(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物の含有量が64質量%以上70質量%以下であり、前記第2の硼化物の含有量が7質量%以上12質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の浴中ロール。
【背景技術】
【0002】
鋼板の表面にメッキ皮膜を形成する方法として、溶融アルミニウムが収容されたポット内に鋼板を浸漬させる方法が知られている。このポットには、鋼板を連続メッキするための溶融金属浴中ロール(例えば、シンクロール、サポートロール)が設置されており、一般的に、ロールの表面には、耐溶融金属反応性、耐食・耐摩耗性を持つ保護層が形成されている。
【0003】
特許文献1には、溶融金属浴中ロールの表面に、アンダーコート層と、その上にX線相解析により確認される付着状態が、ZrO
2 ・x(xはCaO、Y
2 O
3 、MgO、CeO
2 、及びHfO
2 からなる群から選択される酸化物)とZrSiO
4 及び/またはその分解生成物(ZrO
2 及びSiO
2 )とからなる層を形成したことを特徴とする耐溶融金属反応性粉末組成物が開示されている。また、特許文献1には、アンダーコート層として、金属炭化物(WC、TiC、Cr
3C
2 、NbC、ZrC、TaC、MoC、VC),金属硼化物(CrB
2 、TiB
2 、ZrB
2、MoB
2)及び金属窒化物(MoN、TiN)の内の1種以上のセラミックス成分と、Co,Ni,Cr,Mo及びWのうち1種以上とからなるものが開示されている。
【0004】
特許文献2には、酸化物系セラミック溶射皮膜の表面および該皮膜内気孔部中に、酸化物、硼化物および窒化物のうちから選ばれるいずれか1種以上の水溶液またはスラリーを塗布して封孔処理を行うことが開示されている。さらに、特許文献2の明細書段落0026には、無水クロム酸、クロム酸アンモン、重クロム酸アンモンの水溶液に、TiO
2,ZrO
2,SiO
2,MgOなどの酸化物や、BNなどの窒化物を加えて、溶射皮膜に塗布して加熱焼成する封孔処理技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成の浴中ロールを、溶融アルミニウム浴中で使用したが、溶融アルミニウムに対する耐侵食性、高温耐酸化性、耐摩耗性が十分でなかった。
【0007】
特に、近年、サポートロール及びシンクロールの回転速度が鋼板のライン速度よりも低速に速度制御される場合が多くなっており、激しい摩耗環境に晒されることから、これらのロールに対する耐摩耗性の改善が強く求められるようになっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明に係る浴中ロールは、(1)Alを少なくとも50質量%以上含む金属浴中で使用される浴中ロールであって、ロール表面に形成されるアンダーコート層であって、WB,WCoB,W
2CoB
2を少なくとも含む第1の硼化物と、Cr,Zr及びTiの硼化物のうち少なくとも1種からなる第2の硼化物とを含み、残部がニッケルを5質量%以上含まないコバルト基合金からなるサーメット溶射皮膜により形成されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層の表面に形成されるトップコート層であって、ZrO
2及びY
2O
3を少なくとも含むセラミック溶射皮膜により形成されたトップコート層と、前記トップコート層の表面に形成される摩擦低減層であって、BNと、TiO
2,ZrO
2,SiO
2,MgO及びCaOのうち少なくとも1種と、からなる摩擦低減層と、前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物は55質量%以上75質量%以下であり、前記第2の硼化物は5質量%以上15質量%以下であり、Bの含有量は5.0質量%以上7.0質量%以下であり、前記摩擦低減層を100質量%としたとき、BNは20質量%以上含まれている、ことを特徴とする。
