【実施例】
【0057】
[材料と方法]
マウスおよび腫瘍:BALB/cJマウス(6〜8週齢の雌)が、ジャクソン研究所(バーハーバー、メイン州)から購入された。B10.D2のTRAMPマウスは、アダム・アドラー博士から提供された。マウスは、コネチカット大学保健センタの無ウィルスのマウス施設において飼育された。MethAおよびCMS5は、BALB/cマウスにおいてメチルコラントレンによって誘発された線維肉腫である。
【0058】
試料調製:試料は、「mRNAシーケンシング用の試料調製(Preparing Samples for Sequencing of mRNA)」(品番1004898改訂A、2008年9月)に概述されたイルミナ(登録商標)プロトコールを用いて調製された。プロトコールは、2つの部、すなわちcDNA合成およびpaired−endライブラリ調製からなる。先ず、mRNAが、磁性オリゴ(dT)ビーズを用いて全RNAから精製され、次に、高温下において2価カチオンを用いて断片化された。cDNAが、Superscript(登録商標)II(インビトロジェン(商標))を用いて断片化されたmRNAから合成され、続いて第2鎖合成が行われた。cDNA断片の末端は、Klenow、T4DNAポリメラーゼ、およびT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて修復およびリン酸化された。次に、「A」塩基が、平滑化された断片の3’末端に付加されて、続いてT−Aライゲーションによるイルミナ(登録商標)Paired−Endアダプタのライゲーションが行われた。ライゲーションされた産物はゲル精製によってサイズ選択され、次に、イルミナ(登録商標)Paired−Endプライマを用いてPCR増幅された。ライブラリサイズおよび濃度は、アジレント社のバイオアナライザを用いて決定された。
【0059】
GAII処理条件:RNA−Seqライブラリが、フローセル上に8pMでシーディングされて、約282K〜384Kクラスタ/タイルを生じた。ライブラリは、61サイクルのケミストリおよびイメージングを用いてシーケンシングされた。
【0060】
シーケンシングデータの解析:当初のデータ処理およびベースコールは、クラスタ強度の抽出も含めて、RTA(SCSバージョン2.6およびSCSバージョン2.61)を用いて行われた。配列品質のフィルタリングスクリプトが、イルミナ(登録商標)CASAVAソフトウェア(バージョン1.6.0、イルミナ(登録商標)、ヘイワード、カリフォルニア州)によって実行された。
【0061】
Epi−Seqバイオインフォマティクスパイプライン:ハイスループットmRNAシーケンシングデータ(RNA−Seq)から腫瘍特異的エピトープを同定するために用いられる、バイオインフォマティクスのパイプラインの高レベル表現が
図1に示されている。パイプラインは、RNA−Seqリードを、サンガーマウスゲノムプロジェクトからダウンロードされた系統特異的なゲノム配列およびCCDSアノテーションに由来する系統特異的な一倍体転写物ライブラリに対してマッピングすることによって開始する。本発明者は、BALB/cゲノム/トランスクリプトーム配列をCMS5およびMethA細胞株について用い、C57BL配列をB10D2マウスから生じた自然発生前立腺腫瘍について用いた。リードは、Bowtieを用い、デフォルトのシード長28、シード中の最大ミスマッチ2、およびミスマッチ位置における最大phred品質スコア125を用いてマッピングされた。マッピングの最初のラウンド後に、本発明者は、ミスマッチの統計を各リード位置および各試料について計算した(データは示さない)。この分析に基づいて、5’末端の2塩基および3’末端の10塩基が、全てのアラインメントされたリードからクリッピングされた。得られたリードのアラインメントは、HardMergeアルゴリズムを用いてマージされた。HardMergeは、ゲノムおよび/またはトランスクリプトーム中の複数の位置にアラインメントするリードと、両方に対して特有ではあるが一致しない位置においてアラインメントするリードとを棄却する。ライブラリ調製中にPCR増幅によって導入されるバイアスの影響を低減するために、本発明者は、同じゲノム上の位置からアラインメントが始まる多数のリードを、それらのコンセンサスによって置き換えた。SNVQアルゴリズムが次に用いられて、アラインメントされたリードのフィルタリングされたセットから、1ヌクレオチドバリアント(SNV)を決定した。SNVQはベイズのルールを用いて、塩基品質スコアを考慮に入れながら、最も高い確率の遺伝子型を決定する。高信頼度のSNVが、それぞれの決定された遺伝子型に対する最小phred品質スコア50、もう一方のアレルを支持する最少のリード3、さらに各鎖のリードマッピング少なくとも1、を必要条件とすることによって選択された。