(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6501897
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
C10G 65/12 20060101AFI20190408BHJP
C10G 45/04 20060101ALI20190408BHJP
C10G 45/60 20060101ALI20190408BHJP
C10G 47/18 20060101ALI20190408BHJP
C10G 47/20 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
C10G65/12
C10G45/04
C10G45/60
C10G47/18
C10G47/20
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-541755(P2017-541755)
(86)(22)【出願日】2016年2月1日
(65)【公表番号】特表2018-508624(P2018-508624A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】CN2016073024
(87)【国際公開番号】WO2016127840
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2017年10月5日
(31)【優先権主張番号】201510071747.0
(32)【優先日】2015年2月11日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512244657
【氏名又は名称】武▲漢凱▼迪工程技▲術▼研究▲総▼院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】頼波
(72)【発明者】
【氏名】石友良
(72)【発明者】
【氏名】許莉
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/103881(WO,A1)
【文献】
特表2006−510746(JP,A)
【文献】
特表2008−525596(JP,A)
【文献】
特表2004−532327(JP,A)
【文献】
特表2009−508993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法であって、
1)フィッシャー・トロプシュワックスと硫黄含有液体触媒を一定割合で混合し、得られた混合物を水素と接触させ、水素含有混合物を水素化前処理触媒を含む第1反応領域に供給し、第1反応領域からの流出物を水素化分解触媒を含む第2反応領域に供給し、水素化分解反応を行う工程と、
2)第2反応領域からの水素化分解生成物、およびフィッシャー・トロプシュナフサとディーゼル燃料を水素化精製触媒を含む第3反応領域に供給し、水素化精製反応を行い、水素化精製反応からの流出物を水素化異性化流動点降下触媒を含む第4反応領域に供給して、異性化流動点降下反応を行う工程と、
3)第4反応領域からの流出物を気液分離システムCに供給して、水素リッチガスおよび液体生成物を生成し、水素リッチガスを再循環させ、液体生成物を分留システムDに供給して、ナフサ、ディーゼル燃料、残油を分離し、残油を第2反応領域に戻す工程と
を含み、
前記硫黄含有液体触媒が、低質の触媒分解ディーゼル燃料または低質のコーキングディーゼル燃料であることを特徴とする低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項2】
前記工程1)の前記硫黄含有液体触媒は硫黄含有液体触媒とフィッシャー・トロプシュワックスの合計の20〜50重量%を占める、請求項1に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項3】
前記工程1)において、水素化前処理は、反応温度300〜370℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.5〜2.0h-1、水素と油の体積比500〜1500の条件で行われる、請求項1又は2に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項4】
前記工程1)において、水素化分解反応は、反応温度330〜410℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.4〜6h-1、水素と油の体積比600〜1500の条件で行われる、請求項1又は2に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項5】
前記工程2)において、水素化精製反応は、反応温度280〜340℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.4〜6h-1、水素と油の体積比500〜1200の条件で行われる、請求項1又は2に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項6】
