(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、セル面内の温度分布の改善(均一化)が十分ではなく、また、燃料電池単セル自体の発電効率そのものを改善するものではないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、燃料ガス及び酸化剤ガスのガス流路の組み合わせによって、セル面内の温度分布を改善(均一化)することにより、効率の良い温度領域で動作するセル領域を多くすることができるため、発電効率、言い換えると、所定の電流条件における出力電圧が向上する傾向にある。
【0009】
しかしながら、本発明者等の研究によれば、ガスの流れを変更する手法で、より高効率を追求した場合には、
図13(a)に示すように、温度分布を均一化しても、必ずしも出力電圧が向上するとは限らないことが分かっている。つまり、温度分布ΔTがある程度小さい場合には、温度分布と出力電圧とに相関関係がないことが分かっている。
【0010】
これは、例えばクロスフローの燃料電池単セルにおいては、セル面内の温度を均一化し
た場合でも、燃料ガス及び酸化剤ガスについて、ガス濃度が異なる領域ができてしまい、これが出力電圧に影響を及ぼすと考えられるからである。
【0011】
つまり、
図13(b)に示すように、燃料ガスの濃度(例えば水素濃度)と酸化剤ガスの濃度(例えば酸素濃度)との両ガスの濃度が高く、発電の反応が多い(従って発電量が多い)領域R1とは別に、燃料ガスの濃度は高いが酸化剤ガスの濃度が低く、発電の反応が少ない(従って発電量が少ない)領域R2ができてしまうので、出力電圧(即ち発電能力)を高めることが容易でないという問題があった。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、発電能力を高めることができる平板型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の第1態様の平板型燃料電池は、燃料極層と空気極層との間に固体電解質層を挟んで積層された燃料電池単セルと、 前記燃料極層側に配置され
た枠体である燃料極フレームと、前記燃料極フレームの枠内に設けられた燃料ガス室と、前記空気極層側に配置され
た枠体である空気極フレームと、前記空気極フレームの枠内に設けられた酸化剤ガス室と、前記燃料極層側に配置される燃料ガス室と、前記空気極層側に配置される酸化剤ガス室と、前記燃料ガス室に燃料ガスが流入される1又は複数の燃料ガス流入口および前記燃料ガス室から前記燃料ガスが流出される1又は複数の燃料ガス流出口と、前記酸化剤ガス室に酸化剤ガスが流入される1又は複数の酸化剤ガス流入口および前記酸化剤ガス室から前記酸化剤ガスが流出される1又は複数の酸化剤ガス流出口と、を備え、積層方向視にて、前記燃料ガス流入口の図心Cfiと前記燃料ガス流出口の図心Cfoを結ぶ第1の直線と、前記酸化剤ガス流入口の図心Caiと前記酸化剤ガス流出口の図心Caoとを結ぶ第2の直線とが交差し、且つ、前記酸化剤ガス流出口の図心Caoが、前記燃料ガス流出口の図心Cfoより、前記燃料ガス流入口の図心Cfiに近
い。
【0014】
本第1態様の平板型燃料電池は、積層方向視にて、燃料ガス流入口の図心Cfiと燃料ガス流出口の図心Cfoを結ぶ第1の直線と、酸化剤ガス流入口の図心Caiと酸化剤ガス流出口の図心Caoとを結ぶ第2の直線とが交差するものである。即ち、燃料ガスの流路と酸化剤ガスの流路が交差する、いわゆるクロスフローの流路を有している。
【0015】
そして、このクロスフローの平板型燃料電池において、例えば
図5に例示するように、積層方向視にて、酸化剤ガス流出口の図心Caoが、燃料ガス流出口の図心Cfoより、燃料ガス流入口の図心Cfiに近いように設定されている。
【0016】
このように酸化剤ガス流出口の図心Caoが設定されていることにより、従来技術のような、燃料ガスの濃度が高いが酸化剤ガスの濃度が低く、あまり反応(発電)しない領域R2が少なくなり、燃料ガスの濃度及び酸化剤ガスの濃度が共に高い領域RHが多くなるので、出力電圧(従って発電性能)が高くなるという顕著な効果を奏する。
【0017】
また、本第1態様では、燃料電池単セル自体の発電能力(発電効率)を向上できるので、複数の燃料電池単セルを積層した燃料電池スタックに限らず、1つの燃料電池単セルを用いた一段の燃料電池にも適用できるという効果がある。
【0018】
更に、例えば燃料ガスの濃度が高いが酸化剤ガスの濃度が低い領域においては、燃料電池単セルの劣化が生じ易いが、本第1態様では、そのような領域が少ないので、燃料電池単セルの劣化を抑制することができ、燃料電池の耐久性が向上するという利点がある。
【0019】
ここで、積層方向視とは、燃料極層と空気極層と固体電解質層とを積層する方向(積層方向)に見た場合を示している。また、図心とは、平面における重心を示しており、各流入口や各流出口における図心とは、各流入口や各流出口を、平板型燃料電池の広がる方向
(平面方向:積層方向と垂直の方向)に見た場合の開口部分の重心を示している。なお、各流入口(各流出口も同様)が複数ある場合の重心は、全ての流入口(又は全ての流出口)を合わせた平面における重心を示す。
【0020】
さらに、本発明の第
1態様の平板型燃料電池では、前記積層方向視にて、前記燃料ガス流出口の図心Cfoが、基準線Lfから、境界線Lfp側に距離0.1Xp以下または境界線Lfm側に距離0.1Xm以下に配置され、前記酸化剤ガス流入口の図心Caiが、基準線Laから、境界線Lap側に距離0.5Yp以下または境界線Lam側に距離0.1Ym以下に配置され、前記酸化剤ガス流出口の図心Caoが、前記基準線Laから前記境界線Lap側に距離0.1Yp以上0.5Yp以下に配置されている。
【0021】
なお、Lf、La、Lfp、Lfm、Lap、Lam、Xp、Xm、Yp、Ymの意味は、下記の通りである(以下他の態様等においても同様)。
