(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低駆動電圧、低消費電力及び軽量などの特性を有していることから、時計の表示板や携帯電話のディスプレイのほか、コンピュータやテレビのディスプレイなどでの用途が拡がっている。
現在主流の液晶表示装置では、TN(twisted nematic)モード、VA(vertical alignment)モード、IPS(in-plane switching)モードなどが採用されているが、これらの種類や仕様によって液晶材料に要求される物性(例えば、屈折率異方性、誘電率異方性、粘度、相転移温度など)が異なる。そのため、所望の物性を満たすために、単一の液晶成分ではなく、2種以上の液晶成分を含む混合液晶が液晶材料として一般的に使用されている。また、最近では、液晶材料に微粒子を含有させることによって様々な物性を向上させ得ることも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記駆動方式の液晶表示装置ではいずれも、液晶分子の配向を制御する手段が必要であり、ポリイミドなどからなる配向膜を形成する手段が一般的に使用されている。例えば、TNやIPSモードの液晶表示装置では、ラビング処理を施した配向膜によって、基板に対して平行な方向に液晶分子を配向制御している。他方、ラビング処理が不要なVAモードの液晶表示装置では、配向膜によって基板に対して垂直な方向に液晶分子を配向制御している。
ここで、従来の一般的なVAモード液晶表示装置の断面図を
図3及び
図4に示す。なお、
図3は平面型電極6を用いたもの、
図4は櫛型電極7を用いたものである。これらの図からわかるように、従来の一般的なVAモード液晶表示装置は、対向した一対のガラス基板などの基板1a,1bと、基板1aと基板1bとの間に挟持された、液晶分子3を含む液晶層2とを備えており、基板1a,1bの液晶層2と直に接する面には、液晶分子を配向制御する配向膜8が形成されている。また、基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4及びカラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5が形成されており、シール材9によって液晶層2が封止されている。
【0004】
平面型電極6を用いたVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、配向膜8によって液晶層2中の液晶分子(n型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(n型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に垂直に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
櫛型電極7を用いたVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、配向膜8によって液晶層2中の液晶分子(p型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(p型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に平行に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
【0005】
しかしながら、
図3及び4のようなVAモード液晶表示装置に代表される従来の一般的な液晶表示装置では、配向膜8によって液晶分子3の配向制御を行っているため、配向膜8の形成に起因する様々な問題がある。例えば、配向膜8を形成する際にゴミやピンホールによって印刷上の製造歩留まりが低下したり、製造工程のガラス基板の大型化に伴って配向膜8の形成工程の投資コストが増大するなどの問題がある。そのため、他の液晶配向制御手段の開発が強く望まれている。
【0006】
他の液晶配向制御手段としては、非特許文献1において、ナノ粒子を分散させた液晶材料を液晶層に用いる方法が提案されている。また、非特許文献2において、光重合性モノマーを配合した液晶材料をガラス基板間に注入した後に光照射する方法が提案されている。さらに、非特許文献3において、ITO電極にイオンビームを直接照射することで配向膜を形成することなく垂直配向を誘起させる方法が提案されている。
しかしながら、非特許文献1の方法は、液晶材料に分散させたナノ粒子が凝集し易く、凝集した部分から光漏れが生じるため、液晶表示装置のコントラストが低下するという問題がある。また、非特許文献2の方法は、光照射工程が必要であるため、新たな設備投資が要求されると共に作業時間が長くなり、コストアップに繋がるという問題がある。さらに、非特許文献3の方法は、イオンビーム照射工程が必要であるため、真空容器を備えた新たな設備投資が必要となる上、ITO櫛型電極を使用する場合(
図2参照)、ITOが形成されていない部分において垂直配向を誘起させることができないという根本的な問題が発生する。
