(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃費向上を実現するための一つの方策として、各種部品の軽量化が追求されている。例えば、エンジンブロックの材料として、鋳鉄の代わりにアルミニウム合金が使われ、エンジンカバーやオイルパンの材料として、鋼の代わりにマグネシウム合金が使われるようになってきている。
【0003】
近年、自動車の軽量化という観点から、例えばサスペンション用懸架ばねであるコイルばねなどの弾性部材を軽量化することが検討されている。このような弾性部材を軽量化することが可能な弾性部材用線材として、芯材に巻き付いた炭素繊維などの繊維と、樹脂とからなる繊維強化樹脂層を有する弾性部材用線材が挙げられる(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0004】
特許文献1には、アルミニウムを芯材とし、このアルミニウム芯材の外周に繊維を網目状に巻き付けてなる炭素繊維強化樹脂層が設けられた弾性部材用線材が開示されている。しかしながら、特許文献1のように芯材に対して網目状に繊維を巻き付けると、ねじり応力が加わった際に繊維が座屈破壊されやすいため、強度を確保するため線材径を大きくしなければならず、十分な軽量化効果や必要なたわみ量が得られず、コイルばねとして機能しないおそれがあった。
【0005】
これに対し、ねじり応力に対する強度を向上させる技術として、特許文献2には、芯材の軸心方向に対して所定の角度で繊維を芯材に巻き付けた弾性部材用線材が開示されている。また、特許文献3には、弾性部材用線材を巻回してコイルばねとした場合に、芯材の軸心方向に対する繊維の指向方向が、使用状態にコイルばねに加わるせん断が繊維に緊張力を及ぼすような方向であることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2,3が開示する弾性部材用線材は、弾性部材用線材を巻回してコイルばねとした場合に、コイルばねが圧縮されて加わるねじり荷重によって起こる線材の縮径による破壊については考慮されておらず、芯材の材質によっては縮径して、コイルばねとしての強度および剛性率が低いものとなり、コイルばねとして求められる特性を有するものとはならない場合があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、軽量化しつつ、強度を向上することができる弾性部材用線材および弾性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る弾性部材用線材は、弾性部材を作製するための弾性部材用線材であって、螺旋状に巻回してなる内周側強化繊維と、前記内周側
強化繊維の外周に設けられてなる外周側強化繊維と、前記内周側強化繊維および前記外周側強化繊維の少なくとも一部に設けられて強化繊維同士を固着する熱硬化性樹脂と、を備え、前記内周側強化繊維の巻回方向と、該巻回の中心軸とのなす角度が70°以上110°以下であり、前記外周側強化繊維の巻回の中心軸に対する巻付け方向が、外部から加わる荷重であって当該弾性部材用線材にねじり応力を加える荷重に応じて当該弾性部材用線材に印加される引張り荷重の方向に沿った方向であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る弾性部材用線材は、上記の発明において、前記外周側強化繊維の巻回の中心軸と前記外周側強化繊維の巻付け方向とのなす角度が、40°より大きく50°以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る弾性部材用線材は、上記の発明において、当該弾性部材用線材の剛性率が、9GPa以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る弾性部材用線材は、上記の発明において、前記内周側強化繊維を含む内周側強化繊維層の厚さに対する前記外周側強化繊維を含む外周側強化繊維層の厚さの比が、0.5以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る弾性部材用線材は、上記の発明において、当該弾性部材用線材の静的ねじり強度が、540MPa以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る弾性部材用線材は、上記の発明において、前記内周側強化繊維が形成する管状の内周側強化繊維層の内周側に設けられ、弾性変形可能な材料を用いて形成された芯材、をさらに備