(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、速度に対する走行抵抗のプロット点にはかなりのバラツキがあった。列車の走行速度は、速度発電機のパルスを計数することで測定されるが、走行中の列車の振動等によって測定時点に応じたノイズが含まれる。微少時間間隔で測定される走行速度の変化分から減速度を求めて走行抵抗を求めているが、微少時間間隔でありながらもその時々によってノイズが変化するため、前後の走行速度に含まれるノイズの違いが、算出される減速度や走行抵抗に大きく影響し、大きなバラツキとなって表れると考えられる。そこで、数多くの走行試験を繰り返し実施してプロット数を増やすことで、走行抵抗曲線とする近似曲線の精度を高めている。また、プロット点にはバラツキがあるため、走行抵抗曲線を中心とする上下一定の範囲を誤差範囲(バラツキ範囲のことであり、例えば、統計上のいわゆる信頼度95%の信頼区間とすることができる)としていた。この従来手法によれば、走行抵抗曲線に係る誤差範囲は、プロット点のバラツキに応じた相当の広さがあった。
【0006】
他方、列車のブレーキ性能は、走行抵抗曲線を加味して定められるが、安全確保のために走行抵抗曲線に係る誤差範囲の下限値を用いるのが一般的である。つまり、上述の手法で算出された走行抵抗曲線に係る誤差範囲が広いほど、見込まれるブレーキ力を低く見積もることになる。その結果、駅間走行時分を過大に見積もる必要があったり、より大きなブレーキ力を発するブレーキ装置を装備させる必要が生じるといった対処が要求される場合があった。
【0007】
また、近年、鉄道のさらなる走行抵抗の低減や、それに伴う省エネ化の要求が高まっている。そこで、走行抵抗を低減する何らかの策を施した場合に、その効果を定量的に把握する必要があるが、走行抵抗曲線に係る誤差範囲が広いと低減策の効果を正確に推定することができない。また、車両形状の変更だけでなく、地上での回生電力貯蔵装置の設置などを検討する際には、その対策がどれほど消費電力量削減につながるのかをあらかじめ数値計算により試算することが望まれる。このように、走行に伴う消費電力を数値計算によりシミュレーションする場合、計算結果は走行抵抗曲線やその誤差範囲に依存するため、走行抵抗曲線に係る誤差範囲をできるため狭小化できる算出方法が望まれる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、走行抵抗曲線の算出に当たり、走行抵抗曲線に係る誤差範囲を狭小化することができる新たな走行抵抗曲線の算出手法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明は、
コンピュータに、複数回の惰行走行に係る速度の時間変化データから、走行抵抗曲線を算出させるためのプログラムであって、
前記惰行走行それぞれについて、当該惰行走行に係る前記時間変化データに基づき、当該惰行走行の速度範囲の走行抵抗部分曲線を仮決定する仮決定手段、
前記惰行走行それぞれの前記走行抵抗部分曲線を用いて、全速度域での走行抵抗曲線を決定する決定手段、
として前記コンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0010】
また、他の発明として、
複数回の惰行走行に係る速度の時間変化データから、走行抵抗曲線を算出する走行抵抗曲線算出装置であって、
前記惰行走行それぞれについて、当該惰行走行に係る前記時間変化データに基づき、当該惰行走行の速度範囲の走行抵抗部分曲線を仮決定する仮決定手段と、
前記惰行走行それぞれの前記走行抵抗部分曲線を用いて、全速度域での走行抵抗曲線を決定する決定手段と、
を備えた走行抵抗曲線算出装置を構成しても良い。
【0011】
この第1の発明等によれば、惰行走行に係る速度の時間変化データに基づき、当該惰行走行の速度範囲の走行抵抗部分曲線を仮決定した上で、各惰行走行それぞれの走行抵抗部分曲線を用いて全速度域での走行抵抗曲線を算出しているので、走行抵抗曲線に係る誤差範囲を抑えた走行抵抗曲線を決定することができる。すなわち、走行速度1つ1つに対する走行抵抗のプロット点1つ1つを独立に扱う従来手法とは異なり、先ず各惰行走行についての走行抵抗部分曲線を仮決定することで、各惰行走行におけるバラツキを抑えることができ、ひいては全速度域の走行抵抗曲線に係る誤差範囲を狭小化することができる。
【0012】
第2の発明として、第1の発明のプログラムであって、
