(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、木造建築は、住宅を始めとする小規模な建物を中心に普及してきた。しかし近年は、様々な技術開発が進み、商業施設や公共施設など、より規模の大きい建物の木造化も現実的なコストで実現できるようになった。このような大規模な木造建築の骨格には、大断面の部材を用いるため、その据え付けや連結には、各種金物が必要不可欠である。各種金物は、所定の強度を有することに加え、地震などで過大な外力が作用した場合を考慮し、エネルギーを積極的に吸収する機能を持たせることがある。
【0003】
建築物の地震対策の例として下記特許文献が挙げられる。そのうち特許文献1では、木造建築向けの安価なブレースダンパーが開示されている。このブレースダンパーは、柱や梁などで構成される軸組内に配置され、一方の柱の上方と他方の柱の下方を斜めに結ぶが、その一端部に粘弾性材を組み込んだことを特徴としている。この粘弾性材は、ブレースダンパーの本体である長尺の鋼材と、柱に固定する定着板部との間に介在し、その粘性抵抗力によって軸組の変形が抑制され、振動が速やかに減衰し、制震効果を得られる。なお長尺の鋼材は、単純な平板状とするのではなく、横断面から見てジャバラ状に折り畳むことで、強度を一段と向上できることも開示されている。
【0004】
次に特許文献2では、占有空間が少ないことなどを特徴とする制振構造および制振継ぎ手が開示されている。この構造は、柱と梁など、連結される二部材の境界の中心に自在継ぎ手を配置し、この自在継ぎ手を取り囲むように複数の減衰機構部を設けたもので、自在継ぎ手により、連結される二部材間の変位を許容しながら、減衰機構部により、外力を有効的に減衰させることができる。しかも、自在継ぎ手と減衰機構部は、連結される部材の側面から突出することなく配置可能で、利便性に優れている。なお部材との取り付けを考慮し、自在継ぎ手と減衰機構部は、対向する取付け部の間に配置する。
【0005】
そのほか特許文献3では、履歴ダンパおよび木造構造物の壁が開示されている。履歴ダンパは、金属板に「く」の字状のスリットを連続的に形成したもので、スリットにより、履歴ダンパの弾塑性変形が誘発され、地震時のエネルギーを効率よく吸収できる。また、木造構造物の壁に履歴ダンパを組み込む技術も開示されている。この技術は、柱と梁などで構成される軸組の中に、その空間よりも一回り小さいパネルを配置し、このパネルと軸組を複数の履歴ダンパで連結するもので、軸組とパネルの隙間により、履歴ダンパの変形範囲が増大し、エネルギー吸収量も増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大規模な木造建築では、施工作業の簡素化や、室内空間の確保などの目的で、大断面の部材を鉄骨のように組み上げる木質ラーメン構造を採用することがある。この構造では、筋交いなどの補強材が少なく、部材を据え付ける金物の剛性が極めて重要になる。そのため、前記特許文献2のような柔軟性を前提とする技術は、導入が困難である。ただし、金物の剛性を単純に高めただけでは、地震時のエネルギーが吸収されにくく、部材のヒビ割れなどを誘発し、骨格の強度を維持できない恐れがあるほか、室内の被害も大きくなる。そこで部材を据え付ける金物は、初期剛性が高く、しかも過大な外力を受けた際は、エネルギーを円滑に吸収できることが好ましい。
【0008】
仮に地震に遭遇した場合でも、金物でエネルギーを吸収できるならば、建築物の健全性は維持され、以降も継続して使用することができる。ただし金物に塑性変形を生じた場合、骨格もゆがんだままになるため、金物の修理や交換が必要になり、周辺の床や壁などを一時的に取り外すこともある。その際は、無理な姿勢で狭い空間に入り込むことも予想されるため、作業性について、十分な配慮が必要である。
