特許第6501219号(P6501219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501219
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】張力調節装置を備えるブレース
(51)【国際特許分類】
   F16B 7/06 20060101AFI20190408BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20190408BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   F16B7/06 Z
   F16B35/04 D
   E04B1/58 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-61622(P2015-61622)
(22)【出願日】2015年3月7日
(65)【公開番号】特開2016-164452(P2016-164452A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2018年2月9日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】515079922
【氏名又は名称】株式会社B&B技術事務所
(72)【発明者】
【氏名】角屋 治克
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−317508(JP,A)
【文献】 実公昭07−017191(JP,Y1)
【文献】 実開昭62−032135(JP,U)
【文献】 実公昭38−003631(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 7/06
E04B 1/58
F16B 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溝が軸心方向に沿ってほぼ等間隔で周面上に形成された鍔状の工具掛止部の一端側と他端側に右ねじ部と左ねじ部をそれぞれ有するボルト本体と、このボルト本体の右ねじ部と左ねじ部にそれぞれ螺合する一方の雌ねじ部材と他方の雌ねじ部材からなり、前記ボルト本体の工具掛止部の回転により、前記一対の雌ねじ部材を近接または離反させる張力調節装置と、この張力調節装置の少なくとも片方の雌ねじ部材に取り付けられるブレース本体とを備え、軸心方向に分断された筒状部材を、前記張力調節装置の一対の雌ねじ部材間に跨るように被せ、該筒状部材の開口部からグラウト材を空隙部分に充填することを特徴とするブレース。
【請求項2】
前記工具掛止部と前記一対の雌ねじ部材の外径がほぼ同一であることを特徴とする請求項1に記載のブレース
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築用ブレースに好適な、張力調節装置に丸鋼などのブレース本体を連結してなるブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨ラーメンフレーム架構は、主要構造部材である鉄骨柱と鉄骨梁が剛接合されたもので、中小鉄骨建築物などに広く採用されている架構形式である。このような架構では、建物の耐震性を高めるため、鉄骨柱と鉄骨梁で囲まれた矩形状の架構面の対角位置にブレースを取り付けるのが一般的である。ここで使用されるブレースは、例えばブレース本体を構成する引張部材として、右ねじ(正ねじ)が端部に形成された丸鋼と、左ねじ(逆ねじ)が端部に形成された一対の丸鋼(ターンバックルボルトと称する。)を使用し、これら丸鋼を、両端に設けた一対の雌ねじを介して互いに近接または離反自在に螺合することで引張部材の全長の長さ調整と張力を調節するためのターンバックル胴から構成されている。ターンバックル胴は、割枠式とパイプ式に大別され、いずれもターンバックル胴を回転させて締め付ける一方、逆転させて緩めるような構造になっている。
【0003】
ところで、上記建築用ブレースにおけるターンバックル胴の小型化、美観向上を図るため、これに代わる張力調節手段が提案されている(特許文献1参照)。このターンバックルは、両端に右ねじ部と左ねじ部を形成するとともに、中間に六角柱状等のスパナ掛け部を設けた柱状の胴部と、それら左右の雄ねじ部に螺合する一対の雌ねじ状の棒部からなり、さらに各棒部の他端側に鋼管等の引張部材が接合された構成である。したがって、胴部の回転により引張部材の張力調節を行う場合には、胴部中央のスパナ掛け部に適合するスパナを使用することになる。この場合、ブレースに求められる引張強度が大きくなるに伴い、スパナ掛け部を含む胴部全体の外径が必然的に増大し、ブレース本体の重量も増大する。このため、これに対応するスパナは相当な重量物とならざるを得ない。しかも、鉄骨架構でのブレースの取付けは、高所作業となることが多く、その取扱いが非常に危険な作業になるという問題点があった。また、大型のブレース本体の両端にネジ加工することは、多大なコストアップになり不経済であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−313411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑みなされたもので、ブレース全体の寸法調整に加え、軽量の工具で簡単に張力調節を行うことができ、経済的で、さらに小型で美観や経済性も向上した張力調節装置を備えるブレースの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