Lf: 前記燃料ガス流入口の図心Cfiと前記燃料電池単セルの図心gとを通る、前記燃料電池単セル上の直線の基準線
La: 前記基準線Lfと直交し、前記図心gを通る、前記燃料電池単セル上の直線の基準線
Lfp: 前記基準線Lfよりも前記酸化剤ガス流入口の図心Caiに近く、前記基準線Lfと平行かつ距離が最も遠い、前記燃料電池単セル上を通る直線の境界線
Lfm: 前記基準線Lfよりも前記酸化剤ガス流出口の図心Caoに近く、前記基準線Lfと平行かつ距離が最も遠い、前記燃料電池単セル上を通る直線の境界線
Lap: 前記基準線Laよりも前記燃料ガス流入口の図心Cfiに近く、前記基準線Laと平行かつ距離が最も遠い、前記燃料電池単セル上を通る直線の境界線
Lam: 前記基準線Laよりも前記燃料ガス流出口の図心Cfoに近く、前記基準線Laと平行かつ距離が最も遠い、前記燃料電池単セル上を通る直線の境界線
Xp: 前記基準線Lfと前記境界線Lfpとの間の最短距離
Xm: 前記基準線Lfと前記境界線Lfmとの間の最短距離
Yp: 前記基準線Laと前記境界線Lapとの間の最短距離
Ym: 前記基準線Laと前記境界線Lamとの間の最短距離
本第
1態様では、上述のように、燃料ガス流出口の図心Cfo、酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出口の図心Caoが配置されているので(例えば
図7参照)、後述する実験例からも明らかなように、平板型燃料電池の発電能力が高いという効果がある。
【0022】
(
2)本発明の第
2態様の平板型燃料電池では、前記積層方向視にて、前記酸化剤ガス流入口の図心Caiが、前記基準線Laから前記境界線Lap側に距離0.3Yp以上0.5Yp以下に配置され、前記酸化剤ガス流出口の図心Caoが、前記基準線Laから前記境界線Lap側に距離0.3Yp以上0.5Yp以下に配置されている。
【0023】
本第
2態様では、上述のように、酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出口の図心Caoが配置されているので(例えば
図8参照)、後述する実験例からも明らかなように、平板型燃料電池の発電能力が一層高いという効果がある。
【0024】
(
3)本発明の第
3態様の平板型燃料電池では、前記積層方向視にて、前記酸化剤ガス流入口の図心Caiが、前記基準線Laから、前記境界線Lap側に距離0.1Yp以下または境界線Lam側に距離0.1Ym以下に配置され、前記酸化剤ガス流出口の図心Caoが、前記基準線Laから前記境界線Lap側に距離0.1Yp以上0.5Yp以下に配置されている。
【0025】
本第
3態様では、上述のように、酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出口の図心Caoが配置されているので(例えば
図9参照)、後述する実験例からも明らかなように、平板型燃料電池の発電能力が高いという効果がある。また、酸化剤ガス流入口の図心Caiの位置をあまり変えないで、酸化剤ガス流出口の図心Caoの位置を変えることによっても、発電能力を高めることができる。
【0026】
(
4)本発明の第
4態様の平板型燃料電池では、燃料極層と固体電解質層と空気極層とが積層された燃料電池単セルと、前記燃料極層側に配置される燃料ガス室と、前記空気極層側に配置される酸化剤ガス室と、前記燃料ガス室に燃料ガスが流入される1又は複数の燃料ガス流入口および前記燃料ガス室から前記燃料ガスが流出される1又は複数の燃料ガス流出口と、前記酸化剤ガス室に酸化剤ガスが流入される1又は複数の酸化剤ガス流入口および前記酸化剤ガス室から前記酸化剤ガスが流出される1又は複数の酸化剤ガス流出口と、を備えた平板型燃料電池単位が複数積層された平板型燃料電池であって、前記複数の平板型燃料電池単位の少なくとも何れかが、前記第1〜第
3態様のいずれかに記載の平板型燃料電池である。
【0027】
本第
4態様の平板型燃料電池は、平板型燃料電池単位(例えば発電単位)が複数積層された平板型燃料電池(例えば燃料電池スタック)であって、上述した第1〜第
3態様のいずれかの平板型燃料電池を備えているので、高い出力電圧を得ることができる。
【0028】
なお、燃料電池の平面形状(積層方向視の形状)が矩形状である場合には、下記の構成を採用することができる。
燃料ガスおよび酸化剤ガスがそれぞれ供給される第1、第2主面を有する矩形平板状の燃料電池単セルと、前記第1主面側に配置される燃料ガス室と、前記第2主面側に配置される酸化剤ガス室と、を備えるとともに、平面視(主面に対して垂直に見た場合)にて、前記燃料電池単セルの対向する一対の第1辺(例えば
図5の第1辺H1及び第2辺H2)それぞれに対応して配置された、前記燃料ガス室に燃料ガスを流入させる1又は複数の燃料ガス流入口と前記燃料ガス室から燃料ガスを流出させる1又は複数の燃料ガス流出口と、前記燃料電池単セルの前記第1辺と異なる、対向する一対の第2辺(例えば
図5の第3辺H3及び第4辺H4)それぞれに対応して配置された、前記酸化剤ガス室に酸化剤ガスを流入させる酸化剤ガス流入口と前記酸化剤ガス室から酸化剤ガスを流出させる酸化剤ガス流出口と、を備え、前記酸化剤ガス流出口の図心Caoが、前記燃料ガス流出口の図心Cfoより、前記燃料ガス流入口の図心Cfiに近いことを特徴とする平板型燃料電池。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明が適用された平板型燃料電池として、固体酸化物形燃料電池を例に挙げて説明する。
[第1実施形態]
a)まず、本第1実施形態の平板型燃料電池の概略構成について説明する。
【0031】
図1に示す様に、本第1実施形態の平板型燃料電池(以下単に「燃料電池」と称することもある)1は、燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば空気、詳しくは空気中の酸素)との供給を受けて発電を行う装置である。
