(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂層は、クロロスルホン化ポリエチレンの含有量を100質量部とした場合に、40質量部以上100質量部以下のタルクと、30質量部以上70質量部以下のエチレン系熱可塑性エラストマーと、30質量部以上80質量部以下の可塑剤を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の布構造体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[布構造体1]
図1,
図2を参照しつつ本発明の布構造体1について説明する。布構造体1は、樹脂層3の少なくとも一方面上に接着層4を介して基布層2を積層してなる。布構造体1は、基布層2を表面に露出させた構造を備える。
図1では、樹脂層3の一方面上に接着層4を介して基布層2を積層した場合について示しており、
図2では、樹脂層3の両方の面上に接着層4(第1の接着層4a、第2の接着層4b)を介して基布層2(第1の基布層2a、第2の基布層2b)を積層した場合について示す。
【0012】
(布構造体1の重量)
布構造体1は、重量が300g/m
2以下であることが好ましく、200g/m
2以下であることがさらには好ましい。布構造体1の重量が300g/m
2を超えて大きいと、医療用衣料として用いた場合に使用者に衣料の重みを感じさせやすくなってしまい、医療従事者に強く求められる素早く的確な動作の実現を妨げやすくなる。
【0013】
(基布層2)
基布層2は、適宜選択可能である。
図2の例のように樹脂層3の両方の面上に基布層(2a、2b)が積層される場合、これらの基布層(第1の基布層2a、第2の基布層2b)は、互いに同じ種類の基布材料で形成されたものであってもよいし、互いに異なる種類の基布材料で形成されていてもよい。たとえば、布構造体1で構成される生地を医療用衣料に加工した際に、第1の基布層2aが医療用衣料の表面側に露出する層をなし、第2の基布層2bが医療用衣料の裏面側にある層をなすことができるように、第1の基布層2a、第2の基布層2bそれぞれについて互いに異なる種類の基布材料が選択されてよい。
【0014】
基布層2を構成する基布材料は、特に限定されるものではなく、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ビニロン、綿、麻等などを適宜選択されてよい。これらの中でも、基布材料としては、高強力ポリエステル糸のマルチフィラメントからなる編織物が採用されることが好ましい。これは、布構造体1が医療用衣料を構成する生地として用いられた場合に、その医療用衣料にリネンリユースシステムが適用されてオートクレーブ処理が施されることになっても、強度の低下が少なく、布構造体1の強度が保持できるという利点があるからである。
【0015】
なお、上述の高強力ポリエステル糸とは、通常のポリエステル糸よりも糸強度が高いポリエステル糸を示す。通常のポリエステル糸の強度は、4.5N/d程度のものが多いところ、高強力ポリエステル糸の強度は、1.6倍程度以上の強度を持つものが多い。また、高強力ポリエステル糸は、分子量が大きいポリエステル樹脂を用いたものであり、且つ、製造時の延伸率を上げることで、強度を向上させたものである。上述のマルチフィラメントとは、多数の単繊維(モノフィラメント)を寄り合わせてなる繊維を示しており、寄り合わせ方法を特に限定されるものではない。また、マルチフィラメントからなる編織物は、編み方法、織り方法を特に限定されるものではない。
【0016】
(樹脂層3)
樹脂層3は、クロロスルホン化ポリエチレンを含む層である。クロロスルホン化ポリエチレンが含まれる層は、耐熱性に優れており、オートクレーブ処理のような水蒸気存在下での加熱及び加圧履歴が加えられた場合にあっても強度や物性の低下を生じにくい層である。
【0017】
(体積膨潤率)
樹脂層3は、134℃で水蒸気処理試験を実施した場合における樹脂層3の体積膨潤率が2%以下となっている。布構造体1においては、樹脂層3の体積膨潤率が2%以下となっていることで、布構造体1にオートクレーブ処理が施された場合に布構造体1にカールが生じてしまう虞が効果的に解消される。これは、樹脂層3の一方面側に接着層4を介して基布層2が積層された場合と、樹脂層3の両面側に接着層4(第1の接着層4a、第2の接着層4b)を介して、それぞれ基布層2(第1の基布層2a、第2の基布層2b)が積層された場合のいずれについても同様である。
【0018】