【0009】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、初期剛性が高く、しかも過大な外力を受けた際、そのエネルギーを円滑に吸収できるほか、外力で変形した後の修理も容易な連結金物の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、柱と横架材や、基礎コンクリートと柱など、各種二部材を連結するために用いる連結金物であって、連結される前記二部材の境界に配置し且つ該二部材のうち一方に取り付ける一方体と、該二部材のうち残る一方に取り付ける他方体と、前記一方体の両端付近に配置し且つ該一方体の両側面を貫く計二本の根元ピンと、前記他方体の両端付近に配置し且つ該他方体の両側面を貫く計二本の根元ピンと、個々の該根元ピンの端部で支持され且つ自在に揺動可能なリンクと、前記一方体側のリンクと前記他方体側のリンクの先端同士を一括して貫く計二本の従動ピンと、該従動ピンで支持される保持片と、対向する該保持片の間を結び且つ該保持片に固着する変形軸と、からなり、前記一方体と前記他方体は、正面同士が接触し、且つ該正面の背面は、前記柱や前記横架材などの部材に接触し、前記リンクは、前記一方体および前記他方体の両側面に配置し、且つ個々の該リンクは、前記根元ピンから該一方体および該他方体の中央寄りに伸び、前記一方体と前記他方体の接触面を挟んで対向する二枚の前記リンクは、その先端同士を重ね合わせ且つそこに前記従動ピンを差し込み、一本の前記従動ピンは、前記一方体および前記他方体の各端部に配置した計四枚の前記リンクを貫き、該従動ピンの両側には、前記保持片を組み込み、二本の前記従動ピンの間で対向する前記保持片同士を前記変形軸で結び、前記一方体と前記他方体の距離が変化することで、前記リンクが変位し該変形軸を伸縮させることを特徴とする連結金物である。
【0011】
本発明は、木造建築の骨格を構成する二部材を一体化する連結金物だが、あらゆる箇所での使用を想定しているため、この二部材は様々で、具体例としては、柱と横架材や、基礎コンクリートと柱や、鉄骨と柱などが挙げられる。したがって、木材同士を連結する場合もあれば、片方だけが木材となる場合もある。なお木材については、無垢材に限らず、集成材でも構わない。また本発明による連結金物は、二部材の連結位置に挟み込む形態で、一方体および他方体と称する二部品を中心に構成される。
【0012】
一方体および他方体は、一辺が長い棒状だが、双方ともほぼ同一形状で、その延長は、原則として連結面の長辺と同等とする。さらに一方体と他方体は、双方の側面同士が段差なく接触した状態で使用する。この接触する側面は、便宜上、正面と称するものとする。そしてこの正面の裏側となる背面は、部材に接触させる。当然ながら、一方体の背面は、二部材のうち一方に接触させ、他方体の背面は、二部材のうち残る一方に接触させる。また一方体および他方体は、部材に接触させると共に、何らかの手段で部材と強固に一体化する。
【0013】
一方体および他方体を部材と一体化する手段は、様々な従来技術を用いる。仮に部材が基礎コンクリートであれば、そこから突出するアンカーボルトを一方体などに差し込み、ナットを螺合する。また部材が木材であれば、連結面にラグスクリューや異形棒鋼などを埋め込み、さらに一方体や他方体からボルトを差し込み、これらに螺合させる。他に、部材が形鋼であれば、単純にボルトとナットで一体化することもできる。ただし本発明では、過大な外力が作用した場合でも、一方体および他方体は、部材から離れることなく密着することを前提とする。
【0014】
根元ピンは、一方体および他方体の両方について、その両端付近に配置し、一方体または他方体の両側面を貫通する。したがって一個の連結金物において、根元ピンは計四本用いることになる。なお根元ピンが差し込まれる側面とは、前記の正面および背面と直交する面である。さらに根元ピンは、二部材の間の荷重の伝達を担うため、必要十分な強度を持たせる。
【0015】
リンクは、細長い帯状の金属板で、その一端側は、根元ピンに差し込む。なおリンクは、個々の根元ピンの両端部に配置するため、一個の連結金物では計八枚用いることになる。また個々のリンクは、根元ピンを支点として自在に揺動できるようにする。ただしこの揺動については、根元ピンが一方体や他方体に対して回転可能とする方法のほか、リンクが根元ピンに対し回転可能とする方法でも実現可能である。そのほかリンクは、根元ピンから脱落しないよう、何らかの対策を講じる。
【0016】
