特許第6502489号(P6502489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6502489
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】車両の制御装置、及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20190408BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20190408BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20190408BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/66
   F16H59/18
   F16H59/42
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-520652(P2017-520652)
(86)(22)【出願日】2016年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2016064763
(87)【国際公開番号】WO2016190195
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2017年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-104176(P2015-104176)
(32)【優先日】2015年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮園 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】若山 英史
(72)【発明者】
【氏名】崔 敬坤
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−209982(JP,A)
【文献】 特開2010−78124(JP,A)
【文献】 特開2003−90427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02,59/18,59/42,61/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、
前記無段変速機に直列に配置され、前記エンジンの回転速度が解放回転速度よりも低くなると解放される摩擦締結要素とを備える車両を制御する車両の制御装置であって、
アクセルペダル開度がゼロの場合に設定される前記無段変速機の第1目標入力回転速度が、前記アクセルペダル開度がゼロよりも大きい所定開度の場合に設定される前記無段変速機の第2目標入力回転速度よりも高く設定された変速マップに基づいて前記無段変速機の変速比を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記アクセルペダル開度が前記所定開度以下となるアクセルペダル操作が行われ、前記無段変速機の実入力回転速度が前記第2目標入力回転速度より低く設定された前記解放回転速度を下回ると判定される場合、前記無段変速機の目標入力回転速度を前記第1目標入力回転速度よりも低く前記第2目標入力回転速度よりも高い第3目標入力回転速度に設定し、前記目標入力回転速度を制限する、
車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記制御手段は、前記アクセルペダル開度が前記所定開度以下となるアクセルペダル操作が行われ、前記エンジンの回転速度が前記解放回転速度よりも低くなる場合、前記無段変速機の目標入力回転速度を前記第3目標入力回転速度に設定する、
車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制御装置であって、
前記制御手段は、アクセルペダルの戻し操作速度が所定操作速度よりも大きい場合、前記エンジンの回転速度が前記解放回転速度よりも低くなる、と判断する、
車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の車両の制御装置であって、
前記制御手段は、前記無段変速機の目標入力回転速度の低下速度が所定低下速度よりも大きい場合、前記エンジンの回転速度が前記解放回転速度よりも低くなる、と判断する、
車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の車両の制御装置であって、
前記第3目標入力回転速度は、前記第2目標入力回転速度と前記解放回転速度との差分を、前記第2目標入力回転速度に加算して設定される、
車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の制御装置であって、
前記第3目標入力回転速度は、前記第2目標入力回転速度よりも高く、かつ前記第1目標入力回転速度よりも低い、
車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1つに記載の車両の制御装置であって、
前記第3目標入力回転速度は、前記無段変速機の実入力回転速度が前記解放回転速度よりも低くなる場合における前記第2目標入力回転速度と前記実入力回転速度との最大差分を、前記第2目標入力回転速度に加算して設定される、
車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1つに記載の車両の制御装置であって、
前記第3目標入力回転速度は、前記第1目標入力回転速度に設定される、
車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の車両の制御装置であって、
前記制御手段は、アクセルペダルの戻し操作速度、または前記無段変速機の目標入力回転速度の低下速度に応じて、前記第3目標入力回転速度を設定する、
車両の制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の車両の制御装置であって、
前記第3目標入力回転速度は、前記アクセルペダルの戻し操作速度、または前記無段変速機の目標入力速度の低下速度が大きいほど、高い、
車両の制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1つに記載の車両の制御装置であって、
