48時間、水道水流水下で透析した。さらに、精製水500ml中で、3時間の透析を2回行った。凍結乾燥を行い、ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンc5を得た。
v)ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサンc6の調製
温度80℃下で、上記工程で得たヒドロキシプロピル化ポリロタキサンc5gを、ε―カプロラクトン22.5gに溶解させ、混合溶液とした。乾燥窒素流下で、この混合溶液を、110℃において1時間攪拌した後、2−エチルヘキサン錫(II)の50wt%キシレン溶液0.16gを加え、130℃において6時間攪拌した。その後、キシレンを添加し、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンc6のキシレン溶液を得た。なお、GC測定により、原料がほぼ完全に消失していることを確認した。
vi)ポリロタキサンc7の調製
室温まで冷却したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンc6のキシレン溶液に、ジブチルヒドロキシトルエン0.01gを添加した後、2−アクリルオキシエチルイソシアネート7.1gを滴下した。40℃において16時間攪拌し、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンに、アクリルオキシエチルカルバモイル基を導入したアクリル化ポリロタキサン(ポリロタキサンc7)のキシレン溶液を得た。なお、GC測定により原料がほぼ完全に消失していることを確認した。また、IR測定により、ウレタン結合に特徴的な1740cm
-1のピークが見られたことから、ポリロタキサンc7はアクリル基を含有した化合物であることを確認した。
得られたポリロタキサンc7は、軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子としてα−シクロデキストリン、及び封鎖基としてトリチル基を含有するものであり、環状分子が、重合性基として、アクリルオキシエチルカルバモイル基を含有するポリロタキサンである。
【0063】
[参考例2]
ポリロタキサンd7の合成
フルオレセインアミンを用いた未修飾ポリロタキサンd4の調製
室温において、ジメチルホルムアミド(DMF)200mlに、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウム)・ヘキサフルオロホスフェート)0.6g、フルオレセインアミン5.1g、ジイソプロピルエチルアミン0.25mlを、この順番に溶解させ、得られた溶液に、上記参考例1の工程ii)で得られた擬ポリロタキサンc3を添加した後、速やかによく振り混ぜた。スラリー状になった反応混合物を冷蔵庫内で一晩静置した。その後、溶媒洗浄及び再沈殿法により精製し、最終的に未修飾ポリロタキサンd4を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、未修飾ポリロタキサンd4が、擬ポリロタキサンの両末端が封鎖された化合物であることを確認した。
ポリロタキサンd7の調製
上記工程で得られた未修飾ポリロタキサンd4について、参考例1と同様の方法により、ヒドロキシプロピル化、ポリカプロラクトン修飾、アクリル基導入の各処理を行い、ポリロタキサンd7を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、ポリロタキサンd7が所望の化合物であることを確認した。
得られたポリロタキサンd7は、軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子としてα−シクロデキストリン、及び封鎖基としてフルオレセイン基を含有するものであり、環状分子は重合性基として、アクリルオキシエチルカルバモイル基を含有するポリロタキサンである。
【0064】
[参考例3]
ポリロタキサンe7の合成
ピレンアミンを用いた未修飾ポリロタキサンe4の調製