【0032】
なお、図面においては、酸化剤ガスは「A」で示し、燃料ガスは「F」で示す。また、「IN」はガスが導入されることを示し、「OUT」はガスが排出されることを示す。更に、説明の便宜上、各図面の方向を基準に「上」、「下」等の方向を表記するが、実際の燃料電池スタックの方向性を規定するものではない。
【0033】
本第1実施形態の燃料電池1は、平板形状(直方体)の固体酸化物燃料電池であり、
図1の上下方向の両端に配置されたエンドプレート3、5と、その間に配置された層状(平板形状)の複数(例えば20段)の発電単位7とが積層された燃料電池スタックである。
【0034】
エンドプレート3、5及び各発電単位7には、それらを積層方向(
図1の上下方向)に貫く複数(例えば8本)のボルト挿通孔9が設けられている。このボルト挿通孔9のうちの2本は、酸化剤ガスのガス流路として用いられ、他の2本は、燃料ガスのガス流路として用いられる。
【0035】
そして、各ボルト挿通孔9に配置された各ボルト11a、11b、11c、11d、11e、11f、11g、11h(11と総称する)と各ボルト11に螺合する各ナット13とによって、両エンドプレート3、5と各発電単位7とが一体に固定されている。
【0036】
このボルト11のうちの特定(4本)のボルト11b、11d、11f、11hには、軸方向(
図1の上下方向)に沿って、酸化剤ガス又は燃料ガスが流れる内部流路15が形成されている。なお、ボルト11bは燃料ガスの導入に用いられ、ボルト11dは酸化剤ガスの導入に用いられ、ボルト11fは燃料ガスの排出に用いられ、ボルト11hは酸化剤ガスの排出に用いられる。
【0037】
b)次に、発電単位7の構成について、詳しく説明する。
図2に示すように、発電単位7は、積層方向(
図2(a)の上下方向)の両側に配置された一対のインターコネクタ21a、21b(21と総称する)の間に、後述する燃料電池単セル(以下単に「単セル」と称することもある)17等の発電に必要な構成を配置したものである。
【0038】
詳しくは、発電単位7は、金属製のインターコネクタ21aと、空気極絶縁フレーム23と、金属製のセパレータ25と、金属製の燃料極フレーム27と、燃料極絶縁フレーム29と、金属製のインターコネクタ21b等が積層されたものである。なお、積層された
各部材21、23、24、27、29には、各ボルト11が挿通される各ボルト挿通孔9が形成されている。
【0039】
また、セパレータ25には、単セル17が接合され、空気極絶縁フレーム23の枠内の流路(酸化剤ガスが流れる空気流路:酸化剤ガス室)31には、空気極集電体33が配置され、燃料極フレーム27及び燃料極絶縁フレーム29の枠内の流路(燃料ガスが流れる燃料流路:燃料ガス室)35には、燃料極集電体37が配置されている。
【0040】
以下、各構成について、更に詳しく説明する。
<インターコネクタ21>
図3に示すように、インターコネクタ21は、導電性を有する板材(例えばSUS430等のステンレス鋼等の金属板)からなる。このインターコネクタ21は、単セル17間の導通を確保し、且つ、単セル17間(従って発電単位7間)でのガスの混合を防止するものである。
【0041】
なお、インターコネクタ21は、隣接する発電単位7間に配置される場合は、1枚配置されていればよい。また、燃料電池1の上端及び下端のインターコネクタ21は、エンドプレート3、5として用いられている(
図1参照)。
<空気極絶縁フレーム23>
空気極絶縁フレーム23は、電気絶縁性を有し、積層方向視(
図2(a)の上下方向に見た場合)で四角(長方形)枠状の板材である。空気極絶縁フレーム23には、例えば、軟質マイカからなるマイカフレームが用いられる。この空気極絶縁フレーム23には、積層方向視でその中央部に、酸化剤ガス室31を構成する長方形の開口部23aが形成されている。
【0042】
また、空気極絶縁フレーム23において、対向する枠部分(長方形の対辺に当たる部分)には、酸化剤ガスの流路として、一対の長孔である孔部41d、41hが形成されている。そして、後に詳述するように、一方の孔部41dには、開口部23aに連通する流路である複数(例えば4本)の溝(酸化剤ガス流入口Ain用の溝)43dが形成され、他方の孔部41hには、開口部23aに連通する流路である複数(例えば4本)の溝(酸化剤ガス流出口Aout用の溝)43hが形成されている。
【0043】
<空気極集電体33>
空気極集電体33は、長尺の導電性を有する部材(例えばSUS430等のステンレス鋼の柱材)である。この空気極集電体33は、空気極絶縁フレーム23の開口部23a内にて、一対のボルト挿通孔9(9d、9h)の配置方向に沿って、即ち酸化剤ガスの流路に沿って複数本が配置されている。なお、空気極集電体33としては、インターコネクタ21の酸化剤ガス室31側に、直方体形状の凸部を格子状に配置したものを用いてもよい。
【0044】
<セパレータ25>
セパレータ25は、積層方向視で四角(長方形)枠状の導電性を有する板材(例えばSUS430等のステンレス鋼等の金属板)である。このセパレータ25には、積層方向視でその中央部に、長方形の開口部25aが形成されており、この開口部25aに沿った縁部(下面側)に、単セル17の外周縁部(上面側)がろう付け接合されている。つまり、単セル17は、セパレータ25の開口部25aを閉塞するように接合されている。
【0045】
<燃料極フレーム27>
燃料極フレーム27は、積層方向視で四角(長方形)枠状の導電性を有する板材(例えばSUS430等のステンレス鋼等の金属板)である。この燃料極フレーム27には、積
層方向視でその中央部に、燃料ガス室35を構成する長方形の開口部27aが形成されている。
【0046】
<燃料極絶縁フレーム29>
