(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
流れの3次元流速ベクトル場を求める方法であって、
流れに対して複数の振動子がマトリックス状に配置されたフェイズドアレイセンサーからパルス超音波を発信するステップと、
前記パルス超音波のエコーを、前記複数の振動子において所定以上の距離をおいて互いに離間し、且つ、同一直線上にない第1の振動子、第2の振動子および第3の振動子で受信するステップと、
前記第1の振動子、前記第2の振動子および前記第3の振動子のそれぞれが受信した前記エコーのドップラー周波数を取得するステップと、
下記
式に基づいて3次元流速ベクトルVを算出するステップと、
を含む方法。
(上記
式において、f
0はパルス超音波の基本周波数を示し、cは音速を示し、e
eは前記パルス超音波の反射位置と前記複数の振動子が配置される領域の中心を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
aは
前記パルス超音波の反射位置と前記第1の振動子の中心を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
bは
前記パルス超音波の反射位置と前記第2の振動子の中心を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
cは
前記パルス超音波の反射位置と前記第3の振動子の中心を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、f
Daは前記第1の振動子において受信された前記エコーのドップラー周波数を示し、f
Dbは前記第2の振動子において受信された前記エコーのドップラー周波数を示し、f
Dcは前記第3の振動子において受信された前記エコーのドップラー周波数を示す。)
【背景技術】
【0002】
現在、福島第一原子力発電所の廃炉に向けて格納容器冠水のための作業が進められているが、原子炉建屋からの汚染水の漏えいが作業の妨げとなっており、漏えい箇所の補修が喫緊の課題となっている。
【0003】
現在、汚染水の漏えい調査は、主に、滞留水中にトレーサ粒子を散布してその動きをカメラで撮影し、トレーサ粒子が流入している箇所を漏えい箇所として特定する方法が採られている。
【0004】
しかしながら、このようにカメラを用いる方法では、原子炉建屋内が高線量であることに加え、滞留水が濁水であることから、鮮明な画像が得られず、漏えい箇所を精度よく検出することができないという問題があった。
【0005】
この問題に対して、汚染水の漏えい調査に超音波流速分布計測法(UVP法)を導入することが検討されている。UVP法によれば、高線量環境や濁水にかかわらず、滞留水内の水の流れを2次元の流速ベクトル場として計測することができるので、漏えい箇所を精度よく検出することが期待できる。
【0006】
ここで、UVP法の原理上、一本のセンサーで計測できるのは、測定線上の速度分布でしかないので、ベクトル場を得るためには、二本以上のセンサーを二種類以上の位置と測定線角度を用いて配置し、その複数の測定線の交点における速度成分を求めてこれを合成する必要がある。この点につき、特開2002−40039号公報(特許文献1)は、所定の距離離間して位置決めされた二本のセンサーを旋回させることによって、各センサーの測定線を走査して複数の交点を得ることを特徴とする流速分布計測装置を開示する。
【0007】
しかしながら、特許文献1の流速分布計測装置は、二本のセンサーとこれらを駆動する機械的可動部を有するため、相当程度のスペースを必要とし、また、その設置に時間を要するという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0015】
図1は、本発明の実施形態である流速ベクトル分布計測装置100の構成を示す模式図である。本実施形態の流速ベクトル分布計測装置100は、超音波トランスデューサ10と、パルサ・レシーバ20と、ADコンバータ30と、コンピュータ40を含んで構成されている。ここで、コンピュータ40は、信号解析部42および流速ベクトル分布生成部46として機能する。
【0016】
超音波トランスデューサ10は、複数の振動子が列をなして配置されたフェイズドアレイセンサー12を備えており、パルサ・レシーバ20が各振動子をパルスドップラー方式に基づいて制御することで、フェイズドアレイセンサー12は、パルス超音波の発信とエコー(反射波)の受信を交互に繰り返す。
【0017】