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る弾性部材用線材は、上記の発明において、前記芯材および当該弾性部材用線材は、長手軸と直交する平面を切断面とする断面が円をなし、前記内周側強化繊維の巻回方向と、該巻回の中心軸とのなす角度が80°以上100°以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る弾性部材は、上記の発明に係る弾性部材用線材を用いてなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る弾性部材は、上記の発明において、前記弾性部材用線材を螺旋状に巻回してなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る弾性部材は、上記の発明において、自動車用の懸架ばねであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軽量化しつつ強度を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態に係るコイルばねの構成を示す模式図である。
図2は、本発明の一実施の形態に係るコイルばねの要部の構成を示す模式図である。
図3は、本発明の一実施の形態に係るコイルばねの要部の構成を示す模式図であって、線材の延伸方向からみた平面図である。コイルばね1は、芯材に繊維を巻き付けてなる線材を螺旋状に巻くことによって作製される。コイルばね1は、所定の方向(例えば、巻回により延伸する方向)に伸縮自在である。コイルばね1は、例えば、自動車のサスペンション用の懸架ばねとして用いられる。
【0023】
コイルばね1は、芯材10と、芯材10に巻き付けられる複数の繊維を含み、該芯材10を覆う繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)層11とを有し、螺旋状をなす。コイルばね1は、懸架ばねとして用いる場合の強度として、その線材の剛性率が9GPa以上であり、静的ねじり強度が540MPa以上であることが好ましい。
【0024】
FRP層11は、
図2,3に示すように、複数の内周側強化繊維12aが巻回されてなる管状の内周側強化繊維層12と、外周側強化繊維13aが巻回されてなる管状の外周側強化繊維層13
とを有する。FRP層11は、複数の内周側強化繊維12aと複数の外周側強化繊維13aとを芯材10に巻き付けた後未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化することによって形成してなる、または未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた複数の内周側強化繊維12aを芯材10に巻き付け、内周側強化繊維12aの外周側に外周側強化繊維13aを巻き付け加熱硬化することによって各層を形成してなる。内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aとしては、炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維であるアラミド繊維、および玄武岩繊維であるバサルト繊維からそれぞれ選択される少なくとも一つの繊維が用いられる。FRP層11において、少なくとも一部の強化繊維同士は、熱硬化性樹脂により互いに固着されている。すなわち、FRP層11は、上述した複数の内周側強化繊維12aと、外周側強化繊維13aと、該内周側強化繊維12a同士、外周側強化繊維13a同士、および/または内周側強化繊維12aと外周側強化繊維13aとを固定する熱硬化性樹脂とを含んでいる。熱硬化性樹脂としては、絶縁性を有し、熱により硬化する樹脂、例えばエポキシ樹脂が挙げられる。
【0025】
FRP層11における内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aは、繊維を一本ずつ芯材10に巻き付けるものであってもよいし、複数の繊維を束にして、一束ずつまたは複数の束を同時に芯材10に巻き付けるものであってもよい。いずれの巻き付けにおいても、内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aの繊維の巻付け方向は揃っている。また、シート状をなす繊維束を、繊維の長手方向を揃えて芯材10の外表面に設けるようにしてもよい。また、線材の径方向には、一本または複数本(繊維束を含む)の内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aがそれぞれ巻き付けられている。
