(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の導電性摺動部材及びその製造方法、並びにオルタネータについて説明する。なお、以下において例示される材料は、特に断りがない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<導電性摺動部材>
図1〜3に示す当該導電性摺動部材は、基材1と、この基材1中に層状に配設される複数の導電層としての金属網2とを備える。金属網2は、表裏に貫通する複数の開口としての網目3を規則的に有する。金属網2は、複数の網目3に基材1を構成する材料が充填されるよう基材1中に埋没している。この複数の金属網2の端面は、少なくとも摺動面に露出している。
【0026】
当該導電性摺動部材の形状は直方体状で、
図1に示す複数の金属網2の端面が露出する正方形状の面が摺動面であり、この摺動面が使用時に相手材と当接する。但し、当該導電性摺動部材の形状は、直方体状には限定されず、例えば三角柱状、五角柱状等の角柱状、円柱状などであってもよい。また、上記摺動面の形状も正方形状には限定されず、例えば三角形状、五角形状等の多角形状、円状、楕円状などであってもよい。さらに、上記摺動面は、平面でもよく、曲面でもよい。さらに、当該導電性摺動部材は、摺動面を複数有してもよい。この場合、当該導電性摺動部材は、1の摺動面のみを相手材と当接させて使用してもよく、複数の摺動面を1又は複数の相手材と当接させて使用してもよい。また、上記摺動面において相手材と当接してない領域は、配線の接続、当該導電性摺動部材の固定等の別用途に使用してもよい。
【0027】
上記摺動面が多角形である場合の一辺の平均長さや上記摺動面が円形である場合の平均径としては、特に限定されず、用途等に応じて適宜変更可能である。上記一辺の平均長さ又は平均径の下限としては、通常0.2mmであり、1mmが好ましく、3mmがより好ましい。一方、上記摺動面の上記一辺の平均長さ又は平均径の上限としては、通常100mmであり、20mmが好ましく、10mmがより好ましい。上記一辺の平均長さ又は平均径が上記下限より小さい場合、上記摺動面の面積が減少し、導電性や摺動性が低下するおそれがある。逆に、上記一辺の平均長さ又は平均径が上記上限を超える場合、小型の機器に使用することが困難となるおそれがある。
【0028】
当該導電性摺動部材の上記摺動面に対して垂直方向の平均長さとしては、特に限定されないが、例えば0.2mm以上100mm以下である。
【0029】
(基材)
基材1は、マトリックス中に炭素繊維及び黒鉛を含有する。基材1は、本発明の効果を損なわない範囲において他の任意成分を含有してもよい。
【0030】
基材1におけるマトリックスの含有量の下限としては、3質量%が好ましく、7質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。一方、マトリックスの含有量の上限としては、40質量%が好ましく、25質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。マトリックスの含有量が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材への成形が困難となるおそれがある。逆に、マトリックスの含有量が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材の摺動性が低下するおそれや金属網2と基材1との剥離を十分に抑制できないおそれがある。
【0031】
〔マトリックス〕
マトリックスは、基材1を賦形する。マトリックスの主成分としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の熱可塑性樹脂、ピッチ、タールなどがあげられる。マトリックスの主成分としては、これらの中で強度及び耐熱性の観点から熱硬化性樹脂が好ましく、フェノール樹脂がより好ましい。マトリックスにおける上述の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ピッチ及びタールの合計含有量の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%が好ましい。また、上記合計含有量は100質量%であってもよい。
【0032】
[フェノール樹脂]
フェノール樹脂は、分子内に三次元架橋構造が形成されている不溶不融の樹脂であり、フェノール類及びアルデヒド類を原料とするオリゴマー(以下、「未硬化のフェノール樹脂」ともいう)を硬化させることで得られる。この未硬化のフェノール樹脂は、固体状でも液体状でもよい。フェノール樹脂としては、例えばノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。レゾール型フェノール樹脂としては、例えばメチロール型フェノール樹脂、ジメチレンエーテル型フェノール樹脂等が挙げられ、これらの中で加工時の欠けを抑制する観点から、ジメチレンエーテル型フェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂としては、これらの中で当該導電性摺動部材の摺動性の向上の観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0033】
上記フェノール類としては、例えばクレゾール、エチルフェノール、キシレノール、p−t−ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、p−フェニルフェノール等のアルキルフェノール、フェノールなどが挙げられ、これらの中でフェノールが好ましい。
