【文献】
ACS Chem. Neurosci.,2015年,Vol.6,pp.725-736
【文献】
Annals of Clinical and Translational Neurology,2014年,Vol.1(8),pp.519-533
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血液からアミロイドβタンパク質(Aβ)を除去するカラムと、脳Aβ排出促進剤と、を含み、前記脳Aβ排出促進剤がシロスタゾール、ペルサンチン、イブジラスト、ニセルゴリン、及びイフェンプロジルからなる群から選ばれる少なくとも一つの脳血流改善剤である、Aβ除去システム。
血液からアミロイドβタンパク質(Aβ)を除去するカラムと、脳Aβ排出促進剤と、を含み、前記脳Aβ排出促進剤がシロスタゾール、ペルサンチン、イブジラスト、ニセルゴリン、及びイフェンプロジルからなる群から選ばれる少なくとも一つの脳血流改善剤であるか、ドネぺジル、ガランタミン、リバスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、エドロホニウム、及びジスチグミンからなる群から選ばれる少なくとも一つのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、
カラムでの処理前に、添付文書に記載の1日あたりの最大投与量または標準的に投与される1日あたりの投与量の5倍以上の投与量で、前記脳血流改善剤及び/又は前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が経口で単回投与される、Aβ除去システム。
前記カラムがセルロース、シリカ、ポリビニルアルコール、及び活性炭からなる群より選択されるいずれかの材質の担体を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のAβ除去システム。
前記中空糸膜又はその断片が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ(PEPA)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される高分子を含有する、請求項14に記載のAβ除去システム。
添付文書に記載の1日あたりの最大投与量または標準的に投与される1日あたりの投与量の10倍以上の投与量で、前記脳血流改善剤及び/又は前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が投与される、請求項17に記載の脳Aβ除去システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について以下詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
本発明のAβ除去システムは、血液からアミロイドβタンパク質(Aβ)を除去するカラムと、脳Aβ排出促進剤と、を含むAβ除去システムである。
本発明において、Aβ除去システムとして、血液からアミロイドβタンパク質(Aβ)を除去するカラムが用いられていることにより、直接的に、血液からAβが除去される。そして、本発明において、Aβ除去システムとして、血液からAβを除去するカラムと脳Aβ排出促進剤とを組み合わせて用いることにより、脳実質から髄液へ、さらに髄液から血液へより効率的にAβが移行していくと考えられる。
【0016】
脳Aβイメージング、髄液中Aβ濃度及び髄液中タウ濃度などを幅広く検討したADNI(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)の結果は、神経細胞が主たるAβの産生組織であるところ、脳実質内のAβが高濃度となり過ぎて、脳実質内に、老人斑として、主に、Aβ
1-42が凝集し他の成分とともに沈着しはじめるころと時期を同じくして、髄液中Aβ
1-42濃度が低下することを示している。つまり、AD病変進行の過程において、脳Aβイメージングによる脳実質内Aβ蓄積と、髄液中Aβ
1-42濃度の低下とがほぼ同一病期で発生するため、脳内Aβ蓄積と髄液中Aβ
1-42濃度の低下という異なる指標によって、AD病変進行の過程を確認することができる。そのため、AD診断の主要素の一つとして、脳Aβイメージングによる脳実質内Aβ陽性及び/又は髄液中Aβ
1-42濃度の低下(定められた閾値以下になる)が採用されつつある。一方、脳実質内Aβ濃度が高濃度となりAβが沈着し始める以前に、髄液中Aβ濃度の濃度が一時的に上昇してある期間高濃度となるかというと、そういう現象は観察されていない。つまり、髄液中Aβは、血液中への排出などのルートで定常的に代謝排泄されていると考えられる。脳実質内Aβ濃度が高くなっても、髄液中Aβ濃度が上昇しない程度には、髄液から血液、さらには肝腎などの代謝臓器へのAβ移行、代謝は、健常者であれば定常的に行われていると考えられている。もし、髄液から血液中へのAβ排出が一定状態にある中で、髄液中Aβ濃度が上昇するとすれば、それは脳実質から髄液へのAβ移行が通常より促進されていることを意味する。
【0017】
本発明者らは、脳Aβ排出促進剤を存在させない状態でラットの血液中Aβ除去を行うと、カラム入口の血液中Aβをほぼ80%以上除去できるAβ除去カラムを使用しているにもかかわらず、血液中Aβ濃度は上昇し、髄液中Aβ濃度は減少することを見出している(2016年 第6回日本認知症予防学会学術集会 プログラム・抄録集 161頁)。つまり、この場合は、Aβの濃度勾配的に脳実質から髄液へのAβの移行速度が上昇しても、Aβ除去カラムにより血液中のAβが除去されるので、同時的に、髄液中Aβの除去も高効率で行われることとなり、髄液中Aβ濃度が低下したと考えられる。
一方、本発明においては、血液からAβを除去するカラムによる血液中のAβの除去において、脳Aβ排出促進剤を存在させることにより、血液中Aβの除去が引き金となって、脳実質から髄液へのAβ移行が、髄液から血液へのAβ移行以上に夥しく促進されて、一時的に髄液中のAβ濃度が増加すると考えられる。
