(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502318
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/12 20060101AFI20190408BHJP
【FI】
F16J15/12 A
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-507850(P2016-507850)
(86)(22)【出願日】2015年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2015057512
(87)【国際公開番号】WO2015137491
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2018年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-51581(P2014-51581)
(32)【優先日】2014年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】柳 得徳
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−067790(JP,A)
【文献】
実開平04−004560(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強環にガスケット本体が一体に成形され、
前記ガスケット本体が、前記補強環の軸方向一端及び他端に位置して内周側かつ互いに軸方向背反する方向を向いた第一及び第二のシールビードを有し、
前記第一及び第二のシールビードのうち一方が、一方の相手部材に形成された装着溝の端面に密接され、前記第一及び第二のシールビードのうち他方が、他方の相手部材の端面に密接されるガスケットにおいて、
前記補強環の軸方向の長さは、該補強環の軸方向一端が前記装着溝の端面又は前記他方の相手部材の端面に接触した状態で、該補強環の軸方向他端が、前記他方の相手部材の端面又は前記装着溝の端面に近接する長さに形成されていると共に、
前記補強環の軸方向一端は、前記第一のシールビードの外周部から突出しており、
前記第一のシールビードは、前記第二のシールビードより剛性が低く、
前記第二のシールビードは、前記補強環の軸方向一端が前記装着溝の端面又は前記他方の相手部材の端面に接触した状態で、前記他方の相手部材の端面又は前記装着溝の端面に対する締め代を形成し、
前記装着溝内に前記ガスケット本体を装着時に、前記第一のシールビード側にガスケット本体を偏在した状態で、第一のシールビードを補強環でバックアップしてセットされるガスケット。
【請求項2】
前記装着溝への未装着時において、前記第二のシールビードの前記補強環の内周側への突出量及び前記補強環から互いに軸方向背反する方向への突出量が、前記第一のシールビードよりも大きく形成されている請求項1記載のガスケット。
【請求項3】
前記ガスケット本体が軸方向圧縮力を受けた際の第一のシールビードの変形量が、第二のシールビードの変形量よりも大きい請求項1又は2記載のガスケット。
【請求項4】
前記ガスケット本体の外周面に、前記装着溝の内周面に密接する外周ビードが形成されている請求項1、2又は3記載のガスケット。
【請求項5】
前記外周ビードは、前記補強環の軸方向他端近傍の前記ガスケット本体の外周面に形成されている請求項4記載のガスケット。
【請求項6】
第一のシールビードは、先端が丸く形成されている請求項1〜5の何れかに記載のガスケット。
【請求項7】
前記補強環の軸方向一端及び他端の内周縁が面取りされている請求項1〜6の何れかに記載のガスケット。
【請求項8】
前記補強環の軸方向一端の内周縁先端から、凹曲面を経て前記第一のシールビードが形成されている請求項1〜7の何れかに記載のガスケット。
【請求項9】
前記補強環の軸方向一端の面取りされている内周縁先端から、凹曲面を経て前記第一のシールビードが形成されている請求項7に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスケットに関し、詳しくは、補強環に一体に成形されたガスケット本体に、互いに軸方向背反する方向へ突出する二つのシールビードが設けられたガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
ケースの接続部等の間のシール手段として用いられるガスケットとして、ガスケット本体の軸方向両端に位置して、内周側かつ互いに軸方向背反する方向を向いた一対のシールビードを一体に有するものが知られている(特許文献1)。
【0003】
本発明者は、このような一対のシールビードを一体に有するガスケットとして、
