(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
GaAs型半導体のフォトカソードを利用した電子ビーム源(GaAs型フォトカソード電子ビーム源)は、これまで、高い偏極度を持つスピン偏極電子ビーム源として素粒子・ハドロン物理実験(Weinberg角の精密測定)や高繰り返し短パルスで大電流可能な高輝度電子ビーム源として1kWの赤外自由電子レーザー発生など、加速器科学分野に貢献している。
【0003】
さらに、GaAs型フォトカソード電子ビーム源は、次世代の放射光源用加速器に用いる低エミッタンス(位相空間中でビームの占める面積)で大電流可能な高輝度電子ビーム源の有力候補になっており、宇宙誕生の謎に迫る線形型の次世代加速器将来計画「国際リニアコライダー計画」では、唯一の実用的高性能スピン偏極電子ビーム源と考えられている。
【0004】
一方、半導体デバイスの微細化や機能材料の高度化には、原子スケールでの詳細な構造解析や元素分析とともに、構造内の電気的、磁気的特性計測が不可欠と考えられている。この要求に対して既存の性能を超える次世代の観測、計測技術が求められており、それには、要素技術である電子ビーム源の高性能化が不可欠である。GaAs型フォトカソード電子ビーム源は、高繰り返し短パルス、高輝度と高スピン偏極の性能から、次世代の電子顕微鏡に用いる電子ビーム源として有力視されている。
【0005】
ところで、GaAs型フォトカソード電子ビーム源は、負電子親和力(Negative Electron Affinity(以下、「負電子親和力」を「NEA」と記載することがある。)表面:伝導帯底よりも真空準位が低くなる状態)を利用している。NEA表面を利用することで、価電子帯から伝導帯底のポテンシャルレベルへ光励起した電子をそのまま真空中へ電子ビームとして取り出すことができる。
図1は、GaAs型フォトカソード電子ビーム源からの電子ビーム生成の概念を示しており、次に説明する、(1)励起過程、(2)拡散過程、(3)脱出過程、の3ステップモデルの現象論で説明することができる(非特許文献1参照)。
(1)フォトカソードへ励起光を入射し、価電子帯電子を伝導帯へ励起する(励起過程)。
(2)伝導帯へ励起された電子は、表面へと拡散する(拡散過程)。
(3)表面まで到達した電子は、表面障壁をトンネルし、真空中へ脱出する(脱出過程)。
【0006】
GaAs半導体では、約4eVの電子親和力(真空準位と伝導帯底のエネルギー差)があり、NEA表面状態を形成するためには、次のプロセスが必要である。
(1)初めにp型ドーピングのGaAs半導体を真空中で加熱し、酸化物や炭化物などの表面不純物を除去し清浄にする。これにより、表面領域にバンドベンディングを生じさせ、真空準位を半導体のバンドギャップの半分程度(φB)下げることができる。
(2)次に結晶表面に微小の光電流が得られるように、
図2に示すように、まずセシウムを蒸着し、その後、光電流の飽和毎にセシウム蒸着と酸素付加を最大の光電流が得られるまで交互に繰り返す。この方法により、残りの真空準位(φD)を下げることで、NEA表面状態を形成することができる(非特許文献1参照)。
【0007】
なお、NEA表面状態とは、上記プロセスにより、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルを伝導帯底のエネルギーレベルより低い状態にすることを意味する。しかしながら、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルが伝導帯底のエネルギーレベルより高くてもフォトカソードから真空中へ電子を放出することもできる。また、フォトカソードをNEA表面状態に処理した後であっても、電子の放出を続けるとフォトカソードの真空準位のエネルギーレベルが伝導帯底のエネルギーレベルより低いレベルから高いレベルに戻りながら、電子を放出する場合もある。したがって、フォトカソードを電子ビーム源として使用する場合は、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルを可能な限り低下させることが好ましいが、NEA表面状態にする又は維持することは必須ではない。したがって、本発明において「電子親和力の低下処理」とは、フォトカソードの真空準位のエネルギーレベルを、電子が放出できるレベルまで低下させるための処理を意味する。以下、「電子親和力の低下処理」のことを「EA表面処理」、「電子親和力の低下処理」によりフォトカソードの真空準位のエネルギーレベルが電子が放出できるレベルまで低下している状態を「EA表面」と記載することがある。
【0008】
ところで、EA表面は、微量なH
2O、CO、CO
2等の残留ガスの吸着やイオン化した残留ガスのEA表面への逆流で劣化する。そのため、フォトカソードから長期間安定的に電子ビームを取り出すためには、処理と維持のために超高真空度が必要である。また、EA表面処理したフォトカソードから取り出せる電子の量は有限であり、一定量の電子ビームを放出した後は、フォトカソード表面を再度EA表面処理する必要がある。
【0009】
従来のEA表面処理したフォトカソードを用いた電子銃は、EA表面処理チャンバー、電子銃チャンバー、EA表面処理したフォトカソードの搬送手段を少なくとも含んでいる。上記のとおり、EA表面処理したフォトカソードは、EA処理を超高真空中で行った後に超高真空状態を保ったまま外気に晒すことなく電子銃に装填する必要があり、また、一定時間経過したフォトカソードは再度EA表面処理する必要があるが、従来は、EA表面処理チャンバーと電子銃チャンバーは別々に設ける必要があった。その理由は、従来のEA表面処理はチャンバー内で直接フォトカソードに表面処理材料を蒸着する方法を採用しているが、EA表面処理を同一チャンバー内で行うと、EA表面処理材料が電子銃チャンバー及びチャンバー内の各種装置に付着してしまい、特に電極付近に付着したEA表面処理材料は電界放出暗電流の発生の原因となり、電子銃の機能が著しく低下するためである。
【0010】
しかしながら、EA表面処理チャンバーと電子銃チャンバーを別々に設ける場合、先ず、超高真空状態にするチャンバーが2個必要であり、更に、超高真空状態を維持したままEA表面処理チャンバーで処理したフォトカソードを電子銃チャンバーに搬送するための搬送手段が必要であることから、電子銃装置が非常に大型化するという問題がある。また、超高真空を維持した状態で、EA表面処理チャンバーから電子銃チャンバーにEA表面処理したフォトカソードを移動・装着し且つフォトカソードの再EA表面処理の際には電子銃チャンバーからEA表面処理チャンバーに移動・装着する必要があるため、装置を精密に設計し、且つフォトカソードを搬送中に脱落しないように適切な操作をする必要があり、装置管理が煩雑になるという問題がある。
【0011】
そこで、上記問題を解決するために、特許文献1(特許第5808021号公報)では、フォトカソード材料の電子親和力を低下させる処理を行うための活性化容器を、真空チャンバー内に配置している。すなわち、特許文献1では、電子ビームを発生させるためのチャンバーとEA表面処理を行うためのチャンバーとを共通化している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、実施形態における電子線発生装置1、および、電子線適用装置100について詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0022】
(方向の定義)
本明細書において、フォトカソードホルダー3が活性化容器4の第1孔44−1に向かって移動する方向をZ方向と定義する。代替的に、フォトカソード(フォトカソード材料)から放出された電子が進行する方向をZ方向と定義してもよい。Z方向は、例えば、鉛直下向き方向であるが、Z方向は、鉛直下向き方向には限定されない。
【0023】
(第1の実施形態の概要)
図3乃至
図6を参照して、第1の実施形態における電子線発生装置1について説明する。
図3および
図4は、第1の実施形態における電子線発生装置1の概略断面図である。
図5は、駆動源7aの一例を示す概略断面図である。
図6は、伸縮部の一例を示す概念図である。なお、
図3は、EA表面処理を実行する際のフォトカソードホルダー3の位置を示し、
図4は、電子線の発生処理を実行する際のフォトカソードホルダー3の位置を示している。また、
図4において、斜線部分は、真空チャンバー2内の真空領域を示している。さらに、
