(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配向方向を設計する工程では、計測された前記磁束密度分布の基本波の形状が、より正弦波形状に近づくように前記極異方性リング磁石の磁化容易軸の配向方向を設計することを特徴とする請求項1に記載の永久磁石の製造方法。
前記磁場配向する工程では、前記混合物に対して磁場を印加するとともに、磁場の印加された前記混合物を前記成形体へと変形することによって磁化容易軸の方向を操作して、前記成形体に対する磁場配向を行い、
前記混合物に対して磁場を印加する方向又は前記混合物の変形態様を制御することによって、前記設計された配向方向に磁化容易軸を配向させることを特徴とする請求項3に記載の永久磁石の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る永久磁石及び永久磁石の製造方法について具体化した一実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0038】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。
図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、
図1に示すように本発明に係る永久磁石1は円環形状を有する極異方性リング磁石である。そして、
図2に示すように表面磁石型の発電機(又はモータ)のロータ2の表面に複数配置され、表面磁石型の発電機(又はモータ)を構成する。尚、以下の実施例では永久磁石1を極異方性リング磁石とした例について説明するが、永久磁石1の形状(例えば径の大きさ)や極数等については後述のように永久磁石の成形態様、配向態様によって適宜変更可能である。
【0039】
また、本発明に係る永久磁石1はNd−Fe−B系磁石からなる。尚、各成分の含有量はNd:27〜40wt%、B:0.8〜2wt%、Fe(電解鉄):60〜70wt%とする。また、磁気特性向上の為、Dy、Tb、Co、Cu、Al、Si、Ga、Nb、V、Pr、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Ag、Bi、Zn、Mg等の他元素を少量含んでも良い。
【0040】
また、
図1に示すように永久磁石1は複数の扇型形状(セグメント型)の焼結部材3が円環状に組み合わされた後に互いに樹脂等からなる粘着剤(例えば樹脂と溶媒の混合物)によって接合され、その後、着磁されることによって構成されている。尚、焼結部材3の接合は、粘着剤以外に可塑剤、熱圧着により行うことも可能である。また、焼結部材3の数は永久磁石1の極数に応じた数となり、例えば永久磁石1の極数を8極とする場合には、
図1に示すように8個の焼結部材2から構成される。
【0041】
更に、永久磁石1を構成する各焼結部材3は、後述のように磁石粉末とバインダーを混合した混合物を成形した成形体(グリーン体)によって形成される。尚、混合物を一旦最終製品形状以外に成形し、その後に打ち抜き加工、切削加工、変形加工等を行うことによって最終製品形状とする構成としても良い。また、特に混合物を一旦シート形状とした後に最終製品形状に加工する構成とすれば連続工程で生産することによって生産性を向上でき、また、成形の精度についても向上させることができる。混合物をシート形状とする場合には、例えば0.05mm〜10mm(例えば1mm)の厚さを備えた薄膜状のシート部材とする。尚、シート形状とした場合であっても、複数枚積層することとすれば、大型の永久磁石1を製造することも可能である。
【0042】
また、本発明に係る永久磁石1は異方性磁石であり、
図3に示すように永久磁石1を構成する各焼結部材3は、磁石表面を通過する集束軸Pに沿った一方向(
図3では凸面方向)へと磁化容易軸(C軸)が集束するように配向されている。その結果、焼結部材3を組み合わせたリング形状の永久磁石1の配向は、後述のように極異方性を有することとなる。
【0043】
尚、
図3に示す例では集束軸Pは、焼結部材3の中央付近を通過するように設定しているが、中央付近ではなく右側寄り又は左側寄りに設定しても良い。また、永久磁石1がロータ2に配置された場合には、
図3に示すようにロータ2の周方向に沿って両端側から中心側へと、外周方向側に磁化容易軸(C軸)が傾斜するように配向される。より具体的には、磁化容易軸が指数曲線に沿って形成されることとなる。その結果、永久磁石1がロータ2に配置され且つ着磁された場合に、ロータ2の中心方向から外周方向へと磁石内部の磁束が集中する(即ち、磁石表面の磁束密度が高くなる)こととなる。また、特に本発明では、後述のように永久磁石1の外周表面の周方向における磁束密度分布を実測又は電磁界解析により計測し、計測された磁束密度分布の形状に基づいて、永久磁石1の磁化容易軸の配向方向を設計する。具体的には、磁束密度分布の形状(具体的には縦軸を計測された磁束密度の値、横軸をリング中央を中心として周方向に移動させた場合の角度で規定した際に描かれる波形形状)について高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となる理想的な正弦波形状に近づくように永久磁石1の磁化容易軸の配向方向を設計するように構成する。
【0044】
また、
図4に示すように、磁化容易軸が直線状に集束軸Pに沿った一方向へ集束するように配向しても良い。その場合であっても、焼結部材3を組み合わせた永久磁石1の配向は極異方性を有することとなる。
【0045】
また、本発明に係る永久磁石1では、後述のように磁石粉末とバインダーを混合した混合物に対して磁場を印加して配向するので、圧粉成形のように配向後に付加された圧力によって磁石粒子が回動することがなく、配向度を向上させることが可能である。また、PLP法のように磁石粉末の密度分布にばらつきが生じることがないので、ニアネットシェイプ性が向上する。更に、最終的な製品形状(例えば
図1に示す扇型形状)への成形前の混合物に対して磁場を印加して一旦配向を行った後に、混合物の磁化容易軸の方向を考慮して混合物を成形(例えば変形加工)し、最終製品形状へと成形することとすれば、最終製品形状への成形過程において磁化容易軸の方向を操作することができる。即ち、製造者の意図する方向へ磁化容易軸を適切に配向させることが可能となる。その結果、複雑な方向へと磁化容易軸を配向した永久磁石(例えば
図3に示すような磁化容易軸を特定方向に集束させるように配向した極異方性リング磁石)を容易且つ精度良く実現することが可能となる。
【0046】
尚、永久磁石1に対する磁場配向では、上述したように最終的な製品形状(例えば
図1に示す扇型形状)への成形前の混合物に対して磁場を印加して一旦配向を行った後に、その後に成形を行うことによって成形体に対する磁場配向を行う構成としても良いし、最終的な製品形状へと成形した後に磁場を印加して配向を行っても良い。