【0009】
(2)前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物の含有量が64質量%以上70質量%以下であり、前記第2の硼化物の含有量が7質量%以上12質量%以下であることを特徴とする上記(1)に記載の浴中ロール。
【0010】
(3)前記セラミック溶射皮膜を100質量%としたとき、Y
2O
3が6質量%以上12質量%以下含まれていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の浴中ロール。
【0011】
(4)前記セラミック溶射皮膜は、さらに、CaO,Al
2O
3,SiO
2及びMgOのうち少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の浴中ロール。
【0012】
(5)上記(1)に記載の浴中ロールの製造方法であって、前記サーメット溶射皮膜を、高速フレーム溶射法により形成し、前記セラミック溶射皮膜を、プラズマ溶射法により形成することを特徴とする。
【0013】
(6)前記トップコート層にBNと、TiO
2,ZrO
2,SiO
2,MgO及びCaOのうち少なくとも1種とを含有する水を塗布した後、焼成することにより、前記摩擦低減層を形成することを特徴とする上記(5)に記載の浴中ロールの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、溶融アルミニウムに対する耐浸食性、高温耐酸化性、耐摩耗性に優れた浴中ロールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、溶融アルミニウムめっき装置の概略構成を示している。溶融アルミニウムめっき装置は、ポット11と、シンクロール13と、サポートロール14とを含む。ポット11には、金属浴12が貯留されている。金属浴12は、アルミニウムを主成分とした溶融金属であり、アルミニウムの他に亜鉛などが含まれている。アルミニウムは、金属浴12の中に少なくとも50質量%含まれている。シンクロール13は、金属浴12の中に配置されており、鋼板Aの搬送方向を変更する。サポートロール14は、鋼板Aを挟む位置に設けられており、鋼板Aの通過位置を安定させるとともに、メッキ付着厚みを平準化する。
【0017】
鋼板Aは、金属浴12に浸漬した後、シンクロール13で方向転換され、サポートロール14でメッキ付着厚みが平準化された後、ポット11の外側に搬出される。
【0018】
図2及び
図3を参照しながら、シンクロール13の表面に形成された保護層について詳細に説明する。
図2は、シンクロール13の一部における概略断面図である。
図3は保護層の一部における断面図である。
【0019】
シンクロール13は、ロール本体部131と、ロール本体部131の両端部に形成されたロール軸部132と、ロール本体部131の基材表面に形成された保護層133とを備える。ロール軸部132は、図示しない軸受部に回転可能に支持されている。ロール軸部132を回転軸として、シンクロール13を矢印方向(
図1参照)に回転させることにより、鋼板Aを金属浴12の内外で搬送することができる。
【0020】
保護層133は、アンダーコート層133a、トップコート層133b及び摩擦低減層133cを含む。ここで、アンダーコート層133aの上に形成されたトップコート層133bには、シンクロール13を金属浴12に浸漬した際に、熱膨張して割れが発生する。したがって、この割れを介して、金属浴12中の溶融金属がアンダーコート層133aに達するため、アンダーコート層133aには溶融アルミニウム対する耐侵食性及び高温耐酸化性が求められる。
【0021】
(アンダーコート層133aについて)
アンダーコート層133aはサーメット溶射皮膜であり、第1の硼化物と、第2の硼化物と、Co基合金とから構成される。第1の硼化物にはWB,WCoB,W
2CoB
