【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトの掲載日 平成29年3月9日 (2)ウェブサイトのアドレス http://www.wa−con.co.jp/thermocatch/ (3)公開者 ワコン株式会社 (4)公開された発明の内容 ワコン株式会社は、自社のウェブサイトにて、西田耕平が発明した保冷システムおよび蓄冷体について公開すると共に、同日付けでその製品(サーモキャッチUT)の営業活動を開始した。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記蓄冷体は、前記蓄冷プレート同士を重ね合わせる枚数を選択して重ねることができ、前記展開状態から前記蓄冷プレートを重ねる枚数を増やすに従って前記蓄冷プレートによる保冷時間を長くすることができるように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄冷体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の保冷剤は保冷時間を長くするために、ある程度の厚み(20mm以上)があった。保冷剤の厚みが大きくなると、保冷剤を凍結させるために必要な凍結時間も長くなってしまう。つまり、保冷時間と凍結時間は比例関係にある。
凍結時間が長いと、蓄冷プレートの回転率が悪化し、その分、余分に蓄冷プレートも凍結庫も用意しなければいけない。
【0006】
そこで、本発明は薄い連結式の保冷剤を提案せんとするものである。
保冷時間は、蓄冷プレートを重ねて使うことで全体の厚みを持たせることにより、長時間になる。凍結する時は、蓄冷プレートを展開することにより、薄くなるかめ、短時間で凍結させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、凍結可能な保冷剤を備えた蓄冷プレートがヒンジを介して複数連結された蓄冷体を備え、前記保冷剤の凍結時には前記蓄冷体を展開状態で凍結させると共に使用時には前記蓄冷プレートを重ね合わた状態と展開した状態とを選択して使用することができるように構成したことを特徴とする保冷システムを提供する。前記蓄冷プレートは、20mm未満の厚みであることが望ましい。
【0008】
本発明実施に際して用いる好ましい冷凍室は、少なくとも1つの前記蓄冷体を上から吊り下げることができるものである。前記蓄冷体を、展開状態で吊り下げて、前記蓄冷プレート同士が非接触状態を保った状態で、前記冷凍室内に配置すれば、凍結時間を短縮する点から有利であり、省エネルギーの観点からも好ましい。他方使用に際しては、前記蓄冷体は、前記蓄冷プレート同士を重ね合わせる枚数を選択して重ねることができるものであることが好ましい。これにより、前記展開状態から前記蓄冷プレートを重ねる枚数を増やすに従って前記蓄冷プレートによる保冷時間を長くすることができるため、必要な保冷時間や荷物の量の変化に応じて、蓄冷プレート同士を重ねるか否か重ねるとしてその枚数を設定することにより、最も好ましい保冷状態を得ることができる。
【0009】
本発明は、前記保冷システムに適用することができる蓄冷体を提供する。この蓄冷体は、複数の蓄冷プレートが、重ね合わせ可能に且つ展開可能に、連結部によって連結されたものである。前記蓄冷プレートは、持ち手部と前記保冷剤を収納する収納部とを備えた合成樹脂製のケースから構成され、前記連結部は、2枚の前記蓄冷プレート同士を少なくとも180度回動できるように接続するものである。そして、展開状態において、複数の前記蓄冷プレートが並べて配置され、且つ、重ねた状態において、1枚の前記蓄冷プレートの上に他の前記蓄冷プレートを重ねる枚数を選択して重ねることができるように構成されている。従って、前記展開状態で凍結させることにより、前記重ねた状態で凍結させるよりも、凍結時間を短縮することができ、前記蓄冷プレートを重ねる枚数を増やすに従って前記蓄冷プレートによる保冷時間を長くすることができるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、今までの保冷時間と凍結時間の比例関係を打ち破り、長い保冷時間と短い凍結時間を同一の保冷剤で実現することができる蓄冷体と、この蓄冷体を用いた保冷システムを提供することができたものである。