室温において、ジメチルホルムアミド(DMF)200mlに、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウム)・ヘキサフルオロホスフェート)0.6g、ピレンアミン3.2g、ジイソプロピルエチルアミン0.25mlを、この順番に溶解させ、得られた溶液に、上記参考例1の工程ii)で得られた擬ポリロタキサンc3を添加した後、速やかによく振り混ぜた。スラリー状になった反応混合物を冷蔵庫内で一晩静置した。その後、溶媒洗浄及び再沈殿法により精製し、最終的に未修飾ポリロタキサンd4を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、未修飾ポリロタキサンe4が、擬ポリロタキサンの両末端が封鎖された化合物であることを確認した。
ポリロタキサンe7の調製
上記工程で得られた未修飾ポリロタキサンe4について、参考例1と同様の方法により、ヒドロキシプロピル化、ポリカプロラクトン修飾、アクリル基導入の各処理を行い、ポリロタキサンe7を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、ポリロタキサンe7が所望の化合物であることを確認した。
得られたポリロタキサンe7は、軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子としてα−シクロデキストリン、及び封鎖基としてピレン基を含有するものであり、環状分子は重合性基として、アクリルオキシエチルカルバモイル基を含有するポリロタキサンである。
【0065】
[参考例4]
ポリロタキサンf7の合成
ニトロフェニルエステル化エチレングリコールの調製
100mlナスフラスコに、参考例1における工程i)で得られたカルボン酸化ポリエチレングリコールc1 5.0gを取り、p−ニトロフェノール60mg及びジシクロヘキシルカルボジアミド90mgの脱水ジクロロメタン(25ml)溶液を添加し、アルゴン雰囲気下、室温において40時間攪拌した。その後、濾過により沈殿物を除去した後、再沈殿法により精製を行い、ニトロフェニルエステル化ポリエチレングリコールf2を得た。なお、IR測定により、p−ニトロフェニルエステルに特徴的な1774cm
-1のピークが見られること、カルボン酸に特徴的なピークが見られないことから、エチレングリコールの両末端が、ほぼ定量的に、ニトロフェニルエステル化されたことを確認した。
擬ポリロタキサンf3の調製
100mlナスフラスコに、α−シクロデキストリン3.3gを取り、イオン交換水20mlを加えて溶解させた。別の100mlナスフラスコに、上記の工程で得られたニトロフェニルエステル化ポリエチレングリコールf2 300mgを量り取り、イオン交換水5mlに溶解させた。この溶液を、前記α−シクロデキストリン水溶液に一気に加え、攪拌子を入れて1分間攪拌し、その後、室温において48時間静置した。これにより、白濁したゲルを得た。得られたゲルを乾燥し、擬ポリロタキサンf3を得た。
未修飾ポリロタキサンf4の調製
100mlナスフラスコに、アルゴン雰囲気下で、エチルジイソプロピルアミン0.15mlを入れ、さらに、脱水処理したアセトニトリル25mlを加え、エチルジイソプロピルアミンを溶解させた。この溶液を、上記の工程で得られた擬ポリロタキサンf3を収容するナスフラスコに一気に加え、室温(25℃)において5日間攪拌した。なお、擬ポリロタキサンはアセトニトリルに溶解しないため、反応は不均一系で行われた。反応後、不均一系反応液を遠心分離することによって、上澄み液を取り除き、ついで、DMSO25mlを加え、ほぼ透明な溶液を得た。この溶液の沈殿法による精製、乾燥の後、未修飾ポリロタキサンf4を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、未修飾ポリロタキサンf4が、擬ポリロタキサンの両末端が封鎖された化合物であることを確認した。
ポリロタキサンf7の調製
上記工程で得られた未修飾ポリロタキサンf4について、参考例1と同様の方法により、ヒドロキシプロピル化、ポリカプロラクトン修飾、アクリル基導入の各処理を行い、ポリロタキサンf7を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、ポリロタキサンf7が所望の化合物であることを確認した。
