(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィッシャー・トロプシュ由来基油を組成物の質量全体のうち20質量%以上〜95質量%以下で含有し、且つ、該フィッシャー・トロプシュ由来基油が500℃以上に沸点を有する重質留分を45質量%以上で含む、請求項9記載のターボチャージャーを有する内燃機関用潤滑油組成物。
前記潤滑油組成物が、軽質留分を多く含み、及び−35℃でのCCS粘度3.0Pa・s以下を有する軽質フィッシャー・トロプシュ由来基油をさらに含み、潤滑油組成物全体の質量に対するフィッシャー・トロプシュ由来基油の合計含有量が20質量%以上95質量%以下である、請求項9〜12のいずれか1項記載のターボチャージャーを有する内燃機関用潤滑油組成物。
試料を50gとし測定時間を7時間とした他はASTM D5800に準拠して測定されるデポジットシュミレーション試験後の潤滑油組成物の100℃での動粘度が9.0〜18.4mm2/sであることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項記載のターボチャージャーを有する内燃機関用潤滑油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の潤滑油組成物は(1)沸点500℃〜550℃を有する留分を14質量%以上含有し、且つ、(2)沸点が550℃を超える留分を5質量%以上含有する。本発明の潤滑油組成物は上記(1)及び(2)に示す沸点範囲を有する2種類の高沸点留分を夫々特定量以上で含有することを特徴とする。沸点500℃〜550℃を有する留分及び550℃超を有する留分は共にコンプレッサーデポジットの形成を抑制する効果を有する。しかし、沸点500℃〜550℃を有する留分のみを多く含んでもコンプレッサーデポジットの形成を十分に抑制することができない。沸点500℃〜550℃を有する留分と沸点550℃超を有する留分とを組合せて、夫々を所定量以上含有することにより、コンプレッサーデポジットの形成をより効果的に抑制することができる。
【0015】
(1)本発明の潤滑油組成物において、沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量は、組成物全体の質量に対して14質量%以上、好ましくは16質量%以上、より好ましくは18質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、最も好ましくは22質量%以上である。沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量が上記下限値以上であることにより、コンプレッサーデポジットの形成を抑制することができる。上記下限値未満では、コンプレッサーデポジットの形成を抑制する効果が十分に得られずターボ効率が低下する恐れがある。沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量の上限値は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。上記上限を超えると、低温時における粘度上昇が大きくなる恐れがあるため好ましくない。沸点500℃〜550℃を有する留分の量は、蒸留ガスクロマトグラフィーを用いて測定できる。測定条件等は後述する。
【0016】
(2)本発明の潤滑油組成物において、550℃を超える沸点を有する留分の含有量は、組成物全体の質量に対して5質量%以上、好ましくは6質量%以上、特に好ましくは7質量%以上である。該留分は特には、550℃超〜650℃、さらには550℃超〜600℃の沸点を有する留分である。ただし、沸点550℃超を有する留分は重質すぎるため、該留分の含有量が多すぎると低温での粘度が上昇して燃費が悪くなる。そのため低温で良好な粘度を確保し、良好な燃費を確保するためには、沸点550℃超を有する留分の上限値が組成物全体の20質量%以下、好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下であるのがよい。
【0017】
沸点500℃未満の留分の含有量は特に制限されるものでなく、沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量及び550℃を超える沸点を有する留分の含有量が上記範囲を満たすような量であればよい。好ましくは沸点499℃以下を有する留分、特には沸点496℃以下を有する留分の合計含有量が組成物全体の質量に対して80質量%以下、特には69質量%以下であるのがよい。これにより、ターボ効率低下をより効果的に抑制することができる。
【0018】
(a)本発明の潤滑油組成物はNOACK蒸発量が20質量%以下、好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下、最も好ましくは13質量%以下であるのがよい。上記上限を超えるとコンプレッサーデポジットの形成を抑制する効果が十分に得られずターボ効率が低下する恐れがある。NOACK蒸発量の下限は限定的ではないが、1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。上記NOACK蒸発量は、ASTM D5800に準拠して250℃1時間で測定される値である。
