(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502435
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】コークス炉補修用のモジュールブロックの水平配列方法
(51)【国際特許分類】
C10B 29/06 20060101AFI20190408BHJP
【FI】
C10B29/06
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-159927(P2017-159927)
(22)【出願日】2017年8月23日
(65)【公開番号】特開2019-38885(P2019-38885A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2018年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】599090615
【氏名又は名称】株式会社メガテック
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】隈元 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】上里 拓司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 要
(72)【発明者】
【氏名】李 崇基
【審査官】
齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/157871(WO,A1)
【文献】
特開2003−194542(JP,A)
【文献】
特開2016−38386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B29/06
G01C15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の燃焼室の壁体を補修する際に、前記壁体を構築するためのモジュールブロックを水平に配列する水平配列方法において、前記モジュールブロックを前記燃焼室の押出機側から消火車側まで配列して1段分のブロック列とし、該ブロック列の上方で線状の可視光領域のレーザー光を水平方向に照射し、前記ブロック列の上面と前記レーザー光の光軸との距離H(mm)をnケ所の測定点で測定し、得られた測定値の中の最小値HMINとi番目(1≦i≦n)の測定点における測定値Hiとの差Si=Hi−HMINに等しい厚みを有するスペーサーを前記i番目の測定点にて前記ブロック列の下面に当接させて挿入し、さらに前記スペーサーによって生じる隙間にモルタルを流し込むことによって、前記ブロック列の上面を水平に保つことを特徴とするモジュールブロックの水平配列方法。
【請求項2】
前記スペーサーが檜または松の材木から切り出した木製スペーサーであることを特徴とする請求項1に記載のモジュールブロックの水平配列方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の燃焼室の壁体を補修する際に、壁体を構築するためのモジュールブロックを水平に配列する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3はコークス炉の要部を模式的に示す水平断面図であり、
図4は燃焼室壁体の例を模式的に示す斜視図である。
【0003】
一般にコークス炉は、
図3に示すように、石炭を乾留する炭化室2、燃料ガスを燃焼させる燃焼室1、燃焼排ガスの余熱を利用して燃料ガスや燃焼用空気を予め加熱する蓄熱室(図示せず)で構成され、燃焼室1と炭化室2は交互に配置される。つまり
図4に示すように、互いに隣接する炭化室2を隔離する耐火煉瓦の壁体3の内部に燃焼室1が形成される。
【0004】
そしてコークス炉の操業中に、炭化室2へ石炭を装入し、さらに燃焼室1で発生する燃焼熱によって乾留した後、得られたコークスを炭化室2から排出する作業が繰り返し行なわれる。その結果、耐火煉瓦で形成される壁体3が損耗し、燃焼室1から燃焼排ガスや未燃焼の燃料ガスが炭化室2内に漏出するという問題が生じる。
【0005】
そこで、燃焼室1の壁体3を適宜補修しなければならないが、コークス炉の燃焼室1と炭化室2を全て停止して補修を行なうのはコークスの生産に支障を来たす。したがって、コークス炉を操業しながら、補修の対象となる燃焼室1のみ燃焼を停止して、補修を行なう。その補修工事の手順は、
(A)補修すべき燃焼室1の壁体3を解体して炉外へ搬出し、
その後、
(B)新たに壁体3を構築する
という2段階の工程に大別される。
【0006】
従来から上記(B)の工程では、作業員が炉内で耐火煉瓦を1個ずつ積み上げて壁体3と天井を構築している。しかし、耐火煉瓦の積み上げを手作業で行なうので、極めて長時間を要する。しかも作業環境が高温であるから、作業員の安全を確保するための装備が必要となり、施工コストの上昇を招く。
【0007】
そこで、耐火煉瓦を積み上げて、たとえば
