【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は独立請求項に記載した構成要素から成るものである。従属請求項は特に有利な構成例をその主題としたものである。本発明の更なる特徴、用途、及び利点は、以下の記載によって、また特に図面に示した本発明の実施例の説明によって、明らかとなる。
【0015】
本発明の第1の局面によれば上記目的は、エンドエフェクタを備え、複数個(M個)のアクチュエ−タAKT
m(ここでm = 1, 2, ..., Mである)により駆動されるロボット・マニピュレ−タを制御する装置により達成される。尚、ここでは「アクチュエ−タ」という用語を広い意味で使用しており、この用語は例えば、電動モ−タ、油圧モ−タ、リニアモ−タ、ステップモ−タ、ピアゾアクチュエ−タなどを含み、また更にその他のものをも含むものである。
【0016】
前記装置は更に、前記エンドエフェクタに作用している外力/外トルクを表すクラフトヴィンダ−F→
ext(t) = [f→
ext(t), m→
ext(t)]を検出及び/または導出する第1ユニットを備え、ここで、f→
ext(t)は前記エンドエフェクタに作用する外力を表し、m→
ext(t)は前記エンドエフェクタに作用する外トルクを表している。尚、本開示においては、通常は文字の真上に付してベクトルであることを表す矢印を、文字の右肩に付すようにしており、それゆえ「F→
ext(t)」、「f→
ext(t)」、「m→
ext(t)」という表記は、それらが時間のベクトル関数であることを表している。また、以後の記載では矢印ばかりでなく、通常は文字の真上に付すドット、バ−、及びチルダのいずれも、文字の右肩に付すようにしている。前記第1ユニットは、その機能を提供するために、前記エンドエフェクタに作用する外力/外トルクを表すクラフトヴィンダ−F→
ext(t) = [f→
ext(t), m→
ext(t)]を検出するためのセンサ・システム、及び/または、前記エンドエフェクタに作用する外力/外トルクを表すクラフトヴィンダ−F→
ext(t) = [f→
ext(t), m→
ext(t)]の評価値を導出するエスティメ−タを備えたものとするとよい。前記センサ・システムは、1個または複数個の力センサ及び/またはトルクセンサを備えたものとするとよい。前記エスティメ−タは、前記クラフトヴィンダ−F→
ext(t)の評価値を導出するためのプログラムを実行するプロセッサを備えたものとするとよい。
【0017】
ここに提案する前記装置は更に、前記第1ユニット及び前記複数個のアクチュエ−タAKT
mに接続された制御装置を備えている。該制御装置は印加力制御装置である第1制御装置R1と該第1制御装置R1に接続された第2制御装置R2とを含んでおり、該第2制御装置R2はインピ−ダンス制御装置、アドミッタンス制御装置、ポジション制御装置、または速度制御装置である。該制御装置は複数の制御信号u
m(t)を生成し、前記複数個のアクチュエ−タAKT
mがそれら複数の制御信号u
m(t)により制御されることで、前記エンドエフェクタが操作対象物の表面に当接しているときに、前記エンドエフェクタが当該表面に、目標クラフトヴィンダ−F→
D(t) = [f→
D(t), m→
D(t)]で表される目標印加力/目標印加トルクを作用させるようにしてあり、
以上において、
【数1】
であり、ここで、f→
D(t)は目標印加力であり、m→
D(t)は目標印加トルクであり、u
m,R1(t)は前記第1制御装置R1の制御信号成分であり、u
m,R2(t)は前記第2制御装置R2の制御信号成分である。tは時間である。また、前記目標クラフトヴィンダ−F→
D(t)は、前記ロボットに与えられたタスクに基づいて導出されるものである。
【0018】
更に、前記第1制御装置R1は、前記制御信号成分u
m,R1(t)を、制御信号u
m,R1(t)
*と関数S(v(t))との積として、または汎関数S
*(v
*(t), u
m,R1(t)
*)として生成するように構成されており、
以上において、
【数2】
であり、ここで、u
m,R1*(t)は目標クラフトヴィンダ−F→
D(t)で表される目標印加力/目標印加トルクを発生させるために前記第1制御装置R1が生成する制御信号であり、R→(t)は前記制御装置が受取る制御偏差であり、S(v(t))はF→