【0034】
上記アルデヒド類としては、例えばホルマリン、パラホルムアルデヒド等が挙げられ、これらの中でホルマリンが好ましい。
【0035】
未硬化のフェノール樹脂の数平均分子量(Mn)の下限としては、400が好ましく、450がより好ましく、500がさらに好ましい。一方、未硬化のフェノール樹脂のMnの上限としては、1,200が好ましく、800がより好ましく、600がさらに好ましい。未硬化のフェノール樹脂の数平均分子量が上記下限未満である場合、又は上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材の耐ヒートショック性が低下するおそれがある。なお、未硬化のフェノール樹脂の数平均分子量、及び後述する重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフの面積法による測定値である。
【0036】
未硬化のフェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、400が好ましく、1,500がより好ましく、3,000がさらに好ましい。一方、未硬化のフェノール樹脂のMwの上限としては、5,000が好ましく、4,500がより好ましく、4,000がさらに好ましい。未硬化のフェノール樹脂のMwが上記下限より小さい場合、又は上記上限を超える場合、成形材料の安定性及び成形性が低下するおそれがある。
【0037】
未硬化のフェノール樹脂の分散比(Mw/Mn)としては、1.1が好ましく、4.0がより好ましく、7.0がさらに好ましい。一方、未硬化のフェノール樹脂の分散比の上限としては、20.0が好ましく、12.0がより好ましく、8.0がさらに好ましい。未硬化のフェノール樹脂の分散比が上記下限より小さい場合、又は上記上限を超える場合、成形材料の安定性及び成形性が低下するおそれがある。
【0038】
未硬化のフェノール樹脂は、上記フェノール類のモノマー及びダイマーを含んでもよい。未硬化のフェノール樹脂における上記フェノール類のモノマー及びダイマーの合計含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。上記フェノール類のモノマー及びダイマーの合計含有量が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材の摩擦係数上昇や摩耗量増加のおそれがある。また、上記フェノール類のモノマー及びダイマーの合計含有量を上記範囲とすることで、当該導電性摺動部材の耐熱性及び寸法精度を向上できる。さらに、上記フェノール類のモノマー及びダイマーの合計含有量は0質量%でもよい。なお、上記フェノール類のモノマー及びダイマーの合計含有量は、ゲル濾過クロマトグラフで測定した値をいう。
【0039】
なかでも、未硬化のフェノール樹脂は、フェノール類のモノマー及びダイマーの合計含有量が10質量%以下であり、かつ、上記分散比(Mw/Mn)が1.5以上20以下であることが特に好ましい。このように、フェノール類のモノマー及びダイマーとの合計含有量と上記分散比(Mw/Mn)とを上記範囲とすることで、当該導電性摺動部材の摩擦係数をより低減することができ、その結果、摩耗量をより低減できる。また、上記合計含有量及び上記分散比を共に上記範囲とすることで、フェノール類のモノマー及びダイマーの合計含有量が10質量%以下であっても溶融粘度を比較的低く保つことができる。
【0040】
未硬化のフェノール樹脂の合成方法としては、例えば上記フェノール類、アルデヒド類及び触媒の混合液を調製する工程(調製工程)、上記混合液を還流温度で縮合反応させる工程(縮合反応工程)、及び縮合反応後の混合液を減圧濃縮する工程(除去工程)を備える方法等が挙げられる。
【0041】
未硬化のノボラック型フェノール樹脂を合成する場合、上記触媒としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸等の有機酸、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酸化マグネシウム、酢酸亜鉛等の酸性物質などの酸触媒などが挙げられ、これらの中で有機酸が好ましく、シュウ酸がより好ましい。また、上記混合液におけるアルデヒド類(F)のフェノール類(P)に対するモル比(F/P)としては、例えば0.75以上0.95以下である。
【0042】
未硬化のレゾール型フェノール樹脂を合成する場合、上記触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物などのアルカリ触媒が挙げられる。上記混合液における上記F/Pの下限としては、例えば1.1以上4.0以下である。
【0043】
上記混合液における上記触媒の含有量としては、上記フェノール類100質量部に対して、例えば0.05質量部以上70質量部以下である。
【0044】
上記縮合反応における還流温度としては、例えば90℃以上110℃以下である。また、上記縮合反応の反応時間としては、例えば2時間以上12時間以下である。
【0045】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂は、分子内に三次元架橋構造が形成されている不溶不融の樹脂であり、エポキシ基を有するオリゴマー(以下、「未硬化のエポキシ樹脂」ともいう)を硬化剤と共に硬化させることで得られる。エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えばノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビスフェノール−F型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノール型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0046】
