(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0032】
<1.第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る測定装置1を示す概略構成図である。測定装置1は、テラヘルツ波照射部10、試料ステージ20、透過テラヘルツ波検出部30、遅延部40、および、制御部50を備えている。測定装置1は、金属触媒を含む被膜が形成された試料9(測定対象物)について、金属触媒の触媒担持量を測定する装置として構成されている。
【0033】
<テラヘルツ波照射部10>
テラヘルツ波照射部10は、試料ステージ20に支持された試料9に対して、テラヘルツ波LT1を照射するように構成されている。
【0034】
テラヘルツ波照射部10は、フェムト秒パルスレーザ11を備えている。
【0035】
フェムト秒パルスレーザ11は、例えば、360nm(ナノメートル)以上1.5μm(マイクロメートル)以下の可視光領域を含む波長のレーザパルス光(パルス光LP10)を発振する。一例として、フェムト秒パルスレーザ11は、中心波長が800nm付近であり、周期が数kHz〜数百MHz、パルス幅が10〜150フェムト秒程度の直線偏光のパルス光LP10を発振するように構成される。もちろん、フェムト秒パルスレーザ11は、その他の波長領域(例えば、青色波長(450〜495nm)、緑色波長(495〜570nm)などの可視光波長)のパルス光LP10を発振するように構成されていてもよい。
【0036】
フェムト秒パルスレーザ11から発振されたパルス光LP10は、ビームスプリッタB1によって2つに分波され、一方はポンプ光LP1(第1パルス光)、他方がプローブ光LP2(第2パルス光)となる。ポンプ光LP1は、高周波信号発振器300によって制御されるチョッパー12および平面ミラー13等を介して、エミッタ側の光伝導スイッチ14に入射する。光伝導スイッチ14には、アンプ15によってバイアス電圧が印加されており、パルス状のポンプ光LP1が入射することに応じて、パルス状のテラヘルツ波LT1を発生させる。光伝導スイッチ14は、テラヘルツ波を発生させるテラヘルツ波発生器の一例である。
【0037】
光伝導スイッチ14において発生するテラヘルツ波の周波数は、当該光伝導スイッチ14の形状によって概ね決定される。例えば、ダイポール型であれば0.1THzから4THzの範囲のテラヘルツ波を発生させることができ、ボータイ型であれば0.03THzから2THzの範囲のテラヘルツ波を発生させることができる。測定装置1では、テラヘルツ波LT1に、0.01THzから10THzの範囲に含まれるテラヘルツ波が含まれておればよい。
【0038】
光伝導スイッチ14にて発生したテラヘルツ波LT1は、超半球シリコンレンズ16を介して拡散される。そして、テラヘルツ波LT1は、放物面鏡17によって平行光とされ、さらに放物面鏡18で集光される。そして焦点位置に配置された試料9に、当該テラヘルツ波LT1が照射される。
【0039】
なお、テラヘルツ波照射部10は、試料9にテラヘルツ波LT1を照射することが可能であればどのように構成されていてもよい。例えば、フェムト秒パルスレーザ11から発振されたポンプ光LP1が、光ファイバーケーブルによって、光伝導スイッチ14に入射するようにしてもよい。また、放物面鏡18を省略するとともに、光伝導スイッチ14および放物面鏡17の距離を短くして、当該放物面鏡17で反射したテラヘルツ波LT1が集光する焦点位置に、試料9が配置されるようにしてもよい。また、放物面鏡17,18のうち、一方または双方を、テラヘルツレンズに置き換えてもよい。
【0040】
<試料ステージ>
図2は、第1実施形態に係る試料ステージ20を分解して示す概略斜視図である。また、
図3は、試料9を保持している第1実施形態に係る試料ステージ20を示す概略斜視図である。
【0041】
試料ステージ20は、試料9を、テラヘルツ波LT1の進行方向と垂直かつ放物面鏡18および後述する放物面鏡31の焦点位置で把持する。より詳細には、試料ステージ20は、試料9の形状に応じて支持する支持手段を備える。一例として、試料9が触媒層と電解質膜で構成された燃料電池用電極膜であるCCM(Catalyst Coated Membrane)の場合、
図2および
図3に示すように、試料ステージ20に試料抑え枠21,22を設ければよい。試料抑え枠21,22によって試料9の周縁部を把持した状態で、試料抑え枠21,22がネジなどで固定され、さらに試料ステージ20の台座23に起立姿勢で固定される。
【0042】
なお、試料抑え枠21,22の内側の空洞部分の大きさは、テラヘルツ波LT1のスポット径よりも大きいことが望ましいが、後述する透過テラヘルツ波検出部30においてテラヘルツ波を検出できるのであれば、スポット径よりも小さくてもよい。
【0043】
図4は、第1実施形態の変形例に係る試料ステージ20Aを示す概略斜視図である。また、
図4に示す試料9Aのように、厚みが不均一なため、試料抑え枠21,22で把持することが困難な場合は、水平面を有する試料ステージ20Aに、試料9Aを配置することも考えられる。
【0044】
図1に示すように、試料ステージ20には、試料ステージ移動機構24が接続されている。試料ステージ移動機構24は試料ステージ20を移動させることによって、試料9をテラヘルツ波LT1の進行方向と垂直な平面内において、1軸方向、または、互いに直交する2軸方向に移動させる。試料ステージ移動機構24の構成例としては、リニアモータまたはスライダ側のナット部材が螺合するネジ軸をサーボモータの駆動によって回転駆動させる電動スライダ機構などでステージを軸方向に移動させるとともに、試料ステージ20の移動量をリニアゲージ等で測長するように構成することが考えられる。
【0045】
試料ステージ移動機構24は、制御部50の試料ステージ制御モジュール501(
図5)によって制御される。測定装置1は、試料ステージ20を移動させることによって、試料9の複数の箇所で、担持量を測定することが可能に構成されている。
【0046】
なお、テラヘルツ波LT1自体の光路を変更することによって、試料9の異なる箇所にテラヘルツ波を照射できるようにしてもよい。具体的には、往復揺動するガルバノミラーによって、テラヘルツ波LT1の光路を、試料9の表面に平行に変更することが考えられる。また、ガルバノミラーの代わりに、ポリゴンミラー、ピエゾミラーまたは音響光学素子などを採用してもよい。
