(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基台と、当該基台の内部に収納され、互いに隣接して複数個形成された磁気ユニットと、当該各磁気ユニットと対向し前記基台のワーク載置面側に装着された強磁性体からなる支持体とを備え、被吸着物を吸着する時には、隣接する前記磁気ユニット同士がワーク載置面に対して互いに反対方向へ磁化されるように構成された磁気吸着装置であって、
前記支持体は、底部と当該底部の外周縁から起立した環状部とを備えた略筒状体であること、
前記環状部は、肉厚寸法が1〜5mm程度の範囲内であることを特徴とする磁気吸着装置。
【背景技術】
【0002】
例えば、
図8に示すように、車両のボディ等を構成する鋼板部品W(例えば、フードパネルやドアパネル等)においては、ヘミング加工装置100を用いて、アウターパネルPoとインナーパネルPiとを接合するヘミング加工が行われている。ヘミング加工装置100には、インナーパネルPiをアウターパネルPoの裏面にセットした状態でアウターパネルPoを載置する下型101と、下型101に隣接する位置に配置された加工ロボット102とを備え、加工ロボット102のアーム先端部に装着したローラ体103によって、アウターパネルPoの外周フランジ部Pfを外周側からインナーパネルPi側へ押圧して折り曲げ、インナーパネルPiの外周フランジ部PgにアウターパネルPoの外周フランジ部Pfを当接させるヘミング加工を行っている。
また、
図9に示すように、従来の上記ヘミング加工装置100の下型101には、ヘミング加工の際に下型101の加工面104に沿ってアウターパネルPoを吸着、保持させるバキューム式の吸着保持装置105が装着されている。バキューム式の吸着保持装置105には、吸着カップ105aやシール部材105b等の弾性変形可能な吸着部材が必要であり、これら吸着部材の傷付き、摩耗等が生じると、吸着力が低下してアウターパネルPoの位置ずれ等が発生しやすくなる問題があった。また、バキューム式の吸着保持装置105には、2系統のエア回路106a、106bが必要であるとともに、真空ポンプ(図示せず)が必要であり、その設備費や設置スペース等が増えてしまう問題もあった。
【0003】
そこで、本出願人は、吸着性能が安定し、設備費等も安価な吸着保持手段として、特許文献1に記載されているような磁気吸着装置に着目している。特許文献1の磁気吸着装置200は、
図10〜
図12に示すように、略矩形状の基台201と、基台201の内部に互いに隣接して複数個形成された略円柱状の磁気ユニット202と、各磁気ユニット202と対向し基台201のワーク載置面側に装着された強磁性体からなる略円柱状の支持体203とを備え、被吸着物を吸着する時には、隣接する磁気ユニット202同士がワーク載置面に対して互いに反対方向に磁化されるように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の磁気吸着装置200には、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1の磁気吸着装置200では、
図11に示すように、磁性体である被吸着物W10の厚さが、一般に20mm程度以上であれば、磁気ユニット202から発生する磁束線204の多くが、支持体203を経由して被吸着物W10の内部を通過するので、所望の吸着力を得ることができる。
ところが、車両のボディ等を構成する鋼板部品、例えば、フードパネルやドアパネル等のアウターパネルを構成する鋼板部品の厚さは、0.6〜0.9mm程度である。そのため、
図12に示すように、板厚の薄い被吸着物W20(板厚が1mm程度)に対して上記磁気吸着装置200を用いた場合、被吸着物W20の内部を通過する磁束線205より被吸着物W20を板厚方向に突き抜けて外部を通過する磁束線206が増加し、その結果、所望の吸着力を得られないという問題があった。
