(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにてプルラン換算で測定した数平均分子量(Mn)が13000以上で、かつ分散度が3.0を超え4.5以下で、かつ含水率が3〜35重量%であることを特徴とする、エチレンイミン重合体。
前記触媒は、少なくとも1つのハロゲン元素および親水性置換基を有する水溶性有機化合物、またはハロゲン元素を含む水溶性の無機酸である、請求項2に記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
請求項1に記載のエチレンイミン重合体、または請求項2〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたエチレンイミン重合体を含む、フィルム印刷インク用接着促進剤。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレンイミン重合体は紙加工剤、接着剤、粘着剤、塗料、インキ、繊維処理剤、凝集分離剤、化粧品、トイレタリー、分散剤などの分野で幅広く利用されてきた。しかし、エチレンイミンは非常に反応性に富むために重合温度、分子量、分岐構造などを制御して重合を行うことが困難であるため種々のエチレンイミンの重合方法が提案されている。
【0003】
特許文献1、特許文献2、特許文献3には、高分子量を有する25〜50%エチレンイミン重合体水溶液の製造方法が開示されている。具体的には水、1,2−ジクロロエタンに代表されるポリハロゲン化合物といった触媒の存在下にエチレンイミンを重合することを特徴とするエチレンイミン重合体水溶液の製造方法が提案されている。
【0004】
得られるエチレンイミン重合体水溶液は現行工業レベルで最も分子量が高いエチレンイミン重合体水溶液である。具体的にはゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」とも称する)にて分子量標準物質プルラン換算で測定した数平均分子量(以後、Mnと略す)は10000以上を有する。
【0005】
上記の方法で得られるエチレンイミン重合体は、接着剤などの用途に使用された場合に、その使用量に対して接着性が十分ではなく、より少量で十分な接着性を確保できるエチレンイミン重合体の開発が求められていた。
【0006】
一方、高分子量になるほどエチレンイミンの付加量の増加は鈍化し長時間の反応を有する。そのため高分子量のポリエチレンイミン製造は生産性が悪く、工業的規模では著しく不利であるという問題もあった。
【0007】
さらに、高分子量になるほど、得られるエチレンイミン重合体によっては時間の経過とともに表面にゲル状の被膜を形成しやすくなるという現象がみられた。この被膜はエチレンイミン重合体中に混入すると接着剤などの用途に使用された場合に、接着性が低下するなどの影響を受ける。そのため、使用前に表面被膜の除去が必要となるなど使用上に影響が出ていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一形態は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにてプルラン換算で測定した数平均分子量(Mn)が13000以上で、かつ分散度が3.0を超え5.0以下で、かつ含水率が3〜35重量%であることを特徴とする、エチレンイミン重合体である。
【0016】
このような構成とすることにより、密着性、接着性に優れ、かつ表面被膜形成が抑制されたエチレンイミン重合体が得られる。
【0017】
本発明のエチレンイミン重合体が密着性、接着性に優れ、かつ表面被膜形成が抑制されるのは、以下のような理由によると考えられる。
【0018】
エチレンイミン重合体は、その構造中にアミノ基を有しており、アミノ基は水酸基と水素結合、カルボキシル基とイオン結合、カルボニル基とは共有結合を形成する。また、極性基(アミノ基)と疎水基(エチレン基)を構造に有するため異なる物質と結合する。本発明により得られるエチレンイミン重合体は、従来品に比べて平均分子量を同等に、すなわち分子量分布を狭くすることにより密着性、接着性を維持しつつ、一方、密着性、接着性に影響しない程度に分子量分布を若干広くする、すなわち低分子量エチレンイミン重合体の比率を適度に増加させることにより表面被膜形成を抑制できるものと考えられる。
【0019】
また、適度な水分が表面近くに存在することで大気中の炭酸ガスとポリエチレンイミンとの反応が抑制され、結果的に表面被膜の形成が抑制されると考えられる。
