特許第6502182号(P6502182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6502182希土類元素の回収方法および希土類元素の回収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502182
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】希土類元素の回収方法および希土類元素の回収装置
(51)【国際特許分類】
   C25C 3/34 20060101AFI20190408BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20190408BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20190408BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   C25C3/34 Z
   C22B59/00
   C22B3/06
   C22B3/44 101A
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-113450(P2015-113450)
(22)【出願日】2015年6月3日
(65)【公開番号】特開2016-11461(P2016-11461A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2018年5月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-116256(P2014-116256)
(32)【優先日】2014年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】松宮 正彦
(72)【発明者】
【氏名】川上 智
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−155411(JP,A)
【文献】 特開2012−102381(JP,A)
【文献】 特開2012−237053(JP,A)
【文献】 特開2012−224938(JP,A)
【文献】 特開2009−249674(JP,A)
【文献】 特開平05−287405(JP,A)
【文献】 特開2012−087329(JP,A)
【文献】 特開2014−101577(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0156116(US,A1)
【文献】 松宮 正彦他,「湿式分離とイオン液体電析の連携による希土類磁石からのNd,Dyの回収」,セラミックス,2014年 1月24日,Vol. 49, No. 1,pp. 22-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00−7/08
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を電解析出させることにより、鉄および希土類元素を含有する資源から希土類元素を回収する希土類元素の回収方法において、
前記資源から鉄および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる第一溶出工程と、
前記第一溶出工程により生じた酸化磁粉残渣に含有される希土類元素を1.5<pH<3.5の条件下で鉱酸に選択浸出させる第二溶出工程と、
前記第二溶出工程にて鉱酸に選択浸出させた希土類元素より卑な金属の水酸化物を添加して、酸・塩基中和反応させる希土類水酸化物生成工程と、
前記希土類水酸化物生成工程で得た希土類水酸化物と、前記第一溶出工程で得たアミド系酸媒体とを混合する希土類水酸化物添加工程と、
前記希土類水酸化物添加工程により水酸化鉄(III)を生成、沈殿させて、前記アミド系酸媒体から分離する水酸化鉄(III)分離工程と、
前記水酸化鉄(III)分離工程後、前記アミド系酸媒体を濃縮させることによりアミド系希土類金属塩を生成する塩生成工程と、
前記アミド系希土類金属塩から希土類元素を電解析出させる電解析出工程と、
を有することを特徴とする希土類元素の回収方法。
但し、前記アミド系酸媒体は酸溶液であり、且つ、少なくとも前記塩生成工程におけるアミド系酸媒体はイオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する。
【請求項2】
前記電解析出工程においては、前記アミド系希土類金属塩の低温溶融物を電解浴として使用することを特徴とする、請求項1に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項3】
前記電解析出工程においては、前記アミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用することを特徴とする、請求項1に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項4】
前記希土類水酸化物生成工程においては、希土類元素よりも電気化学的に卑なアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びそれらの混合物のうち少なくともいずれかを沈殿形成剤として使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の希土類元素の回収方法。
【請求項5】
前記酸化磁粉残渣から生成した希土類水酸化物は希土類元素の重量比率が90%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の希土類元素の回収方法。
【請求項6】
前記アミド系希土類金属塩は希土類元素の重量比率が90%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の希土類元素の回収方法。
【請求項7】
前記アミド系希土類金属塩の希土類の種類としては少なくともNdおよびDyが含まれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の希土類元素の回収方法。
【請求項8】
鉄および希土類元素を含有する資源から希土類元素を回収する希土類元素の回収装置において、
前記資源から鉄および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる第一溶出処理部と、
前記第一溶出処理部内に生じる酸化磁粉残渣から生成した希土類水酸化物を貯蔵する貯蔵部と、
前記第一溶出処理部により得られたアミド系酸媒体に対して前記貯蔵部から投入される希土類水酸化物により、水酸化鉄(III)を生成して分離する水酸化鉄(III)分離部と、
水酸化鉄(III)が分離されたアミド系酸媒体を濃縮させることによりアミド系希土類金属塩を生成する塩生成部と、
前記アミド系希土類金属塩から希土類元素を電解析出させる電解析出部と、
を有することを特徴とする希土類元素の回収装置。
但し、前記アミド系酸媒体は酸溶液であり、且つ、少なくとも前記塩生成部に投入するアミド系酸媒体はイオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素の回収方法および希土類元素の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レアメタルは資源的価値の高い白金族レアメタル6種、国家備蓄レアメタル9種、偏在性の高いレアアース(以降、「希土類元素」と示す)17種を総称する。レアメタルの中でも希土類元素はランタノイド系列の周期内で化学的性質が類似しており、電気化学的に極めて卑な元素群であることから、相互分離や金属精錬に困難を伴ってきた。近年、環境省では循環型社会形成推進研究事業として、2013年4月1日から施行された小型家電リサイクル法に基づき、使用済小型電子機器類からの希少金属の再資源化および廃棄物処理技術の開発が重点化されてきている。
【0003】
また、希土類元素は自動車排ガス触媒、高性能研磨剤、強磁性磁石部材としての需要量が高く、製造工程内の二次廃棄物を産出させることなく、有用希少金属を再資源化する技術開発が重要視されている。このような時代の趨勢から、強磁性磁石部材としての再資源化には、希土類元素回収の対象媒体として、使用済小型電子機器類を利用する方法が有効である。この希土類元素を巡る需給バランスの安定化は、国家規模で重要な課題となっており、可能な限り、自国内で希土類元素を確保する手法が望まれている。
【0004】
使用済小型電子機器類における有効部材の一つが、Hard Disk Drive(HDD)の磁気ヘッドの駆動に用いられているVoice Coil Motor(VCM)である。このVCMは、扁平磁石とバックヨークおよびヨーク間を支える継鉄(ヨーク)とネオジム−鉄−ボロン(Nd−Fe−B)系希土類磁石から構成されている。VCMに使用されている希土類磁石重量は、HDDの厚みに応じてある程度の幅を有する。ただ、2.5inch−HDD用のVCMで1〜2g×2枚、3.5inch−HDD用のVCMで2〜10g×2枚に相当する重量が、標準的な希土類磁石重量である。また、VCM部材中の希土類含有量は生産された年代に大きく依存するものの、ネオジム含有量は重量平均で約26.0%、ジスプロシウム含有量は約1.6%に相当する。このような希土類磁石部材中から希土類元素を回収する手法に関しては、環境負荷の低い回収方法が望まれている。
【0005】
なお、「希土類磁石」とは、希土類金属と3d遷移金属である鉄(Fe)やコバルト(Co)との金属間化合物を主成分とする磁石のことである。現在、我が国で実用化されている希土類磁石の組成としては、
1.NdFe14Bを代表とする2−14−1型ネオジム−鉄−ボロン系
2.SmCoを代表とする1−5型サマリウム−コバルト系
3.SmFe17を代表とするサマリウム−鉄−窒化化合物系
4.PrCoを代表とする1−5型プラセオジム−コバルト系
という4種類の磁石がある。
この中でネオジム−鉄−ボロン系磁石は最も強磁性であり、その保磁力増大の添加元素として重希土類元素(例えば、ジスプロシウム(Dy))が利用されている。
【0006】
一方、鉄族元素は、希土類磁石の被覆材に含まれていることが多い。ここで言う「鉄族元素」とは、周期表上で第4周期の第8、9、10族の元素、すなわち、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の三元素の総称である。この鉄族元素は全て3d遷移金属であり、常温、常圧で強磁性を示すことを特長とする。
【0007】