前記決定手段が、前記惰行走行それぞれについて当該惰行走行の前記走行抵抗部分曲線に沿った複数のプロット点を求め、前記プロット点の集合に基づく近似曲線を求めることで前記走行抵抗曲線を決定する、
プログラムを構成しても良い。
【0013】
第2の発明によれば、全速度域の走行抵抗曲線の決定に際し、先に仮決定した走行抵抗部分曲線に沿って複数のプロット点を求めるため、プロット点の集合に基づく近似曲線を求めることで走行抵抗曲線を決定することができる。
【0014】
第3の発明として、第1又は第2の発明のプログラムであって、
前記仮決定手段が、当該惰行走行に係る前記時間変化データに近似する速度関数を求めることで前記走行抵抗部分曲線を仮決定する、
プログラムを構成しても良い。
【0015】
第3の発明によれば、惰行走行に係る時間変化データに近似する速度関数を求めることで、走行抵抗部分曲線が仮決定される。速度関数は滑らかな曲線とすることができるため、時間変化データに含まれる測定された速度のようなバラツキが生じない。このため、走行抵抗部分曲線は、時間変化データに含まれる誤差の影響を受けない曲線となる。
【0016】
第4の発明として、第3の発明のプログラムであって、
前記仮決定手段が、前記速度関数の複数の候補の中から、当該惰行走行に係る前記時間変化データに近似する候補を選択する、
プログラムを構成しても良い。
【0017】
第4の発明によれば、速度関数の複数の候補の中から、惰行走行に係る時間時間変化データに近似する候補が選択される。次数や係数の取り得る範囲から予め複数の速度関数の候補を用意しておき、その中から速度関数を選択することで、速度関数を求める処理負荷を軽減することができる。
【0018】
第5の発明として、第3又は第4の発明のプログラムであって、
前記仮決定手段が、前記速度関数を速度の二次関数とした、
プログラムを構成しても良い。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[概要]
本実施形態の走行抵抗曲線算出装置は、列車が惰行走行を行ったときの速度の時間変化データである速度データから、走行速度に対する走行抵抗の関係を示す走行抵抗曲線を算出する。具体的には、惰行走行それぞれについて、当該惰行走行から得られた速度データに基づき当該惰行走行の速度範囲での走行抵抗部分曲線を算出(決定)し、これら複数の走行抵抗部分曲線を用いて全速度域での走行抵抗曲線を算出(決定)する。
【0021】
詳細に説明する。
図1は、1回の惰行走行による速度データに基づく走行抵抗部分曲線の算出を説明する図である。惰行走行は、初速度v
0から開始し、走行速度vは、終速度v
eまで徐々に低下する。そして、1回の惰行走行によって得られる速度データ310は、惰行走行の開始時刻t
0から終了時刻t
eまでの期間(以下「惰行走行期間」という)における、短い時間間隔Δtで測定した各時刻tの走行速度vの集合となる。
【0022】
各惰行走行の速度データ310それぞれに対して、近似する速度関数(以下「速度式」という)を、予め用意された複数の速度式の候補のうちから選択して求める。速度式は時間の関数であり、次のようにして定義される。まず、列車が平坦直線路を惰行走行する際の運動方程式は、次式(1)で与えられる。
【数1】
また、列車の走行抵抗Fは、列車の走行速度vの二次関数であり、次式(2)で与えられる。
【数2】
惰行走行する列車に作用する力は走行抵抗Fのみであるとすると、式(1)に示す車両の運動方程式は、次式(3)となる。
【数3】
【0023】
しかし、この式(3)から走行抵抗を算出する場合には、減速度dv/dt(マイナスの加速度)を算出する必要がある。減速度を算出する場合、[発明が解決しようとする課題]欄で説明した通り、ノイズの影響からプロット点に大きなバラツキが生じ、走行抵抗曲線に係る誤差範囲が広くなってしまう。本実施形態では、減速度を算出せずに、速度から走行抵抗を直接算出する新たに考案した手法を採用する。
【0024】
具体的には、式(3)を時間tについて積分し、速度vについて解いた次式(4a)〜(4c)を採用する。
【数4】
式(4a)〜(4c)において、「W」は列車の編成質量であり、「η」は慣性係数であり、「t」は時刻であり、「v
0」は惰行走行の開始時刻t
0における初速度である。係数a,b,c,は、式(2),(3)の係数a,b,cである。
【0025】
式(4a)〜(4c)は、「4ac−b