【0047】
そして、特に
図3や
図4に示すように磁化容易軸が配向された焼結部材3を円環状に接合した永久磁石1は、
図5に示すような極異方配向を実現することが可能となる。それによって、正弦波的な磁束密度分布を得ることが可能である。更に、ロータ2とステータの間のエアギャップにおける磁束密度分布の形状についても正弦波形状とすることが可能となる。特に本発明では永久磁石1の外周表面の周方向における磁束密度分布を実測又は電磁界解析により計測し、計測された磁束密度分布の形状に基づいて、永久磁石1の磁化容易軸の配向方向を設計するので、高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となる理想的な正弦波形状に近づけることが可能となる。そして、極異方配向を有する永久磁石を備えた回転電機では、回転電機のトルクや発電量を向上させ、更に、トルクリップルを制限させ、回転電機の駆動制御を正確に行うことができるメリットがある。また、永久磁石1の外周表面の周方向における磁束密度分布(即ち、回転電機のエアギャップにおける磁束密度分布)の波形を理想的な正弦波形状に近づけることによって、トルクリップルをより減少させ、回転電機の静音化や低振動化を実現することが可能となる。
【0048】
また、本発明では特に永久磁石1を製造する場合において、磁石粉末に混合されるバインダーは、樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸エステルやそれらの混合物等が用いられる。
更に、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を所望形状(例えば扇型形状)に成形する際に生じた混合物の残余物を再利用する為に、熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には以下の一般式(1)に示されるモノマーから選ばれる1種又は2種以上の重合体又は共重合体からなるポリマーが該当する。
【化1】
(但し、R1及びR2は、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はビニル基を表す)
【0049】
上記条件に該当するポリマーとしては、例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、2−メチル−1−ペンテンの重合体である2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテンの重合体である2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレンの重合体であるα−メチルスチレン重合樹脂等がある。尚、α−メチルスチレン重合樹脂は柔軟性を与えるために低分子量のポリイソブチレンを添加することが望ましい。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。更に、上記一般式(1)に該当しないモノマーが一部共重合していても良い。その場合であっても、本願発明の目的を達成することが可能である。
尚、バインダーに用いる樹脂としては、磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は融点が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
【0050】
一方、バインダーに長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。具体的には炭素数が18以上である長鎖飽和炭化水素を用いるのが好ましい。そして、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を磁場配向する際には、混合物を長鎖炭化水素のガラス転移点又は融点以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0051】
また、バインダーに脂肪酸エステルを用いる場合においても同様に、室温で固体、室温以上で液体であるステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。そして、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を磁場配向する際には、混合物を脂肪酸エステルの融点以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0052】
磁石粉末に混合されるバインダーとして上記条件を満たすバインダーを用いることによって、磁石内に含有する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする。また、焼結後に磁石に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下とする。
【0053】
また、バインダーの添加量は、スラリーや加熱溶融したコンパウンドを成形する際に成形体の厚み精度を向上させる為に、磁石粒子間の空隙を適切に充填する量とする。例えば、磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%とする。
【0054】
[永久磁石の製造方法1]
次に、本発明に係る永久磁石1の第1の製造方法について
図6を用いて説明する。
図6は本実施形態に係る永久磁石1の製造工程を示した説明図である。
【0055】
先ず、所定分率のNd−Fe−B(例えばNd:32.7wt%、Fe(電解鉄):65.96wt%、B:1.34wt%)からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石粉末10を得る。
【0056】
次いで、粗粉砕磁石粉末10をビーズミル11による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等によって微粉砕する。例えば、ビーズミル11による湿式法を用いた微粉砕では溶媒中で粗粉砕磁石粉末10を所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕するとともに溶媒中に磁石粉末を分散させる。その後、湿式粉砕後の溶媒に含まれる磁石粉末を真空乾燥などで乾燥させ、乾燥した磁石粉末を取り出す。また、粉砕に用いる溶媒の種類に特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。尚、好ましくは、溶媒中に酸素原子を含まない溶媒が用いられる。
【0057】
