特許第6501672号(P6501672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501672
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】粒子状物質検出システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/023 20060101AFI20190408BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20190408BHJP
   F01N 3/021 20060101ALI20190408BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20190408BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   F01N3/023 K
   F01N3/00 F
   F01N3/021
   F01N3/24 L
   F01N3/18 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-162665(P2015-162665)
(22)【出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2017-40214(P2017-40214A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌之
(72)【発明者】
【氏名】片渕 亨
(72)【発明者】
【氏名】山本 真宏
(72)【発明者】
【氏名】宮川 豪
(72)【発明者】
【氏名】下川 弘宣
(72)【発明者】
【氏名】小池 和彦
【審査官】 小笠原 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−078130(JP,A)
【文献】 特開2012−168143(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/076869(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/124054(WO,A1)
【文献】 特開2011−224538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中の粒子状物質(3)が堆積する被堆積部(20)と、該被堆積部(20)を加熱するヒータ(22)と、それぞれ板状に形成された第1電極(21a)と第2電極(21b)とを、これらの間に絶縁板(24)を介在させた状態で交互に積層したセンサ本体部(23)と、該センサ本体部(23)を保持するハウジング(25)と、該ハウジング(25)に取り付けられ上記センサ本体部(23)を保護するカバー(27,28)とを有する粒子状物質検出センサ(2)と、
該粒子状物質検出センサ(2)に接続した制御部(4)と、
上記被堆積部(20)の温度を測定する温度測定部(5)とを備え、
上記センサ本体部(23)は長尺形状に形成され、該センサ本体部(23)の長手方向(Z)における先端側の端面(200)が上記被堆積部(20)となっており、該被堆積部(20)において上記第1電極(21a)と上記第2電極(21b)とが露出し、上記被堆積部(20)に露出した、上記第1電極(21a)及び上記第2電極(21b)の表面と、上記絶縁板(24)の表面とは面一になっており、
上記カバー(27,28)には、上記センサ本体部(23)のうち上記被堆積部(20)が形成された部位を取り囲むインナーカバー(27)と、該インナーカバー(27)の外側に配されたアウターカバー(28)とがあり、
上記インナーカバー(27)は、
上記インナーカバー(27)の側壁部における、上記被堆積部(20)よりも上記長手方向の先端側に形成されるとともに上記長手方向に対して交差する方向に複数並ぶ状態で形成された、上記排ガスが流れるインナー側貫通孔(273)と、上記インナーカバー(27)の底部に形成された、上記排ガスが流れる開口部(272)とを有し、