前記工程2)において、異性化流動点降下反応は、反応温度280〜400℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.4〜6h-1、水素と油の体積比400〜1200の条件で行われる、請求項1又は2に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項7】
前記水素化前処理または水素化精製触媒は、酸化アルミニウムまたはケイ素含有酸化アルミニウムから選択される担体と、前記担体に担持された水素化活性金属を含み、前記水素化活性金属は、VIBおよび/またはVIII族の非貴金属の少なくとも2つの活性成分を含み、金属酸化物の含有量は触媒の全重量の25〜40重量%である、請求項1又は2に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項8】
前記水素化分解触媒が、非晶質シリカ−アルミナ、分子ふるいまたはそれらの混合物から選択される担体としての酸性物質であり、水素化活性金属は、VIB族金属元素Mo、Wと、VIII族金属元素Co、Ni、Pt、Pdの二種以上の組み合わせであり、活性金属酸化物の含有量は前記水素化分解触媒の全重量の25〜40重量%である、請求項1又は2に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項9】
前記水素化分解触媒の担体が、Y型、β分子ふるい、ZSM分子ふるいおよびSAPO分子ふるいから選択される1種以上と、非晶質シリカ−アルミナの組み合わせであり、前記水素化活性金属は、W-Ni、Mo-NiまたはMo-Coの組み合わせである、請求項8に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【請求項10】
前記工程3)で分離された残油が、水素化分解のために第2反応領域へ完全にまたは部分的に再循環される、請求項1又は2に記載の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法に関し、より詳細には、低温フィッシャー・トロプシュ合成全留分の水素化処理により低流動点高品質ディーゼル燃料を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の削減と世界各国の環境保護法規制が更に厳しくなる中、代替クリーンエネルギー源の技術開発は、一層注目を集めている。フィッシャー・トロプシュ合成技術は、石炭、天然ガス、バイオマスおよび他の原材料から高品質のクリーン燃料を製造することができるため、大きな関心を集めている。フィッシャー・トロプシュ合成技術には、反応温度に応じた高温フィッシャー・トロプシュ合成技術と低温フィッシャー・トロプシュ合成技術が含まれる。フィッシャー・トロプシュ合成物の成分は、石油の成分と大きく異なる。アンダーソン・シュルツ・フローリー(Anderson-Schulz-Flory)則の制約から、主生成物にはC
4-C
70含有炭化水素と、わずかな酸素化合物を含む複雑な混合物が含まれ、硫黄、窒素および金属は含まれず、芳香族炭化水素が少ない。低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、主として直鎖パラフィンとオレフィンからなり、少量の酸素有機化合物を含有する。更に、生成物は約40%のワックスを含み、そのセタン価は70を超えるが、その流動点が高すぎる。生成物は低温流動特性が悪く、輸送燃料として直接使用することができない。さらに、フィッシャー・トロプシュ合成生成物中の全ての留分は、適格な生成物を得るために、対応する水素化処理および改質を経なければならない。
【0003】
フィッシャー・トロプシュ合成技術の主な目的の1つは、高品質のディーゼル燃料を製造することである。低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、高直鎖パラフィン、高流動点、低密度および他の特性を有する。したがって、水素化処理後のディーゼル燃料留分は、高流動点および低密度を特徴とし、商用ディーゼル燃料として直接販売することはできない。さらに、生成物は一定量のオレフィンを含み、触媒が水素化処理および変換中に局所的に多くの熱を容易に放出するので、触媒のコーキングおよび不活性化をもたらしかねない。また、過度の熱の放出は触媒床の急速な温度上昇を引き起こし、床温度の制御に悪影響を及ぼす。したがって、高品質のディーゼル燃料生成物を得るために、低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物を処理するための適切な方法が取られなければならない。
【0004】
特許文献1は、中間留出物の製造方法を開示した。この方法は、合成油の少なくとも一部を水素化分解し、その中のケロシンおよびディーゼル燃料留分を分離し、分離生成物中の残油を再度水素化分解し、ケロシンおよびディーゼル燃料留分を得る工程を含む。ディーゼル燃料留分の密度は0.78g/cm
3であり、流動点は-28〜0℃である。この方法の欠点は、ディーゼル燃料留分の密度が低く、車両用ディーゼル燃料の指標を達成できないことである。