一方、ジェットミルによる乾式法を用いた微粉砕では、粗粉砕した磁石粉末を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、所定範囲の粒径(例えば0.7μm〜5.0μm)の平均粒径を有する微粉末とする。尚、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
【0058】
次に、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末を所望形状に成型する。尚、磁石粉末の成形には、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物を成形することにより行う。以下の実施例では、混合物を一旦最終製品形状以外に成形した状態で磁場を印加して磁場配向を行い、その後に打ち抜き加工、切削加工、変形加工等を行うことによって最終製品形状(例えば
図1に示す扇型形状)とする。特に、以下の実施例では混合物をシート形状(以下、グリーンシートという)に一旦成形した後に最終製品形状とする。また、混合物を特にシート形状に成形する場合には、例えば磁石粉末とバインダーとが混合したコンパウンドを加熱した後にシート形状に成形するホットメルト塗工や、磁石粉末とバインダーと有機溶媒とを含むスラリーを基材上に塗工することによりシート状に成形するスラリー塗工等による成形が有る。
【0059】
以下では、特にホットメルト塗工を用いたグリーンシート成形について説明する。
先ず、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末にバインダーを混合することにより、磁石粉末とバインダーからなる粉末状の混合物(コンパウンド)12を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸エステルやそれらの混合物等が用いられる。例えば、樹脂を用いる場合には構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用い、一方、長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。また、脂肪酸エステルを用いる場合には、ステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド12における磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%となる量とする。
【0060】
また、上記コンパウンド12には、後に行われる磁場配向工程での配向度を向上させる為に配向を助長する添加剤を添加しても良い。配向を助長する添加剤としては例えば炭化水素系の添加剤が用いられ、特に極性を有する(具体的には酸解離定数pKaが41未満の)添加剤を用いるのが望ましい。また、添加剤の添加量は磁石粉末の粒子径に依存し、磁石粉末の粒子径が小さい程、添加量を多くする必要がある。具体的な添加量としては、磁石粉末に対して0.1部〜10部、より好ましくは1部〜8部とする。そして、磁石粉末に添加された添加剤は、磁石粒子の表面に付着し、後述の磁場配向処理において、磁石粒子の回動を補助する役目を有する。その結果、磁場を印加した際に配向が容易に行われ、磁石粒子の磁化容易軸方向を同一方向に揃えること(即ち、配向度を高くすること)が可能となる。特に、磁石粉末にバインダーを添加する場合には、粒子表面にバインダーが存在するため、配向時の摩擦力が上がり、粒子の配向性が低下する為、添加剤を添加する効果がより大きくなる。
【0061】
尚、バインダーの添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。尚、磁石粉末とバインダーの混合は、例えば磁石粉末とバインダーをそれぞれ攪拌機に投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。また、混練性を促進する為に加熱攪拌を行っても良い。また、磁石粉末とバインダーの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粉末を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた有機溶媒から磁石粉末を取り出すことなくバインダーを有機溶媒中に添加して混練し、その後に有機溶媒を揮発させ、後述のコンパウンド12を得る構成としても良い。
【0062】
続いて、コンパウンド12をシート状に成形することによりグリーンシートを作成する。特に、ホットメルト塗工では、コンパウンド12を加熱することによりコンパウンド12を溶融し、流体状にしてからセパレータ等の支持基材13上に塗工する。その後、放熱して凝固させることにより、支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14を形成する。尚、コンパウンド12を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが50〜300℃とする。但し、用いるバインダーの融点よりも高い温度とする必要がある。尚、スラリー塗工を用いる場合には、多量の有機溶媒中に磁石粉末とバインダーを分散させ、スラリーをセパレータ等の支持基材13上に塗工する。その後、乾燥して有機溶媒を揮発させることにより、支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14を形成する。
【0063】
ここで、溶融したコンパウンド12の塗工方式は、スロットダイ方式やカレンダーロール方式等の層厚制御性に優れる方式を用いることが好ましい。特に、高い厚み精度を実現する為には、特に層厚制御性に優れた(即ち、基材の表面に高精度の厚さの層を塗工できる方式)であるダイ方式やコンマ塗工方式を用いることが望ましい。例えば、スロットダイ方式では、加熱して流体状にしたコンパウンド12をギアポンプにより押し出してダイに挿入することにより塗工を行う。また、カレンダーロール方式では、加熱した2本ロールのギャップにコンパウンド12を一定量仕込み、ロールを回転させつつ支持基材13上にロールの熱で溶融したコンパウンド12を塗工する。また、支持基材13としては、例えばシリコーン処理ポリエステルフィルムを用いる。更に、消泡剤を用いたり、加熱真空脱泡を行うこと等によって展開層中に気泡が残らないよう充分に脱泡処理することが好ましい。また、支持基材13上に塗工するのではなく、押出成型や射出成形によって溶融したコンパウンド12をシート状に成型するとともに支持基材13上に押し出すことによって、支持基材13上にグリーンシート14を成形する構成としても良い。
【0064】