決定されたSNV遺伝子型のハプロタイプの推論は、RefHap単一個体ハプロタイプ決定アルゴリズムを用いて行われた。これは、リードの証拠を用いて近位SNVのブロック同士をフェージングする。実験に用いられた近交系マウスの残存するヘテロ接合性は低いと予想されるので、固有のヘテロ接合型SNVは新規の体細胞変異だと考えられた。同じゲノムバックグラウンドの複数の腫瘍に共通のホモ接合型SNVおよびヘテロ接合型SNVは、生殖系列変異であると推測され、固有のヘテロ接合型SNVの近傍に位置していない限り、エピトープ予測には用いられなかった。それぞれの固有のヘテロ接合型SNVについて、参照およびもう一方のペプチド配列が、2つの推論されたハプロタイプに基づいて各CCDS転写物について作られた。作られたアミノ酸配列は、次に、NetMHC3.0エピトープ予測プログラムによって処理され、プロファイル重み行列(PWM)アルゴリズムを用いて、デフォルトの検出閾値を用いてスコア付けされた。
【0062】
結合試験:H−2K
dに対するペプチドの結合が、精製MHC分子に対する放射性標識された標準ペプチドの結合の阻害に基づく定量的試験を用いて、本質的に当分野において公知の通り測定された。簡潔には、0.1〜1nMの放射性標識された公知のMHC結合ペプチド(H−2コンセンサスモチーフペプチド1079.03:配列KFNPMFTYI(配列番号1))が、室温において、種々の量の未標識試験ペプチド、1〜10nMのH−2K
d分子(アフィニティクロマトグラフィによって精製されたもの)、プロテアーゼ阻害剤カクテル、および1μMのヒトβ2ミクログロブリン(ScrippsLaboratories、サンディエゴ、カリフォルニア州)と一緒にインキュベーションされた。2日間のインキュベーション後に、MHC−ペプチド複合体は、モノクローナル抗体SF1−1.1.1によってコーティングされたLUMITRAC600マイクロプレート(グライナーBio−one、ロングウッド、フロリダ州)上に捕捉された。結合した放射活性が、TopCount(登録商標)マイクロシンチレーションカウンタ(Packard Instrument社、メリデン、コネチカット州)を用いて測定された。放射性標識されたプローブペプチドの結合の50%阻害を生ずるペプチドの濃度(IC
50)が、次に計算された。ペプチドは、概ね、100,000倍の用量範囲に渡る6種類の濃度で、3つ以上の独立した試験によって試験された。用いられた条件は[標識]<[MHC]およびIC
50≧[MHC]であり、測定されたIC
50値はKD値の適当な近似値である。
【0063】
足蹠免疫:ペプチド(300μgペプチド、75μlのPBS中)が、30分間2,500RPMで75μlのTiterMax(登録商標)(シグマ・アルドリッチ(登録商標)社、セントルイス、ミズーリ州)によるボルテックスによって、乳化された。マウスが、足蹠において50μlのエマルションによって免疫された。1週間後に、膝窩dLNが、細胞内IFN−γ試験のために採取された。
【0064】
細胞内IFN−γ試験:脾細胞またはリンパ球が、1〜10μg/mlペプチド有りまたは無しでインキュベーションされた。GolgiPlug(商標)(BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)が1時間後に添加された。5%CO
2を用いた37℃における12〜16時間のインキュベーション後に、細胞は、CD44(クローンIM7)、CD4(クローンGK1.5)、およびCD8(クローン53−6.7)(BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)について染色され、Cytofix/Cytoperm(商標)キット(BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)を用いて固定および透過処理され、細胞内IFN−γについてフィコエリトリン結合抗マウスIFN−γ(クローンXMG1.2、BD(商標)バイオサイエンス社、サンノゼ、カリフォルニア州)を用いて染色された。細胞は、1μl抗体/10
6細胞によって50μlの染色緩衝液(1%ウシ血清アルブミンを含むPBS)中において染色され、20分間4℃において遮光してインキュベーションされた。または、これは製造者の取扱説明書に従って行われた。細胞は、FACSCalibur(商標)フローサイトメータ(ベクトン・ディッキンソン、サンノゼ、カリフォルニア州)によって評価された。結果はFlowJoソフトウェア(TreeStar、サンカルロス、カリフォルニア州)を用いて分析された。表面CD44および細胞内IFN−γが、ゲーティングされたCD8