〔炭素繊維〕
炭素繊維は、当該導電性摺動部材の機械的強度を向上し、かつ金属網2の素線に絡むことで基材1と金属網2との剥離を抑制する。炭素繊維としては、例えばポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維、ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維等が挙げられる。ピッチ系炭素繊維の原料としては、石油に由来するピッチでもよく、石炭に由来するピッチでもよい。炭素繊維としては、これらの中でピッチ系炭素繊維が好ましい。ピッチ系炭素繊維は、摺動時に発熱等によってタール分が染み出すことで当該導電性摺動部材の摺動面の滑りを良くし、その結果、当該導電性摺動部材の摩擦係数の変動を安定化できる。また、ピッチ系炭素繊維は、電気抵抗率が低いため、当該導電性摺動部材の導電性をより向上できる。
【0047】
炭素繊維の平均繊維長の下限としては、特に限定されないが、0.005mmが好ましく、0.01mmがより好ましく、0.05mmがさらに好ましい。一方、炭素繊維の平均繊維長の上限としては、特に限定されないが、1mmが好ましく、0.7mmがより好ましく、0.5mmがさらに好ましい。炭素繊維の平均繊維長が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の機械的強度が低下するおそれがある。逆に、炭素繊維の平均繊維長が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材から炭素繊維が剥がれ易くなることで摺動性が低下するおそれがある。また、基材1と金属網2との剥離の抑制が不十分となるおそれがある。
【0048】
炭素繊維の平均繊維径の下限としては、1μmが好ましく、3μmがより好ましい。一方、炭素繊維の平均繊維径の上限としては、18μmが好ましく、12μmがより好ましい。炭素繊維の平均繊維径が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の耐摩耗性が低下するおそれがある。また、炭素繊維の強度が低下するため、基材1と金属網2との剥離の抑制が不十分となるおそれがある。逆に、炭素繊維の平均繊維径が上記上限を超える場合、炭素繊維の柔軟性が低下して金属網2の網目3に充填され難くなるため、炭素繊維が金属網2の網目3に絡まり難くなるおそれがある。その結果、基材1と金属網2との剥離の抑制が不十分となり、当該導電性摺動部材に衝撃が加わった際等に基材1と金属網2とが剥離し易くなるおそれがある。
【0049】
基材1における炭素繊維の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、4質量%がさらに好ましい。一方、炭素繊維の含有量の上限としては、20質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、7質量%がさらに好ましい。炭素繊維の含有量が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の機械的強度が不十分となるおそれや基材1と金属網2との剥離の抑制が不十分となるおそれがある。逆に、炭素繊維の含有量が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材の成形材料の成形性が低下するおそれがある。
【0050】
〔黒鉛〕
黒鉛は、当該導電性摺動部材の摩擦係数を低減する。黒鉛としては、特に限定されないが、例えば球状黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。黒鉛としては、これらの中で球状黒鉛及び人造黒鉛が好ましい。なお、黒鉛は、通常粒子状であり、この黒鉛粒子の少なくとも一部は、金属網2の平均目開きよりも粒径が小さいとよい。ここで、「黒鉛の少なくとも一部」とは、黒鉛の10質量%以上のことをいう。
【0051】
基材1における黒鉛の含有量の下限としては、40質量%が好ましく、55質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましい。一方、黒鉛の含有量の上限としては、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましい。黒鉛の含有量が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の摺動性が低下するおそれがある。逆に、黒鉛の含有量が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材の成形材料の成形性が低下するおそれがある。
【0052】
基材1が含有してもよい任意成分としては、例えば金属粉末、固体潤滑剤等が挙げられる。上記金属粉末としては、例えば銅、銀、錫、金、白金、パラジウム、アルミニウム、これらの合金等を主成分とする金属粉末が挙げられる。また、上記固体潤滑剤としては、ホウ素系化化合物、二硫化モリブデン、二硫化タングステン等が挙げられる。これら他の成分の含有量は、当該導電性摺動部材の摺動性や導電性を損なわない範囲で適宜変更できる。但し、基材1が金属粉末をさらに含有する場合、当該導電性摺動部材の質量に対する金属粉末及び金属網2の合計質量の上限としては、30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。上記合計質量の上限が上記上限を超えると、当該導電性摺動部材の摺動性が低下するおそれや重量が不要に増加するおそれがある。