【0026】
また、内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aが、螺旋状に延びる線材の一端から他端にかけて連続していることが、コイルばね1(FRP層11)の強度を向上させる点で好ましい。内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aの少なくとも一方が不連続の場合、外部から加わる荷重を線材全体で負担できず、不連続部分に応力が集中して線材の破壊の起点となりやすい。内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aが線材の一端から他端にかけて連続する場合、各強化繊維が、線材の一端から他端にかけて螺旋状に延び、芯材10に対する周回方向に沿って連続していることになる。
【0027】
また、コイルばね1は、線材の疲労強度を向上してサスペンションなどに用いるコイルばねの強度を確保するという観点で、剛性率が9GPa以上、および/または静的ねじり強度が540MPa以上であることが好ましい。コイルばね1は、上述した剛性率を満たす場合、内周側強化繊維層12の厚さをT
1、外周側強化繊維層13の厚さをT
2としたとき、内周側強化繊維層12の厚さT
1に対する外周側強化繊維層13の厚さT
2の比T
2/T
1が、0.5以上20以下となっている。ここでいう「厚さ」とは、各強化繊維層の中心軸に対して直交する方向の層の幅である。
【0028】
内周側強化繊維12aが芯材10に巻き付けられた巻付け方向(内周側強化繊維12aが延びる方向)は、コイルばね1の線材の縮径を抑制するという観点で、線材の延伸方向(長手方向)に対して略直交していることが好ましく、その角度の範囲は線材の長手軸(軸N1)に対して70°以上110°以下、好ましくは80°以上100°以下となっている。なお、ここでいう巻付け方向と長手軸とがなす角度とは、長手軸および強化繊維が延びる方向と直交する方向からみたときの角度である。
【0029】
外周側強化繊維13aが芯材10に巻き付けられた巻付け方向Y1(外周側強化繊維13aが延びる方向)は、外部からコイルばね1を圧縮する荷重が加わった際に、線材に加わる荷重である引張り荷重および圧縮荷重のうち、引張り荷重の方向に沿っている。
図4は、本発明の一実施の形態に係るコイルばねの要部の構成を示す模式図であって、コイルばね1にねじり応力が加わった際に、線材の表面に加わる荷重を説明する図である。コイルばね1(線材)に対し、該線材の中心軸のまわりの荷重であって、互いに反対まわりの荷重F
1,F
2によるねじり応力が加わった場合、線材の表面における矩形の微細領域Mでみると、該微細領域Mには、
図4の(a)に示すせん断応力τ
11,τ
12,τ
21,τ
22が加わる。線材にせん断応力τ
11,τ
12,τ
21,τ
22が加わることは、換言すれば、
図4の(b)に示すような引張り荷重F
Tと、圧縮荷重F
Cとが微細領域Mに加わることになる。この引張り荷重F
Tが加わる方向は、線材の長手軸(軸N1)に対して理論的には45°となるが、線材の形状のばらつきなど考慮するとその角度範囲は40°より大きく50°以下となる。
【0030】
本実施の形態に係る外周側強化繊維13aの巻付け方向Y1は、上述した引張り荷重F
Tに沿った方向であり、すべてが引っ張り荷重F
Tに沿って巻き付けられていることが好ましい。なお、内周側強化繊維12aおよび外周側強化繊維13aは、部分的に巻付け角度が異なっていてもよいが、一定の巻付け角度で芯材10に巻き付けられることが好ましい。ここでいう「一定の巻付け角度」とは、製造上における巻付け角度の誤差を含んでいる。
【0031】
図5は、コイルばね1を作製するための線材である弾性部材用線材の構成を示す
模式図である。同図に示す弾性部材用線材100(以下、単に「線材100」という)は、芯材10と同じ材料からなる円柱状の芯材110と、内周側強化繊維12aと同じ繊維からなる内周側強化繊維112を芯材110の外周に巻き付けるとともに、外周側強化繊維13aと同じ繊維からなる外周側強化繊維113を内周側強化繊維112の外周に巻き付けて内周側強化繊維層および外周側強化繊維層を形成してなるFRP層111とを備えた3層構造の円柱状をなす。芯材110に巻き付ける内周側強化繊維112、および内周側強化繊維112に巻き付ける外周側強化繊維113は、予め液状の熱硬化性樹脂を含浸していてもよいし、各々巻き付けた後に熱硬化性樹脂を含浸してもよい。
