特許第6502019号(P6502019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6502019有機EL素子用薄膜の評価方法及び有機EL素子用薄膜の成膜装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502019
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】有機EL素子用薄膜の評価方法及び有機EL素子用薄膜の成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20190408BHJP
   B05B 5/025 20060101ALI20190408BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190408BHJP
   B05D 1/04 20060101ALN20190408BHJP
   B05D 7/00 20060101ALN20190408BHJP
【FI】
   H05B33/10
   B05B5/025 E
   H05B33/14 A
   !B05D1/04 K
   !B05D7/00 H
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-61629(P2014-61629)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-185418(P2015-185418A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、戦略的基盤技術高度化支援事業 帯電型スプレーによる大面積積層型有機ELデバイス向け有機薄膜の成膜装置の開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幹大
(72)【発明者】
【氏名】宮地 計二
(72)【発明者】
【氏名】清家 善之
(72)【発明者】
【氏名】村田 正美
(72)【発明者】
【氏名】黒河 周平
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−093139(JP,A)
【文献】 特開2000−015147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
B05D 1/00−7/26
B05B 5/00−5/16
G02B 5/20−5/28
H01L 31/04−31/06
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地部に接地され、有機EL素子用薄膜を形成する基板を載置するためのステージと、前記有機EL素子用薄膜の材料が供給される噴霧ノズルと、前記接地部と前記噴霧ノズルとの間に電圧を印加する電圧印加部と、前記ステージと前記接地部との間に流れる電荷量を測定する測定装置とを備え、前記電圧印加部によって供給される電荷によって前記噴霧ノズルから吐出される液滴を霧化しつつ前記基板側に静電気力によって前記有機EL素子用薄膜用材料の液滴を搬送するエレクトロスプレー法の成膜装置によって有機EL素子用薄膜を製造する方法であって、前記基板を前記ステージ上に載置する載置工程と、前記噴霧ノズルから有機EL素子用薄膜材料を含む帯電された液滴を前記基板上に噴霧して該基板上に有機EL素子用薄膜を成膜する成膜工程とを備え、
前記成膜工程では、前記基板の両面間を導通させる導通部を設けた状態で前記測定装置によって測定された電荷量に基づいて前記噴霧ノズルへの前記有機EL素子用薄膜材料の供給量を制御することを特徴とする有機EL素子用薄膜の製造方法。
【請求項2】
接地部に接地され、有機EL素子用薄膜を形成する基板を載置するためのステージと、前記有機EL素子用薄膜の材料が供給される噴霧ノズルと、前記接地部と前記噴霧ノズルとの間に電圧を印加する電圧印加部とを備え、前記電圧印加部によって供給される電荷によって前記噴霧ノズルから吐出される液滴を霧化しつつ前記基板側に静電気力によって前記有機EL素子用薄膜用材料の液滴を搬送するエレクトロスプレー法の成膜装置において、前記ステージと前記接地部との間に流れる電荷量を測定する測定装置と、前記噴霧ノズルへの前記有機EL素子用薄膜材料の供給量を制御する制御装置とを設け、前記基板の両面間を導通させる導通部を設けた状態で前記測定装置によって測定した電荷量に基づいて前記制御装置により前記有機EL素子用薄膜材料の供給量を制御する有機EL素子用薄膜の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子用薄膜の評価方法及び有機EL素子用薄膜の成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子用の薄膜を成膜する技術が知られている。