(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501303
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】微粒子化ペロブスカイト膜及びそれを用いた機能性素子
(51)【国際特許分類】
C01G 21/16 20060101AFI20190408BHJP
H01L 51/44 20060101ALI20190408BHJP
H01L 21/312 20060101ALI20190408BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20190408BHJP
H01L 35/24 20060101ALI20190408BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20190408BHJP
H01L 51/46 20060101ALI20190408BHJP
H01L 35/14 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
C01G21/16
H01L31/04 112Z
H01L21/312 A
H01L41/187
H01L35/24
H01L41/193
H01L31/04 154Z
H01L35/14
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-110392(P2015-110392)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-222492(P2016-222492A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年4月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.ウェブサイトの掲載日:平成27年5月27日 2.ウェブサイトのアドレス http://em−nano2015.eng.niigata−u.ac.jp/index.html http://em−nano2015.eng.niigata−u.ac.jp/PosterProgram.pdf
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度,独立行政法人科学技術振興機構,戦略的創造研究推進事業[個人型研究(さきがけ)],産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】當摩 哲也
(72)【発明者】
【氏名】モハマド シャヒドゥザマン
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃平
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−092563(JP,A)
【文献】
特開2013−044016(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/171517(WO,A1)
【文献】
特開2016−207967(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/083783(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/099412(WO,A1)
【文献】
MOORE, David T. et al.,Chem. Mater.,2015年 4月20日,No.27,P.3197-3199
【文献】
LU, Hanfeng,Chem. Commun.,2015年 2月19日,Vol.51,P.5910-5913
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
H01L 21/312
H01L 35/14
H01L 35/24
H01L 41/187
H01L 41/193
H01L 51/44
H01L 51/46
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型結晶を生成する前駆体物質とイオン液体とを溶媒に溶解した溶液を塗布及び乾燥し、その後にアニーリング処理することで得られる、微粒子化ペロブスカイト膜の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体物質は、ハロゲン化アルキルアミンとハロゲン化金属との混合物であることを特徴とする請求項1記載の微粒子化ペロブスカイト膜の製造方法。
【請求項3】
前記イオン液体は、イミダゾリム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩のうち、いずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の微粒子化ペロブスカイト膜の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒は、アミド系溶媒、ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドのうちいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微粒子化ペロブスカイト膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で製造された微粒子化ペロブスカイト膜を用いたことを特徴とする機能性素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペロブスカイト型結晶膜に関し、特にナノサイズレベルに微粒子化された結晶膜に係る。
【背景技術】
【0002】
光吸収の機能に有機と無機の材料を組み合わせたハイブリッド型の薄膜太陽電池の分野において、ペロブスカイト型結晶を光発電材料に用いた例が報告されている(非特許文献1)。
この分野において光発電変換効率のさらなる向上や安定した性能、耐久性等の改善が要求されている。
【0003】
特許文献1には溶液中でナノ粒子を形成するのにイオン液体を用いた例が開示されているが、この技術は溶液中でナノ粒子を形成するためのものであり、結晶膜の形成過程でナノ微粒子化を図ったものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】宮坂力,「ペロブスカイト型太陽電池の登場」,現代化学2014年3月号,P24−29
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−515746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ナノレベルに微粒子化された機能性の高いペロブスカイト型結晶膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る微粒子化ペロブスカイト膜は、ペロブスカイト型結晶を生成する前駆体物質とイオン液体とを溶媒に溶解した溶液を塗布及び乾燥することで得られることを特徴とする。