図4において、矢印D1は、フォトカソード(すなわち、フォトカソード材料A)から放出された電子が進行する方向を示している。
【0024】
電子線発生装置1(electron beam generator)は、真空雰囲気中で、電子線(electron beam)を発生させる装置である。真空雰囲気は、真空チャンバー2内で実現される。付加的に、電子線発生装置1は、高電圧下で、電子線を発生させる装置であってもよい。この場合、フォトカソードから放出された電子の進行方向は、高電圧が作用している時の真空チャンバー内の電場に依存する。
【0025】
電子線発生装置1は、真空チャンバー2と、フォトカソードホルダー3と、活性化容器4と、真空チャンバー内に配置されたチャンバー内動力伝達部材5bとを具備する。
【0026】
真空チャンバー2は、電子線発生装置1において、真空雰囲気を形成するための部材である。電子線発生装置1の使用時において、真空チャンバー2の内部の圧力は、例えば、10
-5Pa以下に設定される。真空チャンバー2の内部の圧力を低下させるためには、真空ポンプ91が用いられる。真空ポンプ91は、例えば、電子線発生装置1とは別に用意され、配管を介して電子線発生装置1に接続される。また、真空チャンバー2には、EA表面処理に用いられるガスを供給するガス供給装置92が配管を介して接続されていてもよい。ガス供給装置92が供給するガスは、例えば、酸素、NF
3、N
2等である。
【0027】
真空チャンバー2の形状に特に制限はなく、真空チャンバー2の形状は、例えば、円筒形状である。
図3に記載の例では、真空チャンバー2は、胴部20と、頂部21と、底部とを備える。また、真空チャンバー2の材質は、例えば、ステンレス、チタン、ミューメタル等の金属、ガラス、サファイア、セラミック等の非金属である。
【0028】
フォトカソードホルダー3は、真空チャンバー2内に配置され、フォトカソード材料Aを支持する。
図3に記載の例では、フォトカソードホルダー3は、真空チャンバー2内に配置された活性化容器4内に配置されている。
【0029】
フォトカソードホルダー3は、活性化容器4に対して相対移動可能である。フォトカソードホルダー3が、
図3において示される位置にあるとき、活性化容器4に支持された表面処理材料Bを活性化(気化)することにより、フォトカソード材料Aに表面処理材料Bを蒸着させることが可能である。また、フォトカソードホルダー3が、
図4において示される位置にあるとき、フォトカソードホルダー3に支持されたフォトカソード材料Aに光を照射することにより、フォトカソード材料Aから電子(電子線)を発生させることが可能である。
【0030】
なお、フォトカソードホルダー3の材質に特に制限はない。フォトカソードホルダー3の材質として、例えば、モリブデン、チタン、タンタル、ステンレス等を用いることができる。
【0031】
また、フォトカソードを形成するためのフォトカソード材料Aは、EA表面処理が可能な材料であれば、特に制限はない。フォトカソード材料Aとしては、例えば、III−V族半導体材料、II−V族半導体材料が例示される。具体的には、AlN、Ce
2Te、GaN、K
2CsSb、AlAs、GaP、GaAs、GaSb、InAs等が例示される。フォトカソード材料Aのその他の例としては金属が挙げられ、具体的には、Mg、Cu、Nb、LaB
6、SeB
6、Ag等が例示される。フォトカソード材料AをEA表面処理することにより、フォトカソードを作製することができる。フォトカソード材料Aを用いたフォトカソードを用いる場合、半導体のギャップエネルギーに応じた近紫外−赤外波長領域で電子励起光が選択可能となる。加えて、電子ビームの用途に応じた電子ビーム源性能(量子収量、耐久性、単色性、時間応答性、スピン偏極度)が、半導体の材料や構造の選択により可能となる。このため、電子励起に用いる光源は高出力(ワット級)−高周波数(数百MHz)−短パルス(数百フェムト秒)のレーザーに限定されない。比較的安価なレーザーダイオードでも、これまでにない高性能なビーム生成をすることが可能となる。
【0032】
電子線発生装置1の使用時において、フォトカソード材料Aには、光が照射される。フォトカソード材料Aは、光を受けると、電子を放出する。
図4に記載の例では、放出された電子は、フォトカソードホルダー3とアノード82との間に印加される電圧によって、Z方向に沿って移動する。
【0033】
フォトカソード材料Aは、フォトカソード材料Aへの光照射が可能な位置に配置される。
図4に記載の例では、フォトカソードホルダー3の底面に、フォトカソード材料Aが配置されている。
【0034】
図3および
図4に記載の例では、フォトカソードホルダー3を、
図3において示される位置と
図4において示される位置との間で移動させるため、フォトカソードホルダー3に駆動力(drive force)が付与される。
【0035】
活性化容器4は、真空チャンバー2内に配置され、フォトカソード材料Aの電子親和力を低下させる表面処理材料Bを支持する。活性化容器4内では、表面処理材料Bが活性化される(気化される)。そして、活性化された(気化された)表面処理材料Bは、フォトカソード材料Aに蒸着される。
【0036】
活性化容器4は、第1孔44−1を含む。第1孔44−1は、フォトカソードホルダー3によって支持されたフォトカソード材料Aが通過可能な孔、または、フォトカソード材料Aから放出される電子が通過可能な孔である。第1孔44−1の大きさは、少なくとも電子が通過できる大きさであればよい。第1孔44−1の径は、加工を容易にする観点、あるいは、フォトカソード材料Aから放出される電子と第1孔44−1との位置関係の調整を容易にする観点等から、例えば、1nm以上10mm以下であり、より好ましくは、50μm以上5mm以下である。また、フォトカソード材料Aを、第1孔44−1を介して、活性化容器4外に露出させる場合(
図4を参照)には、第1孔44−1の大きさは、上記の数値範囲の上限より大きくてもよい。
【0037】
活性化容器4の材質に特に制限はない。活性化容器4の材質として、例えば、ガラス、モリブデン、セラミック、サファイア、チタン、タングステン、タンタル、ステンレス等の耐熱性材料(例えば、300℃以上、より好ましくは400℃の熱に耐えることができる耐熱性材料)を用いることができる。
【0038】
活性化容器4の形状に特に制限はない。活性化容器4の形状は、内部に表面処理材料Bを支持可能な形状であればよい。活性化容器4の形状は、例えば、円筒形である。
【0039】
活性化容器4の内部と、活性化容器4の外部とは、第1孔44−1または他の孔45を介して連通している。このため、活性化容器4の内部の圧力は、活性化容器4の外部の圧力と実質的に等しい。活性化容器4は、真空チャンバー2内に配置されているため、電子線発生装置1の使用時において、活性化容器4の内部も真空状態に維持される。
【0040】
電子線発生装置1の使用時において、フォトカソード材料Aは、電子を放出する。フォトカソード材料Aから取り出せる電子の量は有限であるため、フォトカソード表面を、再度EA表面処理する必要がある。実施形態における電子線発生装置1では、単一の真空チャンバー2内で、電子線の発生と、EA表面処理との両方を行うことが可能である。すなわち、
図3に示される状態において、活性化容器4あるいは表面処理材料B自体を加熱して、表面処理材料Bを活性化すれば(気化すれば)、表面処理材料Bは、フォトカソード材料Aに蒸着される。こうして、EA表面処理を行うことが可能である。また、
図4に示される状態において、フォトカソード材料Aに光を照射すれば、電子線を発生させることが可能である。
【0041】
本明細書において、表面処理材料Bは、フォトカソード材料をEA表面処理可能な材料を意味する。表面処理材料Bは、EA表面処理することができる材料であれば、特に制限はない。表面処理材料Bを構成する元素として、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Te、Sb等が例示される。なお、前記元素の中で、Li、Na、K、Rb、Csは単体では自然発火してしまい、保存・利用ができない。このため、Li、Na、K、Rb、Csに関しては、これらの元素の複合元素、これらの元素を含む化合物の形態で使用する必要がある。一方、化合物の形態で使用する場合は、前記元素の蒸着時に不純物ガスが発生しないようにする必要がある。したがって、Li、Na、K、Rb、Csから選択される元素を表面処理材料Bとして使用する場合は、Cs
