(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車両に搭載されるエンジンの駆動力を互いに変速比の異なる複数の変速段によって変速しつつ車両の駆動輪に伝達するトランスミッションと、トランスミッションにおける複数の変速段を選択的に切り替えるシフトアクチュエータと、エンジンから伝達される駆動力をトランスミッションに伝達または遮断するクラッチと、クラッチにおける駆動力の伝達と遮断とを相互に切り替えるクラッチアクチュエータと、シフトアクチュエータおよびクラッチアクチュエータの作動をそれぞれ制御する制御装置とを備えた車両用動力伝達システムにおいて、車両の走行状態か停止状態かを検出するための走行状態検出センサと、クラッチアクチュエータの正常か異常かを検出するためのCA異常検出センサと、トランスミッションにおける複数の変速段の選択状態を検出するためのシフトポジションセンサとを備え、制御装置は、走行状態検出センサおよびCA異常検出センサを用いて車両が走行状態でかつクラッチアクチュエータの異常を検出したとき、シフトアクチュエータの作動を制御してトランスミッションにおける変速段を
1段ずつ変速比が低い(減速比が大きい)変速段に切り替えつつ車両が停止する前にニュートラル状態に移行させることにある。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、車両が走行状態でかつクラッチアクチュエータの異常を検出したとき、シフトアクチュエータの作動を制御してトランスミッションにおける変速段を現在の変速段から変速比が低い(減速比が大きい)変速段、すなわち、ローギアに順次切り替えて車両が停止する前にニュートラル状態に移行させるため、車両の速度をエンジンブレーキを利用しながら徐々に減少させて停止させることができる。この結果、車両用動力伝達システムは、エンジンストールを防止しつつ早期に車両を減速させて停車時には車両を移動させることができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記車両用動力伝達システムにおいて、クラッチは、エンジンから伝達される駆動力によって回転駆動するフリクションプレートに対向配置されるクラッチプレートを保持して駆動力をトランスミッションに伝達するクラッチハブ、および同クラッチハブに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能な状態で隣接配置されてフリクションプレートまたはクラッチプレートを押圧弾性体によって弾性的に押圧するプレッシャプレートを備えており、クラッチハブおよびプレッシャプレートは、駆動輪側の回転数が前記エンジン側の回転数よりも高くなったとき、フリクションプレートとクラッチプレートとの圧接力を減少させるための傾斜面からなるハブ側スリッパカム部およびプレッシャ側スリッパカム部をそれぞれ有していることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、クラッチにおける駆動輪側の回転数がエンジン側の回転数よりも高くなったとき、互いに圧接し合うフリクションプレートとクラッチプレートとの押圧力を減少させるための傾斜面からなるハブ側スリッパカム部およびプレッシャ側スリッパカム部がクラッチハブおよびプレッシャプレートにそれぞれ形成されているため、トランスミッションにおける変速段をローギアに切り替える際にプレッシャプレートがクラッチハブに対して相対的に回転変位しながら互いに離隔する方向に変位して押圧力が小さくなるスリッパ機能が作用する。これにより、車両用動力伝達システムは、トランスミッションにおける変速段をローギアに切り替える際に急激なエンジンブレーキを防止して円滑に変速段を切り替えることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記車両用動力伝達システムにおいて、制御装置は、トランスミッションにおける変速段を直近の変速段に切り替えつつ車両が停止する前にニュートラル状態に移行させることにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、制御装置がトランスミッションにおける現在の変速段を直近のロー側の変速段に切り替えつつ車両が停止する前にニュートラル状態に移行させるため、シフトダウンによるシフトショックを抑えながら車両の速度を徐々に減少させて円滑に停車させることができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記車両用動力伝達システムにおいて、さらに、車両の速度を検出する車速センサおよびエンジンの回転数を検出する回転数センサのうちの少なくとも一方を備え、制御装置は、車速センサおよび回転数センサのうちの少なくとも一方を用いて車両の速度およびエンジンの回転数のうちの少なくとも一方が所定値以下のとき、シフトアクチュエータの作動を制御してトランスミッションにおける変速段を変速比が低い変速段に切り替えつつ車両が停止する前にニュートラル状態に移行させることにある。なお、この場合、車速検出センサは走行状態検出センサを兼ねることができる。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、車両の速度およびエンジンの回転数のうちの少なくとも一方が所定値以下のとき、シフトアクチュエータの作動を制御して前記トランスミッションにおける変速段をローギアに切り替えるため、シフトダウンによるシフトショックを抑えながら車両の速度を徐々に減少させて円滑に停車させることができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記車両用動力伝達システムにおいて、所定値は、トランスミッションにおける変速段ごとに設定されていることにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、車両の速度およびエンジンの回転数のうちの少なくとも一方の所定値がトランスミッションにおける変速段ごとに設定されているため、シフトダウンごとのシフトショックを抑えながら車両の速度を徐々に減少させて円滑に停車させることができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記車両用動力伝達システムにおいて、制御装置は、走行状態検出センサおよびCA異常検出センサ
を用いて車両が停止状態でかつクラッチアクチュエータの異常を検出したとき、シフトアクチュエータの作動を制御してトランスミッションにおける変速段をニュートラル状態に切り替えることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、制御装置が走行状態検出センサおよびCA異常検出センサ
