特許第6501438号(P6501438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6501438
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20190408BHJP
【FI】
   B23K9/29 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-137419(P2018-137419)
(22)【出願日】2018年7月23日
【審査請求日】2018年9月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599095159
【氏名又は名称】株式会社ムラタ溶研
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 彰久
(72)【発明者】
【氏名】村田 唯介
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−139704(JP,A)
【文献】 特開平10−263824(JP,A)
【文献】 実開昭62−010962(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドガス(G)を内側と外側に流し且つ内側のシールドガス(G)を外側のシールドガス(G)よりも高速で噴射させる狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ(1)であって、シールドガス(G)を通すトーチボディ(2)と、トーチボディ(2)に挿着され、タングステン電極棒(3)を着脱自在に保持する電極コレット(4)と、トーチボディ(2)の先端部に設けられ、トーチボディ(2)内を通って来たシールドガス(G)をタングステン電極棒(3)とワーク(W)との間に発生したアーク(a)の周囲に放出するシールドノズル(6)と、シールドノズル(6)内に設けられ、シールドガス(G)を均質に拡散させて層流化するガスレンズ(7)と、タングステン電極棒(3)の先端部周囲にタングステン電極棒(3)と同心状に配置され、タングステン電極棒(3)との間に環状の高速ガス通路(8d)を形成すると共に、当該高速ガス通路(8d)からシールドガス(G)をアーク(a)の周囲にシールドノズル(6)から放出されるシールドガス(G)よりも高速で噴射させる狭窄ノズル(8)と、ガスレンズ(7)の下流側位置で且つシールドノズル(6)と狭窄ノズル(8)との間に設けられ、ガスレンズ(7)を通過したシールドガス(G)を均質に拡散させて層流化する第2フィルター(9)と、を少なくとも備え、前記第2フィルター(9)は、積層された複数枚の環状の金網から成ることを特徴とする狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ。
【請求項2】
前記第2フィルター(9)は、ガスレンズ7から所定距離だけ隔てた位置に設けられており、第2フィルター(9)とガスレンズ(7)との間に環状の空間(16)を形成したことを特徴とする請求項1に記載の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ。
【請求項3】
前記第2フィルター(9)と前記ガスレンズ(7)との間に、第2フィルター(9)をシールドノズル(6)の先端側へ付勢し、第2フィルター(9)の外周縁部を先端部が縮径したシールドノズル(6)の内周面傾斜部(6b)に当接保持させる圧縮コイルスプリング(10)を介設したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にステンレス、鉄、銅、アルミ等の金属薄板の端部同士を突合せ溶接するTIG溶接において使用されるTIG溶接用トーチに係り、特に、シールドガスを内側と外側に流し且つ内側のシールドガスを外側のシールドガスよりも高速で噴射させるようにした狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチとしては、本件発明者が先に開発した特許第5602974号公報(特許文献1)及び特許第5887445号公報(特許文献2)に開示されたものが知られている。
【0003】