+CD4
−細胞を用いて定量された。
【0065】
腫瘍チャレンジおよび腫瘍の成長の表現:BALB/cJマウスが、放射線処理されたペプチドによってパルス処理された脾細胞(2000rad)の皮内注射によって、週に2回免疫された。マウスは腫瘍チャレンジの前日に剃毛された。最終回の免疫の7日後に、100,000個の生きたMethA腹水細胞、または200,000個の培養されたCMS5細胞(トリパンブルー排除法により生存度>98%)が、マウスの右横腹に皮内注射された。一部の実験においては、免疫調整療法が免疫と組み合わされた。一部のマウスは、50μgのCpG−ODN1826(インビボジェン(商標)、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて2週間毎に2回皮下注射された。CD25
+細胞を攻撃するために、250gの抗CD25mAb(クローンPC61、ラットIgG1、MSKCCモノクローナル抗体コアファシリティ、ニューヨーク、ニューヨーク州)が、腫瘍チャレンジの2日前に腹腔内注射された。100マイクログラムの抗CTLA−4抗体(クローン9D9、マウスIgG2b、BioXCell、ウエストレバノン、ニューハンプシャー州)が、腫瘍チャレンジの7日前および腫瘍チャレンジ後3日毎に腹腔内注射された。腫瘍の直径が、1週間に2度カリパスによって測定された。マウスは、腫瘍が潰瘍化したとき、最大直径20mmに達したとき、またはマウスが不快の何らかの印を示したときに屠殺された。腫瘍の成長を測定するためのツールとしてのAUCが、当分野において記載されている。簡潔には、AUCは、Prism(登録商標)5.0(GraphPadソフトウェア社、ラホーヤ、カリフォルニア州)を用いて、「曲線と回帰(Curves & Regression)」を選択し、次に「曲線下面積(Area under curve)」を「分析(analyze)」ツールから選択することによって計算された。グラブス検定が用いられて、各群から最大1つの外れ値を除去した。
【0066】
統計分析:群間比較のためのP値は、両側のノンパラメトリックなマン・ホイットニ検定を用い、GraphPadPrism(登録商標)5.0(GraphPadソフトウェア社、ラホーヤ、カリフォルニア州)を用いて計算された。腫瘍拒絶試験については、グラブス検定が用いられて、各群から最大で1つの外れ値を除去した。フィッシャの正確確率検定が、任意の2つのパラメータ間の相関を評価するために用いられた。
【0067】
<実施例1>
[トランスクリプトームからイミュノーム(immunome)へ]
dハプロタイプの6つのマウス腫瘍(BALB/cマウスのCMS5およびMethA線維肉腫、ならびにB10.D2のTRAMPマウスの4つの原発性前立腺癌)のトランスクリプトームが、種々の深度でシーケンシングされた。特に腫瘍において発現されている遺伝子の変異を同定するために、ゲノムまたはエキソームシーケンシングではなく、トランスクリプトームシーケンシングが選ばれた。大まかに言って、得られたcDNA配列は正常なマウス配列と比較され、1ヌクレオチドバリアント(SNV)が個々の腫瘍において同定された(表1)。
【0068】
【表1】
【0069】
図1および表2は、バイオインフォマティクス的なパイプラインと、この分析のために作られた品質管理ステップとを示している。このパイプラインは、Epi−Seqパイプラインと名付けられ、一般にアクセス可能である。SNVは、NetMHCアルゴリズムを用いて、K、D、またはLアレルのMHCIに限定されるエピトープを生み出すそれらの可能性について分析された(このパイプラインの全出力は示さない)。定まった閾値を用いて、推定上のエピトープのこの膨大な個数は、より少数まで絞られた(表1)。この分析によれば、化学的誘発腫瘍株MethAおよびCMS5は、それぞれ823個および112個の潜在的エピトープを含んでいる(表1)。これらの2つの株間において同定されたエピトープの個数の違いは、それらのトランスクリプトームがシーケンシングされた深度の反映である。推定上のネオエピトープ(MethAについてのみ示されている)は、ゲノム全体にランダムに分布している(
図2)。例外はX染色体であり、かなり少ない非同義的な変異および少ないエピトープを有する。これは恐らく、哺乳動物のこの染色体のより低い遺伝子密度のためである。2つの腫瘍MethAおよびCMS5が、T細胞および抗体をプローブとして用いる腫瘍特異的エピトープの同定にとって長年の使役馬であったことを指摘しておくことは重要である。免疫学的なプローブを用いる25年を超える大量の分析は、MethAについて4つのエピトープ、CMS5腫瘍について1つのエピトープしかもたらさなかった。
