(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501301
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】トルクヒンジ及びこれを備えた各種機器
(51)【国際特許分類】
F16C 11/10 20060101AFI20190408BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
F16C11/10 B
F16C11/04 F
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-96103(P2015-96103)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-211662(P2016-211662A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】513014628
【氏名又は名称】株式会社ナチュラレーザ・ワン
(74)【代理人】
【識別番号】100076831
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 捷雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀夫
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−126880(JP,A)
【文献】
特開平9−217544(JP,A)
【文献】
特開昭58−84214(JP,A)
【文献】
実開平3−120832(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00− 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種機器の第1筐体側に取り付けられる取付部材と第2筐体側に取り付けられる支持部材とをヒンジシャフトを介して開閉可能に連結し、前記第1筐体と前記第2筐体の開閉操作時にトルク創出機構により開閉トルクを創出させるトルクヒンジであって、
前記取付部材の側に離間対向させて第1A連結筒部と第1B連結筒部を設け、前記支持部材の側に前記第1A連結筒部と前記第1B連結筒部の間に嵌入される第2連結筒部を設け、前記ヒンジシャフトを一端部に頭部を他端部側に雄ネジ部を設けたもので構成し、このヒンジシャフトで前記第1A連結筒部及び第1B連結筒部と前記第2連結筒部を連結すると共に、前記トルク創出機構を、前記第1A連結筒部と第1B連結筒部のいずれか一方の側に前記ヒンジシャフトを挿通係合させて軸方向へ非回転かつスライド可能に設けた一端部側に軸方向スライドカム部を有するスライドカム部材と、前記第1A連結筒部と第1B連結筒部のいずれか他方の側に前記スライドカム部材の前記軸方向スライドカム部に対向させて設けた固定カム部と、前記ヒンジシャフトを抱えて前記第2連結筒部内に収容されたところの両端部にそれぞれ前記軸方向スライドカム部と前記固定カム部に接して第1及び第2半径方向スライドカム部を形成させた一対の第1摩擦部材及び第2摩擦部材と、で構成し、もって前記ヒンジシャフトをいずれかの方向へ回転させることにより、前記第1摩擦部材及び第2摩擦部材の前記第2連結筒部内に対する圧接力を調節できるように成したことを特徴とする、トルクヒンジ。
【請求項2】
前記スライドカム部材が、軸直角断面非円形状の大径部と軸直角断面円形状の軸方向スライドカム部とを有し、前記大径部が前記取付部材の前記第1A連結筒部内に軸方向に移動可能かつ軸中心に回転不能なよう収容され、前記軸方向スライドカム部が前記支持部材の前記第2連結筒部の円形軸受孔内に挿入されたことを特徴とする、請求項1に記載のトルクヒンジ。
【請求項3】
前記固定カム部を廃し、前記スライドカム部材を一対設け、一方のスライドカム部材は請求項1に記載のように前記取付部材の前記第1A連結筒部内に軸方向へスライド可能かつ非回転に設けられると共に、他方のスライドカム部材が第1B連結筒部内に軸方向へスライド可能かつ非回転に設けられたことを特徴とする、請求項1に記載のトルクヒンジ。
【請求項4】
前記第1及び第2摩擦部材が、さらに複数に分割されていることを特徴とする、請求項1に記載のトルクヒンジ。
【請求項5】
前記ヒンジシャフトの一端部に形成した雄ネジ部が、前記取付部材の第1B連結筒部に設けた雌ネジ部と螺合していることを特徴とする、請求項1に記載のトルクヒンジ。
【請求項6】