【0007】
上記従来技術の問題点を解決するため、請求項1に係るブレースは、複数の溝が軸心方向に沿ってほぼ等間隔で周面上に形成された鍔状の工具掛止部の一端側と他端側に右ねじ部と左ねじ部をそれぞれ有するボルト本体と、このボルト本体の右ねじ部と左ねじ部にそれぞれ螺合する一方の雌ねじ部材と他方の雌ねじ部材からなり、前記ボルト本体の工具掛止部の回転により、前記一対の雌ねじ部材を近接または離反させる張力調節装置と、この張力調節装置の少なくとも片方の雌ねじ部材に取り付けられるブレース本体とを備え、軸心方向に分断された筒状部材を、前記張力調節装置の一対の雌ねじ部材間に跨るように被せ、該筒状部材の開口部からグラウト材を空隙部分に充填することを特徴とするものである。さらに、このブレースにおいて、前記工具掛止部と前記一対の雌ねじ部材の外径がほぼ同一であるようにしてもよい(請求項)。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る張力調節装置を備えるブレースでは、上記構成を採用することにより、次のような効果が得られる。
(1)ボルト本体の両側部分に螺合する一対の雌ねじ部材を互いに近接または離反する方向に変位させることでブレース全体の長さ調整を行う場合、さらに鉄骨架構に設置後に引張部材の張力を調節する場合などにおいて、従来のようなスパナに代えて、工具掛止部の周面上に形成した溝にスクリュードライバー(ねじ回し)やシノなどを差し込んで回転させればよいので、比較的軽量な工具の使用により高所でも安全に作業を行うことができる。
(2)張力調節装置の工具掛止部とその両側に位置する一対の雌ねじ部材の外径をほぼ同一にした場合には、外観に統一性が生まれ美観が向上するので、ブレースが露出する設置場所に好適である。
(3)所定の緊張状態に設置したブレースにおいて、ボルト本体の工具掛止部と雌ねじ部材の端面との間に隙間が存在している場合には、一対の雌ねじ部材に対して軸心方向に分断された筒状部材を両者に跨るように被せ、該筒状部材の開口部からグラウト材を内部に注入することにより、張力調節装置内部の空隙部分を埋めることができる。この際には、工具掛止部の周面に形成された溝がグラウト材の自由な流動を助け、充填効果を高める。その結果、張力調節装置内の特定部位、特に断面積が最小となる雄ねじ部への応力集中を効果的に阻止することができ、また緩み防止にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明で使用するボルト本体の正面図と側面図である。
図2図1のボルト本体に一対の雌ねじ部材を螺着してなる本発明で使用する張力調節装置の正面図と側面図である。
図3図1の張力調節装置にブレース本体を組み合わせてなる本発明の第1基礎形態に係るブレースの正面図と平面図である。
図4】本発明の第2基礎形態に係るブレースの正面図と、一部を断面で示した平面図である。
図5】本発明の第3基礎形態に係るブレースの正面図と平面図である。
図6】第2基礎形態を対象とした本発明に係るブレースの要部を示した平面図である。
図7図6ブレースで用いる筒状部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明で使用する張力調節装置は、ブレース全体の長さ調整または取付後の張力調整を行う際に、ボルト本体の工具掛止部に設けた溝に対して、スクリュードライバーや番線を締め付ける際に使用するシノなどの簡便な軽量工具を差し込んで回転できる点に技術的特徴がある。工具掛止部は、切削や鍛造などによりボルト本体と一体で成形したり、あるいは別部品として成形したものを嵌合してもよい。上記工具を差し込むための溝の数は、円周上にほぼ等間隔で4か所もしくは6か所程度が好ましい。その外径は、両端に螺着される一対の雌ねじ部材とほぼ同外径とするのが特に好ましい。さらに、ブレースの両端を鉄骨架構に結合した後、ボルト本体の両側に位置する雌ねじ部材に対して、その外径に対応した内径からなる鋼製の筒状部材を被せた状態で、分断された開口部から高強度の無収縮セメント等のグラウト材を内部に注入してもよい。
【0011】
また、張力調節装置に連結してブレースを構成するブレース本体には、断面形状が円形状もしくは矩形状の棒鋼や鋼管などが好適であり、引張ブレースまたは圧縮ブレースとして使用するかにより適宜選択すればよい。これらブレースを架構面のコーナー部分にピン接合する場合には、ブレース本体の端部に設ける接合部材としてクレビスやピン用のボルトなどを使用することができる。なお、ブレース本体は、張力調節装置の少なくとも片側に連結すればよく、この場合には張力調節装置の他方の側には前記端部接合部材を結合することになる。以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明するが、これら実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術思想内での種々の変更実施はもちろん可能である。
【0012】
図1(a)、(b)は、それぞれ本発明に係るブレースで使用する張力調節装置の主要部材であるボルト本体の正面図と側面図である。図示のボルト本体1は、中央で鍔状に突出する工具掛止部2の左側(一端側)と右側(他端側)が、それぞれ右ねじ部3と左ねじ部4に形成されたものである。工具掛止部2には、U字状断面からなる4個の溝2aが円周上にほぼ90°間隔で軸心方向に沿って設けられている。