上記アウターカバー(28)は、上記アウターカバー(28)の側壁部における、上記長手方向に対して交差する方向に複数並ぶ状態で形成された、上記排ガスが流れるアウター側貫通孔(283,284)を有し、
上記インナー側貫通孔(273)の周縁部には、上記インナーカバー(27)の側壁部から上記長手方向の基端側に向けて傾斜して、上記インナー側貫通孔(273)を通過した上記排ガスを上記被堆積部(20)へ衝突させるためのガス誘導板(271)が形成され、
上記制御部(4)は、上記第1電極(21a)と上記第2電極(21b)との一対の電極(21)間を流れる電流を測定することにより、上記排ガスに含まれる上記粒子状物質(3)の量を測定する測定モードと、上記ヒータ(22)を発熱させ、上記被堆積部(20)に堆積した上記粒子状物質(3)を燃焼し除去する発熱モードとを行い、
上記制御部(4)は、上記発熱モードにおいて、上記温度測定部(5)によって測定される上記被堆積部(20)の温度が、600〜750℃となるように制御するよう構成されている、粒子状物質検出システム(1)。
【請求項2】
上記被堆積部(20)における、温度が最も高い部位と、温度が最も低い部位との温度差は、100℃以下である、請求項1に記載の粒子状物質検出システム(1)。
【請求項3】
上記粒子状物質検出センサ(2)に対して上記排ガスの上流側には、該排ガスに含まれる上記粒子状物質(3)を捕集するフィルタ(6)が設けられており、該フィルタ(6)は、上記粒子状物質(3)の捕集効率が98%以下である、請求項1又は請求項2に記載の粒子状物質検出システム(1)。
【請求項4】
上記フィルタ(6)の上記捕集効率は80%以下である、請求項3に記載の粒子状物質検出システム(1)。
【請求項5】
上記フィルタ(6)の上記捕集効率は60%以下である、請求項3又は請求項4に記載の粒子状物質検出システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質検出センサと、該粒子状物質検出センサに接続した制御部とを備える粒子状物質検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)の量を測定する粒子状物質検出センサと、該粒子状物質検出センサに接続した制御部とを備える粒子状物質検出システムが知られている(下記特許文献1参照)。上記粒子状物質検出センサは、排ガス中の粒子状物質が堆積する被堆積部と、該被堆積部に設けられた一対の電極と、被堆積部を加熱するヒータとを備える。被堆積部に粒子状物質が堆積すると、上記一対の電極間に電流が流れる。この電流を測定することにより、排ガスに含まれる粒子状物質の量を測定するよう構成されている。
【0003】
制御部は、測定モードと発熱モードとを行う。制御部は、測定モードでは、上記一対の電極間に流れる電流を測定し、その測定値に基づいて、排ガス中の粒子状物質の量を算出する。また、発熱モードでは、ヒータを発熱させて、被堆積部に堆積した粒子状物質を燃焼し除去する。これにより、粒子状物質検出センサを再生するよう構成されている。
【0004】
上記粒子状物質には、いわゆるアッシュが含まれている。アッシュは、エンジンオイルに含まれている金属成分等が酸化して発生したもので、例えば、P、S、Ca等の酸化物からなる。アッシュの融点は、一般的には900℃以上であると考えられている。アッシュは絶縁体であるため、アッシュが上記電極の表面に融着すると、一対の電極間に電流が流れにくくなり、粒子状物質検出センサの性能が劣化しやすくなる。そのため、電極表面にアッシュが融着することを防止すべく、上記粒子状物質検出システムでは、発熱モードにおける被堆積部の温度を600〜900℃にしている。アッシュの融点は900℃以上であるため、被堆積部の温度を600〜900℃にすれば、アッシュは融解せず、電極の表面にアッシュが融着することを抑制できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−12960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被堆積部の温度を600〜900℃にしても、アッシュが溶融し、電極の表面にアッシュが融着する可能性があった。すなわち、アッシュは、一般的には融点が900℃以上であるが、直径が数ナノメートル程度の微小な粒子になると、いわゆる量子サイズ効果により、融点が低下することがある。