D(t)及びR→(t)に応じて値が定まるv(t)の単調減少関数であり、S
*(v
*(t), u
m,R1(t)
*)はu
m,R1(t)の影響度が基本的にQ個の成分[v
1*(t), v
2*(t), ..., v
Q*(t)]の各々において単調減少する汎関数であり、[v
a, v
e]は変数v(t)の指定された定義域であり、[v
1a, v
1e], [v
2a, v
2e], ..., [v
Qa, v
Qe]はQ次元のベクトル量v
*(t)の各成分の指定された定義域である。
【0019】
本発明は、その1つの構成例によれば、前記印加力制御装置R1の前記制御信号成分u
m,R1(t)を、従来方式で生成したものに更に単調減少関数S(v(t)) = S(v(F→
D(t), R→(t))(いわゆるシェイピング関数)を乗じたものとしており、それによって、エンドエフェクタと周囲環境との間の当接状態が消失したときに、ロボット・マニピュレ−タに大きな運動を発生させずに済むようにしている。また、別の1つの構成例では、前記「シェイピング」効果を発生させるために、前記制御信号成分u
m,R1(t)を、汎関数S
*(v
*(t), u
m,R1(t)
*)として生成するようにしている。更に、本発明によれば、印加力制御装置がいかなる構造のものであっても「シェイピング」効果を発生させることができる。また、数学的に、制御信号u
m,R1(t)
*と関数S(v(t))との積として表すことのできない「シェイピング」効果を発生させることもできる。それゆえ、一例として、PID制御装置の個々の制御要素に対して夫々に異なった単調減少シェイピング関数S
*1(v
*1(t)), S
*2(v
*2(t)), ... を適用するようにしてもよい。
【0020】
前記関数S(v(t))は、その値域を[1, 0]に設定して、エンドエフェクタと周囲環境とが当接状態にあるとき(即ち、正常な駆動状態にあるとき)に、S(v(t)) = 1であるようにするとよい。エンドエフェクタと周囲環境との当接状態が消失したならば、それと同時に前記制御装置が受取っている制御偏差R→(t)が増大する。前記関数S(v(t))は、この制御偏差R→(t)が大きいほど、また、前記エンドエフェクタから印加する目標印加力/目標印加トルクを表す目標クラフトヴィンダ−F→
D(t)が大きいほど、より速やかにこの関数S(v(t))の値が「1」から「0」へ減少するものとすることが好ましい。またこのことは、前記関数S
*(v
*(t))についても言えることである。
【0021】
ここに提案する前記装置の1つの構成例では、操作対象物(この操作対象物は、前記エンドエフェクタがそれに当接して、目標クラフトヴィンダ−F→
D(t)で表される目標印加力/目標印加トルクを印加するところの物体である)が弾性変形性を有しており、そのため当該操作対象物の表面が可撓性を有している場合に、前記制御信号u
m(t)の生成に際して当該操作対象物の所与の弾性特性が前記制御装置により考慮されるようにしてある。
【0022】
ここに提案する前記装置の1つの構成例では、第2ユニットを備え、該第2ユニットは、前記制御装置を不動態化するためのエネルギ貯留器として機能するユニットであって、所与のエネルギ貯留器ダイナミクスに従って、前記制御装置から送出されることになるエネルギT1を貯留すると共に前記制御装置にエネルギT2を供給するユニットであり、前記第2ユニットと前記制御装置とで閉ル−プ制御回路が構成されており、前記ロボット・マニピュレ−タが実際のタスクを実行する際に消費するエネルギ量を表す導出されまたは与えられた値であるエネルギ消費量値E
Aufwandに応じた量のエネルギT0を貯留するように前記第2ユニットの初期エネルギ貯留量設定が行われるようにしてある。またこれに関して、前記第2ユニットに貯留されるエネルギEは仮想的エネルギであってもよく、物理的エネルギであってもよい。前者の場合、その仮想的エネルギとは単なる算出値(オペランド)である。後者の場合、そのエネルギは何らかの物理的エネルギ(例えば電力など)であって、前記第2ユニットはそのエネルギに対応した物理的エネルギ貯留器(例えばバッテリなど)である。また、後者の場合の構成例では、ロボット・マニピュレ−タの制御が改善され、即ち、不動態化が施されるようになるばかりでなく、それ加えて更に、ロボット・マニピュレ−タの駆動時のエネルギ消費量の低減も可能となる。