例えば特許文献1には、ノズルから有機材料を含む塗液を噴霧することで、基板上に有機EL素子用薄膜としての有機層を成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/001613号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示される技術では、エレクトロスプレー法によってノズルから液滴を噴霧するため、ノズルから噴霧される液滴の量が極めて微量とされる。このようなエレクトロスプレー法は、噴霧される液滴が微小化して粒径が小さくなるため、液滴の乾燥が早く、薄膜の成膜に優れている。
【0005】
しかしながら、上記のようにノズルから噴霧される液滴が極めて微量である場合、ノズルに送液される液滴の量が不足すると液切れが発生し、ノズルに送液される液滴の量が過剰になるとノズルの先端に液滴が溜まって液滴の噴霧が断続的なものとなる。このため、ノズルに送液される液滴の流量を制御することが困難となる。また、ノズルから噴霧される液滴が極めて微量である場合、ノズルも微小なものとなるため、ノズルから噴霧される液滴の噴霧状態を目視により確認することは難しく、視る人によるばらつきも生じる。
【0006】
このようにノズルから噴霧される液滴が極めて微量である場合、ノズルに送液される液滴の流量を制御することが困難となり、ノズルから噴霧される液滴の噴霧状態を確認することも難しいため、基板上に成膜される有機EL素子用薄膜について、液滴の付着量や膜厚の均一性等を評価することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みて創作されたものであって、基板上に成膜される有機EL素子用薄膜の均一性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、接地部に接地され、有機EL素子用薄膜を形成する基板を載置するためのステージと、前記有機EL素子用薄膜の材料が供給される噴霧ノズルと、前記接地部と前記噴霧ノズルとの間に電圧を印加する電圧印加部と、前記ステージと前記接地部との間に流れる電荷量を測定する測定装置とを備え、前記電圧印加部によって供給される電荷によって前記噴霧ノズルから吐出される液滴を霧化しつつ前記基板側に静電気力によって前記有機EL素子用薄膜用材料の液滴を搬送するエレクトロスプレー法の成膜装置によって有機EL素子用薄膜を製造する方法であって、前記基板を前記ステージ上に載置する載置工程と、前記噴霧ノズルから有機EL素子用薄膜材料を含む前記帯電された液滴を前記基板上に噴霧して該基板上に有機EL素子用薄膜を成膜する成膜工程とを備え、前記成膜工程では、前記成膜工程では、前記基板の両面間を導通させる導通部を設けた状態で前記測定装置によって測定された電荷量に基づいて前記噴霧ノズルへの前記有機EL素子用薄膜材料の供給量を制御することを特徴とすることを特徴とする。
【0009】
上記の有機EL素子用薄膜の製造方法によると、成膜工程において、両板面間を導通する導通部を有する基板上に有機EL素子用薄膜を成膜するため、噴霧ノズルから噴霧される帯電された液滴が静電気力によってステージ上だけでなく基板上にも捕集されて付着する。このため、測定装置で測定される帯電された液滴の単位時間当たりの電荷量は、基板上およびステージ上に単位時間当たりに付着した帯電された液滴の付着量に比例する。従って、測定装置で測定される電荷量の経時変化が略一定であれば、基板上およびステージ上に付着した帯電された液滴の付着量の経時変化も略一定であるとみなすことができ、噴霧ノズルから噴霧される帯電された液滴の噴霧状態が安定しているものとみなすことができる。そして、噴霧ノズルから噴霧される液滴の噴霧状態が安定していれば、基板上に成膜される有機EL素子用薄膜について、液滴の付着量や膜厚の均一性等が安定しているものと評価することができる。このように上記の有機EL用薄膜の製造方法によれば、基板上およびステージ上に単位時間当たりに付着する液滴の電荷量から、噴霧ノズルから噴霧される液滴の噴霧状態を間接的に確認して液滴の流量を制御することができて、基板上に成膜される有機EL素子用薄膜の膜厚を均一化することができる。
【0011】