【0020】
なお、上記のメカニズムは推定によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0022】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0023】
<エチレンイミン重合体>
エチレンイミン重合体は、エチレンイミンを重合した水溶性ポリマーであり、1級、2級、3級アミンを含む分岐構造を有する高分子化合物である。他の高分子化合物に比べて反応性に富み、アルデヒド化合物、アルキルハライド化合物、イソシアネート化合物、エピクロルヒドリン等のエポキシ化合物、シアナマイド化合物、グアニジン化合物、尿素、カルボン酸化合物、環状酸無水化合物、アシルハライド化合物と反応させることにより用途に応じて化学的に変性したものを使用することもできる。
【0024】
本発明におけるエチレンイミン重合体は、高い数平均分子量を有し、かつ狭い分子量分布を有するが、分子量分布が狭い、すなわち分散度が小さいほど高密着性、高接着性を発揮するが、一方で表面被膜を形成しやすくなるため、高密着性、高接着性と表面被膜抑制を両立するためには数平均分子量と分子量分布は適度なバランスが必要である。具体的には、数平均分子量(Mn)は13000以上であり、好ましくは19000以上であり、より好ましくは25000以上である。数平均分子量が、13000未満であると接着促進剤などに使用した際に十分な密着性、接着性が得られにくい。また、数平均分子量は50000以下であることが好ましく、より好ましくは45000以下、さらに好ましくは40000以下である。数平均分子量が50000以下であれば過度な攪拌力を要さず重合時に均一に攪拌できるため好ましい。
【0025】
また、分散度は、3.0を超え、5.0以下であり、好ましくは3.0を超え、4.5以下、より好ましくは3.1〜4.0である。分散度が3.0以下では表面被膜を形成しやすくなり、5.0を超えると接着性低下の要因となる低分子量成分が多くなり好ましくない。
【0026】
本発明のエチレンイミン重合体の水分の濃度(含水率と記載することもある)は、3〜35質量%、好ましくは4〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%である。水分濃度(含水率)が3質量%未満では表面被膜を形成しやすくなり、水分濃度(含水率)が35質量%を超えると種々の用途に使用した場合に効果が十分に発現しにくくなったり、他の問題が生じる場合があることから、使用上の用途が制限されたりすることから、好ましくない。
【0027】
本発明における重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてプルランを標準物質とした公知の方法で測定できる。GPCの測定条件として、本発明では、以下の条件を採用するものとする。
測定装置;島津製作所製
使用カラム;昭和電工製 Shodex Asahipac GF−710HQ+GF−510HQ+GF−310HQ
溶離液;0.2モル%−モノエタノールアミン水溶液に酢酸を添加してpH5.1に調整したもの
標準物質;プルランP−82(和光純薬製)
検出器;示唆屈折計(島津製作所製)
本発明に係るエチレンイミン重合体の製造方法については特に制限はないが、本発明の他の形態によれば、エチレンイミン100質量%に対し1.0〜40質量%の水とエチレンイミン100質量%に対し0.3〜5質量%の触媒の存在下で、エチレンイミンを90℃を超えて150℃以下の温度条件で重合する工程を含むエチレンイミン重合体の製造方法が提供される。このような方法によれば、脱水が容易であり、本願に係る含水率が3〜35質量%のエチレンイミン重合体を得ることができるため、製品化に有利である。以下、本形態に係る製造方法の好ましい実施形態について、説明する。
【0028】
[エチレンイミン]
本形態に係る製造方法に用いるエチレンイミンには特に制限はなく、その合成方法としては、例えば、液相でハロゲン化エチルアミンを濃アルカリにより分子内閉環する方法、モノエタノールアミン硫酸エステルを熱濃アルカリにより分子内閉環する方法(以下、液相法ともいう)、あるいはモノエタノールアミンを触媒的気相分子内脱水反応させる方法(以下、気相法ともいう)などが挙げられる。
【0029】
