特許第6502170号(P6502170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6502170隙間調整部材および隙間調整部材の組付け方法並びに変速装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502170
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】隙間調整部材および隙間調整部材の組付け方法並びに変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/022 20120101AFI20190408BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20190408BHJP
   F16C 35/077 20060101ALI20190408BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20190408BHJP
【FI】
   F16H57/022
   F16C19/06
   F16C35/077
   F16H57/04 J
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-98733(P2015-98733)
(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公開番号】特開2016-217360(P2016-217360A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390009896
【氏名又は名称】愛知機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131406
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 正寿
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 靖
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆行
(72)【発明者】
【氏名】大矢 日登志
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広将
【審査官】 木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102013220834(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/022
F16C 19/06
F16C 35/077
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付穴、該取付穴の底部において該取付穴と同心状かつ該取付穴の直径より大きな直径を有するよう構成された環状溝、および、前記取付穴の径方向外方に向かって凹設され該取付穴の開口から前記環状溝に亘って延在するよう構成された凹溝を有する第1部材と、
前記取付穴に取り付けられるよう構成された第2部材と、の間に介在され前記第1部材と
前記第2部材との隙間の調整を行うために、前記取付穴に挿通されて前記環状溝に設置されるよう構成された隙間調整部材であって、
前記取付穴の直径以下の直径を有するよう構成された本体部と、
該本体部の外周面に径方向外方に向かって突出するよう構成された外方突出部と、
を備え、
前記本体部は、内孔を有するリング状に構成されており、
前記外方突出部は、前記凹溝の数以下であって少なくとも一つ設けられており、
前記内孔は、前記本体部の中心に対して前記外方突出部の突出方向にずれた位置に中心を有するように構成されており、
前記外方突出部の突出端と、該突出端と前記本体部の中心とを通る仮想直線が前記本体部の外周面と交差する交点であって前記突出端とは反対側の交点と、を通る前記本体部に外接する仮想外接円の直径が、前記取付穴の直径より大きく前記環状溝の直径以下となるよう構成されている
隙間調整部材。
【請求項2】
前記仮想外接円の直径は、前記環状溝の直径と同じ大きさとなるよう構成されており、
前記内孔の中心の前記本体部の中心に対する位置ずれ量は、前記本体部の中心と前記環状溝の中心とを整合させた際の前記仮想外接円の中心の前記環状溝の中心に対する位置ずれ量と同じ大きさに設定されている請求項に記載の隙間調整部材。
【請求項3】