また、被吸着物W20を板厚方向に突き抜ける磁束線206が増加すると、環境中に浮遊する微細な磁性粒子を吸引して、被吸着物W20の表面に異物が堆積する問題や、被吸着物W20が遠距離から吸引されて支持体203に当接するときの衝撃力が増加することによって被吸着物W20表面に傷付き等が生じやすい問題、さらには、周辺に配置された磁気利用機器(例えば、エアシリンダの作動端検出センサなど)の誤動作を誘発する問題等があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、板厚の薄い被吸着物の内部を通過する磁束線を増加させ、当該被吸着物を突き抜けてその外部を通過する磁束線を低減できる磁気吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る磁気吸着装置は、次のような構成を有している。
(1)基台と、当該基台の内部に収納され、互いに隣接して複数個形成された磁気ユニットと、当該各磁気ユニットと対向し前記基台のワーク載置面側に装着された強磁性体からなる支持体とを備え、被吸着物を吸着する時には、隣接する前記磁気ユニット同士がワーク載置面に対して互いに反対方向へ磁化されるように構成された磁気吸着装置であって、
前記支持体は、底部と当該底部の外周縁から起立した環状部とを備えた略筒状体であることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、支持体は、底部と当該底部の外周縁から起立した環状部とを備えた略筒状体であるので、支持体の底部と環状部とによって囲まれた内周側の窪み領域が、支持体の環状部に比べて相対的に磁気抵抗の高い領域となり、支持体の底部を通過する磁束線を減少させ、環状部の上面を通過する磁束線を増加させることができる。そのため、N極に磁化された支持体の環状部の上面から隣接する反対方向に磁化(S極に磁化)された支持体における環状部の上面に向かって略水平状に流れる磁束線を増加させることができる。その結果、被吸着物が、例えば、板厚が1mm以下の薄鋼板の場合であっても、被吸着物の内部を通過する磁束線を増加させることができ、板厚の薄い被吸着物を所望の吸着力で支持体に吸着、保持させることができる。
また、支持体の底部を通過して上方へ放出される磁束線が減少するので、環境中に浮遊する微細な磁性粒子を吸引して、被吸着物表面に異物が堆積する恐れを減少させることができる。また、被吸着物が遠距離から吸引されて支持体に当接するときの衝撃力を減少させることによって被吸着物表面に傷付き等が生じにくくなり、さらには、周辺に配置された磁気利用機器(例えば、エアシリンダの作動端検出センサなど)の誤動作を誘発する恐れを低減させることができる。
よって、本発明によれば、板厚の薄い被吸着物の内部を通過する磁束線を増加させ、当該被吸着物を突き抜けてその外部を通過する磁束線を低減できる磁気吸着装置を提供することができる。
【0009】
(2)(1)に記載された磁気吸着装置において、
前記支持体は、前記底部と前記環状部とが略直交するように形成され、前記底部と前記環状部との交差部には、両者に内接するR部が形成されたことを特徴とする。
【0010】
本発明においては、支持体は、底部と環状部とが略直交するように形成され、底部と環状部との交差部には、内接するR部が形成されたので、支持体の底部と環状部とによって囲まれた内周側の窪み領域は、その容積が更に増大するため、支持体の環状部に対して一層磁気抵抗の高い領域となり、支持体の底部を通過する磁束線を更に減少させ、環状部の上面を通過する磁束線を更に増加させることができる。また、支持体の底部と環状部との交差部には、両者に内接するR部が形成されたので、底部を通過する磁束線を、R部を介して環状部へ誘導させることができる。そのため、底部を通過する磁束線を、磁気抵抗の少ない環状部に向けてより一層効果的に偏向させることができる。また、環状部は、底部に対して略直交するように形成されているので、環状部の内部を通過する磁束線が、環状部の側壁から放出されることを低減できる。そのため、環状部の内部を通過する磁束線が、被吸着物の内部をより一層多く通過できる。その結果、被吸着物が、例えば、板厚が0.6〜0.9mm程度の薄鋼板であっても、より一層吸着力を増加させることができる。
【0011】
(3)(1)又は(2)に記載された磁気吸着装置において、