気相法により得られるエチレンイミンとしては、モノエタノールアミンの気相法により得られるエチレンイミンを含有する反応混合物を簡単な蒸留操作に供して回収した粗エチレンイミンを重合用の原料とすることができる(特開2001−213958号公報)。なお、粗エチレンイミンを重合する場合は、例えば特開2001−261820号公報に記載のとおり、エチレンイミン重合体(以下、粗エチレンイミン重合体ということもある。)を簡便な精製操作に供して、工業的に要求される品質基準に適合した高純度エチレンイミン重合体を得ることができる。
【0030】
前記エチレンイミン含有反応混合物を高度に精製して得られる精製エチレンイミンもエチレンイミン重合体合成の原料として利用することができる。この場合、前記エチレンイミンを含有する反応混合物中には、種々の重質不純物や軽質不純物が含まれる。重質不純物としては、例えば、未反応のモノエタノールアミン;エチレンイミンのオリゴマー、アセトアルデヒドなどのケトン類;アセトアルデヒドと原料のモノエタノールアミンとが反応して生成するシッフ塩基などが挙げられる。また、軽質不純物としては、例えば、アンモニア、メチルアミンおよびエチルアミンの軽質アミン類;アセトニトリルなどが含まれる。これら不純物を高度の精製工程を経て除去した後、得られた精製エチレンイミンを重合反応に供する。
【0031】
高度の精製工程を経て得られる精製エチレンイミンを用いてエチレンイミン重合体を製造する技術は、高度の精製工程の実施にともなう生産コストのアップを免れず、工業的に有利とはいえない。このため、粗エチレンイミンが、エチレンイミン原料として好適に用いられる。
【0032】
[触媒]
触媒としては、エチレンイミンの重合に一般に用いられているものを使用でき、特に限定されないが、例えば、塩酸、臭化水素酸などハロゲンを含む鉱酸、リン酸、二酸化炭素、有機酸、三フッ化ホウ素などルイス酸、クロロメタン、ブロモメタンなどの有機ハロゲン化合物、2−クロロエタノール、3−クロロ−1−プロパノール、3−クロロ−2−プロパノール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、3−クロロベンジルアルコール、3−クロロ−2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−(2−クロロエトキシ)エタノール、2−ブロモエタノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオールなどのモノハロゲンアルコール化合物を使用でき、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
このうち触媒としては、少なくとも1つのハロゲン元素および親水性置換基を有する水溶性有機化合物、または少なくとも1つのハロゲン元素を含む水溶性の無機酸が好ましい。
【0034】
触媒が水溶性である場合、エチレンイミンおよび水を含む反応系に取り込まれやすいため高分子量のエチレンイミン重合体が得られやすい。また、触媒によって架橋が起こることを防ぐ観点からモノハロゲン化物が好ましい。特に、取扱いや安全性の観点から揮発性の低い(沸点の高い)水溶性モノハロゲン有機化合物が好ましい。水溶性モノハロゲン有機化合物としては液体で中性に近いためモノハロゲンアルコールが好ましく、反応性や得られるエチレンイミン重合体の分子量や分散度の観点からモノクロロアルコールがより好ましい。
【0035】
モノクロロアルコールとしては、水溶性の観点から炭素数/極性基数が4以下のものが好ましく、より好ましくは炭素数/極性基数が3以下であり、さらに好ましくは炭素数/極性基数が2以下である。具体的な化合物としては、2−クロロエタノール、3−クロロ−1−プロパノール、および2−クロロエトキシエタノールが好ましい。これらのうち最も好ましくは、2−クロロエタノールである。
【0036】
ハロゲン原子を一つ含む無機酸としては、塩素を含む無機酸が好ましい。塩素を含む無機酸としては、特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩酸、および過塩素酸といった塩素酸素酸、クロロ炭酸、クロロ硫酸、およびクロロ亜硫酸といったクロロ酸、ならびに塩酸が挙げられ、これらのうち好ましくは塩酸である。
【0037】
触媒添加量の下限としては、エチレンイミン100質量%に対して0.3質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上である。触媒添加量が、0.3質量%未満であると十分な重合反応速度が得られないため好ましくない。また、触媒添加量の上限としては、5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%未満である。触媒添加量が5質量%を超えると十分に大きな分子量が得られにくいため好ましくない。