また、複数種類のアッシュが混合すると、共晶反応が生じて融点が低下することがある。これらの理由により、アッシュの融点が900℃以下になることがある。したがって、上記発熱モードにおいて被堆積部の温度を600℃〜900℃に加熱すると、アッシュが融解して電極表面に付着する可能性がある。そのため、測定モードにおいて電極間に電流が流れにくくなり、粒子状物質の量を正確に測定できなくなる可能性がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、粒子状物質検出センサの電極に排ガス中のアッシュが融着しにくい粒子状物質検出システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、排ガス中の粒子状物質が堆積する被堆積部と、該被堆積部を加熱するヒータと、それぞれ板状に形成された第1電極と第2電極とを、これらの間に絶縁板を介在させた状態で交互に積層したセンサ本体部と、該センサ本体部を保持するハウジングと、該ハウジングに取り付けられ上記センサ本体部を保護するカバーとを有する粒子状物質検出センサと、
該粒子状物質検出センサに接続した制御部と、
上記被堆積部の温度を測定する温度測定部とを備え、
上記センサ本体部は長尺形状に形成され、該センサ本体部の長手方向における先端側の端面が上記被堆積部となっており、該被堆積部において上記第1電極と上記第2電極とが露出し、上記被堆積部に露出した、上記第1電極及び上記第2電極の表面と、上記絶縁板の表面とは面一になっており、
上記カバーには、上記センサ本体部のうち上記被堆積部が形成された部位を取り囲むインナーカバーと、該インナーカバーの外側に配されたアウターカバーとがあり、
上記インナーカバーは、
上記インナーカバーの側壁部における、上記被堆積部よりも上記長手方向の先端側に形成されるとともに上記長手方向に対して交差する方向に複数並ぶ状態で形成された、上記排ガスが流れるインナー側貫通孔と、上記インナーカバーの底部に形成された、上記排ガスが流れる開口部とを有し、
上記アウターカバーは、上記アウターカバーの側壁部における、上記長手方向に対して交差する方向に複数並ぶ状態で形成された、上記排ガスが流れるアウター側貫通孔を有し、
上記インナー側貫通孔の周縁部には、上記インナーカバーの側壁部から上記長手方向の基端側に向けて傾斜して、上記インナー側貫通孔を通過した上記排ガスを上記被堆積部へ衝突させるためのガス誘導板が形成され、
上記制御部は、上記第1電極と上記第2電極との一対の電極間を流れる電流を測定することにより、上記排ガスに含まれる上記粒子状物質の量を測定する測定モードと、上記ヒータを発熱させ、上記被堆積部に堆積した上記粒子状物質を燃焼し除去する発熱モードとを行い、
上記制御部は、上記発熱モードにおいて、上記温度測定部によって測定される上記被堆積部の温度が、600〜750℃となるように制御するよう構成されている、粒子状物質検出システムにある。
【発明の効果】
【0009】
上記粒子状物質検出システムの制御部は、発熱モードにおいて、被堆積部の温度が600〜750℃となるように制御するよう構成されている。
そのため、電極の表面にアッシュが融着することを抑制できる。すなわち、アッシュは、量子サイズ効果や共晶反応により、融点が900℃以下に低下することがあるが、後述するように、750℃以下にはなりにくい。そのため、被堆積部の温度の上限を750℃にすることにより、電極の表面にアッシュが融着することを抑制できる。
【0010】
また、上記粒子状物質検出システムでは、発熱モードにおける、被堆積部の温度の下限値を600℃にしている。後述するように、被堆積部の温度が600℃以下の場合は、粒子状物質が燃焼せず、電極間に粒子状物質が残ってしまうおそれがあるが、600℃以上にすれば、粒子状物質を充分に燃焼でき、このような問題を抑制できる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、粒子状物質検出センサの電極に排ガス中のアッシュが融着しにくい粒子状物質検出システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1における、粒子状物質検出システムの概念図。
図2】実施形態1における、センサ本体部の斜視図。