図5に示す構造のものを案出した。
【0004】
このガスケット100は、金属製の補強環101に、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるガスケット本体102を一体に成形した構造を有している。ガスケット本体102は、その軸方向両端に位置して、内周側かつ互いに軸方向背反する方向を向いた一対のシールビード102a、102bが一体に成形されている。シールビード102a、102bは、ほぼ同形状であり、ほぼ同程度の剛性を有するように形成されている。
【0005】
このガスケット100は、密封対象空間Sを構成する一方の部材200の開口端部に形成された装着溝201内に配置される。そして、この装着溝201の端面201aと、他方の部材300の端面300aとの間で軸方向へ圧縮されることによって、部材200、300間の隙間δを密封するものである。
【0006】
ここで、装着時にガスケット100に掛かる軸方向の圧縮力は、ガスケット100のシールビード102a、102bが内周側へ倒れ込もうとする力Fとして作用する。一方、密封対象空間S内の流体圧力Pは、シールビード102a、102bの内周面が受けることで、シールビード102a、102bが端面300a、201aに密接する力として作用する。これによって、ガスケット100はシールビード102a、102bによるセルフシール機能を発揮し、部材200、300間の隙間δを密封する。
【0007】
しかし、このガスケット100は、密封対象空間S内の流体圧力Pが高圧である場合、双方のシールビード102a、102bの微小な剛性差によって、
図6に示すように、装着溝201内のセット位置が軸方向一方の剛性が低いシールビード側(
図6ではシールビード102a)へずれる挙動を示すことがある。この場合、締め代が減少する側のシールビード(
図6ではシールビード102b)は、流体圧力Pによって隙間δにはみ出すように外周側へ大きく変形し、密封対象空間S内の流体が点線矢印のように吹き抜けてしまうおそれがある。
【0008】
しかも、このガスケット100は、流体圧力のON、OFFが繰り返されると、装着溝201内で軸方向一方へのずれと復帰とを大きなストロークで繰り返す結果、シールビード102a、102bが摩耗するおそれもある。
【0009】
一方、補強環にガスケット本体を一体に成形したガスケットであって、軸方向両端に位置する一対のリップ部にそれぞれ厚みの差を設けるようにしたものが特許文献2に記載されている。
【0010】
このガスケットは、補強環が軸方向一端側に偏在するように配置されており、この補強環が相手部材間の隙間を閉塞する位置となるように装着溝への挿入時の向きが規定されている。そして、補強環側に配置される一方のリップ部の厚みを、他方のリップ部の厚みよりも薄く形成することにより、装着溝内で軸方向に圧縮された際に、補強環側に配置される厚みの薄いリップ部の方が大きく変形するようにしている。これにより、補強環が常に隙間を閉塞するようにガスケットが軸方向に位置決めされ、リップ部の隙間へのはみ出しを補強環によって確実に阻止することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1−261564号公報
【特許文献2】実開平6−32834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2は、流体圧力のON、OFFが繰り返されたとしても、装着溝内のガスケットの軸方向位置を規定できる点で優れている。しかし、装着溝への挿入方向が限定されるという新たな課題がある。
【0013】
そこで、本発明は、装着溝内への挿入方向にかかわらず、軸方向背反する方向を向いた一対のシールビードによって、優れたシール性を維持することができるガスケットを提供することを課題とする。
【0014】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
1.補強環にガスケット本体が一体に成形され、
前記ガスケット本体が、前記補強環の軸方向一端及び他端に位置して内周側かつ互いに軸方向背反する方向を向いた第一及び第二のシールビードを有し、
前記第一及び第二のシールビードのうち一方が、一方の相手部材に形成された装着溝の端面に密接され、前記第一及び第二のシールビードのうち他方が、他方の相手部材の端面に密接されるガスケットにおいて、
前記補強環の軸方向の長さは、該補強環の軸方向一端が前記装着溝の端面又は前記他方の相手部材の端面に接触した状態で、該補強環の軸方向他端が、前記他方の相手部材の端面又は前記装着溝の端面に近接する長さに形成されていると共に、
前記補強環の軸方向一端は、前記第一のシールビードの外周部から突出しており、
前記第一のシールビードは、前記第二のシールビードより剛性が低く、