従動ピンは、一方体と他方体の接触面を横切るように配置し、一方体側からのリンクと、他方体側からのリンクの先端同士を一括して串刺しにするもので、根元ピンと平行に揃う。この従動ピンが差し込まれるリンクは、いずれも根元ピンで支持されるが、個々のリンクは、一方体および他方体の中央付近を向くように配置する。さらに、一方体と他方体の接触面を挟んで対向する二枚のリンクは、その先端同士を重ね合わせ、そこを貫くように従動ピンを差し込む。なおリンクは、一方体や他方体の両側面に配置するため、一本の従動ピンは、計四枚のリンクを貫くことになる。
【0017】
このように、計四枚のリンクを一本の従動ピンで串刺しにすることで、一方体と他方体は、リンクを介して連結される。なお個々のリンクは、一方体や他方体と比較して十分に短いため、根元ピンとリンクと従動ピンで構成される一群は、一方体および他方体の両端部に集約して配置される。したがって二本の従動ピンは、隣接することなく、ある程度の間隔が確保される。
【0018】
変形軸は、二本の従動ピンの間を結ぶように配置するもので、その両端は、従動ピンに固着させる。したがって二本の従動ピンが離れていくと、変形軸は引き伸ばされ、逆に近づいていくと、変形軸は押し縮められる。そのため、一方体と他方体が離れていくと、リンクが変位し、これに伴い二本の従動ピンの間隔も広がり、変形軸が引き伸ばされる。なお変形軸は、一方体および他方体の各側面に一本ずつ、計二本配置する。
【0019】
保持片は、従動ピンと変形軸の接続を担う部品である。従動ピンは、一方体や他方体の両側面を貫く方向に伸びるのに対し、変形軸は、一方体や他方体の長手方向に伸び、双方は直交するような位置関係になる。そこで保持片を用い、双方を接続するが、保持片はL字状で、その一方の面に従動ピンを差し込み、残る一方の面に変形軸を差し込む。なお保持片は、一方体および他方体の各側面に二個配置するため、一個の連結金物では計四個用いることになる。そのほか変形軸は、ナットの挟み込みなどで保持片に固着させ、変形軸を無理なく交換できるようにする。
【0020】
これまでに記載した各部品を組み立てた後、変形軸を利用し、対向する保持片を引き寄せると、二本の従動ピンが接近していき、これに伴いリンクも引き寄せられ、一方体と他方体が強固に密着し、連結金物全体が強固に一体化される。そのため、一方体と他方体を挟んで隣接する二部材も強固に連結され、十分な初期剛性を確保できる。なお、せん断荷重の伝達を考慮し、一方体と他方体の接触面には、何らかの噛み合いを形成することもある。
【0021】
連結金物を介して二部材を連結した後、何らかの外力で二部材が引き離されると、一方体と他方体も引き離されるが、その際は、一方体と他方体を結ぶリンクが変位し、変形軸が引き伸ばされる。この変形軸の引き伸ばしにより、衝撃を吸収する。しかもその後、外力が変化し、一方体と他方体が再び接触すると、変形軸は押し縮められる。このように本発明では、変形軸が伸びた後も、緩みを生じることはなく、連結金物の基本性能を維持できる。また本発明では、弾塑性変形が変形軸に集約されるため、修理の際は、保持片から変形軸を取り外し、交換すればよい。
【0022】
このように、連結金物を一方体と他方体とからなる分割構成とし、一方体と他方体はリンクなどを介して連結するほか、対向するリンクを変形軸で引き寄せることで、通常時は、一方体と他方体が強固に密着する。そのため、連結される二部材も強固に一体化され、十分な初期剛性を確保できる。さらに過大な外力が作用した際は、リンクなどを介し変形軸が引き伸ばされ、エネルギーが吸収されるため、部材などの破損を抑制できる。なお外力による弾塑性変形は、変形軸に集中するよう、各部品の強度を調整する。
【発明の効果】
【0023】
請求項1記載の発明のように、二部材を一体化する連結金物を一方体と他方体とからなる分割構成とし、一方体と他方体はリンクなどを介して連結するほか、対向する二組のリンクを変形軸で引き寄せることで、一方体と他方体は強固に密着する。そのため二部材が強固に連結され、十分な初期剛性を確保できる。また、二部材を引き離す方向に過大な外力が作用した際は、リンクなどを介して変形軸が円滑に引き伸ばされ、エネルギーを確実に吸収でき、部材などの破損が軽減するほか、室内の被害も抑制される。しかも変形軸が塑性変形した後も、連結金物に緩みを生じる箇所はなく、過大な外力を受けた後も、連結部の健全性を維持できる。