【0047】
<透過テラヘルツ波検出部>
透過テラヘルツ波検出部30は、試料9を透過したテラヘルツ波LT1である透過テラヘルツ波LT2の電界強度を検出する。
【0048】
試料9を透過した透過テラヘルツ波LT2は、試料9から焦点距離の位置に配置された放物面鏡31によって平行光となる。そして、平行光となった透過テラヘルツ波LT2は、放物面鏡32で集光される。そして、超半球シリコンレンズ33を介して、光伝導スイッチ34に入射する。光伝導スイッチ34は、放物面鏡32の焦点距離の位置に配置される。
【0049】
また、フェムト秒パルスレーザ11から発振され、ビームスプリッタB1により2つに分波されたビーム光のうちの他方のプローブ光LP2(第2パルス光)は、平面ミラー35および遅延部40を介して、光伝導スイッチ34に入射する。光伝導スイッチ34は、プローブ光LP2を受光した際に、当該光伝導スイッチ34に入射している透過テラヘルツ波LT2の電界強度に応じた電流が流れる。この際の電圧変化が、ロックインアンプ36で増幅されるとともに、高周波信号発振器300に従った周波数で、所定のインターフェースを介して制御部50に取り込まれる。光伝導スイッチ34は、透過テラヘルツ波LT2の電界強度を検出する透過テラヘルツ波検出器の一例である。
【0050】
なお、放物面鏡31,32のうち、どちらか一方または双方を、テラヘルツレンズに置き換えてもよい。また、放物面鏡32を省略し、試料9および放物面鏡31間の距離を、放物面鏡31の焦点距離よりも短くしてもよい。そして、放物面鏡31の焦点位置に光伝導スイッチ34を配置することによって、透過テラヘルツ波LT2が当該光伝導スイッチ34に入射させてもよい。
【0051】
<遅延部>
遅延部40は、ポンプ光LP1がテラヘルツ波発振器である光伝導スイッチ14に入射する時間に対して、プローブ光LP2が透過テラヘルツ波検出器である光伝導スイッチ34に入射する時間を相対的に遅延させる。
【0052】
より詳細には、遅延部40は、平面ミラー41,42、遅延ステージ43および遅延ステージ移動機構44を備えている。プローブ光LP2は、平面ミラー35で反射した後、平面ミラー41によって、遅延ステージ43に向かう方向に反射される。遅延ステージ43は、入射したプローブ光LP2を、その入射方向とは反対の方向に折り返させる折返しミラーを備えている。遅延ステージ43で折り返されたプローブ光LP2は、平面ミラー42で反射した後、光伝導スイッチ34に入射する。
【0053】
遅延ステージ43は、遅延ステージ移動機構44によって、プローブ光LP2が入射する方向と平行に移動する。遅延ステージ移動機構44の構成例としては、リニアモータまたはスライダ側のナット部材が螺合するネジ軸をサーボモータの駆動によって回転駆動させる電動スライダ機構などで遅延ステージ43を軸方向に移動させるとともに、遅延ステージ43の移動量をリニアゲージ等で測長するように構成することが考えられる。
【0054】
遅延ステージ43をプローブ光LP2と平行に直線移動させることによって、フェムト秒パルスレーザ11から光伝導スイッチ34に至るまでのプローブ光LP2の光路長を変更できる。これによって、光伝導スイッチ34に入射するプローブ光LP2のタイミングを変更できる。すなわち、光伝導スイッチ34が、透過テラヘルツ波LT2の電界強度を検出するタイミング(位相)を変更できる。
【0055】
なお、ポンプ光LP1(第1パルス光)の光路上に、遅延部40を設けてもよい。すなわち、ポンプ光LP1の光路長を変更することによって、ポンプ光LP1が光伝導スイッチ34に到達するタイミングを遅延させることができる。これによって、パルス状のテラヘルツ波LT1が発生するタイミングを変更できるため、光伝導スイッチ34が透過テラヘルツ波LT2の電界強度を検出するタイミング(位相)を変更できる。
【0056】
<制御部>
図5は、第1実施形態に係る制御部50の構成を示すブロック図である。制御部50は、図示を省略するが、CPU、ROM、RAMなどを備えた一般的なコンピュータとして構成されている。
【0057】
図5に示す試料ステージ制御モジュール501、遅延ステージ制御モジュール503、透過テラヘルツ波強度取得モジュール505、ピーク強度特定モジュール507、相関取得モジュール509、触媒担持量取得モジュール511、画像生成モジュール513は、それぞれ制御部50のCPUが、不図示のプログラムに従って動作することによって実現される機能である。なお、これらの機能のうち一部または全部が、専用の回路などでハードウェア的に実現されてもよい。
【0058】
試料ステージ制御モジュール501は、試料ステージ移動機構24を制御するように構成されている。また、遅延ステージ制御モジュール503は、遅延ステージ移動機構44を制御するように構成されている。
【0059】
透過テラヘルツ波強度取得モジュール505は、光伝導スイッチ34で発生した電圧値を、ロックインアンプ36を介して読み取ることによって、透過テラヘルツ波LT2の電界強度を取得する。遅延ステージ制御モジュール503が遅延部40の遅延ステージ43を移動させることによって、透過テラヘルツ波強度取得モジュール505が、透過テラヘルツ波LT2の電界強度を異なるタイミング(位相)で取得する。
【0060】
ピーク強度特定モジュール507は、透過テラヘルツ波強度取得モジュール505によって取得された、透過テラヘルツ波LT2の異なる位相毎の電界強度に基づき、透過テラヘルツ波の電界強度のピーク強度を特定するように構成されている。
【0061】
相関取得モジュール509は、試料9に形成された金属触媒層の薄膜に含まれる金属触媒の担持量(以下、「触媒担持量」と称する。)と、当該試料9を透過した透過テラヘルツ波LT2との相関関係を示す相関情報C1を取得するように構成されている。相関情報C1は、記憶部60(ハードディスク、光学ディスクまたは光磁気ディスクなどの不揮発性のストレージの他、RAMなどの一時的に情報を記憶するものを含む。)に保存されており、触媒担持量取得モジュール511によって読み取り可能とされている。
【0062】
後述するように、測定装置1では、予め、触媒担持量が既知である金属触媒層が形成された試料(以下、「基準試料」とも称する。)毎に、透過テラヘルツ波LT2の電界強度が測定され、各触媒担持量に対応する透過テラヘルツ波LT2のピーク強度がピーク強度特定モジュール507によって特定される。相関取得モジュール509は、各基準試料の触媒担持量、および、基準試料毎に取得されたピーク強度の相関関係を特定した相関情報C1を取得する。
