特許第6502456号(P6502456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6502456害虫駆除用エアゾール製品及びそのノズル構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502456
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】害虫駆除用エアゾール製品及びそのノズル構造
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/06 20060101AFI20190408BHJP
   A01N 29/02 20060101ALI20190408BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   A01N25/06
   A01N29/02
   A01P7/04
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-204447(P2017-204447)
(22)【出願日】2017年10月23日
(62)【分割の表示】特願2013-5352(P2013-5352)の分割
【原出願日】2013年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-48171(P2018-48171A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2017年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 正昭
(72)【発明者】
【氏名】野田 幸雄
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−227662(JP,A)
【文献】 特開平11−221499(JP,A)
【文献】 特開平10−175686(JP,A)
【文献】 特開2010−077033(JP,A)
【文献】 特開2001−145842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N25/00−65/48
A01M7/00
B05B9/04
B65D83/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫に付着して気化熱によって害虫を冷却して行動を阻害する害虫行動阻害剤として1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを収容したエアゾール容器と、
上記エアゾール容器の上記害虫行動阻害剤を1秒間に2.5g以上5.0g以下噴射させるノズルとを備えた害虫駆除用エアゾール製品において、
上記ノズルには、上記エアゾール容器から流出した上記害虫行動阻害剤の流路が噴射口に連通するように形成され、
上記流路は、上記害虫行動阻害剤の流れ方向下流側の断面積が上流側に比べて大きく設定されており、上記流路の上流側の内径が1.6mm以上2.6mm以下に設定され、上記流路の下流側の内径が2.2mm以上3.4mm以下に設定され、
上記流路の上流側の内径をD1とし、上記流路の下流側の内径をD2としたとき、内径D1の流路の長さは5mm以上、内径D2の流路の長さは10mm以上に設定され、内径D1の流路の長さと内径D2の流路の長さとの合計が20mm以上200mm以下に設定され
D2/D1が1.07よりも大きく1.63以下に設定されていることを特徴とする害虫駆除用エアゾール製品。
【請求項2】
害虫に付着して気化熱によって害虫を冷却して行動停止させる害虫行動阻害剤として1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを収容したエアゾール容器に設けられ、該エアゾール容器の上記害虫行動阻害剤を1秒間に2.5g以上5.0g以下噴射させるノズル構造において、
上記エアゾール容器から流出した上記害虫行動阻害剤の流路が噴射口に連通するように形成され、
上記流路は、上記害虫行動阻害剤の流れ方向下流側の断面積が上流側に比べて大きく設定されており、上記流路の上流側の内径が1.6mm以上2.6mm以下に設定され、上記流路の下流側の内径が2.2mm以上3.4mm以下に設定され、
上記流路の上流側の内径をD1とし、上記流路の下流側の内径をD2としたとき、内径D1の流路の長さは5mm以上、内径D2の流路の長さは10mm以上に設定され、内径D1の流路の長さと内径D2の流路の長さとの合計が20mm以上200mm以下に設定され