【0007】
そこで、本発明者らは、特許文献2及び3において、コントラストなどの表示性能を低下させずに液晶配向制御を行うことが可能な液晶配向剤として、特定の構造を有するデンドリマー及びデンドロンを提案した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
本実施の形態の液晶配向剤は、デンドロン側鎖を有するポリマーからなる。
ここで、本明細書において「デンドロン側鎖」とは、規則的に枝分かれした樹状側鎖のことを意味し、「液晶配向剤」とは、配向膜に頼ることなく、液晶成分に添加するだけで液晶分子の配向制御が可能な添加剤のことを意味する。
【0015】
デンドロン側鎖を有するポリマーは、液晶層を挟持する基板に吸着して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層中の液晶分子を基板に対して垂直方向に配向させることができる。デンドロン側鎖を有するポリマーは、液晶配向剤として使用可能な従来のデンドロンに比べて液晶分子の配向制御能力が高いと共に、液晶配向剤として使用可能な従来のデンドリマーに比べて短時間で合成することができる。したがって、本実施の形態のデンドロン側鎖を有するポリマーは、従来の液晶配向剤に比べて、液晶分子の配向制御能力が高く、且つ低コストで合成ができる。
【0016】
デンドロン側鎖を有するポリマーを構成する主鎖のポリマーの種類としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の各種ポリマーであることができる。ポリマーの例としては、アクリルポリマー、ポリスチレンポリマー、ポリオレフィンポリマー、エポキシポリマー、ポリエステルポリマー、ポリアミドポリマー、ポリウレタンポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性や液晶分子の配向制御能力の観点から、アクリルポリマーが好ましい。
【0017】
デンドロン側鎖としては、特に限定されないが、液晶成分に対する相溶性の観点から、アルキル基、アルコキシ基及びフッ素からなる群より選択される少なくとも1つを末端に有するものが好ましい。このような構造を有するデンドロン側鎖であれば、単成分のシアノ系液晶だけでなく、2種以上の液晶成分を含む混合液晶との相溶性にも優れている。特に、実用的な液晶表示装置に一般的に使用されている混合液晶は、液晶表示装置の信頼性を確保する観点から不純物が溶解し難いように設計してあるために添加物が溶解し難いものの、このようなデンドロン側鎖を有するポリマーは、混合液晶に対しても良好な相溶性を示す。
【0018】
デンドロン側鎖は、液晶分子の配向制御能力の観点から、メソゲン基を有することが好ましい。このような構造を有するデンドロン側鎖であれば、液晶成分の特性を阻害し難く、且つ液晶配向制御にも優れている。ここで、本明細書において「メソゲン基」とは、液晶性を発現するために必要な剛直構造を有する有機基を意味する。メソゲン基としては、特に限定されないが、例えば、安息香酸フェニル、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、ジアゾベンゼン、アニリンベンジリデン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0019】
デンドロン側鎖の世代(分岐の次数)は、特に限定されないが、一般に第1〜第6世代のものを用いることができる。ここで、本明細書において分岐の数が1つのものを第1世代という。
【0020】
デンドロン側鎖を有するポリマーの数平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは2500〜30000、より好ましくは3000〜22000、さらに好ましくは4000〜15000である。ここで、本明細書において「数平均分子量」とは、ポリスチレンを標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量のことを意味する。
【0021】
本実施の形態の液晶配向剤として用いるのに好ましいポリマーは、以下の一般式(1)により表されるアクリルポリマーである。
【0023】
一般式(1)中、nは2〜20の正数、好ましくは2〜15の正数、より好ましくは3〜10の正数であり、Dはデンドロン側鎖である。
デンドロン側鎖Dは、以下の一般式(2)により表される。
【0025】
一般式(2)中、a及びbは2〜5の整数、好ましくは2〜4の整数、より好ましくは2〜3の整数であり、Rは以下の一般式(3)により表される。
【0027】
一般式(3)中、cは3〜12の整数、好ましくは4〜10の整数、より好ましくは5〜8の整数であり、Aは、
【0029】
である。式中、R
1は、炭素数1〜12、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数3〜8のアルキル基若しくはアルコキシ基、又はフッ素である。
【0030】
