(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)目標気孔率よりも気孔率が大きい仮多孔質体を表すデータであり、ボクセルの三次元上の位置を表す位置情報と、該ボクセルが空間であることを表す空間ボクセルか物体であることを表す物体ボクセルかを区別可能な情報を含むボクセル種別情報と、を対応づけた多孔質体データを取得する工程と、
(b)前記多孔質体データに基づいて流体解析を行うことにより、該多孔質体データで表される多孔質体内部を流体が通過する際の前記空間ボクセル毎の流速に関する情報を導出する工程と、
(c)前記流速に関する情報に基づいて、前記多孔質体データにおける前記空間ボクセルのうち前記流速の低いボクセルを優先的に前記物体ボクセルに置換して、前記多孔質体データの気孔率を前記目標気孔率にする工程と、
(d)前記置換後の多孔質体データに基づく多孔質体を形成する工程と、
を含む、
多孔質体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような多孔質体では、透過抵抗(単位厚みあたりの圧力損失)が低いほど好ましい。また、多孔質体の気孔率が低いほど、多孔質体の熱容量が高くなり多孔質体の均熱性が高くなるため、好ましい。しかし、気孔率が低くなるほど多孔質体中の気孔容積が小さくなることから、透過抵抗は大きくなる傾向にある。そのため、多孔質体において気孔率と透過抵抗とを共に十分小さくすることは困難であった。同様に、このような多孔質体では透過率が高いほど好ましいが、多孔質体において気孔率を十分小さくし且つ透過率を十分大きくすることは困難であった。すなわち、多孔質体において気孔率を十分小さくし且つ透過性(透過抵抗の低さ,又は透過率の高さ)を十分高めることは困難であった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、多孔質体の気孔率を十分小さくし且つ透過性を十分高くすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1の多孔質体は、
気孔率Pが20%〜60%、透過率kが1μm
2以上、且つk≧0.2823P−10.404である、
ものである。
【0008】
この本発明の第1の多孔質体は、気孔率Pが20%〜60%であり、透過率kが1μm
2以上であり、且つk≧0.2823P−10.404であるため、多孔質体の気孔率が十分小さく且つ透過率が十分大きくなっている。すなわち、多孔質体の気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高くなっている。このような本発明の第1の多孔質体は、例えば後述する本発明の多孔質体の製造方法によって得ることができる。
【0009】
本発明の第1の多孔質体は、k≦0.1627P−0.4955であってもよい。本発明の第1の多孔質体は、k≧0.1627P−3.0であってもよい。また、本発明の第1の多孔質体は、気孔率Pが25%以上であってもよいし、30%以上であってもよいし、50%以下であってもよい。本発明の第1の多孔質体は、透過率kが2μm
2以上であることが好ましい。本発明の第1の多孔質体は、透過率kが10μm
2以下であってもよいし、9μm
2以下あってもよい。本発明の第1の多孔質体は、透過抵抗が100Pa/mm以下であってもよい。
【0010】
本発明の第2の多孔質体は、
気孔率が25%〜50%且つ透過抵抗が100Pa/mm以下である、
ものである。
【0011】
この本発明の第2の多孔質体は、気孔率が25%〜50%であり、且つ透過抵抗が100Pa/mm以下であるため、多孔質体の気孔率と透過抵抗とが共に十分小さくなっている。すなわち、多孔質体の気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高くなっている。このような本発明の第2の多孔質体は、例えば後述する本発明の多孔質体の製造方法によって得ることができる。
【0012】
本発明の第1のハニカムフィルタは、
上述した本発明の第1の多孔質体からなり、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止され流体の流路となる複数のセルを形成する多孔質隔壁、
を備えたものである。
【0013】
この第1のハニカムフィルタでは、多孔質隔壁を構成する多孔質体の気孔率及び透過率kが上述した範囲にあるため、気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高くなっている。このような本発明の第1のハニカムフィルタは、例えば後述する本発明のハニカムフィルタの製造方法によって得ることができる。
【0014】
本発明の第2のハニカムフィルタは、
上述した本発明の多孔質体からなり、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止され流体の流路となる複数のセルを形成する多孔質隔壁、
を備えたものである。
【0015】
この第2のハニカムフィルタでは、多孔質隔壁を構成する多孔質体の気孔率及び透過抵抗が上述した範囲にあるため、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さくなっている。すなわち、気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高くなっている。このような本発明の第2のハニカムフィルタは、例えば後述する本発明のハニカムフィルタの製造方法によって得ることができる。
【0016】
本発明の多孔質体の製造方法は、
(a)目標気孔率よりも気孔率が大きい仮多孔質体を表すデータであり、ボクセルの三次元上の位置を表す位置情報と、該ボクセルが空間であることを表す空間ボクセルか物体であることを表す物体ボクセルかを区別可能な情報を含むボクセル種別情報と、を対応づけた多孔質体データを取得する工程と、
(b)前記多孔質体データに基づいて流体解析を行うことにより、該多孔質体データで表される多孔質体内部を流体が通過する際の前記空間ボクセル毎の流速に関する情報を導出する工程と、
(c)前記流速に関する情報に基づいて、前記多孔質体データにおける前記空間ボクセルのうち前記流速の低いボクセルを優先的に前記物体ボクセルに置換して、前記多孔質体データの気孔率を前記目標気孔率にする工程と、
(d)前記置換後の多孔質体データに基づく多孔質体を形成する工程と、
を含む、
ものである。
【0017】
この本発明の多孔質体の製造方法では、目標気孔率よりも気孔率が大きい仮多孔質体を表す多孔質体データを取得し、この多孔質体データに基づいて流体解析を行うことで、空間ボクセル毎の流速に関する情報を導出する。そして、導出した流速に関する情報に基づいて、多孔質体データにおける空間ボクセルのうち流速の低いボクセルを優先的に物体ボクセルに置換して、多孔質体データの気孔率を目標気孔率にする。こうすることで、流速の低い空間ボクセル、すなわち流体の透過に比較的寄与しない気孔を表す空間ボクセルを、優先的に物体ボクセルに置換することができる。そのため、空間ボクセルを物体ボクセルに置換して多孔質体データの気孔率を小さく(目標気孔率に近く)しても、置換後の多孔質体データで表される多孔質体の透過性は低下しにくい。したがって、置換後の多孔質体データで表される多孔質体は、元となった仮多孔質体の気孔率を目標気孔率まで低下させつつ、透過性の低下をより抑制したものとなり、気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高くなっている。そして、このような置換後の多孔質体データに基づく多孔質体を形成することで、気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高い多孔質体を得ることができる。例えば、気孔率が十分小さく且つ透過率が十分大きい多孔質体や、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さい多孔質体を得ることができる。
【0018】