【0070】
【表2】
【0071】
長年存在しているMethAおよびCMS5腫瘍株とは対照的に、4つの自然発生前立腺癌において検出された、K
dによって提示されるネオエピトープの個数は非常に少ない(0〜18)。自然発生前立腺癌は非常に最近の年代物であり、腫瘍の実年齢は6ヶ月未満であり、それらの腫瘍におけるエピトープの少ない個数は、ネオエピトープが細胞分裂毎の自然突然変異率の結果として生み出されるという命題と矛盾しない。
【0072】
本発明者は、このバイオインフォマティクス的なパイプラインを用いて、14種類のヒトの前立腺癌および正常組織のトランスクリプトームシーケンシングデータに由来する変異の新規公開リストを分析し、最も一般的なHLAアレルに対する多数の推定上のエピトープを同定した(表3)。興味深いことに、ヒト前立腺癌は、比較的少数のネオエピトープを含んでいることが観察される。これは、ヒト腫瘍がマウス腫瘍よりも恐らくかなり古いにもかかわらず、TRAMPマウスの自然発生腫瘍において見られる個数に匹敵する。いくつかのヒトメラノーマのエキソーム配列の分析と、バイオインフォマティクス的なパイプラインによる対応する正常配列に対するそれらの比較とは、ヒトメラノーマあたり数百の推定上のネオエピトープを発見している。ヒト腫瘍間におけるネオエピトープの個数のかかる大きい差分のいくつかの根拠が想像され得、試験され得る。
【0073】
【表3】
【0074】
<実施例2>
[免疫編集の見込みのある指標である、非同義的な変異の割合]
長年存在している腫瘍株と新しい原発癌との間の第2の重要な違いは、同義的な変異とは対照的な、非同義的な変異(これは、コードされたアミノ酸の変化をもたらす)をコードするSNVの割合である(腫瘍株において約78%、原発癌において23〜46%)。遺伝コードの縮退および各コドンの使用頻度に基づくと、変異の任意抽出の集団における非同義的な変異の割合は約75%と推測される。これは、腫瘍株CMS5およびMethA、ならびに8つのヒト癌株(インビトロで培養され、したがって免疫学的な選択圧を受けていない)において実際に見られた。原発癌における非同義的な変異の劇的に減少した(23〜46%の)割合は、非同義的な変異を有する腫瘍細胞のかなりの割合が免疫系によって排除された、という仮説によって最も良く説明され得る。腫瘍形成の初期における免疫編集の、強い独立した証拠が存在する。本発明者のデータは、腫瘍に含まれるパッセンジャ変異の総数の一部としての非同義的なパッセンジャ変異の個数が、当該腫瘍における免疫編集の状態を予測するということを初めて示唆している。14個のヒト前立腺癌標本のトランスクリプトーム配列の分析は、編集されていない腫瘍の場合の約75%という期待値と比較して、変異の約60%が非同義的であるということを示している。この数字は、TRAMPマウスの若い前立腺腫瘍が積極的な免疫学的選択を受けている(変異の23〜47%が非同義的である)一方で、進行したヒト腫瘍は恐らく既に逃避相にある(変異の60%が非同義的である)ということを意味している。ヒトメラノーマにおける同様の分析は、58%〜72%という非同義的な変異の多様な割合を示しており、免疫編集の多様な段階にある腫瘍を示唆している。
【0075】
<実施例3>
[インシリコで同定されたネオエピトープの免疫原性]
焦点を絞るために、全ての3つのアレルの935個という合計リストから、218個のK
dに限定されるエピトープ(合計したMethAおよびCMS5から)に注目が向けられた(表1)。CMS5およびMethA腫瘍の119/218の予測されたエピトープが選択され、BALB/cマウスを免疫するために用いられた。免疫されたマウスの流入領域リンパ節(dLN)が、1回の免疫の1週間後に採取され、細胞は、16時間インビトロにおいて刺激された(添加されたペプチド無し、または免疫に用いた変異体ペプチド、もしくは対応する野生型ペプチド)。CD8+細胞は、活性化(CD44+)およびエフェクタ機能(インターフェロンγ+)について分析された。免疫反応性の全てのあり得るパターン、すなわち免疫応答なし(83/119)、変異体ペプチド特異的、すなわち腫瘍特異的免疫応答(21/119)、変異体と対応する野生型ペプチドとの間の交差応答(8/119)、および非特異的応答(7/119)が、観察された(
図3、5)。4種類の応答の全てが、両方の腫瘍によって惹起された(
図5)。意外なことに、推定上のエピトープの大きな割合(83/119すなわち70%)は、免疫応答を全く惹起しなかった。K
dに対する全てのペプチドの親和性が、「方法」に記載されたように実験的に決定された。有意な相関が、K