燃料極絶縁フレーム29は、空気極絶縁フレーム23と同様に、電気絶縁性を有する積層方向視で四角(長方形)枠状の板材であり、軟質マイカからなるマイカフレームである。この燃料極絶縁フレーム29には、積層方向視でその中央部に、燃料ガス室35を構成する長方形の開口部29aが形成されている。
【0047】
また、燃料極絶縁フレーム29において、対向する枠部分(長方形の対辺に当たる部分)には、燃料ガスの流路として、一対の長孔である孔部45b、45fが形成されている。そして、後に詳述するように、一方の孔部45bには、開口部29aに連通する流路である複数(例えば6本)の溝(燃料ガス流入口Fin用の溝)47bが形成され、他方の孔部45fには、開口部29aに連通する流路である複数(例えば6本)の溝(燃料ガスの流出口Fout用の溝)47fが形成されている。
【0048】
<燃料極集電体37>
燃料極集電体37は、
図2(a)に示すように、マイカ製の芯材である弾性(クッション性)を有するスペーサ51と金属製の導電板(例えばニッケル製の平板形状の網又は箔)53とが組み合わされた公知の格子状の部材(例えば特開2013−55042号公報に記載の集電部材19参照)である。
【0049】
<燃料電池単セル17>
単セル17は、いわゆる燃料極支持型の単セル17であり、固体電解質層55を挟んで空気極層57と燃料極層59とが一体に積層されたものである。なお、単セル17は、積層方向視で矩形(長方形)であり、その第1主面側(燃料極層59側)に燃料ガスが供給され、第2主面側(空気極層57側)に酸化剤ガスが供給される。
【0050】
このうち、固体電解質層55を構成する材料としては、例えば、ジルコニア系、セリア系、ペロブスカイト系の電解質材料が挙げられる。ジルコニア系材料では、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、及びカルシア安定化ジルコニア(CaSZ)を挙げることができ、一般的には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)が使用される例が多い。セリア系材料では、いわゆる希土類元素添加セリアが使われ、ペロブスカイト系材料では、ランタン元素を含有するペロブスカイト型複酸化物が使われる。
【0051】
空気極層57を構成する材料としては、ペロブスカイト系酸化物、各種貴金属及び貴金属とセラミックとのサーメットなどを使用できる。
燃料極層59を構成する材料としては、例えば、Ni及びFe等の金属と、Sc、Y等の希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたジルコニア等のZrO
2系セラミック、CeO系セラミックなどのセラミックとの混合物が挙げられる。また、Ni等の金属、或いは、Niと前記セラミックとのサーメットやNi基合金を使用できる。
【0052】
c)次に、本第1実施形態の要部である燃料ガス及び酸化剤ガスの流路について、詳細に説明する。
本第1実施形態の燃料電池1では、
図3及び
図4(a)、(b)に示すように、前記溝47b、47fの開口部29a側の開口部分として、燃料ガス室35に燃料ガスが流入される複数(例えば6個)の燃料ガス流入口Finと、燃料ガス室35から燃料ガスが流出される複数(例えば6個)の燃料ガス流出口Foutとを備えている。
【0053】
また、
図3及び
図4(c)、(d)に示すように、前記溝41d、41hの開口部23a側の開口部分として、酸化剤ガス室31に酸化剤ガスが流入される複数(例えば4個)の酸化剤ガス流入口Ainと、酸化剤ガス室31から酸化剤ガスが流出される複数(例えば4個)の酸化剤ガス流出口Aoutとを備えている。なお、各流入口Fin、Ainや各流出口Fout、Aoutは、それぞれ複数個でも1個でもよい。
【0054】
また、この燃料電池1では、
図5(a)に示すように、積層方向視にて、燃料ガス流入口Finの図心Cfiと燃料ガス流出口Foutの図心Cfoを結ぶ第1の直線L1と、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiと酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoとを結ぶ第2の直線L2とが、単セル17の図心gにて交差している。つまり、燃料電池1の流路は、燃料ガスの流路と酸化剤ガスの流路とが交差するいわゆるクロスフローである(
図2(b)参照)。
【0055】
更に、積層方向視にて、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが、燃料ガス流出口Foutの図心Cfoより、燃料ガス流入口Finの図心Cfiに近いように設定されている。なお、この条件を、以下では「流路配置条件1」と称する。
【0056】
なお、
図5において、外側の線で囲まれた長方形の第1枠W1が、空気極絶縁フレーム23及び燃料極絶縁フレーム29の内周(内周面のある位置)を示し、内側の線で囲まれた長方形の第2枠W2が、単セル17の外周を示している(以下同様)。また、
図5において、Lf、La、Lfp、Lfm、Lap、Lam、Xp、Xm、Yp、Ymの意味は、上述した通りである(以下同様)。
【0057】
ここで、図心について、
図3〜
図5を参照して説明する。
図心とは、各流入口Fin、Ain又は各流出口Fout、Aoutを積層方向(
図3、
図4の上下方向)と垂直の方向で見た場合(例えば空気極層57が広がる平面方向に沿って見た場合)、その平面形状における重心を示している。なお、流入口Fin、Ain又は流出口Fout、Aoutが複数ある場合には、各流入口Fin、Ain又は各流出口Fout、Aoutを合わせた平面図形(即ち全体の平面図形)における重心を図心とする。
【0058】
具体的には、燃料極絶縁フレーム29の内周面のうち、燃料ガス流入口Finが設けられた側を、内周面に対して垂直に見た場合には、前記