ここで、「仮多孔質体」は、実在する多孔質体であってもよいし、実在しない多孔質体であってもよい。すなわち、工程(a)で取得する多孔質体データは、実在の仮多孔質体に3次元スキャンを行って得られた画像に基づくデータとしてもよいし、そのような実在の仮多孔質体が存在せず例えばコンピュータ上で作成されたデータとしてもよい。あるいは、工程(a)で取得する多孔質体データは、3次元スキャンに基づく多孔質体データをさらに加工したものとしてもよい。また、「流体解析」は、例えば格子ボルツマン法による解析としてもよい。また、流体解析として、前記多孔質体データで表される多孔質体の所定の流入面から流体が流入した場合の流体解析を行うものとしてもよいし、前記多孔質体の所定の流入面から所定の流出面へ流体が流れる場合の流体解析を行うものとしてもよい。「ボクセル毎の流速」は、ベクトル量であってもよいしスカラー量であってもよい。「前記多孔質体データの気孔率を前記目標気孔率にする」とは、多孔質体データの気孔率を目標気孔率と一致させることや、多孔質体データの気孔率が目標気孔率前後の所定の許容範囲内に含まれるようにすることを含む。
【0019】
本発明の多孔質体の製造方法において、前記目標気孔率は、20%〜60%としてもよい。こうすれば、製造後の多孔質体の気孔率が例えば20%〜60%となりやすくなり、製造後の多孔質体の気孔率を十分小さくできる。前記目標気孔率は、25%〜50%としてもよい。
【0020】
本発明の多孔質体の製造方法において、前記工程(c)では、前記物体ボクセルに隣接する前記空間ボクセルのうち、前記流速の低いボクセルを優先的に前記物体ボクセルに置換してもよい。ここで、いずれの物体ボクセルとも隣接していない空間ボクセルを物体ボクセルに置換すると、置換後の物体ボクセルが多孔質体の中で空中に浮いた状態になってしまう場合がある。そして、そのような形状の多孔質体を実際に作成することは困難である。物体ボクセルに隣接する空間ボクセルを置換するようにすることで、そのようなことを回避して、工程(c)における多孔質体データに基づく多孔質体の形成がしやすくなる。
【0021】
本発明の多孔質体の製造方法において、前記工程(c)では、前記流速の最も低いボクセルから、前記物体ボクセルへの置換を行ってもよい。こうすれば、流体の透過に最も寄与しない気孔を表すボクセルから物体ボクセルに置換するため、置換後の多孔質体データで表される多孔質体の透過性がより低下しにくくなる。そのため、製造された多孔質体の透過性がより高いものとなる。例えば、製造された多孔質体の透過率がより大きいものとなったり、透過抵抗がより小さいものとなったりする。
【0022】
本発明の多孔質体の製造方法において、前記工程(d)では、前記置換後の多孔質体データに基づく多孔質体を、三次元造形法により直接形成してもよい。こうすれば、多孔質体データに基づく多孔質体を比較的簡単に形成することができる。
【0023】
本発明の多孔質体の製造方法において、前記工程(d)は、(d1)前記置換後の多孔質体データに基づいて、前記空間ボクセルを物体とし前記物体ボクセルを空間とした反転多孔質体を、三次元造形法により形成する工程と、(d2)前記多孔質体の原料スラリーで前記反転多孔質体の前記空間を埋めるようにして、未焼成多孔質体を形成する工程と、(d3)前記未焼成多孔質体を焼成し前記反転多孔質体を焼失させて前記多孔質体を形成する工程と、を含んでもよい。こうすることで、例えば多孔質体の原料により三次元造形法を用いて多孔質体データに基づく多孔質体を直接形成できないような場合でも、多孔質体データに基づく多孔質体を形成することができる。
【0024】
本発明のハニカムフィルタの製造方法は、
上述した反転多孔質体を形成する態様の本発明の多孔質体の製造方法を用いたハニカムフィルタの製造方法であって、
前記工程(c)では、前記置換後の多孔質体データに基づいて、流体の流路となる複数のセルを形成する多孔質隔壁を表すデータであり、前記位置情報と前記ボクセル種別情報とを対応づけた多孔質隔壁データを作成し、
前記工程(d1)では、前記多孔質隔壁データに基づいて、前記空間ボクセルを物体とし前記物体ボクセルを空間とした反転多孔質隔壁を、前記三次元造形法により形成し、
前記工程(d2)では、前記原料スラリーで前記反転多孔質隔壁の前記空間を埋めるようにして、未焼成多孔質隔壁を形成し、
前記工程(d3)では、前記未焼成多孔質隔壁を焼成し前記反転多孔質隔壁を焼失させて、両端部が開口された前記セルを形成する多孔質隔壁を形成し、
前記工程(d)は、(d4)前記形成した多孔質隔壁の前記複数のセルについて、一方が開口し他方が目封止されたセルと一方が目封止され他方が開口したセルとが交互に配設されるように各セルに目封止部を形成する工程、を含む、
ものである。
【0025】
この本発明のハニカムフィルタの製造方法では、置換後の多孔質体データに基づいて、流体の流路となるセルを形成する多孔質隔壁を表す多孔質隔壁データを作成する。そして、この多孔質隔壁データに基づいて、空間(気孔及びセル)部分を物体とした反転多孔質隔壁を形成し、後に反転多孔質隔壁を焼失させて、両端部が開口された前記セルを形成する多孔質隔壁を形成する。このように、多孔質体中の気孔だけでなくセル部分についても、後に焼失する反転多孔質隔壁として形成することで、本発明の多孔質体の製造方法と同様にして多孔質隔壁を形成し、ハニカムフィルタを得ることができる。そして、上述した本発明の多孔質体の製造方法と同様に、気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高い多孔質隔壁を備えたハニカムフィルタを得ることができる。例えば、気孔率が十分小さく且つ透過率が十分大きい多孔質体隔壁を備えたハニカムフィルタや、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さい多孔質隔壁を備えたハニカムフィルタを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態であり多孔質体としての多孔質隔壁44を含むハニカムフィルタ30の斜視図、
図2は
図1のA−A断面図である。ハニカムフィルタ30は、ディーゼルエンジンの排ガス中の粒子状物質(パティキュレート・マター(PM))をろ過する機能を持つディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF)である。このハニカムフィルタ30は、多孔質隔壁44によって区画された多数のセル34(
図2参照)を備えており、その外周に外周保護部32が形成されている。多孔質隔壁44の材料としては、強度、耐熱性の観点から、Si結合SiCやコージェライトなどの無機粒子からなるセラミックス材料が好ましい。多孔質隔壁44の厚さは、200μm以上600μm未満であることが好ましく、本実施形態では300μmである。多孔質隔壁44は、例えば平均気孔径(水銀圧入法による)が10μm以上60μm未満である。ハニカムフィルタ30に形成された多数のセル34には、
図2に示すように、入口36aが開放され出口36bが出口封止材38により封止された入口開放セル36と、入口40aが入口封止材42により封止され出口40bが開放された出口開放セル40とがある。これらの入口開放セル36と出口開放セル40とは、隣接するように交互に設けられている。セル密度は、例えば15セル/cm
2以上65セル/cm
2未満である。外周保護部32は、ハニカムフィルタ30の外周を保護する層であり、上述した無機粒子や、アルミノシリケート、アルミナ、シリカ、ジルコニア、セリア及びムライトなどの無機繊維、及びコロイダルシリカや粘土などの結合材などを含むものとしてもよい。
【0029】
このハニカムフィルタ30は、例えば図示しないディーゼルエンジンの下流側に搭載し、PMを含む排ガスを浄化して大気へ放出するために使用される。なお、
図2の矢印はこのときの排ガスの流れを示している。ディーゼルエンジンからのPMを含む排ガスは、このハニカムフィルタ30の入口36aから入口開放セル36に流入したあと、多孔質隔壁44を通過して隣接する出口開放セル40に流入し、出口開放セル40の出口40bから大気へ放出される。ここで、PMを含む排ガスは、入口開放セル36から多孔質隔壁44を通過して出口開放セル40に流入するときにPMが捕集されるため、出口開放セル40に流入した排ガスは、PMを含まないクリーンな排ガスになる。また、多孔質隔壁44中の気孔内部には図示しない白金などの酸化触媒がコーティングされており、捕集したPMを酸化することで多孔質隔壁44の気孔率の低下や圧力損失の急上昇を防止している。
【0030】