d−ペプチド相互作用の測定されたIC50と免疫応答との間において観察された(P=0.003、フィッシャの正確確率検定による)。
【0076】
対照としては、変異体ペプチドに対応する野生型(非変異体ペプチド)が、マウスを免疫するために用いられ、免疫応答について試験された(
図4、5)。試験されたペプチドの少数だが意外なほど相当数の15%が、特異的な応答を惹起した(n=66)。恐らく、それらの自己エピトープに対するCD8+T細胞は、中枢性の排除を受けなかった。本発明者の知る限り、これは、免疫原性について試験された多数の正常配列の初めての実験的検証である。自己免疫原性エピトープの割合は小さいけれども、予想され得たよりもかなり大きい(ただし正確な見積もりは存在しない)。または、選択される正常配列の多くは、抗原のプロセシングに対する障害ゆえに、実際に提示されたことがないクリプティックなエピトープにあたり得る。
【0077】
同定されたネオエピトープに関して抗原性の不均一さの程度を決定するために、MethA細胞がクローニングされ、30個の別個のクローンが、ランダムに選択された4つのSNVのそれぞれについて試験された。意外なことに、1つのSNVを除く全てが、全てのクローンにおいて発現されていた。1つのSNVも、試験された29/30のクローンにおいて発現されていた(データは示さない)。理論に拘束されるものではないが、抗原性の不均一さのこの欠如は、シーケンシングの比較的浅い深度に帰せられる。この考えを逆さに見ると、任意の腫瘍の最も幅広い抗原性の特徴のみを同定するための方法論として、比較的浅いシーケンシングを用いることが可能である。
【0078】
<実施例4>
[推定上のネオエピトープの腫瘍防御性]
予測されたエピトープが防御性の腫瘍免疫を惹起する能力が、実験によって評価された。最高のNetMHCスコアを有する7個のCMS5エピトープおよび11個のMethAエピトープ(表4)が試験された。BALB/cマウスが、個々のペプチドによって2回免疫され(「方法」に記載の通り)、最終回の免疫の1週間後に、しかるべき腫瘍によってチャレンジされた。
図6は、何れのネオエピトープも腫瘍の成長に対する防御を惹起しなかった(0/18すなわち0%)が、それらの一部は実際にエフェクタCD8応答を惹起したということを示している。
【0079】
【表4】
【0080】
この予期せぬ結果を理解するために、理論に拘束されるものではないが、本発明者は、NetMHCスコアはそれ自体では腫瘍防御免疫原性の予測因子になり得ないと推論した。なぜなら、それらのエピトープの非変異体対応物そのものも、良いNetMHCスコアを有し得るということがあり得るからである。結果として、高スコアを持つもの(およびそれらの変異体対応物)に対するT細胞レパートリは、中枢性の排除または末梢性の寛容を受けているかもしれない。本発明者は、したがって、新規のアルゴリズムを作成した。ここでは、予測された変異体エピトープの非変異体対応物のNetMHCスコアが考慮に入れられ、これは、変異体エピトープの対応するNetMHCスコアからそれらを減算することによって行われた。本発明者は、エピトープのこの新規属性を、その差分アグレトープ指数(DAI)と呼ぶ。推定上のエピトープは、DAIに基づいて今や順位づけされた(表5)。両方の腫瘍について、このDAIによって順位づけされたリストの概要は、いくつかの興味深い面を示している。すなわち、(a)このリストに含まれる全てのネオエピトープは、2つのアンカー残基のうち1つにおけるアミノ酸の変化を生ずる変異を示す。(b)それらの変化の全ては、位置2におけるチロシン→アスパラギン酸、またはカルボキシ末端におけるロイシン→プロリンもしくはアルギニンである。(c)上位のDAIによって順位づけされたネオエピトープの圧倒的大多数は、Kdに対する弱い結合因子のPWMペプチド結合スコアの閾値である、8.72未満のNetMHCスコアを有する(NetMHC3.0)。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
上位のDAI順位の、CMS5の20個のエピトープおよびMethAの25個のエピトープが、腫瘍拒絶試験によって試験された。結果(
図7)は、6/20すなわち30%のCMS5エピトープおよび4/25すなわち16%のMethAエピトープが、統計的に有意な腫瘍防御免疫原性を示したということを示している(p値は0.023)。統計的有意性は、片側のフィッシャの正確確率検定を用い、DAIによって選択されたエピトープのセットに含まれる腫瘍防御エピトープの個数とNetMHCスコアによって選択されたものとを比較することによって評価された(それぞれ10/45および0/18)。