デンドロン側鎖を有するポリマーは、デンドロン側鎖を有するモノマーを単独重合させることによって調製することができる。したがって、調製するポリマーの種類に応じて、単独重合可能なモノマーを選択すればよい。例えば、上記の一般式(1)により表されるアクリルポリマーは、以下の一般式(4)により表されるアクリルモノマーを単独重合させることによって調製することができる。
【0032】
一般式(4)中、Dは上記の一般式(1)において定義した通りである。
一般に、デンドロン側鎖を有するモノマーは、デンドロンを予め合成した後、デンドロンをモノマーの側鎖に導入することによって調製することができる。
デンドロンの合成方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。一般には、フォーカルポイント(中心)を与える化合物と、この化合物と結合してデンドロンの枝部分を与える化合物とを反応させることによってデンドロンを合成することができる。例えば、デンドロンの枝部分を与えるアクリル酸エステル誘導体と、このアクリル酸エステル誘導体と反応する末端アミノ基を有する化合物とを有機溶剤中で反応させればよい。
【0033】
フォーカルポイントを与える化合物としては、特に限定されず、合成するデンドロンに応じて適宜選択すればよい。また、デンドロンの世代(分岐の次数)を調整する場合、フォーカルポイントを与える化合物をアクリルニトリルなどと反応させることによって分岐構造を形成してもよい。
例えば、一般式(4)のアクリルモノマーを合成する場合、以下の一般式(5)により表されるデンドロンを合成した後、このデンドロンをアクリルモノマーの側鎖に導入する。
【0035】
一般式(5)中、a、b及びRは上記の一般式(2)において定義した通りである。
一般式(5)のデンドロンを合成する場合、フォーカルポイントを与える化合物として以下の一般式(6)を有する化合物、デンドロンの枝部分を与える化合物として以下の一般式(7)を有する化合物をそれぞれ用いることができる。
【0038】
一般式(6)及び(7)中、a、b、c及びAは、上記の一般式(2)及び(3)で定義した通りである。
フォーカルポイントを与える化合物(例えば、一般式(6)の化合物)と、デンドロンの枝部分を与える化合物(例えば、一般式(7)の化合物)との反応比は、使用する化合物の種類に応じて適宜調整する必要があるが、一般に、フォーカルポイントを与える化合物1モルに対して、デンドロンの枝部分を与える化合物を1〜10モル用いればよい。
【0039】
上記の反応に用いられる有機溶剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。有機溶剤の例としては、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
また、有機溶剤の量は、使用する原料の種類及び量などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0040】
反応温度としては、−50〜150℃、好ましくは25〜80℃である。反応温度が−50℃未満であると、反応速度が著しく低下することがある。また、反応温度が150℃を超えると、原料の安定性が低下することがある。
反応時間としては、2〜200時間、好ましくは48〜100時間である。反応時間が2時間未満であると、反応が十分に進行しないことがある。反応時間が200時間を超えると、時間がかかりすぎて実用的でない。
反応終了後は溶剤を除去することにより、目的とするデンドロンを得ることができる。また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、トルエンなどの貧溶剤を加えて加熱し、上澄みを除去することによってデンドロンを精製してもよい。
【0041】
上記の一般式(5)により表されるデンドロンは、トリエチルアミンやピリジンなどの塩基の存在下でアクリル酸塩化物とエステル化反応させることにより、一般式(4)のアクリルモノマーを合成することができる。このとき必要に応じてテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒を用いることができる。このエステル化反応は、当該技術分野において一般に公知であるため、その条件は公知の方法に準じて調整すればよい。
【0042】
デンドロン側鎖を有するモノマーを単独重合させる方法としては、特に限定されず、使用するモノマーの種類に応じて適宜選択すればよい。モノマーを単独重合は、当該技術分野において一般に公知であるため、その条件は公知の方法に準じて調整すればよい。
例えば、一般式(4)のアクリルモノマーを単独重合して一般式(1)のアクリルポリマーを得る場合、AIBNなどの重合開始剤を用いて一般式(4)のアクリルモノマーを単独重合させればよい。このとき必要に応じてテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒を用いることができる。この重合反応は、当該技術分野において一般に公知であるため、その条件は公知の方法に準じて調整すればよい。
【0043】
実施の形態2.