前記環状部は、肉厚寸法が1〜5mm程度の範囲内であることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、環状部は、肉厚寸法が1〜5mm程度の範囲内であるので、環状部の内部を通過する磁束線を収束して、磁束線の密度をより一層高めることができる。そのため、N極に磁化された支持体の環状部の上面から反対方向に磁化(S極に磁化)された支持体における環状部の上面に向けて放出される磁束線の密度を更に増加させることができる。その結果、例えば、0.6〜0.9mm程度の薄鋼板の被吸着物に対する吸着力を大幅に増大させることができる。
【0013】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された磁気吸着装置において、
前記磁気ユニットは、上下方向に磁化される主磁石部と、当該主磁石部と前記支持体との間で前記主磁石部の外周縁に沿って前記基台内に配置された環状磁石部とを備え、前記被吸着物を吸着する時には、前記環状磁石部の内周側と前記主磁石部の支持体側とが同一磁極に磁化されることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、磁気ユニットは、上下方向に磁化される主磁石部と、当該主磁石部と支持体との間で主磁石部の外周縁に沿って基台内に配置された環状磁石部とを備え、被吸着物を吸着する時には、環状磁石部の内周側と主磁石部の支持体側とが同一磁極に磁化されるので、主磁石部の外周側へ放出する磁束線の漏えいを環状磁石部によって規制して、支持体の環状部に磁束線を収束させることができる。その結果、被吸着物が、例えば、板厚が0.6〜0.9mmの薄鋼板の場合であっても、被吸着物の内部を通過する磁束線をより一層増加させることができ、板厚の薄い被吸着物を所望の吸着力で支持体に吸着、保持させることができる。
【0015】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された磁気吸着装置において、
前記基台は、車両のボディを構成する鋼板部品のアウターパネルとインナーパネルとをヘミング加工するヘミング加工装置の下型に装着され、前記支持体は、前記アウターパネルを吸着、保持することを特徴とする。
【0016】
本発明においては、基台は、車両のボディを構成する鋼板部品のアウターパネルとインナーパネルとをヘミング加工するヘミング加工装置の下型に装着され、支持体は、アウターパネルを吸着、保持するので、ヘミング加工に際して、より一層安定、かつ安価に、アウターパネルを下型に固定させることができる。具体的には、従来のバキューム式の吸着保持装置のように、傷付き、摩耗等が生じやすい吸着カップやシール部材等の吸着部材が不要であり、これら吸着部材の傷付き、摩耗等による吸着力の低下に基づくアウターパネルの位置ずれ等が発生しにくい。また、真空ポンプが不要であり、設備費や設置スペース等の増加を回避することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、板厚の薄い被吸着物の内部を通過する磁束線を増加させ、当該被吸着物を突き抜けてその外部を通過する磁束線を低減できる磁気吸着装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る実機形態である磁気吸着装置について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る磁気吸着装置の構造及び動作方法について説明する。次に、本磁気吸着装置における支持体の断面形状と吸着力との関係について、比較例と実施例を用いて説明する。更に、本磁気吸着装置における支持体の最適条件について説明する。
【0020】
<本磁気吸着装置の構造及び動作方法>
まず、本実施形態に係る磁気吸着装置の構造及び動作方法を、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1に、本発明に係る実施形態である磁気吸着装置の斜視図を示す。
図2に、
図1に示す磁気吸着装置のA−A断面図を示す。
図3に、
図1に示す磁気吸着装置をヘミング加工装置の下型に装着したときの断面図を示す。
【0021】