D2/D1が1.07よりも大きく1.63以下に設定されていることを特徴とするノズル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばゴキブリ等の害虫を駆除する害虫駆除用エアゾール製品及びそのノズル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、殺虫液を含有した害虫駆除剤を液化石油ガス等の噴射剤と一緒にエアゾール缶に収容してなる害虫駆除用エアソールが使用されている。この種の害虫駆除用エアソールは、殺虫液を含有していることから、食品や食器類のある台所や乳幼児の近くでの使用を控えたり、一切使用しないようにしている実情がある。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1に開示されているように、代替フロンを有効成分とした噴射作用兼冷却作用を持つ害虫行動阻害剤を内部に収容する害虫駆除用エアゾールが知られている。このエアゾールでは、噴射した害虫行動阻害剤を害虫に付着させて害虫を冷却して麻痺させたり、殺すことが可能になる。特許文献1のエアゾールでは、代替フロンが有効成分であることから、食品や食器、乳幼児に対して悪影響を与え難く安全である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−227662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の害虫駆除用エアゾールは、害虫行動阻害剤を害虫に付着させ、害虫行動阻害剤の気化熱を利用して害虫を冷却することにより効力を得るようにしているので、害虫行動阻害剤を液体の状態で、しかも、できるだけ多く害虫に付着させる必要がある。これができなければ、殺虫液を含有した一般のエアゾールに対する優位性がなくなってしまう。
【0006】
ところが、一般的に害虫は素早く動き回るものが多い。従って、使用者がエアゾールを持って狙いを定めてエアゾールのボタンを操作し、害虫行動阻害剤を噴射したとしても、ボタンを操作するまでに時間的な遅れが発生して害虫が噴射中心から離れてしまう。また、使用者は害虫を発見した際にあわてていることが多く、エアゾールを持って正確に狙いを定めること自体が困難な場合が多い。このような場合、害虫行動阻害剤の害虫への付着量が少なくなるので、十分な効力が得られなくなる。
【0007】
また、例えばゴキブリ等の場合、使用者によっては近づくことができずに、ある程度離れたところから害虫行動阻害剤を噴射することがある。この場合、エアゾールの噴射口と害虫との離間距離が長くなるので、噴射された害虫行動阻害剤が害虫に到達するまでに雰囲気中での蒸発量が多くなり、液体の状態で害虫に付着する量が減少する。
【0008】
また、害虫行動阻害剤が引火性を持っている場合、使用時の安全性を十分に確保する必要がある。例えば、害虫行動阻害剤を噴射して何らかの原因によって引火した際、火がエアゾール側(使用者側)に達する現象、いわゆる逆火現象が起こらないようにする必要がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、害虫行動阻害剤の気化熱により害虫を冷却して駆除する場合に、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させることができるようにして効力を高めつつ、逆火現象が起こらないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、噴射した粒子径を大きくしながら、かつ、噴射速度を速めるようにした。
【0011】
第1の発明は、害虫に付着して気化熱によって害虫を冷却して行動を阻害する害虫行動阻害剤として1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを収容したエアゾール容器と、
上記エアゾール容器の上記害虫行動阻害剤を1秒間に2.5g以上5.0g以下噴射させるノズルとを備えた害虫駆除用エアゾール製品において、
上記ノズルには、上記エアゾール容器から流出した上記害虫行動阻害剤の流路が噴射口に連通するように形成され、