【0018】
本発明においては、血液中Aβの除去を行いつつも、脳から髄液へのAβの移行を促進することにより、より効率的に脳内Aβを減少させることができるAβ除去システムが提供される。
具体的には、本発明においては、血液からAβを除去するカラムを用いて、直接的に、血液からAβが除去されているにも関わらず、髄液中のAβ濃度を増加させて、すなわち、脳実質から髄液へのAβの移行を促進させることができる。
本発明のAβ除去システムは、脳内Aβの排泄を促進するために用いられる。
【0019】
本発明のAβ除去システムは、より効率的に脳内Aβを減少させることにより、アルツハイマー病の治療及び発症予防に用いることができる。
アルツハイマー病(AD)のうち、中でも、Sporadic AD(散発性アルツハイマー病)は、Aβの産生亢進よりも、脳内Aβの排泄代謝が低下して、Aβが脳に蓄積して神経細胞の障害、細胞死を起こすことで発症することが知られている。
したがって、特に限定されるものではないが、本発明のAβ除去システムは、AD治療、中でも、Sporadic AD治療や発症予防に用いることができる。また、Aβの脳内産生が亢進している家族性アルツハイマー病においても、Aβの排泄を促進することで、ADの治療や発症予防に用いることができる。さらに、本発明のAβ除去システムは、軽度認知障害(MCI)の治療及び発症予防にも寄与すると考えられる。
【0020】
AD治療には、Aβワクチンや、抗Aβ抗体を用いた治療が知られている。しかしながら、Aβワクチンを用いた場合には、死亡例が発生しており、また、抗Aβ抗体は、高価かつARIA(脳の微小出血)を併発するため、本発明のAβ除去システムは、副作用が少なく、より安価に脳内Aβを除去することができるものである。
【0021】
本発明においては、「血液からアミロイドβタンパク質(Aβ)を除去するカラム」として、公知のカラムを用いることができる。
血液からアミロイドβタンパク質(Aβ)を除去するカラム(以下、単に「カラム」と記載する場合がある。)としては、特に限定されるものではないが、国際公開第2010/073580号、特表2005−537254号公報、特表2008−506665号公報、特開2012−16595号公報及び特開2015−77369号公報に開示されるカラム並びに米国特許第7,935,252号に開示される抗Aβ抗体を結合したカラムなどを用いることができる。
【0022】
本発明において、カラムに含まれる担体の材質は、特に限定されないが、例えば、セルロース、シリカ、ポリビニルアルコール及び活性炭などが挙げられる。
担体は、担体の表面にアルキル鎖を有していてもよく、中でも、アルキル鎖としては、炭素数1〜22のアルキル鎖が好ましい。また、担体は、担体の表面にアルキル鎖を有していなくてもよい。
担体の材質は、Aβ吸着の観点から、セルロース及び活性炭が好ましい。
【0023】
活性炭を担体の材質とする場合には、血液中の血球との相互作用を低減するために、担体の表面が親水性ポリマーで被覆されていることが好ましい。
親水性ポリマーの種類は、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルのポリマー、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。
【0024】
シリカを担体の材質とする場合には、担体の表面はアルキル鎖を有しなくてもよく、炭素数1〜22のアルキル鎖を有していてもよく、炭素数1〜22のアルキル鎖を有する場合、アルキル鎖がシラノール基を介して結合していてもよい。
アルキル鎖の炭素数は、1〜5であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
【0025】
セルロースを担体の材質とする場合には、担体の表面はアルキル鎖を有しなくてもよく、炭素数1〜22のアルキル鎖を有していてもよい。
アルキル鎖の炭素数は、8〜22であることが好ましく、16〜22であることがより好ましい。
【0026】
本発明において用いられるカラムとしては、市販の医用吸着材を採用してもよい。
医用吸着材としては、特に限定されないが、具体的には、リクセル(商品名:株式会社カネカ)、イムソーバ(商品名:旭化成クラレメディカル株式会社)及びヘモソーバ(商品名:旭化成クラレメディカル株式会社)などが挙げられる。
リクセルは、担体の材質をセルロースとし、セルロースビーズの表面にリガンドとしてヘキサデシル鎖が結合した構成を有する。イムソーバは、担体の材質をポリビニルアルコールとし、ポリビニルアルコールゲルの表面にリガンドとしてトリプトファン(イムソーバTR)又はフェニルアラニン(イムソーバPH)が結合した構成を有する。ヘモソーバは、担体の材質を活性炭とし、石油ピッチ系ビーズ状活性炭の表面がメタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルのポリマーで被覆された構成を有する。
担体として、医用吸着材を用いる場合には、リクセル(セルロースを担体の材質とし、担体の表面に炭素数16のアルキル鎖(ヘキサデシル鎖)を有する)が好ましい。
【0027】
本発明のカラムに含まれる担体の形状は、特に限定されないが、例えば、粒子状、ゲル状、多孔質体及び中空糸膜などが挙げられる。
担体の形状が粒子状である場合、担体の平均粒子径は、例えば1μm〜5mmであり、30μm〜3mmであることが好ましく、50μm〜800μmであることがより好ましい。
担体の形状が多孔質体である場合、中空糸膜又はその断片に用いられる材料を用いた多孔質ビーズであってもよい。
【0028】
本発明において、カラムは中空糸膜又はその断片を含んでいてもよい。
中空糸膜は、血液を通液、ろ過することができる中空糸膜であれば、特に限定されないが、例えば、血液透析(いわゆる人工透析を含む)、血液ろ過及び血漿分離などにおいて用いられる中空糸膜が挙げられ、市販の中空糸膜を用いてもよい。
中空糸膜の断片として、中空糸膜を、長さ1〜5mm程度に切断したものが用いられる。
【0029】