また、保冷温度についても、展開した薄い状態で使えば、より冷えるし、厚い状態で使えば、高めの温度になるので、本発明に係る蓄冷体の使い方で、さまざまな保冷温度帯を設定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
この実施の形態にかかる保冷システムは、
図1に示すように、冷凍室11と、保冷庫21と、蓄冷体31とを備え、目的物に対して最適な保冷条件を提供する。
【0013】
この保冷システムは、現在の物流システムにおいて急速に発達しつつある個別配送に適用することができる中規模の保冷システムに適用され得る。ここで中規模の保冷システムとは、コンテナ車のような大型の移送手段に保冷システムではなく、あるいは、一人の人が手や肩に下げて運ぶことができる保冷バッグのような小型の移送手段に最適な保冷システムでもない中規模なシステムである。言い換えれば、通常の人が一人の力では持ち上げることが出来ず、他方、コンテナ車や大型トラックなどの9人以上の人が乗ることができる大型の輸送手段には用いることができるものの逆に非効率的であると考えられる中規模の保冷システムに最適なシステムに好適に適用できるものである。
【0014】
したがって、冷凍室11は、家庭用冷凍冷蔵庫のような小さな冷凍室ではなく、人が入ることができる程度の大きさの冷凍室が好適に採用できる。
また保冷庫21にあっても、カゴ車などの人が入ることができる程度の大きさの保冷室が好適に採用できるものである。
【0015】
このような中規模な保冷システムにあっては、電気式の冷凍システムが従来一般的に用いられていたが、電気式の冷凍システムにあっては電気の供給が不可欠であるためその適用範囲が限られていた。これに対して、この実施例の冷凍システムであっては、保冷庫21の温度条件を保つために電気を必要とせず、蓄冷体31をまとめて冷凍することができる充分な大きさと能力を備えた冷凍室11を採用することにより、集約的に熱エネルギーを蓄冷体31に与えることによって、省エネルギー効果の高い保冷システムを提供するものである。
【0016】
(冷凍室11について)
冷凍室11は、上述の通り中規模の冷凍室で好適に利用することができ、具体的には、少なくとも人の上半身を無理なく入れることができる程度の保冷室が好適に採用されるものである。この冷凍室11の内部には、
図2に示すように、複数の蓄冷体31が展開状態で、且つ、互いの蓄冷体31の間に空間が置かれた状態で収納される。具体的には、冷凍室11の上部にバー状や棚状などの保持部12が設けられる。この保持部12は、複数の吊り下げ部13を互いに間隔をおいて配置することができ、この吊り下げ部13によって、それぞれの蓄冷体31が位置決めされて配置される。これによって、吊り下げ部13同士が互いに非接触状態で、より好ましくは冷気の流通可能な間隔をおいて、配置されることになる。その際、吊り下げ部13は上下に配列されるものであっても構わないが、より好適には蓄冷体31を上方から吊り下げて配置できるものであることが適当である。さらに具体的には、吊り下げ部13は蓄冷体31を吊り下げて保持できるものであり、より具体的には、展開状態の蓄冷体31を上方から保持できるフックや、クリップやハンガーなどの、目的物を上方から着脱可能に支持することができるものが適している。
【0017】
(保冷庫21について)
保冷庫21は、移動させることができない固定式のものであっても構わないが、この実施の形態にあっては、
図3に示すように、カゴ車22に登載された移動可能な保冷庫21として実施されている。
【0018】
カゴ車22は、キャスターなどの車輪23と、その上方に配置されたカゴ24とを備える。カゴ24は、目的物である荷物の周りを取り囲むように配置されるものであり、具体的には、矩形の床の3方に配置される壁面と、矩形の床の残る1方に必要に応じて配置される扉面とを備えたものである。これらの壁面と扉面とは、固定されたものであってもよいが、互いに分離可能であったり、別々に折り畳むことができるものであったりしてもよい。