前記内孔には、径方向内方に向かって突出するよう構成された内方突出部が設けられている
請求項またはに記載の隙間調整部材。
【請求項4】
前記内方突出部は、前記外方突出部が配置された前記本体部の外周面上の第1位置に対応する前記内孔の内周面、および、該第1位置に対して180度位相が異なる前記本体部の外周面上の第2位置に対応する前記内孔の内周面の少なくとも一方に設けられている
請求項に記載の隙間調整部材。
【請求項5】
取付穴、該取付穴の底部において該取付穴と同心状かつ該取付穴の直径より大きな直径を有するよう構成された環状溝、および、前記取付穴の径方向外方に向かって凹設され該取付穴の開口から前記環状溝に亘って延在するよう構成された凹溝を有する第1部材と、
前記取付穴に取り付けられるよう構成された第2部材と、の間に介在され前記第1部材と
前記第2部材との隙間の調整を行う隙間調整部材を、前記環状溝に組み付ける隙間調整部材の組付け方法であって、
前記外方突出部を前記凹溝に挿通させた状態で、請求項1ないしのいずれか1項に記載の隙間調整部材を前記取付穴に挿通し、
前記隙間調整部材が前記環状溝に到達したときに、前記隙間調整部材を前記環状溝内で該環状溝の周方向に回転させることにより、前記隙間調整部材を前記環状溝に係合させて組み付ける
隙間調整部材の組付け方法。
【請求項6】
前記凹溝が配置された位置とは180度位相が異なる位置に前記外方突出部が配置されるまで前記隙間調整部材を前記環状溝内で回転させる
請求項に記載の隙間調整部材の組付け方法。
【請求項7】
ケースと、
該ケースに取り付けられる軸受部材と、
前記ケースに前記軸受部材を介して回転可能に支持される回転軸と、
を備え、
前記ケースには、前記軸受部材を取り付けるよう構成された取付穴と、該取付穴の底部において前記取付穴と同軸状かつ該取付穴の直径よりも大きな直径を有するよう構成された環状溝と、前記取付穴の径方向外方に向かって凹設され該取付穴の開口から前記環状溝に亘って延在するよう構成された凹溝と、が設けられており、
請求項1ないしのいずれか1項に記載の隙間調整部材を前記環状溝に組み付けることにより前記ケースと前記軸受部材との隙間を調整するよう構成された
変速装置。
【請求項8】
前記凹溝は、前記軸受部材と前記ケースとの間に潤滑油を供給するための潤滑油通路として構成されている
請求項に記載の変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材と第2部材との間に介在されて第1部材と第2部材との隙間を調整するための隙間調整部材に関する。
【背景技術】
【0002】
実公平3−20578号公報(特許文献1)は、羽根車と当該羽根車の取付穴に挿通される駆動軸との軸線方向の相対位置を調整するために、羽根車の取付穴の底面と駆動軸の端面との間に介装される隙間調整部材を開示している。
【0003】
公報記載の隙間調整部材は、外周面に径方向外方に突出する四つの突部が設けられている。当該四つの突部の突出端を結ぶ仮想円の直径は、羽根車の隙間調整部材を取り付けるための環状溝の直径よりも小さく、かつ、羽根車の取付穴の直径よりも大きく設定されている。これにより、隙間調整部材が環状溝に落ち込むことによる隙間調整部材の内孔の中心と駆動軸の中心との芯ずれ発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平3−20578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した隙間調整部材を羽根車の環状溝に取り付けるに際しては、四つの突部のうちの一つを羽根車の取付穴に形成された一つのキー溝内に挿通させると共に、当該隙間調整部材を当該取付穴に対して斜めに傾けた状態で行う必要があり、組み付け性という点において、なお改良の余地がある。また、隙間調整部材の内孔の中心と駆動軸の中心との芯ずれ発生を完全には抑制できないため、隙間調整部材の内孔径を当該芯ずれ発生を見込んだ大きさに設定する必要があり、隙間調整部材と駆動軸の端面との接触面積の低下を招く。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、組み付け性の向上に資する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の隙間調整部材は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明に係る隙間調整部材の好ましい形態によれば、取付穴、環状溝および凹溝を有する第1部材と、取付穴に取り付けられるよう構成された第2部材と、の間に介在され第1部材と第2部材との隙間の調整を行うために、取付穴に挿通されて環状溝に設置されるよう構成された隙間調整部材が構成される。