(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502207
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】車両用ミラー装置
(51)【国際特許分類】
B60R 1/06 20060101AFI20190408BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
B60R1/06 D
F16B11/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-159410(P2015-159410)
(22)【出願日】2015年8月12日
(65)【公開番号】特開2017-36008(P2017-36008A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105925
【氏名又は名称】サカエ理研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】大野 洋司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佑基
【審査官】
小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−156419(JP,A)
【文献】
特開平08−244532(JP,A)
【文献】
特表2010−531737(JP,A)
【文献】
特開平07−057803(JP,A)
【文献】
特開2013−103656(JP,A)
【文献】
特開2014−180932(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0253008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 1/06
F16B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されるベース(11)と、
前記ベースから突き出すように設けられているシャフト(12)と、
前記シャフトと前記ベースとを締結している締結部材(13)と、
ミラー(28)を含み、前記シャフトに支持されているミラーユニット(14)と、
を備え、
前記ベースおよび前記シャフトは樹脂から成り、
前記締結部材は、前記ベースおよび前記シャフトの両方に溶着しているピンであることを特徴とする車両用ミラー装置。
【請求項2】
前記締結部材は、前記ベースおよび前記シャフトに溶着している部分に凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ミラー装置。
【請求項3】
前記ベースは、前記締結部材が貫通している通孔(25)を有し、
前記シャフトは、前記締結部材が挿入されている挿入穴(26)を有し、
前記締結部材は、前記通孔の内壁に溶着している第1軸部(31)と、前記挿入穴の内壁に溶着し且つ前記第1軸部よりも外径が小さい第2軸部(32)と、を有する段付きピンであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ミラー装置。
【請求項4】
前記挿入穴の内壁は、前記第1軸部に対して前記第2軸部とは反対側で前記締結部材との間に第1空間(34)を区画形成し、
前記挿入穴の内壁のうち、前記ベース側の縁部(35)は、前記締結部材との間に第2空間(36)を区画形成し、
前記通孔の内壁のうち、前記シャフトとは反対側の縁部(37)は、前記締結部材との間に第3空間(38)を区画形成していることを特徴とする請求項3に記載の車両用ミラー装置。
【請求項5】
前記締結部材は、前記第1軸部に対して前記第2軸部とは反対側に設けられた頭部(33)をさらに有し、
前記頭部は、前記締結部材の軸心周りにおいて平坦な形状に形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の車両用ミラー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばドアミラー装置などの車両用ミラー装置は、車体に固定されるベースと、ボルトによりベースに固定されるシャフトと、シャフトに支持されるミラーユニットとを備える。ミラーユニットは、ミラーを含み、例えばシャフトに対して当該シャフトの軸心まわりに回転可能に設けられる。特許文献1に開示されている車両用ミラー装置では、ベースおよびシャフトは樹脂から成り、軽量化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−180932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベースおよびシャフトが樹脂から成る場合、締結部材の軸力は樹脂部材に作用することになる。この場合、ベースの塑性変形量が時間経過とともに増加するクリープ現象に起因して、時間が経つにつれてベースとシャフトとの固定力が低下するおそれがある。温度が高いほど上記塑性変形量の増加速度が速くなることから、車外に露出して高温下にさらされる車両用ミラー装置では固定力が低下しやすい。
【0005】