【0019】
(b)本発明の潤滑油組成物は−35℃でのCCS粘度(低温クランキングシミュレータ(CCS)粘度)が6.2Pa・s以下、好ましくは、6.1Pa・s以下、さらに好ましくは6.0Pa・s以下であるのがよい。−35℃でのCCS粘度が上記上限値以下であることにより、良好な低温性状を確保することができる。−35℃でのCCS粘度が上記上限値を超えると、低温流動性が悪化することにより低温始動性が悪化し、更に燃費性能が悪化するおそれがある。CCS粘度の下限値は特に制限されないが、好ましくは3.0Pa・s以上、さらに好ましくは4.0Pa・s以上、特に好ましくは5.0Pa・s以上である。−35℃でのCCS粘度はASTM D5293に準拠し測定した値である。このような低温粘度特性を確保するためには、特に好ましくは、沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量を組成物全体の50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下とし、且つ、沸点が550℃を超える留分の含有量を組成物全体の20質量%以下、好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下とするのがよい。
【0020】
(c)本発明の潤滑油組成物はパラフィンを45質量%以上含有するのが好ましく、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上含有するのがよい。パラフィンを該所定量含有することにより潤滑油組成物の低温での粘度上昇を抑制できる。パラフィンの含有量の上限は特に制限されないが、好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下であればよい。
【0021】
(d)また本発明の潤滑油組成物は、上記パラフィンに加えて一環ナフテンを1質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、最も好ましくは7質量%以上含有できる。潤滑油組成物中に一環ナフテンが多すぎると低温での粘度特性が悪化する恐れがある。そのため一環ナフテン含有量の上限は40質量%以下が好ましく、さらに好ましくは30質量%以下であり、最も好ましくは20質量%以下であるのがよい。パラフィン及び一環ナフテンの含有量は「電界脱離イオン化−質量分析法(FD-MS法)」にて測定した。FD法とは、試料をエミッター上に均一に塗布し該エミッターに一定の割合で電流を加えることで試料をイオン化する方法である。分子イオンはタイプ分析され、夫々のイオン強度の分率より含有量が算出される。該測定は例えば、日石レビュー・第33巻 第4号(1991年10月)「質量分析計による潤滑油基油のタイプ分析」第135〜142頁に記載されている方法に従い行えばよい。
【0022】
(e)本発明の潤滑油組成物は、150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)2.0〜3.5mPa・s、好ましくは2.3〜3.2mPa・s、さらに好ましくは2.6〜2.9mPa・sを有するのがよい。該HTHS粘度は、例えばTBS粘度計を用いてASTM D4683に準拠して測定できる。HTHS粘度が上記範囲内にあることによりエンジンの耐久性を確保しつつ適正な燃費特性を維持することができ好ましい。
【0023】
本発明の潤滑油組成物を構成する潤滑油基油は、従来公知の潤滑油基油より適宜選択することができ、上述した本発明の要件を満たすように組合せて混合し調製すればよい。例えば、重質留分を多く含む基油と、軽質留分を多く含む基油を組合せて混合することにより調製することができる。重質留分を多く含む基油とは、特には500℃以上に沸点を有する留分を17質量%以上、さらには20質量%以上、さらに特には30質量%以上含有するものであり、低温粘度が比較的高いものである。さらには250℃1時間にて測定したNOACK蒸発量が、10質量%以下、好ましくは8質量%以下である基油がよい。重質留分を多く含む基油のNOACK蒸発量の下限値は特に限定されるものでないが1質量%以上、特には1.5質量%以上である。軽質留分を多く含む基油とは、低温粘度が比較的低いものであり、特には−35℃におけるCCS粘度が3.0Pa・s以下、好ましくは2.5Pa・s以下の基油である。さらには250℃1時間にて測定したNOACK蒸発量が、50質量%以下、好ましくは45質量%以下である基油がよい。軽質留分を多く含む基油のNOACK蒸発量の下限値は特に限定されるものでないが10質量%超、特には12質量%以上である。軽質留分を多く含む基油と重質留分を多く含む基油との配合比は、500〜550℃に沸点を有する留分量が潤滑油組成物中に14質量%以上、好ましくは16質量%以上、より好ましくは18質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは22質量%以上となり、且つ、550℃を超える沸点を有する留分の含有量が潤滑油組成物中に5質量%以上、好ましくは6質量%以上、特に好ましくは7質量%以上となるように適宜選択されればよい。
【0024】
