特許第6502092号(P6502092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6502092-積層セラミックコンデンサ 図000006
  • 特許6502092-積層セラミックコンデンサ 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502092
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20190408BHJP
【FI】
   H01G4/30 201L
   H01G4/30 515
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-266258(P2014-266258)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-127120(P2016-127120A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(74)【代理人】
【識別番号】100151828
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 将市
(72)【発明者】
【氏名】川村 知栄
(72)【発明者】
【氏名】志村 哲生
(72)【発明者】
【氏名】龍 穣
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】小西 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 誉志紀
【審査官】 上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−330160(JP,A)
【文献】 特開2009−107852(JP,A)
【文献】 特開2010−232248(JP,A)
【文献】 特開2007−246347(JP,A)
【文献】 特開2004−043279(JP,A)
【文献】 特開2002−020166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と極性の異なる内部電極層とが交互に積層されてなる積層体を備える積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体層は、Ba、Ti及びX(ここで、XはMo,Ta,Nb及びWからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である)を有するセラミック粒子を含み、
前記セラミック粒子を透過型電子顕微鏡で観察したとき、その最大直径に沿った、該直径の中央部分、隣接セラミック粒子との粒界部分、及び中央部分と粒界部分との中間部分の3か所について、TEM−EDS測定でXのピーク強度(XKα)及びBaとTiのピーク強度(BaL+TiK)を求め、その強度比(XKα/(BaL+TiK))を計算し、3か所の強度比の平均値(Ave)を求めたとき、各箇所でのピーク強度比(Pi)の前記平均値(Ave)からのバラツキ;(Pi−Ave)/Ave ×100%が、±5%以内である、積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体層中におけるXの濃度が、Ti100molに対して0.05〜0.3molである、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記セラミック粒子の平均粒子径が80〜800nmである、請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記セラミック粒子が、主にチタン酸バリウムにより構成される、請求項1〜3のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記誘電体層が、前記XとしてMoを有する、請求項1〜4のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体層を構成するセラミック粒子における所定のドナー元素の濃度分布が略均一である、積層セラミックコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やタブレット端末などのデジタル電子機器に使用される電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、当該回路を構成する積層セラミックコンデンサ(MLCC)の小型化、大容量化が急速に進んでいる。
【0003】
積層セラミックコンデンサの容量は、当該コンデンサを構成する誘電体層の構成材料の誘電率や誘電体層の積層数に比例し、誘電体層一層あたりの厚みに反比例する。そこで、小型化の要求にもこたえるため、材料の誘電率を高め、かつ誘電体層の厚みを薄くしてその積層数を増加させることが求められる。
【0004】
しかし、誘電体層を薄層化すると、単位厚み当りにかかる電圧が増し、誘電体層の寿命時間が短くなり、積層セラミックコンデンサの信頼性が低下してしまう。そこで寿命の改善のため、ドナー元素であるMoやWを添加する誘電体組成が提案されている。
