【実施例】
【0031】
本発明の実施の形態に係る減速機1は、
図1に示すように、原動機(図示せず)の回転軸(図示せず)に接続される入力軸2と、減速ギヤ機構RGMを介して入力軸2に接続された出力軸4と、出力ギヤ機構OGMを介して出力軸4に接続された差動装置6と、これらを収容する減速機ケース8と、を備えている。減速機1は、本発明における「変速装置」に対応する実施構成の一例である。
【0032】
入力軸2は、
図1に示すように、ベアリングB1,B2を介して減速機ケース8に回転可能に支持されている。入力軸2には、駆動ギヤGおよびパーキングギヤPGが一体に形成されている。駆動ギヤGおよびパーキングギヤPGは、入力軸2のうち原動機の回転軸に接続される側(
図1中の紙面右側)からパーキングギヤPG、駆動ギヤGの順に入力軸2に配置されている。
【0033】
なお、入力軸2のうち原動機の回転軸に接続される側の端部(
図1の右側端部)は、オイルシールOS1によってシール分離された状態で減速機ケース8から突出している。入力軸2は、本発明における「回転軸」に対応する実施構成の一例である。
【0034】
出力軸4は、
図1に示すように、入力軸2に平行に配置されている。出力軸4は、ベアリングB3,B4を介して減速機ケース8に回転可能に支持されている。出力軸4には、駆動ギヤGと噛合うように構成された被駆動ギヤG’が固定されていると共に、出力ギヤOGが一体に形成されている。
【0035】
被駆動ギヤG’および出力ギヤOGは、
図1中の紙面右側から出力ギヤOG、被駆動ギヤG’の順に出力軸4に配置されている。被駆動ギヤG’は、スプライン嵌合などによって出力軸4と一体回転可能なように出力軸4に固定されている。被駆動ギヤG’は、駆動ギヤGよりも外径が大きく、かつ、歯数が多くなるように構成されている。即ち、被駆動ギヤG’は、入力軸2の回転速度を減速して出力軸4に伝達するように構成されている。駆動ギヤGおよび被駆動ギヤG’によって減速ギヤ機構RGMが構成されている。
【0036】
なお、出力軸4のうち
図1中の紙面左側の端部は、オイルシールOS2によってシール分離された状態で減速機ケース8から突出しており、減速機ケース8に取り付けられたカバー10によって覆われている。出力軸4は、本発明における「回転軸」に対応する実施構成の一例である。
【0037】
差動装置6は、
図1に示すように、左右の車軸9,9に生ずる速度差(回転数差)を吸収しつつ動力を分配して伝達するように構成されている。差動装置6は、出力ギヤOGと噛合うように構成されたリングギヤRGを有している。リングギヤRGは、出力ギヤOGに比べて外径が大きく、かつ、歯数が多くなるように構成されている。即ち、出力軸4の回転速度を減速して車軸9,9に伝達するように構成されている。出力ギヤOGおよびリングギヤRGによって出力ギヤ機構OGMが構成されている。
【0038】
減速機ケース8は、
図1に示すように、ハウジング部8aと、ハウジング部8aに接続されるケース本体部8bと、を備えている。減速機ケース8は、本発明における「ケース」に対応する実施構成の一例である。
【0039】
ハウジング部8aは、
図1に示すように、ベアリングB2,B4を取り付けるための取付部12,14および差動装置6を収容するための収容部16を有している。
【0040】
ケース本体部8bは、
図1に示すように、ベアリングB1,B3を取り付けるための取付部22,24を有している。取付部22には、
図2ないし
図4に示すように、取付穴22aと、環状溝22bと、凹溝22cと、が形成されている。また、取付部24には、
図5ないし
図7に示すように、取付穴24aと、環状溝24bと、凹溝24cと、が形成されている。取付部22,24は、本発明における「第1部材」に対応する実施構成の一例である。
【0041】
取付穴22a,24aは、
図4および
図7に示すように、一端側(
図4および
図7の右側)が開口されていると共に、他端側(
図4および
図7の左側)に底部22a’,24a’を備えている。取付穴22a,24aは、ベアリングB1,B3の直径と同じ大きさか若干大きい直径となるように構成されている。ベアリングB1,B3は、本発明における「第2部材」に対応する実施構成の一例である。
【0042】
環状溝22b,24bは、
図4および
図7に示すように、取付穴22a,24aと同心状かつ取付穴22a,24aの直径よりも大きな直径を有するように構成されている。環状溝22b,24bは、取付穴22a,24aの底部22a’,24a’に配置されている。環状溝22b,24bには、
図2および
図5に示すように、シム30が係合される。
【0043】
即ち、ベアリングB1,B3の軸方向端面がシム30を介して取付穴22a,24aの底部22a’,24a’に当接される。このように、取付穴22a,24aの底部22a’,24a’とベアリングB1,B3の軸方向端面との間にシム30を介在させる構成とすることにより、取付穴22a,24aの底部22a’,24a’とベアリングB1,B3の軸方向端面との隙間の大きさを調整し得て、入力軸2および出力軸4の減速機ケース8に対する相対軸方向の位置調整を図ることができる。
【0044】
凹溝22c,24cは、
図3、
図4、
図6および
図7に示すように、取付穴22a,24aに径方向に凹状に設けられている。凹溝22c,24cは、