本発明において潤滑油基油は、鉱油系基油及び合成油系基油のいずれであってもよく、これらを単独で使用することもできれば、混合して使用することもできる。鉱油系基油としては、例えば、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留出油として得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化処理、溶剤脱ろう、水素化精製、白土処理等の処理を任意に選択して精製したもの、或いは、ワックス分の異性化により得られる鉱油、FT基油、植物油系基油またはこれらの混合基油を挙げることができる。溶剤精製には、例えば、フェノール、フルフラール、N−メチル−2−ピロリドン等の芳香族抽出溶剤が用いられる。溶剤脱蝋には、例えば、液化プロパン、MEK/トルエン等の溶剤が用いられる。接触脱蝋には、脱蝋触媒として例えば形状選択性ゼオライト等が用いられる。
【0025】
合成油基油としては、例えば
1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、1−ドデセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;
ジカルボン酸と各種アルコールとのエステル
ジカルボン酸としては例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等が挙げられる。アルコールとしては例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソデシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等が挙げられる;
炭素数4〜20のモノカルボン酸とポリオールとのエステル
ポリオールとしては例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる;
ポリブテン又はその水素化物;及び
ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等のポリフェニル、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油、
又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0026】
上記した本発明の潤滑油組成物は、特に好ましくは、下記三つの態様に特定される。
(I)エステル基油を含有する潤滑油組成物であって、沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量が該組成物の質量全体のうち14質量%以上であり、及び、沸点が550℃を超える留分の含有量が該組成物の質量全体のうち5質量%以上であることを特徴とする、潤滑油組成物。
(II)フィッシャー・トロプシュ由来基油(FT基油)を含有する潤滑油組成物であって、沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量が該組成物の質量全体のうち14質量%以上であり、及び、沸点が550℃を超える留分の含有量が該組成物の質量全体のうち5質量%以上であることを特徴とする、潤滑油組成物。
(III)PAO(ポリ−α−オレフィン)基油を含有する潤滑油組成物であって、沸点500℃〜550℃を有する留分の含有量が該組成物の質量全体のうち14質量%以上であり、及び、沸点が550℃を超える留分の含有量が該組成物の質量全体のうち5質量%以上であることを特徴とする、潤滑油組成物。
これらの潤滑油組成物は、さらに好ましくは上記した(a)〜(e)に示される少なくとも1の性質を有する。
【0027】
(I)上記一つ目の態様は、エステル基油を含有する潤滑油組成物である。エステル基油を含有することにより、優れた添加剤溶解性を確保できるという特徴がある。該エステル基油は上記したものから適宜選択すればよい。好ましくは沸点500℃以上を有するエステル基油であるが、軽質留分を多く含む基油であってもよい。該エステル基油は、上記した他の潤滑油基油と適宜組合せて配合される。後述するPAO基油と併用することもできる。該高沸点を持つエステル基油を含有することにより潤滑油組成物のNOACK蒸発量を低減し、デポジットシミュレーション試験後の粘度上昇を抑えることができる。沸点500℃以上を有するエステル基油としては、例えばトリメチロールプロパンとカプリン酸とのエステル、トリメチロールプロパンとステアリン酸とのエステル等が挙げられる。特には、500℃〜550℃に沸点を有し低粘度である、トリメチロールプロパンとカプリン酸とのエステルが好ましい。また、軽質留分を多く含むエステル基油として、トリメチロールプロパン−カプリン酸−カプリル酸エステルも好適に使用できる。エステル基油の含有量は組合せる潤滑性基油の性状に応じて適宜調整されればよい。好ましくは、潤滑油組成物中1質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上である。上限は好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、特に好ましくは30質量%以下であるのがよい。
【0028】