2CrO
4、Rb
2CrO
4、Na
2CrO
4、K
2CrO
4等の化合物と不純物ガスの発生を抑える還元剤を組合せて用いることが好ましい。表面処理材料Bは、加熱手段を用いて活性化容器4内で気化され、フォトカソード材料Aに蒸着される。
【0042】
図3および
図4に記載の例では、活性化容器4は、真空チャンバー2の内側の壁面に固定されており、真空チャンバー2の壁面に対して移動不能である。そして、チャンバー内動力伝達部材5bからフォトカソードホルダー3に駆動力が伝達され、フォトカソードホルダー3が活性化容器4に対して移動する。なお、活性化容器4は、後述する第3の実施形態のように、支持部材を介して真空チャンバー2内で固定されてもよい。代替的に、フォトカソードホルダー3を真空チャンバー2の壁面に固着し、チャンバー内動力伝達部材5bから活性化容器4に駆動力が伝達されてもよい。この場合、活性化容器4が、フォトカソードホルダー3に対して移動する。
【0043】
チャンバー内動力伝達部材5bは、真空チャンバー2内に配置され、フォトカソードホルダー3または活性化容器4に駆動力を伝達する部材である。第1の実施形態では、チャンバー内動力伝達部材5bは、非磁石(non−magnet)部材である。
図3に記載の例では、真空チャンバー2内に配置されるチャンバー内動力伝達部材5bの数は1個であり、当該1個のチャンバー内動力伝達部材5bが非磁石部材である。真空チャンバー2内に配置されるチャンバー内動力伝達部材5bの数がN個(なお、「N」は、1以上の自然数である)であるとき、N個のチャンバー内動力伝達部材5bが非磁石部材である。なお、非磁石部材は、永久磁化されていない部材、または、永久磁化されていたとしても永久磁化の程度が弱い部材であり、磁場を発生しない(または磁場が弱い)ことから、フォトカソード材料から放出される電子の電子線軌道に与える影響がないか、あるいは、フォトカソード材料から放出される電子の電子線軌道に与える影響が軽微である部材を意味する。第1の実施形態では、チャンバー内動力伝達部材5bの材質として、銅、チタン、ステンレス、アルミニウム等の永久磁化不能な金属等が用いられる。また、第1の実施形態では、チャンバー内動力伝達部材5bの少なくとも一部の部材の材質として、鉄、ニッケル等の永久磁化可能な金属等を用いる場合には、当該部材は、電子線軌道に影響を与えない位置に配置される。
【0044】
第1の実施形態では、チャンバー内動力伝達部材5bが、非磁石部材であることが好ましい。このため、チャンバー内動力伝達部材5bが、電子線軌道に実質的な影響を与えることがない。こうして、電子線の軌道が所望の軌道からずれるのが抑制される。
【0045】
(第1の実施形態における任意付加的な構成例)
図3乃至
図6を参照して、第1の実施形態において、付加的に採用可能な構成例について説明する。
【0046】
(構成例1)
図3を参照して、構成例1について説明する。構成例1は、エネルギー生成部7に関する構成例である。
【0047】
図3に記載の例では、エネルギー生成部7は、チャンバー内動力伝達部材5bを駆動する機械的エネルギーを生成する。そして、エネルギー生成部7によって生成された機械的エネルギーは、チャンバー外動力伝達部材5aを介して、チャンバー内動力伝達部材5bに伝達される。こうして、チャンバー内動力伝達部材5bが駆動される(換言すれば、チャンバー内動力伝達部材5bが移動する)。また、チャンバー内動力伝達部材5bが移動することにより、フォトカソードホルダー3に駆動力が付与される。その結果、フォトカソードホルダー3が、活性化容器4に対して移動する。上記のとおり、本明細書において「チャンバー内動力伝達部材5b」とは、エネルギー生成部7によって生成された機械的エネルギーをフォトカソードホルダー3に「伝達」するための部材を意味し、モーター等の自ら駆動力を生成する駆動手段とは異なる。なお、
図3に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bとフォトカソードホルダー3とは一体成型により作製された一つの部材である。代替的に、チャンバー内動力伝達部材5bとフォトカソードホルダー3とを別々に作製し、両者を任意の結合手段を介して連結してもよい。
【0048】
図3に記載の例では、エネルギー生成部7は、駆動源7a(drive source)であり、機械的エネルギーを生成する。駆動源7aは、例えば、アクチュエーターである。アクチュエーターは、例えば、流体圧によって駆動されるアクチュエーター(空圧式アクチュエーター、油圧式のアクチュエーター等)、電動アクチュエーター、ソレノイドアクチュエーターである。
【0049】
図5は、駆動源7aが流体圧駆動のアクチュエーターである例を示す。
図5に記載の例では、アクチュエーターは、シリンダ76およびピストン78を備える。ピストン78は、シリンダ76の内部に配置され、ベローズなどの伸縮部22の端部に連結されている。ピストン78は、伸縮部22に連結された孔無し壁24としても機能する。ピストン78は、シリンダ76の第1室C1内に空気、油等の流体がポンプPから供給され、または、第1室C1から空気、油等の流体が排出されることにより移動する。ピストン78は、チャンバー内動力伝達部材5bに連結されている。このため、ピストン78が移動すると、チャンバー内動力伝達部材5bも移動する。
【0050】
図5に記載の例では、シリンダ76は、第1室C1と第2室C2とを備える。そして、ピストン78は、第1室C1内の圧力P
1と第2室C2内の圧力P
2との差圧によって駆動される。なお、P
0は、真空チャンバー2内の内圧である。
図5に記載の例では、少なくとも、シリンダ76およびピストン78の受圧面が、チャンバー外動力伝達部材として機能する。
【0051】
なお、ポンプPと第1室C1とを連結する配管にはバルブVが配置され、バルブVによって、配管内を流れる流体の流量が調整される。
【0052】
駆動源7aとして、アクチュエーターを用いる場合には、フォトカソードホルダー3を所望の位置に位置決めすることが容易である。フォトカソードホルダー3を所望の位置に位置決めするために、例えば、流体圧アクチュエーターに供給される流体の流量、電動アクチュエーターに供給される電流、または、ソレノイドアクチュエーターに供給される電流等が制御される。
【0053】
構成例1では、エネルギー生成部7(より具体的には、駆動源7a)が、真空チャンバー2の外に配置されている。このため、エネルギー生成部7が磁石などの磁界生成部材を含む場合であっても、当該磁界生成部材の電子線軌道への干渉が最小限にとどまる。また、エネルギー生成部7が磁界生成部材を含まない場合には、エネルギー生成部7が電子線軌道に干渉することはない。
【0054】
また、構成例1では、エネルギー生成部7(より具体的には、駆動源7a)が、真空チャンバー2の外に配置されているため、真空チャンバー2内が高温になる場合であっても、エネルギー生成部7の温度の上昇が抑制される。このため、エネルギー生成部7が故障しにくい。さらに、仮にエネルギー生成部7が故障した場合であっても、エネルギー生成部7の修理が容易である。例えば、真空チャンバー2内が高真空状態になった後に、エネルギー生成部7の故障が判明した場合であっても、真空チャンバー2内の高真空状態を維持したまま、エネルギー生成部7の修理を行うことが可能である。
【0055】
なお、構成例1では、エネルギー生成部7(より具体的には、駆動源7a)が、リニアアクチュエーターである。代替的に、エネルギー生成部7は、ロータリーアクチュエーターであってもよい。この場合、ロータリーアクチュエーターの回転駆動力を、フォトカソードホルダーの直線運動に変換する機構を設けるとよい。また、構成例1において、エネルギー生成部7は、アクチュエーター等の駆動源ではなく、手動操作部材であってもよい。この場合、人力により機械的エネルギーが生成される。
【0056】
また、構成例1では、フォトカソードホルダーに駆動力が付与され、フォトカソードホルダーが活性化容器に対して移動する例が説明された。代替的に、活性化容器に駆動力が付与され、活性化容器がフォトカソードホルダーに対して移動するようにしてもよい。この場合、上述の構成例1の説明において、「フォトカソードホルダー」および「活性化容器」を、それぞれ、「活性化容器」および「フォトカソードホルダー」に読み替えればよい。
【0057】
(構成例2)
図3を参照して、構成例2について説明する。構成例2は、動力伝達機構5に関する構成例である。