【0005】
また、誘電体層を構成するセラミック粒子中における前記ドナー元素などの添加元素の存在割合の分布も、MLCCの性能に影響する。この点に関して例えば特許文献1には、絶縁破壊電圧の向上を図ることができる誘電体磁器として、結晶粒の粒界から中心までの全域に、Mn,V,Cr,Co,Ni,Fe,Nb,Mo,Ta,W等の添加元素がほぼ均一に分布している誘電体磁器が記載されている。当該文献の実施例では、炭酸バリウム、酸化チタン及び前記添加元素の酸化物を混合して1200℃で仮焼し、その他の添加元素化合物を加えてさらに酸化性雰囲気中で1000℃で仮焼し、得られた磁器原料混合物を利用してグリーンシートを調製し、これを積層して還元性雰囲気中で1200℃で2時間焼成し、続いて酸化性雰囲気中で600℃で30分熱処理して積層コンデンサを得ている。このようにして得られた積層コンデンサにおける誘電体磁器における添加元素の分布は、前記のとおりほぼ均一と規定されているものの、実際は粒界部分と中心部分とで7倍程度の差があったことが当該文献に記載されている。
【0006】
特許文献2には、誘電体層を多層化・薄層化しても絶縁破壊等に起因する寿命の低下がない、小型大容量化が可能な積層セラミックコンデンサとして、セラミック粒子を結晶性のコア部と該コア部を囲繞するシェル部とで構成し、該コア部にMn、V、Cr、Mo、Fe、Ni、Cu、Coなどの添加元素を添加し、かつ、これらの添加元素の濃度が、コア部の中心からシェル部に向かって高くなる構成とした、積層セラミックコンデンサが提案されている。当該文献の実施例では、炭酸バリウム、酸化チタン及び前記添加元素の化合物を混合し、200℃で2時間仮焼きして添加元素を含むチタン酸バリウムを合成し、続いて他の添加元素を追加して1000℃で2時間仮焼きしてセラミック粒子を得て、これを利用してセラミックグリーンシートを調製し、これを積層して還元性雰囲気で1130℃で3時間焼結し、続いて酸化性雰囲気下に600℃で30分加熱して積層セラミックコンデンサを得ている。そして得られた積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体層を形成するセラミック粒子のコア部の添加元素の濃度が290ppm程度であり、シェル部の添加元素の濃度が410ppm程度であったことが示されている。
【0007】
また、特許文献3には、容量温度特性が良好で、かつ寿命特性に優れた積層セラミックコンデンサを与える誘電体セラミックとして、コア部及びシェル部を備え、副成分として希土類元素R、及びM(MはMg,Mn,Ni,Co,Fe,Cr,Cu,Al,Mo,W及びVからなる群より選ばれる少なくとも一種)を含み、R及びMの合計濃度が、粒界からコア部に向かって勾配を有し、かつ、極小となる部分と極大となる部分とを有していることを特徴とする、チタン酸バリウム系セラミック粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−330160号公報
【特許文献2】特開2001−230150号公報
【特許文献3】特開2011−256091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの文献に記載の発明では誘電体層の厚みが0.8μm以下である場合の寿命特性に改善の余地がある。具体的には、セラミック粒子中において添加元素の分布の高低があると、濃度の低い部分で酸素欠陥が多くなり、寿命特性が低下する。
【0010】
そこで本発明は、誘電体層厚みが0.8μm以下でも寿命特性に優れ、さらにバイアス特性にも優れた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、特にMo、Ta、Nb及びWのドナー成分については、誘電体セラミックの中で濃度分布の高低が存在すると、その特性を十分活かせないことが判明した。ドナー成分の存在量が少ない箇所が存在すると、そこで酸素欠陥量が多くなり、ドナー成分による寿命の改善効果が十分には得られない。
【0012】
さらに、これらのドナー成分の濃度の高い部分ではバイアス特性が下がり、その結果積層セラミックコンデンサ全体のバイアス特性も低下してしまうことが判明した。
【0013】
このような問題点を解決し、上記課題を解決した本発明は、誘電体層と極性の異なる内部電極層とが交互に積層されてなる積層体を備える積層セラミックコンデンサであって、前記誘電体層は、Ba、Ti及びX(ここで、XはMo,Ta,Nb及びWからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である)を有するセラミック粒子を含み、前記セラミック粒子における前記Xの濃度分布が±5%以内である、積層セラミックコンデンサである。
【0014】
前記誘電体層中におけるXの濃度は、積層セラミックコンデンサの寿命特性の観点からTi100molに対して0.05〜0.3molであることが好ましい。
【0015】
また、前記セラミック粒子の平均粒子径は、誘電体層の薄層化の観点から80〜800nmであることが好ましい。