【0038】
[水]
水添加量の下限としては、エチレンイミン100質量%に対して1.0質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以上である。水添加量が1質量%未満である場合、急激な重合反応が起こりやすく、重合反応を制御しにくいため好ましくなく、得られたエチレンイミン重合体は表面被膜も形成しやすい。また、水添加量の上限としては40質量%以下であり、好ましくは20質量%以下である。水添加量が40質量%を超えると本願発明のエチレンイミン重合体を得られないだけでなく、水分を除去するために必要なエネルギーが膨大となり、製品のコスト増につながるため好ましくない。
【0039】
[触媒、水、エチレンイミンの添加方法]
触媒の添加方法としては、特に限定されないが、例として、次の3つの方法のいずれかを用いることができる。
【0040】
(一括添加)
反応容器にあらかじめ所定量の水と触媒を入れ、これに所定温度でエチレンイミンを添加する方法である。
【0041】
(連続添加)
反応容器に所定量の水を入れ、これに所定温度でエチレンイミンと触媒を連続で添加する方法である。なお、連続添加する際にはモノマーが過剰となり急激に反応が進行することを防止するために、触媒の添加をエチレンイミンの添加よりも15分程度早く開始することが好ましい。
【0042】
(断続添加)
反応容器に所定量の水を入れ、これに所定温度でエチレンイミンを連続で添加する共に触媒を数回に分けて断続的に添加する方法である。
【0043】
上記3つの方法はいずれを用いても本発明に係るエチレンイミン重合体を得る。より大きな分子量を得る観点から、上記3つの方法のうち、最も好ましくは連続添加であり、続いて断続添加、一括添加の順に好ましい。
【0044】
エチレンイミンの添加の速度は、急激な反応を抑制し反応を制御する観点から上記3つの触媒添加方法いずれの場合においても、反応速度、重合装置の容量や除熱能力を考慮して決められる。一般に、0.5〜20時間で添加が完了するような添加速度で連続的に添加することが好ましく、より好ましくは4〜10時間で行うのが良い。
【0045】
なお、連続添加、断続添加において重合温度を制御するために重合中に添加速度を変えることもできる。
【0046】
また、添加時には重合温度を制御するために攪拌翼などを使用して攪拌しながら添加を行うことが好ましい。
【0047】
[反応条件]
本発明において、エチレンイミンを重合する際の反応溶液温度の下限は90℃超であり、好ましくは100℃以上である。反応溶液の温度が90℃以下の場合、得られる重合体の分散度が小さくなり、表面被膜を形成しやすくなる。また、反応溶液の温度の上限は150℃以下であり、好ましくは130℃以下である。反応溶液の温度が150℃を超えると、高分子量のエチレンイミン重合体が得られにくい。
【0048】
本発明において、反応熱を除去するために必要に応じて温水、水蒸気または加熱したオイル等の熱媒を使用してよい。熱媒の上限温度は、特に制限はなく、前記反応溶液の温度より低く、反応温度を制御できる熱媒温度であればよい。
【0049】
前記熱媒の温度を維持することにより、エチレンイミンの反応中に反応溶液が局部的に高粘度になることが抑制され、高効率の撹拌により局部滞留がなく均一な重合をさせることができるため、エチレンイミンの反応を均一かつ効率的に行うことができるようになる。
【0050】
本発明において熟成とは、エチレンイミンの重合終了後、好ましくは供給したエチレンイミンの95%以上が消費された後の重合のことを表し、反応液を50〜150℃、好ましくは70〜100℃で熟成させる。50℃以上であれば、熟成を効率的に行うことができる。また、150℃以下であれば、生成したエチレンイミン重合体の熱分解を防ぎ、高品質の重合体を得ることができる。熟成時間は、通常、0.5〜20時間であり、好ましくは1〜10時間である。
【0051】
本発明において、エチレンイミンを重合する際には酸素濃度2体積%以下の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、より好ましくは1体積%以下、さらに好ましくは0.5体積%以下である。酸素濃度が2体積%以下であればエチレンイミン重合体の着色を抑制でき、保存又は貯蔵中の着色を抑えることができる。不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、又はアルゴンを用いることができ、好適には窒素が用いられる。