図8は、2つの防御性および1つの非防御性CMS5エピトープのいくつかの典型的な腫瘍拒絶曲線を示している(MethAエピトープに関する対応する曲線は、当該エピトープの活性のより詳細な分析と一緒に、
図11に示されている)。このアルゴリズムは、最高のNetMHCまたはMHC結合スコアに頼ることよりも腫瘍防御エピトープのはるかに豊かな成果をもたらしたが(
図6参照)、本発明者の新規アルゴリズムによって同定されたほとんどのエピトープは、依然として腫瘍防御を惹起しない。明らかに、推定上のエピトープの他の特性、例えば恐らくエピトープの直接的な提示の程度およびMHC−ペプチド複合体の安定性が、腫瘍拒絶活性に寄与している。しかしながら、エピトープの測定されたK
d結合およびT細胞応答を惹起するそれらの能力は、腫瘍防御活性との相関を有さないことが観察された(腫瘍拒絶とK
d結合との相関はP=0.45、腫瘍拒絶と免疫原性との相関は0.27)。エピトープの免疫原性と臨床研究におけるその腫瘍防御活性の欠如との間の相関の欠如の、いくつかの例が存在している。その不完全さにもかかわらず、DAIは、腫瘍防御免疫原性の統計的に有意で新規の予測因子である。
【0084】
エピトープsy−MLQALCI(配列番号78)(野生型LDMLQALCI(配列番号79))、変異体トランスポーチン3(Tnpo3)由来エピトープ、MethAの最上位の順位(DAIによる)のエピトープ(表5)の腫瘍防御免疫原性が、さらに詳しく検討された。Tnpo3は、セリン/アルギニンリッチ蛋白質に対する核内輸送受容体であり、マウス6番染色体上の遺伝子によってコードされており、今までに報告されているいかなる腫瘍型のドライバ蛋白質でもない。変異体Tnpo3エピトープは、厳密に腫瘍特異的なCD8+免疫応答を惹起することが示された。これは、変異体Tnpo3によって免疫されたマウスが、エクスビボにおいて変異体ペプチドには強い腫瘍特異的反応性を示すが、野生型ペプチドには示さないという能力によって分かる(
図9)。逆に、MethA腫瘍細胞によって免疫されたマウスから単離されたCD8+CD44+IFNγ+細胞は、変異体Tnpo3によってパルス処理された細胞を認識するが、無関係なK
d結合ペプチドPrpf31によってパルス処理された細胞は認識しない(
図10)。これらの観察結果は、変異体Tnpo3ペプチドがMethA細胞によって天然に提示されているということ、さらに、それに対する免疫応答が腫瘍細胞丸ごとによる免疫によって惹起されるということを裏付けている。興味深いことに、MethAからMHCI溶出したペプチドの質量スペクトル分析によってこの変異体ペプチドを同定するという試みは、成功しなかった。これは恐らく、質量分析と比較したT細胞試験のより高い感度のためである。
【0085】
<実施例5>
[免疫調整剤によるネオエピトープの腫瘍防御性の増強]
免疫と変異体ネオエピトープとの組み合わせが、MethAネオエピトープTnpo3を用いて試験された。このネオエピトープは、単剤療法において中程度にしか腫瘍防御性でなく、したがって、併用療法による増強された効果の試験にあたってより広いダイナミックレンジを可能にする。
図11に見られるように、CpG単独は、腫瘍の成長に対する有意な防御を惹起した(P=0.007)。変異体Tnpo3単独は、腫瘍拒絶を2/9のマウス(ナイーブマウスにおける0/10と比較される)において惹起したが、その防御は示された実験においてAUCによる統計的有意性を達成しなかった(P=0.24)。しかしながら、2つの組み合わせは、極めて有意な強い腫瘍防御を惹起した(免疫されていないマウスと比較してP=0.005、変異体Tnpo3によって免疫された群と比較して0.045)。AUCによって測定された、組み合わせによる防御は、CpG単独に対して統計的に有意ではなかったが(P=0.9)、腫瘍を拒絶したマウスの数はずっと多かった(CpG単独における5/10と比較して、組み合わせにおいて8/10)。変異体Tnpo3による免疫とCD25に対するアンタゴニスト抗体(これは制御性T細胞を攻撃することが示されている)との組み合わせも、相乗効果を示した。抗CD25単独は完全な退縮を全マウスにおいて示し(P=0.007)、Tnpo3単独も有意な防御を惹起した(P=0.03)。組み合わせは、いずれの作用物質単独よりも有意な防御を示した(
図12)。同様の結果は抗CTLA4抗体(これは、T細胞をチェックポイント遮断から解放する)でも得られた。各作用物質単独は統計的に有意な防御を惹起し、組み合わせはTnpo3単独よりも有意に有効であった(
図12)。AUCによって測定されたところでは、組み合わせは、抗CTLA4抗体単独よりも統計的に有意に有効であることはなかった(P=0.09)。しかしながら、組み合わせは、完全な腫瘍退縮を2/5のマウスにおいて(抗体単独による1/5と比較される)、延長された腫瘍安定化を2/5のマウスにおいて(抗体単独の0/5のマウスと比較される)惹起した。