本明細書における体積膨潤率(%)とは、対象物に対して特定の処理を施す前と後に関してその対象物の体積変動の大きさを示す値であり、次に示す測定方法を実施することで具体的に特定することができる値である。
【0019】
(体積膨潤率の測定)
体積膨潤率を測定したい対象物のサンプルを調製する。まず、調製時のサンプルの体積V
0を特定する。この特定は、例えば、フィルム状のサンプルを準備して、ノギス、厚み計などを適宜用いて縦(A
0)、横(B
0)、厚み(T
0)の値を測定して下記(式1)に示すように乗算することで、具体的に実施可能である。
【0021】
次に、サンプルに対して所定の条件下で水蒸気処理試験を行い、試験後のサンプルに対して、さらに体積V
1を測定する。測定は、体積V
0を特定する場合と同様に、ノギス、厚み計などを適宜用いて試験後のサンプルの縦(A
1)、横(B
1)、厚み(T
1)の値を測定して下記(式2)に示すように乗算することで、具体的に実施可能である。
【0023】
そして、V
0,V
1の値を次に示す(式3)に当てはめることで、体積膨潤率(%)が特定される。なお、水蒸気処理試験は、サンプルに対してオートクレーブ処理を施すことで実施される。また、水蒸気処理試験の条件としては、134℃の条件下が選択される。
【0025】
体積膨潤率の測定例をより具体的に例示すると、サンプルとして、樹脂層3を構成する樹脂組成物からなるフィルム材として縦150mm×横150mm×厚み2mmのフィルム材を調製し、サンプルを134℃条件下でオートクレーブ処理する前と後の両時点で、サンプルの縦(A
0、A
1)、横(B
0、B
1)、厚み(T
0、T
1)(mm)を測定して上記(式1)及び上記(式2)を用いて体積(V
0、V
1)(mm
3)をそれぞれ特定して、これらV
0、V
1の値を上記(式3)にあてはめることで体積膨潤率(%)が特定される。
【0026】
(樹脂層3を構成する成分)
樹脂層3には、クロロスルホン化ポリエチレンのほか、タルクと、エチレン系熱可塑性エラストマーと、可塑剤が成分として含まれることが好適である。
【0027】
エチレン系熱可塑性エラストマーとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMMA)などを用いることができる。
【0028】
可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソニルフタレート(DINP)等のフタレート系可塑剤;ジオクチルアジペート(DOA)、ジイソデシルアジペート(DIDA)、ジブチルグリコールアジペート、ジブチルカルビトールアジペート等のアジペート系可塑剤;ジオクチルセバケート(DOS)、ジブチルセバケート(DBS)等のセバケート系可塑剤;トリクレジルフォスフェート(TCP)、クレジルフェニルフォスフェート(CDP)、トリブチルフォスフェート(TBP)、トリオクチルフォスフェート(TOP)、トリブトキシエチルフォスフェート(TBXP)等のフォスフェート系可塑剤のほか、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート(DOZ)、ジ−2−エチルヘキシルドデカンジオエート(DODN)等が挙げられ、それらの1種あるいは2種以上を組み合わせてもよい。これらの化合物の中でも、フタレート系可塑剤は、加工性に優れた樹脂層を形成することがより容易となって好ましい。
【0029】
(樹脂層3の各種成分の配合比率)
樹脂層3には、クロロスルホン化ポリエチレンの含有量を100質量部とした場合に、40質量部以上100質量部以下のタルクと、30質量部以上70質量部以下のエチレン系熱可塑性エラストマーと、30質量部以上80質量部以下の可塑剤が含まれることが好適である。
【0030】
タルクの配合比率について、クロロスルホン化ポリエチレンの含有量を100質量部とした場合におけるタルクの含有量が40質量部以上となっていることで、オートクレーブ処理時における樹脂層3の膨潤を効果的に抑制することができ、タルクの含有量が100質量部以下であることで後述するトッピング法実施の際におけるカレンダー加工時に樹脂層を100μm以下という厚みに成形することが可能となる。これまで100μm以下の厚みで樹脂層を形成する場合に、溶液コーティング法で100μm以下の厚みに樹脂の層を形成しようとすると、層内にピンホールが発生してしまうという虞が高まっていたが、そのような虞を抑制しつつ、100μm以下の厚みで樹脂層を形成することができることとなる。
【0031】