前記第二のシールビードは、前記補強環の軸方向一端が前記装着溝の端面又は前記他方の相手部材の端面に接触した状態で、前記他方の相手部材の端面又は前記装着溝の端面に対する締め代を形成しているガスケット。
【0017】
2.前記装着溝への未装着時において、前記第二のシールビードの前記補強環の内周側への突出量及び前記補強環から互いに軸方向背反する方向への突出量が、前記第一のシールビードよりも大きく形成されている前記1記載のガスケット。
【0018】
3.前記ガスケット本体が軸方向圧縮力を受けた際の第一のシールビードの変形量が、第二のシールビードの変形量よりも大きい前記1又は2記載のガスケット。
【0019】
4.前記ガスケット本体の外周面に、前記装着溝の内周面に密接する外周ビードが形成されている前記1、2又は3記載のガスケット。
【0020】
5.前記外周ビードは、前記補強環の軸方向他端近傍の前記ガスケット本体の外周面に形成されている前記4記載のガスケット。
【0021】
6.第一のシールビードは、先端が丸く形成されている前記1〜5の何れかに記載のガスケット。
【0022】
7.前記補強環の軸方向一端及び他端の内周縁が面取りされている前記1〜6の何れかに記載のガスケット。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、装着溝内への挿入方向にかかわらず、軸方向背反する方向を向いた一対のシールビードによって、優れたシール性を維持することができるガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】
図1に示すガスケットが装着溝内に装着された直後の状態を示す縦断面図
【
図3】
図1に示すガスケットが装着溝内に装着されて軸方向に圧縮された状態を示す縦断面図
【
図4】
図1に示すガスケットを
図2、
図3に示す装着状態と逆向きで装着した状態を示す縦断面図
【
図6】従来のガスケットの装着後に、内部密閉空間内に圧力が加わった状態の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るガスケットの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明に係るガスケットを単体で示す縦断面図、
図2は、
図1に示すガスケットが装着溝内に装着された直後の状態を示す縦断面図、
図3は、
図1に示すガスケットが装着溝内に装着されて軸方向に圧縮された状態を示す縦断面図である。
【0027】
ガスケット1は、例えば自動車のオートマチックトランスミッション(AT)におけるATケースとクラッチケースとの接合部のシール手段などとして使用され、補強環11にガスケット本体12が一体に成形された構造を備える。
【0028】
補強環11は、ガスケット1に強度を与えるために設けられるものであり、例えば低炭素快削鋼等の適宜金属によって筒状に形成されている。補強環11の軸方向(
図1の上下方向)の長さは、
図3に示すように、補強環11の軸方向一端11aが、一方の相手部材2に形成された環状の装着溝21の端面21aに接触した状態で、該補強環11の軸方向他端11bが、他方の相手部材3の端面3aに近接する長さに形成されている。具体的には、補強環11の軸方向一端11aが装着溝21の端面21aに接触した状態であるとき、補強環11の軸方向他端11bは、装着溝21の開口縁21bと同等又は開口縁21bよりも僅かに下方に位置する長さに形成されている。
【0029】
ガスケット本体12は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるものであって、補強環11の内周面及び外周面に一体に成形されている。
【0030】
ガスケット本体12は、補強環11が埋設された基部121と、この基部121と連続し、補強環11の軸方向両端に位置して内周側かつ互いに軸方向背反する方向を向いた第一のシールビード122及び第二のシールビード123とを有している。
【0031】
ガスケット本体12の基部121は、補強環11の内周面から軸方向他端11bを跨いで外周面に亘って成形されている。従って、補強環11の軸方向他端11bは、薄肉状のガスケット本体12によって被覆されている。一方、補強環11の軸方向一端11aは、第一のシールビード122の外周部から突出しており、ガスケット本体12によって被覆されていない。
【0032】
第一のシールビード122は、第二のシールビード123に比較して薄肉でボリュームが小さく形成されている。このため、第二のシールビード123より剛性が低い。言い換えれば、第二のシールビード123は、第一のシールビード122に比較して厚肉でボリュームが大きく形成されることによって、第一のシールビード122より剛性が高い。これにより、ガスケット本体12が軸方向の圧縮力を受けた際、第一のシールビード122の変形量の方が、第二のシールビード123の変形量よりも大きいものとなっている。