環状溝は、取付穴の底部において当該取付穴と同心状かつ当該取付穴の直径より大きな直径を有するように構成されている。凹溝は、取付穴の径方向外方に向かって凹設され取付穴の開口から環状溝に亘って延在するように構成されている。当該隙間調整部材は、取付穴の直径以下の直径を有するよう構成された本体部と、当該本体部の外周面に径方向外方に向かって突出するように構成された外方突出部と、を備えている。本体部は、内孔を有するリング状に構成されている。外方突出部は、凹溝の数以下であって少なくとも一つ設けられている。内孔は、本体部の中心に対して外方突出部の突出方向にずれた位置に中心を有するように構成されている。そして、外方突出部の突出端と、当該突出端と本体部の中心とを通る仮想直線が本体部の外周面と交差する交点であって前記突出端とは反対側の交点と、を通る本体部に外接する仮想外接円の直径が、取付穴の直径より大きく環状溝の直径以下となるように構成されている。
【0009】
本発明における「隙間調整部材」には、文字通り第1部材と第2部材との隙間の大きさを調整する目的で用いられる部材の他、第1部材と第2部材との相対位置を調整する目的で用いられる部材を好適に包含し、典型的には、シムがこれに該当する。また、本発明における「凹溝」は、典型的には、第1部材と第2部材との取り付けをキー止めするキーを挿入するためのキー溝や、潤滑油を流通させるための潤滑溝などがこれに該当するが、隙間調整部材の外方突出部を挿通するためのみに設けた専用の溝を好適に包含する。さらに、本発明における「径方向外方」とは、取付穴の径方向に沿う方向であって取付穴の中心から遠ざかる方向として規定される。また、本発明における「外方突出部は、凹溝の数以下であって少なくとも一つ設けられ」る態様としては、典型的には、外方突出部が凹溝に対応するように本体部の外周面の凹溝に対応する位置それぞれに凹溝と同数設けられる態様がこれに該当する。
【0010】
本発明によれば、外方突出部が凹溝の数以下であって少なくとも一つ設けられる構成であるため、当該外方突出部を凹溝に整合させることにより、隙間調整部材を取付穴に挿通する際に当該隙間調整部材を取付穴の開口に対して斜めに傾ける必要がない。これにより、隙間調整部材の組み付け性が向上する。なお、取付穴の開口が鉛直方向の下方を向く状態で、隙間調整部材を環状溝に組み付ける場合にあっては、隙間調整部材が環状溝に設置された際に、外方突出部と凹溝とが整合しない位置まで隙間調整部材を回転させることにより、隙間調整部材の落下を良好に防止できる。また、内孔の中心が本体部の中心に対して外方突出部の突出方向寄りにずれた位置に配置される構成であるため、外方突出部が環状溝内に配置されるように隙間調整部材を環状溝に係合させたときに、内孔の中心の環状溝の中心に対する位置ずれが補正される。これにより、組み付け後の取付穴の中心に対する隙間調整部材の内孔の中心の位置ずれが抑制され得る。この結果、本体部と第1および第2部材との接触面積が低下することを良好に防止することができる。なお、取付穴の開口が鉛直方向を向く状態で、隙間調整部材を環状溝に組み付ける場合にあっては、外方突出部および本体部のうち当該外方突出部に対向する部分が環状溝に係合されるため、隙間調整部材の落下を良好に防止できる。
【0013】
本発明に係る隙間調整部材の更なる形態によれば、仮想外接円の直径は、環状溝の直径と同じ大きさとなるように構成されている。そして、内孔の中心の本体部の中心に対する位置ずれ量は、本体部の中心と環状溝の中心とを整合させた際の仮想外接円の中心の環状溝の中心に対する位置ずれ量と同じ大きさに設定されている。
【0014】
本発明における「同じ大きさ」とは、文字通り同じ大きさに構成ないし設定される態様のみならず、概ね同じ大きさに構成ないし設定される態様を好適に包含する。
【0015】
本形態によれば、内孔の中心の本体部の中心に対する位置ずれの向きおよび量が、外方突出部と環状隙間とを係合させる際に生じる隙間調整部材の径方向移動の向きに対して180度位相が異なり、かつ、ずれ量が同じとなる構成であるため、隙間調整部材を環状溝に組み付けた際に内孔の中心の取付穴の中心に対する位置ずれを効果的に防止できる。
【0016】
本発明に係る隙間調整部材の更なる形態によれば、内孔には、径方向内方に向かって突出するように構成された内方突出部が設けられている。なお、本発明における「径方向内方」とは、取付穴の径方向に沿う方向であって取付穴の中心に向かう方向として規定される。
【0017】
