特許第6501708号(P6501708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6501708癌の治療のための腫瘍防御エピトープの同定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501708
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】癌の治療のための腫瘍防御エピトープの同定
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20190408BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20190408BHJP
   C12N 15/00 20060101ALN20190408BHJP
【FI】
   C12Q1/6869 ZZNA
   G01N33/48 Z
   !C12N15/00
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-534719(P2015-534719)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公表番号】特表2015-533082(P2015-533082A)
(43)【公表日】2015年11月19日
(86)【国際出願番号】US2013062100
(87)【国際公開番号】WO2014052707
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年9月15日
(31)【優先権主張番号】61/707,295
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501315876
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ コネチカット
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スリバスタバ プラモッド ケイ
(72)【発明者】
【氏名】マンドウ イオン
(72)【発明者】
【氏名】デュアン フェイ
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0293637(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/159754(WO,A1)
【文献】 The Journal of Experimental Medicine,2014年,Vol.211, No.11,pp.2231-2248, pp.S1-S3
【文献】 The Journal of Immunology,2014年,Vol.192, Supplement 1,#71.23, Abstract
【文献】 Cancer Res.,2012年 1月,Vol.72, No.5,pp.1081-1091
【文献】 Cancer Res.,2008年,Vol.68, No.3,pp.889-892
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者の腫瘍エピトープを同定する方法であって、
前記癌患者のRNAまたはDNAの少なくとも一部を、健常組織および癌組織の両方についてシーケンシングして、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを作ることと、
前記健常組織RNAまたはDNA配列と前記癌組織RNAまたはDNA配列とを比較して、前記健常組織RNAまたはDNA配列と前記癌組織RNAまたはDNA配列との間の差分を同定し、差分DNAマーカセットを作ることと、
前記差分DNAマーカセットを分析して、腫瘍特異的エピトープのセットを作り、前記腫瘍特異的エピトープのセットは1つ以上の腫瘍特異的エピトープを含むことと、
前記腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる各エピトープについて差分アグレトープ指数と呼ばれる数値スコアを提供し、前記差分アグレトープ指数は、変異体エピトープのNetMHCスコアから、変異体エピトープの非変異体対応物のNetMHCスコアを減算した値であることと、
前記腫瘍特異的エピトープのセットを、前記セットに含まれる各エピトープの前記差分アグレトープ指数によって、順位づけすることと、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記シーケンシングがトランスクリプトームシーケンシングである方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記DNAまたはRNAのシーケンシングがハイスループットシーケンシングである方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記差分DNAマーカセットを分析して腫瘍特異的エピトープのセットを作ることが、1つ以上の腫瘍特異的エピトープが癌の原因となる経路に関係しているかどうかに無関係である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記差分アグレトープ指数による前記順位を用いて、10〜50個の上位の順位の腫瘍特異的エピトープのサブセットを同定することをさらに含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記癌患者が固形または液性癌に罹患している方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2012年9月28日に出願された米国特許仮出願第61/707,295号の優先権を主張する。その内容は、全体が本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、腫瘍特異的エピトープを同定する方法、腫瘍特異的エピトープペプチドを含むワクチン組成物などの医薬組成物、およびかかるペプチドをコードする核酸分子に関する。
【背景技術】
【0003】
癌の生物学を理解することの多大な進歩にもかかわらず、成人の最もよくある癌、例えば乳房、前立腺、肺、結腸、卵巣などのものの治療は、十分と言うにはほど遠いままに留まっている。疑いなく大きな進歩はあったが、同様に疑いなく、非常に大きな医学的ニーズが満たされていないままである。任意の疾患の奏功する治療は、当該疾患について固有のことの明快な理解と、それに続いて、当該疾患をその固有な点において攻撃する方法を見つけ出すこととを必要とする。この原則は、医療のあらゆる大きな成功の基礎となって来た。
【0004】
癌は、例えば細菌感染とは対照的に、異物ではなく人間自身に由来する。癌と人間の健常組織との間にある圧倒的な共通性ゆえに、癌は、癌が利用し且つ正常な人体はより利用しない生物学的経路を見いだそうとすること、すなわち特異性ではなく選択性を目指すことによって、取り組まれて来た。この取り組みは化学療法によって例示されるものであり、今日の癌治療の主要な非外科的手法である。これはある程度は有効であるが、効能が特異性ではなく選択性に基づいているので、化学療法は正常組織も攻撃してしまい、治療の周知の副作用につながる。これもその利用を制限している。
【0005】
近年は、化学療法の増々高度なツールを見て来た。しかしながら、化学療法が癌に対して特異的ではなく選択的であるに過ぎないという根本的問題は残っており、数十年もの間斯様であった。
【0006】
「法則を立証する例外」は、よくある成人白血病の治療法のイマチニブである。白血病のこの種類、慢性骨髄性白血病すなわちCMLは、血球の非常に特異的な変化に起因する。この変化は公知であり、変化が白血病細胞に限られていることも公知である。薬のイマチニブはこの変化を特異的に攻撃し、CMLに対して非常に有効である。残念ながら、CMLは、特異性が同定可能であり且つ同定された唯一の例に留まっている。幸いなことに、CMLは、特異性の同定が非常に有効な癌治療法につながり得るという事実の最初の例でもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
求められているのは、癌特異性の基礎を特定し、次にこの特異性を応用して、奏功する無毒性の治療を開発する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様においては、癌患者の腫瘍エピトープを同定する方法が、
癌患者のRNAまたはDNAの少なくとも一部を、健常組織および癌組織の両方についてシーケンシングして、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを作ることと、
健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを比較して、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列との間の差分を同定し、差分DNAマーカ(difference DNA marker)セットを作ることと、
差分DNAマーカセットを分析して腫瘍特異的エピトープのセットを作り、腫瘍特異的エピトープのセットは1つ以上の腫瘍特異的エピトープを含むことと、
腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる各エピトープについて、差分アグレトープ指数(Differential Agretopic Index)と呼ばれる数値スコアを提供し、差分アグレトープ指数すなわちDAIは、正常エピトープのスコアを腫瘍特異的エピトープのスコアから減算することによって計算されることと、
任意選択で、医薬的に許容される担体と1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチドまたは1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドとを含む医薬組成物を作り、1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチドは、腫瘍特異的エピトープのセットから差分アグレトープ指数に基づいて選択されることと、
任意選択で、癌患者に医薬組成物を投与することと、
を含む。
【0009】
特定の実施形態においては、医薬組成物は、任意選択で、アジュバントまたは免疫調整剤をさらに含む。
【0010】
別の態様においては、腫瘍特異的エピトープペプチド、もしくは腫瘍特異的エピトープを含有する1つ以上のポリペプチド、または腫瘍特異的エピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、医薬組成物が本明細書に含まれ、腫瘍特異的エピトープペプチドは上記の方法によって同定される。また、癌患者に医薬組成物を投与する方法が本明細書に含まれる。