エチレン系熱可塑性エラストマーの配合比率について、クロロスルホン化ポリエチレンの含有量を100質量部とした場合におけるエチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が30質量部以上となっていることで、トッピング法実施の際におけるカレンダー加工時に樹脂層を100μm以下という厚みに成形することが可能となる。エチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が70質量部以下であることでクロロスルホン化ポリエチレンからの相分離の虞を抑制することができるようになる。
【0032】
可塑剤の配合比率について、クロロスルホン化ポリエチレンの含有量を100質量部とした場合における可塑剤の含有量が30質量部以上となっていることで、トッピング法実施の際におけるカレンダー加工時に樹脂層を100μm以下という厚みに成形することが可能となる。可塑剤の含有量が80質量部以下であることでブリードアウトの虞を抑制することができるようになる。
【0033】
(樹脂層3に含まれてよい他の添加剤)
樹脂層3には、本発明の目的を阻害しない範囲で、充填材が含まれてよい。また、樹脂層3には、上記した各種成分の他にも、やはり本発明の目的を阻害しない範囲で各種の添加剤が含まれてよい。添加剤として、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、加工助剤、帯電防止剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤(顔料)などをあげることができる。
【0034】
(接着層4)
接着層4は、クロロスルホン化ポリエチレンを含み、加硫剤、加硫促進剤及びイソシアネートを含む層である。また、接着層4には、充填材が含まれてもよい。充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、硫酸バリウム、硫酸マグネシウムなどを挙げることができる。接着層4に充填材が含まれる場合、充填材の配合比率については、クロロスルホン化ポリエチレンを100質量部とした場合に、充填材が45質量部以下であることが好適である。接着層4に含まれる充填材が45質量部以下であることでオートクレーブ処理後における樹脂層3と基布層2との密着性に優れた状態をより確実に保つことができるようになる。なお、接着層4には、上記した充填材のほか、接着層4の機能が失われない範囲で、樹脂層3に含まれてよい他の添加剤として挙げた各種の添加剤が含まれていてもよい。
【0035】
[布構造体1の調製]
布構造体1は、例えば、次のようにして調製することができる。基布層2を形成する布素材をなす基布材料を準備し、基布材料の一方面上に接着剤組成物を塗布して塗布層を形成して基布層2と塗布層の積層体を形成する。接着剤組成物は、既述のように接着層4を形成するための原料となる化合物で構成されるものである。また、クロロスルホン化ポリエチレンと、タルクと、エチレン系熱可塑性エラストマーと、可塑剤とを混ぜ合わせることで樹脂層3を形成するための樹脂層形成用組成物を準備する。基布層2と塗布層の積層体の塗布層表面に対して樹脂層形成用組成物をトッピング法により積層する(トッピングする)。トッピング法は、次のような方法である。すなわち、これは、樹脂層形成用組成物を混練ロールで混練後、カレンダーにて所定の厚みに成形する(カレンダー加工)とともに、基布層2と塗布層の積層体の塗布層表面に対して、樹脂層形成用組成物の成形物を積層するという方法である。この方法により、基布層2と塗布層の積層体における塗布層形成面上に、樹脂層形成用組成物の層を形成した3層構造体が得られる。そして、塗布層が硬化されて接着層4をなし、樹脂層形成用組成物の層が固化して樹脂層3が形成され、基布層2と接着層4と樹脂層3の積層構造を備えた布構造体1が形成される。基布層2と接着層4と樹脂層3の積層構造を形成する際に用いたトッピング法は、溶液コーティング法よりもピンホールが発生しにくい方法であるとされる。こうしたことから、本発明によれば、溶液コーティング法を避けて布構造体1の調製を実施することが可能となり、布構造体1にピンホールが発生してしまう虞を抑制することができる。
【0036】
(加硫処理)