これに対し、金属製のカラーをベースにインサートするとともに、金属製のナットをシャフトにインサートすることによって、締結部材の軸力が作用する部分を金属部材とする対策が考えられる。しかし、上記対策を採ると、部品点数の増加や製造工数の増加により生産性が低下したり、装置重量が増加したりする問題がある。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性の低下および装置重量の増加が抑制されつつ、ベースとシャフトとの固定力の経年的な低下が抑制された車両用ミラー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車体に固定されるベースと、ベースから突き出すように設けられているシャフトと、シャフトとベースとを締結している締結部材と、ミラーを含みシャフトに支持されているミラーユニットと、を備える車両用ミラー装置である。ベースおよびシャフトは樹脂から成る。締結部材は、ベースおよびシャフトの両方に溶着しているピンである。
【0008】
このように従来のねじに代えて、溶着ピンを用いてベースとシャフトとを締結しているので、ベースおよびシャフトには軸力が作用しない。そのため、軸力の影響によるクリープ現象に起因してベースとシャフトとの固定力が低下することを回避できる。また、別途、インサートカラー等の金属部材をベースおよびシャフトに埋め込む必要がないので、部品点数の増加や製造工数の増加により生産性が低下したり、装置重量が増加したりすることを回避できる。したがって、本発明によれば、生産性の低下および装置重量の増加が抑制されつつ、ベースとシャフトとの固定力の経年的な低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態による車両用ミラー装置を車両右側前方から見たときの分解斜視図である。
【
図2】
図1の車両用ミラー装置を車両の運転席から見たときの斜視図である。
【
図3】
図2のIII−III線断面図であって、シャフトの軸心を通る断面図である。
【
図4】
図3の溶着ピンおよびその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図5】
図4の溶着ピンを矢印V方向に見たときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
[一実施形態]
本発明の一実施形態による車両用ミラー装置を
図1〜
図3に示す。車両用ミラー装置10は、車両の車体の一部である右側のドア90に固定されるものである。車両の左側のドアに装着されるドアミラー装置は、車両用ミラー装置10に対し左右対称である他は構成が同じである。
【0011】
(車両用ミラー装置の概略構成)
先ず、車両用ミラー装置10の概略構成について
図1〜
図3を参照して説明する。
車両用ミラー装置10は、ドア90に固定されるベース11と、ベース11から上方へ突き出すように設けられているシャフト12と、ベース11とシャフト12とを締結している「締結部材」としての溶着ピン13と、シャフト12に支持されているミラーユニット14とを備える。
【0012】
ベース11は、車体取付け部21と、シャフト取付け部22とを形成している。車体取付け部21は、3つの筒状のボス部23を有しており、ボス部23に挿入されるボルト24によりドア90と締結される。シャフト取付け部22は、車体取付け部21から車幅方向の外側へ突き出すように形成されており、上下方向へ貫通する複数の通孔25を有する。本実施形態では、通孔25は3つ設けられているが、便宜上、
図3には1つのみを示す。ボルト24等はカバー15により外部から隠される。
【0013】
シャフト12は、下端部のうち、通孔25に対応する箇所に形成された複数の挿入穴26を有する。本実施形態では、挿入穴26は3つ設けられているが、便宜上、
図3には1つのみを示す。
【0014】
ミラーユニット14は、カップ状のハウジング27と、ハウジング27の開口部に設けられているミラー28と、ハウジング27とミラー28との間に設けられている図示しない鏡面角度調整機構と、ハウジング27とシャフト12との間に設けられている電動格納機構29とを有する。電動格納機構29は、例えばモータおよび減速機から構成されており、ハウジング27をシャフト12に対して当該シャフト12の軸心AXまわりに回転可能である。
【0015】
(ベース、シャフトおよび溶着ピンの詳細構成)
次に、ベース11、シャフト12および溶着ピン13の詳細な構成について
図3〜
図5に基づき説明する。
ベース11およびシャフト12は樹脂製である。溶着ピン13は金属製である。
溶着ピン13は、通孔25の内壁に溶着している第1軸部31と、挿入穴26の内壁に溶着している第2軸部32と、第1軸部31に対して第2軸部32とは反対側に設けられている頭部33とを有する。溶着ピン13は、ベース11およびシャフト12の両方に溶着している。
【0016】
溶着ピン13のうちベース11およびシャフト12に溶着している部分、すなわち第1軸部31および第2軸部32の外壁には、凹凸が形成されている。この凹凸には、例えば斜めローレット、平目ローレット、またはアヤ目ローレットなどが採用される。
【0017】
頭部33は、軸心AXまわりにおいて平坦な形状、すなわち凹凸のない形状に形成されている。本実施形態では、頭部33の外壁の横断面形状は、円形であり、六角形ではない。また、頭部33の軸方向の端部には、穴が形成されていない。つまり、頭部33は、いじり防止機能を持っており、スパナやスクリュードライバー等の汎用工具で回すことができないようになっている。
【0018】
