(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位相差付与反射防止層は、相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体との関係が、0.4<NH−NL<1.5を満たす請求項1又は2記載の位相差補償素子。
前記位相差付与反射防止層は、相対的に最も高い屈折率を有する誘電体の光学的膜厚をtH、相対的に最も低い屈折率を有する誘電体の光学的膜厚をtLとしたとき、tL/(tH+tL)>0.4である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の位相差補償素子。
前記位相差付与反射防止層が付与する面内位相差Rdは、使用する波長帯域の任意の波長λにおいて、入射光角度0°〜25°の範囲で、1<Rd(λ)/Rd(λ’)<1.5(λ<λ’)である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の位相差補償素子。
前記複屈折層は、基板法線方向に対して対称な2方向から蒸着材料を交互に堆積させてなり、前記斜方蒸着膜の1層あたりの光学的膜厚が、5nm以上100nm以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の位相差補償素子。
前記複屈折層は、入射光により生じる面内位相差が、該複屈折層が形成された基材面法線方向を中心として略対称の角度依存性を有し、前記複屈折層の面内位相差の角度依存性の中心となる入射光方向と、前記位相差付与反射防止層が形成された基材面法線方向とが略一致する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の位相差補償素子。
複数の斜方蒸着膜の積層膜からなり、各斜方蒸着膜の光学的膜厚が使用波長以下である複屈折層と、屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜の積層膜からなり、前記複屈折層における斜入射透過光の面内位相差に加え、任意の面内位相差を付与する位相差付与反射防止層とを備え、前記位相差付与反射防止層は、前記誘電体膜の光学的膜厚が全て異なり、前記誘電体膜の各光学的膜厚がλ/100以上λ/2以下(λは使用する波長帯域の任意の波長)であり、前記誘電体膜が8以上1000以下の層数で直接積層された前記積層膜からなる位相差補償素子が、反射型偏光子と反射型光変調素子との間に配置されている投射型画像投影装置。
前記位相差付与反射防止層が付与する面内位相差Rdは、使用する波長帯域の任意の波長λにおいて、入射光角度0°〜25°の範囲で、1<Rd(λ)/Rd(λ’)<1.5(λ<λ’)である請求項11記載の投射型画像投影装置。
【背景技術】
【0002】
従来、位相差補償素子は、水晶などの無機光学単結晶、又は高分子延伸フィルムにより作られている。無機光学単結晶は、位相差補償素子として耐久性、信頼性に優れるものの、原材料費、加工コストが高く、また、入射光に対して比較的角度依存性が大きいという課題がある。また、高分子延伸フィルムは、最も一般的に用いられている位相差補償素子であるが、熱やUV光線に対して劣化しやすく耐久性に課題がある。
【0003】
また、位相差補償素子として、斜め柱状構造をもつ斜方蒸着膜(斜方蒸着位相差素子)が知られている。この斜方蒸着膜は、原理的に膜厚を調整することによって任意の位相差を設定でき、大面積化が比較的容易であるとともに、大量生産により低コスト化を図ることができる。また、無機材料を用いることから、耐光性・耐熱性に優れる位相差補償素子を提供することができる。
【0004】
また、近年、投射型画像投影装置において、コントラスト特性や視野角特性を改善するために、位相差補償素子を用いた光学補償技術が用いられている。位相差補償素子を用いた光学補償技術としては、例えば、
図29に示すような垂直配向液晶における黒輝度補正が挙げられる。
【0005】
垂直配向液晶100は、無電圧印加状態(黒状態)で液晶分子が垂直に配向しており、この垂直配向液晶100を備える反射型光変調素子110に対して垂直に光束を入射した場合には複屈折が生じない。そのため、反射型偏光子120に入射し、所定の直線偏光とされた光束は、偏光が乱れることなく、再び反射型偏光子に入射、透過し、スクリーンに光が漏れることはない。
【0006】
しかし、反射型光変調素子110に所定の角度を持って入射した光に対しては、複屈折を生じるため、直線偏光として反射型光変調素子110に入射した光束は楕円偏光となる。その結果、再び反射型偏光子120に入射した光の一部がスクリーンに到達し、コントラスト悪化の原因となる。
【0007】
また、横電界による液晶分子の配向乱れの抑制や、液晶分子の応答速度の改善のため、液晶分子を反射型光変調素子の面に対し所定の角度(プレチルト角)傾けることが提案されている。この場合は、反射型光変調素子に垂直に入射した光束も複屈折により偏光状態が乱され、コントラスト悪化の原因となる。
【0008】
以上に述べた偏光の乱れを補償し、最適な偏光状態を実現する方法として、種々方式が提案されている。例えば、前述の水晶などの位相差補償素子を反射型光変調素子の面と平行に設置して位相差補償を行う方法(例えば、特許文献1参照。)や、高分子フィルム等の複屈折を有する有機材料などを反射型光変調素子の面と平行に設置して位相差補償を行う方法(例えば、特許文献2、3参照。)などが提案されている。
【0009】
しかし、光学補償素子として単結晶を加工する方法を用いる場合、特に液晶のプレチルト角度までをも考慮して補償しようとしたとき、結晶軸に対して所定の角度で切り出す必要が生じ、材料の切り出し、研磨等に非常に高い精度が必要となり、高いコストが必要となる。
【0010】
また、高分子系の延伸フィルムを用いて液晶分子のプレチルト角度をも含めて補償しようとすると、2軸の位相差フィルムや、複数枚の位相差フィルムを組みあせて作る必要がある。この方法では比較的に容易に作製できる方法であるものの、前述のように熱やUV光線に対して劣化し易いため、耐久性に課題がある。
【0011】
