(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スチレン系熱可塑性エラストマー中に含まれるスチレン由来の構造単位の含量が、スチレン系熱可塑性エラストマーの総量に対して50質量%以上75質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
前記組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量に対して、スチレン系熱可塑性エラストマーの総量が7.9〜50.0質量%であり、可塑剤の総量が0.1〜10.0質量%であり、溶剤の総量が49.9〜90.0質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話においてはスマートフォンが主流になりつつあり、タブレットPCと言われる機器も急速に広まっている。このような機器には静電容量方式のタッチパネルが搭載されているのが一般的である。
【0003】
ところで、携帯電話等では使用者側から液晶表示部を見ると、透明ガラス全面に情報や画像が表示されるのでなく、ガラス基板の外周部分に、表示部を区画するように黒塗りの部分があり、この内側で表示がなされている。この枠部分は加飾部と呼ばれるが、表示部分を四角形状に規定するとともに見えると都合が悪い部分(タッチパネル用の配線部分等)を視認されないように隠蔽する機能がある。
【0004】
従来は、カバーグラスに加飾を施したものと、タッチパネルセンサーは別々に製造され、最終的に貼り合わされて一体化されていた。これに対し、カラーフィルタ基板製造に用いるブラックマトリックス用の樹脂材料を使用してカバーグラス上に加飾部を形成し、次いで加飾部上に、脱ガス防止、絶縁性の確保、平坦性向上の目的で、透明絶縁材料からなるオーバーコート層を設け、さらにその上にタッチパネルセンサーを形成してゆく加飾カバーグラス一体型タッチパネルセンサー構造がある(例えば、特許文献1)。
【0005】
いずれにおいても、加飾部は、直接目に触れるものとして携帯用端末機器表示部の外観装飾部材としても非常に重要であり、昨今特にデザイン性が重視される結果多色化のニーズが高くなっている。このため、黒色だけのブラックマトリックス用樹脂材料から、色彩選択の自由度が豊富な印刷用インキが使用できるスクリーン印刷方式への転換が図られている。
【0006】
ところが、ガラス基板上に加飾部が印刷形成された上にタッチパネルを作製するためには、加飾部からの出ガス防止、被塗布面としての平坦性向上等の目的でオーバーコート層を形成することが必要である。一般に、表示パネル面のサイズは様々であるが、タッチパネルは、一枚の大型基板上に多面付けで同時に複数枚配置される。そこでは枠状の加飾部が面積的にかなりの割合を占めるガラス基板に対してオーバーコート用の透明樹脂材料が塗布されることになる。
その一例として、
図1および
図2の静電容量型のタッチパネルを図示する。
図1は、静電容量型のタッチパネル単体の電極配置の概略構成を示す平面図であり、
図2は、
図1に示すI−I線の拡大断面図である。
図1、
図2では加飾部は端にあるため省略されている。
図2のような静電容量型のタッチパネル1は、前述したオーバーコート層3の上に、複数のジャンパー9と、絶縁膜7と、複数の第1の透明電極4と、複数の第2の透明電極5とを備えている。ジャンパー9、絶縁膜7、透明電極(第1の透明電極4は孤立して形成され、第2の透明電極5はくびれた接続部6を介してY方向に接続して形成されている。)は、オーバーコート層3上にこの順序で形成される。
【0007】
このようにして形成されたタッチセンサーは、一般に横持ちする際、透明電極が傷つくことを防ぐために、樹脂製膜を使用して保護されている。
一般に、前記樹脂製膜には、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と記す。)膜が使用されている。
前記のPVA膜を形成するには、次の工程を経る必要がある。
即ち、(1)PVAを熱水に溶解し、PVA水溶液を製造する工程、(2)前記PVA水溶液をタッチセンサー一体型ガラスの透明電極上に塗布する工程、(3)塗布したPVA水溶液の水分を蒸発させ、PVA膜をタッチセンサー一体型ガラスの透明電極上に形成する工程。
上記の工程(3)では、蒸発潜熱の大きな水を蒸発させなければならない。
さらに、使用直前に、PVA膜付タッチセンサー一体型ガラスのPVA膜面に高価な熱水噴霧装置を使用して熱水を噴霧するか、あるいは熱水槽にPVA膜付タッチセンサー一体型ガラスをディップすることによってPVA膜を除去し、さらに、水分を蒸発する工程が必要になり、結果として、PVA膜の除去に長時間を要することになってしまい、さらに、蒸発潜熱の大きな水を乾燥により除去しなければならず、改善が求められていた。
【0008】
一方、特許文献2には、電子部品などをプリント配線板に半田付けするとき、基板に塗装やメッキなどをするとき等、一時的に表面を保護し、それらの処理後これを機械的に剥離して除去するのに用いられる剥離性樹脂組成物として、メチルフェニルシリコーンを添加した、ポリ塩化ビニルと可塑剤とを主成分とするプラスチゾルを使用することが提案されている。
特許文献2の技術を透明電極膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護膜に応用することも考えられる。