中空糸膜又はその断片は、特に限定されないが、例えば、セルロースアセテート、改質セルロース、銅アンモニアセルロース等のセルロース系中空糸膜や、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマーアロイ(PEPA)、ポリビニルアルコール、ポリスルホン(PSf)、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニルエーテル、ポリエーテルスルホン(PES)、エチレンビニルアルコール共重合体等の合成高分子系中空糸膜などが挙げられる。
中でも、静電的結合及び/又は疎水結合を利用しているため、疎水性の高分子を用いることが好適であり、ポリスルホン、ポリメチルメタアクリレート、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマーアロイ、ポリエーテルスルホン及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される高分子を含有する中空糸膜が好ましい。
【0030】
中空糸膜又はその断片の追加の材料としては、血液適合性を含めて、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリハイドロキシエチルメタクリレートなどをさらに含有していることが好ましく、ポリスルホンとポリビニルピロリドンからなる高分子混合物から製造される中空糸膜が挙げられる。
ポリビニルピロリドンなどの追加の材料は、ポリスルホンなどの高分子と、混合して紡糸してもよいが、ポリスルホンなどの高分子を用いて紡糸して得られる中空糸膜にコーティングするために用いてもよい。
【0031】
中空糸膜は、公知の方法により製造することができるが、中空糸膜の太さは、好ましくは、0.01〜1mmである。
【0032】
カラム内での中空糸膜の形状は、特に限定されず、中空糸膜を含むカラムとして中空糸膜型モジュールとして用いることができる。
【0033】
中空糸膜がカラム内に備えられている形態としては、中空糸膜カラム様の中空糸膜型モジュールとして、筒型のハウジング内に多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束として収納されていてもよい。
この場合、中空糸膜束の両端が、ポリウレタンなどの樹脂組成物を充填して形成する封止部としての樹脂層部により接着固定(シール)されていてもよい。
ハウジングは、ハウジング内に血液を通液させ、排出させるための、血液の注入口と、排出口を供えている。
【0034】
中空糸膜型モジュールは、いわゆるダイアライザーとして用いられるモジュール(透析カラム)や、特開2005−52716号、国際公開第2006/024902号、国際公開第2004/094047号などに記載されているモジュールが挙げられる。
カラムとしては、血液透析用カラムを用いてもよく、市販の血液透析用カラムを用いてもよい。
【0035】
本発明においては、「血液からアミロイドβタンパク質(Aβ)を除去するカラム」と共に、「脳Aβ排出促進剤」が用いられる。
脳Aβ排出促進剤を、血液からAβを除去するカラムと用いることにより、脳内Aβがより効率的に減少させることができるが、そのメカニズムは以下のように考えられる。
【0036】
Aβは、主に、脳実質において産生される。そして、Aβは、脳実質から髄液へ移行することから、脳実質及び/又は髄液から血液中へ移行していると考えられる。
脳実質及び/又は髄液から血液中へのAβの移行ルートとしては、1)BBB(脳血流関門)を通過する、2)LRP−1、Apo−J、Apo−E、P−糖蛋白及び/又はRAGEなどのAβ通過チャネル又はAβキャリアにより運ばれる、又は3)脳血管Pericyte(血管周囲細胞)が血流と逆行性にAβを輸送することが考えらえる。
1)及び2)においては、脳実質及び/又は髄液中と血液中のAβ濃度差が大きいほどAβの血液への排出量は大きいと考えられ、また、3)においては、血流及び脈動が逆行性輸送のドライビングフォースとなっていると考えられる。
そこで、脳血流改善剤によって、局所的に、中でも、脳実質のAβ濃度の高い部分(老人斑が蓄積しやすい部分ともいえる)の脳血流を上昇させると、1)及び2)のAβ排出量が向上すると考えられる。つまり、常にAβ濃度の低い動脈血が大量に運ばれてくるので、脳実質や髄液と血液との間のAβ濃度勾配が大きく保たれる続けることにより、Aβ排出が大きくなると考えられる。また、3)では、脳血流そのものが逆行性輸送のドライビングフォースであるので、血流をあげればAβの血液中への排出も盛んになると考えられる。
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤によって、LRP−1やP−糖蛋白の発現が亢進されると、2)の経路でのAβ排出が大きくなると考えられる。
【0037】
脳Aβ排出促進剤により排出が増量したAβを含む血液に対して、血液からAβを除去するカラムを用いることにより、Aβ除去カラムが脳Aβを引き抜くかのように、Aβ除去がより一層促進され、脳内Aβを減少させると考えられる。
以上のメカニズムにより、本発明のAβ除去システムでは、血液からAβを除去するカラムと、脳Aβ排出促進剤を組み合わせることにより、Aβ除去が促進され、脳内Aβを減少させることができる。
【0038】
本発明で用いる脳Aβ排出促進剤としては、脳実質や髄液から血液へAβの移行を促進する物質であればよいが、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が用いられる。
【0039】
脳血流改善剤としては、例えば、PDE阻害薬や、脳循環代謝改善薬、慢性脳循環障害改善薬、経口プロスタグランジン誘導体、血管拡張剤及び抗血小板薬などが挙げられる。
さらに、喫煙によって脳局所の血流が増加することが報告されている、ニコチン及びその誘導体も脳血流改善剤として挙げられる(近藤ら、平成元年度喫煙科学研究財団研究年報 1989:522-525、古平ら、平成元年度喫煙科学研究財団研究年報 1989:526-532)。