【0086】
要約:本開示は、真に腫瘍特異的な抗原性エピトープの秘宝を明らかにしている。エピトープのかなりの割合は、マウスモデルにおいて実際に腫瘍防御性である。ヒト腫瘍におけるそれらの豊富な存在は、以前に予想されモデリングされたように、ヒト前立腺癌(表6)およびメラノーマ(データは示さない)に関するゲノムデータから裏付けられる。T細胞が癌に対する免疫応答において中心的役割を明らかに果たしているにもかかわらず、T細胞が免疫防御性エピトープの同定のための特に貧弱なプローブであったように見えるということを認識することは目覚ましい。長年に渡るMethAおよびCMS5肉腫の腫瘍特異的抗原の大量の分析は、合計で5つのエピトープをようやくもたらした。対照的に、この1つの研究は、これらの2つの腫瘍の最少でも1ダース近い腫瘍防御エピトープを発見した。この矛盾の理由について熟考するのは有益である。プローブとしてのT細胞の使用は、T細胞株またはクローンの作製を本質的に必要とするが、これ自体が非常に選択的なプロセスである。インビボにおけるエフェクタT細胞の多様性は、作製されたT細胞株またはクローンによって直ちには表現されないようにも見え、したがって腫瘍のT細胞イミュノームの歪曲された貧弱な概観をもたらす。ゲノム分析は、T細胞の選択におけるバイアスを乗り越え、したがってネオエピトープの全体的な視界を明るくする。
【0087】
【表7】
【0088】
ヒトの癌のかかるネオエピトープは、対費用効果が高く時間に敏感な方法によって今や同定され得、免疫療法に用いられ得る。腫瘍防御エピトープは同定され得るが、ある特定のエピトープが腫瘍防御性であるかどうかを正確に予測することはできない。しかしながら、DAI、すなわち変異体エピトープおよびその非変異体対応物のNetMHCスコアの差分が良い予測因子であるという証明は、正しい方向への重要な第一歩であり、興味深い新たな可能性を提示している。第1に、DAIスコアの証明された有用性は、その前提の妥当性を強調している。すなわち、腫瘍防御性の免疫応答は、むしろエピトープが正常のものとは異なっているということを、それらが本質的に強いエピトープであるということよりも要求する。第2に、今となっては当然のことながら、アンカー残基におけるアミノ酸置換は最大の差分に通ずる(表5参照)。しかしながら、一部の置換(例えば、位置2におけるチロシン→アスパラギン酸、またはカルボキシ末端におけるロイシン→プロリンもしくはアルギニン)が非常に好まれるという観察結果は、新規であり、構造に関する謎の新たな道筋を示唆している。最後に、本発明者の考えでは、防御性の免疫を惹起する10/10のネオエピトープが、NetMHC3.0によるかかる指定の基準によって弱い結合因子として分類されるということは驚くべきである。この観察結果は、腫瘍防御免疫原性の基礎へのさらなる手がかりを提供し得る。
【0089】
さらに、各腫瘍型に含まれるネオエピトープの個数は今のところは不明であるが、さらなる研究が行われるにつれて明らかになるであろう。ヒト前立腺癌に関するデータ(表6)は、それらの個数が少なく、マウスの自然発生前立腺癌において見られる個数と同程度であり得るということを示唆している(表1)。一方、ヒトメラノーマのデータ(データは示さない)は、エピトープのさらにずっと大きなレパートリを示唆している。ヒト腫瘍間におけるネオエピトープの個数のかかる大きな差分のいくつかの根拠が想像され得、試験され得る。
【0090】
さらに、癌の抗原性の不均一さは、かなりの議論の対象となって来た。しかしながら、かなりの数の本物の腫瘍特異的抗原の不足にあって、議論は主として理論的なものであった。真の腫瘍特異的ネオエピトープの大きいレパートリの発見は、抗原性の不均一さ(および抗原のエスケープ)に関する謎が、前例のない強力な方法によって問いかけられることを今や可能にする。この問題のより良い解決は、T細胞エピトープの増々の精密な調整がヒトの癌の免疫療法に用いられることを可能にするであろう。
【0091】
抗原性の不均一さの問題に本質的に関連して来るのは、成長中の癌の免疫編集の役割である。腫瘍に対する免疫監視に関する従来の研究に附随して、腫瘍が免疫編集の排除、均衡、および逃避相を経るということが示唆されて来ており、この考えを支持する証拠が現れて来ている。任意の所与の腫瘍の腫瘍特異的ネオエピトープの大きなレパートリの利用可能性は、免疫編集がより一層の粒度によって取り組まれることを可能にする。理論に拘束されるものではないが、変異の総数の一部としての所与の腫瘍に含まれる非同義的な変異の量は、排除−均衡−逃避の流れにおける腫瘍の位置の良い指標であると信じられる。これは検証可能な予測であり、もしも正しいのであれば、癌の臨床治療の方針決定に役立ち得る。