図4(a)に示すように、内周面の1つ面(短冊状の第1面M1)には6個の燃料ガス流入口Finがあるので、6個の燃料ガス流入口Fin全体の平面図形における重心を図心Cfiとする。
【0059】
ここでは、例えば、燃料ガス流入口Fin全体の図心Cfiは、第1面M1の左右方向における中央に設定されている。従って、積層方向視では、燃料ガス流入口Fin全体の図心Cfiは、第1枠W1の第1辺H1の中点に位置している(
図5(a)参照)。
【0060】
同様に、燃料極絶縁フレーム29の内周面のうち、燃料ガス流出口Foutが設けられた側を、内周面に対して垂直に見た場合には、前記
図4(b)に示すように、第1面M1と反対側の短冊状の第2面M2には6個の燃料ガス流出口Foutがあるので、6個の燃料ガス流出口Fout全体の平面図形における重心を図心Cfoとする。
【0061】
ここでは、例えば、燃料ガス流出口Fout全体の図心Cfoは、第2面M2の左右方向における中央に設定されている。従って、積層方向視では、燃料ガス流出口Fout全体の図心Cfoは、第1枠W1の第1辺H1と対向する第2辺H2の中点に位置している(
図5(a)参照)。
【0062】
一方、空気極絶縁フレーム23の内周面のうち、酸化剤ガス流入口Ainが設けられた側
を、内周面に対して垂直に見た場合には、前記
図4(c)に示すように、内周面の1つ面(短冊状の第3面M3)には4個の酸化剤ガス流入口Ainがあるので、4個の酸化剤ガス流入口Ain全体の平面図形における重心を図心Caiとする。
【0063】
ここでは、例えば、各酸化剤ガス流入口Ainは、同図の左側に寄せて配置されているので、酸化剤ガス流入口Ain全体の図心Caiは、第3面M3の左右方向における中央から左側にずれている。従って、積層方向視では、酸化剤ガス流入口Ain全体の図心Caiは、第1枠W1の第3辺H3の中点から第1辺H1側に、言い換えると、燃料ガス流入口Finの図心Cfi側にずれている(
図5(a)参照)。
【0064】
同様に、空気極絶縁フレーム23の内周面のうち、酸化剤ガス流出口Aoutが設けられた側を、内周面に対して垂直に見た場合には、前記
図4(d)に示すように、第3面M3と反対側の短冊状の第4面M4には4個の酸化剤ガス流出口Aoutがあるので、4個の酸化剤ガス流出口Aout全体の平面図形における重心を図心Caoとする。
【0065】
ここでは、各酸化剤ガス流出口Aoutは、同図の右側に寄せて配置されているので、酸化剤ガス流出口Aout全体の図心Caoは、第4面M4の左右方向における中央から右側にずれている。従って、積層方向視では、酸化剤ガス流出口Aout全体の図心Caoは、第1枠W1の第4辺H4の中点から第1辺H1側に、言い換えると、燃料ガス流入口Finの図心Cfi側にずれている(
図5(a)参照)。
【0066】
なお、
図3〜
図5に示すような各流入口Fin、Ainや各流出口Fout、Aoutの位置は、好ましい一例を示しているものであり、上述した「(クロスフローにおける)流路配置条件1」の条件を満たしている限りは、この例に限定されるものではない。
【0067】
d)次に、燃料電池1の製造方法について簡単に説明する。
[各部材の製造工程]
まず、例えばSUS430からなる板材を打ち抜いて、インターコネクタ21、燃料極フレーム27、セパレータ25、エンドプレート3、5を作製した。
【0068】
また、周知の軟質マイカからなるマイカシートに対して、パンチング加工や溝加工などによって、前記
図3に示す枠形状の空気極絶縁フレーム23と燃料極絶縁フレーム29を作製した。
【0069】
[燃料電池単セル17の製造工程]
単セル17を、定法に従って製造した。
具体的には、まず、燃料極層59を形成するために、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末を40〜70質量部と、酸化ニッケル粉末を40〜70質量部と、バインダー溶液とからなる材料を用いて、燃料極ペーストを作製した。そして、この燃料極ペーストを用いて、燃料極グリーンシートを作製した。
【0070】
また、固体電解質層55を作製するために、例えば、YSZ粉末とバインダー溶液とからなる材料を用いて、固体電解質ペーストを作製した。そして、この固体電解質ペーストを用いて、固体電解質グリーンシートを作製した。
【0071】
次に、燃料極グリーンシート上に、固体電解質グリーンシートを積層した。そして、その積層体を、1200〜1500℃で1〜10時間加熱することにより、焼結積層体を形成した。
【0072】
また、空気極層57を形成するために、例えば、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3粉末と、バインダー溶液とからなる材料を用いて、空気極ペーストを作製した。
次に、前記焼結積層体における固体電解質層55の表面に、空気極ペーストを印刷した。そして、その印刷した空気極ペーストを、焼成によって緻密とならないように、900〜1200℃にて1〜5時間焼成して、空気極層57を形成した。
【0073】
これにより、単セル17が完成した。なお、単セル17には、セパレータ25をろう付けして固定した。
[燃料電池1の製造工程]
次に、上述した各部材を、前記
図1に示すように所望の段数積層し、その積層方向の両方の端部に、エンドプレート3、5を積層して、積層体を構成した。
【0074】
そして、この積層体のボルト挿通孔9にボルト11を嵌め込むとともに、各ボルト11にナット13を螺合させて締め付けて、積層体を押圧して一体化して固定した。
これによって、本第1実施形態の燃料電池1が完成した。
【0075】
e)本第1実施形態の効果について説明する。