【0058】
構成例2では、エネルギー生成部7は、動力伝達機構5を介して、フォトカソードホルダー3に駆動力を付与する。その結果、フォトカソードホルダー3が、活性化容器4に対して移動する。
図3に記載の例では、動力伝達機構5は、エネルギー生成部7とフォトカソードホルダー3との間に配置されたシャフトを含む。
【0059】
なお、動力伝達機構5は、シャフトに限定されない。動力伝達機構5は、ギア機構、ネジ機構、リンク機構、クランク機構、または、ユニバーサルジョイント等のジョイント機構、あるいは、これらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0060】
図3に記載の例では、動力伝達機構5(例えば、シャフト)の一部が、真空チャンバー2内に配置され、動力伝達機構5(例えば、シャフト)の一部が、真空チャンバー2外に配置されている。換言すれば、動力伝達機構5は、真空チャンバー外に配置されたチャンバー外動力伝達部材5aと、真空チャンバー内に配置されたチャンバー内動力伝達部材5bとを含む。そして、チャンバー外動力伝達部材5aと、チャンバー内動力伝達部材5bとは、真空チャンバー2の孔無し壁24(holeless wall)を介して動力伝達可能に接続されている。なお、チャンバー内動力伝達部材5bのことを、第1の動力伝達部材と呼び、チャンバー外動力伝達部材5aのことを、第2の動力伝達部材と呼んでもよい。
【0061】
動力伝達機構5の一部が、真空チャンバーに設けられた貫通孔に挿通される場合、貫通孔にシール部材を配置したとしても、真空チャンバー内の真空度の悪化が避けられない。これに対し、構成例2では、チャンバー外動力伝達部材5aとチャンバー内動力伝達部材5bとが、真空チャンバー2の孔無し壁24(holeless wall)を介して動力伝達可能に接続されている。このため、真空チャンバー内の真空度が悪化することはない。
【0062】
図3に示されるように、電子線発生装置1は、チャンバー内動力伝達部材5bの移動を案内するガイド部材52を備えていてもよい。
図3に記載の例では、ガイド部材52は、第1方向(例えば、Z方向)に沿って延在し、チャンバー内動力伝達部材5bの第1方向に沿う移動を案内する。ガイド部材52の存在により、フォトカソードホルダー3が移動するときに、フォトカソードホルダー3が傾くことが抑制される。
図3に記載の例では、ガイド部材52は真空チャンバー2に固定されている(より具体的には、ガイド部材52の上端部が真空チャンバー2の頂部21に固定されている)。
【0063】
なお、ガイド部材52の数は、フォトカソードホルダー3の傾きを抑制する観点から、2つ以上であることが好ましい。しかし、ガイド部材52の数は1つであってもよい。
【0064】
図3に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bの中心軸が、フォトカソードホルダー3の中心軸AX1と一致する。このため、動力伝達機構5をシンプルにすることが可能である。
【0065】
構成例2では、動力伝達機構5が、エネルギー生成部7からの駆動力を、フォトカソードホルダー3に伝達する例について説明された。代替的に、動力伝達機構5が、エネルギー生成部からの動力を、活性化容器4に伝達するようにしてもよい。この場合、上述の構成例2の説明において、「フォトカソードホルダー」および「活性化容器」を、それぞれ、「活性化容器」および「フォトカソードホルダー」に読み替えればよい。
【0066】
なお、構成例2では、チャンバー内動力伝達部材5bの移動は、Z方向に沿う方向の移動である。換言すれば、チャンバー内動力伝達部材5bは、Z方向に垂直な方向には移動しない。このため、動力伝達機構5をシンプルにすることが可能である。また、チャンバー内動力伝達部材5bが、Z方向に垂直な方向に移動しないため、真空チャンバー2における他の構成要素の配置の自由度が高い。代替的に、構成例2において、チャンバー内動力伝達部材5bを、Z方向に垂直な方向に移動可能にしてもよい。
【0067】
(構成例3)
図3乃至
図6を参照して、構成例3について説明する。構成例3は、伸縮部22に関する構成例である。構成例3では、真空チャンバー2は、伸縮部22を含む。そして、構成例3では、エネルギー生成部7からの駆動力を用いて伸縮部22を伸縮させることにより、フォトカソードホルダー3を移動させる。
【0068】
真空チャンバー2が伸縮部22を含む場合には、真空チャンバー2の容積を変化させることにより、真空チャンバー2内のフォトカソードホルダー3を駆動することが可能である。なお、伸縮部22の存在によって、真空チャンバー2内の真空度が悪化することはない。
【0069】
図3に記載の例では、伸縮部22は、ベローズ(蛇腹部材)を含む。そして、伸縮部22の一端部は、動力伝達機構5(より具体的には、孔無し壁24)に接続され、伸縮部22の他端部は、真空チャンバー2(より具体的には、真空チャンバー2のフランジ部21a)に接続されている。また、
図3に記載の例では、伸縮部22は、真空チャンバー2の頂部21に設けられている。真空チャンバー2の頂部21に、伸縮部22と、エネルギー生成部7の両方を配置する場合には、電子線発生装置1の全体構造をシンプルにすることが可能である。
【0070】
なお、伸縮部22の配置および構造は、
図3に記載の例に限定されない。例えば、
図6に示されるように、伸縮部22を、内筒220と、外筒222と、内筒220と外筒222とを接続する膜224とによって構成してもよい。
【0071】
構成例3では、動力伝達機構5が、エネルギー生成部7からの駆動力を、フォトカソードホルダー3に伝達する例について説明された。代替的に、動力伝達機構5が、エネルギー生成部からの駆動力を、活性化容器4に伝達するようにしてもよい。この場合、上述の構成例3の説明において、「フォトカソードホルダー」および「活性化容器」を、それぞれ、「活性化容器」および「フォトカソードホルダー」に読み替えればよい。
【0072】
(構成例4)
図3および
図4を参照して、構成例4について説明する。構成例4は、光源80の配置に関する構成例である。
【0073】
構成例4では、光源80が、真空チャンバー2外に配置されている。光源80からの光は、真空チャンバー2の壁部に配置された光透過窓81を介して、フォトカソード材料Aに照射される。
図3に記載の例では、光透過窓81は、フォトカソードホルダー3よりもZ方向側に配置されている。代替的に、光源80は、フォトカソードホルダーよりもZ方向とは反対方向側に配置されていてもよい。すなわち、フォトカソードホルダー3の背面3a側(すなわち、フォトカソード材料Aが配置されている面とは反対の面側)から光が入力されるようにしてもよい。この場合、フォトカソードホルダー3には、光が通過可能な孔、または、光透過材料(例えば、透明な材料)を配置するとよい。さらに、
図3に記載の例では、光源80が真空チャンバー2外に配置されているが、光ファイバからの光を、フォトカソード材料Aに向けて照射する場合には、当該光ファイバの光出射端は、真空チャンバー2内に配置されてもよい(代替的に、光ファイバの光出射端は、真空チャンバー外に配置されてもよい)。
【0074】
(構成例5)
図3および
図4を参照して、構成例5について説明する。構成例5は、アノード82と、電源部83に関する構成例である。
【0075】
構成例5では、電子線発生装置1は、アノード82と、アノード82とフォトカソードホルダー3(カソード電極)との間に電圧を印加する電源部83とを備える。アノード82は、真空チャンバー2内に配置され、電源部83は、真空チャンバー2の外に配置される。
図3に記載の例では、電源部83の陽極がアノード82に電気的に接続され、電源部83の陰極がチャンバー内動力伝達部材5bを介して、フォトカソードホルダー3と電気的に接続されている。すなわち、チャンバー内動力伝達部材5bは、導電部材としても機能する。
【0076】
第1の実施形態において、上述の構成例1乃至構成例5のうちのいずれか1つが採用されてもよい。代替的に、第1の実施形態において、上述の構成例1乃至構成例5のうちのいずれか2つが採用されてもよい。例えば、第1の実施形態において、構成例1、2、構成例1、3、構成例1、4、構成例1、5、構成例2、3、構成例2、4、構成例2、5、構成例3、4、構成例3、5、または、構成例4、5が採用されてもよい。代替的に、第1の実施形態において、上述の構成例1乃至構成例5のうちのいずれか3つ以上が採用されてもよい。