図5は従来の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ20の一例を示し、当該狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ20は、シールドガスGを通すトーチボディ21と、トーチボディ21に電極コレット(図示省略)を介して挿着されたタングステン電極棒22と、トーチボディ21の先端部に設けられ、トーチボディ21内を通って来たシールドガスGをタングステン電極棒22とワークWとの間に発生したアークaの周囲に放出するシールドノズル23と、シールドノズル23内に設けられ、シールドガスGを均質に拡散させて層流化するフィルター24aを有するガスレンズ24と、タングステン電極棒22の先端部周囲にタングステン電極棒22と同心状に配置され、タングステン電極棒22との間に環状の高速ガス通路25aを形成する狭窄ノズル25等を備えている。
【0004】
前記狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ20は、トーチボディ21内に供給されたシールドガスGが、ガスレンズ24のフィルター24aを通って狭窄ノズル25とシールドノズル23の間を流れる外側のシールドガスG1と、ガスレンズ24のフィルター24aを通らずに狭窄ノズル25の内側を流れる内側のシールドガスG2とに分流され、内側のシールドガスG2が外側のシールドガスG1よりも高速となって噴射されるようになっている。
【0005】
このような狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ20は、次のような優れた効果を奏することができる。
(1)アークプラズマの緊縮を促進し、それによってアークプラズマの中心部の温度を上 昇させる。
(2)ガス流量が上昇することによりプラズマ気流の流速を上昇させる。
(3)電流経路をアークプラズマの中心部に集中させる効果があり、その効果は溶接電流 が大きい領域において大きくなる。
(4)矩形波形のパルス電流を用いた場合、ピーク電流時とベース電流時とにおける熱流 速の差が、狭窄ノズルを備えないTIG溶接トーチに比較して大きくなり、パルス溶 接の特性をより強める効果を生み出す。
(5)タングステン電極棒の周囲にシールドガスを高速で流しているため、タングステン 電極棒の温度上昇が抑えられ、また、狭窄ノズルの先端から放出される高速整流ガス により溶融プール内から発生する蒸発金属等がタングステン電極棒の先端部に付着す るのを防止できるため、タングステン電極棒の長寿命化を図れる。
(6)アークプラズマ及び母材への入熱はタングステン電極棒先端角度の変化によって変 化するが、タングステン電極棒先端部への蒸発金属等の付着を減少させることによ り、アークプラズマ及び母材への入熱の変化を抑え、安定したプラズマ及び母材への 入熱を維持することができる。
【0006】
図5に示す狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ20は、上記のような優れた性能を発揮し得るが、更なる性能の向上が望まれている。
【0007】
ところで、前記TIG溶接用トーチ20を用いるTIG溶接においては、溶接時に溶接部等をシールドガス(アルゴンガスやヘリウムガス、アルゴンガスとヘリウムガス等の混合ガス)により保護することが行われている。
【0008】
前記シールドガスは、溶融金属、アーク、タングステン電極棒を大気(空気)から保護すると共に、アークを安定的に維持し、持続し続けさせる働きをする。よって、シールドガスは、アークそのものの素材になると言う重要な機能を担っている。
【0009】
即ち、シールドガスは、溶融金属及びアーク等を大気から遮断し、溶着金属及び溶融部の酸化や窒化を防止し、ブローホール等の溶接欠陥を無くす働きをする。また、シールドガスは、電離することによってアークとなるため、アークそのもののベースであり、シールドガスの成分はアークの状態を大きく作用することになる。
【0010】
このように、シールドガスは、アークそのものの素材になると言う重要な機能を担っている。
【0011】
そこで、本件発明者は、前記シールドガスに着目し、シールドガスの流れをより安定化することによって、良質で且つ安定したアークプラズマの生成が可能となり、溶接ビードの外観、溶接品質(金属組織)の改善を図れることを知得した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5602974号公報