【0053】
(導電層)
当該導電性摺動部材は、導電層として金属網2を備える。
図1では当該導電性摺動部材の備える導電層の層数は3であるが、これに限定されない。上記導電層の層数の下限としては、通常1であり、2が好ましく、3がより好ましい。一方、導電層の層数の上限としては、通常100であり、20が好ましく、8がより好ましい。導電層の層数が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の導電性が低下するおそれがある。逆に、導電層の層数が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材への成形が困難となるおそれや重量が不要に増加するおそれがある。
【0054】
複数の金属網2の平均間隔の下限としては、0.1mmが好ましく、0.5mmがより好ましく、0.8mmがさらに好ましい。一方、複数の金属網2の平均間隔の上限としては、5mmが好ましく、3mmがより好ましく、1.5mmがさらに好ましい。複数の金属網2の平均間隔が上記下限より小さい場合、複数の金属網2が基材1を介さずに接触し易くなり、その結果、基材1と金属網2とが剥離し易くなるおそれがある。上記複数の金属網2の平均間隔が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材が不要に大きくなるおそれがある。
【0055】
(金属網)
金属網2は、金属を主成分とする線材を網状に配設したものであり、表裏に貫通する複数の矩形状の網目3を規則的に有する。複数の金属網2は、略平行かつ略等間隔に配設されている。また、金属網2は、上記摺動面に略垂直に配設されていてもよく、上記摺動面に対して傾斜するよう配設されていてもよいが、上記摺動面に略垂直に配設されていることが好ましい。
【0056】
この複数の金属網2の端面は、上述のように少なくとも摺動面に露出していればよいが、導電性摺動部材の摺動面以外の面にも露出しているとよい。このように、複数の金属網2の端面が摺動面及びそれ以外の面に露出している場合、上記それ以外の面に露出した金属網2の端面にリード線等の配線を電気的に接続することで、相手材と上記配線との間に金属網2を介した電流の経路を形成できる。但し、複数の金属網2の端面は摺動面にのみ露出していてもよく、この場合、当該導電性摺動部材の摺動面以外の面に挿通孔を設けることで基材1の内部で上記配線と金属網2とを電気的に接続できる。
【0057】
金属網2としては、線材を製織することで網状とした織網(メッシュ)でもよく、線材を接着剤等で貼り合わせることで網状としたものでもよい。また、金属網2は、厚さ方向に波状の凹凸が形成されていてもよく、平坦であってもよいが、平坦であることが好ましい。
【0058】
上記線材の主成分である金属、すなわち金属網2の主成分である金属としては、銀、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル及びこれらの合金が好ましく、銅及び銅合金がより好ましい。
【0059】
金属網2の平均厚さの下限としては、0.05mmが好ましく、0.15mmが好ましい。一方、金属網2の平均厚さの上限としては、1mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。金属網2の平均厚さが上記下限より小さい場合、ここで「金属網の平均厚さ」とは、任意の十点の線材の交差領域で測定した厚さの平均値をいう。
【0060】
上記線材の断面形状としては、特に限定されないが、例えば正方形状、長方形状、三角形状、丸状、楕円状等が挙げられる。上記線材の平均径の下限としては、1μmが好ましく、10μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。一方、上記線材の平均径の上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、150μmがさらに好ましい。上記線材の平均径が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の導電性が低下するおそれがある。逆に、上記線材の平均径が上記上限を超える場合、相手材が同じ金属材料である場合等に凝着摩耗を起こし、当該導電性摺動部材の摺動性が低下するおそれがある。その結果、使用時に発生する振動や音が増加するおそれがある。また、炭素繊維が絡みにくくなり、基材1と金属網2との剥離の抑制が不十分となるおそれがある。ここで「平均径」とは、軸方向と直交する任意の十点における断面積と等面積の真円の直径の平均値を意味する。
【0061】
金属網2の平均目開きの下限としては、50μmが好ましく、100μmがより好ましく、120μmがさらに好ましい。一方、金属網2の平均目開きの上限としては、5,000が好ましく、500μmがより好ましく、180μmがさらに好ましい。また、金属網2の網目3の平均面積の下限としては、2.5×10
3μm
2が好ましく、1.0×10
4がより好ましく、1.5×10
4μm
2がさらに好ましい。一方、金属網2の網目3の平均面積の上限としては、2.5×10
7μm
2が好ましく、2.5×10
5がより好ましく、3.2×10
4μm