本実施の形態の液晶組成物は、液晶成分と、上記の液晶配向剤とを含む。
本実施の形態の液晶組成物を液晶層に用いる場合、液晶組成物中の液晶配向剤は、液晶層を挟持する基板に吸着し、液晶層と液晶層を挟持する基板との界面に存在して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層中の液晶分子を基板に対して垂直に配向させる。したがって、本実施の形態の液晶組成物中の液晶配向剤の含有量は、基板に吸着し、液晶層と液晶層を挟持する基板との界面に存在するような量であればよい。この液晶組成物中の液晶配向剤の含有量は、液晶層を挟持する基板の面積に依存するため一義的に定義することはできないが、一般的に0.01〜50質量%である。液晶配向剤の含有量が0.01質量%未満であると、当該界面に存在する液晶配向剤の量が少なすぎてしまい、液晶分子の配向制御に対する長期信頼性が低下することがある。一方、液晶配向剤の含有量が50質量%を超えると、液晶成分の量が少なくなり、応答時間の増大や駆動電圧の増加などのような液晶表示装置としての所望の性能が得られないことがある。
【0044】
本実施の形態の液晶組成物に液晶配向剤を含有させる方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。例えば、液晶配向剤を液晶成分に加えた後、周知の混合手段を用いて混合させればよい。
【0045】
本実施の形態の液晶組成物に用いられる液晶成分としては、特に限定されないが、2種以上の液晶成分を含む混合液晶であることが好ましい。この混合液晶は、使用用途にあわせて所望の物性(例えば、屈折率異方性、誘電率異方性、粘度、相転移温度など)を満たすように幾つかの液晶成分を混合することによって調製されるため、一義的に定義することは難しいが、フッ素系混合液晶やシアノ系混合液晶などと一般的に称される混合液晶であり得る。これらの中でも、現在、液晶表示装置に一般的に使用されているフッ素系混合液晶を用いることが好ましい。ここで、本明細書において「フッ素系混合液晶」とは、1種以上のフッ素系液晶を含む混合液晶を意味し、「シアノ系混合液晶」とは、1種以上のシアノ系液晶を含む混合液晶を意味する。
上記の混合液晶は、一般的に公知であると共に商業的に利用可能であり、例えば、フッ素系混合液晶は、ZLI−4792(p型)やMLC−6608(n型)という商品名でメルクジャパン株式会社によって販売されている。また、シアノ系混合液晶は、JC−5066XX(p型)という商品名でJNC石油化学株式会社によって販売されている。
【0046】
本実施の形態の液晶組成物は、液晶表示装置の実用性の観点から、室温において液晶性を示し、液晶相から等方相又は別の液晶相への相転移温度が50℃以上120℃以下であることが好ましい。
【0047】
本実施の形態の液晶組成物は、液晶表示装置の液晶層として用いた場合に、液晶層を挟持する基板に吸着し、液晶層と液晶層を挟持する基板との界面に存在し、配向膜と同じ作用効果を与えることができる。したがって、本実施の形態の液晶組成物を用いれば、配向膜を設けなくてもよい。
【0048】
実施の形態3.
本実施の形態の液晶表示装置は、上記の液晶組成物を液晶層として備えている。ここで、液晶層は、上記の液晶組成物から構成されるため、液晶層の組成についての説明は省略する。
以下、図面を参照して本実施の形態の液晶表示装置について詳細に説明する。なお、本実施の形態の液晶表示装置は、液晶層の構成以外は公知の液晶表示装置の構成を採用することができ、以下の構成に限定されるものではない。また、この液晶層の構成を採用すれば、配向膜を形成しなくてもよいが、配向膜と併用して液晶配向制御を行ってもよい。この場合においても、コントラストなどの特性を低下させることなく液晶配向制御を行うことが可能である。ここで、本明細書において「配向膜」とは、液晶分子の配列状態を制御する膜であり、一般的にポリイミドなどの樹脂からなる膜を意味する。
【0049】
図1は、平面型電極を用いた本実施の形態のVAモード液晶表示装置の断面図である。
図1において、(A)は電界OFFの場合、(B)は電界ONの場合を表す。この液晶表示装置は、対向した一対のガラス基板などの基板1a,1bと、基板1aと基板1bとの間に形成された液晶層2とを備えている。基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4、カラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5及び平面型電極6が順次形成されており、基板1bには、平面型電極6が形成されている。そして、液晶層2は、基板1a,1bに形成された平面型電極6と直に接していると共に、シール材9によって封止されている。液晶層2に配合された液晶配向剤10は、液晶層2と液晶層2が接する部材(平面型電極6)との界面に主に存在して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層2中の液晶分子3を基板に対して垂直に配向させる。したがって、このVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、液晶層2中の液晶分子(n型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(n型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に垂直に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