本実施形態の多孔質隔壁44は、この多孔質隔壁44を構成する多孔質体の気孔率が25%〜50%且つ透過抵抗が100Pa/mm以下であり、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さいものとなっている。気孔率は40%以下であってもよい。なお、透過抵抗は小さいほどよいが、例えば透過抵抗は30Pa/mm以上としてもよい。
【0031】
次に、このような本実施形態の多孔質隔壁44を含むハニカムフィルタ30の製造方法について説明する。多孔質隔壁44の製造方法は、(a)目標気孔率よりも気孔率が大きい仮多孔質体を表すデータであり、ボクセルの三次元上の位置を表す位置情報と、ボクセルが空間であることを表す空間ボクセルか物体であることを表す物体ボクセルかを区別可能な情報を含むボクセル種別情報と、を対応づけた多孔質体データ60を取得する工程と、(b)多孔質体データ80に基づいて流体解析を行うことにより、多孔質体データ80で表される多孔質体内部を流体が通過する際の空間ボクセル毎の流速に関する情報を導出する工程と、(c)流速に関する情報に基づいて、多孔質体データ80における空間ボクセルのうち流速の低いボクセルを優先的に物体ボクセルに置換して、多孔質体データ80の気孔率を目標気孔率にする工程と、(d)置換後の多孔質体データ80に基づく多孔質体を形成する工程と、を含む。
【0032】
ここで、上記工程(a)〜(c)については、多孔質体データ処理装置として構成されたユーザーパソコン(PC)20を用いて行う。
図3は、ユーザーパソコン(PC)20の構成の概略を示す構成図である。このユーザーPC20は、各種処理を実行するCPU22、各種処理プログラムなどを記憶するROM23、データを一時的に記憶するRAM24などを備えたコントローラー21と、解析処理プログラムなどの各種処理プログラムや多孔質体の3次元のボクセルデータである多孔質体データ60などの各種データを記憶する大容量メモリであるHDD25と、を備えている。なお、ユーザーPC20は、各種情報を画面表示するディスプレイ26やユーザーが各種指令を入力するキーボード等の入力装置27を備えている。
【0033】
次に、このユーザーPC20を用いた工程(a)〜(c)について説明する。
図4は、多孔質体データ処理ルーチンのフローチャートである。この多孔質体データ処理ルーチンは、ユーザーが入力装置27を介して処理を行うよう指示したときにCPU22がHDD25に記憶された処理プログラムを実行することで行われる。
【0034】
多孔質体データ処理ルーチンが実行されると、CPU22は、工程(a)として、HDD25に記憶された多孔質体データ60を読み出して取得し、RAM24に多孔質体データ80として記憶する(ステップS100)。
【0035】
ここで、多孔質体データ60について説明する。多孔質データ60は、後述する目標気孔率よりも気孔率が大きい多孔質体(以下、仮多孔質体と称する)を表すデータである。また、仮多孔質体の透過抵抗は、目標とする透過抵抗(例えば100Pa/mm以下のいずれかの値)よりも小さい。本実施形態では、仮多孔質体の気孔率が50〜60%程度であり透過抵抗が100Pa/mm未満であるものとした。また、多孔質体データ60は、ハニカムフィルタ30と同じ形状の多孔質隔壁(=仮多孔質体)を有するハニカムフィルタに対してCTスキャンを行うことによって得た3次元のボクセルデータとした。また、本実施形態では、多孔質体データ60は、
図2のハニカムフィルタ30を用いて説明すると、
図2の領域50の多孔質隔壁44を撮影したものに相当する。具体的には、領域50についてX方向及びY方向で表されるXY平面を撮影断面とし、撮影断面を
図2に示すZ方向に複数撮影することでCTスキャンを行って得たボクセルデータとした。本実施形態では、X,Y,Zの各方向の解像度はそれぞれ1.2μmであり、これにより得られる1辺が1.2μmの立方体が3次元のボクセルデータの最小単位すなわちボクセルとなる。なお、X,Y,Zの各方向の解像度は、例えばCT撮影装置の性能や解析対象の粒子の大きさなどにより適宜設定することができる。また、各方向の解像度が互いに異なる値であってもよい。特に限定するものではないが、X,Y,Zの各方向の解像度は例えば0.5μm〜3.0μmの範囲のいずれかの値として設定してもよい。各ボクセルはX,Y,Z座標(座標の値1がボクセルの一辺の長さである1.2μmに対応する)により位置が表されるとともに、そのボクセルが空間(気孔)であるか物体(多孔質隔壁44の構成物質)であるかを特定する種別情報が併せて付加されてHDD25に記憶されるようになっている。本実施形態では、空間を表すボクセル(空間ボクセル)は種別情報として値0,物体を表すボクセル(物体ボクセル)は種別情報として値9が付加されている。なお、実際にはCTスキャンによって得られるデータは例えばX,Y,Zの座標毎の輝度データである。本実施形態で使用する多孔質体データ60は、この輝度データを所定の閾値で2値化して空間ボクセルか物体ボクセルかを座標毎に求めることにより得ることができる。所定の閾値は、空間ボクセルと物体ボクセルとの判別を適切に行うことのできる値として定められた値である。この閾値は、例えば計測により得られる多孔質隔壁44の気孔率と、2値化後のボクセルデータにおける気孔率とが略等しくなるように予め実験により定めておくものとしてもよい。また、このようなCTスキャンは例えば株式会社島津製作所製のSMX−160CT−SV3を用いて行うことができる。
【0036】
多孔質体データ60の概念図を
図5に示す。この多孔質体データ60は、本実施形態では、多孔質隔壁44のボクセルデータの一部として、X方向が多孔質隔壁44の排ガス通過方向の厚さと同じ値である300μm(=1.2μm×250ボクセル),Y方向が480μm(=1.2μm×400ボクセル),Z方向が480μm(=1.2μm×400ボクセル)の直方体部分のボクセルデータを抜き出したものとした。なお、多孔質体データ60の大きさは多孔質隔壁44の厚さ,大きさや許容される計算負荷などにより適宜設定することができる。X方向の長さは多孔質隔壁44の排ガス通過方向の厚さと同じ値であることが好ましいが、同じ値でなくともよい。Y方向,Z方向の長さも480μmに限らず他の値であってもよく、Y方向とZ方向とで長さが異なっていてもよい。多孔質体データ60は、直方体の6面のうち2面(Y−Z平面に平行な面)が多孔質隔壁44と入口開放セル36との境界面である流入面61(
図2参照)と、領域50における多孔質隔壁44と出口開放セル40との境界面である流出面62(
図2参照)とになっており、残りの4面が多孔質隔壁44の断面となっている。なお、流入面61は、多孔質体データ60において入口開放セル36側から排ガスが流入してくる面である。そのため、流入面61は、多孔質隔壁44と入口開放セル36との境界面に限らず、多孔質隔壁44と入口開放セル36との境界面に平行な面であればよい。流出面62は、多孔質体データ60において出口開放セル40側へ排ガスが流出していく面である。流出面62は、多孔質隔壁44と出口開放セル40との境界面に限らず、多孔質隔壁44と出口開放セル40との境界面に平行な面であればよい。
図5(b)は、多孔質体データ60のうちZ座標が値3の位置におけるXY平面(撮影断面)63及びその一部の拡大
図64である。拡大
図64に示すように、XY平面63は1辺が1.2μmのボクセルの配列で構成されており、それぞれのボクセルが空間ボクセル又は物体ボクセルのいずれかで表されている。なお、CTスキャンで得られる撮影断面は、Z方向の厚みのない平面のデータ(画素のデータ)であるが、各撮影断面は撮影断面のZ方向の間隔分(1.2μm)の厚みがあるものとして、すなわち上述したように各ボクセルは1辺が1.2μmの立方体であるものとして扱われる。なお、多孔質体データ60は、
図6に示すようにボクセル毎に位置情報としてのXYZ座標と種別情報とを対応づけた多孔質体テーブル71と、流入面61及び流出面62を表す流入流出テーブル72とを含むデータとしてHDD25に記憶されている。なお、
図6の流入流出テーブル72の「X=1」とはXYZ座標系におけるX=1の平面のことであり、
図5(a)に示すように流入面61を表している。「X=251」も同様に流出面62を表している。また、HDD25には、多孔質体データ60だけでなく、上述した領域50以外の多孔質隔壁44のボクセルデータを表す別の多孔質体データも複数記憶されていてもよい。
【0037】
工程(a)(