また、特許文献4には、誘電体材料の薄膜形成を用いた位相差補償素子として、高/低屈折率材料の交互積層により形成された負のC−プレートと、2層構成以上の斜方蒸着膜で形成されたO−プレートとを組み合わせた位相差補償素子が提案されている。この位相差補償素子は、高/低屈折率材料の交互積層による構造性複屈折を有する負のC−プレートによって反射型光変調素子への斜入射光の偏光の乱れを補正し、2層構成以上の斜方蒸着膜で形成されたO−プレートによってプレチルト角によって生じる偏光の乱れを補正する。
【0012】
しかし、斜方蒸着によるO−プレートの形成は、複屈折を発現させるために蒸着角度をある範囲に規定する必要があり、コラムの成長角度が所定の幅に決まってしまう。このようにして成長した斜め粒子は、必ずしもプレチルト角による偏光の乱れを補正することに適してはいない。また、負のC−プレートを作製するためには計80層の積層を要すると記載されており、高コスト化やリードタイムの長時間化が懸念される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.位相差補償素子
1.1 位相差付与反射防止層
1.2 複屈折層
2.位相差補償素子の製造方法
3.投射型画像投影装置への適用例
4.実施例
【0020】
<1. 位相差補償素子>
本実施の形態における位相差補償素子は、使用波長以下の厚みの斜方蒸着膜が積層された複屈折層と、屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層され、複屈折層における斜入射透過光の位相差に加え、任意の位相差を付与する位相差付与反射防止層とを備える。この位相差補償素子によれば、複屈折層にて面内位相差R0を制御し、位相差付与反射防止層にて斜入射透過光の位相差Rdを制御するとともに反射を防止するため、偏光の乱れを効果的に補償することができる。
【0021】
例えば、無電解で垂直配向する液晶分子を持つ液晶プロジェクターに、本実施の形態における位相差補償素子を配置する場合、複屈折層で生じる斜入射光位相差とは逆の位相差を付与させ、さらに位相差の値を制御する。これにより、複屈折層により反射型光変調素子のプレチルト角によって生じる偏光の乱れを補正し、また、位相差付与反射防止層により反射型光変調素子への斜入射光によって生じる偏光の乱れを補正し、さらに、位相差付与反射防止層により反射を防止することができため、高いコントラストを得ることができる。
【0022】
<1.1 位相差付与反射防止層>
先ず、複屈折層における斜入射透過光の位相差に加え、任意の位相差を付与する位相差付与反射防止層について説明する。
【0023】
従来、構造性複屈折と呼ばれる光学多層膜は、膜厚方向の位相差Rthを発現させる場合、光の干渉効果を利用しない。例えば、2種類の誘電体膜をそれぞれ誘電体膜a、誘電体膜bとし、誘電体膜aと誘電体膜bとの積層を1構成単位として100層近く積層した場合、誘電体膜aの膜厚taは、多層膜中で全て等価であり、誘電体膜bの膜厚tbも多層膜中で全て等価である。例えば、国際公開第2009/001799号公報の技術では、誘電体膜の膜厚は全て15nmである。このような従来の光学多層膜は、別途、反射防止膜をその両側に設ける必要がある。
【0024】
一方、本実施の形態における位相差付与反射防止層は、誘電体膜への斜入射によって生じる位相差を利用し、さらに光の干渉効果を積極的に利用して、反射防止膜としても機能する。すなわち、本実施の形態における位相差付与反射防止層は、斜方蒸着で制御困難である斜入射光の位相差の独立設計を可能とし、また、反射防止機能を有するため、別途、反射防止膜を成膜する必要がない。
【0025】
また、本実施の形態における位相差付与反射防止層は、各層の膜厚を等価にする必要はなく、積層数も比較的少なくすることが可能である。具体的には、各層の膜厚をおおよそ全て異なるものとし、さらに積層数を最適なものとすることが好ましい。これは、従来の設計思想とは根本的に異なるものである。以下、本実施の形態における位相差付与反射防止層をRd−AR膜とも称する。
【0026】
図1は、Rd−AR膜の一例を模式的に示す断面図である。このRd−AR膜11は、
図1に示すように、基材10上に高屈折率の誘電体膜aと低屈折率の誘電体膜bとが交互に積層された誘電体多層膜である。
【0027】
Rd−AR膜は、所望の波長帯域において反射防止機能を有し、かつ所定の角度を有する斜入射光に対して任意の位相差を付与するため、反射防止の設計と同時に斜入射光の位相差の設計も行う必要がある。
【0028】
Rd−AR膜は、可視光の帯域に対しても設計することができるが、Redの波長帯域(例えば590〜700nm)、Greenの波長帯域(例えば510〜590nm)、Blueの波長帯域(例えば425〜505nm)の3原色の波長帯域のそれぞれに対して設計することが好ましい。誘電体は、屈折率の波長分散を有し、斜入射光の位相差も波長分散を持つため、可視光の帯域で一定の位相差を設計することは難しいが、RGBの3原色に分けることにより、斜入射光の位相差の波長分散を抑制し、また、反射防止の設計を容易にすることができる。
【0029】
Rd−AR膜に用いられる誘電体膜としては、TiO
2、SiO
2、Ta
2O
5、Al
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5などの酸化物、又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。本実施の形態では、高屈折率の誘電体膜aとしてNb
2O
5、低屈折率の誘電体膜bとしてSiO
2が好ましく用いられる。
【0030】
また、高屈折率の誘電体膜aの膜厚ta及び低屈折率の誘電体膜bの膜厚tbは、共に使用波長λに対し、λ/100≦ta,tb≦λ/2の関係を満たすことが望ましい。誘電体膜への斜入射によって生じる位相差Rdは、膜厚をλ/2以下とすることにより、位相差の符号を一定とすることができる。また、膜厚をλ/100以上とすることにより、位相差を発現させることができる。
【0031】
また、誘電体膜の層数dは、8≦d≦1000の関係を満たすことが望ましい。誘電体膜の層数dが8層未満であると、位相差Rdの波長分散が大きくなってしまう。また、誘電体膜の層数dが1000層以上であると、リードタイムが増加してしまう。
【0032】