上記のような希土類磁石から希土類元素を金属もしくはイオン種の形態で回収する技術として、いくつかの手法が知られている。以下、その手法を列挙する。
【0008】
まず、希土類元素を金属の形態で回収する溶融塩電解法が挙げられる(特許文献1参照)。
溶融塩電解法とは、アルカリ金属ハロゲン化物等の無機塩類を高温の溶融状態にした上で、希土類元素を含む化合物を電解析出させる方法である。電解浴温度が高いため、希土類酸化物を電解浴中に直接溶解できる利点もある。特許文献1に記載の技術においては、溶融塩電解に際し、希土類金属合金から成るバイポーラー電極型隔膜によって陽極と陰極の間を分画し、陽極室と陰極室を形成している。この陽極室に希土類金属イオンを供給しながら、陽極と陰極の間に電圧を印加して、電解により希土類金属を回収している。
【0009】
次に、イオン液体と呼ばれる難燃性・難揮発性の液体に対し希土類元素を含有する資源を溶解させ、必要に応じて電気泳動を行って希土類元素を濃縮させた上で、このイオン液体に対して鉄族元素を電解除去した後、希土類元素を電解析出させる方法が挙げられる(特許文献2参照)。
【0010】
なお、「イオン液体」とは、カチオン種とアニオン種の組合せからなる100℃以下の融点を有するイオン性化合物の総称であり、100℃以下の温度で液相を形成する融解塩のことを指す。イオン液体の蒸気圧は非常に低く、イオン液体は実質上、有害な蒸気を発生させない。その上、イオン液体はアニオン種を適切に選定することにより疎水性を発現し、かつイオン液体自体の高極性により無極性物質の溶解性を高める。
【0011】
最後に、疎水性イオン液体を希土類金属の抽出媒体として使用する方法もある(特許文献3参照)。この方法は、希土類元素を含む水溶液からなる水相と疎水性イオン液体である有機相を二相分離させた状態で、分配平衡により希土類元素をイオン種として有機相へ抽出する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−287119号公報
【特許文献2】特開2012−87329号公報
【特許文献3】特開2007−327085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
希土類磁石から希土類元素を回収する技術は日々進化を遂げている一方、現在であっても種々の改善すべき点が存在する。
【0014】
例えば、特許文献1などの溶融塩電解法では、希土類磁石からネオジムを効率的に電解回収するために、実用的観点ではフッ化ネオジム−アルカリ金属フッ化物をベースとする電解浴を使用することが適当である。この場合、フッ化ネオジムは高融点物質であり、電解浴温度が1000℃以上と極めて高温に設定する必要がある。そのため、高温での腐食反応を抑制できる電解装置など安全面に各段の配慮を施した装置設計が必要となる。
【0015】
また、高温腐食に耐えるセラミックス系材料は一般に高価であり、設備費を要すること、および熱エネルギーが多大になることも改善点として挙げられる。
【0016】
確かに、特許文献1に記載の技術は、希土類合金を電解析出させる手段としては優れた方法である。しかしながら、電解浴温度は500〜900℃、電解電圧は最大20Vを必要としており、熱エネルギーおよび電解エネルギーが大きい点を考慮する必要がある。
【0017】
次に、特許文献2に記載の技術においては、イオン液体(例えば水分量50ppm以下)を活用した技術が記載されている。ただ、VCMの前処理工程で適切な脱鉄処理を実施せず、直接溶解させた場合、イオン液体中に、遷移金属種(特に鉄族元素、更に言うと鉄)が希土類元素とともに混在する。この場合、最終的に希土類金属を電解析出させる際、電気化学的に貴な鉄も必然的に還元されるため、希土類電析物中に鉄が共析し、高品質の希土類金属を回収することが困難となる。
【0018】
鉄を事前に電解回収することも可能であるが、希土類磁石中の鉄の含有量が大きいため、電解析出工程のエネルギー投与量が多大になる。また、鉄族金属の電解回収から希土類金属の電解回収を連続させる連携工程に複雑化を招来してしまう。その結果、作業工程における経済性に関し、改善すべき大きな点を有している。
【0019】
また、特許文献2に記載の技術では、イオン液体中の希土類濃度に応じて希土類元素を濃縮させる必要性を生じ、電気泳動処理を行わなければならない。電気泳動処理は30〜50V程度の印加電圧を必要とする。そのため、泳動処理に必要となるエネルギーが膨大となり、作業工程における経済性に関し、改善すべき大きな点を有している。
【0020】
最後に、特許文献3に代表される技術であって、水溶液とイオン液体の分配平衡を利用した溶媒抽出法の場合、無水ジグリコール酸を抽出剤とすることにより、希土類元素を効率的に抽出できる。また、溶媒抽出装置を多段構成にした場合、希土類種を濃縮させることも可能となる。しかしながら、溶媒抽出法では希土類種はいずれの場合もイオン種の形態であり、安定した希土類固形物に転換するためには、蓚酸塩もしくは炭酸塩などに沈殿形成させる必要がある。さらには、希土類種を蓚酸塩もしくは炭酸塩として回収した場合でも、金属の形態に変えるためには、希土類塩を電解浴にして電解させるか、もしくは熱還元により活性金属と反応させる必要がある。すなわち、溶媒抽出法を単独で適用した場合では、希土類種を金属の形態として、回収できない点が最大の課題である。
【0021】
以上、希土類磁石から希土類元素を回収する技術は、多くの技術者たちの手により日々進化を遂げている一方、上記の改善点もまた明らかになりつつある。上記の改善点を克服できれば、自国内で希土類元素を確保するための確固たる手法を確立することにつながり、産業の発達にも大きく寄与することになる。
【0022】
そこで本発明は、作業工程を簡素化しつつも、回収される希土類元素の品質を向上させる希土類元素の回収方法および希土類元素の回収装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行った。この鋭意検討に際し、本発明者は、希土類磁石から希土類元素を回収する手法として電解析出法を採用した。そして、電解析出による希土類元素の回収段階の電解浴に含まれる元素において、希土類元素以外の元素としては、希土類元素よりも電気化学的に卑な元素のみが含まれるようにするという手法に着目した。つまり、希土類元素を最も電解析出しやすくする状況を作り出す手法に着目した。
【0024】
そこで、本発明者は、希土類元素を電解析出させるためには、希土類元素よりも電気化学的に貴な元素(例えば鉄)を電解析出工程よりも前工程で分離しておくという手法を想到した。そして、この分離手法として、例えば沈殿形成を利用した湿式分離処理を行うという手法を、本発明者は想到した。以降、当該湿式分離処理の一例として水酸化鉄(III)が沈殿形成される例を挙げ、この工程を「脱鉄処理」または「脱鉄工程」と称する。
【0025】
更に、本発明者は上記の手法を想到するのみならず、上記の手法に伴い生じる新たな課題、特に上記の手法を工場プラントで実際に運用する場合に生じる課題についても知見を得た。その知見としては以下の通りである。
【0026】
まず、上記の例示の手法を工場プラントにて連続的に行う場合、脱鉄工程においては、局所的なpH上昇を伴わないことが望まれる。また、脱鉄工程を行う際の沈殿形成剤として使用される水酸化物としては、希土類元素よりも電気化学的に卑な金属からなる水酸化物が適している。鉄を水酸化鉄(III)として沈殿させるための沈殿形成剤(例えば水酸化カルシウム)は、酸媒体の中和反応(全OH−モル量の約85%)、そして水酸化鉄(III)の沈殿形成反応(全OH−モル量の約15%)に必要となるため、投与量が多大に成らざるを得ない。水酸化カルシウムにより鉄イオン(III)を水酸化した沈殿物として完全に除去できる代わりに、沈殿形成剤成分(カルシウム)の含有率が比較的高いアミド系希土類金属塩を生じることになる。すなわち、後述の電解析出工程において、比較的高い比率のカルシウムが希土類元素とともに電解浴内に混在することになる。そうなると、溶解度自体は一定であるため、電解析出工程前のアミド系希土類金属塩の状態において希土類元素の含有率が低下し、印加電圧を卑な側に移行させる要因となりうる。
【0027】
また、水酸化鉄(III)を生成するために水酸化カルシウムを使用していると、工場プラントを連続運転していく場合、電解析出工程で希土類金属が回収されるにつれて、カルシウムが電解浴内に蓄積されていくことになる。通常ならば、電解析出工程でカルシウムは析出しないはずであるが、カルシウムが過度に蓄積されると析出電位が貴な側にシフトするため、希土類金属の電析時にカルシウムが共析するという事態が懸念される。この場合、最終的に得られる希土類金属の純度が低下してしまう事態にもなりかねない。
【0028】
また、上記の手法を工場プラントにて連続的に行う場合、沈殿形成剤の二次利用がなければ、その都度外部から調達しなければならない。そうなると、工場プラントで本発明を実施する場合、要する費用が莫大なものとなってしまう。
【0029】
そこで本発明者は、回収すべき希土類金属塩の希土類含有率を好ましくは90wt.%以上に高めて、高純度精製させることで、希土類元素以外の元素を電気化学工程で殆ど残存させない方法を考案した。希土類元素よりも電気化学的に貴な元素(鉄)を電解析出工程よりも前工程で沈殿分離しておくことに加え、VCM等からの希土類元素の溶出工程において、必然的に生じる酸化磁粉残渣に含まれる希土類元素を水酸化物に転換した上で、希土類元素の水酸化物を鉄イオン(III)の水酸化物反応(脱鉄処理)に活用するという手法を想到した。つまり、VCM等からの希土類元素の回収といういわばリサイクル作業中においても、リサイクル作業により生じる残渣から希土類元素を回収し且つそれを不要物(水酸化鉄(III))の除去へと再利用するという、リサイクルの理念をまさに具現化する手法を想到した。
【0030】
以上の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
希土類元素を電解析出させることにより、鉄および希土類元素を含有する資源から希土類元素を回収する希土類元素の回収方法において、
前記資源から鉄および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる第一溶出工程と、
前記第一溶出工程により生じた酸化磁粉残渣に含有される希土類元素を1.5<pH<3.5の条件下で鉱酸に選択浸出させる第二溶出工程と、
前記第二溶出工程にて鉱酸に選択浸出させた希土類元素より卑な金属の水酸化物を添加して、酸・塩基中和反応させる希土類水酸化物生成工程と、
前記希土類水酸化物生成工程で得た希土類水酸化物と、前記第一溶出工程で得たアミド系酸媒体とを混合する希土類水酸化物添加工程と、