また、スロットダイ方式によるグリーンシート14の形成工程では、塗工後のグリーンシート14のシート厚みを実測し、実測値に基づいてダイ15と支持基材13間のギャップDをフィードバック制御することが望ましい。また、ダイ15に供給する流体状のコンパウンド12の量の変動は極力低下させ(例えば±0.1%以下の変動に抑える)、更に塗工速度の変動についても極力低下させる(例えば±0.1%以下の変動に抑える)ことが望ましい。それによって、グリーンシート14の厚み精度を更に向上させることが可能である。尚、形成されるグリーンシート14の厚み精度は、設計値(例えば1mm)に対して±10%以内、より好ましくは±3%以内、更に好ましくは±1%以内とする。尚、他方のカレンダーロール方式では、カレンダー条件を同様に実測値に基づいて制御することで、支持基材13へのコンパウンド12の転写膜厚を制御することが可能である。
【0065】
尚、グリーンシート14の設定厚みは、0.05mm〜20mmの範囲で設定することが望ましい。厚みを0.05mmより薄くすると、多層積層しなければならないので生産性が低下することとなる。
【0066】
次に、上述したホットメルト塗工によって支持基材13上に形成されたグリーンシート14の磁場配向を行う。具体的には、先ず支持基材13とともに連続搬送されるグリーンシート14を加熱することによりグリーンシート14を軟化させる。具体的には、グリーンシート14の粘度が1〜1500Pa・s、より好ましくは1〜500Pa・sとなるまで軟化させる。それによって、磁場配向を適切に行わせることが可能となる。
【0067】
尚、グリーンシート14を加熱する際の温度及び時間は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、例えば100〜250℃で0.1〜60分とする。但し、グリーンシート14を軟化させる為に、用いるバインダーのガラス転移点又は融点以上の温度とする必要がある。また、グリーンシート14を加熱する加熱方式としては、例えばホットプレートによる加熱方式や熱媒体(シリコーンオイル)を熱源に用いた加熱方式が有る。次に、加熱により軟化したグリーンシート14の面内方向且つ長さ方向に対して磁場を印加することにより磁場配向を行う。印加する磁場の強さは5000[Oe]〜150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜120000[Oe]とする。その結果、グリーンシート14に含まれる磁石結晶のC軸(磁化容易軸)が一方向に配向される。尚、磁場を印加する方向としてはグリーンシート14の面内方向且つ幅方向に対して磁場を印加することとしても良い。また、複数枚のグリーンシート14に対して同時に磁場を配向させる構成としても良い。
【0068】
更に、グリーンシート14に磁場を印加する際には、加熱工程と同時に磁場を印加する工程を行う構成としても良いし、加熱工程を行った後であってグリーンシートが凝固する前に磁場を印加する工程を行うこととしても良い。また、ホットメルト塗工により塗工されたグリーンシート14が凝固する前に磁場配向する構成としても良い。その場合には、加熱工程は不要となる。
【0069】
次に、
図7を用いてグリーンシート14の加熱工程及び磁場配向工程についてより詳細に説明する。
図7はグリーンシート14の加熱工程及び磁場配向工程を示した模式図である。尚、
図7に示す例では、加熱工程と同時に磁場配向工程を行う例について説明する。
【0070】
図7に示すように、上述したスロットダイ方式により塗工されたグリーンシート14に対する加熱及び磁場配向は、ロールによって連続搬送された状態の長尺シート状のグリーンシート14に対して行う。即ち、加熱及び磁場配向を行う為の装置を塗工装置(ダイ等)の下流側に配置し、上述した塗工工程と連続した工程により行う。
【0071】
具体的には、ダイ15やコーティングロール22の下流側において、搬送される支持基材13及びグリーンシート14がソレノイド25内を通過するようにソレノイド25を配置する。更に、ホットプレート26をソレノイド25内においてグリーンシート14に対して上下一対に配置する。そして、上下一対に配置されたホットプレート26によりグリーンシート14を加熱するとともに、ソレノイド25に電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート14の面内方向(即ち、グリーンシート14のシート面に平行な方向)で且つ長さ方向に磁場を生じさせる。それによって、連続搬送されるグリーンシート14を加熱により軟化させるとともに、軟化したグリーンシート14の面内方向且つ長さ方向(
図8の矢印27方向)に対して磁場を印加し、グリーンシート14に対して適切に均一な磁場を配向させることが可能となる。特に、磁場を印加する方向を面内方向とすることによって、グリーンシート14の表面が逆立つことを防止できる。
また、磁場配向した後に行うグリーンシート14の放熱及び凝固は、搬送状態で行うことが好ましい。それによって、製造工程をより効率化することが可能となる。
【0072】
尚、磁場配向をグリーンシート14の面内方向且つ幅方向に対して行う場合には、ソレノイド25の代わりに搬送されるグリーンシート14の左右に一対の磁場コイルを配置するように構成する。そして、各磁場コイルに電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート14の面内方向で且つ幅方向に磁場を生じさせることが可能となる。
【0073】
また、磁場配向をグリーンシート14の面に対して垂直方向とすることも可能である。磁場配向をグリーンシート14の面に対して垂直方向に対して行う場合には、例えばポールピース等を用いた磁場印加装置により行う。尚、磁場配向方向をグリーンシート14の面に対して垂直方向とする場合には、グリーンシート14に対して支持基材13が積層された反対側の面にもフィルムを積層することが好ましい。それによって、グリーンシート14の表面の逆立ちを防止することが可能となる。
【0074】
また、上述したホットプレート26による加熱方式の代わりに熱媒体(シリコーンオイル)を熱源とした加熱方式を用いても良い。
【0075】
ここで、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等によりスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート14を成形した場合には、磁場の勾配が生じているところにグリーンシート14が搬入されると、磁場が強い方にグリーンシート14に含まれる磁石粉末が引き寄せられることとなり、グリーンシート14を形成するスラリーの液寄り、即ち、グリーンシート14の厚みの偏りが生じる虞がある。それに対して、本発明のようにコンパウンド12をホットメルト成形によりグリーンシート14に成形する場合には、室温付近での粘度は数万〜数十万Pa・sに達し、磁場勾配通過時の磁性粉末の寄りが生じることが無い。更に、均一磁場中に搬送され、加熱されることでバインダーの粘度低下が生じ、均一磁場中の回転トルクのみで、一様なC軸配向が可能となる。