図4のステップS100)では、CPU22は、HDD25に記憶された多孔質体テーブル71,流入流出テーブル72を含む多孔質体データ60を読み出して取得し、これと同じデータを、多孔質体テーブル81,流入流出テーブル82を含む多孔質体データ80としてRAM24に記憶する。
【0038】
続いて、CPU22は、工程(b)として、RAM24に記憶された多孔質体データ80に基づいて流体解析を行うことにより多孔質体内部を流体が通過する際の空間ボクセル毎の流速に関する情報を導出する流体解析処理を行う(ステップS110)。この流体解析処理は、周知の格子ボルツマン法により行うものとした。具体的には、多孔質体データ80の各ボクセルの中心点を各格子点とし、流入面61から流体が流入した場合の各格子点とそれに隣接する格子点との間での流体の流れに関する所定の関係式を用いた格子ボルツマン法による流体解析を行う。そして、空間ボクセル毎の流速に関する情報として、多孔質体データ80の各空間ボクセル毎に流速と流れ方向とからなる流速ベクトルを導出し、RAM24の多孔質体データ80の多孔質体テーブル81に各空間ボクセルの流速ベクトルを対応付けて記憶する。
図7は、多孔質体テーブル81に流速ベクトルを対応づけた後の多孔質体データ80の説明図である。なお、この流体解析は、流入面61での流体の平均流速T
in,流体の粘性μ,流体の密度ρなどの解析に必要な数値が例えばHDD25などに予め定められており、これらの数値を用いて行う。これらの数値はユーザーが入力装置27を介して値を設定するものとしてもよい。ここで、平均流速T
inは、多孔質体内に流体が入る直前の流速の平均値であり、流体解析における流速の初期値に相当する。本実施形態では、平均流速T
inは0.01m/sとした。また、流体は0℃,1atmの空気を想定し、粘性μは1.73×10
-5[Pa・s]、密度ρは1.25[kg/m
3]とした。これらの数値は、例えばハニカムフィルタ30において実際に流すことが想定される流体に基づいて、適宜定めることができる。
【0039】
また、本実施形態では、CPU22は、多孔質体データ80のうち流入面61及び流出面62以外の面には、解析対象の多孔質体データ80と面対称な多孔質体データが隣接しているものとして、ステップS110の流体解析処理を行うものとした。
図8は流体解析を行う際の多孔質体データ80及びそれに隣接する多孔質体データ80a,80bを示す説明図である。なお、説明の便宜上、
図8では多孔質体データ80等のうちXY平面上の断面を示している。
図8では、解析対象である多孔質体データ80(
図8中段)の左側が流入面61であり、右側が流出面62となっている。そして、ステップS110の流体解析処理を行う際には、
図8における多孔質体データ80の上側の面(XZ平面)に多孔質体データ80aが隣接して存在するものとする。この多孔質体データ80aは、空間ボクセルや物体ボクセルの配置が、多孔質体データ80と接する面に対して面対称(
図8では上下対称)なデータである。同様に、多孔質体データ80と接する面に対して面対称(
図8では上下対称)な多孔質体データ80bが、多孔質体データ80の下側の面(XZ平面)に隣接して存在するものとする。図示は省略するが、多孔質体データ80のZ方向の両側にも、同様に接する面に対して面対称な多孔質体データが存在するものとする。すなわち、ステップS110では、多孔質体データ80と、そのY方向及びZ方向にそれぞれ隣接する4つの多孔質体データと、を合わせたデータ(多孔質体データ80×5個分)に対して、流体解析処理を行うものとした。また、流入面61,流出面62は、
図8に示すように多孔質体データ80に対して面対称な多孔質体データ80a,80b等に対しても設定するものとした。
【0040】
このようにすることで、多孔質体データ80の空間ボクセルで表される気孔(空間)のうち、流入面61や流出面62以外に開口した気孔(例えば
図8の上面や下面に開口した気孔)についても、隣接する多孔質体データとの間で流体が流れることができるため、より適切な流体解析を行うことができる。すなわち、多孔質体データ80に隣接する多孔質体データを考慮せずに多孔質体データ80のみで流体解析を行うと、例えば
図8の上面や下面に開口した気孔は上面や下面で行き止まりとして扱われてしまい、導出された流速ベクトルと実際の流体の流れとの相違が大きくなってしまう場合がある。多孔質体データ80と接する面に対して面対称(
図8では上下対称)なデータを考慮することで、このようなことを抑制して、より実際の流体の流れに近い流速ベクトルを導出することができる。
【0041】
次に、CPU22は、工程(c)として、ステップS120〜S130の処理を行う。まず、CPU22は、ステップS110で導出した流速ベクトルに基づいて、多孔質体データ80における空間ボクセルのうち流速の低いボクセルを優先的に物体ボクセルに置換する空間ボクセル置換処理を実行する(ステップS120)。
図9は、空間ボクセル置換処理の一例を示すフローチャートである。
【0042】
この空間ボクセル置換処理が実行されると、CPU22は、まず、目標気孔率を設定する(ステップS210)。ここで、目標気孔率は、上述したハニカムフィルタ30の多孔質隔壁44のような十分小さい気孔率として設定されるものであり、例えば25%〜50%の範囲内の値である。目標気孔率は、予めHDD25に記憶されている値を読み出して設定してもよいし、ユーザーから入力装置27を介して取得した値を設定するものとしてもよい。目標気孔率は40%以下の範囲で設定してもよい。
【0043】
続いて、CPU22は、物体ボクセルに隣接する空間ボクセルのうち、流速の最も低いボクセルを1つ選択する(ステップS220)。この処理は、多孔質体テーブル81に基づいて行うことができる。例えば、まず、多孔質体テーブル81のXYZ座標と種別情報とに基づいて、空間ボクセルのうち物体ボクセルに隣接する空間ボクセルのみを調べて選択対象に設定する。そして、選択対象に設定した空間ボクセルのうち、対応づけられた流速の最も低い空間ボクセルを1つ選択する。なお、「流速の最も低い空間ボクセル」は、本実施形態では、空間ボクセルに対応づけられた流速ベクトルの絶対値が最も小さいものとした。なお、「流速の最も低い空間ボクセル」は、空間ボクセルに対応づけられた流速ベクトルのうち排ガス通過方向(X方向)成分の大きさが最も小さいものとしてもよい。
【0044】
次に、CPU22は、ステップS220で選択した空間ボクセルを物体ボクセルに置換する(ステップS230)。具体的には、多孔質体テーブル81において、ステップS220で選択した空間ボクセルに対応する種別情報を、値0(空間ボクセル)から値9(物体ボクセル)に変更する。そして、置換後の多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率になったか否かを判定する(ステップS240)。ここで、多孔質体データ80の気孔率は、空間ボクセル数/{多孔質体データ80のボクセル数(=空間ボクセル数+物体ボクセル数)}として導出する。そして、置換後の多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率になっていないときには、CPU22は、ステップS220以降の処理を実行する。すなわち、置換後の多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率になるまで、物体ボクセルに隣接し且つ流速の最も低い空間ボクセルを、順次物体ボクセルに置換する。なお、2回目以降のステップS220では、既に物体ボクセルに置換されたボクセルについても、物体ボクセルとして判断される。すなわち、2回目以降のステップS220では、物体ボクセルに置換されたボクセル(元空間ボクセル)に隣接する空間ボクセルについても、選択の対象になる。そして、ステップS240で置換後の多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率になっていたときには、空間ボクセル置換処理を終了する。なお、ステップS120の空間ボクセル置換処理を行う前の多孔質体データ80は、上述した仮多孔質体のデータであるため、その気孔率は目標気孔率より高い。そのため、ステップS230で空間ボクセルを物体ボクセルに置換する度に、多孔質体データ80の気孔率が小さくなっていくことになる。また、ステップS240では、置換後の多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率と一致した場合に限らず、多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率前後の所定の許容範囲内に含まれたときに、置換後の多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率になったと判定してもよい。許容範囲は、例えば±0.1%などであり、多孔質体データ80の解像度や全ボクセル数などに応じて適宜設定すればよい。また、多孔質体データ80の気孔率が初めて目標気孔率以下になったときに、置換後の多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率になったと判定してもよい。