2」の値によって何れか1つが選択され、「4ac−b
2」の値が正(4ac−b
2>0)のときには式(4a)が、「4ac−b
2」の値が負(4ac−b
2<0)のときには式(4b)が、「4ac−b
2」の値がゼロ(4ac−b
2=0)のときには式(4c)が選択される。
【0026】
また、式(2)に示す走行抵抗式F(v)における係数a,b,cは、車種や編成数等に応じて定められる。ここでは、一例として、ある特定の列車(車種及び編成数が定められた列車)に関して、過去の類似列車の事例(試験走行結果など)を参考に、a=0.0001〜0.001,b=−0.01〜0.002,c=1.0〜2.0、の範囲で係数a,b,cが定められることが分かっており、この範囲で係数a,b,cを定めることとする。係数a,b,c,それぞれの値を取り得る値の範囲内で微少値ずつ変化させて得られた組み合わせそれぞれの速度式(式(4a)〜(4c))を速度式v(t)の候補とする。各組み合わせの速度式は、その組み合わせの係数a,b,cによって式(4a)〜(4c)の何れかとなる。
【0027】
このようにして定めた速度式の複数の候補のうちから、速度データ310に対する近似計算を行って最も近似する速度式の候補を選択する。例えば、複数の速度式の候補それぞれについて、速度データ310における各時刻tを代入して求めた速度と、対応する計測速度vとの差Δvの総和を求め、この差Δvの総和が最小となる速度式の候補を、速度データ310に近似する近似速度式v
n(t)として選択する。そして、近似速度式v
n(t)における係数a,b,cを、式(2)に示す走行抵抗式における係数a,b,cとして、走行抵抗式F(v)を決定する。
【0028】
このように決定した走行抵抗式F(v)が示す走行抵抗曲線であって、速度データ310の初速度v
0から終速度v
eまで(正確には、初速度v
0に対応する近似初速度から、終速度v
eに対応する近似終速度まで)の速度範囲の部分曲線が、速度データ310に基づく走行抵抗部分曲線10となる。
【0029】
また、近似速度式v
n(t)を用いて、近似速度データ312を生成する。すなわち、近似速度式v
n(t)に速度データ310の各時刻tを代入して、各時刻tにおける近似速度v
nを算出する。
【0030】
走行速度は速度発電機のパルス信号を計数することで測定しているため、走行速度の測定値には誤差が含まれる。しかし、近似速度式v
n(t)は滑らかな曲線であるため、近似速度式v
n(t)から求められる近似速度v
nは、走行速度の測定値である速度データ310の各速度vのようなバラツキが生じることはない。
【0031】
そして、走行抵抗式F(v)に、近似速度データ312の各近似速度v
nを代入して各近似速度v
nにおける走行抵抗Fを算出することで、走行抵抗部分曲線10に沿ったプロット点を算出する。ここで、走行速度の測定値ではなく近似速度v
nを用いることで、プロット点のバラツキをより少なくすることができる。
【0032】
1回の惰行走行による速度データ310に基づく走行抵抗部分曲線10は、このように算出される。次いで、複数回の惰行走行それぞれの速度データ310について算出された走行抵抗部分曲線10を用いて、全速度域での走行抵抗曲線を算出する。
【0033】
図2は、複数の走行抵抗部分曲線を用いた走行抵抗曲線の算出を説明する図である。複数回の惰行走行それぞれの速度データ310に基づいて走行抵抗部分曲線10が算出される様子が
図2の上側に示されている。各走行抵抗部分曲線10それぞれには、当該走行抵抗部分曲線10に沿ったプロット点が示されているが、このプロット点は、近似速度データ312に基づくプロット点である。
【0034】
最終的に算出したい走行抵抗曲線は、列車の走行可能な全ての速度域(具体的には、ゼロから最高速度までの速度範囲)における走行抵抗曲線である。速度データ310は、例えば走行試験の際に、所定の平坦直線路を惰行走行することで得られる。しかし、高速域から低速域までの全速度域に亘る1回の惰行走行には極めて長い平坦直線を必要とするため、そのような区間は現実問題として存在しない。つまり、1回の惰行走行によって得られる走行抵抗部分曲線10の速度範囲(初速度v
0から終速度v
eまでの範囲)は、全速度域のほんの一部である。このため、初速度v
0を異ならせた惰行走行を繰り返すことで、様々な速度範囲の走行抵抗部分曲線10を得る必要がある。
【0035】