脳血流改善剤の具体例としては、特に限定されるものではないが、シロスタゾール、ジピリダモール、プロレナール、ケタス、チクロピジン、クロピドグレル、ベラプロスト、リマプロストアルファデクス、サアミオン、ヒデルギン、アデホス、ルシドリール、セロクラール、イブジラスト、イフェンプロジル、ニセルゴリンオザグレル、プロスタグランジン製剤(PGE1及びPGI2など)、ニコチン、ニコチン酸系(ヘプロニカート、イノシトールヘキサニコチネート)、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ボセンタン)、オザクレル、及びファスジルなどが挙げられる。
上記記載する薬剤の塩を脳血流改善剤として用いることもできる。
また、脳血流改善剤は、単剤で用いてもよく、併用して用いてもよい。
脳血流改善剤としては、シロスタゾール、ペルサンチン、イブジラスト、ニセルゴリン及びイフェンプロジルが好ましく、シロスタゾールがより好ましい。
【0040】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の具体例としては、特に限定されるものではないが、ドネぺジル、ガランタミン、リバスチグミン、ネオスチグミン、ピリ
ドスチグミン、アンベノニウム、エドロホニウム、及びジスチグミンなどが挙げられる。
上記記載する薬剤の塩をアセチルコリンエステラーゼ阻害剤として用いることもできる。
また、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、単剤で用いてもよく、併用して用いてもよい。
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤としては、ドネぺジル又はガランタミンが好ましい。
ドネペジル又はガランタミンは、脳内のアセチルコリンを増やすことで、認知機能を改善するというアルツハイマー病の治療薬として用いられている。ドネペジルとガランタミンは、実際の臨床使用の投与量である5mg/日や10mg/日では、脳内Aβは減少しないことが知られている(Ishibashi et al. J Clinical Neuroscience 2017;Aug 29. pii: S0967−5868(17)30896−2. doi: 10.1016/j.jocn.2017.08.025. [Epub ahead of print])。
【0041】
本発明のAβ除去システムは、血液からAβを除去するカラムと、脳Aβ排出促進剤とを含むが、その使用態様としては、以下のようにすることが好ましい。
脳実質及び/又は髄液中から血液中へのAβの排出を促進している状態で、血液からAβを除去するカラムを用いることが好ましいため、脳Aβ排出促進剤を血液中に存在させた状態で、血液からAβを除去するカラムを用いて血液を処理することが好ましい。
血液からAβを除去するカラムを用いて血液を処理する際に、脳Aβ排出促進剤の血液中に存在させるためには、カラムにより血液処理の前に、脳Aβ排出促進剤を投与しておくことが好ましい。
【0042】
脳Aβ排出促進剤は、血液からAβを除去するカラムで処理する、通常、1時間以上前から、好ましくは4時間以上前から投与される。
脳Aβ排出促進剤の投与は、カラムによる血液中からのAβの除去を行う工程の前に、所定の投与レジメンに沿って連続して投与してもよく、好ましくは1週間以上、より好ましくは8週間以上、さらに好ましくは25週間以上行われる。
【0043】
本発明のAβ除去システムにおいては、脳Aβ排出促進剤の血液中への存在下で、カラムによるAβ除去を行うことが好ましいものの、脳Aβ排出促進剤の投与量は、特に限定されない。例えば、脳Aβ排出促進剤の投与レジメンに沿って脳Aβ排出促進剤の投与量を設定してもよく、具体的には、各薬剤の添付文書に記載の投与レジメンに沿って、設定されてもよい。
また、脳Aβ排出促進剤の投与量を、脳Aβ排出促進剤の長期連続投与時の投与量の5倍以上としてもよく、10倍以上としてもよい。
本発明において、「長期連続投与時の投与量」とは、実際の臨床で使用されている、あるいは使用されることが予定されている投与量を意味する。
ここで、「長期連続投与時の投与量」は、添付文書に記載の投与量であって、1日あたりの最大投与量(例えば、一時的に増大することが許容される投与量の1日量)であってもよく、標準的に投与される1日あたりの投与量であってもよい。
【0044】
本発明における投与量の意味を明らかとするために、脳血流改善剤であるシロスタゾール及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジル又はガランタミンを例にとって説明する。なお、本説明は、説明のためにするものであって、何ら本発明の範囲を限定する目的で行うものではない。また、添付文書としては、日本国におけるものを用いていて説明しているが、特に、日本国におけるものに限定されるものではない。
シロスタゾールの添付文書によれば、用法及び用量として、「通常、成人には,シロスタゾールとして1回100mgを1日2回経口投与する。なお、年齢・症状により適宜増減する。」とされている。ここで、添付文書に記載の投与レジメンに沿って設定する場合には、シロスタゾールの投与は、通常、1回100mgを1日2回経口投与することにより行われる。適宜増減した投与を行ってもよい。「長期連続投与時の投与量」としては、1日あたりの投与量は200mgとなるため、200mgの5倍以上で投与してもよく、10倍以上で投与してもよい。
