特許第6501765号(P6501765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6501765長時間循環する刺激応答性ナノキャリア系での局所領域的治療のための立体特異性脂質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501765
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】長時間循環する刺激応答性ナノキャリア系での局所領域的治療のための立体特異性脂質
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/24 20060101AFI20190408BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 49/06 20060101ALI20190408BHJP
   A61K 41/00 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190408BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20190408BHJP
   C07F 9/10 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   A61K47/24
   A61K9/127
   A61K45/00
   A61K31/704
   A61K31/56
   A61K38/00
   A61K38/48 100
   A61K49/04 210
   A61K49/06
   A61K41/00
   A61P35/00
   A61P31/00
   A61P27/02
   A61P37/02
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P29/00
   A61P25/28
   A61P9/10 101
   A61P7/02
   C07F9/10 ACSP
   C07F9/10 B
   C07F9/10 C
【請求項の数】34
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2016-520468(P2016-520468)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公表番号】特表2016-523242(P2016-523242A)
(43)【公表日】2016年8月8日
(86)【国際出願番号】EP2014062849
(87)【国際公開番号】WO2014202680
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年6月1日
(31)【優先権主張番号】13172469.2
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515353246
【氏名又は名称】サーモソーム ゲゼルシャフト ミット べシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Thermosome GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハンスイェルク アイブル
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−506121(JP,A)
【文献】 特表2002−518317(JP,A)
【文献】 特開2009−269846(JP,A)
【文献】 Clinical Cancer Research,2004年,Vol.10,p.2168-2178
【文献】 The Journal of Urology,1986年,Vol.135, No.3,p.612-615
【文献】 The Open Nanomedicine Journal,2011年,Vol.3,p.38-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K47/00−47/69
A61K 9/00− 9/72
A61K31/00−33/44
A61P 1/00−43/00
C07F 9/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所領域的治療に使用するための刺激応答性ナノキャリアにおいて、
式(IIa)
【化1】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびmは、0〜50の整数である〕の少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンを含み、ここで、グリセリドからホスフェート基への結合は、立体特異的でありかつsn−3結合として存在し、およびホスフェート基からオリゴグリセリンへの結合は、立体特異的でありかつsn−1結合として存在することを特徴とする、前記刺激応答性ナノキャリア。
【請求項2】
(i)0℃〜80℃の主転移温度を有する少なくとも1つのホスファチジルコリンおよび
(ii)少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンを含むことを特徴とする、請求項記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項3】
1およびR2が互いに独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基であり、およびmが0または1であるか、または
前記刺激応答性ナノキャリアが、少なくとも1つのホスファチジルジグリセリンまたは/および少なくとも1つのホスファチジルトリグリセリンを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項4】
式(I)
【化2】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わす〕のホスファチジルコリンを含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項5】
1−パルミトイル−2−オレオイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−オレオイル−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ラウロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ベヘノイル−2−オレオイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−ラウロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−ジミリストイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−ミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ミリストイル−2−パルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−パルミトイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジパルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ミリストイル−2−ステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−3−ミリストイルグリセロ−2−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−パルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−ジステアロイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジアラキノイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジベヘノイルグリセロ−3−ホスホコリンおよび1,2−ジリグノセロイルグリセロ−3−ホスホコリンからなる群から選択された、少なくとも1つのホスファチジルコリンを含有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項6】
35℃〜42℃の範囲内または40℃〜43℃の範囲内の主転移温度を有する、少なくとも1つのホスファチジルコリンを含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項7】
1,3−ジパルミトイルホスファチジルコリンおよび1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリンから選択された、少なくとも1つのホスファチジルコリンを含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項8】
コレステリンを含有しないことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項9】
腫瘍の処置に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項10】
軟部肉腫、骨肉腫、膀胱癌、卵巣癌、胃癌、乳癌、原発性肝細胞癌、子宮癌、甲状腺癌、頭頸部癌、前立腺癌、脊索腫、類腱腫、神経膠芽細胞腫および/または局所領域的拡張部を有する他の腫瘍疾患の処置に使用するための、請求項1から9までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項11】
膀胱腫瘍の処置に使用するための、請求項1から10までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項12】
さらに、アントラサイクリン、オキサアザホスホリン、プラチン類似体、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、トポテカン、ビンクリスチン、イリノテカン、メトトレキサート、ブレオマイシン、チロシンキナーゼ阻害剤、小分子、DNA療法剤および放射線増感剤から選択された作用物質を含むか、または
さらに、マイトマイシン C、ドキソルビシン、エピルビシン、ゲムシタビン、トラベクテジン、シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンからなる群から選択された細胞増殖抑制剤を含む、請求項9から11までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項13】
感染症の処置に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項14】
細菌類、ウィルス類、菌類または/および寄生虫類によって引き起こされている感染症の処置に使用するための、請求項13に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項15】
医療移植片の感染の処置、局在化された感染の処置、および/または多剤耐性病原体の治療のための、請求項13または14記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項16】
さらに、抗生物質、静ウィルス剤、殺真菌剤および抗寄生虫作用を持つ医薬品から選択された作用物質を含む、請求項13から15までのいずれか1項記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項17】
前記作用物質が、
β−ラクタム、グリコペプチド、ポリケチド、アミノグリコシド抗生物質、ポリペプチド抗生物質、キノロン、およびスルホンアミドから選択された抗生物質;および/または、
侵入阻害剤、浸透抑制剤、DNAポリメラーゼ阻害剤、DNA/RNAポリメラーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤、イノシンモノホスフェート−デヒドロゲナーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、ヘリカーゼ−プリマーゼ阻害剤、シクロフィリン阻害剤、成熟阻害剤、ターミナーゼ阻害剤、およびノイラミニダーゼ阻害剤から選択された静ウィルス剤;および/または、
アゾール、モルホリン、ストロビルリン、キノリン、アニリノ−ピリミジン、オキサゾリジン−ジオンおよびカルボン酸アミドから選択された殺真菌剤、
から選択されることを特徴とする、請求項16記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項18】
眼の疾患の処置に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項19】
眼の炎症性疾患、眼の変性疾患、眼の感染症および/または眼の腫瘍性疾患、創傷治癒障害または/および緑内障の処置のための、請求項18記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項20】
自己免疫疾患の処置に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項21】
関節リウマチおよび/または慢性炎症性腸管疾患の処置に使用するための、請求項20に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項22】
さらに、ステロイド、TNF−αまたは/および免疫抑制剤から選択された作用物質を含む、請求項20または21記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項23】
診断に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項24】
MR造影剤およびMRイメージング法を用いる非侵襲性温度測定のための、請求項23に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項25】
さらに、CT造影剤またはMRT造影剤から選択された作用物質を含む、請求項23または24記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項26】
さらに、前記作用物質が、ヨウ素含有造影剤またはガドリニウム−キレートから選択される、請求項25記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項27】