前記希土類水酸化物添加工程により水酸化鉄(III)を生成、沈殿させて、前記アミド系酸媒体から分離する水酸化鉄(III)分離工程と、
前記水酸化鉄(III)分離工程後、前記アミド系酸媒体を濃縮させることによりアミド系希土類金属塩を生成する塩生成工程と、
前記アミド系希土類金属塩から希土類元素を電解析出させる電解析出工程と、
を有することを特徴とする希土類元素の回収方法である。
但し、前記アミド系酸媒体は酸溶液であり、且つ、少なくとも前記塩生成工程におけるアミド系酸媒体はイオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記電解析出工程においては、前記アミド系希土類金属塩の低温溶融物を電解浴として使用することを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記電解析出工程においては、前記アミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた液相を電解浴として使用することを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1〜3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記希土類水酸化物生成工程においては、希土類元素よりも電気化学的に卑なアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びそれらの混合物のうち少なくともいずれかを沈殿形成剤として使用することを特徴とする希土類元素の回収方法である。
本発明の第5の態様は、第1〜4のいずれかの態様に記載の発明において、
前記酸化磁粉残渣から生成した希土類水酸化物は希土類元素の重量比率が90%以上であることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、第1〜5のいずれかの態様に記載の発明において、
前記アミド系希土類金属塩は希土類元素の重量比率が90%以上であることを特徴とする。
本発明の第7の態様は、第1〜6のいずれかの態様に記載の発明において、
前記アミド系希土類金属塩の希土類の種類としては少なくともNdおよびDyが含まれることを特徴とする。
本発明の第8の態様は、
鉄および希土類元素を含有する資源から希土類元素を回収する希土類元素の回収装置において、
前記資源から鉄および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる第一溶出処理部と、
前記第一溶出処理部内に生じる酸化磁粉残渣から生成した希土類水酸化物を貯蔵する貯蔵部と、
前記第一溶出処理部により得られたアミド系酸媒体に対して前記貯蔵部から投入される希土類水酸化物により、水酸化鉄(III)を生成して分離する水酸化鉄(III)分離部と、
水酸化鉄(III)が分離されたアミド系酸媒体を濃縮させることによりアミド系希土類金属塩を生成する塩生成部と、
前記アミド系希土類金属塩から希土類元素を電解析出させる電解析出部と、
を有することを特徴とする希土類元素の回収装置である。
但し、前記アミド系酸媒体は酸溶液であり、且つ、少なくとも前記塩生成部に投入するアミド系酸媒体はイオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、作業工程を簡素化しつつも、回収される希土類元素の品質を向上させる、希土類元素の回収方法および希土類元素の回収装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本実施形態における希土類元素の回収方法を示すフローチャートである。
図2】Fe−HOとNd−HOのpH−電位図である。
図3】実施例1にて使用する三極式電解試験装置を示す概略図である。
図4】実施例1において得られた電析物(Nd)に対して、XPS分析した結果を示すグラフである。
図5】実施例3において得られた電析物(Nd)に対して、XPS分析した結果を示すグラフである。
図6】実施例3において得られた電析物(Dy)に対して、XPS分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図1を参照しつつ、次の順序で説明を行う。図1は、本実施形態における、希土類元素の回収方法を示すフローチャートである。
1.希土類元素の回収方法
1−A)前処理工程
{湿式一次処理}
1−B)第一溶出工程
1−C)水酸化鉄(III)分離工程
1−D)塩生成工程
{湿式二次処理}
1−E)第二溶出工程
1−F)希土類水酸化物生成工程
1−G)希土類水酸化物添加工程
{電解析出}
1−H)電気化学工程
1−H−a)陽極溶解工程
1−H−b)第一電解析出工程
1−H−c)第二電解析出工程
本実施形態においては、鉄族元素として鉄(Fe)を例示し、鉄族化合物としては水酸化鉄(III)(Fe(OH))を例示する。
【0034】
以降、上記の1−B)〜1−D)の工程を{湿式一次処理}、上記の1−E)〜1−G)の工程を{湿式二次処理}とも言う。
{湿式一次処理}の主目的は、アミド系酸媒体から水酸化鉄(III)を取り除いたものを濃縮してアミド系希土類金属塩を生成することである。
その一方、{湿式二次処理}の主目的は、第一溶出工程後に生じた酸化磁粉残渣に存在する希土類元素を水酸化物としてアミド系酸媒体に戻すことにある。さらに詳しく言うと、酸化磁粉残渣に存在する希土類元素を、{湿式一次処理}において水酸化鉄(III)を生成するための材料とする。
なお、以下に記載が無い構成については、特許文献2(特開2012−87329号公報)等、公知の文献に記載の構成を採用しても構わない。
また、本実施形態においては、ボイスコイルモーター(VCM)、ハイブリッド自動車の駆動モーター、空調機のコンプレッサー等、希土類磁石を含む実廃棄物から希土類元素を回収する方法、および、そのための装置について説明する。もちろん、磁石の形で希土類元素が使用されている場合以外であっても、鉄および希土類元素が混在する資源から希土類元素を回収する場合全般に対して、本発明は適用可能である。
【0035】
<1.希土類元素の回収方法>
1−A)前処理工程
前処理工程として、解体・分別工程、熱減磁工程、メッキ剥離工程、酸化焙焼工程、微粉化工程および分級工程を行う。手法としては公知の手法を採用しても構わず、具体的な手法は実施例に記載の通りである。
以下、簡単に列挙すると、解体・分別工程においては、実廃棄物を解体・分別する。そして、解体・分別された各部材から、希土類磁石としての部材を回収する。
熱減磁工程においては、希土類磁石としての部材を加熱し、当該部材の残留磁性を消失させる。
次に、希土類磁石としての部材の主表面にメッキ層が形成されている場合は、メッキ剥離工程を行う。
その後、一定の重量増加率(酸化処理前の約1.3倍)まで酸化焙焼工程を行う。酸化焙焼工程の目的は、後述の第一溶出工程において、希土類磁石としての部材から鉄の溶出量を抑制することにある。後述の第一溶出工程においては、希土類元素とともに鉄も後述のアミド系酸媒体に溶出されることになる。ただ、酸化焙焼工程を行うことにより、ヘマタイト(Fe)の形態へ転換することで、希土類元素を選択的に溶出することが可能となる。これにより鉄の比率が減少することになり、鉄と希土類元素との分離が容易となる。
酸化焙焼処理により、酸化磁粉においては焼結に伴い粒径が増加するため、自動ミルによる微粉化工程を行う。微粉化した酸化磁粉は分級工程において、自動篩を用いて、粒径25μm以下になるまで分級させる。粒径25μm以下の酸化磁粉を後述の第一溶出工程で利用する。
【0036】
1−B)第一溶出工程
第一溶出工程においては、鉄および希土類元素を含有する資源であって、メッキ剥離工程を経た後の希土類磁石としての部材(以降、単に「資源」とも言う。)から、少なくとも希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる。本実施形態において、第一溶出工程の「溶出」とは、少なくとも、希土類元素をアミド系酸媒体によりイオン化させることを指す。
【0037】
なお、本実施形態で用いられるアミド系酸媒体は、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する酸溶液である。このイオン液体由来の疎水性アニオン種を有するアミド系酸媒体(酸溶液)ならば、後述する塩生成工程で生成されるアミド系希土類金属塩を低温溶融物とすることが可能となり、当該希土類金属塩の融液(液相)を電解析出工程の電解浴に適用することが可能となる。
【0038】
アミド系酸媒体としては、上記の条件を満たすものであれば、公知のものを用いても構わない。例えば、ビスフルオロメチルスルホニルアミドアニオンから成る酸:HFSA((FSONH)、フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニルアミド)アニオンから成る酸媒体:HFTA((FSO)(CFSO)NH)等をアミド系酸媒体として用いても構わない。
【0039】
ところで、本明細書において「疎水性アニオン種」とは、カチオン前駆体およびアニオン前駆体からメタセシス反応によりイオン液体を合成する際、ハロゲン等の前駆体由来の不純物除去処理後の合成収率が80%以上を維持できるアニオン種を示す。
また「イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種」とは、別の言い方をすると、プロトン(H)とイオン結合した場合に、イオン性の塩を構成可能な疎水性アニオン種である。ただ、疎水性アニオン種とは言っても、本実施形態ではあくまで、アミド系酸媒体に資源を溶出させる。つまり、ここで言うイオン性の塩を水溶液にしたものが、本明細書においてはアミド系酸媒体(酸溶液)となる。
【0040】
ただ、資源を鉱酸に溶出させた上で疎水性アニオン種を当該酸媒体に存在させるのではなく、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種からなる酸溶液、更には以下に述べるアミド系酸媒体を始めから溶出溶液として用いる方が、希土類元素の回収と言う点では好ましい。イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種からなるアミド系酸媒体においては、塩酸や硝酸などの鉱酸に比べて希土類溶出性が比較的高いためである。
【0041】
アミド系酸媒体を溶出溶液として使用することにより、希土類元素の高溶出性を維持しつつも、当該資源のうち希土類元素を比較的容易に溶出し、最終的に希土類元素を効率よく回収することが可能となる。
【0042】