【0011】
さらに別の態様においては、医薬的に許容される担体と1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチド、もしくは腫瘍特異的エピトープを含有する1つ以上のポリペプチド、または1つ以上の腫瘍特異的ペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む医薬組成物が、本明細書に含まれる。1つ以上の腫瘍特異的ペプチドは腫瘍特異的エピトープのセットに由来し、腫瘍特異的エピトープのセットは公知の癌の原因となる経路に由来するエピトープを含まず、腫瘍特異的エピトープのセットは癌患者の腫瘍に特異的である。
【0012】
さらなる態様においては、癌患者を免疫療法の候補者として同定する方法が、
癌患者のRNAまたはDNAの少なくとも一部を、健常組織および癌組織の両方についてシーケンシングして、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを作ることと、
健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを比較して、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列との間の差分を同定し、差分DNAマーカセットを作ることと、
差分DNAマーカセットを分析して腫瘍特異的エピトープのセットを作り、腫瘍特異的エピトープのセットは1つ以上の腫瘍特異的エピトープを含むことと、
腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる非同義的な1ヌクレオチドバリアントの割合を定量することと、
腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる1ヌクレオチドバリアントの65%未満が非同義的な1ヌクレオチドバリアントであるときに、癌患者を免疫療法の候補者として同定することと、
を含む。
【0013】
以下で図面を参照する。いくつかの図において、同様の構成要素は同様に番号付けされている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】RNA−Seqリードから腫瘍特異的エピトープを同定するために用いられる、Epi−Seqバイオインフォマティクスパイプラインの概略図を示す。
図2】MethA肉腫のMHCIに限定されるエピトープの、染色体上の分布を示す。L、K、およびDによって提示されるエピトープが、各染色体のそれぞれ上、中央、および下のパネルに示されている。x軸について、1.5e+08は染色体上の位置150,000,000であり、0は染色体上の位置0である。X染色体上の遺伝子発現の対立遺伝子排除ゆえに、Epi−Seqパイプラインに用いられるヘテロ接合性フィルタは、当該染色体の変異には適用されなかった。この図のX染色体変異は、ホモ接合型およびヘテロ接合型変異の両方を用いて予測される。
図3図3〜5は、点変異によって生じたエピトープの免疫原性を示している。マウスが、各ペプチドによって足蹠に免疫された。1週間後に、流入領域リンパ節(dLN)が採取された。それらの細胞は、ペプチド(no pep)を用いずに、または変異体(Mut)ペプチドもしくはそれらの非変異体(WT)対応物を用いて、インビトロにおいて一晩刺激された。表面CD44および細胞内IFN−γ陽性細胞が、20,000個のゲーティングされたCD8+細胞について計数された。応答無し(左上のパネル)、腫瘍特異的(すなわち、変異体ペプチド特異的)応答(右上のパネル)、腫瘍/自己交差反応性の応答(左下のパネル)、または非特異的応答(右下のパネル)を惹起した変異体ペプチドの代表例を示す。
図4】応答無し(左のパネル)、非変異体ペプチド特異的応答(中央のパネル)、または交差反応性の機能的なCD8応答(図3と同様)(右のパネル)を惹起した選択された変異体ペプチドの、非変異体対応物の代表例を示す。
図5】マウス線維肉腫MethA(n=92、絶対数)(左上のパネル)もしくはCMS5(n=27、絶対数)(中央のパネル)、または2つの組み合わせ(T細胞応答の各種類の%)(右上のパネル)に由来する変異体ペプチドによって誘発された、T細胞応答の概要を示す。下の円グラフは、変異体ペプチドの非変異体対応物によって惹起された、T細胞応答の各種類の%を示す(n=119)。
図6図6〜8は、腫瘍特異的ペプチドによって惹起された防御性の腫瘍免疫の概要を示している。マウスが、各ペプチドを用いて免疫されて、生腫瘍細胞を用いてチャレンジ(challenge)された。腫瘍の成長が、「方法」に記載のように監視された。個々の腫瘍の成長曲線の曲線下面積(AUC)が計算され、ナイーブ群を100という値(図6および7の水平線によって示されている)に設定することによって正規化された。統計的に有意な腫瘍防御免疫原性を示すペプチドに対応する棒は、灰色に塗られており、星印によって示されている(P=0.015〜0.03)。CMS5およびMethAについて、上位NetMHCスコアを有する変異体エピトープの腫瘍防御活性を示す(表4)。ペプチドは、NetMHCによるそれらの順位の順番ではなく、減少して行く活性の順番に並べられている。円グラフは、腫瘍チャレンジに対する防御を惹起しなかった(黒色)および惹起した(灰色)、試験されたネオエピトープの割合を示している。
図7】CMS5およびMethAについて、上位DAIスコアを有する変異体エピトープの腫瘍防御活性を示している(表5)。ペプチドは、DAIによるそれらの順位の順番ではなく、減少して行く活性の順番に並べられている。円グラフは、腫瘍チャレンジに対する防御を惹起しなかった(黒色)および惹起した(灰色)、試験されたネオエピトープの割合を示している。
図8】処理されなかったマウス(ナイーブ)およびCMS5の各変異体ペプチドによって免疫されたマウスにおける、腫瘍の成長曲線の例を示す。それぞれの線は、1匹のマウスにおける腫瘍の成長の動態を示している。
図9】変異体Tnpo3ペプチドによって免疫されたマウスにおける、変異体Tnpo3の腫瘍防御免疫原性を示している。エクスビボの短い刺激(WTまたは変異体Tnpo3ペプチド無し(no pep)または有り)後に、IFNγ+CD44+CD8+T細胞が計数された。
図10】放射線処理されたMethA細胞によって免疫されたマウスにおける、変異体Tnpo3の腫瘍防御免疫原性を示す。左:6日後に、鼠径LNの細胞が一晩刺激された(ペプチド無し、無関係なPrpf31ペプチド、またはTnpo3ペプチド)。活性化したエフェクタCD8+細胞の%が示されている。右:脾細胞が、1週間に一度、各ペプチドの1μMによって刺激された。Prpf31由来の無関係なペプチドは対照として用いられた。刺激の19日後に、細胞は各ペプチドに対する応答性について試験された。
図11】免疫せずに(ナイーブ)、または50μgのCpG−ODN1826(CpG)、50μgのTnpo3ペプチド(Tnpo3)、もしくは両方を注射された上で、MethAを用いてチャレンジされたマウスにおける、変異体Tnpo3の腫瘍防御免疫原性を示している。(上のパネル)個々のマウスの腫瘍の成長曲線が示されている。括弧内の数字は、腫瘍が完全に退縮したマウスの数/当該群に含まれるマウスの総数を示している。下のパネルは、各群の腫瘍の成長の尺度としてAUCを示している。
図12】未免疫または表示の通り免疫の上でチャレンジされたマウスにおける、変異体Tnpo3の腫瘍防御免疫原性を示している。抗CD25抗体(クローンPC61、250μg、腫瘍チャレンジの2日前)または抗CTLA−4抗体(クローン9D9、100μg、腫瘍チャレンジの7日前および腫瘍チャレンジ後3日毎)が、表示の通り与えられた。下のパネルは、各群の腫瘍の成長の尺度としてAUCを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記および他の特徴は、以下の発明を実施するための形態、図面、および添付された特許請求の範囲から、当業者には認識され理解されるであろう。
【0016】
DNA複製の完全とは言えない正確さは、癌細胞を含む全ての細胞において、変異体(変異)の絶え間ない生成および自然淘汰を駆動する原動力である。癌の発癌性変異および癌細胞に生存上の利点を付与する他の変化は、今までのところ、癌のゲノミクスの研究における注目の大部分を集めて来た。腫瘍の進行または発癌に直接的に関係するそれらの変異は、ドライバ変異と呼ばれる。対照的に、パッセンジャ変異は癌の進展には寄与せず、むしろ、最終的な腫瘍に至るまで保持され続ける生物学的には不活性な変異である。パッセンジャ変異は、細胞生物学的な観点からは、ドライバ変異よりもほとんど興味を引かない。なぜなら、それらは、細胞の形質転換された表現型についてほとんど何も教示しないからである。しかしながら、パッセンジャ変異のランダム性は、それらを個々の腫瘍に固有なものにする。免疫系が、それらの機能的な帰結にはかかわらず、種々の差分をただ認識して反応するという点に注意することが重要である。すなわち、ドライバおよびパッセンジャ変異は、免疫学的には同等に重要であり、特定の腫瘍の固有の識別子である。
【0017】
それらの免疫学的な有望さにもかかわらず、パッセンジャ変異は、あまり免疫学的な精査の対象となって来なかった。これは少なくとも部分的には、それらがランダムであって、同定し難いからである。しかしながら、B細胞リンパ腫(これは、個々に独特なイディオタイプ(これらは「パッセンジャ変異の等価物」である)を有する)の免疫療法に関する経験は、パッセンジャ変異が免疫療法の用途に用いられ得るという発想に、実験的および臨床的な裏付けを提供する。ハイスループットDNAシーケンシングおよびバイオインフォマティクスなどの技術の利用可能性は、ドライバおよびパッセンジャ変異変異の両方の同定を可能にしており、パッセンジャ変異をして免疫学的分析に利用可能にする。本開示においては、いくつかの腫瘍のパッセンジャ変異が同定され、それらによって作られるエピトープの幅広いレパートリが分析され、多様なそれらの免疫学的な抗腫瘍活性が観察された。本明細書においてさらに示されるように、同定されたパッセンジャ変異および他のネオエピトープは、腫瘍防御を媒介するそれらの能力に関して同一ではない。したがって、腫瘍由来の一連のネオエピトープを同定することに加えて、本明細書においては新規原理および新規アルゴリズム、差分アグレトープ指数すなわちDAIが記載される。これは、変異体ネオエピトープの腫瘍防御性を予測する。DAIは、エピトープのリストを少数の腫瘍防御エピトープまで絞り込むことを可能にする。さらに、本明細書においては、それらの分析を可能にした新規のバイオインフォマティクス的なパイプライン(Epi−Seq)も記載される。本明細書に記載される方法および組成物は、ヒトの癌の個別化されたゲノミクスに基づく免疫療法を現実に実施する人類の能力に大きな進歩をもたらすであろう。