変性疾患の処置に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項28】
抗炎症剤、鎮痛剤または/および軟骨保護剤の局在化された放出のための、請求項27に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項29】
認知症症候群、アルツハイマー病または/および焦点性精神神経系障害の処置に使用するための、またはてんかんの処置に使用するための、またはアテローム性動脈硬化の処置に使用するための、または血栓症の処置に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項30】
さらに血栓溶解剤から選択された少なくとも1つの作用物質を含む、請求項29記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項31】
前記作用物質が、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼまたは/およびアルテプラーゼから選択される、請求項30記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項32】
温熱療法または/および超音波と組み合わせた、請求項1から31までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項33】
前記ナノキャリアが、温度感受性リポソームであることを特徴とする、請求項1から32までのいずれか1項に記載の刺激応答性ナノキャリア。
【請求項34】
式(IIa)
【化3】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびmは、0〜50の整数である〕の立体特異性ホスファチジルオリゴグリセリンであって、ここで、グリセリドからホスフェート基への結合は、立体特異的でありかつsn−3結合として存在し、およびホスフェート基からオリゴグリセリンへの結合は、立体特異的でありかつsn−1結合として存在する、前記立体特異性ホスファチジルオリゴグリセリン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、長時間循環する刺激応答性ナノキャリア系での局所領域的治療のための立体特異性脂質に関する。
【0002】
本出願は、殊に、腫瘍、殊に膀胱腫瘍および他の局在化された腫瘍を処置するための温度感受性リポソームに関する。
【0003】
本出願は、殊に、長時間循環する温度感受性リポソームでの膀胱腫瘍の処置に関する。ところで、治療的アプローチは、一般に臨床的に重要である。それというのも、前記治療的アプローチは、一般に、医薬品の局所領域的放出による、ヒトの場合および動物の場合の疾病の治療に使用され、殊に、器官内および肉体組織内の腫瘍細胞の局在化されたコロニー化によって引き起こされる他の腫瘍疾病の場合にも使用されうるからである。
【0004】
さらに、本出願は、殊に、本発明によるナノキャリア系の成分として、例えばリポソームの成分として使用されうる、単一の天然型配置を有するリン脂質に関する。
【0005】
膀胱腫瘍は、しばしば起こる腫瘍学的疾病である。世界的規模で年間約130000人のヒトが膀胱腫瘍で亡くなっている。男性は、しばしば女性の二倍程度罹患しており、その際に、平均的な罹患年齢は、男性で69歳であり、および女性で73歳である。前記膀胱腫瘍の約95%は、尿路上皮を源とする。とりわけ、悪性度の低い腫瘍と悪性度の高い腫瘍との区別は、臨床学的に重要である。それというのも、後者の悪性度の高い腫瘍には、極めて高い再発の危険と進行の危険があるからである。浸潤深さの測定での膀胱腫瘍の組織学的検出は、腫瘍の経尿道的切除(TURB)によって行なわれる。全ての悪性度の高いT1腫瘍(すなわち、Lamina propriaの浸潤で)の場合、初期注入してから2〜6週間後に経尿道的後切除が必要とされる。腫瘍が筋層内へ浸潤した場合には、半径方向の膀胱切除が適応される。
【0006】
外科的処置に加えて、膀胱内の化学療法、すなわちマイトマイシン C、ドキソルビシンまたはエピルビシンでの点滴は、膀胱腫瘍を治療するために有効であることが実証された方法である。その際に、低いリスクの腫瘍の切除後に、単に早期点滴(手術後の最初の6時間内に)が推奨されているが、これに反して、中位のリスクおよび高いリスクの場合には、さらに、数回の化学療法による点滴での維持療法が推奨されている。前記点滴は、一部が一週間毎の間隔で行なわれ、および数ヶ月間にわたり継続されうる。化学療法の点滴の他の選択可能な方法は、BCG(Bacile Calmette Geurin:カルメット・ゲラン桿菌)の点滴である。
【0007】
TURBおよび膀胱内化学療法にもかかわらず、表面的な膀胱腫瘍に対する高い再発の危険がある。前記膀胱内への限定された深部貫入は、膀胱内化学療法の作用に対して制限されている。それというのも、尿路層は、細胞増殖抑制剤に対する極めて効率的なバリアーであるからである。膀胱の内側から考慮すると、膀胱壁は、次の組織によって形成されている:尿路上皮、粘膜固有層、筋層および外膜。膀胱中への細胞増殖抑制剤の点滴後、組織濃度は、組織深さが増すにつれて片対数的に減少する。ヒトにおいては、500μmの浸潤深さから初期組織濃度のなお50%だけが存在することを提示することができた(Wientjes MG et al.Penetration of mitomycin C in human bladder.Cancer Res.1993)。イヌのモデルについては、マイトマイシン Cに対する細胞毒性濃度は、尿路上皮層だけで達成されうるが、これに反して、20%の場合にだけ粘膜固有層内で充分に高い濃度が達成されかつ20%未満の場合には、筋層内で充分に高い濃度が達成された。すなわち、2000μmの組織深さでの前記試験において、マイトマイシン C 1μg/g(n=24)の濃度の中央値が検出可能であった。2000〜3000μmの組織深さにおいて、18/24匹のイヌでマイトマイシン Cは、もはや検出不可能であった(Wientjes MG et al.Bladder wall penetration of intravesical mitomycin C in dogs.Cancer Res.1991)。要約すれば、膀胱内の化学療法の作用は、使用された細胞増殖抑制剤の不十分な深さ貫入によって極めて著しく限定されている。
【0008】
したがって、本発明の課題は、局在化された疾病、有利に腫瘍、殊に膀胱腫瘍および他の局在化された腫瘍の処置方法を提供することであった。
【0009】
前記課題は、本発明によれば、局所領域的治療に使用するための刺激応答性ナノキャリア系によって解決される。
【0010】
本発明によるナノキャリア系は、とりわけ、リポソームである。しかし、他のナノキャリア系が使用されてもよい。前記ナノキャリア系、殊にリポソームが刺激応答性であることは、本発明にとって本質的なことである。本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に刺激応答性リポソームは、刺激の発揮に対する反応において、内包されたかまたは関連付けられた作用物質を放出する。適当な刺激またはエネルギー源は、とりわけ、熱、高周波、例えば放射線による表面温熱療法システムおよび放射線による深部温熱療法システムまたは膀胱温熱療法システム、超音波、例えば高密度焦点式超音波(HIFU)または低強度超音波(LIFU)、光、レーザー、加熱された液体による伝導、または局所領域的加熱をもたらしおよび/または膜、殊にリン脂質を含む膜を不安定にする他の物理的原理である。
【0011】
局所領域的治療を用いると、殊に刺激応答性ナノキャリア系に内包された作用物質の意図的で急速な放出によって、局在化された疾病は、健康な組織を損なうことなく、目的通りに処置されうる。そのうえ、作用物質の意図された放出は、体系的な負荷を最小にするように保持する。
【0012】
本発明は、殊に、腫瘍、殊に膀胱腫瘍の処置に使用するための刺激応答性リポソーム、有利に温度感受性リポソームに関する。温度感受性リポソームを使用することによって、リポソームに内包された作用物質は、リポソームを意図的に加熱することによって放出されうる。したがって、当該温度感受性リポソームは、腫瘍、殊に膀胱腫瘍または膀胱癌の局所的治療に特に良好に適している。前記リポソームに内包された作用物質の放出は、意図的に肉体内の、例えば膀胱壁における所望の箇所で誘導されることができ、それによって、作用物質、殊に細胞増殖抑制剤は、所望の箇所で直接に放出されうる。
【0013】
特に好ましくは、本発明により使用される刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、(i)0℃〜80℃の主転移温度を有する少なくとも1つのホスファチジルコリンおよび(ii)少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンまたは/およびホスファチジルグリセログリコールまたは/および少なくとも1つのカルジオリピンを含む。
【0014】
ホスファチジルオリゴグリセリンを使用することによって、延長された血液循環時間を有する温度感受性リポソームの製造に成功する(国際出願第2002/064116号公報および国際出願第2004/026282号公報)。前記リポソームは、例えば生理的条件(37〜38℃)で血液循環路内で極めて安定性であり、および予めリポソームに内包された作用物質を放出しないかまたは非本質的にのみ放出する(Lindner LH et al.Novel temperature−sensitive liposomes with prolonged circulation time.Clin Cancer Res.2004;Hossann M et al.In vitro stability and content release properties of phosphatidylglyceroglycerol containing thermosensitive liposomes. Biochim Biophys Acta.2007)。2時間の時間に亘って、前記リポソームの大部分は、血液循環において留まり、それによって、熱制御された作用物質放出を提供する。数秒間内、特に15秒未満、より有利に10秒未満の熱誘導された作用物質放出での前記リポソームの急速な放出運動に依存して、予め内包された作用物質は、前記リポソームを39℃を上回る、特に40〜42℃の温度へ意図的に加熱することによって急激に放出されうる。
【0015】
極めて僅かな非特異的作用物質放出だけを有する体系的循環における本発明によるリポソームの高い安定性によって、前記リポソームは、特別な形式で、腫瘍、殊に局在化された腫瘍、特に有利に膀胱癌の局所的治療に適している。すなわち、本発明によるリポソームの静脈内での適用後に、所望の箇所、例えば膀胱壁での意図的な加熱によって、所望の箇所での、例えば膀胱壁における、予め内包された作用物質の放出は、誘導されうる。
【0016】
前記方法によって、前記尿路上皮の天然の遮断は、回避されることができ、筋層までの密閉された医薬の高い組織濃度が初めて達成されうる。
【0017】
本発明によれば、腫瘍、殊に固形腫瘍または/および局在化された腫瘍が処置される。本発明によるリポソームを用いると、殊に表在性腫瘍および転移腫瘍は処置されうる。それというのも、これらの表在性腫瘍および転移腫瘍は、簡単に加熱されうるからである。それだけでなくまた他の腫瘍、例えば管腔内の腫瘍が処置されてよい。この場合、リポソーム内容物質の放出に必要とされる加熱は、例えば熱水での洗浄によって達成されてよい。このための例は、HNO腫瘍(頭頸部腫瘍)、リンパ節腫瘍、肺腫瘍、腹膜癌腫、胸膜癌腫、食道癌腫、胃腫癌腫および膀胱癌腫である。
【0018】
本発明によれば、最も好ましくは、膀胱腫瘍または膀胱癌腫が処置される。この場合には、前記癌がインサイチュー(in−situ)で処置されうるのと同様に、膀胱癌腫の段階T1ならびに他の段階、例えばT2またはT3も処置されうる。
【0019】
表面的な膀胱腫瘍の治療と共に、当該方法は、膀胱保持を保証するために、筋侵食腫瘍の治療にも使用されうる。膀胱内への化学治療の適用に対して前記方法によって達成された、改善された腫瘍制御ならびに僅かな体系的副作用率と結び付いた、高められた膀胱保持処置率に関連した利点は、前記方法が常用の膀胱内化学治療点滴と入れ替わることを期待することができる。
【0020】
本発明によるリポソームは、特にさらに作用物質、殊に細胞増殖抑制剤を含む。通常、膀胱内治療に使用される細胞増殖抑制剤マイトマイシン C、ドキソルビシンおよびエピルビシンと共に、他の細胞増殖抑制剤、例えばゲムシタビン、トラベクテジン等が前記アプローチに使用されてもよい。さらなる適当な細胞増殖抑制剤は、白金誘導体、例えばシスプラチン、カルボプラチンまたはオキサリプラチンである。ドキソルビシンが作用物質として最も好ましい。
【0021】
当該器官、例えば膀胱の加熱は、技術的に数多くの方法によって可能である。すなわち、熱水による簡単な膀胱洗浄と共に、電磁波、超音波による加熱が実施されうるか、またはレーザー技術で実施されてもよい。
【0022】
少なくとも(i)0℃〜80℃の主転移温度を有するホスファチジルコリンおよび(ii)少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンまたは/およびホスファチジルグリセログリコールまたは/およびカルジオリピンを含む、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、血清中で長い半減期を有する。さらに、当該ナノキャリア系の内容物、殊にリポソームは、刺激の発揮の際、例えば一定温度を超えた際に、急速に、殊に10秒未満で放出される。
【0023】
本発明による好ましい刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームの成分は、ホスファチジルコリンである。前記ホスファチジルコリンは、とりわけ、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの全質量に対して、少なくとも1質量%、より好ましくは少なくとも10質量%、さらにより好ましくは少なくとも30質量%、さらにより好ましくは少なくとも50質量%および99質量%まで、より好ましくは90質量%まで、特に好ましくは80質量%までの量で存在する。
【0024】
そのつど適した主転移温度を有するホスファチジルコリンを選択することによって、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、調製されうる。第1表には、ホスファチジルコリンの主転移温度(TM)が記載されており、その主転移温度は、0〜80℃の範囲内にある。前記主転移温度は、表から確認できるように、グリセロ−3−ホスホコリンの鎖長および位置1および2上の分布に依存するかまたはグリセロ−2−ホスホコリンの位置1および3上の分布に依存する。