(II)上記二つ目の態様は、フィッシャー・トロプシュ由来基油(FT基油)を含有する潤滑油組成物である。FT基油を含有することにより、優れた粘度特性による低燃費性を確保できるという特徴がある。FT基油としては、GTL(Gas to Liquid)基油、ATL(Asphalt to Liquid)基油、BTL(Biomass to Liquid)基油及びCTL(Coal to Liquid)基油が好ましく、特にGTL基油が好ましい。フィッシャー・トロプシュワックスも基油として用いることができ、これを原料として使用する過程は、米国特許No.4,594,172や米国特許No.4,943,672に記載されている。上記した本発明の要件を満たす潤滑油組成物は、例えば重質留分を多く含むFT基油と、軽質留分を多く含むFT基油を適宜組合せて混合することにより得ることができる。重質留分を多く含むFT基油とは、特には500℃以上に沸点を有する留分を45質量%以上、さらには50質量%以上で含有するものであり、低温粘度が比較的高いものである。さらには250℃1時間にて測定したNOACK蒸発量が、10質量%以下、好ましくは8質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である基油がよい。重質留分を多く含むFT基油のNOACK蒸発量の下限値は特に限定されるものでないが1質量%以上、特には1.5質量%以上である。また、重質留分を多く含むFT基油の100℃における動粘度は好ましくは5〜10mm
2/s、より好ましくは6〜9mm
2/s、特に好ましくは7〜8mm
2/sである。軽質留分を多く含むFT基油とは、低温粘度が比較的低いものである。特には−35℃でのCCS粘度が3.0Pa・s以下、好ましくは2.0Pa・s以下、より好ましくは1.5Pa・s以下、最も好ましくは1.0Pa・s以下である。さらには250℃1時間にて測定したNOACK蒸発量が、50質量%以下、好ましくは45質量%以下である基油がよい。軽質留分を多く含むFT基油のNOACK蒸発量の下限値は特に限定されるものでないが10質量%超、特には12質量%以上である。これらFT基油は3種類以上を組合せてもよい。該FT基油はPAO基油や精製基油等、上述した他の潤滑油基油と適宜組合せて配合してもよい。重質留分を多く含むFT基油と、軽質留分を多く含むFT基油との配合比は上記した本発明の要件を満たすように適宜調整されればよい。FT基油の含有量は特に制限されず、組合せる潤滑油基油の性状に応じて適宜調整すればよい。特には潤滑油組成物中に合計20質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上で配合することができる。上限は特に制限されないが、95質量%以下、好ましくは90質量%以下であるのがよい。
【0029】
(III)上記三つ目の態様は、PAO(ポリ−α−オレフィン)基油を含有する潤滑油組成物である。PAO基油を含有することにより、優れた酸化安定性と低温流動性を確保できるという特徴がある。ポリ−α−オレフィンとしては、例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、1−ドデセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィンなどが好適に使用できる。該PAO基油は上記したFT基油や精製基油等、上述した他の潤滑油基油と適宜組合せて配合するのがよい。PAO基油の含有量は潤滑油組成物中に合計1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上がよい。上限は95質量%以下、好ましくは80質量%以下、特に好ましくは60質量%以下であるのがよい。
【0030】
個々の潤滑油基油の100℃における動粘度(mm
2/s)は限定されることはないが、2〜15mm
2/sが好ましく、2〜10mm
2/sがより好ましく、2〜8mm
2/sが最も好ましい。これにより、油膜形成が十分であり、潤滑性に優れ、かつ、蒸発損失のより小さい組成物を得ることができる。
【0031】
個々の潤滑油基油の粘度指数(VI)は限定されることはないが、100以上が好ましく、110以上がより好ましく、120以上が最も好ましい。これにより、高温での油膜を確保し、且つ、低温での粘度を低減することができる。動粘度及び粘度指数はASTMD445に準拠し測定される。
【0032】
個々の潤滑油基油の40℃における動粘度(mm
2/s)は、上述した100℃における動粘度と、上述した粘度指数VIから決定できる値であればよい。
【0033】
個々の潤滑油基油は、米国石油協会(API:American Petroleum Institute)で定められた基油のカテゴリーである、GroupI、II、III、IV及びVの範疇のものを適宜利用することができる。例えば、本発明において使用できるPAOは、GroupIVに分類されるPAOであることができる。
【0035】
本発明の潤滑油組成物には各種添加剤を配合することができる。該添加剤としては、金属清浄剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤、極圧剤、腐食防止剤、防錆剤、流動点硬化剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等が挙げられ、本発明の目的を阻害しない限りにおいて適宜選択し、配合すればよい。
【0036】