前記軸方向スライドカム部と前記固定カム部は、それぞれ第1Aカム部及び第1Bカム部と第4Aカム部及び第4Bカム部とから成る楔形状に形成されており、前記第1半径方向スライドカム部と前記第2半径方向スライドカム部はそれぞれ第2Aカム部及び第2Bカム部と第3Aカム部及び第3Bカム部から成るV形状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のトルクヒンジ。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のトルクヒンジを備えたことを特徴とする、各種機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに開閉可能な第1及び第2筐体を有する電子機器、事務機器、各種収納ケース、家具、玩具等々の各種機器、とくにノートパソコン等において、そのキーボード部を有する第1筐体と、ディスプレイ部を有する第2筐体とを相対的に開閉可能に連結するトルクヒンジであって、その最適な開閉操作力や任意の開成角度でのフリーストップ機能を達成するための開閉トルクを、簡単な操作で所望の状態に調節可能なトルクヒンジ並びにこれを備えた前記の如き各種機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばノートパソコンなどに用いられているヒンジは、キーボード部を有する第1筐体に対し、ディスプレイ部を有する第2筐体を所望の開閉角度で任意に停止保持できる機能を有することが望まれることから、使用時にフリクショントルクを創出できるフリクション機能を有する、通称トルクヒンジと称されるヒンジが多く用いられている。ところがこのトルクヒンジは、とくに長期間に渡り使用頻度が高まるに連れて初期設定時のフリクショントルク値が低下するため、所望するフリクショントルク値が創出できず、第2筐体の第1筐体に対する任意の開閉角度での停止保持機能が低下するという問題があった。
【0003】
そこで、下記特許文献1に記載のトルクヒンジが開発された。その概要を
図9及び
図10を参照しつつ説明すれば、この公知のトルクヒンジ101は、例えばノートパソコンのキーボード等を備えた第1筐体に取り付けられる取付部材110と、ディスプレイ等を備えた第2筐体に取り付けられる支持部材120と、前記取付部材110に設けた左右2つの連結筒部110a、110bと前記支持部材120に設けた1つの連結筒部120aとに挿入され、前記支持部材120を前記取付部材110に対して回転可能に連結するヒンジシャフト130と、トルク創出機構とで構成され、このトルク創出機構を、左右2つのカム体140、150と、1つの摩擦円筒体160と、ナット170とで構成すると共に、前記左右2つのカム体140、150の大径部140a、150aを前記ヒンジシャフト130の外側において前記取付部材110の前記左右2つの連結筒部110a、110b内にそれぞれ嵌合させ、前記左右2つのカム体140、150の小径部140b、150bを前記ヒンジシャフト130の外側において前記支持部材120の前記連結筒部120a内に嵌合させ、前記摩擦円筒体160を前記ヒンジシャフト130の外側において前記支持部材120の前記連結筒部120a内に嵌合させ、前記左右2つのカム体140、150の前記小径部140b、150bの先端部に形成したカム斜面140c、150cを前記摩擦円筒体160の左右各端部に形成したカム斜面160a、160bにそれぞれ当接させ、前記ヒンジシャフト130の端部に形成した雄ネジ部130aを螺合させたナット170へ締め込むことによって、前記カム体140、150を互いに接近させるように前記ヒンジシャフト130の軸方向に移動させ、前記各カム斜面140c、150c、160a、160bの誘導作用によって前記摩擦円筒体160を前記ヒンジシャフト130の半径方向に移動させて、前記摩擦円筒体160の外周面160cを前記支持部材120の前記連結筒部120aの内周面120bに圧接させる(
図10参照)ことにより、前記支持部材120が前記取付部材110に対して回転するとき、前記摩擦円筒体160が前記支持部材120の前記連結筒部120aに対して回転し、前記摩擦円筒体160の外周面160cと前記連結筒部120aの内周面120bとの間にフリクショントルクを創出させ、そのフリクショントルクを、ヒンジシャフト130の締め込み量によって調節できるようにしたものである。
【0004】
しかしながら、上記の如く構成したトルクヒンジは、そのトルク創出機構のトルク値の設定の際に、既に、