ドネペジルの添付文書によれば、「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」を効能又は効果とする場合には、用法及び用量として、「通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1〜2週間後に5mgに増量し、経口投与する。高度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。なお、症状により適宜減量する。」とされ、「レビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制」を効能又は効果とする場合には、用法及び用量として、「通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1〜2週間後に5mgに増量し、経口投与する。5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。なお、症状により5mgまで減量できる。」とされている。ここで、添付文書に記載の投与レジメンに沿って設定する場合には、ドネペジルの投与は、ドネペジル塩酸塩として、通常、1日1回3mgから開始し、1〜2週間後に5mgに増量して経口投与することにより行なわれる。5mgで4週間以上経過後、10mgに増量してもよく、適宜減量した投与を行ってもよい。「長期連続投与時の投与量」としては、標準的に投与される1日あたりの投与量の場合、1日あたりの投与量は5mgとなるため、5mgの5倍以上で投与してもよく、10倍以上で投与してもよい。「長期連続投与時の投与量」を、一時的に増大することが許容される投与量の1日量とする場合には、1日あたりの投与量は10mgとなるため、10mgの5倍以上で投与してもよく、10倍以上で投与してもよい。
ガランタミンの添付文書によれば、用法及び用量として、「通常、成人にはガランタミンとして1日8mg(1回4mgを1日2回)から開始し、4週間後に1日16mg(1回8mgを1日2回)に増量し、経口投与する。なお、症状に応じて1日24mg(1回12mgを1日2回)まで増量できるが、増量する場合は変更前の用量で4週間以上投与した後に増量する。」とされている。ここで、添付文書に記載の投与レジメンに沿って設定する場合には、ガランタミンの投与は、通常、1日8mg(1回4mgを1日2回)から開始し、4週間後に1日16mg(1回8mgを1日2回)に増量して経口投与することにより行われる。変更前の用量で4週間以上投与した後に、1日24mg(1回12mgを1日2回)まで増量してもよい。「長期連続投与時の投与量」としては、標準的に投与される1日あたりの投与量の場合、1日あたりの投与量は16mgとなるため、16mgの5倍以上で投与してもよく、10倍以上で投与してもよい。1日24mgまで増量することができるので、「長期連続投与時の投与量」として、24mgの5倍以上で投与してもよく、10倍以上で投与してもよい。
【0045】
本発明は、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含み、長期連続投与時の投与量の5倍以上の投与量で、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が投与される、脳Aβ除去システムにも関する。
本発明の脳Aβ除去システムにおける、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼの投与量を、長期連続投与時の投与量の5倍以上、好ましくは10倍以上にすることで、血液中Aβ除去時の、脳内Aβの血液への移行がより促進される。
【0046】
脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を長期連続投与時の投与量の少なくとも5倍以上で投与すると、一度の投与であっても、投与後4時間で脳から血液中への移行が促進されることを見出した。
実施例に示すように、ドネぺジルでこの効果は顕著であり、この単回投与後4時間の間は血液中Aβを除去しない場合、塩酸ドネペジル投与群において対照群に比べ、血液中Aβ
1-40濃度は約7倍、血液中Aβ
1-42濃度は約2倍(Aβ
1-42増加し、髄液中のAβは著しく減少した。すなわち、髄液中のAβの血液への移行が著しく促進された。こののちにAβ除去カラムで血液中Aβ除去を行うことで、より効率的に脳内Aβを除去することができる。
また、このことから、血液中Aβ除去カラムをもちいずに、腎臓や肝臓での血液中Aβ代謝のみで、脳内Aβを減少させることも可能となる(下記、文献を参照。)。
Molecular Neurobiology. 2017;54(3):2338-2344
Acta Neuropathol. 2015;130:487-499
Journal of Neuroscience Research. 2011;89:808-814
THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY. 2009;284(48):33400-33408
すなわち、高投与量でドネぺジルを単回投与し、髄液から血液へAβを移行させ、その血液中Aβが腎臓や肝臓で代謝されたのちに、再びドネぺジルを単回高投与量で投与するというパルス療法的なアルツハイマー病の治療、予防システムが構築できる。
【0047】
本発明の脳Aβ除去システムにおいては、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を長期連続投与時の投与量の少なくとも5倍以上で投与するため、例えば、カラムでの血液中Aβの除去の1時間〜12時間以上前に、単回投与することが考えられる。
本発明の脳Aβ除去システムにおいては、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を長期連続投与時の投与量の少なくとも5倍以上で単回投与と、例えば、血液中Aβの除去のためのカラムでの処理と、を1サイクルとして、かかるサイクルを繰り返し行ってもよい。
脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の単回投与と、カラム処理による1サイクルの後、次の脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の単回投与を行うまでの間隔は、特に限定されない。
【0048】
シロスタゾールの単回高投与量では、脳実質から髄液へのAβ移行が促進されることが示唆されている。
【0049】
一度、血液からAβを除去するカラムで処理した後については、治療間隔を1回/1週として、24回程度(6ヶ月)、血液からAβを除去するカラムで処理することが好ましい。