金属清浄剤としては例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、またはこれらの混合物が挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。例えば、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、マグネシウムサリシレート等である。中でもカルシウム塩が好ましい。これらのアルカリ土類金属塩は、中性塩または塩基性塩であってもよい。さらに、ホウ素を含有するカルシウム系清浄剤を使用することができる。なお、本発明においては、発明の要旨を変更しない範囲でナトリウムを有する金属清浄剤を任意成分として使用することができる。ナトリウムを有する金属清浄剤としては、ナトリウムスルホネート、ナトリウムフェネート、ナトリウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。該ナトリウムを有する金属清浄剤は、上述したカルシウムを有する金属清浄剤、及び/またはマグネシウムを有する金属清浄剤と混合して使用することができる。これらの金属清浄剤を含有することにより、潤滑油として必要な高温清浄性、防錆性を確保することができる。潤滑油組成物中の金属清浄剤の量は、従来公知の方法に従い適宜選択すればよいが、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0037】
摩耗防止剤としては例えば、ジチオリン酸亜鉛、アルキルリン酸亜鉛、ジチオリン酸金属塩、ジチオカルバミン酸金属塩、ホスフェート、ホスファイト等のリン化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、並びにこれらの金属塩及びアミン塩、ナフテン酸金属塩、脂肪酸金属塩などが挙げられる。中でも、リンを有する摩耗防止剤が好ましく、特にはジチオリン酸亜鉛が好ましい。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。上記金属塩基における金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。摩耗防止剤の量は、従来公知の方法に従い適宜選択すればよいが、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0038】
摩擦調整剤としては例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体等、或いは、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩等を挙げることができる。前記モリブデン化合物としては、例えば酸化モリブデン、モリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、モリブデン酸塩、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、ハロゲン化モリブデン等が挙げられる。硫黄含有有機化合物としてはアルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール等が挙げられる。特にはモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の有機モリブデン化合物が好ましい。また、6価のモリブデン化合物も好適であり、更には入手性の点から三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。さらに本発明の摩擦調整剤として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物も用いることができる。摩擦調整剤の量は、従来公知の方法に従い適宜選択すればよいが、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0039】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、硫黄系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。酸化防止剤は、従来公知の方法に従い適宜選択すればよいが、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0040】
無灰分散剤としては、炭素数40〜500、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、或いはモノ又はビスコハク酸イミド、炭素数40〜500のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、或いは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、或いはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。無灰分散剤の含有量は、従来公知の方法に従い適宜選択すればよいが、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0041】
