特許第6502255号(P6502255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧

特許6502255PDGFを含有するDS細胞用無血清培地
<>
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000002
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000003
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000004
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000005
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000006
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000007
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000008
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000009
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000010
  • 特許6502255-PDGFを含有するDS細胞用無血清培地 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502255
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】PDGFを含有するDS細胞用無血清培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20190408BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20190408BHJP
【FI】
   C12N1/00 F
   C12N5/071
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-522859(P2015-522859)
(86)(22)【出願日】2014年6月12日
(86)【国際出願番号】JP2014065599
(87)【国際公開番号】WO2014200060
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2017年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-123263(P2013-123263)
(32)【優先日】2013年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】山西 治代
(72)【発明者】
【氏名】相馬 勤
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄三
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−218445(JP,A)
【文献】 特開2009−171852(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/037486(WO,A1)
【文献】 大沢匡毅他,幹細胞の運命を決定するシグナル 毛包を構成する幹細胞システムとその分子制御機構,蛋白質核酸酵素,2004年,Vol.49, No.6,pp.727-733
【文献】 TOMITA Y. et al.,PDGF isoforms induce and maintain anagen phase of murine hair follicles.,J. Dermatol. Sci.,2006年,Vol.43, No.2,pp.105-115
【文献】 安部隆,機能性化粧品の研究開発動向,FRAGRANCE JOURNAL,2007年,Vol.35, No.2,pp.108-112
【文献】 MIYAKURA T. et al.,The influence of extracellular matrix and growth factors on early hair follicle development using ha,J. Tokyo Med. Univ.,2011年,Vol.69, No.2,pp.210-218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12N 5/071
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真皮毛根鞘(DS)細胞を培養するための無血清培地であって、血小板由来成長因子(PDGF)を含んで成前記PDGFがPDGF−BBである、無血清培地。
【請求項2】
前記真皮毛根鞘(DS)細胞が真皮毛根鞘カップ(DSC)領域に由来する、請求項1に記載の無血清培地。
【請求項3】
Wntシグナル活性化剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の無血清培地。
【請求項4】
血小板由来成長因子(PDGF)を含んで成る無血清培地を用いた、真皮毛根鞘(DS)細胞を培養するための方法であって、前記PDGFがPDGF−BBである、方法
【請求項5】