【0023】
上述した構成例では、エネルギ上限値G1が定められており、前記第2ユニットに貯留されているエネルギEが常にE ≦ G1となるように、前記第2ユニットが構成されているものとすることが好ましい。また更に、エネルギ下限値G2が0 < G2 < G1となるように定められており、前記第2ユニットに貯留されているエネルギEに応じて、G2 < E ≦ G1であるときに、前記第2ユニットが前記制御装置に接続されており、E ≦ G2であるときに、前記第2ユニットが前記制御装置から接続遮断されているように、前記第2ユニットが構成されているものとすることが好ましい。
【0024】
本発明の別の1つの局面は、ロボット・マニピュレ−タを備えたロボットに関するものであり、該ロボット・マニピュレ−タはエンドエフェクタを備え、複数個(M個)のアクチュエ−タAKT
m(ここでm = 1, 2, ..., Mである)により駆動され、上述した装置を備えていることを特徴とする。
【0025】
本発明の別の1つの局面は、エンドエフェクタを備え、複数個(M個)のアクチュエ−タAKT
m(ここでm = 1, 2, ..., Mである)により駆動されるロボット・マニピュレ−タを制御する方法に関するものであり、この方法は、前記エンドエフェクタに作用している外力/外トルクを表すクラフトヴィンダ−F→
ext(t) = [f→
ext(t), m→
ext(t)]を検出及び/または導出するステップを含み、ここで、f→
ext(t)は前記エンドエフェクタに作用する外力を表し、m→
ext(t)は前記エンドエフェクタに作用する外トルクを表している。この方法は更に、制御装置により複数の制御信号u
m(t)を生成するステップを含み、該制御装置は印加力制御装置である第1制御装置R1と該第1制御装置R1に接続された第2制御装置R2とを含んでおり、該第2制御装置R2はインピ−ダンス制御装置、アドミッタンス制御装置、ポジション制御装置、または速度制御装置であり、前記複数個のアクチュエ−タAKT
mが前記複数の制御信号u
m(t)により制御されることで、前記エンドエフェクタが操作対象物の表面に当接しているときに、前記エンドエフェクタが当該表面に、目標クラフトヴィンダ−F→
D(t) = [f→
D(t), m→
D(t)]で表される目標印加力/目標印加トルクを作用させるようにしてあり、
以上において、
【数3】
であり、ここで、f→
D(t)は目標印加力であり、m→
D(t)は目標印加トルクであり、u
m,R1(t)は前記第1制御装置R1の制御信号成分であり、u
m,R2(t)は前記第2制御装置R2の制御信号成分であり、以上において、前記第1制御装置R1は、前記制御信号成分u
m,R1(t)を、制御信号u
m,R1(t)
*と関数S(v(t))との積として、または、汎関数S
*(v
*(t), u
m,R1(t)
*)として生成するように構成されており、
以上において、
【数4】
であり、ここで、u
m,R1*(t)は目標クラフトヴィンダ−F→
D(t)で表される目標印加力/目標印加トルクを発生させるために前記第1制御装置R1が生成する制御信号であり、R→(t)は前記制御装置が受取る制御偏差であり、S(v(t))はF→
D(t)及びR→(t)に応じて値が定まるv(t)の単調減少関数であり、S
*(v
*(t), u
m,R1(t)
*)はu
m,R1(t)の影響度が基本的にQ個の成分[v
1*(t), v
2*(t), ..., v
Q*(t)]の各々において単調減少する汎関数であり、[v
a, v
e]は変数v(t)の指定された定義域であり、[v
1a, v
1e], [v
2a, v
2e], ..., [v
Qa, v
Qe]はQ次元のベクトル量v
*(t)の各成分の指定された定義域である。
【0026】
前記方法において、操作対象物が弾性変形性を有しており、そのため当該操作対象物の表面が可撓性を有している場合に、前記制御信号u
m(t)の生成に際して当該操作対象物の所与の弾性特性が前記制御装置により考慮されるようにすることが好ましい。
【0027】
また更に、第2ユニットを備えるようにし、該第2ユニットは、前記制御装置を不動態化するためのエネルギ貯留器として機能するユニットであって、所与のエネルギ貯留器ダイナミクスに従って、前記制御装置から送出されることになるエネルギT1を貯留すると共に前記制御装置にエネルギT2を供給するユニットであり、前記第2ユニットと前記制御装置とで閉ル−プ制御回路が構成されており、前記ロボット・マニピュレ−タが実際のタスクを実行する際に消費するエネルギ量を表す導出されまたは与えられた値であるエネルギ消費量値E