図10に示す如く、摩擦円筒体160の外周面160cのうち、軸方向の長さが長い領域の部分に強いフリクショントルクが創出され、軸方向の長さが短い領域の部分ではさほどに強いフリクショントルクが創出されないか、或は間隙161が発生するため、いわゆる片ぎきとなって、安定したフリクショントルクが創出できない上に、この傾向はトルク創出機構によるフリクショントルクの経時的変動と使用頻度増大に伴い変動するヒンジトルクを調節するためにヒンジシャフトを締め付けるとさらに増大するという問題があった。また、このことに伴い、取付部材及び支持部材の回転操作時のフリクショントルクが不安定になり易く、取付部材及び第2筐体の開閉操作感の円滑さが損なわれたり、ヒンジの寿命にも悪影響を及ぼすものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4130203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題点を解決するために創作されたものであり、取付部材及び支持部材の回転摩擦部の面圧のかかる方向と力を均等に分散させ、取付部材及び支持部材の回転操作時のフリクショントルクを安定させることにより、第1筐体と第2筐体の開閉操作感の円滑さを確保し、ヒンジ寿命を延ばすことが可能なトルクヒンジ並びにこのトルクヒンジを用いたノートパソコン等の各種機器を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1発明は、各種機器の第1筐体側に取り付けられる取付部材と第2筐体側に取り付けられる支持部材とをヒンジシャフトを介して開閉可能に連結し、前記第1筐体と前記第2筐体の開閉時にトルク創出機構により開閉トルクを創出させるトルクヒンジであって、
前記取付部材の側に離間対向させて第1A連結筒部と第1B連結筒部を設け、前記支持部材の側に前記第1A連結筒部と前記第1B連結筒部の間に嵌入される第2連結筒部を設け、前記ヒンジシャフトを一端部に頭部を他端部側に雄ネジ部を設けたもので構成し、このヒンジシャフトで前記第1A連結筒部及び第1B連結筒部と前記第2連結筒部を連結すると共に、前記トルク創出機構を、前記第1A連結筒部と第1B連結筒部のいずれか一方の側に前記ヒンジシャフトを挿通係合させて軸方向へ非回転かつスライド可能に設けた一端部側に軸方向スライドカム部を有するスライドカム部材と、前記第1A連結筒部と第1B連結筒部のいずれか他方の側に前記スライドカム部材の前記軸方向スライドカム部に対向させて設けた固定カム部と、前記ヒンジシャフトを抱えて前記第2連結筒部内に収容されたところの両端部にそれぞれ前記軸方向スライドカム部と前記固定カム部に接して第1及び第2半径方向スライドカム部を形成させた一対の第1摩擦部材及び第2摩擦部材と、で構成し、もって前記ヒンジシャフトをいずれかの方向へ回転させることにより、前記第1摩擦部材及び第2摩擦部材の前記第2連結筒部内に対する圧接力を調節できるように成したことを特徴とする。
【0008】
その際に、請求項2に係る発明は、前記スライドカム部材が、軸直角断面非円形状の大径部と軸直角断面円形状の軸方向スライドカム部とを有し、前記大径部が前記取付部材の前記第1A連結筒部内に軸方向に移動可能かつ軸中心に回転不能なよう収容され、前記軸方向スライドカム部が前記支持部材の前記第2連結筒部の円形軸受孔内に挿入されるように成したことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、前記固定カム部を廃し、前記スライドカム部材を一対設け、一方のスライドカム部材は請求項1に記載のように前記取付部材の前記第1A連結筒部内に軸方向へスライド可能かつ非回転に設けられると共に、他方のスライドカム部材が第1B連結筒部内に軸方向へスライド可能かつ非回転に設けられたことを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項4に係る発明は、前記第1及び第2摩擦部材が、さらに複数に分割されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項5に係る発明は、前記ヒンジシャフトの一端部に形成した雄ネジ部が、前記取付部材の第1B連結筒部に設けた雌ネジ部と螺合していることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項6に係る発明は、前記軸方向スライドカム部と前記固定カム部を、それぞれ第1Aカム部及び第1Bカム部と第4Aカム部及び第4Bカム部とから成る楔形状に形成し、前記第1半径方向スライドカム部と前記第2半径方向スライドカム部を、それぞれ第2Aカム部及び第2Bカム部と第3Aカム部及び第3Bカム部から成るV形状に形成したことを特徴とする