この製造方法によれば、測定装置で測定された電荷量の経時変化に変動がみられた場合に、その変動量に応じて噴霧ノズルから噴霧される液滴の噴霧量を適宜制御することで、有機EL素子用薄膜の成膜開始から成膜終了までにわたって適切な噴霧量で噴霧ノズルから液滴を噴霧させることができる。その結果、基板上に成膜される有機EL素子用薄膜の膜厚の均一性等をより高めることができる。なお、測定装置で測定された電荷量の経時変化量に大きな変動がみられる場合、噴霧ノズルに何らかの異常が生じていることが想定されるため、噴霧量をゼロにすること、即ち噴霧ノズルからの噴霧を停止することが好ましい。このため、上記の噴霧量を制御することには、噴霧ノズルからの噴霧を停止することを含むものとする。
【0013】
エレクトロスプレー法では、噴霧ノズルから噴霧される液滴が極めて微量とされ、噴霧ノズルも微小なものとなる。このため、設定された流量で噴霧ノズルに液滴が供給されているのか否かを確認することや、噴霧ノズルの先端を目視により確認すること等によって噴霧ノズルから噴霧される液滴の噴霧状態が安定しているのか否かを確認することは極めて困難である。これに対し上記の方法では、基板上およびステージ上に単位時間当たりに付着する帯電された液滴の電荷量を測定することで、噴霧ノズルから噴霧される液滴の噴霧状態が安定しているのか否かを確認することができる。このように上記の製造方法では、エレクトロスプレー法を用いながら、噴霧ノズルから噴霧される帯電された液滴の噴霧状態の安定性を間接的に確認して液滴の流量を制御することができる。
【0014】
本発明の他の態様は、接地部に接地され、有機EL素子用薄膜を形成する基板を載置するためのステージと、前記有機EL素子用薄膜の材料が供給される噴霧ノズルと、前記接地部と前記噴霧ノズルとの間に電圧を印加する電圧印加部とを備え、前記電圧印加部によって供給される電荷によって前記噴霧ノズルから吐出される液滴を霧化しつつ前記基板側に静電気力によって前記有機EL素子用薄膜用材料の液滴を搬送するエレクトロスプレー法の成膜装置において、前記ステージと前記接地部との間に流れる電荷量を測定する測定装置と、前記噴霧ノズルへの前記有機EL素子用薄膜材料の供給量を制御する制御装置とを設け、前記基板の両面間を導通させる導通部を設けた状態で前記測定装置によって測定した電荷量に基づいて前記制御装置により前記有機EL素子用薄膜材料の供給量を制御する有機EL素子用薄膜の成膜装置に関する。

【0017】
この構成によると、測定装置で測定された電荷量の経時変化に変動がみられた場合に、その変動量に応じて噴霧ノズルから噴霧される液滴の噴霧量を制御装置によって適宜制御することで、有機EL素子用薄膜の成膜開始から成膜終了までにわたって適切な噴霧量で噴霧ノズルから液滴を噴霧させることができる。その結果、基板上に成膜される有機EL素子用薄膜の膜厚の均一性等をより高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、基板上に成膜された有機EL素子用薄膜の均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る有機EL用薄膜の成膜装置を用いて成膜する様子を表す模式図
図2】印加電圧と電荷量の関係を示すグラフ
図3】流量の違いによる印加電圧と電荷量の関係を示すグラフ
図4】噴霧開始から噴霧終了までの電荷量の経時変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して実施形態を説明する。本実施形態では、図1に示す有機EL素子用薄膜の成膜装置(以下、成膜装置と称する)1を例示する。この成膜装置1は、成膜部10と、被成膜部20と、電圧供給部30と、測定部40と、制御装置Cと、を備える。成膜装置1は、エレクトロスプレー法を用いて成膜部10から有機EL素子用薄膜材料を含む液滴を被成膜部20に向かって噴霧することで、被成膜部20上に有機EL素子用薄膜TFを成膜する装置である。
【0021】
成膜部10は、ステージ22の上方に配置され、図1に示すように、液供給部12と、接続チューブ14と、電圧印加部16と、電圧印加部16から伸びる噴霧ノズル18と、を備える。液供給部12は、内部に有機EL素子用薄膜材料を含む液滴が充填されたシリンジ部材であり、当該液滴を電圧印加部16に供給する。接続チューブ14は液供給部12と電圧印加部16との間を接続する。成膜部10では、図示しない送液装置(ポンプ等)によって、液供給部12内の液滴が設定された流量で液供給部12から接続チューブ14を通して電圧印加部16に送液される。
【0022】