【0063】
相関情報C1は、いくつかの触媒担持量毎に、透過テラヘルツ波LT2のピーク強度が記録された対応表形式のデータとされてもよいし、あるいは、触媒担持量および透過テラヘルツ波LT2の電界強度の関係式を示す形式のデータであってもよい。
【0064】
触媒担持量取得モジュール511は、記憶部60に保存されている相関情報C1、および、試料9を透過した透過テラヘルツ波LT2の電界強度に基づき、試料9における金属触媒の担持量を取得する。
【0065】
画像生成モジュール513は、触媒担持量取得モジュール511によって取得された触媒担持量の測定結果を、表示部61に表示するように構成されている。例えば、試料9の表面上をテラヘルツ波LT1で走査することによって、透過テラヘルツ波LT2の電界強度分布が取得される。この電界強度分布から、触媒担持量取得モジュール511によって、金属触媒の担持量分布が取得される。画像生成モジュール513は、触媒担持量の大きさを異なる色や異なる模様で表現することによって、当該担持量分布を画像化する。画像生成モジュール513は、触媒担持量分布画像生成部の一例である。
【0066】
制御部50には、表示部61および操作入力部62が接続されている。表示部61は、液晶ディスプレイなどで構成されており、各種測定結果(例えば、画像生成モジュール513が生成した画像の他、透過テラヘルツ波LT2の時間波形、周波数スペクトルなどを含む。)を表示する。操作入力部62は、例えば、キーボードおよびマウスによって構成される入力デバイスであり、オペレータからの各種の操作(コマンドや各種データを入力する操作)を受け付ける。具体的には、測定装置1の動作モード(相関情報取得モードまたは触媒担持量測定モードを含む。)を選択する操作、または、試料9における測定箇所(または測定範囲)を指定する操作などを受け付ける。なお、操作入力部62は、各種スイッチ、タッチパネルなどにより構成されてもよい。
【0067】
<測定装置の動作>
図6は、第1実施形態に係る測定装置1の動作フローを示す流れ図である。なお、以下に説明する測定装置1の各動作は、特に断らない限り、制御部50の制御下で行われるものとする。
【0068】
まず、制御部50は、オペレータの指示に基づき、相関情報C1を取得するかどうかを判断する(ステップS10)。このステップS10においてYESの場合、測定装置1が、ステップS11に進み、相関情報C1を取得する相関情報取得モードで動作する。一方、ステップS10においてNOの場合、測定装置1が、ステップS13に進み触媒担持量を測定する触媒担持量測定モードで動作する。
【0069】
<相関情報取得モード>
相関情報取得モードでは、互いに触媒担持量が異なる複数の基準試料毎に、テラヘルツ波LT1を照射して、透過テラヘルツ波LT2の電界強度が測定される。なお、基準試料は、触媒担持量が既知である点以外は、測定装置1において測定対象となる試料9と共通する構造を有する。そして、ピーク強度特定モジュール507によって、基準試料毎に、透過テラヘルツ波LT2のピーク強度が特定される(ステップS11)。そして、ステップS11で取得されたピーク強度、および、測定に用いた触媒担持量から、それらの相関関係を規定した相関情報C1が、相関取得モジュール509によって生成され、記憶部60に保存される(ステップS12)。
【0070】
図7は、触媒担持量が相異なる各基準試料を透過した透過テラヘルツ波LT2の時間波形TW11〜TW14を示す図である。
図7中、横軸は時間を示しており、縦軸は電界強度を示している。
図7に示す時間波形TW11〜TW14は、それぞれ、プラチナ担持量(単位は、mg/cm
2)が「0.094」、「0.192」、「0.309」および「0.404」の基準試料を透過した透過テラヘルツ波LT2にそれぞれ対応する。
【0071】
図7に示すように、プラチナ担持量が増加するに連れて、最大の電界強度であるピーク強度が徐々に低下する。具体的に、時間波形TW11〜TW14のピーク強度(相対値)は、それぞれ「5.544」「4.655」「4.047」「3.676」であり、相関係数が「−0.98」である。このように、プラチナ担持量、および、透過テラヘルツ波LT2のピーク強度は、非常に強い負の相関を有する。
【0072】
また、上述したように、触媒担持量および透過テラヘルツ波のピーク強度の関係式を相関情報C1としてもよい。一例として、
図7に示す結果に基づき、プラチナ担持量を従属変数とし、ピーク強度を説明変数として回帰分析することによって、回帰式(y=−0.1639x+0.9849)を得ることができる。当該回帰式を、相関情報C1として記憶部60に保存してもよい。また、測定によって得られたピーク強度、および、触媒担持量を二次元座標上にプロットして、プロットした点を曲線で補完した補完曲線を、相関情報C1としてもよい。
【0073】
図8は、触媒担持量が相異なる各基準試料を透過した透過テラヘルツ波LT2の周波数分布FT1〜FT4を示す図である。
図8中、横軸は周波数を示し、縦軸は強度を示している。
図8に示す周波数分布FT1,FT2は、金属触媒(プラチナ)を含まない薄膜が形成された基準試料を透過した透過テラヘルツ波LT2の周波数分布を示しており、その膜厚は、仮に触媒担持量(mg/cm
2)をそれぞれ「0.15」、「0.35」としたときに相当する寸法に設定されている。また、周波数分布FT3,FT4は、金属触媒(プラチナ)の触媒担持量(mg/cm
2)が「0.192」、「0.404」である薄膜が形成された基準試料を透過した透過テラヘルツ波LT2の周波数分布を示す。
【0074】
周波数分布FT1,FT2で示されるように、プラチナを含まない基準試料では、膜厚が相違しても、透過テラヘルツ波の周波数成分にはほとんど差が発生しない。そして、周波数分布FT3,FT4で示されるように、金属触媒であるプラチナの触媒担持量の増大に応じて、各周波数の強度(dB)が減少する。すなわち、透過テラヘルツ波LT2のピーク強度は、膜厚にはほとんど依存せず、金属触媒(プラチナ)の触媒担持量に依存すると考えられる。
【0075】
図9は、
図7に示す各時間波形TW11〜TW14に基づき取得される、周波数毎の相関係数を示す図である。なお、
図7に示す相関係数は、絶対値に変換して示されている。また、