【0076】
また、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等により有機溶媒を含むスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート14を成形した場合には、厚さ1mmを越えるシートを作成しようとすると乾燥時においてスラリー等に含まれる有機溶媒が気化することによる発泡が課題となる。更に、発泡を抑制する為に乾燥時間を長時間化すれば、磁石粉末の沈降が生じ、それに伴って重力方向に対する磁石粉末の密度分布の偏りが生じ、焼成後の反りの原因となる。従って、スラリーからの成形では、厚みの上限値が実質上規制される為、1mm以下の厚みでグリーンシートを成形し、その後に積層する必要がある。しかし、その場合にはバインダー同士の絡まり合いが乏しくなり、その後の脱バインダー工程(仮焼処理)で層間剥離を生じ、それがC軸(磁化容易軸)配向性の低下、即ち残留磁束密度(Br)の低下原因となる。それに対して、本発明のようにコンパウンド12をホットメルト成形によりグリーンシート14に成形する場合には、有機溶媒を含まないので、厚さ1mmを越えるシートを作成した場合でも上述したような発泡の懸念が解消する。そして、バインダーが十分に絡まり合った状態にあるので、脱バインダー工程での層間剥離が生じる虞が無い。
【0077】
また、複数枚のグリーンシート14に対して同時に磁場を印加させる場合には、例えばグリーンシート14を複数枚(例えば6枚)積層した状態で連続搬送し、積層したグリーンシート14がソレノイド25内を通過するように構成する。それによって生産性を向上させることが可能となる。
【0078】
そして、
図7に示す方法によりグリーンシート14の磁場配向を行った後に、グリーンシート14に荷重をかけてグリーンシート14を変形させ、最終製品形状へと成形する。尚、上記変形によって、最終的な製品で要求される磁化容易軸の方向となるように磁化容易軸の方向を変位させる。それによって、
図3に示すように集束軸Pに沿った方向へと磁化容易軸が集束するように磁化容易軸の方向を操作することが可能となる。尚、グリーンシート14は変形させる前に、最終製品形状と最終製品で要求される磁化容易軸の方向を考慮した形状(即ち、変形させることによって最終製品形状した場合に最終製品で要求される磁化容易軸の方向が実現できる形状)に予め打ち抜き、その後に変形させる。
また、大きな形状の磁石を製造する場合には、同形状に変形させた複数枚のグリーンシート14を積層し、樹脂などで互いに固定することにより成形しても良い。例えば、
図3に示すように集束軸Pに沿った一方向へ磁化容易軸(C軸)が集束するように配向した永久磁石1を製造する場合には、
図8に示すように面内方向に磁場配向されたグリーンシート14を厚み方向の断面が円弧形状となるように湾曲させ、積層する。その結果、
図3に示すような配向を実現することが可能となる。尚、グリーンシート14を変形した後に積層しても良いし、積層した後に変形させても良い。
【0079】
また、以下の方法により磁場配向及び成形体への成形を行っても良い。
先ず、円筒形状を有する型の周囲に、適度な長さに切断した磁場配向を行う前のシート状のグリーンシート14を巻き付ける。そして、型に巻き付けた状態のグリーンシート14に対して、グリーンシート14の面に対向する一方向から磁場を印加する。その結果、グリーンシート14に含まれる各磁石粒子の磁化容易軸が、磁場の印加方向に沿って平行に配向される。その後、グリーンシート14に対して荷重をかけて変形させることにより最終製品形状へと成形するとともに、該変形によって集束軸Pに沿った一方向へ磁化容易軸が集束するように磁化容易軸の方向を補正する。例えば、
図3に示すような扇型形状を最終的な製品形状とする場合には、型に沿って湾曲状態となっているグリーンシート14を直線状にするとともに、幅方向の左右から荷重をかけて扇型形状とする。その結果、グリーンシート14の変形に伴ってグリーンシート14の磁化容易軸の方向も補正され、
図3に示すような配向を実現することが可能となる。尚、グリーンシート14は1枚のみを変形させても良いし、複数枚積層させた状態で変形させても良い。
また、荷重をかけて変形させる前のグリーンシート14の形状は円筒形状以外の形状であっても良い。例えば、弓型形状、扇型形状、直方体形状であっても良い。更に、
図9に示す方法で面内方向に磁場配向されたグリーンシート14を、弓型形状等に打ち抜いた後に、打ち抜いたグリーンシート14に荷重をかけて最終製品形状へと変形させるように構成しても良い。
【0080】
また、最終的な製品形状に対応する成形体を成形した後に、成形体に磁場を印加して磁場配向を行う構成としても良い。例えば、ソレノイドコイルの一方の開口を成形体に対向して隣接して配置し、ソレノイドコイルに電流を流すことによって形成される磁場を成形体に印加する。尚、ソレノイドコイルの開口付近では、磁力線が左右方向に拡散する磁場が形成される。従って、成形体は、
図3に示すように集束軸Pに沿った一方向へ磁化容易軸(C軸)が集束するように配向される。また、ソレノイドコイルの代わりに、永久磁石や電磁石を用いて配向しても良い。更に、混合物をリング形状に成形した後に、成形体に磁場を印加して磁場配向を行う構成としても良い。
【0081】
また、特に本発明では、後述のように作成した永久磁石1の外周表面の周方向における磁束密度分布を実測又は電磁界解析により計測し、計測された磁束密度分布の形状に基づいて、永久磁石1の磁化容易軸の配向方向を設計する。具体的には、磁束密度分布の形状について高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となる理想的な正弦波形状に近づくように永久磁石1の磁化容易軸の配向方向を設計するように構成する。そして、設計された配向方向に磁化容易軸を配向させるように、上述した“磁石粉末とバインダーとの混合物(例えばグリーンシート14)や成形体に対して磁場を印加する方向の制御”や“配向後の混合物(例えばグリーンシート14)を変形させて成形体へと成形する工程における変形態様の制御”、又は両者の組合せを実施する。その結果、永久磁石の配向設計が複雑であっても、設計された方向へ磁化容易軸を適切に配向させることが可能となる。
【0082】