【0018】
具体的には、本明細書に示されるように、包括的なゲノム的・バイオインフォマティクス的な免疫学的分析によって、T細胞の分析によって以前には未同定であったマウスおよびヒトの癌の数百のネオエピトープが、同定された。ネオエピトープのうち小さい割合のみが、腫瘍の成長に対する防御を惹起する。意外なことに、MHCIに対するネオエピトープの予測された親和性は、防御性の抗腫瘍免疫原性に影響しない。その代わり、変異体配列と非変異体配列との間のかかる親和性の数値差(本明細書においては差分アグレトープ指数(DAI)と称される)は、重要な予測因子である。意外なことに、正常配列の約15%が抗自己CD8応答を惹起する。これらの発見は、自己および非自己に対する免疫に関して新たな理解をもたらし、癌の免疫療法の開発に関して新たな機会を提供する。
【0019】
一実施形態においては、癌患者の腫瘍エピトープを同定する方法が、
癌患者のRNAまたはDNAの少なくとも一部を、健常組織および癌組織の両方についてシーケンシングして、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを作ることと、
健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを比較して、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列との間の差分を同定し、差分DNAマーカセットを作ることと、
差分DNAマーカセットを分析して腫瘍特異的エピトープのセットを作り、腫瘍特異的エピトープのセットは1つ以上の腫瘍特異的エピトープを含むことと、
腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる各エピトープについて、差分アグレトープ指数と呼ばれる数値スコアを提供し、差分アグレトープ指数は、正常エピトープのスコアを腫瘍特異的エピトープのスコアから減算することによって計算されることと、
任意選択で、医薬的に許容される担体と、1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチド、もしくは腫瘍特異的エピトープを含有する1つ以上のポリペプチド、または1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む医薬組成物を作り、腫瘍特異的エピトープペプチドは腫瘍特異的エピトープのセットに由来し、医薬的に許容される担体が差分アグレトープ指数に基づくことと、
さらに任意選択で、医薬組成物によって癌患者を免疫することと、
を含む。
【0020】
医薬組成物は、任意選択で、アジュバントまたは免疫調整剤をさらに含む。
【0021】
一実施形態においては、癌患者のRNAまたはDNAの少なくとも一部を健常組織および癌組織の両方についてシーケンシングすることは、トランスクリプトームシーケンシング、ゲノムシーケンシング、またはエキソームシーケンシングを含む。トランスクリプトームシーケンシングは、細胞のメッセンジャRNAまたは転写物をシーケンシングすることである。トランスクリプトームは、RNAに転写されるゲノムの小さい割合(ヒトでは5%未満)である。ゲノムシーケンシングは、ある生物のゲノムの全DNA配列をシーケンシングすることである。エキソームシーケンシングは、ゲノムの蛋白質をコードする部分をシーケンシングすることである。特定の実施形態においては、シーケンシングはトランスクリプトームシーケンシングであり、これは、腫瘍において発現されている変異の同定を可能にする。
【0022】
別の態様においては、シーケンシングの深度が変更され得る。次世代シーケンシングにおいては、関心のDNA試料のオーバラップする種々の断片が作られ、シーケンシングされる。オーバラップする種々の配列は次にアラインメントされて、アラインメントされた配列リードの完全なセットを作る。シーケンシングの深度は、シーケンシングのカバレッジとも呼ばれ、アセンブリのある一部分に寄与するヌクレオチドの個数を指す。ゲノム的には、シーケンシングの深度は、各塩基がシーケンシングされた回数を指す。例えば、「30×までシーケンシングされたゲノム」は、配列中の各塩基が30個のシーケンシングリードによってカバーされたことを意味する。ヌクレオチド的には、シーケンシングの深度は、1つのヌクレオチドに関する情報を加えた配列の数を指す。
【0023】
一態様においては、RNAまたはDNAは、腫瘍および健常組織から、各組織からポリA+RNAを単離してcDNAを調製し、標準プライマを用いてcDNAをシーケンシングすることによって、単離される。かかる技術は当分野において周知である。また、患者のゲノムの全てまたは一部のシーケンシングが、当分野において周知である。ハイスループットDNAシーケンシング法は当分野において公知であり、例えば、イルミナ(登録商標)シーケンシング技術によるHiSeq(商標)2000システムを含む。これは、大規模パラレルSBS手法を用いて、数十億の塩基の高品質のDNA配列を1処理あたりに生成する。
【0024】
一部の実施形態においては、癌患者のゲノムの特定の部分が、例えば腫瘍に応じてシーケンシングされる。ほとんどの場合、全ゲノム/トランスクリプトームをシーケンシングすることが好ましい。ゲノムは、浅い深度または深い深度までシーケンシングされて、ゲノム/トランスクリプトームのより少ないまたはより多い部分のカバレッジを可能にし得る。
【0025】
特定の実施形態においては、差分DNAまたはRNAマーカセットを分析して腫瘍特異的エピトープのセットを作ることは、MHC分子に対するエピトープペプチドの結合を決定する予測アルゴリズムを用いることを含む。任意選択で、腫瘍特異的エピトープのセットは絞り込まれて、MHCに限定される腫瘍特異的エピトープのセットを提供する。例えば、K、D、またはLアレルのMHCIに限定されるエピトープが、提供され得る。MHCに限定されるエピトープのセットは、MHCのアレル特異的ペプチドに対する、エピトープを含有するペプチドの結合を決定することによって作られ得る。かかるアルゴリズムの一例はNetMHC−3.2である。これは、人工ニューラルネットワーク(ANN)および重み行列を用いて、種々のHLAアレルに対するペプチドの結合を予測する。
【0026】
具体的には、健常および癌組織の間のDNA(またはRNA)配列の差分は、当該哺乳動物のMHC組成との組み合わせとして、NetMHCなどのエピトープ予測アルゴリズムによって分析される。このアルゴリズムは、この1個体の哺乳動物について潜在的な腫瘍特異的エピトープのリストを作り、各エピトープに数値スコアを付与する。現在の先端技術においては、高いスコアは、エピトープが免疫可能であることの良い確率を示しており、低い(マイナスも含む)スコアは、エピトープが免疫可能であることの悪い確率を示している。
【0027】
方法は、腫瘍特異的エピトープのセットまたはMHCに限定される腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる各エピトープについて数値スコアを提供することをさらに含む。数値スコアは、正常エピトープのスコア(non−mutated)を腫瘍特異的エピトープのスコア(mutated)から減算することによって計算される。正常エピトープの数値スコアは変異体癌エピトープの数値スコアから減算され、差分の数値、すなわちエピトープの差分アグレトープ指数(DAI)が得られる。推定上のエピトープは、DAIに基づいて順位づけされ得る。この順位づけにおいては、大まかに言って、所与のエピトープの差分が大きいほど、それによる免疫が腫瘍に対して防御性となる確率は高くなる。特定の実施形態においては、最高順位のエピトープが、個体を免疫するために用いられる。さらに、方法は、腫瘍特異的エピトープのセットまたはMHCに限定される腫瘍特異的エピトープのセットを、差分アグレトープ指数によって、セットに含まれる各エピトープについて、順位づけすることを含み得る。一態様においては、方法は、差分アグレトープ指数による順位を用いて、10〜50個の上位の順位の腫瘍特異的エピトープのサブセットを同定することをさらに含む。上位の順位とは、最も好ましいDAIを有するエピトープを意味する。
【0028】
一例として、もしも癌に含まれる変異体DNAが、所与の部位において、アミノ酸配列GYSVLHLAII(配列番号128)をコードしており、正常組織に含まれる対応する非変異体配列がGDSVLHLAII(配列番号129)であるならば、予測アルゴリズム(この場合はNetMHC)は、癌配列については+7.3という数値スコア、正常配列については−4.3というスコアを与える。DAIは11.6である。このDAIは、このエピトープを順位づけするために用いられる。
【0029】
現在の先端技術において、NetMHCなどの予測アルゴリズムによって与えられる変異体エピトープの数値スコアは、免疫のための主要なまたは唯一の判断基準である。かかる従来のアルゴリズムによって与えられるスコアが高いほど、ペプチドはより優良だと予想される。本発明者の分析においては、これは、腫瘍防御の予測の良い方法ではない。有利には、本明細書に開示される方法によって、(a)非変異体対応物のスコアを予測するための従来のアルゴリズム(例えばNetMHC)と(b)変異体および非変異体エピトープの間の差分とが、ペプチドエピトープの抗腫瘍免疫原性を予測する判断基準として用いられる。
【0030】
特定の実施形態においては、差分DNAマーカセットを分析して腫瘍特異的エピトープのセットを作ることは、1つ以上の腫瘍特異的エピトープが癌の原因となる経路に関係しているかどうかに無関係である。癌患者のDNAを分析するための従来の方法は、癌の原因となるまたは癌を進行させる遺伝子機構に主眼を置いていたが、本発明の手法はこの問題に関しては不可知論的である。本明細書に記載される手法は、癌が正常のものと差分を有する任意の点において、当該差分が癌を引き起こすことの原因であるか否かにかかわらず、癌を攻撃することを目標にしている。この違いの主な結果は、他の手法が、主として各患者にどの既存の(または将来の)薬を用いるかを判断することに頼っており、各患者向けに薬を設計することに頼っていないということである。本方法は、ある特定の腫瘍を治療するための薬を設計することに主眼を置く。
【0031】