上記流路は、上記害虫行動阻害剤の流れ方向下流側の断面積が上流側に比べて大きく設定されており、上記流路の上流側の内径が1.6mm以上2.6mm以下に設定され、上記流路の下流側の内径が2.2mm以上3.4mm以下に設定され、上記流路の上流側の内径をD1とし、上記流路の下流側の内径をD2としたとき、内径D1の流路の長さは5mm以上、内径D2の流路の長さは10mm以上に設定され、内径D1の流路の長さと内径D2の流路の長さとの合計が20mm以上200mm以下に設定され、D2/D1が1.07よりも大きく1.63以下に設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、エアゾール容器から流出した害虫行動阻害剤は、ノズルの流路を流通して噴射口から噴射される。ノズルの流路は、上流側が下流側に比べて断面積が狭く、絞られた状態となっているので、流路の上流側を流通する害虫行動阻害剤の流速が高められる。害虫行動阻害剤が流路の下流側に達すると、断面積が拡大して流速が低下するので、このときに流路の上流側を流通した粒子同士が一体化して大きな粒子を形成する。この大きな粒子が噴射口から噴射されることになるので、液体の状態で害虫に付着する害虫行動阻害剤の量が多くなる。これにより、害虫行動阻害剤粒子が完全に蒸発するまでに害虫から奪う熱量を大幅に増加させることが可能になる。
【0013】
噴射口から噴射される粒子の流速は、上述したようにノズルの流路の上流側で高められているので十分な速さとなっている。従って、例えば、噴射中に害虫行動阻害剤に引火したとしても、火炎が噴射口に達する速さよりも速く粒子が噴射され、逆火現象を抑制することが可能になる。
【0014】
第2の発明は、害虫に付着して気化熱によって害虫を冷却して行動停止させる害虫行動阻害剤として1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを収容したエアゾール容器に設けられ、該エアゾール容器の上記害虫行動阻害剤を1秒間に2.5g以上5.0g以下噴射させるノズル構造において、
上記エアゾール容器から流出した上記害虫行動阻害剤の流路が噴射口に連通するように形成され、
上記流路は、上記害虫行動阻害剤の流れ方向下流側の断面積が上流側に比べて大きく設定されており、上記流路の上流側の内径が1.6mm以上2.6mm以下に設定され、上記流路の下流側の内径が2.2mm以上3.4mm以下に設定され、上記流路の上流側の内径をD1とし、上記流路の下流側の内径をD2としたとき、内径D1の流路の長さは5mm以上、内径D2の流路の長さは10mm以上に設定され、内径D1の流路の長さと内径D2の流路の長さとの合計が20mm以上200mm以下に設定され、D2/D1が1.07よりも大きく1.63以下に設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
この構成によれば、流路の上流側の内径と下流側の内径の比を上記のように設定することで、流路の上流側で粒子の流速を十分に高めることが可能になり、また、流路の下流側では大きな粒子の生成を促進することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ノズルに害虫行動阻害剤の流路を形成し、流路の下流側の断面積を上流側に比べて大きく設定したので、大きな粒子を十分な流速で噴射することができる。これにより、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させて効力を高めつつ、逆火現象が起こらないようにすることができる。
【0017】
また、害虫の行動停止の効力を十分に高めることができるとともに、逆火現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る害虫駆除用エアゾール製品の側面図である。
図2】害虫駆除用エアゾール製品の部分断面図である。
図3】ヘッドキャップのノズル近傍の拡大断面図である。
図4】冷却性能の測定方法を示す図である。
図5】冷却性能を測定する際に使用する温度測定端子の配設位置を示す平面図である。
図6】効力を試験方法を説明する図である。
図7】火炎長を確認する試験方法を説明する図である。
図8】逆火試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る害虫駆除用エアゾール製品1の側面図である。害虫駆除用エアゾール製品1は、密閉された耐圧缶からなるエアゾール缶(エアゾール容器)10と、ヘッドキャップ20とを備えている。エアゾール缶10は例えばスチール製とすることができるが、これ以外の材料で構成してもよい。
【0021】
図2に示すように、エアゾール缶10の上部には、バルブ11が設けられている。バルブ11は、従来周知の構造であり、ステム12と、ステム12を上方へ付勢するスプリング13とを有しており、ステム12が上昇位置にあるときには、ステム12の放出口12aが閉塞される一方、スプリング13の付勢力に抗してステム12を押し下げると放出口12aが開放されるようになっている。