前記制御手段は、所定終了条件が成立すると、前記無段変速機の目標入力回転速度を前記アクセルペダル開度に応じた入力回転速度に設定する、
車両の制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車両の制御装置であって、
前記制御手段は、前記無段変速機の目標入力回転速度を前記第3目標入力回転速度に設定してから所定経過時間が経過すると、前記所定終了条件が成立する、と判断し、
前記所定経過時間は、前記無段変速機の目標入力回転速度を前記第3目標入力回転速度に設定してから、前記無段変速機の実回転速度が増加するまでの最大時間である、
車両の制御装置。
【請求項13】
エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、
前記無段変速機に直列に配置され、前記エンジンの回転速度が解放回転速度よりも低くなると解放される摩擦締結要素とを備える車両を制御する車両の制御方法であって、
アクセルペダル開度がゼロの場合に設定される前記無段変速機の第1目標入力回転速度が、前記アクセルペダル開度がゼロよりも大きい所定開度の場合に設定される前記無段変速機の第2目標入力回転速度よりも高く設定された変速マップに基づいて前記無段変速機の変速比を制御し、
前記アクセルペダル開度が前記所定開度以下となるアクセルペダル操作が行われ、前記無段変速機の実入力回転速度が前記第2目標入力回転速度より低く設定された前記解放回転速度を下回ると判定される場合、前記無段変速機の目標入力回転速度を前記第1目標入力回転速度よりも低く前記第2目標入力回転速度よりも高い第3目標入力回転速度に設定し、前記目標入力回転速度を制限する、
車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置、及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクセルペダル開度がゼロよりも大きい場合の変速線における目標入力回転速度(第1目標入力回転速度)を、アクセルペダル開度がゼロである場合のコースト線における目標入力回転速度(第2目標入力回転速度)よりも低く設定した変速マップに基づいて、無段変速機を変速させる制御装置がJP2010−209982Aに開示されている。
【発明の概要】
【0003】
車両においては、駆動源と無段変速機との間には、一般的にロックアップクラッチを有するトルクコンバータが配置されており、減速中にロックアップクラッチを締結し、駆動輪からエンジンの回転軸に回転が伝達された状態で、エンジンへの燃料噴射を中止するフューエルカットを実行している。これにより、エンジンにおける燃費を向上させることができる。
【0004】
しかし、上記技術における変速マップを用いて変速機を制御する場合には、例えば以下のシーンにおいて、減速中にエンジンの回転速度が低下し、ロックアップクラッチが解放されて、エンジンへの燃料噴射を行うフューエルカットリカバーが実行される場合がある。
【0005】
ロックアップクラッチが締結されて、車両が減速している場合には、車速と共にエンジンの回転速度が低下してエンジンがストールしないように、ロックアップクラッチを解放する解放回転速度が設定されている。この解放回転速度は、第1目標入力回転速度よりも僅かに低い値に設定されている。
【0006】
アクセルペダル開度がゼロとなるようにアクセルペダルが戻されて減速する場合、目標入力回転速度は、第1目標入力回転速度まで低下した後に、アクセルペダル開度がゼロとなると第2目標入力回転速度まで増加する。これにより、無段変速機の変速比は、第1目標入力回転速度に相当する変速比まで変更された後に、第2目標入力回転速度に相当する変速比に変更される。
【0007】
しかし、第1目標入力回転速度に相当する変速比まで変更する際に、時定数による応答遅れや、動作遅れなどによって、実入力回転速度が第1目標入力回転速度よりも低くなり、実入力回転速度が解放回転速度よりも低くなることがある。
【0008】
このような場合には、ロックアップクラッチが解放されて、フューエルカットリカバーが実行される。そのため、実入力回転速度が解放回転速度よりも低くならずにフューエルカットが継続される場合と比較して、エンジンにおける燃費が低下するおそれがある。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、車両が減速している場合に、例えばロックアップクラッチが解放されることを抑制し、エンジンの燃費が低下することを抑制することを目的とする。
【0010】
本発明のある態様に係る車両の制御装置は、エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、無段変速機に直列に配置され、エンジンの回転速度が解放回転速度よりも低くなると解放される摩擦締結要素とを備える車両を制御する車両の制御装置であって、アクセルペダル開度がゼロの場合に設定される無段変速機の第1目標入力回転速度が、アクセルペダル開度がゼロよりも大きい所定開度の場合に設定される無段変速機の第2目標入力回転速度よりも高く設定された変速マップに基づいて無段変速機の変速比を制御する制御手段を備え、制御手段は、アクセルペダル開度が所定開度以下となるアクセルペダル操作が行われ、無段変速機の実入力回転速度が第2目標入力回転速度より低く設定された解放回転速度を下回ると判定される場合、無段変速機の目標入力回転速度を第1目標入力回転速度よりも低く第2目標入力回転速度よりも高い第3目標入力回転速度に設定し、目標入力回転速度を制限する。
【0011】
本発明の別の態様に係る車両の制御方法は、エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、無段変速機に直列に配置され、エンジンの回転速度が解放回転速度よりも低くなると解放される摩擦締結要素とを備える車両を制御する車両の制御方法であって、アクセルペダル開度がゼロの場合に設定される無段変速機の第1目標入力回転速度が、アクセルペダル開度がゼロよりも大きい所定開度の場合に設定される無段変速機の第2目標入力回転速度よりも高く設定された変速マップに基づいて無段変速機の変速比を制御し、アクセルペダル開度が所定開度以下となるアクセルペダル操作が行われ、無段変速機の実入力回転速度が第2目標入力回転速度より低く設定された解放回転速度を下回ると判定され場合、無段変速機の目標入力回転速度が第1目標入力回転速度よりも低く第2目標入力回転速度よりも高い第3目標入力回転速度に設定し、目標入力回転速度を制限する。
【0012】