しかし、これらの組成物は、ポリ塩化ビニルを含む多量の塗膜の廃棄物になってしまい、該廃棄物はハロゲン含むため焼却処理されづらく、かつ燃焼によるダイオキシンの発生も懸念されるため、環境面に配慮されたハロゲンフリータイプの剥離性樹脂組成物が強く望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護膜としてPVA膜を用いた場合の、PVA膜の製造過程で水を蒸発させることによるエネルギーのロスの解消や、使用直前のPVA膜の除去工程での除去時間の短縮や、蒸発潜熱の大きな水の除去によるエネルギーのロスを解消することができ、かつ環境面に配慮されたハロゲンフリータイプである剥離性樹脂組成物を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ハロゲンフリーであるスチレン系熱可塑性エラストマーを主要樹脂成分とする特定の組成物を塗布、乾燥させた塗膜が、透明導電膜で形成された配線を含む基材に対して良好な剥離性を有していることを発見し、その結果、エネルギーのロスが少ない工程での使用が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明(I)は、透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護に使用される組成物であって、該組成物が、
スチレン系熱可塑性エラストマー、
可塑剤、および
溶剤
を含むことを特徴とする。
本発明(II)は、本発明(I)の組成物の溶剤を蒸発させることによって得られる塗膜である。
本発明(III)は、透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護方法であって、該方法が、
(工程1)本発明(I)の組成物を、透明導電膜で形成された配線を含む基材に塗布する工程、
(工程2)工程1で塗布された組成物から溶剤を蒸発させることにより、透明導電膜で形成された配線を含む基材上に塗膜を形成する工程、および
(工程3)工程2で形成された塗膜を、液体を使用することなく、該塗膜の端部から引きはがすことによって、透明導電膜で形成された配線を含む基材上から剥離する工程
を有することを特徴とする。
【0013】
さらに詳細に言えば、本発明は以下の[1]〜[9]に関する。
[1] 透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護に使用される組成物であって、該組成物が、
スチレン系熱可塑性エラストマー、
可塑剤、および
溶剤
を含むことを特徴とする組成物。
[2] 前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合エラストマーおよびスチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の組成物。
[3] 前記スチレン系熱可塑性エラストマー中に含まれるスチレン由来の構造単位の含量が、スチレン系熱可塑性エラストマーの総量に対して50質量%以上75質量%以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記可塑剤が、ベンゼントリカルボン酸トリアルキルエステルであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記溶剤が、1気圧で150℃以上190℃未満の沸点を有する炭化水素系溶剤を、溶剤の総量に対して50質量%以上含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量に対して、スチレン系熱可塑性エラストマーの総量が7.9〜50.0質量%であり、溶剤の総量が49.9〜90.0質量%であり、可塑剤の総量が0.1〜10.0質量%であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 前記組成物の25℃での粘度が0.5Pa・s以下であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の組成物の溶剤を蒸発させることによって得られる塗膜。
[9] 透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護方法であって、該方法が、
(工程1)[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物を、透明導電膜で形成された配線を含む基材に塗布する工程、
(工程2)工程1で塗布された組成物から溶剤を蒸発させることにより、透明導電膜で形成された配線を含む基材上に塗膜を形成する工程、および
(工程3)工程2で形成された塗膜を、液体を使用することなく、該塗膜の端部から引きはがすことによって、透明導電膜で形成された配線を含む基材上から剥離する工程
を有することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物を用いることにより、PVAを使用した場合の蒸発潜熱の大きな水を蒸発させることによるエネルギーのロスを解消することができる。また、本発明は、塗膜の剥離時に溶剤や水を使用する必要がなく、使用直前に容易に塗膜を剥離することができるので、PVAを使用した場合の使用直前のPVA膜除去工程で必要となる除去時間を大幅に短縮することができる。さらに、本発明により、塩化ビニル樹脂のようなハロゲン系の化合物を含まないので、燃焼によるダイオキシンの発生等の懸念を有しない、環境面に配慮された剥離性樹脂組成物、および該組成物を乾燥して得られる塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明(I)の組成物について説明する。