【0032】
続いて、線材100の製造方法について、
図6および
図7を参照して説明する。
図6および
図7は、本発明の一実施の形態に係る弾性部材用線材の製造方法を説明する図である。まず、予め液状の熱硬化性樹脂を含浸した内周側強化繊維112を芯材110に巻き付ける(
図6参照)。ここで、内周側強化繊維112を芯材110に巻き付ける巻付け方向Y20
(内周側強化繊維112が延びる方向)と、芯材110の長手軸(例えば、
図5に示す軸N10)とがなす角度θ
1が、70°以上110°以下となっている。
【0033】
その後、熱硬化性樹脂を含浸した外周側強化繊維113を内周側強化繊維112に巻き付ける。ここで、外周側強化繊維113を芯材110に巻き付ける巻付け方向Y21(外周側強化繊維113が延びる方向)は、例えば、線材100を螺旋状に巻回して作製したコイルばね1に外部から荷重が加わったと仮定した場合に、上述した引張り荷重の方向に沿っている。具体的に、外周側強化繊維113を内周側強化繊維112に巻き付ける巻付け方向Y21は、芯材110の長手軸(軸N10)と直交する方向からみたときに、当該巻付け方向Y21と軸N10とのなす角度θ
2が、40°<θ
2≦50°の範囲
となっている。この角度θ
2は、上述したねじり応力に応じて外周側強化繊維113に加わる引張り荷重の方向と、芯材110の中心軸(軸N10)とがなす角度に対応している。内周側強化繊維112を芯材110に巻き付ける方法、および外周側強化繊維113を内周側強化繊維112に巻き付ける方法として、例えば、フィラメントワインディング(Filament Winding)
法が挙げられる。なお、複数の強化繊維がシート状をなしている強化繊維束を用いる場合は、シートワインディング(Sheet Winding)
法により形成することも可能である。
【0034】
外周側強化繊維113を巻き付けた後、熱硬化性樹脂が硬化する温度以上に加熱することで、内周側強化繊維112同士、外周側強化繊維113同士、および/または内周側強化繊維112と外周側強化繊維113とを固着した線材100を得ることができる。
【0035】
また、上述したように、線材100を懸架ばね用の線材として用いる場合の強度として、線材100の剛性率が9GPa以上であり、線材100の静的ねじり強度が540MPa以上であることが好ましい。
【0036】
この線材100を巻回することによって、上述したコイルばね1を作製することができる。この線材100は、上述したコイルばね1のほか、トーションバーや、一部を屈曲させたスタビライザーなどの弾性部材として使用することも可能である。
【0037】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、弾性変形可能な芯材10と、芯材10に巻回される内周側強化繊維12a、内周側強化繊維12aを含む内周側強化繊維層12に巻回される外周側強化繊維13a、および強化繊維同士を固着する熱硬化性樹脂からなり、芯材10の外表面を覆うFRP層11と、を備えたコイルばね1であり、内周側強化繊維12
aが、芯材10の長手軸(軸N1)に対する巻付け方向が80°以上100°以下となるように巻き付けられているとともに、外周側強化繊維13aが、芯材10に対する巻付け方向を、ねじり応力に応じて線材に加わる引張り荷重の方向に沿った方向となるように巻き付けられるようにしたことによって、ねじり応力に対する耐性を有する強度とし、かつ軽量化を実現することができる。例えば、本発明の実施の形態において、芯材10をアルミニウムやその合金
、または樹脂とすれば、鋳鉄などの鉄系の材料の特性または容積が同等のコイルばねとした場合と比して、60%ほど軽量化することが可能である。
【0038】
また、本発明の実施の形態では、内周側強化繊維層12の内周側に芯材10が設けられているものとして説明したが、内周側強化繊維層12によって線材の縮径を防止することができるため、芯材10を有しない構成であってもよい。すなわち、内周側強化繊維層12と、外周側強化繊維層13と、これらの強化繊維を固着させる熱硬化性樹脂とを含むFRP層11のみからなる中空のコイルばね1(弾性部材用線材)であってもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明に係るコイルばねを作製するための弾性部材用線材の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。まず、本実施例に係る弾性部材用線材の構成について説明する。