本形態によれば、外方突出部を凹溝に挿通させた状態で隙間調整部材を取付穴に挿通し、隙間調整部材が環状溝に到達したときに隙間調整部材を環状溝内で当該環状溝の周方向に回転させて外方突出部を環状溝に係合させて、隙間調整部材の環状溝への取付を行う構成において、内方突出部を用いて隙間調整部材を回転させることができる。これにより、隙間調整部材の環状溝への組み付け性が向上する。
【0018】
本発明に係る隙間調整部材の更なる形態によれば、内孔突出部は、外方突出部が配置された本体部の外周面上の第1位置に対応する内孔の内周面、および、当該第1位置に対して180度位相が異なる本体部の外周面上の第2位置に対応する内孔の内周面の少なくとも一方に設けられている。
【0019】
本形態によれば、環状溝の円周方向における適当な位置に外方突出部が配置されるように調整する必要がある場合に、当該外方突出部の円周方向における位置を確認するための目印として内方突出部を利用することができる。
【0020】
本発明に係る隙間調整部材の組付け方法の好ましい形態によれば、取付穴、環状溝および凹溝をを有する第1部材と、取付穴に取り付けられるよう構成された第2部材と、の間に介在され第1部材と第2部材との隙間の調整を行う隙間調整部材を、環状溝に組み付ける隙間調整部材の組付け方法が構成される。環状溝は、取付穴の底部において当該取付穴と同心状かつ当該取付穴の直径より大きな直径を有するように構成されている。また、凹溝は、取付穴の径方向外方に向かって凹設され当該取付穴の開口から環状溝に亘って延在するように構成されている。当該組み付け方法では、外方突出部を凹溝に挿通させた状態で、上述したいずれかの態様の本発明に係る隙間調整部材を取付穴に挿通する。そして、隙間調整部材が環状溝に到達したときに、隙間調整部材を環状溝内で当該環状溝の周方向に回転させることにより、隙間調整部材を環状溝に係合させて組み付ける。
【0021】
本発明によれば、上述したいずれかの態様の本発明に係る隙間調整部材を環状溝に組み付けるため、本発明の隙間調整部材が奏する効果と同様の効果、例えば、隙間調整部材の組み付け性を向上することができると共に、組み付け後の取付穴の中心に対する隙間調整部材の内孔の中心の位置ずれを抑制することができる効果などを奏することができる。
【0022】
本発明に係る隙間調整部材の組付け方法の更なる形態によれば、凹溝が配置された位置とは180度位相が異なる位置に外方突出部が配置されるまで隙間調整部材を環状溝内で当該環状溝の周方向に回転させる。
【0023】
本形態によれば、隙間調整部材を環状溝に組み付けた状態において、外方突出部が凹溝から最も離れた位置に配置されるため、第2部材を第1部材に取り付ける際に隙間調整部材の意図しない回転によって外方突出部と凹溝が整合して隙間調整部材が取付穴から脱落することを効果的に抑制することができる。
【0024】
本発明に係る変速装置の好ましい形態によれば、ケースと、当該ケースに取り付けられる軸受部材と、ケースに軸受部材を介して回転可能に支持される回転軸と、を備える変速装置が構成される。ケースには、取付穴と、環状溝と、凹溝と、が設けられている。取付穴は、軸受部材を取り付けるように構成されている。環状溝は、取付穴の底部において当該取付穴と同軸状かつ当該取付穴の直径よりも大きな直径を有するように構成されている。また、凹溝は、取付穴の径方向外方に向かって凹設され当該取付穴の開口から環状溝に亘って延在するように構成されている。そして、上述したいずれかの態様の本発明に係る隙間調整部材を環状溝に組み付けることによりケースと軸受部材との隙間を調整するように構成されている。
【0025】
本発明によれば、上述したいずれかの態様の本発明に係る隙間調整部材を備えているため、本発明の隙間調整部材が奏する効果と同様の効果、例えば、隙間調整部材の組み付け性を向上することができると共に、組み付け後の取付穴の中心に対する隙間調整部材の内孔の中心の位置ずれを抑制することができる効果などを奏することができる。
【0026】
本発明に係る変速装置の更なる形態によれば、凹溝は、軸受部材とケースとの間に潤滑油を供給するための潤滑油通路として構成されている。
【0027】
本形態によれば、軸受部材とケースとの間に潤滑油を供給するための潤滑油通路を隙間調整部材の外方突出部を挿通するための凹溝として利用する構成であるため合理的である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、組み付け性の向上と組み付け後の取付穴の中心に対する隙間調整部材の内孔の中心の位置ずれ防止とに資する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態に係る減速機1の構成の概略を示す断面図である。
