特許第6501863号(P6501863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6501863金属コーティング用の装置および方法、および金属コーティング用装置のための保持ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501863
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】金属コーティング用の装置および方法、および金属コーティング用装置のための保持ユニット
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/134 20160101AFI20190408BHJP
   B05B 7/22 20060101ALI20190408BHJP
   C23C 4/123 20160101ALI20190408BHJP
【FI】
   C23C4/134
   B05B7/22
   C23C4/123
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-505171(P2017-505171)
(86)(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公表番号】特表2017-529456(P2017-529456A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】EP2015063903
(87)【国際公開番号】WO2016015922
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年3月23日
(31)【優先権主張番号】14179138.4
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516381459
【氏名又は名称】シュトゥルム マシーネン ウント アラゲンバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Sturm Maschinen− & Anlagenbau GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス エーベンベック
(72)【発明者】
【氏名】ガーハルト アウフシュラガー
(72)【発明者】
【氏名】マルク ケスティング
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ フェリンガー
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−346216(JP,A)
【文献】 特開2002−004024(JP,A)
【文献】 米国特許第6703579(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0000550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00− 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子のコーティングを形成するために金属プラズマジェットを発生させることができる可動式コーティングランス(20)を有する、工作物の金属コーティング用の装置であって、
周囲空気が金属粒子のオーバースプレーと共に前記コーティングランス(20)から排気管経由で除去され得、
− 前記周囲空気を抜き取るために、前記コーティングランス(20)の少なくとも一軸線方向部分を環状に包囲する抽出フード(30)が設けられ、
− 前記抽出フード(30)と前記コーティングランス(20)とは、可動式ベースキャリッジ(12)上に配置され、
前記コーティングランス(20)は、前記ベースキャリッジ(12)上で少なくとも一方向に移動可能であるように、取り付けられ、
− 前記抽出フード(30)は、金属粒子の付着用に設計された環状の保持ユニット(50)を前記可動式ベースキャリッジ(12)上に有し、
− 前記抽出フード(30)は、カバーフード(32)と、前記カバーフード(32)の下側に配置された底板(36)とを有し、
− 前記環状の保持ユニット(50)は、前記底板(36)上に解放可能に配置される、装置。
【請求項2】
前記保持ユニット(50)は、その交換が可能であるように、前記抽出フード(30)内に取り付けられる請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記底板(36)は、少なくとも1つの迅速解放装置(40)によって解放可能に前記カバーフード(32)に固締される請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記底板(36)は中心開口部(38)を有し、半径方向内方に下向きに傾斜した円錐面(44)を有する環状フランジ(42)が前記中心開口部(38)に面して設けられる請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記円錐面(44)は抗付着性を有して形成される請求項4に記載の装置。