【0013】
そして、請求項7に係る発明は、各種機器に前記請求項1〜6に記載のトルクヒンジを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上のように構成したので、本発明に係るトルクヒンジにおいては、前記前記スライドカム部材及び固定カム部間の距離を縮めるよう前記トルク創出機構のヒンジシャフトを操作すると、前記複数の摩擦部材が半径方向外側へ移動するので、それら複数の摩擦部材の外周面がそれぞれ前記支持部材の前記第2連結筒部の内周面に圧接する力を調節できるので、第1筺体と第2筺体の開閉操作に伴う取付部材及び支持部材の回転時のフリクショントルクを調節することができるものである。このことにより、本発明に係るトルクヒンジの各種機器に対する取付時のトルク調節、並びに取付後のトルクの経時的変動と使用頻度が増大した後におけるトルク調節においても安定したフリクショントルクを創出させることができると共に、開閉操作感の円滑さを確保し、ヒンジ寿命を延ばすことが可能なトルクヒンジ及びこれを備えたノートパソコン等の各種機器を提供し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るトルクヒンジの使用状態を示す各種機器の一例としてのノートパソコンの斜視図である。
【
図2】本発明に係るトルクヒンジの一実施例を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示したトルクヒンジの分解斜視図である。
【
図4】
図2に示したトルクヒンジのA−A線断面図である。
【
図5】
図2に示したトルクヒンジのトルク創出機構の動作を説明する説明図である。
【
図6】
図2に示したトルクヒンジにおけるスライドカム部材を示し、(a)はその斜視図、(b)はその正面図、(c)はその平面図である。
【
図7】
図2に示したトルクヒンジにおける取付部材を示し、(a)は上面方向から見た斜視図、(b)は底面方向から見た斜視図、(c)一部断面平面図である。
【
図8】
図2に示したトルクヒンジにおける支持部材を示し、(a)はその下面側から見た斜視図、(b)はその平面図である。
【
図9】従来公知のトルクヒンジの一例の分解斜視図である。
【
図10】
図9に示した従来公知のトルクヒンジにおけるヒンジシャフトの軸方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るトルクヒンジの好適な実施例を図面に基づいて説明する。本発明に係るトルクヒンジは、左右一対用いられても良いが、左右一対のトルクヒンジのうち一方のものに本発明に係るトルクヒンジを用い、もう一方のものには、従来公知のヒンジなど、別種のヒンジを用いることも可能である。
【0017】
また、以下の説明では、本発明に係るトルクヒンジをノートパソコンに取り付けた例について説明するが、本発明のトルクヒンジは、開閉可能な第1及び第2筐体を有する電子機器、事務機器、各種収納ケース、家具、玩具、その他の様々な機器に取り付けて広く利用できるものであり、これらすべてを含めて、本願では、本発明に係るトルクヒンジを用いる対象物を「各種機器」と称する。
【0018】
図面によれば、
図1において、本発明に係るトルクヒンジ1A、1Bは、同図では詳細な構成を図示していないが、
図1に点線で示したように例えばノートパソコン2の第1筐体21の後部に対して第2筐体22を相対的に開閉可能に連結支持するために用いられる。上記第1筐体21にはキーボード部23が設けられ、第2筐体22にはディスプレイ部24が設けられている。
【0019】
これらのトルクヒンジ1A、1Bは、図示した実施例では同じ構成のものを左右一対設けたものであるので、以下では一方のトルクヒンジ1Aについてのみ
図2〜
図8を参照しつつ説明する。トルクヒンジ1Aの取付部材11と支持部材12は、ヒンジシャフト13によって互いに回転可能に連結されており、ノートパソコン2の前記第1筐体21と第2筐体22を閉じたときには、互いに重ね合わされるようになっている。
【0020】