【0033】
ガスケット1が装着溝21へ装着されていない状態において、
図1に示すように、第二のシールビード123の補強環11の内周側への突出量D1は、第一のシールビード122の補強環11の内周側への突出量D2よりも大きく形成されている(D1>D2)。なお、突出量D1は、補強環11の内周面から第二のシールビード123の内周端までの幅であり、突出量D2は、補強環11の内周面から第一のシールビード122の内周端までの幅である。
【0034】
また、第一及び第二のシールビード122、123の補強環11から互いに軸方向背反する方向への突出量についても、第二のシールビード123の突出量H1は、第一のシールビード122の突出量H2よりも大きく形成されている(H1>H2)。なお、突出量H1は、補強環11の軸方向他端11bから第二のシールビード123の軸方向端部までの長さであり、突出量H2は、補強環11の軸方向一端11aから第一のシールビード122の軸方向端部までの長さである。
【0035】
第二のシールビード123は、詳細には後述するが、第一のシールビード122が完全につぶれて補強環11の軸方向一端11aが装着溝21の端面21aに接触した状態となっても、相手部材3の端面3aに対して十分な締め代を形成することができるように突出量D1、H1が設定されている。
【0036】
このように第一及び第二のシールビード122、123の突出量D1、D2、H1、H2を形成することにより、第一及び第二のシールビード122、123に剛性差を容易に付与することができる。
【0037】
ガスケット本体12には、基部121の外周面に、なだらかな山形の断面をなして隆起形成された外周ビード124を有している。ガスケット1は、この外周ビード124の頂部における外径が、装着溝21の内径よりも僅かに大きくなるように形成されている。これにより、ガスケット1の外周側でも、装着溝21の内周面21cと密接してシールすることができると共に、装着溝21に対するガスケット1の同心性を維持することができるため、本発明において好ましい。
【0038】
次に、このガスケット1を装着溝21内に装着した際の作用について説明する。
【0039】
このガスケット1は、
図2に示すように、一方の相手部材2に形成された環状の装着溝21内に挿入されて配置される。
図2、
図3では、第一のシールビード122側が装着溝21の端面21a側となるように挿入された状態を示している。
【0040】
ガスケット1が装着溝に21に挿入され、相手部材2、3が不図示のボルト等によって締め付けられると、ガスケット1は相手部材3に押されて、第一及び第二のシールビード122、123が軸方向の圧縮力を受ける。このとき、第二のシールビード123は厚肉でボリュームが大きく高剛性であるのに対し、第一のシールビード122は剛性が低く、変形し易いため、この第一のシールビード122が優先的に変形して内周側へ倒れ込む。その結果、ガスケット1は、装着溝21内において、第一のシールビード122側、すなわち装着溝21の端面21a側に偏在した状態にセットされる。
【0041】
なお、第一のシールビード122の先端は、図示するように丸い曲面に形成されていることが好ましい。この装着時の第一のシールビード122の内周側への倒れ込みをスムーズに行うことができるからである。
【0042】
このセット状態において、ガスケット1は、
図3に示すように、補強環11の軸方向一端11aが、装着溝21の端面21aと接触するか又は端面21aに近接した状態となっている。これにより第一のシールビード122は、内周側へのそれ以上の倒れ込みがなくなる。また、外周ビード124は、径方向に圧縮された状態で装着溝21の内周面21bと密接する。
【0043】
その後、相手部材2、3の締め付けが完了すると、軸方向の圧縮力は、第二のシールビード123が内周側に倒れ込むか又は圧縮されることにより吸収される(
図3中の実線で示す。)。第二のシールビード123は、第一のシールビード122が完全につぶれて補強環11の軸方向一端11aが装着溝21の端面21aに接触した状態となっても、相手部材3の端面3aに対して十分な締め代(
図3中の破線で示す。)を有しているためである。これにより、ガスケット1は、第一のシールビード122が装着溝21の端面21aに密接し、第二のシールビード123が相手部材3の端面3aに密接して密封対象空間Sをシールする。
【0044】
この装着状態において、第一及び第二のシールビード122、123は、ガスケット1の内周側から高圧の流体圧を受けると、それぞれに流体圧がかかる。このとき、低剛性の第一のシールビード122は、装着溝21の端面21aと当接又は近接した位置にある補強環11の軸方向一端11aによって外周側からバックアップされているため、外周側への変形量が抑制され、外周側にはみ出すおそれはなく、優れたシール性を維持する。