電圧印加部16は、その内部に内部電極(不図示)が形成されている。電圧印加部16内の内部電極には、後述する電圧供給部30から所定の電圧が印加される。電圧印加部16に送液された液滴は、電圧印加部16内の内部電極と接触することで電圧印加され、帯電される。噴霧ノズル18は、エレクトロスプレー法による噴霧に用いられるものであり、電圧印加部16から下方に真っ直ぐに伸びる極細な中空の針状をなしている。噴霧ノズル18は、電圧印加部16により帯電された液滴Dをその先端から噴霧する。
【0023】
被成膜部20は、図1に示すように、ステージ22と、架台部24と、脚部26と、を備える。ステージ22は、厚板状をなし、金属等の導体とされる。ステージ22は、噴霧ノズル18と対向する形で、その略中央部が噴霧ノズル18の先端の真下に位置するように配されており、接地部Gに接地されている。ステージ22上には、被成膜対象となる後述するガラス板50が載置される。なお、ステージ22は、噴霧ノズル18から噴霧される帯電された液滴Dがステージ22の外側にはみ出さないように、噴霧ノズル18の噴霧範囲に対して十分に広いものとされる。このため、噴霧ノズル18から噴霧される帯電される液滴Dは、全てステージ22上又はステージ22上に載置される後述するガラス板50上に付着するようになっている。
【0024】
架台部24は、厚板状をなし、金属等の導体とされる。架台部24は、図示しない設置面上に設置され、接地部Gに接地されている。脚部26は、架台部24から上方に柱状に伸びてステージ22を支持している。脚部26は絶縁体とされており、脚部26を介してステージ22から架台部24に電荷が移動することが防止されている。
【0025】
電圧供給部30は、図1に示すように、電圧印加部16と接地部Gに接地された架台部24との間に接続された高圧電源32によりなっており、電圧印加部16内の内部電極に数kVの電圧を供給する。測定部40は、図1に示すように、電流計(測定装置の一例)42と、表示部44と、を備える。電流計42は、ステージ22と接地部Gとの間に接続され、ステージ22から接地部Gに流れる微小な電流を検出可能とされる。電流計42は、ステージ22から接地部Gに流れる電流を検出することで、ステージ22から接地部Gに単位時間当たりに移動する電荷量を測定する。表示部44は、電流計42に接続されており、電流計42で測定される単位時間当たりの電荷量を所定の時間毎に表示する。
【0026】
制御装置Cは、電流計42で測定される単位時間当たりの電荷量に応じて、送液装置によって液供給部12から電圧印加部16に送液される液滴の流量を制御し、これにより、噴霧ノズル18から噴霧される帯電された液滴Dの噴霧量を制御する。なお、制御装置Cの具体的な制御態様については、後で詳しく説明する。
【0027】
上記のような構成とされた成膜装置1では、電圧供給部30から電圧印加部16の内部電極に電圧が供給されることで、電圧印加部16と接地されたステージ22との間に電場が形成される。この状態において、針状とされた噴霧ノズル18の先端に到達した帯電された液滴Dは、電界集中によって霧化され、静電気力によってステージ22上に向かって捕集される形で噴霧される(エレクトロスプレー法)。
【0028】
続いて、本実施形態の成膜装置1によってステージ22上に有機EL素子用薄膜TFを成膜する方法、及び成膜する有機EL素子用薄膜TFを評価する方法について説明する。本方法で成膜する有機EL素子用薄膜TFは、有機EL素子を構成する複数の層のうち、有機層(発光層,電子輸送層)に相当する。そこで本方法の前に、ステージ22より小さなガラス板(基板の一例)50を用意し、このガラス板50に両板面間を導通するITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極(導通部の一例)52を形成する。そして、スピンコート等によって、このガラス板50上に有機層の下地膜となる正孔注入層等を予め形成する。
【0029】
本方法を説明する。本方法では、まず、ステージ22上に、正孔注入層等の下地膜が形成された上記ガラス板50を載置する(載置工程の一例)。次に、電圧印加部16に電圧を印加し、噴霧ノズル18に有機EL素子用薄膜材料を含む液滴を供給することで、エレクトロスプレー法を用いて噴霧ノズル18から帯電された液滴Dをガラス板50上に噴霧する。これにより、下地膜が形成されたガラス板50上及びガラス板50の外側に位置するステージ22上に、帯電された液滴Dが付着し、ガラス板50上に有機EL素子用薄膜TFを成膜することができる(成膜工程の一例)。なお、本実施形態で用いる有機EL用薄膜材料を含む液滴は、低分子有機材料を有機EL素子用薄膜材料とし、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド等を溶媒とする電解液とする。
【0030】