本第1実施形態の燃料電池1は、燃料ガスの流路と酸化剤ガスの流路が交差する、いわゆるクロスフローの流路を有している。そして、このクロスフローの流路を有する燃料電池1において、積層方向視にて、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが、燃料ガス流出口Foutの図心Cfoより、燃料ガス流入口Finの図心Cfiに近いように設定されている。即ち、上述した「流路配置条件1」を満たすように、燃料ガスの流路と酸化剤ガスの流路が設定されている。
【0076】
このように酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが設定されていることにより、従来技術のような、燃料ガスの濃度が高いが酸化剤ガスの濃度が低く、あまり反応(発電)しない領域が少なくなり、
図5(b)に示すように、燃料ガスの濃度及び酸化剤ガスの濃度が共に高い領域RHが多くなる。例えば、領域RHが単セル17の半分程度にもなるので、出力電圧(従って発電性能)が高くなるという顕著な効果を奏する。
【0077】
また、本第1実施形態では、単セル17自体の発電能力(発電効率)を向上できるので、複数の単セル17を積層した燃料電池スタックに限らず、1つの単セル17を用いた一段の燃料電池1にも適用できるという効果がある。
【0078】
更に、例えば燃料ガスの濃度が高いが酸化剤ガスの濃度が低い領域においては、単セル17の劣化が生じ易いが、本第1実施形態では、そのような領域が少ないので、単セル17の劣化を抑制することができ、燃料電池1の耐久性が向上するという利点がある。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明するが、第1実施形態と同様な内容の説明は省略する。なお、第1実施形態と同様な構成には、同様な番号を付して説明する。
【0079】
本第2実施形態の燃料電池1は、酸化剤ガスの流路と燃料ガスの流路とを、上述した第1実施形態の「流路配置条件1」を満たすように規定したものである。
詳しくは、
図6(a)に示すように、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiは、第1枠W1の第3辺H3の中点に設定されており、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoは、第1枠W1の第4辺H4の中点より燃料ガス流入口Finの図心Cfi側に寄って設定されている。これにより、酸化剤ガスの流れは、ほぼ
図6の右側から左斜め上方に向く流れとなる。
【0080】
本第2実施形態においても、上述した「流路配置条件1」を満たすように、燃料ガスの流路と酸化剤ガスの流路が設定されているので、
図6(b)に示すように、燃料ガスの濃
度及び酸化剤ガスの濃度が共に高い領域RHが多くなる。
【0081】
これにより、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明するが、第1実施形態と同様な内容の説明は省略する。なお、第1実施形態と同様な構成には、同様な番号を付して説明する。
【0082】
本第3実施形態の燃料電池1は、酸化剤ガスの流路と燃料ガスの流路とを、前記第1実施形態の「流路配置条件1」を満たすとともに、下記の「流路配置条件2」を満たすように規定したものである。
【0083】
詳しくは、本第3実施形態の燃料電池1では、
図7に示すように、積層方向視にて、燃料ガス流出口Foutの図心Cfoが、基準線Lfから、境界線Lfp側に距離0.1Xp以下または境界線Lfm側に距離0.1Xm以下に配置され、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiが、基準線Laから、境界線Lap側に距離0.5Yp以下または境界線Lam側に距離0.1Ym以下に配置され、酸化剤ガス流出口43hの図心Caoが、基準線Laから境界線Lap側に距離0.1Yp以上0.5Yp以下に配置されている(流路配置条件2)。
【0084】
なお、
図7において、第3辺H3の帯状の斜線部分が、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiが配置される範囲であり、第4辺H4の帯状の斜線部分が、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが配置される範囲である。
【0085】
このような構成により、本第3実施形態では、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。また、後述する実験例1に示すように、「流路配置条件2」を満たすことにより、一層発電能力が高いという効果を奏する。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明するが、第1実施形態と同様な内容の説明は省略する。なお、第1実施形態と同様な構成には、同様な番号を付して説明する。
【0086】
本第4実施形態の燃料電池1は、酸化剤ガスの流路と燃料ガスの流路とを、前記第1実施形態の「流路配置条件1」を満たすとともに、下記の「流路配置条件3」を満たすように規定したものである。
【0087】
詳しくは、本第4実施形態の燃料電池1では、
図8に示すように、積層方向視にて、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiが、基準線Laから境界線Lap側に距離0.3Yp以上0.5Yp以下に配置され、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが、基準線Laから境界線Lap側に距離0.3Yp以上0.5Yp以下に配置されている(流路配置条件3)。
【0088】
なお、
図8において、第3辺H3の帯状の斜線部分が、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiが配置される範囲であり、第4辺H4の帯状の斜線部分が、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが配置される範囲である。