【0045】
図10は、上述した空間ボクセル置換処理を行う様子を示す説明図である。なお、説明の便宜上、
図10では多孔質体データ80のうちXY平面上の断面を示している。
図10(a)は、空間ボクセル置換処理を行う前の多孔質体データ80の様子を示している。この多孔質体データ80において空間ボクセル置換処理を行うと、多孔質体データ80の気孔率が目標気孔率になるまで、物体ボクセルに隣接する空間ボクセルのうち流速の最も低い空間ボクセルが順次物体ボクセルに置換されていく。
図10(b)は、空間ボクセル置換処理によって置換された物体ボクセルを図示した説明図である。空間ボクセル置換処理では、流速の最も低い空間ボクセルから順次物体ボクセルに置換されていくため、
図10(b)に示すように、物体ボクセルに囲まれており流体が流れない気孔(閉気孔)を表す空間ボクセルや、流入面61から流出面62まで連通していない行き止まりの気孔を表す空間ボクセルなどが、優先的に物体ボクセルに置換されていく。また、流入面61から流出面62まで連通している気孔の一部であっても、物体ボクセルの表面付近などで流速の低い空間ボクセルについては、物体ボクセルに置換される。そして、空間ボクセル置換処理が終了すると、
図10(c)に示すように空間ボクセル置換処理前よりも空間ボクセルの数が減少して、目標気孔率になった多孔質体データ80が得られる。このように、空間ボクセル置換処理では、多孔質体データ80の気孔率を下げて目標気孔率にするにあたり、流速の低い空間ボクセルすなわち流体の透過に比較的寄与しない非効率な気孔を表す空間ボクセルから、優先的に物体ボクセルに置換していくのである。
【0046】
以上のようにステップS120の空間ボクセル置換処理が終了すると、CPU22は、置換後の多孔質体データ80に基づいて、多孔質隔壁データ90を作成してHDD25に記憶するする多孔質隔壁データ作成処理を行い(ステップS130)、本ルーチンを終了する。ここで、多孔質隔壁データ90は、流体の流路となる複数のセルを形成する多孔質隔壁44を表すデータであり、位置情報(XYZ座標)と種別情報とを対応づけたものである。
図11は、多孔質隔壁データ90の概念図である。多孔質隔壁データ90は、工程(d)で作成するハニカムフィルタ30のうち多孔質隔壁44の元になるデータである。この多孔質隔壁データ90は、断面(Y方向の両端面)が四角形である点、出口封止材38,入口封止材42,外周保護部32が形成されていない点、以外は
図2のハニカムフィルタ30と同じ構成をしている。多孔質隔壁データ作成処理では、CPU22は、ステップS120の空間ボクセル置換処理を行って得られた多孔質体データ80をコピーして接続していくことで多孔質隔壁44の形状のデータを作成する。そして、作成した多孔質隔壁44の形状全体における各ボクセルの位置情報(XYZ座標)と種別情報とを対応づけたデータを、多孔質隔壁データ90とする。なお、多孔質体データ80をコピーして接続していく際には、
図11の下段に示すように、多孔質体データ80と接する面に対して面対称な空間ボクセル及び物体ボクセルを有する多孔質データを接続していく。このようにすることで、隣接する多孔質体データ間で流体の流路(空間ボクセル)が接続されていく。そのため、多孔質体データ80をコピーして作成した多孔質隔壁データ90における入口開放セル36から出口開放セル40までの流路が形成されやすくなる。したがって、多孔質隔壁44の透過抵抗が多孔質体データ80単体の透過抵抗と比べて増大することをより抑制できる。また、
図11の下段に示すように、多孔質隔壁データ90において、多孔質体データ80は、なるべく多孔質体データ80の流入面61が入口開放セル36側(
図11の下段では下側)を向くように配置することが好ましい。特に、入口開放セル36に面する位置(入口開放セル36の内周面を構成する位置)に配置される多孔質体データ80は、流入面61が入口開放セル36側を向いていることが好ましい。また、多孔質体データ80は、多孔質体データ80の流入面61と流出面62との少なくとも一方が入口開放セル36側(
図11の下段では下側)を向くように配置することが好ましい。すなわち、多孔質体データ80の流入面61−流出面62間の方向(
図8の左右方向)が、多孔質体内の流体の流れる向きに沿う方向になるように、多孔質体データ80を配置することが好ましい。
【0047】
以上のように工程(c)を行うと、置換後の多孔質体データ80に基づく多孔質体を形成する工程(d)を行う。この工程(d)は、(d1)多孔質隔壁データ90に基づいて、空間ボクセルを物体とし物体ボクセルを空間とした反転多孔質隔壁100を、三次元造形法により形成する工程と、(d2)多孔質体(多孔質隔壁44)の原料スラリーで反転多孔質隔壁100の空間を埋めるようにして、未焼成多孔質隔壁200を形成する工程と、(d3)未焼成多孔質隔壁200を焼成し反転多孔質隔壁100を焼失させて両端部が開口されたセル34を形成する多孔質隔壁44を形成する工程と、(d4)形成した多孔質隔壁44の複数のセル34について、一方が開口し他方が目封止された入口開放セル36と一方が目封止され他方が開口した出口開放セル40とが交互に配設されるように各セル34に目封止部(出口封止材38,入口封止材42)を形成する工程と、を含む。
【0048】
工程(d1)について説明する。工程(d1)では、三次元造形法を用いて、焼成後に焼失する反転多孔質形成材料で、多孔質隔壁データ90に基づく反転多孔質隔壁100を形成する。
図12は、反転多孔質隔壁100の説明図である。反転多孔質隔壁100は、多孔質隔壁データ90の空間ボクセルと物体ボクセルとを反転させて、反転後の物体ボクセル(多孔質隔壁データ90における空間ボクセル)部分を、反転多孔質形成材料として形成したものである。図示するように、反転多孔質隔壁100は、多孔質隔壁44のうち気孔(空間)に相当する部分を反転多孔質形成材料で形成し物体に相当する部分を気孔(空間)とした隔壁部分144と、セル34に相当する部分を反転多孔質形成材料で形成したセル部分134(入口セル部分136,出口セル部分140)とを備えている。本実施形態では、三次元造形法のうち、造形材料を硬化させながら順次積み重ねることによって立体物を造形する積層造形法を用いて、反転多孔質隔壁100を作成するものとした。より具体的には、周知の3Dプリンターを用いて、この3Dプリンターに多孔質隔壁データ90(特に、空間ボクセルの位置情報)を入力して多孔質隔壁データ90に基づく反転多孔質隔壁100を作成するものとした。なお、3Dプリンターにおいて、造形材料(モデル材)の他に、公知のサポート材を併用してもよい。サポート材は、反転多孔質隔壁100の空間(=多孔質隔壁データ90の物体ボクセル)部分を構成して造形材料を支持するものである。サポート材を用いた場合には、3Dプリンターで形成された造形体からサポート材を除去することで、反転多孔質隔壁100を得る。サポート材の除去は、例えば水に溶かす、加熱するなどにより行ってもよい。なお、反転多孔質形成材料は焼成後に焼失するものであればよいが、例えばアクリレート系、エポキシ系の紫外線硬化性樹脂などが挙げられる。3Dプリンターの分解能は、20μm以下とすることが好ましい。また、多孔質隔壁データ90と3Dプリンターとで分解能が異なる場合には、多孔質隔壁データ90の各ボクセルを適宜結合又は間引きすることで、3Dプリンターの分解能に合ったデータに変換すればよい。例えば、ユーザーPC20が多孔質隔壁データ90の作成時に、設定された3Dプリンターの分解能に合わせたデータに変換した多孔質隔壁データ90を作成してもよい。また、3Dプリンター側で、入力した多孔質隔壁データ90を3Dプリンターの分解能に合うように変換してもよい。また、3Dプリンターで用いるデータの形式に合うように、多孔質隔壁データ90を適宜変換してもよい。3Dプリンターで用いるデータの形式としては、例えばSTL形式(Standard Triangulated Language形式、Stereolithographyともいう)が挙げられる。データの変換は、ユーザーPC20が行ってもよいし、3Dプリンターが行ってもよい。