図1〜
図3に示すように、本実施形態に係る磁気吸着装置10は、略矩形状の基台1と、当該基台1の内部に収納され、互いに隣接して複数個(ここでは、6個)形成された磁気ユニット2(2A、2B)と、当該各磁気ユニット2と対向し基台1のワーク載置面11側に装着された強磁性体からなる支持体3(3A、3B)とを備えている。本磁気吸着装置10が被吸着物W1を吸着する時には、隣接する磁気ユニット2同士がワーク載置面11に対して互いに反対方向へ磁化されるように構成されている。なお、
図1において、支持体3の側壁に表示した磁極N、Sは、対応する磁気ユニット2のワーク載置面側の磁極を表示している。
【0022】
基台1は、磁気ユニット2(2A、2B)を互いに隣接した状態で収容する鉄等の強磁性体からなる枠体である。基台1の上面は、ワーク載置面11であり、基台1の下面は、装置の取付面12である。基台1の側面13には、後述する環状磁石部22(22A、22B)を磁化する電源端子14が装着されている。電源端子14には、操作盤15が接続されている。
【0023】
磁気ユニット2は、磁極N、Sが基台1の上下方向に分極するように構成されている。磁気ユニット2(2A、2B)は、基台1の長手方向と幅方向とにそれぞれ均等距離だけ離間して、碁盤目状に配置されている。また、磁気ユニット2には、略円柱状に形成された主磁石部21(21A、21B)と、当該主磁石部21と支持体3との間で主磁石部21の外周縁に沿って基台1内に配置された環状磁石部22(22A、22B)と、主磁石部21の上端と支持体3の下端との間に形成された支持体座部6とを備えている。磁気ユニット2が被吸着物W1を吸着する時には、環状磁石部22の内周側と主磁石部21の支持体側とが同一磁極に磁化される。支持体3は、ボルト等によって支持体座部6に螺着され、主磁石部21の支持体側と同一磁極に磁化される。なお、隣接する主磁石部21の下端には、板状ヨーク部5が当接されている。
【0024】
本実施形態では、主磁石部21は永久磁石であり、環状磁石部22は電磁石である。環状磁石部22は、その励磁コイルに流す励磁電流の方向を切り替えることによって、被吸着物W(W1)を吸着する時とは反対方向へ磁化することができる。例えば、被吸着物W(W1)を離脱する時には、環状磁石部22の内周側と主磁石部21の支持体側とが反対磁極に磁化されることによって、磁気ユニット2の磁力は、主磁石部21の磁力と環状磁石部22の磁力とが打ち消し合って、消磁される。なお、主磁石部21も電磁石に構成することは可能である。
【0025】
支持体3(3A、3B)は、底部31(31A、31B)と当該底部31の外周縁から起立した環状部32(32A、32B)とを備えた略筒状体である。支持体3(3A、3B)は、例えば、材質SS400などの強磁性体である。なお、支持体3は、略円環状の筒状体である。また、支持体の底部上面は、平坦面である。支持体3の吸着面は、底部31の外周縁から起立した環状部32(32A、32B)の上面321(321A、321B)である。また、支持体3は、底部31と環状部32とが直交するように形成され、底部31と環状部32との交差部には、両者に内接するR部34が形成されていることが好ましい。なお、支持体3の断面形状については、後で詳述する。
【0026】
本磁気吸着装置10は、例えば、車両のボディ等を構成する鋼板部品WのアウターパネルW1とインナーパネルW2とをヘミング加工するヘミング加工装置20の下型7に装着することができる。この場合、基台1は、アウターパネルW1と略均等な隙間が形成されるように、取付ブラケット72を介して下型7に傾斜状に固定されている。支持体3の環状部32は、アウターパネルW1が下型7の加工面71に当接した状態で、アウターパネルW1と均一に当接するように、高さが調節される。アウターパネルW1が下型7の加工面71に正規にセットされた後に、操作盤15を操作して環状磁石部22の励磁コイルに流す励磁電流の方向を切り替えることによって、環状磁石部22の内周側と主磁石部21の支持体側とが同一磁極に磁化される。これによって、本磁気吸着装置10は、ヘミング加工装置20のローラ体81がアウターパネルW1の外周フランジ部W11を押圧してインナーパネルW2の外周フランジ部W21に当接させるヘミング加工力に対抗して、アウターパネルW1を吸着、保持する。その結果、ヘミング加工中におけるアウターパネルW1の下型7の加工面71に対する位置ズレ等を回避できる。ヘミング加工後には、環状磁石部22の内周側と主磁石部21の支持体側とが反対磁極に磁化され、磁気ユニット2の磁力を消磁することによって、アウターパネルW1を下型7の加工面71から離脱させることができる。