前記真皮毛根鞘(DS)細胞が真皮毛根鞘カップ(DSC)領域に由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記無血清培地がWntシグナル活性化剤をさらに含む、請求項4又は5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真皮毛根鞘(DS)細胞を培養するための無血清培地であって、血小板由来成長因子(PDGF)を含んで成る、無血清培地、又はPDGFを含んで成る無血清培地を用いた、DS細胞を培養するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は美的外観上極めて重要視される。従って、先天的又は後天的要因による脱毛又は薄毛は多くの人々にとって深刻な悩みである。特に高齢化社会、ストレス社会といわれる現代社会では、頭部毛髪が様々な後天的な原因により、脱毛の危機にさらされる機会がますます多くなってきている。これに対応して、脱毛症や薄毛に悩む人々に対して、安全かつ有効に毛包を再生するための美容的又は医療的な方法を提供すべく、様々な試みがなされている。
【0003】
毛包は成熟した生体で自己再生をほぼ一生涯を通じて繰り返す例外的な器官である。その自己再生の仕組みを解明することは、組織や細胞移植による脱毛治療、毛包や皮脂腺を含有する自然に近い機能的にも優れた皮膚シートの構築など、ニーズの高い臨床応用に繋がるものと期待される。近年、幹細胞研究への関心の高まりと共に毛包上皮幹細胞(上皮細胞)の研究が急速に進展し、また毛包特異的な間葉系細胞たる毛乳頭細胞についてもその性質が少しずつ判ってきた。毛乳頭細胞は毛包の自己再生のために毛包上皮幹細胞に活性化シグナルを送るいわば司令塔の役割を担い、毛包再構成評価系においては毛包上皮幹細胞と共に欠くことのできない細胞であることが判っている(Kishimoto et al., Proc. Natl. AcaDSci. USA (1999), Vol.96, pp. 7336-7341;非特許文献1)。
【0004】
毛乳頭(DP: dermal papilla)、及び毛包の周囲を取り巻く真皮毛根鞘(DS: dermal sheath)は、共に、毛包の大部分を構成する上皮系細胞とは異なり、間葉系由来の細胞群で構成される。DS細胞について、毛包形成に対する重要性を示唆する知見が、近年、多数報告されている。毛乳頭ラットヒゲの毛球部切断毛包移植実験においては、DS細胞からDP細胞が再生されること、マウスで、下半分を切断した毛包のDS細胞を移植することで、毛包再生が誘導されることも報告されている。また、Jahodaら(Development.1992 Apr:114(4):887-97;非特許文献2)は、DS細胞をヒトに移植することで、毛包の再構築を誘導できることも報告している(Horne KA and Jahoda CA.Development.1992 Nov:116(3):563-71;非特許文献3)。さらに、Tobin, Pausらのグループは、マウス毛周期において、DS細胞とDP細胞間の細胞の移動が起こり、発毛期において増殖を開始するDP細胞に先駆けてDS細胞の増殖が開始することを報告している(Tobin DJ et al., J.Invest.Dermatol., 120:895-904, 2003;非特許文献4)。
【0005】
このように、DS細胞は毛包形成に対して重要な役割を果たしている可能性が高いが、その作用機序については十分に判明していない。毛包形成への作用機序を明らかにするためには、DS細胞を大量に入手する必要があるが、生体組織から採取できる細胞の数は少ないため、これらの細胞を生体外で培養して効率よく増殖させることが必要である。一般に、DS細胞を培養するためには、細胞の増殖や培養容器との接着を促す血清が添加された培地が用いられるが、このような条件では、抗原性の変化や病原体混入の可能性が存在し、また、血清中の詳細不明な微量成分に起因する実験結果のばらつきが生じる恐れがあるため、再生医療への臨床応用や、創薬・毒性試験などへの応用には不適当である。
【0006】
近年、再生医療への関心の高まりに伴い、様々な間葉系幹細胞の培養方法や培地の開発が行われているが(例えば、特開2006-311814号公報;特許文献1、特開2006-325445号公報;特許文献2、特開2005-151237号公報;特許文献3を参照のこと)、DS細胞を培養するための、血小板由来増殖因子(PDGF)を含有する無血清培地については、これまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-311814号公報
【特許文献2】特開2006-325445号公報
【特許文献3】特開2005-151237号公報
【特許文献4】特開平7-274950号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kishimoto et al., Proc. Natl. AcaDSci. USA (1999), Vol.96, pp. 7336-7341
【非特許文献2】Jahoda CA et al., Development.1992 Apr;114(4):887-97.
【非特許文献3】Horne KA and Jahoda CA.Development.1992 Nov;116(3):563-71.
【非特許文献4】Tobin DJ et al., J.Invest.Dermatol., 120:895-904, 2003
【非特許文献5】Noburo Sato et al., Nature Medicine Vol.10, No.1, Jan. 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、DS細胞の培養に適した無血清培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、PDGF、特にPDGF−BBを添加した無血清培地で培養することにより、DS細胞を有意に増殖させることができる、という驚くべき知見を得た。
【0011】
従って、本願は以下の発明を包含する:
[1] 真皮毛根鞘(DS)細胞を培養するための無血清培地であって、血小板由来成長因子(PDGF)を含んで成る、無血清培地。
[2] 前記PDGFがPDGF−BBである、[1]に記載の無血清培地。
[3] 前記真皮毛根鞘(DS)細胞が真皮毛根鞘カップ(DSC)領域に由来する、[1]又は[2]に記載の無血清培地。