Aufwandに応じた量のエネルギT0を貯留するように前記第2ユニットの初期エネルギ貯留量設定が行われるようにすることが好ましい。
【0028】
以上に説明した実施形態に、先に提案した前記装置に付与するのと同様の特徴ないしは対応する特徴を付与することによって、ここに提案する前記方法の有利で好ましい様々な構成例が得られる。
【0029】
本発明の別の1つの局面は、デ−タ処理装置を備えたコンピュ−タ・システムに関するものであり、前記デ−タ処理装置は、上述したようにして実行される方法が、該デ−タ処理装置上で実行されるように構成されていることを特徴とする。
【0030】
本発明の別の1つの局面は、電子的に読み出し可能な制御信号を記録したデジタル記録媒体に関するものであり、このデジタル記録媒体においては、前記制御信号がプログラム可能なコンピュ−タ・システムと協働することで、上述したようにして実行される方法が、実行されることを特徴とする。
【0031】
本発明の別の1つの局面は、マシンによる読み出しが可能な媒体上に記録されたプログラムコ−ドを備えたコンピュ−タ・プログラム製品に関するものであり、このコンピュ−タ・プログラム製品は、前記プログラムコ−ドがデ−タ処理装置上で実行されることで、前記方法が上述したように実行されることを特徴とする。
【0032】
本発明の別の1つの局面は、プログラムコ−ドから成るコンピュ−タ・プログラムに関するものであり、このコンピュ−タ・プログラムは、当該コンピュ−タ・プログラムがデ−タ処理装置上で実行されることで、前記方法が上述したように実行されることを特徴とする。
【0033】
従って、ここに提案する装置並びにここに提案する方法は、エンドエフェクタを備え、複数個(M個)のアクチュエ−タAKT
m(ここでm = 1, 2, ..., Mである)により駆動されるロボット・マニピュレ−タを制御するための装置並びに方法であって、印加力制御装置にインピ−ダンス制御装置を組合せ(
図1参照)、更にエネルギ貯留器を組合せることにより、不動態化を施すことを基本としつつロバスト性を備えた方式としたものである。本発明によれば、受動的要素である周囲環境はいかなるものであってもよく、また、その特性にロバスト性が欠如しがちな仮想目標ポジションの変更調節も行う必要がない。本発明によれば、ロボット・マニピュレ−タによる周囲環境の操作を、ロバスト性を有し、コンプライアンスに対応でき、しかも安定した操作とすることができ、印加力制御とインピ−ダンス制御との間での選択を行う必要がない。更に、先に説明した、印加力制御及びインピ−ダンス制御に本質的に付随する欠点が排除され、印加力制御の利点とインピ−ダンス制御の利点とが可能最良な形で組合わされたものとなる。また特に、エンドエフェクタと周囲環境との間の当接状態が消失したときにこれまでは発生していた、ロボット・マニピュレ−タの危険を伴う運動が防止される。
【0034】
実施の形態についての以下の説明は、本発明を下記のテ−マに関して詳細に説明するものである。A)ロボットのモデル化、B)制御装置の基本構成、C)当接状態の消失に対する安定化、D)可撓性を有しコンプライアンスが大である操作対象物の操作。
【0035】
A ロボットのモデル化
A1 剛体ダイナミクス
関節をn個備えた(即ち、自由度(DOF)がnの)剛体ロボット・マニピュレ−タのダイナミクスは公知であり、下式(5)で与えられる。
【数5】
ここで、q ∈ R
nは関節の回転角ポジションである。M(q) ∈ R
n×nは質量行列であり、C(q, q
・)q
・ ∈ R
nはコリオリ力及び遠心力を表すベクトルであり、g(q) ∈ R
nでは重力を表すベクトルである。この系の制御入力は、モ−タの駆動トルクτ
m ∈ R
nであり、また、τ
ext ∈ R
nには外部から作用する全ての外トルクが含まれる。説明を簡明にするために、ここでは摩擦力を無視している。外部からの作用力は、座標空間におけるベクトルF
ext = (f
extT, m
extT)
T ∈ R
6で与えられ、このベクトルは外力及び外トルクを表すものである。また、このベクトルは、転置ヤコビ行列J