【0005】
特許文献2は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理および改良を実施するプロセス方法を提供した。この方法では、フィッシャー・トロプシュ合成反応の自然分離により得られる高温凝縮液と低温凝縮液と合成ワックスの3成分を水素化処理し、高温凝縮液と低温凝縮液を混合後に水素化処理反応器に入れ、水素(水素分圧:2.0〜15.0MPa)および水素化精製触媒の存在下で水素化脱酸素、オレフィン飽和および他の反応を250〜420℃で生じさせる。水素化後の生成物は分留塔に入り、ナフサ、ディーゼル燃料および重油留分に分けられる。重油留分と合成ワックスは混合後にイソクラッキング反応器に入り、水素(水素分圧:2.0〜15.0MPa)と触媒の存在下中、300〜450℃でイソクラッキング反応を起こす。イソクラッキング後の生成物は、分留後にナフサ、ディーゼル燃料および残油留分に分けられる。残油留分は、クラッキングを継続するためにイソクラッキング反応器に再循環されるか、または潤滑油の基油材料として使用される。この方法により製造されるディーゼル燃料生成物の収率は、85重量%を超え、セタン価は80を超える。また、この方法の欠点は、フィッシャー・トロプシュ凝縮物が水素化精製触媒反応器に送られると、触媒が容易にコークス化し、不活性化速度が加速され、精製の操作サイクルが短くなることである。合成ワックスは水素化精製せずに水素化分解反応器に入り、水素化分解への投資が増加する。
【0006】
特許文献3は、フィッシャー・トロプシュ合成油の水素化処理方法を開示している。この方法は、フィッシャー・トロプシュ合成油全体留分のための水素化処理を最初に実施し、次に生成物からディーゼル燃料留分1を分離し、残油留分を水素化分解し、水素化分解生成物からディーゼル燃料留分2を再び分離する工程を含む。ディーゼル燃料留分1の流動点は2〜5℃であり、ディーゼル燃料留分2の流動点は-50℃である。この方法では、低流動点ディーゼル燃料の一部を生成することができるが、プロセスが複雑である。この方法は2つの分離システムを含み、高コストである。
【0007】
特許文献4は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物をナフサ、ディーゼル燃料および液化石油ガスに変換する方法を提供する。この方法は、フィッシャー・トロプシュ合成油およびワックスを最初に水素化精製し、精製後に残油を水素化分解し、重質ディーゼル成分の水素化脱ろう反応を行い、低流動点ディーゼル燃料を得る工程を含む。このプロセスは複雑であり、得られるディーゼル燃料生成物は低密度であり、車両用ディーゼル燃料の指標を満たさない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6858127号
【特許文献2】中国特許出願第200510068183.1号
【特許文献3】中国特許出願第200710065309号
【特許文献4】中国特許公開第10320527号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の問題に鑑みて、本発明の目的は、低流動点の合成ディーゼル燃料を生成するための低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法を提供することである。水素化処理方法は単純なプロセスと低エネルギー消費を特徴とし、合成されたディーゼル燃料は比較的高密度である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法が提供される。この方法は、以下の工程を含む。
【0011】
1)フィッシャー・トロプシュワックスと硫黄含有液体触媒を一定割合で混合し、得られた混合物を水素と接触させ、水素含有混合物を水素化前処理触媒を含む第1反応領域に供給し、第1反応領域からの流出物を水素化分解触媒を含む第2反応領域へ供給し、水素化分解反応を実施する工程。
【0012】
2)第2反応領域からの水素化分解生成物およびフィッシャー・トロプシュナフサとディーゼル燃料を、水素化精製触媒を含む第3反応領域に供給して、水素化精製反応を行い、水素化精製反応からの流出物を水素化異性化流動点降下触媒を含む第4反応領域に供給し、異性化流動点降下反応を行う工程。
【0013】
3)第4反応領域からの流出物を気液分離システムCに供給して、水素リッチガスおよび液体生成物を生じさせ、水素リッチガスをリサイクルし、液体生成物を分留システムDに供給して、ナフサ、ディーゼル燃料および残油を生成し、残油を第2反応領域に戻す工程。
【0014】
前述の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法において、前記工程1)の硫黄含有液体触媒は、低質の触媒分解ディーゼル燃料またはコーキングディーゼル燃料である。硫黄含有液体触媒は、硫黄含有液体触媒とフィッシャー・トロプシュワックスの合計の20〜50重量%を占める。
【0015】