【0022】
エアゾール缶10の内部には、図2に示すように害虫行動阻害剤100が収容されている。害虫行動阻害剤100は、エアゾール缶10から噴射する噴射作用と、害虫に付着した際に害虫を冷却する冷却作用とを持つものである。害虫行動阻害剤100としては、例えば、HFO−1234ze(1,3,3,3−テトラフルオロプロペン)、ジメチルエーテル(DME)及び液化石油ガス(LPG)のいずれか1つ、または、これらのうち、少なくとも2つを混合してなるものである。
【0023】
HFO−1234zeの蒸気圧は、0.50MPa(25℃)であり、ジメチルエーテルの蒸気圧は、0.59MPa(25℃)であり、液化石油ガスの蒸気圧は、0.29MPa(25℃)〜0.98MPa(25℃)である。また、HFO−1234zeの沸点は、−19.0℃であり、ジメチルエーテルの沸点は、−24.8℃であり、液化石油ガスの沸点は、−42.1℃〜−0.5℃である。つまり、害虫行動阻害剤100の蒸気圧は、0.29MPa(25℃)以上0.98MPa(25℃)以下の範囲にあり、沸点は−50℃以上0℃以下の範囲にある。
【0024】
尚、この実施形態では、害虫行動阻害剤100が噴射される側を前側といい、その反対側を後側というものとする。
【0025】
ヘッドキャップ20は、キャップ本体21と、使用者が操作する操作部22とを有している。キャップ本体21は、エアゾール缶10の上部を覆うように形成され、該上部に固定される。操作部22は、キャップ本体21に一体成形されている。操作部22の前端部には薄肉部23が形成されており、この薄肉部23がキャップ本体21に連なっている。従って、操作部22は、その前端部近傍を支点にして後側が上下に揺動する。
【0026】
操作部22の後側には、使用者が指を掛ける押圧部24が形成されている。操作部22の押圧部24と薄肉部23との間には、上方へ突出する中空状の突出部26が形成されている。突出部26の内部には、ステム12の放出口12aに連通する連通路27が形成されている。連通路27は上下方向に延びており、害虫行動阻害剤100が流通するようになっている。連通路27の下端部の周縁部には下方へ突出する筒状部28が形成されている。この筒状部28の内方にステム12の上部が嵌るようになっている。連通路27の上部は、押圧部24よりも上方まで延びている。
【0027】
突出部26の上下方向中間部には、ノズル30が一体成形されている。ノズル30は、前方へ向かって直線状に延びており、連通路27に対し略垂直である。ノズル30の先端部には略円形の噴射口31が形成されている。ノズル30の内部には、害虫行動阻害剤100が流通する流路32が直線状に形成されている。流路32は、害虫行動阻害剤100の流れ方向上流側の上流部32aと、下流側の下流部32bとで構成されている。上流部32a及び下流部32bの断面形状は共に円形である。上流部32aは、その上流端から下流端に亘って同じ断面形状であり、また、下流部23bも、その上流端から下流端に亘って同じ断面形状である。下流部32bの下流端が噴射口31に連通している。噴射口31の形状及び大きさは、下流部32bの下流端の断面形状と同じである。
【0028】
下流部32bの断面積が上流部32aに比べて大きく設定されている。これに対応するように、流路32の内面には、上流部32aと下流部32bとの境界部分に段部34が形成される。また、上流部32aの中心線と下流部32bの中心線とは一致している。
【0029】
この実施形態では、流路32の上流部32aの内径D1(図3に示す)と、流路32の下流部32bの内径D2との相対関係は、D2/D1が1.07よりも大きく1.63以下となっている。また、流路32の上流部32aの内径D1が1.6mm以上2.6mm以下に設定されている。また、流路32の下流部32bの内径D2が2.2mm以上3.4mm以下に設定されている。
【0030】
上記のように流路32の上流部32aの内径D1及び下流部32bの内径D2を設定することにより、流路32の上流側が絞られることになる一方、下流側は上流側に比べて開放されることになる。よって、流路32は断面積が途中で段階的に変化する2段階構造となる。
【0031】
さらに、流路32の上流部32aの長さL1は、5mm以上に設定されている。流路32の下流部32bの長さL2は10mm以上に設定されている。尚、L1/L2の値は、前述の条件を満たしていればよく、任意の値に設定できる。また、流路32の長さ(L1+L2)は20mm以上が好ましい。実用性を考慮すると、流路32の長さは、例えば200mm以下が好ましい。
【0032】