T(q) によって、外部から夫々の関節に作用する外トルクへと転写され、その転写はτ
ext = J
T(q)F
extで表される。
【0036】
A2 可撓性を有する関節のダイナミクス
軽量構造のロボット・マニピュレ−タや、関節にバネが組込まれたロボット・マニピュレ−タの場合には、上式(5)では、それら可撓性を有する構造が存在するために駆動時に必然的に生起するダイナミクスを十分な精度をもって記述することができない。そのため、そのような構造のロボット・マニピュレ−タには、関節を弾性的回転偏位可能にした(即ちそのように修正を加えた)ロボット・マニピュレ−タのモデルが用いられる。このモデルは下式(6)〜(8)で表される(非特許文献13(Spong(1987年)参照)。
【数6】
ここで、θ ∈ R
nはモ−タの回転角ポジションである。式(6)は出力側のダイナミクスを記述した式であり、式(7)は入力側のダイナミクスを記述した式である。式(8)は関節トルクτ
J ∈ R
nによって式(6)と(7)を関連付けた式であり、この関節トルクは、線形バネ特性を有するバネにより得られている。当業者であれば、この式(8)をバネが非線形バネ特性を有する場合にまで拡張することも容易であろう。ここでは関節における減衰を無視することにする。減衰を考慮するように拡張することは容易であるため、それについてはここで論じない。行列K ∈ R
n×n及び行列B ∈ R
n×nはいずれも定数正定値対角行列であり、前者は関節の剛性を記述した行列、後者はモ−タの慣性を記述した行列である。また、ここでは更に、入力側の摩擦及び出力側の摩擦も考慮外としている。
【0037】
B 制御装置の基本構成
B1 座標方式のインピ−ダンス制御装置
系の不動態化を巧みに施すことで、弾性的回転偏位可能な関節を備えたロボット・マニピュレ−タのインピ−ダンス制御を安定性を備えたものとすることができる。この不動態化は、例えば、ポジションをフィ−ドバックするのに、θ及びqの値をフィ−ドバックすることに換えて、θの関数の値をフィ−ドバックするようにするとよい。その場合にqをその静的等価値q
-(θ) = ζ
-1(θ) に置き換えるようにし、この静的等価値は、陰関数ζ(q
θ) = q
θ + K
-1g(q
θ) での縮約により算出され、ここでqθは、平衡点における出力側のポジションである。さほど厳密でない条件の下では、q
-(θ)をqの推定値として用いることができる。この陰関数ζについての更に詳細な説明、並びにその基礎を成す理論については、非特許文献2(Albu−Schaffer, Ott, & Hirzinger, A Unified Passivity−based Control Framework for Position, Torque and Impedance Control of Flexible Joint Robots, (2007年) を参照されたい。弾性的回転偏位可能な関節を備えたロボット・マニピュレ−タのインピ−ダンス制御に不動態化を施す場合の制御式は、下式(9)及び(10)で示される。
【数7】
【0038】
B2 座標方式の印加力制御装置
制御装置の基本構成は、制御式が下式(11)で示される座標方式の印加力制御装置を基礎とするものである。
【数8】
ここで、行列K
d ∈ R
6×6及び行列K
i ∈ R
6×6はいずれも正定値対角行列であり、前者は微分制御部分を表しており、後者は積分制御部分を表している。I ∈ R
6×6は単位行列であり、行列K
p ∈ R
6×6は、Kp − Iもまた正定値対角行列となるように選択されている。周囲環境へ印加しようとする目標印加力F
d := (f
dT, m
dT)
Tは、作業者であるオペレ−タもしくは作業計画の作成者によって指定される。尚、以下の説明では、式を見やすくするために、h
i(F
ext(t), t) := K
i∫
0t(F
ext(t) − F
d(t))dσと書き替えることにする。F
extの値は、力センサから得るようにすることもでき、モニタ装置から得るようにすることもできる(非特許文献7(Haddadin, Towards Safe Robots; Approaching Asimov's 1st Law(2013年)参照)。この印加力制御装置が用いられるロボット・マニピュレ−タが、剛体ロボット・マニピュレ−タである場合には、上式(5)においてτ
m = τ