【請求項6】
取り外し可能なカバープレート(34)が前記カバーフード(32)の上側に配置される請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記抽出フード(30)は、前記ベースキャリッジ(12)上で少なくとも一方向に移動可能であるように、取り付けられる請求項1に記載の装置。
【請求項8】
請求項1に記載の工作物の金属コーティング用の装置(10)のための保持ユニットであって
周壁(54)と、前記周壁(54)の一端に配置されて半径方向内方に延在する少なくとも1つの環状端縁要素(56、58)とがドラム状の基体(52)に設けられ、
前記保持ユニット(50)は、前記装置(10)の抽出フード(30)の底板(36)上に解放可能に配置されるべく、設計される、保持ユニット。
【請求項9】
前記基体(52)は金属薄板から製造される請求項8に記載の保持ユニット。
【請求項10】
前記基体(52)は複数のサブセグメントから構成される請求項8に記載の保持ユニット。
【請求項11】
工作物の金属コーティングのための方法であって、コーティングランス(20)によって金属プラズマジェットを発生させ、前記金属プラズマジェットによって金属粒子のコーティングを前記工作物上に形成する方法において、
請求項1に記載の装置(10)が用いられ、抽出フード(30)と前記コーティングランス(20)とが可動式ベースキャリッジ(12)上に配置され、前記抽出フード(30)は環状の保持ユニット(50)を前記可動式ベースキャリッジ(12)上に有し、前記コーティングランス(20)の少なくとも一軸線方向部分が前記抽出フード(30)によって環状に包囲され、前記抽出フード(30)によって空気流が発生され、前記空気流によって金属粒子を含有する周囲空気が除去され、
前記コーティングランス(20)は、金属プラズマジェットを継続させたまま、前記環状の保持ユニット(50)内に移動され、
金属粒子が前記可動式ベースキャリッジ(12)上の前記抽出フード(30)内の前記保持ユニット(50)に付着され、前記抽出フード(30)はカバーフード(32)と、前記カバーフード(32)の下側に配置された底板(36)とを有し、前記環状の保持ユニット(50)は前記底板(36)上に解放可能に配置される、方法。
【請求項12】
前記空気流は、前記抽出フード(30)に通気ダクト(48)を介して接続された流動装置によって発生される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングランス(20)は、前記工作物から保持ユニット(50)を有する前記抽出フード(30)内に移動され、前記金属プラズマジェットは前記保持ユニット(50)に向けられ、金属粒子が前記保持ユニット(50)の周壁に付着する請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記保持ユニット(50)は、事前に規定された時間間隔で、および/または事前に規定された付着量に達したときに、交換される請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載の、金属粒子のコーティングを形成するために金属プラズマジェットを発生させることができる可動式コーティングランスを有する、工作物の金属コーティング用の装置に関する。
【0002】
本発明は、請求項9の前提部分に記載の、工作物の金属コーティング用のこの装置のための保持ユニットに更に関する。
【0003】
更に、本発明は、請求項12の前提部分に記載の、工作物の金属コーティングのための方法であって、コーティングランスによって金属プラズマジェットを発生させ、この金属プラズマジェットによって金属粒子のコーティングを工作物上に形成する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
特にエンジン構造においては、シリンダの摺動面とシリンダピストンとの間に適切な摩擦および潤滑状態を保証できるようにするために、特殊な金属コーティングをシリンダボアの摺動面に設ける必要がある。これが特に該当するのは、エンジンハウジングおよびシリンダピストンの両方が同じ材料、例えばアルミニウム、から製造されている場合である。
【0005】
コーティングランスによって金属プラズマジェットを発生させて金属コーティングをボア壁に直接施すことは公知である。これにより、極めて薄肉で極めて安定した金属コーティングをボア壁に形成することができる。
【0006】
コーティングランスはエンジンブロックのシリンダボア内に移動され、発生させた金属プラズマジェットがボア壁に向けられる。金属プラズマジェットの或る一定の拡散により、全ての金属粒子がボア壁に達する訳ではない。利用されなかった金属粒子は、オーバースプレーと称される。これにより、エンジンブロック内またはコーティング装置上に望ましくない不良コーティングがもたらされ得る。