【0024】
本発明では、エネルギーの吸収を変形軸が一手に担う。そのため地震などに遭遇し、建物の骨格にゆがみが生じた際も、連結金物自体を取り外す必要はなく、変形軸だけを交換すればよい。変形軸は、一方体および他方体の側面に配置してあり、壁や床などを取り外すだけで外部に現れるため、作業性に優れている。また変形軸は、左右両側に配置してあり、片方ずつ順次交換していくことで、部材の仮受けなどの手間も軽減できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明による連結金物の形状例とその使用例を示す。
図1では、垂直に伸びる柱51と水平に伸びる横架材61をL字状に一体化するため、柱51の側面と横架材61の端面との間に連結金物を挟み込む。したがって、柱51と横架材61が直に接触することはない。また柱51と横架材61のいずれも、木材(集成材を含む)で、連結金物を取り付けるため、これらにラグスクリュー41、42を埋め込んでいる。
【0027】
連結金物は、いずれも棒状の一方体21および他方体31を中心に構成される。
図1の一方体21と他方体31は同一外形で、その横断面は矩形を基調とするほか、全長は、横架材61の端面の長辺(
図1では上下方向)とほぼ等しい。また一方体21と他方体31は、双方の一側面を段差なく接触させる。なおこの接触面を便宜上、正面と称するものとする。そしてこの正面の裏側を背面と称するものとする。一方体21の背面は、柱51の側面に接触し、他方体31の背面は、横架材61の端面に接触する。
【0028】
根元ピン23、33は、一方体21および他方体31の上下両端付近の側面を貫く金属棒で、
図1に描くように、一個の連結金物で計四本用いる。また根元ピン23、33は、一方体21や他方体31の正面や背面と平行に揃い、柱51や横架材61と接触することはない。さらに根元ピン23、33は、柱51や横架材61の横幅と同等の延長とし、部材からの突出を防いでいる。
【0029】
リンク25、35は、帯状の金属板で、個々の根元ピン23、33の両端付近に取り付ける。したがって、一個の連結金物で計八枚のリンク25、35を用いる。そして個々のリンク25、35の全長は、一方体21や他方体31の全長よりも十分に短いため、連結金物の下部に計四枚のリンク25、35が配置され、同様に、連結金物の上部にも計四枚のリンク25、35が配置される。当然ながらリンク25、35は、根元ピン23、33から脱落してはならず、何らかの対策を講じる必要があるが、
図1では根元ピン23、33の端部にクリップ19を取り付け、リンク25、35の移動を規制している。
【0030】
従動ピン13は、一方体21と他方体31の接触面を通り抜け、両側面に突出し、リンク25、35の先端部を串刺しにする。リンク25、35は、
図1に描くように、一方体21と他方体31の接触面を挟み、二枚を対向して配置するが、この対向する二枚のリンク25、35の先端同士を重ね合わせ、これらを串刺しにするように従動ピン13を差し込む。なお従動ピン13は、上下に計二本配置し、さらに個々の従動ピン13の左右両端で一対のリンク25、35を串刺しにする。
【0031】
一方体21と他方体31が接触している際、従動ピン13で串刺しにされた一対のリンク25、35は、一方体21および他方体31の中央寄りに伸び、「く」の字状に配置される。したがって従動ピン13は、根元ピン23、33よりも中央寄りに位置する。また一方体21と他方体31が離れていくと、一対のリンク25、35は連動して開いていき、これに伴い、上下の従動ピン13の間隔も広がっていく。
【0032】
保持片12は、従動ピン13で支持されるL字状の金属部品で、その一面の先端付近に従動ピン13を差し込む。また残る一面は、
図1のように、上下で対向するように配置する。なお保持片12は、従動ピン13に対し回転自在で、さらに外部への突出を抑制するため、一対のリンク25、35の裏側に配置してある。そのほか保持片12は、両側面に配置するため、一個の連結金物で計四個用いる。
【0033】
