(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁性材料で被覆された導電性金属材で巻かれたコイル体と、前記コイル体から延びる一対の端子板と、少なくとも前記コイル体が内部に埋め込まれた磁性コアとを有するインダクタンス素子であって、
前記一対の端子板のそれぞれにおける一方の端部は前記磁性コア外に位置し、
前記一対の端子板のそれぞれに電気的に接続される一対の塗布型電極をさらに備え、
前記一対の塗布型電極のそれぞれは、前記コイル体の巻回軸に沿った方向を面内方向とする前記磁性コアの側面の一部上に設けられた側面塗布部分を有し、
前記磁性コアは磁性粉末の集合体であり、
前記磁性コアにおける、前記コイル体の外側面よりも外側の領域および前記コイル体の外側面を前記コイル体の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面の外周側の領域からなる第1領域に位置する磁性粉末の密度は、前記磁性コアにおける、前記コイル体の内側面よりも内側の領域および前記コイル体の内側面を前記コイル体の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面の内周側の領域からなる第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低く、
前記第1領域のうち前記側面塗布部分と前記コイル体の外側面との間の領域に位置する磁性粉末の密度d10と、前記第1領域のうち前記側面塗布部分と前記コイル体の外側面との間の領域以外の領域に位置する磁性粉末の密度d11とは、下記式(I)の関係を満たすことを特徴とするインダクタンス素子。
d11/d10≧1.02 (I)
前記第1領域のうち前記側面塗布部分と前記コイル体の外側面との間の領域に位置する磁性粉末の密度d10と、前記第2領域に位置する磁性粉末の密度d2とは、下記式(II)の関係を満たす、請求項1または請求項2に記載のインダクタンス素子。
d2/d10≧1.05 (II)
前記コイル体の上下端面と前記磁性コアにおける前記端面に最近位な面との間の領域からなる第3領域に位置する磁性粉末の密度は、前記第2領域に位置する磁性粉末の密度より低い、請求項1から5のいずれか1項に記載のインダクタンス素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献に開示されるような端子導通部は、形成のしやすさから導電性ペーストなど塗布型の材料から構成された部分を備える場合がある。本明細書において、上記の特許文献1の端子導電部に相当する構成要素であって、塗布型の材料から構成される部分を備えるものを塗布型電極という。
【0005】
塗布型電極はプリント基板の電極パッドとの電気的接続を行う部分であり、使用の際には塗布型電極と電極パッドとははんだ層によって接合される。塗布型電極におけるはんだ接合部の面積を増やすことはインダクタンス素子のプリント基板への接続安定性を高めることになるため、塗布型電極の面積を広げるような構造が選択される傾向がある。その具体的な一例として、インダクタンス素子における磁気コア内のコイル体の巻回軸に沿った方向を面内方向とする磁気コアの側面(以下、「磁気コアの側面」と略記する場合がある。)にまで塗布型電極の領域を広げる場合があった。本明細書において、塗布型電極における磁気コアの側面に設けられた部分を「側面塗布部分」ともいう。塗布型電極は一対で設けられ、これらは互いにコイル体を介した部分以外で電気的に接続されることはないため、側面塗布部分が設けられる部分は、磁気コアの側面の一部となる。
【0006】
ところで、インダクタンス素子の性能(L値など)を高めるためには、磁性コア内のコイル体の径を大きくすることが有効である。ところが、コイル体の径を大きくすると、コイル体の外側面と磁気コアの側面との間の距離が狭まってしまう。このとき、コイル体と塗布型電極の側面塗布部分との間での絶縁耐圧が低下しやすくなる。
【0007】
本発明は、塗布型電極が側面塗布部分を有するインダクタンス素子であって、側面塗布部分と磁気コア内部のコイル体との間の絶縁耐圧を高めることが可能なインダクタンス素子を提供することを目的とする。また、本発明は、上記のインダクタンス素子を実装した電子・電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための一案として、コイル体を構成する導電性金属材を被覆する絶縁性材料の絶縁性を向上させること、その具体例として、絶縁性材料の厚さを増やすことが挙げられる。しかしながら、そのような対策はインダクタンス素子の性能を劣化させる場合がある。
【0009】
本発明者らは、磁性コアが磁性粉末の集合体であることに着目して検討した結果、磁性コアにおけるコイル体の外側面よりも外側に位置する磁性粉末の密度を、磁性コアにおけるコイル体の内側面より内側に位置する磁性粉末の密度よりも低下させることにより、上記課題を解決しうるとの新たな知見を得た。
【0010】