得られたポリロタキサンf7は、軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子としてα−シクロデキストリン、及び封鎖基としてα−シクロデキストリンを含有するものであり、環状分子は重合性基として、アクリルオキシエチルカルバモイル基を含有するポリロタキサンである。
【0066】
[参考例5]
ポリロタキサンg7の合成
ニトロフェニルエステル化ポリブタジエンg2の調製
100mlナスフラスコに、両末端カルボン酸化ポリブタジエン5.0gを取り、p−ニトロフェノール1.91g及びジシクロヘキシルカルボジアミド2.83gの脱水ジクロロメタン(25ml)溶液を添加し、アルゴン雰囲気下、室温において40時間攪拌した。その後、濾過により沈殿物を除去し、濾液を再沈殿法により精製し、ニトロフェニルエステル化ポリブタジエンg2を5.0g得た。なお、上記参考例4と同様の方法で、ポリブタジエンの両末端が、ほぼ定量的に、ニトロフェニルエステル化されていることを確認した。
擬ポリロタキサンg3の調製
500mlナスフラスコに、γ−シクロデキストリン40gを取り、イオン交換水230mlを加えて溶解させた。別の100mlフラスコに、上記工程で得られたニトロフェニルエステル化ポリブタジエンg2 1.93gを量り取り、THF23mlに溶解させた。超音波にて振動させながら、この溶液を前記γ−シクロデキストリン水溶液に加え、超音波振動させながら、さらに1時間撹拌し、続いて、撹拌子を入れて、さらに4日間、室温において撹拌して、白色懸濁液を得た。得られた懸濁液を乾燥後、擬ポリロタキサンg3を得た。
未修飾ポリロタキサンg4の調製
アルゴン雰囲気下で、300mlナスフラスコに、エチルジイソプロピルアミン1mlを入れ、さらに、脱水処理したアセトニトリル200mlを加えて、エチルジイソプロピルアミンを溶解させた。この溶液を、上記工程で得られた擬ロタキサg3を収容するナスフラスコに一気に加え、室温(25℃)において4日間撹拌した。なお、擬ポリロタキサンはアセトニトリルには溶解しないため、反応は不均一系で行われた。反応後、不均一系反応液を遠心分離することにより、上澄み液を取り除き、ついで、DMSO200mlを加え、ほぼ透明な溶液を得た。この溶液の再沈殿法による精製を行い、凍結乾燥後、未修飾ポリロタキサンg4を得た。なお、上記参考例1と同様の方法により、環状分子の量は、最大包摂量の0.20であること、未修飾ポリロタキサンg4が、擬ポリロタキサンの両末端が封鎖された化合物であることを確認した。
ポリロタキサンg7の調製
上記工程で得られた未修飾ポリロタキサンg4について、参考例1と同様の方法により、ヒドロキシプロピル化、ポリカプロラクトン修飾、アクリル基導入の各処理を行い、ポリロタキサンg7を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、ポリロタキサンg7が所望の化合物であることを確認した。
得られたポリロタキサンg7は、軸分子としてポリブタジエン、環状分子としてγ−シクロデキストリン、及び封鎖基としてγ−シクロデキストリン基を含有するものであり、環状分子は重合性基として、アクリルオキシエチルカルバモイル基を含有するポリロタキサンである。
【0067】
[参考例6]
ポリロタキサンh7の合成
ニトロフェニルエステル化ポリジメチルトリシロキサンh2の調製
100mlナスフラスコに、カルボン酸化ポリジメチルシロキサン3.14gを取り、p−ニトロフェノール400mg及びジシクロヘキシルカルボジアミド620mgの脱水ジクロロメタン(12ml)溶液を添加し、アルゴン雰囲気下で一晩攪拌した。得られた反応液を再沈殿法により精製した後、真空乾燥して、ニトロフェニルエステル化ポリジメチルシロキサンh2を得た。なお、上記参考例4と同様の方法で、ポリジメチルシロキサンの両末端が、ほぼ定量的に、ニトロフェニルエステル化されていることを確認した。
擬ポリロタキサンh3の調製
100mlナスフラスコに、γ−シクロデキストリン4.3gを取り、イオン交換水25mlを加えて溶解させた。別の100mlフラスコに、上記工程で得られたニトロフェニルエステル化ポリジメチルシロキサンh2 500mgを量り取り、THF2mlにて溶解させた。この溶液を、上記γ―シクロデキストリン水溶液に、攪拌しながら加え、そのまま、4日間、室温において攪拌し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を、液体窒素凍結させた後、2日間、凍結乾燥を行い、擬ポリロタキサンh3を得た。