また、アミド系酸媒体においては、希土類元素に比べると鉄の溶出性が比較的低いという利点もある。その場合、鉄が少なくなったアミド系酸媒体に対して後述の塩生成工程を行うことが可能となり、最終的に希土類元素の品質を向上させることができる。
【0043】
なお、本明細書において「アミド系酸媒体」とは、上記の溶出溶液の条件を満たし且つアミドを含有する溶液のことを指し、且つ、アミド系酸媒体はアミド酸を代表とするイオン液体のアニオン成分を有する酸溶液のことを指す。そして、「アミド」とは、アンモニア或いは1級、2級アミンとオキソ酸とが脱水縮合した構造を有する化合物である。具体的には、本明細書の「アミド」は、カルボン酸アミド、スルホンアミド、リン酸アミド等を含むものである。
【0044】
なお、このアミド系酸媒体は、希土類元素を溶出することが可能ならば任意のものでも構わない。例示するならば、特許文献2に記載の各化合物やその他イオン液体の疎水性アニオン種として知られているアミドを含む酸溶液が挙げられる。具体名を挙げるとすれば、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO(CFCF)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SOF))(以降、「HFSA」とも言う。)、トリフルオロメチルスルホニルアミド((CFSONH)(以降、「HTFSA」とも言う。)などを含むアミド系酸媒体を用いても構わない。なお、「HTFSA」は、1,1,1−トリフルオロ−N−[(トリフルオロメチル)スルホニル]メタンスルホンアミドとも言う。
【0045】
なお、第一溶出工程で溶出される資源は、希土類金属酸化物、希土類金属炭酸塩、希土類金属および希土類金属の合金いずれの形態であっても良い。資源における希土類金属塩がカチオン−アニオン相互作用の弱い疎水性アニオン種から成る希土類金属塩である場合、それよりも相互作用の強い疎水性アニオン種を含む溶液に対して容易に溶解可能となる。
【0046】
なお、溶出の手法としては、資源から効率よくアミド系酸媒体へ希土類元素を溶出させられる方法であれば特に制限されない。具体例を挙げると、アミド系酸媒体に当該資源を浸漬させることによって、第一溶出工程を行っても構わない。また、アミド系酸媒体の濃度の調節において希釈または酸成分の添加等により、pHを調節しても構わない。pHの調節により、当該資源が溶出する速度を制御することが可能となる。
また、別の溶出の手法を挙げると、特許文献2に記載のように、資源に電圧を印加して陽極溶解させることにより、資源に含有される鉄および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶解させる方法が挙げられる。
【0047】
ちなみに、アミド系酸媒体は、後述の塩生成工程の段階において、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する溶出溶液の状態となっていればよい。つまり、アミド系酸媒体を構成可能な疎水性アニオン種ではない鉱酸(硝酸(HNOのNO)や塩酸(HClのCl)などの無機酸)を用いて資源をひとまず溶出させたとしても、溶出させた後の溶液に対して、イオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含む金属塩(例えばLiTFSAやLiFSA)を加えておけばよい。
仮に、比較的安価な鉱酸を用いて溶出そのものを行ったとしても、適量のアミド系酸成分の添加を行うことによって上記の溶出工程を完成させても構わない。少なくとも塩生成工程に適用するアミド系酸媒体がイオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有していれば、その後の塩生成工程で生成されるアミド系希土類金属塩の融液を電解析出工程の電解浴に適用することが可能となる。
【0048】
本工程を行う際の好ましい具体的条件は以下の通りである。なお、本明細書においては「〜」は所定の値以上且つ所定の値以下のことを指す。
第一溶出工程におけるアミド系酸媒体は、70〜90℃の範囲の温度条件とするのが好ましい。その理由としてはアミド系酸媒体の蒸発を伴うことなく、溶出速度を高め、なおかつヘマタイト(Fe)の溶出率を低く抑えるためである。
【0049】
なお、アミド系酸媒体における金属濃度として、0.1M〜1.0Mとするのが好ましい。その理由としては、アミド系酸媒体の酸濃度に応じて、ヘマタイト(Fe)の溶出率が変化するためである。
【0050】
また、希土類溶出の反応時間はアミド系酸媒体の酸濃度に依存するが、1.0Mのアミド系酸媒体の場合は、9h〜12hとするのが好ましい。その理由としては酸化焙焼処理後の磁石部材は難溶性の希土類酸化物であり、第一溶出工程に9h以上の時間を要するため、且つ、12時間を超えるような長時間の反応を行う場合、ヘマタイト(Fe)の溶出量が増加してしまい、それを抑えるためである。
【0051】
以上、第一溶出工程において資源を溶出させた後、固液分離する。固液分離の手法としては、遠心分離等の公知の手法を用いても構わない。
溶出溶液はその後の1−C)水酸化鉄(III)分離工程に回し、引き続き{湿式一次処理}を行う。その一方、固体である未溶出の酸化磁粉残渣は回収し、後述の{湿式二次処理}へと回す。
説明の便宜上、以下、{湿式一次処理}についての説明を続ける。
【0052】
1−C)水酸化鉄(III)分離工程
本工程(以降、「脱鉄工程」とも言う。)においては、まず、鉄(Fe)および希土類元素が溶出しているアミド系酸媒体に対し、鉄イオン種を2価から3価に酸化させる酸化処理工程が必要となる(酸化処理工程)。2価のFeイオンが水酸化鉄(II)となって沈殿を形成するpH領域は、希土類元素が水酸化物となって沈殿形成するpH領域と重複する範囲が大きい。これは、水酸化鉄(II)が希土類水酸化物と共沈する傾向があることを意味する。これを避けるために、Feイオンを2価から3価に酸化させておく必要がある。
【0053】
本実施形態においては、酸素バブリングのような環境負荷のない酸化処理工程により、2価の水酸化鉄(II)や希土類水酸化物の沈殿を伴うことなく、鉄イオン(III)のみを水酸化物として沈殿させる処理を行う。
【0054】
その他、オゾンや塩素によるバブリングにより、Feイオンを2価から3価へと酸化させても構わないし、その他の公知の酸化方法を用いても構わない。これにより、アミド系酸媒体中のFeの全量を3価のイオンへと酸化させることが確実となる。
【0055】
そして、Feの全量を3価のイオンへと酸化させた後、本実施形態の大きな特徴の一つである水酸化鉄(III)の生成を行い、この水酸化鉄(III)を沈殿させて、アミド系酸媒体から分離する。この水酸化鉄(III)の生成においては、第一溶出工程によって生じた酸化磁粉残渣に含まれる希土類元素の水酸化物を活用する。これが、別の大きな特徴である。この具体的な内容については、{湿式二次処理}である1−E)第二溶出工程〜1−G)希土類水酸化物添加工程の項にて詳述する。
【0056】
1−D)塩生成工程
塩生成工程は、脱鉄工程と、後述する電解析出工程との間に行われる。そして塩生成工程では、アミド系酸媒体を濃縮させることにより、希土類元素を含有するアミド系希土類金属塩を生成する。具体的な手法としては、酸溶液から塩を生成するための公知の手法を用いても構わない。一例を挙げると、アミド系酸媒体に対してスプレードライヤーによる噴霧熱乾燥を不活性雰囲気下で行う。これにより、アミド系酸媒体中の水分および酸成分を除去し、希土類元素を含む乾燥状態のアミド系希土類金属塩が大量に生成できる。また、スプレードライヤーによる噴霧熱乾燥においては、スプレードライヤーのサイクロン部における熱流束を調節することで、アミド系希土類金属塩の微粉化と乾燥が同時に実施できるため、大量合成には有効である。必要に応じて、アミド系希土類金属塩中の更なる水分除去のため、アミド系希土類金属塩の融点以上まで金属塩を加熱して融液状態とし、真空乾燥処理を実施しても構わない。
【0057】
以上の内容が、水酸化鉄(III)を生成かつ分離し、アミド系希土類金属塩を生成するまでの{湿式一次処理}である。
以下、1−B)第一溶出工程にて生じた酸化磁粉残渣に含まれる希土類元素を、水酸化鉄(III)を生成させるための沈殿形成剤として再活用する{湿式二次処理}について詳述する。
【0058】
1−E)第二溶出工程
本工程においては、第一溶出工程により生じた酸化磁粉残渣に含有される希土類元素を鉱酸により選択浸出させる。
先に述べた1−B)第一溶出工程においては、資源から鉄および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる。その一方、資源の中にはアミド系酸媒体へと溶出されない希土類元素も存在し、これが酸化磁粉残渣として溶出溶液であるアミド系酸媒体中に残存することとなる。この残渣は、主に酸化磁粉により構成されるものであるが、希土類元素も一定量含まれている。
【0059】
なお、本工程において希土類元素を選択浸出するために用いられるのは鉱酸である。鉱酸を使用するメリットとしては、希土類元素を選択浸出することが可能であり、低コストな酸媒体という点がある。図2を用いてその内容について説明する。
図2は、Fe−HOとNd−HOのpH−電位図であり、各金属種があるpHの溶液中でどのような溶解形態として最も安定に存在できるかを示したものである。ここで、2<pH<7の領域では、Feはヘマタイト(Fe)が最も安定であり、NdはNd3+が最も安定である。その結果、希土類種のイオン化度合(すなわち溶出率)が向上することを、図2は示している。一方、pH<1の条件ではFeはFe3+として安定化するため、Feの溶出率を増加させることになる。
以上の内容および本発明者の知見を考慮すると、1.5<pH<3.5に合う酸溶液を調製して、溶出させることで希土類種の溶出率を高め、Feの溶出量を限りなく抑制できる。その結果、希土類元素を選択浸出させることが可能となる。
ちなみに図2(Nd)と同様に、DyやPr等の希土類元素に対応するpH−電位図も既に知られており、希土類元素に関する公知のpH−電位図を用いることにより、Nd以外の希土類元素も鉱酸へと選択浸出することが可能である。
【0060】
なお、鉱酸を使用する別のメリットとしては、イオン液体のアニオン成分に由来する酸媒体を使用するよりも安価というものがある。工場プラントで本発明を実施する場合、費用をわずかに低減するだけでも工場プラントを連続運転していくと、最終的に大きな費用の低減につながる。
【0061】
1−F)希土類水酸化物生成工程