2がさらに好ましい。上記平均目開き又は平均面積が上記下限より小さい場合、網目3に基材1を構成する材料が充填され難くなるため、炭素繊維による基材1と金属網2との剥離の抑制が不十分となるおそれがある。逆に、上記平均目開き又は平均面積が上記上限を超える場合、網目3の中央付近に充填された基材1が含有する炭素繊維が金属網2に絡み難くなるため、基材1と金属網2との剥離の抑制が不十分となるおそれがある。また、金属網2のサイズが増加するため、当該導電性摺動部材のサイズが不要に増加するおそれがある。ここで、金属網2の平均目開きは、JIS−G3556(2001年)「工業用織金網」の「7.2.1平均目開き」に準拠して測定した値をいう。また、金属網2の網目3の平均面積は、任意の十個の網目の面積の平均値をいう。
【0062】
金属網2の平均目開きと炭素繊維の平均繊維径との比の下限としては、1:0.001が好ましく、1:0.01がより好ましく、1:0.05がさらに好ましい。一方、上記比の上限としては、1:0.5が好ましく、1:0.3がより好ましく、1:0.1がさらに好ましい。上記比が上記下限より小さい場合、又は上記上限を超える場合、基材1と金属網2との剥離を十分に抑制できないおそれがある。
【0063】
金属網2の目数の下限としては、5メッシュが好ましく、30メッシュがより好ましく、80メッシュがさらに好ましい。一方、金属網2の目数の上限としては、500メッシュが好ましく、200メッシュがより好ましく、120メッシュがさらに好ましい。ここで「メッシュ」とは、25.4mm(1インチ)の一辺あたりの目数をいい、例えば100メッシュとは上記一辺当たりの目数が100であることを意味する。
【0064】
基材1の質量と金属網2の質量との比の下限としては、70:30が好ましく、75:25がより好ましい。一方、基材1の質量と金属網2の質量との比の上限としては、97:3が好ましく、90:10がより好ましく、85:15がさらに好ましい。基材1の質量と金属網2の質量との比が上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の強度が低下するおそれや成形が困難となるおそれがある。逆に、基材1の質量と金属網2の質量との比が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材の導電性が低下するおそれがある。
【0065】
なお、当該導電性摺動部材は、耐熱強度を向上する観点から、基材1及び金属網2が接着剤等の接合材を介さずに当接した状態で固定されていることが好ましい。
【0066】
<導電性摺動部材の製造方法>
当該導電性摺動部材の製造方法は、基材を構成する複数の基材層と上記1又は複数の導電層とを交互に積層する工程(積層工程)と、上記積層工程後の積層体を熱圧着する工程(熱圧着工程)とを備える。以下、各工程について説明する。
【0067】
(積層工程)
本工程では、基材を構成する複数の基材層と上記1又は複数の導電層とを交互に積層する。
【0068】
〔基材層〕
上記基材層は、マトリックス中に炭素繊維及び黒鉛を含有する。また、上記基材層のマトリックスの主成分が熱硬化性樹脂である場合、この熱硬化性樹脂は通常未硬化である。炭素繊維及び黒鉛の種類及び含有量については、当該導電性摺動部材の基材と同様とできるため、説明を省略する。
【0069】
上記基材層の製造方法としては、例えばマトリックスの主成分と炭素繊維と黒鉛と任意成分とを混合する工程(混合工程)と、上記混合工程で得られた混合物を加圧成形する工程(加圧成形工程)とを備える方法等が挙げられる。上記製造方法では、黒鉛の粒度調整のため、加圧成形前に上記混合物を粉砕してもよい。また、マトリックスの主成分が溶液状でない場合、上記混合工程ではマトリックスの主成分等の各成分をエタノール等の溶媒に溶解することで混合し、その後、加圧成形工程前に上記溶媒を揮発させるとよい。この場合、上記各成分の合計質量と上記溶媒の質量との比としては、例えば85:15以上96:4以下である。さらに、上記混合工程では、その他の方法として、マトリックスの主成分等の各成分を加圧ニーダー、ミキシングロール、二軸押出機などで混練混合することによって混合物を得てもよい。上記加圧成形工程で加える圧力としては、例えば1kg/cm
2以上1,000kg/cm
2以下である。なお、上記混合工程で混練混合する場合、及び/又は加圧成形前に上記混合物を粉砕する場合、上記炭素繊維の繊維長が切断によって低下するため、混合工程で比較的繊維長の大きい炭素繊維を用いることもできる。この場合の具体的な炭素繊維の平均繊維長としては、例えば50μm以上6,000μm以下である。
【0070】
上記基材層の各層の平均厚さの下限としては、0.1mmが好ましく、0.5mmがより好ましく、0.8mmがさらに好ましい。一方、上記基材層の各層の平均厚さの上限としては、5mmが好ましく、3mmがより好ましく、1.5mmがさらに好ましい。基材層の各層の平均厚さが上記下限より小さい場合、当該導電性摺動部材の金属網の平均間隔が減少し、その結果、金属網が基材を介さずに接触することで基材と金属網とが剥離し易くなるおそれがある。逆に、上記基材層の各層の平均間隔が上記上限を超える場合、当該導電性摺動部材が不要に大きくなるおそれがある。
【0071】
上記マトリックスの主成分が未硬化の熱硬化性樹脂である場合、上記混合工程で任意成分として硬化剤をさらに混合することが好ましい。熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である場合の硬化剤としては、例えばヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、例えば多価フェノール類、酸無水物類、アミン類、イミダゾール類等が挙げられる。硬化剤の混合量としては、熱硬化性樹脂100質量部に対して、例えば10質量部以上25質量部以下である。
【0072】
(熱圧着工程)