続いて、成形並びに磁場配向された成形体30を大気圧、又は大気圧より高い圧力や低い圧力(例えば、1.0Paや1.0MPa)に加圧した非酸化性雰囲気(特に本発明では水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)においてバインダー分解温度で数時間〜数十時間(例えば5時間)保持することにより仮焼処理を行う。水素雰囲気下で行う場合には、例えば仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。仮焼処理を行うことによって、バインダー等の有機化合物を解重合反応等によりモノマーに分解し飛散させて除去することが可能となる。即ち、成形体30中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われることとなる。また、仮焼処理は、成形体30中の炭素量が2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で成形体30の全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。また、上述した仮焼処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力で行う場合には、15MPa以下とすることが望ましい。尚、加圧条件は大気圧より高い圧力、より具体的には0.2MPa以上とすれば特に炭素量軽減の効果が期待できる。
【0083】
尚、バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定する。具体的にはバインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲が選ばれる。バインダーの種類により異なるが200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃(例えば450℃)とする。
【0084】
また、上記仮焼処理は、一般的な磁石の焼結を行う場合と比較して、昇温速度を小さくするのが好ましい。具体的には、昇温速度を2℃/min以下(例えば1.5℃/min)とする。従って、仮焼処理を行う場合には、
図9に示すように2℃/min以下の所定の昇温速度で昇温し、予め設定された設定温度(バインダー分解温度)に到達した後に、該設定温度で数時間〜数十時間保持することにより仮焼処理を行う。上記のように仮焼処理において昇温速度を小さくすることによって、成形体30中の炭素が急激に除去されず、段階的に除去されるので、焼結後の永久磁石の密度を上昇させる(即ち、永久磁石中の空隙を減少させる)ことが可能となる。そして、昇温速度を2℃/min以下とすれば、焼結後の永久磁石の密度を95%以上とすることができ、高い磁石特性が期待できる。
【0085】
また、仮焼処理によって仮焼された成形体30を続いて真空雰囲気で保持することにより脱水素処理を行っても良い。脱水素処理では、仮焼処理によって生成された成形体30中のNdH
3(活性度大)を、NdH
3(活性度大)→NdH
2(活性度小)へと段階的に変化させることによって、仮焼処理により活性化された成形体30の活性度を低下させる。それによって、仮焼処理によって仮焼された成形体30をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。また、磁石結晶の構造をNdH
2等からNd
2Fe
14B構造へと戻す効果も期待できる。
【0086】
続いて、仮焼処理によって仮焼された成形体30を焼結する焼結処理を行う。尚、成形体30の焼結方法としては、一般的な真空焼結以外に成形体30を加圧した状態で焼結する加圧焼結等も用いることが可能である。例えば、真空焼結で焼結を行う場合には、所定の昇温速度で800℃〜1080℃程度の焼成温度まで昇温し、0.1〜2時間程度保持する。この間は真空焼成となるが真空度としては5Pa以下、好ましくは10
−2Pa以下とすることが好ましい。その後冷却し、再び300℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、焼結体31が製造される。
【0087】
その後、
図10に示すように上記方法により製造された複数の焼結体31を円環状に接合する。尚、焼結体31の接合は、粘着剤、可塑剤、熱圧着により行われる。
【0088】
その後、極異方性となるようにC軸に沿って着磁を行う。その結果、極異方性リング磁石である永久磁石1を製造することが可能となる。尚、永久磁石1の着磁には、例えば着磁コイル、着磁ヨーク、コンデンサー式着磁電源装置等が用いられる。尚、永久磁石1の着磁は、回転電機のロータ2に配置した後に行う構成としても良い。
【0089】
次に、製造された永久磁石1の外周表面の周方向における磁束密度分布を計測する。尚、磁束密度分布の計測は、
図11に示すように永久磁石1の外周表面上にある計測点Oを周方向に沿って移動させ、永久磁石1の外周表面の周方向に沿った磁束密度の計測を行う。尚、計測点Oを固定し、永久磁石1を回転させることにより計測する構成としても良い。また、計測点Oの位置は、表面と接する位置でなく表面からある程度離れた位置に設定しても良い。そして、計測された磁束密度分布の形状(具体的には縦軸を計測された磁束密度の値、横軸をリング中央を中心として周方向に移動させた場合の角度で規定した際に描かれる波形形状)に基づいて、永久磁石1の磁化容易軸の配向方向をフィードバック設計する。具体的には、磁束密度分布の形状について高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となる理想的な正弦波形状に近づくように永久磁石1の磁化容易軸の配向方向をフィードバックして設計するように構成する。ここで、基本波の形状が正弦波形状であり、且つ高調波成分の振幅が基本波の振幅に対して十分に小さく(例えば10分の1以下)なれば、基本波と高調波とが合成された磁束密度分布の形状は理想的な正弦波形状に近づくこととなる。尚、高調波成分の測定は、フーリエ解析により高調波成分を取り出すことにより行う。そして、基本波の振幅と高調波成分の振幅とを比較することにより、基本波の振幅に対して高調波成分の振幅がどのように変化するかを判定する。
【0090】
尚、上記フィードバック設計では、例えば“磁石粉末とバインダーとの混合物や成形体に対して磁場を印加する方向”や“配向後の混合物から成形体への変形態様(具体的には変形の際に荷重をかける方向や変形前のグリーンシート14の打ち抜き形状)”の条件を変化させることにより、永久磁石1の磁化容易軸の配向方向を様々に変化させ、外周表面の磁束密度分布の計測を行う。そして、外周表面の磁束密度分布の形状について高調波成分の振幅が基本波の振幅に対してより小さくなり、理想的な正弦波形状に近づく磁化容易軸の配向方向を探る。
【0091】
その結果、フィードバック設計を繰り返し行うことによって、作成された永久磁石1の外周表面の周方向における磁束密度分布を、