本明細書に記載される方法の1つの利点は、癌に特異的なDNA配列の差分に置かれる主眼である。対照的に、少数の著名な例外(ras、p53、bcr−abl転座など)はあるが、癌を引き起こす遺伝子機構の大部分は、真に癌特異的であるわけではない。その代わりに、何らかの正常な状況下にある正常細胞もそれらを利用している。したがって、それらは癌選択的であり、正常細胞よりも癌細胞に対して好ましく結合するが、癌特異的ではなく、癌細胞および正常細胞の両方に結合する。本明細書に記載される手法は、癌特異的なエピトープに主眼を置いている。癌選択的マーカよりも癌特異的マーカを用いることの明らかな利点は、製造されるワクチンの低減された毒性である。さらなる利点は、薬物治療とは違って免疫療法を用いることを含んでいる。これは、患者の実際の癌に対して特異性を有するワクチンの作製を可能にする。
【0032】
健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列との間の差分を同定して差分DNAマーカセットを作ることは、当分野において公知のバイオインフォマティクス技術を用いて行われ得る。一実施形態においては、最初のスクリーニングは、癌患者のゲノムに含まれる全ての同定可能な変化を含む。変化は、同義的な変化(これは、コードされたアミノ酸を変化させない)および非同義的な変化(これは、コードされたアミノ酸を変化させる)を両方含む。実施例において説明されるように、免疫編集は、予測される割合と比較して、非同義的な変異の個数の減少をもたらす。一態様においては、DNAマーカに起こる変化は1ヌクレオチドバリアント(SNV)である。
【0033】
本明細書において用いられる場合、腫瘍エピトープまたは腫瘍抗原は、腫瘍細胞によって作られるペプチド抗原である。多くの腫瘍抗原がヒトおよびマウスにおいて同定されて来ており、例えば、rasおよびp53の様々な異常産物が、種々の腫瘍において見出されている。腫瘍の様々な型において一般的に見いだされる腫瘍抗原に加えて、本発明者は、腫瘍のサイズおよび遺伝子不安定性の程度に応じて、ヒト腫瘍が数10〜数100の真に腫瘍特異的なエピトープを有し得るということを認めた。本明細書において用いられる場合、腫瘍特異的エピトープは、ある具体的な腫瘍に特異的であるが、通常は腫瘍抗原と見なされていないエピトープである。
【0034】
さらに、本明細書に開示される方法によって同定される単離された腫瘍特異的エピトープペプチドも、本明細書には含まれる。「単離された」または「精製された」ペプチドは、当該蛋白質が由来する細胞または組織源からの、細胞性の物質または他の汚染ポリペプチドを実質的に含まない。または、化学的に合成されたときには、化学物質前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。用語「細胞性の物質を実質的に含まない」は、ポリペプチドの調製物であって、ポリペプチドが単離または組み換え的に作られた元の細胞の細胞構成要素からポリペプチドが分離されているものを含む。腫瘍特異的エピトープペプチドは、通常は、7〜25アミノ酸、特に8〜15アミノ酸の長さを有する。
【0035】
腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる同定された個々のペプチドは、当分野において公知の方法を用いて免疫原性について試験され得る。
【0036】
一実施形態においては、各腫瘍特異的エピトープに対応するペプチドが採用される。別の実施形態においては、2つ以上の腫瘍特異的エピトープを含有するポリペプチドが採用される。非エピトープリンカーによって任意選択で離間された複数の腫瘍特異的エピトープを含有する1つのポリペプチドが採用され得る。かかるポリペプチドは、当業者によって直ちに設計され得る。
【0037】
一部の実施形態においては、腫瘍特異的ペプチドのかわりに、医薬組成物は、ペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含む。ペプチドは、全て、同じポリヌクレオチド分子からまたは複数のポリヌクレオチド分子から発現され得る。
【0038】
「ポリヌクレオチド」または「核酸配列」は、長さが少なくとも5塩基のヌクレオチドのポリマ形態を指す。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、または何れかのヌクレオチドの改変された形態であり得る。ポリヌクレオチドは、1つの組み換え発現ベクタまたは複数のベクタに挿入され得る。用語「組み換え発現ベクタ」は、ペプチド遺伝子配列の挿入または組み込みによって操作された、プラスミド、ウィルス、または当分野において公知の他の手段を指す。用語「プラスミド」は、通常は、当業者に周知の標準的な命名慣習に従い、大文字および/または数字を前置および/または後置された小文字「p」によって示される。本明細書に開示されるプラスミドは、市販、無制限に公的に利用可能、または周知の公開された手順の通常の応用によって入手可能なプラスミドから構築可能である。多くのプラスミドならびに他のクローニングおよび発現ベクタが、周知であり、直ちに入手可能である。または、当業者は、使用に好適な他のプラスミドの任意の個数を直ちに構築し得る。それらのベクタは、適当な宿主細胞に形質転換されて、ポリペプチドの生産のための宿主細胞ベクタ系を構成し得る。
【0039】
ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、細菌、酵母、昆虫、両生類、または哺乳類細胞による発現に適合したベクタに挿入され得る。これは、ペプチドをコードする核酸分子に対して機能的に連結された、細菌、酵母、昆虫、両生類、または哺乳類細胞における核酸分子の発現に必須な制御エレメントをさらに含む。「機能的に連結」は、上記の複数の構成要素が、それらの所期の様式で機能することを可能にする関係になるような並列化を指す。コード配列に機能的に連結された発現調節配列がライゲーションされて、コード配列の発現が発現調節配列と適合性の条件下において達成されるようになる。本明細書において用いられる場合、用語「発現調節配列」は、それが機能的に連結される相手の核酸配列の発現を制御する、核酸配列を指す。発現調節配列は、発現調節配列が核酸配列の転写、および適宜翻訳を調節し制御するときには、核酸配列に対して機能的に連結されている。したがって、発現調節配列は、蛋白質をコードする遺伝子の前にある適切なプロモータ、エンハンサ、転写ターミネータ、開始コドン(すなわちATG)、イントロンのスプライシングシグナル(もしもイントロンが存在する場合)、当該遺伝子の正しい読み枠の維持(mRNAの正しい翻訳を可能にするため)、および終止コドンを含み得る。用語「調節配列」は、その存在が発現に影響し得る構成要素を少なくとも含むことが意図されており、また、その存在が有利であるさらなる構成要素、例えばリーダー配列および融合パートナー配列も含み得る。発現調節配列はプロモータを含み得る。「プロモータ」によって、直接転写を行わせるのに十分な最小配列を意味する。さらに、プロモータ依存性遺伝子発現を、調節可能、細胞型特異的、組織特異的、または外部シグナルまたは作用物質によって誘導可能にするために十分な、プロモータエレメントも含まれる。かかるエレメントは、遺伝子の5’または3’領域に位置し得る。構成的および誘導的プロモータが両方とも含まれる。
【0040】
医薬組成物(例えばワクチン)は、少なくとも1つの単離された腫瘍特異的エピトープペプチド(または、かかるエピトープペプチドをコードするRNAもしくはDNA)と医薬的に許容される担体とを含む。医薬的に許容される添加剤は、例えば、希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、およびアジュバントを含む。本明細書において用いられる場合、「医薬的に許容される添加剤」は当業者にとって周知である。一実施形態においては、医薬組成物は、有効成分の局所送達、例えば腫瘍部位への直接的な送達を可能にする。
【0041】
特定の実施形態においては、医薬組成物が、腫瘍特異的エピトープのセットに由来する1〜100個の腫瘍特異的エピトープペプチド、特に、腫瘍特異的エピトープのセットに由来する3〜20個の腫瘍特異的エピトープペプチドを含む。別の実施形態においては、医薬組成物が、腫瘍特異的エピトープのセットに由来する1〜100個の腫瘍特異的エピトープペプチド、特に、腫瘍特異的エピトープのセットに由来する3〜20個の腫瘍特異的エピトープペプチドを含有する、ポリペプチドを含む。別の態様においては、医薬組成物が、腫瘍特異的エピトープのセットに由来する1〜100個の腫瘍特異的エピトープペプチド、特に、腫瘍特異的エピトープのセットに由来する3〜20個の腫瘍特異的エピトープペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを含む。
【0042】
一実施形態においては、静脈内、筋内、皮下、皮内、経鼻、経口、直腸、膣内、または腹腔内投与に好適な医薬組成物が、レシピエントの血液と好ましくは等張な溶液と有効成分との無菌水溶液を好都合に含む。かかる製剤は、ペプチドを水(生理的に適合性の物質、例えば塩化ナトリウム(例えば0.1〜2.0M)、グリシンなどを含有し、生理条件と適合性の緩衝化されたpHを有する)に溶解して水溶液を作り、前記溶液を無菌にすることによって好都合に調製され得る。それらは、単位または複数用量容器、例えば密封されたアンプルまたはバイアル中に存在し得る。
【0043】
さらなる製薬方法が用いられて、作用期間を制御できる。放出制御型製剤は、ペプチドまたは核酸を複合体化または吸収するポリマの使用によって達成され得る。制御型の送達は、適切な巨大分子(例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、または硫酸プロタミン)、巨大分子の濃度、および組み込みの方法を、放出を制御するために選択することによって実施され得る。放出制御型製剤によって作用期間を制御するための、もう1つの考えられる方法は、蛋白質、ペプチド、およびそれらのアナログを、ポリマ材料、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ乳酸、またはエチレンビニルアセテートコポリマの粒子中に、組み込むことである。または、それらの作用物質をポリマ粒子中に組み込む代わりに、それらの物質を、マイクロカプセル(例えば、コアセルベーション技術もしくは界面重合によって調製される。例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースもしくはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)中、またはコロイド系薬物送達システム(例えばリポソーム、アルブミンマイクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)中、またはマクロエマルション中に、封入することが可能である。
【0044】
疾患部位への局所投与は、当分野において公知の手段によって達成され得、局部塗布、注射、およびペプチドを組み換え的に発現する細胞を含有する多孔質デバイスのインプラント、ペプチドが含有されている多孔質デバイスのインプラントを含むが、それらに限定されない。