前記工程1)において、水素化前処理は以下の条件下で行われる:反応温度300〜370℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.5〜2.0h
-1、水素と油の体積比500〜1500。
【0016】
好適には、前記工程1)において、水素化分解反応は以下の条件下で実施される:反応温度330〜410℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.4〜6h
-1、水素と油の体積比600〜1500。
【0017】
前記工程2)において、水素化精製反応は以下の条件下で実施される:反応温度280〜340℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.4〜6h
-1、水素と油の体積比500〜1200。
【0018】
好適には、前記工程2)において、異性化流動点降下反応は以下の条件で行われる:反応温度280〜400℃、水素分圧4.0〜10MPa、体積空間速度0.4〜6h
-1、水素と油の体積比400〜1200。
【0019】
前記水素化前処理または水素化精製触媒は、酸化アルミニウムまたはケイ素含有酸化アルミニウムから選択される担体と、担体に担持された水素化活性金属を含む。水素化活性金属は、VIBおよび/またはVIII族の非貴金属の少なくとも2つの活性成分を含む。金属酸化物の含有量は触媒の全重量の25〜40%である。
【0020】
前記水素化分解触媒は、非晶質シリカ−アルミナ、分子ふるいまたはそれらの混合物から選択される担体としての酸性物質と、VIB族金属元素Mo、Wと、VIII族の金属元素Co、Ni、Pt、Pdの組み合わせである水素化活性金属成分を含む。活性金属酸化物の含有量は水素化分解触媒の全重量の25〜45重量%である。
【0021】
好適には、前記水素化分解触媒の担体は、Y型、β分子ふるい、ZSM分子ふるいおよびSAPO分子ふるいから選択される1種以上と、非晶質シリカ−アルミナの組み合わせである。水素化活性金属は、W-Ni、Mo-NiまたはMo-Coの組み合わせである。
【0022】
前記工程3)で分離された残油は、水素化分解のために第2反応領域に完全にまたは部分的に再循環される。
【発明の効果】
【0023】
本発明方法は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物の特徴を十分に生かし、合成ディーゼル燃料の密度を改善しつつ、適切なプロセスフローを確認し、一定割合で液体触媒をドープする。水素化精製、水素化分解および異性化触媒は非貴金属触媒であるため、反応中に触媒の活性を維持するためには、依然としてリサイクル水素中にある濃度を保つことができるH
2Sが必要である。フィッシャー・トロプシュ合成生成物は硫黄を含まず、本発明で添加される液体触媒は加硫剤の役割を果たす硫黄を含有する。さらに、フィッシャー・トロプシュ軽質成分は、一定量のオレフィンおよび少量の酸素含有化合物も含み、それは個々の水素化精製を受けて多量の熱を発生するとともに、触媒の過度な局所熱に起因して触媒のコーキングと不活性化を容易に招くことがある。また、触媒の過度の熱放出は、触媒床の急速な温度上昇をもたらし、床の温度を制御するのに悪影響を及ぼしかねない。従って、温度を制御するために、多量の冷たい水素を注入しなければならない。少量の不飽和オレフィンを含有するフィッシャー・トロプシュワックスは、本発明において水素化前処理および水素化分解を受ける。流出物は熱を蓄える役割を果たし、それによって熱および水素に富むガスを水素化精製反応に提供し、水素化精製のための熱の「ホットトラップ」となる。その結果、触媒床の温度制御に適し、水素化精製部分で要求される急冷冷却水素を大幅に減少させ、エネルギー消費を低減する。この方法により、合成ディーゼル燃料の密度が向上し、流動点が低下し、合成ディーゼル燃料は車両用ディーゼル燃料の指標を達成する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、
図1のフローチャートと合わせて、本発明方法を詳細に説明する。
【0026】
図に示すように、第1反応器Aは、長手方向に第1反応領域A1と第2反応領域A2とを含み、第1反応領域A1の床に水素化前処理触媒を載置し、第2反応領域A2の床に水素化分解触媒を載置する。第1反応器Aの上部から配管5を介してリッチ水素が供給される。フィッシャー・トロプシュワックスと硫黄含有液体触媒とが混合され、配管1から第1反応器Aに入った後、水素リッチガスと混合され、最初に第1反応領域A1で混合物を水素化前処理し、反応流出物を第2反応領域A2に流入させて水素化分解を行う。
【0027】
第2反応器Bは、長手方向に第3反応領域B1および第4反応領域B2を含み、水素化精製触媒を第3反応領域B1の床に載置し、水素化分解触媒を第4反応領域B2の床に載置する。
【0028】