図3】実施形態1における、センサ本体部の分解斜視図。
図4】実施形態1における、粒子状物質検出センサの断面図。
図5】実施形態1における、発熱モードの温度および時間と、PM付着の有無との関係を表したグラフ。
図6】実施形態1における、発熱モードの温度と、劣化率との関係を表したグラフ。
図7図6の劣化率の算出方法を説明するためのグラフ。
図8】実施形態1における、測定モードでの粒子状物質検出センサの部分断面図。
図9図8の拡大断面図。
図10】実施形態1における、粒子状物質およびアッシュが除去された後の、粒子状物質検出センサの拡大断面図。
図11】実施形態1における、粒子状物質検出システムのフローチャート。
図12】実施形態1における、被堆積部の温度分布を表したグラフ。
図13】ヒータの電気抵抗と温度との関係を表したグラフ。
図14】比較形態1における、粒子状物質検出センサの拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記粒子状物質検出システムは、ディーゼル車やガソリンエンジン車等の車両に搭載するための、車載用粒子状物質検出システムとすることができる。
【0014】
(実施形態1)
上記粒子状物質検出システムに係る実施形態について、図1図13を参照して説明する。本形態の粒子状物質検出システム1は、図1に示すごとく、粒子状物質検出センサ2と、制御部4と、温度測定部5とを備える。
【0015】
粒子状物質検出センサ2は、図2図3に示すごとく、被堆積部20と、一対の電極21(21a,21b)と、ヒータ22とを備える。被堆積部20には、排ガスg中の粒子状物質3が堆積する。また、一対の電極21a,21bは、被堆積部20に設けられており、互いに離間している。ヒータ22は、被堆積部20を加熱するために設けられている。
【0016】
図1に示すごとく、制御部4は、粒子状物質検出センサ2に接続している。温度測定部5は、被堆積部20の温度を測定する。
制御部4は、測定モードと発熱モードとを行う。測定モードは、一対の電極21a,21b間を流れる電流を測定することにより、排ガスgに含まれる粒子状物質3の量を測定するモードである。また、発熱モードは、ヒータ22を発熱させ、被堆積部20に堆積した粒子状物質3を燃焼し除去するモードである。
【0017】
制御部4は、発熱モードにおいて、温度測定部5によって測定される被堆積部20の温度が、600〜750℃となるように制御するよう構成されている。
【0018】
本形態の粒子状物質検出システム1は、ディーゼル車やガソリンエンジン車等の車両に搭載するための、車載用粒子状物質検出システムである。図1に示すごとく、車両のエンジン10に、排ガスgが流れる排管11が接続している。排管11には、上記粒子状物質検出センサ2が取り付けられている。また、粒子状物質検出センサ2よりも排ガスgの上流側には、粒子状物質3を捕集するフィルタ6が設けられている。
【0019】
本形態では、フィルタ6を用いて、排ガスg中の粒子状物質3を捕集し、フィルタ6を通り抜けた粒子状物質3の量を、粒子状物質検出センサ2によって測定している。フィルタ6が粒子状物質3によって目詰まりを起こすと、粒子状物質3を充分に捕集できなくなる。そのため、粒子状物質検出センサ2によって測定される、粒子状物質3の量が増加する。本形態では、排ガスg中の粒子状物質3の量が所定値を超えた場合には、フィルタ6が目詰まりを起こしたと判断し、図示しないフィルタ用ヒータを発熱させて、フィルタ6に捕集された粒子状物質3を燃焼する。これにより、フィルタ6を再生するよう構成してある。
【0020】
図2に示すごとく、粒子状物質検出センサ2は、四辺形板状のセンサ本体部23を備える。センサ本体部23の端面200から、電極21a,21bが露出している。本形態では、センサ本体部23の端面200に粒子状物質3が堆積する。すなわち、端面200が上記被堆積部20となっている。
【0021】
図3に示すごとく、センサ本体部23は、セラミックからなる複数の絶縁板24を備える。これら複数の絶縁板24の間に、第1電極21a及び第2電極21bが介在している。第1電極21a及び第2電極21bは、それぞれ複数個、設けられている。複数の第1電極21aは、絶縁板24に形成された接続プラグ(図示しない)によって、互いに接続されている。同様に、複数の第2電極21bも、接続プラグによって互いに接続されている。また、センサ本体部23には、ヒータ22が設けられている。