【0077】
なお、アノード82とフォトカソードホルダー3との間に高電圧を印加する場合、電子線発生装置の構成部材の一部を必要に応じて電気絶縁部材で形成してもよい。電気絶縁部材は、セラミック等の公知の絶縁材料で作製すればよい。
図3に記載の例では、チャンバー外動力伝達部材5aと孔無し壁24の間に電気絶縁部材30が設けられ、また、動力伝達機構5を収容する容器も電気絶縁部材30で形成されている。なお、
図3に記載の電気絶縁部材30の位置は例示に過ぎず、[電源部83−アノード82−フォトカソードホルダー3]で形成される回路以外で、アノード82とフォトカソードホルダー3との間に電気が流れる回路が発生することを防止できる箇所であれば、どこに設けてもよい。例えば、真空チャンバー2の胴部の一部を電気絶縁材料で形成してもよい。また、
図3に記載の例では、電源部83は、アノード82とチャンバー内動力伝達部材5bに接続しているが、[電源部83−アノード82−フォトカソードホルダー3]の回路が形成されれば、他の部材に接続してもよい。例えば、電源83の一端をフランジ部21aに接続し、ガイド部材52、チャンバー内動力伝達部材5bを介してフォトカソードホルダー3と電気的に接続するようにしてもよい。なお、
図3では図示が省略されているが、[電源部83−アノード82−フォトカソードホルダー3]で形成される回路以外に、表面処理材料Bを加熱するための回路を形成してもよい。当該回路は、例えば、フランジ21aに導入端子を固定し、真空領域内側の導入端子端部と表面処理材料Bの加熱手段(後述)を電線で接続すればよい。また、フォトカソードホルダー3には、フォトカソード4を加熱するためのヒーターを設ける場合がある。ヒーターを設ける場合も、例えば、フランジ21aに導入端子を固定し、真空領域内側の導入端子の端部とヒーターとを電線で接続すればよい。なお、超高真空中ではガス放出量の多い樹脂は使用出来ない。そのため、電線としては、樹脂で被覆した電線ではなく、金属が露出している裸線に、必要に応じてセラミック等の絶縁材料製の管や数珠碍子などを用いたものが好ましい。
【0078】
ところで、大気中では、(1)金属表面に容易に酸化膜が生成されることにより金属同士の摩擦係数が低く保たれる、また、(2)潤滑油を用いて更に摩擦係数を下げる、ことが可能である。一方、超高真空環境では、(3)摩擦により酸化膜が除去されてしまうと、新たに酸化膜を作ることが出来ないため、金属同士の凝着が起こり、摩擦係数の著しい上昇や固着を招く、(4)真空容器内の汚染の原因となる潤滑油を使うことが出来ない、(5)(気体や潤滑油の)対流による熱伝達がないため、熱放出が行われず摺動部の温度上昇を招く等、摩耗や固着などを起こしやすい条件が揃っている。そのため、真空領域内で他の部材と相対移動可能で略接触するように配置されている部材に関しては、相対移動する一方または両方の部材を、表面処理または非金属材料で作製してもよい。
【0079】
第1の実施形態では、相対移動する部材の組み合わせは、例えば、チャンバー内動力伝達部材5b及びガイド部材52、チャンバー内動力伝達部材5b及びフランジ部21aが挙げられる。
【0080】
表面処理としては、金属同士の凝着が発生せず、摩擦係数が低減できれば特に制限はなく、例えば、DLC(Diamond like carbon)コーティング、TiNコーティング、TiCNコーティング、CrNコーティング、S−AHコーティング、等が挙げられる。非金属材料としては、高温の真空環境下で耐性があれば特に制限はなく、セラミックス、C/Cコンポジット、等が挙げられる。
【0081】
(第2の実施形態)
図7乃至
図9を参照して、第2の実施形態について説明する。
図7は、第2の実施形態における電子線発生装置1の概略断面図である。
図8Aは、
図7における領域ARの拡大図である。
図8Bは、
図7における領域AR’の拡大図である。
【0082】
第2の実施形態では、動力伝達機構5およびエネルギー生成部7の具体的構成が、第1の実施形態における動力伝達機構およびエネルギー生成部の具体的構成と異なる。よって、第2の実施形態では、動力伝達機構5およびエネルギー生成部7を中心に説明し、その他の構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0083】
図7に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bが、フォトカソードホルダー3の中心軸AX1から偏心した位置に配置されている。この場合、光源80からの光を、フォトカソードホルダー3の背面3a側からフォトカソード材料Aに導入することが可能となる。なお、光源80からの光を、フォトカソードホルダー3の背面3a側からフォトカソード材料Aに導入するために、フォトカソードホルダー3のロッド3bは、光導入孔を有するか、あるいは、光透過材料(透明な材料)によって構成されることが好ましい。
【0084】
なお、
図7に記載の例では、光源80が、真空チャンバー2の外に配置されている。このため、光源80が、真空チャンバー2内の過酷な環境に晒されることがない。なお、光源80を、真空チャンバー2の外に配置する場合には、真空チャンバー2の少なくとも一部を光透過材料(例えば、透明な材料)によって構成すればよい。そして、当該光透過材料を介して、光源80からの光を真空チャンバー2内に導入すればよい。
【0085】
なお、第2の実施形態において、光源80の配置は、
図7に記載の例に限定されない。光源80は、真空チャンバー2内に配置されてもよい。また、光源80の位置は、第1の実施形態における光源の位置と同様であってもよい。
【0086】
図7に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bは、第1方向(Z方向)に平行な軸周りを回転可能な回転部材533と、回転部材533の回転をフォトカソードホルダー3の直線移動(例えば、第1方向に沿う移動)に変換する変換機構とを有する。
図7に記載の例では、変換機構は、回転部材533に設けられた雄ねじ部533cと、フォトカソードホルダー3に設けられた雌ねじ部3cである。雄ねじ部533cと雌ねじ部3cとは、互いに螺合する。
【0087】
さらに、
図7に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bは、ユニバーサルジョイント54を含む。このため、動力伝達機構5の配置の自由度が高まる。
図7に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bは、2つのユニバーサルジョイント54を含む。しかし、チャンバー内動力伝達部材5bが備えるユニバーサルジョイント54の数は、2個に限定されない。ユニバーサルジョイント54の数は、1個でもよく、3個以上であってもよい。なお、
図7に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bとしてユニバーサルジョイントを用いた例を示しているが、チャンバー内で動力を伝達できる部材であれば他の部材であってもよい。例えば、ユニバーサルジョイントと同様に回転を伝達する部材として、金属製のワイヤなどを用いてもよい。
【0088】
図7に記載の例では、フランジ部21aとアノード82との間に電圧が印加される例が示されている。ところで、高エネルギーの電子線が必要な場合、アノードとカソードの間に高電圧が印加されることがある。その際に、真空チャンバー2内に突起物が存在すると、当該突起物から放電が発生するおそれがある。チャンバー内動力伝達部材5bのうち、活性化容器4の第2孔44−2から突き出ている部分も、放電を発生させる突起物となる可能性がある。そのため、必要に応じて、電子線発生装置1は、真空チャンバー2内の突起物からの放電の発生を抑制するシールド88を含んでもよい。
【0089】
図7に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bの一部が活性化容器4で覆われ、チャンバー内動力伝達部材5bのうち活性化容器4の外部に露出する部分が、シールド88によってアノード82から隠されている。換言すれば、シールド88が、アノード82と、チャンバー内動力伝達部材5bの少なくとも一部(具体的には、チャンバー内動力伝達部材5bのうち活性化容器4の外部に露出する部分)との間に配置されている。このため、チャンバー内動力伝達部材5bからの放電の発生は抑制される。
【0090】