また、各誘電体膜の膜厚は、おおよそ全て異なることが好ましい。任意の位相差Rdを付与しながら反射防止膜を形成するためには、各層の膜厚を微調整し、光の干渉を積極的に利用することが重要になる。
【0033】
以下、誘電体膜の膜厚について、より具体的に説明する。
図2は、光学薄膜の一例を示す断面図である。この光学薄膜21は、厚みd、屈折率nを有し、屈折率がnaの媒質22とnbの媒質23とに挟まれている。
【0034】
ここでは、どの媒質も吸収はないものとする。また、媒質22の側から最初の界面に入射角θで入射する光に対するFresnel係数をr
pa、r
sa、t
pa、t
sa、もう一方の媒質23の界面でのFresnel係数をr
pb、r
sb、t
pb、t
sbとする。rは反射係数、tは透過係数、pとsはそれぞれの偏光を表す。
【0035】
この単層の光学薄膜の透過係数をτ
p、τ
sとすると、(1)式で表わすことができる。
【0039】
媒質に吸収はないとすると、Fresnel係数のt、rは、実数である。(1)式を有理化すると、(3)式になる。
【0041】
したがって、透過係数τ
p、τ
sは、それぞれ(4)、(5)式となる。
【0043】
ただし、α、δ、β、εは実数である。入射角が0でないとき、一般にδ、εは0ではない。さらに、(3)式から明らかなように、偏光によってtやrの大きさが違うため、δ、εの値も偏光によって異なる可能性がある。すなわち、入射角0以外では、位相差が生じるように作用するといえる。
【0044】
ここで、ある媒質0から別の媒質1へのp偏光とs偏光のFresnel係数rp0l、rs01、tp01、ts0lは、以下のとおりである。
【0046】
ただし、(8)式、(9)式の関係にある。
【0047】
これを(5)式に代入することで、位相差を計算することができる。
【0048】
例えば
図2において、na=nb=1、n=1.41のような屈折率を持つ構造を考える。このとき、入射光θの角度を変化させたときの位相差の光学膜厚依存性は、
図3に示すようなグラフになる。光学膜厚がλ/2までは位相差の符号は同一になるが、λ/2以上となると、特にθが小さい時には、符号が反転する。
【0049】
また、例えば
図2において、na=nb=2、n=1.41のような屈折率を持つ構造を考える。このとき、入射光θの角度を変化させたときの位相差の光学膜厚依存性は、
図4に示すようなグラフになる。
図3と同様の傾向であり、光学膜厚がλ/2までは位相差の符号が同一であるが、λ/2以上となると、特にθが小さい時には、符号が反転する。
【0050】
以上のように、相対的に屈折率の異なる誘電体膜を積層する場合、光学膜厚がλ/2までは、光に生じる位相差の符号が一方向になる。そのため、Rd−AR膜を用いてRdを制御する場合には、光学膜厚をλ/2以下とすることが好ましい。また、
図3、4からわかるように、光学膜厚が薄すぎても位相差が生じにくくなる。そのため、光学膜厚はλ/100以上であることが好ましい。
【0051】
次に、Rd−AR膜における誘電体膜の層数について、より具体的に説明する。
図5は、誘電体多層膜の層数を4〜36層と変化させ、それぞれの層数でRd−AR膜を設計したときの、最大付与できる位相差Rdを示す。縦軸は、位相差の絶対値を示している。高屈折率の誘電体膜としてNb
2O
5、低屈折率の誘電体膜としてSiO
2を用いた。入射光角度は25°とした。
図5に示すグラフより、Rd−AR膜を設計する場合は、誘電体膜の層数が多くなるほど、最大付与できる位相差Rdを増加させることが可能となることが分かる。
【0052】
また、
図6は、誘電体多層膜各層の膜厚の総和をRd−AR膜を200〜1300nmと変化させ、それぞれの膜厚でRd−AR膜を設計したときの、最大付与できる位相差Rdを示す。縦軸は、位相差の絶対値を示している。高屈折率の誘電体膜としてNb
2O
5、低屈折率の誘電体膜としてSiO
2を用いた。入射光角度は25度とした。
図6に示すグラフより、Rd−AR膜の総膜厚が大きいほど、最大付与できる位相差Rdを増加させることが可能となることが分かる。
【0053】
また、
図7は、Blueの波長帯域において、位相差補償素子を透過する25°斜入射光の位相差であるRd(25°)が1nm、2.6nm、4nm、8nm、16nmを目標値とした場合の積層数と位相差Rdの波長分散の関係を示すグラフである。波長分散とは、所定の波長帯域内での位相差Rdのばらつきを示す。
図7に示すグラフより、層数が8層以上であれば、Rdの分散が抑制でき、良好な位相差素子が作製できることが分かる。また、Blueの波長帯域に限らず、Greenの波長帯域やRedの波長帯域でも同様の傾向が得られる。特に、大きな位相差Rdを付与する場合、層数を多くすることにより、分散を抑制することができる。通常透明基材に対する反射防止膜は、4〜6層程度で形成されるが、Rd−AR膜は、以上の理由から、8層以上であることが好ましい。
【0054】
次に、相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体とを含む誘電体多層膜について説明する。
【0055】
Rd−AR膜は、相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体との関係が下記式を満たすことが好ましい。
【0057】
図8は、相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率NLを有する誘電体とを用いて誘電体多層膜を形成したとき、25度の斜入射光に付与できる最大の位相差を示すグラフである。縦軸は、位相差の絶対値を示している。NH−NLが0.4以上であると、比較的大きな位相差Rdを与えやすい。一方、NH−NLが1.5以上であると、波長分散が大きくなる懸念がある。
【0058】
また、Rd−AR膜は、相対的に最も高い屈折率を有する誘電体の膜厚をtH、相対的
に最も
低い屈折率を有する誘電体の膜厚をtLとすると、tL/(tH+tL)>0.4で
あることが好ましい。
図8に合わせて示すように、25度の斜入射光に最大の位相差を付
与するように相対的に最も高い屈折率NHを有する誘電体と、相対的に最も低い屈折率N
Lを有する誘電体とを用いて誘電体多層膜を形成する場合は、tL/(tH+tL)>0.