以上の新たな知見に基づき提供される本発明の一態様は、絶縁性材料で被覆された導電性金属材で巻かれたコイル体と、前記コイル体から延びる一対の端子板と、少なくとも前記コイル体が内部に埋め込まれた磁性コアとを有するインダクタンス素子であって、前記一対の端子板のそれぞれにおける一方の端部は前記磁性コア外に位置し、前記一対の端子板のそれぞれに電気的に接続される一対の塗布型電極をさらに備え、前記一対の塗布型電極のそれぞれは、前記コイル体の巻回軸に沿った方向を面内方向とする前記磁性コアの側面の一部上に設けられた側面塗布部分を有し、前記磁性コアは磁性粉末の集合体であり、前記磁性コアにおける、前記コイル体の外側面よりも外側の領域および前記コイル体の外側面を前記コイル体の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面の外周側の領域からなる第1領域に位置する磁性粉末の密度は、前記磁性コアにおける、前記コイル体の内側面よりも内側の領域および前記コイル体の内側面を前記コイル体の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面の内周側の領域からなる第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低
く、前記第1領域のうち前記側面塗布部分と前記コイル体の外側面との間の領域に位置する磁性粉末の密度d10と、前記第1領域のうち前記側面塗布部分と前記コイル体の外側面との間の領域以外の領域に位置する磁性粉末の密度d11とは、下記式(I)の関係を満たすことを特徴とするインダクタンス素子である。
d11/d10≧1.02 (I)
【0011】
磁気コアを構成する磁性粉末はその内部が金属、合金などの導電性材料からなり、磁性粉末の表面部に絶縁処理(酸化を含む。)が施されていたり、絶縁性の材料を磁性粉末間に存在させたりすることによって、磁性コアとして所定の絶縁性を有することを実現している。したがって、磁性粉末同士の接触状態は磁性コアの絶縁性に影響を与える因子である。そして、磁性粉末同士の接触状態は、磁気コアの密度を制御することによって変化させることができる。それゆえ、磁性コアにおける磁性粉末の密度を局所的に制御することにより、磁性コアにおける特定部分の絶縁性を変化させることができる。そこで、本発明に係るインダクタンス素子は、第1領域に位置する磁性粉末の密度を第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低下させることにより、磁性コアにおける磁性粉末の側面塗布部分とコイル体の外側面との間の領域の絶縁性を高めることを可能としている。
本発明の他の一態様は、絶縁性材料で被覆された導電性金属材で巻かれたコイル体と、前記コイル体から延びる一対の端子板と、少なくとも前記コイル体が内部に埋め込まれた磁性コアとを有するインダクタンス素子であって、前記一対の端子板のそれぞれにおける一方の端部は前記磁性コア外に位置し、前記一対の端子板のそれぞれに電気的に接続される一対の塗布型電極をさらに備え、前記一対の塗布型電極のそれぞれは、前記コイル体の巻回軸に沿った方向を面内方向とする前記磁性コアの側面の一部上に設けられた側面塗布部分を有し、前記磁性コアは磁性粉末の集合体であり、前記磁性コアにおける、前記コイル体の外側面よりも外側の領域および前記コイル体の外側面を前記コイル体の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面の外周側の領域からなる第1領域に位置する磁性粉末の密度は、前記磁性コアにおける、前記コイル体の内側面よりも内側の領域および前記コイル体の内側面を前記コイル体の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面の内周側の領域からなる第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低く、前記磁性コアは、前記コイル体の巻回軸に沿った方向を加圧方向とする成型加工を含んで製造されたものであり、前記成型加工は、複数の成型部材を加圧成型により一体化させる作業を含むことを特徴とするインダクタンス素子である。
【0012】
前記第1領域のうち前記側面塗布部分と前記コイル体の外側面との間の領域に位置する磁性粉末の密度が、前記第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低い場合には、磁性コアにおける磁性粉末の側面塗布部分とコイル体の外側面との間の領域の絶縁性をより直接的に高めることができるため、好ましい。
【0014】
前記第1領域のうち前記側面塗布部分と前記コイル体の外側面との間の領域に位置する磁性粉末の密度d10と、前記第2領域に位置する磁性粉末の密度d2とは、下記式(II)の関係を満たすことが好ましい。
d2/d10≧1.05 (II)
【0015】
前記コイル体はエッジワイズコイルであってもよい。平角線が巻回された部分を備えるエッジワイズコイルはコイルの占有率を高めることが可能であり、インダクタンス素子の性能を高める観点から好ましい。しかしながら、平角線を巻回すると、従来の丸線を巻回した場合に比べて、内周側に比べて外周側の周長が特に長くなりやすい。このため、エッジワイズコイルは絶縁性の材料からなる被覆が外側面において伸びやすく、結果的に、エッジワイズコイルは外周側の絶縁性が低下しやすい。このような傾向を有するエッジワイズコイルをコイル体として用いた場合であっても、本発明に係るインダクタンス素子では、コイル体の外側面と側面塗布部分との間の領域における磁性粉末の密度を低下させることによりこの領域での絶縁性が高くなっているため、インダクタンス素子の絶縁耐圧を高めることができる。
【0016】