を用いて車両が停止状態でかつクラッチアクチュエータの異常を検出したとき、シフトアクチュエータの作動を制御してトランスミッションにおける変速段をニュートラル状態に切り替えるため、直ちに車両を移動させることができ車両を移動させることができないという事態を避けることができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、前記車両用動力伝達システムにおいて、さらに、シフトアクチュエータの正常か異常かを検出するためのSA異常検出センサを備え、制御装置は、走行状態検出センサおよびSA異常検出センサ
を用いて車両が走行状態でかつシフトアクチュエータの異常を検出したとき、車速センサおよび回転数センサのうちの少なくとも一方を用いて車両の速度およびエンジンの回転数のうちの少なくとも一方が所定値以下のときにクラッチアクチュエータの作動を制御してクラッチを前記駆動力の遮断状態に切り替えることにある。この場合、制御装置は、車両が停車する前および停車後において、クラッチアクチュエータの作動を制御して前記クラッチを前記駆動力の遮断状態に切り替えることができる。
【0020】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、制御装置が走行状態検出センサおよびSA異常検出センサ
を用いて車両が走行状態でかつシフトアクチュエータの異常を検出したとき、車速センサおよび回転数センサのうちの少なくとも一方を用いて車両の速度およびエンジンの回転数のうちの少なくとも一方が所定値以下のときにクラッチアクチュエータの作動を制御してクラッチを駆動力の遮断状態に切り替えるため、シフトアクチュエータに不具合が生じた場合でもエンジンストールを防止しつつ車両の停車時には車両を移動させることができる。
【0021】
また、本発明の他の特徴は、前記車両用動力伝達システムにおいて、さらに、車両の運転者からの指示を制御装置に入力するための入力装置と、制御装置に作動制御されて運転者に対して情報を表示する表示装置とを備え、制御装置は、クラッチアクチュエータの異常を検出したことを表示装置に表示させるとともに、入力装置を介して入力した運転者からの指示に従ってシフトアクチュエータの作動を制御してトランスミッションにおける変速段を変速比が低い変速段に切り替えることにある。
【0022】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、車両用動力伝達システムは、制御装置がクラッチアクチュエータの異常を検出したことを表示装置に表示させるとともに、入力装置を介して入力した運転者からの指示に従ってシフトアクチュエータの作動を制御してトランスミッションにおける変速段を切り替えるため、運転者が変速段の切り替え動作可否の選択や切り替え動作の開始を事前に把握することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る車両用動力伝達システムの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る車両用動力伝達システム100の全体構成の概略を模式的に示すブロック図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。この車両用動力伝達システム100は、二輪自動車両(所謂オートバイ)において原動機であるエンジン80で発生させた回転駆動力を駆動輪
99に伝達する機械装置群であり、二輪自動車両におけるエンジン80の周辺(例えば、着座シートや燃料タンクの下方)に設けられる。
【0025】
ここで、エンジン80は、図示しない二輪自動車両に搭載されて燃料の燃焼によって回転駆動力を発生させる原動機である。具体的には、エンジン80は、筒状に形成されたシリンダ81内に燃料と空気とからなる混合気を導入するとともに、この混合気を点火プラグ82によって点火して爆発させることによりピストン83をシリンダ81内で往復運動させてピストン83に連結されるクランクシャフト84に回転駆動力を発生させる所謂レシプロエンジンである。クランクシャフト84の回転駆動力は、クランクシャフト84の端部に取り付けられたプライマリードライブギア84aを介してクラッチ110に伝達される。なお、本実施形態においては、エンジン80は、所謂4ストロークエンジンを想定しているが、所謂2ストロークエンジンであってもよいことは当然である。また、本実施形態においては、エンジン80は、シリンダ81が3つ設けられた3気筒エンジンを想定しているが、4気筒以上のエンジンであってもよいことは当然である。
【0026】
このエンジン80における燃焼室を構成するシリンダ81には、吸気バルブ85を介して吸気管86が接続されている。吸気管86は、シリンダ81内に混合気を供給するための配管であり、シリンダ81内に供給する空気量を調整するスロットルバルブ87および同シリンダ81内に燃料を霧状にして供給(噴射)するインジェクタ88をそれぞれ備えている。これらのうち、点火プラグ82およびインジェクタ88は、後述するECU140によって作動がそれぞれ制御される。また、スロットルバルブ87は、車両のハンドル部90に設けられたアクセルグリップ91を車両の運転者が手動操作することによって作動する。
【0027】
ハンドル部90は、車両の前輪の上方に設けられて車両を操縦する部分であり、アクセルグリップ91のほかに、ドライブスイッチ92、シフトスイッチ93および
表示装置94をそれぞれ備えている。ドライブスイッチ92は、ECU140に対して車両の走行モード(手動変速走行モード、自動変速走行モードなど)を指示するための操作子である。また、シフトスイッチ93は、ECU140に対してトランスミッション130の変速段を指示するための操作子である。また、表示装置94は、車速、燃料の残量、エンジン80の回転数、シフトポジション(選択されている変速段)、およびECU140の作動状態や警告などの各種情報を運転者に表示する機器である。
【0028】
(車両用動力伝達システム100の構成)
車両用動力伝達システム100は、動力伝達装置101を備えている。動力伝達装置101は、エンジン80により発生された回転駆動力を複数の変速段で変速して伝達する機械装置であり、主として、クラッチ110およびトランスミッション130によって構成されている。
【0029】
クラッチ110は、エンジン80で発生させた回転駆動力の伝達経路上におけるエンジン80とトランスミッション130との間に配置されてエンジン80が発生させた回転駆動力をトランスミッション130に対して伝達および遮断を行なう機械装置である。このクラッチ110は、詳しくは、
図2および
図3にそれぞれ示すように、トランスミッション130から軸状に延びるメインシャフト115の一方(図示右側)の端部側に設けられている。
【0030】
クラッチ110は、アルミニウム合金製のクラッチハウジング111を備えている。クラッチハウジング111は、有底円筒状に形成されており、クラッチ110の筐体の一部を構成する部材である。このクラッチハウジング111における図示左側側面には、プライマリードリブンギア112がトルクダンパ112aを介してリベット112bによって固着されている。プライマリードリブンギア112は、エンジン80の駆動により回転駆動するクランクシャフト84に一体的に連結されたプライマリードライブギア84aと噛合って回転駆動する。クラッチハウジング111における内周面には、複数枚のフリクションプレート113がクラッチハウジング111の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチハウジング111と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持されている。