本発明(I)の組成物は、透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護に使用される組成物であって、該組成物が、
スチレン系熱可塑性エラストマー、
可塑剤、および
溶剤
を含むことを特徴とする。
【0017】
なお、本明細書に記載の「熱可塑性エラストマー」とは、加熱することによって流動して通常の熱可塑性プラスチックと同様の成形加工ができ、常温ではゴム弾性(即ち、顕著な弾性回復)を示す性質を有する高分子化合物であり、詳細は、物理化学辞典編集委員会編、「熱可塑性エラストマーのすべて」、初版第1刷、(株)工業調査会(2003年12月20日)に記載されている。
【0018】
本発明の組成物によって一時的に保護される透明導電膜で形成された配線は、文字通り、透明性を有する導電性の膜で形成されている配線であれば、特に制限はない。
上記の透明導電膜としては、錫ドープ酸化インジウム(以下、「ITO」と記す。)、アルミドープ酸化亜鉛(以下、「AZO」と記す。)、ガリウムドープ酸化亜鉛(以下、「GZO」と記す。)あるいは導電性高分子等を用いることができる。これらの中で、化学的な安定性を考慮すると、ITOが最も好ましい。
【0019】
次に、本発明の組成物の必須成分であるスチレン系熱可塑性エラストマーについて説明する。
スチレン系熱可塑性エラストマーとは、分子構造中にスチレンに由来する構造単位を有する熱可塑性エラストマーを意味する。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合エラストマー、スチレン−イソプレンブロック共重合エラストマー、スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合エラストマー、スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合エラストマーを挙げることができる。このようなスチレン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、D1101、D1102、D1118、D1155、DKX405、DKX410、DKX415、D1192、D1161、D1171、G1652、G1730、A1535H、A1536、MD1537(以上、クレイトンポリマー社製)、タフプレン(商標)A、タフプレン(商標)125、タフプレン(商標)126S、タフテック(商標)H1141、タフテック(商標)H1041、タフテック(商標)H1043、タフテック(商標)H1052、(以上、旭化成ケミカルズ株式会社製)、セプトン(商標)2002、セプトン(商標)2004、セプトン(商標)2005、セプトン(商標)2007、セプトン(商標)2104、セプトン(商標)8007、セプトン(商標)8076、セプトン(商標)8104(以上、株式会社クラレ製)などが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、炭素−炭素不飽和結合を還元水素化したものが好ましく、具体的には、スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合エラストマーおよびスチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合エラストマーを挙げることができる。
【0020】
また、一般的に、スチレン系熱可塑性エラストマー中に含まれるスチレン由来の構造単位の含量が多くなると、基材への密着性は低くなり、塗膜の剥離性は良好となるが、塗膜の靭性が低くなる傾向にある。一方、スチレン系熱可塑性エラストマー中に含まれるスチレン由来の構造単位の含量が少なくなると、塗膜の靭性は増し、塗膜の防湿性能は増すこととなり好ましいが、基材への密着性が増し、その結果、塗膜の剥離には大きな力が必要になる傾向にある。
上記の物性のバランスを考慮すると、スチレン系熱可塑性エラストマー中に含まれるスチレン由来の構造単位の含量が、スチレン系熱可塑性エラストマーの総量に対して50質量%以上75質量%以下であることが好ましく、より好ましくは55質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以上70質量%以下である。
【0021】
次に、本発明の組成物の必須成分である可塑剤について説明する。
本明細書に記載に「可塑剤」とは、スチレン系熱可塑性エラストマーに添加して、柔軟性を付与したり、加工をしやすくするための物質のことを意味し、この特性を有するものであれば、特に制限はない。
本発明における可塑剤の使用目的は、後述の本発明(II)の塗膜に柔軟性を付与し、かつ該塗膜を剥離する際に剥離しやすくするためである。
【0022】
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類;ジメチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソブチルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソオクチルセバケート等の脂肪酸エステル類;トリメリット酸イソデシルエステル、トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸n−オクチルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸トリ−n−ノニル等のベンゼントリカルボン酸エステル類;ジ(2−エチルヘキシル)フマレート、ジエチレングリコールモノオレート、グリセリルモノリシノレート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、エポキシ化大豆油、ポリエーテルエステル等を挙げることができる。