前記コイル体の上下端面(コイル体のコイルの巻回軸に沿った方向を法線とする端面)と前記磁性コアにおける前記上下端面に最近位な面との間の磁性粉末の密度は、前記コイル体の内側面より内側の磁性粉末の密度より低いことが好ましい。インダクタンス素子を小型化することについての要請は近年特に強くなってきている。その対応として、インダクタンス素子におけるコイル体の巻回軸方向の長さ(厚さ)を小さくすることが行われる場合がある。インダクタンス素子の厚さを小さくすると、磁性コア内のコイル体の端面と磁性コアにおけるその上下端面に最近位な面との間の距離も小さくなり、コイル体の上下端面と磁性コアにおけるその上下端面に最近位な面との間の領域(第3領域)での絶縁耐圧の低下が問題視される可能性がある。そこで、この第3領域に位置する磁性粉末の密度を、第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低くすることにより、第3領域の絶縁性を高めることも可能となる。
【0017】
前記磁性粉末は非晶質合金粉末を含んでいてもよい。磁性粉末が非晶質合金粉末を含み、好ましくは、磁性粉末が非晶質合金粉末からなる場合には、インダクタンス素子のコアロスを低減させることができ、好ましい。しかしながら、非晶質合金は一般的に硬質であるため、磁性コアに含まれる非晶質合金粉末が絶縁処理されていたり、非晶質合金粉末同士の間に絶縁性の材料が存在していたりしても、こうした絶縁性の物質が変形して、非晶質金属からなる部分同士の接触(金属系材料同士の直接接触)が生じやすい。このような接触は絶縁性の低下をもたらすが、本発明に係るインダクタンス素子では、所定の領域における磁性粉末の密度を低下させることによって、上記の金属系材料同士の直接接触が生じる可能性を低下させることを可能としている。したがって、本発明によれば、低いコアロスと優れたインダクタンス特性を有し、かつ、高い絶縁耐圧をも有するインダクタンス素子を得ることができる。
【0018】
上記の本発明に係るインダクタンス素子の製造方法は限定されない。前記磁性コアは、前記コイル体の巻回軸に沿った方向を加圧方向とする成型加工を含んで製造されたものである場合には、磁性コアにおける側面塗布部分とコイル体の外側面との間の領域に位置する磁性粉末の密度を低下させることが容易である。
【0019】
特に、前記成型加工が、複数の成型部材を加圧成型により一体化させる作業を含む場合には、磁性コアにおける側面塗布部分とコイル体の外側面との間の領域に位置する磁性粉末の密度を低下させることが容易である。具体例の一つとして、上記の領域が複数の成型部材の合わせ面を含むように成型部材の形状を設定しておくことが挙げられる。
【0020】
本発明の別の一態様は、上記の本発明に係るインダクタンス素子が実装された電子・電気機器である。
【発明の効果】
【0021】
上記の本発明に係るインダクタンス素子は、磁性コアにおいて、側面塗布部分とコイル体の外側面との間の磁性粉末の密度が、コイル体の内側面より内側の磁性粉末の密度よりも低い。このため、側面塗布部分と磁気コア内部のコイル体との間の絶縁耐圧を高めることが可能である。また、本発明によれば、上記の本発明に係るインダクタンス素子を実装した電子・電気機器も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子の全体構成を一部透視して示す斜視図である。
図2は、
図1に示されるインダクタンス素子の全体構成を一部透視して示す平面図である。
図3は、
図2のA−A断面図である。
【0025】
本発明の実施の形態のインダクタンス素子100は、磁性粉末の集合体であり略立方体の形状を有する磁性コア30にコイル体10が埋め込まれた構造を有する。エッジワイズコイルであるコイル体10は、絶縁性材料で被覆された導電性金属材からなり、断面が長方形の帯状体である導電性帯体を巻いて形成されている。コイル体10は、導電性帯体の板面が巻回軸とほぼ垂直となり、コイル体10の厚さ方向を決めている導電性帯体の側端面が巻回軸と平行となる向きで、導電性帯体の板面どうしが巻回軸に沿って重なるように巻かれている。したがって、コイル体10の上下端面は、コイル体10のコイルの巻回軸に沿った方向を法線とする。
図1および
図2に示されるように、コイル体10は、導電性帯体が楕円形となるように巻かれている。コイル体10の巻回の平面視形状は楕円形に限定されない。コイル体10の巻回の平面視形状は真円形でも良く、当業者において適宜選択することができる。また、コイル体10の断面形状は限定されない。コイル体10の断面形状は円形であってもよい。コイル体10の断面形状が長方形などの矩形である場合には、コイル体10の占有率を高めることができ、好ましい。
【0026】
導電性金属材の具体的な組成は限定されない。銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの良導体であることが好ましい。導電性金属材を被覆する絶縁性材料の種類は限定されない。エナメルなどの樹脂系材料が好適な材料の具体例として挙げられる。コイル体10がエッジワイズコイルの場合には、外側面側に位置する絶縁性材料が引き伸ばされやすいため、こうした引き伸ばしが行われても絶縁性が低下しにくい材料を使用することが好ましい。
【0027】
コイル体10が楕円状に巻かれた状態で、コイル体10を構成する導電性帯体の双方の端部は、突出してさらに折り返されて、導電性帯体の末端に近い部分が端子板20,25を構成している。
【0028】
図1に示すように、コイル体10を構成する導電性帯体の一方の端部は、まず谷折り方向へほぼ直角に曲げられ、次に山折り方向へほぼ直角に曲げられ、さらに谷折り方向へほぼ直角に二度折り曲げられて、この最後の折り曲げ部から導電性帯体の末端に至る部分が端子板20を構成している。コイル体10を構成する導電性帯体の一方の端部は山折り部から二度目の谷折り部までの間において、磁性コア30の内部から突出し、この部分から導電性帯体の末端に至る部分は、磁性コア30外に位置する。上記のようにコイル体10を構成する導電性帯体の一方の端部が折り曲げられることにより、端子板20は、磁性コア30におけるコイル体10の巻回軸に沿った方向を法線とする面(以下、「磁性コア30の上面」という。)の一つ上に位置し、端子板20の一方の端部は磁性コア30外に位置する。