粘度指数向上剤としては例えば、ポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体等)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン−ブタジエン水添共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、ビニル芳香族部分と水素化ポリジエン部分を有するジブロックコポリマー、星型コポリマー、水素化イソプレン線状ポリマー、星型ポリマー等を含むものが挙げられる。粘度指数向上剤は通常上記ポリマーと希釈油とから成る。粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準でポリマー量として好ましくは10質量%以下、好ましくは5質量%以下であればよい。
【0042】
極圧剤としては、潤滑油組成物に用いられる任意の極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用できる。具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。該極圧剤は、通常、潤滑油組成物中に0.1〜5質量%で配合される。
【0043】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。上記防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。防錆剤及び腐食防止剤は各々、通常、潤滑油組成物中に0.01〜5質量%で配合される。
【0044】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。流動点降下剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜3質量%で配合される。
【0045】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜5質量%で配合される。
【0046】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜3質量%で配合される。
【0047】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm
2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤は、通常、潤滑油組成物中に0.001〜1質量%で配合される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0049】
下記において蒸発留分量は、蒸留ガスクロマトグラフィー(GCD)により測定した。GCD測定は、全面積法に替えて外部標準法を使用した以外はJISK2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して行った。
【0050】
[参考例1及び2、及び比較例1]
蒸発後粘度が大きい潤滑油(市販品、以下、Bad Oilという)に、下記エステル油を組成物中に15質量%となる量で添加し混合して潤滑油組成物を調製した。
参考例1、参考例2、及び比較例1で使用した各エステル油は以下の通りである。各エステル油のGCD曲線を
図1に示す。
(1)参考例1のエステル油:500℃〜550℃に沸点を有するエステル油:トリメチロールプロパンとカプリン酸(C10)のエステル
(2)参考例2のエステル油:550℃超〜650℃に沸点を有するエステル油:トリメチロールプロパンとステアリン酸(C18)のエステル
(3)比較例1のエステル油:400℃〜500℃未満に沸点を有するエステル油:トリメチロールプロパンとカプリル酸(C8)及びカプリン酸(C10)のエステル
【0051】
形成されるコンプレッサーデポジットの量と相関があると考えられる、潤滑油組成物の250℃での蒸発損失量を測定する試験(以下、デポジットシミュレーション試験という)を実施した。デポジットシミュレーション試験は、試料を50gとし測定時間を7時間とした他はASTM D5800に準拠する試験方法に従い行った。
【0052】
上記デポジットシミュレーション試験における、各潤滑油組成物及びBad Oilの蒸発損失量(質量%)の経時変化を示すグラフを
図2に示す。
図2において、a、b、c、及びdで示すグラフは夫々以下の通りである。
a(記号:■)で示すグラフは、参考例1の潤滑油組成物の蒸発損失量の経時変化である。
b(記号:▲)で示すグラフは、参考例2の潤滑油組成物の蒸発損失量の経時変化である。
c(記号:×)で示すグラフは、比較例1の潤滑油組成物の蒸発損失量の経時変化である。
d(記号:◆)で示すグラフは、Bad Oilの蒸発損失量の経時変化である。
【0053】
また、参考例1と参考例2の潤滑油組成物についてデポジットシミュレーション試験前後のGCD曲線を
図3に示す。
図3において、e及びgで示すグラフは各々デポジットシミュレーション試験前の潤滑油組成物のGCD曲線である。f及びhで示すグラフは各々デポジットシミュレーション試験後の潤滑油組成物のGCD曲線である。
【0054】
各潤滑油組成物及びBad Oilについて上記デポジットシミュレーション試験前後の動粘度を測定した。動粘度測定はASTMD445に準拠し100℃で行った。デポジットシミュレーション試験前後の動粘度(KV100(mm