ここで、ガラス板50上に有機EL素子用薄膜TFを成膜する工程では、ガラス板50上に帯電された液滴Dが付着すると、その液滴Dが有する電荷がガラス板50の透明電極52を通ることでガラス板50を貫通してステージ22上に到達し、ステージ22から電流計42を通って接地部Gに移動する。一方、ガラス板50の外側に位置するステージ22上に付着した帯電された液滴Dについても、その液滴Dが有する電荷がステージ22から電流計42を通って接地部Gに移動する。このため、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの電荷量は、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの付着量に比例する。
【0031】
そこで本方法では、ガラス板50上に有機EL素子用薄膜TFを成膜する工程において、ステージ22から接地部Gに単位時間当たりに移動する電荷量を電流計によって測定する。これにより、ガラス板50上およびステージ22上に単位時間当たりに付着した帯電された液滴Dが有する総電荷量を測定することができる。そして、電流計42で測定される電荷量の経時変化が略一定であれば、上記比例関係から、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの付着量の経時変化も略一定であるとみなすことができる。このように本実施形態では、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの電荷量から、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの付着量を間接的に評価することができる。
【0032】
さらに、噴霧ノズル18から噴霧される液滴の噴霧状態が安定していれば、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの付着量も安定するので、電流計42で測定される電荷量の経時変化から噴霧ノズル18から噴霧される液滴の噴霧状態を間接的に確認することができる。従って、電流計42で測定される電荷量の経時変化が略一定であれば(電荷量の変動量が小さな状態が継続すれば)、噴霧ノズル18から噴霧される帯電された液滴の噴霧状態が安定しているものとみなすことができる。一方、電流計42で測定される電荷量の変動量が大きい場合、噴霧ノズル18から噴霧される液滴の噴霧状態が安定していないとみなすことができる。このように本実施形態では、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの電荷量から、噴霧ノズル18から噴霧される液滴の噴霧状態を間接的に確認することができる。
【0033】
また、噴霧ノズル18から噴霧される帯電された液滴Dの噴霧状態が安定していれば、ガラス板50の全面にわたって帯電された液滴Dが略均一に付着するものと想定されるので、ガラス板50上に成膜される有機EL素子用薄膜TFの膜厚の均一性も安定しているものとみなすことができる。このように本実施形態では、ガラス板50上およびステージ22上に付着した帯電された液滴Dの電荷量から、ガラス板50上に成膜される有機EL素子用薄膜TFの膜厚の均一性を評価することもできる。
【0034】
ここで、成膜装置1が備える制御装置Cの制御態様について説明する。制御装置Cは、電流計42で測定される電荷量の経時変化が略一定である場合、即ち電荷量が所定の範囲内にある場合、噴霧ノズル18からの噴霧状態が安定しているものとみなし、送液装置について予め設定された液滴の流量を継続して維持する。また、制御装置Cは、電流計42で測定される電荷量の変動量が大きく、かつ、測定される電荷量が所定の範囲より小さな場合、噴霧ノズル18に送液される液滴の量が不足しているものとみなし、送液装置について液滴の流量が大きくなるように制御する。さらに、制御装置Cは、電流計42で測定される電荷量の変動量が大きく、かつ、測定される電荷量が所定の範囲より大きな場合、噴霧ノズル18に送液される液滴の量が過剰であるとみなし、送液装置について液滴の流量が小さくなるように制御する。
【0035】
なお本実施形態において、制御装置Cは、電流計42で測定される電荷量の経時変化に大きな変動がみられる場合、噴霧ノズル18又は送液装置等の他の部材に何らかの異常が生じていることが想定されるため、噴霧量をゼロにする、即ち噴霧ノズル18からの噴霧を停止するように制御してもよい。
【0036】