【0019】
このカゴ24の各面の外側または内側に、断熱材25が配置される。断熱材25は、発泡スチロールなどの発泡材や真空断熱材などの、保冷庫に好適に適用することができる断熱材を、適宜選択して用いることができるものである。
このカゴ24は、カゴ車22の目的物の収納空間(言い換えれば保冷空間)を構成する直方体の全ての面(即ち6面)に配置されることが最も好ましいが、その一部にはカゴ24が配置されない個所があっても構わない。例えば、上記の3つの壁面に設けたり、左右の2つの壁面のみに設けたりしてもよく、さらに天井面に設けることも可能である。
【0020】
この保冷空間内に、蓄冷体31が配置される。蓄冷体31は、断熱材25に沿って、望ましくは断熱材25と接触した状態で配置されることが最も適当であるが、蓄冷体31を構成する蓄冷プレート33と断熱材25との間には、すき間があっても構わない。
保冷庫21には、蓄冷体31を所定の位置に着脱可能に配置するための配置部材26が設けられている。この配置部材26は、この例では蓄冷体31を吊り下げるベルトとして実施されており、このベルトによってカゴ車22内の断熱材25から蓄冷体31を吊り下げるものである。このベルトには、バックルなどの接続具を設けて蓄冷体31を着脱可能に吊り下げるようにすることが望ましい。なお、図示はしないが、配置部材26を断熱材25に沿って設けられた枠組みとして実施してもかまわない。また、カゴ24の骨組みを構成する桟や格子などを兼ねるものであってかまわないし、より具体的には、カゴ24を構成するパイプ材やバー材を兼ねるものであってもかまわない。
【0021】
この蓄冷体31の量は、目的物の量、必要とされる保冷温度、必要とされる保冷時間の少なくとも1つの条件に従って、決定することができる。また配置の形態にあっても、配置部材26によって吊り下げられる形態や、複数の蓄冷プレート33を重ね合わせた状態で配置される形態や、目的物の上に載せた状態で配置される形態など、種々の形態を採用することができるものである。
【0022】
(蓄冷体31について)
蓄冷体31は、
図2及び
図3に示すように、複数(図の例では4枚)の蓄冷プレート33が、重ね合わせ可能に且つ展開可能に、連結部32によって連結されたものである。蓄冷体31は、保冷庫21の保冷空間内に、保冷対象である目的物の量、必要とされる保冷温度、必要とされる保冷時間の少なくとも1つの条件に従って、蓄冷プレート33を重ねるか展開するかを選択して配置され得るように構成されている。
【0023】
具体的には、各蓄冷プレート33は、
図4に示すように、持ち手部34と収納部35とを備えた合成樹脂製のケースから構成されている。収納部35には固体や液体(ゾルまたはゲルを含む)の保冷剤が収納されている。この保冷剤は複数に分割されたものであってもよく分割されていないものであってもよい。また保冷剤に収納部35を注入注出するための口部36を設けてもよい。持ち手部34は、ケースを厚み方向に貫通するもので、人が手を挿入して掴むことができるものであることが適当であり、蓄冷プレート33の端に設けられることが好ましいが、人が持ち易い形状であれば貫通孔でなくてもかまわないし、ケースの端に設けなくてもかまわない。また、持ち手部34の個数は、収納部35の面積を大きくする観点からは1個でよいが、2個以上設けてもかまわない。
図に示す蓄冷プレート33の形状は、平面視縦長の長方形であるが、正方形や他の多角形場合によっては円形であってもかまわない。
【0024】
これらの蓄冷プレート33は、連結部32によって少なくとも180度回動できるように接続されている。具体的には、蓄冷プレート33の4つの角に凹部を形成し、各凹部に貫通孔37を設けて、貫通孔37にリング状などの連結部32を通すことによって、隣り合う蓄冷プレート33を回動可能に接続している。展開状態においては、複数の蓄冷プレート33が直線上に配置される。蓄冷プレート33同士の配置構造は、直線状のほか十文字状、L字状であっても構わないが、冷凍室11内への収納状態や保冷庫21内における配置状態も考慮すれば、直線状であることが最も適当である。
【0025】