4とする必要がある。
【0059】
また、
図9は、25度の斜入射光に18nmの位相差を付与するときのtL/(tH+tL)と膜厚の関係を示すグラフである。tL/(tH+tL)が小さくなるほど、反射防止膜と位相差付与を両立するために必要な膜厚は増加してしまうことが分かる。このため、tL/(tH+tL)>0.4であることが好ましい。
【0060】
以上説明したように、Rd−AR膜は、所定の角度を有する斜入射光に位相差を付与するものであって、誘電体多層膜が負のCプレートで表わされるような複屈折を有するものではない。なぜなら、Rd−AR膜が付与する位相差は、複屈折では定義されないからである。すなわち、Rd−AR膜は、負のCプレートのような屈折率楕円体としてふるまうことなく、所定の角度を有する光に対して、任意の位相差を付与する機能を持つ。この機能は、例えば反射型光変調素子において、垂直配向液晶分子を通過する斜入射光に生じる位相差を補正するには十分なものである。
【0061】
<1.2 複屈折層>
次に、使用波長以下の厚みの斜方蒸着膜が積層された複屈折層について説明する。複屈折層は、斜方蒸着により使用波長以下の厚みの斜方蒸着膜を積層してなる斜方蒸着多層膜である。斜方蒸着においては、高屈折率材料の粒子が基材に対して斜め方向から入射され、複屈折層は、基材法線方向に対して対称な2方向から高屈折率材料を交互に堆積させて形成される。高屈折率材料としては、Ta
2O
5、TiO
2、SiO
2、Al
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5などの酸化物、又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。本実施の形態では、Ta
2O
5を主成分とする材料が好ましく用いられ、例えばTa
2O
5にTiO
2を5〜15wt%添加した材料が好ましく用いられる。
【0062】
斜方蒸着膜は、セルフシャドーイングと呼ばれる効果により、基材面内において蒸着粒子の入射方向に垂直な方向(x方向とする。)の密度が相対的に高く、基材面内において蒸着粒子の入射方向に平行な方向(y方向とする。)の密度が相対的に低くなる。この蒸着膜に対して基材の垂直方向から光を入射すると、膜の密度の粗密差は屈折率の差異となり、複屈折を発現する。x方向の屈折率をNx、y方向の屈折率をNyとすると、以下の関係となる。
【0064】
このとき、基材面内に生じる位相差をR0とすると、面内位相差R0は以下の式で表わされる。
【0066】
ここで、Nx−Nyは、一般的に複屈折△nと呼ばれる。複屈折△nは蒸着される物質の屈折率と、蒸着条件などによって決定される。
【0067】
面内位相差R0は、複屈折△nと蒸着膜の厚みtとの積であるため、複屈折△nがある程度大きい蒸着膜であれば、膜厚によって位相差を制御することが可能となる。通常、位相差素子に必要な面内位相差R0は1〜30nm程度であり、例えば液晶のプレチルト角によって具体的な位相差の値が決定される。本実施の形態では、蒸着膜厚の制御によって、面内位相差R0を0<R0<1000nmの範囲で設定することができ、1/4波長板や1/2波長板にも適用することができる。
【0068】
さらに、複屈折層の膜厚方向の位相差をRthとすると、Rthは以下の式で表わされる。
【0069】
Rth=〔Nz−(Nx+Ny)/2〕×d
式中、Nzは、複屈折層の膜厚方向の屈折率である。
【0070】
特開2005−172984号公報、特開2007−101764号公報では、位相差補償素子において、斜入射光に生じる偏光の乱れを補正するために、位相差Rthを所定の値に設定しているが、斜方蒸着においては、Nx、Ny、及びNzをそれぞれ独立して制御することは困難である。蒸着条件等を変更すると、NxとNyが同時に変化し、その変化量が異なることで複屈折△nが変化するため、Nx、Ny、及びNzを独立に制御することは難しい。特にNzは、斜め粒子形状や粒子間の空隙などによって影響を受けるため、Nx、Ny、及びNzの制御はさらに難しくなる。
【0071】
本実施の形態における複屈折層は、斜方蒸着により形成した2層以上の斜方蒸着多層膜による面内複屈折を利用して、例えば反射型光変調素子のプレチルト角によって生じる偏光の乱れを補正する。
【0072】
複屈折層の斜方蒸着膜の1層あたりの厚みは、5nm以上100nm以下、より好ましくは5nm以上30nm以下であることが好ましい。
図10は、斜方蒸着膜の膜厚を変化させたときの複屈折及び光学ロスの変化を示すグラフである。
図10に示すように、複屈折は、斜方蒸着膜の1層あたりの膜厚の増加に伴って増大する。また、光学ロスは、膜厚に増加に伴って減少するが、5nm未満では増加に転じる。これは、5nm未満の膜厚では、複屈折の発現に必要な構造体の形成が不十分なためだと考えられる。よって、斜方蒸着膜の1層の厚みは5nm以上であることが好ましい。
【0073】
また、斜方蒸着膜の1層あたりの膜厚が100nmより厚くなると、光学ロスが増加傾向にある。さらに、斜方蒸着膜の1層あたりの膜厚が光の波長よりも十分小さくない場合、斜入射光に対する位相差の正確な測定ができない。これは、光の波長より十分小さくない膜厚で積層すると、複屈折の軸が異なる2つの位相差素子が重なったようにふるまい、単純な「屈折率差と軸方向」という評価を行うことはできないからである。光の波長より十分に小さな膜厚で積層する場合、各層の複屈折の軸は無視できるようになり、全層で基材に対してほぼ垂直方向(z方向)に向いた1つの軸をもつ位相差補償素子と見なすことができるようになる。