2からなるW硼化物が用いられる。このW硼化物には、W,Cr,BからなるW硼化物が含まれていてもよい。第2の硼化物にはCr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物のうち少なくとも1種が用いられる。少なくとも1種であるから、Cr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物のうち1種を用いて第2の硼化物を構成してもよい。また、Cr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物のうち2種を用いて第2の硼化物を構成してもよい。さらに、Cr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物の3種を用いて第2の硼化物を構成してもよい。これらの中で、W硼化物、Zr硼化物及びCo基合金からなる第1の溶射皮膜が特に好適である。
【0022】
本発明者は、第1の硼化物及び第2の硼化物を所定の比率で第1の溶射皮膜に含有させることにより、基材に対する溶融アルミニウムの侵食を防止しながら、高温耐酸化性が得られることを発見した。つまり、溶融アルミニウムに対する耐侵食性及び高温耐酸化性が顕著に高められることを発見した。ここで、高温耐酸化性には、アンダーコート層133a自体の耐酸化性はもちろんのこと、素材の耐酸化性も含まれる。つまり、第1の硼化物及び第2の硼化物を所定の比率で第1の溶射皮膜に含有させることにより、アンダーコート層133a及び素材双方の高温耐酸化性を飛躍的に高めることができる。
【0023】
所定の比率について説明する。第1の溶射皮膜を100質量%としたとき、第1の硼化物は55質量%以上75質量%以下であり、第2の硼化物は5質量%以上15質量%以下である。好ましくは、第1の硼化物は64質量%以上70質量%以下であり、第2の硼化物は7質量以上12質量%以下である。溶射皮膜に、溶射後の急冷により上記第1硼化物及び第2硼化物の何れかのアモルファス 非結晶相が含まれる場合もある。
【0024】
第1の硼化物の含有量が55質量%未満に低下すると、高温耐酸化性及び耐溶融アルミニウム侵食性が不十分となる。第1の硼化物の含有量が75質量%超になると、溶射皮膜中のB含有量が5.0%未満になる可能性があり、溶射皮膜の耐溶融アルミニウム侵食性及び高温耐酸化性が不十分になるおそれがある。すなわち、第1の硼化物の含有量が75質量%超になると、溶射皮膜がWリッチな皮膜になり、Bの含有量が低下するため、溶射皮膜の耐溶融アルミニウム侵食性が不十分になるおそれがある。
【0025】
第2の硼化物の含有量が5質量%未満に低下すると、溶射皮膜中のB含有量が5.0%未満になる可能性があり、溶射皮膜の耐溶融アルミ侵食性及び高温耐酸化性が不十分になるおそれがある。第2の硼化物の含有量が15質量%超になると、溶射皮膜中のB含有量が7.0質量%超になる可能性があり、高温の溶融金属中で長期間使用すると溶射皮膜に過剰な硼化物が生成され、溶射皮膜の硬度が異常増加し靭性が低下し、その結果、溶射皮膜に割れが発生しやすくなり、溶融アルミニウムの浸入による素材の溶損や溶射皮膜の剥離が発生するおそれがある。また、溶射皮膜に割れが発生すると、空気に触れる面積が増加するため、結果的に高温耐酸化性が不十分になるおそれがある。
【0026】
本発明者等は、第2の硼化物だけで形成されたアンダーコート層133aについて、溶融アルミニウム耐侵食性及び高温耐酸化性を評価したが、良好な結果を得ることができなかった。つまり、第1の硼化物と第2の硼化物とを組み合わせたアンダーコート層133aでなければ、優れた溶融アルミニウム耐侵食性及び高温耐酸化性が得られないことを発見した。この点については、後述する実施例で明らかにする。
【0027】
Co基合金には、例えば、Cr:15質量%以上35質量%以下,W:10質量%以下,Fe:7質量%以下,C:2質量%未満,Ni:5質量%未満,残部がCoからなる合金を用いることができる。
【0028】
ここで、Co基合金にNiが5質量%以上を含まれていると、溶融アルミニウムにNiが溶解、言い換えると、バインダー金属としてのCo基合金が溶融アルミニウムに溶解して、耐摩耗性に優れたトップコート層133bが基材から脱落するおそれがある。したがって、Co基合金には、Niが5質量%以上含まれていてはならない。