図4および
図7に示すように、取付穴22a,24aの開口端から底部22a’,24a’に亘って延在しており、底部22a’ ,24a’側において環状溝22b,24bに接続されている。本実施の形態では、凹溝22c,24cは、減速機ケース8内に貯留された潤滑油をシム30やオイルシールOS2のリップ部に供給するための潤滑溝として構成されている。なお、凹溝22c,24cは、取付穴22a,24a(環状溝22b,24b)の中心から凹溝22c,24cの底面22c’,24c’までの距離の方が環状溝22b,24bの半径(環状溝22b,24bの中心から環状溝22b,24bの底面までの距離)よりも大きくなるように構成されている。
【0045】
シム30は、
図8に示すように、円環状のプレート部材として構成されている。シム30は、主に、本体部32と、外方突起34と、二つの内方突起36,38と、から構成されている。シム30は、本発明における「隙間調整部材」に対応する実施構成の一例である。
【0046】
本体部32の外周円は、
図3および
図6に示すように、取付穴22a,24aの直径と同じ大きさか若干小さい直径を有するように構成されている。また、本体部32の内孔32aは、
図8に示すように、本体部32の外周円の中心Coに対してずれた位置に中心Ciを有するように構成されている。
【0047】
内孔32aの中心Ciは、
図8に示すように、本体部32の外周円の中心Coに対して、本体部32の外周円の中心Coと外方突起34の突出端とを通る仮想直線VL上であって、本体部32の外周円の中心Coに対して外方突起34側となる方向にずれている。
【0048】
また、
図8に示すように、仮想直線VLと本体部32の外周円との交点であって外方突起34とは反対側の交点Pcおよび外方突起34の突出端を通り、仮想直線VL上に中心を有し、本体部32に外接する仮想外接円VCCの直径d1が、取付穴22a,24aの直径より大きく、かつ、環状溝22b,24bの底面の直径d2と同じ大きさとなるように構成されている。そして、内孔32aの中心Ciの本体部32の外周円の中心Coに対するずれ量Dcは、本体部32の外周円の中心Coと取付穴22a,24aおよび環状溝22b,24bの中心Cgとを整合させたときに生ずる当該仮想外接円VCCと環状溝22b,24bとのずれ量Dpと等しくなるよう設定されている。
【0049】
外方突起34は、
図8に示すように、本体部32の外周面から径方向外方に向かって突出するように設けられている。ここで、径方向外方とは、本体部32の外周円の中心Coから遠ざかる方向として規定される。なお、外方突起34の本体部32の外周面からの突出量は、上述したように、仮想外接円VCCの直径d1が取付穴22a,24aの直径より大きく、かつ、環状溝22b,24bの直径d2と同じ大きさとなるような値に設定されている。外方突起34は、本発明における「外方突出部」に対応する実施構成の一例である。
【0050】
内方突起36は、
図8に示すように、内孔32aの円周上のうち外方突起34に対応する位置に設けられている。内方突起36は、内孔32aの内周面から仮想直線VLに沿って内孔32aの径方向内方、即ち、中心Ciに向かって突出するように設けられている。
【0051】
内方突起38は、
図8に示すように、内孔32aの円周上のうち内方突起36が設けられた位置に対して180度位相が異なる位置、即ち、内方突起36の真向かいに相当する位置において、内孔32aの径方向内方に向かって突出するように設けられている。したがって、内方突起3
8も仮想直線VL上に配置される。内方突起36,38は、本発明における「内方突出部」に対応する実施構成の一例である。
【0052】
次に、こうして構成されたシム30の環状溝22bへの組み付け方法について説明する。なお、シム30の環状溝24b組み付け方法については、基本的にはシム30の環状溝22bへの組み付け方法と同様であるため、その説明については省略する。
【0053】
シム30の環状溝22bへの組み付けに際しては、まず、
図9および
図10に示すように、シム30の外方突起34を取付部22の凹溝22cに整合させると共に、本体部32の外周円の中心Coを取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに整合させた状態で、シム30が取付部22の取付穴22aの底部22a’に着座するまで当該取付穴22a内を挿通させる。このように、本実施の形態では、外方突起34が凹溝22cに挿通されると共に、本体部32が取付穴22aの直径と同じ大きさか若干小さい直径を有するように構成されているため、シム30を取付穴22aに対して傾斜させることなく挿通させることができる。
【0054】
シム30が取付穴22aの底部22a’に着座したら、
図11に示すように、内方突起36,38を利用してシム30を回転させて外方突起34を環状溝22bに係合させる。ここで、仮想外接円VCCの直径d1が環状溝22b,24bの直径d2と同じ大きさとなるように、外方突起34の本体部32の外周面からの突出量が設定されているため、中心Coを挟んで外方突起34に対向する本体部32の外周部分32bを環状溝22b内に移動させる必要があり、外方突起34の環状溝22bへの係合に伴ってシム30が外方突起34の突出方向とは反対方向に摺動する。即ち、本体部32の外周円の中心Coが取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに対して位置ずれを生じる。