【0022】
ヒータ22に通電して発熱させると、ヒータ22の電気抵抗が変化する。図13に示すごとく、ヒータ22の温度と、ヒータ22の抵抗との間には一定の関係がある。本形態では、制御部4によってヒータ22の電気抵抗を測定し、その測定値を用いて、ヒータ22の温度、すなわち被堆積部20の温度を算出している。
【0023】
粒子状物質3は、主成分が炭素であり、電気伝導性を有する。そのため図8に示すごとく、被堆積部20に粒子状物質3が堆積すると、電極21a,21b間に電流が流れる。制御部4は、この電流を測定し、その測定値を用いて、排ガスg中の粒子状物質3の量を算出するよう構成されている。
【0024】
被堆積部20に粒子状物質3が堆積し過ぎると、電極21a,21b間に流れる電流の量が飽和する。そのため、排ガスg中の粒子状物質3の量を算出できなくなる。したがって、この場合には、制御部4は上記ヒータ22(図3参照)を発熱させ、粒子状物質3を燃焼し、除去する。これにより、粒子状物質検出センサ2を再生する。
【0025】
図9に示すごとく、粒子状物質3には、アッシュ7が付着している。アッシュ7は、エンジンオイルに含まれていたP,S,Ca等が酸化したものである。アッシュ7は、例えば、CaSO、Ca(PO、Ca、ZnO、Zn(PO等からなる。これらの物質の融点は、通常は900℃以上であるが、量子サイズ効果や共晶反応が生じたときに、900℃以下になる場合がある。例えば、アッシュ7が直径数ナノメートル程度の微粒子になった場合、量子サイズ効果により、アッシュ7の融点が低下する。また、複数種類のアッシュ7が混ざった場合、共晶反応により、アッシュ7の融点は低下する。これらの理由により、アッシュ7の融点は900℃以下になることがある。
【0026】
そのため、発熱モードを行う際、すなわちヒータ22を発熱させて粒子状物質3を燃焼し除去する際に、ヒータ22の温度を900℃程度まで上昇させると、アッシュ7が融解し、図14に示すごとく、電極21の表面にアッシュ7が融着する可能性がある。アッシュ7は絶縁体であるため、電極21の表面がアッシュ7によって覆われると、一対の電極21a,21b間に電流が流れなくなる。したがって、排ガスg中の粒子状物質3の量を正確に測定できなくなる可能性がある。そのため本形態では、発熱モードを行う際に、ヒータ22の温度、すなわち被堆積部20の温度を600〜750℃にしている。このようにすると、被堆積部20の温度の上限値が750℃であり、量子サイズ効果等が生じたときのアッシュ7の融点よりも低いため、発熱モードにおいてアッシュ7が融解することを抑制できる。そのため、図10に示すごとく、アッシュ7が電極21の表面に融着することを抑制できる。
【0027】
なお、発熱モードにおける被堆積部20の温度が600℃未満になると、粒子状物質3を充分に燃焼できなくなり、未燃焼の粒子状物質3が被堆積部20に残るおそれがある。また、上述したように、温度が750℃を超えると、電極21にアッシュ7が融着しやすくなる。これらの理由により、本形態では、発熱モードにおける被堆積部20の温度を600〜750℃にしている。
【0028】
次に、上記温度範囲(600〜750℃)の根拠となる実験データの説明をする。まず、発熱モードにおける被堆積部20の温度の下限値(600℃)を確認する実験を行った。この実験では、まず、排管11に粒子状物質検出センサ2を装着し(図1参照)、エンジン10を始動して排ガスgを発生させた。これにより、排ガスg中の粒子状物質3を被堆積部20に堆積させた。その後、ヒータ22を一定時間発熱させた。この際、図5に示すごとく、被堆積部20の温度を550℃、600℃、650℃、700℃、750℃に条件振りした。また、発熱時間を、5〜80秒の間で条件振りした。そして、被堆積部20を観察し、粒子状物質3を除去できたか否かを確認した。
【0029】
図5に示すごとく、被堆積部20の温度が600℃又は650℃であれば、20秒以上加熱することにより、粒子状物質3を除去することができる。また、被堆積部20の温度が700℃であれば、10秒以上加熱することにより、粒子状物質3を除去することができる。これに対して、被堆積部20の温度が550℃の場合は、80秒加熱しても粒子状物質3を除去できない。この実験結果から、粒子状物質3を充分に除去するためには、被堆積部20の温度を600℃以上にする必要があることが分かる。