【0016】
前記セラミック粒子は、通常は主にチタン酸バリウムにより構成されており、これに添加元素であるXが固溶などしている。
【0017】
また、前記誘電体層は、積層セラミックコンデンサの寿命特性の観点から、前記XとしてMoを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、誘電体層厚みが0.8μm以下でも寿命特性及びバイアス特性に優れた積層セラミックコンデンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態による、積層セラミックコンデンサの概略の縦断面図である。
図2図2は、セラミック粒子におけるドナー元素Xの濃度(Ba及びTiとのピーク強度比)を測定する三つの箇所を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサを説明する。図1は、本発明の積層セラミックコンデンサ1の概略縦断面図である。
【0021】
[積層セラミックコンデンサ]
積層セラミックコンデンサ1は、規格で定められたチップ寸法及び形状(例えば1.0×0.5×0.5mmの直方体)を有するセラミック焼結体10と、セラミック焼結体10の両側に形成される一対の外部電極20とから概ね構成される。セラミック焼結体10は、Ba及びTiを含む粒子結晶を主成分とし、内部に誘電体層12と内部電極層13とが交互に積層されてなる積層体11と、積層方向上下の最外層として形成されるカバー層15とを有している。
【0022】
積層体11は、静電容量や要求される耐圧等の仕様に応じて、2枚の内部電極層13で挟まれる誘電体層12の厚さが0.8μm以下であって、全体の積層数が百〜数百の高密度多層構造を有している。
【0023】
積層体11の最外層部分に形成されるカバー層15は、誘電体層12及び内部電極層13を外部からの湿気やコンタミ等の汚染から保護し、それらの経時的な劣化を防ぐ。
【0024】
また、内部電極層13はその端縁が、誘電体層12の長さ方向両端部にある極性の異なる一対の外部電極20に交互に引き出されている。
【0025】
そして本発明の積層セラミックコンデンサ1の誘電体層12は、Ba、Ti及びドナー元素Xを有するセラミック粒子を含み、前記セラミック粒子における前記ドナー元素Xの濃度分布が±5%以内である。前記Xは具体的には、Mo,Ta,Nb及びWからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。
【0026】
このようにドナー元素Xの濃度分布が略均一であることによって、誘電体層12を構成するセラミック粒子の全体にわたってXによる効果が奏され、酸素欠陥量のバラツキがほとんど生じず、寿命特性やバイアス特性(DC電圧を印加した時の静電容量の変化率の小ささ)が効率的に改善される。さらに、このような均一な分布により少量のドナー元素Xの添加で効果が得られるため、濃度分布を持つ場合に比べて、ドナー元素Xの添加量の点からも濃度が特に高い箇所が存在しない点からも、誘電率やバイアス特性の低下が抑えられる。
【0027】
また、濃度分布が±5%以内であるとは、具体的には、前記セラミック粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したとき、その最大直径に沿った、該直径の中央部分、隣接セラミック粒子との粒界部分、及び中央部分と粒界部分との中間部分におけるXの濃度が±5%のばらつきの範囲内にある、ということである(図2も参照)。
【0028】
さらに具体的には、以下の通りである。すなわち、前記の3か所について、TEM-EDS測定でXのピーク強度(XKα)及びBaとTiのピーク強度(BaL+TiK)を求め、その強度比(XKα/(BaL+TiK))を計算する。この結果3つの強度比が計算されることになり、これらの強度比は、各測定箇所でのBa及びTiに対するXの相対量を示している。そして3つの強度比の平均値(Ave)を求めたとき、各箇所でのピーク強度比(Pi)の前記平均値(Ave)からのバラツキ(下式で定義される)が、全て±5%の範囲内にあるかを調べる。
【0029】
【数1】
【0030】
そしてこのようなピーク強度比及び平均値並びにバラツキの計算を、積層セラミックコンデンサの任意の誘電体層におけるセラミック粒子10粒子について行ったとき、本発明では8個以上の粒子において、前記中央部分、粒界部分及び中間部分の全ての箇所で、ピーク強度比の平均値からのバラツキが±5%の範囲内にある。実際には、一つのセラミック粒子についてバラツキを求める時、強度比の最大値と最小値について、平均値からのバラツキを求めればよいことになる。
【0031】
なお、以上のピーク強度比等の測定は、積層セラミックコンデンサ1から所定の試料を作製し、当該試料においてセラミック粒子を観察することにより行う。試料の作製方法については実施例でその詳細を説明する。
【0032】
積層セラミックコンデンサ1の寿命特性やバイアス特性の観点からは、ピーク強度比及び平均値並びにバラツキの計算を、積層セラミックコンデンサの任意の誘電体層におけるセラミック粒子10粒子について行ったとき、9個以上の粒子において、中央部分、粒界部分、及び中間部分の全ての箇所で、ピーク強度比の平均値からのバラツキが±5%の範囲内にあることが好ましく、10個すべての粒子においてバラツキが前記範囲内にあることがより好ましい。