シールド88の形状および配置は、チャンバー内動力伝達部材5bからの放電の発生を抑制できる限りにおいて任意である。
図7に記載の例では、シールド88の外表面88aは、滑らかな曲面である。また、シールド88の外表面88aには角部が存在しない。
【0091】
シールド88の材質としては、放電が発生しにくい材料を用いることが好ましい。シールド88の材質は、例えば、チタン、モリブデン、ステンレス、TiN等である。シールド88の表面に、チタン、モリブデン、ステンレス、TiN等がコーティングされてもよい。
【0092】
図7に記載の例では、活性化容器4が、チャンバー内動力伝達部材5bの一部を覆う第1シールドとして機能し、シールド88が、チャンバー内動力伝達部材5bの他の一部を覆う第2シールドとして機能している。なお、第1の実施形態のように、チャンバー内動力伝達部材5bの全体が活性化容器4によって覆われる場合には、第2シールドとして機能するシールド88は、省略されてもよい。また、第2の実施形態の場合でも、印加する電圧が低い場合は放電の恐れが少なくなるので、シールド88は省略されてもよい。
【0093】
図8Aを参照して、第2の実施形態におけるエネルギー生成部7の一例について説明する。
図8Aは、
図7における領域ARの拡大図である。
【0094】
図8Aに記載の例では、エネルギー生成部7は、手動操作部材7bである。
図8Aに記載の例において、手動操作部材7bの操作摘み72を回転させると、チャンバー外動力伝達部材5aが回転軸AX2まわりを回転する。チャンバー外動力伝達部材5aが回転軸AX2まわりを回転すると、孔無し壁24が回転軸AX2まわりを公転する。なお、孔無し壁24は、ベローズ74に固着されているため自転することはできない。孔無し壁24が回転軸AX2まわりを公転すると、チャンバー内動力伝達部材5bの第1シャフト531が回転軸AX2まわりを回転する。こうして、エネルギー生成部7からの駆動力(換言すれば、機械的エネルギー)が、チャンバー外動力伝達部材5aを介してチャンバー内動力伝達部材5bに伝達される。
【0095】
なお、
図7および
図8Aに記載の例においても、第1の実施形態の構成例2と同様に、チャンバー外動力伝達部材5aと、チャンバー内動力伝達部材5bとが、真空チャンバー2の孔無し壁24を介して動力伝達可能に接続されている。このため、真空チャンバー2内の真空度が悪化することはない。
【0096】
図7に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bは、複数のシャフト53と、複数のユニバーサルジョイント54とを含む。より具体的には、第1シャフト531の回転が、第1ユニバーサルジョイント541を介して、第2シャフト532に伝達される。また、第2シャフト532の回転が、第2ユニバーサルジョイント542を介して、第3シャフト(回転部材533)に伝達される。そして、第3シャフト(回転部材533)が回転することにより、フォトカソードホルダー3が直線的に移動する。
【0097】
第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0098】
また、第2の実施形態を含むいくつかの実施形態において、チャンバー内動力伝達部材5bが、フォトカソードホルダー3の中心軸から偏心した位置に配置される場合、光源等の配置の自由度が向上する。
【0099】
さらに、第2の実施形態を含むいくつかの実施形態において、チャンバー内動力伝達部材5bが、回転部材533と、回転部材の回転をフォトカソードホルダー3の直線移動に変換する変換機構とを有する場合には、フォトカソードホルダー3の位置決め制御が容易となる。
【0100】
また、第2の実施形態を含むいくつかの実施形態において、チャンバー内動力伝達部材5bが、ユニバーサルジョイントを含む場合には、チャンバー内動力伝達部材5bを含む動力伝達機構の配置の自由度が向上する。
【0101】
さらに、第2の実施形態を含むいくつかの実施形態において、電子線発生装置1がシールド88を含む場合には、チャンバー内動力伝達部材5b等からの放電の発生が抑制される。
【0102】
また、第2の実施形態を含むいくつかの実施形態において、チャンバー外動力伝達部材5aと、チャンバー内動力伝達部材5bとが、真空チャンバー2の孔無し壁24を介して動力伝達可能に接続される場合には、真空チャンバー内の真空度の悪化が効果的に抑制される。
【0103】
なお、第2の実施形態では、動力伝達機構5が、エネルギー生成部からの駆動力を、フォトカソードホルダー3に伝達する例について説明された。代替的に、動力伝達機構5が、エネルギー生成部からの駆動力を、活性化容器4に伝達するようにしてもよい。
【0104】
また、第2の実施形態では、エネルギー生成部7が、手動操作部材7bである例について説明された。代替的に、操作摘み72等を、モーターあるいはロータリーアクチュエーター等によって駆動するようにしてもよい。この場合、第2の実施形態におけるエネルギー生成部7は、駆動源7aとなる。
【0105】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様、真空領域内で他の部材と相対移動可能に配置されている部材に関しては、相対移動する一方または両方の部材を、表面処理または非金属材料で作製してもよい。第2の実施形態において相対移動する部材の組み合わせは、例えば、第1シャフト531及びフランジ部21a、雄ねじ部533c及び雌ねじ部3c、ガイド部材52及びロッド3bが挙げられる。
【0106】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様、表面処理材料Bを加熱するための回路、フォトカソード4を加熱するためのヒーターに電気を供給するための回路を設けてもよい。
図8Bは、
図7における領域AR’の拡大図で、ヒーターに電気を供給するための回路の他の例を示す図である。上記のとおり、回路を形成する電線は裸線が好ましい。一方、真空領域内で可動する部材と部材とを裸線で接続すると裸線も真空領域内で可動となり、他の部材と接触することで、短絡あるいは断線する恐れがある。そのため、相対移動する部材と部材を接点方式により電気的に接続できるようにしてもよい。
【0107】
図8Bを参照して、接点方式により接続する例についてより具体的に説明する。
図8Bに記載の例では、導入端子60a、第1端子台62、第2端子台63、第1端子台62と第2端子台63を接点方式で接続する接続部64、および、それらを接続する裸線61a、61bを含んでいる。導入端子60aは、フランジ21aに対して絶縁となるように貫通・固定され、真空領域内端部60a1と真空領域外端部60a2で電線と接続できるようになっている。第1端子台62は、一端がフランジ21aと絶縁となるように固定されている。導入端子60aの真空領域内端部60a1と第1端子台62は、裸線61aで接続されている。第2端子台63は、フォトカソードホルダー3に固定されている。第1端子台62には、第2端子台63に接触する接触部64が設けられている。接触部64は、板バネ、コイル等、第2端子台63に常に接触するよう付勢力のある材料で形成することが好ましい。なお、接触部64は第2端子台63に設け、第1端子台62に接触するようにしてもよい。そして、第2端子台63とヒーター3dを裸線61bで接続することで、真空チャンバーの外側からヒーター3dに電気を流すことができる。また、表面処理材料Bの加熱手段(後述)は、フランジ21aに対して絶縁となるように貫通・固定した導入端子60bの真空領域内端部60b1と裸線61cを用いて接続すればよい。
図8Bに示す実施形態は、相対移動する第1端子台62と第2端子台63が、接触部64により接触・通電し、裸線61a乃至裸線61cは、相対移動しない部材と部材を接続している。したがって、
図8Bに示す実施形態では、真空領域内に配置する裸線が他の部材と接触することで、短絡あるいは断線する恐れがない。なお、
図8Bに示す実施形態は、第1の実施形態で採用してもよい。また、
図8Bに示す実施形態は、接点方式の具体的態様の一例を示したもので、相対移動する部材と部材を接点方式で接触・通電すれば、他の形態であってもよい。
【0108】
(第3の実施形態)
図9を参照して、第3の実施形態について説明する。
図9は、第3の実施形態における電子線発生装置1の概略断面図である。
【0109】