図9に示す相関係数は、テラヘルツ波発生器として主に0.1THzから4THzのテラヘルツ波LT1を発生させるダイポール型の光伝導スイッチ14を用いたときの測定例である。
【0076】
図9に示すように、0.1THz〜1.6THzにおいて、相関係数が大きいことが明らかである。このように、相関係数が大きい周波数領域のテラヘルツ波LT1を測定に用いることによって、精密な相関情報C1を取得でき、当該相関情報C1に基づいて、触媒担持量を正確に取得することが可能となる。
【0077】
なお、透過テラヘルツ波LT2の光路上にバンドパスフィルターを設けることによって、透過テラヘルツ波LT2のうち、上記相関係数が高い周波数領域の部分のみが光伝導スイッチ34に入射するようにしてもよい。これによって、相関係数が高い周波数成分に基づき、相関情報C1を取得できるため、触媒担持量の測定精度を高めることができる。またバンドパスフィルターを設ける代わりに、演算処理によって、相関係数が高い周波数領域の部分を抽出してもよい。例えば、測定された透過テラヘルツ波LT2の時間波形をフーリエ変換して周波数領域で展開し、上記相関係数が高い周波数領域についてのみ逆フーリエ変換すればよい。
【0078】
<触媒担持量測定モード>
次に、
図6に戻って触媒担持量測定モードについて説明する。なお、以下の説明では、測定対象物の試料9が、試料ステージ20に保持されているものとする。
【0079】
触媒担持量を測定する触媒担持量測定モードでは、まず、触媒担持量を測定する箇所の指定を受け付ける処理が行われる(ステップS13)。一例として、ステップS13では、図示を省略する測定箇所指定モジュールが、測定箇所を指定するための入力画面を表示部61に表示し、オペレータが、測定箇所として1箇所または複数箇所を指定できるようにすればよい。また、領域単位で測定箇所が指定できるようにしてもよい。また、測定箇所があらかじめ固定されていてもよい。この場合には、ステップS13の処理は省略される。
【0080】
続いて、ステップS13にて指定された測定箇所に、テラヘルツ波LT1が照射されるよう、試料ステージ移動機構24が試料ステージ20を移動させる(ステップS14)。続いて、テラヘルツ波LT1が試料9に照射され、透過テラヘルツ波検出部30が試料9を透過した透過テラヘルツ波LT2を検出する(ステップS15、テラヘルツ波照射工程および透過テラヘルツ波検出工程)。このとき、遅延部40が駆動されることによって、透過テラヘルツ波LT2について、相異なる位相毎の電界強度が取得される。
【0081】
続いて、ステップS15にて取得された透過テラヘルツ波LT2の電界強度に基づき、ピーク強度特定モジュール507がピーク強度を特定する(ステップS16、ピーク強度特定工程)。そして触媒担持量取得モジュール511が、ステップS12で取得された相関情報C1を記憶部60から読み出すとともに、ステップS16にて取得されたピーク強度を示すデータを受け取る。そして、触媒担持量取得モジュール511は、これらの情報に基づき、試料9に形成された金属触媒層における触媒担持量を取得する(ステップS17、読出工程および触媒担持量取得工程)。
【0082】
続いて、制御部50は、ステップS13において指定された箇所全てについて、触媒担持量の測定が完了したかどうかを判断する(ステップS18)。指定された箇所全ての測定が完了していない場合(ステップS18においてNO)、制御部50はステップS14に戻って、測定が完了していない残余の箇所にテラヘルツ波LT1が照射されるように、試料ステージ20を移動させる。
【0083】
例えば、ステップS13において、測定箇所として試料9表面の一部の領域または全部の領域が指定された場合、測定装置1は、当該指定された領域を、テラヘルツ波LT1で二次元走査する。そして、測定箇所毎に取得される透過テラヘルツ波LT2のピーク強度に基づき、触媒担持量が取得される。これによって、上記指定された領域における触媒担持量の分布を示す、担持量分布データが取得されることとなる。
【0084】
指定された箇所全てについて測定が完了した場合(ステップS18においてYES)、場合、制御部50は、ステップS19に進み、測定結果を表示部61に表示する(ステップS19)。例えばステップS13において、測定箇所として1箇所または分散した複数箇所が指定された場合、1箇所または各複数箇所における触媒担持量が適宜表示部に表示される。また、測定箇所として、試料9表面の一部または全部の領域が指定された場合、画像生成モジュール513が触媒担持量分布を表す触媒担持量分布画像を生成する。担持量分布画像においては、触媒担持量の大きさが、異なる色または異なる模様などを用いて、視覚的に表現される。生成された触媒担持量分布画像は、表示部61に表示される。
【0085】
図10は、第1実施形態に係る触媒担持量分布画像I10の一例を示す図である。
図10に示す触媒担持量分布画像I10は、触媒担持量分布を二次元で表現した画像であって、X軸およびY軸は、試料9の表面に平行な2軸方向を示している。また、触媒担持量の大きさ毎に、各測定地点が色付けまたは模様付けされている。このような触媒担持量分布画像I10によれば、各測定地点での触媒担持量の変化を容易に視認することができる。
【0086】
本実施形態に係る測定装置1によると、基材に金属触媒層の薄膜が形成された時点で、触媒担持量をモニタできる。例えば、電解質膜にプラチナ触媒を含むアノードまたはカソードを形成した時点で、触媒担持量をモニタリングできる。このため、触媒担持量の過不足、すなわち不良品を早期に発見することが可能となり、経済的損失を低減できる。
【0087】
なお、上記説明では、各測定箇所において、ステップS15において、遅延部40の遅延ステージ43を移動させることによって、透過テラヘルツ波LT2の異なる位相毎の電界強度が取得される。そして、ステップS16において、取得された位相毎の電界強度に基づいて、ピーク強度が特定される。しかしながら、必ずしも全ての測定箇所において、異なる位相毎の電界強度を取得する必要はない。例えば、試料9における特定の箇所で透過テラヘルツ波LT2の計測を行うことによって、透過テラヘルツ波LT2がピーク強度をとる位相を特定し、その位相に対応した遅延ステージ43の位置を特定する。なお、複数の箇所でピーク強度をとる位相を特定し、それらの位相を平均して、遅延ステージ43の位置を特定してもよい。そして、他の測定箇所については、遅延ステージ43の位置を、上記特定された位置に固定することで、検出タイミングを固定し、透過テラヘルツ波LT2の電界強度を測定する。このようにして測定された電界強度を、透過テラヘルツ波LT1のピーク強度としてもよい。このように、遅延ステージ43を固定して透過テラヘルツ波LT2を測定することによって、透過テラヘルツ波LT2のピーク強度を取得するのにかかる時間を短縮できる。