取付部材11は、取付ベース部11aと、この取付ベース部11aの両端領域に互いに離間して設けられた一対の第1A連結筒部11b、第1B連結筒部11cとを有し、取付ベース部11aには取付ネジ孔11k、11kが設けられ、適宜の取付ネジ等によって前記第1筐体21に取り付けられるようになっている。この取付部材11の材質としては、実施例のものはプラスチックなどの機械的強度のある合成樹脂であるが、トルクヒンジ1Aの使用目的に応じて、金属で製作しても良い。合成樹脂の場合は、射出成型等により低コストで量産できる。この点は、以下に説明する支持部材12、スライドカム部材14、第1摩擦部材16、及び第2摩擦部材17についても同様である。
【0021】
一方、支持部材12は、取付ベース部12aと、この取付ベース部12aの一端部側の中央位置に設けられた第2連結筒部12bとを有し、取付ベース部12aには取付ネジ孔12e、12eが明けられ、適宜の取付ネジ等によって前記第2筐体22に取り付けられるようになっている。
【0022】
前記取付部材11の取付ベース部11aの一端部側に互いに離間して設けられた前記一対の第1A連結筒部11bと第1B連結筒部11cの間に、前記支持部材12の第2連結筒部12bが嵌入され、これらの第1A連結筒部11b、第1B連結筒部11c及び第2連結筒部12b内にヒンジシャフト13を挿通し、ヒンジシャフト13の先端部の雄ネジ部13dにナット18を螺合することにより、前記支持部材12を前記取付部材11に対して回転可能に連結する。
【0023】
より具体的には、前記取付部材11の第1A連結筒部11b内にはスライドカム部材14とワッシャー19を収容し、前記支持部材12の第2連結筒部12b内には2本の第1摩擦部材16及び第2摩擦部材17をヒンジシャフト13を抱える状態で収容し、更に前記取付部材11の第1B連結筒部11c内には、固定カム部11fを第1B連結筒部11cと一体的に形成し、前記ヒンジシャフト13を、前記ワッシャー19の中心孔19aと、スライドカム部材14のシャフト挿通孔14eと、第1摩擦部材16、第2摩擦部材17の内周面16b、17b間と、取付部材11の第1B連結筒部11cの軸受孔11jとに挿通し、ヒンジシャフト13の先端側の雄ネジ部13dをナット18に締め込むことによって、前記取付部材11と支持部材12を互いに回転可能なように連結する。
【0024】
取付部材11の片方の第1A連結筒部11bには、軸直角断面が6角形状の変形軸受孔11dが明けられ、その内部に前記スライドカム部材14の大径部14aが、その軸中心に回転不能なように、かつ、軸方向に移動可能なように収容される。即ち、スライドカム部材14の大径部14aは、その軸直角断面が、取付部材11の前記第1A連結筒部11bの変形軸受孔11dの軸直角断面と同形の6角形状に形成されることにより、前記大径部14aは、前記第1A連結筒部11b内に軸中心に回転不能、かつ、軸方向に移動可能なように収容、保持されている。尚、取付部材11の第1A連結筒部11bの変形軸受孔11dの形状は6角形状に限らず、非円形であれば各種形状が採用でき、それに対応してスライドカム部材14の大径部14aの軸直角断面の形状も各種の形状が採用できる。
【0025】
取付部材11の他方の第1B連結筒部11cには、図示した実施例においては、前記第1A連結筒部11bと対向する端部側に、変形軸受孔11dと同じ大きさの軸直角断面が6角形状のカム形成室11eが形成され、その内部に固定カム部11fが第1B連結筒部11cと一体的に形成されている。尚、カム形成室11eは軸直角断面が円形状であっても良い。第1B連結筒部11cのもう一方の端部側には、ナット18を回転不能に収容、保持するナット穴11iが形成され、カム形成室11eからナット穴11iに軸受孔11jが形成されている。前記スライドカム部材14の軸方向スライドカム部14bの第1Aカム部14c及び第1Bカム部14dと固定カム部11fの第4Aカム部11g及び第4Bカム部11hは、図示した実施例においては、円筒の周壁の両側を互いに対称に斜めにカットしたような形状(
図3〜
図6参照)をしており、後述する第1摩擦部材16の第2Aカム部16c及び第2Bカム部16dと第2摩擦部材17の第3Aカム部17c及び第3Bカム部17dから成る第1半径方向スライドカム部20a及び第2半径方向スライドカム部20bとそれぞれ摺接するようになっている。尚、前記固定カム部11fは、必ずしも第1B連結筒部11cと一体的に形成する必要はなく、スライドカム部材14のように第1B連結筒部11cとは別体で例えばプラスチック材料を用いて射出成型などで製作したものを用いても良い。この場合には、固定カム部11fは省略され、スライドカム部材14と同じように、第1B連結筒部11c内に非回転かつ軸方向へスライド可能に前記カム形成室11e内に収容させるものである。尚、図示した実施例において、取付部材11の底面には、軽量化のため、
図7に示す如く、複数の凹部11m、11n、11pが形成されている。