【0045】
一実施形態においては、腫瘍特異的ペプチドまたはポリヌクレオチドは、癌患者の細胞と混合される。これは、例えば、混合またはパルス処理し、次に、混合またはパルス処理された細胞を癌患者に投与することによって行われる。
【0046】
一実施形態においては、ワクチン組成物が、免疫調整剤をさらに含む。例示的な免疫調整剤は、TLRリガンド、例えば、CpGオリゴヌクレオチドDNA(TLR9リガンド)、リポペプチドおよびリポ蛋白質(TLR1およびTLR2リガンド)、ポリI:Cおよび二本鎖RNA(TLR3リガンド)、リポ多糖(TLR4リガンド)、ジアシルリポペプチド(TLR6リガンド)、イミキモド(TLR7リガンド)、ならびにTLRリガンドの組み合わせを含む。別の例示的な免疫調整剤は、抗体、例えば抗細胞傷害性Tリンパ球抗原−4抗体(抗CTLA−4)もしくはProgrammedDeath1(PD1)を遮断する抗体、またはPD1リガンドである。
【0047】
免疫調整剤の組み合わせも考えられる。例は、ワクチンと、TLRリガンドおよび抗CTLA4抗体またはCpGおよびPD1を遮断する抗体との組み合わせである。
【0048】
一実施形態においては、医薬組成物が、腫瘍特異的エピトープのセットに由来する1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチドと医薬的に許容される担体とを含み、腫瘍特異的エピトープのセットは公知の癌の原因となる経路を含まず、腫瘍特異的エピトープのセットは癌患者の腫瘍に特異的である。本明細書において用いられる場合、腫瘍特異的エピトープのセットは、癌患者の正常組織DNAに対して腫瘍DNAを比較して、DAIアルゴリズムを用いることによって同定された一群のエピトープである。
【0049】
本明細書において用いられる場合、患者は哺乳動物、例えばマウスまたはヒトであり、特にヒト患者である。
【0050】
本明細書に記載される組成物および方法は全ての癌に適用可能であり、これは固形腫瘍癌、例えば乳房、前立腺、卵巣、肺、および脳のもの、ならびに液性癌、例えば白血病およびリンパ腫を含む。
【0051】
本明細書に記載される方法は、さらなる癌治療、例えば放射線治療、化学療法、外科手術、およびそれらの組み合わせと、さらに組み合わされ得る。
【0052】
別の態様においては、免疫療法の癌患者を選択する方法が、本明細書において開示される。実施例2において説明されるように、新しい原発癌は、非同義的な変化をコードする1ヌクレオチドバリアントの低い割合を有するということが、予想外に発見された(長年存在している腫瘍株においては約78%、新しい原発癌においては23〜46%)。理論に拘束されるものではないが、新しい原発癌における非同義的な変異の減少した数は、新しい癌に対する免疫系の積極的な応答が原因だと信じられる。新しい腫瘍を有する患者は、免疫系の高い活性レベルゆえに、免疫療法のより良い候補者である。したがって、腫瘍に含まれる非同義的な1ヌクレオチドバリアントの割合は、免疫療法を評価するための臨床試験および免疫療法を用いる治療の候補者を同定するために用いられ得る。
【0053】
一態様においては、癌患者を免疫療法の候補者として同定する方法は、
癌患者のRNAまたはDNAの少なくとも一部を、健常組織および癌組織の両方についてシーケンシングして、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを作ることと、
健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列とを比較して、健常組織RNAまたはDNA配列と癌組織RNAまたはDNA配列との間の差分を同定し、差分DNAマーカセットを作ることと、
差分DNAマーカセットを分析して腫瘍特異的エピトープのセットを作り、腫瘍特異的エピトープのセットは1つ以上の腫瘍特異的エピトープを含むことと、
腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる非同義的な1ヌクレオチドバリアントの割合を定量することと、
腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる1ヌクレオチドバリアントの65%未満が非同義的な1ヌクレオチドバリアントであるときに、癌患者を免疫療法の候補者として同定することと、
を含む。
【0054】
別の態様においては、腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる1ヌクレオチドバリアントの50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、さらには25%未満が、非同義的な1ヌクレオチドバリアントであるときに、癌患者は免疫療法の候補者として同定される。
【0055】
患者が免疫療法の候補者として同定されるときには、方法は、腫瘍特異的エピトープのセットに含まれる各エピトープについて、差分アグレトープ指数と呼ばれる数値スコアを提供することをさらに含む。差分アグレトープ指数は、正常エピトープのスコアを腫瘍特異的エピトープのスコアから本願記載のように減算することによって、計算される。方法は、さらに任意選択で、医薬的に許容される担体と、1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチド、もしくは1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドと、を含む医薬組成物を作り、1つ以上の腫瘍特異的エピトープペプチドは腫瘍特異的エピトープのセットから選択され、任意選択で癌患者に医薬組成物を投与することと、を含む。
【0056】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0057】
[材料と方法]
マウスおよび腫瘍:BALB/cJマウス(6〜8週齢の雌)が、ジャクソン研究所(バーハーバー、メイン州)から購入された。B10.D2のTRAMPマウスは、アダム・アドラー博士から提供された。マウスは、コネチカット大学保健センタの無ウィルスのマウス施設において飼育された。MethAおよびCMS5は、BALB/cマウスにおいてメチルコラントレンによって誘発された線維肉腫である。
【0058】
試料調製:試料は、「mRNAシーケンシング用の試料調製(Preparing Samples for Sequencing of mRNA)」(品番1004898改訂A、2008年9月)に概述されたイルミナ(登録商標)プロトコールを用いて調製された。プロトコールは、2つの部、すなわちcDNA合成およびpaired−endライブラリ調製からなる。先ず、mRNAが、磁性オリゴ(dT)ビーズを用いて全RNAから精製され、次に、高温下において2価カチオンを用いて断片化された。cDNAが、Superscript(登録商標)II(インビトロジェン(商標))を用いて断片化されたmRNAから合成され、続いて第2鎖合成が行われた。cDNA断片の末端は、Klenow、T4DNAポリメラーゼ、およびT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて修復およびリン酸化された。次に、「A」塩基が、平滑化された断片の3’末端に付加されて、続いてT−Aライゲーションによるイルミナ(登録商標)Paired−Endアダプタのライゲーションが行われた。ライゲーションされた産物はゲル精製によってサイズ選択され、次に、イルミナ(登録商標)Paired−Endプライマを用いてPCR増幅された。ライブラリサイズおよび濃度は、アジレント社のバイオアナライザを用いて決定された。
【0059】
GAII処理条件:RNA−Seqライブラリが、フローセル上に8pMでシーディングされて、約282K〜384Kクラスタ/タイルを生じた。ライブラリは、61サイクルのケミストリおよびイメージングを用いてシーケンシングされた。
【0060】
シーケンシングデータの解析:当初のデータ処理およびベースコールは、クラスタ強度の抽出も含めて、RTA(SCSバージョン2.6およびSCSバージョン2.61)を用いて行われた。配列品質のフィルタリングスクリプトが、イルミナ(登録商標)CASAVAソフトウェア(バージョン1.6.0、イルミナ(登録商標)、ヘイワード、カリフォルニア州)によって実行された。
【0061】
Epi−Seqバイオインフォマティクスパイプライン:ハイスループットmRNAシーケンシングデータ(RNA−Seq)から腫瘍特異的エピトープを同定するために用いられる、バイオインフォマティクスのパイプラインの高レベル表現が図1に示されている。パイプラインは、RNA−Seqリードを、サンガーマウスゲノムプロジェクトからダウンロードされた系統特異的なゲノム配列およびCCDSアノテーションに由来する系統特異的な一倍体転写物ライブラリに対してマッピングすることによって開始する。本発明者は、BALB/cゲノム/トランスクリプトーム配列をCMS5およびMethA細胞株について用い、C57BL配列をB10D2マウスから生じた自然発生前立腺腫瘍について用いた。リードは、Bowtieを用い、デフォルトのシード長28、シード中の最大ミスマッチ2、およびミスマッチ位置における最大phred品質スコア125を用いてマッピングされた。マッピングの最初のラウンド後に、本発明者は、ミスマッチの統計を各リード位置および各試料について計算した(データは示さない)。この分析に基づいて、5’末端の2塩基および3’末端の10塩基が、全てのアラインメントされたリードからクリッピングされた。得られたリードのアラインメントは、HardMergeアルゴリズムを用いてマージされた。HardMergeは、ゲノムおよび/またはトランスクリプトーム中の複数の位置にアラインメントするリードと、両方に対して特有ではあるが一致しない位置においてアラインメントするリードとを棄却する。ライブラリ調製中にPCR増幅によって導入されるバイアスの影響を低減するために、本発明者は、同じゲノム上の位置からアラインメントが始まる多数のリードを、それらのコンセンサスによって置き換えた。SNVQアルゴリズムが次に用いられて、アラインメントされたリードのフィルタリングされたセットから、1ヌクレオチドバリアント(SNV)を決定した。SNVQはベイズのルールを用いて、塩基品質スコアを考慮に入れながら、最も高い確率の遺伝子型を決定する。高信頼度のSNVが、それぞれの決定された遺伝子型に対する最小phred品質スコア50、もう一方のアレルを支持する最少のリード3、さらに各鎖のリードマッピング少なくとも1、を必要条件とすることによって選択された。決定されたSNV遺伝子型のハプロタイプの推論は、RefHap単一個体ハプロタイプ決定アルゴリズムを用いて行われた。これは、リードの証拠を用いて近位SNVのブロック同士をフェージングする。実験に用いられた近交系マウスの残存するヘテロ接合性は低いと予想されるので、固有のヘテロ接合型SNVは新規の体細胞変異だと考えられた。同じゲノムバックグラウンドの複数の腫瘍に共通のホモ接合型SNVおよびヘテロ接合型SNVは、生殖系列変異であると推測され、固有のヘテロ接合型SNVの近傍に位置していない限り、エピトープ予測には用いられなかった。それぞれの固有のヘテロ接合型SNVについて、参照およびもう一方のペプチド配列が、2つの推論されたハプロタイプに基づいて各CCDS転写物について作られた。作られたアミノ酸配列は、次に、NetMHC3.0エピトープ予測プログラムによって処理され、プロファイル重み行列(PWM)アルゴリズムを用いて、デフォルトの検出閾値を用いてスコア付けされた。