【0027】
<支持体の断面形状と吸着力との関係>
次に、本磁気吸着装置における支持体の断面形状については、薄鋼板からなる被吸着物に対する吸着力に与える影響が大きいので、
図4、
図5を用いて詳細に説明する。
図4に、
図1に示す磁気吸着装置に適用する支持体の試料一覧表を示す。
図5に、
図4に示す試料の評価結果一覧表を示す。
【0028】
図4、
図5に示すように、各種支持体形状を作り、薄板鋼板に対する吸着力を評価した。支持体の試料A、Bは、比較例であり、支持体の試料C、D、E、Fは、実施例である。なお、各支持体の試料中央部には、ボルト締付用の座が凹設されている。ここでは、板厚が1mm程度の薄鋼板を鉛直方向に吸着する吸着力を指数評価している。
【0029】
試料Aは、特許文献1に記載された支持体と略同様であって、略円柱状に形成されている。この場合、磁気ユニットからの磁束線は、支持体の内部を略鉛直上方へ通過し、支持体の上端からそのまま略鉛直上方へ放出される。磁束線の一部は、支持体の外周側壁から隣接する反対方向に磁化された支持体の外周側壁側へ向けて放出される。
このように、試料Aでは、磁気ユニットから上方へ放出される磁束線の大半は、支持体の内部を略鉛直上方へ通過し、支持体の上端からそのまま鉛直上方へ放出される。そのため、磁束線を水平方向へ偏向させる効果がほとんど認められない。ここでは、板厚が1mm程度の薄鋼板を吸着する吸着力の基準とすべく、その吸着力指数を1.0とする。
【0030】
次に、試料Bは、試料Aの支持体における外周側壁を上内方に向けて傾斜状(傾斜角:約50°)に削除した形状に形成されている。この場合、磁気ユニットからの磁束線は、支持体の中央部において内部を略鉛直上方へ通過し、支持体の上端から略そのまま略鉛直上方へ放出される。支持体の外周側の磁束線は、支持体の上内方へ偏向され、傾斜状に形成された外周側壁から隣接する反対方向に磁化された支持体の外周側壁側へ向けて放出されない。そのため、磁束線を中央部に集中させて、水平方向へ偏向させる効果がほとんど認められず、板厚が1mm程度の薄鋼板を吸着する吸着力指数は、0.6であった。
【0031】
これに対して、試料Cは、試料Aの支持体におけるボルト締結座の上方を上外方へ向けて傾斜状(傾斜角:約40°)に削除するとともに、外周側壁を上内方へ向けて急傾斜状(傾斜角:約70°)に削除した形状に形成されている。この場合、支持体は、底部と当該底部の外周縁から起立した環状部とを備えた略筒状体となって、支持体の底部と環状部とによって囲まれた内周側の窪み領域が、支持体の環状部に対比して相対的に磁気抵抗の高い領域となり、支持体の底部を通過する磁束線を減少させ、環状部の上面を通過する磁束線を増加させる。そのため、磁気ユニットからの磁束線は、支持体の中央側から外周側へ向けて偏向され、環状部の上端に向けて収束されて通過し、収束された磁束線の一部が、環状部の上端から隣接する反対方向に磁化された支持体の環状部の上端に向けて、略水平方向へ傾斜しながら放出されるようになった。したがって、試料A、Bの場合と異なり、磁束線を水平方向へ偏向させる効果が認められ、板厚が1mm程度の薄鋼板を吸着する吸着力指数は、1.5であった。
【0032】
次に、試料Dは、試料Aの支持体におけるボルト締結座を更に外周側へ拡張して、筒状体の底部が平坦状に形成されるとともに、環状部の内周側壁がより急傾斜状(傾斜角:約50°)に形成され、かつ、外周側壁が垂直状(傾斜角:約90°)に形状に形成されている。この場合も、試料Cと同様に、支持体は、底部と当該底部の外周縁から起立した環状部とを備えた略筒状体となって、磁気ユニットからの磁束線は、支持体の中央部から外周側に向けて偏向され、環状部の上端に向けて収束されて通過し、収束された磁束線の一部が、環状部の上端から隣接する反対方向に磁化された支持体の環状部の上端に向けて、略水平方向へ傾斜しながら放出されるようになった。この場合、環状部の上端が、試料Cの場合より外周側に形成されているので、磁束線を水平方向へ偏向させる効果が多く認められ、板厚が1mm程度の薄鋼板を吸着する吸着力指数は、1.7であった。