【0025】
【表1】
【0026】
第1表中に記載された値は、不均一な鎖長およびグリセリン骨格上に適当な分布を有する所定の脂肪酸を使用することによって、実際に全ての所望の温度を0〜80℃の所定の範囲に調節しうることを示す。脂肪酸鎖およびグリセリン分子の位置1および2上の当該脂肪酸鎖の分布は、リン脂質の物理的性質を左右する。前記相転移温度は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルジグリセリン、ホスファチジルトリグリセリンまたはホスファチジルテトラグリセリンであるかどうかとは無関係である。
【0027】
好ましくは、本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、式(I)
【化1】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わす〕のホスファチジルコリンを含む。
【0028】
1およびR2は、有利にそのつど互いに独立して、飽和またはモノもしくはポリ不飽和の、特に直鎖状のアルキル基、殊に飽和アルキル基である。R1およびR2は、さらに有利にそれぞれ独立して、C14〜C20基、殊にC14〜C18基である。
【0029】
好ましくは、R1およびR2は、それぞれ独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基、殊に直鎖状の飽和C12〜C20アルキル基である。
【0030】
たいてい、有利に、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C14アルキル基、直鎖状の飽和C16アルキル基または直鎖状の飽和C18アルキル基である。
【0031】
さらなる実施態様において、R1およびR2は、有利にそれぞれ独立して、C13〜C19基、殊にC13〜C17基である。たいてい、有利に、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C13アルキル基、直鎖状の飽和C15アルキル基または直鎖状の飽和C17アルキル基である。
【0032】
適当なホスファチジルコリンは、例えば1−パルミトイル−2−オレオイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−オレオイル−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ラウロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ベヘノイル−2−オレオイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−ラウロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−ジミリストイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−ミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ミリストイル−2−パルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−パルミトイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジパルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ミリストイル−2−ステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−3−ミリストイルグリセロ−2−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−パルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−ジステアロイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジアラキノイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジベヘノイルグリセロ−3−ホスホコリンおよび1,2−ジリグノセロイルグリセロ−3−ホスホコリンである。
【0033】
特に好ましくは、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、35℃〜42℃の範囲内、さらになお有利に39℃〜41℃の範囲内の主転移温度を有する、少なくとも1つのホスファチジルコリンを有する。当該ホスファチジルコリンを含有する、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、前記リポソームが通常の循環路内で(37℃で)安定性ありかつ熱作用、殊に局所的な熱作用によって39℃を上回り41℃までの温度で前記リポソームの内容物を放出することを可能にする内容物のための放出温度を有する。40〜43℃の放出温度を有する、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームが特に好ましい。特に好ましくは、本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、1,3−ジパルミトイル−ホスファチジルコリンおよび1,2−ジパルミトイル−ホスファチジルコリンから選択された、少なくとも1つのホスファチジルコリンを有する。
【0034】
好ましくは、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、天然型配置:
【化2】
〔ここで、
1、R2は、上記の記載と同様であり、
snは、立体特異性番号付けであり、
PCは、ホスホコリンであり、
Mは、相転移温度である〕
の式(I)のホスファチジルコリン、
配置:天然型
表記:1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
を含む。
【0035】
治療的用途に好ましいホスファチジルコリンは、約40℃の相転移温度を有する当該ホスファチジルコリンである。40℃を下回るTMを有するホスファチジルコリンの添加、または40℃を上回るTMを有するホスファチジルコリンの添加によって、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームのTMは、所望の温度へ調節されうる。その際に、4個を上回るCH2基のアルキル鎖長における差は、相分離をまねき、したがってこの差は回避されるべきであることが判明した。
【0036】
約37℃での安定性および42℃での作用物質の放出に依存していない他の用途には、37℃を下回るかまたは45℃を上回る他のTMを有するリン脂質が使用されてよい。
【0037】
本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、さらなる本質的な成分として、少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンおよび/またはホスファチジルグリセログリコールおよび/またはカルジオリピンを含有する。ホスファチジルオリゴグリセリンは、オリゴグリセリン単位、殊に式(III)
−[−O−CH2−CHOH−CH2−]n−OH
〔式中、nは、2〜50の整数、殊に2〜10の整数、たいてい、有利に2または3を表わす〕の単位を含む。
【0038】
好ましいホスファチジルオリゴグリセリンは、式(II):
【化3】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびnは、2〜50の整数である〕を有する。
【0039】
1およびR2は、有利にそのつど互いに独立して、特に直鎖状の飽和またはモノもしくはポリ不飽和のアルキル基、殊に飽和アルキル基である。R1およびR2は、さらに有利にそれぞれ独立して、C14〜C20基、殊にC14〜C18基である。
【0040】
好ましくは、R1およびR2は、それぞれ独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基、殊に直鎖状の飽和C12〜C20アルキル基である。
【0041】
たいてい、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C14アルキル基、直鎖状の飽和C16アルキル基または直鎖状の飽和C18アルキル基である。
【0042】
さらなる実施態様において、R1およびR2は、有利にそれぞれ独立して、C13〜C19基、殊にC13〜C17基である。たいてい、好ましくは、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C13アルキル基、直鎖状の飽和C15アルキル基または直鎖状の飽和C17アルキル基である。
【0043】
nは、特に、2〜10の整数であり、かつたいてい、有利には、2または3である。
【0044】
特に有利に、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、少なくとも1つのホスファチジルジグリセリンまたは/および少なくとも1つのホスファチジルトリグリセリンを含む。ジグリセリンおよび/またはトリグリセリンを含む、当該刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、特に好ましい放出挙動を示すことが確認された。
【0045】
本発明によれば、そのつど、ホスファチジルオリゴグリセリン化合物の唯一の異性体、例えば1,2−ジパルミトイルホスホオリゴグリセリンだけを含有しかつ1,3−ジパルミトイルホスホオリゴグリセリンを含有しない、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームが好ましい。
【0046】
好ましくは、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、式(IIa)
【化4】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびmは、0〜50の整数である〕の立体特異性ホスファチジルオリゴグリセリンを含み、ここで、グリセリドからホスフェート基への結合は、立体特異的でありかつsn−3結合として存在し、およびホスフェート基からオリゴグリセリンへの結合は、立体特異的でありかつsn−1結合として存在する。
【0047】
mは、特に0〜8であり、およびたいてい、有利には、0または1である。
【0048】
立体特異性ホスファチジルジグリセリン
【化5】
配置:天然型
表記:1,2−ジアシル−sn−3−グリセロ−ホスホ−sn−1−ジグリセリン;
ナトリウム塩(相応して、オリゴグリセリン、殊にトリグリセリンもしくはテトラグリセリンも)
1、R2、脂肪酸;sn、立体特異的番号付け;
PG2、ホスホジグリセリン
〔上記式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わす〕が特に好ましい。
【0049】
1およびR2は、有利にそのつど互いに独立して、特に直鎖状の飽和またはモノもしくはポリ不飽和のアルキル基、殊に飽和アルキル基である。R1およびR2は、さらに有利にそれぞれ独立して、C14〜C20基、殊にC14〜C18基である。
【0050】
好ましくは、R1およびR2は、それぞれ独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基、殊に直鎖状の飽和C12〜C20アルキル基である。
【0051】
たいてい、好ましくは、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C14アルキル基、直鎖状の飽和C16アルキル基または直鎖状の飽和C18アルキル基である。
【0052】
さらなる実施態様において、R1およびR2は、有利にそれぞれ独立して、C13〜C19基、殊にC13〜C17基である。たいてい、好ましくは、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C13アルキル基、直鎖状の飽和C15アルキル基または直鎖状の飽和C17アルキル基である。
【0053】
たいてい、1,2−ジパルミトイル−sn−3−グリセロ−ホスホ−sn−1−ジグリセリンが好ましい。
【0054】
前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの物理的性質には、リン脂質の配置は、重要ではない。すなわち、前記物理的性質は、ラセミ化合物または1,3−ジアシルグリセリンが構造内に存在する場合であっても、変わらないからである。しかし、前記のラセミ化合物または1,3−ジアシルグリセリンは、他の理由からあまり好ましいものではない。それというのも、ホスホリパーゼによって分解されえないかまたは限定されてのみ分解されうるからである。このことは、特に、リン脂質の分解の要因であるホスホリパーゼA、B、CおよびDに当てはまる。例えば、1,3−ジパルミトイル−グリセロ−2−リン脂質が代謝分解されうるかどうかは、従来、そもそも試みられなかった。換言すれば、当該リン脂質が有機体内で含量を増加させるかどうか、まさに、それどころか毒性であってよいのかという疑問には、答えていない。
【0055】
したがって、臨床学的用途に対して、使用されたリン脂質は、構造、脂肪酸組成および配置の点で定義された構造を有することが証明されていなければならない。さもないと、他の選択可能な方法により、長時間の研究(動物実験)において、非天然リン脂質が構造および配置の点で毒性特性を有しないことを示さなければならなかった。それというのも、殊に癌腫への適応において、臨床学的用途は、治療を長時間に亘って実施しなければならないことを意味するからである。
【0056】
したがって、使用されたリン脂質が構造、配置および脂肪酸組成の点で単一でありかつ天然であることは、特に好ましい。好ましくは、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよび1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホ−sn−1−ジグリセリン、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホ−sn−1−トリグリセリンまたは1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホ−sn−1−テトラグリセリンだけが使用される。