【0029】
アンダーコート層133aは、例えば、WBと、CrB
2,ZrB
2,TiB
2のうち少なくとも1種と、Co基合金とを含む溶射材料を溶射することにより形成することができる。Co基合金には、W,Feのうち少なくとも一種と、CrとからなるCo基合金を用いることができる。Co基合金には、Niが含まれていてもよいが、5質量%未満であることが必要である。上述の溶射材料の配合比を適宜の値に設定して、高速フレーム溶射法(high velocity oxy-fuel:HVOF)によりロール本体部131の基材表面に溶射することにより、アンダーコート層133aを形成することができる。高速フレーム溶射法は、高圧の酸素と炭化水素系燃料ガスなどの燃焼炎を利用したフレーム溶射法の一種であり、燃焼室の圧力を高めることにより、爆発溶射法に匹敵する高速火炎を発生させることができる。高速フレーム溶射法によって溶射することにより、アンダーコート層133aの皮膜構造を緻密化することができる。これにより、溶射皮膜における貫通気孔が極めて少なくなり、溶融金属が溶射皮膜に浸透することを抑制できる。
【0030】
なお、溶射時の熱を受熱することにより、WBの一部はCo基合金に含まれるCoと反応して、WCoB及びW
2CoB
2を形成する。また、少量であるが、W,Cr,BからなるW硼化物が生成されることもある。CrB
2は、溶射時の熱を受熱することにより、一部がCrBに変わる。ZrB
2は、溶射時の熱を受熱することにより、一部がZrBに変化する。TiB
2は、溶射時の熱を受熱することにより、一部がTiBに変化する。つまり、CrB
2が溶射された場合、アンダーコート層133aには、CrB及びCrB
2が含まれる。ZrB
2が溶射された場合、アンダーコート層133aには、ZrB及びZrB
2が含まれる。TiB
2が溶射された場合、アンダーコート層133aには、TiB及びTiB
2が含まれる。
【0031】
(トップコート層133bについて)
アンダーコート層133aは、耐摩耗性が不十分であるため、長期間の通板によって摩耗が発生する。そこで、アンダーコート層133aの上に耐摩耗性に優れたトップコート層133bが形成される。
【0032】
トップコート層133bを形成する溶射皮膜は、ZrO
2及びY
2O
3を少なくとも含むセラミック溶射皮膜である。このセラミック溶射皮膜は、溶融アルミニウムに対する耐腐食性に優れており、高温での硬度低下が低く、溶融アルミニウム環境下に長期間晒されても、摩耗が生じにくい。ここで、セラミック溶射皮膜の全体を100質量%としたとき、Y
2O
3の好ましい含有量は、6質量%以上12質量%以下である。上記組成範囲であれば、破壊靭性が高いため、溶融アルミニウムに浸漬する際の急過熱急冷による熱衝撃に耐えることができる。
【0033】
ここで、溶融アルミニウムと反応しにくいセラミックス粒子(言い換えると、ZrO
2と同等以上の熱力学的特性を有するセラミックス粒子)を添加することもできる。具体的には、セラミックス粒子として、CaO,Al
2O
3,SiO
2及びMgOのうち少なくとも1種を用いることができる。
【0034】
トップコート層133bは、例えばZrO
2及びY
2O
3を含む溶射パウダーをプラズマ溶射法によりアンダーコート層133aの上に溶射することにより、形成することができる。なお、溶射パウダーに、上述のセラミック粒子を含有させてもよい。プラズマ溶射法は、一対の電極間に不活性ガスを流しながら放電したときに発生する高温・高速のプラズマを溶射の熱源として用いる方法である。一般には、作動ガスにはアルゴンが用いられ、電極には水冷されたノズル状の銅製陽極とタングステン製陰極が用いられる。電極間にアークを発生させると作動ガスがアークによってプラズマ化され、ノズルから高温高速のプラズマジェットが噴出する。このプラズマジェットに溶射パウダーを投入し、加熱加速させることにより、溶射パウダーをアンダーコート層133aに衝突させ、トップコート層133bを形成することができる。プラズマ溶射法によれば、ZrO