【0013】
図2(a)、(b)は、それぞれ本発明に係るブレースで使用する張力調節装置の正面図と側面図である。この張力調節装置5は、図1に示したボルト本体1と一対の雌ねじ部材6,7で構成される。この場合、ボルト本体1の右ねじ部3と左ねじ部4にそれぞれ螺合する一方の雌ねじ部材6と他方の雌ねじ部材7は、雌ねじが全長に渡って設けられた円筒状に形成され、後述する丸鋼製のブレース本体の螺着が可能になっている。また、一対の雌ねじ部材6,7の外径は、ボルト本体1の工具掛止部2とほぼ同じ外径に形成されている。なお、一対の雌ねじ部材6,7は、これと結合するブレース本体および端部接合部材の形状、結合方法によっては、貫通孔でなくともよく、また全長が異なるものであってもよい。
【0014】
図3(a)、(b)は、引張ブレースに適した本発明に係るブレースの第1基礎形態を示す正面図と平面図である。このブレース10は、図2に示した張力調節装置5におけるボルト本体1の一端側に平鋼からなるブレース本体11を連結するとともに、他端側には矩形状架構面のコーナー部分に接合されたガセットプレートなどに対してピン接合するためのプレート状からなる端部接合部材12を結合したものである。これらブレース本体11と端部接合部材12は、それぞれ張力調節装置5側に形成された矩形状の切欠部(図示せず)に雌ねじ部材6,7を嵌入した状態で溶接されている。さらに、ブレース本体11の反対側の端部と端部接合部材12には、それぞれピン挿通孔11a,12aが形成されている。
【0015】
図4(a)、(b)は、同じく引張ブレースに適した本発明に係るブレースの第2基礎形態を示す正面図と、一部を断面で示した平面図である。図示のブレース20は、ブレース本体21に丸鋼を使用したものである。この場合、張力調節装置5の一端側に螺合する一方の雌ねじ部材6aは、他方の雌ねじ部材7よりも全長が長く、ブレース本体21の端部に形成された雄ねじ部21aが螺合している。ブレース本体21の反対側の端部と他方の雌ねじ部材7は、それぞれピン挿通孔22a,23aを有する端部接合部材22,23に対して、上記と同様に溶接されている。
【0016】
図5(a)、(b)は、圧縮ブレースに適した本発明に係るブレースの第3基礎形態を示す正面図と平面図である。図示のブレース30は、ボルト本体1に螺合する一対の雌ねじ部材8a,8bの対向する端面に穴開き円板状のフランジ部材8c,8dが接合された張力調節装置9と、丸形鋼管からなるブレース本体31で構成される。一方の雌ねじ部材8aには、2枚1組の端部接合部材32が雌ねじ部材8aを挟むようにしてその側面で溶接されるとともに、端面がフランジ部材8cにも溶接されている。また、他方の雌ねじ部材8bには、それを内包した状態で丸形鋼管31がその端面とフランジ部材8dとの溶接により接合されている。さらに、ブレース本体31の他端側にも2枚1組からなる端部接合部材33が、丸形鋼管31の端面あるにフランジ部材8eに溶接されている。なお、端部接合部材32,33のピン挿通孔32a,33aの周囲は、図3に示した第1基礎形態のブレースと同様に他の部分よりも肉厚に補強されている。図5で使用するボルト本体は、肉厚鋼管を用いてネジ加工してもよい。
【0017】
上記各基礎形態では、張力調節装置5,9のボルト本体1に形成した溝2aに対して、スクリュードライバーやシノなど棒状の工具を差し込んで回転させることにより、ブレース10,20,30の長さの調整が容易になり、またその緩みやたるみを解消し、ブレースに張力導入も可能となる。
【0018】
図6は第2基礎形態を対象とした本発明に係るブレースの要部を示した平面図であり、図7は同ブレースで使用する筒状部材の斜視図である。図示のブレース40は、鉄骨架構に取付けが完了した後、張力調節装置5に対して、雌ねじ部材6,7aの外径とほぼ同じ内径で軸心方向に分断された鋼製の筒状部材41を開きながら一対の雌ねじ部材6,7aに跨るように被せ、開口部41aから高強度の無収縮セメント等からなるグラウト材42を注入したものである。これにより、ボルト本体1の雄ねじ部3,4の保護と養生を行うことが可能になる。注入に際しては、工具掛止部2の周面に形成された複数の溝2aの存在によりグラウト材42の流動が円滑に行われるので注入効果を高めることができる。なお、図5の第3基礎形態の場合には、フランジ部材8c,8dに筒状部材41が被さるようにすればよく、図3の第1基礎形態に適用する場合には図6のように筒状部材41を被せればよい。本発明のブレースにおいて、張力調節装置5,9における一対の雌ねじ部材6(6a),7(7a)の端面間は、断面積の変化が大きく、かつ最も外径の最小となる箇所でもある。このため、当該部分にグラウト材42を充填することにより、地震時に曲げ横応力など複雑な応力の発生を防ぐことや、雄ねじ部3,4への応力集中を防ぐ上で効果的である。
【符号の説明】
【0019】
1:ボルト本体、2:工具掛止部、2a:溝、3:右ねじ部、4:左ねじ部、5,9:張力調節装置、6,6a,7,7a,8a,8b:雌ねじ部材、8c,8d,8e:フランジ部材、10,20,30,40:ブレース、11,21,31:ブレース本体、12,22,23,32,33:端部接合部材、41:筒状部材、42:グラウト材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7