本工程では、上記積層工程後の積層体を熱圧着する。本工程により、金属網が複数の開口に基材を構成する材料が充填されるよう上記基材中に埋没する。また、基材層のマトリックスの主成分が未硬化の熱硬化性樹脂である場合、本工程により上記熱硬化性樹脂が硬化する。上記熱圧着の条件としては、マトリックスの主成分等によって適宜変更可能であるが、加熱温度としては例えば150℃以上230℃以下であり、成形圧としては例えば1kg/cm
2以上1,000kg/cm
2以下である。
【0073】
なお、当該導電性摺動部材の製造方法では、上記熱圧着工程後、さらに加工を行ってもよい。上述の熱圧着工程後の加工としては、例えばバインダーを炭化させるための焼成、当該導電性摺動部材を特定の形状にするための切削加工、研削加工、研磨加工等の機械加工などが挙げられる。また、当該導電性摺動部材のマトリックスの主成分が熱硬化性樹脂である場合、上述の熱圧着工程後の加工としてキュア(加熱)を行ってもよい。キュアを行うことにより、上記熱硬化性樹脂の硬化をより進行させることができ、その結果、当該導電性摺動部材の摺動性をより向上できる。キュアを行う場合、その加熱温度としては、熱硬化性樹脂の種類等によって適宜変更可能であるが、例えば160℃以上280℃以下である。
【0074】
なお、上記機械加工では、金属網の端部が摺動面以外に突出するように加工してもよい。このような機械加工により、突出した金属網の端部とリード線等の配線とを容易に電気的接続が可能になる。
【0075】
(用途)
当該導電性摺動部材の用途としては、例えばオルタネータ等の発電機やモータのカーボンブラシ、鉄道信号機用継電器、エレベータ等の開閉器、小型電圧調整器、遮断機などの電気接点、コネクタ、スイッチ等の電子機器接続部品、コンデンサ等の受動部品、パンタグラフ用すり板などが挙げられる。当該導電性摺動部材は、これらの中でカーボンブラシとして好適に用いることができ、オルタネータのカーボンブラシとしてより好適に用いることができる。なお、オルタネータとは、動力により電気を生成するための発電機であり、自動車等に使用される。
【0076】
<オルタネータ>
当該オルタネータは、当該導電性摺動部材を含むカーボンブラシを備え、上記カーボンブラシが70℃以上となる条件下で使用する。なお、当該オルタネータのカーボンブラシ以外については、従来公知のものと同様とできるため、説明を省略する。
【0077】
カーボンブラシは、当該導電性摺動部材の摺動面以外の面にリード線等の配線を接続したものである。当該導電性摺動部材は、相手材(コンミテータ)との摺動面に上記金属網の端面が露出し、上記配線と相手材とを電気的に接続する。
【0078】
なお、上記配線は、当該導電性摺動部材に穴をあけてそこにリード線を挿入し、導電性の高い金属粉末等を詰め込むことで固定してもよい。また、リード線を取り付ける面の金属網を突出させておき、成形後、突出した金属網を撚り合わせることでリード線を固定してもよい。
【0079】
当該オルタネータは、当該導電性摺動部材が導電性及び摺動性に優れるため、発電効率に優れ、かつ長寿命である。また、当該オルタネータは、使用時に摩擦熱等で70℃以上となる場合があるが、当該導電性摺動部材は基材と金属網との剥離の抑制に接着剤等の接合材を用いる必要がないため、耐熱強度を向上し易く、その結果、より長寿命である。
【0080】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
【0081】
上記金属網の網目の形状としては、
図3の矩形状に限定されず、例えば三角形状、円状、楕円形状等であってもよい。
【0082】
上記導電層は、金属網に限定されず、例えばパンチングメタル、複数の線材をストライプ状に配設したもの等が挙げられる。また、上記導電層は、金属を主成分としていれば樹脂、セラミック、ガラス等の金属以外の成分を含有してもよい。
【0083】
上記導電層がパンチングメタルである場合、このパンチングメタルの開口の形状としては、特に限定されないが、例えば正方形状、長方形状、菱形状、円状、楕円状等の多様な形状を採用できる。また、上記開口の平均面積としては、例えば上記金属網の網目の平均面積と同様とすることができる。さらに、このパンチングメタルの隣接する開口間の平均距離としては、例えば上記金属網の線材の平均径と同様とすることができる。さらに、このパンチングメタルの平均厚さとしては、例えば上述の金属網の平均厚さと同様とすることができる。
【0084】
上記導電層が線材をストライプ状に配設することで形成されている場合、上記線材の断面形状及び平均径としては、例えば上記金属網の線材と同様とすることができる。また、上記線材の間隔としては、例えば金属網の平均目開きと同様とすることができる。
【0085】
上記導電層が線材をストライプ状又は網状に配設することで形成されている場合、上記線材が摺動面に対して傾斜するように配設されているとよい。この場合、線材の摺動面に対する傾斜角としては、例えば30°以上60°以下である。
【0086】
上記複数の導電層は、略平行かつ略等間隔に配設されていなくてもよい。
【0087】
当該導電性摺動部材の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。具体的には、例えば射出成形、移送成形等において1又は複数の導電層を金型内に配設し、この金型内に基材を形成する材料を充填する方法なども挙げられる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例記載の「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」を示す。また、本明細書において質量部を用いて配合量を説明する場合、特に断らない限りフェノール樹脂又はエポキシ樹脂100質量部に対する質量部として記載する。
【0089】
(未硬化のフェノール樹脂の製造)