【0007】
特許文献1および2は、円筒状工作物の金属コーティング用の装置を開示している。両装置はコーティングランスとオーバースプレー除去手段とを有し、これらは工作物の両側に配置されている。
【0008】
不良コーティングを回避するために、コーティングランスを工作物のボアから出すときに金属プラズマジェットをオフに切り換え、コーティングランスがコーティング対象の別のボア内に移動するまで金属プラズマジェットを再度オンに戻さないことが公知である。金属プラズマジェットをオフに切り換えたとき、およびオンに切り換えたときにも、金属プラズマジェットの減少または増大によってオーバースプレーが増大され得る。また、オンおよびオフへの切り換えプロセスは、工作物上の層厚の偏りを引き起こし得る。これら層厚の偏りは品質を損ない、工作物全体が不合格になり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第101 30 455(A1)号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 980 328(A2)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、金属コーティングの形成における効率および品質を向上させることができる、工作物の金属コーティング用の装置および方法、ならびにこの装置のための保持ユニットを示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、本発明によると、請求項1の特徴を有する装置と、請求項9の特徴を有する保持ユニットと、請求項12の特徴を有する方法とによって達成される。本発明の複数の好適な実施形態がそれぞれ従属請求項に示されている。
【0012】
本発明による装置は、コーティングランスの少なくとも一軸線方向部分を環状に包囲する抽出フードが設けられ、抽出フードは、金属粒子の付着用に設計されたリング状の保持ユニットを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の中心概念は、コーティングランスが抽出フードによって一軸線方向部分に沿って環状に包囲されることにあることが分かる。これにより、抽出フードは、目的の空気流によって周囲空気を金属粒子のオーバースプレーと共に取り込むことができる。ここで、用語「抽出フード」は、影響を受けた周囲空気がコーティングランスから対応する真空によって抽出フードに吸い込まれ、排気管を通して除去されるだけのものと理解されてはならない。むしろ、空気または不活性ガスの流れを抽出フードによって生じさせることもでき、それによって、オーバースプレーを含有する周囲空気は抽出フードの領域内の排出管路に導かれる。
【0014】
全体として、工作物上または製造手段上への望ましくない不良コーティングの危険性が回避される、または少なくとも大幅に低減される、ように、過剰な金属粒子の確実な除去が実現可能である。
【0015】
上記の中心概念から独立したものとして、または別個のものとして見ることもできる、本発明の別の側面は、金属粒子の付着用に設計されたリング状の保持ユニットが設けられることである。工作物の規定の箇所に付着しなかったプラズマジェットの金属粒子を保持ユニット内に意図的に取り込んでそこに付着させることができる。したがって、この保持ユニットは、金属粒子が過剰に付着した場合に、定期的に交換される交換可能部品とすることができる。
【0016】
原則として、リング状の保持ユニットは、抽出フードの下端に配置可能である。本発明の1つの実施形態によると、保持ユニットは、その交換が可能であるように、抽出フード内に取り付けられると特に好都合である。ドラム状の保持ユニットは抽出フードの下方領域に配置されることが好ましい。これにより、コーティングランスが工作物から出されると、金属プラズマジェットを継続させたまま、工作物はドラム状の保持ユニット内に直接移動され、プラズマジェットは保持ユニットの周壁に向けられる。したがって、金属プラズマジェットをオフに切り換える必要がなく、したがって、オンとオフの切り換えに伴う問題が回避される。金属粒子はドラム状の保持ユニットによって直接受け止められる。ドラム状の保持ユニットは、好ましくは10cmと50cmの間の直径を有し得る。ただし、コーティングランスの種類によっては、これより小さな、またはより大きな、直径も可能であり、明示的に除外されるものではない。保持ユニットのコーティング中のオーバースプレーも抽出フードを通って確実に除去される。過剰なコーティングが、例えば数時間後、1日後、または数日後に、保持ユニット上に形成されるや否や、保持ユニットを取り外して新しい保持ユニットと交換できる。
【0017】