【0057】
このことは、本発明によるナノキャリア系が殊に1,3−ジアシル−グリセロ−3−ホスホコリンおよび1,2−ジアシル−グリセロ−3−ホスホ−オリゴグリセリン(オリゴ−2〜50個、殊に2〜10個のグリセリン単位に相応する)を含まないことを意味する。
【0058】
本発明によれば、殊に立体特異性脂質が準備されるかまたは使用される。ホスホリル化のための出発生成物としてたいてい1,2−ジアシルグリセリン、例えば1,2−ジパルミトイル−グリセリンが使用された早期の製造法を用いると、ホスファチジル−オリゴ−ジグリセリンは、極めて良好な品質で得ることができた(純度99%超)。しかし、さらに、構造的純度は90%までの範囲内だけにあり;すなわち、ホスホリル化中、または一部は、1,2−ジアシル−グリセリン、例えば1,2−ジパルミトイル−グリセリンの貯蔵の場合も、2位から3位への脂肪酸の移動が生じることが判明した。いずれにせよ、約10%の程度で、1,3−ジアシル−グリセリン、例えば1,3−ジパルミトイル−グリセリンが生じた。脂肪酸の移動によって形成されたジアシル−グリセリン、例えば1,3−ジパルミトイル−グリセリンは、同様にホスホリル化されかつ1,3−ジパルミトイル−2−ホスホ−オリゴ−グリセリンに転移される。1,2−誘導体または1,3−誘導体の物理的性質は、極めて類似しており、その結果、クロマトグラフィーによる精製は、可能であるが、しかし、費用がかかる。
【0059】
新規方法は、完全に新規の保護基系を用いることにより、1,2−ジアシル−グリセリン、例えば1,2−ジパルミトイル−グリセリンの使用を避けており、この新規の保護基系は、ホスフェートジイル−オリゴ−グリセリンを、化学分析的に純粋に製造し、構造的に純粋に製造し、かつ天然型配置で製造することに意図的に調整されている。そのために必要な構造単位がここには記載されている。
【0060】
新規の合成経路は、使用される構造単位が反応条件下で絶対に安定性であるという利点を有する。分子内の置換基の分解または移動は、生じない。
【0061】
それだけでなくまた、前記新規方法のさらなる利点は、脂肪酸組成の最初からではなく、使用されるジアシルグリセリンにより確定されることである。このことは、全ての意図される脂肪酸パターンのために、合成工程とホスホリル化工程が別々であることを意味する。
【0062】
さらに、新規方法においては、1,2−ジアシルグリセリン、例えば1,2−ジパルミトイル−グリセリンの別々の費用のかかる製造は、省略される。合成の終結時に初めて、イソプロピリデン−グリセリン基から2個の遊離ヒドロキシル基が開裂される。さらに、例えばパルミチン酸クロリドまたは他の脂肪酸クロリドでの簡単なアシル化によって、多数の脂肪酸誘導体が製造されうる。その後に、常法と同様に、ベンジル保護基は、PD−Cの存在下での触媒反応作用による水素化分解によって除去される。臭素化リチウムでのメチル保護基の分解後に、最終生成物が得られる。
【0063】
本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの物理的性質は、ピンポイントの正確さの感温性を保証する脂肪酸組成によって確定される。それに比べて、血清中での安定性およびキャリア系の生物学的分解は、定義された配置を必要とする。この配置は、化学合成によってのみ達成されうるが、しかし、ホスホリパーゼDとのエステル交換では達成され得ない。
【0064】
使用されたホスファチジル−オリゴ−グリセリンは、血中での刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの長い循環時間を生じさせる。前記脂肪酸組成は、一定の温度および血清中での安定した作用物質放出を保証する。さらに、通常の生物学的分解を保証する分子は、好ましく、すなわち前記分子は、有利に天然型配置で存在しかつホスホリパーゼ、例えばホスホリパーゼA、BおよびCによって分解可能である。
【0065】
前記性質を有する好ましいホスファチジルオリゴグリセリンは、その配置の点で単一でありかつ天然型配置で存在する(一般式IIa参照)。
【0066】
ホスファチジルオリゴグリセリンの量は、とりわけ、ナノキャリア系、殊にリポソームの全質量に対して、少なくとも1質量%、より有利に少なくとも10質量%、さらにより有利に少なくとも15質量%および70質量%まで、より有利に50質量%まで、さらにより有利に30質量%までである。
【0067】
本発明によるナノキャリア系、殊にリポソームは、ホスファチジルグリセログリコールを含んでいてもよい。式(IV)
【化6】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびxは、0〜50の整数である〕のホスファチジルグリセログリコールが好ましい。
【0068】
1およびR2は、有利にそのつど互いに独立して、とりわけ、直鎖状の飽和またはモノもしくはポリ不飽和のアルキル基、殊に飽和アルキル基である。さらに、R1およびR2は、有利にそれぞれ独立して、C14〜C20基、殊にC14〜C18基である。
【0069】
好ましくは、R1およびR2は、それぞれ独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基、殊に直鎖状の飽和C12〜C20アルキル基である。
【0070】
たいてい、好ましくは、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C14アルキル基、直鎖状の飽和C16アルキル基または直鎖状の飽和C18アルキル基である。
【0071】
さらなる実施態様において、R1およびR2は、有利にそれぞれ独立して、C13〜C19基、殊にC13〜C17基である。たいてい、好ましくは、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C13アルキル基、直鎖状の飽和C15アルキル基または直鎖状の飽和C17アルキル基である。
【0072】
xは、とりわけ、0〜10、殊に0、1、2または3の整数である。
【0073】
本発明によるナノキャリア系、殊にリポソームは、カルジオリピンを含んでいてもよい。式(V)
【化7】
〔式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびxは、0〜50の整数である〕のカルジオリピンが好ましい。
【0074】
1、R2、R3およびR4は、有利にそのつど、互いに独立して、特に直鎖状の飽和またはモノもしくはポリ不飽和のアルキル基、殊に飽和アルキル基である。R1、R2、R3およびR4は、さらに、有利にそれぞれ独立して、C14〜C20基、殊にC14〜C18基である。
【0075】
好ましくは、R1およびR2は、それぞれ独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基、殊に直鎖状の飽和C12〜C20アルキル基である。
【0076】
たいてい、有利に、R1、R2、R3およびR4は、独立して、直鎖状の飽和C14アルキル基、直鎖状の飽和C16アルキル基または直鎖状の飽和C18アルキル基である。
【0077】
さらなる実施態様において、R1、R2、R3およびR4は、有利にそれぞれ独立して、C13〜C19基、殊にC13〜C17基である。たいてい、有利に、R1、R2、R3およびR4は、独立して、直鎖状の飽和C13アルキル基、直鎖状の飽和C15アルキル基または直鎖状の飽和C17アルキル基である。
【0078】
カルジオリピンは、血中での、ナノキャリア系、殊にリポソームの循環時間を増大させる。
【0079】
血清中で37℃で安定性であり、すなわち作用物質を遊離しない、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームが特に好ましい。しかし、42℃で、作用物質は、急速に15秒未満の時間で放出される。リポソームにより内包された作用物質の放出は、例えば意図的に、膀胱壁において行なうことができ、それによって、作用物質、殊に細胞増殖抑制剤は、直接に所望の箇所で放出されうる。
【0080】
局在化された腫瘍の意図的な治療のための、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの使用のためには、最初に、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの物理的性質が決定的に重要である。限界条件は、健康なヒトの場合に約37℃の体温によって規定されている。36〜37℃の際に、作用物質で負荷された刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、安定性でなければならなかった。腫瘍領域内での温度を42℃に局所的に高めた場合、作用物質は、15秒未満で、急速に放出されるべきであった。前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、とりわけ、鎖長C14〜C18の脂肪酸エステル上に形成されている、適当なリン脂質を用いて製造されうる(ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸:そのために、第1表も参照のこと)。このリン脂質は、約40℃の範囲内で相転移温度を通過する。40℃未満で、層状に配置されたリン脂質は、結晶相中に存在し、それよりも高い温度で、前記の層状に配置されたリン脂質は、液相中に存在する。40〜42℃の狭い温度範囲内の転移範囲で、作用物質は、自然発生的に放出される。
【0081】
(1,2−ジパルミトイル)−ホスファチジルコリンの主転移温度は、約41℃である。すなわち、リポソームにおける臨床学的用途のための純粋に物理的な前提条件は、前記ホスファチジルコリンによっても満たされうる。しかし、臨床学的用途のためには、ヒトおよび動物の血液循環路内で必要とされる血清安定性が欠けている。したがって、治療の目的を達成するためには、(1,2−ジパルミトイル)−ホスファチジルコリンだけでは不十分である。すなわち、予想される治療の目的は、(ジパルミトイル)−ホスファチジルコリンだけによっても達成され得ない。
【0082】
しかし、ホスファチジルオリゴグリセリンを使用することにより、ホスファチジルジグリセリンまたはホスファチジルトリグリセリンの単なる混入によって血中での延長された循環時間を有する、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームを製造することに成功した。単なる混入が考えられうる。それというのも、ホスファチジルコリン、ホスファチジルジグリセリンまたはホスファチジルトリグリセリンは、グリセリン分子における同じ構造および同じ脂肪酸分布で同等な相転移温度、例えば相応するジパルミトイル化合物に対して約41℃を有するからである。
【0083】
さらなる重要な点は、脂肪酸の長さが4個を上回るCH2基と異ならない限り、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルオリゴグリセリンが、相分離なしに理想的な混合物をもたらすことである。このことは、相転移温度を23℃(純粋なジミリストイル−ホスファチジルコリン)と41℃(純粋なジパルミトイル−ホスファチジルコリン)との間で希望に沿って調節することができると同様に41℃と56℃(純粋なジステアロイルホスファチジルコリン)との間で希望に添って調節することができるための重要な前提条件である。相応して、前記混合物中には、ホスファチジルオリゴグリセリンが使用されてもよい。
【0084】
1つの実施態様において、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、約40℃〜42℃の主転移温度で、(ジパルミトイル)−ホスファチジルコリンと(ジステアロイル)−ホスファチジルコリンと(ジパルミトイル)−ホスファチジルジグリセリンまたは(ジパルミトイル)−ホスファチジルトリグリセリンとの混合物、すなわち三成分系から形成される。1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリンは、相転移温度を約42℃に調節するための基本マトリックスとして使用され、1,2−ジステアロイルホスファチジルコリンは、相転移温度の簡単な上昇をもたらし、および(1,2−ジパルミトイル)−ホスファチジルジグリセリンまたは(1,2−ジパルミトイル)−ホスファチジルトリグリセリンは、血清の安定性および血液循環における安定性を確立する。
【0085】
1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン40〜60質量%、1,2−ジステアロイルホスファチジルコリン15〜25質量%および1,2−ジパルミトイルホスファチジルジグリセリン20〜40質量%を含む系が好ましい。成分は、さらになお好ましくは、そのつど立体特異的な形で使用される。
【0086】
さらなる好ましい実施態様において、(1,2−ジパルミトイル)−ホスファチジルコリンと(1,2−ジステアロイル)−ホスファチジルジグリセリンまたは(1,2−ジステアロイル)−ホスファチジルトリグリセリンとの二成分系でも十分である。
【0087】
本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームを使用することにより、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームに内包された作用物質は、刺激の発揮、殊に刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの局所的加熱によって放出されうる。したがって、この刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、特に良好に、腫瘍、殊に膀胱腫瘍または膀胱癌腫の局所的治療に適している。刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームに内包された作用物質の放出は、意図的に膀胱壁中に誘導されることができ、それによって作用物質、殊に細胞増殖抑制剤は、直接に所望の箇所で放出されうる。この経験は、他の固形腫瘍および局在化された腫瘍の治療に使用されてもよい。
【0088】
ここに記載された刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、特に、温熱療法による作用物質の局所的放出に適している。温度感受性でありかつ約40℃の相転移温度を有する、少なくとも1つのホスファチジルコリンおよび少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンを含む、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームが好ましい。このことは、脂肪酸エステルとして、とりわけミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸がこれに該当することを意味する。もちろん、他の相転移温度は、相応する脂肪酸エステルにより調節されてもよい(そのために、第1表も参照のこと)。