第3の実施形態では、伸縮部26が真空チャンバー2の胴部の一部を構成している点で、第1の実施形態における電子線発生装置と異なる。また、第3の実施形態では、活性化容器4、動力伝達機構5およびエネルギー生成部7の具体的構成が、第1の実施形態における活性化容器、動力伝達機構およびエネルギー生成部の具体的構成と異なる。よって、第3の実施形態では、伸縮部26、活性化容器4、動力伝達機構5およびエネルギー生成部7を中心に説明し、その他の構成についての繰り返しとなる説明は省略する。
【0110】
図9を参照して、第3の実施形態では、伸縮部26(例えば、ベローズ)が真空チャンバー2の胴部の一部を構成している。より具体的には、伸縮部26は、真空チャンバー2に連結された第1フランジ部58と、真空チャンバー2に連結された第2フランジ部28との間に配置され、第1フランジ部58と第2フランジ部28とを接続している。このため、第1フランジ部58は、第2フランジ部28に対して相対移動可能である。
【0111】
第1フランジ部58が、第2フランジ部28に対して相対移動すると、第1フランジ部58とともに移動するチャンバー内動力伝達部材5bも、第2フランジ部28に対して相対移動する。その結果、チャンバー内動力伝達部材5bに連結されたフォトカソードホルダー3が、活性化容器4に対して移動する。
【0112】
図9に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bは、シャフトである。また、チャンバー内動力伝達部材5bとフォトカソードホルダー3とは一体成型により作製された一つの部材である。代替的に、チャンバー内動力伝達部材5bとフォトカソードホルダー3とを別々に作製し、両者を任意の結合手段を介して連結してもよい。
【0113】
図9に記載の例では、チャンバー内動力伝達部材5bは、真空チャンバー2の頂部(より具体的には、頂部のフランジ部21a)に固着されている。代替的に、チャンバー内動力伝達部材5bは、真空チャンバー2の胴部20に固着されてもよい。
【0114】
次に、チャンバー外動力伝達部材5aと、エネルギー生成部7について説明する。
図9に記載の例では、チャンバー外動力伝達部材5aは、真空チャンバー2に連結された第1フランジ部58を含む。また、
図9に記載の例では、チャンバー外動力伝達部材5aは、ねじ棒59を含む。そして、第1フランジ部58には、ねじ棒59と螺合するねじ孔58cが設けられている。このため、ねじ棒59をねじ棒の中心軸回りに回転させると、第1フランジ部58が直線的に移動する(例えば、Z方向に移動する)。こうして、第1フランジ部58と第2フランジ部28との間の距離が変化し、伸縮部26が伸縮する。
【0115】
図9に記載の例では、ねじ棒59は、エネルギー生成部7に接続されている。
図9に記載の例では、エネルギー生成部7は、手動操作部材7bである。そして、手動操作部材7bの操作摘み72を操作すると、ねじ棒59が、ねじ棒の中心軸回りに回転する。なお、胴部20aは、電気絶縁部材であってもよい。
【0116】
図9に示されるように、電子線発生装置1は、第1フランジ部58の移動を案内するガイド部材580(例えば、ガイド棒)を備えていてもよい。
図9に記載の例では、ガイド部材580は、第1フランジ部58の貫通孔58dを貫通するように配置されている。ガイド部材580の数は、1個でもよく、2個以上であってもよい。
【0117】
第3の実施形態では、真空チャンバー2が伸縮部26を含む。このため、真空チャンバー2の容積を変化させることにより、真空チャンバー2内のチャンバー内動力伝達部材5b(および、フォトカソードホルダー3)を移動させることが可能である。なお、真空チャンバー2の容積を変化させても、真空チャンバー2内の真空度は悪化しない。
【0118】
次に、活性化容器4について説明する。
図9に記載の例では、活性化容器4は、支持部材42を介して、真空チャンバー2に取り付けられている。
図9に記載の例では、活性化容器4は、複数本の支持部材42によって吊り下げ支持されている。
【0119】
活性化容器4は、フォトカソード材料Aまたはフォトカソード材料Aから放出される電子が通過可能な第1孔44−1を備える。また、活性化容器4は、チャンバー内動力伝達部材5bが挿通される第2孔44−2を備える。
図9に記載の例では、第2孔44−2は、第1孔44−1が設けられる面とは反対側の面に設けられている。より具体的には、第1孔44−1は、活性化容器4の下面に設けられ、第2孔44−2は、活性化容器4の上面に設けられている。代替的に、第2の実施形態における活性化容器のように、第2孔44−2は、活性化容器4の側面に設けられてもよい(
図7を参照)。
【0120】
図9に記載の例では、活性化容器4が、支持部材42を介して、真空チャンバー2に支持されている。このため、活性化容器4のサイズを、第1の実施形態における活性化容器のサイズと比較して、小さくすることができる。なお、支持部材42は、アノード82が配置される側とは反対側から活性化容器4を支持することが好ましい。換言すれば、支持部材42とアノード82との間に、活性化容器4が配置されることが好ましい。支持部材42とアノード82との間に、活性化容器4が配置されることにより、支持部材42から放電が発生することが抑制される。
【0121】
第3の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0122】
また、第3の実施形態を含むいくつかの実施形態において、伸縮部26(例えば、ベローズ)が真空チャンバー2の胴部の一部を構成する場合には、単に、伸縮部を伸縮させるだけで、チャンバー内動力伝達部材5bを移動させることが可能となる。また、チャンバー内動力伝達部材5bの移動が、直線的な移動に限定されるため、動力伝達機構5をシンプルにすることが可能である。
【0123】
さらに、第3の実施形態を含むいくつかの実施形態において、活性化容器4が、支持部材42を介して、真空チャンバー2に取り付けられる場合には、活性化容器4の容積を小さくすることができる。
【0124】
また、第3の実施形態を含むいくつかの実施形態において、活性化容器4は、第1孔44−1に加えて、チャンバー内動力伝達部材5bが挿通される第2孔44−2を備えていてもよい。この場合、表面処理材料Bが、第2孔44−2を介して活性化容器4の外に放出される可能性がある。そのため、付加的に、フォトカソードホルダー3の外径を大きくすることにより、表面処理材料Bが、第2孔44−2から放出されにくくしてもよい。
【0125】
なお、第3の実施形態では、動力伝達機構5が、エネルギー生成部7からの駆動力を、フォトカソードホルダー3に伝達する例について説明された。代替的に、動力伝達機構5が、エネルギー生成部7からの駆動力を、活性化容器4に伝達するようにしてもよい。
【0126】
また、第3の実施形態では、エネルギー生成部7が、手動操作部材7bである例について説明された。代替的に、操作摘み72等を、モーターあるいはロータリーアクチュエーター等によって駆動するようにしてもよい。この場合、第3の実施形態におけるエネルギー生成部7は、駆動源7aとなる。
【0127】
(動力伝達機構の変形例1)
実施形態における動力伝達機構5は、チャンバー外動力伝達部材の振動を、チャンバー内動力伝達部材の移動に変換する動力伝達機構であってもよい。この場合、エネルギー生成部7としては、超音波モーター等の振動源(駆動源)を用いればよい。
【0128】
(動力伝達機構の変形例2)
上述の第1の実施形態乃至第3の実施形態、および、動力伝達機構の変形例1では、チャンバー外動力伝達部材が、チャンバー内動力伝達部材に、駆動力を純機械的に伝達する例について説明された。代替的に、チャンバー内動力伝達部材への駆動力の伝達の少なくとも一部は、非機械的に行われてもよい。
【0129】
動力伝達機構の変形例2では、チャンバー内動力伝達部材への駆動力の伝達が、熱的に行われる。例えば、チャンバー内動力伝達部材を形状記憶合金によって構成することを想定する。この場合、チャンバー内動力伝達部材に熱を加えることによって、形状記憶合金によって構成されたチャンバー内動力伝達部材を伸縮させることが可能である。その結果、チャンバー内動力伝達部材に連結されたフォトカソードホルダー3または活性化容器4が移動する。こうして、フォトカソードホルダー3が活性化容器4に対して相対移動する。
【0130】
なお、動力伝達機構の変形例2では、エネルギー生成部は、熱源によって構成される。そして、エネルギー生成部(熱源)は、チャンバー内動力伝達部材を駆動する熱エネルギーを生成する。なお、熱源は、真空チャンバー内に配置されてもよいし、真空チャンバー外に配置されてもよい。