図2図1のX部を拡大して示す要部拡大図である。
図3】取付穴22aの中心軸線に垂直な平面で当該取付穴22aを切断した際の断面図である。
図4】取付穴22aの中心軸線を含む平面で取付部22を切断した際の断面を示す拡大断面斜視図である。
図5図1のY部を拡大して示す要部拡大図である
図6】取付穴24aの中心軸線に垂直な平面で当該取付穴24aを切断した際の断面図である。
図7】取付穴24aの中心軸線を含む平面で取付部24を切断した際の断面を示す拡大断面斜視図である。
図8】シム30の平面図である。
図9】シム30を取付穴22aに挿入する際の様子を示す説明図である。
図10】シム30が取付穴22aの底部22a’に着座した様子を示す説明図である。
図11】シム30を環状溝22b内で回転させる様子を示す説明図である。
図12】シム30の環状溝22bへの組み付けが完了した状態を示す説明図である。
図13】減速機1のハウジング部8aにケース本体部8bを組み付ける際の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0031】
本発明の実施の形態に係る減速機1は、図1に示すように、原動機(図示せず)の回転軸(図示せず)に接続される入力軸2と、減速ギヤ機構RGMを介して入力軸2に接続された出力軸4と、出力ギヤ機構OGMを介して出力軸4に接続された差動装置6と、これらを収容する減速機ケース8と、を備えている。減速機1は、本発明における「変速装置」に対応する実施構成の一例である。
【0032】
入力軸2は、図1に示すように、ベアリングB1,B2を介して減速機ケース8に回転可能に支持されている。入力軸2には、駆動ギヤGおよびパーキングギヤPGが一体に形成されている。駆動ギヤGおよびパーキングギヤPGは、入力軸2のうち原動機の回転軸に接続される側(図1中の紙面右側)からパーキングギヤPG、駆動ギヤGの順に入力軸2に配置されている。
【0033】
なお、入力軸2のうち原動機の回転軸に接続される側の端部(図1の右側端部)は、オイルシールOS1によってシール分離された状態で減速機ケース8から突出している。入力軸2は、本発明における「回転軸」に対応する実施構成の一例である。
【0034】
出力軸4は、図1に示すように、入力軸2に平行に配置されている。出力軸4は、ベアリングB3,B4を介して減速機ケース8に回転可能に支持されている。出力軸4には、駆動ギヤGと噛合うように構成された被駆動ギヤG’が固定されていると共に、出力ギヤOGが一体に形成されている。
【0035】
被駆動ギヤG’および出力ギヤOGは、図1中の紙面右側から出力ギヤOG、被駆動ギヤG’の順に出力軸4に配置されている。被駆動ギヤG’は、スプライン嵌合などによって出力軸4と一体回転可能なように出力軸4に固定されている。被駆動ギヤG’は、駆動ギヤGよりも外径が大きく、かつ、歯数が多くなるように構成されている。即ち、被駆動ギヤG’は、入力軸2の回転速度を減速して出力軸4に伝達するように構成されている。駆動ギヤGおよび被駆動ギヤG’によって減速ギヤ機構RGMが構成されている。
【0036】
なお、出力軸4のうち図1中の紙面左側の端部は、オイルシールOS2によってシール分離された状態で減速機ケース8から突出しており、減速機ケース8に取り付けられたカバー10によって覆われている。出力軸4は、本発明における「回転軸」に対応する実施構成の一例である。
【0037】
差動装置6は、図1に示すように、左右の車軸9,9に生ずる速度差(回転数差)を吸収しつつ動力を分配して伝達するように構成されている。差動装置6は、出力ギヤOGと噛合うように構成されたリングギヤRGを有している。リングギヤRGは、出力ギヤOGに比べて外径が大きく、かつ、歯数が多くなるように構成されている。即ち、出力軸4の回転速度を減速して車軸9,9に伝達するように構成されている。出力ギヤOGおよびリングギヤRGによって出力ギヤ機構OGMが構成されている。
【0038】
減速機ケース8は、図1に示すように、ハウジング部8aと、ハウジング部8aに接続されるケース本体部8bと、を備えている。減速機ケース8は、本発明における「ケース」に対応する実施構成の一例である。
【0039】
ハウジング部8aは、図1に示すように、ベアリングB2,B4を取り付けるための取付部12,14および差動装置6を収容するための収容部16を有している。
【0040】