2系などの高融点溶射材料であっても、成膜させることができる。
【0035】
(摩擦低減層133cについて)
セラミック溶射皮膜は、融点が高く、プラズマ溶射により成膜するため、溶射皮膜に気孔や割れが発生し易くなる。このため、セラミック溶射皮膜に溶融アルミニウムが浸透して貫通し易くなる等の問題がある。また、鋼板Aの通板速度とシンクロール13の回転速度との差速により、セラミック溶射皮膜に加わる摩擦が大きくなるため、セラミック溶射皮膜に損傷、肌荒れなどの問題が起こり易くなる。
【0036】
上述の問題を回避するために、トップコート層133bの上に摩擦低減層133cが形成される。摩擦低減層133cは、BNと、室温〜800℃の温度条件下で溶融アルミニウムと反応し難い所定の酸化物とを含む。所定の酸化物には、例えば、TiO
2、ZrO
2、SiO
2、MgO及びCaOの1種以上を用いることができる。摩擦低減層133cを100質量%としたとき、BNの含有量は20質量以上である。BNの上限値は特に規定しないが、好ましくは50質量%である。BNが50質量%を超過すると、摩擦低減層133cの耐久性が低下するおそれがある。BNを含む摩擦低減材を用いることにより、セラミック溶射皮膜の表面に滑り潤滑性を備えた摩擦低減層133cを形成することができる。
【0037】
これにより、セラミック溶射皮膜に加わる摩擦力が軽減され、セラミック溶射皮膜の損傷、肌荒れなどを抑制することができる。なお、上述の摩擦低減材を含有する水をトップコート層133bに塗布して、焼成することにより、上述の摩擦低減層133cを形成することができる。
【0038】
ここで、本発明者は、TiN、ZrN、VN等の他の窒化物を摩擦低減材に用いることも検討したが、BNでなければ優れた高温潤滑性が得られないことを発見した。つまり、本発明者は、BNを20質量%以上含む摩擦低減材を用いて摩擦低減層133cを形成することにより、セラミックス溶射皮膜に加わる摩擦力がより効果的に低減されることを発見した。具体的には、鋼板Aの搬送速度がロールの搬送速度の2倍に達しても、ロールを長期間使用できることを発見した。なお、シンクロール13は、一般的に鋼板Aの搬送速度(つまり、ライン速度)よりも低速に制御されている。
【0039】
ここで、摩擦低減材は、クロム(たとえば、無水クロム酸、クロム酸アンモン、重クロム酸アンモン)を原料中に含まないことが好ましい。クロムを原料に含めると、焼成後に摩擦低減材の一部が酸化クロムになる。この酸化クロムは、酸化アルミニウムよりも熱力学的に不安定であり、金属浴中の溶融アルミニウムによって還元され易い。
【0040】
CaOは、Al
2O
3より熱力学的に安定しており、BNとともに使用すると摩擦低減層133cの耐久性がより長くなる。
【0041】
上述の実施形態では、シンクロール13の保護層133について説明したが、本発明の保護層133は、サポートロール14にも適用することができる。ここで、サポートロール14は、鋼板Aの搬送時に発生する振動による影響を吸収するために、鋼板Aのライン速度よりも低速に速度制御されている。具体的には、サポートロール14の場合、シンクロール13よりも回転速度が低速に速度制御されているため、速度差による摩耗問題が、より顕著となる。したがって、本願発明は、サポートロール14に対してより好適に用いることができる。
【0042】
次に、実施例を示して本発明についてより具体的に説明する。
(実施例1)
アンダーコート層の耐溶融アルミニウム侵食性を確認するために、以下の耐溶融アルミニウム侵食実験及び高温耐酸化性試験を行った。Fe基に溶射皮膜を成膜した丸棒溶射サンプルを準備して、これを金属浴に48(hour)浸漬した後、引き揚げ、丸棒溶射サンプルの外観と断面組織を観察した。金属浴の浴成分は100%アルミニウムとし、浴温度は700(℃)に設定した。
【0043】
アルミニウムの侵食が殆ど確認されなかった場合(例えば、