【0026】
支持部材12の前記第2連結筒部12bには円形軸受孔12cが形成され、その内部に、図示した実施例においては、スライドカム部材14の軸方向スライドカム部14bと、2本の第1摩擦部材16と第2摩擦部材17が収容されるようになっている。支持部材12の底面にも、軽量化のため、
図8に示す如く、複数の凹部12f、12g、12hが形成されている。
【0027】
スライドカム部材14は、前記の如く、軸直角断面非円形状の大径部14aと軸直角断面円形状の軸方向スライドカム部14bとを有し、
図4に示す如く、前記大径部14aが取付部材11の前記第1A連結筒部11b内に設けた変形軸受孔11d内に軸方向に移動可能かつ軸中心に回転不能なよう収容され、また、前記軸方向スライドカム部14bが前記支持部材12の前記第2連結筒部12b内に挿入されるようになっている。前記軸方向スライドカム部14bには第1Aカム部14cと第1Bカム部14dが形成され、これらの第1Aカム部14cと第1Bカム部14dは、軸方向スライドカム部14bの円筒状の周壁の両側を互いに対称に斜めにカットしたような楔形状(
図3、
図4、
図5参照)を呈し、後述する第1摩擦部材16の第2Aカム部16c、及び第2摩擦部材17の第3Aカム部17cとそれぞれ摺接するようになっている。
【0028】
第1摩擦部材16と第2摩擦部材17は、同一の形状と寸法を有し、図示した実施例において、円筒体をその軸方向に沿って縦に2分割したような軸直角断面円弧形状を成し(
図3参照)、前記支持部材12の第2連結筒部12bの円形軸受孔12cの内周面12dの曲率半径と同一またはそれより僅かに小さな曲率半径を有する外周面16a、17aと、ヒンジシャフト13の主軸部13a及び雄ネジ部13dの外周面の曲率半径と同一またはそれより僅かに大きな曲率半径を有する内周面16b、17bと、前記スライドカム部材14の第1Aカム部14c及び第1Bカム部14dとそれぞれ摺接する軸方向に斜めにカットした第2Aカム部16c及び第3Aカム部17cと、前記固定カム部11fの第4Aカム部11g及び第4Bカム部11hとそれぞれ摺接する同じく軸方向に斜めにカットした第2Bカム部16d及び第3Bカム部17dとを有している。
【0029】
これらの第1摩擦部材16と第2摩擦部材17は、
図2、
図4、
図5に示すように、前記支持部材12の前記第2連結筒部12bの円形軸受孔12cの内周面12dと前記ヒンジシャフト13の外周面との間において、前記スライドカム部材14と固定カム部11fの間に挟持されるような状態で収容される。これらの第1摩擦部材16と第2摩擦部材17の肉厚は、前記支持部材12の第2連結筒部12bの円形軸受孔12cの内周面12dと前記ヒンジシャフト13の外周面との間の間隔よりも短く設定される。また、第1摩擦部材16と第2摩擦部材17の軸方向の両端部と第1A連結筒部11bと第1B連結筒部11cの軸方向と半径方向との間には、
図4に示したように、第1摩擦部材16と第2摩擦部材17の軸方向及び半径方向の移動を許容する間隙a、a’と間隙b、b’が設けられている。
【0030】
つまり、以上のように、スライドカム部材14の軸方向スライドカム部14bの先端側は、第1Aカム部14c及び第1Bカム部14dによって、固定カム部11fは、第4Aカム部11g及び第4Bカム部11hによって、それぞれ楔形状の凸部を形成し、第1摩擦部材16と第2摩擦部材17の各両端部は第2Aカム部16c及び第2Bカム部16dと、第3Aカム部17c及び第3Bカム部17dにより、前記各凸部を収容する凹部を形成する一対の第1半径方向スライドカム部20a及び第2半径方向スライドカム部20bを形成しており、前記各凸部が前記各凹部に対して進退することにより、第1摩擦部材16と第2摩擦部材17が半径方向へ移動して第2連結筒部12b内との間でフリクショントルクが調節される構成である。
【0031】
前記支持部材12を前記取付部材11に対して回転可能に連結するヒンジシャフト13は、
図2〜
図5に示す如く、主軸部13aと、その一端に設けた頭部13bと、この頭部13bに設けた工具穴13cと、主軸部13aの他端部側に設けた雄ネジ部13dとを有している。ヒンジシャフト13は、前記の如く、前記ワッシャー19の中心孔19aから、スライドカム部材14のシャフト挿通孔14e、第1摩擦部材16、第2摩擦部材17の内周面16b、17b間を通過し、取付部材11の第1B連結筒部11cの軸受孔11jへ挿通され、ヒンジシャフト13の先端側の雄ネジ部13dをナット18に締め込むことによって、前記取付部材11と支持部材12が互いに回転可能に連結されるようになっている。この場合において、ヒンジシャフト13の雄ネジ部13dへのナット18の締め込み量を増減することによって、スライドカム部材14が固定カム部11fに対して接近、開離するので、ヒンジシャフト13の雄ネジ部13dとナット18とによって、前記スライドカム部材14と固定カム部11fとの間の距離を調節するようになっている。ヒンジシャフト13やナット18の材質は、通常は金属であるが、特殊な使用目的の場合にはプラスチックで作製することを排除するものではない。