布構造体1を調製するにあたり、樹脂層3に加硫処理が施されてもよい。加硫処理は、例えば、次のように実施することができる。樹脂層3を形成するための樹脂層形成用組成物として予め加硫剤を添加されたものを準備し、加硫剤を含有した樹脂層形成用組成物からなる層を塗布層上にトッピング法で形成する。そして、その層が所定時間加熱される。このとき、樹脂層形成用組成物からなる層に含まれる樹脂を構成する高分子が架橋されることとなり、加硫処理が実現される。こうして加硫処理を施された樹脂層3が形成される。なお、樹脂層形成用組成物として予め添加されるものとしては、上記した加硫剤のほか、加硫促進剤などを挙げることができる。加硫剤としては、金属酸化物である酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、一酸化鉛などを挙げることができる。加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレアなどのチオウレア系化合物、テトラメチルチラウムモノスルフィド、テトラメチルチラウムジスルフィド、テトラエチルチラウムジスルフィド、テトラブチルチラウムジスルフィド、テトラベンジルチラウムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チラウムジスルフィド、ジペンタメチレンチラウムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチラウムヘキサスルフィドなどのチラウム系化合物、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系化合物、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン等のグアニジン系化合物、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフォンアミドなどのスルフォンアミド系化合物、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドなどの多官能性化合物、硫黄などを挙げることができる。樹脂層3が、加硫処理を施されたものであると、樹脂層3に含まれる樹脂を構成する高分子が架橋された構造を備えることになるため、より強固な樹脂層3を形成することができ、外部応力によって破れを生じる虞の少ない布構造体1を調製することが容易となる。
【0037】
布構造体1においては、接着層4についても、樹脂層3と同様に加硫処理を施された層にて構成されてもよい。したがって、接着層4を形成するための原料となる化合物で構成される接着剤組成物に加硫剤が含まれていてもよいことになる。樹脂層形成用組成物からなる層を塗布層上にトッピング形成した後、所定時間加熱処理がなされることで、塗布層に含まれる樹脂を構成する高分子が架橋された構造が形成される。こうして、加硫処理を施された接着層4が形成される。なお、接着剤組成物に含まれる加硫剤については、金属酸化物系加硫剤が含まれることが好ましい。金属酸化物系加硫剤としては、樹脂層3と同様に、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、一酸化鉛などの金属酸化物など挙げることができる。加硫促進剤としては、樹脂層3に加硫処理を施す場合に使用可能な加硫促進剤を適宜選択可能である。接着剤組成物に金属酸化物系加硫剤、加硫促進剤が含まれていることで、接着層4をより強固なものとすることができるようになり外部応力によって破れを生じる虞の少ない布構造体1を形成することができるという効果が得られる。
【0038】
また、接着剤組成物には、イソシアネートが含まれる。イソシアネートとしては、ジイソシアネート、トリイソシアネート、ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0039】
上記したジイソシアネートとしては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0040】
上記したトリイソシアネートとしては、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4イソシアネートメチルオクタン、1,3,6ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロへプタントリイソシアネート等を挙げることができる。
【0041】
上記したポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0042】
接着剤組成物にイソシアネートが含まれていることで、基布層2に対する接着層4の接着性をより高めることができるようになり、基布層2と樹脂層3との接着層4を介した接着性を高めることができるようになる。
【0043】
[布構造体1の効果]