本発明の1つの発展によると、抽出フードはカバーフードと、このカバーフードの下側に配置された底板とを有し、リング状の保持ユニットが底板上に解放可能に配置されることで、交換性に特に優れたものとなる。
【0018】
底板は少なくとも1つの迅速解放装置によって解放可能にカバーフードに固定されると特に好都合である。したがって、付着された金属粒子が所定の層厚に達すると、底板を取り外し、保持ユニットを底板から解放することによって、底板を素早く取り外し、交換可能要素としての新しい保持ユニットに交換することができる。保持ユニットは底板上に保持されるので、保持ユニットを比較的肉薄の複数の壁で形成でき、したがって材料の節約およびコストの節約がより大きい。
【0019】
この交換は、手作業で行うことも、自動交換ユニットによって行うこともできる。この交換は、事前に規定された時点において行うことも、事前に規定されたコーティング厚限度に達したときに行うこともできる。要件に応じて保持ユニットの交換を行えるように、コーティング厚の判定は、対応するセンサ装置、例えば光センサまたは重量センサ、を介して、またはコンピュータによって稼働データに基づき、任意に行うことができる。
【0020】
本発明の別の実施形態によると、底板は中心開口部を有し、そこに半径方向内方に下向きに傾斜した円錐面を有する環状フランジが設けられると好都合である。全体として、底板から保持ユニットへの移行部となる比較的狭い傾斜面が形成される。この半径方向内方に下向きに傾斜した円錐面は、衝突した金属粒子がこの円錐面に付着できず、または殆ど付着できず、代わりに保持ユニットに偏向されるように、設計される。
【0021】
本発明による1つの有利な発展は、抗付着性を有する円錐面が形成される点にある。この抗付着性は、環状フランジのための適したコーティングまたは適した材料選択によって実現可能である。特に、非鉄金属合金は、プラズマジェットからの金属粒子を円錐面に付着させない、または付着の程度を低減する。抗付着性は、他の適した材料の組み合わせによっても実現可能である。
【0022】
抗付着性を生じさせる、または更に向上させる、ための更なる可能性は、低粗度の円錐面を形成することである。これは、例えば研磨によって実現可能である。
【0023】
本発明の特に有用な実施形態では、取り外し可能なカバープレートがカバーフードの上側に配置される。カバーフードの上側の開口部によって、吸引中、流れを狙いどおりの方向に動かすことができる。上側がカバープレートによってほぼ閉じられている場合、周囲空気は基本的に下側から、したがって工作物から、または工作物の方向から、引き込まれる。これにより、工作物の区域の周囲空気から金属粒子が除去されることが保証され得る。カバープレートを取り除き、開口部を上側に有することによって、周囲空気が上方から引き込まれる。これは、特定の工作物の場合に望まれ得る。
【0024】
本発明の別の1つの実施形態によると、抽出フードおよびコーティングランスは可動式ベースキャリッジ上に配置され、抽出フードおよび/またはコーティングランスは、このベースキャリッジ上に、少なくとも一方向に移動可能であるように取り付けられると好都合である。ベースキャリッジをコーティング装置の一部にすることができる。この場合、ベースキャリッジによってコーティングランスを、例えばコーティング対象の、工作物のボア内に移動させることができる。抽出フードおよび/またはコーティングランスをベースキャリッジのフレーム上に移動可能に取り付けることができる。特に、抽出フードおよびコーティングランスをコーティングランスの長手方向軸線に平行に延びる軸線方向に直線的に移動させることができる。また、コーティングランスは、例えば回転対称のボアをコーティングするために、長手方向軸線を中心に回転可能に取り付けられることが好ましい。
【0025】
上記の目的は、保持ユニットに関しては、周壁と、この周壁の一方の端部に配置されて半径方向内方に延在する少なくとも1つの環状端縁要素とをドラム状の基体に設けることで達成される。
【0026】
保持ユニットは、上記のように、コーティングランスによって金属コーティングを工作物に施すための装置上に配置されることが好ましい。ドラム状の保持ユニットを抽出フードなしにコーティング装置に使用することもできる。ドラム状の保持ユニットは、コーティングランスの金属プラズマジェットの連続稼働中、コーティングランスが工作物から出されたときに、金属プラズマジェットを受け止めるために使用される。したがって、噴射された過剰な金属粒子は、保持ユニットによって狙いどおりに収集される。環状端縁要素の一方、または好ましくは両方は、保持ユニット内へ可能な限り、金属粒子の取り込みを支援する。保持ユニットの充填限度に達すると、この保持ユニットを新しい保持ユニットに交換できる。
【0027】
原則として、保持ユニットは任意の適した材料から製造可能である。本発明の1つの発展によると、基体は金属薄板から製造されると特に好都合である。溶融金属粒子は、金属製の薄肉の金属薄板体に特に良好に付着する。また、0.5と5mmの間の肉厚を有する金属薄板体は、数キロの質量の金属粒子を付着させられるほど、十分な強度を有する。また、金属製の保持ユニットは、費用効果的な再利用が可能である。
