特許第6501658号(P6501658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6501658新規含フッ素鎖状エーテル化合物およびその製造方法、並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501658
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】新規含フッ素鎖状エーテル化合物およびその製造方法、並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/12 20060101AFI20190408BHJP
   C07C 41/06 20060101ALI20190408BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20190408BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20190408BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20190408BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190408BHJP
【FI】
   C07C43/12
   C07C41/06
   C11D7/50
   H01M10/0567
   H01M10/0569
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-138587(P2015-138587)
(22)【出願日】2015年7月10日
(65)【公開番号】特開2017-19746(P2017-19746A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】平山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三村 英之
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−187234(JP,A)
【文献】 特表2011−526896(JP,A)
【文献】 Coffman, D. D. et al.,Addition reactions of tetrafluoroethylene,Journal of Organic Chemistry,1949年,(1949), 14, 747-53
【文献】 Sievert, Allen C. et al.,Synthesis of perfluorinated ethers by an improved solution phase direct fluorination process,Journal of Fluorine Chemistry,1991年,(1991), 53(3), 397-417
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン。
【請求項2】
請求項1に記載の1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンを含む洗浄剤。
【請求項3】
非水溶媒と、電解質塩と、請求項1に記載の1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンとを含む非水系二次電池用電解液。
【請求項4】
請求項1に記載の1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンの製造方法であって、
2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタノールテトラフルオロエチレンとを反応させることを含む前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含フッ素鎖状エーテル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化合物の中でも特殊な機能を持つフッ素化合物は、樹脂、ゴム、有機化合物、無機化合物、ガスなど、様々な形態をとりながら、自動車、電機・電子、建築、工学分野、医薬・農薬など幅広い分野で活用されている。
【0003】
これらフッ素化合物の中でも常温で液体の物性を有するものは、高い熱的・化学的安定性を有する溶媒として利用されている。このうち、パーフルオロアルカンやパーフルオロアルキルアミン等のパーフルオロ化合物は、有機化合物との相溶性を全く有さず、その用途としては熱媒体等が中心となる。一方、分子が部分的にフッ素化された含フッ素鎖状エーテル化合物は、有機化合物との相溶性を有し、低粘度、低融点といったエーテル化合物の特徴を有しながらも高い熱的・化学的安定性(耐酸化性)といった優れた物理的・化学的性質を有している。そのため、含フッ素鎖状エーテル化合物は、フッ素オイル用溶剤や可燃性溶媒の引火点調整、電子部品や工業製品の洗浄剤等として利用されている(非特許文献1)。
【0004】
このような含フッ素鎖状エーテル化合物としては、例えば、パーフルオロブチルメチルエーテルやパーフルオロブチルエチルエーテル等のパーフルオロアルキルエーテル化合物が知られており、また、その具体的用途として血液浄化器の中空糸膜の洗浄剤や車両用洗浄剤が提案されている(特許文献1、2)。しかし、これらのパーフルオロアルキルエーテル化合物においても有機合成反応や抽出等で利用可能な広範な有機化合物との相溶性という点では依然十分でない。また、パーフルオロアルキルエーテル化合物は低沸点であるため、使用温度範囲が制限されるなどの課題もあった。
【0005】
また近年、含フッ素鎖状エーテル化合物は、リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池用の電解液溶媒としても検討されている(特許文献3、4)。これは、非水系二次電池においては電池サイズの縮小と駆動時間の延長のために電池のエネルギー密度の向上が求められているところ(非特許文献2)、この様な要求に対して、低粘性且つ酸化耐性に優れた含フッ素鎖状エーテル化合物が有効なためである。特許文献3には、分子内に1個の酸素原子を有する含フッ素鎖状エーテル化合物が開示されている。