【0050】
図2は、櫛型電極を用いた本実施の形態のVAモード液晶表示装置の断面図である。
図2において、(A)は電界OFFの場合、(B)は電界ONの場合を表す。この液晶表示装置は、対向した一対のガラス基板などの基板1a,1bと、基板1aと基板1bとの間に形成された液晶層2とを備えている。基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4、及びカラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5が順次形成されており、基板1bには、櫛型電極7が形成されている。そして、液晶層2は、基板1bに形成された櫛型電極7と直に接していると共に、シール材9によって封止されている。なお、櫛型電極構造には、FFS(フリンジフィールドスィッチング)モード(例えば、特開2008−51846号公報参照)を用いることも可能である。液晶層2に配合された液晶配向剤10は、液晶層2と液晶層2が接する部材(オーバーコート層5、基板1b及び櫛型電極7)との界面に主に存在して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層2中の液晶分子3を基板に対して垂直に配向させる。したがって、このVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、液晶層2中の液晶分子(p型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(p型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に平行に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
【0051】
上記のように、VAモード液晶表示装置では、液晶配向剤10を液晶層2に配合することにより、液晶層2と液晶層2と接する部分(
図1では平面型電極6、
図2ではオーバーコート層5、基板1b及び櫛型電極7)との界面に液晶配向剤10を主に存在させ、液晶分子3の配向制御を行う。すなわち、液晶配向剤10は、液晶層2と接する部分に吸着し、液晶層2と液晶層2と接する部分との界面に存在して配向膜と同じ作用効果を与えるため、
図3及び
図4に示すような従来のVAモード液晶表示装置とは異なり、配向膜8を設けなくても液晶分子3の配向制御が可能である。また、配向膜8を設けない場合には、液晶層2を平面型電極6や櫛型電極7と直に接触させることができるため、配向膜8による電力ロスを低減して液晶表示装置の駆動電圧を低下させることもできる。さらに、配向膜8のスペースの削減によって、印刷による配向膜8の端の位置のバラツキを考慮する必要がなくなる。つまり、基板1a,1b同士を接着しているシール材9と配向膜8との重なりがあるほどシール材9の接着力を低下させてしまうが、配向膜8がなくなることにより、シール材9の幅を狭くして、位置を表示エリアに近づけることが可能となり、液晶表示装置の狭額縁化を達成することができる。
【0052】
次に、本実施の形態の液晶表示装置の製造プロセスフロー、及び従来の液晶表示装置の製造プロセスフローを表す図を
図5に示す。なお、このフローは、例示的なものであるため、ODF(液晶滴下注入法)以外の方法にて液晶セルを作製する方法、例えば、毛細管現象を利用する方法(すなわち、予め張り合わせた基板間に液晶組成物を注入する方法)などを除外することを意味するものではない。
【0053】
従来の液晶表示装置の製造プロセスでは、液晶配向制御のための配向膜を形成するために、一般的に、(1)基板上へのポリイミド(以下、PIという)の塗布、(2)仮焼成、(3)本焼成、(4)ラビング処理及び(5)ラビング処理後の基板洗浄(
図5における点線枠内の工程)を行う必要があった。なお、駆動方式によっては、(4)ラビング処理及び(5)ラビング処理後の基板洗浄の工程が行われない場合もある。
これに対して本実施の形態の液晶表示装置の製造プロセスでは、液晶組成物に含有される液晶配向剤によって液晶配向制御を行うことができるため、配向膜を形成しなくてもよく、またラビング処理も行わなくてもよい。したがって、配向膜の形成やラビング処理を行う際に必要となる上記(1)〜(5)の工程を要しないため、製造方法の簡素化及び設備投資の大幅な削減が可能になると共に、ゴミやピンホールによって印刷上の製造歩留まりが低下したり、製造工程のガラス基板の大型化に伴って配向膜の形成工程の投資コストが増大するなどの問題も生じない。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
