(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501230
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】多元素同時型蛍光X線分析装置および多元素同時蛍光X線分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20190408BHJP
G01N 23/2209 20180101ALN20190408BHJP
【FI】
G01N23/223
!G01N23/2209
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-44179(P2016-44179)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2017-161276(P2017-161276A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】藤村 聖史
(72)【発明者】
【氏名】青木 悠
【審査官】
嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−155651(JP,A)
【文献】
特開2000−074859(JP,A)
【文献】
特開2001−091481(JP,A)
【文献】
実開平02−099342(JP,U)
【文献】
特開2006−258633(JP,A)
【文献】
特開2013−137273(JP,A)
【文献】
特開平05−188019(JP,A)
【文献】
特開2007−093593(JP,A)
【文献】
特開2010−122198(JP,A)
【文献】
特開2008−256698(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0278044(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第0766083(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハである試料が載置される試料台と、
その試料台に対して試料の載置および撤去を行う搬送アームと、
前記試料台を移動させるステージと、
試料に1次X線を照射するX線源とを備えるとともに、
分光素子および検出器を有して試料から発生する蛍光X線の強度を測定する固定ゴニオメータを測定すべき波長ごとに備え、
前記搬送アーム、前記ステージ、前記X線源および前記固定ゴニオメータを制御して、試料表面の複数の測定点について蛍光X線の強度を測定し、試料における測定強度の分布を求める制御手段を備える多元素同時型蛍光X線分析装置であって、
前記試料台に、前記搬送アームが鉛直方向に通過するための切り欠き部が形成されており、
前記制御手段がバックグラウンド補正手段を有し、
そのバックグラウンド補正手段が、
ブランクウエハにおける各測定点について、当該測定点の測定強度から前記切り欠き部上にある基準測定点の測定強度を差し引いた強度を、当該測定点のバックグラウンド強度としてあらかじめ記憶し、
分析対象試料における各測定点について、当該測定点の測定強度から当該測定点の前記バックグラウンド強度を差し引いて補正する多元素同時型蛍光X線分析装置。
【請求項2】
半導体ウエハである試料が載置される試料台と、
その試料台に対して試料の載置および撤去を行う搬送アームと、
前記試料台を移動させるステージと、
試料に1次X線を照射するX線源とを備えるとともに、
分光素子および検出器を有して試料から発生する蛍光X線の強度を測定する固定ゴニオメータを測定すべき波長ごとに備え、
前記搬送アーム、前記ステージ、前記X線源および前記固定ゴニオメータを制御して、試料表面の複数の測定点について蛍光X線の強度を測定し、試料における測定強度の分布を求める制御手段を備えており、前記試料台に、前記搬送アームが鉛直方向に通過するための切り欠き部が形成されている多元素同時型蛍光X線分析装置を用いて、
ブランクウエハにおける各測定点について、当該測定点の測定強度から前記切り欠き部上にある基準測定点の測定強度を差し引いた強度を、当該測定点のバックグラウンド強度として求め、