【0074】
また、複屈折層の面内位相差R0は、0<R0<1000nmであり、複屈折層の面内屈折率(Nx−Ny)は、0.01<Nx−Ny<1であることが好ましい。また、各斜方蒸着膜において、Nx≠Ny≠Nzであることが好ましく、より具体的には、Nx>Ny≠Nzであることが好ましい。
【0075】
また、複屈折層の入射光に生じる位相差は、複屈折層が形成された基材面法線方向を中心として略対称の角度依存性を有することが好ましい。さらに、複屈折層の位相差の角度依存性の中心となる入射光方向と、Rd−AR膜が形成された基材面法線方向とが略一致することが好ましい。
【0076】
<1.3 複屈折層と反射防止層とを備える位相差補償素子>
本実施の形態における位相差補償素子は、前述のように、使用波長以下の厚みの斜方蒸着膜が積層された複屈折層と、屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層され、複屈折層における斜入射透過光の位相差に加え、任意の位相差を付与するRd−AR膜とを備える。
【0077】
位相差補償素子は、複屈折層により面内位相差R0を制御し、Rd−AR膜により斜入射光の位相差Rdを制御する。R0を制御する際にRdがどのような値を取ったとしても、Rd−AR膜によりRdを制御する。また、Rd−AR膜は、反射防止機能を有するため、別途反射防止膜を形成する必要はなく、リードタイムや設計工数を削滅することができる。また、位相差補償素子は、全て無機材料で形成されることから、耐光性・耐熱性の面で非常に有利である。また、薄膜プロセスで作製されることから、位相差の制御が容易、基板種類や基板の厚み、基板のサイズを自由に選択できるなどメリットが非常に多い。
【0078】
図11は、位相差補償素子の一例を示す断面図である。
図11に示すように、位相差補償素子は、透明基板31と、透明基板31の一方の面に形成されたRd−AR膜32と、透明基板31の他方の面に形成された複屈折層33と、複屈折層33上に形成されたCVD(Chemical Vapor Deposition)誘電体膜34と、CVD誘電体膜34上に形成された反射防止膜35とを備える。
【0079】
透明基板31は、使用帯域の光に対して透明で、屈折率が1.1〜2.2の材料、例えば、ガラス、石英、水晶などで構成されている。本実施の形態では、透明基板31の構成材料として、石英を用いることが好ましい。石英は、優れた耐熱性と極めて低い熱膨張係数を持ち、光透過率が紫外から赤外の全波長にわたって非常に高いため、特に好ましく用いられる。
【0080】
Rd−AR膜32は、前述のように屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層され、複屈折層33における斜入射透過光の位相差に加え、任意の位相差を付与する。また、誘電体膜の膜厚tは、位相差の符号を同一にするため、使用波長λに対し、λ/100≦t≦λ/2の関係を満たすことが望ましい。また、誘電体膜の層数dは、位相差Rdの波長分散を小さくするため、8≦d≦1000の関係を満たすことが望ましい。
【0081】
複屈折層33は、前述のように斜方蒸着により使用波長以下の厚みの斜方蒸着膜を積層してなる斜方蒸着多層膜である。複屈折層33は、基板法線方向に対して対称な2方向から蒸着粒子を交互に堆積させてなり、1層あたりの膜厚が30nm以下であることが望ましい。
【0082】
CVD誘電体膜34は、緻密性の高い膜であり、CVD法により成膜することにより得ることができる。このCVD誘電体膜34を成膜することにより、複屈折層33への大気中の水分の出入りを防止することができる。
【0083】
反射防止膜(AR膜)35は、例えば、高屈折率膜、低屈折率膜から成る多層薄膜であり、表面反射を防ぎ、透過性を向上させる。
【0084】
このような構成の位相差補償素子によれば、複屈折層にて面内位相差R0を制御し、位相差付与反射防止層にて斜入射透過光の位相差Rdを制御するとともに反射を防止し、偏光の乱れを効果的に補償することができる。
【0085】
また、
図12、
図13に示す位相差補償素子の構成例のように複屈折層33上にRd−AR膜321、322、323を形成したり、
図14に示す位相差補償素子の構成例のように透明基板31の両面にRd−AR膜324、325、326を形成したりしても構わない。位相差補償素子に複数のRd−AR膜を形成する場合、目的とする位相差Rdは、各Rd−AR膜の位相差の合計である。
【0086】
図12に示す位相差補償素子は、透明基板31と、透明基板31の一方の面に形成されたRd−AR膜321と、透明基板31の他方の面に形成された複屈折層33と、複屈折層33上に形成されたCVD誘電体膜34と、CVD誘電体膜34上に形成されたRd−AR膜322とを備える。
【0087】
また、
図13に示す位相差補償素子は、透明基板31と、透明基板31の一方の面に形成された反射防止膜35と、透明基板31の他方の面に形成された複屈折層33と、複屈折層33上に形成されたCVD誘電体膜34と、CVD誘電体膜34上に形成されたRd−AR膜323とを備える。
【0088】
また、
図14に示す位相差補償素子は、透明基板31と、透明基板31の一方の面に形成されたRd−AR膜324と、透明基板31の他方の面に形成されたRd−AR膜325と、複屈折層33と、Rd−AR膜325上に形成された複屈折層33と、複屈折層33上に形成されたCVD誘電体膜34と、CVD誘電体膜34上に形成されたRd−AR膜326とを備える。
【0089】