変形軸11は、上下に対向する保持片12を引き寄せるための金属棒で、ナット14を用い、その両端を保持片12に固着させる。その際、ナット14を締め付け、対向する保持片12を引き寄せると、リンク25、35の先端部も引き寄せられ、一方体21と他方体31が強固に密着する。また何らかの外力で、一方体21と他方体31が引き離されると、リンク25、35を介して対向する保持片12の間隔が広がり、変形軸11が引き伸ばされる。
【0034】
一方体21を柱51に取り付けるため、柱51の側面にはラグスクリュー41を埋め込む。このラグスクリュー41は、螺旋状の凸条43を側周面に形成した円柱状で、その一端面には、工具を掛けるための頭部44を形成してあるほか、中心には両端を貫く中孔45を形成してある。また柱51の側面には、ラグスクリュー41を埋め込むため、両側面を貫く下穴54を加工してあり、凸条43が下穴54の内周面に食い込むことで、ラグスクリュー41が強固に保持される。そして柱51の裏側に表れている中孔45にボルト56を差し込み、その先部を一方体21の背面に螺合させると、一方体21が柱51に取り付けられる。なおラグスクリュー41やボルト56は、上下に二組配置する。
【0035】
同様に、他方体31を横架材61に取り付けるため、横架材61の端面にはラグスクリュー42を埋め込む。このラグスクリュー42は、頭部44の中心にメネジ46を形成してあり、ボルト66を螺合することができる。なお横架材61の端面には、ラグスクリュー42を埋め込むため、有底の下穴64を加工してある。また横架材61に連結金物を取り付ける際は、他方体31の正面からボルト66を差し込む。そのほか横架材61側についても、ラグスクリュー42やボルト66は、上下に二組配置する。
【0036】
図2は、
図1に描いた連結金物の構成要素の詳細を示す。一方体21は細長い棒状だが、その正面の上下には、斜めに伸びる逃げ面27を形成してあるほか、逃げ面27の一端(中央寄り)には、従動ピン13を通すためのピン溝28を形成してある。また一方体21と他方体31は同一外形だが、そのうちの一方を反転させ、双方の正面(逃げ面27、37やピン溝28、38の形成面)同士が向かい合うように配置する。さらに一方体21と他方体31のいずれも、根元ピン23、33を差し込むため、両側面を貫くピン孔24、34を形成してある。なおピン孔24、34は、根元ピン23、33を無理なく差し込める内径としてある。
【0037】
そのほか一方体21は、先の
図1に描いたボルト56で柱51に取り付けるが、このボルト56の先部を螺合できるよう、一方体21の背面には、上下二箇所にネジ穴29を形成してある。また他方体31は、
図1に描いたボルト66で横架材61に取り付けるが、このボルト66を差し込めるよう、他方体31には、その正面と背面を貫くボルト孔36を上下二箇所に形成してある。このボルト孔36は、ボルト66の頭部を収容するため、正面側の内径を大きくしてある。
【0038】
リンク25、35は、一方体21および他方体31の左右両側面に配置する。また個々のリンク25、35は、根元ピン23、33を支点とし、一方体21と他方体31の接触面の中央寄りを向くように配置し、さらに、一方体21と他方体31の接触面を挟んで対向する二枚のリンク25、35の先端部を重ね合わせ、そこに従動ピン13を差し込み、双方を一体化する。なおリンク25、35は、根元ピン23、33と従動ピン13のいずれに対しても、自在に回転可能である。そのほかリンク25、35の脱落を防ぐため、根元ピン23、33や従動ピン13の端部には、クリップ19を取り付けている。クリップ19は、「R」状で、その一端を根元ピン23、33や従動ピン13に形成した細い孔に差し込む。
【0039】
保持片12はL字状で、その一面に従動ピン13を差し込むほか、残る一面に形成した切り欠き17を用いて変形軸11を取り付ける。また保持片12は、一本の従動ピン13の左右両側に取り付けるが、保持片12の切り欠き17を有する面は、一方体21や他方体31の中央寄りに向ける。さらに保持片12は、リンク25、35よりも内側に配置するため、従動ピン13から脱落することはない。そのほか保持片12についても、従動ピン13に対して自在に回転可能である。
【0040】