毎日など、連続して脳Aβ排出促進剤を投与する場合には、カラム処理と処理の間も継続して脳Aβ排出促進剤を投与することが好ましく、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を単回投与する場合には、カラム処理と処理の間は、カラム処理の前に、脳血流改善剤及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を長期連続投与時の投与量の少なくとも5倍以上の高投与量で単回投与するまでは、休薬することが好ましい。
【0050】
本発明において、Aβ除去システムにおいても、脳Aβ除去システムにおいても、血液からAβを除去するカラムを用いて血液を処理するためには、血液透析(いわゆる人工透析を含む)、血液ろ過、白血球除去、活性炭による毒素除去、及びLDL除去などの血液浄化技術(アフェレシス)に類似する方法などにおいて知られる通常の方法により実施することができるが、基本的に末梢血液の処理を行うことが好ましい。
本発明において、末梢血液の処理とは、上腕静脈などからの脱血、体外における血液浄化、そして、通常は反対側の上腕静脈などへの返血を意味する。患者への負担が小さく、外来での血液Aβ除去が容易となる。
血液からAβを除去するカラムを用いて血液を処理する場合、特に限定されないが、例えば、1回あたり30分〜2時間、好ましくは1時間血液処理を行うことが好ましい。
また、大腿静脈や鎖骨下静脈などへのカニュレーションにより、中心静脈からの脱血、返血をおこなってもよい。さらに、動脈血の処理により血液の処理をしてもよく、動脈脱血、静脈返血という、血液ポンプを用いないで血液中のAβ除去をおこなってもよい。
【0051】
末梢血液を血液からAβを除去するカラムへ導入するには、以下のような態様により実施することができる。
Aβ除去システム/脳Aβ除去システムは、
血液の注入口と排出口を備えるハウジングと、
前記注入口からの血液が流入するように前記ハウジング内に収容される血液からAβを除去するカラムと、
血液を体外に脱血し前記注入口に連結する血液回路と、
流入したのちにカラム外へ流出された血液を返血するための血液回路と、を備えていてもよい。
【0052】
本発明においては、カラムにより、直接的に血液中のAβを効率よく除去すると共に、脳Aβ排出促進剤の作用により、特に、脳実質から髄液中へのAβの排出を促進して、患者において、脳内Aβの蓄積を減少させアルツハイマー病の治療又は予防に有効な手段になると考えられる。
【0053】
本発明において、患者とは、特に限定されず、アルツハイマー病を発症している患者であってもよく、アルツハイマー病を発症する前の患者であってもよい。
【0054】
本発明において、脱血するための血液回路から送液されてくる血液は、流入させる血液流量(QB)が、好ましくは10〜200mL/minであり、より好ましくは20〜70mL/minであり、Aβの除去と患者に負荷の少ない処理時間を総合的に考慮すると、さらに好ましくは、30〜60mL/minである。
かかる血液の流速を維持するデバイスとして、血液ポンプがAβ除去システム/脳Aβ除去システムに備えられていてもよい。
血液ポンプは、血液からAβを除去するカラムに血液を連続的に供給することができれば特に限定されないが、例えば、血液浄化装置用のポンプや人工透析用のポンプ、ペリスタポンプ(ローラーポンプ)などが挙げられる。
また、Aβ除去システム/脳Aβ除去システムにおいて、血液がAβを除去するカラムに通液される場合、血液凝固を防ぐために、血液中に抗凝固剤を含有させて通液させるため、抗凝固剤を血液と混合するチャンバーが設けられていてもよい。
さらに、通液される血液の圧力を測定するための、圧モニターや、返血される血液中の気泡を確認するためのモニターが設けられていてもよく、血液をサンプリングできるようになっていてもよい。
【0055】
本発明のAβ除去システム/脳Aβ除去システムにおいては、補液を供給する補液ポンプや、補液を貯蔵する補液タンクなどが設けられていてもよい。
【0056】
本発明のAβ除去システム/脳Aβ除去システムを用いることで、本発明においては、脳内β−アミロイド濃度を低下させる方法を実施することができる。
本発明における脳内Aβ濃度を低下させる方法は、
脳Aβ排出促進剤を血液中に存在させ、
血液を体外に脱血する工程
脱血した血液を、血液からAβを除去するカラムに通液する工程
通液した血液を体内に返血する工程、を含有し、
血液の一部又は全部を血液からAβを除去するカラムに通液して、β−アミロイドを除去する、脳内Aβ濃度を低下させる方法であることが好ましい。
【0057】
脳内Aβ濃度を低下させる方法は、脳Aβ排出促進剤を血液中に存在させ、血液を体外に脱血し、脱血した血液を中空糸膜に通液し、通液した血液を体内に返血する体外循環を行うことにより実施することができる。
血液中Aβ除去にかかる一連の工程は、血液透析(いわゆる人工透析を含む)、血液ろ過、白血球除去、活性炭による毒素除去、及びLDL除去などの血液浄化技術(アフェレシス)に類似する方法などとして実施することができるが、一例を挙げれば、患者の血液を体外循環させるべく可撓性チューブから成る血液回路が使用される。
体外循環を行うための血液回路は、一般に、患者から血液を採取する脱血側穿刺針が先端に取り付けられた脱血側血液回路と、患者に血液を戻す返血側穿刺針が先端に取り付けられた返血側血液回路と、脱血側血液回路と返血側血液回路との間に血液からAβを除去するカラムとを備える。
脱血側血液回路、血液からAβを除去するカラム、及び返血側血液回路は、可撓性チューブで連結されており、患者から脱血された血液は、可撓性チューブ内を通液され、血液からAβを除去するカラムと接触させられる。
すなわち、血液は、脱血側血液回路より、患者体内より体外へ脱血されて、血液回路内に導入され、血液回路内の可撓性チューブを通り、血液からAβを除去するカラムへ通液される。