これら態様によると、アクセルペダル開度が所定開度以下となるアクセルペダル操作が行われる場合、無段変速機の目標入力回転速度が第2目標入力回転速度よりも高い第3目標入力回転速度に設定されことで、エンジンの回転速度が解放回転速度よりも低くなることを抑制し、摩擦締結要素が解放されることを抑制することができる。これにより、摩擦締結要素が解放されることによるエンジンの燃費が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1実施形態の車両の概略構成図である。
図2図2は、第1実施形態のコントローラの概略構成図である。
図3図3は、第1実施形態の変速マップである。
図4図4は、本実施形態を用いない場合の入力回転速度の変化を示す図である。
図5図5は、第1実施形態の回転速度制限制御を示すフローチャートである。
図6図6は、第1実施形態を用いた場合の入力回転速度の変化を示す図である。
図7図7は、第1実施形態の回転速度制限制御を示すタイムチャートである。
図8図8は、第1実施形態の変形例を示す図である。
図9図9は、第1実施形態の変形例を示す図である。
図10図10は、第2実施形態の回転速度制限制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比(変速段)」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値であり、変速比(変速段)が大きい場合を「Low」、小さい場合を「High」という。また、変速比(変速段)がLow側に変更されることをダウンシフト、High側に変更されることをアップシフトという。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2c付きトルクコンバータ2のポンプインペラ2aに入力され、タービンランナ2bから第1ギヤ列3、変速機4、第2ギヤ列5、作動装置6を介して駆動輪7へと伝達される。
【0016】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eから吐出される油によって発生する油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0017】
変速機4は、摩擦伝達機構としてのベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30とが直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0018】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、各プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。バリエータ20は、プライマリプーリ圧、及びセカンダリプーリ圧に応じてV溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の実変速比が無段階に変化する。
【0019】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0020】
Lowブレーキ32が締結され、Highクラッチ33、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33が締結され、Lowブレーキ32、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は2速となる。また、Revブレーキ34が締結され、Lowブレーキ32、及びHighクラッチ33が解放されると、副変速機構30の変速段は後進となる。
【0021】
バリエータ20の実変速比と、副変速機構30の変速段とを変更することで、変速機4全体の変速比iが変更される。
【0022】
コントローラ12は、エンジン1および変速機4を統合的に制御するコントローラ12であり、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0023】
入力インターフェース123には、アクセルペダル51の操作量であるアクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサ41の出力信号、プライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリ回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリ回転速度センサ43の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ44の出力信号、シフトレバー50の位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号等が入力される。
【0024】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0025】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eから吐出された油によって発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の実変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0026】
変速機4の変速は、図3に示す変速マップに基づいて実行される。変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリプーリ回転速度Npriとによって定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比i(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比)に対応する。変速マップでは、アクセルペダル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセルペダル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。変速機4は、副変速機構30が1速でありバリエータ20の変速比が最Lowとなる低速モード最Low線と、副変速機構30が2速でありバリエータ20の変速比が最Highとなる高速モード最High線との間で変速比を変更することができる。変速機4では、副変速機構30を1速から2速に、また2速から1速に変更する場合には、バリエータ20の変速比を逆方向に変速する協調変速が行われる。