ブリード抑制効果等を考慮すると、スチレン系熱可塑性エラストマーと相溶性の良い芳香環を有する可塑剤が好ましく、具体的には、フタル酸エステル類やベンゼントリカルボン酸エステル類が好ましく、揮発性を考慮すると、より好ましいものは、ベンゼントリカルボン酸トリアルキルエステルであり、最も好ましくは、アルキル基の炭素数が4〜12であるベンゼントリカルボン酸トリアルキルエステルであり、その具体例としては、トリメリット酸トリブチルおよびトリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)が挙げられる。
なお、上述のこれらの可塑剤は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
次に、本発明の組成物の必須成分である溶剤について説明する。
本明細書に記載に「溶剤」とは、スチレン系熱可塑性エラストマーや可塑剤を溶解できる揮発性を有する液体である。
溶剤としては、例えば、酢酸アミル、酢酸ブチル等の酢酸エステル溶剤;トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メチルエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、石油ナフサ等の芳香環を有する炭化水素溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂環構造を有する炭化水素溶剤を挙げることができる。これらの溶剤の中で、好ましいものは、1気圧で150℃以上190℃未満の沸点を有する炭化水素系溶剤を、溶剤の総量に対して50質量%以上含むものであり、より好ましくは70質量%以上含むものである。1気圧で150℃以上190℃未満の沸点を有する炭化水素系溶剤としては、炭素数10の脂環構造を有する炭化水素溶剤であるデカヒドロナフタレンや、トリメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メチルエチルベンゼン、石油ナフサ等の、炭素数9の芳香族炭化水素を主成分とする溶剤である、昭和電工株式会社製のソルファイン(商標)TMあるいは出光興産株式会社製のイプゾール100等をあげることができる。スチレン系熱可塑性エラストマーを溶解した際に低粘度にすることが好ましく、このことを考慮すると、これらの中で、炭素数9の芳香族炭化水素を50質量%以上含むものが好ましい。
【0024】
次に、本発明の組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤の比率について記す。
スチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量に対して、スチレン系熱可塑性エラストマーの総量が7.9〜50.0質量%であり、可塑剤の総量が0.1〜10.0質量%であり、溶剤の総量が49.9〜90.0質量%であることが好ましい。さらに好ましくは、スチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量に対して、スチレン系熱可塑性エラストマーの総量が19.9〜40.0質量%であり、可塑剤の総量が0.1〜10.0質量%であり、溶剤の総量が50.0〜80.0質量%である。
上記範囲の組成比であると、組成物を比較的に低粘度にすることができ、その結果、ダイコーターやコンマコーター等の塗布装置を容易に使用できる。また、前記可塑剤の使用比であれば、後述の塗膜の、ガラス、透明電極膜および加飾印刷塗膜のオーバーコート材等の被着物への密着性とそれら被着物からの剥離性、塗膜の柔軟性、および塗膜の引張時の破断強度のバランスを取ることができる。
【0025】
なお、第6世代(G6:1500mm×1800mm)あるいはそれ以上の大きさのガラス基板を塗工するのに適したダイコーターやコンマコーターを使用する場合には、本発明の組成物の25℃での粘度が0.5Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.4Pa・sである。
なお、本明細書に記載の粘度は、ブルックフィールド社製のDV−II+Pro viscometer 少量サンプルアダプター(スピンドルの型番:SC4−31)を用いて、25℃、回転数20rpmで測定した値である。
【0026】
本発明の組成物は、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、酸化防止剤等の添加剤を含むことができる。
【0027】
レベリング剤としては、添加することにより塗膜表面のレベリング性を向上させる機能を有する材料であれば、特に制限はない。具体的には、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン共重合物、ポリエステル変性ジメチルポリシロキサン共重合物、ポリエーテル変性メチルアルキルポリシロキサン共重合物、アラルキル変性メチルアルキルポリシロキサン共重合物等が使用できる。これらは、単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。レベリング剤を含む場合、レベリング剤の含有量は、好ましくは、本発明の組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量100質量部に対し、0.01〜3質量部である。0.01質量部未満の場合には、レベリング剤の添加効果が発現しない可能性がある。また、3質量部より多い場合には、使用するレベリング剤の種類によっては、塗膜表面にべたつきが発生したり、絶縁特性を劣化させる可能性がある。