これらの蓄冷プレート33は、重ね合わせ状態において、1枚の蓄冷プレート33の上に他の全ての蓄冷プレート33を重ねることができるように構成されている。直線状に連結した場合には、連結部32が左右交互に位置するように、つづら折り状に重ねられる。蓄冷プレート33の形状や大きさは同一であることが、冷凍室11や保冷庫21における配置の点、持ち運びの点、生産性の点などにおいて好ましいが、形状や大きさが異なる蓄冷プレート33を連結することも可能である。
【0026】
連結部32は、ピンや凹凸嵌合によるヒンジ構造や、軟質合成樹脂など折り曲げ可能な素材によるものなど、適宜選択して採用することができる。この連結部32は蓄冷プレート33の厚み方向において、中央などであってもかまわないが、連結される二つの蓄冷プレート33が重なる際に、接触する面に近い位置に配置することが、蓄冷プレート33の厚みにかかわらず良好に折り重ね得る点で好ましい。従って、つづら折り状に重ねる場合には、連結部32を設ける位置は、厚み方向において交互に反対の位置に設けられることになる。また連結部32は着脱可能な構造を備えたものであることも好ましく、着脱可能にすることによって蓄冷プレート33を増減可能として、用途や規模に応じて最適な枚数の蓄冷プレート33を採用することができる。
【0027】
各蓄冷プレート33の持ち手部34は、重ね合わせ状態において、蓄冷プレート33の持ち手部34同士が、重なる位置に配置されることが好ましい。蓄冷プレート33の形状や大きさが同一である場合、持ち手部34は、各蓄冷プレート33において同じ位置に配置されるため、つづら折り状に重ねる場合には、一つの連結部32を挟んで隣り合う蓄冷プレート33同士を反対向きに配置する(上下の向きを交互に異なるものとする)ことによって、つづら折り上に蓄冷プレート33を重ねた場合、同じ位置に持ち手部34が位置することになり、すべての蓄冷プレート33の持ち手部34に掌を通して持つことができる。また、
図2、
図3の例では、上端の蓄冷プレート33では上部に持ち手部34が来るようにし、下端の蓄冷プレート33では下部に持ち手部34が来るようにしているため、4枚の蓄冷プレート33を二つ折りにして持ち運びするときに、2枚の蓄冷プレート33の持ち手部34に掌を通して持つことができる。
【0028】
蓄冷プレート33の厚みは、5mm以上20mm未満程度の薄さとすることが好ましく、10〜15mm程度とすることがより好ましい。1枚の蓄冷プレート33の厚みが小さすぎると、保冷剤の量が少なくなりすぎ、十分な保冷効果を挙げることができない恐れがある。他方、蓄冷プレート33の厚みが大きすぎると、重ね合わせた際の保冷時間の調整の幅や保冷温度の調整の幅が狭くなる恐れがある。また、保冷時間の調整の幅と保冷温度の調整の幅は、用いられる蓄冷プレート33の枚数が多くなるほど自由度が増す。従って、2枚以上でその必要性に応じて、例えば4枚、6枚、8枚もしくはそれ以上など、変更して実施することができる。
【0029】
(システムの運用)
この実施の形態にかかる保冷システムの運用例を
図1を参照して示す。宅配便を例にとって説明すると、配送センター41に備え付けられた冷凍室11内で蓄冷体31の保冷剤を凍結させる。その際、蓄冷体31は展開状態とし、冷凍室11内に吊り下げる。具体的には、最も上の蓄冷プレート33の持ち手部34を利用して、吊り下げ部13から吊り下げる。前述の通り、持ち手部34は互いに間隔を置いて設けられているため、具体的には蓄冷プレート33の厚みよりも大きな間隔を置いて設けられているため、吊り下げられた蓄冷プレート33同士の間には空間ができることになる。これによって、蓄冷体31は最も表面積が大きい状態で凍結させられることになり、蓄冷プレート33同士の間に空間ができることによって、各蓄冷体31の表面に冷気が均一に通されるため、最も効率的な冷却効果を得ることができ、短時間での凍結が可能となる。
【0030】
次に、凍結した蓄冷体31を、カゴ車22に設置された保冷庫21の内部に配置する。その際、蓄冷体31は展開状態とし、保冷庫21の断熱材25に沿って吊り下げる。具体的には、最も上の蓄冷プレート33の持ち手部34を利用して、カゴ24の上の方から吊り下げる。なお求められる保冷時間に応じて、蓄冷プレート33同士を重ねて配置することもでき、さらに重ねる蓄冷プレート33の枚数を調整することによって、保冷時間を変更することもできる。