変形軸11は、上下に対向する保持片12の間を結ぶが、ナット14を螺合できるようにオネジ16を形成してある。なおナット14は、保持片12の表裏を挟み込むように配置するため、どのような状態になっても、変形軸11が保持片12から脱落することはない。また変形軸11は、一方体21と他方体31が離れていく際に引き伸ばされ、緩衝材としての機能を発揮する。そのため変形軸11の素材については、建築構造用圧延棒鋼(SNR)など、柔軟性を有するものを用いる。建築構造用圧延棒鋼は、じん性に優れ衝撃荷重を吸収しやすく、過荷重に対し、破断することなく塑性変形を生じやすい。
【0041】
図3は、
図2の構成要素を組み立てていく過程を示す。
図3の上方に描くように、上下一対の保持片12は、変形軸11とナット14を介して一体化し、これを一方体21や他方体31の左右両側に配置する。またリンク25、35は、二枚を「く」の字状に重ね合わせたものを一対とし、これを上下左右計四箇所に配置する。そしてリンク25、35や保持片12を貫くように根元ピン23、33や従動ピン13を差し込み、最後にクリップ19を取り付け、リンク25、35の脱落を防ぐ。
【0042】
一方体21と他方体31の正面同士を段差なく接触させると、双方のピン溝28、38により、ヒシ形の隙間が形成される。この隙間は、従動ピン13を通すための役割を有するが、
図3の左下に描くように、ピン溝28、38は必要最小限の寸法とし、その内面を従動ピン13に接触させる。これにより、連結金物を組み立てた際、一方体21と他方体31の間でせん断荷重を伝達することができる。
【0043】
全ての要素を組み立てると、
図3の右下に描くように、リンク25、35などが左右両側面に配置され、連結金物が完成する。ここで変形軸11に螺合するナット14を締め付け、上下の保持片12の間隔を狭めると、一方体21と他方体31が強固に密着し、連結金物の初期剛性が向上する。ただしナット14を締め付け過ぎると、従動ピン13がピン溝28、38を押し広げ、一方体21と他方体31を引き離す恐れがある。そこで連結金物の設計に際しては、変形軸11に作用する軸力が適正値になった際、従動ピン13およびピン溝28、38の双方の上下間隔が揃うよう、配慮を要する。
【0044】
図4は、
図1の他方体31を横架材61に取り付ける方法を示す。他方体31は、
図4に描くように、ラグスクリュー42とボルト66を介して横架材61に取り付けるが、ボルト66は、他方体31の正面から差し込む。そのため他方体31は、連結金物の組み立てに先立ち、単独で横架材61に取り付ける。なおボルト66の頭部は、ボルト孔36の大径部に収容され、他方体31の正面から突出することはない。
【0045】
図5は、
図1の横架材61を柱51に据え付けた状態を示し、柱51の側面と横架材61の端面との間に連結金物が挟み込まれている。したがって、柱51と横架材61が直に接触することはない。また変形軸11は、何ら覆い隠されることなく両側面に露出しており、ナット14を緩めることで、変形軸11の交換も容易である。なお、根元ピン23、33や従動ピン13や保持片12は、柱51や横架材61の側面から突出しないよう、寸法を調整してあり、壁材などの取り付けを妨げることはない。
【0046】
図5では、上下の保持片12が変形軸11で引き寄せられ、一方体21と他方体31が密着している。そのため、柱51と横架材61も緩みなく連結されている。なお柱51や横架材61に埋め込まれたラグスクリュー41、42の一端面は、一方体21または他方体31と接触するため、連結金物が柱51や横架材61に陥没していくことはなく、この箇所で緩みを生じることはない。そのほか従動ピン13は、先の
図3の左下に描くように、ピン溝28、38に嵌り込んでおり、従動ピン13を介してせん断荷重(
図5では、横架材61に作用する重力)が伝達され、上下方向の荷重に対しても、十分な剛性が確保されている。
【0047】
図6は、
図5の連結部に外力が作用し、横架材61が柱51から引き離された状態を示す。柱51と横架材61を引き離すような外力が作用した際も、一方体21は柱51の側面に留まり、他方体31は横架材61の端面に留まるため、一方体21と他方体31に隙間が生じ、一方体21と他方体31を結ぶ一対のリンク25、35は、開くように変位する。これに伴い、従動ピン13や保持片12も変位し、変形軸11が上下に引き伸ばされ、衝撃を緩和する。なお外力が比較的弱く、変形軸11に塑性変形を生じない場合、その弾性で一方体21と他方体31は再び接触し、元の状態に戻る。