【0030】
次に、別の実験を行って、発熱モードにおける被堆積部20の温度を750℃以下にする必要があることを確認した。この実験では、車両を30万km走行させたときと同じ量のアッシュ7が発生するよう、加速試験を行った。そして、発熱モードにおける被堆積部20の温度を、図6に示すごとく、600〜900℃に条件振りし、粒子状物質検出センサ2の劣化率を求めてグラフにした。劣化率の算出方法は、後述する。
【0031】
実験にあたって、排管11(図1参照)からフィルタ6を取り外し、短時間で多くの粒子状物質3が粒子状物質検出センサ2に到達するようにした。また、エンジンオイルの硫酸灰分を1.34%(通常は0.8%)にし、発生するアッシュ7の量を増加させた。これにより、車両を30万km走行させたときと同じ量のアッシュ7が、短時間で粒子状物質検出センサ2に到達するようにした。
【0032】
また、粒子状物質検出センサ2を排ガスgに曝しつつ、発熱モードと測定モードとを交互に繰り返し行った。発熱モードにおける各サンプルの加熱時間は、1サイクルあたり210秒にした。また、粒子状物質検出センサ2のサンプルを複数個用意し、図6に示すごとく、発熱モードにおける被堆積部20の温度を、それぞれ600℃、700℃、750℃、800℃、850℃、900℃に設定した。
【0033】
エンジン10から30万km相当の粒子状物質3およびアッシュ7を発生させた後、各サンプルを、粒子状物質3の濃度が通常の排ガスgに曝し、一対の電極21a,21b間に流れる電流の時間変化を測定した。図7に示すごとく、例えば、発熱モードにおいて温度を700℃にしたサンプルは、測定開始後、比較的短時間で電極21a,21b間に電流が流れ始める。これは、電極21の表面にアッシュ7が殆ど融着していないので、粒子状物質3が僅かに堆積しただけで、電極21a,21b間に電流が流れるからだと考えられる。これに対して、発熱モードにおいて温度を800℃にしたサンプルは、測定開始後、700℃のサンプルよりも長時間経過しないと、電流が流れ始めない。これは、800℃のサンプルは、電極21の表面にアッシュ7が融着しているからだと考えられる。
【0034】
発熱モードにおいて温度を700℃にしたサンプルについて、電極21a,21b間の電流が予め定められた閾値Ioとなるまでの時間Toを測定した。また、これ以外のサンプル(発熱モードにおいて温度を600℃、750℃、800℃、850℃、900℃にしたサンプル)について、電流が上記閾値Ioとなるまでの時間Txを測定した。そして、以下の式を用いて、各サンプルの劣化率dを算出した。
d=(Tx−To)/To×100 (%)
なお、発熱モードにおいて温度を700℃にしたサンプルは、劣化率dを0%とした。各サンプルの劣化率dを図6に示す。
【0035】
図6から、発熱モードにおける被堆積部20の温度が750℃以下であれば、劣化率dは殆ど0%であることが分かる。また、温度が750℃を超えると、劣化率dが上昇することが分かる。これは、発熱モードにおける温度が750℃を超えると、電極21にアッシュ7が融着してしまうため、電極21a,21b間に電流が流れにくくなり、測定モードを開始した後、電流が流れ始めるまでに長時間を要するからだと考えられる。
【0036】
以上の実験から、発熱モードにおいて、被堆積部20に粒子状物質3が残らず、かつ電極21にアッシュ7が融着することを抑制するためには、被堆積部20の温度を600℃〜750℃に制御する必要があることが分かる。
【0037】
次に、粒子状物質検出センサ2の構造について、さらに詳細に説明する。図4に示すごとく、粒子状物質検出センサ2は、上記センサ本体部23と、保持部81と、ハウジング25と、固定部26とを備える。保持部81はセラミックス等の絶縁材料によって構成されている。この保持部81内に、センサ本体部23が保持されている。また、保持部81は、ハウジング25内に配されている。
【0038】
ハウジング25は、固定部材26に挿入されている。この固定部材26の雄螺子部261を、排管11に形成した雌螺子部110に螺合してある。これにより、粒子状物質検出センサ2を排管11に固定している。