【0052】
重合時の圧力は常圧、減圧、加圧のいずれでもよく、通常、0〜10MPaG、好ましくは0〜2MPaGで行う。反応液の熟成は、通常、0〜10MPaG、好ましくは0〜2MPaGで行う。ここで、MPaG(メガパスカルゲージ)はゲージ圧力のことである。
【0053】
重合反応および熟成処理に使用する反応器は、特に限定されないが、重合中に粘度が高くなるため、除熱、拡散、反応促進のため攪拌機を備えており、反応を制御するために温度計、冷却装置を備えているものが通常用いられる。
【0054】
反応後のエチレンイミン重合体の精製は、例えば、特開2013−71967号公報に記載の不活性ガスのバブリングといった方法によって行うことができる。
【0055】
本発明のエチレンイミン重合体の含水率を3〜35質量%に調整する方法は、特に限定されず、重合により得られた溶液の含水率が上記範囲内の値である場合には、別途の含水率を調整する工程を特段行う必要はない。一方、本発明に係る製造方法の一実施形態は、重合の後に含水率を調整する工程をさらに含む。含水率を調整する工程において含水率を調整する具体的な手段について特に制限はなく、例えば、エチレンイミンの重合反応、熟成して得られたエチレンイミン重合体に水を添加するか(含水率は増加する)、水分を蒸留などにより除去する(含水率は低下する)ことにより行うことができる。例えば、エチレンイミン重合体水溶液の水を除去する方法としては、水の沸点以上の温度で加熱することにより容易に水分量を低下させることができる。また、減圧脱水、窒素などキャリアガスの併用、水共沸溶媒の併用などを組合せすることにより、さらに脱水を容易に行うことができる。
【0056】
本発明に係るエチレンイミン重合体およびその変性品は、工業的には、抄紙用薬剤、紙・布・OPP、PETフィルムのラミネートアンカー剤、重金属キレート剤、金属メッキ用添加剤、泡消火剤、塩ビゾル系接着剤の密着性改良、エポキシ樹脂の架橋剤、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)・ポリ酢酸ビニル(PVAc)・ポリビニルアルコール(PVA)の密着性改良、粘着剤の改質、フィルム印刷インク用接着促進剤、塗料の密着性改良、顔料などの分散剤、酵素固定化剤、石油採掘用セメント、水処理(凝結剤)、スケール防止剤、ガラス・炭素繊維の表面改質、染料の固着剤、繊維・食器用洗剤、金属腐食抑制剤、木材保存剤、ヘアケア製品、炭酸ガス・塩素・窒素酸化物・酸化硫黄・硫化水素・アルデヒドの吸着剤、ポリビニルアセタール系のフィルム用滑り止め剤、ポリアミド・ポリアセタール・ポリオレフィン・ポリエステル・PVC・ポリカーボネートなどの熱可塑性ポリマーの耐熱・耐油性向上、ポリオレフィンの静電気防止剤、環状酸無水物基を含有するポリマーの架橋剤、吸水樹脂の表面改質剤、といった用途に広く使用することができる。
【0057】
これらのうち好ましい用途はフィルム印刷インク用接着促進剤である。具体的にはポリビニルブチラールをバインダーとしたインク組成物に本発明のエチレンイミン重合体を配合するとフィルムへの接着性が向上する。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた容量0.5Lの反応器に水18.5gと2−クロロエタノール7.03gを仕込み加熱した。100℃に昇温後、エチレンイミン添加開始し最終的には110℃に保ちながら8時間かけて370gのエチレンイミンを添加した。エチレンイミンを添加終了後、110℃で1時間熟成しエチレンイミン重合体を得た。GPCにて分子量を測定した結果、Mn:19320、Mw/Mn:3.1であった。
【0060】
(実施例2)
最終的な重合温度を120℃とした以外は実施例1と同様にしてエチレンイミン重合体を得た。GPCにて分子量を測定した結果、Mn:17800、Mw/Mn:3.3であった。
【0061】
(実施例3)
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた容量0.5Lの反応器に水18.5gと38%塩酸4.87gを仕込み加熱した。100℃に昇温後、エチレンイミン添加開始し最終的には120℃に保ちながら8時間かけて370gのエチレンイミンを添加した。エチレンイミンを添加終了後、110℃で1時間熟成しエチレンイミン重合体を得た。GPCにて分子量を測定した結果、Mn:17050、Mw/Mn:3.1であった。
【0062】
(実施例4)