このように本実施形態では、電流計42で測定された電荷量の経時変化に変動がみられた場合に、その変動量に応じて噴霧ノズル18から噴霧される帯電された液滴Dの噴霧量を制御装置Cによって適宜制御することで、有機EL素子用薄膜TFの成膜開始から成膜終了までにわたって適切な噴霧量で噴霧ノズル18から液滴を噴霧させることができる。その結果、ガラス板50上に成膜される有機EL素子用薄膜TFの膜厚の均一性等をより高めることができる。
【0037】
また本実施形態では、エレクトロスプレー法を用いて噴霧ノズル18から帯電された液滴Dを噴霧するが、エレクトロスプレー法では、噴霧ノズルから噴霧される液滴が極めて微量とされ、噴霧ノズルも微小なものとなる。このため、従来は、設定された流量で噴霧ノズルに液滴が供給されているのか否かを確認することや、噴霧ノズルの先端を目視により確認すること等によって噴霧ノズルから噴霧される液滴の噴霧状態が安定しているのか否かを確認することは極めて困難であった。これに対し本実施形態では、ガラス板50上およびステージ22上に単位時間当たりに付着する帯電された液滴Dの電荷量を測定することで、上述したように噴霧ノズル18から噴霧される帯電された液滴Dの噴霧状態が安定しているのか否かを確認することができる。このように本実施形態では、エレクトロスプレー法を用いながら、噴霧ノズル18から噴霧される帯電された液滴Dの噴霧状態の安定性を間接的に確認することができる。
【0038】
なお、有機EL素子用薄膜は、製造コストを低減する観点から、エレクトロスプレー法を用いて成膜することが好ましいが、従来は、上述したように成膜された有機EL素子用薄膜の膜厚の均一性を確認することが困難であったため、真空蒸着による成膜が主として行われており、製造コストが高くなっていた。これに対し本実施形態では、エレクトロスプレー法を用いて成膜した場合であっても成膜される有機EL素子用薄膜TFの膜厚の均一性を評価することができるため、製造コストの低減化を図ることができる。
【0039】
ここで、有機EL素子用薄膜材料は、一般的に、高分子材料と低分子材料とに大別される。高分子材料を用いた有機EL素子用薄膜は、通常、材料を有機溶媒に溶解させた溶液を噴霧、塗布等するウエットプロセスによって成膜され、低分子材料を用いた有機EL素子用薄膜は、通常、真空蒸着等のドライプロセスによって成膜される。低分子材料は、高分子材料と比べて材料としての選択性、有用性に優れている。一方、ウエットプロセスはドライプロセスと比べて装置コストが低く、材料の使用効率が高い。このため、低分子材料を用いてウエットプロセスによる成膜を行うことが望まれるが、従来は、噴霧ノズルから液滴が安定して噴霧されているのか否かを確認することができなかった。これに対し本実施形態では、上述したように、エレクトロスプレー法等のウエットプロセスを用いながら、ガラス板50上に成膜された有機EL素子用薄膜TFの付着量を間接的に評価することができ、かつ、噴霧ノズル18からの噴霧状態を確認することもできるため、低分子材料を用いた場合であってもウエットプロセスによる成膜を実現することができる。その結果、材料の選択性、有用性の向上と装置コストの低減化との両立を図ることができる。
【0040】
上記の実施形態の変形例(他の実施形態)を以下に列挙する。
【0041】
(1)上記の実施形態では、成膜装置が制御装置を備える構成を例示したが、成膜装置が制御装置を備えない構成であってもよい。この場合、表示部に表示される電荷量に応じて、作業者が電圧印加部に送液される液滴の流量を制御してもよい。
【0042】
(2)上記の実施形態では、ガラス板上およびステージ上に付着した帯電された液滴の電荷量を電流計によって測定する構成を例示したが、電流計以外の測定装置によって電荷量を測定する構成であってもよい。
【0043】
(3)上記の実施形態では、ステージ上に両板面間を導通する透明電極が形成されたガラス板を載置する例を示したが、透明電極が形成されたガラス板に限定されるものではなく、両板面間を導通するパターン等が形成されたガラス板をステージ上に載置してもよい。
【0044】
(4)上記の実施形態では、ステージ上に不導体であるガラス板を載置する例を示したが、ステージ上に導体の基板、即ち全域に導通部を有する基板を載置してもよい。
【0045】
以上、本発明の各実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【実施例】
【0046】
以下、図2乃至図4を参照して、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本実施例では、上記実施形態で説明した成膜装置1と同様の構成の成膜装置を使用し、透明電極が形成されたガラス板上に正孔注入層及び正孔輸送層からなる下地膜を形成するとともに、エレクトロスプレー法を用いて有機EL素子用薄膜材料を含む液滴をその下地膜上に噴霧することで、下地膜上に有機層を成膜した。