[4] 血小板由来成長因子(PDGF)を含んで成る無血清培地を用いた、真皮毛根鞘(DS)細胞を培養するための方法。
[5] 前記PDGFがPDGF−BBである、[4]に記載の方法。
[6] 前記真皮毛根鞘(DS)細胞が真皮毛根鞘カップ(DSC)領域に由来する、[4]又は[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無血清培地により、再生医療への臨床応用や、創薬・毒性試験などへの応用に適したDS細胞を効率よく培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】無血清培地として、1) HFDM-1 (-) 培地、2) HFDM-1 (+) 培地、3) PDGF-AA (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地、及び4) PDGF-BB (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地を用いて培養したヒトDS細胞の2 日目及び10 日目における顕微鏡写真である。
図2】無血清培地として、1) HFDM-1 (-) 培地、2) HFDM-1 (+) 培地、3) PDGF-AA (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地、及び4) PDGF-BB (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地を用いて培養したヒトDS細胞の細胞数変化 (2, 5, 10日目)を示すグラフである。
図3】無血清培地として、1) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、2) PDGF-BB (10 ng/ml)を溶解させた StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、3) Mosaic hMSC SF Culture Medium (sup+, BD)、4)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたMosaic hMSC SF Culture Medium (sup+, BD)を用いて培養したヒトDS細胞の2 日目及び7 日目における顕微鏡写真である。
図4】無血清培地として、1) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、2) PDGF-BB (10 ng/ml)を溶解させた StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、3) Mosaic hMSC SF Culture Medium (sup+, BD)、4)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたMosaic hMSC SF Culture Medium (sup+, BD)を用いて培養したヒトDS細胞の細胞数変化(2, 7日目)を示すグラフである。
図5】無血清培地として、1) HFDM-1 (-) 培地、2) HFDM-1 (+) 培地、3) PDGF-AA (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地、及び4) PDGF-BB (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地を用いて培養したヒトDS細胞の2 日目及び7 日目における顕微鏡写真である。
図6】無血清培地として、1) HFDM-1 (-) 培地、2) HFDM-1 (+) 培地、3) PDGF-AA (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地、及び4) PDGF-BB (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地を用いて培養したヒトDS細胞の細胞数変化 (2, 4, 7日目)を示すグラフである。
図7】無血清培地として、1) StemProSFM CTS(sup-, Lifetechnologies)、2) PDGF-BB (10 ng/ml)を溶解させた StemProSFM CTS(sup-, Lifetechnologies)、3) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、4)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたStemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)を用いて培養したヒトDS細胞の2 日目及び7 日目における顕微鏡写真である。
図8】無血清培地として、1) StemProSFM CTS(sup-, Lifetechnologies)、2) PDGF-BB (10 ng/ml)を溶解させた StemProSFM CTS(sup-, Lifetechnologies)、3) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、4)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたStemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)を用いて培養したヒトDS細胞の細胞数変化(2, 4, 7日目)を示すグラフである。
図9】無血清培地として、1) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、2)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたStemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)を用いて培養したヒト皮膚繊維芽細胞の2 日目及び7 日目における顕微鏡写真である。