【0029】
コイル体10を構成する導電性帯体の他方の端部は、まず山折れ方向へほぼ直角に折り曲げられ、次に谷折り方向へほぼ直角に三度折り曲げられて、この最後の折り曲げ部から導電性帯体の末端に至る部分が端子板25を構成している。コイル体10を構成する導電性帯体の他方の端部は一度目の谷折り部から二度目の谷折り部までの間において、磁性コア30の内部から突出し、この部分から導電性帯体の末端に至る部分は、磁性コア30外に位置する。上記のようにコイル体10を構成する導電性帯体の一方の端部が折り曲げられることにより、端子板25は、磁性コア30の上面上に位置し、端子板25の一方の端部は磁性コア30外に位置する。
【0030】
図1や2に示されるインダクタンス素子100では、コイル体10と端子板20,25とは一の部材から構成されているが、これに限定されない。コイル体10を構成する導電性帯体の端部に別途部材が接合されて、その部材が端子板20,25を構成していてもよい。
【0031】
一対の塗布型電極40,45は、磁性コア30の上面において端子板20,25のそれぞれに電気的に接続され、さらに、磁性コア30の側面の一部上に設けられた側面塗布部分40a,45aを有する。
図1に示されるように、塗布型電極40,45は、コイル体10を構成する導電性帯体における磁性コア30から突出する部分が位置する磁性コア30の側面およびその側面に対向する側面の一部にも設けられている。
【0032】
図3に示されるように、コイル体10は磁性コア30の内部に埋め込まれている。以降の説明を容易にするために、次のように定義する。
【0033】
磁性コア30における、コイル体10の外側面10aよりも外側の領域R10およびコイル体10の外側面10aをコイル体10の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面(この曲面とA−A断面との交線を、
図3では一点鎖線で示した。)の外周側の領域R11からなる領域を第1領域という。磁性コア30における、コイル体10の内側面10bよりも内側の領域R20およびコイル体10の内側面10bをコイル体10の巻回軸に沿った方向に延長して得られる曲面(この曲面とA−A断面との交線を、
図3では二点鎖線で示した。)の内周側の領域R21からなる領域を第2領域という。磁性コア30における、コイル体10の下端面10c,上端面10dと磁性コア30における上記の下端面10c,上端面10dに最近位な面30b(磁性コア30の上面),30c(磁性コア30の下面)との間の領域R3を第3領域という。第3領域は、第1領域と第2領域との間に位置する領域であり、第1領域、第2領域および第3領域により、磁性コア30は実質的に構成される。
【0034】
本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100は、第1領域に位置する磁性粉末の密度が、第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低い。このため、第1領域に位置する磁性粉末の絶縁耐圧が相対的に高く、第1領域において絶縁破壊が生じにくい。したがって、本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100は、磁性コア30の内部に埋め込まれたコイル体10の巻径を大きくして特性を向上させても、絶縁破壊の問題が生じにくい。
【0035】
第1領域のうち側面塗布部分40a,45aとコイル体10の外側面10aとの間の領域(当該領域は、上記の領域R10の一部である。)に位置する磁性粉末の密度は、第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低いことが好ましい。この場合には、インダクタンス素子100の絶縁耐圧に最も影響を及ぼす領域の磁性粉末の密度が相対的に低くなっているため、絶縁破壊が生じにくいインダクタンス素子100が得られやすい。
【0036】
第1領域のうち側面塗布部分40a,45aとコイル体10の外側面10aとの間の領域(領域R10の一部である。)に位置する磁性粉末の密度d10と、第1領域のうち側面塗布部分40a,45aとコイル体10の外側面10aとの間の領域以外の領域(領域R11を含む。)に位置する磁性粉末の密度d11とは、下記式(I)、(I’)および(I”)で示される関係の一つ以上を満たすことが好ましい。
d11/d10≧1.02 (I)
d11/d10≧1.03 (I’)
d11/d10≧1.04 (I”)
【0037】
第1領域のうち側面塗布部分とコイル体の外側面との間の領域(領域R10の一部である。)に位置する磁性粉末の密度d10と、第2領域に位置する磁性粉末の密度d2とは、下記式(II)、(II’)および(II”)で示される関係の一つ以上を満たすことが好ましい。
d2/d10≧1.05 (II)
d2/d10≧1.08 (II’)
d2/d10≧1.10 (II”)
【0038】
本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100は、第3領域に位置する磁性粉末の密度は、第2領域に位置する磁性粉末の密度よりも低いことが好ましい。この場合には、第3領域においても絶縁破壊が生じにくくなり、コイル体10の巻回数を増やしたり、インダクタンス素子100を小型化したりした場合において、絶縁破壊が生じる可能性が低減される。