【0131】
(動力伝達機構の変形例3)
上述の第1の実施形態乃至第3の実施形態、および、動力伝達機構の変形例1では、チャンバー外動力伝達部材が、チャンバー内動力伝達部材に、駆動力を純機械的に伝達する例について説明された。また、動力伝達機構の変形例2では、チャンバー内動力伝達部材に、駆動力が熱力学的に伝達される例について説明された。代替的に、チャンバー内動力伝達部材への駆動力の伝達の少なくとも一部は、磁気的または電磁気的に行われてもよい。
【0132】
変形例3では、真空チャンバー2外に配置されるチャンバー外動力伝達部材が磁石を含み、真空チャンバー内に配置されるチャンバー内動力伝達部材が磁石に引き寄せされる強磁性材料を含む。この場合、チャンバー外動力伝達部材を移動させることにより、チャンバー内動力伝達部材を移動させることが可能である。
【0133】
なお、動力伝達機構の変形例3では、エネルギー生成部7として、チャンバー外動力伝達部材を人力で移動させるための手動操作部材が採用されてもよいし、チャンバー外動力伝達部材を非人力で移動させるための駆動源が採用されてもよい。なお、変形例3において、磁石は、真空チャンバー2外に配置されている。このため、磁石の電子線軌道に対する干渉は最小限に留まる。
【0134】
上述の実施形態および変形例では、様々な動力伝達機構が説明された。しかし、電子線発生装置1によって生成される電子線の軌道への影響をできるだけ少なくするとの観点、および、活性化容器4に対するフォトカソードホルダー3の位置決めをできるだけ正確に行うとの観点から、動力伝達機構は、純機械的な動力伝達機構であることが好ましい。換言すれば、チャンバー外動力伝達部材は、チャンバー内動力伝達部材に、駆動力を純機械的に伝達することが好ましい。第3の実施形態では、真空領域内において、相対移動可能で略接触するように配置されている部材はない。したがって、表面処理材料Bを加熱するための回路、フォトカソード4を加熱するためのヒーターに通電するための回路は、第1の実施形態と同様に形成すればよい。
【0135】
(実施形態において採用可能なその他の構成)
図10乃至
図12を参照して、上述の各実施形態において採用可能なその他の構成について説明する。
【0136】
(加熱手段)
図10(a)および
図10(b)を参照して、表面処理材料Bを活性化するための加熱手段について説明する。
図10(a)および
図10(b)は、加熱手段の一例を模式的に示す図である。
【0137】
加熱手段95は、表面処理材料Bを加熱して気化する。加熱手段95は、活性化容器4全体を加熱することで内側に配置されている表面処理材料Bを間接的に加熱してもよいし、表面処理材料Bのみを直接加熱してもよい。前者の方法としては、活性化容器4に電熱コイル等の加熱手段を配置する方法、または、真空チャンバー2全体を電熱コイル、ランプヒーター等を用いて加熱して活性化容器4を加熱する方法等が挙げられる。
【0138】
また、後者の方法としては、
図10(a)および
図10(b)に示すように、加熱手段を組み合わせた表面処理材料Bを用いる方法が挙げられる。
図10(a)は表面処理材料Bの中に加熱手段95を組み込んだ例を示している。
図10(a)に記載の例では、表面処理材料Bの中心部に電熱線等の加熱手段95が挿通され、表面処理材料Bに、長手方向の切込み96が形成されている。加熱手段95に通電すると、
図10(b)に示すように、切込み96が加熱により大きくなり、大きくなった切込み96から、表面処理材料Bの気化ガスが放出される。その際、表面処理材料Bの気化ガスは、切込み96から指向性をもって放出されることから、気化ガスをフォトカソード材料Aの方向のみに向けることができる。
【0139】
(方向制御手段)
図11を参照して、気化した表面処理材料B(表面処理材料Bの気化ガス)の飛散方向を制御する方向制御手段97について説明する。
図11は、方向制御手段97の一例を模式的に示す図である。
【0140】
図11に記載の例では、2枚の方向制御板98を、表面処理材料Bを挟むように配置している。そして、気化した表面処理材料Bが飛散する角度を、第1孔44−1の端部を結んだ面に対して0度より大きく、90より小さい角度で調整できるようにしている。なお、方向制御板98の数は、2枚に限定されない。方向制御板98の数は、1枚であってもよいし、3枚以上であってもよい。
【0141】
(電極の配置)
図12を参照して、電極の配置の一例について説明する。
図12は、電極の配置の一例を模式的に示す図である。
【0142】
上述の実施形態では、フォトカソードがマイナス、アノード82がプラスの2極構造の例について説明された。代替的に、
図12に示されるように、活性化容器4を導電性材料で形成し、且つ、フォトカソードホルダー3が活性化容器4に接触しない状態で使用することで3極構造として用いることもできる。3極構造で用いる場合は、フォトカソードの電圧VAと活性化容器4の電圧VBを、VA≠VBとし、VAとVBはともに0V以下とすればよい。
【0143】
(EA表面処理方法)
実施形態における電子線発生装置1内に配置されたフォトカソード材料AのEA表面処理方法の一例について説明する。EA表面処理方法は、例えば、次の(1)〜(3)の手順により実行される。なお、EA表面処理に際しては、フォトカソードホルダー3と活性化容器4との相対位置関係は、例えば、
図3に示される位置関係、
図7に示される位置関係、あるいは、
図9に示される位置関係に設定される。
【0144】
(1)フォトカソード材料Aが支持されたフォトカソードホルダー3を真空中で300〜700℃、10分〜1時間加熱し、酸化物や炭化物などの表面不純物を除去し清浄にする。加熱温度及び時間は、使用されるフォトカソード材料に応じて適宜調整される。これにより、フォトカソード材料Aにバンドベンディングを生じさせ、真空準位をフォトカソードを形成する半導体のバンドギャップの半分程度(φB)下げることができる。
(2)フォトカソード材料Aの結晶表面に微小の光電流が得られるように、表面処理材料Bを蒸着する。その後、光電流の飽和毎に表面処理材料Bの蒸着と、必要に応じて酸素、NF
3、N
2等の気体の付加を最大の光電流が得られるまで交互に繰り返す。この方法により、残りの真空準位(φD)を下げることで、EA表面状態を形成することができる。気体の付加は、例えば、ガス供給装置92から供給される気体を、フォトカソード材料Aに吹き付けることによって行われる。なお、複数種類の表面処理材料B、例えば、Cs及びTe、Cs及びSb等をフォトカソード材料Aに蒸着する場合は、気体の付加は必ずしも必要ない。
(3)一定時間電子の放出を行った後、上記(2)の手順を行うことで、EA表面の再処理を行う。
【0145】
(電子線適用装置)
図13を参照して、電子線適用装置100(electron beam applicator)について説明する。
図13は、電子線適用装置100の機能ブロック図である。
【0146】
電子線適用装置100は、電子線発生装置1によって生成された電子を、所望の方向に向けて飛しょうさせる装置である。電子線適用装置100は、ターゲットに向けて電子を照射する装置であってもよい。
【0147】
電子線適用装置100は、電子線発生装置1を含む。電子線適用装置100は、例えば、電子銃、自由電子レーザー加速器、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡、電子線ホログラフィー装置、電子線描画装置、電子線回折装置、電子線検査装置、電子線金属積層造形装置(3Dプリンタ)、電子線リソグラフィー装置、その他の電子線加工装置(架橋、重合、デポジション、エッチング、表面改質等)、電子線硬化装置、電子線滅菌装置、電子線殺菌装置、プラズマ発生装置、原子状元素(ラジカル)発生装置、スピン偏極電子線発生装置、分析装置(カソードルミネッセンス装置、逆光電子分光装置)等である。上記の各装置において、電子線発生装置1以外の構成については、公知または周知の構成を採用すればよい。このため、各装置についての説明は省略する。
【0148】
本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施形態は適宜変形または変更され得ることが明らかである。また、各実施形態、各構成例、各変形例で用いられる任意の構成要素を、他の実施形態に組み合わせることが可能であり、また、各実施形態において任意の構成要素を省略することも可能である。