【0049】
次に、工程(d2)では、多孔質隔壁44の原料スラリーで反転多孔質隔壁100の空間を埋めるようにして、未焼成多孔質隔壁200を形成する。
図13は、未焼成多孔質隔壁200の説明図である。本実施形態では、反転多孔質隔壁100のY方向両側から原料スラリー145を注入して、反転多孔質隔壁100のうちの空間部分である隔壁部分144の空間をこの原料スラリー145で満たすものとした。なお、反転多孔質隔壁100全体を原料スラリー145に浸漬させて未焼成多孔質隔壁200を形成してもよい。なお、原料スラリーは例えば基材と分散材とを混合して調製して製造することができる。基材としては、上述したセラミックス材料を用いることができる。例えばSiCを基材とするものにおいてはSiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合したものを用いることができる。分散材としては、エチレングリコールなど界面活性剤を用いることができる。スラリーを調製する手段には、特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0050】
続いて、工程(d3)では、未焼成多孔質隔壁200を焼成する。なお、焼成前に乾燥処理や仮焼処理を行ってもよい。なお、仮焼処理は、焼成温度よりも低い温度でハニカムフィルタ30に含まれる有機物成分を燃焼除去する処理である。焼成温度は、コージェライト原料では、1400℃〜1450℃とし、Si結合SiCでは、1450℃とすることができる。この焼成を行うことで、未焼成多孔質隔壁200のうち原料スラリー145は焼結して多孔質隔壁44となる。一方、反転多孔質隔壁100(隔壁部分144,セル部分134)は焼成により焼失する。そのため、反転多孔質隔壁100の部分は空間となり、多孔質隔壁44と、多孔質隔壁44により形成され両端部が開口された複数のセル34と、を有するハニカム構造体300が形成される。
図14は、ハニカム構造体300の説明図である。この多孔質隔壁44は、
図11で示した多孔質隔壁データ90の多孔質体データ80の物体ボクセルに基づく形状をしている。
【0051】
そして、工程(d4)では、一方が開口し他方が目封止された入口開放セル36と一方が目封止され他方が開口した出口開放セル40とが交互に配設されるように各セル34に目封止部(出口封止材38,入口封止材42)を形成する。出口封止材38及び入口封止材42は、多孔質隔壁44を形成する原料と同じものを用いるものとしてもよい。この場合、原料スラリーでハニカム構造体300の各セル34の開口のうち目封止部を形成する部分を塞いだあと、工程(d3)と同様に焼成を行うことで、出口封止材38及び入口封止材42を形成する。また、本実施形態では、出口封止材38及び入口封止材42を形成した後に、ハニカム構造体300の外周を切削加工し、切削加工後の外周に保護材を塗布して外周保護部32を形成して、外形を円柱状とする
図1に示したハニカムフィルタ30を得る。
【0052】
以上詳述した本実施形態によれば、ハニカムフィルタ30の多孔質隔壁44を構成する多孔質体の気孔率が25%〜50%且つ透過抵抗が100Pa/mm以下であるため、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さいものとなっている。
【0053】
また、そのような多孔質隔壁44を製造するにあたり、目標気孔率よりも気孔率が大きい仮多孔質体を表す多孔質体データ60を取得し、この多孔質体データ60(多孔質体データ80)に基づいて流体解析を行うことで、空間ボクセル毎の流速に関する情報を導出する。そして、導出した流速に関する情報に基づいて、多孔質体データ80における空間ボクセルのうち流速の低いボクセルを優先的に物体ボクセルに置換して、多孔質体データ80の気孔率を目標気孔率にする。こうすることで、流速の低い空間ボクセル、すなわち流体の透過に比較的寄与しない気孔を表す空間ボクセルを、優先的に物体ボクセルに置換することができる。そのため、空間ボクセルを物体ボクセルに置換して多孔質体データ80の気孔率を小さく(目標気孔率に近く)しても、置換後の多孔質体データ80で表される多孔質体の透過抵抗は増加しにくい。したがって、置換後の多孔質体データ80で表される多孔質体は、元となった仮多孔質体の気孔率を目標気孔率まで低下させつつ、透過抵抗の増加をより抑制したものとなり、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さくなっている。そして、このような置換後の多孔質体データ80に基づく多孔質隔壁44を形成することで、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さい多孔質隔壁44を得ることができる。
【0054】
また、目標気孔率を25%〜50%としているため、製造後の多孔質隔壁44の気孔率が例えば25%〜50%となりやすくなり、製造後の多孔質隔壁44の気孔率を十分小さくできる。
【0055】
さらに、工程(c)では、物体ボクセルに隣接する空間ボクセルのうち、流速の低いボクセルを優先的に物体ボクセルに置換している。ここで、いずれの物体ボクセルとも隣接していない空間ボクセルを物体ボクセルに置換すると、置換後の物体ボクセルが多孔質体の中で空中に浮いた状態になってしまう場合がある。そして、そのような形状の多孔質隔壁44を実際に作成することは困難である。物体ボクセルに隣接する空間ボクセルを置換するようにすることで、そのようなことを回避して、工程(c)における多孔質体データ80に基づく多孔質隔壁44の形成がしやすくなる。
【0056】
さらにまた、工程(c)では、流速の最も低いボクセルから、物体ボクセルへの置換を行っている。こうすれば、流体の透過に最も寄与しない気孔を表す空間ボクセルから物体ボクセルに置換するため、置換後の多孔質体データ80で表される多孔質体の透過抵抗がより増加しにくくなる。そのため、製造された多孔質隔壁の透過抵抗がより小さいものとなる。
【0057】
そしてまた、工程(d)では、反転多孔質隔壁100を三次元造形法により形成し、多孔質隔壁44の原料スラリーで反転多孔質隔壁100の空間を埋めるようにして、未焼成多孔質隔壁200を形成し、未焼成多孔質隔壁200を焼成し反転多孔質隔壁100を焼失させることで、多孔質隔壁44を形成する。こうすることで、例えば多孔質隔壁44の原料により三次元造形法を用いて多孔質隔壁データ90に基づく多孔質隔壁44を直接形成できないような場合でも、多孔質隔壁データ90に基づく多孔質隔壁44を形成することができる。また、多孔質隔壁44中の気孔だけでなくセル部分134についても、後に焼失する反転多孔質隔壁100として形成することで、ハニカムフィルタ30を得ることができる。そのため、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さい多孔質隔壁44を備えたハニカムフィルタ30を得ることができる。
【0058】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実現し得ることはいうまでもない。
【0059】
例えば上述した実施形態では、工程(a)(ステップS100)で、HDD25に記憶された多孔質体データ60を読み出して取得するものとしたが、これに限られない。HDD25以外のデバイス(例えば、ユーザーPC20に接続する外付けの記憶媒体など)に記憶されたデータを読み出してもよい。あるいは、CTスキャンを行う装置から多孔質体データを取得してもよい。
【0060】
上述した実施形態では、多孔質体データ60は、実際に存在するハニカムフィルタをCTスキャンして得たデータとしたが、これに限られない。すなわち、仮多孔質体は実在であってもよいし、実在でなくともよい。例えば、気孔率が所定の値になるように物体ボクセルと空間ボクセルとをランダムに配置して作成した多孔質体データを、工程(a)で取得してもよい。