【0032】
トルク創出機構15は、前記第1A連結筒部11bの側に前記ヒンジシャフト13を挿通係合させて軸方向へ非回転かつスライド可能に設けた一端部側に第1Aカム部14c及び第1Bカム部14dを有するスライドカム部材14と、第1B連結筒部11cの側に前記スライドカム部材14の前記第1Aカム部14c及び第1Bカム部14dに対向させて設けた第4Aカム部11g及び第4Bカム部11hを有する固定カム部11fと、前記ヒンジシャフト13を抱えて前記第2連結筒部12b内に収容されたところの両端部にそれぞれ前記第1Aカム部14c及び第1Bカム部14dと前記第4Aカム部11g及び第4Bカム部11hに接して第2Aカム部16cと第2Bカム部16d及び第3Aカム部17cと第3Bカム部17dを設けた一対の第1摩擦部材16及び第2摩擦部材17とで構成し、もって、前記ヒンジシャフト13をいずれかの方向へ回転させることにより、前記第1摩擦部材16及び第2摩擦部材17の外周面が前記第2連結筒部12bの内周面12dに圧接する強度を調節できるように構成してある。
【0033】
次に、前記の如く構成された本発明に係るトルクヒンジ1Aの機能について説明する。
図4に示すように、本発明に係るトルクヒンジ1Aは、納品時において第1摩擦部材16と第2摩擦部材17の各外周面16aと17aが支持部材12の第2連結筒部12bの内周面12dに圧接しており、第1筐体21に対して第2筐体22を開閉させると取付部材11に対して支持部材12が回転し、第1摩擦部材16と第2摩擦部材17の各外周面16a、17aと支持部材12の第2連結筒部12bの内周面12dとの間にフリクショントルクが創出され、このトルク値は意図した値に設定される。
【0034】
但し、本発明に係るトルクヒンジ1Aは、そのトルク値を任意に変更することが可能なので、納入先或はトルクヒンジの製造メーカーにおいて、必要ならば後述するように、ヒンジシャフト13を操作して任意にトルク値を変更することができる。この点が、フリクションワッシャーとスプリングワッシャーとをかしめによって、フリクショントルクを創出させるものに比べて、有利な点である。
【0035】
トルクヒンジは、一般的には使用するにつれてトルク値が変動しトルクダウンを生ずるのを避けることができない。また、本発明に係るトルクヒンジは、使用後のトルク値の変動に対応するものであるが、トルクヒンジを各種機器へ取り付ける段階において、上述したように、トルク値を調節する必要のある場合もある。本発明に係るトルクヒンジ1Aは、この場合にも対応できる。この場合には、ヒンジシャフト13を締め付けるのではなく、緩める場合もある。トルク値の初期動作時の経時的変動、或は長年に渡る使用の結果、トルク値が変動したときに本発明に係るトルクヒンジ1Aは、トルク値を調節して、必要なトルク値にして対応し、また、安定したフリーストップ機能を取り戻すことができるものである。
【0036】
このトルク値の調節は、ヒンジシャフト13の頭部13bに設けた工具穴13cに6角レンチ等の工具を差し込み、ヒンジシャフト13を捩じることにより、ナット18に締め込んで、ヒンジシャフト13の頭部13bとナット18との距離を短くすると、前記スライドカム部材14が固定カム部11fに近づく方向に移動させられる。これに伴って、第1摩擦部材16は、その一方の第2Aカム部16cがスライドカム部材14の第1Aカム部14cと摺接し、もう一方の第2Bカム部16dが固定カム部11fの第4Aカム部11gと摺接していることにより、上記の如きスライドカム部材14と固定カム部11fとの間の距離の縮小により、第1摩擦部材16は、これらの各カム部のガイド作用によって、半径方向外側へ移動させられる。これにより第1摩擦部材16の外周面16aと円形軸受孔12cの内周面12dとがより強く圧接する。これと同時に、第1摩擦部材16の内周面16bと前記ヒンジシャフト13の外周面との間には間隙13eが生じる場合もある。同様に、第2摩擦部材17は、その一方の第3Aカム部17cがスライドカム部材14の第1Bカム部14dと摺接し、もう一方の第3Bカム部17dが固定カム部11fの第4Bカム部11hと摺接していることにより、上記の如きスライドカム部材14と固定カム部11fとの間の距離の縮小により、第2摩擦部材17は、これらの各カム部のガイド作用によって、半径方向外側へ移動させられる。これにより、第2摩擦部材17の外周面17aと円形軸受孔12cの内周面12dとが圧接する。これと同時に、第2摩擦部材17の内周面17bと前記ヒンジシャフト13の外周面との間には間隙13fが生じる場合もある。