【0031】
フリクションプレート113は、後述するクラッチプレート118に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。クラッチハウジング111の内部には、略フランジ状に形成されたクラッチハブ114がクラッチハウジング111と同心で配置されている。このクラッチハブ114の内周面には、クラッチハブ114の軸線方向に沿って多数のスプライン溝が形成されており、同スプライン溝にメインシャフト115がスプライン嵌合している。
【0032】
メインシャフト115は、中空状に形成された軸体であり、一方(
図示右側)の端部側がニードルベアリング115aを介してプライマリードリブンギア112およびクラッチハウジング111を回転自在に支持するとともに、前記スプライン嵌合するクラッチハブ114をナット115bを介して固定的に支持する。すなわち、クラッチハブ114は、メインシャフト115とともに一体的に回転する。一方、メインシャフト115における他方(図示左側)の端部側は、前記トランスミッション130に連結されている。
【0033】
メインシャフト115の中空部には、一方(右側)の端部側にプッシュ部材116aが設けられるとともに同プッシュ部材116aに隣接してプッシュロッド116bがメインシャフト115の軸線方向に延びた状態で設けられている。これらのうち、プッシュ部材116aは、メインシャフト115の軸線方向に沿って延びる棒状部材であり、一方(図示左側)の端部がメインシャフト115の中空部に摺動自在に嵌合するとともに他方(図示右側)の端部がプレッシャプレート120に設けられた
レリーズベアリング121に連結している。
【0034】
プッシュロッド116bは、メインシャフト115における一方(図示左側)の端部側がクラッチアクチュエータ117に連結されているとともに、他方(図示右側)の端部がプッシュ部材116aを押圧している。クラッチアクチュエータ117は、図示しない油圧機構を介してプッシュロッド116bをメインシャフト115内で軸方向に沿って往復変位させることによりプッシュ部材116aを押す力を強めたり弱めたりするための原動機であり、ECU140によって作動が制御される電動モータで構成されている。
【0035】
この場合、ECU140は、クラッチアクチュエータ117をPWM(Pulse Width Modulation)制御によって作動を制御する。ここで、PWM制御とは、クラッチアクチュエータ117に対するパルス波のデューティ比を変化させる制御である。
【0036】
クラッチハブ114の外周面には、複数枚のクラッチプレート118が前記フリクションプレート113を挟んだ状態で、クラッチハブ114の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチハブ114と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持されている。クラッチプレート118は、前記フリクションプレート113に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらのクラッチプレート118の内周部には、クラッチハブ114とスプライン嵌合させるための内歯状のスプラインが形成されている。
【0037】
一方、クラッチハブ114の内側には、それぞれ3つの筒状支持柱114a、ハブ側アシストカム部114bおよびハブ側スリッパカム部114cがプレッシャプレート120側(図示右側)に向って突出した状態でそれぞれ形成されている。これらのうち、3つの筒状支持柱114aは、プレッシャプレート120を支持するために柱状に延びた円筒状の部分であり、その内周部に雌ネジが形成されている。
【0038】
3つのハブ側アシストカム部114bは、後述するプレッシャ側アシストカム部120bと協働してフリクションプレート113とクラッチプレート118との圧接力を増強するアシスト力を生じさせるための部分であり、
図4(A)に示すように、クラッチハブ114の円周方向に沿って徐々にプレッシャプレート120側(図示右側)に突出する傾斜面でそれぞれ構成されている。この場合、3つのハブ側アシストカム部114bは、前記3つの筒状支持柱114aの各間に形成されている。
【0039】
一方、3つのハブ側スリッパカム部114cは、
図4(B)に示すように、後述するプレッシャ側スリッパカム部120cと協働してフリクションプレート113とクラッチプレート118とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させるための部分であり、ハブ側アシストカム部114bとは周方向の反対側にハブ側アシストカム部114bと同じ方向に傾斜する傾斜面でそれぞれ構成されている。なお、
図2においては、3つのうちの1つの
ハブ側アシストカム部114bを破線で示している。また、半クラッチ状態とは、クラッチ110におけるフリクションプレート113とクラッチプレート118が完全に密着する前の状態においてエンジン80の回転駆動力の一部が駆動輪
99側に伝達される不完全な伝達状態のことである。
【0040】
プレッシャプレート120は、フリクションプレート113を押圧することによってこのフリクションプレート113とクラッチプレート118とを互いに密着させるための部品であり、アルミニウム材をクラッチプレート118の外径と略同じ大きさの外径の略円盤状に成形して構成されている。このプレッシャプレート120の盤面には、クラッチハブ114(図示左側)に向って張り出した状態でそれぞれ3つの筒状収容部120a、プレッシャ側アシストカム部120bおよびプレッシャ側スリッパカム部120cがそれぞれ形成されている。
【0041】
これらのうち、3つの筒状収容部120aは、それぞれ前記3つの筒状支持柱114aおよびクラッチスプリング122を収容する部分であり周方向に延びる長孔状に形成されている。より具体的には、筒状収容部120a内には、クラッチハブ114の筒状支持柱114aが貫通した状態で配置されるとともにこの筒状支持柱114aの外側にクラッチスプリング122およびスプリングシート123がそれぞれ配置されている。クラッチスプリング122は、筒状収容部120a内に配置されてプレッシャプレート120をクラッチハブ114に向けて押圧する弾性力を発揮する弾性体であり、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングによって構成されている。すなわち、このクラッチスプリング122は、本発明に係る押圧弾性体に相当する。スプリングシート123は、筒状収容部120aの底部とクラッチスプリング122との間に配置される板状の部品であり、金属板を筒状収容部120aの底部に対応する平面視でC字状に形成されている。本実施形態においては、スプリングシート123は、厚さ0.5mmのばね鋼板で構成されている。