【0033】
また、誘電体層12中におけるXの濃度は、本発明の効果を奏する限り特に制限されるものではないが、積層セラミックコンデンサ1の寿命特性及びバイアス特性の観点から、誘電体層12中におけるTi100molに対して0.05〜0.3molであることが好ましい。
【0034】
また、Xとしては、積層セラミックコンデンサ1の寿命特性及びバイアス特性の観点から、Moが好ましい。
【0035】
本発明の積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12が、以上説明した、ドナー元素Xの濃度分布が均一な新規なセラミック粒子を含んでいる。
【0036】
このようなセラミック粒子の平均粒子径は特に制限されるものではないが、誘電体層12の薄層化の観点から、好ましくは80〜800nmである。なお、本明細書において平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)またはTEMでセラミック粒子を観察し、1つの画像に80粒子程度となるように倍率を調整し、合計で300粒子以上となるように複数枚の写真を得て、写真上の粒子全数について計測したFeret径の平均値である。なお、Feret径とは、粒子を挟む2本の平行接線間の距離で定義される定方向接線径である。
【0037】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
以下、以上説明した本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。
まず、誘電体層を形成するための原料粉末を用意する。前記誘電体層はBa及びTiを含んでおり、これは通常チタン酸バリウムの粒子の焼結体の形で誘電体層に含まれる。
【0038】
チタン酸バリウムはペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このチタン酸バリウムは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得られる。なお、チタン原料の比表面積は、微細なチタン酸バリウムの合成と、誘電体層中のセラミック粒子内のドナー元素Xの濃度バラツキ抑制の観点から10〜300m/gの範囲にあることが好ましく、バリウム原料の比表面積は、微細なチタン酸バリウムの合成と、誘電体層中のセラミック粒子内のドナー元素Xの濃度バラツキ抑制の観点から10〜50m/gの範囲にあることが好ましい。
【0039】
前記チタン酸バリウムの合成方法としては従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾルゲル法、水熱法等が知られている。本発明においては、これらのいずれも採用可能である。
【0040】
なお、本発明においては誘電体層においてセラミック粒子におけるドナー元素Xの濃度分布を略均一とするために、一つの方法として、チタン原料とバリウム原料にXを含む化合物(例えば酸化物)を混合してチタン酸バリウムの合成反応を実施して、予めXが略均一に固溶したチタン酸バリウム粒子とする。
【0041】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加してもよい。前記添加化合物としては、MgO、MnCO、希土類元素(Y,Dy,Tm,Ho及びEr)の酸化物、並びにY,Sm,Eu,Gd,Tb,Er,Tm,Cr,V,Mn,Co,Ni,Li,B,Na、K及びSiの酸化物が挙げられる。
【0042】
上記のドナー元素Xを予めチタン酸バリウム粒子に固溶させる方法を採用すると、チタン酸バリウム粒子においてすでにXの濃度分布が±5%以内になるので、次に例示する別の方法の場合と異なり、誘電体層の形成においてそれほど粒成長させなくともよい。そのため誘電体層におけるセラミック粒子の平均粒子径を小さくすることができ、これにより誘電体層のさらなる薄層化が可能となる。
【0043】
別の方法として、チタン酸バリウムの合成においてはXを含む化合物を添加せず、チタン酸バリウム粒子を製造した後にXを含む化合物を添加し、最終的に誘電体層におけるセラミック粒子の体積の平均値が、チタン酸バリウム粒子の体積の平均値の8倍以上となるように焼成反応を実施する。このように誘電体層の形成においてセラミック粒子を一定以上大きく成長させることによって、粒子中におけるXの濃度分布が±5%以内になる。なお、前記体積の平均値は、各粒子の平均粒子径から球の体積としておおよそ求められる。
【0044】
本方法においては、好ましくはまずチタン酸バリウム粒子にXを含む化合物を混合して820〜1150℃で仮焼を行う。続いて、得られたチタン酸バリウム粒子を添加化合物(具体例は上記と同様である)とともに湿式混合し、乾燥、粉砕してセラミック粉末を調製する。
【0045】
以上説明したセラミック粉末の調製方法において用いられる、Xを含む化合物の比表面積は、誘電体層中のセラミック粒子内のドナー元素Xの濃度バラツキ抑制の観点から、好ましくは、2〜20m/gである。