mfとし、また、それが弾性的回転偏位可能な関節を備えたロボット・マニピュレ−タである場合には、上式(7)においてτ
m = τ
mfとすればよい。
【0039】
B3 印加力制御装置とインピ−ダンス制御装置とを統合した統合型制御装置
上述した印加力制御装置と上述したインピ−ダンス制御装置とを単純に組合せて用いる場合の制御式は、下式(12)に示したものとなる。
【数9】
【0040】
しかしながら、そのようにした場合には、安定性が保証されない。それゆえ、そのようにして構成した制御装置については、エネルギ貯留器と併せて論じる必要があり(
図2参照)、そのエネルギ貯留器によって系の不動態化が確実に行われるようにし、ひいては系の安定性が保証されるようにしている。そのようにした場合の制御式は、下式(13)に示したものとなる。
【数10】
ここで、x
tはエネルギ貯留器の状態を表すものであり、また、ωは下式(14)によって定義される。
【数11】
【0041】
エネルギ貯留器のダイナミクスは下式(15)のように記述することができる。
【数12】
ここで、u
τはエネルギ貯留器への入力を表すものである。また、バイナリのスカラ−値であるα、s、γによって、系全体の安定性が常時保証されている。
【0042】
B4 タスク・ベ−スの初期エネルギ貯留量設定
タスク実行所要エネルギ(タスクを実行するために要するエネルギ)の算出が、静的印加力相当重量f
I|
x=xw + f
d = f
wに基づいて行われ、ここで、f
I = K
x,t (p − p
s) はインピ−ダンスのうちの剛性に対する力を表し、f
w = K
w,t (p
w − p
w,0) は周囲環境からの反力に対する力を表すものである。この反力は操作対象物の表面に発生し、ここではこの反力を、減衰を考慮せず剛性だけを考慮して一次関数の形にモデル化している。それをp
wに関して解くことで当該表面のポジションが得られ、そうして得られるポジションに応じて印加力の制御が行われる。それゆえ、当該表面を移動させるために要する仕事量(即ち、タスク実行所要エネルギ)は、下式(16)により算出される。
【数13】
【0043】
ただし、上式(16)は、並進移動させるための所要エネルギしか考慮していない。回転移動させる場合には、当然のことながら、同式を拡張する必要があるが、その拡張は当業者であれば容易に行い得るものである。
【0044】
特別な制御形態としてf
d = const. とする制御が行われることもあり、その場合のタスク実行所要エネルギは、下式(17)により算出される。
【数14】
【0045】
そして、このタスク実行所要エネルギを貯留するように、初期エネルギ貯留量設定が行われる。
【0046】
C 当接状態の消失に対する安定化
ロボット・マニピュレ−タは、考えられるあらゆる状況下においてその制御の安定性が保証されているものの、その制御の安定性が保証されているということが、ロボット・マニピュレ−タは安全な運動しか発生しないということを直ちに意味するものではない。エンドエフェクタと操作対象物の表面との間の当接状態が予期せずして消失した場合に、当該ロボット・マニピュレ−タを備えたロボットが、当接状態の消失により消滅した印加力を回復しようとする動作を、エネルギ貯留器の貯留エネルギがゼロになるまで続けるという事態に陥ることがあり得る。エネルギ貯留器のエネルギ貯留量によっては、こうして発生するロボット・マニピュレ−タの運動が非常に大きく、その運動速度も大きく、何よりも甚だしく不都合な運動となるおそれがある。
【0047】
かかる事態を回避する方法として、単純に、エンドエフェクタと周囲環境ないし操作対象物との間の当接状態が非検出となったならば、即座に制御装置を動作停止させるという方法も考えられないではない。しかしながら、そのような方法を用いた場合には、例えばセンサ出力にノイズが混入したときなどに、望ましからざるオンオフ動作が発生するおそれがある。
【0048】
この問題に対処するために、ここでは、ロバスト性を有するポジション・ベ−スの制御方法を提案するものである。この方法は、制御装置シェイピング関数S(V) := ρ(ψ) を利用して行われ、この関数は制御装置に一体的に組込まれる。この関数は下式で表される。
【数15】
この関数は、並進移動の部分と回転移動の部分とを含んでおり、それら部分は夫々以下のように定義されている。
【数16】
及び
【数17】