温度計、攪拌装置及びコンデンサを備えた反応容器内に、フェノール(P)193質量部、37質量%ホルマリン(F)142質量部(F/P=0.85)、及びシュウ酸0.97質量部(0.5質量%/P)をそれぞれ仕込んだ後、徐々に還流温度(98℃〜102℃)まで昇温して同温度で6時間の縮合反応を行った。次いで、減圧濃縮を行ったところ、199質量部(収量103質量%/P)の未硬化のノボラック型フェノール樹脂が得られた。この未硬化フェノール樹脂は、重量平均分子量(Mw)が3,840、数平均分子量(Mn)が512、分散比(Mw/Mn)が7.5であった。
【0090】
なお、上述の重量平均分子量及び数平均分子量は、東ソー株式会社のゲル濾過クロマトグラフSC−8020シリーズビルドアップシステム(カラム:G2000Hxl+G4000Hxl、検出器:UV254nm、キャリヤー:テトラヒドロフラン1mL/分、カラム温度:38℃)を用いて標準ポリスチレン換算で測定した。
【0091】
(実施例1)
グラファイト(黒鉛)(日本黒鉛工業社の「青P」)75.0質量部と、ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂化学工業社の「K6371T」;平均繊維径11μm;平均繊維長3,000μm)5.0質量部と、マトリックスとして上述の未硬化のフェノール樹脂13.0質量部及びヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)2.1質量部とをエタノール7.0質量部に溶解させたグラファイト混合物を調製した。次に、このエタノールを揮発させて上記グラファイト混合物を乾燥させた。その後、含有するグラファイトの粒度調整のため、上記グラファイト混合物の粉砕を行い、処理グラファイト混合物を作製した。この処理グラファイト混合物を180kg/cm
2で加圧成形して、平均厚さ1mmの平板状に賦形化した基材層を作成した。その後、5枚の未硬化の基材層(合計80質量部)と導電層としての4枚の銅メッシュ(線材の平均径が110μm、100メッシュ、平均目開き144μm)(合計20質量部)とを交互に積層し、温度180℃、成形圧180kg/cm
2で熱圧着することで成形した。次に、得られた成形物を250℃でキュア後、後加工することで、実施例1の導電性摺動部材を得た。なお、この導電性摺動部材が含有する上記炭素繊維は、上述のグラファイト混合物の粉砕によって切断されているため、その平均繊維長は100μm程度である。
【0092】
実施例1の導電性摺動部材は、5mm×5mm×3mmの直方体であり、5mm四方の正方形の面が摺動面である。上記導電性摺動部材の備える導電層としての4枚の銅メッシュは、略平行かつ略等間隔で上記摺動面に略垂直に配設され、端面が摺動面に露出している。
【0093】
(実施例2)
成形後にキュアを行わなかった以外は実施例1と同様に操作して実施例2の導電性摺動部材を得た。
【0094】
(実施例3)
炭素繊維としてピッチ系炭素繊維の代わりにPAN系炭素繊維(東レ社の「トレカ T−008A」;平均繊維径7μm;平均繊維長3,000μm)5.0質量部を用い、かつ成形後にキュアを行わなかった以外は実施例1と同様に操作し、実施例3の導電性摺動部材を得た。
【0095】
(実施例4)
未硬化のフェノール樹脂の代わりに未硬化のエポキシ樹脂(三菱化学社の「JER871」(主剤)と三菱化学社の「JERキュアFL240」(硬化剤)とを重量比で100:20に混合)16.0質量部を用い、かつ成形後にキュアを行わなかった以外は実施例1と同様に操作し、実施例3の導電性摺動部材を得た。
【0096】
(比較例1)
グラファイト(黒鉛)(日本黒鉛工業社の「青P」)80.0質量部と、マトリックスとして上述の未硬化のフェノール樹脂13.0質量部及びヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)2.1質量部とをエタノール7.0質量部に溶解させたものをグラファイト混合物とし、かつ成形後にキュアを行わなかった以外は実施例1と同様に操作し、比較例1の導電性摺動部材を得た。
【0097】
(比較例2)
グラファイト(黒鉛)(日本黒鉛工業社の「青P」)48.0質量部とマトリックスとして上述の未硬化のフェノール樹脂12.0質量部及びヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)1.9質量部とをエタノール7.0質量部で混合してグラファイト混合物を調製した。次に、このエタノールを揮発させて混合物を乾燥させた。その後、含有するグラファイトの粒度調整のため、上記グラファイト混合物の粉砕を行い、処理グラファイト混合物を作製した。この処理グラファイト混合物60質量部に銅粉末(和光純薬工業社の「銅粉末(和光一級)」)40質量部を混合し、成形圧3,500kg/cm
2で成形し、次に250℃でキュア後、後加工することで比較例2の導電性摺動部材とした。比較例2の導電性摺動部材の形状は、実施例1の導電性摺動部材の形状と同様とした。
【0098】
<評価>
以下に示す方法により、実施例1〜4及び比較例2の導電性摺動部材の摺動性及び導電性を評価した。なお、比較例1の導電性摺動部材は、成形直後に基材と銅メッシュとが剥離したため、評価を行わなかった。
【0099】
(摺動性)
スラスト試験機AFT−6A(東測精密工業社)を用いた
図4A及び
図4Bに示すスラスト試験装置により、各導電性部材の摺動性を測定した。スラスト試験装置は、角板状の相手材Y1と、この相手材Y1上に配設される3つの導電性摺動部材Y2と、この導電性摺動部材Y2の上面に接着剤で固定されるピンY3と、このピンY3を介して導電性摺動部材Y2に下向きの試験面圧Aをかける治具(図示略)とにより構成される。3つの導電性摺動部材Y2は、相手材Y1の上面の中央Bに対して点対称に配設し、この中央Bと導電性摺動部材Y2の摺動面の中央との平均距離を18mmとした。