【0040】
(実施例1)
芯材として棒状のポリプロピレン(PP)樹脂材料を使用し、内周側強化繊維および外周側強化繊維として、エポキシ樹脂を含有した炭素繊維束であるトウプリプレグを使用した。
【0041】
弾性部材用線材は、芯材にトウプリプレグを巻き付けた。まず、内周側強化繊維を、芯材の長手軸と直交する方向からみたときに、芯材の長手軸に対して90°をなすように巻き付けた。また、外周側炭素繊維は、芯材の長手軸と直交する方向からみたときに、芯材の長手軸に対して45°をなすように、外周側強化繊維層の厚さと内周側強化繊維層の厚さの比が4:1となるまで巻き付けた。その後、エポキシ樹脂を硬化し、得られた線材を実施例1に係る弾性部材用線材とした。
【0042】
(実施例2)
内周側強化繊維の芯材の長手軸に対する巻
付け角度を80°とした以外は実施例1と同様に行った。
【0043】
(実施例3)
外周側強化繊維層の厚さと内周側強化繊維層の厚さの比を3:2とした以外は実施例2と同様に行った。
【0044】
(実施例4)
外周側強化繊維層の厚さと内周側強化繊維層の厚さの比を2:3とした以外は実施例2と同様に行った。
【0045】
(実施例5)
内周側強化繊維の芯材の長手軸に対する巻
付け角度を100°とした以外は実施例1と同様に行った。
【0046】
(実施例6)
内周側強化繊維の芯材の長手軸に対する巻
付け角度を70°とした以外は実施例1と同様に行った。
【0047】
(比較例1)
芯材として棒状のポリプロピレン(PP)樹脂材料を使用し、強化繊維として、炭素繊維束であるトウプリプレグを使用した。
【0048】
弾性部材用線材は、フィラメントワインダーを用いて、上述した芯材にトウプリプレグを巻き付けた。この際、強化繊維は、芯材の長手軸と直交する方向からみたときに、芯材の長手軸に対して45°をなし、外周側強化繊維層の厚さが、実施例1の内周側強化繊維層の厚さと外周側強化繊維層の厚さの和と同等、すなわち、外周側強化繊維層の厚さと内周側強化繊維層の厚さの比が5:0となるまで巻き付けた。その後、エポキシ樹脂を硬化し、得られた線材を比較例1に係る弾性部材用線材とした。
図8は、本発明の実施例に係る比較例のコイルばねの構成を説明する模式図である。
図8に示すように、比較例1に係る弾性部材用線材200は、芯材210と、芯材210に巻き付けられた強化繊維からなるFRP層211と、を備える。
【0049】
(比較例2)
外周側強化繊維層の厚さと内周側強化繊維層の厚さの比を1:4とした以外は実施例2と同様に行った。
【0050】
(比較例3)
内周側強化繊維の芯材の長手軸に対する巻
付け角度を60°とした以外は実施例1と同様に行った。
【0051】
以上説明した実施例1〜6、比較例1〜3は、芯材の径、および弾性部材用線材の外径が揃っている。
【0052】
続いて、本実施例に係る試験内容について説明する。
【0053】
(ねじり破壊強度試験)
ひずみゲージを貼付し、線材の中心軸のまわりの回転速度を0.3°/秒としてねじり試験を行った。本ねじり試験により、線材(炭素繊維)のねじり破壊強度(静的ねじり強度)を求めた。
【0054】
(剛性率)
上述したねじり試験により得られた応力−ひずみ線図の傾きをもとに、剛性率を算出した。
【0055】
次に、本実施例に係る弾性部材用線材の特性、およびねじり試験結果(ねじり破壊強度および剛性率)を表1に示す。なお、層厚比は、外周側強化繊維層:内周側強化繊維層との比を示している。また、繊維含有率は、FRP層における強化繊維の体積含有率を示している。
【表1】
【0056】
内周側強化繊維と外周側強化繊維とを有する弾性部材用線材である実施例1〜6は、表1に示すように、一定の方向に強化繊維を巻回した比較例1と比して、剛性率、強度ともに高い。実施例1,2に係る線材は、高い剛性率と強度を有しており、その結果、この線材を用いれば、実用的なコイルばねを得ることができる。
【0057】
ここで、上述したコイルばね1をサスペンション用の懸架ばねに用いる場合、このコイルばね1を作製するための弾性部材用線材は、例えば、剛性率が9GPa以上であり、静的ねじり強度が540MPa以上であることが望まれる。本実施例の結果から、実施例1〜6に係る弾性部材用線材は、サスペンション用のコイルばね1用の線材としての要求を十分に満たすものである。
【0058】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0059】
以上のように、本発明に係る弾性部材用線材および弾性部材は、軽量化しつつ、強度を向上するのに好適である。