ここで、コンピュータ40がパルサ・レシーバ20を介してフェイズドアレイセンサー12の各振動子を制御して各振動子の駆動タイミングに遅延時間を設けることによって、フェイズドアレイセンサー12から任意の方向にパルス超音波の合成波を伝搬するように構成されている。本実施形態においては、パルス超音波の合成波面の垂直方向が計測線として定義される。
【0018】
さらに、本実施形態においては、パルサ・レシーバ20がフェイズドアレイセンサー12の各振動子の駆動タイミングの遅延時間を変更することによって、計測線の方向を随意に変更することで、
図1に示すように、計測線(破線で示す)で流れ50を2次元的に走査することができるように構成されている。
【0019】
一方、フェイズドアレイセンサー12は、2次元的に走査される計測線上の各点から戻ってくるエコーを受信する。フェイズドアレイセンサー12によって受信されたエコーは、パルサ・レシーバ20およびADコンバータ30を介してエコー信号(デジタル信号)に変換され、コンピュータ40に入力される。コンピュータ40は、入力されたエコー信号の解析結果に基づいて、流れ50の流速ベクトル分布を求める。
【0020】
以上、本実施形態の流速ベクトル分布計測装置100の構成の概要を説明してきたが、流速ベクトル分布計測装置100は、1つのフェイズドアレイセンサーを使用して真の流速ベクトルを取得することを特徴とする。以下、本実施形態における流速ベクトルの取得手順を
図2に基づいて具体的に説明する。なお、以下の説明においては、
図1を適宜参照するものとする。
【0021】
図2は、超音波トランスデューサ10のフェイズドアレイセンサー12の上面および断面を拡大して示す。なお、
図2は、8個の振動子が一列に配置されたフェイズドアレイセンサー12を示しているが、これはあくまで例示であって、本発明は、フェイズドアレイセンサーの振動子の数およびその配置態様を限定するものではない。
【0022】
本実施形態においては、フェイズドアレイセンサー12が8個の振動子を駆動してパルス超音波を発信すると、流れを速度Vで移動する粒子にパルス超音波が反射し、その反射波がフェイズドアレイセンサー12にエコーとして戻ってくる。このとき、フェイズドアレイセンサー12は、その両端に位置する2個の振動子(1chおよび8ch)が反射波を受信する。これを受けて、信号解析部42は、2個の振動子(1chおよび8ch)を経て入力されるエコー信号について、自己相関法等の適切な方法により周波数分析を行って、各エコー信号からドップラー周波数f
Dを検出する。このとき、検出されるドップラー周波数f
Dは振動子毎に異なるものとなる。
【0023】
ここで、フェイズドアレイセンサー12の各振動子のエコー信号から検出されるドップラー周波数は、下記式(1)で表すことができる。
【0025】
上記式(1)において、f
Diはi番目の振動子のエコー信号から検出されるドップラー周波数を示し、f
0はパルス超音波の基本周波数を示し、cは媒質の音速を示し、e
eは粒子から8個の振動子が配置される領域の中心Oを結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
iは粒子からi番目の振動子の中心を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、Vは粒子の2次元流速ベクトルを示す。
【0026】
ここで,1番目の振動子(1ch)で検出されるドップラー周波数f
D1の式と8番目の振動子(8ch)で検出されるドップラー周波数f
D8の式を連立し、行列を用いて表すと下記式(2)の様になる。
【0028】
上記式(2)において、e
1は粒子から1番目の振動子(1ch)の中心P
1を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
8は粒子から8番目(8ch)の振動子の中心P
2を結ぶ方向の単位ベクトルを示す。ここで、上記式(2)を整理すると、流速ベクトルVは、下記式(3)で表される。
【0030】
本実施形態において、流速ベクトル分布生成部46は、2次元流速ベクトルVを上記式(3)に基づいて以下の手順で算出する。
【0031】
流速ベクトル分布生成部46は、上記式(3)におけるドップラー周波数f
D1およびf
D8を、2個の振動子(1chおよび8ch)から入力されるエコー信号に基づく解析結果として、信号解析部42から得る。
【0032】
一方、流速ベクトル分布生成部46は、上記式(3)におけるe
e、e
1およびe
8を、それぞれ、計測線上の粒子の位置(超音波の反射位置)と、中心O、中心P
1および中心P