【0062】
結合試験:H−2Kに対するペプチドの結合が、精製MHC分子に対する放射性標識された標準ペプチドの結合の阻害に基づく定量的試験を用いて、本質的に当分野において公知の通り測定された。簡潔には、0.1〜1nMの放射性標識された公知のMHC結合ペプチド(H−2コンセンサスモチーフペプチド1079.03:配列KFNPMFTYI(配列番号1))が、室温において、種々の量の未標識試験ペプチド、1〜10nMのH−2K分子(アフィニティクロマトグラフィによって精製されたもの)、プロテアーゼ阻害剤カクテル、および1μMのヒトβ2ミクログロブリン(ScrippsLaboratories、サンディエゴ、カリフォルニア州)と一緒にインキュベーションされた。2日間のインキュベーション後に、MHC−ペプチド複合体は、モノクローナル抗体SF1−1.1.1によってコーティングされたLUMITRAC600マイクロプレート(グライナーBio−one、ロングウッド、フロリダ州)上に捕捉された。結合した放射活性が、TopCount(登録商標)マイクロシンチレーションカウンタ(Packard Instrument社、メリデン、コネチカット州)を用いて測定された。放射性標識されたプローブペプチドの結合の50%阻害を生ずるペプチドの濃度(IC50)が、次に計算された。ペプチドは、概ね、100,000倍の用量範囲に渡る6種類の濃度で、3つ以上の独立した試験によって試験された。用いられた条件は[標識]<[MHC]およびIC50≧[MHC]であり、測定されたIC50値はKD値の適当な近似値である。
【0063】
足蹠免疫:ペプチド(300μgペプチド、75μlのPBS中)が、30分間2,500RPMで75μlのTiterMax(登録商標)(シグマ・アルドリッチ(登録商標)社、セントルイス、ミズーリ州)によるボルテックスによって、乳化された。マウスが、足蹠において50μlのエマルションによって免疫された。1週間後に、膝窩dLNが、細胞内IFN−γ試験のために採取された。
【0064】
細胞内IFN−γ試験:脾細胞またはリンパ球が、1〜10μg/mlペプチド有りまたは無しでインキュベーションされた。GolgiPlug(商標)(BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)が1時間後に添加された。5%COを用いた37℃における12〜16時間のインキュベーション後に、細胞は、CD44(クローンIM7)、CD4(クローンGK1.5)、およびCD8(クローン53−6.7)(BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)について染色され、Cytofix/Cytoperm(商標)キット(BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)を用いて固定および透過処理され、細胞内IFN−γについてフィコエリトリン結合抗マウスIFN−γ(クローンXMG1.2、BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)を用いて染色された。細胞は、1μl抗体/10細胞によって50μlの染色緩衝液(1%ウシ血清アルブミンを含むPBS)中において染色され、20分間4℃において遮光してインキュベーションされた。または、これは製造者の取扱説明書に従って行われた。細胞は、FACSCalibur(商標)フローサイトメータ(ベクトン・ディッキンソン、サンノゼ、カリフォルニア州)によって評価された。結果はFlowJoソフトウェア(TreeStar、サンカルロス、カリフォルニア州)を用いて分析された。表面CD44および細胞内IFN−γが、ゲーティングされたCD8CD4細胞を用いて定量された。
【0065】
腫瘍チャレンジおよび腫瘍の成長の表現:BALB/cJマウスが、放射線処理されたペプチドによってパルス処理された脾細胞(2000rad)の皮内注射によって、週に2回免疫された。マウスは腫瘍チャレンジの前日に剃毛された。最終回の免疫の7日後に、100,000個の生きたMethA腹水細胞、または200,000個の培養されたCMS5細胞(トリパンブルー排除法により生存度>98%)が、マウスの右横腹に皮内注射された。一部の実験においては、免疫調整療法が免疫と組み合わされた。一部のマウスは、50μgのCpG−ODN1826(インビボジェン(商標)、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて2週間毎に2回皮下注射された。CD25細胞を攻撃するために、250gの抗CD25mAb(クローンPC61、ラットIgG1、MSKCCモノクローナル抗体コアファシリティ、ニューヨーク、ニューヨーク州)が、腫瘍チャレンジの2日前に腹腔内注射された。100マイクログラムの抗CTLA−4抗体(クローン9D9、マウスIgG2b、BioXCell、ウエストレバノン、ニューハンプシャー州)が、腫瘍チャレンジの7日前および腫瘍チャレンジ後3日毎に腹腔内注射された。腫瘍の直径が、1週間に2度カリパスによって測定された。マウスは、腫瘍が潰瘍化したとき、最大直径20mmに達したとき、またはマウスが不快の何らかの印を示したときに屠殺された。腫瘍の成長を測定するためのツールとしてのAUCが、当分野において記載されている。簡潔には、AUCは、Prism(登録商標)5.0(GraphPadソフトウェア社、ラホーヤ、カリフォルニア州)を用いて、「曲線と回帰(Curves & Regression)」を選択し、次に「曲線下面積(Area under curve)」を「分析(analyze)」ツールから選択することによって計算された。グラブス検定が用いられて、各群から最大1つの外れ値を除去した。
【0066】
統計分析:群間比較のためのP値は、両側のノンパラメトリックなマン・ホイットニ検定を用い、GraphPadPrism(登録商標)5.0(GraphPadソフトウェア社、ラホーヤ、カリフォルニア州)を用いて計算された。腫瘍拒絶試験については、グラブス検定が用いられて、各群から最大で1つの外れ値を除去した。フィッシャの正確確率検定が、任意の2つのパラメータ間の相関を評価するために用いられた。
【0067】
<実施例1>
[トランスクリプトームからイミュノーム(immunome)へ]
dハプロタイプの6つのマウス腫瘍(BALB/cマウスのCMS5およびMethA線維肉腫、ならびにB10.D2のTRAMPマウスの4つの原発性前立腺癌)のトランスクリプトームが、種々の深度でシーケンシングされた。特に腫瘍において発現されている遺伝子の変異を同定するために、ゲノムまたはエキソームシーケンシングではなく、トランスクリプトームシーケンシングが選ばれた。大まかに言って、得られたcDNA配列は正常なマウス配列と比較され、1ヌクレオチドバリアント(SNV)が個々の腫瘍において同定された(表1)。
【0068】
【表1】
【0069】
図1および表2は、バイオインフォマティクス的なパイプラインと、この分析のために作られた品質管理ステップとを示している。このパイプラインは、Epi−Seqパイプラインと名付けられ、一般にアクセス可能である。SNVは、NetMHCアルゴリズムを用いて、K、D、またはLアレルのMHCIに限定されるエピトープを生み出すそれらの可能性について分析された(このパイプラインの全出力は示さない)。定まった閾値を用いて、推定上のエピトープのこの膨大な個数は、より少数まで絞られた(表1)。この分析によれば、化学的誘発腫瘍株MethAおよびCMS5は、それぞれ823個および112個の潜在的エピトープを含んでいる(表1)。これらの2つの株間において同定されたエピトープの個数の違いは、それらのトランスクリプトームがシーケンシングされた深度の反映である。推定上のネオエピトープ(MethAについてのみ示されている)は、ゲノム全体にランダムに分布している(図2)。例外はX染色体であり、かなり少ない非同義的な変異および少ないエピトープを有する。これは恐らく、哺乳動物のこの染色体のより低い遺伝子密度のためである。2つの腫瘍MethAおよびCMS5が、T細胞および抗体をプローブとして用いる腫瘍特異的エピトープの同定にとって長年の使役馬であったことを指摘しておくことは重要である。免疫学的なプローブを用いる25年を超える大量の分析は、MethAについて4つのエピトープ、CMS5腫瘍について1つのエピトープしかもたらさなかった。
【0070】
【表2】
【0071】
長年存在しているMethAおよびCMS5腫瘍株とは対照的に、4つの自然発生前立腺癌において検出された、Kによって提示されるネオエピトープの個数は非常に少ない(0〜18)。自然発生前立腺癌は非常に最近の年代物であり、腫瘍の実年齢は6ヶ月未満であり、それらの腫瘍におけるエピトープの少ない個数は、ネオエピトープが細胞分裂毎の自然突然変異率の結果として生み出されるという命題と矛盾しない。
【0072】
本発明者は、このバイオインフォマティクス的なパイプラインを用いて、14種類のヒトの前立腺癌および正常組織のトランスクリプトームシーケンシングデータに由来する変異の新規公開リストを分析し、最も一般的なHLAアレルに対する多数の推定上のエピトープを同定した(表3)。興味深いことに、ヒト前立腺癌は、比較的少数のネオエピトープを含んでいることが観察される。これは、ヒト腫瘍がマウス腫瘍よりも恐らくかなり古いにもかかわらず、TRAMPマウスの自然発生腫瘍において見られる個数に匹敵する。いくつかのヒトメラノーマのエキソーム配列の分析と、バイオインフォマティクス的なパイプラインによる対応する正常配列に対するそれらの比較とは、ヒトメラノーマあたり数百の推定上のネオエピトープを発見している。ヒト腫瘍間におけるネオエピトープの個数のかかる大きい差分のいくつかの根拠が想像され得、試験され得る。
【0073】
【表3】
【0074】
<実施例2>
[免疫編集の見込みのある指標である、非同義的な変異の割合]