しかし、特許文献3、4で用いられている化合物もエチレンカーボネート等の他の電解液成分との相溶性が十分でないため組成上の制約がある。また、特許文献3で用いられている化合物も低沸点であるため幅広い温度範囲で安定な動作が求められている非水系二次電池では十分な性能を有しているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−174848号公報
【特許文献2】特開2008−280463号公報
【特許文献3】特開平11−026015号公報
【特許文献4】特開平11−307123号公報
【特許文献5】特開平10−050343号公報
【特許文献6】国際公開2000/016427号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「フッ素系材料と技術」、株式会社シーエムシ―出版、松尾仁著、2002年4月30日
【非特許文献2】「自動車用リチウムイオン電池」日刊工業新聞社(2010)p.31〜32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようなパーフルオロアルキルエーテル化合物や分子内に酸素原子を1個有する含フッ素鎖状エーテル化合物(以下、これらを総じて従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等ともいう)の課題に対して、分子内に酸素原子2個を有する比較的高沸点の含フッ素エーテル化合物が提案されている(特許文献5、6)
【0009】
ここに提案された含フッ素鎖状エーテル化合物は150℃以上の沸点を有し、広範な温度で利用できる化合物である。しかし、特許文献5に示された化合物は比較的粘度が高いという課題があり、特許文献6に示された化合物は、合成方法が煩雑で製造効率性に乏しく、工業的な利用が難しい等の課題があった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みなされたものである。即ち、従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して高い沸点を備えるとともに有機化合物との相溶性に優れ、且つ粘度についても改善可能であり容易に合成可能な含フッ素鎖状エーテル化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。結果、含フッ素アルコキシエタノールとフルオロアルケンの付加反応によって得られる新規の含フッ素鎖状エーテル化合物が、従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して高い沸点を有するとともに有機化合物との相溶性に優れることを見い出した。また、本発明者は、当該化合物が粘度についても改善可能であり容易に合成可能である事を見出した。さらに、本発明者は、当該化合物が耐酸化性についても改善された物性を有することを見い出した。
これにより、本発明者は、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は下記の要旨に係わるものである。
(I)
一般式(1):
【化1】
(式中、Rは少なくとも1つのフッ素原子により置換されている炭素数1〜2のアルキル基を表し、Xは水素原子又はトリフルオロメチル基を表し、Yは水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表し、Zは水素原子またはフッ素原子を表す。)で表される含フッ素鎖状エーテル化合物。
【0013】
(II)
前記一般式(1)で表される含フッ素鎖状エーテル化合物が、1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンである(I)に記載の含フッ素鎖状エーテル化合物。
【0014】
(III)
(I)または(II)の含フッ素鎖状エーテル化合物を含む洗浄剤。
【0015】
(IV)
非水溶媒と、電解質塩と、(I)または(II)の含フッ素鎖状エーテル化合物とを含む、非水二次電池用電解液。
【0016】
(V)
一般式(2):
【化2】

(式中、Rは少なくとも1つのフッ素原子により置換されている炭素数1〜2のアルキル基を表し、Xは水素原子又はトリフルオロメチル基を表す。)で表される含フッ素アルコキシエタノール化合物と一般式(3):
【化3】
(式中、Yは水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表し、Zは水素原子またはフッ素原子を表す。)で表されるフルオロアルケン化合物とを反応させることを含む一般式(1):
【化4】

(式中、R、X、Y、Zは前述の通り)で表される含フッ素鎖状エーテル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して高い沸点を備えるとともに有機化合物との相溶性に優れ、且つ粘度についても改善可能であり容易に合成可能な含フッ素鎖状エーテル化合物及びその製造方法を提供することができる。また、該含フッ素鎖状エーテル化合物を含む洗浄剤及び非水系二次電池用電解液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例および比較例のLSVグラフである。実線は1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンを含む実施例1aの電解液のLSVグラフである。破線はビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンを含む比較例1aの電解液のLSVグラフである。
図2】実施例においてイオン伝導度測定のために用いた、白金電極を組み合わせた電気化学セルの構成の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の1つの実施形態について詳細に説明する。
本実施形態は一般式(1)で表される新規含フッ素鎖状エーテル化合物(以下、含フッ素鎖状エーテル化合物(1)ともいう)に関する。
【0020】
【化5】
【0021】