布構造体1は、オートクレーブ処理のような水蒸気処理を施されても、カールの発生を抑制されているものである。カール発生が抑制されている理由としては、布構造体1においては樹脂層3の体積膨潤率が2%以下に抑えられているため、オートクレーブ処理時の水蒸気による樹脂層3の膨潤が抑制されるからという理由が挙げられる。また、布構造体1のカール発生が抑制されていることから、布構造体1にしわが入ってしまう虞や、その布構造体1から形成される医療用衣料に型崩れを生じる虞が低減される。また、布構造体1においては、樹脂層3及び接着層4がクロロスルホン化ポリエチレンを含む層として構成されていることから、接着層4を介した基布層2と樹脂層3の接着性が優れており、フッ素樹脂フィルムを樹脂層3にかえて採用する場合に比べて製造コスト高となる虞も抑制されている。したがって、本発明によれば、カール発生が抑制されたものであることおよび基布層2と樹脂層3との接着性に優れる布構造体を提供できることとなり、層間剥離の発生の虞を抑制された布構造体1が提供されることになる。
【実施例】
【0044】
実施例1
下記に示す組成の接着剤組成物を準備するとともに、下記に示す2種類の基布材料(基布材料A,B)を準備し、且つ、表1に示す樹脂層の組成をなす樹脂層形成用組成物を準備した。なお、表1の樹脂層形成用組成物を構成する各成分の配合量の単位は質量部である。また、表1に示すように加工助剤としては、ステアリン酸スズの他、脂肪酸エステル(花王株式会社製のスプレンダー(商標)R−300)が準備された。加工助剤とは、混練りやカレンダー工程での加工特性を改善するものである。
【0045】
(接着剤組成物の組成)
クロロスルホン化ポリエチレン :100 質量部
シリカ(充填材) : 15 質量部
酸化チタン(顔料(着色剤)) : 10 質量部
ハイドロタルサイト(加硫剤) : 10 質量部
エチレンチオウレア(加硫促進剤):2.5 質量部
【0046】
(基布材料)
基布材料A,Bは次に示すものである。
基布材料A: 帝人フロンティア社製 40デニール高強力ポリエステル糸 タフタ織り 40g/m
2
基布材料B: 帝人フロンティア社製 30デニール高強力ポリエステル糸 ハーフトリコット編み 35g/m
2
【0047】
【表1】
【0048】
ナイフコーターを用いて基布材料Aの一方の表面に接着剤組成物を塗布して第1の塗布層を形成し、第1の塗布層を100℃のもとに2分間置くことで乾燥させた。その後、乾燥させた塗布層上に、表1に示す組成の樹脂層形成組成物を、トッピング法を用いて積層した。樹脂層形成組成物の積層構造を形成した後、さらに接着剤組成物を塗布して第2の塗布層を形成した。第2の塗布層が非乾燥の状態で、第2の塗布層上に基布材料Bを積層した。
【0049】
基布材料で樹脂層形成用組成物の層が挟まれた積層体を用いて温度150℃で20分加熱することにより加硫処理を実施した。これにより、第1の塗布層、第2の塗布層が硬化して接着層(第1の接着層、第2の接着層)をなし、樹脂層形成用組成物が樹脂層をなした。また、基布材料Aで構成される層は、第1の基布層をなし、基布材料Bで構成される層は、第2の基布層をなした。こうした、樹脂層の面に接着層を介して基布層が積層された布構造体が形成された。
【0050】
(体積膨潤率(%)の測定)
樹脂層に対応するサンプルを調製した。すなわち、樹脂層を構成する樹脂層形成用組成物を用いてシートを成形した。シートは、縦150mm×横150mm×厚み2mmのシートに対応する金型を用いた金型成形により樹脂層形成用組成物をシート状に成形することで調製された。得られたシートをそのまま体積膨潤率(%)測定用のサンプルとした。
【0051】
水蒸気処理試験前すなわちオートクレーブ処理前のサンプルの体積(V
0)をサンプルの縦、横、厚みの各寸法から算出した。それからサンプルをオートクレーブ処理し、処理後の体積(V
1)を処理後のサンプルの縦、横、厚みの各寸法から算出した。処理前後のサンプルの縦、横、厚みの各寸法は、ノギス、膜厚計により測定された。そして既述した(式3)を用いて体積膨潤率(%)が算出された。体積膨潤率の値は表1に示すとおりである。なお、オートクレーブ処理の条件としては、温度134℃、30時間(18分処理 100サイクル相当)を設定された。
【0052】
実施例2から9、比較例1から3
樹脂層形成用組成物の組成を表1に示すものである他は、実施例1と同様にして、実施例2から9については布構造体が調製され、比較例1から3については比較用布構造体が調製された。
【0053】
(布構造体の剥がれ・浮き評価)