【0046】
また、例えば以上説明した方法により得られ、本発明の積層セラミックコンデンサの製造に用いられるチタン酸バリウム粒子の平均粒子径は、誘電体層の薄層化の観点から、好ましくは50〜150nmである。前記平均粒子径の測定方法は、セラミック粒子の平均粒子径の測定方法と同様である。
【0047】
例えば上記のようにして得られたセラミック粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節したり、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。
【0048】
そして前記セラミック粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダ、エタノール及びトルエン等の有機溶剤並びにフタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤を加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に厚み1.2μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。そして、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む金属導電ペーストをスクリーン印刷やグラビア印刷により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層のパターンを配置する。前記金属としては、コストの観点からニッケルが広く採用されている。なお、前記金属導電ペーストには共材として、平均粒子径が50nm以下のチタン酸バリウムを均一に分散させてもよい。
【0049】
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた前記誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層13と誘電体層12とが互い違いになるように、かつ内部電極層が誘電体層の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出されるように、所定層数(例えば100〜500層)だけ積層する。積層した誘電体グリーンシートの上下にカバー層15となるカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットし、その後に外部電極20となるNi導電ペーストを、カットした積層体の両側面に塗布して乾燥させる。これにより、積層セラミックコンデンサ1の成型体が得られる。なお、スパッタリング法によって、積層体の両端面に外部電極を厚膜蒸着してもよい。
【0050】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの成型体を、250〜500℃のN雰囲気中で脱バインダした後に、還元雰囲気中で1100〜1300℃で10分〜2時間焼成することで、前記誘電体グリーンシートを構成する各化合物が焼結して粒成長する。このようにして、内部に焼結体からなる誘電体層12と内部電極層13とが交互に積層されてなる積層体11と、積層方向上下の最外層として形成されるカバー層15とを有する積層セラミックコンデンサ1が得られる。
【0051】
なお、本発明においてはさらに、600〜1000℃で再酸化処理を実施してもよい。
【0052】
また、本発明において、チタン酸バリウムの調製においてドナー元素Xを予め固溶させない場合には、誘電体層におけるセラミック粒子の体積の平均値が、チタン酸バリウム粒子の体積の平均値の8倍以上となるように、焼成反応の温度や時間を適宜調整する。
【0053】
また、積層セラミックコンデンサの製造方法に関する他の実施形態としては、外部電極と誘電体とを別の工程で焼成させてもよい。例えば誘電体を積層した積層体を焼成した後に、その両端部に導電ペーストを焼き付けて外部電極を形成してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
ドナー元素XとしてMoを用いた。七モリブデン酸六アンモニウム四水和物をイオン交換水に溶解させ、分散剤を添加した水溶液に、BaCO(30m/g)及びTiO(50m/g)をBa/Tiモル比=1となるよう加えてスラリーとし、ビーズミルを使用して混合・分散した。
【0056】
なお、当該スラリーにおいて、チタン酸バリウム100molとしたとき、Mo添加量はMoO換算で0.05molとした。前記スラリーを乾燥し水を除去して、900℃で仮焼を行い、SEM写真から求めた平均粒子径が80nmのMo含有チタン酸バリウムを合成した。
【0057】
次に、Mo含有チタン酸バリウム100molに対し、Ho=0.5mol、MnCO=0.1mol、V=0.1mol、SiO=1.0molの比率で添加材を添加し、またBaCOまたはTiOを添加してBa/Tiモル比(Mo固溶チタン酸バリウム及び添加されるBaCOやTiOの合計におけるBaとTiとのモル比)が1.000となるようにし、溶剤を加えてスラリーとした。そのスラリーにPVBバインダーを加え、PETフィルム上に1.0μmの厚みでグリーンシートを塗工した。