【0088】
また、ステップS11において、相関情報C1を得るために、触媒担持量が異なる各基準試料について、透過テラヘルツ波LT2を測定する際にも、遅延ステージ43を固定してもよい。具体例として、1つ(または複数)の基準試料を用いて、透過テラヘルツ波LT2がピーク強度をとるときの位相を特定し、その位相に対応した遅延ステージ43の位置を特定する。そして、他の基準試料については、先に特定された位置に遅延ステージ43を固定した状態で、透過テラヘルツ波LT2を測定し、それをピーク強度としてもよい。これによって、複数の基準試料毎の透過テラヘルツ波LT2の測定にかかる時間を短縮できるため、相関情報C1を迅速に得ることができる。
【0089】
<2.第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、以降の説明において、既に説明した要素と同様の機能を有する要素については、同じ符号またはアルファベットを追加した符号を付して、詳細な説明を省略する場合がある。
【0090】
図11は、第2実施形態に係る測定装置1Aが組み込まれた薄膜形成システム100を示す概略側面図である。薄膜形成システム100は、ロールtoロール方式で搬送されるシート状の基材9Bの片面に金属触媒層の薄膜を形成するシステムである。この薄膜形成システム100は、基材9Bの搬送経路途中に、触媒担持量を測定する測定装置1Aを備えている。
【0091】
薄膜形成システム100では、巻き出しローラ701から巻き出された基材9Bは、搬送ローラ702,703を経由して塗工部71まで搬送される。
【0092】
塗工部71は、スリットダイコータ711、塗工液供給部713および支持ローラ715を備えている。スリットダイコータ711は、基材9Bの幅方向に延びるスリット状の吐出口を備える。塗工液供給部713は、配管を介してスリットダイコータ711に金属触媒を含む塗工液を供給する。支持ローラ715は、スリットダイコータ711の吐出口に対向する位置に配置され、基材9Bの裏面を支持する。
【0093】
塗工部71で塗工液が塗布された基材9Bは、乾燥部72に搬送される。乾燥部72は、塗工部71のスリットダイコータ711によって基材9Bの片面に形成された塗工液の塗膜の乾燥処理を行う。乾燥部72は、一例として、基材9Bに向けて熱風を供給することによって当該基材9Bを加熱し、塗工液の水分または溶媒を蒸発させる。
【0094】
乾燥部72で乾燥された基材9Bは、搬送ローラ704,705を経由して巻き取りローラ706によって巻き取られる。
【0095】
測定装置1Aは、搬送ローラ704,705の間の位置に配置されており、乾燥状態の基材9B(測定対象物)の触媒担持量を測定するように構成されている。なお、測定装置1Aの配置位置はこれに限定されるものではない。例えば、乾燥部72と搬送ローラ704の間の位置、または、搬送ローラ705と巻き取りローラ706の間の位置に配置されてもよい。測定装置1Aは、乾燥処理後の片面に金属触媒層が形成された基材9Bにテラヘルツ波LT1を照射して、透過したテラヘルツ波である透過テラヘルツ波LT2を検出する。なお、測定装置1Aは、基材9Bのうち、薄膜が形成されている側の面にテラヘルツ波LT1を照射するように構成されてもよいし、それとは反対側の裏面にテラヘルツ波LT1を照射するように構成されてもよい。
【0096】
なお、測定装置1Aは、スリットダイコータ711と乾燥部72との間の位置に配することで、乾燥前の金属触媒層を透過した透過テラヘルツ波LT2を計測するようにしてもよい。金属触媒層中に、テラヘルツ波LT1を吸収する溶媒(例えば、水分)が含まれている場合には、当該溶媒によって吸収される周波数成分を除けば、触媒担持量を高精度に特定できる。なお、特定の周波数成分を、透過テラヘルツ波LT2の光路上に所定のバンドパスフィルターを設けて除去してもよいし、あるいは、演算によって除去してもよい。演算による場合、透過テラヘルツ波LT2の時間波形をフーリエ変換して周波数領域で展開し、特定の周波数領域を除いて逆フーリエ変換すればよい。
【0097】
測定装置1Aは、測定対象物である基材9Bがシート状であり、搬送ローラ704,705によって支持されている点で、試料ステージ20を備える測定装置1とは相違する。測定装置1Aのその他の構成については、図示を省略するが、測定装置1と略同様に、テラヘルツ波照射部10、透過テラヘルツ波検出部30、遅延部40および制御部50を備える。
【0098】
本実施形態に係る測定装置1Aによっても、基材9Bの表面の金属触媒層を透過した透過テラヘルツ波LT2のピーク強度と、予め取得される相関情報とに基づき、触媒担持量を特定できる。すなわち、電解質膜に金属触媒層であるアノードまたはカソードを形成した時点で、触媒担持量をモニタリングできるようになる。このため、触媒担持量の過不足、すなわち不良品を早期に発見することが可能となり、経済的損失を低減できる。
【0099】
また、非接触・非破壊で検査できるため、従来の破壊検査で発生するサンプリングによる無駄の発生を低減できる。
【0100】
また、上述したように、ピーク強度を取る位相に対応した位置を予め特定し、その位置に遅延ステージ43を固定して、透過テラヘルツ波LT2を測定してもよい。これによって、ピーク強度を迅速に取得できるため、ピーク強度および相関情報C1から触媒担持量をリアルタイムに取得できる。
【0101】
また、上述したガルバノミラーなどによって、テラヘルツ波LT1を照射する位置を変更できるように測定装置1Aを構成してもよい。
【0102】
また、基材9Bの幅方向に一定間隔をおいた複数の箇所にテラヘルツ波LT1を同時に照射し、それぞれの透過テラヘルツ波LT2を検出できるように測定装置1Aを構成してもよい。例えば、
図1に示す光伝導スイッチ14から放射されたテラヘルツ波LT1を分割して、基材9B幅方向に沿って複数箇所に照射されるようにしてもよい。あるいは、光伝導スイッチ14を複数用意して、各光伝導スイッチ14から出射された各テラヘルツ波LT1を相異なる位置に同時に照射してもよい。これによって、塗布ムラの発生等を広範囲にわたって迅速に検出できる。