本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)の構造を表す一般式(1)におけるRの定義について説明する。Rは少なくとも1つのフッ素原子により置換されている炭素数1または2のアルキル基を示す。具体的に例示すると、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1−フルオロエチル基、2−フルオロエチル基、1,1−ジフルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基等を挙げることができる。この中でも、化合物が高フッ素含有率で、且つより高い沸点を有し、耐酸化性及び安全性にもより優れることから、Rとして、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基が好ましい。その中でも化合物がより低粘度でありさらなる高酸化耐性を有することが期待できるため、Rとしてトリフルオロメチル基が特に好ましい。
【0022】
また、一般式(1)において、Xは、水素原子又はトリフルオロメチル基を表し、Yは水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表し、Zは水素原子またはフッ素原子を表す。
【0023】
一般式(1)の含フッ素鎖状エーテル化合物としては、具体的には下記のような化合物が例示されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0026】
次に、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)の製造方法について説明する。
本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、例えば、下記一般式(2)で表される含フッ素アルコキシエタノール化合物と下記一般式(3)で表されるフルオロアルケン化合物との反応により合成する事が出来る。一般式(2)に含まれるR、X、及び一般式(3)に含まれるY及びZは、一般式(1)中のR、X、Y及びZと同義である。
【0027】
【化8】
【0028】
【化9】
【0029】
一般式(2)で表される含フッ素アルコキシエタノール化合物は、含フッ素アルコールとエチレンカーボネートまたはエチレンオキサイドを反応させる等、当業者のよく知る一般的な合成法に従って製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
一般式(2)で表される含フッ素アルコキシエタノール化合物は、具体的には下記のような化合物が例示されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
【化10】

【0031】
また、一般式(3)で表されるフルオロアルケン化合物も、当業者のよく知る一般的な合成法に従って製造することができる。
一般式(3)で表されるフルオロアルケン化合物としては、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン及びヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。
【0032】
一般式(2)で表される含フッ素アルコキシエタノール化合物と、一般式(3)で表されるフルオロアルケン化合物との反応は、無機塩基およびその水溶液を用いて行う事が出来る。無機塩基としては、例えば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の周期表第2族に属する金属の水酸化物等を用いる事が出来る。これら無機塩基は、固体のまま使用しても良いし、水に溶解若しくは懸濁させて使用することもできる。これら無機塩基は、単独で使用しても良く、また2つ以上を混合して使用しても良い。
【0033】
無機塩基の使用量は、一般式(2)で表されるアルコキシエタノール化合物1モルに対して、0.001〜1.0モルが好ましく、0.01〜0.5モルがより好ましく、0.02〜0.2モルが更に好ましい。
【0034】
一般式(2)で表される含フッ素アルコキシエタノール化合物に対する、一般式(3)で表されるフルオロアルケン化合物のモル比は、特に制限されないが、収率が良い点で1:10〜10:1から適宜選ばれた比が好ましく、1:1〜1:4から適宜選ばれた比が経済的にさらに好ましい。
【0035】
一般式(2)で表される含フッ素アルコキシエタノール化合物と、一般式(3)で表されるフルオロアルケン化合物の反応温度は特に制限されないが、例えば−20〜200℃から適宜選択された温度で実施することができる。このうち、収率が良い点で、0〜150℃から適宜選択された温度で実施することが好ましい。また、反応方法、反応圧力も特に制限されないが、通常、フルオロアルケン化合物を連続的に供給しながら、常圧〜5MPa、より好ましくは、0.1〜2MPaの圧力で反応を行うことが好ましい。なお、本明細書において、常圧とは、標準大気圧101325Paを中心に上下20%の圧力の範囲をいう。
【0036】
上記反応により得られる含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、一般式(2)で表される含アルコキシエタノール化合物と、一般式(3)で表されるフルオロアルケン化合物との反応終了後に抽出、ろ過等の通常の処理を行うことで単離することができる。必要に応じて、蒸留またはカラムクロマトグラフィー等で含フッ素鎖状エーテル化合物(1)を精製してもよい。
【0037】
次に、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)の用途の一例について説明する。本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して高い沸点を有するとともに有機化合物との相溶性にも優れる。また、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、粘度についても改善された物性を有する。加えて、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、耐酸化性についても改善された物性を有する。
そのため、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、フッ素オイル用溶剤、洗浄剤、有機合成反応用溶媒、抽出溶媒、さらには非水系二次電池用電解液等の様々な用途で利用することができる。
【0038】