【0028】
消泡剤としては、塗布の際に、発生あるいは残存する気泡を消すあるいは抑制する作用を有するものであれば、特に制限はない。消泡剤としては、シリコーン系オイル、フッ素含有化合物、ポリカルボン酸系化合物、ポリブタジエン系化合物、アセチレンジオール系化合物など公知の消泡剤が挙げられる。その具体例としては、例えば、BYK−077(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、SNデフォーマー470(サンノプコ株式会社製)、TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)、シリコーンオイルSH−203(東レ・ダウコーニング株式会社製)等のシリコーン系消泡剤、ダッポーSN−348(サンノプコ株式会社製)、ダッポーSN−354(サンノプコ株式会社製)、ダッポーSN−368(サンノプコ株式会社製)、ディスパロン230HF(楠本化成株式会社製)等のアクリル重合体系消泡剤、サーフィノールDF−110D(日信化学工業株式会社製)、サーフィノールDF−37(日信化学工業株式会社製)等のアセチレンジオール系消泡剤、FA−630(信越化学工業株式会社製)等のフッ素含有シリコーン系消泡剤等を挙げることができる。これらは、単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。消泡剤を含む場合、消泡剤の含有量は、好ましくは、本発明の組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量100質量部に対し、0.001〜5質量部である。0.01質量部未満の場合には、消泡剤の添加効果が発現しない可能性がある。また、5質量部より多い場合には、使用する消泡剤の種類によっては、塗膜表面にべたつきが発生したり、絶縁特性を劣化させる可能性がある。
【0029】
着色剤としては、公知の無機顔料、有機系顔料、および有機系染料等が挙げられ、所望する色調に応じてそれぞれを配合する。用いられる着色剤としては油溶性の染料が好ましく、具体例としては、例えば、OIL BLACK860(オリエント化学工業株式会社製)、OIL BLACK 803(オリエント化学工業株式会社製)、OIL BLUE 2N(オリエント化学工業株式会社製)、OIL BLUE 630(オリエント化学工業株式会社製)、SOT Black(保土谷化学工業株式会社製)などを挙げることができる。これらは、単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。着色剤を含む場合、着色剤の含有量は、好ましくは、本発明の組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量100質量部に対し、0.001〜5質量部である。
【0030】
本発明の組成物の酸化劣化および加熱時の変色を押さえることが必要な場合には、本発明の組成物は酸化防止剤を含むことができ、かつ、好ましい。
酸化防止剤としては、本発明の組成物の熱劣化や変色を防止する作用のある化合物であれば特に制限は無く、例えば、フェノール系酸化防止剤等を使用することができる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、下記式(1)〜式(11)のような化合物を挙げることができる。
【0042】
酸化防止剤を含む場合、酸化防止剤の含有量は、好ましくは、本発明の組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー、可塑剤および溶剤を合せた総量100質量部に対し、0.01〜3質量部である。
【0043】
本発明(II)は、本発明(I)の組成物の溶剤を蒸発させることによって得られる塗膜である。
本塗膜の説明は、前述のように、液体を使用することなく、該塗膜の端部から引きはがすことによって、透明導電膜で形成された配線を含む基材上から剥離できるものであれば、塗膜の厚みには、特に制限はないが、5μm〜1mmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜800umであり、さらに好ましくは15〜500μmである。5μm〜1mmの膜厚であると、物理的に透明導電膜で形成された配線を含む基材を保護することができ、かつ防湿性能を維持することが可能で、かつ組成物中の溶剤を揮発(蒸発)させて塗膜を得る際の溶剤の揮発に長時間を要することなく、生産性の向上面でも好ましい。
【0044】
また、本発明の塗膜をガラスや透明電極膜から剥離する際の剥離の際の密着力は、0.5N/cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、0.3N/cm以下である。0.5N/cm以下であれば、人力でも、機械を用いても容易に剥離が可能になる。
なお、密着力は、ガラス表面上あるいは透明電極膜付きガラスの透明電極膜表面上に乾燥後の厚みが50μmになるよう塗布し、室温で10分間保持した後に、120℃で10分乾燥した後、室温で12時間放置し、塗膜を作成した。これらの塗膜について、評価試験用の硬化膜の一端のみを剥離して、幅2.5mmの密着力測定用試験片を作成した。密着力は、ガラスあるいは透明電極膜付きガラスと、剥離したフィルムが90度の角度を成すように引張り試験機(株式会社島津製作所製、EZ Test/CE)に固定し、23℃において50mm/minの速度で90度で剥離する方法で測定する。