ケース本体部8bは、図1に示すように、ベアリングB1,B3を取り付けるための取付部22,24を有している。取付部22には、図2ないし図4に示すように、取付穴22aと、環状溝22bと、凹溝22cと、が形成されている。また、取付部24には、図5ないし図7に示すように、取付穴24aと、環状溝24bと、凹溝24cと、が形成されている。取付部22,24は、本発明における「第1部材」に対応する実施構成の一例である。
【0041】
取付穴22a,24aは、図4および図7に示すように、一端側(図4および図7の右側)が開口されていると共に、他端側(図4および図7の左側)に底部22a’,24a’を備えている。取付穴22a,24aは、ベアリングB1,B3の直径と同じ大きさか若干大きい直径となるように構成されている。ベアリングB1,B3は、本発明における「第2部材」に対応する実施構成の一例である。
【0042】
環状溝22b,24bは、図4および図7に示すように、取付穴22a,24aと同心状かつ取付穴22a,24aの直径よりも大きな直径を有するように構成されている。環状溝22b,24bは、取付穴22a,24aの底部22a’,24a’に配置されている。環状溝22b,24bには、図2および図5に示すように、シム30が係合される。
【0043】
即ち、ベアリングB1,B3の軸方向端面がシム30を介して取付穴22a,24aの底部22a’,24a’に当接される。このように、取付穴22a,24aの底部22a’,24a’とベアリングB1,B3の軸方向端面との間にシム30を介在させる構成とすることにより、取付穴22a,24aの底部22a’,24a’とベアリングB1,B3の軸方向端面との隙間の大きさを調整し得て、入力軸2および出力軸4の減速機ケース8に対する相対軸方向の位置調整を図ることができる。
【0044】
凹溝22c,24cは、図3図4図6および図7に示すように、取付穴22a,24aに径方向に凹状に設けられている。凹溝22c,24cは、図4および図7に示すように、取付穴22a,24aの開口端から底部22a’,24a’に亘って延在しており、底部22a’ ,24a’側において環状溝22b,24bに接続されている。本実施の形態では、凹溝22c,24cは、減速機ケース8内に貯留された潤滑油をシム30やオイルシールOS2のリップ部に供給するための潤滑溝として構成されている。なお、凹溝22c,24cは、取付穴22a,24a(環状溝22b,24b)の中心から凹溝22c,24cの底面22c’,24c’までの距離の方が環状溝22b,24bの半径(環状溝22b,24bの中心から環状溝22b,24bの底面までの距離)よりも大きくなるように構成されている。
【0045】
シム30は、図8に示すように、円環状のプレート部材として構成されている。シム30は、主に、本体部32と、外方突起34と、二つの内方突起36,38と、から構成されている。シム30は、本発明における「隙間調整部材」に対応する実施構成の一例である。
【0046】
本体部32の外周円は、図3および図6に示すように、取付穴22a,24aの直径と同じ大きさか若干小さい直径を有するように構成されている。また、本体部32の内孔32aは、図8に示すように、本体部32の外周円の中心Coに対してずれた位置に中心Ciを有するように構成されている。
【0047】
内孔32aの中心Ciは、図8に示すように、本体部32の外周円の中心Coに対して、本体部32の外周円の中心Coと外方突起34の突出端とを通る仮想直線VL上であって、本体部32の外周円の中心Coに対して外方突起34側となる方向にずれている。
【0048】
また、図8に示すように、仮想直線VLと本体部32の外周円との交点であって外方突起34とは反対側の交点Pcおよび外方突起34の突出端を通り、仮想直線VL上に中心を有し、本体部32に外接する仮想外接円VCCの直径d1が、取付穴22a,24aの直径より大きく、かつ、環状溝22b,24bの底面の直径d2と同じ大きさとなるように構成されている。そして、内孔32aの中心Ciの本体部32の外周円の中心Coに対するずれ量Dcは、本体部32の外周円の中心Coと取付穴22a,24aおよび環状溝22b,24bの中心Cgとを整合させたときに生ずる当該仮想外接円VCCと環状溝22b,24bとのずれ量Dpと等しくなるよう設定されている。
【0049】
外方突起34は、図8に示すように、本体部32の外周面から径方向外方に向かって突出するように設けられている。ここで、径方向外方とは、本体部32の外周円の中心Coから遠ざかる方向として規定される。なお、外方突起34の本体部32の外周面からの突出量は、上述したように、仮想外接円VCCの直径d1が取付穴22a,24aの直径より大きく、かつ、環状溝22b,24bの直径d2と同じ大きさとなるような値に設定されている。外方突起34は、本発明における「外方突出部」に対応する実施構成の一例である。