このような構成例によれば、両面の誘電体多層膜の応力差を抑制することができ、基板の反りを小さくすることが可能となる。また、厚みが薄い透明基板を使用し、Rd−AR膜の応力による基板の反りが問題となる場合、透明基板31上に誘電体膜からなる応力調整層を形成し、複屈折層33を応力調整層側に形成することが好ましい。具体的には、透明基板31と複屈折層33の間に、透明基板31の屈折率に近い、例えばSiO
2などの誘電体膜を応力調整層として1nm〜5000nm挿入する。透明基板31と複屈折層33の間であれば、位相差素子の反射特性に大きな影響を与えることはない。
【0090】
<2.位相差補償素子の製造方法>
次に、本実施の形態における位相差補償素子の製作方法について説明する。
図15は、本発明の一実施の形態に係る位相差補償素子の製造方法を示すフローチャートである。ここでは、
図11に示す構成の位相差補償素子の製造方法について説明する。
【0091】
先ず、ステップS1では、透明基板31の一方の面に、スパッタ法、CVD法、蒸着法などによりRd−AR膜32を成膜する。誘電体には、前述のように、Ta
2O
5、TiO
2、SiO
2、Al
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5などの酸化物、又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0092】
ステップS2では、透明基板31の他方の面に、斜方蒸着により複屈折層33を成膜する。斜方蒸着は、基板法線方向に対して対称な2方向から蒸着材料を交互に堆積させる。
具体的には、成膜する度に透明基板31を面内方向に180°回転させることにより、成膜方向が異なる多数層からなる斜方蒸着膜を成膜する。この際、1層あたりの膜厚を使用波長以下とする多層構造とする。蒸着材料としては、前述のようにTa
2O
5、TiO
2、SiO
2、Al
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5などの酸化物、又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。なお、基板の回転角度は180℃に限らず、位相差補償素子の用途によって任意の回転角度としても構わない。
【0093】
また、複屈折層33の成膜後に、色抜き、及び柱状組織間に吸着している水分を蒸発させるためにアニール処理を行う。アニール処理は、柱状組織間の水分が十分に蒸発する100℃以上であることが好ましい。また、温度を上げすぎると、柱状組織同士が成長して空隙部が減少し、複屈折の低下、透過率の低下などが起こるため、300℃以下であることが好ましい。また、アニール処理後、複屈折層33への大気中の水分の出入りを防止するため、プラズマCVDにより緻密性の高いCVD誘電体膜34を成膜する。
【0094】
ステップS3では、透過率向上の目的で、スパッタによりCVD誘電体膜34上に反射防止膜(AR膜)35を成膜する。AR膜は一般的に用いられる高屈折膜、低屈折膜からなる多層薄膜としても構わない。
【0095】
ステップS4では、所望の大きさに切断する。切断には、ガラススクライバー、ダイシング等の切断装置を用いることができる。
【0096】
以上の製造方法により、入射光の反射が低減され、かつ視野角依存性が改善された位相差素子を得ることができる。
【0097】
<3.液晶プロジェクターへの適用例>
次に、本実施の形態における位相差補償素子を投射型画像投影装置に搭載させた適用例について説明する。
【0098】
投射型画像投影装置に適用させた位相差補償素子において、Rd−AR膜が付与する位相差Rdは、使用する波長帯域の任意の波長λにおいて、入射光角度0°〜25°の範囲で、1<Rd(λ)/Rd(λ')<1.5(λ<λ’)であることが好ましい。Rd(λ)/Rd(λ')が1.5以上であると、液晶分子によって生じる位相差の波長分散を大きく上回ってしまうため、コントラストが低下するおそれがある。Rd(λ)/Rd(λ')を1.5より小さくすることにより、コントラスト低下を抑制できる。また、液晶分子の波長分散は通常1以上であるため、Rd(λ)/Rd(λ')も1以上であることが好ましい。
【0099】
投射型画像投影装置では、液晶セル上に表示される画像に対して平面偏光を入射し、液晶セル上の画像に対応する画素により反射される楕円偏光から所定の平面偏光を取り出し、投射レンズによりスクリーン上に投射する。
【0100】
図16は、投射型画像投影装置に用いられる光学エンジンの一部の構成を示す概略断面図である。この投射型画像投影装置は、垂直配向液晶層40と、反射型光変調素子41と、位相差補償素子43と、反射型偏光子42とを備える反射型液晶プロジェクターである。ここで、位相差補償素子43は、前述のように複屈折層と、位相差付与反射防止層とを備え、位相差付与反射防止層は、複屈折層で生じる斜入射光位相差とは逆の位相差を付与させ、さらに位相差の値を制御する。これにより、複屈折層により反射型光変調素子41のプレチルト角によって生じる偏光の乱れを補正し、また、位相差付与反射防止層により反射型光変調素子41への斜入射光によって生じる偏光の乱れを補正し、さらに、位相差付与反射防止層により反射を防止することができるため、高いコントラストを得ることができる。
【0101】
この反射型液晶プロジェクターにおいて、光源より発せられた光は、平面偏光に変換されたのちR(赤)、G(緑)、B(青)の各色光に分解され、各色に設けられた反射型偏光子42に入射される。反射型偏光子42の偏光面で反射するS偏光、又は透過するP偏光は、位相差補償素子43を介して反射型液晶層40に入射し、画素ごとに変調した反射光が出射し、再度位相差補償素子43を介して反射型偏光子42に戻る。