【0033】
次に、試料Eは、試料Aの支持体におけるボルト締結座を更に外周側へ拡張して、筒状体の底部が外周縁付近まで平坦状に形成されるとともに、環状部の内周側壁が垂直状(傾斜角:約90°)に形成され、かつ、環状部の外周側壁が垂直状(傾斜角:約90°)に形成されている。この場合、支持体は、底部と環状部とが略直交するように形成され、底部と環状部との交差部には、両者に内接するR部が形成された筒状体となって、磁気ユニットからの磁束線は、支持体の環状部の内部を所定の肉厚で形成された上端に向けて収束されて通過し、収束された磁束線の多くが、環状部の上端から隣接する反対方向に磁化された支持体の環状部の上端に向けて、略水平方向へ傾斜しながら放出されるようになった。ただし、試料Eは、支持体の環状部の外周側壁が、磁気ユニットの外周縁より内側に形成されている。そのため、磁気ユニットの外周縁での磁束漏れが僅かに認められるものの、試料Dの場合より、磁束線を水平方向へ偏向させる効果が多く認められ、板厚が1mm程度の薄鋼板を吸着する吸着力指数は、1.9であった。
【0034】
次に、試料Fは、試料Eの支持体における外周側壁を磁気ユニットの外周縁まで拡張して形成されている。この場合、支持体は、底部と環状部とが略直交するように形成され、底部と環状部との交差部には、両者に内接するR部が形成された筒状体となって、磁気ユニットからの磁束線は、支持体の環状部の内部を外周側において所定の肉厚で形成された上端に向けて収束されて通過し、収束された磁束線の多くが、互いに距離が近くなった環状部の上端から隣接する反対方向に磁化された支持体の環状部の上端に向けて、略水平方向へ傾斜しながら放出されるようになった。そのため、磁気ユニットの外周縁での磁束漏れが認められず、試料Eの場合より、磁束線を水平方向へ偏向させる効果が多く認められ、板厚が1mm程度の薄鋼板を吸着する吸着力指数は、2.1であった。この吸着力指数は、上記試料の中で、最も高い値であった。
【0035】
以上の比較例(試料A、B)と実施例(試料C、D、E、F)から明らかなように、支持体3は、底部31と当該底部の外周縁から起立した環状部32とを備えた略筒状体であることが好ましく、また、支持体は、底部と環状部とが略直交するように形成され、底部と環状部との交差部には、両者に内接するR部が形成された筒状体であることが更に好ましい。それらの場合には、支持体3の底部31と環状部32とによって囲まれた内周側の窪み領域33が、支持体3の環状部32に対して相対的に磁気抵抗の高い領域となり、支持体3の底部31から上方へ放出される磁束線41を減少させ、環状部32の上面から放出する磁束線42を増加させることができる。そのため、N極に磁化された支持体3Aの環状部32Aの上面321Aから、隣接する反対方向に磁化(S極に磁化)された支持体3Bにおける環状部32Bの上面321Bに向かって略水平状に流れる磁束線42を増加させることができる(
図2を参照)。その結果、被吸着物W1が、例えば、板厚が1mm以下の薄鋼板の場合であっても、被吸着物の内部を通過する磁束線を増加させることができ、板厚の薄い被吸着物を所望の吸着力で支持体に吸着、保持させることができる。
【0036】
<支持体の吸着力を最大化できる条件>
次に、本磁気吸着装置における支持体の吸着力を最大化できる条件について、
図6、
図7を用いて説明する。
図6に、
図4に示す試料Fにおいて、環状部の肉厚寸法Lと吸着力指数Fとの相関図を示す。
図7に、
図4に示す試料Fにおいて、被吸着物の板厚Tと吸着力指数Fとの相関図を示す。
【0037】
図6は、試料Fの断面形状からなる支持体3を用いて、環状部32の高さ寸法(15mm)及び外径寸法(70mm)を固定した状態で、その肉厚寸法Lを変化させて、板厚が0.75mmの被吸着物W0を吸着させる吸着力指数を評価した結果である。吸着力指数は、環状部32の肉厚寸法Lが、10mmのときにおける吸着力を基準に相対評価した指数値である。