2から求める。なお、計測線上の粒子の位置(超音波の反射位置)は、中心O、中心P
1、中心P
2、2個の振動子(1chおよび8ch)のそれぞれで計測される超音波の伝播時間(発信されたパルス超音波がエコーとして戻ってくるまでの時間)、およびパルス超音波の走査角度θから幾何学的に算出することができる。
【0033】
最後に、流速ベクトル分布生成部46は、上述した手順で求めたf
D1、f
D8、e
e、e
1およびe
8を上記式(3)に投入して流速ベクトルVを計算する。さらに、その計算を、2次元的に走査される計測線上の各計測点について行うことによって、2次元平面上の流速ベクトル分布を得る。
【0034】
なお、
図2では、パルス超音波を発信するアレイセンサーの両端に位置する振動子がエコーを受信する態様を示したが、エコーを受信する振動子は、アレイセンサーの両端に位置する振動子に限定する必要なく、所定以上の距離をおいて離間する2つの振動子であればよい。ここでいう所定以上の距離とは、本発明の測定原理に照らして適切な距離であり、当業者であれば、その意味するところを容易に理解するであろう。
【0035】
以上、フェイズドアレイセンサー12を用いて、流れの2次元流速ベクトルを取得する手順を説明してきたが、以下に示す方法によれば、流れの3次元流速ベクトルを取得することもできる。
【0036】
流れの3次元流速ベクトルを取得する場合、超音波トランスデューサ10のセンサー部として複数の振動子がマトリックス状に配置されたフェイズドアレイセンサーを使用する。
図3は、64個の振動子が正四方形の領域にマトリックス状に配置されたフェイズドアレイセンサー14の上面図を示す。なお、
図3に示す振動子の数およびその配置態様は、あくまで例示であり、3次元流速ベクトルを取得するための振動子の平面的な配置は、この態様に限定されるものではない。
【0037】
図3に示す例の場合、フェイズドアレイセンサー14は、64個の振動子(1ch〜64ch)で超音波を発信し、3個の振動子(4ch、57ch、64ch)でエコーを受信する。これを受けて、流速ベクトル分布生成部46は、3次元流速ベクトルVを下記式(4)に基づいて算出する。
【0039】
上記式(4)において、f
0はパルス超音波の基本周波数を示し、cは媒質の音速を示し、e
eは計測線上の粒子の位置(超音波の反射位置)から64個の振動子が配置される領域の中心Oを結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
4は粒子から4番目の振動子(4ch)の中心P
1を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
57は粒子から57番目(57ch)の振動子の中心P
2を結ぶ方向の単位ベクトルを示し、e
64は粒子から64番目の振動子(64ch)の中心P
3を結ぶ方向の単位ベクトルを示す。
【0040】
この場合、流速ベクトル分布生成部46は、上記式(4)におけるドップラー周波数f
D4、f
D57、およびf
D64を、3つの振動子(4ch、57ch、64ch)から入力されるエコー信号に基づく解析結果として、信号解析部42から得る。さらに、流速ベクトル分布生成部46は、上記式(4)におけるe
e、e
4、e
57およびe
64を、それぞれ、計測線上の粒子の位置(超音波の反射位置)、中心O、中心P
1、中心P
2および中心P
3から求める。最後に、流速ベクトル分布生成部46は、上述した手順で求めたf
D4、f
D57、f
D64、e
e、e
4、e
57およびe
64を上記式(4)に投入して3次元流速ベクトルVを計算する。さらに、その計算を、3次元的に走査される計測線上の各計測点について行うことによって、3次元空間内の流速ベクトル分布を得る。
【0041】
なお、エコーを受信する振動子の配置は、
図3に示した態様に限定する必要はなく、マトリックス状に配置された複数の振動子の中から、所定以上の距離をおいて互いに離間し、且つ、同一直線上にない3つの振動子を選び、その3つの振動子でエコーを受信するように構成すればよい。ここでいう所定以上の距離とは、本発明の測定原理に照らして適切な距離であり、当業者であれば、その意味するところを容易に理解するであろう。
【0042】
以上、説明したように、本実施形態の流速ベクトル分布計測装置100によれば、流れを流速ベクトル場(2次元または3次元)として計測することができるので、汚染水の漏えい箇所を精度よく検出することが可能になる。また、本実施形態の流速ベクトル分布計測装置100のセンサー部は、1つのフェイズドアレイセンサーだけで構成されるので、計測の際にセンサー部の位置決め作業が不要となる。さらに、1つのフェイズドアレイセンサーだけで構成される小型のセンサー部は、狭隘な作業現場において設置場所を選ばない。