本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)を含む洗浄剤に関し、その洗浄対象は特に限定されないが、例えば電子部品、工業製品などを挙げることができる。本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)を洗浄剤成分として用いる場合において、一般式(1)で表される含フッ素鎖状エーテル化合物単独で洗浄剤として用いても良い。また、含フッ素鎖状エーテル化合物(1)と非水溶媒とを混合して洗浄剤を構成するようにしてもよい。本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、様々な有機化合物との相溶が可能であるため、混合する非水溶媒として特に制限はなく、溶解させる化合物の溶解性に応じて適宜選択することができる。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール等のアルコール類、クロロホルムやジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン等の炭化水素類、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジグライムやトリグライム、テトラグライム等のグライム類等を例示することができ、例えばこれらのうち1種または2種類以上を非水溶媒として用いることができる。
【0039】
洗浄剤の具体的な用途としては、グリース、油、インク、ワックス、フラックス等の除去剤、車のウインドウォッシャー液等の車両用洗浄剤、レジストや電子部品等の洗浄剤、水切り剤等を挙げることができる。
【0040】
また、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、フッ素オイル、フッ素系塗料等の希釈用溶剤としても利用することができる。
【0041】
本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)を有機合成反応用溶媒の成分として用いる場合は、単独で用いても良い。また、洗浄剤の場合と同様に、反応に応じて、フッ素鎖状エーテル化合物(1)と各種非水溶媒とを混合して有機合成反応用溶媒を構成するようにしてもよい。本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、上述のとおり優れた化学的な安定性(耐酸化性)を有しているため、種々の有機合成反応の溶媒として利用できる。
含フッ素鎖状エーテル化合物(1)を含む有機合成反応用溶媒を用いての反応例としては、例えば、エステル化反応、アミド化反応、アミノ化反応、加水分解反応、クロスカップリング反応、酸化反応、還元反応、ハロゲン化反応及び重合反応等を挙げることができる。
本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は上述のとおり高い沸点を有する。また、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して低い融点を有している。そのため、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して熱安定性に優れており、特に限定されないが、例えば−50〜150℃の広い温度範囲で反応を実施することができる。
【0042】
また、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、抽出溶媒として用いることもできる。抽出溶媒として利用する際は、比重が1よりも大きく抽出層が下層となるため、水溶液から目的物を抽出する際、抽出率が低く抽出回数が多くなるような場合は特に操作上の優位性を有している。
【0043】
また、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、非水系二次電池用電解液において用いるようにすることもできる。当該非水系二次電池用電解液は、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物と、非水溶媒と、電解質塩とを含んで構成されており、例えばこれらを混合することにより調製することができる。本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、上述のとおり高い酸化耐性を有しているため、高電圧リチウムイオン電池等の高エネルギー密度のデバイス用の電解液として特に適している。
【0044】
また、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の高誘電率溶媒とも十分に相溶可能である。そのため、本実施形態の含フッ素鎖状エーテル化合物(1)は、様々な非水溶媒と混合して非水系二次電池用電解液を構成することができる。
また、特に限定されないが、電解液性能の関連から含フッ素鎖状エーテル化合物(1)の含有率は非水溶媒に対して0.1〜70体積%の範囲で含有するのが好ましく、0.5〜50体積%の範囲で含有することが特に好ましい。
【0045】
含フッ素鎖状エーテル化合物(1)以外に非水系二次電池用電解液中に混合される非水溶媒としては、例えば様々な非プロトン性極性溶媒を用いることができる。非プロトン性極性溶媒を具体的に例示すると、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル、酢酸メチル、酪酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等の鎖状エステル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン等のエーテル類及びアセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)等の含フッ素リン酸エステル類等が挙げられる。これらは単独又はそれら2種以上を混合して用いる事ができる。
【0046】