【0089】
約40℃の相転移温度を有する、少なくとも1つのホスファチジルコリンおよび少なくとも1つのホスファチジルジグリセリンまたはホスファチジルトリグリセリンを有する、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、実験動物の血液循環路内で約36〜37℃の標準温度で長い半減期を有することが確認された。局所的に温度が約42℃に高められた場合に初めて、内包された作用物質は、放出される。
【0090】
本発明により特許保護が請求された刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、とりわけ、少なくとも1つのホスファチジルコリンおよび少なくとも1つのホスファチジルジグリセリン、ホスファチジルトリグリセリンまたはホスファチジルテトラグリセリンを含む。相転移温度は、用途の要件により左右される。前記相転移温度は、とりわけ、臨床学的用途に対して約42℃に調節され、グリセリン分子において考えられうる脂肪酸の組合せによって簡単に達成される(そのために第1表も参照のこと)。
【0091】
他の用途のためには、40℃未満の他の相転移温度、例えば再び相応する脂肪酸の組合せにより達成されうる、約30℃未満の温度が興味深い。この刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、当該リポソームが腫瘍領域内への直接の注射で当該リポソームの作用物質を直ちに腫瘍組織内に放出するので、そのかぎりにおいては、興味深い。相応して、より高い相転移温度を有する、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームも重要である。それというのも、この刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、極めて安定性であり、作用物質を直接に振り出さずに、作用物質を緩徐に、熱効果を必要とせずに、例えば吸収後に細胞内に放出しうるからである。すなわち、50℃以上でもなお安定性である、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームである。
【0092】
前記の刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの3つの好ましい実施態様を区別することができる:
1)好ましい
リン脂質から形成されたリポソームは、少なくとも1つのホスファチジルコリンおよび少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンを含有する。脂肪酸鎖は、約42℃の相転移温度が達成されるように選択されている。グリセリン分子内の脂肪酸鎖の位置およびホスフェート基の位置は、任意であり、− 生体内での治療に使用するための約42℃の相転移温度が決定的であり、この相転移温度は、通常、鎖長C14〜C18(ミリスチン酸、パルミチン酸およびステアリン酸)の脂肪酸エステルで達成されうる。
【0093】
2)より好ましい
このカテゴリーには、1,2−ジアシル−sn−3−グリセロ−ホスホ−rac−オリゴグリセリンを有するリポソームが含まれる。全ての物理的性質、例えば相転移温度、理想的な混合挙動は、変わらない。しかし、前記分子は、天然には発生せず、それゆえに、代謝または分解されないか、または緩徐にのみ代謝または分解される。
【0094】
3)なおいっそう、より好ましい
このカテゴリーには、天然型配置:sn−グリセロ−3−リン酸エステルsn−1−ホスホ−ジグリセリン、sn−グリセロ−3−リン酸エステルsn−1−ホスホ−トリグリセリンまたはsn−グリセロ−3−リン酸エステルsn−1−ホスホ−テトラグリセリンを有するリン脂質からのリポソームが含まれる。
【0095】
全ての物理的性質、例えば相転移温度、理想的な混合挙動は、変わらない。配置は、天然型であり、すなわち分子の生物学的分解が保証されている。
【0096】
そのつど適当な主転移温度を有するホスファチジルコリンを選択することにより、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、カスタマイズされうる。第1表中には、ホスファチジルコリンの主転移温度(TM)が規定されており、当該ホスファチジルコリンの主転移温度は、0〜80℃の範囲内にある。前記主転移温度は、前記表から確認できるように、グリセロ−3−ホスホコリンの鎖長および位置1と2上の分布またはグリセロ−2−ホスホコリンの鎖長および位置1と3上の分布に依存する。
【0097】
前記ホスファチジルコリンは、とりわけ、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソーム中に、少なくとも10質量%の量、より有利に少なくとも30質量%の量、なおより有利に少なくとも50質量%の量で、しかし、最大で90質量%で存在する。
【0098】
きわめて一般的に、前記ホスファチジルコリンの相転移温度は、第1表に示されているように、脂肪酸エステルの鎖長により制御されうる。ホスファチジルコリンの主転移温度(TM)は、そのつどの要件にカスタマイズされて調節されうる。臨床学的用途には、約40℃の温度が特に重要である。
【0099】
しかし、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの純粋な物理的性質、すなわち37℃での安定性、そして生理的食塩溶液中での42℃での作用物質の放出と共に、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、前記前提条件が血清の存在下でも存在し、ならびに実験動物におけるモデル試験おいて存在する場合にのみ治療に使用されてよい。前記安定性は、(ジパルミトイル)−ホスファチジルコリンおよび(ジアルミトイル)−ホスファチジルグリセリンからのリポソームが使用される場合には、原則的に達成され得ない。この系において、動物実験は、リポソーム内容物、作用物質が1分間未満でほとんど完全に放出されることを示す。
【0100】
臨床学的使用に必要とされる前提条件、すなわち37℃での安定性、そして42℃での作用物質の放出は、動物実験において、新規の負電荷キャリア、ホスファチジルオリゴグリセリン、殊にホスファチジルジグリセリンおよびホスファチジルトリグリセリンを用いてのみ達成することができた。
【0101】
しかし、臨床学的使用には、さらなる視点を考慮に入れなければならない。本発明によれば、sn−1結合、ひいては天然に発生する配置を有するリン酸エステルを有する、ホスファチジルジグリセリンおよびホスファチジルトリグリセリンが最初に製造された。
【0102】
したがって、本出願のさらなる対象は、式IIa
【化8】
配置:天然型
表記:1,2−ジアシル−sn−3−グリセロ−ホスホ−sn−1−オリゴグリセリン;
sn、立体特異的番号付け;
〔上記式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびmは、0〜50の整数である〕の立体特異性ホスファチジルオリゴグリセリンであり、ここで、グリセリドからホスフェート基への結合は、立体特異的でありかつsn−3結合として存在し、およびホスフェート基からオリゴグリセリンへの結合は、立体特異的でありかつsn−1結合として存在する。
【0103】
1およびR2は、有利にそのつど互いに独立して、特に直鎖状の飽和またはモノもしくはポリ不飽和アルキル基、殊に飽和アルキル基である。R1およびR2は、さらに有利にそれぞれ独立して、C14〜C20基、殊にC14〜C18基である。
【0104】
好ましくは、R1およびR2は、それぞれ独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基、殊に直鎖状の飽和C12〜C20アルキル基である。
【0105】
たいてい、有利に、R1およびR2は、独立して、直鎖状の飽和C14アルキル基、直鎖状の飽和C16アルキル基または直鎖状の飽和C18アルキル基である。
【0106】
mは、特に、0〜10の整数であり、およびたいてい、有利には、0または1である。
【0107】
臨床学的用途、例えば腫瘍の治療の場合、生理学的相容性は、大いに重要である。前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、キャリア系として、作用物質の放出後にホスホリパーゼによって簡単に分解されるべきであった。したがって、本発明によれば、ホスファチジルジグリセリンおよび類似体として、グリセリン構造単位にリン酸−sn−1結合を有する分子が特に有利に使用される。利点は、ホスホリパーゼによる急速な分解にある。
【0108】
それによって、臨床学的用途に対する原則的な前提条件は、殊に、腫瘍疾患、例えば膀胱腫瘍の局所的治療のための用途に適合される。前記治療の効果は、既に動物実験において確認された。
【0109】
本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、特に、コレステリンを含まない。それというのも、コレステリンは、相転移温度の拡大をまねき、それによって広い熱転移範囲をまねくからである。殊に、本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、コレステリンを0.1質量%未満、より有利に0.01質量%未満の割合で含有する。特に有利に、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、コレステリンを含まず、しかもコレステリンを全く含まない。
【0110】
好ましい実施態様によれば、本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、さらにより微少量、特に10〜15質量%のアルキルホスホコリンを含有する。適当な物質は、例えばヘキサデシルホスホコリン、オレイルホスホコリンならびにエーテルリソレシチンである。エーテルリソレシチンの場合、ヒドロキシル基は、グリセリンの位置2でメチル化されていてよいか、または含まれていなくてよい。この実施態様の場合、リポソームに内包された物質の放出を、アルキルホスホコリンの含量なしの約70%から実際に100%へ高めることに成功し、このことは、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームの開裂の加速に起因しうる。さらに、アルキルホスホコリンは、刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームからの温度依存性の放出による抗腫瘍作用を有する。
【0111】
さらに、本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、特に作用物質、殊に膀胱腫瘍の処置に適した作用物質を含む。好ましくは、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊にリポソームは、細胞増殖抑制剤、殊にマイトマイシン C、ドキソルビシン、エピルビシン、ゲムシタビン、トラベクテジン、シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンからなる群から選択された細胞増殖抑制剤を含む。
【0112】
本発明によるリポソームの温度感受性は、リポソーム膜内のホスファチジルコリンの相転移によって定められる。相転移温度を通過した場合には、短時間の膜不安定性が生じ、それによってリポソーム内容物が放出される。この効果は、本発明によれば、膀胱腫瘍の処置に使用される。その際に、膀胱腫瘍は、例えば局所的温熱療法の範囲内で、局所的に特異的に加熱される。この場合、前記腫瘍中の温度は、リポソーム内容物を放出するための限界温度を超えて上昇する。さらに、前記リポソーム内容物は、特異的にほとんど腫瘍中だけで放出され、その結果、作用物質は、効果的に前記腫瘍の処置に使用されうる。
【0113】
したがって、さらに、本発明は、温熱療法または/および超音波と組み合わせた、ここに記載されたような温度感受性リポソームに関する。この場合、加熱は、多数の方法、例えば熱水での簡単な膀胱洗浄、電磁波による加熱、超音波による加熱またはレーザーによる加熱によって実施されうる。
【0114】
本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、常法で、例えばクロロホルムまたはクロロホルム/水/イソプロパノール中への脂質の溶解、有利にロータリーエバポレーター中で真空中での溶剤の除去、相転移温度を上回る温度で内包すべき内容物の水溶液での脂質の温度調節によって製造される。この温度調節処理の時間は、有利に30〜60分であるが、しかし、より短くともよいし、より長くともよい。数回繰り返される凍結融解工程、例えば再び2〜5回繰り返される凍結融解によって、均質化が行なわれる。最終的に、得られた脂質懸濁液は、定義された孔径の膜を通して相転移温度を上回る温度で押出され、意図的な刺激応答性ナノキャリア系の寸法(??)、殊にリポソームの寸法が達成される。膜として、例えば定義された孔径、例えば100〜200nmのポリカーボネート膜が適している。最終的に、任意に、内包されていない内容物は、例えばカラムクロマトグラフィー等によって分離されうる。
【0115】
局所領域的治療の場合の作用物質の放出は、膀胱腫瘍の処置に限定されていない。
【0116】
したがって、本発明は、また、他の腫瘍、殊に軟部肉腫(Weichteilsarkom)、骨肉腫、膀胱癌(筋層浸潤性、muscle invasive bladder cancer(筋層浸潤性膀胱癌)[MIBC]および筋層非浸潤性、non−muscle invasive bladder cancer(筋層非浸潤性膀胱癌)[NMIBC])、卵巣癌、胃癌、乳癌(殊に、トリプルネガティブ乳癌、[TNBC])、肝細胞癌、子宮癌、甲状腺癌、頭頸部癌、前立腺癌、脊索腫、類腱腫、神経膠芽細胞腫およびとりわけ局所領域的拡張部を有する他の腫瘍疾患の処置に使用するための、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームを含む。
【0117】
当該ナノキャリア系は、とりわけ、それぞれの腫瘍の処置に適した作用物質を含み、この作用物質は、さらに刺激応答的に腫瘍中で放出されるかまたは腫瘍の近くで放出される。
【0118】