【0027】
図3においては、簡単のため、低速モード最Low線、高速モード最High線、コースト線、及びドライブ線のみを示す。コースト線は、アクセルペダル開度APOがゼロ(APO=0/8)の場合の変速線である。ドライブ線は、アクセルペダル開度APOがゼロよりも僅かに大きい第1所定開度APOp1(APO=0.5/8)の場合の変速線である。コースト線、及びドライブ線は、低車速領域において低速モード最Low線と一致し、高車速領域において高速モード最High線と一致する。
【0028】
本実施形態では、アクセルペダル開度APOがゼロの場合にエンジン1がストールすることを防止し、アクセルペダル開度APOが第1所定開度APOp1の場合にエンジン1の燃費を向上させるために、コースト線におけるプライマリプーリ回転速度Npriをドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriよりも高くしている。
【0029】
このように、コースト線、及びドライブ線を設定した車両においては、通常、走行中にアクセルペダル51の踏み込みがなくなり、変速機4の動作点がドライブ線を経由してコースト線に変更された場合には、プライマリプーリ21の目標入力回転速度Nintは、図4で実線で示すように、ドライブ線上の値(第2目標入力回転速度)に設定された後に、コースト線上の値(第1目標入力回転速度)に設定される。
【0030】
バリエータ20では、プライマリプーリ21の実入力回転速度Ninaが目標入力回転速度Nintに追従するようにプライマリプーリ21、及びセカンダリプーリ22へ供給される油圧が制御され、変速比が変更される。しかし、油圧制御における時定数による応答遅れや、動作遅れなどによって実入力回転速度Ninaは目標入力回転速度Nintに対して図4で破線で示すようにアンダーシュートする。
【0031】
トルクコンバータ2に設けられたロックアップクラッチ2cは、エンジン1から駆動輪7への動力伝達効率を向上させるために、極低車速などの条件を除いて締結されている。そして、エンジン1の回転速度が解放回転速度よりも低くなると、エンジン1がストールすることを防止するためにロックアップクラッチ2cは解放される。そのため、上記するコースト線、及びドライブ線は、車速VSPが極低車速となるまでロックアップクラッチ2cが解放されないように、図4に示すようにロックアップクラッチ2cを解放する解放回転速度Nrよりもプライマリプーリ回転速度Npriの高回転速度側に設定されている。図4においては、第1ギヤ列3のギヤ比を考慮し、解放回転速度Nrをプライマリプーリ21に入力される回転速度に換算して表している。従って、プライマリプーリ回転速度Npriが図4に示す解放回転速度Nrよりも低くなると、エンジン1の回転速度が解放回転速度よりも低くなり、ロックアップクラッチ2cが解放される。以下において、解放回転速度Nrと実入力回転速度Ninaとを比較する場合は同じである。
【0032】
上記するようにアンダーシュートが発生し、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなった場合には、ロックアップクラッチ2cが解放される。これにより、エンジン1から駆動輪7への動力伝達率が低下し、ロックアップクラッチ2cが締結している場合よりもエンジン1の燃費が低くなる。
【0033】
また、本実施形態では、走行中にアクセルペダル51の踏み込みがなくなった場合に、ロックアップクラッチ2cを締結した状態でエンジン1への燃料噴射を中止するフューエルカット制御を実行している。このような車両においては、フューエルカット制御を実行中に、車速VSPが低下し、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなると、ロックアップクラッチ2cを解放して、フューエルカット制御を中止し、エンジン1への燃料噴射を再開する。これにより、スタータモータなどを使用せずに、エンジン1をストールさせることなく、エンジン1への燃料噴射を再開することができる。
【0034】
しかし、アクセルペダル51の踏み込みがなくなり、変速機4の動作点がドライブ線を経由してコースト線となる際にアンダーシュートにより、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなると、ロックアップクラッチ2cが解放され、フューエルカット制御が中止される、またはフューエルカット制御が実行されない。
【0035】
そのため、上記するようにアンダーシュートが発生し、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなると、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くならない場合と比較して、エンジン1の燃費が低下する。
【0036】
そこで、本実施形態では以下の回転速度制限制御を実行する。図5は本実施形態の回転速度制限制御を説明するフローチャートである。
【0037】
ステップS100では、コントローラ12は、アクセルペダル開度APOが第2所定開度APOp2以下かどうか判定する。第2所定開度APOp2は、ドライブ線となる第1所定開度APOp1よりも僅かに大きい開度であり、予め設定されている。アクセルペダル開度APOが第2所定開度APOp2以下である場合には処理はステップS101に進み、アクセルペダル開度APOが第2所定開度APOp2よりも大きい場合には今回の処理は終了する。
【0038】
ステップS101では、コントローラ12は、ロックアップクラッチ2cを締結しているかどうか判定する。ロックアップクラッチ2cを締結している場合には処理はステップS102に進み、ロックアップクラッチ2cを解放している場合には今回の処理は終了する。
【0039】
ステップS102では、コントローラ12は、アクセルペダル開度APOの戻し操作速度である閉速度Vcを演算する。コントローラ12は、例えば、現在のアクセルペダル開度APOと、前回の処理時のアクセルペダル開度APOとからアクセルペダル開度APOの閉速度Vcを演算する。
【0040】
ステップS103では、コントローラ12は、所定閉速度Vcpを演算する。具体的には、コントローラ12は、現在のアクセルペダル開度APOを所定時間Tpで除算することで所定閉速度Vcpを演算する。所定時間Tpは、目標入力回転速度Nintの変化に対して実入力回転速度Ninaの変化が現れるまでの遅れ時間であり、油圧制御における時定数による応答遅れや、動作遅れなどから予め設定されている。