長年存在している腫瘍株と新しい原発癌との間の第2の重要な違いは、同義的な変異とは対照的な、非同義的な変異(これは、コードされたアミノ酸の変化をもたらす)をコードするSNVの割合である(腫瘍株において約78%、原発癌において23〜46%)。遺伝コードの縮退および各コドンの使用頻度に基づくと、変異の任意抽出の集団における非同義的な変異の割合は約75%と推測される。これは、腫瘍株CMS5およびMethA、ならびに8つのヒト癌株(インビトロで培養され、したがって免疫学的な選択圧を受けていない)において実際に見られた。原発癌における非同義的な変異の劇的に減少した(23〜46%の)割合は、非同義的な変異を有する腫瘍細胞のかなりの割合が免疫系によって排除された、という仮説によって最も良く説明され得る。腫瘍形成の初期における免疫編集の、強い独立した証拠が存在する。本発明者のデータは、腫瘍に含まれるパッセンジャ変異の総数の一部としての非同義的なパッセンジャ変異の個数が、当該腫瘍における免疫編集の状態を予測するということを初めて示唆している。14個のヒト前立腺癌標本のトランスクリプトーム配列の分析は、編集されていない腫瘍の場合の約75%という期待値と比較して、変異の約60%が非同義的であるということを示している。この数字は、TRAMPマウスの若い前立腺腫瘍が積極的な免疫学的選択を受けている(変異の23〜47%が非同義的である)一方で、進行したヒト腫瘍は恐らく既に逃避相にある(変異の60%が非同義的である)ということを意味している。ヒトメラノーマにおける同様の分析は、58%〜72%という非同義的な変異の多様な割合を示しており、免疫編集の多様な段階にある腫瘍を示唆している。
【0075】
<実施例3>
[インシリコで同定されたネオエピトープの免疫原性]
焦点を絞るために、全ての3つのアレルの935個という合計リストから、218個のKに限定されるエピトープ(合計したMethAおよびCMS5から)に注目が向けられた(表1)。CMS5およびMethA腫瘍の119/218の予測されたエピトープが選択され、BALB/cマウスを免疫するために用いられた。免疫されたマウスの流入領域リンパ節(dLN)が、1回の免疫の1週間後に採取され、細胞は、16時間インビトロにおいて刺激された(添加されたペプチド無し、または免疫に用いた変異体ペプチド、もしくは対応する野生型ペプチド)。CD8+細胞は、活性化(CD44+)およびエフェクタ機能(インターフェロンγ+)について分析された。免疫反応性の全てのあり得るパターン、すなわち免疫応答なし(83/119)、変異体ペプチド特異的、すなわち腫瘍特異的免疫応答(21/119)、変異体と対応する野生型ペプチドとの間の交差応答(8/119)、および非特異的応答(7/119)が、観察された(図3、5)。4種類の応答の全てが、両方の腫瘍によって惹起された(図5)。意外なことに、推定上のエピトープの大きな割合(83/119すなわち70%)は、免疫応答を全く惹起しなかった。Kに対する全てのペプチドの親和性が、「方法」に記載されたように実験的に決定された。有意な相関が、K−ペプチド相互作用の測定されたIC50と免疫応答との間において観察された(P=0.003、フィッシャの正確確率検定による)。
【0076】
対照としては、変異体ペプチドに対応する野生型(非変異体ペプチド)が、マウスを免疫するために用いられ、免疫応答について試験された(図4、5)。試験されたペプチドの少数だが意外なほど相当数の15%が、特異的な応答を惹起した(n=66)。恐らく、それらの自己エピトープに対するCD8+T細胞は、中枢性の排除を受けなかった。本発明者の知る限り、これは、免疫原性について試験された多数の正常配列の初めての実験的検証である。自己免疫原性エピトープの割合は小さいけれども、予想され得たよりもかなり大きい(ただし正確な見積もりは存在しない)。または、選択される正常配列の多くは、抗原のプロセシングに対する障害ゆえに、実際に提示されたことがないクリプティックなエピトープにあたり得る。
【0077】
同定されたネオエピトープに関して抗原性の不均一さの程度を決定するために、MethA細胞がクローニングされ、30個の別個のクローンが、ランダムに選択された4つのSNVのそれぞれについて試験された。意外なことに、1つのSNVを除く全てが、全てのクローンにおいて発現されていた。1つのSNVも、試験された29/30のクローンにおいて発現されていた(データは示さない)。理論に拘束されるものではないが、抗原性の不均一さのこの欠如は、シーケンシングの比較的浅い深度に帰せられる。この考えを逆さに見ると、任意の腫瘍の最も幅広い抗原性の特徴のみを同定するための方法論として、比較的浅いシーケンシングを用いることが可能である。
【0078】
<実施例4>
[推定上のネオエピトープの腫瘍防御性]
予測されたエピトープが防御性の腫瘍免疫を惹起する能力が、実験によって評価された。最高のNetMHCスコアを有する7個のCMS5エピトープおよび11個のMethAエピトープ(表4)が試験された。BALB/cマウスが、個々のペプチドによって2回免疫され(「方法」に記載の通り)、最終回の免疫の1週間後に、しかるべき腫瘍によってチャレンジされた。図6は、何れのネオエピトープも腫瘍の成長に対する防御を惹起しなかった(0/18すなわち0%)が、それらの一部は実際にエフェクタCD8応答を惹起したということを示している。
【0079】
【表4】
【0080】
この予期せぬ結果を理解するために、理論に拘束されるものではないが、本発明者は、NetMHCスコアはそれ自体では腫瘍防御免疫原性の予測因子になり得ないと推論した。なぜなら、それらのエピトープの非変異体対応物そのものも、良いNetMHCスコアを有し得るということがあり得るからである。結果として、高スコアを持つもの(およびそれらの変異体対応物)に対するT細胞レパートリは、中枢性の排除または末梢性の寛容を受けているかもしれない。本発明者は、したがって、新規のアルゴリズムを作成した。ここでは、予測された変異体エピトープの非変異体対応物のNetMHCスコアが考慮に入れられ、これは、変異体エピトープの対応するNetMHCスコアからそれらを減算することによって行われた。本発明者は、エピトープのこの新規属性を、その差分アグレトープ指数(DAI)と呼ぶ。推定上のエピトープは、DAIに基づいて今や順位づけされた(表5)。両方の腫瘍について、このDAIによって順位づけされたリストの概要は、いくつかの興味深い面を示している。すなわち、(a)このリストに含まれる全てのネオエピトープは、2つのアンカー残基のうち1つにおけるアミノ酸の変化を生ずる変異を示す。(b)それらの変化の全ては、位置2におけるチロシン→アスパラギン酸、またはカルボキシ末端におけるロイシン→プロリンもしくはアルギニンである。(c)上位のDAIによって順位づけされたネオエピトープの圧倒的大多数は、Kdに対する弱い結合因子のPWMペプチド結合スコアの閾値である、8.72未満のNetMHCスコアを有する(NetMHC3.0)。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
上位のDAI順位の、CMS5の20個のエピトープおよびMethAの25個のエピトープが、腫瘍拒絶試験によって試験された。結果(図7)は、6/20すなわち30%のCMS5エピトープおよび4/25すなわち16%のMethAエピトープが、統計的に有意な腫瘍防御免疫原性を示したということを示している(p値は0.023)。統計的有意性は、片側のフィッシャの正確確率検定を用い、DAIによって選択されたエピトープのセットに含まれる腫瘍防御エピトープの個数とNetMHCスコアによって選択されたものとを比較することによって評価された(それぞれ10/45および0/18)。図8は、2つの防御性および1つの非防御性CMS5エピトープのいくつかの典型的な腫瘍拒絶曲線を示している(MethAエピトープに関する対応する曲線は、当該エピトープの活性のより詳細な分析と一緒に、図11に示されている)。このアルゴリズムは、最高のNetMHCまたはMHC結合スコアに頼ることよりも腫瘍防御エピトープのはるかに豊かな成果をもたらしたが(図6参照)、本発明者の新規アルゴリズムによって同定されたほとんどのエピトープは、依然として腫瘍防御を惹起しない。明らかに、推定上のエピトープの他の特性、例えば恐らくエピトープの直接的な提示の程度およびMHC−ペプチド複合体の安定性が、腫瘍拒絶活性に寄与している。しかしながら、エピトープの測定されたK結合およびT細胞応答を惹起するそれらの能力は、腫瘍防御活性との相関を有さないことが観察された(腫瘍拒絶とK結合との相関はP=0.45、腫瘍拒絶と免疫原性との相関は0.27)。エピトープの免疫原性と臨床研究におけるその腫瘍防御活性の欠如との間の相関の欠如の、いくつかの例が存在している。その不完全さにもかかわらず、DAIは、腫瘍防御免疫原性の統計的に有意で新規の予測因子である。
【0084】
エピトープsy−MLQALCI(配列番号78)(野生型LDMLQALCI(配列番号79))、変異体トランスポーチン3(Tnpo3)由来エピトープ、MethAの最上位の順位(DAIによる)のエピトープ(表5)の腫瘍防御免疫原性が、さらに詳しく検討された。Tnpo3は、セリン/アルギニンリッチ蛋白質に対する核内輸送受容体であり、マウス6番染色体上の遺伝子によってコードされており、今までに報告されているいかなる腫瘍型のドライバ蛋白質でもない。変異体Tnpo3エピトープは、厳密に腫瘍特異的なCD8+免疫応答を惹起することが示された。これは、変異体Tnpo3によって免疫されたマウスが、エクスビボにおいて変異体ペプチドには強い腫瘍特異的反応性を示すが、野生型ペプチドには示さないという能力によって分かる(図9)。逆に、MethA腫瘍細胞によって免疫されたマウスから単離されたCD8+CD44+IFNγ+細胞は、変異体Tnpo3によってパルス処理された細胞を認識するが、無関係なK結合ペプチドPrpf31によってパルス処理された細胞は認識しない(図10)。これらの観察結果は、変異体Tnpo3ペプチドがMethA細胞によって天然に提示されているということ、さらに、それに対する免疫応答が腫瘍細胞丸ごとによる免疫によって惹起されるということを裏付けている。興味深いことに、MethAからMHCI溶出したペプチドの質量スペクトル分析によってこの変異体ペプチドを同定するという試みは、成功しなかった。これは恐らく、質量分析と比較したT細胞試験のより高い感度のためである。
【0085】
<実施例5>
[免疫調整剤によるネオエピトープの腫瘍防御性の増強]