分析対象試料における各測定点について、当該測定点の測定強度から当該測定点の前記バックグラウンド強度を差し引いて補正する蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハである試料のバックグラウンドを補正する、多元素同時型蛍光X線分析装置および多元素同時蛍光X線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分析目的に応じて種々の蛍光X線分析装置があり、例えば、特許文献1に記載されているように、試料に1次X線を照射するX線源を備えるとともに、分光素子および検出器を有して試料から発生する蛍光X線の強度を測定する固定ゴニオメータを測定すべき波長ごとに備えた多元素同時型蛍光X線分析装置がある。また、試料である半導体ウエハを搬送するロボットハンド(搬送アーム)が上下に移動できるように、略矩形の切り欠き部が形成された試料台を備えた蛍光X線分析装置がある(特許文献2)。
【0003】
分光素子と検出器をゴニオメータで連動させる走査型蛍光X線分析装置では、測定すべき蛍光X線の波長の前後でバックグラウンド強度を測定し、蛍光X線の波長におけるバックグラウンド強度を推定して、蛍光X線の測定強度から差し引いて補正をすることができる。しかし、特許文献1に記載されているような多元素同時型蛍光X線分析装置において、バックグラウンド強度を測定するために固定ゴニオメータを増設すると、装置の構成が複雑になり、コストアップになる。そのため、多元素同時型蛍光X線分析装置において、バックグラウンド用固定ゴニオメータを増設せずにバックグラウンドを補正することが望まれている。
【0004】
また、近年、半導体ウエハの大型化にともない、半導体ウエハの厚さが薄くなるとともに、半導体ウエハに形成される薄膜の膜厚も薄くなっている(例えば、数nm)。このような極薄膜が形成される半導体ウエハを蛍光X線分析装置で測定すると、極薄膜から発生する蛍光X線強度が弱く、充分な測定強度を得るためには、蛍光X線強度を長時間積分して測定する必要がある。長時間積分して測定すると、バックグラウンドの測定強度も大きくなり、この大きくなったバックグラウンドを補正しないと高精度の分析をすることができない。
【0005】
このようなバックグラウンド補正に関し、切り欠き部が形成された試料台を備えた多元素同時型蛍光X線分析装置を用いて、極薄膜が形成された半導体ウエハを測定すると、試料台において、切り欠き部上にある試料の測定点のバックグラウンド強度に比べて切り欠き部以外の上にある試料の測定点のバックグラウンド強度が大きく、このように測定点の位置によって強度が異なるバックグラウンドを正確に補正しないと、高精度の分析ができないことに気付いた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−155651号公報
【特許文献2】特開2000−74859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、試料台に切り欠き部が形成されていても、バックグラウンド用固定ゴニオメータを増設せずに、バックグラウンドを正確に補正して半導体ウエハを高精度に分析できる、多元素同時型蛍光X線分析装置および多元素同時蛍光X線分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の多元素同時型蛍光X線分析装置は、半導体ウエハである試料が載置される試料台と、その試料台に対して試料の載置および撤去を行う搬送アームと、前記試料台を移動させるステージと、試料に1次X線を照射するX線源とを備えるとともに、分光素子および検出器を有して試料から発生する蛍光X線の強度を測定する固定ゴニオメータを測定すべき波長ごとに備え、前記搬送アーム、前記ステージ、前記X線源および前記固定ゴニオメータを制御して、試料表面の複数の測定点について蛍光X線の強度を測定し、試料における測定強度の分布を求める制御手段を備える多元素同時型蛍光X線分析装置であって、前記試料台に、前記搬送アームが鉛直方向に通過するための切り欠き部が形成されている。
【0009】
さらに、本発明の多元素同時型蛍光X線分析装置は、前記制御手段がバックグラウンド補正手段を有し、そのバックグラウンド補正手段が、ブランクウエハにおける各測定点について、当該測定点の測定強度から前記切り欠き部上にある基準測定点の測定強度を差し引いた強度を、当該測定点のバックグラウンド強度としてあらかじめ記憶し、分析対象試料における各測定点について、当該測定点の測定強度から当該測定点の前記バックグラウンド強度を差し引いて補正する。
【0010】