以上に具体例として示した関数ρ(ψ)は、上述の関数 S(V) に対応しており、また、変数ψは、上述の制御偏差R→(t)に対応している。
【0049】
ロボット・マニピュレ−タのポジションx := (p
T, φ
T)
T は、並進移動の部分(並進移動量)pと、回転移動の部分(回転量)φとを含んでおり、回転量φは例えばオイラ−角などの適宜の回転角表示法により表される。ここで、Δp = p
s − pを、エンドエフェクタを起点とし仮想目標ポジションを終点とするベクトルとし、F
d = (f
dT, m
dT)
Tを、6次元の目標クラフトヴィンダ−とする(
図2参照)。そして、Δpとf
dとが成す角度が90°より大となったならば、その時点で制御装置を動作停止状態にするようにしている。
【0050】
動作状態と動作停止状態との間の状態遷移が滑らかに行われるようにするために、オペレ−タが指定した定義領域d
maxにおいて内挿処理を実行するための内挿処理関数ρ
t(ψ) が選択されている。また、回転量ρ
r(ψ)の表示方法としては、無特異点の角度表示法である四元数が選択されている。そして、単位四元数k = (k
0, k
v) によって実方向を表し、四元数K
s = (k
0,s, k
v,s) によって目標方向を表すようにしている。
【0051】
そのため、回転角偏差はΔk := k
-1k
s及びΔφ := 2 arccos (Δk
0)で示される。また、オペレ−タによってロバスト領域として指定される定義領域は回転角φ
maxで示される。この回転角は四元数のスカラ−成分と関連しており、φ
max := 2 arccos (k
0,max) となる。安定性解析の観点からは、前記シェイピング関数はωに対してシェイピングを施す関数であると見なされ、これは、印加力制御装置とインピ−ダンス制御装置とを一体化した統合型制御装置のうちの印加力制御装置の部分に対して、スケ−リング係数を乗じるスケ−リング処理を施すことに他ならない。この処理によって、ωに替わって用いられるωφ := ρ(ψ) ωが得られ、それによって安定性が保証される。尚、ここで、ρ(ψ)を乗じる処理はωの各成分に対して行われる。
【0052】
D 可撓性を有しコンプライアンスが大である操作対象物の操作
前章で述べたように、ポジション・ベ−スの制御方法によって制御を行う場合には、柔軟で変形し易い材料に対しては特別な取扱いを要するということを考慮する必要がある。仮想目標ポジションの設計を行う際に、周囲環境のコンプライアンスや変形を考慮せずに設計したならば、状況によっては、印加力制御装置の不都合な動作停止やスケ−リングが発生するという問題が生じかねない。これらの不都合事象が発生するのは、コンプライアンスが存在することによって、実ポジションが、コンプライアンスが存在しない場合とは異なったポジションになっているからである。そこで、操作対象物の材料が可撓性を有しコンプライアンスが大である場合には、制御装置の仮想目標ポジションをそのような材料に適合させるために、補正仮想目標ポジションx
d' = (p
d'
T, φ
d'
T)
Tを導入する。ここで、操作を加えようとする表面ないし対象物の剛性値の判定値(必ずしも既知値である必要はない)をK
matで表すならば、準静的補正のための補正式は下式(18)で示される。
【数18】
【0053】
上式(18)は、x
d' = x
d − K
mat-1 F
dと略記することもできる。この式から明らかなように、ここでは、柔軟性ないし弾性変形性を有する材料に発生する偏位を相殺するように、仮想目標ポジションをシフトさせている(
図4参照)。当然のことながら、この方法を適用する上では、周囲環境の剛性値が、既知値として得られるか、或いは少なくとも推定値として得られなければならない。ただし、K→∞のときに上述した状況となることは、上式(18)からも直感的に理解されることである。また、当然のことながら、上式(18)は、周囲環境の減衰を考慮に入れた式へと拡張することができる。ただしそのような拡張を行えば演算処理量が増大する。
【0054】
更なる様々な利点、特徴、及び細部構成については、ときに図面を参照しつつ説明する少なくとも1つの実施例に即した以下の詳細な説明を通して明らかにする。尚、図面中、互いに同一の構成要素、互いに同等の構成要素、及び/または、互いに同一の機能を有する構成要素には、同一の参照番号を付してある。