【特許文献2】特許第5887445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチを改良することによって、性能を更に向上させる、狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に記載の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチは、シールドガスを内側と外側に流し且つ内側のシールドガスを外側のシールドガスよりも高速で噴射させる狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーであって、シールドガスを通すトーチボディと、トーチボディに挿着され、タングステン電極棒を着脱自在に保持する電極コレットと、トーチボディの先端部に設けられ、トーチボディ内を通って来たシールドガスをタングステン電極棒とワークとの間に発生したアークの周囲に放出するシールドノズルと、シールドノズル内に設けられ、シールドガスを均質に拡散させて層流化するガスレンズと、タングステン電極棒の先端部周囲にタングステン電極棒と同心状に配置され、タングステン電極棒との間に環状の高速ガス通路を形成すると共に、当該高速ガス通路からシールドガスをアークの周囲にシールドノズルから放出されるシールドガスよりも高速で噴射させる狭窄ノズルと、ガスレンズの下流側位置で且つシールドノズルと狭窄ノズルとの間に設けられ、ガスレンズを通過したシールドガスを均質に拡散させて層流化する第2フィルターと、を少なくとも備え、前記第2フィルターは、積層された複数枚の環状の金網から成ることに特徴がある。
【0015】
本発明の請求項2に記載の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチは、請求項1に記載の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチにおいて、前記第2フィルターは、ガスレンズから所定距離だけ隔てた位置に設けられており、第2フィルターとガスレンズとの間に環状の空間を形成したことに特徴がある。
【0016】
本発明の請求項3に記載の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチは、請求項1又は請求項2に記載の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチにおいて、前記第2フィルターと前記ガスレンズとの間に、第2フィルターをシールドノズルの先端側へ付勢し、第2フィルターの外周縁部を先端部が縮径したシールドノズルの内周面傾斜部に当接保持させる圧縮コイルスプリングを介設したことに特徴がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチは、シールドガスを層流化するガスレンズの下流側位置に同じくシールドガスを均質に拡散させて層流化する第2フィルターを設け、当該第2フィルターとガスレンズとの間に環状の空間を形成しているため、シールドガスがガスレンズ、環状の空間及び第2フィルターを順次通過し、シールドガス流が環状の空間及び第2フィルターによって、より緩やか且つ均一になり、その結果、良質で且つ安定したアークプラズマの生成が可能となり、溶接ビードの外観、溶接品質(金属組織)の改善を図ることができ、性能を更に引き上げることが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチは、第2フィルターを設けることによって、シールドガス流が安定化して良質なアークプラズマの生成が可能になるうえ、狭窄ノズルとの相乗効果で溶融プール内の金属組織が改善されて溶接品質が向上することになる。
【0020】
更に、本発明に係る狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチは、第2フィルターを設けることによって、シールドガス流がより緩やか且つ均一になるので、金属蒸気が微細化し、タングステン電極棒の偏摩耗が減少すると共に、タングステン電極棒の長寿命化を図れ、溶接能率の向上を図ることができる。
【0021】
更に、本発明に係る狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチは、第2フィルターがガスレンズの下流側位置で且つシールドノズルと狭窄ノズルとの間に設けられているため、シールドノズルを取り外すことにより第2フィルターの取り付け及び取り外しを簡単且つ容易に行うことができ、第2フィルターの交換、着脱も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチの縦断面図である。
図2】同じく狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチの要部の拡大縦断面図である。