図4参照)には、耐溶融アルミニウム侵食性が極めて良好として、「very good」で評価した。アルミニウムの侵食が僅かに確認された場合には、耐溶融アルミニウム侵食性が概ね良好として、「good」で評価した。アルミニウムの侵食が多く確認された場合(例えば、
図5参照)には、耐溶融アルミニウム侵食性が不良として、「poor」で評価した。
【0044】
高温耐酸化性試験では、溶射皮膜が成膜されたテストピースを作成し、これを熱重量測定装置(TG)で加熱して重量変化に関する情報を取得することにより、大気中における600℃までの耐酸化性能を評価した。600℃とした理由は、シンクロールが金属浴12に浸漬する前に予熱され、この予熱温度の最高温度が約600℃だからである。
【0045】
耐溶融アルミニウム侵食性及び耐高温酸化性の評価結果を表1及び表2に示す。なお、Co基合金には、Cr:35質量%,W:5質量%,Fe:2質量%,C:2質量%未満,残部がCoからなる合金1、Cr:25質量%,W:10質量%,Fe:1.5質量%,C:2質量%未満,Ni:1.0質量%,残部がCoからなる合金2、Cr:20質量%,W:5質量%,C:1.0質量%,Ni:2.0質量%,残部がCoからなる合金3、Cr:15質量%,Fe:7質量%,C:1.3質量%,Ni:3.0質量%,残部がCoからなる合金4のいずれかを使用した。
【表1】
【表2】
上述の試験結果から、第1の硼化物の含有量が55質量%以上75質量%以下、第2の硼化物の含有量が5質量%以上15質量%以下のアンダーコート層を形成することにより、溶融アルミニウムに対する耐侵食性及び耐高温酸化性が兼備されることがわかった。特に、第1の硼化物の含有量が64質量%以上70質量%以下、第2の硼化物の含有量が7質量%以上12質量%以下であれば、上述の効果が顕著に高くなることがわかった。また、試料No.1〜6の結果から、W硼化物とZr硼化物との組み合わせが特に優れていることがわかった。一方、第2の硼化物のみを組み合わせた溶射皮膜は、本願発明の溶射皮膜よりも、溶融アルミニウムに対する耐侵食性及び耐高温酸化性が共に低くなることがわかった。なお、第1の硼化物(W硼化物)は、WB,WCoB,W
2CoB
2からなり、表1にはこれらの硼化物の総和含有量を記載している。また、Cr硼化物の含有量としてCrB及びCrB
2の総和含有量を記載しており、Zr硼化物の含有量としてZrB及びZrB
2の総和含有量を記載しており、Cr硼化物の含有量としてCrB及びCrB
2の総和含有量を記載している。
【0046】
(実施例2)
表1の試料No23〜25のCo基合金を、Cr:15質量%,Fe:7質量%、C:1.0質量%,Ni:5.5質量%,残部がCoからなるCo基合金5(つまり、Niが多いCo基合金)に変更して、上記と同様に溶融アルミニウムに対する耐侵食性を調査した。溶融アルミニウムは、実施例1と同様のものを使用した。その結果を表3に示す。
【表3】
上述の試験結果から、Co基合金に含まれるNiの含有量が5質量%を超過すると、溶射皮膜が溶融アルミニウムによって浸食されることがわかった。
【0047】
(実施例3)
トップコート層の耐摩耗性は
図6の摩耗試験装置により確認した。同図において、101は二段に折れ曲がった摺動軸であり、摺動軸101の末端部に、板状に延びる評価材102を取り付けた。評価材102の基材には、SUS304を使用した。評価材102の基材表面にアンダーコート層及びトップコート層を形成した。アンダーコート層は、実施例1の試料No23の溶射皮膜によって構成した。評価材102に対して支持部材105に支持された相手材103を所定の荷重で押し付けながら、摺動軸101を矢印で示す水平方向に48(hour)往復移動させた。押し付け荷重は5.0(kgf)に設定した。摺動軸101のすべり速度は、50(mm/s)に設定した。相手材103は、SUS304により構成した。
【0048】