免疫と変異体ネオエピトープとの組み合わせが、MethAネオエピトープTnpo3を用いて試験された。このネオエピトープは、単剤療法において中程度にしか腫瘍防御性でなく、したがって、併用療法による増強された効果の試験にあたってより広いダイナミックレンジを可能にする。図11に見られるように、CpG単独は、腫瘍の成長に対する有意な防御を惹起した(P=0.007)。変異体Tnpo3単独は、腫瘍拒絶を2/9のマウス(ナイーブマウスにおける0/10と比較される)において惹起したが、その防御は示された実験においてAUCによる統計的有意性を達成しなかった(P=0.24)。しかしながら、2つの組み合わせは、極めて有意な強い腫瘍防御を惹起した(免疫されていないマウスと比較してP=0.005、変異体Tnpo3によって免疫された群と比較して0.045)。AUCによって測定された、組み合わせによる防御は、CpG単独に対して統計的に有意ではなかったが(P=0.9)、腫瘍を拒絶したマウスの数はずっと多かった(CpG単独における5/10と比較して、組み合わせにおいて8/10)。変異体Tnpo3による免疫とCD25に対するアンタゴニスト抗体(これは制御性T細胞を攻撃することが示されている)との組み合わせも、相乗効果を示した。抗CD25単独は完全な退縮を全マウスにおいて示し(P=0.007)、Tnpo3単独も有意な防御を惹起した(P=0.03)。組み合わせは、いずれの作用物質単独よりも有意な防御を示した(図12)。同様の結果は抗CTLA4抗体(これは、T細胞をチェックポイント遮断から解放する)でも得られた。各作用物質単独は統計的に有意な防御を惹起し、組み合わせはTnpo3単独よりも有意に有効であった(図12)。AUCによって測定されたところでは、組み合わせは、抗CTLA4抗体単独よりも統計的に有意に有効であることはなかった(P=0.09)。しかしながら、組み合わせは、完全な腫瘍退縮を2/5のマウスにおいて(抗体単独による1/5と比較される)、延長された腫瘍安定化を2/5のマウスにおいて(抗体単独の0/5のマウスと比較される)惹起した。
【0086】
要約:本開示は、真に腫瘍特異的な抗原性エピトープの秘宝を明らかにしている。エピトープのかなりの割合は、マウスモデルにおいて実際に腫瘍防御性である。ヒト腫瘍におけるそれらの豊富な存在は、以前に予想されモデリングされたように、ヒト前立腺癌(表6)およびメラノーマ(データは示さない)に関するゲノムデータから裏付けられる。T細胞が癌に対する免疫応答において中心的役割を明らかに果たしているにもかかわらず、T細胞が免疫防御性エピトープの同定のための特に貧弱なプローブであったように見えるということを認識することは目覚ましい。長年に渡るMethAおよびCMS5肉腫の腫瘍特異的抗原の大量の分析は、合計で5つのエピトープをようやくもたらした。対照的に、この1つの研究は、これらの2つの腫瘍の最少でも1ダース近い腫瘍防御エピトープを発見した。この矛盾の理由について熟考するのは有益である。プローブとしてのT細胞の使用は、T細胞株またはクローンの作製を本質的に必要とするが、これ自体が非常に選択的なプロセスである。インビボにおけるエフェクタT細胞の多様性は、作製されたT細胞株またはクローンによって直ちには表現されないようにも見え、したがって腫瘍のT細胞イミュノームの歪曲された貧弱な概観をもたらす。ゲノム分析は、T細胞の選択におけるバイアスを乗り越え、したがってネオエピトープの全体的な視界を明るくする。
【0087】
【表7】
【0088】
ヒトの癌のかかるネオエピトープは、対費用効果が高く時間に敏感な方法によって今や同定され得、免疫療法に用いられ得る。腫瘍防御エピトープは同定され得るが、ある特定のエピトープが腫瘍防御性であるかどうかを正確に予測することはできない。しかしながら、DAI、すなわち変異体エピトープおよびその非変異体対応物のNetMHCスコアの差分が良い予測因子であるという証明は、正しい方向への重要な第一歩であり、興味深い新たな可能性を提示している。第1に、DAIスコアの証明された有用性は、その前提の妥当性を強調している。すなわち、腫瘍防御性の免疫応答は、むしろエピトープが正常のものとは異なっているということを、それらが本質的に強いエピトープであるということよりも要求する。第2に、今となっては当然のことながら、アンカー残基におけるアミノ酸置換は最大の差分に通ずる(表5参照)。しかしながら、一部の置換(例えば、位置2におけるチロシン→アスパラギン酸、またはカルボキシ末端におけるロイシン→プロリンもしくはアルギニン)が非常に好まれるという観察結果は、新規であり、構造に関する謎の新たな道筋を示唆している。最後に、本発明者の考えでは、防御性の免疫を惹起する10/10のネオエピトープが、NetMHC3.0によるかかる指定の基準によって弱い結合因子として分類されるということは驚くべきである。この観察結果は、腫瘍防御免疫原性の基礎へのさらなる手がかりを提供し得る。
【0089】
さらに、各腫瘍型に含まれるネオエピトープの個数は今のところは不明であるが、さらなる研究が行われるにつれて明らかになるであろう。ヒト前立腺癌に関するデータ(表6)は、それらの個数が少なく、マウスの自然発生前立腺癌において見られる個数と同程度であり得るということを示唆している(表1)。一方、ヒトメラノーマのデータ(データは示さない)は、エピトープのさらにずっと大きなレパートリを示唆している。ヒト腫瘍間におけるネオエピトープの個数のかかる大きな差分のいくつかの根拠が想像され得、試験され得る。
【0090】
さらに、癌の抗原性の不均一さは、かなりの議論の対象となって来た。しかしながら、かなりの数の本物の腫瘍特異的抗原の不足にあって、議論は主として理論的なものであった。真の腫瘍特異的ネオエピトープの大きいレパートリの発見は、抗原性の不均一さ(および抗原のエスケープ)に関する謎が、前例のない強力な方法によって問いかけられることを今や可能にする。この問題のより良い解決は、T細胞エピトープの増々の精密な調整がヒトの癌の免疫療法に用いられることを可能にするであろう。
【0091】
抗原性の不均一さの問題に本質的に関連して来るのは、成長中の癌の免疫編集の役割である。腫瘍に対する免疫監視に関する従来の研究に附随して、腫瘍が免疫編集の排除、均衡、および逃避相を経るということが示唆されて来ており、この考えを支持する証拠が現れて来ている。任意の所与の腫瘍の腫瘍特異的ネオエピトープの大きなレパートリの利用可能性は、免疫編集がより一層の粒度によって取り組まれることを可能にする。理論に拘束されるものではないが、変異の総数の一部としての所与の腫瘍に含まれる非同義的な変異の量は、排除−均衡−逃避の流れにおける腫瘍の位置の良い指標であると信じられる。これは検証可能な予測であり、もしも正しいのであれば、癌の臨床治療の方針決定に役立ち得る。
【0092】
さらに、ネオエピトープによる免疫が種々の免疫調整剤と有効に組み合わされ得るということも示されており、それらは、自然免疫刺激剤(CpG)、抗制御性T細胞剤(抗CD25抗体)、およびチェックポイント遮断アンタゴニスト(抗CTLA4抗体)を含む。
【0093】
改変ペプチドリガンドは、腫瘍において過剰発現されている自己エピトープに対する免疫応答を増強するための手段として、癌免疫において用いられて来た。本発明者の分析によって同定されたネオエピトープは、自己エピトープに対する実際に天然に作られた改変ペプチドリガンドであり、したがって、抗自己T細胞応答を惹起すると考えられ得る。任意のマウスまたはヒト研究は、この可能性に留意することが望ましい。
【0094】
癌免疫に及ぼすその影響に加えて、多数の腫瘍特異的ネオエピトープの利用可能性は、抗原提示の分析の機会を劇的に高める。抗原提示に関する人類の知見のほとんどは、ほんの少数のウィルスまたはモデルエピトープの研究から来ている。それらの洗練された鋭意の研究は多くの情報をもたらしたが、数十または数百の新規エピトープは、それらの様々な性質ゆえに、さらなる機会を提供する。本明細書において同定されたエピトープのなかから、本発明者は、その親蛋白質が十分に発現されているように見え、MHCIに対する結合のための優良なモチーフを有し、免疫によって良好なCD8+T細胞を惹起し、しかも腫瘍細胞によって直接的に提示されない、いくつかを同定した。それらのプロセシングの分析は、抗原提示における新規のステップと既存の経路の相対的重要性とを同定することを約束する。
【0095】
最後に、非変異体エピトープの約15%もが免疫によってエフェクタCD8+T細胞を惹起することができるということは興味深い。本発明者の知る限り、本研究は、たとえ非意図的であっても、かかる多数(n=119)の正常配列の免疫原性を試験する初めての試みにあたる。明らかに、それらのエピトープに対するCD8+T細胞は、中枢性の排除を受けていなかった。代わりに、選択された正常配列の多くは、抗原のプロセシングに対する障害ゆえに実際に提示されることがない、クリプティックなエピトープにあたり得る。2つの可能性は実験的な検証が可能であり、自己抗原に対する中枢性および末梢性の寛容の相対的重要性を明らかにし得る。
【0096】
用語「a」および「an」および「the」、ならびに同様の指示概念の使用は(特に、後出の特許請求の範囲の文脈において)、本明細書において別段の定めのない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数を両方包含すると解釈されるべきものである。本明細書において用いられる用語「第1」、「第2」などは、何らかの任意の順番を意味することは意図されておらず、単に便宜上複数の例えば層を指すものである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」は、別段の言及のない限り、オープンエンドの用語(すなわち、「含むが、限定されない」を意味する)として解釈されるものである。値の範囲の記載は、本明細書において別段の定めのない限り、当該範囲に属する個々の値をそれぞれ挙げることの簡略な方法としての役を果たすことを意図されているに過ぎない。個々の値は、それぞれが本明細書に記載されたかのように、本明細書に含まれる。全ての範囲の末端値は当該範囲に含まれ、独立して組み合わせ可能である。本明細書に記載された全ての方法は、本明細書において別段の定めのない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、適当な順序で実施され得る。任意および全ての例、または例示的な用語(例えば「〜などの」)の使用は、本発明をより良く説明することを単に意図されており、別段の定めのない限りは、本発明の範囲に限定を加えるものではない。明細書に含まれるいかなる用語も、本明細書において用いられる場合、任意の請求されていない要素が本発明の実施に必須だと意味していると解釈されるべきものではない。
【0097】
本発明は好ましい実施形態を参照して説明されて来たが、当業者には当然のことながら、種々の変更がなされ得、本発明の範囲から逸脱することなくそれらの要素に代えて均等物が代用され得る。さらに、多くの改変がなされて、その基本的な範囲から逸脱することなく、任意の特定の状況または材料を本発明の教示に適用し得る。したがって、本発明が、本発明を実施するために考えられる最良の形態として開示された具体的な実施形態には限定されず、本発明が、添付された特許請求の範囲に属する全ての実施形態を含むということが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]