図3図2のA−A線断面図である。
図4図1図3に示す狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチのガス流速のイメージ図である。
図5】従来の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチの要部の拡大縦断面図である。
図6】従来の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチのガス流速のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1図3は本発明の一実施形態に係る狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1を示し、当該狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1は、ステンレス、鉄、銅、アルミ等の金属薄板の端部同士を突合せ溶接する際に用いるものである。
【0024】
即ち、前記狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1は、図1図3に示す如く、内部にアルゴンガスやヘリウムガス等のシールドガスGを通す筒状のトーチボディ2と、トーチボディ2内にトーチボディ2の軸線方向へ移動可能且つ回転可能に挿着され、タングステン電極棒3を着脱自在に保持する電極コレット4と、電極コレット4の上端部に取り付けられ、電極コレット4を正逆回転させてトーチボディ2の軸線方向へ移動させるコレットハンドル5と、トーチボディ2の先端部に設けられ、トーチボディ2内を通って来たシールドガスGをタングステン電極棒3とワークWとの間に発生したアークaの周囲に放出するシールドノズル6と、シールドノズル6内に設けられ、シールドガスGを均質に拡散させて層流化するガスレンズ7と、タングステン電極棒3の先端部周囲にタングステン電極棒3と同心状に配置され、タングステン電極棒3との間に環状の高速ガス通路8dを形成すると共に、当該高速ガス通路8dからシールドガスGをアークaの周囲にシールドノズル6から放出されるシールドガスGよりも高速で噴射させる狭窄ノズル8と、ガスレンズ7の下流側位置で且つシールドノズル6と狭窄ノズル8との間に設けられ、ガスレンズ7を通過したシールドガスGを均質に拡散させて層流化する第2フィルター9と、第2フィルター9とガスレンズ7との間に介設され、第2フィルター9をシールドノズル6の先端側へ付勢し、第2フィルター9の外周縁部を先端部が縮径したシールドノズル6の内周面傾斜部6bに当接保持させる圧縮コイルスプリング10と、を備えている。
【0025】
尚、図1に於いて、11はトーチボディ2に設けられ、電極コレット4に適宜の回動抵抗を与えて電極コレット4を調整位置に保持する加圧調整ネジ、12はトーチボディ2に固定された電極・メインガス管接続金具、13はトーチボディ2とコレットハンドル5との間をシールするOリング、14はトーチボディ2とガスレンズ7との間に介設したガスシール用のゴムリング、15はトーチボディ2とシールドノズル6との間に介設したプラスチック製の調整リングである。
【0026】
前記トーチボディ2は、図1に示す如く、アルミ合金等の金属材により形成された角筒部及び角筒部の上端に連設された円筒部とから成り、角筒部の周壁には、電極・メインガス管接続金具12と加圧調整ネジ11が挿入固定されている。尚、電極・メインガス管接続金具12には、図示していないが、メインガス供給管及びパワーケーブルがそれぞれ接続されている。
【0027】
また、トーチボディ2の上端部開口の内周面には、タングステン電極棒3を保持する電極コレット4が上下動自在に螺挿される雌ネジ2aが形成され、トーチボディ2の下端部開口の内周面には、シールドガスGを層流化するガスレンズ7が着脱自在に螺着される雌ネジ2bが形成されている
【0028】
前記電極コレット4は、図1に示す如く、先端部に半割り状のチャック部を備えた細長い筒状に形成され、外周面の一部にトーチボディ2の上端部側の雌ネジ2aに上下動自在に螺着される雄ネジ4aを形成した銅製のコレット本体4′と、コレット本体4′のチャック部の外周面に着脱自在に螺着され、チャック部を締め付けてコレット本体4′に挿通されたタングステン電極棒3を固定する銅製の筒状の固定具4″とを備えている。
【0029】
この電極コレット4は、トーチボディ2内へ上方側から螺挿されており、コレット本体4′の上端部に固定したコレットハンドル5を回転させることによりトーチボディ2内で上下動するようになっている。