【0045】
本発明(III)は、透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護方法に関する。
以下に、本発明(III)について説明する。
本発明(III)は、透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護方法であって、該方法が、
(工程1)本発明(I)の組成物を、透明導電膜で形成された配線を含む基材に塗布する工程、
(工程2)工程1で塗布された組成物から溶剤を蒸発させることにより、透明導電膜で形成された配線を含む基材上に塗膜を形成する工程、および
(工程3)工程2で形成された塗膜を、液体を使用することなく、該塗膜の端部から引きはがすことによって、透明導電膜で形成された配線を含む基材上から剥離する工程
を有することを特徴とする方法である。
【0046】
まず、工程1について説明する。
工程1は、本発明(I)の組成物を、透明導電膜で形成された配線を含む基材に塗布する工程である。組成物は、透明導電膜で形成された配線を含む基材の、透明導電膜で形成された配線面に塗布する。
本発明(I)の組成物の透明電極膜への塗布方法は、特に制限はないが、スリットコート法、スピンコート法、ダイコート法、ディッピング法、ブレードコート法、またはスプレー法等の簡便な方法を挙げることができる。これらの方法を用いると、一括形成することができかつ好ましい。
これらの方法の中で、特に好ましい方法は、ダイコート法またはスリットコート法である。これらの方法は、均一に大面積の基材に、塗液を塗布するのに適している。
なお、ダイコート法とは、バックアップロール、スロットダイ、タンク、ポンプで構成されるダイコーターを用いて、塗液を加圧しスロットダイのマニホールドを通して供給し基材に直接塗工する方法である。塗工液が空気と触れる事なく塗工出来るというメリットを有する。また、スリットコート法とは、塗工液を、線状に隙間が空いた金属製の口金から一定の速度で流し出すことで、ガラス等の基材上に均一に塗布する装置(スリットコーター)を用いて、塗工する方法である。
【0047】
また、透明導電膜で形成された配線を含む基材に、本発明の組成物を塗布する際の、該組成物の温度は、塗布に必要な組成物の流動性が確保できていれば、特に制限はないが、組成物の粘度や使用する溶剤(後述)の揮発性あるいは引火点等を考慮すると、10〜50℃であることが好ましく、より好ましくは15〜40℃であり、さらに好ましくは15〜30℃である。10〜50℃の範囲にあると、溶剤の揮発による粘度上昇(粘度変化)や低温による粘度上昇を防ぎ、塗液の良好な粘度を維持しかつ溶剤の揮発による安全上の問題を軽減できる。
【0048】
次に、工程2について説明する。
工程2は、工程1で塗布された組成物から溶剤を蒸発させることにより、透明導電膜で形成された配線を含む基材上に塗膜を形成する工程である。
溶剤を蒸発させる温度は、溶剤の沸点以下であれば、特に制限はないが、1気圧で150℃以上190℃未満の沸点の炭化水素系溶剤が好ましく使用されるので、1気圧で70℃以上150℃未満であることが好ましく、より好ましくは1気圧で80℃以上150℃未満であり、さらに好ましくは1気圧で85℃以上150℃未満である。溶剤を蒸発させる温度が、1気圧で70℃以上150℃未満の場合には、表面のべたつきがなくなるまで多くの時間を要することなくかつ使用している溶剤の揮発による安全上の問題や、塗膜に多量の気泡が生じることが少ない。
なお、透明導電膜で形成された配線は、工程1で説明した通りである。
【0049】
次に、工程3について説明する。
工程3は、工程2で形成された塗膜を、液体を使用することなく、該塗膜の端部から引きはがすことによって、透明導電膜で形成された配線を含む基材上から剥離する工程である。
具体的には、工程2で形成された、基材の表面(透明導電膜で形成された配線面)に密着している塗膜の端部を、必要に応じて、薄いヘラ等を用いて剥離し、剥離部分を掴み、塗膜を引っ張ることにより、容易に、基材の表面(透明導電膜で形成された配線面)に密着している塗膜全体を、透明導電膜で形成された配線を含む基材から剥離することができる。この塗膜の剥離は、水や溶剤を使用する必要がないので、非常に簡便に塗膜を前記基材から剥離することができる。
【0050】
前記基材から工程2で形成された塗膜を剥離する際の基材の温度には、特に制限はないが、好ましくは0〜40℃であり、より好ましくは10〜35℃である。
【0051】
本発明に使用される、透明導電膜で形成された配線を含む基材は、スマートフォン、タブレットPC等のタッチパネル搭載型の電子機器に使用される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
【0053】
<粘度の測定>
粘度は以下の方法により測定した。
試料10mLを使用して、粘度計(Brookfield社製、型式:DV−II+Pro)を用いて、少量サンプルアダプターおよび型番C4−31のスピンドルを使用し、温度25.0℃の条件で粘度がほぼ一定になったときの値を測定した。
なお、粘度0.4〜1.0Pa・sの組成物は、回転速度20rpmで測定した値であり、0.1〜0.4Pa・sの組成物は、回転速度50rpmで測定した値である。
【0054】