【0055】
これにより、内孔32aの中心Ciが取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに対する位置ずれが補正され、内孔32aの中心Ciが取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに整合する。この結果、シム30を環状溝22bに組み付け後の取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgに対する内孔32aの中心Ciの位置ずれを効果的に抑制することができる。これにより、シム30と入力軸2との接触面積が低減することを良好に抑制することができる。なお、外方突起34の環状溝22bへの係合に伴って、中心Coを挟んで外方突起34に対向する本体部32の外周部分32bを環状溝22b内に移動させる必要があり、本体部32の外周部分32bも環状溝22bと係合するので、シム30は、少なくとも周方向の二箇所において環状溝22bと係合する。
【0056】
そして、外方突起34が、
図12に示すように、取付穴22aおよび環状溝22bの中心Cgを挟んで凹溝22cに対向する位置まで回転されたとき、即ち、シム30が180度回転されたときに、シム30の環状溝22bへの組み付けが完了する。なお、シム30が180度回転されたか否かについては、内方突起36,38の周方向位置を確認することにより判断することができる。
【0057】
このように、シム30を180度回転させることにより、シム30の環状溝22bへの組み付けが完了した時点において、外方突起34が凹溝22cから最も離れた位置に配置されるため、ベアリングB2を取付部22の取付穴22aに取り付ける際に、シム30の意図しない回転によって外方突起34と凹溝22cとが整合してシム30が取付穴22aから脱落することを効果的に抑制することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、減速機1の組み立てに際しては、
図13に示すように、環状溝22b,24bにシム30が組み付けられたケース本体部8bを、当該ケース本体部8bの開口が鉛直下方(
図13の下方向)を向くようにして、入力軸2や出力軸4および差動装置6が設置されたハウジング部8aの上方(
図13の上方)から被せることにより行われる。
【0059】
その際、シム30は、
図12に示すように、外方突起34および当該外方突起34に対向する本体部32の外周部分32bにおいて環状溝22b,24bと係合しているため、シム30が取付穴22a,24aから落下することがない。これにより、減速機1の組み付け性が向上する。
【0060】
本実施の形態では、仮想直線VLと本体部32の外周面との交点Pcおよび外方突起34の突出端を通り、本体部32に外接する仮想外接円VCCの直径d1が、環状溝22b,24bの直径d2と同じ大きさとなるように、外方突起34の本体部32の外周面からの突出量を設定する構成としたが、これに限らない。例えば、仮想外接円VCCの直径d1が、環状溝22b,24bの直径d2以下であって、取付穴22aの直径以上となるように構成しても良い。
【0061】
本実施の形態では、内孔32aに二つの内方突起36,38を設ける構成としたが、これに限らない。例えば、内方突起36,38を設けなくても良い。また、内方突起36,38のいずれか一方のみを設ける構成としても良い。さらに、三つ以上の内方突起を設ける構成としても良い。
【0062】
本実施の形態では、内孔32aの円周上のうち外方突起34に対応する位置に内方突起36を設けると共に、内孔32aの円周上のうち内方突起36が設けられた位置に対して180度位相が異なる位置に内方突起38を設ける構成としたが、内方突起36,38の配置位置は内孔32aの内周面の円周上であれば、いずれの位置に設ける構成としても良い。
【0063】
本実施の形態では、減速機1の入力軸2および出力軸4を回転可能に支持するベアリングB1,B3と、減速機ケース8のケース本体部8bと、の隙間調整を行うシム30に適用する構成としたが、二部材間の隙間調整を行う必要がある箇所であれば適用可能である。
【0064】
本実施の形態では、凹溝22cおよび外方突起34をそれぞれ一つ設ける構成としたが、凹溝22cと外方突起34を複数設ける構成ととしても良い。なお、この場合、外方突起34の数は、凹溝22cの数以下となるように構成する。
【0065】
本実施の形態では、シム30は円環状のプレート部材として構成したが、シム30は円板状のプレート部材であっても良い。また、シム30を円環状のプレート部材として構成する場合には、内孔32aは、円形でなくても良い。
【0066】
本実施の形態では、凹溝22c,24cは、減速機ケース8内に貯留された潤滑油をシム30やオイルシールOS2のリップ部に供給するための潤滑溝として構成したが、これに限らない。例えば、凹溝22c,24cは、キー溝として構成しても良いし、シム30の外方突起34を挿通するためのみの専用溝として構成しても良い。
【0067】
本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。