【0030】
前記シールドノズル6は、図1及び図2に示す如く、セラッミク材により先端部が縮径した筒状に形成されており、その内周面の一部には、後述するガスレンズ7の保持筒部7dの雄ネジ7cに着脱自在に螺着される雌ネジ6aが形成されている。
【0031】
このシールドノズル6は、その雌ネジ6aをガスレンズ7の保持筒部7dの雄ネジ7cにねじ込むことによりガスレンズ7の外周面に取り付けられており、ガスレンズ7のフィルター7″を通過して層流化されたシールドガスGをタングステン電極棒3の先端部周囲に放出するようになっている。
【0032】
前記ガスレンズ7は、トーチボディ2の下端部に着脱自在に取り付けられる銅材製の筒状構造のホルダー7′と、ホルダー7′に取り付けた金属製のフィルター7″とを備えている。
【0033】
具体的には、ホルダー7′は、図1及び図2に示す如く、中心部にガス通路7aを形成した筒状体に形成されており、上端部外周面には、トーチボディ2の下端部側の雌ネジ2bに着脱自在に螺着される雄ネジ7bが形成されている。
【0034】
また、ホルダー7′の下端部には、外周面にシールドノズル6が着脱自在に螺着される雄ネジ7cを形成した筒状の保持筒部7dと、保持筒部7dの中心に位置してその内周面に狭窄ノズル8が着脱自在に螺着される雌ネジ7eを形成した支持筒部7fとがそれぞれ形成されている。
【0035】
更に、ホルダー7′の保持筒部7dと支持筒部7fとの間の空間は、環状のガス室7gとなっており、支持筒部7fの基端部近傍に形成した複数のガス流通孔7h及びホルダー7′のガス通路7aを介してトーチボディ2内に連通されている。
【0036】
一方、フィルター7″は、環状に打ち抜かれた金網を複数枚積層することにより形成されており、その内周縁部をホルダー7′の支持筒部7fに、また、その外周縁部をホルダー7′の保持筒部7dにそれぞれ嵌め込むことによりホルダー7′に取り付けられている。尚、支持筒部7fの外周面及び保持筒部7dの内周面には、図2に示す如く、フィルター7″の上方への移動を規制する段差部がそれぞれ形成されている。
【0037】
本実施形態においては、フィルター7″には、600メッシュのステンレス鋼製の金網3枚と300メッシュのステンレス鋼製の金網2枚を組み合せたものが使用されている。
【0038】
尚、上記の実施形態においては、ガスレンズ7をホルダー7′とフィルター7″とから形成したが、他の実施形態においては、ガスレンズ7をフィルター7″のみから形成しても良い。
【0039】
前記狭窄ノズル8は、図1及び図2に示す如く、タングステン電極棒3の先端部周囲に配設されてタングステン電極棒3の先端部外周面との間に環状の高速ガス通路8dを形成するものであり、トーチボディ2内からガスレンズ7のホルダー7′のガス通路7a内に流れるシールドガスGの一部を前記高速ガス通路8d内に流してシールドノズル6から狭窄ノズル8の周囲に流れる層流化したシールドガスG1よりも速い高速整流ガスG3とし、当該高速整流ガスG3をアークaの周囲に流すようにしたものである。
【0040】
即ち、前記狭窄ノズル8は、電導性及び強度性等に優れた銅材(ベリリウム銅)により筒状体に形成されており、図1図3に示す如く、タングステン電極棒3の先端部周囲にタングステン電極棒3と同心状に配置され、タングステン電極棒3の先端部外周面との間に環状の高速ガス通路8dを形成する筒状のノズル本体8aと、ノズル本体8aの内周面に円周方向へ所定の間隔をおいて突出形成され、タングステン電極棒3をノズル本体8aの中心位置に保持するノズル本体8aの長手方向に沿う複数の位置決め用突条8bと、複数の位置決め用突条8b間に形成され、ノズル本体8aの長手方向に平行に延びて高速ガス通路8d内を流れるシールドガスGを整流化する複数のガス整流溝8cと、を備えている。
【0041】
具体的には、ノズル本体8aは、先端部(下端部)外周面が先細り状に形成されており、その基端部(上端部)外周面には、ガスレンズ7のホルダー7′の支持筒部7fに着脱自在に螺着される雄ネジ8eが形成されている。
【0042】
このノズル本体8aは、その雄ネジ8eを支持筒部7fにねじ込むことによりガスレンズ7の先端面中央位置に取り付けられる。このとき、ノズル本体8aは、タングステン電極棒3の先端部周囲にタングステン電極棒3及びシールドノズル6と同心状に配置されてタングステン電極棒3の先端部外周面との間に環状の高速ガス通路8dを形成する。
【0043】