まず、上記の一般式(5)により表されるデンドロン(a=2、b=3、Rは以下に表す)を次のようにして合成した。
【0055】
【化9】
【0056】
<2−[N,N−ビス(2−シアノエチル)アミノ]エタノールの合成>
200mLのナスフラスコに、水(60mL)、2−アミノエタノール(10g、0.17mmol)及びアクリロニトリル(22g、0.42mol)を入れ、80℃で1時間攪拌した後、減圧下でアクリロニトリル及び水を留去した。次に、残渣をクロロホルムに溶解し、この溶液に無水硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、クロロホルムを減圧下で除去することによって無色透明な液体を収量27g(収率97%)で得た。この液体のIRを測定したところ、3492cm
−1(OH)、2248cm
−1(CN)の特性吸収が観測された。
【0057】
<2−[N,N−ビス(3−アミノプロピル)アミノ]エタノールの合成>
300mLの三口フラスコに、水素化リチウムアルミニウム(6.9g、0.18mol)及びTHF(160mL)を入れ、室温で30分攪拌した。次に、この溶液に−5℃で濃硫酸(3.6mL、0.068mol)を加え、さらに1時間攪拌した。次に、この溶液に2−[N,N−ビス(2−シアノエチル)アミノ]エタノール(5.0g、0.03mol)のTHF溶液(30mL)を加え、さらに室温で8時間攪拌した。次に、氷浴中で、この混合溶液に注射器を用いて水(9.7mL)を加えた。生成した固体をろ過することによって分離した後、固体をメタノールで24時間ソックスレー抽出した。次に、抽出液と、ろ過によって分離したろ液とを混合した後、この溶液に無水硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した。次に、減圧下で溶媒を除去することによって、黄色の液体を収量2.9g(収率54%)で得た。この液体のIRを測定したところ、3285cm
−1(OH)の特性吸収が観測された。
【0058】
<デンドロンの合成>
50mLのナスフラスコに、2−[N,N−ビス(3−アミノプロピル)アミノ]エタノール(0.18g、1.0mmol)、6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキシルアクリレート(2.1g、5.1mmol)及びTHF(1.0mL)を入れ、窒素雰囲気下で3日間攪拌した。次に、減圧下でTHFを除去した後、残渣をクロロホルムに溶解し、この溶液を水で三回洗浄した。次に、この溶液に無水硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、減圧下でクロロホルムを除去した。次に、残渣を少量のクロロホルムに溶解した後、この溶液を100mLのメタノールに加え、上澄みをデカンテーションによって除去することによって沈殿物を回収した。この操作を6回繰り返すことによって精製を行い、淡黄色固体を収量0.85g(収率49%)で得た。
【0059】
この淡黄色固体の
1H−NMR(CDCl
3,400MHz)を測定したところ、7.12〜6.79ppm(m,ArH,16H)、4.07ppm(t,COOCH
2,8H)、3.91ppm(t,PhOCH
2,2H)、3.53ppm(t,HOCH
2,2H)の特性吸収が観測された。また、この淡黄色固体のMALDI−TOF−MSによる分子量を測定したところ、理論値m/Z=1777.37(M+H)に対して実測値m/Z=1778.27(M+H)であった。また、この淡黄色固体のDSC測定を行ったところ、昇温過程においては14℃及び63℃に吸熱ピークが観測され、また、降温過程においては19℃及び58℃に発熱ピークが観測された。
【0060】
<デンドロン側鎖を有するアクリルモノマーの合成>
上記の一般式(4)により表されるアクリルモノマー(a、b及びRは、上記のデンドロンの合成で示した通りである)を次のようにして合成した。
上記で得られたデンドロン(0.202g、0.114mmol)のTHF(4.0mL)溶液にトリエチルアミン(23.5μL、0.169mmol)を加え、室温で30分攪拌した。次に、水浴で冷却しつつ、アクリル酸塩化物(27.5μL、0.340mmol)を滴下し、室温で3日間攪拌して反応させた。次に、反応物を減圧下で濃縮した後、濃縮物をクロロホルムに溶解し、その溶液を飽和重曹水(20mL)で2回、水(20mL)で3回、飽和食塩水(20mL)で2回洗浄した。次に、この溶液に無水硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、ろ過し、ろ液を減圧下で濃縮した。次に、残渣をGPC(溶媒:クロロホルム)で精製し、黄色の粘性のある液体(アクリルモノマー)を収量98mg(0.054mmol、収率47%)で得た。