本工程においては、第二溶出工程にて鉱酸に溶出させた希土類イオンを希土類元素よりも電気化学的に卑な金属で構成される金属水酸化物により酸・塩基中和反応を経由して、水酸化物沈殿反応により、希土類水酸化物を生成する。ここで用いられる金属水酸化物は公知のもの(例えば水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム)を用いても構わない。ただ、本工程で生成された希土類水酸化物はアミド系酸媒体に添加される。つまり、希土類水酸化物に金属水酸化物に由来の金属が混合していた場合、塩生成工程を経て、最終的に電解析出工程にかけられる可能性もある。そうなると、最終的に得られる析出物における希土類元素の含有率が、金属水酸化物に由来の金属のせいで低下してしまうおそれもある。そのため、金属水酸化物に由来の金属は、電解析出し難いものを選択するのが好ましい。そのため、希土類水酸化物を生成するための沈殿形成剤として、希土類元素よりも電気化学的に卑なアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、希土類水酸化物の固体、水溶液およびそれらの混合溶液のうち少なくともいずれかを利用するのが好ましい。
【0062】
1−G)希土類水酸化物添加工程
希土類水酸化物生成工程により生成した沈殿物(希土類水酸化物)を回収した後、本工程においては、希土類水酸化物生成工程で得た希土類水酸化物と、第一溶出工程で得たアミド系酸媒体とを混合する。本工程により、本来ならば廃棄されるはずの希土類元素を、アミド系酸媒体内に戻すことが可能となる。
【0063】
本工程は脱鉄工程を引き起こすために行う。詳しく言うと、脱鉄工程における水酸化鉄(III)を、本工程である希土類水酸化物添加工程を行うことにより生成する。つまり、{湿式一次処理}における脱鉄工程の材料として、{湿式二次処理}で回収した希土類元素の水酸化物を活用する。
【0064】
これにより、本来ならば廃棄されるはずの希土類元素をアミド系酸媒体へ再び戻せるのみならず、水酸化鉄(III)の生成を同時に行うことが可能となる。その結果、本来ならば廃棄されるはずの希土類元素をあますところなく活用することが可能となり、一連のリサイクルシステムが完成する。
【0065】
しかも、水酸化鉄(III)をアミド系酸媒体から分離すると同時に希土類元素をアミド系酸媒体内へ加えるため、水酸化鉄(III)が取り除かれた分、希土類元素をアミド系酸媒体内へ加えられる。その結果、塩生成工程におけるアミド系希土類金属塩中の希土類元素含有率は重量比率で90%以上に向上する。すなわち、高純度のアミド系希土類金属塩を生成できることになる。この場合、湿式処理〜電解析出までの一連の連続操業において、残存する元素種に対する連続的な除去工程を組み込む必要性がない。また、希土類元素を最終的に電解析出させる際のスケールアップ時の電流効率も高くなるし、希土類金属の純度が高い電析物を得ることができる。
【0066】
さらに、希土類元素の回収という一連のサイクル内から得られた希土類水酸化物を脱鉄工程において使用することには大きなメリットがある。まず、希土類水酸化物を別途購入する必要がなくなり、費用を低減することができる。先にも述べたが、工場プラントで本発明を実施する場合だとその効果は絶大である。なお、上記の希土類水酸化物生成工程を1回行っただけでは規定量の希土類水酸化物を得られなかった場合は、別途、希土類水酸化物を貯蔵するための貯蔵部に貯蔵しておき、希土類水酸化物が一定量貯まったら本工程を行うという手法を採用するのが、工場プラントにおいて一連のサイクルを効率的に行う上で好ましい。
【0067】
また、工場プラントを連続運転していくことに伴って生じる課題を解決することもできる。詳しく言うと、仮に、水酸化鉄(III)を生成するために水酸化カルシウムを使用していき、塩生成工程でアミド系希土類金属塩を生成させた場合、後続の電解出工程において工場プラントを連続運転していくうちに、カルシウムが電解浴内に蓄積されていってしまう。通常ならばカルシウムは還元されないはずなのだが、カルシウムが過度に蓄積されるとカルシウムが電析物中に共析するという事態も想定される。そうなると、最終的に得られる希土類元素の純度が低下してしまう事態にもなりかねない。
そこで、本工程のように、一連のサイクル内の処理であるところの{湿式二次処理}で得られた希土類水酸化物を使用し、塩生成工程で希土類元素比率が極めて高いアミド系希土類金属塩を利用することにより、そもそもカルシウムが蓄積しない電解環境を構築することが可能となる。
その結果、当該アミド系希土類金属塩の希土類含有率は著しく高く、しかも電解析出工程では希土類元素よりも電気化学的に卑な元素から成る低温溶融塩に容易に溶解させた上で使用することができる。
【0068】
もちろん、塩生成工程でアミド系希土類金属塩を生成する際に、希土類元素よりも電気化学的に卑なアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうち少なくともいずれかとアミド系希土類金属塩とで二元系もしくは三元系の低温溶融物を形成することになったとしても、後述の電解析出工程において極めて有利な効果が得られる。
本実施形態においては、希土類元素よりも電気化学的に卑なアルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物を、希土類水酸化物生成工程にて使用している。そのため、アミド系希土類金属塩がこれらの金属塩に対し、二元系もしくは三元系の低温溶融物を形成したとしても、電解析出工程において電気化学的に卑なアルカリ金属やアルカリ土類金属はほとんど電解析出しない。その結果、最終的に純度の高い希土類元素を電解析出により回収することが可能となる。
【0069】
1−H)電気化学工程
電気化学工程においては、希土類元素を回収するための電解処理を行う。本工程では、陽極溶解工程に加え、電解析出工程を行う。以降、本工程のことを単に「電解析出工程」とも称する。この電解析出工程は、第一電解析出工程と第二電解析出工程に分けた上で、希土類元素の種類ごとに条件を変化させて行う。以下、説明する。
【0070】
1−H−a)陽極溶解工程
陽極溶解工程においては、希土類元素の電解析出のために、上記のアミド系希土類金属塩の融液を電解浴としてそのまま使用する。上記のアミド系希土類金属塩は極めて高純度であり且つ低温溶融物であるため容易に溶融する。
なお、アミド系希土類金属塩の単独使用ではなく、イオン液体を電解浴とする場合の具体的な手法については、後述の<3.変形例等>にて述べるが、特許文献2の手法や公知の手法を用いても構わない。また、溶解させる液体としては、還元側の電位窓が広い公知のイオン液体でも構わないし、本実施形態におけるアミド系希土類金属塩の融解物であっても構わない。
【0071】
アミド系希土類金属塩の融液を電解浴としてそのまま用いる手法について、図3を用いて説明する。なお、図3は後述の実施例にて使用する三電極式電解試験装置1を説明するための概略図である。ここで、減磁処理済の廃磁石部材を陽極部4に取り付ける。そして、上記のアミド系希土類金属塩を融解物にした後、陰極部5とともに、当該陽極部4を希土類融解物に浸漬させる。そして、直流電源の陽極部4と陰極部5とを導通させ、陽極溶解を行い、減磁処理済の廃磁石部材を希土類融解物へと溶解させる。ここで、廃磁石部材のメッキ剥離の有無に限らず、希土類磁石成分中の鉄イオンがアミド系希土類融解物(電解浴)21中に拡散しないように、陽極部4をアミド系希土類融解物(電解浴)21からVycorガラスフィルター9を介した状態で隔離しておく必要がある。なお、陰極部5としては、後述の実施例のように銅板を略円筒状に加工したものを用いても構わないし、析出させる希土類金属と結晶構造が同類の金属元素からなる不活性電極を用いても構わない。
以降、詳しくは実施例にて後述し、符号については省略する。
【0072】
1−H−b)第一電解析出工程
電解析出工程では、希土類融解物から希土類元素を電解析出させる。そして、本工程である第一電解析出工程では、ネオジム(Nd)を析出させる。具体的な手法については、特許文献2の手法や公知の手法を用いても構わない。なお、希土類元素を電解析出させ、電極に付着した物質を取り出してみると希土類元素以外の元素(例えば炭素や酸素)が含まれている場合もある。しかしながら、希土類元素が電解析出されていることに変わりはない。しかも、本実施形態においては、希土類元素の品質を低下させる大きな要因となっていた鉄と希土類元素とを分離することが可能となっている。そのため、本明細書において「希土類元素の電解析出」とは、「少なくとも希土類元素を電解析出する」状態を指す。
【0073】
簡単に上記の手法を説明すると、電解用電源と電気的に接続された陽極部としては、回収する希土類元素と同種の元素(すなわちNd)もしくは減磁処理済の廃磁石部材から構成される可溶性電極を用いる。陰極部としては希土類元素よりも電気化学的に貴な元素であり、かつ析出させる希土類金属と結晶構造が同類の金属電極を用いる。また、減磁処理済の廃磁石部材を陽極部に用いることができるので、上記陽極溶解工程を陽極部で実施し、第一電解析出工程を陰極部で実施することが効率的である。
【0074】
1−H−c)第二電解析出工程
本工程である第二電解析出工程では、ジスプロシウム(Dy)を析出させる。具体的な手法については、第一電解析出工程と同様であり、Dyに応じた条件で電解析出を行う。また、減磁処理済の廃磁石部材を陽極部に用いることができるので、上記陽極溶解工程を陽極部で実施し、第二電解析出工程を陰極部で実施することが効率的である。
第二電解析出工程は、第一電解析出工程においてNdを連続的に回収した後、アミド系希土類金属塩を適宜補充することで、Dy濃度が高い電解環境を構築できるため、第二電解析出工程でDyが回収しやすくなる。
【0075】
以上の手法により、「第一溶出工程後の酸化磁粉残渣に含まれる希土類元素の再活用」に伴う上述の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0076】
まず、本実施形態の手法ならば、電析媒体としてイオン液体そのものを使用しなくて済む。イオン液体は比較的高価であり、工場プラントで連続的に操業する際にコスト面での課題が多い。しかしながら、本実施形態の手法ならば、アミド系酸媒体においてアニオンとしてイオン液体を構成可能な物質を使用するだけであり、実際にイオン液体を使用しなくて済む。
【0077】
更に、鉄を沈殿分離というシンプル且つ効率的な手法により取り除くことができるため、回収される希土類元素の品質を向上させることが可能となる。しかも、実施例の項目にて後述するが、本実施形態に記載の手法ならば、希土類元素の回収量を増加させることが可能となる。更には、回収した希土類元素の純度を向上させることが可能になる。詳しく言うと、回収した希土類元素の最表面は酸化していたり炭素が不純物として付着していたとしても、最表面以外の部分(すなわち最表面からわずかに深い部分)では、比較的高い純度の希土類元素となっており、最終的に高純度の希土類元素を多量に獲得することが可能になる。