【0042】
3つのプレッシャ側アシストカム部120bは、
図4(A)に示すように、前記クラッチハブ114のハブ側アシストカム部114b上を摺動する部分であり、プレッシャプレート120の円周方向に沿って徐々にクラッチハブ114側(図示左側)に突出する傾斜面で構成されている。すなわち、ハブ側アシストカム部114bとプレッシャ側アシストカム部120bとでアシスト機構が構成されている。このアシスト機構は、プライマリードリブンギア112の回転数がメインシャフト115の
回転数を上回った場合(a参照)、クラッチハブ114に形成されたハブ側アシストカム部114bにプレッシャプレート120に形成されたプレッシャ側アシストカム部120bcが引き込まれるカム作用によってプレッシャプレート120がクラッチハブ114に対して相対的に回転変位しながら互いに接近する方向に変位(b参照)してアシスト力が発生するアシスト機能が作用する。
【0043】
一方、3つのプレッシャ側スリッパカム部120cは、
図4(B)に示すように、前記ハブ側スリッパカム部114c上を摺動する部分であり、プレッシャ側アシストカム部120bとは周方向の反対側に
プレッシャ側アシストカム部120bと同じ方向に延びる傾斜面でそれぞれ構成されている。すなわち、ハブ側スリッパカム部114cとプレッシャ側スリッパカム部120cとでスリッパ機構が構成されている。
【0044】
このプレッシャプレート120は、クラッチハブ114に3つの取付ボルト124によって取り付けられている。具体的には、プレッシャプレート120は、筒状収容部120a内にクラッチハブ114の筒状支持柱114a、スプリングシート123およびクラッチスプリング122がそれぞれ配置された状態で取付ボルト124が筒状支持柱114aにストッパ部材125を介して締め付けられて固定されている。この場合、ストッパ部材125は、プレッシャプレート120がクラッチハブ114に対して離隔する方向に変位する量を規制するための金属製の部材であり、平面視で略三角形状に形成されている。これにより、プレッシャプレート120は、クラッチハブ114に対して近接および離隔する方向に変位可能な状態で取り付けられる。
【0045】
そして、このクラッチ110内には、所定量のクラッチオイル(図示しない)が充填されている。クラッチオイルは、主として、フリクションプレート113とクラッチプレート118との間に供給されてこれらの間で生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗を防止する。すなわち、このクラッチ110は、所謂湿式多板摩擦クラッチである。
【0046】
トランスミッション130は、エンジン80から発生した回転駆動力を複数の変速段(例えば、5段変速)で変速して駆動輪
99に伝達するための機械装置である。このトランスミッション130は、クラッチ110を介してエンジン80のクランクシャフト84に繋がるメインシャフト115とこのメインシャフト115と平行に延びて駆動輪
99に繋がるカウンターシャフト131との間に互いに変速比の異なる複数の変速段を構成する複数のギア列が設けられて構成されている。
【0047】
このメインシャフト115とカウンターシャフト131との間に設けられた複数のギア列は、それぞれメインシャフト115に設けられた複数の駆動側ギア132とカウンターシャフト131に設けられた複数の従動側ギア133とでそれぞれ構成されており、これらの駆動側ギア132と従動側ギア133とは、互いに対向するギア同士が対を構成して常に噛み合っている。この場合、これらの駆動側ギア132および従動側ギア133のうちの一部の駆動側ギア132および従動側ギア133にはシフトフォーク134が挿し込まれており、このシフトフォーク134によってメインシャフト115上およびカウンターシャフト131上をそれぞれスライド変位して駆動側ギア132同士および従動側ギア133同士が互いにドッグクラッチ方式で連結および分離して変速段が形成される。
【0048】
本実施形態においては、トランスミッション130は、
図5に示すように、1速(1st)、ニュートラル(N)、2速(
2nd)、3速(3rd)、4速(4th)、5速(5th)の順に変速段が直列状に形成されて互いに隣接する変速段間でのみ相互に変速可能な所謂リターン式の変速段で構成されている。
【0049】
シフトフォーク134は、スライド変位可能な駆動側ギア132および従動側ギア133を軸線方向に押圧してスライドさせて変速段を形成させるためのフォーク状の部品であり、シフトドラム135に支持されている。シフトドラム135は、シフトフォーク134をメインシャフト115およびカウンターシャフト131に沿って往復変位させるための円柱状の部品である。このシフトドラム135は、シフトアクチュエータ136によって回転駆動される。
【0050】
シフトアクチュエータ136は、シフトドラム135を回転駆動させることによって回転角度に応じた駆動側ギア132および従動側ギア133からなる変速段の組替えを行うための原動機であり、ECU140によって作動が制御される電動モータで構成されている。この場合、ECU140は、シフトアクチュエータ136を前記PWM制御によって作動を制御する。
【0051】
なお、
図1においては、メインシャフト115の駆動側ギア132とカウンターシャフト131の従動側ギア133とは互いに直接噛合っているが、構成の説明上敢えてメインシャフト115とカウンターシャフト131との間にシフトドラムを配置して互いに離れた位置に配置して示している。また、本実施形態においては、トランスミッション130は、1段〜5段およびニュートラルの6つの変速段を備えている。
【0052】
ECU140(Engine Control Unit)は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、ROMなどに予め記憶された図示しない制御プログラムに従って車両用動力伝達システム100の作動を含む車両全体の作動を総合的に制御する。この場合、ECU140は、ROMなどの記憶装置に予め記憶された動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムを実行することによって動力伝達装置101の故障時におけるフェールセーフ制御を実行する。
【0053】
このECU140は、前記ドライブスイッチ92および前記シフトスイッチ93がそれぞれ接続されており、これらの各スイッチの操作に応じてドライブモードおよび変速段の切り替え制御を行う。また、ECU140は、エンジン80および動力伝達装置101に車両用動力伝達システム100の作動制御に必要な情報を取得するための各種センサが接続されている。具体的には、ECU140には、回転数センサ150、車速センサ151、シフトアクチュエータセンサ152、シフトポジションセンサ153、クラッチアクチュエータセンサ154およびスロットル開度センサ155がそれぞれ接続されている。この場合、回転数センサ150は、エンジン80の回転数をクランクシャフト84の回転数を介して検出する。また、車速センサ151は、本実施形態に係る二輪自動車両の車速を後輪である駆動輪99の回転数を介して検出する。