【0061】
この液体(アクリルモノマー)の
1H−NMR(CDCl
3,400MHz)を測定したところ、7.12〜6.81ppm(m,Ph,16H)、6.41ppm(d,CH
2=CH−,1H)、6.14ppm(dd,CH
2=CH−,1H)、5.81ppm(d,CH
2=CH−,1H)、4.21ppm(s,−OCH
2CH
2N−,2H)、4.07ppm(t,−OCH
2−,8H)、3.92ppm(t,−CH
2OPh−,8H)、2.79〜0.89ppm(m)の特性吸収が観測された。
【0062】
<デンドロン側鎖を有するアクリルポリマーの合成>
上記の一般式(1)により表されるアクリルポリマー(a、b及びRは、上記のデンドロンの合成で示した通りであり、nは4.2である)を次のようにして合成した。
上記で得られたデンドロン側鎖を有するアクリルモノマー(78mg、43μmol)のTHF(0.4mL)溶液にAIBN(0.8mg、4.9μmol)を加え、窒素雰囲気下、60℃で12時間攪拌して反応させた。次に、反応物を減圧下で濃縮した後、残渣をGPC(溶媒:クロロホルム)で精製し、褐色の固体(アクリルポリマー)を収量19mg(収率24%)で得た。
【0063】
この固体(アクリルポリマー)の数平均分子量をGPCを用いて測定したところ、7,700であった。
また、この固体(アクリルポリマー)の
1H−NMR(CDCl
3,400MHz)を測定したところ、7.09〜6.79ppm(m,Ph)、4.03ppm(m)、3.89ppm(m)、2.75〜0.79ppm(m)の特性吸収が観測された。
【0064】
また、比較として、上記で合成したデンドロンを液晶配向剤として用いた。
【0065】
次に、上記で合成したデンドロン側鎖を有するアクリルポリマーと、フッ素系混合液晶ZLI−4792(P型、メルクジャパン株式会社)とをバイアル瓶に入れて混合することによって液晶組成物を調製した。この液晶組成物におけるアクリルポリマーの含有量は1質量%とした。
また、比較として、上記で合成したデンドロンとフッ素系混合液晶ZLI−4792(P型、メルクジャパン株式会社)とをバイアル瓶に入れて混合することによって液晶組成物を調製した。この液晶組成物におけるデンドロンの含有量は1質量%とした。
調製した液晶組成物を110℃で10分間放置したところ、デンドロン側鎖を有するアクリルポリマー及びデンドロンはいずれも完全に溶解していることを目視にて確認した。また、室温に冷却した後も、デンドロン側鎖を有するアクリルポリマー及びデンドロンの分離や沈殿などは確認されなかった。
【0066】
次に、上記で調製した液晶組成物を用いて配向膜のない液晶セルを作製した。
まず、一方のガラス基板上にクロム櫛型電極(イーエッチシー社製、電極間距離10μm、電極面積2cm
2)、ドット状カラムスペーサー(JSR株式会社製、型番JNPC−123−V2、高さ約5μm)を配置し、注入口エリアとなる部分を除くガラス基板の周辺に熱硬化型シール材(三井化学株式会社製、型番XN21−S)を塗布した後、他方のガラス基板と重ね合わせ、バネ式冶具加圧環境下、160℃で5時間加熱することによりガラス基板同士を接着した。次に、液晶組成物を注入口からキャピラリーで注入した後、UV接着剤(スリーボンド製、型番3027D)で注入口を封止した。このようにして得られた液晶セルのセルギャップは約3.0μmであった。
【0067】
作製した液晶セルについて、昇降温過程前及び昇降温過程後のスイッチング特性を評価した。この評価は、偏光顕微鏡(BX−50p、オリンパス株式会社製)を用いて、電界印加時及び無印加時の挙動を観察することによって行った。また、昇降温過程は、液晶セルをホットステージ(顕微鏡用加熱/冷却装置LK−600PM、リンカム社製)上に配置し、20℃/分の昇温速度にて20℃から120℃へ昇温させた後、1℃/分の冷却速度にて20℃まで冷却した。
この評価の結果、デンドロン側鎖を有するアクリルポリマーを配合した液晶組成物を用いて作製した液晶セルでは、昇降温過程前及び昇降温過程後のいずれにおいても、均一な垂直配向が確認されると共に、暗視野から明視野への切り替えが良好であり、スイッチング特性に優れていることがわかった。他方、デンドロンを配合した液晶組成物を用いて作製した液晶セルでは、一部に垂直配向の不良が確認された。
【0068】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、従来のデンドリマー(液晶配向剤)よりも短時間で合成することができると共に、従来のデンドリマー(液晶配向剤)と同程度に、配向膜に頼らなくても液晶成分に添加するだけで液晶分子を配向制御することが可能な液晶配向剤、並びにそれを用いた液晶組成物及び液晶表示装置を提供することができる。