第2反応領域A2からの分解生成物は配管2を介して、配管3からのフィッシャー・トロプシュ軽質成分(フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料及びナフサ)と混合され、水素化精製反応のために第2反応器Bの第3反応領域B1に供給される。精製後の生成物は第4反応領域に入り、水素化異性化流動点降下反応を行う。流動点降下反応後の生成物は、配管6を介して気液分離システムCに流入し、気相成分(主に水素を指し、同時に硫化水素等を含む)は配管7を介して循環圧縮機Eに流入する。圧縮された水素リッチガスは、配管4の新しい水素と混合され、配管5を介して第1反応器Aの上部から内部に供給される。液相成分は、配管8を介して分留システムDに入り、分留が行われて、乾燥ガス9、ナフサ10、ディーゼル燃料11および残油12を得る。さらに、残油12は、リサイクルクラッキングのために第1反応器A内の第2反応領域A2へ完全にまたは部分的にリサイクルされる。
【0029】
前記工程1)における硫黄含有液体触媒は、低質の触媒分解ディーゼル燃料またはコーキングディーゼル燃料である。硫黄含有液体触媒は、硫黄含有液体触媒とフィッシャー・トロプシュワックスの合計の10〜65重量%、好適には20〜50重量%を占める。
【0030】
前記工程1)において、水素化前処理は、以下の条件下で実施される:反応温度は280〜390℃、水素分圧は2.0〜15MPa、体積空間速度は0.4〜6h
-1、水素と油の体積比は300〜2000である。
【0031】
好適な条件として、反応温度は300〜370℃、水素分圧は4.0〜10MPa、体積空間速度は0.5〜2.0h
-1、水素と油の体積比は500〜1500である。
【0032】
前記工程1)において、水素化分解反応は、以下の条件で行われる:反応温度は300〜450℃、水素分圧は2.0〜15MPa、体積空間速度は0.4〜6h
-1、水素と油の体積比は300〜2000である。
【0033】
好適な条件として、反応温度は330〜410℃、水素分圧は4.0〜10MPa、体積空間速度は0.4〜6h
-1、水素と油の体積比は600〜1500である。
【0034】
前述の低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物の水素化処理方法では、前記工程2)において、水素化精製反応は、以下の条件で実施される:反応温度は250〜380℃、水素分圧は2.0〜15MPa、体積空間速度は0.4〜6h
-1、水素と油の体積比は300〜2000である。好適な条件として、反応温度は280〜340℃、水素分圧は4.0〜10MPa、体積空間速度は0.4〜6h
-1、水素と油の体積比は500〜1200である。
【0035】
前記工程2)において、水素化異性化流動点降下反応は、以下の条件で行われる:反応温度は250〜450℃、水素分圧は2.0〜15MPa、体積空間速度は0.4〜6h
-1、水素と油の体積比は300〜2000である。好適な条件として、反応温度は280〜400℃、水素分圧は4.0〜10MPa、体積空間速度は0.4〜6h
-1、水素と油の体積比は400〜1200である。
【0036】
前記水素化前処理または水素化精製触媒は、酸化アルミニウムまたはケイ素含有酸化アルミニウムから選択される担体と、担体に担持された水素化活性金属を含む。水素化活性金属は、VIBおよび/またはVIII族の非貴金属の少なくとも2つの活性成分を含む。金属酸化物の含有量は、触媒の全重量の10〜50重量%である。好適には25〜40重量%である。
【0037】
水素化分解触媒は、非晶質シリカ−アルミナ、分子ふるいまたはそれらの混合物から選択される担体としての酸性物質と、VIB族金属元素のモリブデン、タングステンと、VIII族金属元素の白金、パラジウムと、VIII族金属元素のコバルト、ニッケルの組み合わせである水素化活性金属を含む。好適には、W-Ni、Mo-NiまたはMo-Coの組み合わせである。活性金属酸化物の含有量は、水素化分解触媒の全重量の10〜50重量%である。好適には25〜40重量%である。
【0038】
水素化分解触媒の酸性度中心は、分解および異性化の2つの機能を有し、その担体は、Y型、β分子ふるい、ZSM分子ふるいおよびSAPO分子ふるいから選択される1種以上である。さらに、水素化分解触媒は非晶質シリカ−アルミナも含む。
【0039】
前記工程3)で分離された残油は、水素化分解のために第2反応領域へ完全にまたは部分的に再循環される。
【0040】
本発明方法において使用される水素化分解触媒は、既存の市販されている水素化精製触媒であってもよい。
【0041】
本発明の工程2)で使用される水素化異性化流動点降下触媒は、既存の市販されている水素化異性化流動点降下触媒であってもよい。
【0042】
本発明において、硫黄含有液体触媒は、低質の触媒分解ディーゼル燃料またはコーキングディーゼル燃料を含む。
【0043】
本発明の要点をさらに説明するために、以下に、特定の実施形態に関連して本発明をさらに説明する。しかしながら、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