本発明の多元素同時型蛍光X線分析装置によれば、ブランクウエハにおける各測定点について、当該測定点の測定強度から前記切り欠き部上にある基準測定点の測定強度を差し引いた強度を、当該測定点のバックグラウンド強度として、分析対象試料における各測定点について、当該測定点の測定強度から当該測定点の前記バックグラウンド強度を差し引いて補正するので、試料台に切り欠き部が形成されていても、バックグラウンド用固定ゴニオメータを増設せずに、バックグラウンドを正確に補正して半導体ウエハを高精度に分析できる。
【0011】
本発明の蛍光X線分析方法は、半導体ウエハである試料が載置される試料台と、その試料台に対して試料の載置および撤去を行う搬送アームと、前記試料台を移動させるステージと、試料に1次X線を照射するX線源とを備えるとともに、分光素子および検出器を有して試料から発生する蛍光X線の強度を測定する固定ゴニオメータを測定すべき波長ごとに備え、前記搬送アーム、前記ステージ、前記X線源および前記固定ゴニオメータを制御して、試料表面の複数の測定点について蛍光X線の強度を測定し、試料における測定強度の分布を求める制御手段を備えており、前記試料台に、前記搬送アームが鉛直方向に通過するための切り欠き部が形成されている多元素同時型蛍光X線分析装置を用いる。そして、ブランクウエハにおける各測定点について、当該測定点の測定強度から前記切り欠き部上にある基準測定点の測定強度を差し引いた強度を、当該測定点のバックグラウンド強度として求め、分析対象試料における各測定点について、当該測定点の測定強度から当該測定点の前記バックグラウンド強度を差し引いて補正する。
【0012】
本発明の蛍光X線分析方法によれば、ブランクウエハにおける各測定点について、当該測定点の測定強度から前記切り欠き部上にある基準測定点の測定強度を差し引いた強度を、当該測定点のバックグラウンド強度として、分析対象試料における各測定点について、当該測定点の測定強度から当該測定点の前記バックグラウンド強度を差し引いて補正するので、用いる多元素同時型蛍光X線分析装置の試料台に切り欠き部が形成されていても、バックグラウンド用固定ゴニオメータを増設せずに、バックグラウンドを正確に補正して半導体ウエハを高精度に分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態の多元素同時型蛍光X線分析装置の概略図である。
【
図4】試料台の非切り欠き部における散乱線の発生を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態の多元素同時型蛍光X線分析装置について、図にしたがって説明する。
図1に示すように、この多元素同時型蛍光X線分析装置は、半導体ウエハである試料1が載置される試料台2と、その試料台2に対して試料1の載置および撤去を行う搬送アーム22(
図2)と、試料台2を移動させるステージ11と、試料1に1次X線7を照射するX線源8とを備えるとともに、分光素子25および検出器26を有して試料1から発生する蛍光X線9の強度を測定する固定ゴニオメータ10を測定すべき波長ごとに備え、搬送アーム22、ステージ11、X線源8および固定ゴニオメータ10を制御して、試料表面の複数の測定点P
n(
図3)について蛍光X線9の強度を測定し、試料1における測定強度の分布を求める制御手段20を備える多元素同時型蛍光X線分析装置であって、試料台2に、搬送アーム22が鉛直方向に通過するための切り欠き部2e(
図2)が形成されている。
【0015】
さらに、第1実施形態の多元素同時型蛍光X線分析装置は、制御手段20がバックグラウンド補正手段21を有し、そのバックグラウンド補正手段21が、何も付着させていないブランクウエハ1bにおける各測定点P
nについて、当該測定点P
nの測定強度から切り欠き部2e上にある基準測定点P
0の測定強度を差し引いた強度を、当該測定点P
nのバックグラウンド強度としてあらかじめ記憶し、分析対象試料1aにおける各測定点P
nについて、当該測定点P
nの測定強度から当該測定点P
nの前記バックグラウンド強度を差し引いて補正する。測定点P
nには基準測定点P
0も含まれる。
【0016】
図2に示すように、試料台2は、例えばセラミックからなり、所定の直径を有する円板状の試料1、例えば、シリコンウエハ表面に厚さ2nmのCoFeB合金膜が形成された直径300mmの半導体ウエハ1が載置される円板状であって、試料台2の上面2aの一部に凸部3A、3Bを備え、その凸部3A、3Bの上面3Aa、3Baが同一表面上にあり、その凸部3A、3Bの上面3Aa、3Baに試料1の非分析面(下面)の一部が接触して載置される。試料台2には、搬送アーム22が鉛直方向に通過するための略矩形の切り欠き部2eが形成されている。この切り欠き部2eは円板状の試料台2の中心点2cを超えて形成されている。
【0017】