図12に示すように理想的な正弦波形状に徐々に近づけることが可能となる。また、高調波成分の振幅を基本波の振幅に対して徐々に小さくし、最終的に1/10以下とすることが可能となる。即ち、最適な永久磁石1の配向設計が可能となる。尚、
図12は、縦軸を計測された磁束密度の値、横軸をリング中央を中心として周方向に移動させた場合の角度とした場合のフィードバック設計の工程で計測された各磁束密度分布の形状、及び磁束密度分布の形状をフーリエ解析により解析した高調波の分析結果を示した図である。
【0092】
[永久磁石の製造方法2]
次に、本発明に係る永久磁石1の第2の製造方法について説明する。
【0093】
ここで、第2の製造方法は、前述した第1の製造方法(
図6〜
図12)と基本的に同様の工程により永久磁石を製造する。但し、磁化容易軸の配向設計を行う為に永久磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布を計測する際において、第1の製造方法では実際に作成した永久磁石における磁束密度分布を実測して計測するのに対し、第2の製造方法ではマクスウェルの方程式を用いた電磁界解析によって磁束密度分布を計測(シミュレート)する点で異なる。
【0094】
より具体的には、第2の製造方法では、様々な配向方向を有する仮想の永久磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布を電磁界解析により計測する。そして、計測された磁束密度分布の形状に基づいて、永久磁石の磁化容易軸の配向方向をフィードバック設計する。具体的には、フィードバック設計を繰り返し行うことによって、
図12に示すように磁束密度分布の形状について高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となる理想的な正弦波形状に最も近づく永久磁石の磁化容易軸の配向方向を特定する。
【0095】
その後、設計された配向方向に磁化容易軸を配向させるように、永久磁石を製造する。永久磁石1の製造工程については第1の製造方法(
図6)と同様である。その際に上述した“磁石粉末とバインダーとの混合物(例えばグリーンシート14)や成形体に対して磁場を印加する方向の制御”や“配向後の混合物(例えばグリーンシート14)を変形させて成形体へと成形する工程における変形態様の制御”、又は両者の組合せを実施する。その結果、永久磁石の配向設計が複雑であっても、設計された方向へ磁化容易軸を適切に配向させることが可能となる。
【0096】
[永久磁石の製造方法3]
次に、本発明に係る永久磁石1の第3の製造方法について説明する。
【0097】
ここで、第3の製造方法は、前述した第2の製造方法と基本的に同様の工程により永久磁石を製造する。但し、第2の製造方法が、磁化容易軸の配向方向をフィードバック設計しているのに対し、第3の製造方法ではフィードバック設計を用いずに電磁界解析によって磁化容易軸の配向方向を設計する点で異なる。
【0098】
より具体的には、第3の製造方法では、永久磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布が正弦波形状となる磁化容易軸の配向方向を電磁界解析により特定(逆算)する。その結果特定された永久磁石の配向方向は、永久磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布の形状について高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となる理想的な正弦波形状に近づくように設計された配向方向となる。
【0099】
その後、設計された配向方向に磁化容易軸を配向させるように、永久磁石を製造する。永久磁石1の製造工程については第1の製造方法(
図6)と同様である。その際に上述した“磁石粉末とバインダーとの混合物(例えばグリーンシート14)や成形体に対して磁場を印加する方向の制御”や“配向後の混合物(例えばグリーンシート14)を変形させて成形体へと成形する工程における変形態様の制御”、又は両者の組合せを実施する。その結果、永久磁石の配向設計が複雑であっても、設計された方向へ磁化容易軸を適切に配向させることが可能となる。
【0100】
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、磁石原料を磁石粉末に粉砕し、粉砕された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンド12を生成する。そして、生成したコンパウンド12をシート状に成形したグリーンシート14を作製する。その後、成形したグリーンシート14に対して磁場を印加することにより磁場配向を行い、磁場配向されたグリーンシート14の磁場配向方向を考慮しつつグリーンシート14を変形させることによって最終製品形状へと成形する。その後、焼結することにより永久磁石1を製造する。また、極異方性リング磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布を、実測又は電磁界解析によって計測し、計測された磁束密度分布の形状について、高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となるように極異方性リング磁石の磁化容易軸の配向方向を設計し、設計された配向方向に磁化容易軸を配向させる。その結果、製造した極異方性リング磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布について高調波成分の振幅を基本波の振幅に比べて十分に小さくすることができるので、磁束密度分布を予め設計された理想的な形状へと近づけることが可能となる。また、製造した永久磁石を回転電機に設置した場合にエアギャップにおける磁束の変化が滑らかとなることから、トルクリップルを低減させ、回転電機の静音化や低振動化を実現することが可能となる。また、高調波損失(渦電流損、ヒステリシス損)を低減することも可能となる。
また、計測された磁束密度分布の形状に基づいて磁化容易軸の配向方向が設計されているので、極異方性リング磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布の波形をより製造者の意図する形状に近づけることが可能となる。
また、磁石粉末とバインダーとの混合物を成形するので、圧粉成形等を用いる場合と比較して、配向後に磁石粒子が回動することも無く、配向度についても向上させることが可能となる。また、成形体に対して磁場配向を行う場合には、電流のターン数を利用できるため磁場配向を行う際の磁場強度を大きく確保することができ、且つ静磁場で長時間の磁場印加を施せるので、バラつきの少ない高い配向度を実現することが可能となる。