【0103】
<3.第3実施形態>
図12は、第3実施形態に係る測定装置1Bを示す概略構成図である。測定装置1Bは、
図1に示す測定装置1の構成に加えて、反射テラヘルツ波検出部80を備えている。後述するように、テラヘルツ波LT1は、測定対象物である試料9に形成された金属触媒層に含まれる金属触媒によって、その一部が反射される。このときのテラヘルツ波LT1が、試料9の金属触媒層中での反射位置は、すなわち、金属触媒層の膜厚方向における金属触媒の偏りに依存する。したがって、テラヘルツ波LT1の金属触媒層中における反射位置を特定することによって、金属触媒の膜厚方向の偏り(すなわち、金属触媒の重心位置)を測定することができる。以下、反射テラヘルツ波検出部80の構成について説明する。
【0104】
<反射テラヘルツ波検出部>
反射テラヘルツ波検出部80は、試料9で反射したテラヘルツ波LT1である反射テラヘルツ波LT3の電界強度を検出するように構成されている。詳細には、放物面鏡18から試料9に至るまでのテラヘルツ波LT1の光路上に、ワイヤグリッド81,82が設けられている。ワイヤグリッド81,82は、偏光角度を変えて配置されている。一例として、ワイヤグリッド81は、テラヘルツ波LT1の入射角度に対して90度を成すように配置され、ワイヤグリッド82は、
図12に示すように、ワイヤグリッド81に対して45度の角度を成すように配置される。このように、ワイヤグリッド81とワイヤグリッド82の偏光角度は、それらの角度差が45度となるように設定することによって、反射テラヘルツ波LT3の電界強度の減衰を最小限に抑えることができる。
【0105】
ワイヤグリッド81,82を透過したテラヘルツ波LT1は、試料ステージ20に入射され、試料9でその一部が反射する。反射したテラヘルツ波である反射テラヘルツ波LT3は、ワイヤグリッド82で反射され、放物面鏡83に入射する。放物面鏡83で反射した反射テラヘルツ波LT3は、放物面鏡84によって集光され、光伝導スイッチ85に入射する。
【0106】
光伝導スイッチ85は、遅延部40Aを介して入射したプローブ光LP3を受光した際に、当該光伝導スイッチ85に入射している反射テラヘルツ波LT3電界強度に応じた電流が流れる。プローブ光LP3は、プローブ光LP2がビームスプリッタB2によって分波されることによって発生させたビーム光である。光伝導スイッチ85で電流が流れることによって発生した電圧変化が、ロックインアンプ86で増幅され、制御部50Aに取り込まれる。
【0107】
遅延部40Aは、平面鏡41A,42A、遅延ステージ43Aおよび遅延ステージ移動機構44Aを備えており、遅延部40と略同様の構成を備えている。遅延ステージ43Aは、遅延ステージ移動機構44Aによって、プローブ光LP3が入射する方向と平行に移動する。遅延ステージ43をプローブ光LP3と平行に直線移動させることによって、フェムト秒パルスレーザ11から光伝導スイッチ85に至るまでのプローブ光LP3の光路長を変更できる。これによって、光伝導スイッチ85に入射するプローブ光LP3のタイミングを変更できる。すなわち、光伝導スイッチ85が、反射テラヘルツ波LT3の電界強度を検出するタイミング(位相)を変更できる。
【0108】
図13は、第3実施形態に係る制御部50Aの構成を示すブロック図である。制御部50Aは、制御部50が備える機能モジュールに加えて、遅延ステージ制御モジュール503A、反射テラヘルツ波強度取得モジュール505A、ピーク時間特定モジュール507A、相関取得モジュール509A、反射位置特定モジュール511Aを備えている。これらの機能モジュールは、CPUが不図示のプログラムに従って動作することによって実現される機能である。なお、これらの機能のうち一部または全部が、専用の回路などでハードウェア的に実現されてもよい。
【0109】
遅延ステージ制御モジュール503Aは、遅延ステージ移動機構44Aを制御するように構成されている。
【0110】
反射テラヘルツ波強度取得モジュール505Aは、光伝導スイッチ85が検出した反射テラヘルツ波LT3で発生した電圧値を、ロックインアンプ86を介して読み取る。これによって、反射テラヘルツ波強度取得モジュール505Aは、反射テラヘルツ波LT3の電界強度を取得する。遅延ステージ制御モジュール503Aが遅延部40Aの遅延ステージ43Aを移動させることによって、反射テラヘルツ波強度取得モジュール505Aが反射テラヘルツ波LT3の電界強度を相異なるタイミング(位相)で取得する。
【0111】
ピーク時間特定モジュール507Aは、反射テラヘルツ波強度取得モジュール505Aによって取得された、反射テラヘルツ波LT3の相異なる位相毎の電界強度に基づき、反射テラヘルツ波の電界強度がピーク強度となる時間(位相)を特定するように構成されている。以下の説明では、このピーク強度となる時間を、「ピーク時間」と称する。
【0112】
相関取得モジュール509Aは、試料9に形成された金属触媒層内における反射位置と、当該試料9で反射した反射テラヘルツ波LT3のピーク時間の相関関係を示す相関情報C2を取得するように構成されている。相関情報C2は、記憶部60に保存されており、反射位置特定モジュール511Aによって読み取り可能とされている。
【0113】
後述するように、測定装置1Bでは、予め、反射テラヘルツ波LT3の反射位置が相異なるように金属触媒層が形成された試料(以下、「基準試料」とも称する。)が用意される。そして、当該基準試料毎に、反射テラヘルツ波LT3の電界強度が測定され、各反射位置に対応する反射テラヘルツ波LT3のピーク時間がピーク時間特定モジュール507Aによって特定される。相関取得モジュール509Aは、各基準試料の反射位置、および、基準試料毎に取得されたピーク時間の相関関係を特定した相関情報C2を取得する。
【0114】
相関情報C2は、いくつかの反射位置毎に、反射テラヘルツ波LT3のピーク時間が記録された対応表形式のデータとされてもよいし、あるいは、反射位置および反射テラヘルツ波LT3のピーク時間の関係式を示す形式のデータであってもよい。
【0115】
反射位置特定モジュール511Aは、記憶部60に保存されている相関情報C2、および、試料9を反射した反射テラヘルツ波LT3のピーク時間に基づき、当該試料9におけるテラヘルツ波LT1の反射位置を特定する。