実施例1
スチレン系熱可塑性エラストマーとして、クレイトンポリマー社製スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合エラストマー「MD1537」(スチレン由来のユニットの濃度60質量%)4.3gおよびJSR株式会社製スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合エラストマー「DYNARON(商標)9901P」(スチレン由来のユニットの濃度53質量%)16.4g、可塑剤として、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)(株式会社ジェイ・プラス製)4.3g、溶剤として、昭和電工株式会社製石油ナフサ系溶剤「ソルファイン(商標)TM」(1,2,4−トリメチルベンゼン34〜42質量%、1,3,5−トリメチルベンゼン7〜9質量%、イソプロピルベンゼン1〜2.5質量%を含む。沸騰温度範囲155〜180℃)75.0gを混合し、配合物D1とした。
配合物D1の25℃での粘度は、0.50Pa・sであった。
【0055】
実施例2
スチレン系熱可塑性エラストマーとして、クレイトンポリマー社製スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合エラストマー「MD1537」(スチレン由来のユニットの濃度60質量%)4.3g、株式会社クラレ製スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合エラストマー「セプトン(商標)2104」(スチレン由来のユニット濃度65質量%)16.4g、可塑剤として、トリメリット酸トリブチル(東京化成工業株式会社製)4.3g、溶剤として、昭和電工株式会社製石油ナフサ系溶剤「ソルファイン(商標)TM」(1,2,4−トリメチルベンゼン34〜42質量%、1,3,5−トリメチルベンゼン7〜9質量%、イソプロピルベンゼン1〜2.5質量%を含む。沸騰温度範囲155〜180℃)75.0gを混合し、配合物D2とした。
配合物D2の25℃での粘度は、0.40Pa・sであった。
【0056】
実施例3
スチレン系熱可塑性エラストマーとして、クレイトンポリマー社製スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合エラストマー「MD1537」(スチレン由来のユニットの濃度60質量%)4.3g、株式会社クラレ製スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合エラストマー「セプトン(商標)2104」(スチレン由来のユニット濃度65質量%)16.4g、可塑剤として、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)(株式会社ジェイ・プラス製)4.3g、溶剤として、昭和電工株式会社製石油ナフサ系溶剤「ソルファイン(商標)TM」(1,2,4−トリメチルベンゼン34〜42質量%、1,3,5−トリメチルベンゼン7〜9質量%、イソプロピルベンゼン1〜2.5質量%を含む。沸騰温度範囲155〜180℃)100.0gを混合し、配合物D3とした。
配合物D3の25℃での粘度は、0.11Pa・sであった。
【0057】
比較例1
部分けん化ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「クラレポバールPVA−205」)24gを、熱水76gに溶解し、配合物E1とした。
配合物E1の25℃での粘度は2.0Pa・sであった。
【0058】
比較例2
スチレン系熱可塑性エラストマーとして、株式会社クラレ製スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合エラストマー「セプトン(商標)2002」(スチレン由来のユニット濃度30質量%)20.0g、粘着付与剤として、日本ゼオン株式会社製「クイントン(商標)D100」3.2gおよび出光興産株式会社製「アイマーブ(商標)S−110」3.2g、溶剤として、エクソンモービル社製脱芳香族化炭化水素系溶剤「エクソールD80」73.6gを混合し、配合物E2とした。
配合物D6の25℃での粘度は、0.70Pa・sであった。
【0059】
<オーバーコート用熱硬化性組成物の製造>
全モノマー100質量部に対し、グリシジルメタクリレート37.5質量部、スチレン37.5質量部、テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルメタクリレート7.5質量部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン17.5質量部を溶剤のプロピレングリコールメチルエーテルアセテート400質量部に投入し、窒素雰囲気下でメカニカルスターラーを用いて30分間混合した。窒素雰囲気下で反応器の温度を70℃に高め、混合物の温度が70℃になった時、熱重合開始剤の2,2′−アゾビスイソブチロニトリル9質量部を入れ6時間撹拌して、重量平均分子量(Mw)が7000であるバインダー樹脂を得た。
このバインダー樹脂6質量部(組成物の固形分100質量部基準)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート75質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートコハク酸モノエステル10質量部、トリメリット酸無水物0.95質量部、エポキシ基化合物(日本化薬株式会社製「CER−3000−L」)8.0質量部およびフッ素系界面活性剤(オムノヴァ社製「ポリフォックス PF−6520」)0.05質量部をプロピレングリコールメチルエテールアセテートとジエチレングリコールジエチルエテールの60:40の混合溶剤に投入して撹拌した。