【0045】
また、ガスケット1は、第一のシールビード122に流体圧が掛かることで、装着溝21の端面21aに押し付けられるが、装着状態におけるガスケット1は、装着溝21の端面21a側に偏在していることと、補強環11の軸方向一端11aが該端面21aに当接してそれ以上の移動が阻止されることとにより、ガスケット1の軸方向の位置はほとんど変化しない。従って、流体圧のON、OFFが繰り返し作用しても、ガスケット1が軸方向へ大きなストロークで移動を繰り返すことによる摩耗等が発生するおそれはない。
【0046】
本実施形態に示すように外周ビード124が設けられる場合、この外周ビード124が装着溝21の内周面21bに密接するため、ガスケット1の軸方向の変位を抑制する効果をさらに高めることができる効果も得られる。このため第一及び第二のシールビード122、123や外周ビード124の摩耗を有効に抑制することができる。
【0047】
一方、相対的に高剛性の第二のシールビード123が流体圧を受けると、外周側に向けて変形しようとする力が作用するが、第一のシールビード122よりも肉厚でボリュームが大きく、相手部材3の端面3aに対して十分な締め代を有して密接しているため、外周側に大きく倒れ込むことはない。このため、第二のシールビード123は端面3aに対してより密接してシール性を向上させることができる。このため、このガスケット1は、第二のシールビード123においても優れたシール性を発揮する。
【0048】
しかも、第二のシールビード123の近傍のガスケット本体12内に補強環11の軸方向他端11bが配置されているため、この補強環11の軸方向他端11b側が第二のシールビード123の外周側への倒れ込みを阻止するように機能する。このため、第二のシールビード123が隙間δにはみ出すようなことはない。
【0049】
なお、本実施形態に示す外周ビード124は、補強環11の軸方向他端11b近傍のガスケット本体12の外周面に配置されている。これにより、流体圧によって補強環11の軸方向他端11b及び第二シールビード123に、装着溝21の内周面21bに向けて変形しようとする力が作用しても、これを外周ビード124が受け止め、第二のシールビード123の外周側への変形を効果的に阻止することができるため、本発明において好ましい態様である。これにより、第二のシールビード123が隙間δにはみ出すことがない効果をより高めることができる。
【0050】
補強環11の両端内周縁には、図示するように、面取り11cが形成されていることが好ましい。これにより、第一及び第二のシールビード122、123に流体圧による外周側への変形力が作用した際、補強環11の両端内周縁との間に応力が集中して接着剥がれや亀裂が発生するのを有効に防止することができる。
【0051】
以上説明したガスケット1は、第一のシールビード122側が装着溝21の端面21a側となるように装着溝21内に挿入されるようにしたが、このガスケット1は、装着溝21内への挿入方向が全く限定されない。従って、このガスケット1は、
図4に示すように、
図2、
図3とは逆向きに装着されてもよい。すなわち、
図4に示すように、ガスケット1は、相対的に高剛性の第二のシールビード123が装着溝21の端面21aに密接され、低剛性の第一のシールビード122が相手部材3の端面3aに密接された状態となるように装着されるようにしてもよい。これによっても上記同様の優れたシール性を発揮する効果を奏する。
【0052】
従って、ガスケット1は、装着溝21内への挿入方向にかかわらず、第一及び第二のシールビード122、123によって、優れたシール性を維持することができる。
【0053】
この場合、相手部材2、3間の隙間δは低剛性の第一のシールビード122の外周側に存在することになる。しかし、装着後のガスケット1の位置は、相対的に低剛性の第一のシールビード122がつぶれることで、装着溝21内における相手部材3側に偏在するため、補強環11の軸方向一端11aが隙間δを内周側から塞ぐように配置される。これにより、第一のシールビード122が流体圧によって隙間δへはみ出すことを有効に防止することができる。
【0054】
よって、本発明に係るガスケット1によれば、挿入方向を何れにしても、相手部材2、3間の隙間δに第一又は第二のシールビード122、123がはみ出すことがなく、隙間δからの流体の漏れを確実に防止することができる。このため、ガスケット1の装着時に挿入方向に注意を払う必要がなくなり、作業性も大幅に向上する。
【符号の説明】
【0055】
1:ガスケット
11:補強環
11a:軸方向一端
11b:軸方向他端
11c:面取り
12:ガスケット本体
121:基部
122:第一のシールビード
123:第二のシールビード
124:外周ビード
2、3:相手部材
3a:端面
21:装着溝
21a:端面
21b:開口縁
21c:内周面
S:密封対象空間
δ:隙間