未修飾ポリロタキサンh4の調製
50mlナスフラスコにおいて、アルゴン雰囲気下で、エチルジイソプロピルアミンをアセトニトリルに溶解させた。別の100mlナスフラスコに、上記工程で得られた擬ポリロタキサンh3 1.00gを量り取り、前記のエチルジイソプロピルアミン溶液を一気に加え、室温(25℃)において、4日間、撹拌した。なお、擬ポリロタキサンはアセトニトリルには溶解しないため、反応は不均一系で行われた。反応後、不均一系反応液を遠心分離することにより、上澄み液を取り除き、ついで、DMF(塩化リチウム8wt%を含有する)5mlを加え、ほぼ透明な溶液を得た。この溶液を、再沈殿法により精製し、凍結乾燥した後、未修飾ポリロタキサンh4を得た。なお、上記参考例1と同様の方法により、環状分子の量は最大包摂量の0.10であること、未修飾ポリロタキサンh4が、擬ポリロタキサンの両末端が封鎖された化合物であることを確認した。
ポリロタキサンh7の調製
上記工程で得られた未修飾ポリロタキサンh4について、参考例1と同様の方法により、ヒドロキシプロピル化、ポリカプロラクトン修飾、アクリル基導入の各処理を行い、ポリロタキサンh7を得た。なお、上記参考例1と同様の方法で、ポリロタキサンh7が所望の化合物であることを確認した。
得られたポリロタキサンh7は、軸分子としてポリジメチルシロキサン、環状分子としてγ−シクロデキストリン、及び封鎖基としてγ−シクロデキストリン基を含有するものであり、環状分子は重合性基として、アクリルオキシエチルカルバモイル基を含有するポリロタキサンである。
【0068】
[実施例1]
歯科用充填材の調製
重合性単量体(b)としてビスフェノールAグリシジルメタクリル酸/トリエチレングリコールジメタクリレート(60wt%/40wt%)混合物を使用し、該混合物100重量部に対して、光重合開始剤(c)としてカンファーキノン(0.3重量部)、重合促進剤としてp−ジメチル安息香酸エチルエステル(0.3重量部)、ポリロタキサン(a)として市販のセルムスーパーポリマーAU2000(軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子として重合性基を有するα−シクロデキストリン、及び封鎖基としてアダマンタン基を含有するポリロタキサン;アドバンスト・ソフトマテリアルズ社)(5.0重量部)の酢酸エチル溶液、ジブチルヒドロキシトルエン(0.1重量部)、ヒドロキノンメチルエーテル(0.02重量部)を混合した。各成分が完全に溶解するまで撹拌した後、揮発性有機溶媒をエバポレーターにより留去し、残存物にシリカジルコニアフィラー(235重量部)を混練することによって歯科用充填材を調製した。
なお、市販品のセルムスーパーポリマーAU2000は、表1に示すように、軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子として、重合性基を有するα−シクロデキストリン、封鎖基としてアダマンタン基を含有するポリロタキサンである。
【0069】
[実施例2〜7]、
ポリロタキサンの添加量を、表1に示す量に変更して、実施例1と同様の方法で歯科用充填材を調製した。
【0070】
[実施例8]
添加するポリロタキサン(a)を、セルムスーパーポリマーAU2000からセルムスーパーポリマーA1000(軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子として重合性基を有していないα−シクロデキストリン、及び封鎖基としてアダマンタン基を含有するポリロタキサン;アドバンスト・ソフトマテリアルズ社)に変更して、実施例1と同様に歯科用充填材を調製した。
【0071】
[実施例9]
ポリロタキサン(a)として、上述の参考例1において調製したポリロタキサンc7を使用して、実施例1と同様の方法で歯科用充填材を調製した。
【0072】
[実施例10]
ポリロタキサン(a)として、上述の参考例2において調製したポリロタキサンd7を使用して、実施例1と同様の方法で歯科用充填材を調製した。
【0073】
[実施例11]