また、位置決め用突条8b及びガス整流溝8cは、それぞれノズル本体8aの内周面に円周方向へ等角度ごとに配置されており、ノズル本体8aの先端開口から高速整流ガスG3をアークaの周囲に均等に流せるようになっている。
【0044】
更に、位置決め用突条8b及びガス整流溝8cは、ノズル本体8aの先端から離れた位置に形成され、また、位置決め用突条8b及びガス整流溝8cの下流側に位置する高速ガス通路8dの内径は、位置決め用突条8b及びガス整流溝8cの上流側に位置する高速ガス通路8dの内径よりも大きく形成されている。
【0045】
その結果、高速ガス通路8d内に流入したシールドガスGは、ガス整流溝8cを通過して整流化されて高速整流ガスG3となり、高速ガス通路8dの下流側部分で安定化してからノズル本体8aの先端開口から放出されることになる。
【0046】
尚、狭窄ノズル8の形状及び構造は、上記の実施形態に係るものに限定されるものではなく、アークaの周囲に高速整流ガスG3を流すことができれば、如何なる形状及び構造ものであっても良い。
【0047】
前記第2フィルター9は、ガスレンズ7の下流側位置で且つシールドノズル6と狭窄ノズル8との間に設けられており、ガスレンズ7により層流化されたシールドガスG1を更に均質に拡散させて層流化するものである。
【0048】
即ち、第2フィルター9は、環状に打ち抜かれた金網を複数枚積層することにより形成されており、その内周縁部を狭窄ノズル8の外周面に嵌め込むと共に、その外周縁部をシールドノズル6の内周面傾斜部6bに当接させることにより、シールドノズル6と狭窄ノズル8との間に設けられている。
【0049】
また、第2フィルター9は、ガスレンズ7のフィルター7″から所定距離だけ隔てた位置に設けられており、第2フィルター9とガスレンズ7のフィルター7″との間に環状の空間16を形成するようになっている。
【0050】
本実施形態においては、第2フィルター9には、600メッシュのステンレス鋼製の金網を5枚積層したものが使用されている。尚、第2フィルター9を形成する金網のメッシュ及び使用枚数は、前記実施形態のものに限定されるものではなく、ガスレンズ7のフィルター7″を通過したシールドガス流をより緩やか且つ均一にすることができれば、如何なるメッシュ及び枚数であっても良い。
【0051】
前記圧縮コイルスプリング10は、ガスレンズ7と第2フィルター9との間に介設されており、第2フィルター9をシールドノズル6の先端側へ付勢し、第2フィルター9の外周縁部を先端部が縮径したシールドノズル6の内周面傾斜部6bに当接保持させるものである。
【0052】
この圧縮コイルスプリング10により第2フィルター9の浮き上がりが防止され、第2フィルター9は、所定の位置に保持されことになる。
【0053】
而して、上述した狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1を用いた溶接においては、シールドノズル6及び狭窄ノズル8からアルゴンガス等のシールドガスGをワークWへ向って流しつつ、電源(図示省略)を操作してタングステン電極棒3とワークWとの間に電圧を印加すると、シールドガスGの雰囲気中でタングステン電極棒3の先端とワークWとの間にアークaが発生する。
【0054】
この実施形態では、前記溶接は、電源に直流を使用し、タングステン電極棒3を直流溶接機の負極に接続して溶接を行う正極性(棒マイナス)となっている。
【0055】
トーチボディ2内に供給されたシールドガスGは、ガスレンズ7のホルダー7′のガス通路7a内を流下し、その一部が複数のガス流通孔7hから環状のガス室7g内に流入し、また、残りがガス通路7aから狭窄ノズル8の高速ガス通路8d内に流入する。
【0056】
環状のガス室7gに流入したシールドガスGは、ガスレンズ7のフィルター7″を通過して均質に拡散され、環状の空間16に流入した後、第2フィルター9を通過して均質に拡散され、層流ガスG1となってシールドノズル6からアークaの周囲に放出される。
【0057】
一方、高速ガス通路8dに流入したシールドガスGは、その速度を増して高速ガスG2となると共に、複数のガス整流溝8cを通過することにより整流され、高速整流ガスG3となってノズル本体8aの先端開口からアークaの周囲に直線状に放出される。
【0058】
尚、ガス整流溝8cを通過した高速整流ガスG3は、位置決め用突条8b及び複数のガス整流溝8cがノズル本体8aの先端から離れた位置に形成されているため、高速ガス通路8dの下流側部分で安定化し、安定した状態でノズル本体8aの先端開口から放出される。
【0059】