図5に示すような所定の形状(すなわち壁体3の一部をなす形状)に成形した耐火煉瓦集合体9(以下、モジュールブロックという)を、炉外の地組場で予め製作しておき、上記(B)の工程でそのモジュールブロック9を炉内に搬入して、壁体3を構築する補修工事が普及し始めている。モジュールブロック9を用いることによって、補修工事を効率良く行なうことが可能となり、工期の短縮を図ることができる。しかも、作業員の負荷が軽減され、安全性が向上するという効果も得られる。
【0008】
ところが、補修工事でモジュールブロック9の配列に段差や傾斜が生じると、壁体3を構築するのが困難になるばかりでなく、壁体3の変形や倒壊を招く惧れがある。
【0009】
そこで、燃焼室の押出機側から消火車側まで耐火煉瓦の水平を保持して積み上げていく技術が検討されている。たとえば特許文献1には、耐火煉瓦の目地に可縮性を有するモルタルを用いて、耐火煉瓦を積み上げながら熱膨張を測定し、その膨張量に応じてモルタルの可縮率を調整することによって、最終的に天井煉瓦を水平に保持する技術が開示されている。
【0010】
しかしこの技術は、コークス炉内で耐火煉瓦を1個ずつ積み上げる過程で膨張量を調整するものであり、モジュールブロック9を用いた補修工事には適用できない。つまり、モジュールブロック9を地組場で製作する過程で熱膨張は発生しないので、モルタルの可縮率の調整は不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012-236896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の技術の問題点を解消し、モジュールブロックを用いて燃焼室の壁体を補修するにあたって、壁体の押出機側から消火車側までモジュールブロックを水平に配列し、ひいては耐火煉瓦を水平に配列することによって、モジュールブロックを積み上げて構築される壁体の変形や倒壊を防止できるモジュールブロックの水平配列方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、空間に水平線を明示する技術として、建築工事等で杭と杭の間の空間に張り渡される水糸に着目した。水糸は、建屋の外構工事(たとえばブロック積み等)や基礎工事などで、作業の基準となる水平線を示すために広く使用されている。
【0014】
しかし、燃焼室の壁体の補修工事は、既に説明した通り、コークス炉を操業しながら行なうので、高温の環境における作業となる。そのため、補修すべき燃焼室の壁体を解体して炉外へ搬出した後の空間に水糸を張り渡しても、その水糸が焼失するという問題が生じる。
【0015】
そこで本発明者は、高温の環境において水平線を明示する技術について検討し、線状に収束した可視光領域のレーザー光を水平方向に照射すれば、そのレーザー光は熱の影響を受けることなく、空間に水平線を示すことが可能であるという知見を得た。
【0016】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、コークス炉の燃焼室の壁体を補修する際に、壁体を構築するためのモジュールブロックを水平に配列する水平配列方法において、モジュールブロックを燃焼室の押出機側から消火車側まで配列して1段分のブロック列とし、ブロック列の上方で線状の可視光領域のレーザー光を水平方向に照射し、ブロック列の上面とレーザー光の光軸との距離H(mm)をnケ所の測定点で測定し、得られた測定値の中の最小値H
MINとi番目(1≦i≦n)の測定点における測定値H
iとの差S
i=H
i−H
MINに等しい厚みを有するスペーサーをi番目の測定点にてブロック列の下面に当接させて挿入し、さらにスペーサーによって生じる隙間にモルタルを流し込むことによって、ブロック列の上面を水平に保つモジュールブロックの水平配列方法である。
【0017】
本発明の水平配列方法においては、スペーサーが檜または松の材木から切り出した木製スペーサーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、モジュールブロックを用いて燃焼室の壁体を補修するにあたって、壁体の押出機側から消火車側までモジュールブロックを水平に配列し、ひいては耐火煉瓦を水平に配列することによって、モジュールブロックを積み上げて構築される壁体の変形や倒壊を防止できるので、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用してモジュールブロックを水平に配列する例を模式的に示す垂直断面図である。
【
図2】ブロック列の上面とレーザー光の光軸との距離を測定する測定点を示す平面図である。
【
図3】コークス炉の要部を模式的に示す水平断面図である。
【
図4】
図3の壁体の例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】モジュールブロックの例を模式的に示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【
図6】スペーサーの例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、押出機側から消火車側までモジュールブロック9(
図5参照)を配列して、1段分のブロック列4とした例を模式的に示す垂直断面図である。なお、
図1に示すブロック列4は第1段目である。
【0021】