【0039】
磁性コア30に含有される磁性粉末の組成は限定されない。Fe基非晶質合金粉末、Fe−Ni系合金粉末、Fe−Si系合金粉末、純鉄粉末(高純度鉄粉)等の軟磁性合金粉末が例示される。磁性粉末は、その表面に絶縁処理(酸化を含む。)が施されていてもよい。磁性粉末は非晶質合金粉末を含んでいてもよいし、非晶質合金粉末から構成されていてもよい。非晶質合金粉末は、一般的に硬質であり非晶質合金粉末同士の金属性材料部分による直接的な接触が生じやすい。このような直接的な接触は磁性粉末同士の電気抵抗を低下させるため、インダクタンス素子が備える磁性コアに係る磁性粉末が非晶質合金粉末を含む場合には、磁性コアの絶縁性が低下しやすくなる場合がある。しかしながら、本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100は、上記のように第1領域において磁性粉末の密度が相対的に低くなるように構成されているため、第1領域に位置する磁性粉末が非晶質合金粉末を含む場合であっても、磁性コア30の第1領域の絶縁性が低下しにくい。
【0040】
磁性粉末の粒径分布は限定されない。磁性粉末の体積基準の累積粒度分布における50%累積径(メジアン径)D50として、1μm以上50μm以下とすることが一例として挙げられ、1μm以上15μm以下とすることが好ましい一例として挙げられる。磁性粉末の粒度分布を調整することにより、磁性粉末の密度を制御することができる場合もある。
【0041】
本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100の製造方法は限定されない。以下に説明する製造方法を採用すれば、インダクタンス素子100を効率的に製造することが可能となる。
【0042】
本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100の製造方法は、コイル体10の巻回軸に沿った方向を加圧方向とする成型加工を含む。また、好ましい一例において、上記の成型加工は、複数の成型部材を加圧成型により一体化させる作業を含む。
【0043】
図4は、
図1に示されるインダクタンス素子100を形成するために用いられる巻回体10Pの全体構成を示す斜視図である。
図5は、インダクタンス素子100を形成するために用いられる磁性粉末を含む成型部材の一つ(第1成型部材31)を示す斜視図である。
図6は、インダクタンス素子100を形成するために用いられる磁性粉末を含む成型部材の他の一つ(第2成型部材32)を示す斜視図である。
図7は、上記の巻回体10Pならびに第1成型部材31および第2成型体32を用いてインダクタンス素子100を製造する過程を示す断面図である。
【0044】
図4に示されるように、導電性帯体BMを巻回して巻回体10Pを用意する。
図4に示される巻回体10Pは、インダクタンス素子100が備えるコイル体10を含む導電性帯体の形状と異なり、その両端の最後の谷折りが行われていない状態、すなわち、端子板20,25に相当する部分の板面が、巻回体10Pの巻回軸に沿った方向を面内方向にするように配置された状態にある。
【0045】
図5に示される第1成型部材31は、磁性コア30の一部(磁性コア30の下面側)を構成することになる部材である。第1成型部材31は巻回体10Pの一部を収容可能な中空部HP1を有し、この中空部HP1内に巻回体10Pは載置される。
【0046】
図6に示される第2成型部材32は、磁性コア30の他の一部(磁性コア30の上面側)を構成することになる部材である。第2成型部材32は巻回体10Pの一部を収容可能な中空部HP2を有し、さらに、巻回体10Pの端子板20、25に相当する部分が第2成型部材32外に位置しうるように、スリット33,34を備える。巻回体10Pの一部を収容した第1成型部材31上に第2成型部材32を載置して、中空部HP2内に巻回体10Pの一部を収容することによって、インダクタンス素子100の仮組体100Pが得られる(
図7)。
【0047】
図7に示されるように、この仮組体100Pを、プレス機50の金型本体51内に配置された上型52と下型53との間のキャビティ54内に載置する。そして、上型52および下型53を加圧する。加圧の向きは、
図7に示されるように、上型52と下型53とが近接する向きである。
【0048】
加圧条件(加圧力、加圧時の温度、加圧時間など)は、成型部材31、32の組成や形状などに応じて適宜設定される。
【0049】
加圧成型することにより、第1成型部材31および第2成型体32が一体化して、コイル体10を内包する磁性コア30が形成される。また、この加圧成型の際に、コイル体10の巻回軸に沿った方向が板面の面内方向になるように配置されていた端子板20,25を90°折り曲げることにより、磁性コア30の上面30bの上に端子板20,25を配置することができる。
【0050】
仮組体100Pの加圧成型は常温(非加熱)にて成型するのが好ましい。仮組体100Pの加圧成型時に、仮組体100Pにおける第1成型部材31および第2成型体32は一旦崩れて成型部材の破片(以下、「成型破片」ともいう。)の集合体となる。このとき、成型破片の一部は、キャビティ54を構成する金型本体51ならびに上型52および下型53の面(以下、「金型面」ともいう。)と仮組体100Pとの間に形成された空隙を満たすように移動(流動)して、成型破片により上記の空隙が充填された状態となり、その後、成型破片の集合体は再度一体化して磁性コア30へと成型される。
【0051】