そして、タングステン電極棒3の先端とワークWとの間に発生したアークaは、図2に示す如く、タングステン電極棒3からワークWへ向って広がっているため、アークaの内部圧力はタングステン電極棒3の方がワークWよりも高くなっている。
【0060】
その結果、シールドガスGの一部がアークa内に引き込まれ、プラズマ気流と呼ばれる高速のガス流が発生する。このプラズマ気流は、ワークWの溶け込み形成に大きく影響し、また、アークaの指向性及び硬直性(アークaがその形状を保持する性質)にも影響を与えるものであり、その速度が速くなればなる程、アークaの指向性及び硬直性を高めることができる。更に、発生したアークaは、狭窄ノズル8から放出される高速整流ガスG3によるサーマルピンチ効果により絞られてエネルギー密度の高い安定したアークaとなる。
【0061】
上述した狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1は、ガスレンズ7の下流側位置に第2フィルター9を設け、ガスレンズ7と第2フィルター9との間に環状の空間16を形成しているため、シールドガスGの流れが前記環状の空間16及び第2フィルター9によって、より緩やかで且つ均一になり、溶接中においても陰極点(アークの発生点)が安定したアークプラズマを維持し、溶接ビードの外観、溶接品質(金属組織)の改善を図ることができる。
【0062】
また、狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1は、第2フィルター9によりシールドガス流が安定化して良質なアークプラズマの生成が可能になるうえ、狭窄ノズル8との相乗効果で溶融プール内の金属組織が改善されて溶接品質が向上することになる。
【0063】
更に、狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1は、第2フィルター9によりシールドガス流がより緩やか且つ均一になるので、金属蒸気が微細化し、タングステン電極棒3の偏摩耗が減少すると共に、タングステン電極棒3の長寿命化を図れ、溶接能率の向上を図ることができる。
【0064】
更に、狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1は、第2フィルター9がガスレンズ7の下流側位置で且つシールドノズル6と狭窄ノズル8との間に設けられているため、シールドノズル6を取り外すことにより第2フィルター9の取り付け及び取り外しを簡単且つ容易に行うことができ、第2フィルター9の交換、着脱も容易となる。
【0065】
図4は本発明の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1のガス流速のイメージ図を示し、また、図6は従来の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1のガス流速のイメージ図を示すものであり、第2フィルター9を設けた本発明の狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチ1の方がシールドガス流(点線で示した部分)を緩やかで且つ均一にすることができる。
【符号の説明】
【0066】
1はTIG溶接用トーチ
2はトーチボディ
3はタングステン電極棒
4は電極コレット
6はシールドノズル
6bは肩部
7はガスレンズ
8は狭窄ノズル
8dは高速ガス通路
9は第2フィルター
10は圧縮コイルスプリング
16は環状の空間
aはアーク
Gはシールドガス
G1は層流ガス
G2は高速ガス
G3は高速整流ガス
Wはワーク
【要約】      (修正有)
【課題】良質且つ安定したアークプラズマの生成が可能となる狭窄ノズルを備えるTIG溶接用トーチを提供する。
【解決手段】トーチボディ2内を通って来たシールドガスGをタングステン電極棒3とワークとの間に発生したアークの周囲に放出するシールドノズル6と、シールドノズル6内に設けられ、シールドガスGを均質に拡散させて層流化するガスレンズ7と、タングステン電極棒3の先端部周囲にタングステン電極棒3と同心状に配置され、タングステン電極棒3との間に環状の高速ガス通路8dを形成すると共に、当該高速ガス通路8dからシールドガスGをアークの周囲にシールドノズル6から放出されるシールドガスGよりも高速で噴射させる狭窄ノズル8と、ガスレンズ7の下流側位置で且つシールドノズル6と狭窄ノズル8との間に設けられ、ガスレンズ7により層流化されたシールドガスGを均質に拡散させて層流化する第2フィルター9と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6