図10】無血清培地として、1) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、2)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたStemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)を用いて培養したヒト皮膚繊維芽細胞の細胞数変化(2, 7日目)を示すグラフである。
【0014】
本発明は、真皮毛根鞘(DS)細胞を培養するための無血清培地であって、血小板由来成長因子(PDGF)、特にPDGF−BBを含んで成る、無血清培地、又は、かかる無血清培地を用いたDS細胞の培養方法を提供する。
【0015】
真皮毛根鞘(DS)細胞は、真皮毛根鞘に存在する細胞であり、間葉系細胞の一種である。真皮毛根鞘(DS;Dermal seath)は、結合組織性毛鞘や結合組織鞘とも呼ばれることもあり、上皮性の外毛根鞘を取り囲む真皮性の組織である。DS細胞は、毛乳頭(DP;hair papilla)細胞と同様に間葉系細胞に分類され、DP細胞はDS細胞に由来するとされている。中でも、発毛期でのDP細胞の増殖に先駆けて、真皮毛根鞘(DS)のうち特に毛乳頭に近い基底部位である真皮毛根鞘カップ(DSC)領域に由来する細胞が増殖することから、DS細胞、特にDSC領域に由来する細胞(DSC細胞とも称する)がDP細胞を供給すると考えられている(Tobin DJ et al., J. Invest. Dermatol., 120:895-904, 2003;非特許文献4)。真皮毛根鞘、特にDSC領域は、ヘテロな細胞群から構成されており、毛周期の休止期から成長期のあいだに分裂と移動伴い下降し、その一部が毛乳頭DPへと分化して、毛の伸張が開始されると考えられている。
【0016】
本発明のDS細胞は、あらゆる哺乳動物、例えばヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、他に実験用動物、例えばラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、スキッドマウス、ヌードラットの表皮に由来し得るが、ヒトへの移植や、研究用の三次元モデルの製造の観点から、ヒト由来の細胞が好ましい。また、その表皮部位は有毛部位、例えば頭皮でも、無毛部位、例えば包皮であってもよい。
【0017】
また、DS細胞は、上記哺乳動物の組織から初代培養により取得された細胞であってもよいし、継代培養により取得された細胞であってもよく、また、体性幹細胞、iPS細胞、及びES細胞から分化誘導されて得られた細胞であってもよい。移植を行う観点からは、移植対象から取得した細胞を継代培養により増殖させた細胞が好ましい。
【0018】
本発明において使用することができる基礎培地は、ヒトや動物の細胞の培養に用いられる、無血清培地ならば特に制限されない。多様な種類の無血清培地が市販されており、例えば、HFDM-1 (+) (細胞科学研究所)、HFDM-1 (-) (細胞科学研究所)、StemPro MSC SFM CTS(sup+) (Lifetechnologies)、StemPro MSC SFM CTS(sup-) (Lifetechnologies)、Mosaic hMSC SF Culture Medium (sup+) (BD)などが挙げられる。これらの市販培地の組成として、HFDM-1 (-)は、基礎培地 RITC80-7、インスリン5 μg/ml、 デキサメサゾン10-7Mを含有しており、HFDM-1 (+)は、これらに加えて、EGF 10 ng/mlを含有することが知られている。
【0019】
本発明の無血清培地は、DS細胞の増殖因子として、血小板由来成長因子(PDGF)を含む。PDGFは、主に間葉系細胞(線維芽細胞、平滑筋細胞、グリア細胞等)の遊走や増殖などの調節に関与する増殖因子であり、PDGF/VEGFファミリーに属する。主に巨核球によって産生されるほか、血小板のα顆粒中にも含まれ、上皮細胞や内皮細胞などの様々な細胞によって産生されることが知られている。PDGFは、A鎖、B鎖、C鎖及びD鎖により、PDGF−A、B、C及びDの少なくとも4種類が存在している。これらはいずれも、ホモダイマーまたはヘテロダイマーを形成し、PDGF−AA、−AB、−BB、−CC、−DDの5種類のアイソフォームが存在することが知られている。これらのうち、PDGF−BBが特に好ましい。
【0020】
基礎培地に添加されるPDGFの添加量は特に制限されるものではないが、例えば0.01 ng/ml〜10 μg/ml、好ましくは0.1 ng/ml〜100 ng/ml、より好ましくは1〜10 ng/ml程度である。
【0021】
本発明の無血清培地には、Wntシグナル活性化剤を添加してもよい。Wntシグナルとは、β−カテニンの核移行を促し、転写因子としての機能を発揮する一連の作用をいう。本シグナルは細胞間相互作用に起因し、例えば、ある細胞から分泌されたWnt3Aというタンパクがさらに別の細胞に作用し、細胞内のβ−カテニンが核移行し、転写因子として作用する一連の流れが含まれる。一連の流れは上皮間葉相互作用を例とする器官構築の最初の現象を引き起こす。Wntシグナルはβ−カテニン経路、PCP経路、Ca2+経路の三つの経路を活性化することにより、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御することで知られる。Wntシグナルがもつその未分化状態維持機能により、分化を抑制する目的でES細胞の培養の際に利用されている(例えば、Noburo Sato et al., Nature Medicine Vol.10, No.1, Jan. 2004;非特許文献5)。
【0022】