【0058】
続いて、内部電極としてNi導電ペーストを前記グリーンシート上に印刷し、これを用いて1005形状の400層の積層セラミックコンデンサを作製した。脱バインダ処理を行った後、焼成については、1200℃還元雰囲気で0.5時間焼成、N雰囲気下800℃で再酸化処理を行った。焼成後の誘電体層の層厚は0.8μm、内部電極層の厚みは0.9μm、積層セラミックコンデンサの容量は約10μFであった。
【0059】
また、積層セラミックコンデンサの誘電体層中に含まれるMo量をICPにて測定し、チタン酸バリウム100molとしたとき、MoO換算でMo量は0.05molである事を確認した。
【0060】
また、誘電体セラミック各部位におけるMoの濃度分布については、TEM-EDS(日本電子(株)製TEM JEM-2100F、EDS検出器 日本電子(株)製JED-2300T)により測定を実施した。観察用の試料は、再酸化処理後の積層セラミックコンデンサを機械研磨(内部電極層と直角な面で研磨した)およびイオンミリングによって薄片化して作製し、試料厚みは0.05μmとした。
【0061】
EDS測定の領域は、Ni内部電極層で挟まれた誘電体セラミック部分で、図2に模式図を示すように、セラミック粒子の最大直径に沿って、該直径の中央部分、隣接セラミック粒子との粒界部分(隣り合う粒子との界面を含む)、及び中央部分と粒界部分との中間部分の3箇所について、それぞれ20nm×20nmの範囲で測定を行った。
【0062】
EDSにより、17.5keV付近のMoKαピークと、4.5keVのTiKα+BaLαのピークの面積から、強度比 MoKα/(TiKα+BaLα) を求めた。これを10個のセラミック粒子の各3か所について行った。得られた強度比(面積)の結果の一つを示すと、以下の通りである。
粒界=0.67×10-4,
中間部分=0.67×10-4,
中央部分=0.68×10-4
【0063】
前記の通り強度比の測定を10個のセラミック粒子の各3か所について行い、それぞれの粒子について、3つの強度比の平均値(Ave)を求めたときの、各箇所でのピーク強度比(Pi)の前記平均値(Ave)からのバラツキ(下式で定義される)が、全て±5%の範囲にあるかを調べた。結果を下記表1に示す。なお、下記表1において、「Mo濃度ばらつき」の列では、求められたバラツキの最大値が示されている。また、平均値及びMo濃度ばらつきの値はそれぞれ四捨五入した値が示されているが、Mo濃度ばらつきの計算においては、四捨五入しない平均値の値を用いた。
【0064】
【数2】
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示した通り、ピーク強度比の平均値からのバラツキは10粒子でほぼ一致し、全て±5%以内であった。予めMo化合物、BaCO及びTiOを混合し反応させた事で、誘電体セラミックにおいて、粒子中央部、粒界部及びそれらの中間部でのMo濃度分布が±5%以内になったと推察される。
【0067】
また、TEM観察から求めた誘電体層におけるセラミック粒子の平均粒子径は150nmであった。
【0068】
次に、作製した積層セラミックコンデンサの高温加速寿命(125℃、10V/μm直流電界下にて絶縁抵抗率(ρ)が1×1010Ωcmになるまでの時間)を測定したところ、36000秒であった。また、25℃、1kHzでのDCバイアス特性(0バイアス時の容量に対する3V/μmの容量の容量減少率)は50%であった。
【0069】
以下に説明する実施例2〜10並びに比較例1及び2を含めて、測定結果の一覧(原料チタン酸バリウム(X含有チタン酸バリウムも含む)の平均粒子径、X成分の種類及び量、誘電体層におけるセラミック粒子の平均粒子径、誘電体層の厚み、X成分の濃度バラツキが±5%以内の粒子個数、高温加速寿命試験結果、DC-バイアス特性)を下記表2に示した。
【0070】
[実施例2]
Mo材料として比表面積5m/gのMoOを用い、Mo添加量をMoO換算で0.2molとした以外は実施例1と同様に積層セラミックコンデンサを作製した。
【0071】
誘電体層におけるセラミック粒子10粒子について各3か所でピーク強度比を測定したところ、すべての粒子でMo濃度の平均値からのバラツキは±5%以内であった。また、高温加速寿命試験の結果は62100秒となり、DCバイアスの容量減少率は50%であった。
【0072】
[実施例3]
Mo添加量をMoO換算で0.3molとした以外は実施例1と同様に積層セラミックコンデンサを作製した。
【0073】
誘電体層におけるセラミック粒子10粒子について各3か所でピーク強度比を測定したところ、Mo濃度の平均値からのバラツキが±5%以内の粒子は10個であった。また、高温加速寿命試験の結果は65000秒となり、DCバイアスの容量減少率は50%であった。
【0074】
[実施例4]
Mo添加量をMoO換算で0.2molとし、950℃で平均粒子径150nmのMo含有チタン酸バリウム粒子を合成し、セラミックコンデンサ焼成温度を1300℃として誘電体セラミック粒子の平均粒子径を800nmとした以外は実施例1と同様に積層セラミックコンデンサを作製した。