ポリロタキサン(a)として、上述の参考例3において調製したポリロタキサンe7を使用して、実施例1と同様の方法で歯科用充填材を調製した。
【0074】
[実施例12]
ポリロタキサン(a)として、上述の参考例4において調製したポリロタキサンf7を使用して、実施例1と同様の方法で歯科用充填材を調製した。
【0075】
[実施例13]
ポリロタキサン(a)として、上述の参考例5において調製したポリロタキサンg7を使用して、実施例1と同様の方法で歯科用充填材を調製した。
【0076】
[実施例14]
ポリロタキサン(a)として、上述の参考例6において調製したポリロタキサンh7を使用して、実施例1と同様の方法で歯科用充填材を調製した。
【0077】
[比較例1]
実施例1と同様の方法に従って、ただし、ポリロタキサン(a)を添加しないで、歯科用充填材を調製した。
【0078】
[比較例2]
実施例1と同様の方法に従って、ただし、ポリロタキサンの代わりに、下記のようにして調製したジアダマンタン化ポリエチレングリコールi(ポリロタキサンの軸分子(ポリエチレングリコール)の両端に封鎖基(アダマンタン)を有するが、環状分子を含んでいない化合物に相当する。重合性基を含有しない。)を使用して、歯科用充填材を調製した。
ジアダマンタン化ポリエチレングリコールiの調製
室温において、ジメチルホルムアミド(DMF)200mlに、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウム)・ヘキサフルオロホスフェート)0.6g、アダマンタンアミン2.2g、ジイソプロピルエチルアミン0.25mlを、この順番で溶解させ、得られた溶液に、上述の参考例1における工程i)で得られたカルボン酸化ポリエチレングリコールc1 19g添加した後、速やかによく振り混ぜた。抽出及び再沈殿法により精製を行い、ジアダマンタン化ポリエチレングリコールiを得た。
【0079】
[比較例3]
実施例1と同様の方法に従って、ただし、ポリロタキサンの代わりに、下記のようにして調製したジアダマンタン化ポリエチレングリコールj(軸分子(ポリエチレングリコール)の両端に封鎖基(トリチル)を有するが、環状分子を含んでいない化合物に相当する。重合性基を含有しない。)を使用して、歯科用充填材を調製した。
ジトリチル化ポリエチレングリコールjの調製
室温において、ジメチルホルムアミド(DMF)200mlに、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウム)・ヘキサフルオロホスフェート)0.6g、トリチルアミン3.8g、ジイソプロピルエチルアミン0.25mlを、この順番で溶解させ、得られた溶液に、上述の参考例1における工程i)で得られたカルボン酸化ポリエチレングリコールc1 19g添加した後、速やかによく振り混ぜた。抽出及び再沈殿法により精製を行い、ジアダマンタン化ポリエチレングリコールjを得た。
【0080】
[比較例4]
実施例1と同様の方法に従って、ただし、ポリロタキサンの代わりに、下記のようにして調製した修飾α−シクロデキストリンk(ポリロタキサンの環状分子に相当する。重合性基を含有する。)を使用して、歯科用充填材を調製した。
修飾α−シクロデキストリンkの調製
α−シクロデキストリンについて、上述の参考例1と同様の方法に従い、ヒドロキシプロピル化、ポリカプロラクトン修飾、のアクリル基導入の各処理を行い、修飾α−シクロデキストリンkを得た。
【0081】
[比較例5]
実施例1と同様の方法に従って、ただし、ポリロタキサンの代わりに、下記のようにして調製した修飾γ−シクロデキストリンl(ポリロタキサンの環状分子に相当する。重合性基を含有する。)を使用して、歯科用充填材を調製した。
修飾γ−シクロデキストリンlの調製
γ−シクロデキストリンについて、上述の参考例1と同様の方法に従い、ヒドロキシプロピル化、ポリカプロラクトン修飾、アクリル基導入の各処理を行い、修飾γ−シクロデキストリンlを得た。
【0082】
上述の実施例及び比較例で調製した各歯科用充填材について、その特性を、下記の方法で測定して、比較、検討した。
【0083】
(1)重合収縮応力の測定