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた容量200リットルの反応器に水98gを仕込み加熱した。100℃に昇温後、2−クロロエタノール28gとエチレンイミン1274gをそれぞれ、反応液の温度を100℃に保ちながら12時間かけて添加した。エチレンイミンの溶液(または組成物)を添加終了後、100℃で1時間熟成しエチレンイミン重合体を得た。GPCにて分子量を測定した結果、Mn:13969、Mw/Mn:3.4であった。
【0063】
(比較例1)
重合温度を90℃に変更した以外は実施例1と同様にしてエチレンイミン重合体を得た。GPCにて分子量を測定した結果、Mn:17494、Mw/Mn:2.6であった。
【0064】
(比較例2)
重合温度を90℃に変更した以外は実施例3と同様にしてエチレンイミン重合体を得た。GPCにて分子量を測定した結果、Mn:16621、Mw/Mn:2.0であった。
【0065】
(比較例3)
温度計、還流冷却器、撹拌機を備えた容量0.5リットルの反応器に水18.5gを仕込み加熱した。90℃に昇温後、硫酸7.03gとエチレンイミン370gをそれぞれ、反応液の温度を90℃に保ちながら8時間かけて添加した。エチレンイミンの溶液(または組成物)を添加後、90℃で1時間熟成しエチレンイミン重合体を得た。GPCにて分子量を測定した結果、Mn:6300、Mw/Mn:1.5であった。
【0066】
(実施例5)表面被膜評価
実施例1、2、4および比較例1で得られた各エチレンイミン重合体の水分を3質量%、5質量%、10質量%に調整し、エチレンイミン重合体の各5g(水分を含む重量)をフタ付管ビンに充填し、密閉下、80℃、5時間、恒温槽で加熱し表面被膜の形成を観察した。その結果を下記の表1に示す。なお、上記実施例・比較例において、合成後の水分量はいずれも5質量%であったことから、3質量%品については蒸留により水分を蒸発させることにより濃縮して調製した。一方、10質量%品については水を添加して希釈することにより調製した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、本発明に係る実施例1、実施例2および実施例4は、比較例1に比べ被膜形成が抑制されている。
【0069】
(実施例6)用途評価(インクの接着促進剤)
エタノール59gにポリビニルブチラール10gと各エチレンイミン重合体1gを溶解し、さらに顔料として酸化チタン30gを混合してインクを調製した。延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)に22.9μmの厚さでインクを塗布し、90℃、5分間の条件で乾燥した。次にインクの接着性を以下の二つの方法で評価した。結果を下記の表2に示す。
【0070】
(1)塗膜にセロファンテープ(Cellophane tape)を貼った後、90°の角度でセロファンテープを剥離したときのインクの剥離状態を目視で判定した(90℃剥離テスト)。
【0071】
(2)印刷したフィルムを細く折り曲げ、その後、フィルムを広げた時のインクの剥離状態を目視で判定した(折り曲げ剥離テスト)。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、本発明に係る実施例1および実施例4は、90℃剥離テスト、折り曲げ剥離テストのいずれにおいてもインクの剥離が見られなかった。
【0074】
一方、接着促進剤を含まないサンプルでは、両試験においてインクの剥離が多く発生した。また、比較例3では剥離が見られ、特に折り曲げ剥離テストでは接着促進剤を含まない場合と同程度に多量の剥離が見られた。このことから、エチレンイミン重合体の分散度が小さくても分子量が十分でない場合には、接着性が劣ることがわかる。以上の結果から、本願発明に係るエチレンイミン重合体は、インク用接着促進剤として高い密着性を有していることが理解できる。
【0075】
また、各実施例および各比較例について、重合反応を行った際の水分量、重合温度およびエチレンイミンの添加時間を、数平均分子量(Mn)および分散度(Mw/Mn)の結果と併せて下記の表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
比較例1と実施例1との比較や、比較例2と実施例3との比較より、重合温度を高くすることにより、分子量は同程度またはやや大きいものとなり、分散度はやや大きい重合体を得ることができることがわかる。また、比較例2と比較例3との比較から、ハロゲンを含む触媒を用いることで、より高分子量でかつ分散度も大きい重合体が得られることが推認される。