【0041】
ステップS104では、コントローラ12は、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが所定閉速度Vcpよりも大きいかどうか判定する。
【0042】
ここでは、アクセルペダル開度APOは第2所定開度APOp2よりも小さくなっており、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが所定閉速度Vcpよりも大きい場合には、コントローラ12は、アクセルペダル開度APOが第1所定開度APOp1以下となり、所定時間Tpの間にアクセルペダル開度APOがゼロになると判定する。
【0043】
また、アクセルペダル開度APOがゼロになり、目標入力回転速度Nintがドライブ線を経由してコースト線上の値に設定されると、実入力回転速度Ninaが目標入力回転速度Nintに対してアンダーシュートし、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなると、コントローラ12は判定する。
【0044】
すなわち、コントローラ12は、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが所定閉速度Vcpよりも大きい場合には、アクセルペダル開度APOに応じて目標入力回転速度Nintを設定すると、アンダーシュートにより、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなると判定する。アンダーシュートにより実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなる場合には処理はステップS105に進み、アンダーシュートにより実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くならない場合には処理はステップS107に進む。
【0045】
ステップS105では、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintを制限する。具体的には、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintを所定目標入力回転速度Nintp(第3目標入力回転速度)に設定する。所定目標入力回転速度Nintpは、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriと解放回転速度Nrとの偏差を、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに加算した値である。所定目標入力回転速度Nintpは、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriよりも高く、コースト線におけるプライマリプーリ回転速度Npriよりも低い値である。
【0046】
これにより、アクセルペダル51の踏み込みがなくなり、本来、変速機4の動作点がドライブ線を経由してコースト線に変更される場合でも、目標入力回転速度Nintは、ドライブ線上の値まで低下せず、所定目標入力回転速度Nintpになり、実入力回転速度Ninaは所定目標入力回転速度Nintpに追従して変化する。従って、実入力回転速度Ninaは、目標入力回転速度Nintがドライブ線上の値に設定される場合よりも高くなり、図6に示すように実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることがない。
【0047】
このように、目標入力回転速度Nintが所定目標入力回転速度Nintpに設定されることで、所定目標入力回転速度Nintp、及び車速VSPに基づいて変速機4の変速比iが変更される。
【0048】
ステップS106では、コントローラ12は、所定終了条件が成立したかどうか判定する。具体的には、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintが所定目標入力回転速度Nintpに設定されてからの経過時間Teが所定経過時間Tepとなったかどうか判定する。所定経過時間Tepは、アンダーシュートした実入力回転速度Ninaが低下から増加に切り換わるまでの最大時間であり、予め設定されている。アンダーシュート量は、アクセルペダル51の戻し操作に応じて変化する。ここでは、所定経過時間Tepを、アクセルペダル51の戻し操作、つまりアンダーシュート量に対する最大時間とし、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを防いでいる。経過時間Teが所定経過時間Tepとなるまで処理はステップS105に戻り、経過時間Teが所定経過時間Tepとなると処理はステップS107に進む。
【0049】
ステップS107では、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintの制限を解除する。これにより、アクセルペダル開度APOに応じた変速線に従って変速機4の変速比iが変更される。例えば、アクセルペダル開度APOがゼロの場合には、目標入力回転速度Nintがコースト線上の値に設定されて変速機4の変速比iが変更される。また、アクセルペダル開度APOが第1所定開度APOp1の場合には、目標入力回転速度Nintがドライブ線上の値に設定されて変速機4の変速比iが変更される。
【0050】
次に、本実施形態の回転速度制限制御について図7のタイムチャートを用いて説明する。
【0051】
時間t0において、アクセルペダル開度APOが第2所定開度APOp2よりも低くなり、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが所定閉速度Vcpよりも大きいと判定される。これにより、目標入力回転速度Nintが制限され、所定目標入力回転速度Nintpに設定される。ここでは、目標入力回転速度Nintは、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriと、解放回転速度Nrとの偏差分、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriよりも高い値に設定される。このような場合でも、実入力回転速度Ninaは、目標入力回転速度Nintに対してアンダーシュートするが、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることはない。実入力回転速度Ninaに対応する実変速比iaは、アンダーシュートにより、目標入力回転速度Nintに対応する目標変速比itよりもHigh側となる。