【0031】
使用する蓄冷体31の個数や重ね合わせの形態は、保冷庫21内に収納される目的物10の量、必要とされる保冷温度、必要とされる保冷時間の少なくとも1つの条件に従って、変更することができる。
蓄冷体31を展開状態で配置すると、全体の表面積が大きくなるため、蓄冷体31の1個当たりの保冷温度が低くなる反面、保冷時間が小さくなる。蓄冷プレート33を2枚3枚4枚と重ねていくことによって、全体の表面積が小さくなるため、保冷温度が高くなる反面、保冷時間が大きくなる。なお保冷温度にあっては、用いられる保冷剤の種類によっても調整することができる。
【0032】
これらの蓄冷体31の配置は、移送中においても変更することができる。宅配便を例にとって説明すると、宅配の開始時には、カゴ車22の収納量のほぼ一杯に配送物(すなわち目的物10)が搭載され、これがトラック42などに積載されるもので、蓄冷体31は展開状態でカゴ車22の内壁面に沿って配置される。このような展開状態では、保冷時間が短くなる。ところが、宅配便の配達が半ばに達すると、目的物10の量も半減するため、その段階で蓄冷体31を吊り下げられた状態から、蓄冷プレート33同士が重ねられた状態に、一部あるいは全部を変更することによって、保冷時間が延長される。このように、本システムにあっては、保冷庫21内に収納される目的物10の量、必要とされる保冷温度、必要とされる保冷時間の少なくとも1つの条件に従って、蓄冷体31の形態を途中で変更することもできる。
【0033】
なお保冷時間は、計算や運用実績に応じて予測することができるため、宅配便の配達中に余剰の蓄冷体31を配送センターなどに設置された冷凍室11で凍結させておき、配送センターに戻った配送車両内の蓄冷体31を凍結済みの蓄冷体31と交換したり、凍結の蓄冷体31を装着した新たなカゴ車22を用意したりすることによって、配送車両をフル稼働することができる。しかも、蓄冷体31の厚みを薄くして展開状態で凍結させることにより、凍結に要する時間を短縮できるため、事業所が保有すべき蓄冷体31の総量を少なくすることができる。
【0034】
以上、保冷の条件は宅配便に限らず様々であるが、本システムにあっては、目的物の種類や量になど、求められる条件に応じて、効率的で省エネ効果の高い蓄冷体の運用が可能となる。
【0035】
(実施の形態のまとめ)
上記の実施の形態は、凍結可能な保冷剤を備えた蓄冷プレートと、前記蓄冷プレートを複数連結した蓄冷体と、前記蓄冷体を収納し、前記蓄冷プレートの保冷剤を凍結することができる冷凍室と、前記蓄冷体と、これらにより保冷される目的物とを収納する保冷庫とを備えた保冷システムを提供するものである。
【0036】
前記蓄冷体は、少なくとも2枚の前記蓄冷プレートが重ねられるように、且つ、展開できるように、前記蓄冷プレート同士を連結したものである。
前記冷凍室は、前記蓄冷体を位置決めして配置することができる保持部を備える。
前記保持部は、複数の前記蓄冷体のそれぞれを、展開状態で、且つ、前記蓄冷プレート同士が非接触状態を保った状態で、前記冷凍室内に配置することにより、凍結時間を短縮できるように構成されている。
そして、前記保冷庫内に収納される前記目的物の量、必要とされる保冷温度、必要とされる保冷時間の少なくとも1つの条件に従って、前記蓄冷プレートを展開するか否か及び重ねる枚数を選択して、前記保冷庫内に収納することができることにより、保冷時間及び保冷温度をコントロールすることができるものである。
【0037】
前記蓄冷体は、展開状態において、複数の前記蓄冷プレートが並べて配置されるように、互いの前記蓄冷プレート同士を連結したものであり、且つ、1枚の前記蓄冷プレートの上に他の全ての前記蓄冷プレートを重ねた状態とすることができるように構成することができる。その結果、前記蓄冷体は、前記展開状態で凍結させることにより、前記重ねた状態で凍結させるよりも、凍結時間を短縮することができ、前記蓄冷プレートを重ねる枚数を増やすに従って前記蓄冷プレートによる保冷時間を長くすることができる。
【0038】