第1軸部31の外径D2は、頭部33の外径D1よりも小さい。また、第2軸部32の外径D3は、第1軸部31の外径D2よりも小さい。溶着ピン13は、挿入方向に向かって外径が段階的に小さくなる段付きピンである。頭部33と第1軸部31との段差面は、ベース11に接触している。
挿入穴26の内壁は、第1軸部31に対して第2軸部32とは反対側で溶着ピン13との間に第1空間34を区画形成している。
【0019】
挿入穴26の内壁のうち、ベース11側の縁部35の内径D4は、第1軸部31の外径D2および第2軸部32の外径D3よりも大きく設定されている。そして、縁部35は、溶着ピン13との間に第2空間36を区画形成している。
【0020】
通孔25の内壁のうち、シャフト12とは反対側の縁部37には、面取りが施されている。そして、縁部37は、溶着ピン13との間に第3空間38を区画形成している。
上記空間34、36、38には、溶着ピン13が通孔25および挿入穴26に熱圧入されるときに溶融して押し出される樹脂が溜まる。
【0021】
(効果)
以上説明したように、本実施形態による車両用ミラー装置10は、車体に固定されるベース11と、ベース11から突き出すように設けられているシャフト12と、シャフト12とベース11とを締結している溶着ピン13と、ミラー28を含みシャフト12に支持されているミラーユニット14とを備える。ベース11およびシャフト12は樹脂から成る。溶着ピン13は、ベース11およびシャフト12の両方に溶着している。
【0022】
このように従来のねじに代えて、溶着ピン13を用いてベース11とシャフト12とを締結しているので、ベース11およびシャフト12には軸力が作用しない。そのため、軸力の影響によるクリープ現象に起因してベース11とシャフト12との固定力が低下することを回避できる。また、別途、インサートカラー等の金属部材をベース11およびシャフト12に埋め込む必要がないので、部品点数の増加や製造工数の増加により生産性が低下したり、装置重量が増加したりすることを回避できる。したがって、本実施形態によれば、生産性の低下および装置重量の増加が抑制されつつ、ベース11とシャフト12との固定力の経年的な低下が抑制される。
【0023】
また、本実施形態では、溶着ピン13は、ベース11およびシャフト12に溶着している部分に凹凸が形成されている。
そのため、溶着ピン13が通孔25および挿入穴26に熱圧入されるとき、溶融した樹脂が溶着ピン13の凹凸の凹部に入り込む。これにより、溶着ピン13の抜けが防止される。
【0024】
また、本実施形態では、ベース11は、溶着ピン13が貫通している通孔25を有する。シャフト12は、溶着ピン13が挿入されている挿入穴26を有する。溶着ピン13は、ベース11に溶着している第1軸部31と、シャフト12に溶着し且つ第1軸部31よりも外径が小さい第2軸部32と、を有する段付きピンである。
したがって、溶着ピン13を通孔25および挿入穴26に熱圧入するとき、第1軸部31が溶着する予定の通孔25の内壁の溶け代を第2軸部32が溶かすことを、回避できる。
【0025】
また、本実施形態では、挿入穴26の内壁は、第1軸部31に対して第2軸部32とは反対側で溶着ピン13との間に第1空間34を区画形成している。また、挿入穴26の内壁のうち、ベース11側の縁部35は、溶着ピン13との間に第2空間36を区画形成している。また、通孔25の内壁のうち、シャフト12とは反対側の縁部37は、溶着ピン13との間に第3空間38を区画形成している。
したがって、溶着ピン13が通孔25および挿入穴26に熱圧入されるときに溶融して押し出される樹脂を空間34、36、38に溜めることができる。
【0026】
また、本実施形態では、溶着ピン13の頭部33は、軸心AX周りにおいて平坦な形状に形成されている。頭部33の横断面形状は円形であり、また、頭部33の軸方向の端部には穴が形成されていない。
そのため、頭部33は、スパナやスクリュードライバー等の汎用工具で回すことができない。これにより、ユーザーが溶着ピン13をねじと間違えて回して壊すことを回避できる。
【0027】
[他の実施形態]
本発明の他の実施形態では、ベースとシャフトとは、2本以下または4本以上の溶着ピンにより締結されてもよい。
本発明の他の実施形態では、溶着ピンの外壁に形成される凹凸は、ローレット以外の突起や溝などから構成されてもよい。
本発明の他の実施形態では、溶着ピンは、ベースに溶着する部分の外径とシャフトに溶着する部分の外径とが同程度であってもよい。
本発明の他の実施形態では、溶着ピンの頭部の外径は、第1軸部の外径より小さくてもよい。
【0028】
本発明の他の実施形態では、溶着ピンの頭部の横断面形状は、六角形を含む多角形であってもよい。なお、六角形の場合、いじり防止機能はなくなる。
本発明の他の実施形態では、溶着ピンは、頭部を有していなくてもよい。
本発明の他の実施形態では、溶着ピンの外壁はテーパ状であってもよい。
本発明の他の実施形態では、第1〜第3空間のいずれか1つ以上が設けられなくてもよい。
【0029】
本発明の他の実施形態では、電動格納機構は設けられなくてもよい。シャフトは、ミラーを含むミラーユニットを支持するものあればよい。
本発明の他の実施形態では、車両用ミラー装置は、ドアミラー装置以外のミラー装置であってもよい。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0030】
11・・・ベース 12・・・シャフト
13・・・溶着ピン(締結部材) 14・・・ミラーユニット
25・・・通孔 26・・・挿入穴
28・・・ミラー 31・・・第1軸部
32・・・第2軸部