腫瘍を処置するのに適した作用物質は、例えばアントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン)、オキサアザホスホリン(例えば、ヒドロキシイフォスファミド)、プラチン類似体(シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン)、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、トポテカン、ビンクリスチン、イリノテカン、メトトレキサート、ブレオマイシン、チロシンキナーゼ阻害剤、小分子、DNA療法剤または放射線増感剤(放射線治療と共に)である。
【0119】
さらに、本発明による刺激応答性ナノキャリア系は、感染症、殊に細菌類、ウィルス類、菌類または/および寄生虫類によって引き起こされる感染症の処置に使用されてよい。
【0120】
医療移植片、殊に整形外科プロテーゼの感染の処置、局在化された感染、殊に深部軟部組織または/および骨の感染の処置、および/または多剤耐性病原体の治療が好ましい。
【0121】
このために、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、とりわけ、作用物質、殊に抗生物質、静ウィルス剤(Virostatika)、殺真菌剤および抗寄生虫作用を持つ医薬品から選択された作用物質を含む。抗生物質、殊にβ−ラクタム、グリコペプチド、ポリケチド、アミノグリコシド抗生物質、ポリペプチド抗生物質、キノロン、スルホンアミド(例えば、リネゾリド、フルクロキサシリン、セファゾリン、クリンダマイシン、バンコマイシン、テイコプラニン、リファンピシン、アンピシリン、セフタジジン、セフトリアキソン、セフェピム、ピペラシリン、フルオロキノロン、メトロニダゾール、アミカシン等)または/および
静ウィルス剤(Virostatika)、殊に侵入阻害剤、浸透抑制剤(Penetrations−Inhibitoren)、DNAポリメラーゼ阻害剤、DNA/RNAポリメラーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤、イノシンモノホスフェート−デヒドロゲナーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、ヘリカーゼ−プリマーゼ阻害剤、シクロフィリン阻害剤、成熟阻害剤、ターミナーゼ阻害剤(Terminase−Inhibitoren)、ノイラミニダーゼ阻害剤等または/および
殺真菌剤、殊にアゾール(ベンズイミダゾール(“MBC”)、トリアゾール、イミダゾール)、モルホリン、ストロビルリン、キノリン、アニリノ−ピリミジン、オキサゾリジン−ジオン、カルボン酸アミド等
から選択されている作用物質が特に好ましい。
【0122】
さらに、本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、眼の疾患の処置、殊に眼の炎症性疾患、変性疾患、感染症および/または腫瘍性疾患、創傷治癒障害または/および緑内障の処置に使用されてよい。
【0123】
前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、さらなる好ましい実施態様において、自己免疫疾患の処置、殊に関節リウマチまたは/および慢性炎症性腸管疾患の処置に使用されてもよい。そのために、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、とりわけさらに作用物質、殊にステロイド、TNF−αまたは/および免疫抑制剤を含む。
【0124】
また、本発明は、診断に使用するための、殊にMR造影剤およびMRイメージング法を用いる非侵襲性温度測定に使用するための、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームを提供する。当該刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム、は、とりわけ、作用物質として、CT造影剤またはMRT造影剤、特にヨウ素含有造影剤またはガドリニウム−キレートから選択されたCT造影剤またはMRT造影剤を含む。
【0125】
さらに、本発明による刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、変性疾患の処置、殊に抗炎症剤、鎮痛剤または/および軟骨保護剤の局在化された放出に使用されうる。前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームのさらなる使用分野は、認知症症候群、アルツハイマー病または/および焦点性精神神経系障害、殊にてんかん、の処置ならびにアテローム性動脈硬化の処置である。
【0126】
血栓症の処置のために、前記刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソームは、とりわけ、血栓溶解剤、特にストレプトキナーゼ、ウロキナーゼまたは/およびアルテプラーゼから選択された、少なくとも1つの作用物質を含む。
【図面の簡単な説明】
【0127】
図1図1は、温度感受性リポソームからの膀胱内作用物質放出の原理を示す略図。
図2図2は、TSL(Dox)の薬物動態のプロフィールを示す線図。
図3図3は、ラットの膀胱癌モデル(Postius,Szelinyi;J.Pharmacol.Methods.1983,9:53−61によって変更された)の試験構成を示す略図。
図4図4は、腫瘍細胞接種から7日後の腫瘍の肉眼的観察を示す写真。
図5図5は、膀胱の組織を示す写真。
図6図6は、膀胱腫瘍を有する雌のF344ラットの膀胱壁中のDoxの組織中濃度を示す棒グラフ。
【0128】
本発明を添付図および次の例によってさらに説明する。
【実施例】
【0129】
例1
ホスファチジル−オリゴグリセリンの合成
重要な構造単位
1)3−アリル−2−ベンジル−sn−G(体内合成)
2)1−アリル−2−ベンジル−sn−G(体内合成)
3)1,2−イソプロピリデン−sn−G(市販製品)
4)2,3−イソプロピリデン−sn−G(市販製品)
前記構造単位を用いて、天然型配置を有するか、そうでなければ非天然型配置を有する、所望のホスファチジルオリゴグリセリンを開発することができる。従来、この分野においては、ラセミ化合物のホスファチジルオリゴグリセリンだけが製造されかつ長時間循環するリポソーム中で試験された。
【0130】
従来
【化9】
配置:ラセミ化合物(非天然型)
表記:1,2−ジアシル−sn−3−グリセロ−ホスホ−rac−ジグリセリン
(相応して、トリグリセリンまたはテトラグリセリン)
説明:R1、R2 − 飽和アルキル基;sn − 立体特異的番号付け;rac − ラセミ結合;相応してトリグリセリンまたはテトラグリセリンも。
【0131】
本発明による
【化10】
配置:天然型
表記:1,2−ジアシル−sn−3−グリセロ−ホスホ−sn−1−ジグリセリン
(相応してトリグリセリンまたはテトラグリセリンも)
説明:R1、R2 − 飽和アルキル基;sn − 立体特異的番号付け;ジグリセリン − 相応してトリグリセリンまたはテトラグリセリンも。
【0132】
ここでは、ホスフェートエステルについての天然型配置の物質、すなわち(sn−3)結合のジアシルグリセリン、そして(sn−1)結合のジグリセリン、トリグリセリンまたはテトラグリセリンが最初に記載される。前記の天然型配置の物質は、レシチンからホスホリパーゼ Dとのエステル交換によってグリセリンの存在下に得ることができるのではなく、意図的な合成によってのみ得ることができる。前記物質は、天然型配置、すなわち(sn−3)結合および(sn−1)結合で存在する。
【0133】
また、さらなる物質、例えば
グリセロ−グリコール
グリセロ−グリセリン(分枝鎖状)
グリセロ−グリセロ−グリコール
の製造の場合、これらの物質がホスファチジル−オリゴグリセリンに対してホスフェートエステルの(sn−1)結合を有するグリセリン基を含むことを保証する合成経路が開発された。すなわち、前記物質は、構造内で、(sn−1)結合を可能にする遊離OH基を有する、少なくとも1個のグリセリン分子を含む。前記物質は、新規である。それというのも、ここでもジアシル−グリセリンリン酸エステルの(sn−3)結合ならびにグリセロール−グリコールに対する(sn−1)結合が可能であるからである。さらに、ここでは、構造も新規である。それというのも、末位にグリセリンがあるのではなく、グリコールまたは類似体があるからである。
【0134】
例2
単一の天然型配置を有するホスファチジル−オリゴグリセリンの合成の例
使用された略記:P、パルミチン酸;O、オレイン酸;S、ステアリン酸;L、ラウリン酸;B、ベヘン酸;M、ミリスチン酸;A、アラキン酸;Li、リノセリン酸(Linocerinsaeure)。
PC、ホスホコリン;PG2、ホスホジグリセリン;PG3、ホスホトリグリセリン;PG4、ホスホテトラグリセリン。
【0135】
ジグリセリン
【化11】
【0136】
トリグリセリン
【化12】
【0137】
テトラグリセリン
【化13】
【0138】
例3
天然型配置を有するホスファチジル−sn−1−グリセロ化合物の合成の例
(構造変形による新規性ならびに単一の天然型配置による新規性)
グリセロ−グリコール(G−Gly)
構造:
【化14】
【0139】
グリセロ−グリセリン(分枝鎖状)
構造:
【化15】
【0140】
ジグリセロ−グリコール(G2−Gly)
構造:
【化16】
【0141】
例4
膀胱癌腫の処置のための温度感受性リポソームの使用
ジパルミトイルホスファチジルジグリセリンまたはジパルミトイルホスファチジルトリグリセリン30モル%を含む、本発明による温度感受性リポソームを使用した。
【0142】
図1は、温度感受性リポソームからの膀胱内作用物質放出の原理を示す。
【0143】
作用物質放出は、一般に、濃度勾配に基づいて脂質膜を介する受動移入によって生じる。前記作用物質放出の相転移温度(Tm)で、リン脂質は、固体のゲル相(Lβ)から液体の不規則相(Lα)へ移行する。Lα相は、Lβ相と比べて高い浸透性によって特徴付けられている。相転移温度Tmに近い温度の場合、浸透性は、2つの相が生じる膜領域の共存に基づいて最も高く、それによって充填欠損を有する境界領域が形成される。本発明による温度感受性リポソームは、当該温度感受性リポソームが加熱された組織を通過する際に、当該温度感受性リポソームの内容物を血液流中に放出する。それによって、高い作用物質放出率が準備される。
【0144】
同所性膀胱癌をAY27細胞での接種によって発生させた、170〜200gの体重を有する雌のF344ラットにおいて生体内試験を実施した。ドキソルビシン(Dox)の薬物動態および蓄積量をHPLC測定によって評価した。焦点性腫瘍成長を膀胱壁の化学的プリコンディショニング、続いてAY27細胞点滴によって開始させた。腫瘍成長を膀胱鏡検査によって検査した。TSL(Dox)(ドキソルビシン含有温度感受性リポソーム)もしくは遊離Doxを静脈内(i.v.)注射するかまたは膀胱内に導入した。前記膀胱の昇温を熱水によって実現させた。
【0145】
図2は、TSL(Dox)の薬物動態のプロフィールを示す。
【0146】
2mg/kgのTSL(Dox)投与を、雌のF344ラットにおいて、0日目および7日後または14日後に繰り返して実施した。TSL(Dox)は、120分間に亘り高い安定性を示す。
【0147】
図3は、ラットの膀胱癌モデル(Postius,Szelinyi;J.Pharmacol.Methods.1983,9:53−61によって変更された)の試験構成を示す。
【0148】
ラットに2本の膀胱カテーテル(1)を設ける。高精度ポンプ(2)は、熱水を水浴(3)からカテーテルの一方を通じて膀胱内に輸送する。他方のカテーテルは、熱水の流出に使用される。流出する水の温度が41℃に達した時に、ドキソルビシンを含有する温度感受性リポソームを尾静脈注射し、かつ1時間の温熱療法による処置を開始する。
【0149】
図4は、腫瘍細胞接種から7日後の腫瘍の肉眼的観察を示す。
【0150】
同所性膀胱癌をAY細胞での接種によって発生させた、170〜200gの体重を有する雌のF344ラットにおいて試験を実施した。ドキソルビシン(Dox)の薬物動態および蓄積量をHPLC測定によって評価した。焦点性腫瘍成長を膀胱壁の化学的プリコンディショニング、続いてAY27細胞点滴によって開始させた。膀胱壁上の多発性の腫瘍プラーク形成を、膀胱鏡検査(A)で、取り出された膀胱(BおよびC)について評価した。
【0151】
図5は、膀胱の組織を示す。
【0152】
図(A)は、10倍の倍率でF344ラットの標準の外観の膀胱を示す。図(B)は、同様に10倍の倍率で腫瘍細胞接種から7日後のpT1G3腫瘍を示す。
【0153】
図6は、膀胱腫瘍を有する雌のF344ラットの膀胱壁中のDoxの組織中濃度を示す。
【0154】
前記図は、静脈内投与されたTSL(Dox)および温熱療法、膀胱内投与された遊離Dox(fDOX)および静脈内投与された遊離Doxで1時間処置した後の尿路上皮中および筋層中の平均Dox濃度を示す。i.v.処置のためのDox用量は、体重1kg当たり5mgであり、膀胱内処置については、0.5mg/ラットである。尿路上皮中のDox濃度は、全ての場合に、処置方法とは無関係に、より高い。TSL(Dox)および温熱療法で処置された、腫瘍を有するラットの尿路上皮中/筋層中の濃度は、膀胱内投与された遊離Doxと比較して、3〜5倍高かった。
【0155】
例5
ホスファチジル−ジグリセリンおよび類似体の合成にとって重要な構造単位
A)(sn)−1,2−イソプロピリデングリセリン
は、遊離(sn)−3−ヒドロキシル基を有する市販製品である。前記(sn)−1,2−イソプロピリデングリセリンは、直接ホスホリル化に使用されうる。(sn)−3結合を有するリン酸エステルが生じる:
【化17】
【0156】
B)(sn)−3−アリルグリセリン
は、Aから、アルキルクロリドとの反応およびさらにイソプロピリデン保護基の酸分解によって得ることができる。前記(sn)−3−アリルグリセリンは、遊離ヒドロキシル基を(sn)−1位に有する光学的に純粋なグリセリン誘導体の形成に使用される。
【0157】
C)(sn)−1 トリチル−2 ベンジル−3−アリル−グリセリン
は、Bから、(sn)−1でのトリチル化および(sn−2)での引き続くベンジル化によって得ることができる。
【0158】
D)(sn)−1 トリチル−2−ベンジル−3−グリセロ−グリセリン
は、Cから、エポキシ化および開環によって生じさせることができる。
【0159】
E)(sn)−2 ベンジル−3 グリセロ−ジベンジル−グリセリン
は、Dから、ジベンジル化および引き続く脱トリチル化によって製造されうる。前記(sn)−2−ベンジル−3−グリセロ−ジベンジル−グリセリンは、(sn)−1結合、ひいては(sn)−1−リン酸エステルの製造を可能にする重要な構造単位を生じる。
【0160】
【化18】
【0161】