【0089】
このような構成により、本第4実施形態では、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。また、後述する実験例1に示すように、「流路配置条件3」を満たすことによって、より一層発電能力が高いという効果を奏する。
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明するが、第1実施形態と同様な内容の説明は省略する。なお、第1実施形態と同様な構成には、同様な番号を付して説明する。
【0090】
本第5実施形態の燃料電池1は、酸化剤ガスの流路と燃料ガスの流路とを、前記第1実施形態の「流路配置条件1」を満たすとともに、下記の「流路配置条件4」を満たすように規定したものである。
【0091】
詳しくは、本第5実施形態の燃料電池1では、
図9に示すように、積層方向視にて、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiが、基準線Laから、境界線Lap側に距離0.1Yp以下または境界線Lam側に距離0.1Ym以下に配置され、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが、基準線Laから境界線Lap側に距離0.1Yp以上0.5Yp以下に配置されている(流路配置条件4)。
【0092】
なお、
図9において、第3辺H3の帯状の斜線部分が、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiが配置される範囲であり、第4辺H4の帯状の斜線部分が、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoが配置される範囲である。
【0093】
このような構成により、本第5実施形態では、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。また、後述する実験例1に示すように、「流路配置条件4」を満たすことにより、発電能力が高いという効果を奏する。
【0094】
また、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiの位置をあまり変えないで、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoの位置を変えることによっても、発電能力を高めることができるという利点がある。
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明するが、第1実施形態と同様な内容の説明は省略する。なお、第1実施形態と同様な構成には、同様な番号を付して説明する。
【0095】
本第6実施形態の燃料電池1は、
図10に示すように、単セル17や空気極絶縁フレーム23や燃料極絶縁フレーム29等の平面形状は、前記第1実施形態と同様な長方形であるが、燃料ガス流入口Finの図心Cfiと燃料ガス流出口Foutの図心Cfoの位置を、同図の上下方向に揃えるのではなく、同図の左右方向に大きくずらしたものである。
【0096】
例えば、燃料ガス流入口Finの図心Cfiを第1辺H1の中点より右側にずらし、燃料ガス流出口Foutの図心Cfoを第2辺H2の中点より左側にずらしている。
また、酸化剤ガス流入口Ainの図心Caiを第3辺H3の中点として、酸化剤ガス流出口Aoutの図心Caoを第4辺H4の中点より上方にずらしている。
【0097】
このような構成の場合でも、上述した「流路配置条件1」の条件を満たすことにより、或いは、「流路配置条件1」に加えて「流路配置条件2」〜「流路配置条件4」のいずれかの条件を満たすことにより、前記各実施形態と同様な効果を奏する。
[実験例]
次に、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0098】
<実験例1>
本実験例1では、コンピュータシミュレーションのために、1枚の単セルを用いた1段の発電単位の平板型の固体酸化物形燃料電池について、実験対象のモデル(実験モデル1)と基準のモデル(基準モデル:基準セル)とを設定した。
【0099】
そして、シミュレーションにより、実験モデル1の酸化剤ガス流入口の図心Caiと酸化剤ガス流出口の図心Caoの位置を変更して、それぞれの出力電圧を求めるとともに、基準モデルの出力電圧を求め、基準モデルに対する実験モデル1の出力電圧の変化量を求
めた。以下、詳細に説明する。
【0100】
a)実験モデル1の構造
実験モデル1の基本的な構造は、例えば前記第1実施形態における1つの発電単位と同様なものである。
【0101】
詳しくは、実験モデル1では、発電単位、単セル、燃料ガス室、酸化剤ガス室等の各部材の平面形状(積層方向視)を、正方形とし、各部材のサイズは、下記のように設定した。また、各部材の材質は、前記第1実施形態と同様とした。
【0102】
平面視でのサイズ
燃料ガス室及び酸化剤ガス室:12cm×12cm、単セル:9cm×9cm
また、燃料ガス流入口の図心Cfiの位置は、例えば
図7(a)に示すように、第1辺H1の中点とした。燃料ガス流出口の図心Cfoについては、製造バラツキ等を考慮して、Xp、Xmの10%以内の範囲の任意の位置とした。
【0103】
なお、基準モデルでは、燃料ガス流入口の図心Cfi、燃料ガス流出口の図心Cfo、酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出口の図心Caoの位置は、第1枠W1の各辺H1〜H4の中点に設定した。
【0104】
b)実験モデル1及び基準モデルの運転の条件
燃料電池の所定の発電温度で、所定時間、燃料ガス(例えば、水素、窒素、水(水蒸気)の混合ガス等)と酸化剤ガス(例えば、空気(酸素、窒素の混合ガス等))とを、流量一定として供給し、実験モデル1及び基準モデルの運転を行った。