【0028】
原則として、保持ユニットは、深絞り、加圧成形、鋳造、または鍛造によって一体要素として製造可能である。原則として、基体は、例えば複数の環状要素から、一体に溶接可能である。本発明の1つの有利な変形例では、基体は複数のサブセグメントから構成される。その結果、基体は2つのシェル半体から構成することができ、ドラム状の保持ユニットのための抽出フードの底板上に組み立てることができる。全体として、個々のサブセグメントをより容易に扱えるように、複数のサブセグメントを設けることもできる。
【0029】
方法に関しては、冒頭で言及した課題は、コーティングランスの少なくとも一軸線方向部分を抽出フードによって環状に包囲することによって達成される。この抽出フードによって空気流を発生させ、金属粒子を含有する周囲空気がこの空気流によって除去される。
【0030】
この方法では、特に、オーバースプレーの確実な除去をコーティング中に行えるばかりでなく、コーティングランスの移送フェーズ中もコーティングランスにおいて直接行うことができる。対応する空気流により、金属粒子を依然として含む周囲空気がフィルタ装置に引き込まれ、特にフィルタ装置に移される。本方法は、特に、上記の金属コーティング用装置によって実施可能である。
【0031】
本発明による方法の1つの有利な変形例では、通気ダクトを介して抽出フードに接続された流動装置によって空気流を発生させる。この通気ダクトによって、金属粒子を含有する周囲空気を工作物から、およびコーティングランスの周囲の区域から、確実に除去できる。
【0032】
本発明による方法の別の実施形態によると、コーティングランスを工作物から保持ユニット付き抽出フード内に移動することが有利であり、金属プラズマジェットは保持ユニットに向けられ、金属粒子が保持ユニットの周壁上に付着する。これにより、保持ユニットは、過剰な金属粒子を狙いどおりに取り込み、一杯になったときに交換可能な交換可能部品である。
【0033】
本発明の1つの更なる変形例によると、保持ユニットの交換は、事前に規定された時間間隔で、および/または保持ユニット上の付着量が事前に規定された量に達したときに、行われると便利である。付着量の判定は、特にセンサによって、例えば層厚測定用の光センサ、または保持ユニットの重量を測定するための力測定センサによって、あるいはコンピュータによって稼働データに基づき、行うことができる。
【0034】
以下においては、添付の図面に模式的に示されている複数の好適な例示的実施形態を参照して本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】金属コーティングのための本発明による装置の概略斜視図を示す。
図2】コーティングランスを省いた、図1の装置の概略斜視図を示す。
図3図1および図2の装置による抽出フードに関する拡大断面図を示す。
図4】本発明による保持ユニットの拡大斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
工作物(図示せず)の金属コーティングのための本発明による装置10の主要部分が図1および図2に示されている。工作物は、具体的にはエンジンブロックでもよい。この場合、その複数のシリンダボアに金属コーティングが施される。金属コーティングを形成するために、ロッド状のコーティングランス20が使用される。コーティングランス20は、原理上は公知であり、金属プラズマジェットを発生させる。このほぼ半径方向に向けられた金属プラズマジェットによって、金属粒子がコーティング対象の工作物の壁に高速で塗布され、均質で薄肉の金属コーティングが形成される。このようなコーティングランスの構造および動作モードは、以前から公知である。装置10は、ベースフレーム(図示せず)、ならびに工作物のための送り込みおよび位置決め装置を更に有することができる。
【0037】
シャフト状のコーティングランス20は、対応付けられたベースユニット22と共に、ランスキャリッジ14に固定される。単に模式的に示されているベースキャリッジ12に対して、ランスキャリッジ14をランス直線駆動装置16によってランスガイド15に沿って鉛直方向に移動させることができる。更に、コーティングランス20は、半径方向に向けられた金属プラズマジェットによってシリンダボアの内壁をコーティングするために、その鉛直長手方向軸線を中心に回転および駆動可能であるように、取り付けられる。
【0038】
更に、抽出フード30が、ランスキャリッジ14の移動方向に平行に鉛直方向に移動可能であるように、フードキャリッジ17によってベースキャリッジ12上に取り付けられる。この目的のために、2つのレール様のフードガイド18がベースキャリッジ12上に配置される。フードキャリッジ17は、摺動ブロックを介して案内されるように、ベースキャリッジ12に接続される。直線駆動装置19によって直線移動がもたらされる。ベースキャリッジ12自体は、装置10のベースフレームに対していくつかの方向に移動可能であるように、取り付けられる。円筒またはドラム状のカバーフード32が抽出フード30のフレーム様のフードキャリッジ17に固締される。