【0037】
このように、第1摩擦部材16の外周面16a及び第2摩擦部材17の外周面17aが、支持部材12の円形軸受孔12cの内周面12dと圧接することにより、これらの間にフリクショントルクが発生し、前記支持部材12を前記取付部材11に対して回転するときにフリクショントルクを発生させることができる。即ち、第1筐体21に対する第2筐体22の開閉操作時に取付部材11と支持部材12を互いに回転させようとすると、取付部材11の第1A連結筒部11b及び第1B連結筒部11c内に軸中心に回転不能に設けられた前記スライドカム部材14及び固定カム部11fは前記取付部材11と共に回転し、これと一緒に前記第1摩擦部材16及び第2摩擦部材17も回転しようとするが、前記第1摩擦部材16及び第2摩擦部材17の外周面16a、17aは前記支持部材12の円形軸受孔12cの内周面12dと圧接し、フリクショントルクを発生させるため、取付部材11と支持部材12を互いに回転させるには相当の操作力が必要となる。したがって、取付部材11と支持部材12にそれぞれ取り付けられている前記第1筐体21と第2筐体22を開閉するには、所定の開閉操作力を必要とし、第1筐体21と第2筐体22を任意の開成角度に保持するフリーストップ機能を達成することが可能となる。また、前記ヒンジシャフト13を捩じってナット18の締め込み量を変更するという簡単な操作により、取付部材11と支持部材12の回転トルクを容易に調節することが可能となる。
【0038】
その他の実施例として、ヒンジシャフト13の雄ネジ部13dに取り付けるナット18については、これを省略し、ヒンジシャフト13の雄ネジ部13dを直に第1B連結筒部11cに設けた雌ネジ部へネジ着させることも可能である。さらに、スライドカム部材14は、これを一対とし、一方は上述したように第1A連結筒部11bに取り付け、他方を第1B連結筒部11cに上述したように装着するように実施しても良い。この場合には、上述した固定カム部11fは省略すること認ある。また、摩擦部材は、前述した一対の第1摩擦部材16と第2摩擦部材17に限らず、例えば3〜8個程度の範囲内で適宜変更することも可能であり、その個数に応じてスライドカム部材14及び固定カム部11fに設けるカム部の形状や数も変更される。さらにまた、その他の各部材の形状、サイズ、等々も使用目的等に応じて適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、以上のように構成したので、本発明に係るトルクヒンジにおいては、スライドカム部材及び固定カム部間の距離を伸縮するよう前記ヒンジシャフトを操作し、前記複数の摩擦部材を半径方向へ移動させると、それら複数の摩擦部材の外周面がそれぞれ前記支持部材の前記連結筒部の内周面に圧接する力を調節でき、トルク値の調節を任意に行うことができるものである。その際に、第1摩擦部材と第2摩擦部材によって面圧のかかる方向と力が均等に分散されるため、本発明に係るトルクヒンジは、取付部材及び支持部材の回転操作時のフリクショントルクを安定させることができると共に、開閉操作感の円滑さを確保し、ヒンジ寿命を延ばすことが可能なトルクヒンジ、或はこのトルクヒンジを用いた各種機器として好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0040】
1A、1B トルクヒンジ
11 取付部材
11b 第1A連結筒部
11c 第1B連結筒部
11f 固定カム部
11g 第4Aカム部
11h 第4Bカム部
12 支持部材
12b 第2連結筒部
12c 円形軸受孔
13 ヒンジシャフト
13b 頭部
13d 雄ネジ部
14 スライドカム部材
14a 大径部
14b 軸方向スライドカム部
14c 第1Aカム部
14d 第1Bカム部
15 トルク創出機構
16 第1摩擦部材
16c 第2Aカム部
16d 第2Bカム部
17 第2摩擦部材
17c 第3Aカム部
17d 第3Bカム部
2 ノートパソコン
21 第1筐体
22 第2筐体
20a 第1半径方向スライドカム部
20b 第2半径方向スライドカム部