上記のように構成された害虫駆除用エアゾール製品1を使用する場合には、ヘッドキャップ20の噴射口31を対象害虫に向けた状態で押圧部24を押す。すると、操作部22が下に揺動してエアゾール缶10のステム12をスプリング13の付勢力に抗して押し下げる。これにより、バルブ11が開放状態となって害虫行動阻害剤100が粒子状態でヘッドキャップ20の連通路27に流入して上方へ流れ、ノズル30の流路32に流入し、上流部32a、下流部32bを順に流通して噴射口31から噴射される。
【0033】
噴射口31から噴射される害虫行動阻害剤粒子は大きなものになるとともに、その大きな粒子が広い範囲に分散し、しかも、粒子の流速が速くなる。すなわち、ノズル30の流路32に流入した粒子は、上流部32aが絞られていることから、上流部32aを流通する間に流速が十分に高まる。その後、流路32内の段部34の形成箇所を経て下流部32bに達すると、断面積が急拡大するので、粒子の流速が低下して後方からの粒子が衝突しながら一体化して大きな粒子を形成する。さらに、一部の粒子の流速が低下することで下流部32bの内面に複数の粒子が付着して大きな粒子を形成する。
【0034】
次に、本実施形態に係る害虫駆除用エアゾール製品1の冷却性能及び逆火防止性能について表1に基づいて説明する。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
表2は比較例を示しており、表2中、「ストレート構造」とは、ノズル30の流路32が上流から下流まで同一内径となっている構造である。表1、表2中、「2段階構造」とは、ノズル30の流路32の下流部32bが上流部32aよりも大径となっている構造である。
【0037】
冷却性能の測定方法を図4及び図5に示す。すなわち、自動噴霧装置50を水平面に載置した障子紙51から上方に離して設け、この自動噴霧装置50に害虫駆除用エアゾール製品1を保持する。害虫駆除用エアゾール製品1の噴射口31は、障子紙51の直上方において、障子紙51と対向するように配置する。自動噴霧装置50は、例えば流体圧シリンダ等のアクチュエータ50aを備えており、このアクチュエータ50aによって害虫駆除用エアゾール製品1の押圧部24を所定時間だけ押すことができるように構成されている。
【0038】
また、障子紙51には、例えば熱電対等からなる温度測定端子52が配置されている。温度測定端子52は噴霧中心(図5に符号Yで示す)から2cm離れた所に配置されている。
【0039】
測定時の雰囲気温度は25℃である。また、自動噴霧装置50による害虫駆除用エアゾール製品1の噴霧時間は1秒間である。1秒間の害虫行動阻害剤の噴射量は、2.5g以上5.0g以下である。表1、表2中の冷却性能とは、害虫駆除用エアゾール製品1の噴霧完了後、10秒経過時点の温度である。この温度が低い程、害虫から奪う熱量が多くなるので、害虫に対する効力が高まる。
【0040】
表1の実施例1〜31及び表2の比較例1、2、7、8は、10秒経過時点の温度がいずれも0℃以下となっており、高い冷却性能を有していることが分かる。これに対して、比較例3〜6は、10秒経過時点の温度がいずれも0℃以上となっており、害虫から奪う熱量が少なくなるので、害虫に対する効力が低い。
【0041】
ゴキブリ行動阻害率の測定方法を図4及び図6を参照して説明する。すなわち、上記冷却性能の測定時に用いた自動噴霧装置50を水平面に載置した障子紙51から上方に離して配置する。害虫駆除用エアゾール製品1の噴射口31の直下方の水平面上に、図6に示すような内径が7cmのガラス製円筒部材60を上方に開口するように載置する。符号Yは噴霧中心であり、円筒部材60の中心と一致させている。円筒部材60の内部に供試虫として、クロゴキブリ成虫の雌を入れた。
【0042】
そして、供試虫が図6の斜線で示す範囲、即ち、噴霧中心Yから2cm以上離れた範囲に定着した後、自動噴霧装置50により害虫駆除用エアゾール製品1から害虫行動阻害剤100を噴射した。つまり、使用者による狙いがずれている場合や、狙いを定めてから害虫駆除用エアゾール製品1の押圧部24を押すまでに供試虫が噴霧中心Yから移動した場合を想定した測定条件としている。噴霧時間は1秒である。雰囲気温度は25℃である。供試虫は10匹用意し、1匹づつ効力を見た。噴霧後の供試虫の状態を観察し、
(総個体数−正常歩行している個体数)/総個体数=ゴキブリ行動阻害率(%)
として算出した。
【0043】
表1の実施例1〜31及び表2の比較例1、7、8では、ゴキブリ行動阻害率が50%以上であったのに対し、比較例2〜6ではゴキブリ行動阻害率が50%未満であった。
【0044】