【0102】
垂直配向液晶40は、無電圧印加状態(黒状態)で液晶分子が垂直に配向しており、この垂直配向液晶40を備える反射型光変調素子41に対して垂直に光束を入射した場合には複屈折は生じない。そのため、反射型偏光子42に入射し、所定の直線偏光とされた光束は、偏光が乱れることなく、再び反射型偏光子42に入射、透過し、スクリーンに光が漏れることはない。
【0103】
また、反射型光変調素子41に所定の角度を持って入射した場合、複屈折により偏光状態が乱れるが、反射型光変調素子41と反射型偏光子42との間に位相差補償素子43を設けることにより、偏光が補正されるため、再び反射型偏光子42に入射した光の一部がスクリーンに到達するのを防ぐことができる。
【0104】
また、横電界による液晶分子の配向乱れの抑制や、液晶分子の応答速度の改善のため、液晶分子を反射型光変調素子の面に対し所定の角度(プレチルト角)傾けた場合は、反射型光変調素子41に垂直に入射した光束も複屈折により偏光状態が乱れるが、反射型光変調素子41と反射型偏光子42との間に位相差補償素子43を設けることにより、偏光が補正されるため、再び反射型偏光子42に入射した光の一部がスクリーンに到達するのを防ぐことができる。
【0105】
このように位相差補償素子を用いて黒輝度補正を行うことにより、表示画像のコントラストを向上させることができる。なお、本技術を適用した位相差補償素子は、前述した適用例に限られるものではなく、例えば、斜入射光の位相差の制御を必要とする1/4波長板や1/2波長板などにも応用可能である。また、本技術を適用した位相差補償素子は、光ピックアップ、レーザ機器などの光学機器にも適用することができる。
【実施例】
【0106】
<4.実施例>
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
[実施例1]
実施例1として、
図11に示す構成の位相差補償素子を作成した。透明基板31として石英基板を用い、石英基板の一方の面上に、相対的高い屈折率Naを有する誘電体aと、比較的低い屈折率Nbを有する誘電体膜bを交互に積層させ、Rd−AR膜32を成膜した。誘電体a及び誘電体bの屈折率は、それぞれλ=450nmにおいてNa=2.42、Nb=1.48であった。
【0108】
図17は、実施例1のRd−AR膜の各膜厚を示す図である。実施例1のRd−AR膜は、Blue帯域での反射防止膜として機能し、かつ位相差補償素子を透過する25°斜入射光の位相差Rd(25)が約−16nmになるように設計した。ここで、負の位相差は、複屈折層における斜入射光の位相差と符号が逆の位相差であることを意味する。以下同様である。実際に作製したRd−AR膜を測定した結果、450nmの波長でRd(25)=−17nmが得られた。
【0109】
このRd−AR膜を形成した面と反対側の面に、Ta
20
5を主成分とした蒸着材料を、基板法線方向に対して蒸着源が70°になるように蒸着を行った。この際、7nm成膜することに基板を面内方向に180°回転させ、成膜方向が異なる斜方蒸着多層膜からなる複屈折層33を作製した。複屈折層33の膜厚は、Blue帯域での面内リタデーションR0が14nmとなるように約140nmとした。
【0110】
蒸着後、色抜き、及び柱状組織間に吸着している水分を蒸発させるために、200℃でのアニール処理を行った。アニール後、斜方蒸着膜への大気中の水分の出入りを防止するため、プラズマTEOS−CVDにより緻密性の高いCVD誘電体膜を成膜した。その後、スパッタにより蒸着膜上に、相対的高い屈折率Naを有する誘電体aと、比較的低い屈折率Nbを有する誘電体膜bとの5層構造の反射防止膜35を成膜し、位相差補償素子を作成した。
【0111】
図18及び
図19は、それぞれ実施例1の位相差補償素子の透過率、及び反射率を示すグラフである。
図18及び
図19に示すように、透過率99.5%以上、反射率0.2%以下の実用的な特性を持つ位相差補償素子が得られた。また、位相差補償素子は、RO=14nm、Rd(25)=−16nmであった。すなわち、複屈折層は、斜入射光の位相差Rd(25)が+1nmほどであり、これをRd−AR膜がキャンセルしてRd(25)=−16nmとすることができた。また、実施例1の位相差補償素子を投射型画像投影装置に適用したところ、例えば反射防止膜に位相差を付与していない位相差補償素子と比較して、約2倍のコントラストを得ることができた。
【0112】
また、実施例1における位相差補償素子の複屈折層は、斜方蒸着多層膜であるため、角度依存性を向上させる効果を有する。
図20は、斜方蒸着による複屈折層を模式的に示す斜視図である。この素子面内において、進相軸(斜方蒸着方向と平行な方向)をx軸、遅相軸(斜方蒸着方向と垂直な方向)をy軸とし、素子法線方向をz軸とする。このとき、z軸方向からの入射光角度を0とする。xz平面上に入射光を傾けた場合の角度をθとし、yz平面上に傾けた場合の角度をφとする。
【0113】
図21は、実施例1の位相差補償素子のリタデーションの入射光角度(θ)依存性を示すグラフである。また、
図22は、実施例1の位相差補償素子のリタデーションの入射光角度(φ)依存性を示すグラフである。また、
図23は、複屈折層が単層構造である位相差補償素子のリタデーションの入射光角度(θ)依存性を示すグラフである。また、