ブロック列4を形成した後、そのブロック列4の上面にレーザー発振器5(以下、発振器という)を載置し、線状の可視光領域のレーザー光6を、押出機側および消火車側へ水平方向に照射する。発振器5は、高温の環境で使用されるので、断熱性の容器に収納して保護することが好ましい。
【0022】
あるいは、図示を省略するが、発振器5をコークス炉外に設置してレーザー光を押出機側から消火車側まで(あるいはその逆方向に)貫通させても良い。この場合は、発振器5を耐熱材で保護する必要はない。
【0023】
いずれの方法であっても、レーザー光6をブロック列4の上方で水平方向に照射する。その結果、ブロック列4の上面とレーザー光6の光軸との間に隙間が生じる。
【0024】
そして、ブロック列4の上面とレーザー光6の光軸との距離H(mm)を測定する。距離Hは、物差し等を用いて容易に測定できる。ただし、物差しの素材は、高温の環境で変形(たとえば膨張、溶解等)しない材質(たとえばセラミック等)が好ましい。
【0025】
距離H(mm)を測定する測定点の数nは2以上(n≧2)とする。
図2は、測定点7の配置の例である。
図1に示す発振器5から照射するレーザー光6を旋回させる、あるいは、発振器5を水平方向に移動させることによって、
図2に示す測定点7のそれぞれにおいて距離Hを測定することが可能となる。
【0026】
こうして測定した距離Hの測定値の中の最小値をH
MIN(mm)とする。距離Hが最小となる測定点(以下、最小H点という)は、ブロック列4の上面が最も高くなっている測定点であることを意味する。一方で、i番目(1≦i≦n)の測定点における距離Hの測定値をH
i(mm)とする。そして、S
i=H
i−H
MINを算出し、そのS
i値と同じ厚みT(mm)を有するスペーサー8(
図6参照)を、i番目の測定点にてブロック列4の下面に当接させて挿入する。その結果、i番目の測定点におけるブロック列4の上面を上昇させて、最小H点におけるブロック列4の上面と同じ高さに合わせることができる。
【0027】
1番目からn番目までの各測定点ごとに、この作業を行なうことによって、ブロック列4の上面全体を最小H点と同じレベルに合わせることができ、ひいてはブロック列4の上面を精度良く水平に保つことができる。
【0028】
次に、
図1に示す第1段目のブロック列4の上面に新たなブロック列(すなわち第2段目)を配列して、同様の作業を行なう。その結果、第2段目のブロック列の上面も水平に保つことができる。第3段目以降も同様の作業を繰り返し行なって、壁体3を構築していく。
【0029】
このときブロック列4の下面には、スペーサー8を挿入することによって、その下段のブロック列との間に隙間が生じる。その隙間にモルタルを流し込んで充満させて、モジュールブロック9を固定する。そうすることによって、水平なモジュールブロック9の配列、すなわち水平な耐火煉瓦の配列を精度良く、かつ長期にわたって維持できる。
【0030】
スペーサー8は、材木から切り出した木製のスペーサー8が好ましく、とりわけ檜または松が好適である。その理由は、モジュールブロックを据え付ける際、変形しない強度を持つ材料で、多種の厚みを容易に作成できる材料であり、また、コークス炉を立ち上げた後、スペーサーが燃焼炭化し、耐火物へ影響を与えないことで檜や松が適しているからである。
【0031】
スペーサー8の厚みTは既に説明した通りであるが、幅W(mm)と長さL(mm)は、モジュールブロック9の寸法や荷重に応じて適宜設定する。特に、木製のスペーサー8を使用した場合は、補修した燃焼室を稼動させることによって、スペーサー8が焼失して、モルタルに空洞が生じる。そのような空洞が生じても、モジュールブロック9が沈下しないように十分な量のモルタルを充満させる観点から、スペーサー8の幅Wと長さLを設定する。
【0032】
また、図示を省略するが、レーザー光6を鉛直方向に照射すれば、モジュールブロック9の側面を垂直に保ちながら、ブロック列4を積み上げることができる。つまり、モジュールブロック9の側面とレーザー光6の光軸との距離P(mm)を、複数の測定点で測定し、各測定点における距離Pの測定値が一定となるように、モジュールブロック9の配列を調整する。
【実施例】
【0033】
コークス炉(炉高6m、炉長34フリュー)の1燃焼室の壁体と天井を全て解体して炉外へ搬出(上記(A)の工程)した後、モジュールブロックを炉内に搬入して、第1段目のブロック列を形成(上記(B)の工程)した。次いで、ブロック列の上面に発振機を載置して水平方向にレーザー光を照射し、複数の測定点で距離Hを測定した。その結果、距離Hの最大値と最小値の差は3/1000mmであった。
【0034】
次に本発明の水平配列方法を適用し、ブロック列の上面とレーザー光の光軸との距離Hの測定結果に基づいて、檜製スペーサーを用いてブロック列の高さを調整し、かつモルタルで固定して、ブロック列の水平配列を行なった。そして再び、ブロック列の上面に発振機を載置して水平方向にレーザー光を照射し、複数の測定点で距離Hを測定した。その結果、距離Hの最大値と最小値の差は1/1000mmであった。
【0035】
つまり、本発明によればモジュールブロックの水平配列の精度が大幅に向上することが確認された。
【符号の説明】
【0036】
1 燃焼室
2 炭化室
3 壁体
4 ブロック列
5 発振器
6 レーザー光
7 測定点
8 スペーサー
9 モジュールブロック