【0008】
ここで、ペロブスカイト型結晶を生成する前駆体物質とは、それらが含まれる溶液を基材等に塗布及び乾燥させる過程において、ペロブスカイト(灰チタン石)と同じ結晶構造を有する結晶形が得られる物質をいう。
【0009】
ペロブスカイト結晶構造を、CH
3NH
3PbI
3の例で模式化した図を
図3に示す。
立方晶の各頂点にA:CH
3NH
3+,体心にB:Pbを有し、X:I
−が立方晶の各面心に有する。
このようなBX
6型の八面体は相互の影響を受けやすく、容易に歪みが生じ、大きく物性が変化することが知られている。
例えば、光発電材料においては(110)結晶面が電荷輸送面となる。
【0010】
本発明において、前記前駆体物質は、ハロゲン化アルキルアミンとハロゲン化金属との混合物が例として挙げられる。
例えば、CH
3NH
3IとPbI
2とを溶媒に溶解する例が挙げられる。
【0011】
本発明において、前記イオン液体は、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩等が例として挙げられる。
イミダゾリウム塩を形成するイミダゾリウムカチオンには、1-Hexyl-3-methylimidazolium,1-Butyl-3-methylimidazolium,1-Ethyl-2,3-dimethylimidazolium,1-Dodecyl-3-methylimidazolium等が例として挙げられる。
塩としてはそれらの、halide,tetrafluoroborate,hexafluorophosphate,acetate,hydrogensulfate,alkylsulfate,tosylate,methanesulfonate等が例として挙げられる。
【0012】
溶媒としてはアミド系溶媒,ブチロラクトン,ジメチルスルホキシド(DMSO)が例として挙げられ、アミド系溶媒には、ジメチルホルムアミド(DMF),ジエチルホルムアミド(DEF),ジエチルアセトアミド(DMAC),N−メチルピロリドン(MPD),テトラメチルユリア(TMU),ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等が例として挙げられる。
【0013】
このようにして得られたペロブスカイト膜は、径が1μm以下のナノサイズレベルの微粒子化された結晶構造を有し、光発電変換素子、圧電変換素子、熱電変換素子等の各種機能性素子への応用が期待される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るペロブスカイト結晶膜は、前駆体物質を溶媒に溶解した溶液にイオン液体を加えることで、このイオン液体が溶媒の急激な揮発するのを抑えつつ、結晶の急激な成長を抑えることでナノ微粒子化するものと推定され、従来のペロブスカイト結晶膜に比較して光学特性等が大きく変化した機能性の高い結晶膜となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る微粒子化ペロブスカイト膜の製造プロセスを模式的に示す。
【
図2】イオン液体を加えた結晶膜と加えない結晶膜の比較を模式的に示す。
【
図3】CH
3NH
3PbI
3の結晶構造を模式的に示す。
【
図4】(a),(b),(c)はイオン液体を加えない場合の構造膜のSEM像を示し、(d),(e),(f)はイオン液体を1wt%加えた場合の膜構造のSEM像を示す。
【
図5】(a)はペロブスカイト膜を生成させるための溶液をスピンコートする前の基材(TiOxfilm)のAFM像を示し、(b)はイオン液体を加えないペロブスカイト膜、(c)はイオン液体1wt%加えたペロブスカイト膜のAFM像を示す。
【
図6】ペロブスカイト膜の生成用溶液をスピンコートした後のアニーリング温度とその膜のXRDパターンを示す。
【
図7】
図6に示した膜のAFM像を示し、(a)はRT,(b)は70℃,(c)は100℃,(d)は130℃でそれぞれ10分間実施したものである。
【
図8】イオン液体の有無によるペロブスカイト膜の吸光度比較を示す。
【
図9】イオン液体の有無によるペロブスカイト膜のFTIRスペクトル比較を示す。
【
図10】イオン液体の添加量を変化させた際の微粒子変化のSEM像を示す。(a)は3wt%、(b)は7wt%、(c)は10wt%である。
【
図11】イオン液体の添加量とそれにより得られたペロブスカイト膜の吸光度比較をグラフに示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ペロブスカイト膜としてCH
3NH
3PbI
3を例に説明するが本発明はこれに限定されない。
【0017】
溶媒としてDMF(ジメチルホルムアミド)を用い、前駆体物質CH
3NH
3IとPbI
2とを溶解した(濃度25wt%)。
これにイオン溶液として1-Hexyl-3-methylimidazoliumchloride(HMImCl)を1wt%加えた、この状態では
図2に示すように透明な液体(溶液)であった。
これをTiOx/ITO基材の表面にスピンコートし、
図1にプロセスを模式的に示すように、常温で30分保持後に所定の温度でアニーリング処理した。
比較のためにイオン液体を加えないものも製作した。
生成された膜のSEM像を
図4にAFM像を
図5に示す。
図4(a)〜(c)及び
図5(b)は、イオン液体を加えない場合であり、リボン状の構造膜になっているのに対して本発明によるイオン溶液を加えたものは、
図4(d)〜(f),
図5(c)に示すように1μm以下のナノサイズレベルの微粒子が集合した膜構造になっていた。
【0018】
図6にアニーリング温度を変化させた際のXRDチャートを示し、
図7にそのAFM像を示す。
図7(a)はRT,(b)は70℃,(c)は100℃,(d)は130℃で、それぞれ10分間の処理である。
アニーリング処理にて、微粒子化されたペロブスカイト膜が得られていることが分かる。
図8,
図9にイオン液体の有無による吸光度比較したグラフを示す。
イオン液体の添加により光学特性が変化していることがわかる。
図10,
図11にはイオン液体の添加量の影響を調査した結果を示す。
図10で(a)はイオン液体の添加量3wt%,(b)は7wt%,(c)は10wt%のSEM像である。
これによりイオン液体の添加量も膜構造に影響を与え、本実施例に用いたイオン液体の場合は7wt%以下が好ましいことが分かる。
また、ペロブスカイト膜構造は従来のイオン液体の加えないものがリボン構造であったのに対して、イオン液体を加えることにより、膜構造がナノ微粒子構造になることで特性が大きく変化することが明らかになり、従来のペロブスカイト結晶を光発電材料に用いた薄膜太陽電池の変換効率向上が期待される。