【0048】
しかし過大な外力が作用した際は、変形軸11に塑性変形を生じるが、その際はエネルギーを吸収するため、部材などの破損を軽減できる。さらに塑性変形を生じた後も、壁材などを取り外すと、変形軸11は無理なく交換可能で、柱51と横架材61を元の状態に戻すことができる。なお変形軸11の交換は、一本ずつ順に行うことで、一方体21と他方体31の連結状態を途切れることなく維持でき、作業を円滑に実施できる。そのほか、弾塑性変形は変形軸11に集中するよう、根元ピン23、33や従動ピン13や保持片12は、十分な強度を持たせる。
【0049】
図7は、
図5の横架材61に曲げモーメントが作用した状態を示す。なお
図7の左下には、その際の一方体21と他方体31の位置関係を描いてある。横架材61に曲げモーメントが作用した場合、上下のリンク25、35は均等に変位するのではなく、一方だけが変位する。
図7では、横架材61を左下がりにするような曲げモーメントが作用しており、上方のリンク25、35だけが大きく変位する。これに伴い、上下の保持片12の間隔が広がり、変形軸11が引き伸ばされ、エネルギーを吸収する。
【0050】
一方体21や他方体31には、
図7の左下に描くように、ピン溝28、38に隣接して逃げ面27、37を設けてある。そのため一方体21や他方体31は、上下いずれかの従動ピン13を原点として回転可能で、連結された二部材の間に曲げモーメントが作用すると、一方体21や他方体31が円滑に変位し、変形軸11が引き伸ばされる。また
図7の状態では、下方の従動ピン13がピン溝28、38に嵌り込んだままで、上下方向の荷重を確実に伝達できる。
【0051】
図8は、本発明による連結金物を柱51の据え付けに用いた場合を示す。本発明による連結金物は、あらゆる箇所で使用可能で、この図のように、柱51を基礎コンクリート71に据え付けることもできる。
図8においても、根元ピン23、33から変形軸11までの可動部分の構成は、
図1などと共通する。ただし、全てを横向きに配置してある。また一方体21や他方体31は、基礎コンクリート71や柱51との取り付けを考慮した形状で、いずれも中央付近に段差22、32を設けてある。
【0052】
一方体21は、基礎コンクリート71から突出するアンカーボルト72を用いて固定する。このアンカーボルト72を通すため、一方体21の段差22には、ボルト孔26を形成してある。また、アンカーボルト72に差し込むワッシャ75や、アンカーボルト72と螺合するナット76は、段差22の中に収容される。対して、他方体31については、ボルト56で柱51に取り付ける。そのため柱51の下面には、あらかじめラグスクリュー42を埋め込み、そのメネジ46にボルト56を螺合させる。そしてボルト56を差し込むため、他方体31にはボルト孔36を形成してあり、ボルト56の頭部は、段差32の中に収容される。
【0053】
図9は、
図8の柱51を基礎コンクリート71に据え付けた状態を示す。一方体21と他方体31は、基礎コンクリート71と柱51の間に挟み込まれ、柱51に作用する下向きの荷重は、連結金物を介して基礎コンクリート71に伝達される。また一方体21と他方体31の接触面には、従動ピン13が挟み込まれ、水平荷重に対しても十分な強度を有する。そのほか柱51に曲げモーメントが作用した際は、左右いずれかのリンク25、35が変位し、変形軸11が引き伸ばされ、エネルギーを吸収する。
【0054】
本発明において、一方体21や他方体31を各種部材に取り付ける方法は、これまでの各図に描いたものに限定される訳ではなく、自在に選択可能である。例えば、他方体31の正面から背面までの距離を伸ばし、その背面側を部材に加工したスリットに差し込み、部材と他方体31を貫くようにドリフトピンを打ち込み、双方を一体化することもできる。また、一方体21と他方体31の背面付近に脚のような突出を形成し、そこから部材に向けて釘類を差し込み、一方体21や他方体31を取り付けることもできる。このように、一方体21や他方体31の形状は、使用箇所に応じ自在に決めて構わない。