表1の測定結果より、実施例のものでは、大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子を広い範囲に分散させているので、噴霧中心Yから離れた供試虫に対して大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子を付着させ、その粒子の蒸発時に供試虫から多くの熱を奪っていることが分かる。
【0045】
一方、逆火の測定方法は図7及び図8に示す。図7及び図8において炎は実線で囲まれた範囲に発生したものとしている。まず、図7に示すように、害虫駆除用エアゾール製品1の噴射口31から水平方向に15cm離れた所にガスバーナーGを配置する。ガスバーナーGに着火し、これを火元とする。ガスバーナーGの火炎の高さが4.5〜5.5cmとなるように調整する。そして、害虫駆除用エアゾール製品1から害虫行動阻害剤100を、ガスバーナーGの火炎上部1/3の所を通過するように5秒間噴射し、噴射開始から3秒経過後に写真を撮影し、その写真から逆火を判定した。表1、表2中の「cm」は、図8に示すようにガスバーナーGから噴射口31に接近する方向に発生した火炎の長さを示す。
【0046】
表1の実施例1〜31及び表2の比較例2〜6の場合では、逆火が殆ど起こらないか、逆火が起こっても問題とならない範囲であった。これに対して、比較例1、7、8の場合では、逆火が害虫駆除用エアゾール製品1の噴射口31まで達しているため、実使用時に好ましくない状況となる恐れがある。
【0047】
上記3つの試験の結果より、流路32の上流部32aの内径D1と、流路32の下流部32bの内径D2との関係について、D2/D1が1.07よりも大きく1.63以下に設定されている場合には、より一層高い冷却性能を得ることができる。
【0048】
また、流路32の上流部32aの内径D1が1.6mm以上2.6mm以下に設定され、かつ、流路32の下流部32bの内径D2が2.2mm以上3.4mm以下に設定されている場合には、冷却性能を損なうことなく逆火のリスクを防ぐことが可能となる。
【0049】
また、害虫駆除用エアゾール製品1の対象害虫としては、噴射箇所に害虫行動阻害剤100が残留することがないという特性をもつことから、屋内での使用が好ましく、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、ヤマトゴキブリ等のゴキブリ類、クモ類、ムカデ類、アリ類、カメムシ類等である。また、イエバエ、ヒメイエバエ、センチニクバエ、ケブカクロバエ、キイロショウジョウバエ、チョウバエ、ノミバエ等のハエ類、アカイエカ、ヒトスジシマカ等のカ類、ハチ類等の飛翔昆虫も対象害虫である。さらに、ピレスロイド抵抗性害虫に対しても駆除効果を発揮することができる。
【0050】
以上説明したように、この実施形態によれば、エアゾール缶10から流出した害虫行動阻害剤は、ノズル30の流路32を流通して噴射口31から噴射され、このとき、ノズル30の流路32は、上流部32aが下流部32bに比べて断面積が狭く、絞られた状態となっているので、流路32の上流部32aを流通する害虫行動阻害剤100の流速が高められる。害虫行動阻害剤100が流路32の下流部32bに達すると、断面積が拡大して流速が低下するので、このときに流路32の上流部32aを流通した粒子同士が一体化して大きな粒子を形成する。この大きな粒子が噴射口31から噴射されることになるので、液体の状態で害虫に付着する害虫行動阻害剤100の量が多くなる。これにより、害虫行動阻害剤粒子が完全に蒸発するまでに害虫から奪う熱量を大幅に増加させることができる。
【0051】
噴射口31から噴射される粒子の流速は、上述したようにノズル30の流路32の上流部32aで高められているので十分な速さとなっている。従って、例えば、噴射中に害虫行動阻害剤100に引火したとしても、火炎が噴射口31に達する速さよりも速く粒子が噴射され、逆火現象を抑制することができる。
【0052】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る害虫駆除用エアゾールは、例えばゴキブリ等の害虫の駆除に使用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 害虫駆除用エアゾール
10 エアゾール缶(エアゾール容器)
20 ヘッドキャップ
30 ノズル
31 噴射口
32 流路
32a 上流部
32b 下流部
100 害虫行動阻害剤
図1
図2
図3
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図7
図8