血液からAβを除去するカラムへ通液された血液中のβ−アミロイドは血液からAβを除去するカラムと接することにより、β−アミロイドが血液からAβを除去するカラムに吸着及び/又はろ過され、血液からAβを除去するカラムを通液後の血液中のAβ濃度が低下する。本発明においては、血液中のAβ濃度が上昇するため、血液からAβを除去するカラムによりAβの除去以上に、血液中にAβが移行してきていると考えられる。血液からAβを除去するカラムによりAβの除去において、脳Aβ排出促進剤の存在により、髄液中のAβ濃度も上昇するので、脳実質からのAβの組み出しが起こっていると考えられ、脳内Aβ濃度が低下していると考えられる。
本発明においては、Aβモノマーのみならず、低分子量Aβオリゴマー、高分子量Aβオリゴマー及びAβプロトフィブリルなども効率よく除去することが好ましい。
血液からAβを除去するカラムより通液されて出てきた血液は、血液中β−アミロイド濃度が低下した血液として、返血側血液回路より、患者体外から体内へ返血される。
【0058】
本発明における脳内Aβ濃度を低下させる方法は、患者に、好適には、アルツハイマー病患者に適用されることにより、アルツハイマー病患者における血液中のひいては、脳内のβ−アミロイド濃度を低下させることができる。また、アルツハイマー病の予備軍ともいうべき、アルツハイマー病の症状は発症していないものの脳Aβイメージングなどで脳内Aβの増加がみられる患者(軽度認知障害(MCI)、さらにはその前段階)において、脳内Aβ濃度を低下させてもよい。
アルツハイマー病患者としては、脳Aβ排出促進剤を投与でき、血液からAβを除去するカラムにより体外循環を行うことができる患者であれば、特に限定されるものではない。また、本実施形態の脳内Aβ濃度を低下させる方法は、アルツハイマー病を未発症の患者に適用することにより、アルツハイマー病の発症を予防する方法として用いることもできる。
【0059】
本発明のβ−アミロイド濃度を低下させる方法は、脳Aβ排出促進剤を血液中に存在させ、血液を体外に脱血する工程、脱血した血液を少なくとも入口と出口を有するハウジングに、血液からAβを除去するカラムに通液する工程、通液した血液を体内に返血する工程、を含有し、体外の血液の流速は、血液からAβを除去するカラムへ流入させる血液量として10〜200mL/minであって、前記通液する工程は、β−アミロイドを血液からAβを除去するカラムに吸着及び/又はろ過させて、返血する血液中のβ−アミロイド濃度を低下させ、ひいては脳内Aβ濃度を低下させる、β−アミロイドを低下させる方法として実施してもよい。
【0060】
本発明においては、本発明のAβ除去システム/脳Aβ除去システムを用いて、Aβを除去する方法をも提供する。また、本発明においては、脳内Aβ濃度を低下させることにより、アルツハイマー病の治療又は予防する方法を提供することもできる。アルツハイマー病の治療又は予防する方法において、本発明のAβ除去システム/脳Aβ除去システムを用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例により説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1
8〜10週齡のオスのSDラット(250〜300g)に対して、8週間又は25週間、シロスタゾール0.3%を含む粉餌(日本クレア:CE−2 粉末)30g(1匹/day)を給餌した。
対照群にはシロスタゾールを含まない粉餌を同期間給餌した。
なお、各群、投与開始時で6匹とした。
市販されている吸着型血液浄化器(リクセルS−35 カネカ社製、β2−ミクログロブリン吸着器)からヘキサデシル基をリガンドとするセルロースビーズを取り出し、これをポリカーボネート製シリンジに2.5mL(リクセルS−35内容量350mLの1/140)充填し、Aβ除去ミニ・カラムを作成した。
Aβ除去ミニ・カラムにペリスタポンプ(SJ−1211 ATTO社製)を用いてヘパリンNa注(持田製薬0.1単位/mL)を添加した生理食塩水を10分間通過させプライミングした後、イソフルランによる吸入麻酔下にて右内頚静脈(脱血側)と尾静脈(送血側)に、末梢静留置カテーテルを設置した。脱血側からAβ除去ミニ・カラムに向かって血流速10mL/hrで通過させ送血側へ返血する血液浄化を60分間施行した。
血液浄化前(0分)と血液浄化開始後、15、30及び60分後にミニ・カラム入出口より採血し、120分後には尾静脈より採血した。髄液は血液浄化前(0分)と血液浄化開始後、60及び120分後にラット大槽内より採取した。
採取したサンプル中のAβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度をELISA Kit. High−Sensitive(和光純薬工業社製)を用い、iMark Microplate Reader(Bio−Rad Laboratories社製)にて測定波長450nm、参照波長620nmの条件で測定した。
【0063】
血液浄化開始後、15、30及び60分後に、ミニ・カラム入口と出口から採取した各サンプル中のAβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度から、血液がカラムを通過することにより、カラムによってAβがどの程度除去されたかを示すカラム前後除去率を算出した。結果を
図1に示す。
いずれも血液浄化中において90〜100%の除去率を示していた。
【0064】
図2に、シロスタゾール投与群(8週投与群又は25週投与群)及び対照群における血液浄化において、ミニ・カラム入口から採取した血液中Aβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度の推移を示す。ミニ・カラム入口の血液中Aβ濃度は、ラット体内を流れる血液中のAβ濃度と同一とみなしうるので、
図2はラット体内の血液中Aβ濃度の変化である。
なお、0時間における血液中Aβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度は、シロスタゾール投与群において対照群に対して高く、また、血液浄化終了時点及び血液浄化終了後1時間の時点でも、血液中Aβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度はシロスタゾール投与群において対照群に対して高くなる傾向が確認された。これらのことから、シロスタゾール投与群においては、脳から血液中へAβが移行しやすい状態になっていることが示唆された。