低温フィッシャー・トロプシュワックスは、一定の割合の重量比で、低質の触媒分解ディーゼル燃料を含有する硫黄含有液体触媒と混合された。低質の触媒分解ディーゼル燃料は、混合物の総重量の25%を占めた。低温フィッシャー・トロプシュワックス及び低質の触媒分解ディーゼル燃料を含む液体触媒の特性を表1に示す。混合原料を第1反応器Aに供給して水素リッチガスと混合し、混合物を最初に第1反応領域A1で水素化前処理を行った後、第2反応領域A2で水素化分解反応を行い、水素化分解反応から得られた生成物を、フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料及びナフサ(フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料の特性については表1参照)と共に、第2反応器Bの第3反応領域B1に供給して水素化精製反応を行った。水素化精製反応から得られた生成物を第4反応領域B2に供給し、水素化異性化流動点降下反応を行った。流動点降下反応から得られた生成物を分留システムを用いて分留し、ディーゼル燃料留分1を得た。ディーゼル燃料留分1の特性については表2を参照のこと。
【0045】
水素化前処理の反応条件:反応温度は350℃、反応圧力は6.0MPa、液時体積空間速度は1.0h
-1、水素と油の体積比は1000であった。水素化分解の条件:反応温度は380℃、反応圧力は6.0Mpa、体積空間速度は1.5h
-1、水素と油の体積比は1000であった。水素化精製の条件:反応温度は310℃、反応圧力は6.0Mpa、体積空間速度は3.0h
-1、水素と油の体積比は1000であった。水素化異性化流動点降下条件:反応温度は350℃、反応圧力は6.0MPa、体積空間速度は3.0h
-1、水素と油の体積比は1000であった。
【実施例2】
【0046】
実施例1と同様の混合原料を用いた。混合原料を第1反応器Aに供給して水素リッチガスと混合し、第1反応領域A1で水素化前処理を行った後、第2反応領域A2で水素化分解反応を行い、水素化分解反応から得られた生成物をフィッシャー・トロプシュディーゼル燃料及びナフサ(フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料の特性については表1参照)と共に、第2反応器Bの第3反応領域B1に供給して水素化精製反応を行った。水素化精製反応から得られた生成物を第4反応領域B2に供給し、水素化異性化流動点降下反応を行った。流動点降下反応から得られた生成物を分留システムを用いて分留し、ディーゼル燃料留分2を得た。ディーゼル燃料留分2の特性については表2を参照のこと。
【0047】
水素化前処理の反応条件:反応温度は360℃、反応圧力は8.0MPa、液時体積空間速度は1.5h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化分解の条件:反応温度は390℃、反応圧力は8.0MPa、液時体積空間速度は2.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化精製の条件:反応温度は330℃、反応圧力は8.0MPa、液時体積空間速度は4.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化異性化流動点降下条件:反応温度は360℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度は3.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。
【実施例3】
【0048】
低温フィッシャー・トロプシュワックスは、一定の重量比に従って、低質の触媒分解ディーゼル燃料を含む硫黄含有液体触媒と混合された。低質の触媒分解ディーゼル燃料は、混合物の総重量の40%を占めた。混合原料を第1反応器Aに供給して水素リッチガスと混合し、混合物を第1反応領域A1で水素化前処理した後、第2反応領域A2で水素化分解反応を行った。水素化分解反応から得られた生成物をフィッシャー・トロプシュディーゼル燃料及びナフサ(フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料の特性については表1参照)と共に、第2反応器Bの第3反応領域B1に供給して水素化精製反応を行った。水素化精製反応から得られた生成物を第4反応領域B2に供給し、水素化異性化流動点降下反応を行った。流動点降下反応から得られた生成物を分留システムを用いて分留して、ディーゼル燃料留分3を得た。ディーゼル燃料留分3の特性については表2を参照のこと。
【0049】
水素化前処理の反応条件:反応温度は365℃、反応圧力は8.0MPa、液時体積空間速度は1.5h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化分解の条件:反応温度は380℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度は2.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化精製の条件:反応温度は330℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度は4.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化異性化流動点降下の条件:反応温度は360℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度 は4.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。