【0116】
画像生成モジュール513は、反射位置特定モジュール511Aによって特定された反射位置の測定結果を、表示部61に表示するように構成されている。例えば、試料9の表面上をテラヘルツ波LT1で走査することによって、テラヘルツ波LT1のピーク時間の分布が取得される。このピーク時間の分布から、反射位置特定モジュール511Aによって、反射位置(深さ)の二次元分布が取得される。画像生成モジュール513は、当該反射位置の二次元分布を三次元的に表現した画像を生成する。
【0117】
<測定装置の動作>
図14は、第3実施形態に係る測定装置1Bの動作フローを示す流れ図である。なお、以下に説明する測定装置1Bの各動作は、特に断らない限り、制御部50Aの動作フローの制御下で行われるものとする。
【0118】
まず、制御部50Aは、オペレータの指示に基づき、相関情報C2を取得するかどうかを判断する(ステップS20)。このステップS20においてYESの場合、測定装置1Bが、ステップS21に進み、相関情報C2を取得する相関情報取得モードで動作する。一方、ステップS20においてNOの場合、測定装置1Bが、ステップS23に進み、反射位置を特定する反射位置特定モードで動作する。
【0119】
<反射テラヘルツ波のピーク時間が変化する原理の説明>
ここで、反射テラヘルツ波LT3のピーク時間が、金属触媒層における金属触媒の膜厚方向の分布によって変化する原理について説明する。
【0120】
<金属触媒が均一に分布する場合>
図15は、金属触媒が膜圧方向において均一に分布する試料9を示す概略断面図である。試料9は、基材90の上面に金属触媒層91が積層された構造を有している。
【0121】
以下の説明では、空気中の絶対屈折率を「1」、光の速度を「c」、金属触媒層91の絶対屈折率を「n」、光の速度を「v」、金属触媒層91の膜厚を「L」、入射角を「θ
0」、屈折角を「θ
1」とおく。
【0122】
スネルの法則により(1)式が成り立つ。
【0124】
図15に示すように、金属触媒層91において、金属触媒が均一に分布している場合、触媒担持量の重心位置は、膜厚中心すなわち膜表面からL/2の位置となる。したがって、金属触媒層91内を進むテラヘルツ波LT1の距離L’は、(2)式で表される。
【0126】
従って、金属触媒層91の重心位置で反射した反射テラヘルツ波LT3が、空気中を進むテラヘルツ波LT1に比べて、遅延する遅延時間ΔTmは(3)式で表される。
【0128】
(1)式(スネルの式)より、(4)式が得られる。
【0130】
(3)式に(4)式をあてはめると、ΔTmは(5)式で表される。
【0132】
<金属触媒が表面側に偏在する場合>
図16は、金属触媒が膜厚方向の表面側に偏在して分布する試料9を示す概略断面図である。本例では、膜厚方向における金属触媒層91の触媒担持量の重心位置が、膜厚中心からΔLsだけ表面側に寄っているものとする。すると、金属触媒層91内を進むテラヘルツ波LT1の距離Lsは、(6)式で表される。
【0134】
また、金属触媒層91の重心位置で反射した反射テラヘルツ波LT3が、空気中を進むテラヘルツ波LT1に比べて遅延する遅延時間ΔTsは、(7)式で表される。
【0136】
(5)式で表されるΔTm、および、(7)式で表されるΔTsを比較すれば明らかなように、金属触媒層91における触媒担持量の重心位置が表面に近づくことによって、遅延時間が短くなることが判る。
【0137】
<金属触媒が界面側に偏在する場合>
図17は、金属触媒が膜厚方向の界面側に偏在して分布する試料9を示す図である。本例では、金属触媒層91における触媒担持量の重心位置が、膜厚中央からΔLdだけ界面(すなわち、基材90と金属触媒層91の境界面)に寄っているものとする。すると、金属触媒層91内を進むテラヘルツ波LT1の距離Ldは、(8)式で表される。
【0139】
また、金属触媒層91Aの重心位置で反射した反射テラヘルツ波LT3が、空気中を進むテラヘルツ波LT1に比べて遅延する遅延時間ΔTdは、(9)式で表される。
【0141】
(5)式で表されるΔTm、および、(9)式で表されるΔTdを比較すれば明らかなように、金属触媒層91における触媒担持量の重心位置が界面に近づくことによって、遅延時間が長くなることが判る。
【0142】
図18は、第3実施形態に係る測定装置1Bによって測定される反射テラヘルツ波LT3の時間波形TW2を示す図である。触媒担持量の重心位置が変動することによって、金属触媒層におけるテラヘルツ波LT1の反射位置が変動する。反射位置が表面に近づいた場合、反射テラヘルツ波LT3が光伝導スイッチ85への到達が早まる。その結果、
図18に示すように、反射テラヘルツ波LT3の時間波形TW2が、左側にずれることとなる。一方、反射位置が界面に近づくと、反射テラヘルツ波LT3の光伝導スイッチ85への到達が遅れるため、時間波形TW2が右側にずれる。このため、この時間波形TW2の早着時間または遅延時間を測定することによって、テラヘルツ波LT1の反射位置すなわち触媒担持量の重心位置の変動を定量的に計測できる。
【0143】
なお、時間波形TW2の早着時間または遅延時間は、
図18に示すように、反射テラヘルツ波LT3のピーク強度をとる時間(ピーク時間)の変動を検出することによって、測定することが好ましい。もちろん、ピーク強度以外の強度をとる時間を特定することによって、早着時間または遅延時間が特定されてもよい。
【0144】
以上のような原理に基づき、
図14に示すステップS21では、テラヘルツ波LT1の反射位置(すなわち、触媒担持量の重心位置)が相異なる基準試料毎に、反射テラヘルツ波LT3のピーク時間を特定する。そして、ステップS22において、テラヘルツ波LT1の反射位置およびピーク時間の相関関係を示す相関情報C2が取得される。
【0145】
なお、触媒担持量の重心位置が相異なる基準試料は、例えば、金属触媒層の形成時に、金属触媒濃度が異なる塗工液を重ねて塗布するとよい。例えば、触媒担持量の重心位置を表面寄りにする場合には、まず低濃度の金属触媒層を形成し、その上に高濃度の金属触媒層を形成すればよい。また、触媒担持量の重心位置を界面寄りにする場合には、まず高濃度の金属触媒層を形成し、その上に低濃度の金属触媒層を形成すればよい。
【0146】
<反射位置特定モード>
次に、反射位置特定モードについて説明する。以下の説明では、テラヘルツ波LT1の反射位置、(すなわち、触媒担持量の重心位置)を特定すべき対象物である試料9が、試料ステージ20に保持されているものとする。