【0105】
そして、下記表1〜表3に示すように、燃料ガス流出口の図心Cfoを、0、0、1Xm、0.1Xpとし、酸化剤ガス流入口の図心Cai及び酸化剤ガス流出口の図心CaoをYm〜Ypの範囲内の各値として、上述した運転条件にてシミューションを行い、実験モデル1の各図心Cfo、Cai、Caoを変更した際の基準モデルからの出力電圧の変化量を求めた。
【0106】
この結果を、同じく表1〜表3に記す。なお、表1〜表3では、基準モデルに対する実験モデル1の出力電圧の変化量dVolt[%]を示している。
なお、燃料ガス流出口の図心Cfoについては、Xpで表現している場合はLfよりLfp側、Xmで表現している場合はLfよりLfm側にあるものとする。また、Lf上に位置する場合は0とする。
【0107】
酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出口の図心Caoについては、Ypで表現している場合はLaよりLap側、Ymで表現している場合はLaよりLam側にあるものとする。また、La上に位置する場合は0とする。
【0110】
【表3】
この表1〜表3から明らかなように、前記
図7のように、酸化剤ガス流入口の図心Ca
iCaiを0.1Ym〜0.5Ypとし、且つ、酸化剤ガス流出口の図心Caoを0.1Yp〜0.5Ypとした場合(各表の右及び左に傾斜した斜線部分参照)には、出力電圧が向上することが分かる。
【0111】
また、前記
図8のように、酸化剤ガス流入口の図心Caiを0.3p〜0.5Ypとし、且つ、酸化剤ガス流出口の図心Caoを0.3Yp〜0.5Ypとした場合(各表の右に傾斜した斜線部分参照)には、更に出力電圧が向上することが分かる。
【0112】
<実験例2>
本実験例2では、前記実験例1において、燃料ガス流入口の図心Cfiの位置を基準として、他の燃料ガス流出入口の図心Cfo、酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出入口の図心Caoの位置を設定した根拠を、実験モデル2を用いて確認した実験例(シミュレーション)について説明する。
【0113】
図11に実験モデル2の構造を示すが、実験モデル2では、燃料ガス流入口の図心Cfiは第1辺H1の中点に設定され、燃料ガス流出口の図心Cfoは第2辺H2の中点に設定され、酸化剤ガス流入口の図心Caiは第3辺H3の中点に設定され、酸化剤ガス流出口の図心Caoは第4辺H4の中点に設定されている。
【0114】
そして、この実験モデル2において、下記表4及び
図12に示すように、1つの流路(図心)の位置を変更し(但し残りの3つの流路の位置は実験モデル2のまま)、前記実験例1の運転条件にて発電を行った場合の出力電圧を求めた。そして、この流路を変更した場合の出力電圧と流路を変更しない基準の実験モデル2(この場合の基準セル)との出力電圧の場合とを比較した。即ち、基準セルに対する流路を変更した実験モデル2の出力電圧の変化量を求めた。その結果を、同じく表4及び
図12に示す。
【0115】
なお、
図12の横軸は、各辺における各流路の位置(即ち燃料ガス流入口の図心Cfi、燃料ガス流出口の図心Cfo、酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出口の図心Cao)の中点からのずれを示しており、0が中点の位置にあることを示している。
【0116】
【表4】
この表4及び
図12から明らかなように、燃料ガス流入口の図心Cfiの位置の出力電圧に対する感度が、他の流路(即ち燃料ガス流出口の図心Cfo、酸化剤ガス流入口の図心Cai、酸化剤ガス流出口の図心Cao)の位置に比べて著しく大きいことが分かる。また、燃料ガス流入口の図心Cfiの位置が0のとき、即ち、燃料の流れ方向に対するセル幅の中央部(即ち第1辺H1の中点)に存在するとき、出力電圧は極大となることが分かる。従って、燃料ガス流入口の図心Cfiの位置を基準とすることが好ましいことが分かる。
【0117】
つまり、燃料ガス流入口の図心Cfiをセル中心線(第1辺H1の中点を通る線)からずらすと、出力電圧が著しく低下するので、燃料ガス流入口の図心Cfiをセル中心線上に固定した。
【0118】
なお、燃料ガス流出口の図心Cfoについても、セル中心線(第2辺H2の中点を通る線)にあるとき、出力電圧が最も高いので、同様に固定した(但し製造バラツキは考慮した範囲とした)。
【0119】
この実験例2から明らかなように、燃料電池においては、積層方向視における酸素濃度の分布が重要であると考えられるので、上述した各実施形態では、特に、酸化剤ガス流入口の図心Cfiと酸化剤ガス流入口の図心Caoの位置等について規定している。
【0120】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
(1)例えば、本発明は、例えば、ZrO
2系セラミックなどを電解質とする固体酸化物形燃料電池(SOFC)、高分子電解質膜を電解質とする固体高分子形燃料電池(PEFC)、Li−Na/K系炭酸塩を電解質とする溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、リン酸を電解質とするリン酸形燃料電池(PAFC)などの燃料電池に適用できる。
【0121】
(2)また、本発明では、単セル、発電単位、燃料電池スタックなどの平面形状としては、矩形状(例えば長方形、正方形)に限らず、多角形や湾曲した形状(例えば円形)など、各種の形状を採用できる。
【0122】
(3)更に、本発明の燃料電池としては、板状の単セル(発電単位)が積層された複数段の燃料電池スタック以外に、1つの板状の単セル(発電単位)からなる1段の燃料電池を採用できる。また、燃料電池スタックの全部の発電単位のうち、1又は複数段のみ本発明の構成を備えた発電単位としてもよい。