【0078】
そして、特許文献1のような溶融塩電解法とは異なり、高温での腐食反応を抑制できる電解装置など安全面に格段の配慮を施した装置設計が不要となる。その結果、設備費を抑制することが可能になり、かつ加えるべき(熱および電解)エネルギーも少量で済む。
【0079】
また、特許文献2とは異なり、鉄を別途電解析出する必要がなくなり、電解析出工程の回数の増加を抑制することが可能になる。また、水酸化鉄(III)を沈殿分離させることにより、アミド系酸媒体中の希土類元素の構成比率を従来の回収方法と比べて相対的に増加させることができる。それにより、希土類元素の濃縮を目的とする電気泳動処理を行う必要性がなくなる。その結果、作業工程における経済性を向上させることができる。
【0080】
また、特許文献3のような溶媒抽出法とも異なり、電解浴中の希土類元素の構成比率が従来の回収方法と比べて高くなる。そのため、溶媒抽出法のように多段構成にする必要がなくなる。更に、鉄を別途電解析出する必要がなくなり、電解析出工程の回数の増加を抑制することが可能になる。その結果、作業工程における経済性を向上させることができる。
【0081】
以上の通り、作業工程を簡素化しつつも、回収される希土類元素の品質を向上させることが可能となる。
【0082】
<2.希土類元素の回収装置>
上記の技術思想は、希土類元素の回収装置へと反映させることも可能である。具体的に言うと、本実施形態における希土類元素の回収装置は、以下の構成を有する。
・資源から鉄および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる第一溶出処理部
・第一溶出処理部内に生じる酸化磁粉残渣から生成した希土類水酸化物を貯蔵する貯蔵部
・第一溶出処理部により得られたアミド系酸媒体に対して貯蔵部から投入される希土類水酸化物により、水酸化鉄(III)を生成して分離する水酸化鉄(III)分離部
・水酸化鉄(III)が分離されたアミド系酸媒体を濃縮させることによりアミド系希土類金属塩を生成する塩生成部
・アミド系希土類金属塩から希土類元素を電解析出させる電解析出部
なお、<1.希土類元素の回収方法>における各工程に対応する部分を別途設けても構わない。例えば、「第一溶出処理部にて生じた酸化磁粉残渣に含有される希土類元素を鉱酸により選択浸出させる第二溶出処理部」を別途設けても構わない。
また、上記の第一電解析出工程および第二電解析出工程については、第一電解析出処理部および第二電解析出処理部というように、別々の処理部を設けても構わないし、希土類元素の種類の数に合わせて第三、第四…等の電解析出処理部を設けても構わない。
【0083】
<3.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0084】
(鉄(Fe)以外の鉄族元素および鉄族元素化合物)
本実施形態では鉄族元素のうち鉄(Fe3+)を水酸化物へと変化させた例について述べている。その一方、結局のところ、アミド系酸媒体中の鉄族元素を含む化合物を生成し、当該化合物をアミド系酸媒体から分離することができれば、水酸化物へと変化させなくとも構わない。具体例を挙げるとすれば、鉄族元素を酸化物としたり、スルホン化物もしくは鉄族錯塩類としたりして、鉄族元素を含む化合物を生成し、当該化合物を分離しても構わない。
【0085】
また、固体の当該化合物が沈殿しなくとも構わず、液中に浮遊している状態であっても構わない。その場合、ろ過や遠心分離等の公知の技術により、鉄族元素を含む化合物と希土類元素が含まれるアミド系酸媒体とを固液分離することが可能となる。つまり、上記の「脱鉄工程」は具体例の一つであり、アミド系酸媒体中の鉄族元素を含む化合物を生成することにより、当該化合物を分離する「水酸化鉄(III)分離工程」に含まれる。
なお、生成されることになる当該化合物が液体であっても、相分離等を利用して当該化合物をアミド系酸媒体から分離可能ではある。ただ、アミド系酸媒体からの分離の容易性を考慮すると、当該化合物は固体であるのが好ましい。つまり、当該化合物をアミド系酸媒体から固液分離するのが好ましい。
【0086】
なお、特許文献2に記載のような「鉄族元素を電解析出にて分離する技術」と本明細書に記載の記述が相違することを明確にすべく、水酸化鉄(III)分離工程においては「アミド系酸媒体中の鉄イオン(III)から水酸化物を生成」という表現を用いている。その一方で、後述する電解析出工程においては「希土類元素の電解析出」という表現を用いている。つまり、水酸化鉄(III)分離工程においては鉄族元素のイオンとそれ以外のイオンとの結合という、酸化還元を伴わない化学反応が生じている。その一方、電解析出工程においては希土類元素のイオンが0価となる酸化還元を伴う金属析出が生じている。
【0087】
なお、本実施形態において鉄族元素には特に制限はない。本実施形態においては鉄族元素がFeの場合について述べるけれども、Fe以外の鉄族元素(Co,Ni)を含んでいてももちろん構わない。例えば、Feの代わりに、他の鉄族元素(Co,Ni)に対し、上記の水酸化鉄(III)分離工程に対応する工程を行っても構わない。
そのため「水酸化鉄(III)分離工程」を更に大きな概念としてとらえると「鉄族化合物分離工程」と称することができる。
【0088】
(希土類元素の種類)
上記の実施形態においては、希土類元素における元素の種類に制限は無いが、実用性や作業の容易性を考慮するならば、ランタン元素(La)、セリウム元素(Ce)、プラセオジム元素(Pr)、ネオジム元素(Nd)、サマリウム元素(Sm)、ユウロピウム元素(Eu)、ガドリニウム元素(Gd)、テルビウム元素(Tb)およびジスプロシウム元素(Dy)から選択される一つまたは二つ以上の元素であることが好ましい。
【0089】
(アミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた媒体を電解浴とした場合)
以下、アミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた媒体を電解浴とした場合について説明する。
【0090】
アミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた後に電解析出工程を行う場合、上記の実施形態と同様に1−D)塩生成工程までを行う。そして、塩生成工程により生成されたアミド系希土類金属塩を、イオン液体に溶解させる。
【0091】
なお、1−E)電気化学工程において電解浴として用いられる イオン液体としては、電解浴として使用可能なものならば、公知のものを用いても構わない。具体例を挙げると、イオン液体としては、以下のものを用いても構わない。
『式PRで表される四級ホスホニウムのカチオン成分、または式NRで表される四級アンモニウムのカチオン成分もしくは下記式で表されるカチオン成分と、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(N[SOCF)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N[SOF])、トリフルオロメタンスルホネート(SOCF)、メタンスルホネート(SOCH)、トリフルオロ酢酸(CFCOO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN))、ジアルキルリン酸((RO)POO))、ジアルキルジチオリン酸((RO)PSS))、脂肪族カルボン酸(RCOO)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、テトラフルオロボレート(BF)およびハロゲン等からなる群から選択される少なくとも一種のアニオン成分とから構成されるもの。』
【化1】
なお、上記のオニウムカチオンの式の中の記号に当てはまる基の条件としては以下の通りである。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、または脂環状のアルキル基である。あるいはRはR’−O−(CH−で表されるアルコキシアルキル基(R’はメチル基またはエチル基を示し、mは1〜4の整数である)を示す。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、または脂環状のアルキル基である。
・複数のRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
・RとRとは互いに異なる基であり、ホスホニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、または脂環状のアルキル基である。
・Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、または脂環状のアルキル基である。
・複数のRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
・RとRとは互いに異なる基であり、アンモニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
・nは0〜5の整数を表す。
・Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rはメチル基またはエチル基を示し、mは4または5の整数であり、nは1〜4の整数である。
【0092】
ここで、イオン液体が電解浴として使用される温度は、液相状態を維持できれば特に制限されないが、カチオン成分としては、低炭素鎖のホスホニウムカチオン、アニオン成分としては、これらの中でビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドが低粘性を発現するという点で好ましい。
【0093】
なお、上記のイオン液体を構成する一部のアニオン種は、アミド系酸媒体を構成するアニオン種にも適用可能である。上述の通り、第一溶出工程において用いるアミド系酸媒体は、イオン液体を構成するアニオン種を含有する溶液であることが好ましい。そのため、第一溶出工程において用いるアミド系酸媒体のアニオン種を上記のイオン液体のアニオン種のうちの一つを用いても構わない。
【0094】
以上の諸々の内容を総括的に記載した構成例が、以下の内容となる。
『希土類元素を電解析出させることにより、鉄族元素および希土類元素を含有する資源から希土類元素を回収する希土類元素の回収方法において、
前記資源から鉄族元素および希土類元素をアミド系酸媒体へと溶出させる第一溶出工程と、