【実施例4】
【0050】
低温フィッシャー・トロプシュワックスは、一定の重量比に従って、低質のコーキングディーゼル燃料を含む硫黄含有液体触媒と混合された。低質のコーキングディーゼル燃料は、混合物の総重量の40%を占めた。低質のコーキングディーゼル燃料を含む液体触媒の特性を表1に示す。混合原料を第1反応器Aに供給して水素リッチガスと混合し、第1反応領域A1で水素化前処理を行った後、第2反応領域A2において水素化分解反応を行い、水素化分解反応から得られた生成物を、フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料及びナフサ(フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料の特性については表1参照)と共に、第2反応器Bの第3反応領域B1に供給して水素化精製反応を行った。水素化精製反応から得られた生成物を第4反応領域B2に供給し、水素化異性化流動点降下反応を行った。流動点降下反応から得られた生成物を分留システムを用いて分留して、ディーゼル燃料留分4を得た。ディーゼル燃料留分4の特性については表2を参照のこと。
【0051】
水素化前処理の反応条件:反応温度は365℃、反応圧力は8.0MPa、液時体積空間速度は1.5h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化分解の条件:反応温度は380℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度は2.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化精製の条件:反応温度は330℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度は4.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった。水素化異性化流動点降下条件:反応温度は360℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度 は4.0h
-1、水素と油の体積比は1200であった
【0052】
比較例1
低温フィッシャー・トロプシュワックスを第1反応器Aに供給して水素リッチガスと混合し、第1反応領域A1で水素化前処理した後、水素化分解反応を第2反応領域A2において行い、水素化分解反応から得られた生成物をフィッシャー・トロプシュディーゼル燃料及びナフサ(フィッシャー・トロプシュディーゼル燃料の特性については表1参照)と共に、第2反応器Bの第3反応領域B1に供給して水素化精製反応を行った。水素化精製反応から得られた生成物を第4反応領域B2に供給し、水素化異性化流動点降下反応を行った。反応から得られた生成物を分留システムを用いて分留し、ディーゼル燃料留分5を得た。ディーゼル燃料留分5の特性については、表2を参照のこと。
【0053】
水素化前処理の反応条件:反応温度は330℃、反応圧力は8.0MPa、液時体積空間速度は1.5h
-1、水素と油の体積比は1000であった。水素化分解の条件:反応温度は400℃、反応圧力は8.0MPa、液時体積空間速度は1.5h
-1、水素と油の体積比は1000であった。水素化精製の条件:反応温度は330℃、反応圧力は8.0Mpa、液時体積空間速度は3.0h
-1、水素と油の体積比は1000であった。水素化異性化流動点降下条件:反応温度は360℃、反応圧力は8.0MPa、体積空間速度は3.0h
-1、水素と油の体積比は1000であった。
【0054】
【表1】
【表2】
【0055】
表2から、液体触媒が本発明方法によって一定割合でドープされた場合、低温フィッシャー・トロプシュ合成生成物からの変換によって得られたディーゼル燃料留分の密度は、0.82g/cm
3より大きく、その硫黄含有量は10.0μg/ g未満であり、そのセタン価は51以上であり、それによってユーロV規格のディーゼル燃料指数を達成する。さらに、本発明方法により得られたディーゼル燃料の流動点は、低温領域におけるディーゼル燃料の低温流動特性の要件を満たすことができる0℃以下である。しかし、フィッシャー・トロプシュワックスを単独で、例えば比較例1で水素化分解すると、得られるディーゼル燃料の密度は0.7413g/cm
3に過ぎず、その密度は車両用ディーゼル燃料の指標を達成することができず、流動点はわずか2℃であり、低温域での低温ディーゼル燃料の要求を満たすことができない。
【符号の説明】
【0056】
1,2,3,4,5,6,7,8 配管
9 乾燥ガス
10 ナフサ
11 ディーゼル燃料
12 残油
A 第1反応器
A1 第1反応領域
A2 第2反応領域
B 第2反応器
B1 第3反応領域
B2 第4反応領域
C 気液分離システム
D 分留システム
E 循環圧縮機