直径6mm、深さ2mmの模擬窩洞の窩底部に、歯科用接着剤として、ワンナップボンドFプラス(登録商標:トクヤマデンタル社)を塗布し、歯科用光照射器(トクヤマデンタル社製)を用いて10秒間光照射した。ついで、模擬窩洞中に満たされるように歯科用充填材を填入し、20秒間光照射した。この時の応力を、万能引張試験機オートグラフ(AG−5000D:島津製作所)で測定した。
【0084】
(2)ビッカース硬さの測定
直径7mm、高さ1mmの孔を有するポリアセタール製の型にペーストを填入し、ポリプロピレンフィルムで圧接し、推奨光照射時間、光照射した。
微小硬度計(PMT_X7型:松沢精機)を使用し、得られた硬化体をビッカース圧子にて押圧し、荷重100gf、荷重保持時間30秒で、試験片にできたくぼみの対角線長さを測定した。
下式により、ビッカース硬さを求めた。
HV=F/S=2Fsinθ/2d
2=1.8544F/d
2
(ここで、HV:ビッカース硬さ、F:荷重(Kgf)、S:くぼみの表面積(mm
2)、d:くぼみの対角線長さ(mm)、θ:ダイヤモンド圧子の対面角)
試験は5点について行い、その平均を求めた。
【0085】
(3)窩洞適合性の評価
屠殺後24時間以内に抜去した牛下顎前歯に対し、歯科用のダイヤモンドバーを用いて深さ2mm、直径4mmの円柱状の窩洞を形成した。ついで、この窩洞の内部全体に、歯科用接着剤としてボンドフォース(登録商標:トクヤマデンタル社)を塗布し、圧縮空気を当てて溶媒を除去した後、歯科用光照射器(トクヤマデンタル社)を使用して、10秒間光照射した。続いて、この窩洞内に満たされるように歯科用充填材を填入し、歯科用照射器で20秒間光照射した。このようにして得られた試験片を、37℃の水中に一晩浸漬した後、ダイヤモンドカッターを使用して、窩底部に対して鉛直方向で切断し、試験片を調製した。露出した切断面を、耐水研磨紙(♯3000、♯1500)及びダイヤモンドスラリ−(6μm、3μm、1μm、0.25μm)で研磨して、研磨面を、レーザー顕微鏡(VK9700:KEYENCE社)を使用して観察し、窩洞の観察・窩洞適合性の評価を行った。評価基準は下記の通りである。
◎・・適合している部分が全体の100%である
〇・・適合している部分が全体の90%以上である
△・・適合している部分が全体の80%以上である
×・・適合している部分が全体の80未満である
【0086】
上述の実施例1〜10及び比較例1〜5において調製した各歯科用充填材について得られた結果を、下記の表に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、ポリロタキサンを含有する実施例1〜14の各歯科用充填材は、ポリロタキサンを含有しない場合(比較例1)と比較して、同等のビッカース硬さを維持しながら、低い収縮応力であることを示した。実施例1〜6の比較から、ポリロタキサンの添加量は、5.0質量部程度が最適であることが確認できる。ポリロタキサンの添加量が多い場合には、歯科用充填材が増粘し、分子が自由に動けず、収縮応力の緩和がしにくくなったと考えられる。一方、添加量が少ない場合には、環状分子の充分な可動距離を確保することができず、収縮応力の低減効果は小さくなると推察される。実施例1と4との比較から、ポリロタキサン分子が重合性基を有している方が、収縮応力の緩和効果、ビッカース硬さが大きいことが確認された。実施例1、9〜12の比較から、ポリロタキサンの封鎖基の種類は、収縮応力の低減効果に殆ど影響しないことが確認された。実施例12〜14の比較から、ポリロタキサンの軸分子が、ポリブタジエン、ポリメチルシロキサンである場合、ポリエチレングリコールである場合よりも、収縮応力の低減効果がやや劣ることが確認された。ポリブタジエン、ポリメチルシロキサンは、ポリエチレングリコールよりも剛直な分子構造であり、分子が自由に動きづらいためであると考えられる。
【0089】
比較例2、3は、封鎖基の結合した軸分子のみ、比較例4,5は環状分子のみを歯科用充填材に添加したものである。これらは、全て比較例1よりも収縮応力が大きいことがわかった。これらの軸分子や環状分子は、ポリロタキサンのように可動領域を持たないだけでなく、歯科用充填材の増粘に寄与するため、分子が自由に動けなくなり、収縮応力が大きくなったと考えられる。また、比較例2、3の封鎖基の結合した軸分子は、重合性基を有していないため、ビッカース硬さは、比較的大きく低下したと推察される。