【0061】
上述した実施形態では、工程(c)(ステップS120)において、空間ボクセルを1つ置換する毎に気孔率が目標気孔率になったか否かを判定したが、まとめて複数の空間ボクセルを置換してもよい。また、所定数の空間ボクセルを置換する毎に、ステップS110の流体解析処理を行って、流速に関する情報を更新してもよい。
【0062】
上述した実施形態では、工程(c)において、置換後の多孔質体データ80をコピーして接続していくことで多孔質隔壁44の形状の多孔質隔壁データ90を作成するものとしたが、これに限られない。例えば、元となる多孔質体データ60における多孔質隔壁44のデータの全てについて、
図4の多孔質体データ処理ルーチンを実行して、ハニカムフィルタ30全体(多孔質隔壁44全体)のデータについて、置換後の多孔質体データ80を得ても良い。
【0063】
上述した実施形態では、積層造形法により反転多孔質隔壁100を形成するものとしたが、これに限らず他の三次元造形法を用いてもよい。例えば、光造形法を用いてもよい。また、多孔質隔壁データ90に基づいて、多孔質隔壁44を直接三次元造形法により形成してもよい。例えば、SiC粉末にレーザーシンタリングを行って、反転多孔質隔壁100を形成せずに多孔質隔壁データ90に基づく多孔質隔壁44を直接形成してもよい。その他、多孔質隔壁データ90(多孔質体データ80)に基づいて多孔質体を形成するものであれば、どのような方法を用いてもよい。
【0064】
上述した実施形態では、反転多孔質隔壁100を全て形成してから原料スラリーを注入して未焼成多孔質隔壁200を形成するものとしたが、これに限られない。例えば、反転多孔質隔壁100を複数の領域(例えば
図12のY方向に垂直に分割した領域)に分けて、1つの領域の反転多孔質隔壁を形成して原料スラリーの注入を行い、次にその領域に続けて次の領域の反転多孔質隔壁を形成して原料スラリーの流入を行う、というように反転多孔質隔壁の形成と原料スラリーの注入とを繰り返しながら、未焼成多孔質隔壁200を形成してもよい。
【0065】
上述した実施形態では、工程(c)(ステップS120)において、流速の最も低い空間ボクセルから物体ボクセルに置換するものとしたが、これに限られない。流速の低い空間ボクセルを優先的に物体ボクセルに置換すればよい。ただし、置換後の透過抵抗の増大をより抑制することができるため、流速の最も低い空間ボクセルから置換することが好ましい。
【0066】
上述した実施形態では、ハニカムフィルタ30の多孔質隔壁44を構成する多孔質体は、気孔率が25%〜50%としたが、これに限られない。気孔率は20%以上、30%以上としてもよい。また、気孔率は60%以下としてもよい。
【0067】
上述した実施形態では、ハニカムフィルタ30の多孔質隔壁44を構成する多孔質体は、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さいが、これに限らず気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高ければよい。例えば、多孔質体の気孔率が十分小さく且つ透過率が十分大きくてもよい。具体的には、多孔質体の気孔率が20%〜60%、且つ透過率が1μm
2以上であってもよい。さらに、多孔質体の気孔率をP、透過率をkとしたときに、k≧0.2823P−10.404であってもよい。なお、透過率kが十分大きければよく、その場合は透過抵抗は必ずしも100Pa/mm以下である必要はない。透過率kは、2μm
2以上であることが好ましい。また、透過率kは、10μm
2以下であってもよいし、9μm
2以下あってもよい。また、多孔質体はk≦0.1627P−0.4955であってもよい。多孔質体はk≧0.1627P−3.0であってもよい。これらの数値条件を満たす多孔質体も、上述した実施形態の多孔質体と同様に、上述した実施形態で説明した製造方法や、上述した変形例の製造方法によって得ることができる。
【0068】
上述した実施形態では、工程(a)〜(d)を含む製造方法により多孔質体を製造したが、本発明の第1の多孔質体や本発明の第2の多孔質体は他の製造方法で製造されていてもよい。
【0069】
上述した実施形態では、多孔質体としてハニカムフィルタの多孔質隔壁44を例示したが、これに限らずどのような多孔質体であってもよい。例えば、発泡金属や焼結金属フィルターなどの金属製の多孔質体であってもよい。金属製の多孔質体を製造する場合、工程(c)で置換した後の多孔質体データに基づいて、三次元造形法により多孔質体を直接形成してもよい。
【実施例】
【0070】
以下には、ハニカムフィルタを具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1〜3が本発明の実施例に相当し、実験例4〜6が比較例に相当する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[多孔質体データ処理装置の作成]
上述した実施形態の多孔質データ処理ルーチンの処理プログラムを作成した。そして、CPU,ROM,RAMを備えたコントローラーとHDDとを有するコンピューターのHDDにこのプログラムを記憶して、多孔質体データ処理装置である
図3のユーザーPC20を作成した。
【0072】
[実験例1]
作成したユーザーPC20を用いて、実験例1のハニカムフィルタ30を作成した。まず、仮多孔質体として、気孔率が59.0%,透過抵抗が22.6Pa/mmのハニカムフィルタを用意し、CTスキャンにより多孔質体データ60を作成した。この仮多孔質体は、後述する実験例4のハニカムフィルタである。なお、仮多孔質体の気孔率は、多孔質体データ60における空間ボクセル数/(多孔質体データ60のボクセル数)として求めた値である。また、透過抵抗は、特開2005−114612の実施例に記載の方法により仮多孔質体の圧力損失を求め、透過抵抗=(圧力損失/多孔質隔壁44の厚み)として測定した。
【0073】
次に、工程(a)〜(c)として、この多孔質体データ60についてユーザーPC20により多孔質データ処理ルーチンを実行し、多孔質隔壁データ90を得た。なお、目標気孔率は30%とした。多孔質隔壁データ90は、セル形状が四角形で、全体の形状が四角柱のハニカム構造体の形状とした。また、多孔質隔壁データ90における多孔質隔壁44の厚さが300μm、セル密度が300セル/cm
2、断面の一辺が143.8mm、長さが152.4mmの形状とした。
【0074】
そして、工程(d)として、得られた多孔質隔壁データ90に基づいて、上述した実施形態と同様にしてハニカムフィルタ30を作成した。なお、工程(d1)における3DプリンターはKEYENCE 製のAgilista3100(解像度は15μm)を用いた。工程(d2)における原料スラリーは、以下のように調整した。まず、SiC原料として、SiC粉末、金属Si粉末とを重量比で80:20となるように混合した。このSiCの混合原料を100重量部、分散媒を35重量部、有機バインダーを6重量部、分散剤を0.5重量部、それぞれ添加し、原料スラリーを調製した。ここでは、分散媒として水を使用し、有機バインダとしてセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてエチレングリコールを使用した。工程(d2)では、反転多孔質隔壁100のY方向両側から原料スラリーを10L/minで注入して、未焼成多孔質隔壁200とした。工程(d3)では、未焼成多孔質隔壁200をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥したあと、Ar不活性雰囲気下、1450℃で2時間焼成した。これにより、反転多孔質形成材料で形成された反転多孔質隔壁100を焼失させ、ハニカム構造体300を得た。工程(d4)では、ハニカム構造体300の一方の端面のセル開口部に交互にマスクを施し、マスクした端面を多孔質隔壁44の原料スラリーと同じ原料からなる目封止スラリーに浸漬し、開口部と目封止部とが交互に配設されるように目封止部を形成した。また、ハニカム構造体300の他方の端面にも同様にマスクを施し、一方が開口し他方が目封止されたセルと一方が目封止され他方が開口したセルとが交互に配設されるように目封止部を形成した。その後、目封止部を形成したセグメント成形体を熱風乾燥機で乾燥し、Ar不活性雰囲気下、1450℃で2時間焼成することにより、目封止部を形成した。そして、ハニカム構造体300の外周を切削加工し、アルミナシリケートファイバ、コロイダルシリカ、ポリビニルアルコール、SiC、および水を混練してなる外周コート用スラリーで被覆し、乾燥により硬化させることにより切削加工後の外周に外周保護部32を形成した。これにより、外形を円柱状とする