【0039】
図4に示すごとく、ハウジング25には肩部251が形成されている。肩部251よりも先端側には、ばね部材83が配されている。肩部251を加締めることにより、ばね部材83の加圧力を利用して、保持部81の拡径部811をハウジング25の縮径部252に押し当てている。これにより、拡径部811と縮径部252との間から排ガスgが漏れないようにしている。
【0040】
また、粒子状物質検出センサ2は、電極用配線291とヒータ用配線292とを備える。これらの配線291,292は、それぞれ一対に設けられている。電極用配線291は、センサ本体部23内の上記電極21a,21bに電気接続している。また、ヒータ用配線292は、上記ヒータ22に電気接続している。
【0041】
また、センサ本体部23の先端は、インナーカバー27とアウターカバー28との、2個のカバー27,28によって保護されている。アウターカバー28は、底部282と、側壁部281とを備える。側壁部281には、底部282に近い位置に、貫通孔283,284が形成されている。
【0042】
また、インナーカバー27にも貫通孔(インナー側貫通孔273)が形成されている。インナーカバー27には、開口部272を形成してある。開口部272は、被堆積部20と上記底部282との間に形成されており、センサ本体部23の長手方向(Z方向)に開口している。また、インナーカバー27には、排ガスgを誘導する誘導板271が形成されている。
【0043】
排ガスgは、アウターカバー28の上流側貫通孔283を通り、側壁部281に当たって向きが変わった後、インナー側貫通孔273を通過する。この際、排ガスgは、誘導板271によって、被堆積部20に誘導される。これにより、より多くの排ガスgが被堆積部20に当たるようにしている。これによって、粒子状物質検出センサ2の応答性を高めている。
【0044】
排ガスgは、被堆積部20に当たった後、開口部272を通り、さらに下流側貫通孔284を通って、アウターカバー28の外側に排出される。
【0045】
次に、本形態における、制御部4のフローチャートについて説明する。図11に示すごとく、制御部4は、まず、粒子状物質検出センサ2の電極21a,21b間の電流を測定し、その測定値に基づいて、排ガスg中の粒子状物質3の量を算出する(ステップS1;測定モード)。
【0046】
次いで、制御部4は、フィルタ6を再生する必要が有るか否かを判断する(ステップS2)。ここでYesと判断した場合は、ステップS3に移る。そして、フィルタ用ヒータを発熱させて、フィルタ6に捕集された粒子状物質3を燃焼させる。これにより、フィルタ6を再生する。
【0047】
その後、制御部4は、電極21a,21b間の電流値が所定の値を超えたか否か、すなわち電流が飽和したか否かを判断する。ここでYesと判断した場合は、ステップS5に移る。ここでは、ヒータ6を発熱させ、被堆積部20に堆積した粒子状物質3を燃焼し、除去する(発熱モード)。この際、制御部4は、ヒータ22の温度、すなわち被堆積部20の温度を600〜750℃にする。
【0048】
次に、発熱モードにおける被堆積部20の温度分布について説明する。図12に示すごとく、被堆積部20内の温度は均一ではなく、温度が高い箇所と、低い箇所とがある。本形態では、被堆積部20における最高温度Tmaxと、最低温度Tminとの差を100℃以内にしている。すなわち、平均温度Ttypと最高温度Tmaxとの差を50℃以内にすると共に、平均温度Ttypと最低温度Tminとの差を50℃以内にしている。
【0049】
次に、本形態の作用効果について説明する。本形態では、発熱モードにおいて、被堆積部20の温度を600〜750℃に制御している。
そのため、電極21の表面にアッシュ7が融着することを抑制できる。すなわち、上述したように、アッシュ7は、量子サイズ効果や共晶反応により、融点が900℃以下に低下することがあるが、750℃以下には殆どならない。そのため、被堆積部の温度の上限を750℃にすることにより、電極の表面にアッシュが融着することを抑制できる。
【0050】
また、本形態では、発熱モードにおける、被堆積部の温度の下限値を600℃にしている。そのため、発熱モードにおいて、粒子状物質が燃焼せず、電極21a,21b間に粒子状物質が残ってしまう不具合を抑制できる。