このように、複数回の惰行走行それぞれについて得られた走行抵抗部分曲線10に沿ったプロット点の集合によって、全速度域に亘るプロット点を求める。
図2の下側に示した速度vに対する走行抵抗Fの同一座標上に示したプロット点がそれである。説明を簡明化するために、速度データ310の数や、プロット点の数を大幅に省略して示しているが、実際には更に多くの速度データ310及びプロット点を用いる。同一座標上に示したプロット点に基づいて、近似曲線を算出する。この近似曲線が全速度域における走行抵抗曲線20となる。本実施形態では、走行抵抗曲線20とする近似曲線の算出は、最小二乗法を用いて、式(2)で与えられる走行抵抗F(t)の係数a,b,cを求めることで実現する。但し、このときの近似曲線の算出も、近似速度式v
n(t)の算出と同様、複数の速度式v(t)の候補のうちから最近似する速度式v(t)を選択する方法を採用することとしてもよい。
【0036】
[機能構成]
図3は、走行抵抗曲線算出装置1の機能構成図である。
図3によれば、走行抵抗曲線算出装置1は、操作部102と、表示部104と、通信部106と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータ装置である。
【0037】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等で実現される入力装置であり、操作入力に応じた操作信号を処理部200に出力する、表示部104は、例えばLCD等で実現される表示装置であり、処理部200からの表示信号に従った各種表示を行う。通信部106は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、TA、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される有線或いは無線の通信装置であり、外部装置との間で通信を行う。
【0038】
処理部200は、例えばCPU等で実現される演算装置であり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102からの操作信号等に基づいて、走行抵抗曲線算出装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行い、走行抵抗曲線算出装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、部分曲線算出部202と、走行抵抗曲線算出部204と、を有し、走行抵抗曲線算出プログラム302に従った走行抵抗曲線算出処理(
図4参照)を行って、複数回の惰行走行に係る速度データ310から走行抵抗曲線を算出する。
【0039】
部分曲線算出部202は、1回の惰行走行による速度データ310をもとに、当該速度データ310の速度範囲における走行抵抗部分曲線を仮決定する。速度データ310は、平坦直線路を惰行走行した時の走行速度の時間変化データであり、惰行開始時刻t
0から終了時刻t
eまでの惰行期間における各時刻tの走行速度vの離散値データである。部分曲線算出部202は、複数の速度式v(t)の候補のうちから、速度データ310の速度範囲(惰行開始時刻t
0における初速度v
0から終了時刻t
eにおける終速度v
eまでの速度範囲)において、最も近似する速度式の候補を近似速度式v
n(t)として選択する。
【0040】
ここで、速度式の候補は、式(4a),(4b),(4c)で与えられる速度式v(t)であって、当該速度式v(t)における係数a,b,cの値を任意に設定した速度式である。係数a,b,cの値の組み合わせが異なる複数の速度式v(t)の候補が、速度式候補データ320として予め記憶されている。また、処理対象の速度データ310に対して選択した近似速度式v
n(t)は、近似速度式データ334として、当該速度データ310の識別情報332と対応付けて記憶される。なお、速度式の候補は、予め記憶しておくのではなく、係数a,b,cそれぞれが取り得る範囲のみを予め定めておき、この範囲内で係数a,b,cを変化させることで、複数の速度式の候補を随時生成することにしても良い。
【0041】
次いで、部分曲線算出部202は、近似速度式v
n(t)における係数a,b,cの値を、走行抵抗式F(v)における係数a,b,cとして、走行抵抗式F(v)を決定する。走行抵抗式F(v)は、式(2)で与えられ、走行抵抗式データ336として記憶される。そして、走行抵抗式F(v)が示す走行抵抗曲線であって、速度データ310の速度範囲(初速度V