【0052】
目標入力回転速度Nintが所定目標入力回転速度Nintpに制限されてから所定経過時間Tepが経過した時間t1において、目標入力回転速度Nintの制限が解除される。これにより、目標入力回転速度Nintは、アクセルペダル開度APOに応じたコースト線上の値に変更される。また、目標変速比it、及び実変速比iaはLow側に変更される。
【0053】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0054】
コースト線がドライブ線よりもプライマリプーリ回転速度Npriの高回転速度側に設けられた変速機4であって、アクセルペダル開度APOが第1所定開度APOp1以下となる場合に、プライマリプーリ21の目標入力回転速度Nintをドライブ線上の値よりも高い所定目標入力回転速度Nintpに設定する。これにより、目標入力回転速度Nintに対して実入力回転速度Ninaが低下した場合であっても、実入力回転速度Ninaがロックアップクラッチ2cを解放する解放回転速度Nrよりも低くなることを抑制することができる。そのため、ロックアップクラッチ2cが解放されることによるエンジン1の燃費低下を抑制することができる。また、フューエルカット制御が実行されない、またはフューエルカットリカバーが早期に実行されることを抑制し、エンジン1の燃費低下を抑制することができる。
【0055】
アクセルペダル51の戻し操作によって実入力回転速度Ninaがアンダーシュートすることにより、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなる場合には、目標入力回転速度Nintを所定目標入力回転速度Nintpに設定する。これにより、アンダーシュートにより実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを抑制し、エンジン1の燃費低下を抑制することができる。
【0056】
また、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くならないような場合には、アクセルペダル51の戻し操作に応じて目標入力回転速度Nintを設定し、目標入力回転速度Nintに応じて変速機4の変速比iを変更することができる。目標入力回転速度Nintを所定目標入力回転速度Nintpに制限する場合、例えばアクセルペダル開度APOがゼロとなっているにもかかわらず、変速機4の動作点がコースト線上にないため、運転者に違和感を与えるおそれがある。本実施形態では、エンジン1の燃費低下を抑制しつつ、このような違和感を運転者に与えることを抑制することができる。
【0057】
アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが所定閉速度Vcpよりも大きい場合に、実入力回転速度Ninaがアンダーシュートにより解放回転速度Nrよりも低くなると判定する。これにより、プライマリ回転速度センサ42により回転速度を検出できない場合でも実入力回転速度Ninaがアンダーシュートにより解放回転速度Nrよりも低くなるかどうか判定することができる。
【0058】
ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriと解放回転速度Nrとの差分を、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに加算して所定目標入力回転速度Nintpを設定する。これにより、所定目標入力回転速度Nintpが高くなることを防ぐことができる。目標入力回転速度Nintが所定目標入力回転速度Nintpに設定された後に、アクセルペダル開度APOに基づく変速機4の動作点がドライブ線となっている状態で、回転速度制限制御を終了した場合には、目標入力回転速度Nintはドライブ線上の値に変更される。このとき、所定目標入力回転速度Nintpが高い場合には、実入力回転速度Ninaの変化量、すなわち変速機4の変速比iの変化量(アップシフト量)が大きくなる。このような場合、運転者はアクセルペダル51を操作していないので、変速機4の変速比iの変化量が大きくなると運転者に違和感を与えるおそれがある。本実施形態では、所定目標入力回転速度Nintpが高くなることを防ぐことで、このような違和感を運転者に与えることを抑制することができる。
【0059】
所定目標入力回転速度Nintpをドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriよりも高く、コースト線におけるプライマリプーリ回転速度Npriよりも低くする。これにより、回転速度制限制御を終了し、変速機4の動作点がドライブ線、またはコースト線に変更された場合に、変速機4の変速比iの変化量を小さくすることができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0060】
所定終了条件が成立すると回転速度制限制御を終了し、目標入力回転速度Nintをアクセルペダル開度APOに応じた値に設定する。これにより、アクセルペダル開度APOに基づく変速機4の動作点と実際の変速機4の動作点とが一致しない状態を短くすることができ、運転者に違和感を与えることを抑制することができる。
【0061】
目標入力回転速度Nintを所定入力回転速度に設定した後の経過時間Teが所定経過時間Tepとなると、所定終了条件が成立したと判定する。所定経過時間Tepは、目標入力回転速度Nintを所定目標入力回転速度Nintpに設定してから、アンダーシュートした実入力回転速度Ninaが、低下から増加に切り換わるまでの最大時間である。アクセルペダル開度APOの戻し操作に応じてアンダーシュート量は異なる。本実施形態では、所定終了条件をこのように設定することで、アクセルペダル開度APOの戻し操作にかかわらず、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを防止することができる。
【0062】
次に第1実施形態の変形例について説明する。変形例では、ステップS105の所定目標入力回転速度Nintpの設定方法が異なっている。
【0063】
変形例のステップS105の所定目標入力回転速度Nintpは、アンダーシュートにより実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなる場合における解放回転速度Nrと実入力回転速度Ninaとの最大差分をドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに加算した値に設定される。このような最大差分は、予め実験などにより算出される。