電解質塩としては、例えば、LiBF、LiPF、LiPF(CF)、LiAsF、LiSbF、LiClO、LiCFSO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF等のLi塩、Mg(PF6)2、Mg(N(SO等のMg塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。これら電解質塩のうち、解離性に優れ、高いイオン伝導度が得られるという点で、LiPF、LiN(SOF)、LiN(CFSOが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る非水系二次電池用電解液におけるリチウム塩の濃度は、とくに制限されるものではないが、0.1〜2.5mol/Lの範囲とすることが望ましい。リチウム塩は、以下の範囲よりも濃度が低いと範囲内にある場合と比較してイオン伝導度が低下し、また、以下の範囲よりも濃度が高いと範囲内にある場合と比較して粘度が上昇しイオン伝導度が低下するため、0.5〜2.0mol/Lがより好ましく、0.7〜1.7mol/Lが更により好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(TeFTFEE)の合成
【化11】

2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタノール205.0g、48%KOH水溶液8.2gをオートクレーブに投入した後、内温が30℃になるまで昇温した。このオートクレーブを撹拌条件下、内温を30〜40℃に維持しながら、0.4〜1.5MPaの圧力でテトラフルオロエチレンをオートクレーブに導入した。放冷後、オートクレーブを開放し、水を加え、有機層を分取した。同量の水で洗浄後、蒸留(89.5 ℃/15kPa)により精製することにより、1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(以下、TeFTFEEと略す)331.7gを得た(収率95.5%)。
【0050】
得られたTeFTFEEの沸点は、常圧換算で156℃であり、また、JIS K0065「化学製品の凝固点測定方法」に従い測定した凝固点は−50℃以下であった。このため、実施例1の当該化合物は、従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して広い温度範囲で取り扱い可能な液体であることが確認された。
【0051】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ5.73(tt,J=53.4Hz,2.8Hz,1H),δ4.14(m,2H),δ3.90(q,J=8.6Hz,2H),δ3.88(m,2H),
19F-NMR(376MHz,CDCl):δ−74.9(t,J=8.6Hz,3F),δ−92.3(td,J=5.3Hz,2.8Hz,1H),δ−137.3(dt,J=53.4Hz,5.3Hz,1H)
【0052】
[試験例1:含フッ素鎖状エーテル化合物の酸化分解電位]
化合物の電気化学的安定性はリニアスィープボルタンメトリー(LSV)測定によって評価した。LSVの測定は、マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタット(Biologic社製、VMP−3)を用いて行った。
アルゴン雰囲気下、含フッ素鎖状エーテル化合物として、実施例1で得られたTeFTFEE0.24gに六フッ化リン酸リチウム(LiPF)0.30gを加えた。得られた混合物にエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶液(体積比:3/7)を加え10mlの実施例1aの電解液を調製した。この実施例1aの電解液におけるTeFTFEE濃度、LiPF6濃度は、それぞれ0.1mol/L、0.2mol/Lであった。
【0053】
この実施例1aの電解液に、作用電極として白金、対極としてリチウム箔、参照極としてリチウム箔を挿入し、5mV/secの走査速度で貴側に掃引し、酸化分解電位の測定を行った。結果を図1に示す。さらに得られたLSVのグラフから、1mA/cm2の電流が観測された電圧を分解電位として表1に示す。なお、LSVの測定は全てアルゴン雰囲気で充満したグローブボックス中で実施した。
【0054】
比較例1の含フッ素鎖状エーテル化合物としてビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(以下、BTFEEと略す)を用いた以外は、実施例1aと同様の方法で比較例1aの電解液を調製した。この比較例1aの電解液を用いて、実施例1aのLSVの方法で酸化分解電位の測定を行った。
【0055】
実施例1a、比較例1aの結果を図1および表1に示す。
【0056】
【表1】


TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン
BTFEE:ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン
【0057】
表1および図1の結果から、本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEが、BTFEEに比べ耐酸化性に優れることが明らかとなった。この要因は明らかではないが、フッ素原子の数、及び酸素原子隣接炭素へのフッ素原子の結合等の構造的影響から、耐酸化性が向上したと考えられる。
【0058】
[試験例2:含フッ素鎖状エーテル化合物の粘度]
実施例1で合成したTeFTFEEの粘度を測定した。具体的には、ウベローデ式粘度計を用いて、JIS Z 8803:1991の方法に準じて、20℃の恒温槽中での動粘度を測定し、動粘度と20℃の密度の積から含フッ素鎖状エーテルの粘度を算出した。結果を表2に示す。
また、比較例2として用いたビス(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン(以下、BTeFEEと略す)の動粘度、密度から算出した粘度も併せて、表2に示す。
【0059】
【表2】

TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2 −トリフルオロエトキシ)エタン
BTeFEE:ビス(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン
【0060】
表2から本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEは、従来知られるBTeFEEに比べ低粘度であることが判る。
【0061】
[試験例3:含フッ素鎖状エーテル化合物の有機溶媒との相溶性]