【0075】
誘電体層におけるセラミック粒子10粒子について各3か所でピーク強度比を測定したところ、Mo濃度の平均値からのバラツキが±5%以内の粒子は10個であった。また、高温加速寿命試験の結果は61600秒となり、DCバイアスの容量減少率は65%であった。DCバイアスが65%となったのは、セラミック粒子の平均粒子径が800nmと大きいためと考えられる。
【0076】
[実施例5]
Mo添加量をMoO換算で0.2molとし、焼成後誘電体層厚を0.5μm、層数を250層とした以外は実施例1と同様に積層セラミックコンデンサを作製した。
【0077】
誘電体層におけるセラミック粒子10粒子について各3か所でピーク強度比を測定したところ、Mo濃度の平均値からのバラツキが±5%以内の粒子は10個であった。また、高温加速寿命試験の結果は42000秒となり、DCバイアスの容量減少率は50%であった。
【0078】
[実施例6]
分散剤を添加した水溶液に、BaCO(比表面積50m/g)及びTiO(300m/g)をBa/Tiモル比=1となるよう加えてスラリーとし、ビーズミルを使用して混合・分散した。前記スラリーを乾燥し水を除去して、890℃で仮焼を行い、SEM写真から求めた平均粒子径が50nmのチタン酸バリウムを合成した。
【0079】
当該チタン酸バリウムを用いて、チタン酸バリウム100molに対し、MoO=0.2molの比率でMoOを加え、895℃で熱処理し、平均粒子径80nmまで粒成長させた。このチタン酸バリウム100molに対し、添加材をそれぞれ、Ho=0.5mol、MnCO=0.1mol、V=0.1mol、SiO=1.0molの比率で添加し、またBaCOまたはTiOを添加してBa/Tiモル比(Mo固溶チタン酸バリウム及び添加されるBaCOやTiOの合計におけるBaとTiのモル比)が1.000となるようにし、溶剤を加えてスラリーとし、以降は実施例1と同様に積層セラミックコンデンサを作製した。
【0080】
なお、焼成温度を1230℃としたため、誘電体セラミック粒子の平均粒子径は160nmであった。Mo濃度の平均値からのバラツキが±5%以内になった粒子は8個であった。誘電体セラミック粒子より十分小さいチタン酸バリウム粒子(誘電体セラミック粒子の体積平均値/原料チタン酸バリウム粒子体積の平均値=8倍以上)を用いたことで、誘電体セラミック粒子中の各部位のMo量が均一になった。
【0081】
また、高温加速寿命試験の結果は62100秒となり、DCバイアスの容量減少率は55%であった。
【0082】
[実施例7、8、9、10]
X成分として、Ta、Nb、W、Mo+Taを用いて、X量をチタン酸バリウム100molとしたとき0.2molとした以外は実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを作製した。なお、X成分の原材料には、比表面積が5m/g以上の酸化物を用いた。
【0083】
誘電体層におけるセラミック粒子10粒子について各3か所でピーク強度比を測定したところ、成分Xの濃度の平均値からのバラツキは、実施例7、8、9ではすべて±5%以内となり、実施例10では、成分Xの濃度の平均値からのバラツキが5%以内となったのは9個であった。高温加速寿命試験の結果とバイアス特性は表2の通り良好であった。
【0084】
[比較例1]
Moを添加しない以外は実施例1と同様に積層セラミックコンデンサを作製した。
高温加速寿命試験の結果は1500秒となり、DCバイアスの容量減少率は50%であった。Moを添加しなかったので、バイアス特性は比較的良好であったが、寿命値が低い値となった。
【0085】
[比較例2]
平均粒子径80nmのチタン酸バリウムを用いて、チタン酸バリウム100molに対し、MoO=0.2mol、Ho=0.5mol、MnCO=0.1mol、V=0.1mol、SiO=1.0molを添加し、またBaCOまたはTiOを添加してBa/Tiモル比(Mo固溶チタン酸バリウム及び添加されるBaCOやTiOの合計におけるBaとTiのモル比)が1.000となるようにし、溶剤を加えてスラリーとした。以降は実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを作製した。
【0086】
誘電体層におけるセラミック粒子の平均粒子径は150nmであり、Mo濃度の平均値からのバラツキが±5%以内の粒子はなかった。誘電体セラミック粒子の体積の平均値が、原料に用いたチタン酸バリウム粒子の体積に比べ約7倍であったため、誘電体セラミック粒子中の各部位のMo量が均一にならなかった。
【0087】
また、高温加速寿命試験の結果は12000秒となり、Moを添加しない場合に比べれば長寿命となったが、Mo存在量が各部位で均一ではないため、実施例に比べ寿命が短く、DCバイアスの容量減少率も72%となり悪化した。
【0088】
以上の結果を下記表2にまとめた。
【0089】
【表2】
【符号の説明】
【0090】
1 積層セラミックコンデンサ
10 セラミック焼結体
11 積層体
12 誘電体層
13 内部電極層
15 カバー層
20 外部電極
図1
図2