0から終速度V
eまでの範囲)の部分曲線を、当該速度データ310に基づく走行抵抗部分曲線として仮決定する。仮決定した走行抵抗部分曲線は、走行抵抗部分曲線データ339として記憶される。
【0042】
また、部分曲線算出部202は、近似速度式v
n(t)を用いて、速度データ310の各時刻tにおける近似速度を算出し、当該速度データ310に対応する近似速度データ338を生成する。
【0043】
走行抵抗曲線算出部204は、
図2を参照して説明した通り、部分曲線算出部202によって算出された速度データ310別の複数の走行抵抗部分曲線を用いて、全速度域の走行抵抗曲線を決定する。すなわち、速度データ310別の走行抵抗部分曲線データ339それぞれについて、対応する近似速度データ338の各近似速度を走行抵抗式F(v)に代入して得られる走行抵抗Fを、当該走行抵抗部分曲線に沿ったプロット点として、同一の座標上にプロットする。そして、これらのプロット点に基づき、例えば最小二乗法等の近似演算によって、式(2)で与えられる走行抵抗式F(v)の近似曲線を算出し、全速度域の走行抵抗曲線として決定する。決定した走行抵抗曲線は、走行抵抗曲線データ350として記憶される。
【0044】
記憶部300は、例えばハードディスクやROM、RAM等で実現される記憶装置であり、処理部200が走行抵抗曲線算出装置1を統合的に制御するためのシステムプログラムや、各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、操作部102からの操作データ等が一時的に格納される。記憶部300には、走行抵抗曲線算出プログラム302と、走行抵抗式データ306と、速度データ310と、部分曲線算出用データ330と、走行抵抗曲線データ350と、が記憶される。
【0045】
部分曲線算出用データ330は、各速度データ310に対応して作成され、対応する速度データ310の識別情報332に対応づけて、近似速度式データ334と、走行抵抗式データ336と、近似速度データ338と、走行抵抗部分曲線データ340とを含む。
【0046】
[処理の流れ]
図4は、走行抵抗曲線算出処理の流れを説明するフローチャートである。この処理は、処理部200が走行抵抗曲線算出プログラム302を実行することで実現される処理である。
【0047】
先ず、部分曲線算出部202が、複数回の惰行走行それぞれで得られた速度データ310それぞれを対象としたループAの処理を行う。ループAでは、部分曲線算出部202は、複数の速度式v(t)の候補のうちから、処理対象の速度データ310に最も近似する速度式v(t)の候補を選択し、近似速度式v
n(t)とする(ステップS1)。次いで、この近似速度式v
n(t)における係数a,b,cの値を、走行抵抗式F(v)における係数a,b,cの値として、走行抵抗式F(v)を決定する(ステップS3)。そして、この走行抵抗式F(v)が表す曲線のうち、処理対象の速度データ310の速度範囲における曲線部分を、当該速度データ310に対応する走行抵抗部分曲線とする(ステップS5)。
【0048】
また、近似速度式v
n(t)を用いて、処理対象の速度データ310における各時刻tにおける近似速度v
nを求めることで、当該速度データ310に対応する近似速度データ338を生成する(ステップS7)。ループAはこのように行われる。
【0049】
全ての速度データ310を対象としたループAの処理を行うと、走行抵抗曲線算出部204が、算出された速度データ310別の走行抵抗部分曲線それぞれについて、走行抵抗式F(v)に基づき求められる、対応する近似速度データ338における各近似速度v
nにおける走行抵抗Fを、同一の座標平面上にプロットする(ステップS9)。続いて、これらの各走行抵抗部分曲線に沿ったプロット点の集合に近似する走行抵抗式F(v)を求め、全速度域の走行抵抗曲線とする(ステップS11)。そして、例えば、算出した走行抵抗曲線のグラフや式を表示部104に表示出力等した後、本処理を終了する。
【0050】
[実験結果]
本実施形態の手法によれば、従来の手法と比較して、速度データに基づいて算出される走行抵抗曲線に係る誤差範囲を狭小化することができることを、シミュレーション結果を用いて説明する。
図5は、速度データに基づく走行抵抗曲線の算出例を示す図である。説明を簡明にするためにプロットの数を大幅に省略して示している。