【0054】
また、シフトアクチュエータセンサ152は、シフトアクチュエータ136の作動状態を検出するための検出器群であり、シフトアクチュエータ136の回転角度、シフトアクチュエータ136を流れる電流およびシフトアクチュエータ136に印加されている電圧をそれぞれ測定する各検出器によって構成されている。また、シフトポジションセンサ153は、トランスミッション130の変速段を検出する。また、クラッチアクチュエータセンサ154は、クラッチアクチュエータ117の作動状態を検出するための検出器群であり、クラッチアクチュエータ117の回転角度、クラッチアクチュエータ117を流れる電流およびクラッチアクチュエータ117に印加されている電圧をそれぞれ測定する各検出器によって構成されている。また、スロットル開度センサ155は、スロットルバルブ87の開度を検出する。
【0055】
したがって、ECU140は、これらの各種センサからの検出信号に基づいてエンジン80および動力伝達装置101の各作動、より具体的には、点火プラグ82、インジェクタ88、クラッチアクチュエータ117およびシフトアクチュエータ136の各作動を制御してエンジン80の燃焼制御、クラッチ110の接続および切断の制御、およびトランスミッション130におけるシフトアップおよびシフトダウンの各変速動作の制御をそれぞれ実行する。また、ECU140は、これらの各種センサからの検出信号に基づいて動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムの実行することによってフェールセーフ制御を実行する。すなわち、ECU140は、本発明に係る制御装置に相当する。また、ECU140は、表示装置94が接続されており、ECU140の作動状態や各種警告の情報を表示させる。
【0056】
(車両用動力伝達システム100の作動)
次に、上記のように構成した車両用動力伝達システム100の作動について説明する。この車両用動力伝達システム100は、ECU140がエンジン80および
動力伝達装置101の作動をそれぞれ制御して車両を走行させるとともに、エンジン80が作動している間、
図6に示す動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムを実行することによって動力伝達装置101の故障時におけるフェールセーフ制御を実行する。
【0057】
具体的には、ECU140は、車両におけるイグニションスイッチ(図示せず)が運転者によってONの状態にされると、動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムの実行をステップS100にて開始して、ステップS102にて、クラッチアクチュエータ診断処理を実行する。このステップS102におけるクラッチアクチュエータ診断処理は、
図7に示すクラッチアクチュエータ診断サブプログラムを実行することにより行われる。
【0058】
具体的には、ECU140は、クラッチアクチュエータ診断サブプログラムの実行をステップS200にて開始して、ステップS202にて作動状態情報を取得する。ここで、作動状態情報は、クラッチ110の作動状態に関する情報であり、本実施形態においては、クラッチアクチュエータ117の回転角度、クラッチアクチュエータ117を流れる電流およびクラッチアクチュエータ117に印加されている電圧の各値である。したがって、ECU140は、このステップS202において、クラッチアクチュエータセンサ154を介してクラッチアクチュエータ117の回転角度、クラッチアクチュエータ117を流れる電流およびクラッチアクチュエータ117に印加されている電圧の各値をそれぞれ取得する。すなわち、クラッチアクチュエータセンサ154が本発明に係るCA異常検出センサに相当する。なお、CA異常検出センサは、クラッチアクチュエータ117の異常状態を検出できればよく、回転角度、電流および電圧以外の物理量を検出するセンサ、例えば、温度センサ(図示せず)や振動センサ(図示せず)などであってもよい。
【0059】
次に、ECU140は、ステップS204にて、クラッチアクチュエータ117が正常か否かの故障判定を行う。具体的には、ECU140は、前記S202にて取得したクラッチアクチュエータ117の回転角度、電流および電圧の各値が正常な値となっているか否かの判定処理を実行する。この場合、ECU140は、前記S202にて取得したクラッチアクチュエータ117の回転角度、電流および電圧の各値が正常状態を規定した上限閾値および下限閾値の範囲内にあるか否かをそれぞれ判断し、各値が各範囲内に属している場合には「正常」とそれぞれ判定する。この場合、正常状態を規定した回転角度、電流および電圧ごとの各閾値の範囲は、予めECU140のROMなどに記憶されている。
【0060】
そして、ECU140は、取得した回転角度、電流および電圧のすべての項目が正常と判定された場合にはクラッチアクチュエータ117が正常状態であるとして「No」と判定してステップS210に進む。一方、ECU140は、取得した回転角度、電流および電圧のうちの少なくとも1つの項目が正常値と認められない場合にはクラッチアクチュエータ117に故障や障害などが生じた異常状態であるとして「Yes」と判定してステップS206に進む。
【0061】
次に、ECU140は、ステップS206にてクラッチアクチュエータ117が異常状態であることを示す故障フラグをONに設定(例えば、「1」を設定)した後、ステップS208にてクラッチアクチュエータ117が異常状態であることを表示装置94に表示させて運転者に報知する。そして、ECU140は、ステップS210にてこのクラッチアクチュエータ診断サブプログラムの実行を終了して動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムに戻る。
【0062】
次に、ECU140は、ステップS104にて、シフトアクチュエータ診断処理を実行する。このシフトアクチュエータ診断処理は、
図8に示すシフトアクチュエータ診断サブプログラムを実行することにより行われる。
【0063】
具体的には、ECU140は、シフトアクチュエータ診断サブプログラムの実行をステップS300にて開始して、ステップS302にて作動状態情報を取得する。ここで、作動状態情報は、クラッチ110の作動状態に関する情報であり、本実施形態においては、シフトアクチュエータ136の回転角度、シフトアクチュエータ136を流れる電流およびシフトアクチュエータ136に印加されている電圧の各値である。したがって、ECU140は、このステップS302において、シフトアクチュエータ136の回転角度、シフトアクチュエータ136を流れる電流およびシフトアクチュエータ136に印加されている電圧の各値をそれぞれ取得する。すなわち、シフトアクチュエータセンサ152が本発明に係るSA異常検出センサに相当する。なお、SA異常検出センサは、シフトアクチュエータ136の異常状態を検出できればよく、回転角度、電流および電圧以外の物理量を検出するセンサ、例えば、温度センサ(図示せず)や振動センサ(図示せず)などであってもよい。