Wntシグナル活性化剤としては、特に限定されるわけではないが、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)の阻害活性を示すものであればいかなるものでもよく、例えばビス−インドロ(インジルビン)化合物(BIO)((2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、そのアセトキシム類似体BIO−アセトキシム(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−アセトキシム)、チアジアゾリジン(TDZD)類似体(4−ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン)、オキソチアジアゾリジン―3−チオン類似体(2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン)、チエニルα−クロロメチルケトン化合物(2−クロロ−1−(4,4−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物(α−4−ジブロモアセトフェノン)、チアゾール含有尿素化合物(N−(4−メトキシベンジル)−N’−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)ユレア)やGSK−3βペプチド阻害剤、例えばH−KEAPPAPPQSpP−NH2、さらには塩化リチウムなどが挙げられる。
【0023】
Wntシグナル活性化剤の添加量は特に制限されるものではなく、Wntシグナル活性化、換言すれば、GSK−3の阻害が奏され、且つ細胞増殖が停止しない量であればよく、使用する薬剤の種類及び増殖すべき細胞の種類に依存し、当業者により適宜決定されるであろう。例えば、Wntシグナル活性化剤としてBIOをDS細胞に使用する場合、その量は、例えば0.01 μM〜100 μM、好ましくは0.1 μM〜10 μM、より好ましくは10 μM程度である。
【0024】
さらに、本発明の無血清培地には、必要に応じてほかの細胞増殖因子、ホルモンやその他の微量栄養素を加えることができる。これらの具体的なものとして、例えば、上皮増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、血管内皮増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β1,2,3(TGFβ1,2,3)、骨形成因子(BMP)又はインスリン様成長因子−1,2(IGF−1,2)を使用する場合、その量は、例えば0.1 μg/ml〜100 μg/ml程度である。リン脂質(例えば、フォスファチジン酸、フォスファチジルイノシトール、エタノールアミン)を使用する場合、その量は、例えば0.1 μg/ml〜100 μg/ml程度である。脂肪酸(例えば、リノール酸、オレイン酸、アラキドン酸を使用する場合、その量は、例えば0.001 μg/ml 〜100 μg/ml程度である。プロスタグランジン類を使用する場合、その量は0.1 ng/ml 〜 100 ng/ml 程度である。還元剤(例えば、アスコルビン酸、還元型グルタチオン)を使用する場合、その量は、例えば1 μg/ml〜100 μg/ml程度である。メルカプトエタノールを使用する場合、その量は、例えば0.1 μg/ml〜100 μg/ml程度である。トランスフェリン又はインスリンを使用する場合、その量は0.01 μg/ml〜100 μg/ml程度である。デキサメタゾンを使用する場合、その量は0.000001 μM〜0.1 μM程度である。トリヨードチロニンを使用する場合、その量は0.1 pM〜100 pM程度である。グルカゴンを使用する場合、その量は0.0001 μM〜0.1 μM程度である。コレステロールを使用する場合、その量は、例えば0.1μg/ml〜100μg/ml程度である。ハイドロコーチゾンを使用する場合、その量は、例えば0.01 μg/ml〜10 μg/ml程度である。テストステロンを使用する場合、その量は、例えば0.1 μM〜100 μM程度である。エストラジオール又はプロゲステロンを使用する場合、その量は、例えば0.01 ng/ml〜100 ng/ml程度である。微量元素(例えば、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、モリブデン、セレン)を使用する場合、その量は、例えば0.000001 mg/ml〜0.1 mg/ml程度である。アルブミン、ファイブロネクチン又はビトロネクチンを使用する場合、その量は、例えば0.1 μg/ml〜1000 μg/ml程度である。
【0025】
このような無血清培地でのDS細胞の培養は、通常、培養皿を用い、5%CO2雰囲気下、37℃のインキユベーター内に静置して行い、アウトグロースが確認されたら、培地を交換してさらに培養を続けることに(継代培養)より実施する。こうして得られる培養細胞はさらに必要な継代数にわたって、継代培養を行う。継代はDS細胞の所望する量が達成されるまで行なうことができ、たとえば10回以上の継代、所望量が多い場合は好ましくは15回以上、さらに好ましくは20回以上まで継代を行なうことができる。
【0026】
好ましくは、このようにして培養したDS細胞をスフェア形成させる(特開平7-274950号公報;特許文献4)。スフェア形成は、飽和状態になるまで細胞を増殖させ、細胞を剥離した後、培地で懸濁させ、この細胞懸濁物を非接着処理した培養皿中の培地上に捲き、数日放置することにより丸い細胞塊(スフェロイド)の細胞集合体を形成することで行う。好ましくは、スフェア形成はbFGFの非存在下で行うが、bFGF存在下でも十分にスフェア形成は達成される。なお、スフェア形成を行う時期は特に制限されるものではなく、最後の継代を終えた培養細胞に対し行ってよい。スフェロイドを形成させる培養法として、ローラボトル培養、スピナーフラスコ培養、ハンギングドロップ培養などが知られており、また、凹陥部を有する培養容器や、細胞接着性の低いコーティングが施された培養容器が市販されている。さらに、細胞接着性領域と細胞非接着性領域が共存するようにコーティングがされ、細胞非接着性領域として、ホスホリルコリン(PC)基コーティングを用いた培養容器を用いて培養を行うことにより、サイズが揃ったスフェロイドを大量に形成することが可能になった。