TeFTFEE2.0gに各有機溶媒を2.0g混合し、1分間振り混ぜた。その後、しばらく静置し、目視で液の状態を確認した。判定は二液が均一になっているものを○(相溶可能)、二層分離したものを×(相溶不可)として表3に記載した。
【0062】
比較例3としてパーフルオロアルキルエーテル[C2F5CF(−O−CH3)C3F7、3M社製、商品名Novec7300]を用い、実施例と同様の方法で相溶性を検討した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2 −トリフルオロエトキシ)エタン
Novec7300:ビス(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン
PC:プロピレンカーボネート
【0064】
表3から、ノベック7300に比べ、本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEはより多くの非水溶媒と相溶可能であり、相溶性により優れることは明らかである。
【0065】
[試験例4:洗浄剤としての使用]
テストピース(SUS−304製)を鉱物油(松村石油製、ネオバックMR−100)に浸漬し、180℃、1分間加熱処理した。このテストピースをTeFTFEEに浸漬し、25℃の温度条件下、30秒間超音波洗浄を行った。引き続き、超音波洗浄後のテストピースをドライヤーで温風乾燥した結果、鉱物油の残存は認められず、油汚れが良好に除去できることが確認された。
【0066】
[試験例5:含フッ素鎖状エーテル化合物(1)の有機合成用溶媒としての利用例(クロスカップリング反応)]
【0067】
100mlシュレンク管に実施例1で得られたTeFTFEE 20mlを入れ、4−n−プロピルフェニルボロン酸 1.1を加え溶解させた。窒素置換後、撹拌下でトリフェニルホスフィン 0.040g、ブロモベンゼン 0.97g、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)0.047g及び炭酸セシウム 4.0gを添加し、80℃で4時間反応させた。
【0068】
反応後、反応液を20mlの水で水洗後、有機層(下層)をGC分析したところ、収率99%でクロスカップリング生成物である4−n−プロピルビフェニルが生成していることが確認された。
【0069】
本結果より、上述のとおり相溶性に優れる本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物の1つであるTeFTFEEは、有機合成用の溶媒として利用可能であることが確認された。
【0070】
[試験例6:非水系電解液におけるイオン伝導度および粘度の評価]
実施例1により得られたつであるTeFTFEEを含む非水系電解液について、イオン伝導度と粘度の評価を行った。
【0071】
非水系電解液のイオン伝導度(単位:mS/cm)の測定は、「電気化学測定マニュアル、基礎編、2002、45、電気化学会編、丸善株式会社」に記載の方法を用いて20℃で行った。すなわち、図2に記載の白金電極4を向い合せに組み合わせた電気化学セル3に、あらかじめ電気伝導度既知の標準液を注入し、セル定数を算出した。調製した電解液をこの電気化学セルに注入し密封した。溶液抵抗を、当該電気化学セルを20℃恒温槽中に1時間静置した後、ポテンショスタット/ガルバノスタット(東陽テクニカ社製、VersaSTAT4−400)を用い、複素インピーダンス法により測定した。得られた溶液抵抗値より、各非水電解液のイオン伝導度を算出した。
算出式:イオン伝導度(mS/cm)=溶液抵抗値(Ω)/セル定数
【0072】
また、非水系電解液の粘度(単位:mPa・sec)の測定は、コーンプレート型回転粘度計(BrookField社製、DV−I PRIME)を用いて行った。すなわち、流動式恒温装置を接続した回転粘度計のカップに、調製した電解液を導入し、温度が20℃で一定となるまで流通させて測定した。
【0073】
実施例の非水系電解液の調製は以下のようにして行った。
エチレンカーボネート(以下、ECと略す)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(以下、TFEPと略す)、TeFTFEEを体積比、50/25/25の比率で混合した。得られた混合物に電解質として六フッ化リン酸リチウム(以下、LiPF6と略す)を1.0mol/Lの濃度となるように加え、20℃で充分に撹拌して完全に溶解し、実施例1bの非水系電解液を作成した。この実施例1bの非水系電解液について、上述の方法でイオン伝導度および粘度を測定した。
【0074】
また、TeFTFEEを加えず、ECとTFEPを50/50の体積比で混合した以外は、実施例1bと同様の操作で比較例4の非水系電解液を作成した。この比較例4の非水系電解液についても上述の方法でイオン伝導度および粘度を測定した。
結果を表4に示す。
【0075】
【表4】

LiPF6:六フッ化リン酸リチウム
EC:エチレンカーボネート
TFEP:リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)
TeFTFEE:1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2 −トリフルオロエトキシ)エタン
【0076】
表4に示す結果から、実施例1bの非水系電解液は、比較例4の非水系電解液と比較して、イオン伝導度が高く、また、粘度も低いことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の含フッ素鎖状エーテル化合物は、従来知られているパーフルオロアルキルエーテル化合物等と比較して高い沸点を備えるとともに有機化合物との相溶性に優れ、且つ粘度についても改善可能であり容易に合成可能である。そのため、電子部品、工業製品等の洗浄剤あるいは有機合成用溶媒、非水系二次電池用電解液として広範囲に使用可能であり極めて有用である。
【符号の説明】
【0078】
1: 1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−(2,2,2−トリフ ルオロエトキシ)エタン(実施例1a)のLSVグラフ
2: ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(比較例1a)のLSVグラ フ
3: ガラス製電気化学セル
4: 白金製電極
図1
図2