【0064】
次に、ECU140は、ステップS304にて、シフトアクチュエータ136が正常か否かの故障判定を行う。具体的には、ECU140は、前記S302にて取得したシフトアクチュエータ136回転角度、電流および電圧の各値が正常な値となっているか否かの判定処理を実行する。この場合、ECU140は、前記S302にて取得したシフトアクチュエータ136の回転角度、電流および電圧の各値が正常状態を規定した上限閾値および下限閾値の範囲内にあるか否かをそれぞれ判断し、各値が各範囲内に属している場合には「正常」とそれぞれ判定する。この場合、正常状態を規定した回転角度、電流および電圧ごとの各閾値の範囲は、予めECU140のROMなどに記憶されている。
【0065】
そして、ECU140は、取得した回転角度、電流および電圧のすべての項目が正常と判定された場合にはシフトアクチュエータ136が正常状態であるとして「No」と判定してステップS310に進む。一方、ECU140は、取得した回転角度、電流および電圧のうちの少なくとも1つの項目が正常値と認められない場合にはクラッチアクチュエータ117に故障や障害などが生じた異常状態であるとして「Yes」と判定してステップS306に進む。
【0066】
次に、ECU140は、ステップS306にてシフトアクチュエータ136が異常状態であることを示す故障フラグをONに設定(例えば、「1」を設定)した後、ステップS308にてシフトアクチュエータ136が異常状態であることを表示装置94に表示させて運転者に報知する。そして、ECU140は、ステップS310にてこのシフトアクチュエータ診断サブプログラムの実行を終了して動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムに戻る。
【0067】
次に、ECU140は、ステップS106にて、クラッチアクチュエータ117が異常状態であるか否かを判定する。具体的には、ECU140は、前記ステップS206にて設定した故障フラグがONに設定されている場合には「Yes」と判定してステップS108に進むとともに、故障フラグがONに設定されていない場合には「No」と判定してステップS110に進む。
【0068】
次に、ECU140は、ステップS108にて、クラッチアクチュエータ117のフェールセーフ処理を実行する。このクラッチアクチュエータ117のフェールセーフ処理は、
図9に示すクラッチアクチュエータフェールセーフ処理サブプログラムを実行することにより行われる。
【0069】
具体的には、ECU140は、クラッチアクチュエータフェールセーフ処理サブプログラムの実行をステップS400にて開始して、ステップS402にてクラッチアクチュエータ117への電力供給を停止する。これにより、クラッチアクチュエータ117への電力供給が停止されるため、不意に作動が再開されることを防止することができる。
【0070】
次に、ECU140は、ステップS404にて、トランスミッション130における変速段がニュートラルか否かを判定する。このステップS404における判定処理において、ECU140は、シフトポジションセンサ153を介してトランスミッション130における変速段を検出して、この変速段がニュートラルの場合には「Yes」と判定してステップS410に進む。一方、ECU140は、トランスミッション130における変速段がニュートラル以外の変速段、すなわち、1速〜5速のいずれかの変速段である場合に「No」と判定してステップS406に進む。
【0071】
次に、ECU140は、ステップS406にて、トランスミッション130における変速段の切替条件判定を行う。この変速段の切替条件判定の処理は、トランスミッション130が現在選択している変速段に対して変速比が低い(換言すれば、減速比が大きい)変速段への切り替え動作、すなわち、ローギアへのシフトダウン動作を許容するか否かを判定する。本実施形態においては、ECU140は、
図10に示すように、車速センサ151を介して車両の現在の車速を検出するとともに、この検出した車速が各変速段ごとに予め規定したシフトダウン動作を許容する所定の車速以下となっているか否かを判定する。
【0072】
したがって、ECU140は、現在の車速が現在の変速段に対応して予め規定された所定の車速以下である場合には「
Yes」と判定してステップS408に進む。また、ECU140は、現在の車速が現在の変速段に対応して予め規定された所定の車速以下でない場合には「No」と判定してステップS410に進む。なお、この場合、各変速段ごとにシフトダウン動作を許容する所定の車速は、ECU140におけるROMなどの記憶装置に予め記憶されている。また、このステップS406で用いる車速センサ151が、本発明に係る走行状態検出センサに相当する。なお、走行状態検出センサは、車両の走行状態を検出できればよく、車速センサ151以外のセンサ、例えば、回転数センサ150や加速度センサ(図示せず)などであってもよい。
【0073】
次に、ECU140は、ステップS408にて、シフトダウン動作を行う。具体的には、ECU140は、シフトアクチュエータ136の作動を制御してシフトドラム
135を回転変位させることにより駆動側ギア132と従動側ギア133とを組み合わせて現在の変速段から1段下げた変速段を形成する。この場合、トランスミッション130は、クラッチアクチュエータ117が故障状態で動作しないため、クラッチ110がクラッチONの状態またはクラッチOFFの状態で変速段の切り替えを行う。
【0074】
ここで、クラッチ110が駆動力を伝達する状態であるクラッチONの状態の場合においては、
図4(B)に示すように、メインシャフト115の回転数がプライマリードリブンギア112の回転数を上回った場合(c参照)、すなわち、クラッチ110にバックトルクが作用した場合には、クラッチハブ114に形成されたハブ側スリッパカム部114cにプレッシャプレート120に形成されたプレッシャ側スリッパカム部120cが乗り上げるカム作用によってプレッシャプレート120がクラッチハブ114に対して相対的に回転変位しながら互いに離隔する方向に変位(d参照)して押圧力が小さくなるスリッパ機能が作用する。これにより、トランスミッション130は、クラッチ110がクラッチON状態においても比較的円滑に変速段の切り替え動作(ここでは、シフトダウン)を行うことができる。
【0075】
一方、クラッチ110が駆動力の伝達を遮断する状態であるクラッチOFFの状態の場合においては、トランスミッション130はエンジン80からの駆動力が伝達されないため円滑に変速段の切り替え動作(ここでは、シフトダウン)を行うことができる。なお、クラッチ110がクラッチOFFの状態の場合においては、トランスミッション130はエンジン80から駆動力が伝達されないため変速段の切り替え動作を行なわないように構成することもできるが、不意にクラッチ110がクラッチON状態となることに備えてクラッチ110がクラッチOFFの状態の場合においても変速段の切り替え動作を行って最終的にニュートラル状態に移行させることが望ましい。