【0038】
図6に示すように、環状部32の肉厚寸法Lが5mmを越える領域では、吸着力が徐々に低下するが、環状部32の肉厚寸法Lが5mm以下の領域では、吸着力が急激に増加することが分かる。また、環状部32の肉厚寸法Lが1.5mmのときには、吸着力が最大値を示し、環状部32の肉厚寸法Lが1mmのときには、吸着力が僅かに低下することが分かる。環状部32の肉厚寸法Lが1mm未満では、環状部32の強度が低下して、支持体3を加工する際に変形等が生じる恐れがある。そのため、底部31と環状部32とが略直交するように形成され、底部31と環状部32との交差部には、両者に内接するR部34が形成された筒状体であるように形成された支持体3であって、その環状部32の肉厚寸法Lが1〜5mmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
図7は、
図4に示す試料Fであって、
図6に示す環状部32の肉厚寸法Lが5mmで形成された支持体3と、
図4に示す試料Aの形状に形成された支持体とを用い、被吸着物の板厚Tに応じて、それぞれの吸着力がどのように変化するのかを、吸着力指数Fによって評価した結果である。実線S1で示す吸着力指数のグラフが、
図4に示す試料Fであって、
図6に示す環状部32の肉厚寸法Lが5mmで形成された支持体3を用いた場合であり、破線S2で示す吸着力指数のグラフが、
図4に示す試料Aの形状で形成された支持体3を用いた場合である。
【0040】
図7に示すように、実線S1で示す吸着力指数のグラフは、被吸着物の板厚減少に伴う吸着力の低下が緩慢であって、特に、車両のボディを構成する鋼板部品において一般的な薄鋼板(板厚が0.6〜0.9mm程度)の板厚範囲T1において、従来の支持体である
図4の試料Aと比較して、有効であることが分かる。
【0041】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る磁気吸着装置10によれば、支持体3は、底部31と当該底部31の外周縁から起立した環状部32とを備えた略筒状体であるので、支持体3の底部31と環状部32とによって囲まれた内周側の窪み領域33が、支持体3の環状部32に対比して相対的に磁気抵抗の高い領域となり、支持体3の底部31を通過する磁束線41を減少させ、環状部32の上面321を通過する磁束線42を増加させることができる。そのため、N極に磁化された支持体3Aの環状部32Aの上面321Aから隣接する反対方向に磁化(S極に磁化)された支持体3Bにおける環状部32Bの上面321Bに向かって略水平状に流れる磁束線42を増加させることができる。その結果、被吸着物W1が、例えば、板厚が1mm以下の薄鋼板の場合であっても、被吸着物W1の内部を通過する磁束線を増加させることができ、板厚の薄い被吸着物W1を所望の吸着力で支持体3(3A、3B)に吸着、保持させることができる。
また、支持体3の底部31を通過して上方へ放出される磁束線41が減少するので、環境中に浮遊する微細な磁性粒子を吸引して、被吸着物表面に異物が堆積する恐れを減少させることができる。また、被吸着物が遠距離から吸引されて支持体に当接するときの衝撃力を減少させることによって被吸着物表面に傷付き等が生じにくくなり、さらには、周辺に配置された磁気利用機器(例えば、エアシリンダの作動端検出センサなど)の誤動作を誘発する恐れを低減させることができる。
よって、本実施形態によれば、板厚の薄い被吸着物W1の内部を通過する磁束線42を増加させ、当該被吸着物W1を突き抜けてその外部を通過する磁束線を低減できる磁気吸着装置10を提供することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、支持体3は、底部31と環状部32とが略直交するように形成され、底部31と環状部32との交差部には、両者に内接するR部34が形成されたので、支持体3の底部31と環状部32とによって囲まれた内周側の窪み領域33は、その容積が更に増大するため、支持体3の環状部32に対比して一層磁気抵抗の高い領域となり、支持体3の底部31を通過する磁束線41を更に減少させ、環状部32の上面321を通過する磁束線42を更に増加させることができる。