【0039】
更に図3を参照して、抽出フード30の構造をより詳細に説明する。カバーフード32は金属薄板から製造され、フードキャリッジ17に固締された保持フレーム31の内側に配置される。カバーフード32は円筒壁33を有する。円筒壁33はその上側がカバープレート34によって閉じられる。カバープレート34は2つの部品で設計され、コーティングランス20を通すための中心貫通開口部35を有する。排出口46が円筒壁33に組み込まれる。稼働中、流動装置(図示せず)、特にポンプ、によって、カバーフード32の内部空間内の金属粒子を含有する周囲空気を排出口46から通気ダクト48を通して抜き取り、フィルタ装置に運び去ることができる。カバープレート34は解放可能に配置され、流動状態を変化させるために取り外すことができる。
【0040】
カバーフード32は、その下側が環状の底板36によって閉じられる。本例示的実施形態において、環状の底板36は3つの迅速解放装置40によって解放可能に保持フレーム31の下側の環状ブレース37上に固締される。このために、迅速解放装置40の圧締ブラケットに接続可能な、半径方向に突出するフック要素41が底板36の半径方向外縁に複数設けられる。
【0041】
コーティングランス20が底板36を貫通できるように、底板36は中心開口部38を有する。中心開口部38に沿って環状フランジ42がばね要素43を介して弾力的に取り付けられ、底板36上に保持される。環状フランジ42の弾力的な取り付けにより、工作物上への抽出フード30の精確にフィットする順応性のある載置が可能になる。
【0042】
環状フランジ42は、その半径方向内側に、傾斜角度が約30°の上向きの円錐面44を有する。連続的な金属プラズマジェット中、コーティングランス20が工作物から抽出フード30内に移動すると、円錐面44に衝突した金属粒子が大きく偏向され、抽出フード30内の底板36上に取り付けられたドラム状の保持ユニット50内に案内される。円錐面44への望ましくない付着を回避するために、この円錐面44には対応する材料選択および表面処理によって抗付着性がもたらされる。
【0043】
図4には、本発明による装置10のための本発明による保持ユニット50の構造がより詳細に示されている。ドラム状の保持ユニット50は、金属薄板製の基体52を有する。基体52は、湾曲させて溶接した金属薄板条片から製造された円筒状周壁54を備える。上側の環状端縁要素56が周壁54の上端に溶接される。同様に、下側の環状端縁要素58が周壁54の下端に溶接される。両端縁要素56、58は半径方向内方に向き、環状の収集空間を包囲する。
【0044】
下側の端縁要素58は上側の端縁要素56より大きく半径方向に延在し、底板36の環状凹部39に適合する。下側の端縁要素58は、底板36の中心開口部38まで延在する。中心開口部38は、環状フランジ42の円錐面44が始まる位置である。これにより、コーティングランス20が金属プラズマジェットを継続させたまま進入したとき、抽出フード30内の金属粒子の大半が保持ユニット50の周壁54の内面に達することが保証される。コーティングランス20が抽出フード30内に移動されて進入終端位置に達すると、金属プラズマジェットは周壁54の内面のほぼ中央に向けられる。上側の端縁要素56および下側の端縁要素58は、金属粒子が保持ユニット50から上方または下方に出ないことを保証する。
【0045】
稼働中、コーティングランス20が工作物の1つのコーティング対象ボアから次のコーティング対象ボアに相対移動されるたびに、コーティングランス20は金属プラズマジェットを継続させたまま抽出フード30内に移動される。ベースキャリッジ12によるこの移動プロセス中、コーティングランス20は更に回転されるので、継続している金属プラズマジェットは保持ユニット50の周壁54の内面に金属付着物を形成する。この数キロにもなり得る金属付着物が所定の最大量に達するや否や、保持ユニット50は新しい保持ユニット50に交換される。このために、迅速解放装置40は解放され、これにより、底板36は、その上に配置された保持ユニット50と共に、上方に配置されたカバーフード32から分離される。この状態で、保持ユニット50を取り外し、新しい保持ユニット50に交換できる。その後、カバーフード32は再び底板36上に載置され、両者は迅速解放装置40によって再び接続される。その後、工作物のコーティングを継続できる。更に、コーティングランス20の周囲空気が抽出フード30経由で抜き取られる。この吸引または抜き取りは、工作物のコーティング中だけでなく、コーティングランス20が抽出フード30内に移動されているときにも行われる。これにより、特に、金属プラズマジェットが保持ユニット50に向けられている場合にも発生するオーバースプレーが除去される。
図1
図2
図3
図4