【0076】
そして、ECU140は、ステップS410にて、このクラッチアクチュエータフェールセーフ処理サブプログラムの実行を終了して動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムに戻る。
【0077】
次に、ECU140は、ステップS110にて、シフトアクチュエータ136が異常状態であるか否かを判定する。具体的には、ECU140は、前記ステップS306にて設定した故障フラグがONに設定されている場合には「Yes」と判定してステップS112に進むとともに、故障フラグがONに設定されていない場合には「No」と判定してステップS114に進む。
【0078】
次に、ECU140は、ステップS112にて、シフトアクチュエータ136のフェールセーフ処理を実行する。このシフトアクチュエータ136のフェールセーフ処理は、
図11に示すシフトアクチュエータフェールセーフ処理サブプログラムを実行することにより行われる。
【0079】
具体的には、ECU140は、シフトアクチュエータフェールセーフ処理サブプログラムの実行をステップS500にて開始して、ステップS502にてシフトアクチュエータ136への電力供給を停止する。これにより、シフトアクチュエータ136への電力供給が停止されるため、不意に作動が再開されることを防止することができる。
【0080】
次に、ECU140は、ステップS504にて、トランスミッション130における変速段がニュートラルか否かを判定する。このステップS504における判定処理において、ECU140は、シフトポジションセンサ153を介してトランスミッション130における変速段を検出して、この変速段がニュートラルの場合には「Yes」と判定してステップS510に進む。一方、ECU140は、トランスミッション130における変速段がニュートラル以外の変速段、すなわち、1速〜5速のいずれかの変速段である場合に「No」と判定してステップS506に進む。
【0081】
次に、ECU140は、ステップS506にて、クラッチ110におけるクラッチOFF動作条件判定を行う。このクラッチOFF動作の条件判定の処理は、クラッチ110がエンジン80からの駆動力のトランスミッション130への伝達を遮断するクラッチOFF動作を許容するか否かを判定する。本実施形態においては、ECU140は、車速センサ151を介して車両の現在の車速を検出するとともに、この検出した車速が予め規定したクラッチOFF動作を許容する所定の車速(例えば、15km/h)以下となっているか否かを判定する。
【0082】
したがって、ECU140は、現在の車速が現在の変速段に対応して予め規定された所定の車速以下である場合には「
Yes」と判定してステップS508に進む。また、ECU140は、現在の車速が現在の変速段に対応して予め規定された所定の車速以下でない場合には「No」と判定してステップS510に進む。なお、この場合、クラッチOFF動作を許容する所定の車速は、ECU140におけるROMなどの記憶装置に予め記憶されている。
【0083】
次に、ECU140は、ステップS508にて、クラッチOFF動作を行う。具体的には、ECU140は、クラッチアクチュエータ117の作動を制御してプッシュロッド116bを
レリーズベアリング121側にスライド変位させてプッシュ部材116aで
レリーズベアリング121を押圧する。これにより、クラッチ110は、プレッシャプレート120がフリクションプレート113から離隔するため、フリクションプレート113とクラッチプレート118とが離隔してトランスミッション
130に対してエンジン80からの駆動力が遮断されたクラッチOFFの状態となる。なお、このクラッチOFF動作の過程においても前記スリッパ機能が作用する。
【0084】
そして、ECU140は、ステップS510にて、このシフトアクチュエータフェールセーフ処理サブプログラムの実行を終了して動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムに戻る。
【0085】
次に、ECU140は、ステップS114にて、動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムの実行を終了する。そして、ECU140は、所定の時間(例えば、数ミリ秒〜数百ミリ秒)経過した後、再び、動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムを実行する。すなわち、ECU140は、エンジン80が作動している間、所定時間(例えば、数ミリ秒〜数百ミリ秒)ごとに動力伝達装置フェールセーフ制御プログラムを繰り返し実行する。
【0086】
これにより、ECU140は、車両が走行中にクラッチアクチュエータ117に異常が生じた場合には、トランスミッション130の変速段を1段ずつ変更して最終的に車両が停車する前にニュートラル状態に移行させる。また、ECU140は、車両が停車中にクラッチアクチュエータ117に異常が生じた場合には、トランスミッション130の変速段を1段ずつ変更してニュートラル状態に移行させる。なお、これらの場合、本実施形態においては、トランスミッション130は所謂リターン式の変速段で構成されているため、2速の変速段が選択された状態でシフトダウンした場合にはニュートラル状態となる。
【0087】
また、ECU140は、車両が走行中にシフトアクチュエータ136に異常が生じた場合には、クラッチ110を車両が停車する前にクラッチOFF状態とする。また、ECU140は、車両が停車中にシフトアクチュエータ136に異常が生じた場合には、クラッチ110を直ちにクラッチOFF状態とする。
【0088】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、車両用動力伝達システム100は、車両が走行状態でかつクラッチアクチュエータ117の異常を検出したとき、シフトアクチュエータ136の作動を制御してトランスミッション130における変速段を現在の変速段から変速比が低い(減速比が大きい)変速段、すなわち、ローギアに順次切り替えて車両が停止する前にニュートラル状態に移行させるため、車両の速度をエンジンブレーキを利用しながら徐々に減少させて停止させることができる。この結果、車両用動力伝達システム100は、エンジンストールを防止しつつ早期に車両を減速させて停車時には車両を移動させることができる。
【0089】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0090】
例えば、上記実施形態においては、車両用動力伝達システム100は、ステップS408におけるシフトダウン動作にて変速段を現状の変速段に対して1段だけロー側に落とした直近の変速段にシフトチェンジするように構成した。しかし、車両用動力伝達システム100は、ステップS408におけるシフトダウン動作にて変速段を現状の変速段に対して2段またはそれ以上ロー側に落とした変速段にシフトチェンジするように構成することもできる。すなわち、車両用動力伝達システム100は、例えば、