図7に示されるように、加圧方向がコイルの巻回軸に沿った方向である場合には、仮組体100Pの側面の周囲には上型52および下型53の移動を容易とするためのクリアランスを設ける。このため、仮組体100Pの側面の周囲の領域には他の領域よりも広めの空隙が存在する。加圧成型時に加熱を行う場合には、成型破片の流動性が高くなるため、仮組体100Pの側面の周囲に比較的広い空隙が存在していても、これを均一に充填することは容易である。このため、加熱して加圧成型する場合には、キャビティ54内の成型破片の密度は均一になりやすく、結果的に、成型破片から形成された磁性コア30の磁性粉末の密度は均一になりやすい。
【0052】
これに対し、仮組体100Pの加圧成型を常温で行う場合には、仮組体100Pから生成した成型破片の流動性が低いため、キャビティ54内における空隙が広い部分と空隙が狭い部分とで、成型破片の充填の程度に差が生じやすい。このため、比較的広い空隙の近くに位置する仮組体100Pの側面近傍から形成される磁性コア30の第1領域は、磁性コア30の他の領域よりも磁性粉末の密度を低くすることができる。この密度の制御は仮組体100Pの側面と金型本体51との間のクリアランスの大きさを調整することによって可能である。一方、キャビティ54の中心に近い領域は空隙が生じにくいため、この領域に形成される磁性コア30の第2領域は、磁性コア30の第1領域に比べて密度が高くなりやすい。特に、コイル体10の内側面10bの内側の領域R20に相当する領域は、コイル体10が成型破片の流動の妨げとなるため、磁性コア30の密度が高まる傾向がみられることもある。
【0053】
図7に示されるように、加圧成型により一体化される成型部材31,32の合わせ面のうち巻回体10Pのコイル部分の外側面よりも外側に位置する合わせ面MSが、磁性コア30の第1領域に相当する領域内に設けられるように、仮組体100Pを構成することが好ましい。合わせ面には隙間が生じやすいため、合わせ面の近傍では金型面と仮組体100Pとの間に生じる空隙の体積が大きくなりやすい。また、前述のように、仮組体100Pの側面の周囲の領域には空隙が生じやすい。したがって、合わせ面MSが磁性コア30の第1領域に相当する領域内に設けられた場合には、合わせ面MSの近傍では金型面と仮組体100Pとの間に生じる空隙の体積が特に大きくなりやすく、それゆえ、第1領域に位置する磁性粉末の密度を低くすることが可能となる。
【0054】
第1成型部材31および第2成型体32は予備成型により形成すればよい。第1成型部材31および第2成型体32を構成する材料は、磁性粉末を含んでいれば他は限定されない。磁性粉末から構成されていてもよいし、有機系成分をさらに含んでいてもよい。有機系成分は、磁性粉末を互いに結着させることができることが好ましい。かかる結着機能を有する有機系成分の具体的な組成は限定されない。有機系成分は樹脂材料を含んでいてもよく、樹脂材料として、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂などが例示される。有機系成分は上記のような樹脂材料が熱処理を受けて形成された物質を含んでいてもよい。かかる物質の組成は、熱処理を受ける樹脂材料の組成、熱処理条件などにより調整されうる。有機系成分は、第1成型部材31および第2成型体32に含まれる磁性粉末を互いに電気的に独立にすることができることが好ましい。有機系成分に係る樹脂材料は1種類から構成されていてもよいし、複数種類から構成されていてもよい。例えば、有機系成分に係る樹脂材料は、フェノール樹脂のような熱硬化性の樹脂と、アクリル樹脂のような熱可塑性樹脂との混合体であってもよい。
【0055】
第1成型部材31および第2成型体32が有機系成分を含有する場合において、第1成型部材31および第2成型体32のそれぞれにおける有機系成分の含有量は限定されない。有機系成分が結着機能を有する場合には、その機能が適切に発揮される量を含有させることが好ましい。なお、有機系成分の含有量が過度に高い場合には、第1成型部材31および第2成型体32からなる磁性コア30を備えるインダクタンス素子100の性能が低下する傾向がみられる場合があることを考慮して、第1成型部材31および第2成型体32のそれぞれにおける有機系成分の含有量を設定することが好ましい。
【0056】
第1成型部材31および第2成型体32のそれぞれは、磁性粉末および有機系成分以外の物質を含有してもよい。かかる物質として、ガラス、アルミナ等の絶縁性の無機系成分;シランカップリング剤等の、磁性粉末および有機系成分との密着性を向上するためのカップリング剤などが挙げられる。第1成型部材31および第2成型体32がこれらの物質の含有する場合において、第1成型部材31および第2成型体32のそれぞれにおけるこれらの物質の含有量は限定されない。
【0057】
磁性コア30は空孔を有していてもよい。この空孔の形成過程は限定されない。加圧成型後のスプリングバックによって形成されたものであってもよいし、第1成型部材31および第2成型体32の加圧成型により得られた成型製造物に対してアニール処理が行われたことにより形成されたものであってもよい。磁性コア30が空孔を有している場合には、磁性コア30内の磁性粉末間の絶縁性が良好になってインダクタンス素子100の性能が向上する傾向を有する。ただし、磁性コア30内の空孔の存在密度が過度に高いと、磁性コア30内の磁性粉末間の結着の程度が低下して磁性コア30の機械的強度が低下するおそれが高まる。したがって、磁性コア30が空孔を有している場合には、磁性コア30の空隙率(磁性コア30において固体物質が存在しない部分として定義される空隙部の体積の、磁性コア30全体の体積に対する百分率)は、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。第1領域に位置する磁性粉末の密度を調整することは、第1領域の空隙率を調整することによって実現される場合がある。