図24は、複屈折層が単層構造である位相差補償素子のリタデーションの入射光角度(φ)依存性を示すグラフである。これらは、入射光角度0のときのリタデーションの値で規格化した。
【0114】
図21及び
図22に示すように、実施例1の位相差補償素子は、光軸に対してリタデーションの分布が左右対称となっているが、複屈折層が単層構造である場合は、
図23に示すようにθ方向のリタデーションは左右対称になっていないことが分かる。これは斜方蒸着により成長したコラムが斜め構造を持つためである。
【0115】
図21及び
図22に示すように実施例1の位相差補償素子は、入射光により生じる複屈折層の位相差が基材面法線方向を中心として略対称の角度依存性を有し、さらに、複屈折層の位相差の角度依存性の中心となる入射光方向と、Rd−AR膜が形成された基材面法線方向とが略一致している。
【0116】
また、積層構造であっても1層辺りの膜厚が光の波長より小さくない場合、前述したようにφ方向のリタデーションは、正確な測定を行うことができないが、実施例のように光の波長より十分に小さな膜厚で積層した場合、全層で基材に対してほぼ垂直方向に向いたひとつの軸を持つ位相差補償素子と見なすことができ、実用的な位相差補償素子を得ることができる。
【0117】
[実施例2]
位相差補償素子を透過する斜入射光の位相差が、Green帯域でRd(25)が約−16nmとなるRd−AR膜を設計した以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0118】
図25は、実施例2のRd−AR膜の各膜厚を示す図である。このRd−AR膜を備えた位相差補償素子のRd(25)の測定結果は、540nmの波長で−16nmであった。このRd−AR膜を備える位相差補償素子を投射型画像投影装置に適用したところ、反射防止膜に所定の位相差を付与していない位相差補償素子と比較して、数倍のコントラストを得ることができた。
【0119】
[実施例3]
位相差補償素子を透過する斜入射光の位相差が、Red帯域でRd(25)が約−16nmとなるRd−AR膜を設計した以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0120】
図26は、実施例3のRd−AR膜の各膜厚を示す図である。このRd−AR膜を備えた位相差補償素子のRd(25)の測定結果は、632nmの波長で−16nmであった。このRd−AR膜を備える位相差補償素子を投射型画像投影装置に適用したところ、反射防止膜に所定の位相差を付与していない位相差補償素子と比較して、数倍のコントラストを得ることができた。
【0121】
[実施例4]
位相差補償素子を透過する斜入射光の位相差が、可視光帯域(450〜650nm)でRd(25)が約−16nmとなるRd−AR膜を設計した以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0122】
図27は、実施例4のRd−AR膜の各膜厚を示す図である。このRd−AR膜を備えた位相差補償素子のRd(25)の測定結果は、540nmの波長で−16nmであった。このRd−AR膜を備える位相差補償素子を投射型画像投影装置に適用したところ、反射防止膜に所定の位相差を付与していない位相差補償素子と比較して、数倍のコントラストを得ることができた。ただし、Rd(25)の波長分散は大きかった。
【0123】
[比較例1]
位相差補償素子を透過する斜入射光の位相差が、Blue帯域でRd(25)が約−16nmとなるRd−AR膜を設計した。このとき、実施例1と比較して少ない層数でRd−AR膜を設計した。それ以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0124】
図28は、比較例1のRd−AR膜の各膜厚を示す図である。このRd−AR膜を備えた位相差補償素子のRd(25)の測定結果は、460nmの波長で−16nmであった。また、Rd(25,435)/Rd(25,495)=1.57であった。ここで、Rd(25,435)は、λ=435nmでの25°の斜入射光に付与する位相差であり、Rd(25,495)は、λ=495nmでの25°の斜入射光に付与する位相差である。このRd−AR膜を備える位相差補償素子を投射型画像投影装置に適用したところ、Rd(25,435)/Rd(25,495)=1.26である実施例1の位相差補償素子と比較して、コントラストが20%低下した。
【0125】
以上のように、本実施の形態における位相差補償素子は、斜方蒸着膜により面内の位相差(R0)を、誘電体多層膜により斜入射光の位相差(Rd)をそれぞれ独立に制御するため、位相差制御性を著しく向上させることができる。また、誘電体多層膜に位相差と反射防止の機能とを付与することにより、作製プロセスを大幅に低減することができる。
【0126】
また、本実施の形態における位相差補償素子を投射型画像投影装置に適用することにより、輝度、コントラスト、及び視野角特性を改善することができる。
【0127】
なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形や変更が行えることは勿論である。例えば、実施例では、複屈折層の斜方蒸着膜の膜厚が全て等しいため、複屈折の軸はz軸方向となるが、例えば、各膜厚を交互に変えることにより、軸方向を任意に傾けることができる。
【0128】
また、実施例では、位相差補償素子について説明したが、本技術は、斜入射光の位相差の制御を必要とする1/4波長板や1/2波長板などにも応用可能である。