図12に示すように、トランスミッション130における変速段がニュートラル(N)に対して各変速段がそれぞれ隣接して形成されたH型に構成されている場合には、変速段を現状の変速段に対して2段だけロー側に落とした変速段にシフトチェンジすることもできる。すなわち、車両用動力伝達システム100を搭載する車両としては、二輪自動車両のほかに四輪バギー車のような四輪自動車両でもよい。
【0091】
なお、上記実施形態においては、トランスミッション130は、各変速段が直列的に配置された所謂リターン式で構成されているが、リターン式以外の構成、例えば、
図13に示すように、ニュートラル(N)から順に1速(1st)、2速(2nd)、3速(3rd)、4速(4th)、5速(5th)が相互にシフトチェンジが可能であるとともに5速(5th)に対してニュートラル(N)へのシフトチェンジが可能な所謂ロータリ式の変速段で構成することもできる。
【0092】
また、上記実施形態においては、ECU140は、ステップS406における変速段切替条件判定処理によってステップS408によるシフトダウン動作を各変速段ごとに設定した車両の速度以下の場合に実行するように構成した。しかし、ECU140は、
図14(A)に示すように、シフトダウン動作を実行する変速段切替条件を各変速段で共通の一つの所定の速度以下とすることもできる。また、ECU140は、
図14(B)に示すように、シフトダウン動作を実行する変速段切替条件を各変速段ごとに設定したエンジン80の所定の回転数以下、または
図14(C)に示すように、各変速段で共通の一つの所定の回転数以下とすることもできる。また、ECU140は、車速およびエンジン回転数がそれぞれ所定値以下となったことを変速段切替条件とすることもできる。
【0093】
また、ECU140は、車速やエンジン回転数以外の条件、例えば、車両の減速度が所定値以上となったとき、車両の走行中に運転者によるブレーキ操作が所定時間以上継続したとき、または車両の走行中に運転者によるアクセル操作が所定時間以上操作されなかったときを変速段切替条件とすることもできる。また、ECU140は、ステップS406における変速段切替条件判定処理を省略してステップS404によるニュートラル判定後直ちにシフトダウン動作を実行するように構成することもできる。
【0094】
また、上記実施形態においては、ECU140は、ステップS506におけるクラッチOFF動作条件判定によってステップS508によるクラッチOFFを予め設定した車両の速度以下の場合に実行するように構成した。しかし、ECU140は、クラッチOFF動作条件として、前記と同様に、車速に代えてまたは加えてエンジン80の所定の回転数以下を採用することができるとともに、車速やエンジン回転数以外の条件、例えば、車両の減速度が所定値以上となったとき、車両の走行中に運転者によるブレーキ操作が所定時間以上継続したとき、または車両の走行中に運転者によるアクセル操作が所定時間以上操作されなかったときを変速段切替条件とすることもできる。また、ECU140は、ステップS506におけるクラッチOFF動作条件判定処理を省略してステップS504によるニュートラル判定後直ちにクラッチOFF動作を実行するように構成することもできる。
【0095】
また、上記実施形態においては、ECU140は、クラッチアクチュエータ117の故障時におけるフェールセーフ制御とシフトアクチュエータ136の故障時におけるフェールセーフ制御とをそれぞれ実行するように構成した。しかし、ECU140は、クラッチアクチュエータ117の故障時におけるフェールセーフ制御およびシフトアクチュエータ136の故障時におけるフェールセーフ制御のうちの少なくとも一方を実行するように構成することができる。すなわち、ECU140は、シフトアクチュエータ136の故障時におけるフェールセーフ制御を省略してクラッチアクチュエータ117の故障時におけるフェールセーフ制御のみを実行するように構成することができる。この場合、車両用動力伝達システム100は、SA異常検出センサを省略することができる。
【0096】
また、上記実施形態においては、ECU140は、ステップS202およびステップS302の各作動状態の取得処理において車両の速度に拘らずクラッチアクチュエータ117およびシフトアクチュエータ136の各作動状態を取得した。すなわち、上記実施形態においては、ECU140は、車両が停車している場合においてもクラッチアクチュエータ117の故障時におけるフェールセーフ制御およびシフトアクチュエータ136の故障時におけるフェールセーフ制御をそれぞれ実行するように構成した。しかし、ECU140は、車両が走行中にのみクラッチアクチュエータ117の故障時におけるフェールセーフ制御およびシフトアクチュエータ136の故障時におけるフェールセーフ制御をそれぞれ実行するように構成することができる。この場合、
ECU140は、ステップS202およびステップS302の各作動状態の取得処理を車両が走行中にのみ実行するようにすればよい。
【0097】
また、上記実施形態においては、車両用動力伝達システム100は、クラッチ110にアシスト機構およびスリッパ機構をそれぞれ有したクラッチ110を備えて構成した。しかし、クラッチ110は、アシスト機構およびスリッパ機構のうちの一方または両方を省略して構成することもできる。
【0098】
また、上記実施形態においては、ECU140は、クラッチアクチュエータ117およびシフトアクチュエータ136がそれぞれ異常状態と判定されたとき、ステップS208およびステップS308にて表示装置94に異常状態を表示した後にステップS408およびステップS508にてシフトダウン動作およびクラッチOFF動作をそれぞれ実行するように構成した。しかし、ECU140は、クラッチアクチュエータ117およびシフトアクチュエータ136がそれぞれ異常状態と判定されたとき、必ずしも表示装置94に異常状態を表示する必要はなく、異常状態を表示することなくシフトダウン動作およびクラッチOFF動作をそれぞれ実行するように構成することもできる。
【0099】
一方、ECU140は、クラッチアクチュエータ117およびシフトアクチュエータ136がそれぞれ異常状態と判定されたとき、車両の運転者の指示に従ってステップS408およびステップS508にてシフトダウン動作およびクラッチOFF動作をそれぞれ実行するように構成することもできる。
【0100】
例えば、ECU140は、クラッチアクチュエータ117およびシフトアクチュエータ136がそれぞれ異常状態と判定されたとき、ステップS208およびステップS308にて表示装置94に異常状態を表示するとともに車両の運転者に対してシフトダウン動作およびクラッチOFF動作の実行の開始指示の入力を促す。そして、ECU140は、運転者からの実行開始指示(例えば、シフトスイッチ93の長押し)を入力した場合にステップS408およびステップS508にてシフトダウン動作およびクラッチOFF動作をそれぞれ実行する。これによれば、運転者は、シフトダウン動作やクラッチOFF動作の実行可否を任意に選択できるとともに、シフトダウン動作やクラッチOFF動作の開始を事前に把握することができる。