【0064】
これにより、図8に示すように目標入力回転速度Nintが制限されると、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることがない。そのため、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを防ぐことができ、エンジン1の燃費が低下することを防止することができる。
【0065】
また、さらなる変形例として、ステップS105の所定目標入力回転速度Nintpは、コースト線上の値に設定される。
【0066】
これにより、図9に示すように目標入力回転速度Nintが制限され、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることがない。この変形例においても、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを防ぐことができ、エンジン1の燃費が低下することを防止することができる。また、回転速度制限制御を終了した時にアクセルペダル開度APOがゼロとなっている場合には、実入力回転速度Ninaの変化量が小さく、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0067】
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0068】
第2実施形態は、回転速度制限制御が異なっており、第2実施形態の回転速度制限制御について図10のフローチャートを用いて説明する。
【0069】
ステップS200からステップS202までの処理は、第1実施形態と同じなのでここでの説明は省略する。
【0070】
ステップS203では、コントローラ12は、第1所定閉速度Vcp1、及び第2所定閉速度Vcp2を演算する。第1所定閉速度Vcp1は、現在のアクセルペダル開度APOを第1所定時間Tp1で除算することで演算される。第2所定閉速度Vcp2は、現在のアクセルペダル開度APOを第2所定時間Tp2で除算することで演算される。第1所定時間Tp1は、目標入力回転速度Nintの変化に対して実入力回転速度Ninaの変化が開始されるまでの遅れ時間であり、油圧制御における時定数による応答遅れや、動作遅れなどから予め設定されている。第2所定時間Tp2は、第1所定時間Tp1に比べて遅れ時間を長く設定されており、第1所定閉速度Vcp1は第2所定閉速度Vcp2より大きく設定されている。
【0071】
ステップS204では、コントローラ12は、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1よりも大きいかどうか判定する。アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1よりも大きい場合には処理はステップS206に進み、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1以下の場合には処理はステップS205に進む。
【0072】
ステップS205では、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第2所定閉速度Vcp2よりも大きいかどうか判定する。アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第2所定閉速度Vcp2よりも大きい場合には処理はステップS207に進み、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1以下の場合には処理はステップS209に進む。
【0073】
アクセルペダル開度APOの閉速度Vcに応じて、目標入力回転速度Nintに対する実入力回転速度Ninaのアンダーシュート量は変化する。そこで、本実施形態では、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcに応じて、以降の処理を変更している。
【0074】
ステップS206では、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintを制限し、目標入力回転速度Nintを第1所定目標入力回転速度Nintp1に設定する。第1所定目標入力回転速度Nintp1は、コースト線上の値である。
【0075】
ステップS207では、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintを制限し、目標入力回転速度Nintを第2所定目標入力回転速度Nintp2に設定する。第2所定目標入力回転速度Nintp2は、第1実施形態の所定目標入力回転速度Nintpと同じ値である。
【0076】
このように、本実施形態では、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1より大きい場合には、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに対するアンダーシュート量が大きいため、ステップS206において、目標入力回転速度Nintをドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに対して十分に高いコースト線上の値である第1所定目標入力回転速度Nintp1に制限する。一方、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが、第1所定閉速度Vcp1より小さいが第2所定閉速度Vcp2より大きい場合には、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1よりは小さいものの、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに対してアンダーシュートするため、目標入力回転速度Nintを制限する必要がある。従って、ステップS207において、目標入力回転速度Nintを、ドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriと解放回転速度Nrとの偏差をドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに加算した値である第2所定目標入力回転速度Nintp2に制限する。