また、製造する極異方性リング磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布の波形を理想的な正弦波形状に近づけることが可能となる。その結果、トルクリップルを減少させ、更に回転電機に設置した場合に回転電機の駆動制御を正確に行うことができる。
また、計測された磁束密度分布の形状に基づいて磁化容易軸の配向方向をフィードバック設計するので、従来に比べて永久磁石の配向設計を容易且つ正確に行うことが可能となる。その結果、回転動機毎に適した配向を有する永久磁石を製造することが可能となる。
また、成形体に対して磁場を印加する方向を制御することによって設計された配向方向に磁化容易軸を配向させるので、製造者の意図する方向へ磁化容易軸を適切に配向させることが可能となる。
また、配向後の混合物を変形することによって磁化容易軸の方向を操作しつつ成形体への成形を行うので、複雑な形状に磁化容易軸を配向させる場合であっても、高配向かつバラつきの少ない配向を実現することが可能となる。従って、従来に比べて永久磁石の配向設計が複雑であっても正確に実現することが可能となる。
更に、混合物をシート状に成形した後に、シート状の混合物に磁場配向するので、磁石粉末とバインダーの混合物をシート状のグリーンシートとすることによって、その後の成形体への変形等の加工をより容易に行わせることが可能であり、磁化容易軸をより適切に配向することが可能となる。また、生産性についても向上させることが可能となる。
【0101】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、成形条件、磁場配向工程、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例ではビーズミルを用いた湿式粉砕により磁石原料を粉砕しているが、ジェットミルによる乾式粉砕により粉砕することとしても良い。また、仮焼を行う際の雰囲気は非酸化性雰囲気であれば水素雰囲気以外(例えば窒素雰囲気、He雰囲気等、Ar雰囲気等)で行っても良い。また、仮焼処理を省略しても良い。その場合には、焼結処理の過程で脱炭素が行われることとなる。
【0102】
また、上記実施例では、磁石粉末とバインダーとの混合体を一旦シート形状に成型した後に磁場配向を行う構成としているが、シート形状以外の形状に成型した後に磁場配向を行う構成としても良い。例えば、ブロック形状に成型しても良い。その場合であっても、磁場配向後に成形された混合物を変形させることによって集束軸に沿った一方向へと磁化容易軸を適切に集束させるように配向することが可能となる。
【0103】
また、上記実施例では、磁石粉末とバインダーとの混合体に対して磁場配向を行った後に、最終製品形状(例えば
図1に示す扇型形状)へと成形する構成としているが、最終製品形状に成型した後に磁場配向を行っても良い。その場合には、最終製品形状に成型した成形体への磁場配向の方向を制御することによって、設計された方向へ磁化容易軸を適切に配向させることが可能となる。
【0104】
また、上記実施例では、永久磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布の形状が正弦波形状となるように永久磁石の磁化容易軸の配向方向を設計しているが、正弦波形状以外の形状となるように永久磁石の磁化容易軸の配向方向を設計することも可能である。尚、実現する磁束密度分布の形状は、永久磁石の種類や用途によって適宜変更することが可能である。
【0105】
また、上記実施例では、計測された永久磁石1の外周表面における磁束密度分布の形状に基づいて、永久磁石1の磁化容易軸の配向方向を設計するように構成しているが、同様の方法により永久磁石1の形状についても設計するように構成しても良い。即ち、永久磁石1の外周表面における磁束密度分布の形状が高調波成分の小さい正弦波形状となるように永久磁石の形状を設計しても良い。
【0106】
また、上記実施例では、永久磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布の形状を基準にして永久磁石の磁化容易軸の配向方向を設計するように構成しているが、エアギャップの磁束密度分布や誘起電圧の形状を基準にして設計するように構成しても良い。例えば、回転電機のロータ又はステータに永久磁石を配置した後に、ロータとステータとの間のエアギャップにおける磁束密度分布の形状について高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となるように永久磁石の磁化容易軸の配向方向を設計するように構成しても良い。また、ロータ又はステータに永久磁石が配置された回転電機のロータを回転させることによって発生する誘起電圧の形状について高調波成分の振幅が基本波の振幅の10分の1以下となるように永久磁石の磁化容易軸の配向方向を設計するように構成しても良い。
【0107】
更に、上記実施例では、磁石粉末を複数の扇型形状に成形した後に、それらを接合してリング形状としているが、磁石粉末を扇型形状とせずに直接リング形状に成型するように構成しても良い。その場合には、磁場配向されたグリーンシート14を変形加工することによりリング形状に成形しても良いし、混合物をリング形状に成形した後に磁場配向しても良い。
【0108】
また、永久磁石をロータ側では無くステータ側に配置する回転電機に対しても適用することが可能である。その場合には、磁石を設置する向きは逆向きとなるので、外周方向から中心方向へと磁石内部の磁束が集中することとなる。更に、モータでは無く発電機に対しても適用可能である。
【0109】
また、上記実施例では、磁石粉末を成形した後に水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気において仮焼を行っているが、成形前の磁石粉末に対して仮焼処理を行い、仮焼体である磁石粉末を成形体に成形し、その後に焼結を行うことによって永久磁石を製造することとしても良い。このような構成とすれば、粉末状の磁石粒子に対して仮焼を行うので、成形後の磁石粒子に対して仮焼を行う場合と比較して、仮焼対象となる磁石の表面積を大きくすることができる。即ち、仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。但し、バインダーを仮焼処理で熱分解させる為に、成形後に仮焼処理を行うことが望ましい。
【0110】
また、本発明ではNd−Fe−B系磁石を例に挙げて説明したが、他の磁石(例えばサマリウム系コバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石等)を用いても良い。また、磁石の合金組成は本発明ではNd成分を量論組成より多くしているが、量論組成としても良い。