【0147】
反射位置特定モードでは、まず、反射位置を特定する箇所の指定を受け付ける処理が行われる(ステップS23)。このステップS23は、
図6において説明したステップS13とほぼ同様の処理である。
【0148】
続いて、ステップS23にて指定された測定箇所に、テラヘルツ波LT1が照射されるように、試料ステージ移動機構24が試料ステージ20を移動させる(ステップS24)。続いて、テラヘルツ波LT1が試料9に照射され、反射テラヘルツ波検出部80が試料9を反射した反射テラヘルツ波LT3を検出する(ステップS25)。このとき、遅延部40Aが駆動されることによって、反射テラヘルツ波LT3について、相異なる位相毎の電界強度が取得される。
【0149】
続いて、ステップS25にて取得された反射テラヘルツ波LT3の電界強度に基づき、ピーク時間特定モジュール507Aがピーク時間を特定する(ステップS26)。そして、反射位置特定モジュール511Aが、ステップS22で取得された相関情報C2を記憶部60から読み出すとともに、ステップS26にて取得されたピーク時間を示すデータを受け取る。そして、反射位置特定モジュール511Aは、これらの情報に基づき、試料9におけるテラヘルツ波LT1の反射位置を特定する(ステップS27)。
【0150】
続いて、制御部50Aは、ステップS23において指定された箇所全てについて、触媒担持量の測定が完了したかどうかを判断する(ステップS28)。
【0151】
指定された箇所全ての測定が完了していない場合(ステップS28においてNO)、制御部50はステップS24に戻って、測定が完了していない残余の箇所に、テラヘルツ波LT1が照射されるよう、試料ステージ20を移動させる。
【0152】
例えば、ステップS23において、測定箇所として試料9表面の一部の領域または全部の領域が指定された場合、測定装置1Bは、当該指定された領域を、テラヘルツ波LT1で二次元走査する。そして、測定箇所毎に特定される反射テラヘルツ波LT3のピーク時間に基づき、反射位置が特定される。これによって、上記指定された領域における反射位置の分布を示す、反射位置分布データが取得されることとなる。
【0153】
指定された箇所全てについて測定が完了した場合(ステップS28においてYES)、制御部50は、ステップS29に進み、測定結果を表示部61に表示する(ステップS29)。例えばステップS23において、測定箇所として1箇所または分散した複数箇所が指定された場合、1箇所または各複数箇所における触媒担持量が適宜表示部に表示される。また、測定箇所として、試料9表面の一部の領域または全部の領域が指定された場合、画像生成モジュール513が反射位置分布を表す反射位置分布画像を生成する。そして、当該反射位置分布画像が表示部61に表示される。画像生成モジュール513は、反射位置分布画像生成部の一例である。
【0154】
図19は、第3実施形態に係る反射位置分布画像I20の一例を示す図である。
図19に示す反射位置分布画像I20は、反射位置分布を三次元グラフで表現した画像であって、X軸およびY軸は、試料9の表面に平行な2軸方向を、Z軸は、試料9の膜厚方向をそれぞれ示している。より詳細には、測定箇所毎の反射位置が、三次元座標上にプロットされており、さらに、X軸方向およびY軸方向に隣接するプロット点同士が直線で結ばれている。このように、反射位置分布画像I20によれば、各測定地点での反射位置の変化を容易に視認することができる。
【0155】
なお、測定装置1Bでは、テラヘルツ波照射部10から試料9に向けて出射されたテラヘルツ波LT1のうち、一部は、試料9を透過した透過テラヘルツ波LT2となり、他の部分は、反射テラヘルツ波LT3となる。したがって、透過テラヘルツ波検出部30によって、透過テラヘルツ波LT2を検出するのと同時に、反射テラヘルツ波検出部80によって、反射テラヘルツ波LT3を検出することができる。したがって、測定装置1Bによると、試料9の金属触媒層における触媒担持量と、触媒担持量の重心位置を、同時に計測することができる。
【0156】
なお、第3実施形態に係る反射テラヘルツ波検出部80は、
図11に示す第2実施形態に係る測定装置1Aにも適用可能である。この場合、ロールtoロール方式で搬送される基材9Bの片面に形成された金属触媒層における、テラヘルツ波LT1の反射位置を、反射テラヘルツ波LT3のピーク時間を検出することによって特定できる。したがって、製造途中の中間品において、金属触媒層における金属触媒の重心位置を特定できる。
【0157】
<4.変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0158】
例えば、第1実施形態に係る測定装置1では、透過テラヘルツ波LT2のピーク強度(最大強度)に基づき、相関情報C1が作成されるとともに、試料9の触媒担持量が特定されている。しかしながら、必ずしもピーク強度に基づいて、触媒担持量の特定を行う必要はない。例えば、各基準試料について、透過テラヘルツ波LT2の電界強度の最小値を特定することで、相関情報が作成されてもよい。この場合、当該層間情報と、試料9で測定された透過テラヘルツ波LT2の最小値とに基づき、触媒担持量が特定される。あるいは、例えば
図7に示す透過テラヘルツ波LT2の時間波形TW11〜TW14について、電界強度を時間で積分することで時間積分値を各々取得し、時間積分値および触媒担持量の相関関係を示す相関情報を取得するようにしてもよい。この場合、当該相関情報と、試料9について測定された透過テラヘルツ波LT2の時間積分値とに基づき、触媒担持量が特定される。
【0159】
また、第3実施形態に係る測定装置1Bでは、反射テラヘルツ波LT3のピーク時間(すなわち、ピーク強度を取る時間)に基づいて、相関情報C2が作成されるとともに、試料9におけるテラヘルツ波LT1の反射位置が特定されている。しかしながら、各基準試料について、電界強度が最小となる時間を特定することで相関情報が作成され、そして当該相関情報と、試料9について電界強度が最小となる時間とに基づき、反射位置が特定されるようにしてもよい。
【0160】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。また、上記各実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。