【0100】
下記条件にて相手材Y1を上面の中央Bと下面の中央とを結ぶ仮想直線を中心軸として一方向に回転させ、動摩擦係数、自己摩耗量、及び相手材摩耗量を測定した。
相手材:55mm×55mm×厚み3mmのリン青銅(C5191)の角板
試験面圧A:0.25MPa
試験速度:2.64m/秒(回転数2,000rpm)
環境:無潤滑
試験時間:20h
【0101】
〔自己摩耗量〕
マイクロメーターで測定した導電性摺動部材Y2及びピンY3の摺動面に対する垂直方向の合計平均長さdの試験前後における差を導電性摺動部材Y2の自己摩耗量(μm/20h)とした。なお、この自己摩耗量は、3つの導電性摺動部材Y2及びピンY3における測定値の平均である。自己摩耗量は、数値が小さいほど摺動性に優れることを示し、130μm/20h以下の場合を良好、130μm/20hを超える場合を良好ではないと判断できる。
【0102】
〔相手材摩耗量〕
試験前後の相手材Y1の質量の差を測定することで摩耗した相手材Y1の質量を求めた。この摩耗した相手材Y1の質量を相手材Y1の比重で割り、摩耗した体積を相手材摩耗量(mm
3/20h)とした。相手材摩耗量は、数値が小さいほど摺動性に優れることを示し、0.5mm
3/20h以下の場合を良好、0.5mm
3/20h超2.0mm
3/20h以下の場合をやや良好、2.0mm
3/20h超の場合を良好ではないと判断できる。
【0103】
〔動摩擦係数〕
相手材Y1の回転時の摩擦力を測定し、その摩擦力を試験面圧Aで割った値を摩擦係数とした。相手材Y1の回転開始から10分経過し、開始直後の摩擦係数(静摩擦係数)よりも低い値で安定したときの値を動摩擦係数とした。動摩擦係数は、数値が小さいほど摺動性に優れることを示し、0.15以下の場合を良好、0.15以上の場合を良好ではないと評価できる。
【0104】
(導電性)
JIS−K7194(1994年)「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠して4探針法により導電性摺動部材の抵抗値を測定し、導電性を評価した。具体的には、
図5に示すように、低抵抗率計(三菱化学社の「Loresta−GP MCP−T600」)の端子Z1を導電性摺動部材Z2の摺動面に当接し、電気抵抗(×10
−3Ω)を測定した(N=10〜15)。なお、測定は、4つの端子Z1が基材Z4のみに偏って接触したり、銅メッシュZ3のみに偏って接触したりしないように注意して行った。電気抵抗は、数値が小さいほど導電性に優れることを示し、2.5×10
−3Ω以下の場合を良好、2.5×10
−3Ω超10.0×10
−3Ω未満の場合をやや良好、10.0×10
−3Ω超の場合を良好ではないと判断できる。
【0105】
各導電性摺動部材の材料と、上述の評価結果とを表1に合わせて示す。なお、表1において、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂の質量部は、硬化に用いた硬化剤の質量部を含む。また、「−」は、該当する材料を用いていないことを示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1から明らかなように、実施例1〜4の導電性摺動部材は、摺動性及び導電性に優れ、かつ基材と金属網との剥離を抑制できた。一方、比較例2の導電性摺動部材は、自己摩耗量が良好ではなかった。これは、実施例1〜4の導電性摺動部材は、比較例2の導電性摺動部材と比較して、摺動性を低下させる銅の含有量が少なく、代わりに摺動性を向上する黒鉛の含有量が多いためであると考えられる。また、実施例1及び2の導電性摺動部材は、比較例2の導電性摺動部材よりも金属の含有量が少ないにも関わらず、電気抵抗が低下していた。これは、実施例1及び2の導電性摺動部材の備える金属網は、電流の流れる方向に物理的に連続しているため、金属粉末と比較して少量でも効率的に導電できるためである判断される。
【0108】
また、比較例1の導電性摺動部材は、基材と金属網との剥離を抑制できなかった。これは、炭素繊維が金属網に絡みつくことによる基材と金属網との剥離を抑制する効果が得られなかったためであると判断される。
【0109】
さらに、実施例1の導電性摺動部材は、実施例2の導電性摺動部材よりも自己摩耗量が少なかった。これは、実施例1の導電性摺動部材は、キュアによってフェノール樹脂の硬化が進行し、強度が向上したためであると考えられる。
【0110】
さらに、実施例2の導電性摺動部材は、実施例3の導電性摺動部材よりも電気抵抗が低下していた。これは、ピッチ系炭素繊維がPAN系炭素繊維よりも電気抵抗率が低いためであると考えられる。また、実施例2の導電性摺動部材は、実施例3の導電性摺動部材よりも自己摩耗量及び相手材摩耗量が低下していた。これは、摺動時の発熱等でピッチ系炭素繊維から微量のタール分が摺動面に染み出し、その結果、摩擦係数の変動が安定化したためであると考えられる。一方、実施例3の導電性摺動部材は、上述の摩擦係数の安定化の効果が得られなかったため、振動が発生することで自己摩耗量及び相手材摩耗量が増加したと考えられる。
【0111】
なお、自己摩耗量及び相手材摩耗量は、通常一方が増加すると他方が減少する関係にあるが、上述の振動の発生等の要因によって両方が同時に増減することもありうる。
【0112】
さらに、実施例2の導電性摺動部材は、実施例4の導電性摺動部材よりも自己摩耗量及び相手材摩耗量が低下していた。これは、フェノール樹脂の方がエポキシ樹脂よりも摺動性に優れるためであると考えられる。