【0050】
内方突起36は、図8に示すように、内孔32aの円周上のうち外方突起34に対応する位置に設けられている。内方突起36は、内孔32aの内周面から仮想直線VLに沿って内孔32aの径方向内方、即ち、中心Ciに向かって突出するように設けられている。
【0051】
内方突起38は、図8に示すように、内孔32aの円周上のうち内方突起36が設けられた位置に対して180度位相が異なる位置、即ち、内方突起36の真向かいに相当する位置において、内孔32aの径方向内方に向かって突出するように設けられている。したがって、内方突起3も仮想直線VL上に配置される。内方突起36,38は、本発明における「内方突出部」に対応する実施構成の一例である。
【0052】
次に、こうして構成されたシム30の環状溝22bへの組み付け方法について説明する。なお、シム30の環状溝24b組み付け方法については、基本的にはシム30の環状溝22bへの組み付け方法と同様であるため、その説明については省略する。
【0053】
シム30の環状溝22bへの組み付けに際しては、まず、図9および図10に示すように、シム30の外方突起34を取付部22の凹溝22cに整合させると共に、本体部32の外周円の中心Coを取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに整合させた状態で、シム30が取付部22の取付穴22aの底部22a’に着座するまで当該取付穴22a内を挿通させる。このように、本実施の形態では、外方突起34が凹溝22cに挿通されると共に、本体部32が取付穴22aの直径と同じ大きさか若干小さい直径を有するように構成されているため、シム30を取付穴22aに対して傾斜させることなく挿通させることができる。
【0054】
シム30が取付穴22aの底部22a’に着座したら、図11に示すように、内方突起36,38を利用してシム30を回転させて外方突起34を環状溝22bに係合させる。ここで、仮想外接円VCCの直径d1が環状溝22b,24bの直径d2と同じ大きさとなるように、外方突起34の本体部32の外周面からの突出量が設定されているため、中心Coを挟んで外方突起34に対向する本体部32の外周部分32bを環状溝22b内に移動させる必要があり、外方突起34の環状溝22bへの係合に伴ってシム30が外方突起34の突出方向とは反対方向に摺動する。即ち、本体部32の外周円の中心Coが取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに対して位置ずれを生じる。
【0055】
これにより、内孔32aの中心Ciが取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに対する位置ずれが補正され、内孔32aの中心Ciが取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに整合する。この結果、シム30を環状溝22bに組み付け後の取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに対する内孔32aの中心Ciの位置ずれを効果的に抑制することができる。これにより、シム30と入力軸2との接触面積が低減することを良好に抑制することができる。なお、外方突起34の環状溝22bへの係合に伴って、中心Coを挟んで外方突起34に対向する本体部32の外周部分32bを環状溝22b内に移動させる必要があり、本体部32の外周部分32bも環状溝22bと係合するので、シム30は、少なくとも周方向の二箇所において環状溝22bと係合する。
【0056】
そして、外方突起34が、図12に示すように、取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgを挟んで凹溝22cに対向する位置まで回転されたとき、即ち、シム30が180度回転されたときに、シム30の環状溝22bへの組み付けが完了する。なお、シム30が180度回転されたか否かについては、内方突起36,38の周方向位置を確認することにより判断することができる。
【0057】