【0058】
磁性コア30は、その表面および必要に応じて表面近傍の部分に絶縁層を有していてもよい。絶縁層を有することにより、磁性コア30の絶縁性を高めることができる。絶縁層を構成する材料は限定されない。絶縁層を構成する材料の具体例として、シリコーン系の樹脂、エポキシ系の樹脂、ブチラールフェノール系の樹脂、アクリル系の樹脂等有機系の材料、酸化物、窒化物、炭化物等の無機系材料などが挙げられる。
【0059】
絶縁層は、成型加工により得られた成型製造物の最表面に位置する磁性粉末(以下、「表面粉末」ともいう。)を覆うように設けられていることが好ましい。表面粉末は、成型後のスプリングバックにより成型金型から取り出す際に金型表面と擦れたり、成型工程後の製造過程において他の部材と接触したりすることにより、金属性材料からなる表面が露出してしまう場合がある。そのような場合であっても、表面粉末を覆うように絶縁層が形成されることにより、磁性コア30の絶縁性を高めることが可能となる。
【0060】
塗布型電極40,45を構成する材料は限定されない。生産性に優れる観点から、銀ペーストなどの導電ペーストから形成されたメタライズ層とこのメタライズ層上に形成されためっき層とを備えることが好ましい。このめっき層を形成する材料は限定されない。当該材料が含有する金属元素として、銅、アルミ、亜鉛、ニッケル、鉄、スズなどが例示される。塗布型電極40,45がメタライズ層とめっき層とを備える場合には、メタライズ層を形成するための導電ペーストの塗布量として0.05g/cm
2程度が例示され、めっき層の厚さの範囲として5〜10μm程度が例示される。
【0061】
本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100は、インダクタンス素子100が特に小型である場合であっても、絶縁破壊が生じにくい。したがって、本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100は、特に小型であっても動作安定性に優れる。それゆえ、本発明の一実施形態に係るインダクタンス素子100を実装した電子・電気機器は小型化が容易となる。また、電子・電気機器の実装スペースに、多数の電子部品を実装することが可能となる。この点に関し、インダクタンス素子100が小型であることにより、電源スイッチング回路、電圧昇降回路、平滑回路、高周波電流を阻止する回路などを小型化することが可能である。それゆえ、電子・電気機器の電源供給回路を増やすことが容易となる。その結果、より精密な電源制御が可能となって、電子・電気機器の消費電力を抑えることが可能となる。
【0062】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、磁性コアを与える成型製造物は磁性粉末を含む粉末材料を加圧成型することにより製造されてもよいし、磁性コアを製造するための仮組体が3つ以上の成型部材を備えていてもよい。後者の場合において、第1領域に相当する形状を有する成型部材を用意し、その成型部材を製造する段階で他の成型部材に対する磁性粉末の密度調整を行っていてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0064】
水アトマイズ法を用いて、Fe
71at%Ni
6at%Cr
2at%P
11at%C
8at%B
2at%なる組成になるように秤量して得られたFe基非晶質軟磁性粉末を磁性粉末として作製した後、所望の平均粒径となるように分級を行った。得られた磁性粉末の粒度分布は、日機装社製「マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300EX」を用いて体積分布で測定した。その結果、平均粒径(D50)は5〜10μmであった。
【0065】
上記の磁性粉末100質量部、熱可塑性樹脂であるアクリル系樹脂および熱硬化性樹脂であるフェノール系樹脂を含む樹脂系材料を含有するバインダーを0.5〜5.0質量部、およびステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤を0.01〜0.7質量部を溶媒としての水に混合して、スラリーを得た。
【0066】
得られたスラリーを乾燥後に粉砕し、目開き300μmのふるいおよび850μmのふるいを用いて、300μm以下の微細な粉末および850μm以上の粗大な粉末を除去して、造粒粉を得た。
【0067】
上記の方法により得られた造粒粉を用いて、磁性コアの上半分に相当する形状を有する成型部材(第1成型部材)および磁性コアの下半分に相当する形状を有する成型部材(第2成型部材)を、金型温度23℃、面圧0.4〜1.0GPaで加圧する条件にて加圧成型して得た。得られた2つの成型部材、および絶縁被覆された銅製エッジワイズコイルを構成する部分を備える巻回体から仮組体を得た。なお、仮組体における2つの成型部材の合わせ面は、
図7に示される仮組体100Pのように、磁性コア30の領域R10に相当する領域および領域R20に相当する領域に位置していた。
【0068】
金型のキャビティ内に仮組体を配置して、金型温度20〜25℃、面圧0.8〜1.5GPaで加圧する条件にて加圧成型し、成型製造物を得た。この加圧成型において、仮組体の巻回体における2つの成型部材外に位置する部分を、上側の成型部材の上面に沿うように折り曲げて端子板とする加工も行われた。