トップコート層の組成を種々変更して、それぞれについて上述の実機評価を実施した。試験後に各評価材102を切断して、切断面の断面組織を観察し、トップコート層の膜厚変化を確認した。試験前のトップコート層の厚みを100%とし、試験後の厚み減少割合が50%以上の場合には、耐摩耗性が低いとして「poor」で評価し、試験後の厚み減少割合が50%未満の場合には、耐摩耗性が高いとして「good」で評価した。試験結果を表4に示す。
【表4】
なお、本実施例では、Y
2O
3が所望の数値範囲を外れると、耐摩耗性の評価が「poor」に低下したが、本発明では、トップコート層の上に耐摩耗性に優れた摩擦低減層が形成されているため、試料No39、40のように耐摩耗性が相対的に低いトップコート層であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0049】
(実施例4)
上述の試料No35〜40をそれぞれ金属浴に浸漬させて、トップコート層の耐溶融アルミニウム腐食性について確認した。金属浴の浴成分はアルミニウム100質量%とし、浴温度を700(℃)、浸漬時間を48(hour)に設定した。浸漬試験後に外観観察を実施し、トップコート層に溶損が認められるか、或いはトップコート層に亀裂が発生し、この亀裂から侵入した溶融アルミニウムによって基材に溶損が認められた場合には、耐溶融アルミニウム腐食性が低いとして「poor」で評価した。上述の溶損が認められなかった場合には、耐溶融アルミニウム腐食性が高いとして「good」で評価した。
【表5】
なお、本実施例では、Y
2O
3が所望の数値範囲を外れると、耐腐食性の評価が「poor」に低下したが、本発明では、トップコート層の上に摩擦低減層が形成されているため、試料No39、40のように耐腐食性が相対的に低いトップコート層であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0050】
(実施例5)
摩擦低減層の摩擦低減効果を
図7の摩耗試験装置により確認した。
図6の摩耗試験装置と機能が共通する要素には、同一符号を付している。同図において、104は金属浴であり、金属浴104の中に二段に折れ曲がった摺動軸101を配置した。摺動軸101の末端部に板状に延びる評価材102を取り付けた。金属浴104中の評価材102に対して支持部材105に支持された相手材103を所定の荷重で押し付けながら、摺動軸101を矢印で示す水平方向に48(hour)往復移動させた。金属浴104の浴成分はアルミニウム100質量%とし、浴温度は700(℃)に設定した。押し付け荷重は5.0(kgf)に設定した。摺動軸101のすべり速度は、50(mm/s)に設定した。相手材104は、SUS304により構成した。
【0051】
評価材103の表面に、アンダーコート層及びトップコート層を形成し、トップコート層の上に摩擦低減層を形成した。アンダーコート層は、実施例1の試料No23の溶射皮膜により形成した。トップコート層は、実施例3の試料No35の溶射皮膜により形成した。摩擦低減層の組成を種々変化させ、それぞれについて耐摩耗性試験を実施した。摩耗試験後に各評価材103を切断し、切断面を観察した。試験前のトップコート層の厚みを100%として、試験後の厚み減少割合が20%以上の場合には、耐摩耗性が不良として「poor」で評価し、試験後の厚み減少割合が20%未満の場合には、耐摩耗性が良好として「good」で評価した。トップコート層の厚み変化がなく、かつ、摩擦低減層が残る場合には、耐摩耗性が大変良好として「very good」で評価した。
【表6】
上述の結果から、窒化物の中でBNが特に高温耐摩耗性に優れていることがわかった。また、優れた高温耐摩耗性を発現させるためには、摩擦低減層の中にBNを20質量%以上含有させる必要があることがわかった。特に、摩擦低減層をBN及びCaOによって形成することにより、耐摩耗性が飛躍的に高まることがわかった。
を少なくとも含む第1の硼化物と、Cr,Zr及びTiの硼化物のうち少なくとも1種からなる第2の硼化物とを含み、残部がニッケルを5質量%以上含まないコバルト基合金からなるサーメット溶射皮膜により形成されたアンダーコート層と、アンダーコート層の表面に形成されるトップコート層であって、ZrO