図1,2に示したハニカムフィルタ30を得た。なお、ハニカムフィルタ30の断面の直径は143.8mmとした。
【0075】
[実験例2,3]
目標気孔率を40%とした点以外は、上述した実験例1と同様にして、実験例2のハニカムフィルタ30を作製した。また、目標気孔率を50%とした点以外は、上述した実験例1と同様にして、実験例3のハニカムフィルタ30を作製した。
【0076】
[実験例4]
ユーザーPC20を用いず、従来の製造方法によりハニカムフィルタ30を作製した。まず、上述したSiCの混合原料を100重量部に対し、分散媒を35重量部、有機バインダーを6重量部、分散剤を0.5重量部、それぞれ添加し、原料スラリーを調製した。分散媒として水を使用し、造孔材としては、平均粒径10μmのコークスを使用し、有機バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてエチレングリコールを使用した。次に、所定の金型を用いてこの原料スラリーを押出成形し、実験例1のハニカム構造体300と同じ形状のハニカム成形体を得た。このハニカム成型体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥した。次に、実験例1の工程(d4)と同様に目封止スラリーに浸漬して、目封止部を形成した。その後、Ar不活性雰囲気下、1450℃で2時間焼成することにより、ハニカム成形体及び目封止部を焼結させて、実験例1と同じ形状のハニカム構造体を得た。そして、実験例1と同様にハニカム構造体の外周を切削加工し、切削加工後の外周に保護材を塗布して外周保護部32を形成して、外形を円柱状とするハニカムフィルタを得た。
【0077】
[実験例5,6]
多孔質隔壁44の原料スラリーにおけるSiC粉末の粒径や造孔材の粒径を適宜変更した以外は、実験例4と同様にして、実験例5,6のハニカムフィルタを作製した。
【0078】
[気孔率の評価]
実験例1〜6のハニカムフィルタについて、気孔率を測定した。気孔率の測定は、各ハニカムフィルタについてCTスキャンにより多孔質体データ60を作成し、空間ボクセル数/(多孔質体データ60のボクセル数)として求めた。実験例1の気孔率は29.7%(29.72653%)、実験例2の気孔率は39.6%(39.58585%)、実験例3の気孔率は49.9%(49.88232%)、実験例4の気孔率は59.0%(59.02%)、実験例5の気孔率は46.0%(45.98%)、実験例6の気孔率は40.1%(40.14%)であった。
【0079】
[透過抵抗の評価]
実験例1〜6のハニカムフィルタについて、特開2005−114612の実施例に記載の方法により圧力損失を求め、透過抵抗=(圧力損失/多孔質隔壁44の厚み)として測定した。実験例1の透過抵抗は80.4Pa/mm、実験例2の透過抵抗は48.1Pa/mm、実験例3の透過抵抗は33.1Pa/mm、実験例4の透過抵抗は22.6Pa/mm、実験例5の透過抵抗は124.6Pa/mm、実験例6の透過抵抗は160.3Pa/mmであった。
【0080】
[捕集性能の評価]
実験例1〜6のハニカムフィルタについて、実際の捕集性能を示す値として、粒子の漏れ個数を測定した。具体的には、実験例1〜6の各々のハニカムフィルタを車体に取り付け、所定のモード走行(NEDC:New European Driving Cycle)中におけるエンジン排気ガスをハニカムフィルタに通過させた。そして、ハニカムフィルタ通過後のエンジン排気ガス中の微粒子状物質(PM・スス)の漏れ量(個数/s)を計測した。粒子漏れ量が少ないほど、捕集性能が高いことを意味する。
【0081】
図15は、実験例1〜6のハニカムフィルタの気孔率と透過抵抗とをプロットしたグラフである。
図16は、実験例1〜6のハニカムフィルタの気孔率と粒子漏れ量とをプロットしたグラフである。
図15から分かるように、気孔率が同程度(約40%)の実験例2,6を比較すると、本発明の製造方法で作成した実験例2の方が、透過抵抗が1/3以下に減少していた。また、実験例1は、実験例5,6と比べて気孔率が低いにもかかわらず、透過抵抗も低かった。これらの結果から、本発明の製造方法により、気孔率が25%〜50%且つ透過抵抗が100Pa/mm以下であり、気孔率と透過抵抗とが共に十分小さいものが作製できることが確認できた。また、
図16から分かるように、実験例1〜3は、実験例4〜6と比べて、粒子漏れ量は同程度であり、捕集性能についてはほぼ同等であることがわかった。
【0082】
[透過率の評価]
実験例1〜6のハニカムフィルタについて、多孔質体(多孔質隔壁44)の透過率k[μm
2]を測定した。透過率は、以下のように測定した。まず、上述した透過抵抗の測定と同様に、特開2005−114612の実施例に記載の方法により、多孔質隔壁44の圧力損失ΔPを測定した。なお、圧力損失ΔPを測定する際に流通させる気体は、湿度が30%,粘性係数μが1.85×10
-5Pa・sの乾燥空気とした。また、測定に用いた多孔質隔壁44の厚さLは、実験例1〜4が288.0μm、実験例5が308.4μm、実験例6が244.0μmとした。そして、測定した圧力損失ΔPを用いて、Darcy式に基づく以下の式(1)から多孔質体の透過率kを算出した。なお、気体の流速q[m/s]は、超音波気体流量計SGF−100(株式会社ソニック製)を用いて測定した。実験例1の透過率は2.29774μm
2、実験例2の透過率は3.844979μm
2、実験例3の透過率は5.576586μm
2、実験例4の透過率は6.255658μm
2、実験例5の透過率は1.48342μm
2、実験例6の透過率は0.926316μm
2であった。
【0083】
k=q×10
6×μ×L/ΔP 式(1)
(ただし、k:透過率[μm
2],q:流速[m/s],μ:粘性係数[Pa・s],L:多孔質体の厚さ[μm],ΔP:圧力損失[Pa])
【0084】
[気孔率Pと透過率kとの関係]
図17は、上記で測定した実験例1〜6のハニカムフィルタの多孔質隔壁44の気孔率Pと透過率kとをプロットしたグラフである。なお、
図17では、直線A(k=0.2823P−10.404),直線B(k=0.1627P−0.4955),直線C(k=0.1627P−3.0)についても併せて示した。また、
図17では、気孔率Pが20%〜60%、透過率kが1μm
2以上、且つk≧0.2823P−10.404(=
図17における透過率kが直線A以上の領域に存在する)となる領域を、ハッチングで示している。
【0085】
図17から分かるように、実験例1〜3は、実験例4〜6と比べると全体的に気孔率Pが小さく且つ透過率kが大きい(
図17のグラフの左上に近い)傾向にあった。気孔率Pが同程度(約40%)の実験例2,6を比較すると、本発明の製造方法で作成した実験例2の方が、透過率kが約4倍に増加していた。また、実験例1は、実験例5,6と比べて気孔率Pが低いにもかかわらず、透過率kは高かった。これらの結果から、本発明の製造方法により、気孔率Pが20%〜60%、透過率kが1μm
2以上、且つk≧0.2823P−10.404(=
図17における透過率kが直線A以上の領域に存在する)であり、気孔率が十分小さく且つ透過性が十分高い多孔質体が作製できることが確認できた。
【0086】
なお、直線Aは、
図17で実験例4,6よりもわずかに上を通る(透過率kが大きい)直線として定めた。直線Bは、実験例1〜3よりも上を通る直線として定めた。直線Cは、実験例1〜3よりもわずかに下を通る直線として定めた。
【0087】
図17の実験例1〜3から、透過率kが2μm
2以上の多孔質体や、透過率kが10μm
2以下,9μm
2以下の多孔質体が作製できることが確認できた。実験例1〜3から、k≦0.1627P−0.4955(=
図17における直線B上及び直線Bより下側の領域)を満たす多孔質体が作製できることが確認できた。
図17の実験例1〜3から、k≧0.1627P−3.0(=
図17における直線C上及び直線Cより上側の領域)を満たす多孔質体が作製できることが確認できた。