【0092】
さらに、ネオエピトープによる免疫が種々の免疫調整剤と有効に組み合わされ得るということも示されており、それらは、自然免疫刺激剤(CpG)、抗制御性T細胞剤(抗CD25抗体)、およびチェックポイント遮断アンタゴニスト(抗CTLA4抗体)を含む。
【0093】
改変ペプチドリガンドは、腫瘍において過剰発現されている自己エピトープに対する免疫応答を増強するための手段として、癌免疫において用いられて来た。本発明者の分析によって同定されたネオエピトープは、自己エピトープに対する実際に天然に作られた改変ペプチドリガンドであり、したがって、抗自己T細胞応答を惹起すると考えられ得る。任意のマウスまたはヒト研究は、この可能性に留意することが望ましい。
【0094】
癌免疫に及ぼすその影響に加えて、多数の腫瘍特異的ネオエピトープの利用可能性は、抗原提示の分析の機会を劇的に高める。抗原提示に関する人類の知見のほとんどは、ほんの少数のウィルスまたはモデルエピトープの研究から来ている。それらの洗練された鋭意の研究は多くの情報をもたらしたが、数十または数百の新規エピトープは、それらの様々な性質ゆえに、さらなる機会を提供する。本明細書において同定されたエピトープのなかから、本発明者は、その親蛋白質が十分に発現されているように見え、MHCIに対する結合のための優良なモチーフを有し、免疫によって良好なCD8+T細胞を惹起し、しかも腫瘍細胞によって直接的に提示されない、いくつかを同定した。それらのプロセシングの分析は、抗原提示における新規のステップと既存の経路の相対的重要性とを同定することを約束する。
【0095】
最後に、非変異体エピトープの約15%もが免疫によってエフェクタCD8+T細胞を惹起することができるということは興味深い。本発明者の知る限り、本研究は、たとえ非意図的であっても、かかる多数(n=119)の正常配列の免疫原性を試験する初めての試みにあたる。明らかに、それらのエピトープに対するCD8+T細胞は、中枢性の排除を受けていなかった。代わりに、選択された正常配列の多くは、抗原のプロセシングに対する障害ゆえに実際に提示されることがない、クリプティックなエピトープにあたり得る。2つの可能性は実験的な検証が可能であり、自己抗原に対する中枢性および末梢性の寛容の相対的重要性を明らかにし得る。
【0096】
用語「a」および「an」および「the」、ならびに同様の指示概念の使用は(特に、後出の特許請求の範囲の文脈において)、本明細書において別段の定めのない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数を両方包含すると解釈されるべきものである。本明細書において用いられる用語「第1」、「第2」などは、何らかの任意の順番を意味することは意図されておらず、単に便宜上複数の例えば層を指すものである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」は、別段の言及のない限り、オープンエンドの用語(すなわち、「含むが、限定されない」を意味する)として解釈されるものである。値の範囲の記載は、本明細書において別段の定めのない限り、当該範囲に属する個々の値をそれぞれ挙げることの簡略な方法としての役を果たすことを意図されているに過ぎない。個々の値は、それぞれが本明細書に記載されたかのように、本明細書に含まれる。全ての範囲の末端値は当該範囲に含まれ、独立して組み合わせ可能である。本明細書に記載された全ての方法は、本明細書において別段の定めのない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、適当な順序で実施され得る。任意および全ての例、または例示的な用語(例えば「〜などの」)の使用は、本発明をより良く説明することを単に意図されており、別段の定めのない限りは、本発明の範囲に限定を加えるものではない。明細書に含まれるいかなる用語も、本明細書において用いられる場合、任意の請求されていない要素が本発明の実施に必須だと意味していると解釈されるべきものではない。
【0097】
本発明は好ましい実施形態を参照して説明されて来たが、当業者には当然のことながら、種々の変更がなされ得、本発明の範囲から逸脱することなくそれらの要素に代えて均等物が代用され得る。さらに、多くの改変がなされて、その基本的な範囲から逸脱することなく、任意の特定の状況または材料を本発明の教示に適用し得る。したがって、本発明が、本発明を実施するために考えられる最良の形態として開示された具体的な実施形態には限定されず、本発明が、添付された特許請求の範囲に属する全ての実施形態を含むということが意図されている。