ステージ11は試料台2を水平面に沿って移動させるXYテーブル27と、そのXYテーブル27の高さを変化させる高さ調整器28とからなり、XYテーブル27と高さ調整器28とが制御手段20によって制御される。
図1には、1つの固定ゴニオメータ10しか示されていないが、測定すべき波長ごとに固定ゴニオメータ10が備えられている。
【0018】
次に、第1実施形態の多元素同時型蛍光X線分析装置の動作について説明する。制御手段20において、試料1について基準測定点P
0を含む測定点P
0〜P
8(
図3)が設定されると、搬送アーム22、ステージ11、X線源8および固定ゴニオメータ10が制御手段20に制御されて、
図1に示すように、ブランクウエハ1bが試料台2に搬送アーム22によって載置され、ステージ11によって試料台2が移動されて各測定点P
0〜P
8について順次測定され、各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から基準測定点P
0の測定強度を差し引いた強度を、各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度としてあらかじめバックグラウンド補正手段21が記憶する。つまり、基準測定点P
0におけるバックグラウンド強度は0cpsとしてバックグラウンド補正手段21に記憶される。基準測定点P
0は、試料1において切り欠き部2e上であって、例えば、試料台2の中心点2cに対応する。
【0019】
バックグラウンド補正手段21が各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度を記憶すると、ブランクウエハ1bが試料台2から搬送アーム22によって撤去された後、分析対象試料1aが試料台2に搬送アーム22によって載置されて、ブランクウエハ1bと同様に各測定点P
0〜P
8について順次測定され、バックグラウンド補正手段21が、分析対象試料1aにおける各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から、記憶した各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度を差し引いて補正する。
【0020】
第1実施形態の多元素同時型蛍光X線分析装置によれば、ブランクウエハ1bにおける各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から切り欠き部2e上にある基準測定点P
0の測定強度を差し引いた強度を、各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度として、分析対象試料1aにおける各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度を差し引いて補正するので、試料台2に切り欠き部2eが形成されていても、バックグラウンド用固定ゴニオメータを増設せずに、バックグラウンドを正確に補正して半導体ウエハを高精度に分析できる。
【0021】
次に、本発明の第2実施形態の多元素同時蛍光X線分析方法について説明する。この分析方法で用いる多元素同時型蛍光X線分析装置は、制御手段20がバックグラウンド補正手段21を有していないが、その他の構成は第1実施形態の多元素同時型蛍光X線分析装置と同じである。多元素同時型蛍光X線分析装置の制御手段20において、試料1について、各測定点P
0〜P
8(
図3)を設定すると、搬送アーム22、ステージ11、X線源8および固定ゴニオメータ10が制御手段20に制御されて、
図1に示すように、ブランクウエハ1bが試料台2に搬送アーム22によって載置され、ステージ11によって試料台2が移動されて各測定点P
0〜P
8について順次測定される。そして、各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から基準測定点P
0の測定強度を差し引いた強度を、各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度として求める。すなわち、基準測定点P
0におけるバックグラウンド強度は0cpsとなる。
【0022】
次に、ブランクウエハ1bが試料台2から搬送アーム22によって撤去された後、分析対象試料1aが試料台2に搬送アーム22によって載置されて、ブランクウエハ1bと同様に各測定点P
0〜P