【0043】
なお、これまで、本発明の流速ベクトル分布計測装置の用途について、専ら、原子炉建屋における汚染水漏えい調査を例に挙げて説明してきたが、本発明の流速ベクトル分布計測装置は、その用途を限定するものではないことはいうまでもない。その他、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0044】
なお、上述したコンピュータ40の各機能は、C、C++、C#、Java(登録商標)などで記述された装置実行可能なプログラムにより実現でき、本実施形態のプログラムは、ハードディスク装置、CD−ROM、MO、DVD、フレキシブルディスク、EEPROM、EPROMなどの装置可読な記録媒体に格納して頒布することができ、また他装置が可能な形式でネットワークを介して伝送することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の流速ベクトル分布計測法について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0046】
本発明の流速ベクトル分布計測法の有効性を検証すべく、
図4に示す実験装置200を使用して、テーラークエット渦流れを対象とした計測を行った。
【0047】
本実験においては、超音波トランスデューサ62と、パルサ・レシーバ65(JPR-10C-8CH、Japan Probe社製)と、ADコンバータ66(PXI-5114、National Instruments社製)と、パーソナルコンピュータ68を用いて流速ベクトル分布計測装置を構築した。なお超音波トランスデューサは、振動子サイズ(0.5mm×5.0mm)、振動子数8、振動子ピッチ0.6mmのフェイズドアレイセンサー64を用いて構築した。
【0048】
一方、テーラークエット渦流れを発生させるための装置として
図4に示す同軸二重円筒容器60(内円筒半径:50mm、外円筒半径:75mm、円筒間距離:25mm、アスペクト比:3)を用意した。内円筒と外円筒の間に作動流体として80wt%グリセリン水溶液(音速:1850m/s)を水深75mmとなるように充填した。なお、流体の上端は自由水面とした。
【0049】
超音波トランスデューサ62を、フェイズドアレイセンサー64の長手方向が容器の底面の半径方向に沿い、その中心が同軸二重円筒容器60の円筒中心から70mmの位置に一致するように配置した。この状態で、同軸二重円筒容器60の内円筒を回転数100rpmで回転させて作動流体に渦を発生させ、流速ベクトル分布計測を行った。
【0050】
流速ベクトル分布計測において、超音波信号の発信は8振動子(1ch〜8ch)の全てを用いて行い、エコー信号の受信はフェイズドアレイセンサー64の両端に位置する2個の振動子(1chと8ch)で同時に行った。なお、超音波信号のバースト波は、基本周波数2MHz、波数4、パルス繰り返し周波数500Hz、パルス繰り返し数128とした。また、本実験では、1chから8chまでの印加電圧値をハミング窓を参考に、それぞれ、10V、40V、100V、150V、150V、100V、40V、10Vとし、遅延時間を-100ns〜200nsの範囲で20nsごとに設定して、走査角度-18°〜38°で計測線を走査した。
【0051】
フェイズドアレイセンサー64が受信したエコー信号をパルサ・レシーバ65およびADコンバータ66を介してデジタル信号としてコンピュータ68に取り込み、LabVIEW(National Instruments社製)を用いて作成した信号処理プログラムで解析することで、2個の振動子(1chと8ch)ごとにドップラー周波数f
Dを算出し、2個のドップラー周波数f
Dに基づいて流速ベクトルの2次元分布図を作成した。なお、流速ベクトルは、計測線ごとに128回計測した値の平均値とした。
【0052】
図5は、本実験において作成された流速ベクトルの2次元分布図を示す。
図5に示す2次元分布図おいて、縦軸は同軸二重円筒容器60の高さ方向を表し、容器の横軸は半径方向を表し、原点は同軸二重円筒容器60の外円筒の内壁の底部とした。
【0053】
図5に示すように、流速ベクトルの2次元分布図において、高さ10mmから30mmの領域に反時計回りの渦輪の流速ベクトル場が認められ、高さ30mmから50mmの領域に時計回りの渦輪の流速ベクトル場が認められた。以上の結果から、本発明の計測方法の有効性が確認された。