また、支持体3の底部31と環状部32との交差部には、両者に内接するR部34が形成されたので、底部31を通過する磁束線43を、R部34を介して環状部32へ誘導させることができる。そのため、底部31を通過する磁束線43を、磁気抵抗の少ない環状部32に向けてより一層効果的に偏向させることができる。また、環状部32は、底部31に対して略直交するように形成されているので、環状部32の内部を通過する磁束線44が、環状部32の側壁から放出されることを低減できる。そのため、環状部32の内部を通過する磁束線44が、被吸着物W1の内部をより一層多く通過できる。その結果、被吸着物W1が、例えば、板厚が0.6〜0.9mm程度の薄鋼板であっても、より一層吸着力を増加させることができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、環状部32は、肉厚寸法Lが1〜5mm程度の範囲内であるので、環状部32の内部を通過する磁束線44を収束して、磁束線44の密度をより一層高めることができる。そのため、N極に磁化された支持体3Aにおける環状部32Aの上面321Aから反対方向に磁化(S極に磁化)された支持体3Bにおける環状部32Bの上面321Bに向けて放出される磁束線42の密度を更に増加させることができる。その結果、例えば、0.6〜0.9mm程度の薄鋼板の被吸着物W1に対する吸着力を大幅に増大させることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、磁気ユニット2は、上下方向に磁化される主磁石部21と、当該主磁石部21と支持体3との間で主磁石部21の外周縁に沿って基台1内に配置された環状磁石部22とを備え、被吸着物W1を吸着する時には、環状磁石部22の内周側と主磁石部21の支持体側とが同一磁極に磁化されるので、主磁石部21の外周側へ放出する磁束線の漏えいを環状磁石部22によって規制して、支持体3の環状部32に磁束線44を収束させることができる。その結果、被吸着物W1が、例えば、板厚が0.6〜0.9mmの薄鋼板の場合であっても、被吸着物W1の内部を通過する磁束線42をより一層増加させることができ、板厚の薄い被吸着物W1を所望の吸着力で支持体3に吸着、保持させることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、基台1は、車両のボディを構成する鋼板部品のアウターパネルW1とインナーパネルW2とをヘミング加工するヘミング加工装置20の下型7に装着され、支持体3は、アウターパネルW1を吸着、保持するので、ヘミング加工に際して、より一層安定、かつ安価に、アウターパネルW1を下型7に固定させることができる。具体的には、従来のバキューム式の吸着保持装置のように、傷付き、摩耗等が生じやすい吸着カップやシール部材等の吸着部材が不要であり、これら吸着部材の傷付き、摩耗等による吸着力の低下に基づくアウターパネルの位置ずれ等が発生しにくい。また、真空ポンプが不要であり、設備費や設置スペース等の増加を回避することができる。
【0046】
上述した実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で変更することができる。例えば、上記実施形態では、磁気ユニット2の主磁石部21を永久磁石としたが、これに限定されず、電磁石としてもよい。
また、本実施形態では、支持体3は、略円環状の筒状体としたが、必ずしもこれに限られず、例えば、略楕円環状、又は角環状の筒状体でも良い。また、支持体3の底部31上面は、平坦面としたが、湾曲面でもよい。また、支持体3の底部31上面には、反磁性体を充填してもよい。反磁性体を充填することによって、支持体3の底部31を通過する磁束線41をより一層減少させることができる。この充填により、支持体3内への異物の堆積を防止する効果もある。また、支持体3の底部31上面には、非磁性体の高摩擦体を充填し、対象ワークを滑り難くして支持体3に対する拘束性を向上させることができる。