【0069】
得られた成型製造物を、窒素気流雰囲気の炉内に載置し、炉内温度を、室温(20〜25℃)から昇温速度40℃/分で372℃まで加熱し、この温度にて60分間保持し、その後、炉内で室温まで冷却する熱処理を行った。こうして、2.5mm×2.0mm厚さ1.2mm(実施例1)の直方体の成型体および2.5mm×2.0mm、1.0mm(実施例2)の直方体の成型体を得た。
【0070】
シリコーン樹脂を含有する含浸コーティング組成物を用意し、当該組成物中に上記の成型体を10分間浸漬させた。その後、含浸コーティング組成物から成型体を取り出し、150〜200℃で30〜60分間乾燥させることにより、含浸コート層が形成された成型体からなり、その内部にコイル体を内包するとともに端子板が上面に配置された磁性コアを得た。
【0071】
磁性コアの上面の一部および巻回体を構成する部材が突出していない対向する2側面のそれぞれの一部に、一対のメタライズ層(厚さ:約30〜100μm)を、銀ペーストを印刷することにより形成した。
【0072】
得られたメタライズ層が形成された磁性部材に対して、バレルめっき金属(銅)を行い、約1〜5μmの厚さの銅めっき層を形成した。
【0073】
こうして、非晶質合金からなる磁性粉末および有機系成分を含む成型体と、成型体の表面部上に形成された、含浸コート層からなる絶縁層とを備える磁性コア;磁性コアの成型体の内部に位置するエッジワイズコイルからなるコイル体;コイル体から延びる一対の端子板;およびメタライズ層とめっき層とからなり側面塗布部分を有する一対の塗布型電極を備え、
図1に示される外観を有する、インダクタンス素子を得た。
【0074】
(試験例1)
実施例により製造されたインダクタンス素子を樹脂に埋め込んで、磁性コアにおける側面塗布部分が形成された側面に垂直であってコイル巻回軸を含む面で切断した。この切断面を研磨して、
図8に示される8か所(丸1から丸8)を測定位置として電子顕微鏡にて観察した。
【0075】
測定位置は具体的には次のとおりである。
測定位置1:第1領域における、側面塗布部分とコイル体の外側面との間の領域(領域R10の一部である。)内(
図10および11では「外壁」の「中」に相当する。)
測定位置2:第1領域の領域R11のうち上側の領域内(
図10および11では「外壁」の「上」に相当する。)
測定位置3:第1領域の領域R11のうち下側の領域内(
図10および11では「外壁」の「下」に相当する。)
測定位置4:第3領域R3のうち上側の領域内(
図10および11では「コイル上下」の「上」に相当する。)
測定位置5:第3領域R3のうち下側の領域内(
図10および11では「コイル上下」の「下」に相当する。)
測定位置6:第2領域の領域R20内(
図10および11では「コア中心」の「中」に相当する。)
測定位置7:第2領域の領域R21のうち上側の領域内(
図10および11では「コア中心」の「上」に相当する。)
測定位置8:第2領域の領域R21のうち下側の領域内(
図10および11では「コア中心」の「下」に相当する。)
【0076】
各測定位置内で3点(測定点1〜3)観察し、これらの測定点での観察画像から磁性粉末の密度(成型密度、単位:g/cm
3)を次の方法により求めた。実施例において用意した造粒粉を用いて、異なる成型圧力で加圧成型を行って、複数の成型品を得た。これらの成型品の形状および質量を測定して、成型品の密度(単位:g/cm
3)を求めた。また、各成型品の断面観察を行って、得られた観察画像から各成型品の磁性粉末の充填率(単位:体積%)を求めた。こうして求めた成型品の密度と磁性粉末の充填率とはほぼ線形の関係を有していた(
図9参照)。
【0077】
実施例により製造したインダクタンス素子の各測定点での観察画像から磁性粉末の充填率を求め、
図9に示される関係に基づいて、その磁性粉末の充填率に対応する成形品の密度を求め、その値を各測定点での磁性粉末の密度(成型密度)とした。各実施例において製造した2種のインダクタンス素子のそれぞれについて磁性粉末の密度(成型密度)を測定した結果を表1に示す。
【0078】
こうして測定された磁性粉末の密度の平均値を測定位置ごとに算出して、各測定位置における磁性粉末の密度(成型密度)とした。この値、および各測定位置の磁性粉末の密度(成型密度)を測定位置1の磁性粉末の密度(成型密度)で除した値(成型密度比)を表1に示す。さらに、
図10に実施例1の結果を示し、
図11に実施例2の結果を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
図10および11に示されるように、第1領域の磁性粉末の密度(成型密度)は第2領域の磁性粉末の密度(成型密度)よりも低く、実施例により製造されたインダクタンス素子は側面塗布部分での絶縁耐圧を高めうることが確認された。また、第3領域の磁性粉末の密度(成型密度)は第2領域の磁性粉末の密度(成型密度)よりも低く、実施例により製造されたインダクタンス素子はコイルの巻回方向での絶縁耐圧を高めうることも確認された。具体的には、表1ならびに
図10および11より、第1領域における磁性粉末の密度(成型密度)は4.62〜5.00g/cm
3、第2領域における磁性粉末の密度(成型密度)は4.98〜5.56g/cm
3、第3領域における磁性粉末の密度(成型密度)は4.89〜5.13g/cm
3であった。特に領域R10(
図10および11の丸1に対応する領域である。)における磁性粉末の密度(成型密度)は最も低くなっており、4.62〜4.79cm
3となった。