【0077】
ステップS208では、コントローラ12は、所定終了条件が成立したかどうか判定する。具体的には、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintが第1所定目標入力回転速度Nintp1、または第2所定目標入力回転速度Nintp2に設定されてからの経過時間Teが所定経過時間Tepとなったかどうか判定する。経過時間Teが所定経過時間Tepとなるまでは処理はステップS204に戻り、経過時間Teが所定経過時間Tepとなると処理はステップS209に進む。
【0078】
ステップS209では、コントローラ12は、目標入力回転速度Nintの制限を解除する。これにより、アクセルペダル開度APOに応じた変速線に従って変速機4の変速比iが変更される。
【0079】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0080】
アクセルペダル開度APOの閉速度Vcに応じて、目標入力回転速度Nintを第1所定目標入力回転速度Nintp1、または第2所定目標入力回転速度Nintp2に設定する。これにより、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを防ぐとともに、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが小さい場合には回転速度制限制御を終了した時に実入力回転速度Ninaの変化量を小さくすることができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0081】
アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが大きい場合、即ち、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1より大きい場合には、目標入力回転速度Nintを第2所定目標入力回転速度Nintp2よりも大きい第1所定目標入力回転速度Nintp1に設定する。これにより、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが大きい場合に、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを防ぐことができる。一方、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcがさほど大きくない場合、即ち、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第1所定閉速度Vcp1以下、且つアクセルペダル開度APOの閉速度Vcが第2所定閉速度Vcp2より大きい場合には、目標入力回転速度Nintを第2所定目標入力回転速度Nintp2に設定する。これにより、回転速度制限制御を終了し、変速機4の動作点がドライブ線に設定された時に実入力回転速度Ninaの変化量を小さくすることができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0083】
第2実施形態において、第1所定目標入力回転速度Nintp1、及び第2所定目標入力回転速度Nintp2は、上記組み合わせに限られず、例えば第1所定目標入力回転速度Nintp1をアンダーシュートにより実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなる場合における解放回転速度Nrと実入力回転速度Ninaとの最大差分をドライブ線におけるプライマリプーリ回転速度Npriに加算した値としてもよい。
【0084】
また、目標入力回転速度Nintをアクセルペダル開度APOの閉速度Vcに応じた変数としてもよい。これにより、実入力回転速度Ninaが解放回転速度Nrよりも低くなることを防ぐとともに、回転速度制限制御を終了した時に実入力回転速度Ninaの変化量を小さくすることができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0085】
上記実施形態では、トルクコンバータ2を有する車両について説明したが、トルクコンバータ2を有さない車両の場合、摩擦締結要素として、Lowブレーキ32、またはHighクラッチ33を解放するものであってもよい。また、前後進切替機構を有する車両の場合、前後進切替機構を構成するクラッチを解放するものであってもよい。
【0086】
アクセルペダル開度APOがゼロにならず、変速機4の動作点がドライブ線に維持されるような場合に、本実施形態の回転速度制限制御を実行してもよい。
【0087】
上記実施形態では、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcに応じて目標入力回転速度Nintを所定入力回転速度(第1入力所定回転速度、第2入力所定回転速度を含む。)に制限するかどうか判定したが、目標入力回転速度Nintの低下速度に応じて判定してもよい。これによっても、簡易な構成によって判定することができる。また、閉速度Vc、及び低下速度に応じて判定してもよい。
【0088】
上記実施形態では、所定終了条件としての所定経過時間Tepを固定値としたが、可変にしてもよい。具体的には、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが小さいほど、所定経過時間Tepを短くする。アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが小さくなると、アンダーシュート量が小さくなる。そのため、アクセルペダル開度APOの閉速度Vcが小さいほど、所定経過時間Tepを短くすることで、変速機4の動作点がアクセルペダル開度APOから外れる時間を短くし、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0089】
本願は日本国特許庁に2015年5月22日に出願された特願2015−104176号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
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図5
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図8
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図10