図5(a)は、本実施形態の手法による走行抵抗曲線の算出例を示し、
図5(b)は、従来の手法による走行抵抗曲線の算出例を示している。
図5では、何れも、横軸を走行速度v、縦軸を走行抵抗Fとして、測定値である走行速度vと、当該走行速度vに基づいて算出された走行抵抗Fとの関係を示している。また、何れも、複数回の惰行走行による速度データに基づく走行抵抗曲線の算出を示している。
【0051】
本実施形態の手法とは、上述のように、1回分の惰行走行の速度データに基づく近似速度式v
n(t)を求めることで走行抵抗部分曲線を仮決定することを、惰行走行それぞれの速度データについて実施する。このとき、走行抵抗部分曲線は、対応する速度データの速度範囲の部分曲線となる。そして、仮決定した走行抵抗部分曲線を用いて、全速度域での走行抵抗曲線を求める手法である。1回の惰行走行の速度データは、比較的狭い速度範囲内の走行速度の集合であり、1回分の惰行走行の速度データに対応する1つの走行抵抗部分曲線を決定(仮決定)する。走行抵抗部分曲線は速度関数(速度式)で表される滑らかな曲線であるため、走行抵抗部分曲線に沿ってプロットすることで、プロット点のバラツキは抑えられる(
図2参照)。
【0052】
そして、仮決定した複数の走行抵抗部分曲線(実際には走行抵抗部分曲線に沿ったプロット点の集合)に基づく近似曲線が、全速度域での走行抵抗曲線となるため、1つの走行抵抗部分曲線を単位とする(或いは1回の惰行走行を単位とする)プロット点集合という意味では、最終的に求めた走行抵抗曲線から外れたプロット点集合が見られるものの、プロット点1つ1つが独立しているわけではないため、そのバラツキの程度は小さい。
【0053】
一方、従来の手法では、微少時間間隔で測定される前後の速度差から減速度を算出し、算出した減速度を式(1)に示した運動方程式に代入することで走行抵抗Fを求めることを、1つ1つ行うことで、各プロット点を求めている。この場合のプロット点は、
図5(b)に示すように分布する。そして、これらのプロット点に基づき、例えば最小二乗法等によって、式(2)に示す走行抵抗式F(v)の近似式を求める。
図5(b)においては、縦長の一定範囲に収まるプロット点集合が、横方向に離散的に存在する。1つのプロット点集合の横方向の分布長が短いのは、1回の走行試験で得られる速度範囲が狭いためである。それに対して、1つのプロット点集合の縦方向の分布長が長いのは、各プロット点を独立に、しかも減速度を求めた上で算出しているためと考えられる。すなわち、[発明が解決しようとする課題]欄に記述した通り、微少時間間隔とはいえ走行速度の測定時点それぞれにおいてノイズが変化しているため、前後に測定した走行速度の差から減速度を時系列に求めた場合、それぞれの減速度には異なるノイズ成分量が含まれる。その結果、プロットする走行抵抗に大きなバラツキが生じる。
【0054】
図5(a),(b)を比較すると、最終的に算出される走行抵抗式はほぼ同じとなる。しかし、速度vに対する走行抵抗Fのプロット点のバラツキが明らかに異なる。すなわち、同図(a)に示す本実施形態の手法では、同図(b)に示す従来の手法に比較して、走行抵抗曲線に対するプロット点のバラツキが非常に小さい。
【0055】
したがって、本実施形態の手法によって走行抵抗曲線を算出することで、走行抵抗曲線に係る誤差範囲を狭小化することができる。誤差範囲は、例えば、全プロット数の一定以上(例えば95%以上)が含まれるように、算出した走行抵抗曲線を中心とする上下一定範囲(走行抵抗Fを増減した一定範囲)を定めた場合の当該範囲とすることができる。
【0056】
[作用効果]
このように、本実施形態の走行抵抗曲線算出装置1によれば、惰行走行の際の走行速度の時間変化データである速度データに基づいて、当該惰行走行の速度範囲の走行抵抗部分曲線を仮決定した上で、各惰行走行それぞれの走行抵抗部分曲線を用いて全速度域での走行抵抗曲線を算出しているので、走行抵抗曲線に係る誤差範囲を抑えた走行抵抗曲線を決定することができる。すなわち、走行速度1つ1つに対する走行抵抗のプロット点1つ1つを独立に扱う従来手法とは異なり、先ず各惰行走行についての走行抵抗部分曲線を仮決定することで、各惰行走行におけるバラツキを抑えることができ、ひいては全速度域の走行抵抗曲線に係る誤差範囲を狭小化することができる。
【0057】
なお、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。