【0027】
このようにして調製したスフェア化したDS細胞は、毛包誘導能を維持しており、したがって、毛包の再構成のメカニズムの解明のために研究のin vitro実験や、毛再生医療などのために利用できる。
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
例1.無血清培地(HFDM-1)を用いたDS細胞(カップ領域)の増殖について
12ウェルプレート(BD)をCELLStartTM (Lifetechnologies)でコーティングし、凍結保存したDS細胞(21歳男性頭皮由来、DSC、継代数0)を、該プレートに1ウェルあたり4×104細胞を1 mlの無血清培地に懸濁し、播種した。無血清培地としては、1) HFDM-1 (-) 培地(細胞科学研究所)、2) HFDM-1 (+) 培地(細胞科学研究所)、3) PDGF-AA (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地、及び4) PDGF-BB (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地を用いた。5%炭酸ガス存在下にて37℃で培養した。2, 5, 10 日目に細胞を顕微鏡観察し(図1:40倍)、1視野あたりの細胞数を計測した(図2)。
【0030】
例2.無血清培地(StemProSFM CTS/Mosaic hMSC SF Culture)を用いたDS細胞(カップ領域)の増殖について
12ウェルプレート(BD)をCELLStartTM (Lifetechnologies)でコーティングし、凍結保存したDS細胞(50歳男性頭皮由来、DSC、継代数0)を、該プレートに1ウェルあたり4×104細胞を1 mlの無血清培地に懸濁し、播種した。無血清培地としては、1) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、2) PDGF-BB (10 ng/ml)を溶解させた StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、3) Mosaic hMSC SF Culture Medium (sup+, BD)、4)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたMosaic hMSC SF Culture Medium (sup+, BD)を用いた。5%炭酸ガス存在下にて37℃で培養した。2, 7 日目に細胞を顕微鏡観察し(図3:40倍)、1視野あたりの細胞数を計測した(図4)。
【0031】
例3.無血清培地(HFDM-1)を用いたDS細胞の増殖について
12ウェルプレート(BD)をCELLStartTM (Lifetechnologies)でコーティングし、凍結保存したDS細胞(43歳男性頭皮由来、DS、継代数0)を、該プレートに1ウェルあたり4×104細胞を1 mlの無血清培地に懸濁し、播種した。無血清培地としては、1) HFDM-1 (-) 培地(細胞科学研究所)、2) HFDM-1 (+) 培地(細胞科学研究所)、3) PDGF-AA (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地、及び4) PDGF-BB (10 ng/ml) を溶解させた HFDM-1 (-) 培地を用いた。5%炭酸ガス存在下にて37℃で培養した。2, 4, 7日目に細胞を顕微鏡観察し(図5:40倍;4日目については示されていない)、1視野あたりの細胞数を計測した(図6)。
【0032】
例4.無血清培地(StemProSFM CTS sup+/StemProSFM CTS sup-)を用いたDS細胞の増殖について
12ウェルプレート(BD)をCELLStartTM (Lifetechnologies)でコーティングし、凍結保存したDS細胞(43歳男性頭皮由来、DS、継代数0)を、該プレートに1ウェルあたり4×104細胞を1 mlの無血清培地に懸濁し、播種した。無血清培地としては、1) StemProSFM CTS(sup-, Lifetechnologies)、2) PDGF-BB (10 ng/ml)を溶解させた StemProSFM CTS(sup-, Lifetechnologies)、3) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、4)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたStemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)を用いた。5%炭酸ガス存在下にて37℃で培養した。2, 4, 7日目に細胞を顕微鏡観察し(図7:40倍;4日目については示されていない)、1視野あたりの細胞数を計測した(図8)。
【0033】
例5.無血清培地(StemProSFM CTS sup+)を用いた繊維芽細胞の増殖について
12ウェルプレート(BD)をCELLStartTM (Lifetechnologies)でコーティングし、凍結保存したヒト皮膚繊維芽細胞を、該プレートに1ウェルあたり4×104細胞を1 mlの無血清培地に懸濁し、播種した。無血清培地としては、1) StemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)、2)PDGF-BB(10 ng/ml)を溶解させたStemProSFM CTS(sup+, Lifetechnologies)を用いた。5%炭酸ガス存在下にて37℃で培養した。2, 7日目に細胞を顕微鏡観察し(図9:40倍)、1視野あたりの細胞数を計測した(図10)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10