8について順次測定される。そして、分析対象試料1aにおける各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から、ブランクウエハ1bについて求めた各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度を差し引いて補正する。
【0023】
第2実施形態の多元素同時蛍光X線分析方法によれば、ブランクウエハ1bにおける各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から切り欠き部2e上にある基準測定点P
0の測定強度を差し引いた強度を、各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度として、分析対象試料1aにおける各測定点P
0〜P
8について、各測定点P
0〜P
8の測定強度から各測定点P
0〜P
8のバックグラウンド強度を差し引いて補正するので、用いる多元素同時型蛍光X線分析装置の試料台2に切り欠き部2eが形成されていても、バックグラウンド用固定ゴニオメータを増設せずに、バックグラウンドを正確に補正して半導体ウエハを高精度に分析できる。
【0024】
切り欠き部2e上にある試料1の測定点P
5でのバックグラウンド強度に比べて、非切り欠き部(切り欠き部でない部分)上にある試料1の測定点P
1でのバックグラウンド強度が大きくなるのは、
図4に示すように、非切り欠き部上にある試料1を通り抜けた1次X線7が試料台2に照射され、試料台2から散乱線12が発生し、その散乱線12が試料1を通り抜け、検出器によって検出されてバックグラウンドとなるからと考えられる。他方、切り欠き部上にある試料1の測定点P
5に照射され、試料1を通り抜けた1次X線7は、切り欠き部2eを通過して装置の構造物で散乱または吸収されて、バックグラウンドとして検出されないと考えられる。上述したように、試料台2は上面2aに凸部3A、3Bを備え、この凸部3A、3Bの上面3Aa、3Baは試料1の下面と接触する。凸部3A、3Bは、幅1mm、高さ500μmである。試料1の下面、凸部3A、3Bの側面および試料台2の上面2aによって囲まれた空間が形成されるが、この空間は測定値に有意差をもたらすほどの影響を与えないと考えられるので、この空間の下の試料台2の部分も前述した非切り欠き部に含まれる。
【0025】
本発明を適用した測定例について以下に説明する。測定した試料1は、シリコンウエハ表面に厚さ2nm(設計値)のCoFeB合金膜が形成された、直径300mm、厚さ775μmの半導体ウエハ1である。検出器26が試料1から発生する回折線の影響を受けない向きに、試料1を試料台2上に載置した。切り欠き部2e上にある測定点P
5(
図3)と非切り欠き部上にある測定点P
8(
図3)について、X線源8から直径40mmのビームとして1次X線7を照射して、真空雰囲気において、試料1から発生する蛍光X線である、Co−Kα線、Fe−Kα線およびB−Kα線の強度を測定した。
【0026】
測定点P
5と測定点P
8について、Co−Kα線とFe−Kα線のそれぞれの測定強度から、あらかじめ記憶させた、Co−Kα線とFe−Kα線のそれぞれのバックグラウンド強度を差し引いて補正した。測定線であるB−Kα線については、1次X線7のうちB−Kα線と同じ波長の連続X線は、波長が長いため半導体ウエハ1をほとんど透過しないことから、バックグラウンド補正を行わなかった。これらの測定強度から散乱線FP法を用いて試料1の合金膜の膜厚を算出した結果、切り欠き部2e上にある測定点P
5では1.996nm、非切り欠き部上にある測定点P
8では1.993nmであった。バックグラウンド補正を行わないで、同様に膜厚を算出してみると、切り欠き部2e上にある測定点P
5では、バックグラウンド補正を行った場合と有意差は見られなかったが、非切り欠き部上にある測定点P
8では膜厚2.016nmとなり、0.023nm厚く算出された。これにより、本願発明によるバックグラウンド補正を行わないと、約1%の誤差を含むことが分かった。
【0027】
第1実施形態の多元素同時型蛍光X線分析装置および第2実施形態の多元素同時蛍光X線分析方法では、試料1について各測定点P
0〜P
8を設定したが、あらかじめ制御手段20に各測定点P
nが記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 試料
1a 分析対象試料
1b ブランクウエハ
2 試料台
2e 切り欠き部
7 1次X線
8 X線源
9 蛍光X線
10 固定ゴニオメータ
11 ステージ
20 制御手段
21 バックグラウンド補正手段
22 搬送アーム
25 分光素子
26 検出器
P
0 基準測定点
P
n 測定点