F)(sn)−1−OH−2−ベンジル−3−グリセロ−ベンジル−グリコール
は、Dから生じさせることができる:過ヨウ素酸塩でのビシナルなジオール分解および水素化ホウ素ナトリウムを用いるアルコールへのアルデヒドの還元は、1−トリチル−2−ベンジル−3−グリセロ−グリコールをもたらす。遊離ヒドロキシル基のベンジル化ならびに脱トリチル化は、(sn)−1位の開裂をもたらし、この(sn)−1位は、再び(sn)−1リン酸エステルの製造に使用されうる。
【0162】
【化19】
【0163】
相応して、トリグリセリンから同じ保護基の戦略を用いて(sn)−1 OH−2 ベンジル−3 グリセロ−2 ベンジル−グリセロ−ベンジル−グリコールを生じさせることができる:
【化20】
【0164】
G)(sn)−1 アセチル−2 ベンジル−グリセリン
この保護基を、最初に、複合リン脂質、例えば分子内で2つのリン酸エステルを含むカルジオリピンの製造に使用する。分子内に存在するホスファチジル基は、グリセリン橋を介して互いに結合されている。上記構造単位は、この橋の製造ならびに(sn)−3位での、すなわち、同様に天然に生じる配置で2つのリン酸エステルの製造を可能にする。
【0165】
Gは、構造単位Cから生じさせることができる:(sn)−1位での脱トリチル化、プロペニルへのアリルの転移、(sn)−1位のアセチル化およびプロペニル保護基の酸分解は、遊離(sn)−3位を有する構造単位Gをもたらす:
【化21】
【0166】
カルジオリピンおよび類似体の製造には、特別な手段を取らなければならない。それというのも、前記分子内には、2個の負電荷キャリア、すなわち1分子当たり2個のホスフェート基が存在しているからである。そのために、既にホスホリル化された基R5がアセチル基の分解後にアルコールR6OHとして使用される(そのために、リン酸トリエステルの製造:R5OHからのリン酸トリエステルの製造およびR6OHからのリン酸トリエステルの製造を参照のこと)。
【0167】
【化22】
【0168】
6OHを再びホスホルオキシクロリドと反応させた場合には、ジホスフェートが得られる。2つのリン酸基は、さらに、グリセリン橋を介して互いに結合されている。
【0169】
【化23】
【0170】
合成の終結時には、さらに、イソプロピリデンによって保護された4個のヒドロキシル基が開裂される。その後に、常法と同様に、脂肪酸クロリド、例えばパルミチン酸クロリドまたはパルミチン酸の公知方法によりアシル化が実施される。PD−Cでの触媒反応作用による水素化分解によるベンジルエーテル保護基の分解後に、臭化リチウムを用いるメチル基の分解によって目的生成物が得られる。
【0171】
1−アセチルプロパンジオール−(1,3)
は、同様に橋分子として使用され、およびさらに、同様に他の末位ジオール、例えばグリコール、ブタンジオール−(1,4)等で、いわゆるデオキシ−カルジオリピンを生じる。この化合物は、可能なかぎり天然に生じるホスファチジル誘導体を使用するという本発明の概念においては、あまり興味深いものではない。
【0172】
例6
POCl3と3つの異なる第一級アルコールとの段階的な反応による、戦略的に重要なリン酸−トリエステルの製造
定義された、位置特異的で、配置が明らかなリン酸トリエステルの製造は、徹底的に調査された(そのために、刊行物1〜10を参照のこと)。
1)Eibl.H.Synthesis of glycerophospholipids.Chem.Phys.Lipids.1980 Jun;26(4):405−29、
2)Eibl.H.Phospholipid synthesis.In:Liposomes:From physical structure to therapeutic applications.Ed Knight C G,Elsevier,Amsterdam 1981;19−51、
3)Eibl.H,Kovatchev S.Preparation of phospholipids and their analogs by phospholipase D.Methods Enzymol.Ed.Loewenstein J M.1981;72:632−9.Academic Press,New York、
4)Eibl.H.Phospholipide als funktionelle Bausteine biologischer Membranen.Angew Chem.1984(259):9188−9198、
5)Eibl.H.Phospholipids as functional constituents of biomembranes.Angew Chem.Int.Ed Engl 1984(23)257−271、
6)Eibl.H.Phospholipid synthesis:Oxazaphospholanes and dioxaphospholanes as intermediates.Proc Natl Acad Sci USA.1978;75:4074−77、
7)Eibl.H,Woolley P.Synthesis of enatiomerically pure glyceryl esters and ethers.I.Methods employing the precursor 1,2−isopylidene−sn−glycerol.Chem Phys Lipids 1986(41):53−63、
8)Eibl.H,Woolley P.Synthesis of enatiomerically pure glyceryl esters and ethers.II.Methods employing the precursor 3,4−isopropylidene−D−mannitol.Chem Phys Lipids.1988(47):47−53、
9)Eibl.H,Woolley P.A general synthetic method for enantiomerically pure ester and ether lysophospolipids.Chem Phys Lipid 1988(47):63−68、
10)Woolley P,Eibl.H.Synthesis of enatiomerically pure phospholipids including phosphatidylserine and phosphatidylglycerol.Chem Phys Lipids 1988(47):55−62。
【0173】
ここに記載された構造単位から、異なるホスファチジル−オリゴ−グリセリンおよび相応してホスファチジル−グリセログリコールを製造することができる。脂肪酸基を合成の終結時に初めて中心の中間生成物から製造すること、すなわち早期の合成とは異なり、脂肪酸基を終結時に初めて導入することは、特に重要である。このことは、2個のビシナルなヒドロキシル基、例えば
【化24】
を有する、中心の中間生成物を製造することによって可能である。
【0174】
1996年2月16日付けのドイツ連邦共和国特許出願第19605833.3号(発明者:H.Eibl;占有者:Max−Planck−Gesellschaft)には、オキシ塩化燐を第一級アルコールで段階的にエステル化するための条件が論議されかつ正確に記載されている。第1段階で1,2−ジアシルグリセリン、例えば1,2−ジパルミトイルグリセリンが使用された早期の方法(問題点:反応の際、または早期に別個に製造されなければならなかった1,2−ジパルミトイルグリセリンの貯蔵の際の脂肪酸の移動)とは異なり、商業的に得ることができる、遊離sn−3位を有する(sn)−1,2−イソプロピリデングリセリンでの合成が導入される。このことは、1,2−ジアシルグリセリン、例えば1,2−ジパルミトイルグリセリンの費用のかかる、別個の合成を節約し、それとともに、上記の問題を解消する。
【0175】
第1のホスホリル化工程における1,2−ジパルミトイルグリセリンでの前記の劣悪な経験によれば、合成は、異なって構成された。目的は、脂肪酸エスエルを合成の終結時に初めて、開裂されたビシナルなジオールを介して導入することであった。次の順序の合成工程が好ましい:
1オキシ塩化燐での第1のホスホリル化工程
1OH:(sn)−1,2−イソプロピリデングリセリン
(遊離sn−3位)
POCl3 + R1OH → R1O−POCl2
21O−POCl2での第2のホスホリル化工程
2OHまたは相応して、遊離sn−1位を有する
3OH;R4OH;R5OH;R6OH
【化25】
3
【化26】
での第3のホスホリル化工程
CH3OHでのメタノリシス
【化27】
【0176】
さらに、ベンジル保護されたグリセリンでのホスホリル化後に、リン酸ジエステルは、直接に加水分解されるのではなくメタノリシスによってリン酸トリエステルに変換される。さらに、リシナルなジオールの開裂は、イソプロピリデン保護基の酸分解によって行なうことができる。さらに、公知方法によるヒドロキシル基のアシル化が続く(脂肪酸クロリド、例えばパルミチン酸クロリドか、そうでなければ遊離脂肪酸)。
【0177】
さらに、目的生成物は、PD/C触媒反応作用による水素化分解、続いて臭化リチウムでのメチル分離によって得ることができる。
【0178】
例示的に、幾つかの目的生成物は、図式で、例えばジパルミトイルエステルとして示される:
ホスファチジルジグリセリンおよび類似体
ホスファチジルジグリセリンおよびホスファチジルトリグリセリンは、ホスファチジルグリセリン、天然に生じる膜リン脂質から生じさせたものである。意外なことに、エーテル橋を介してホスファチジルグリセリンと結合している、さらなるグリセリン基の導入は、特別な性質をもたらす。前記リン脂質を含む、血中のリポソームの循環時間は、変えられかつ大幅に延長される。
【0179】
【化28】
(sn)−1,2−ジパルミトイル−グリセロ−3−ホスホ−sn−1−グリセロ−グリセリン、ナトリウム塩

【化29】
(sn)−1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−グリセログリコール、ナトリウム塩
カルジオリピンおよび構造類似体
同様に天然の膜中に存在する、カルジオリピンおよび類似体は、同様に、循環時間を変える性質を有しかつ血中でのリポソームの循環時間を増大させる。
【0180】
我々によって開発された構造単位を用いて、混合鎖カルジオリピン、すなわち例えば、3つの脂肪酸エステルだけを有する構造が製造されてもよい。
【0181】
【化30】
(テトラパルミトイル)−カルジオリピン
【化31】
(sn)−1,2−ジパルミトイル−3−グリセロ−ホスホ−グリセロ−(sn)−3−ホスホグリセリン、二ナトリウム塩
【0182】
7.(sn)−1,2−ジアシル−3−グリセロ−ホスホル−(sn)−1−ジグリセリンの例
1)ジパルミトイル化合物
ナトリウム塩;C4180NaO12P(MW819.04)
2)ジミリストイル化合物
ナトリウム塩;C3772NaO12P(MG762.93)
3)ジステアロイル化合物
ナトリウム塩;C4588NaO12P(MW875.14)
4)1−パルミトイル−2−ラウロイル化合物
ナトリウム塩;C3772NaO12P(MG762.93)
5)1−ステアロイル−2−ラウロイル化合物
ナトリウム塩;C3976NaO12P(MG790.98)
6)1−ステアロイル−2−ミリストイル化合物
ナトリウム塩;C4180NaO12P(MG819.04)
7)1−ステアロイル−2−パルミトイル化合物
ナトリウム塩;C4384NaO12P(MG847.09)
【0183】
8.(sn)−1,2−ジアシル−3−グリセロ−ホスホ−(sn)−1−グリセロ−グリコールの例
1)ジパルミトイル化合物
ナトリウム塩;C4080NaO12P(MG789.04)
2)ジステアロイル化合物
ナトリウム塩;C4486NaO12P(MG845.14)
3)1−ステアロイル−2−ミリストイル化合物
ナトリウム塩;C4078NaO12P(MG789.04)
4)1−ステアロイル−2−パルミトイル化合物
ナトリウム塩;C4282NaO12P(MG817.09)
【0184】
9.(sn)−1,2−ジアシル−3−グリセロ−ホスホ−(sn)−1−ジグリセロ−グリコールの例
1)ジパルミトイル化合物
ナトリウム塩;C4384NaO12P(MG863.12)
2)ジステアロイル化合物
ナトリウム塩;C4790NaO12P(MG919.22)
【0185】
10.(sn)−1,2−ジアシル−3−グリセロ−ホスホ−(sn)−1−トリグリセリンの例
1)ジパルミトイル化合物
ナトリウム塩;C4486NaO12P(MG893.12)
2)ジステアロイル化合物
ナトリウム塩;C4892NaO12P(MG949.22)
【0186】
項目1 刺激応答性ナノキャリア系。
【0187】
項目2 局所領域的治療に使用するための刺激応答性ナノキャリア系。
【0188】
項目3 温度感受性リポソームであることを特徴とする、項目1または2による刺激応答性ナノキャリア系。
【0189】
項目4 (i)0℃〜80℃の主転移温度を有する、少なくとも1つのホスファチジルコリンおよび
(ii)少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンまたは/および少なくとも1つのホスファチジルグリセログリコールまたは/および少なくとも1つのカルジオリピンを含むことを特徴とする、前記項目1〜3の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0190】
項目5 式(II)
【化32】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびnは、2〜50の整数である〕の少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンを含むことを特徴とする、前記項目1〜4の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0191】
項目6 式(IIa)
【化33】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびmは、0〜50の整数である〕の少なくとも1つのホスファチジルオリゴグリセリンを含むことを特徴とし、ここで、グリセリドからホスフェート基への結合は、立体特異的でありかつsn−3結合として存在し、およびホスフェート基からオリゴグリセリンへの結合は、立体特異的でありかつsn−1結合として存在する、前記項目1〜4の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0192】
項目7 R1およびR2が互いに独立して、直鎖状の飽和C12〜C24アルキル基であり、およびnが2もしくは3であるかまたはmが0もしくは1であることを特徴とする、前記項目5または6の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0193】