上記のような過程を経た全固形分の含有量が20質量%である混合物を、直径0.2μmのフィルタでろ過して熱硬化性組成物(以下、「オーバーコート用熱硬化性組成物A」と記す。)を得た。
【0060】
[配合物の評価]
上記の組成により調製した配合物D1〜D3、E1およびE2の特性を、以下に示す方法により評価した。結果を表1に示す。
【0061】
<乾燥性の評価>
乾燥性の評価は以下の方法により評価した。
配合物D1〜D3、E1およびE2を、それぞれ、ガラス上に乾燥後の厚みが約50μmになるように、バーコーターを用いて塗布し、塗布した後、室温で5分放置後、乾燥機を用いて、120℃で、5分間乾燥した。
その後、乾燥機から取り出し、べたつきの有無、すなわちタックの有無を確認した。
【0062】
<ITO膜からの剥離性の評価>
ITO膜からの剥離性を以下の方法により評価した。
配合物D1〜D3、E1およびE2を、それぞれ、ITO膜を蒸着した10cm×10cmの正方形のガラスのITO膜表面上に乾燥後の厚みが50μmになるよう塗布し、室温で5分間保持した後に、120℃で5分間乾燥した後、室温で12時間放置し、ITO膜上に塗膜を作成した。これらの塗膜について、評価試験用の硬化膜の4隅の一端にポリイミドテープを貼りつけ、ポリイミドテープを引っ張ることによって剥離し、以下に記載の基準によって評価した。
A :塗膜が伸びることなく、塗膜の残渣が残ることなく、さらに、切れたり、ちぎれたりあるいは割れたりすることなく、容易に剥離可能であった。
B :塗膜が伸び、剥離するために力を要するが、塗膜の残渣が残ることなく、さらに、切れたり、ちぎれたりあるいは割れたりすることなく剥離可能であった。
C :剥離の際に塗膜が、切れたり、ちぎれたりすることがあった。
D:剥離することが全くできなかった。
【0063】
<ガラスからの剥離性の評価>
ITO膜を蒸着した10cm×10cmの正方形のガラスの代わりに、10cm×10cmの正方形のガラスを使用した以外は、ITO膜からの剥離性の評価と同様に方法で評価した。
【0064】
<オーバーコート膜からの剥離性の評価>
前記オーバーコート用熱硬化性組成物Aを、10cm×10cmの正方形に切り出したガラス基板の上に塗布した後、プリベークで90℃のホットプレート上で2分間乾燥した後、続いて220℃のクリーンなオーブンで30分程度ポストベークを行って3.0μm厚のオーバーコート膜付ガラスを製造した。
配合物D1〜D3、E1およびE2を、それぞれ、上記オーバーコート膜付ガラスのオーバーコート膜表面上に、乾燥後の厚みが50μmになるよう塗布し、室温で5分間保持した後に、120℃で5分間乾燥した後、室温で12時間放置し、ITO膜上に塗膜を作成した。これらの塗膜について、評価試験用の硬化膜の4隅の一端にポリイミドテープを貼りつけ、ポリイミドテープを引っ張ることによって剥離し、以下に記載の基準によって評価した。
A :塗膜が伸びることなく、塗膜の残渣が残ることなく、さらに、切れたり、ちぎれたりあるいは割れたりすることなく、容易に剥離可能であった。
B :塗膜が伸び、剥離するために力を要するが、塗膜の残渣が残ることなく、さらに、切れたり、ちぎれたりあるいは割れたりすることなく剥離可能であった。
C :剥離の際に塗膜が、切れたり、ちぎれたりすることがあった。
D:剥離することが全くできなかった。
【0065】
<透湿度の評価>
配合物D1〜D3、E1およびE2を、それぞれテフロン(登録商標)板上に乾燥後の厚みが約130μmになるように、バーコーターを用いて、重ね塗りすることにより自立膜を作成した。
透湿カップ治具(テスター産業株式会社製)を使用して、これらの自立膜の透湿度を、JIS Z 0208に準拠して測定した。その結果を表1に記す。
なお、透湿度の試験条件は、温度40℃、湿度90%RH、24時間とした。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の結果より、本発明の組成物(即ち、配合物D1〜D3)は、塗布した後、短時間で塗膜がタックフリーになる。さらに、その塗膜は、ITO膜からの剥離性、ガラスからの剥離性、アクリル系オーバーコート膜からの剥離性および防湿性に優れていることがわかる。これに対して、配合物E1の組成物は乾燥速度に劣り、形成された塗膜はITO膜からの剥離性、ガラスからの剥離性およびアクリル系オーバーコート膜からの剥離性に劣る結果となっている。また、配合物E2は、塗布した後、短時間で塗膜がタックフリーになる。さらに、その塗膜は、ITO膜からの剥離性、ガラスからの剥離性および防湿性には優れているが、アクリル系オーバーコート膜からの剥離性に劣る結果となっている。
また、本発明の組成物は、塩化ビニル樹脂等のハロゲン含有樹脂を使用していないので、環境面においても配慮されている。
また、本発明の透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護方法は、従来のPVA水溶液を用いた、透明導電膜で形成された配線を含む基材の一時的な保護方法で必要とする、PVA膜の製造過程で水を蒸発させる工程や、PVA膜を除去するときの必要工程である熱水噴霧や熱水へのディッピングによるPVA膜の溶解除去工程を含まない、エネルギー的ロスや時間的ロスを解消することができる有用な工程である。