【0047】
また本実施例では、下地膜上に有機層を成膜しながら、以下の測定を実施した。(1)電圧印加部への印加電圧を変化させながら、基板上およびガラス板上に単位時間当たりに付着した帯電された液滴の電荷量を測定することで、印加電圧と電荷量の関係を測定した。(2)印加電圧と電荷量の関係について、送液ポンプの設定流量を変更した場合による違いを測定した。(3)送液ポンプの設定流量及び印加電圧を一定とし、噴霧開始から噴霧終了までの電荷量の経時変化を測定した。また、これらの結果から、下地膜上に成膜した有機層(有機EL素子用薄膜)を評価することを目的とした。
【0048】
<使用機器等>
噴霧ノズルとして、ノズル径が30μmのものを使用した。電流計として、極めて微小な電流を検出できるエレクトロメータ(KEITHLEY社製 6514型)を使用した。送液装置として、送液ポンプ(KDS社製 モデル100型)を使用した。また、有機層の成膜は、温湿度が管理調整された環境制御装置内で行った。
【0049】
<使用材料等>
有機EL素子用薄膜材料としてN,N’-bis(3-methylphenyl)-N,N’-bis(phenyl)-benzidineを用いた。溶媒としてジクロロメタン、ジメチルホルムアミドを用いた。また、ガラス板として100mm角のものを使用した。
【0050】
<(1)印加電圧と電荷量の関係>
電圧印加部への印加電圧を3kVから15kVの範囲内で変化させ、印加電圧と電荷量の関係を測定した。なお、送液ポンプの設定流量は4μl/minとした。
【0051】
<(2)設定流量を変更した場合の印加電圧と電荷量の関係>
電圧印加部への印加電圧を3kVから15kVの範囲内で変化させた場合の電荷量の変化について、送液ポンプの設定流量を1μl/min、4μl/min、16μl/minと変更した場合による違いを測定した。
【0052】
<(3)設定流量を一定とした場合の噴霧開始から噴霧終了までの電荷量の経時変化>
送液ポンプの設定流量は、3μl/minとした。電圧印加部への印加電圧は8kVとした。噴霧ノズルからの噴霧時間は4秒間とした。エレクトロメータでは、10ミリ秒当たりの電荷量を都度測定した。
【0053】
<測定結果>
上記(1)の測定の結果、図2に示すグラフが得られた。図2では、横軸が印加電圧(kV)を示し、縦軸が電荷量(nC(ナノクーロン))を示している。図2に示すように、印加電圧が3kVから9kVの範囲内では電荷量が一次関数的に増加する比例関係が見られたが、印加電圧が9kVから15kVの範囲内では電荷量が二次関数的に増加する比例関係が見られた。
【0054】
上記(2)の測定の結果、図3に示すグラフが得られた。図3では、図2と同様に、横軸が印加電圧(kV)を示し、縦軸が電荷量(nC(ナノクーロン))を示している。図3に示すように、送液ポンプの違いによって、電荷量に数nCの差が見られた。また、印加電圧が大きくなるにつれ、電荷量の差が大きくなる傾向が見られた。
【0055】
上記(3)の測定の結果、図4に示すグラフが得られた。図4では、横軸がグラフの1マスを400ミリ秒として経過時間(ms)を示しており、縦軸がグラフの1マスを100ナノクーロンとして電荷量(nC)を示している。また、図4では、符号P1が成膜開始点を示しており、P3が成膜終了点を示している。図4に示すように、成膜が開始されると、電荷量が急激に増加し、成膜を開始して約400ミリ秒後(符号P2で示す点)の時点においてピーク(約200nC)となるものの、その後、電荷量が減少して600nC近傍で安定し、成膜を開始して約900ミリ秒後の時点から成膜終了まで略一定の電荷量が継続する結果が得られた。
【0056】
<薄膜の評価>
上記(3)の測定の結果から、成膜開始直後(成膜を開始して約900ミリ秒後までの間)は噴霧状態が安定していないものの、成膜を開始して約900ミリ秒後の時点から成膜終了までの間は、付着量の経時変化が略一定であると評価でき、噴霧状態が安定していることを間接的に確認することができた。またその結果、成膜された有機EL素子用薄膜の膜厚の均一性が安定していると評価することもできた。
【符号の説明】
【0057】
1…有機EL素子用薄膜の成膜装置
10…成膜部
12…液供給部
14…接続チューブ
16…電圧印加部
18…噴霧ノズル
20…被成膜部
22…ステージ
24…架台部
26…脚部
30…電圧供給部
32…高圧電源
40…測定部
42…電流計
44…表示部
50…ガラス板
52…透明電極
C…制御装置
D…帯電された液滴
G…接地部
TF…有機EL素子用薄膜
図1
図2
図3
図4