前記第一溶出工程により生じた酸化磁粉残渣に含有される希土類元素を鉱酸により選択浸出させる第二溶出工程と、
前記第二溶出工程にて鉱酸に選択浸出させた希土類元素を金属水酸化物により水酸化する希土類水酸化物生成工程と、
前記アミド系酸媒体に対し、前記希土類水酸化物生成工程により生成した希土類水酸化物を加える希土類水酸化物添加工程と、
前記希土類水酸化物添加工程により生成した鉄族元素の水酸化物を前記アミド系酸媒体から分離する鉄族化合物分離工程と、
前記鉄族化合物分離工程後、前記アミド系酸媒体を濃縮させることによりアミド系希土類金属塩を生成する塩生成工程と、
前記アミド系希土類金属塩から希土類元素を電解析出させる電解析出工程と、
を有することを特徴とする希土類元素の回収方法。
但し、前記アミド系酸媒体は酸溶液であり、且つ、少なくとも前記塩生成工程におけるアミド系酸媒体はイオン液体を構成可能な疎水性アニオン種を含有する。』
ただ、上記の構成例はあくまで一例であり、種々の変形が可能である。特に、上記の各工程における種々の条件(具体的な添加物、pHの範囲、鉄族元素の水酸化物の分離手法等々)は、適宜調整可能である。
【実施例】
【0095】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例においては、鉄族元素がFeの場合について詳述する。
【0096】
<実施例1>(アミド系希土類金属塩の低温溶融物を利用した希土類元素の電解析出試験)
本実施例においては、図1に示すフローチャートに従い、3.5inch−HDD用の使用済みVCMを使用して、希土類元素の回収工程を実施した。
【0097】
1−A)前処理工程は、以下の通りに行った。
【0098】
解体・分別工程においては、まず、実廃棄物を解体し、VCMを分別した上で、当該VCMから希土類磁石としての部材のみを回収した。
【0099】
熱減磁工程は、以下の手順で行った。すなわち、希土類磁石としての部材を、焼成セッター上に設置し、アルミナ製の坩堝内に保持した上で、電気炉内に投入した。熱減磁工程の温度プログラムとしては、大気雰囲気下においてキュリー温度(310℃)までの昇降温速度を100℃/hにセットした。この熱減磁工程により、希土類磁石としての部材の表面上に酸化物被膜の形成を抑えつつ、初期磁束密度:410〜445mTを残留磁束密度:0.01mT(減磁率:99.9%以上)まで下げた。これにより、希土類磁石としての部材のその後の取扱いを容易なものとした。
【0100】
メッキ剥離工程は、希土類磁石部材表面のNi−Cu−Niメッキ層は、物理的な研磨処理により剥離した。
【0101】
酸化焙焼工程においては、蒸留水で研磨屑を十分に除去した後、メッキ層を剥離した後の希土類磁石部材を乾燥機内で乾燥させた。希土類磁石部材は、自動ミルを利用して粉砕した。その後、粉砕された希土類磁石部材はアルミナ容器に敷き詰め、大気雰囲気下において860℃、2hという条件で酸化焙焼工程を行った。再度、酸化磁粉部材を微粉末化させた後、860℃、2hという条件で酸化焙焼工程を実施した。
【0102】
その後、自動ミルによる微粉化工程を行い、自動篩を用いて、粒径25μm以下になるまで分級させる分級工程を行い、粒径25μm以下の酸化磁粉を得た。
【0103】
1−B)第一溶出工程においては、アミド系酸媒体としてHTFSA(1.0M)溶液250mlを使用した。前処理工程後に得られた酸化磁粉10gを、HTFSA溶液中へ投入した。そして、ホットスターラー上にて、70℃、700rpmの条件下で165h、溶出処理させた。溶出処理後、遠心分離および濾過にて未反応の酸化磁粉残渣を固液分離して残渣と溶液(アミド系酸媒体)とした。
【0104】
次に、当該残渣に対して1−E)第二溶出工程を行った。具体的には、鉱酸である塩酸(濃度1.0M、容積250ml)と当該残渣を混合してpH1.51(溶出後のpH)に調節することにより、希土類元素(Pr、Nd、Dy)を選択浸出させて浸出液を得た。
その後、1−F)希土類水酸化物生成工程を行った。具体的には、前記浸出液に金属水酸化物である水酸化ナトリウム(濃度1.0M)を沈殿開始pH6.5から段階的に投与していき、沈殿終了pH11.5まで前記浸出液に加えた。こうして得られた含水状態での沈殿物の総量は71.85gであった。なお、沈殿物が希土類水酸化物であることは、XRDにより同定した。なお、上記の手順を合計5回行い、試料を合わせて5つ作製し、各々の試料に対してICP−AES分析を行った。ICP−AES分析により得られた、各試料における組成分析結果、すなわち湿式二次処理で生成した希土類水酸化物の組成比は表1の通りであった。
【表1】
【0105】
なお、表中の「M(OH)」および「n」の項目の意味は、以下の通りである。まず、ICP−AESにおいて、金属カチオンの全種類を定量的に判断可能である。そして、カチオンの総量=アニオンの総量となる。その結果、アニオンをOHに起因するものとして考え、そこからM(OH)の分子量を算出している。なお、Mは金属を意味する。そして、OH自体は、分子量が固定であることから、nの項目の値は、M(OH)が示す分子量から決定される。
【0106】
そして、当該希土類水酸化物を溶出溶液である前記アミド系酸媒体へと加える1−G)希土類水酸化物添加工程を行った。その際、上記の実施形態で述べたように、2価のFeイオンと希土類元素との共沈を避けるための処理を行った。具体的に言うと、溶出溶液のpHが4.5になるまで希土類水酸化物を添加した後、流量:120mL/minの条件下で45分間、酸素バブリングすることによって、Feを3価のイオンへと酸化させた。2価のFeイオンがアミド系酸媒体中に存在しないことは1,10−フェナントロリン指示薬を用いて確認した。その結果、溶出溶液内においてFe(OH)の沈殿を生成した。当該沈殿を遠心分離機にて10000rpm、10minの条件により除去し、1−C)水酸化鉄(III)分離工程を行った。
なお、得られた溶液をICP−AESで分析した結果、Feは0ppmであり、湿式分離率は100%であり、かつ希土類元素の重量比率が90%以上であることを確認した。
【0107】
1−C)水酸化鉄(III)分離工程後、1−D)塩生成工程においては、アミド系酸媒体をスプレードライヤーによる噴霧熱乾燥にて、アミド系希土類金属塩を得た。スプレードライヤーは、蒸発管温度:200℃、サイクロン回収部温度:125℃、ブロアー流速:0.68m/min、アトマイジング:110kPa、アミド系酸媒体の導入流速:0.2L/hの条件で行った。サイクロン回収部への導入ガスは乾燥窒素を利用した。このようにして、アミド系希土類金属塩を生成した。各試料におけるアミド系希土類金属塩の組成分析結果は表2の通りであった。
【表2】
【0108】
本実施例における1−H)電気化学工程で用いられる三電極式電解試験装置1を図3に示す。
【0109】
本実施例における三電極式電解試験は、以下の構成を採用した三電極式電解試験装置1を用いて行った。電解試験装置における電極構成としては、図3に示す三電極方式(作用極:Cu基板,対極:減磁処理済Nd−Fe−Bロッド,擬似参照極:Pt線)とした。以下、概要を説明する。
【0110】
本実施例における三電極式電解試験装置は、陽極部4、陽極部4を納めたガラス部材8、陰極部5、擬似参照電極部12、これらを収納自在な電解セル13を有している。また、図示しないが、積算電気量を計測可能な電解試験装置も備えている。
【0111】
電解試験装置から陽極部4、陰極部5、が擬似参照電極部12の電位基準で電気的に接続されている。擬似参照電極部12を追加することで、印加する電位の精度が高められる。
【0112】
なお、その他には、電解セル13を覆う耐熱ウール14、その外側にマントルヒーター15、これらの下部にはホットスターラー16が備えられている。電解セル13の内部には撹拌子17が設けられている。また、電解セル13の上部はシリコン栓18により密閉状態に保持されている。シリコン栓18を貫通する形でガラス部材8(陽極部4)、陰極部5、擬似参照電極部12および電解浴の温度測定のための熱電対19が設けられている。
【0113】
本実施例においては、減磁処理済の廃磁石部材が陽極部4として使用される。そして、当該廃磁石部材は、陽極リード線(図示せず)から所定の印加電圧が供給されている。そして、ソーダ石灰ガラスからなり且つ中空のガラス部材8の中に、陽極部4が配置されている。なお、ガラス部材8の先端(天地の地側)には、ガラスフィルター9(バイコールガラスフィルター)が設置されている。
【0114】
電解浴となるアミド系希土類金属塩の融液が電解槽に投入されている。それと共に、ガラス部材8の中にもアミド系希土類金属塩の融液が投入され、減磁処理済の廃磁石部材を浸漬させている。
【0115】
なお、ガラスフィルター9の機能性により、アミド系希土類融解物(陽極側)22は、電解浴となるアミド系希土類融解物(電解浴)21中には拡散せず、陽極部4で溶解する減磁処理済の廃磁石部材および不溶性物質は、陽極部4に保持される。このように、本実施例における三電極式電解試験装置を設計した。なお、ガラスフィルター9は、印加電圧を高めることで電流が流れるようになる構造となっている。
【0116】
本実施例においては、作業効率を向上させるべく、1−H−a)陽極溶解工程、および、1−H−b)第一電解析出工程を同時に行った。
本実施例における第一電解析出工程では、陽極部4を減磁処理済の廃磁石部材、陰極部5をCu基板とした。なお、陰極部5は、Cu基板を円筒状にすることで電極面積を大きくする構造とした。擬似参照極として熱安定性のあるPt線を使用した。そして、浴塩温度:190℃、電解雰囲気:Ar、印加電圧:−3.2V、総電気量:350Cの条件下でNdの析出を行った。その結果、陽極電流効率:90.3%、陰極析出物:121.9mgであり、極めて高い陽極電流効率が得られた。なお、陽極電流効率は、総電気量から算出される陽極の理論的な重量減少量に対する実際の重量変化量の割合から算出した(以降、同様)。
【0117】
そして、得られた電析物をXPS分析(X線光電子分光分析法:X−ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)した結果を図4に示す。Nd3d5/2スペクトルにおいて、Nd金属の場合、980.5−981.0eVの範囲内にピークを生じる。Ndの場合、9817.7−982.3eVの範囲にピークを生じる。最表面層から0.15μmの深さ(図4(a))では981.5eVにピークが顕著であり、酸化物相と金属相の中間状態であった。一方、最表面層から1.25μmの深さ(図4(b))では980.7eVにピークが顕著であり、金属相の形成が確認できた。
【0118】
<実施例2>(アミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた場合の、希土類元素の電解析出試験)