このように、シム30を180度回転させることにより、シム30の環状溝22bへの組み付けが完了した時点において、外方突起34が凹溝22cから最も離れた位置に配置されるため、ベアリングB2を取付部22の取付穴22aに取り付ける際に、シム30の意図しない回転によって外方突起34と凹溝22cとが整合してシム30が取付穴22aから脱落することを効果的に抑制することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、減速機1の組み立てに際しては、図13に示すように、環状溝22b,24bにシム30が組み付けられたケース本体部8bを、当該ケース本体部8bの開口が鉛直下方(図13の下方向)を向くようにして、入力軸2や出力軸4および差動装置6が設置されたハウジング部8aの上方(図13の上方)から被せることにより行われる。
【0059】
その際、シム30は、図12に示すように、外方突起34および当該外方突起34に対向する本体部32の外周部分32bにおいて環状溝22b,24bと係合しているため、シム30が取付穴22a,24aから落下することがない。これにより、減速機1の組み付け性が向上する。
【0060】
本実施の形態では、仮想直線VLと本体部32の外周面との交点Pcおよび外方突起34の突出端を通り、本体部32に外接する仮想外接円VCCの直径d1が、環状溝22b,24bの直径d2と同じ大きさとなるように、外方突起34の本体部32の外周面からの突出量を設定する構成としたが、これに限らない。例えば、仮想外接円VCCの直径d1が、環状溝22b,24bの直径d2以下であって、取付穴22aの直径以上となるように構成しても良い。
【0061】
本実施の形態では、内孔32aに二つの内方突起36,38を設ける構成としたが、これに限らない。例えば、内方突起36,38を設けなくても良い。また、内方突起36,38のいずれか一方のみを設ける構成としても良い。さらに、三つ以上の内方突起を設ける構成としても良い。
【0062】
本実施の形態では、内孔32aの円周上のうち外方突起34に対応する位置に内方突起36を設けると共に、内孔32aの円周上のうち内方突起36が設けられた位置に対して180度位相が異なる位置に内方突起38を設ける構成としたが、内方突起36,38の配置位置は内孔32aの内周面の円周上であれば、いずれの位置に設ける構成としても良い。
【0063】
本実施の形態では、減速機1の入力軸2および出力軸4を回転可能に支持するベアリングB1,B3と、減速機ケース8のケース本体部8bと、の隙間調整を行うシム30に適用する構成としたが、二部材間の隙間調整を行う必要がある箇所であれば適用可能である。
【0064】
本実施の形態では、凹溝22cおよび外方突起34をそれぞれ一つ設ける構成としたが、凹溝22cと外方突起34を複数設ける構成ととしても良い。なお、この場合、外方突起34の数は、凹溝22cの数以下となるように構成する。
【0065】
本実施の形態では、シム30は円環状のプレート部材として構成したが、シム30は円板状のプレート部材であっても良い。また、シム30を円環状のプレート部材として構成する場合には、内孔32aは、円形でなくても良い。
【0066】
本実施の形態では、凹溝22c,24cは、減速機ケース8内に貯留された潤滑油をシム30やオイルシールOS2のリップ部に供給するための潤滑溝として構成したが、これに限らない。例えば、凹溝22c,24cは、キー溝として構成しても良いし、シム30の外方突起34を挿通するためのみの専用溝として構成しても良い。
【0067】
本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0068】
1 減速機(変速装置)
2 入力軸(回転軸)
4 出力軸(回転軸)
6 差動装置
8 減速機ケース(ケース)
8a ハウジング部
8b ケース本体部(第1部材)
9 車軸
10 カバー
12 取付部
14 取付部
16 収容部
22 取付部(第1部材)
22a 取付穴(取付穴)
22a’ 底部
22b 環状溝(環状溝)
22c 凹溝(凹溝)
22c’ 底面
24 取付部(第1部材)
24a 取付穴(取付穴)
24a’ 底部
24b 環状溝(環状溝)
24c 凹溝(凹溝)
24c’ 底面
30 シム
32 本体部
32a 内孔
34 外方突起
36 内方突起
38 内方突起
GM 減速ギヤ機構
OGM 出力ギヤ機構
B1 ベアリング(第2部材)
B2 ベアリング
B3 ベアリング(第2部材)
B4 ベアリング
G 駆動ギヤ
G’ 被駆動ギヤ
PG パーキングギヤ
OS1 オイルシール
OS2 オイルシール
OG 出力ギヤ
RG リングギヤ
Ci 内孔の中心
Co 本体部の中心
Cg 取付穴および環状溝の中心
VL 仮想直線
VCC 仮想外接円
d1 直径
d2 直径
Dc ずれ量
Dp ずれ量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13