項目8 少なくとも1つのホスファチジルジグリセリンまたは/および少なくとも1つのホスファチジルトリグリセリンを含むことを特徴とする、前記項目4〜7の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0194】
項目9 式(I)
【化34】
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わす〕のホスファチジルコリンを含む、前記項目1〜8の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0195】
項目10 1−パルミトイル−2−オレオイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−オレオイル−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ラウロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ベヘノイル−2−オレオイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−ラウロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−ジミリストイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−ミリストイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ミリストイル−2−パルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−パルミトイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジパルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ミリストイル−2−ステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−ステアロイル−3−ミリストイルグリセロ−2−ホスホコリン、1−ステアロイル−2−パルミトイルグリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,3−ジステアロイルグリセロ−2−ホスホコリン、1,2−ジステアロイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジアラキノイルグリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジベヘノイルグリセロ−3−ホスホコリンおよび1,2−ジリグノセロイルグリセロ−3−ホスホコリンからなる群から選択された、少なくとも1つのホスファチジルコリンを含有することを特徴とする、前記項目1〜9の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0196】
項目11 35℃〜42℃の範囲内または40℃〜43℃の範囲内の主転移温度を有する、少なくとも1つのホスファチジルコリンを含むことを特徴とする、前記項目1〜10の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0197】
項目12 1,3−ジパルミトイルホスファチジルコリンおよび1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリンから選択された、少なくとも1つのホスファチジルコリンを含むことを特徴とする、項目10または11による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0198】
項目13 コレステリンを含有しないことを特徴とする、前記項目1〜12の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0199】
項目14 腫瘍の処置に使用するための、前記項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0200】
項目15 軟部肉腫(Weichteilsarkom)、骨肉腫、膀胱癌(筋層浸潤性、muscle invasive bladder cancer(筋層浸潤性膀胱癌)[MIBC]および筋層非浸潤性、non−muscle invasive bladder cancer(筋層非浸潤性膀胱癌)[NMIBC])、卵巣癌、胃癌、乳癌(殊に、トリプルネガティブ乳癌、[TNBC])、肝細胞癌、子宮癌、甲状腺癌、頭頸部癌、前立腺癌、脊索腫、類腱腫、神経膠芽細胞腫およびとりわけ局所領域的拡張部を有する他の腫瘍疾患の処置に使用するための、項目14による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0201】
項目16 膀胱腫瘍の処置に使用するための、項目14または15による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0202】
項目17 さらに、殊に、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン)、オキサアザホスホリン(例えば、ヒドロキシイフォスファミド)、プラチン類似体(シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン)、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、トポテカン、ビンクリスチン、イリノテカン、メトトレキサート、ブレオマイシン、チロシンキナーゼ阻害剤、小分子、DNA療法剤、放射線増感剤(放射線治療と共に)から選択された作用物質を含む、項目14〜16の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0203】
項目18 感染症の処置に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0204】
項目19 感染症が細菌類、ウィルス類、菌類または/および寄生虫類によって引き起こされていることを特徴とする、項目18による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0205】
項目20 医療移植片、殊に整形外科プロテーゼの感染の処置、局在化された感染、殊に深部軟部組織または/および骨の感染の処置、および/または多剤耐性病原体の治療のための、項目18または19による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0206】
項目21 さらに、殊に、抗生物質、静ウィルス剤(Virostatika)、殺真菌剤および抗寄生虫作用を持つ医薬品から選択された作用物質を含む、項目18〜20の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0207】
項目22 作用物質が抗生物質、殊にβ−ラクタム、グリコペプチド、ポリケチド、アミノグリコシド抗生物質、ポリペプチド抗生物質、キノロン、スルホンアミド(例えば、リネゾリド、フルクロキサシリン、セファゾリン、クリンダマイシン、バンコマイシン、テイコプラニン、リファンピシン、アンピシリン、セフタジジン、セフトリアキソン、セフェピム、ピペラシリン、フルオロキノロン、メトロニダゾール、アミカシン等)または/および
静ウィルス剤(Virostatika)、殊に侵入阻害剤、浸透抑制剤(Penetrations−Inhibitoren)、DNAポリメラーゼ阻害剤、DNA/RNAポリメラーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤、
イノシンモノホスフェート−デヒドロゲナーゼ阻害剤、
プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、ヘリカーゼ−プリマーゼ阻害剤、シクロフィリン阻害剤、成熟阻害剤、ターミナーゼ阻害剤(Terminase−Inhibitoren)、ノイラミニダーゼ阻害剤等または/および殺真菌剤、殊にアゾール(ベンズイミダゾール(“MBC”)、トリアゾール、イミダゾール)、モルホリン、ストロビルリン、キノリン、アニリノ−ピリミジン、オキサゾリジン−ジオン、カルボン酸アミド等から選択されていることを特徴とする、項目18〜21の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0208】
項目23 眼の疾患の処置に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0209】
項目24 眼の炎症性疾患、変性疾患、感染症および/または腫瘍性疾患、創傷治癒障害または/および緑内障の処置のための、項目23による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0210】
項目25 自己免疫疾患の処置に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0211】
項目26 関節リウマチまたは/および慢性炎症性腸管疾患の処置に使用するための、項目25による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0212】
項目27 さらに、作用物質、殊にステロイド、TNF−αまたは/および免疫抑制剤を含む、項目25または26による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0213】
項目28 診断に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0214】
項目29 MR造影剤およびMRイメージング法を用いる非侵襲性温度測定のための、項目28による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0215】
項目30 さらに、作用物質、殊にCT造影剤またはMRT造影剤、とりわけヨウ素含有造影剤またはガドリニウム−キレートから選択されたCT造影剤またはMRT造影剤を含む、項目28または29による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0216】
項目31 変性疾患の処置に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0217】
項目32 抗炎症剤、鎮痛剤または/および軟骨保護剤の局在化された放出のための、項目31による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0218】
項目33 認知症症候群、アルツハイマー病または/および焦点性精神神経系障害、殊にてんかん、の処置に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0219】
項目34 アテローム性動脈硬化の処置に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0220】
項目35 血栓症の処置に使用するための、項目1〜13の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0221】
項目36 さらに、殊に、血栓溶解剤、特にストレプトキナーゼ、ウロキナーゼまたは/およびアルテプラーゼから選択された、少なくとも1つの作用物質を含む、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0222】
項目37 刺激応答性ナノキャリア系が刺激の発揮によって変わりかつ殊に開放されて、任意に、含有されている作用物質がナノキャリア系から放出される、前記項目1〜36の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系。
【0223】
項目38 刺激は、高周波(例えば放射線による表面温熱療法システムおよび放射線による深部温熱療法システム、膀胱温熱療法システム)、超音波(例えば高密度焦点式超音波[high intensity focused ultrasound、HIFU]、低強度超音波[low intensity focused ultrasound、LIFU])、光、レーザー、加熱された液体による伝導、局所領域的加熱をもたらしおよび/またはリン脂質からなる膜を不安定にする他の物理的原理から選択される、項目37による刺激応答性ナノキャリア系。
【0224】
項目39 さらに、細胞増殖抑制剤を含むことを特徴とする、前記項目14〜16の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0225】
項目40 細胞増殖抑制剤がマイトマイシン C、ドキソルビシン、エピルビシン、ゲムシタビン、トラベクテジン、シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンからなる群から選択されていることを特徴とする、項目39による、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0226】
項目41 温熱療法または/および超音波と組み合わせた、前記項目1〜40の1つによる、刺激応答性ナノキャリア系、殊に温度感受性リポソーム。
【0227】
項目42 式(IIa)
【化35】
配置:天然型
表記:1,2−ジアシル−sn−3−グリセロ−ホスホ−sn−1−オリゴグリセリン
sn、立体特異的番号付け:
〔上記式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、12〜24個のC原子を有する炭化水素基を表わし、およびmは、0〜50の整数である〕の立体特異性ホスファチジルオリゴグリセリン、ここで、グリセリドからホスフェート基への結合は、立体特異的でありかつsn−3結合として存在し、およびホスフェート基からオリゴグリセリンへの結合は、立体特異的でありかつsn−1結合として存在する。
【0228】
項目43 膀胱腫瘍の処置に使用するための、項目42による、式(IIa)の立体特異性ホスファチジルオリゴグリセリンを含む刺激応答性リポソーム。
【0229】
項目44 さらに、35℃、殊に40〜43℃の主転移温度を有する、式(I)のホスファチジルコリンを含む、項目43による刺激応答性リポソーム。
【符号の説明】
【0230】
(1) 膀胱カテーテル、 (2) 高精度ポンプ、 (3) 水浴
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6