前記冷凍室の前記保持部は、1つの前記蓄冷体を上から吊り下げて保持することができる吊り下げ部を複数備える。それぞれの吊り下げ部は、互いに間隔をおいて配置され、前記蓄冷体は、展開状態で前記吊り下げ部に吊り下げられることによって、前記蓄冷プレート同士が非接触状態を保った状態で、前記冷凍室内に配置することができる。
【0039】
本発明は、前記保冷システムに適用することができる蓄冷体を提供する。この蓄冷体は、複数の蓄冷プレートが、重ね合わせ可能に且つ展開可能に、連結部によって連結されたものである。前記蓄冷プレートは、持ち手部と前記保冷剤を収納する収納部とを備えた合成樹脂製のケースから構成され、前記連結部は、2枚の前記蓄冷プレート同士を少なくとも180度回動できるように接続するものである。そして、展開状態において、複数の前記蓄冷プレートが並べて配置され、且つ、重ねた状態において、1枚の前記蓄冷プレートの上に他の前記蓄冷プレートを重ねる枚数を選択して重ねることができるように構成されている。従って、前記展開状態で凍結させることにより、前記重ねた状態で凍結させるよりも、凍結時間を短縮することができ、前記蓄冷プレートを重ねる枚数を増やすに従って前記蓄冷プレートによる保冷時間を長くすることができるものである。
【0040】
なお、蓄冷体は種々の形態で実施することができるが、例えば、前記重ねた状態において、それぞれの前記蓄冷プレートの前記持ち手部同士が、重なる位置に配置され、全ての前記持ち手部に手を通すことによって、全ての前記蓄冷プレートを片手で持つことができるように構成することも望ましい。
【0041】
また、前記保冷庫は、種々の形態で実施することができるが、例えばカゴ車に設けられたものとして実施することができる。前記カゴ車は、荷物の周りに配置されるカゴと、前記カゴの下に配置される車輪とを備え、前記保冷庫は、前記カゴに沿って配置される断熱材を備え、前記断熱材によって囲まれた内部空間が保冷空間とされたものとすることができる。
【実施例】
【0042】
以下本発明の理解を高めるために実施例を示すが、本発明はこの実施例に限定して理解されるべきではない。
【0043】
図4に示す蓄冷プレート33を厚み約1mmの合成樹脂により作成し、これに保冷剤を注入した。蓄冷プレート33の大きさは、315mm×210 mm×12 mmとした。
【0044】
比較例として、蓄冷プレート33の大きさを、315mm×210 mm×30 mmとした。
1枚の蓄冷体へ注入された保冷剤の量は、実施例500g、比較例1500gであった。
【0045】
凍結試験
実施例及び比較例の蓄冷プレートを設定温度-25℃の冷凍室に配置し、時間経過に伴う蓄冷体の温度変化を測定した。
その結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、実施例の蓄冷体にあっては約90分で凍結温度に達したのに対して、比較例の蓄冷体にあっては約180分を超える時間で凍結温度に達したものであり、実施例の蓄冷体は比較例の蓄冷体に比べて半分以下の時間で凍結できることが確認された。
【0046】
保冷試験
実施例及び比較例の蓄冷プレートを、
図3に示したようにカゴ車内に配置し、同カゴ車を設定温度(
図6では外気温と表記)5℃とした冷蔵室に配置し、時間経過に伴うカゴ車内の温度変化を測定し、その結果を
図6に示した。
【0047】
保冷剤の総量は、実施例及び比較例共に8000gとなるようにした。具体的には、実施例では合計16枚の蓄冷プレート(1枚当たり500gの保冷剤を収納)を用いて、
図2に示すように、4枚を縦に並べたものを1組として、カゴ車内の左右両側に2組ずつ配置した。比較例では合計6枚の蓄冷プレート(1枚当たり平均1333gの保冷剤を収納)を用いて、3枚を縦に並べたものを1組として、カゴ車内の左右両側に1組ずつ配置した。
図6から明らかなように、実施例の蓄冷体にあっては-20℃の保冷温度に達したのに対して、比較例の蓄冷体にあっては10℃高い-10℃の保冷温度に止まった。実施例の蓄冷体は、例えばアイスクリームでも解けない-20℃の保冷温度を、冷凍庫を備えていない冷蔵庫搭載車でドライアイスを用いずに維持して輸送できることが確認された。