【0051】
また、図12に示すごとく、本形態では、被堆積部20における、温度が最も高い部位と、温度が最も低い部位との温度差(Tmax−Tmin)を、100℃以下にしている。そのため、最高温度Tmaxと750℃との間、及び最低温度Tminと600℃との間に余裕ができ、被堆積部20のどの部位も、確実に、600〜750℃にすることが可能になる。被堆積部20の温度は、排ガスgの温度や流速によって変化しやすいが、Tmax−Tmin≦100(℃)にすれば、発熱モードにおいて排ガスgの温度や流速が急に変化しても、被堆積部20の全ての部位を600〜750℃にしやすくなる。
【0052】
また、本形態では、図2に示すごとく、粒子状物質検出センサ2のセンサ本体部23を、四辺形板状に形成してある。このセンサ本体部23の端面200を、被堆積部20としている。そのため、被堆積部20の面積を小さくすることができ、被堆積部20内の温度ばらつきを小さくすることができる。したがって、発熱モードにおいて、被堆積部20の全ての部位を、600〜750℃にしやすい。
【0053】
また、図4に示すごとく、本形態では、粒子状物質検出センサ2のインナーカバー27に、排ガスgを被堆積部20に誘導する誘導板271を形成してある。そのため、被堆積部20に排ガスgが当たりやすくなり、粒子状物質検出センサ2の応答性を高めることができる。また、このようにすると、被堆積部20に粒子状物質3が堆積しやすくなり、アッシュ7も粒子状物質3と共に被堆積部20に堆積しやすくなる(図8参照)。しかし、本形態では、発熱モードにおける被堆積部20の温度の上限値を750℃にしているため、アッシュ7の堆積量が多くなっても、アッシュ7が融解して電極21に融着する不具合が生じにくい。
【0054】
また、本形態では、図1に示すごとく、粒子状物質検出センサ2よりも排ガスgの上流側に、フィルタ6を設けてある。フィルタ6は、粒子状物質3の捕集効率が98%以下である。
そのため、排ガスgの圧損を低減することができる。すなわち、フィルタ6の捕集効率は、一般的には99.9%以上とされている。そのため、フィルタ6が故障しない限り、粒子状物質検出センサ2に到達する粒子状物質3、及びアッシュ7の量は微量である。しかし、このような捕集効率が高いフィルタ6は、排ガスgの圧損が高く、エンジン10の燃費が低下しやすい。そのため、フィルタ6の捕集効率を低下させ、排ガスgの圧損を低下させることが検討されている。本形態のように、フィルタ6の捕集効率を98%以下にすると、排ガスgの圧損を低下でき、燃費が低下することを抑制できる。
なお、フィルタ6の捕集効率を低下させると、粒子状物質検出センサ2に到達する粒子状物質3、及びアッシュ7の量が増加するが、本形態では、発熱モードにおける被堆積部20の温度の上限値を750℃にしているため、アッシュ7の量が増加しても、電極21に多くのアッシュ7が融着することを抑制できる。
【0055】
また、フィルタ6の捕集効率は、80%以下とすることが好ましい。捕集効率を80%以下にすると、フィルタ6の圧損をより低減でき、燃費低下をより抑制できる。
【0056】
また、フィルタ6の捕集効率は、60%以下とすることがさらに好ましい。捕集効率を60%以下にすると、フィルタ6の圧損をさらに低減でき、燃費低下をさらに抑制できる。
【0057】
以上のごとく、本形態によれば、粒子状物質検出センサの電極に排ガス中のアッシュが融着しにくい粒子状物質検出システムを提供することができる。
【0058】
なお、本形態では、制御部4と温度測定部5とを一体化している。すなわち、制御部4によってヒータ22の電気抵抗を測定し、その測定値を用いて、ヒータ22の温度、すなわち被堆積部20の温度を算出している。しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、温度測定部5として、専用の温度センサを設けてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 粒子状物質検出システム
2 粒子状物質検出センサ
20 被堆積部
21 電極
22 ヒータ
3 粒子状物質
4 制御部
5 温度検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14