本実施例においては、塩生成工程により生成したアミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた後に電解析出工程を行う例を適用した。そして、本実施例には、Ndを回収した結果について記載した。なお以降、特記の無い事項については、<実施例1>と同様とする。
【0119】
1−D)塩生成工程までは、<実施例1>と同様とした。
【0120】
本実施例においては、上記により得られたアミド系希土類金属塩を、0.25Mの濃度でイオン液体(P2225TFSA)に溶解させた後、オイルバスを利用した攪拌式真空乾燥装置を利用して、110℃、300rpmの条件下で72h乾燥処理を行った液相を電解浴とした。電解浴中の水分量は水分気化装置付のカールフィッシャー水分計で測定した結果、63.4ppmであることを確認した。
【0121】
なお、本実施例においても図3に記載の三電極式電解試験装置1を用いる。
電解セル13に対し、電解浴となるアミド系希土類金属塩を溶解させたイオン液体(電解浴)(符号21に対応)が投入されている。それと共に、ガラス部材8の中に希土類金属塩溶解イオン液体(陽極側)(符号22に対応)を投入しておき、アミド系希土類金属塩を溶解させたイオン液体(陽極側)22の中に、減磁処理済の廃磁石部材である陽極部4を浸漬させている。
【0122】
なお、ガラスフィルター9の機能性により、アミド系希土類金属塩を溶解させたイオン液体(陽極側)22は、電解セル13に投入されて電解浴となるアミド系希土類金属塩を溶解させたイオン液体(電解浴)21中には拡散せず、陽極部4として溶解する減磁処理済の廃磁石部材および不溶性物質は、陽極部4の近傍に保持される。このように、本実施例における三電極式電解試験装置を設計した。
【0123】
そして、水分量1ppm以下のグローブボックス中で電解試験を行った。電解試験中は、撹拌子により300rpmで電解浴を攪拌させた。電解の進行に伴い、各電極では次の反応が進行する。
(アノード反応)
3/2Fe→3/2Fe(II)+3e
RE→RE(III)+3e(RE=Pr,Nd,Dy)
(カソード反応)
Nd(III)+3e→Nd
【0124】
当該アノード反応から生じるFe(II)は電解浴中に拡散せず、Vycorガラスフィルターにより拡散が抑制されている。また、アノード側でのNd溶解はNd−Fe−Bロッド成分からの溶解であり、カソードのNd析出は電解浴中のアミド系希土類金属イオン(VCM成分)からのNd(III)の析出である。
【0125】
浴塩温度:100℃、電解雰囲気:Ar、印加電圧:−3.2V、総電気量:250Cの条件下でNdの析出を行った。その結果、陽極電流効率:92.7%、陰極析出物:87.5mgであり、極めて高い陽極電流効率が得られた。
【0126】
次に、得られた電析物をXPS分析した結果、Nd3d5/2スペクトルにおいて、最表面層では981.5eVのピークが顕著であり、酸化物相と金属相の中間状態であった。一方、最表面層から0.75μmの深さでは980.8eVのピークが顕著であり、金属相の形成が確認できた。
【0127】
<実施例3>
本実施例においては、図1に示すフローチャートに従い、3.5inch−HDD用の使用済みVCMを使用して、希土類元素の回収工程を実施した。
【0128】
1−A)前処理工程は、酸化焙焼工程の焼成温度を900℃、3hに変更した点以外は実施例1と同様に行った。
【0129】
酸化焙焼工程においては、蒸留水で研磨屑を十分に除去した後、メッキ層を剥離した後の希土類磁石部材を乾燥機内で乾燥させた。希土類磁石部材は、分析ミルを利用して粉砕した。その後、粉砕された希土類磁石部材はアルミナ容器に敷き詰め、大気雰囲気下において900℃、3hという条件で酸化焙焼工程を行った。酸化磁粉のXRDからNd層、Fe層、Fe層、NdFeO層を確認した。その後、分析ミルによる微粉化工程を行い、自動篩を用いて、粒径150μm以下になるまで分級させる分級工程を行い、粒径100μm以下の酸化磁粉を得た。
【0130】
1−B)溶出工程においては、アミド系酸媒体としてHTFSA(1.0M)溶液250mLを使用した。前処理工程後に得られた酸化磁粉25gを、HTFSA溶液中へ段階的に投入した。そして、ホットスターラー上にて、50℃、500rpmの条件下で72h、溶出処理させた。溶出処理後、遠心分離及び濾過にて未反応の酸化磁粉残渣を固液分離して残渣と溶液(アミド系酸媒体)とした。
【0131】
次に、当該残渣に対して1−E)第二溶出工程を行った。具体的には、鉱酸である塩酸(濃度1.0M、容積250ml)と当該残渣を混合してpH1.02(溶出後のpH)に調節することにより、希土類元素(Pr、Nd、Dy)を選択浸出させて浸出液を得た。
【0132】
その後、1−F)希土類水酸化物生成工程を行った。具体的には、前記浸出液に金属水酸化物である水酸化カリウム、水酸化ストロンチウムもしくは水酸化バリウム(濃度1.0M)を沈殿開始pH6.0〜6.5から滴下していき、沈殿終了pH11.0〜11.5まで前記浸出液に加えた。なお、沈殿物が希土類水酸化物であることは、XRDにより確認した。なお、沈殿形成剤の種類にそれぞれ実施し、各々の試料に対してICP−AES分析を行った。ICP−AES分析により得られた、各試料における組成分析結果、すなわち湿式二次処理で生成した希土類水酸化物の組成比は表3の通りであった。
【表3】
【0133】
そして、当該希土類水酸化物を溶出溶液である前記アミド系酸媒体へと加える1−G)希土類水酸化物添加工程を行った。その際、上記の実施形態で述べたように、2価のFeイオンと希土類元素との共沈を避けるための処理を行った。具体的に言うと、溶出溶液のpHが3.6になるまで希土類水酸化物を添加した後、流量:100mL/minの条件下で120分間、酸素バブリングすることによって、Feを3価のイオンへと酸化させた。2価のFeイオンがアミド系酸媒体中に存在しないことは1,10−フェナントロリン指示薬を用いて確認した。その結果、溶出溶液内においてFe(OH)の沈殿を生成した。当該沈殿を遠心分離機にて10000rpm、10minの条件により除去し、1−C)水酸化鉄(III)分離工程を行った。
なお、得られた溶液をICP−AESで分析した結果、Feは0ppmであり、湿式分離率は100%であり、かつ希土類元素の重量比率が90%以上であることを確認した。
【0134】
1−C)水酸化鉄(III)分離工程後、1−D)塩生成工程においては、アミド系酸媒体をスプレードライヤーによる噴霧熱乾燥にて、アミド系希土類金属塩を得た。スプレードライヤーは、蒸発管温度:200℃、サイクロン回収部温度:125℃、ブロアー流速:0.48〜0.60m/min、アトマイジング:100〜110kPa、アミド系酸媒体の導入流速:175mL/hの条件で行った。蒸発管部の噴霧ガスは99.95%以上の加圧乾燥窒素を利用した。このようにして、アミド系希土類金属塩を生成した。各試料におけるアミド系希土類金属塩の組成分析結果は表4の通りであった。
【表4】
【0135】
本実施例における1−H)電気化学工程で用いられる三電極式電解試験装置は実施例1と同様の装置を使用した。電解浴にはイオン液体:[P2225][TFSA]を25mL使用し、0.1mol%の濃度にて希土類塩(沈殿形成剤に水酸化カリウムを用いた場合)を溶解させた。イオン液体に溶解後、オイルバスを利用した真空攪拌脱水処理により、38ppmまで電解浴中の水分を減少させた。
【0136】
本実施例における第一電解析出工程では、陽極部4を減磁処理済の廃磁石部材、陰極部5をCu基板とした。なお、陰極部5は、Cu基板を円筒状にすることで電極面積を大きくする構造とした。擬似参照極として熱安定性のあるPt線を使用した。そして、浴塩温度:100℃、電解雰囲気:Ar、印加電圧:−3.25V、総電気量:328Cの条件下でNdの析出を行った。その結果、陽極電流効率:94.3%、陰極析出物:107. 8mgであり、極めて高い陽極電流効率が得られた。なお、陽極電流効率は、総電気量から算出される陽極の理論的な重量減少量に対する実際の重量変化量の割合から算出した。陰極側のCu基板をNd電析試験ごとに交換していき、定電位設定条件を保持して連続的なNd電解試験を継続させた。合計2回の連続的なNd電解試験を実施して、総電気量は576Cであった。2回の連続的なNd電解試験における陽極側の平均電流効率は93.8%であった。最終的な陰極析出物:210.6mgを回収でき、陰極側の平均電流効率は73.4%であった。
【0137】
そして、得られた電析物の一部をXPS分析(X線光電子分光分析法:X−ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)した結果を図5に示す。Nd3d5/2スペクトルにおいて、Nd金属の場合、980.5−981.0eVの範囲内にピークを生じる。Ndの場合、9817.7−982.3eVの範囲にピークを生じる。最表面層から0.02μmの深さでは981.2eVにピークが顕著であり、酸化物相と金属相の中間状態であった。一方、最表面層から0.55μmの深さでは980.8eVのピークが顕著であり、Nd金属相の形成が確認できた。深さ方向を0.85μmまで増加させた場合も980.5eVのピークが顕著であり、Nd金属相であることが確認できた。
【0138】
本実施例における第二電解析出工程ではCu基板を交換後、Dy電析試験を実施した。浴塩温度:100℃、電解雰囲気:Ar、印加電圧:−3.80V、総電気量:75Cの条件下でのDy析出を行った。その結果、陽極電流効率:89.6%、陰極析出物:30.2mgであり、比較的高い陽極電流効率が得られた。得られた電析物をXPS分析した結果を図6に示す。Dy3d5/2スペクトルにおいて、最表面層から0.05μmの深さでは1295.5〜1297.0eVの範囲外にピークを生じており、Dy金属相とDy酸化物相の混在が示唆された。最表面層から0.85μmの深さでは1295.5〜1297.0eVの範囲内にピークを生じており、Dy金属相であることを確認できた。
【符号の説明】
【0139】
1…三電極式電解試験装置、4…陽極部、5…陰極部、8…ガラス部材、9…ガラスフィルター、12…擬似参照電極部、13…電解セル、14…耐熱ウール、15…マントルヒーター、16…ホットスターラー、17…撹拌子、18…シリコン栓、19…熱電対、21…アミド系希土類金属塩の融液もしくはアミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた液相(電解浴)、22…アミド系希土類金属塩の融液もしくはアミド系希土類金属塩をイオン液体に溶解させた液相(陽極側)
図1
図2
図3
図4
図5
図6