また、
図3に、シロスタゾール投与群(8週投与群又は25週投与群)及び対照群における血液浄化による血液中Aβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度の変化率を示す。なお、血液浄化前の血液中Aβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度をそれぞれ1.0とした。
図4及び
図5に、髄液中のAβ
1-40濃度及びAβ
1-42濃度の推移及び変化率を示す。
【0065】
<シロスタゾール8週投与群に対する考察>
60分間の血液浄化後の髄液中Aβ
1-42濃度は、シロスタゾール8週投与群において対照群より有意に高く(p=0.053、Wilcoxon検定)、変化率においても同様に有意に高くなった(p=0.027、メディアン検定)。
カラム前後除去率及び血液中Aβ濃度の推移は、シロスタゾール投与群及び対照群でほぼ同じであったが、髄液中Aβ濃度、特に、髄液中Aβ
1-42濃度は、対照群に比べ、シロスタゾール投与群で高くなったのは、血液浄化施行時の脳実質から髄液へのAβの移行がより促進されたためと考えられる。
【0066】
<シロスタゾール25週投与群に対する考察>
60分間の血液浄化後の血液中Aβ
1-40濃度の変化率は、シロスタゾール投与群は対照群より有意に高くなった(p=0.083、Wilcoxon検定)。
また、60分間の血浄化後の髄液中Aβ
1-40濃度の変化率は、シロスタゾール投与群は対照群より有意に高く(p=0.085、Wilcoxon検定)、髄液中Aβ
1-42濃度の変化率は、シロスタゾール投与群は対照群より有意に高くなった(p=0.096、Wilcoxon検定)。
【0067】
図1〜5の結果から、対照群では血液中Aβをカラムで高効率で除去しているにもかかわらず、血液中Aβ濃度は不変かやや上昇し、髄液中Aβは減少していることがわかる。シロスタゾール投与群では、(とくに25週投与では)血液中Aβ濃度は上昇し、髄液中Aβ濃度は下がりにくくなっていることがわかる。つまり、シロスタゾール投与によって、血液浄化施行時の、脳実質から髄液へのAβ移行が促進され、血液中への移行も多くなっていると考えられる。
【0068】
実施例2(ドネぺジルの単回高投与量投与)
ラット(SD系 8−11週齢)に、胃ゾンデを用いて麻酔下に、生理食塩水(0.5ml)に懸濁した塩酸ドネぺジル 0.3mgを経口投与した(DPZ群)。体重比換算でヒト標準投与量(5mg/日)の10倍程度の高投与量となる。対照としては、ドネぺジルを含まない同量の生理食塩水のみを投与した(CTL群)。投与4時間後に実施例1と同様にして血液中Aβ除去を行った。ミニ・カラム前後のAβ除去率はいずれもほぼ100%であった。
投与から血液中Aβ除去開始直前までの4時間(0hr−4hr)で、血液(血漿)中Aβ濃度の増加量を
図6(Aβ
1-40)及び
図7(Aβ
1-42)に示す。
図6では、DPZ群はCTL群より有意に血液中Aβが増加した(p=0.039、Wilcoxon検定)。
図7でもDPZ群でCTL群より血液中Aβが増加する傾向があった。
この投与後4時間の間の髄液中Aβ
1-40濃度の変化は、DPZ群で73.7pg/mLの減少がみられた。血液中Aβ濃度の増加と呼応して、髄液中Aβ濃度は低下した。
投与後4時間〜5時間まで血液浄化を行った場合の24時間後までの血液中Aβ
1-40及び血液中Aβ
1-42の濃度推移を
図8(Aβ
1-40)及び
図9(Aβ
1-42)にそれぞれ示す。
図8及び9に示すように、血液中Aβ除去の間は、ミニ・カラムがほぼ100%程度のAβ除去率を示すにもかかわらず、DPZ群ではCTL群に比べて血液中Aβ濃度はあまり増加しなかった。DPZ群の髄液中Aβ
1-40濃度及び髄液中Aβ
1-42濃度は、血液中Aβ除去の間はあまり変化せず、血液中Aβ除去が終了すると上昇に転じた。つまり、DPZ群では、髄液中のAβのかなりの量が血液浄化前に血中に湧きだしてしまい、血液中Aβ除去(血液浄化)中は脳実質から髄液への移行も促進され、血中へ移行するAβを効率よく除去できたと考えられる。
このドネぺジルの効果は、血液中Aβ除去が終わっても1−19時間は持続した。
【0069】
実施例3(シロスタゾールの単回高投与量投与)
ラット(SD系 8−11週齢)に、胃ゾンデを用いて麻酔下に、生理食塩水(0.5ml)に懸濁したシロスタゾール50mgを経口投与した(Cilostazol群)。体重比換算でヒト標準投与量(200mg/日)の50倍程度の高投与量となる。対照としては、シロスタゾールを含まない同量の生理食塩水のみを投与した(CTL群)。投与4時間後に実施例1と同様にして血液中Aβ除去を行った。ミニ・カラム前後のAβ除去率はいずれも90%以上であった。
投与後4時間〜5時間まで血液浄化を行った場合の24時間後までの血液中Aβ
1-40及び血液中Aβ
1-42の濃度推移を
図10(Aβ
1-40)及び
図11(Aβ
1-42)にそれぞれ示す。
図10及び11に示すように、Cilostazol群では、Aβ
1-40もAβ
1-42も投与直後からCTL群よりも血液中Aβ濃度が低く、血液中Aβ除去(血液浄化)中もほとんど変化せず、CTL群よりも低値を維持した。
Cirostazol群の髄液中Aβ濃度は、投与直後から4時間までの間ではほとんど変化せず、血液中Aβ除去中は増加した。つまり、シロスタゾールの単回高投与量投与下で血液中Aβ除去を行うと、脳実質から髄液へのAβ移行の促進が起こることが示唆された。
【0070】
実施例2及び実施例3の結果から、脳実質から髄液へのAβ移行をシロスタゾール(脳循環改善剤)投与で、髄液から血液中へのAβ移行をドネぺジル(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤)投与で、惹起し、血液中Aβ除去と組み合わせる、あるいは薬剤と腎肝代謝を組み合わせることで、脳内Aβ除去を促進することもできる。