各実施例で得られた布構造体の剥がれ・浮き評価(層間剥離の抑制性評価)は、オートクレーブ処理(温度134℃、30時間(18分処理 100サイクル相当)によって剥がれや浮きの発生が生じるか否かを観察することで実施された。すなわち、布構造体から縦100mm×横100mmの大きさのサンプル片を切り出し、サンプル片をオートクレーブ処理してさらに乾燥処理(温度:室温24時間)を施し、乾燥処理後のサンプル片に基布層と樹脂層との間での剥がれ有無・基布層と樹脂層との間での浮きの有無を次のような○、△、×の区分にて評価した。○、△、×の区分基準は、次に示すとおりである。なお、剥がれとは、目視又は触覚にて、基布層と樹脂層とが周縁位置から内側方向に向かって非接着部分が形成されると認められることを示しており、浮きとは、目視又は触覚にて、基布層と樹脂層との非接着部分が周縁位置よりも内側で形成されていると認められることを示すものとする。また、上記の観察では○との評価が認められた布構造体について、得られた布構造体の基布面側を、先端の丸いピンセットで、数回こする試験を追加した。この数回こする試験により剥がれが生じなかったものについては、○の評価を維持し、剥がれが生じたものについては、布構造体の剥がれ・浮き評価について、△と評価した。△と評価された布構造体は、○の評価を維持された布構造体に比して、強い摩擦力を受けることが少ないような特定の用途に限定して基布層と樹脂層との間の接着力が十分なレベルである。結果を表2に示す。
【0054】
各比較例で得られた比較用布構造体についても、布構造体と同様に剥がれ・浮き評価が実施された。結果を表2に示す。
【0055】
○: 基布層と樹脂層との間で剥がれも浮きも認められない。
△: 基布層と樹脂層との間で剥がれも浮きも認められないが、特定の用途についての基布層と樹脂層との間の接着力が十分なレベルである。
×: 基布層と樹脂層との間で剥がれと浮きの少なくとも一方が認められる。
【0056】
(布構造体の加工性評価)
各実施例で得られた布構造体の加工性評価は、トッピング法によって接着層を介した樹脂層と基布層の積層構造の形成を実施することができるか否か、特に100μm以下の樹脂層を形成することが可能であるか否かを基準として次のように○、△、×にて区分することで実施された。比較用布構造体についても、布構造体と同様に加工性評価が実施された。結果を表2に示す。
【0057】
○: 100μm以下の樹脂層を形成することが容易にできた。
△: 100μm以下の樹脂層を形成できるが、多少加工性に劣った。
×: 100μm以下の樹脂層を形成することができなかった。
【0058】
布構造体の加工性評価が○である場合には、溶液コーティング法に頼らずに、トッピング法を用いて100μm以下という薄いあつみの樹脂層を有する布構造体を調製することが可能である。薄いあつみの樹脂層を有する布構造体を溶液コーティング法で調製しようとするとピンホールの発生という問題が発生しやすい。こうしたことから、溶液コーティング法に頼らずに布構造体を調製できることは、布構造体を製造する際におけるピンホールの発生による製造ロスを少なくすることが容易であることをも示す。
【0059】
(血液及びウイルスに対するバリア性評価)
各実施例で得られた布構造体のバリア性は、JISL1−02 耐水圧試験で2000mm以上の合格基準を満たしているか否か、ASTML1670人工血液バリア性試験で合格基準を満たしているか否か、及び、ASTMF1671ウイルスバリア性試験で合格基準を満たしているか否かという3つの試験での合格基準の合否に基づき評価された。実施例1から9で得られた布構造体は、いずれも、これら3つの試験で合格基準を満たしていることが確認された。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例10から13
実施例1の接着剤組成物にかえて下記のように調製された接着剤溶液を用いて第1の塗布層、第2の塗布層を形成して第1の接着層と第2の接着層を形成したほかは、実施例1と同様にして、布構造体を調製した。また、得られた布構造体について剥がれ・浮き評価を行った。結果を表4に示す。
【0062】
(接着剤溶液の調製)
下記表3に示す組成の接着剤組成物をトルエンに溶解するとともに、イソシアネートを溶液全重量に対して5重量%となるように添加して、接着剤溶液を調製した。接着剤組成物とトルエンの量については、接着剤溶液の固形分比率が25%となるように接着剤組成物とトルエンのそれぞれの量が選択された。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】