2/s))のグラフを
図4に示す。
【0055】
デポジットシミュレーション試験結果(
図2)に示す通り、参考例1及び参考例2のエステル油は、潤滑油組成物の蒸発量を低減させる効果が大きい。これに対し比較例1のエステル油は潤滑油組成物の蒸発量を低減させる効果が低い。またデポジットシミュレーション試験前後のGCD曲線(
図3)に示す通り、試験後の参考例1及び参考例2の潤滑油組成物にはエステル分が残留している。さらにデポジットシミュレーション試験前後の動粘度測定結果(
図4)に示す通り、参考例1及び参考例2のエステル油は、比較例1のエステル油に比較して、潤滑油組成物の粘度上昇を抑制する効果が大きい。
【0056】
上記参考例1及び2の結果に示す通り、沸点500℃〜550℃を有する留分及び沸点550℃超を有する留分は、潤滑油組成物中に含まれる軽質留分の蒸発量を低減させ、且つ、潤滑油組成物の粘度上昇を大幅に抑制することができる。潤滑油組成物の粘度上昇が抑制されることは、コンプレッサーデポジットの形成が抑制されることを意味する。
【0057】
[潤滑油組成物の調製]
下記実施例及び比較例において表1に示す性状を有する潤滑油基油を使用した。
下記表1に記載の潤滑油基油は以下の通りである。表1に記載のGroupはAPIで定められた基油のカテゴリーであり、上述した表に示す通りである。
・精製基油1、2、3、4及び5は水素化精製基油である。
・FT基油1、FT基油2及びFT基油3は、フィッシャー・トロプシュ由来基油である。
・PAO基油1、2及び3は、ポリ−α−オレフィンである。
・エステル基油1は、トリメチロールプロパン−カプリン酸エステルである。
・エステル基油2は、トリメチロールプロパン−カプリン酸−カプリル酸エステルである。
【0058】
表1に記載する各性状の試験方法は以下の通りである。
(1)−35℃でのCCS粘度はASTM D5293に準拠し測定した値である。
(2)NOACK蒸発量は、ASTMD5800に準拠し250℃1時間で測定した値である。
(3)GCD測定方法は上記の通りである。
(4)動粘度及び粘度指数は、ASTMD445に準拠し測定した値である。
【0059】
【表1】
【0060】
上記表1に記載の精製基油1、2、及び4、FT基油1及び2、PAO基油1、及びエステル基油2は、軽質留分を多く含む潤滑油基油である。
【0061】
上記各潤滑油基油及び下記に示す添加剤を、表2、3、及び4に記載する組成及び配合(質量%)で混合し、潤滑油組成物を調製した。
・添加剤:ポリマー(ポリメタクリレート(PMA)、Mw150,000〜500,000)の含有量が30重量%である粘度指数向上剤を表2、3、及び4に記載の量で配合した。
・その他の添加剤パッケージ:金属清浄剤、無灰分散剤、摩耗防止剤及び酸化防止剤を含むパッケージ
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
上記表2及び3に記載の各潤滑油組成物について、蒸発留分量(質量%)、−35℃でのCCS粘度、パラフィン量(質量%)、一環ナフテン量(質量%)、150℃でのHTHS粘度を測定した。下記表5〜7に示す。
蒸発留分量、−35℃でのCCS粘度、及びNOACK蒸発量の試験方法は上記の通りである。その他の試験方法は以下の通りである。
(1)150℃でのHTHS粘度は、ASTM D4683に準拠して測定した値である。
(2)パラフィン及び一環ナフテンの含有量は、電界脱離イオン化−質量分析法(FD−MS法)にて測定した。該測定は、日石レビュー・第33巻・第4号(1991年10月)「質量分析計による潤滑油基油のタイプ分析」第135頁〜142頁に記載される方法に従い行えばよい。
(3)デポジットシミュレーション試験前後の動粘度(KV100(mm
2/s))はASTM D445に準拠して測定した。デポジットシミュレーション試験は、試料量50g、7時間で測定した以外はASTMD5800の方法に準拠して行った。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
表7に示す通り、比較例2、3、4、5、及び6の潤滑油組成物は低温低粘度を有するが、デポジットシミュレーション試験前後で動粘度(KV100)の上昇率が大きい。特に比較例4、5及び6は粘度上昇が大きすぎてデポジットシミュレーション試験後の動粘度を測定することができなかった。また、比較例6に示す通り、沸点500℃〜550℃を有する留分を多く含んでも、沸点550℃超え留分量が少なすぎると、デポジットシミュレーション試験における粘度上昇が大きく、コンプレッサーデポジットの形成を十分に抑制することができない。また、参考例3及び4に示す通り、沸点500℃〜550℃を有する留分が上述した上限値超えである、若しくは沸点550℃超え留分量が上述した上限値超えであると、コンプレッサーデポジットの形成を抑制することはできるものの、良好な低温粘度特性が得られない。
これに対し、表5及び6に示す通り、本発明の潤滑油組成物は、NOACK蒸発量が小さく、且つ、デポジットシミュレーション試験前後で動粘度(KV100)の上昇が抑制される。従って、コンプレッサーデポジットの形成を抑制する効果を有する。さらに本発明の潤滑油組成物は上記効果に加え低温低粘度を有する。